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特許7558893対象物管理システムおよび対象物管理方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-20
(45)【発行日】2024-10-01
(54)【発明の名称】対象物管理システムおよび対象物管理方法
(51)【国際特許分類】
   G21F 9/30 20060101AFI20240924BHJP
   G21C 17/00 20060101ALI20240924BHJP
【FI】
G21F9/30 531K
G21F9/30 535F
G21C17/00 500
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2021089957
(22)【出願日】2021-05-28
(65)【公開番号】P2022182415
(43)【公開日】2022-12-08
【審査請求日】2024-01-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】湯口 康弘
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 鉄宰
【審査官】右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-179834(JP,A)
【文献】特開2016-045155(JP,A)
【文献】特開2015-206756(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 9/30
G21C 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射性物質が含まれる可能性がある対象物を取り扱う主たる作業であり、前記対象物に含まれる物質の分析以外を目的とする主作業を行う主作業装置と、
前記対象物に含まれる前記物質の分析を目的とする副次的な作業であり、前記主作業により前記対象物から舞い上がる微粒子を捕集する作業を行う捕集装置と、
前記対象物の表面の位置を示す座標情報を設定する座標設定部と、
を備え
前記対象物の各部分を示す前記座標情報を対応付けて前記微粒子を捕集する、
対象物管理システム。
【請求項2】
捕集された前記微粒子を分析する微粒子分析部と、
分析により得られた前記微粒子の分析データと前記微粒子が捕集された状況を示す捕集情報とに基づいて、前記対象物に含まれる前記物質を分析する対象物分析部と、
を備える、
請求項1に記載の対象物管理システム。
【請求項3】
放射性物質が含まれる可能性がある対象物を取り扱う主たる作業であり、前記対象物に含まれる物質の分析以外を目的とする主作業を行う主作業装置と、
前記対象物に含まれる前記物質の分析を目的とする副次的な作業であり、前記主作業により前記対象物から舞い上がる微粒子を捕集する作業を行う捕集装置と、
捕集された前記微粒子を分析する微粒子分析部と、
分析により得られた前記微粒子の分析データと前記微粒子が捕集された状況を示す捕集情報とに基づいて、前記対象物に含まれる前記物質を分析する対象物分析部と、
前記対象物の表面の位置を示す座標情報を設定する座標設定部と、
を備え、
前記捕集情報には、前記主作業が行われた前記座標情報が含まれており、
前記対象物分析部は、前記分析データに対応する前記座標情報に基づいて、前記対象物における前記主作業が行われた箇所を特定し、この特定された箇所に含まれる前記物質を分析する、
象物管理システム。
【請求項4】
放射性物質が含まれる可能性がある対象物を取り扱う主たる作業であり、前記対象物に含まれる物質の分析以外を目的とする主作業を行う主作業装置と、
前記対象物に含まれる前記物質の分析を目的とする副次的な作業であり、前記主作業により前記対象物から舞い上がる微粒子を捕集する作業を行う捕集装置と、
捕集された前記微粒子を分析する微粒子分析部と、
分析により得られた前記微粒子の分析データと前記微粒子が捕集された状況を示す捕集情報とに基づいて、前記対象物に含まれる前記物質を分析する対象物分析部と、
前記主作業が前記対象物を収納容器に収納し、前記収納容器を他の場所に搬送する作業であり、
前記対象物を前記収納容器に収納するときに捕集された前記微粒子の前記分析データを、前記収納容器に対応付けて記録する容器記録部を備える、
象物管理システム。
【請求項5】
放射性物質が含まれる可能性がある対象物を取り扱う主たる作業であり、前記対象物に含まれる物質の分析以外を目的とする主作業を行う主作業装置と、
前記対象物に含まれる前記物質の分析を目的とする副次的な作業であり、前記主作業により前記対象物から舞い上がる微粒子を捕集する作業を行う捕集装置と、
カメラと3次元計測装置の少なくとも一方を用いて、前記主作業の開始前と完了後の前記対象物の表面の形状を示す形状情報を取得する形状取得部と、
前記形状情報に基づいて、前記主作業の開始前と完了後の前記対象物の表面の形状の差分を抽出する差分抽出部と、
前記差分に基づいて、前記対象物が第1位置から第2位置に移動されたと推定される場合に、移動された前記対象物に含まれる前記物質が前記第1位置から前記第2位置に移動されたものとして記録する物質記録部と、
を備える、
象物管理システム。
【請求項6】
放射性物質が含まれる可能性がある対象物を取り扱う主たる作業であり、前記対象物に含まれる物質の分析以外を目的とする主作業を行う主作業装置と、
前記対象物に含まれる前記物質の分析を目的とする副次的な作業であり、前記主作業により前記対象物から舞い上がる微粒子を捕集する作業を行う捕集装置と、
を備え、
前記捕集装置は、
前記主作業装置の近傍の流体を吸引する吸引部と、
前記流体に含まれる前記微粒子を捕集するフィルタと、
を備える、
象物管理システム。
【請求項7】
前記捕集装置は、
前記フィルタがロール状を成し、前記フィルタを巻き取る巻取部と、
前記フィルタのそれぞれの部分に対応付けて、前記微粒子が捕集された前記主作業に関する情報を記録するフィルタ記録部と、
を備える、
請求項6に記載の対象物管理システム。
【請求項8】
前記捕集装置は、
吸引した前記流体に含まれる前記放射性物質による線量を計測する線量計と、
前記線量計で計測された前記線量に応じて、前記巻取部の巻き取り速度を調整する巻取速度調整部と、
を備える、
請求項7に記載の対象物管理システム。
【請求項9】
前記捕集装置は、
吸引した前記流体に含まれる前記放射性物質による線量を計測する線量計と、
前記線量計で計測された前記線量が上限値を超えた場合に、前記吸引部による前記流体の吸引を停止する停止部と、
を備える、
請求項6から請求項8のいずれか1項に記載の対象物管理システム。
【請求項10】
前記捕集装置は、前記フィルタを密封した状態で着脱可能なカートリッジを備える、
請求項6から請求項9のいずれか1項に記載の対象物管理システム。
【請求項11】
前記吸引部で吸引された前記流体に含まれる希ガスを検出する希ガス検出部と、
検出された前記希ガスの成分に基づいて、前記対象物における前記主作業が行われた箇所で核分裂反応が生じたか否かを判定する核分裂判定部と、
を備える、
請求項6から請求項10のいずれか1項に記載の対象物管理システム。
【請求項12】
放射性物質が含まれる可能性がある対象物を取り扱う主たる作業であり、前記対象物に含まれる物質の分析以外を目的とする主作業を行うステップと、
前記対象物に含まれる前記物質の分析を目的とする副次的な作業であり、前記主作業により前記対象物から舞い上がる微粒子を捕集する作業を行うステップと、
前記対象物の表面の位置を示す座標情報を設定するステップと、
を含
前記対象物の各部分を示す前記座標情報を対応付けて前記微粒子を捕集する、
対象物管理方法。
【請求項13】
放射性物質が含まれる可能性がある対象物を取り扱う主たる作業であり、前記対象物に含まれる物質の分析以外を目的とする主作業を行うステップと、
前記対象物に含まれる前記物質の分析を目的とする副次的な作業であり、前記主作業により前記対象物から舞い上がる微粒子を捕集する作業を行うステップと、
捕集された前記微粒子を分析するステップと、
分析により得られた前記微粒子の分析データと前記微粒子が捕集された状況を示す捕集情報とに基づいて、前記対象物に含まれる前記物質を分析するステップと、
を含む、
象物管理方法。
【請求項14】
放射性物質が含まれる可能性がある対象物を取り扱う主たる作業であり、前記対象物に含まれる物質の分析以外を目的とする主作業を行うステップと、
前記対象物に含まれる前記物質の分析を目的とする副次的な作業であり、前記主作業により前記対象物から舞い上がる微粒子を捕集する作業を行うステップと、
捕集された前記微粒子を分析するステップと、
分析により得られた前記微粒子の分析データと前記微粒子が捕集された状況を示す捕集情報とに基づいて、前記対象物に含まれる前記物質を分析するステップと、
前記対象物の表面の位置を示す座標情報を設定するステップと、
前記捕集情報には、前記主作業が行われた前記座標情報が含まれており、
前記分析データに対応する前記座標情報に基づいて、前記対象物における前記主作業が行われた箇所を特定し、この特定された箇所に含まれる前記物質を分析するステップと、
を含む、
象物管理方法。
【請求項15】
前記主作業が前記対象物を収納容器に収納し、前記収納容器を他の場所に搬送する作業であり、
前記対象物を前記収納容器に収納するときに捕集された前記微粒子の前記分析データを、前記収納容器に対応付けて記録するステップを含む、
請求項13または請求項14に記載の対象物管理方法。
【請求項16】
前記主作業を行う主作業装置の近傍の流体を吸引する吸引部と、
前記流体に含まれる前記微粒子を捕集するフィルタと、
吸引した前記流体に含まれる前記放射性物質による線量を計測する線量計と、
を備える捕集装置が設けられており、
前記線量計で計測された前記線量が閾値よりも高い場合に、前記放射性物質を含まない清浄な前記流体で前記放射性物質を希釈するステップと、
前記分析データに対して前記放射性物質を希釈した希釈量に応じた逓倍を行うステップと、
を含む、
請求項13から請求項15のいずれか1項に記載の対象物管理方法。
【請求項17】
前記主作業を行う主作業装置の近傍の流体を吸引する吸引部と、
前記流体に含まれる前記微粒子を捕集するフィルタと、
前記フィルタに捕集された前記微粒子を光学的に拡大観察する光学観察部と、
を備える捕集装置が設けられており、
前記光学観察部の拡大観察に基づいて、前記フィルタに付着した前記微粒子のサイズに応じた個数を計測するステップと、
それぞれの前記サイズの前記個数と前記分析データから前記吸引部で吸引された前記流体における前記微粒子の密度を計算するステップと、
前記密度と前記吸引部が前記流体を吸引したときの吸引速度とに基づいて、前記対象物に存在する前記物質の量を推定するステップと、
を含む、
請求項13から請求項16のいずれか1項に記載の対象物管理方法。
【請求項18】
前記主作業を行う主作業装置の近傍の流体を吸引する吸引部と、
前記流体に含まれる前記微粒子を捕集する複数のフィルタであり、それぞれの粗さが異なり前記微粒子のサイズに応じて篩い分けられる前記フィルタと、
を備える捕集装置が設けられており、
前記フィルタの重量を計測する重量計測または前記フィルタの電位差を計測する電位計測の少なくとも一方を用いて、前記フィルタに付着した前記微粒子の粒子量を計測するステップと、
それぞれの前記サイズの前記粒子量と前記分析データから前記吸引部で吸引された前記流体における前記微粒子の密度を計算するステップと、
前記密度と前記吸引部が前記流体を吸引したときの吸引速度とに基づいて、前記対象物に存在する前記物質の量を推定するステップと、
を含む、
請求項13から請求項17のいずれか1項に記載の対象物管理方法。
【請求項19】
放射性物質が含まれる可能性がある対象物を取り扱う主たる作業であり、前記対象物に含まれる物質の分析以外を目的とする主作業を行うステップと、
前記対象物に含まれる前記物質の分析を目的とする副次的な作業であり、前記主作業により前記対象物から舞い上がる微粒子を捕集する作業を行うステップと、
を含み、
前記主作業を行う主作業装置の近傍の流体を吸引する吸引部と、
前記流体に含まれる前記微粒子を捕集するフィルタと、
前記フィルタを密封した状態で着脱可能なカートリッジと、
吸引した前記流体に含まれる前記放射性物質による線量を計測する線量計と、
を備える捕集装置が設けられており、
前記線量計で計測された前記線量に応じて、前記カートリッジを交換する時期を調整するステップをさらに含む、
象物管理方法。
【請求項20】
放射性物質が含まれる可能性がある対象物を取り扱う主たる作業であり、前記対象物に含まれる物質の分析以外を目的とする主作業を行うステップと、
前記対象物に含まれる前記物質の分析を目的とする副次的な作業であり、前記主作業により前記対象物から舞い上がる微粒子を捕集する作業を行うステップと、
カメラと3次元計測装置の少なくとも一方を用いて、前記主作業の開始前と完了後の前記対象物の表面の形状を示す形状情報を取得するステップと、
前記形状情報に基づいて、前記主作業の開始前と完了後の前記対象物の表面の形状の差分を抽出するステップと、
前記差分に基づいて、前記対象物が第1位置から第2位置に移動されたと推定される場合に、移動された前記対象物に含まれる前記物質が前記第1位置から前記第2位置に移動されたものとして記録するステップと、
を含む、
象物管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、対象物管理技術に関する。
【背景技術】
【0002】
核燃料物質などの放射性物質を取り扱う際には、安全上の配慮として、原子炉内外を問わず、切断加工、移送、収納、輸送などの全てのプロセスにおいて、放射性物質が臨界とならないように保つこと(以下「臨界防止」という。)が必要である。また、放射性物質が気体または液体に含まれて、環境へ漏えいしてしまうことを防ぐ(以下「漏えい防止」という。)必要がある。さらに、ウランおよびプルトニウムといった核燃料物質は、核拡散防止、保障措置の観点で、それらの物質が計量管理される必要がある。
【0003】
例えば、沸騰水型原子力プラント(以下「BWR」という。)および加圧水型原子力プラント(以下「PWR」という。)などの原子力プラントでは、核分裂性ウラン同位体である235Uの全ウランに対する重量割合が、3~5%程度の低濃縮ウランが核燃料物質として用いられている。このような低濃縮ウランでは、炉内に所定量のウランが存在し、ウランと中性子減速材である水が、臨界に適した体積比または原子数比(以下「混合割合」という。)で混合されている。そして、ウランと水の混合体がある大きさ以上になった場合に初めて臨界となる。
【0004】
従来技術としては、放射性物質の取り扱いの前後において、放射性物質を少量採取(以下「サンプリング」という。)し、この採取された物質の成分を分析することによって、その採取された部分の近傍の物質成分を推定する方法がある。この方法では、採取した物質を超伝導相転移端温度計型マイクロカロリーメータでγ線またはX線を計測するなどして、採取された物質(例えば、燃料デブリ)の超ウラン元素の分析を行うことが検討されている。
【0005】
また、取り扱いの対象となる放射性物質の成分が不明であっても、燃料デブリの未臨界度を推定する推定方法が提案されている。例えば、燃料デブリの画像と3次元形状データから燃料デブリの状態をシミュレーションする。そして、そのシミュレーション結果と燃料デブリから測定された中性子とに基づいて、燃料デブリの中性子増倍率を抽出し、燃料デブリの未臨界度を推定する。
【0006】
また、他の方法としては、放射性物質の溶融物(燃料デブリ)を破砕して微粉末とし、この微粉末を水とともに回収し、この回収された水に含まれる微粉末をフィルタで捕集し、この捕集された微粉末に含まれる元素を計測する放射性物質の分析方法が提案されている。
【0007】
なお、放射性物質の環境への漏えい防止の観点から、一般的に所定の容器内に放射性物質を閉じ込めるようにしている。また、フィルタなどの浄化装置で放射性物質を捕集することで放射性物質の漏えいを防止している。また、万一の漏えいに備えて、放射性ダストの漏えいを検出するダストモニタが製品化され、原子力施設で活用されている。さらに、臨界に伴い発生する放射性希ガスを検出する希ガスモニタ(放射性ガスモニタ)も製品化され、原子力施設で活用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2015-68657号公報
【文献】特開2016-24154号公報
【文献】特開2015-206756号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来技術では、放射性物質をサンプリングする方法は特定されておらず、放射性物質が滞留する部分からの取り出し方法については提案されていない。
【0010】
また、燃料デブリの未臨界度を推定する方法では、物質の成分を分析せずに、放射性物質が滞留する部分で適用できる方法を提案しているものの、放射線による劣化または消耗が想定される中性子検出器が必要となる。そのため、この中性子検出器の保守を考慮する必要がある。また、物質の成分が不明であるため、保障措置を考慮した放射性物質の計測工程を必要とする。また、放射性物質の取扱作業に応じて周囲の環境に放出される気体または液体に含まれる物質の量の情報を提供することが困難である。そのため、放射性物質の環境への漏えい防止に資することができない。
【0011】
また、放射性物質の分析方法では、回収の対象となる放射性物質の溶融物(燃料デブリ)の表面形状および内部構造の状態によっては、微粉末を回収するための水が漏えい、または散逸してしまい、回収のための水流を確保することが困難な場合がある。また、溶融物の取り出し作業を行う際には、溶融物の臨界の可能性を評価する必要がある。また、溶融物には、様々な分布で放射性物質が散在していることが想定される。そのため、溶融物の破砕、切断、掘削、掬い取り、移送のような作業を行うために、その作業の対象となる範囲の溶融物のサンプルを事前に回収し、分析する工程が必要となる。この工程を作業の度に行うと、多大な労力を要する可能性がある。
【0012】
本発明の実施形態は、このような事情を考慮してなされたもので、放射性物質が含まれる可能性がある対象物を取り扱う作業を遂行しつつ、対象物に含まれる物質の分析を行うことができる対象物管理技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の実施形態に係る対象物管理システムは、放射性物質が含まれる可能性がある対象物を取り扱う主たる作業であり、前記対象物に含まれる物質の分析以外を目的とする主作業を行う主作業装置と、前記対象物に含まれる前記物質の分析を目的とする副次的な作業であり、前記主作業により前記対象物から舞い上がる微粒子を捕集する作業を行う捕集装置と、前記対象物の表面の位置を示す座標情報を設定する座標設定部と、を備え、前記対象物の各部分を示す前記座標情報を対応付けて前記微粒子を捕集する
【発明の効果】
【0014】
本発明の実施形態により、放射性物質が含まれる可能性がある対象物を取り扱う作業を遂行しつつ、対象物に含まれる物質の分析を行うことができる対象物管理技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】第1実施形態の対象物管理システムを示す構成図。
図2】第1実施形態の気中捕集装置を示す断面図。
図3】第1実施形態の対象物管理システムを示すブロック図。
図4】対象物の3次元形状を示す画像図。
図5】対象物の作業目標を示す画像図。
図6】主作業が行われた箇所を示す画像図。
図7】第1実施形態の対象物管理方法を示すフローチャート。
図8】第2実施形態の対象物管理システムを示す構成図。
図9】第2実施形態の水中捕集装置を示す断面図。
図10】第2実施形態の対象物管理システムを示すブロック図。
図11】第3実施形態の対象物管理システムを示す構成図。
図12】第3実施形態の収納容器を示す断面図。
図13】第3実施形態の対象物管理システムを示すブロック図。
図14】主作業の開始前の対象物の3次元形状を示す画像図。
図15】主作業の開始後の対象物の3次元形状を示す画像図。
図16】第3実施形態の対象物管理方法を示すフローチャート。
図17】第4実施形態の気中捕集装置を示す断面図。
図18】第4実施形態の対象物管理システムを示すブロック図。
図19】第5実施形態の気中捕集装置を示す断面図。
図20】第5実施形態の物質量推定方法を示すフローチャート。
図21】第6実施形態の水中捕集装置を示す断面図。
図22】第6実施形態の対象物管理システムを示すブロック図。
図23】第6実施形態の物質量推定方法を示すフローチャート。
図24】第7実施形態の水中捕集装置を示す断面図。
図25】第7実施形態の分析データ取得方法を示すフローチャート。
図26】第7実施形態のカートリッジ交換方法を示すフローチャート。
図27】第8実施形態の対象物管理システムを示す構成図。
図28】第8実施形態の対象物管理システムを示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(第1実施形態)
以下、図面を参照しながら、対象物管理システムおよび対象物管理方法の実施形態について詳細に説明する。まず、第1実施形態について図1から図7を用いて説明する。
【0017】
図1の符号1は、第1実施形態の対象物管理システムである。この対象物管理システム1は、放射化された金属または核燃料物質などの放射性物質が含まれる可能性がある対象物を管理するものである。例えば、対象物管理システム1は放射性廃棄物、沸騰水型原子力プラントまたは加圧水型原子力プラント内の溶融した核燃料などを取り扱う際に、取扱の対象となる対象物に含まれる物質の成分を推定する物質成分推定システムである。
【0018】
本実施形態では、原子力施設11の構造物12の内部に存在する対象物13を取り扱う形態を例示する。原子力施設11として、放射性物質廃棄施設、核燃料再処理施設、原子力プラントなどを例示する。
【0019】
対象物13には、例えば、過酷事故時に溶融された核燃料である燃料デブリが含まれる。さらに、燃料デブリ以外の放射性廃棄物も含まれる。例えば、デコミッショニングにより生じる、再処理廃棄物、一般廃棄物が含まれる。また、再処理事故、高速炉燃料解体、放射性廃棄物処理などにより生じる廃棄物が含まれる。また、放射性物質の付着した部材などの全部または一部の材料成分が不明な物体が含まれる。
【0020】
なお、対象物13を取り扱う主たる作業を「主作業」と称する。この主作業には、対象物13の掴み、掬い、移送などのハンドリングを含む作業が含まれる。また、切断、加工を含む作業が含まれる。この主作業は、対象物13に含まれる物質の分析以外を目的とする作業のことである。
【0021】
放射性物質が含まれる可能性がある対象物13を取り扱う際には、意図しない臨界が生じないようにする必要がある。従来技術では、主作業の開始前または主作業を中断して対象物13のサンプルを採取し、その物質の分析をしていた。しかし、主作業の度にサンプルを採取する作業をしていたのでは、主作業の効率が悪い。そこで、本実施形態では、主作業の実行と同時(並列)に、対象物13に含まれる物質の分析を目的とする副次的な作業を行う。この副次的な作業では、主作業により対象物13から舞い上がる微粒子を捕集する。そして、微粒子を分析し、その分析データに基づいて、対象物13に含まれる物質を分析する。
【0022】
また、分析データを対象物13の各部分を示す座標に対応付けて記録しておくことで、対象物13の各部分に含まれる物質を把握することができる。また、捕集した微粒子を保存しておき、後日その分析を行うこともできる。また、分析の対象となる微粒子には、塵、埃、ゴミなどのダストのみならず、通常は微粒子に分類されない希ガスなどの気体も含まれる。
【0023】
図1に示すように、対象物管理システム1は、クレーン7から構造物12の内部に降ろされる取扱装置2を備える。この取扱装置2からマニピュレータ3が延びている。マニピュレータ3の先端部には、主作業を行うための主作業装置4が取り付けられている。主作業装置4は、例えば、対象物13を加工する加工装置、または対象物13を把持する把持装置などである。
【0024】
構造物12から離れた位置には、気体中の微粒子を捕集する気中捕集装置14が設けられている。この気中捕集装置14は、対象物13に由来する微粒子の物質の分析を行う分析装置を兼ねる。また、微粒子をサンプルとして保存する装置も兼ねる。また、気中捕集装置14は、自動または手動による遠隔操作ができる装置である。
【0025】
また、気中捕集装置14から主作業装置4まで気体採取管5が延びている。この気体採取管5は、その基端部40(図2)が気中捕集装置14に接続されている。また、気体採取管5は、取扱装置2とマニピュレータ3の内外に配管され、その先端部の吸引部6(吸引口)が、主作業装置4の近傍に配置されている。主作業により対象物13から微粒子(ダスト)が舞い上がると、吸引部6が周囲の空気(気体)とともに微粒子を吸引し、その微粒子が気中捕集装置14に取り込まれる。
【0026】
また、取扱装置2は、原子力施設11に設けられたセル10の内部に設置されている。このセル10は、放射性物質の静的な閉じ込め状態、または内外の差圧による気流を考慮した動的な閉じ込め状態を保つためのものである。また、気中捕集装置14は、セル10の外部の汚染されていない清浄エリアに設けられている。
【0027】
取扱装置2には、カメラ8と3次元計測装置9が設けられている。本実施形態では、カメラ8と3次元計測装置9を組み合わせて用いる形態を例示する。なお、カメラ8と3次元計測装置9の両方が設けられる必要は無く、いずれか一方を設ける構成でも良い。また、カメラ8と3次元計測装置9がそれぞれ複数台設けられても良い。
【0028】
カメラ8は、作業対象となる対象物13の表面の映像(画像)を取得する。このカメラ8の映像に基づいて、対象物13の3次元形状と表面座標を計測することができる。つまり、カメラ8による光学映像を利用して、対象物13の3次元形状を取得できる。なお、主作業の進行状況を示す映像も取得できる。
【0029】
3次元計測装置9は、レーザまたは超音波を作業対象となる対象物13の表面に照射して、その反射光または反射波に基づいて、対象物13の3次元形状と表面座標を計測することができる。
【0030】
図2に示すように、気中捕集装置14は、箱状の筐体34を備える。筐体34の内部には、微粒子を捕集するためのカートリッジ35が着脱可能に設けられている。筐体34の上部には、蓋37が設けられている。この蓋37を開放することで、作業者がカートリッジ35を交換することができる。気体採取管5は、筐体34の外部から内部に挿入されている。気体採取管5の基端部40は、カートリッジ35が保持される保持部38まで延びている。この基端部40は、カートリッジ35と保持部38に開口された吸引用開口部39に配置されている。
【0031】
カートリッジ35の内部には、捕集用フィルタ42と除去用フィルタ43が設けられている。捕集用フィルタ42は、微粒子を捕集するためのものである。捕集用フィルタ42の目開き(隙間)よりも大きい微粒子が、捕集用フィルタ42により捕集される。この捕集用フィルタ42は、除去用フィルタ43よりも気体採取管5の基端部40に近い位置に設けられている。除去用フィルタ43は、捕集用フィルタ42で捕集しきれなかった微粒子を除去するためのものである。
【0032】
カートリッジ35と保持部38において、吸引用開口部39の反対側の面には、排出用開口部44が開口されている。この排出用開口部44には、排出管45が接続されている。この排出管45は、ブロア46の吸気側に接続されている。ブロア46を駆動すると、気体採取管5の吸引部6(図1)から気体の吸引が開始される。この吸引部6から主作業装置4の近傍の気体(流体)が吸引され、この気体に含まれる微粒子が捕集用フィルタ42に捕集される。このようにすれば、主作業を中断したり邪魔したりすることなく、主作業装置4の近傍の流体の吸引により、サンプルとなる微粒子を捕集(採取)することができる。さらに、本実施形態では、微粒子状物質をフィルタで捕集する例を示したが、集気瓶(図示略)を別途接続して希ガスなどの放射性の気体を捕集することも可能である。
【0033】
ブロア46の排出側には、排気管47が接続されている。この排気管47は、ブロア46から筐体34の外部に導出されている。導出された排気管47の先端部は、セル10の内部における汚染エリアに設置され、この汚染エリアに排気がなされる。なお、除去用フィルタ43を通過するときに、気体に含まれる微粒子の大部分が捕集される。この浄化された気体はセル10の内部の汚染エリアに排気される。つまり、除去用フィルタ43を通過した気体は、主作業が行われている空間に戻される構成と成っている。
【0034】
カートリッジ35には、吸引用開口部39に対応する部分にシャッター41が設けられている。シャッター41は、人力で開閉しても良いし、所定の電動機構(図示略)を用いて開閉しても良い。
【0035】
微粒子を捕集する場合には、ブロア46を停止させた状態で、カートリッジ35を筐体34にセットする。そして、シャッター41を開放する。また、カートリッジ35を筐体34から着脱する場合には、ブロア46を停止するとともにシャッター41を閉鎖する。このシャッター41を閉鎖することで、カートリッジ35の内部を密封することができる。また、カートリッジ35の排出用開口部44はプラグ封止される。
【0036】
つまり、第1実施形態の気中捕集装置14は、捕集用フィルタ42を密封した状態で着脱可能なカートリッジ35を備える。このようにすれば、捕集用フィルタ42に付着した放射性物質が外部に漏れない状態で捕集用フィルタ42の交換作業を行うことができる。また、カートリッジ35に密封された状態のため、捕集用フィルタ42を保管して管理することも容易に行える。例えば、主作業に応じて発生した微粒子を閉じ込めて保存し、後日、物質を分析することができる。
【0037】
なお、シャッター41が摺動する部分とカートリッジ35が摺動する部分には、密閉状態を維持するためのゴムパッキンなどの所定のシール部材36が設けられている。これらのシール部材36によりカートリッジ35と筐体34の内部が密封される。また、蓋37と筐体34の間にシール部材36を設け、蓋37の閉鎖時に、筐体34の内部の密封状態を維持しても良い。
【0038】
気中捕集装置14の筐体34の内部には、吸引用開口部39に対応する位置に、成分分析計測装置49が設けられている。この成分分析計測装置49は、例えば、線量計を兼ねる。また、この成分分析計測装置49は、核種分析ができるダストモニタ装置、Ge検出器、ICP/MS、吸光分析装置、蛍光X線分析装置、γ線核種計測器、希ガスモニタの少なくともいずれか1つでも良い。または、これらの装置を組み合わせても良い。
【0039】
例えば、ブロア46を駆動し、微粒子を捕集しつつ、その分析を行う。また、分析が終了したら、ブロア46を停止して、カートリッジ35を取り外す。取り出したカートリッジ35は、放射性物質を含んでいる可能性があるので、放射線管理区域内で保管する。また、この取り出したカートリッジ35には、微粒子が捕集されているので、別途、詳細な成分の分析、または顕微鏡観察などを行っても良い。
【0040】
第1実施形態では、主作業を行う環境で発生したダストとして含まれる微粒子の成分の分析を行うだけでなく、同時に計測対象のサンプルを保存することができる。さらに、詳細な調査または経年変化の調査ができるようになる。
【0041】
次に、第1実施形態の対象物管理システム1の構成を図3に示すブロック図を参照して説明する。
【0042】
対象物管理システム1は、メイン制御部15と記憶部16とを備える。メイン制御部15には、主作業装置4とカメラ8と3次元計測装置9と入力部17と出力部18と通信部19とが接続されている。各構成は有線または無線により接続されている。
【0043】
さらに、対象物管理システム1は、捕集制御部21を備える。捕集制御部21には、気中捕集装置14と通信部20とが接続されている。メイン制御部15と捕集制御部21は、通信部19,20を介して接続され、互いに各種情報のやり取りを行う。各構成は有線または無線により接続されている。
【0044】
本実施形態のメイン制御部15と捕集制御部21は、CPU、ROM、RAM、HDDなどのハードウェア資源を有し、CPUが各種プログラムを実行することで、ソフトウェアによる情報処理がハードウェア資源を用いて実現されるコンピュータで構成される。さらに、本実施形態の対象物管理方法は、各種プログラムをコンピュータに実行させることで実現される。
【0045】
例えば、ネットワークで互いに接続された複数のコンピュータを用いて1つの対象物管理システム1を実現する。なお、対象物管理システム1の各構成を1つのコンピュータに設けても良い。
【0046】
メイン制御部15は、形状取得部22と座標設定部23とを備える。さらに、捕集制御部21は、微粒子分析部24と対象物分析部25とを備える。これらは、メモリまたはHDDに記憶されたプログラムがCPUによって実行されることで実現される。
【0047】
メイン制御部15は、対象物管理システム1を統括的に制御する。このメイン制御部15は、例えば、取扱装置2とマニピュレータ3と主作業装置4とクレーン7の制御を行う。
【0048】
形状取得部22は、カメラ8と3次元計測装置9の少なくとも一方を用いて、主作業の開始前と完了後の対象物の表面の形状を示す形状情報を取得する。
【0049】
座標設定部23は、対象物13の表面の位置を示す座標情報を設定する。例えば、本実施形態の捕集情報には、主作業が行われた位置を示す座標情報が含まれている。なお、主作業が行われた位置には、取扱装置2とマニピュレータ3と主作業装置4とクレーン7と吸引部6の位置を含む。また、マニピュレータ3の位置には、マニピュレータ3の駆動部の角度などを示す情報が含まれる。
【0050】
なお、本実施形態の吸引部6は、主作業装置4とともに移動されるものでも良い。つまり、吸引部6が主作業装置4に固定されているものでも良い。また、吸引部6がマニピュレータ3または取扱装置2に固定されており、吸引部6と主作業装置4の位置関係が予め把握されているものでも良い。
【0051】
捕集制御部21は、気中捕集装置14の制御を行う。例えば、捕集制御部21は、メイン制御部15から送られる各種情報または各種指令に基づいて、気中捕集装置14の制御を行う。
【0052】
微粒子分析部24は、捕集された微粒子を分析する。例えば、捕集用フィルタ42に付着した微粒子を、成分分析計測装置49を用いて分析する。なお、集気瓶(図示略)に捕集した希ガスなどの気体を分析しても良い。
【0053】
対象物分析部25は、微粒子分析部24による分析により得られた微粒子の分析データと微粒子が捕集された状況を示す捕集情報とに基づいて、対象物13に含まれる物質を分析する。このようにすれば、主作業に影響を与えることなく、捕集された微粒子に基づいて、物質を分析することができる。また、主作業装置4の近傍の物質を分析することによって、劣化のおそれがある中性子検出器を用いた中性子計測を行わなくても、簡便に臨界の可能性を評価することができる。
【0054】
また、対象物分析部25は、分析データに対応する座標情報に基づいて、対象物13における主作業が行われた箇所を特定し、この特定された箇所に含まれる物質を分析する。このようにすれば、対象物13における主作業が行われた箇所に存在する物質の分析を行うことができる。また、対象物13において、主作業の開始前に存在していた箇所の物質を記録するとともに、複数箇所で主作業が行われた場合に、それぞれの分析結果を相互に補完することで、主作業が行われた箇所の近傍の物質を補完された分析結果により推定し、記録することができる。
【0055】
入力部17には、対象物管理システム1を使用するユーザの操作に応じて所定の情報が入力される。この入力部17には、マウスまたはキーボードなどの入力装置が含まれる。つまり、これら入力装置の操作に応じて所定の情報が入力部17に入力される。
【0056】
出力部18は、所定の情報の出力を行う。本実施形態の対象物管理システム1には、解析結果の出力を行うディスプレイなどの画像の表示を行う装置が含まれる。つまり、出力部18は、ディスプレイに表示される画像の制御を行う。なお、ディスプレイはコンピュータ本体と別体であっても良いし、一体であっても良い。
【0057】
出力部18がディスプレイである場合には、例えば、カメラ8を用いて得られた対象物13の映像、または、3次元計測装置9で得られた対象物13の表面の3次元形状を示すデータ(図4から図6)などが表示される。
【0058】
なお、本実施形態の対象物管理システム1は、ネットワークを介して接続される他のコンピュータが備えるディスプレイに表示される画像の制御を行っても良い。その場合には、他のコンピュータが備える出力部18が、本実施形態の解析結果の出力の制御を行っても良い。
【0059】
なお、本実施形態では、画像の表示を行う装置としてディスプレイを例示するが、その他の態様であっても良い。例えば、ヘッドマウントディスプレイまたはプロジェクタを用いて情報の表示を行っても良い。さらに、紙媒体に情報を印字するプリンタをディスプレイの替りとして用いても良い。つまり、出力部18が制御する対象として、ヘッドマウントディスプレイ、プロジェクタまたはプリンタが含まれても良い。
【0060】
記憶部16は、時系列成分データ保存データベース26と物体成分マップデータベース27と3次元再構成データベース28を備える。これらは、メモリ、HDDまたはクラウドに記憶され、検索または蓄積ができるよう整理された情報の集まりである。
【0061】
また、記憶部16には、対象物管理方法を実行するときに必要な各種情報が記憶される。例えば、記憶部16は、気中捕集装置14で捕集された微粒子を管理する管理情報に対応付けて、微粒子を捕集した状況を示す捕集情報を記憶する。また、微粒子を分析することで得られる分析データを記憶する。
【0062】
なお、管理情報には、微粒子を捕集したカートリッジ35、捕集用フィルタ42、または、捕集用フィルタ42の部分を識別可能な識別情報(例えば、サンプルID)が含まれる。さらに、主作業を識別可能な識別情報(例えば、主作業ID)が含まれる。
【0063】
本実施形態の捕集情報には、例えば、主作業の内容を示す情報が含まれる。また、主作業が行われた時刻を示す時刻情報を含む。また、主作業装置4の近傍の流体を吸引するときに、その吸引を開始した時点から流体が捕集用フィルタ42まで到達する時点までの時間が含まれる。
【0064】
記憶部16は、例えば、気体が吸引され始めた時点の主作業装置4の座標位置に対応付けて分析データを記憶する。記憶部16が、分析データを捕集情報に対応付けて記憶することで、対象物13に含まれる物質の成分を推定できる。さらに、他の隣接する位置で主作業が行われた場合には、先の位置に対応する分析データと後の位置に対応する分析データに基づいて、その双方の位置の間に存在する物質の成分も推定することができる。
【0065】
時系列成分データ保存データベース26は、対象物分析部25から送られる分析データを蓄積する。また、時系列で主作業の対象となる被加工部32(図5)の座標または範囲を示すデータを蓄積する。さらに、所定の作業計画の予定とその実績を蓄積する。
【0066】
物体成分マップデータベース27は、対象物13のそれぞれの箇所に存在する物質の成分を示す情報を蓄積する。また、対象物13のそれぞれの座標に対応付けられた分析データを蓄積する。
【0067】
3次元再構成データベース28は、カメラ8を用いて得られた対象物13の映像と、3次元計測装置9で得られた対象物13の表面の3次元形状を示すデータ(図4)とを蓄積する。また、座標情報を蓄積する。
【0068】
図4に示すように、対象物管理システム1のディスプレイなどの出力部18には、対象物13の3次元形状を示す画像31が表示される。この3次元形状を示す画像31に基づいて、作業者が作業計画を立案する。そして、図5に示すように、出力部18には、対象物13の3次元形状を示す画像31の所定の箇所で加工(主作業)が行われた場合には、その箇所が被加工部32として設定される。さらに、図6に示すように、被加工部32で加工を行ったときに捕集された微粒子の分析データを取得し、被加工部32に存在する物質を推定する。この推定される物質が、被加工部32とその周辺の箇所33に存在しているものとして記録する。
【0069】
次に、第1実施形態の対象物管理システム1を用いて実行される対象物管理方法について図7のフローチャートを用いて説明する。この対象物管理方法を実行することによって受動的に生じる作用効果を含めて説明する。なお、前述の図面を適宜参照する。
【0070】
作業者は、対象物管理方法を開始する前に、取扱装置2を原子力施設11の構造物12の内部に設置する。ここで、マニピュレータ3と主作業装置4とカメラ8と3次元計測装置9と気中捕集装置14とが、対象物13が存在する構造物12の内部に設置される。
【0071】
まず、ステップS1において、メイン制御部15の形状取得部22は、カメラ8と3次元計測装置9とを用いて、対象物13における作業対象面(表面)の3次元形状を取得する。この対象物13の3次元形状を示すデータは、3次元再構成データベース28に記憶される。なお、カメラ8と3次元計測装置9から送られるデータには、カメラ8と3次元計測装置9の位置と姿勢に関する情報が含まれる。
【0072】
また、3次元再構成データベース28に伝送されたデータに基づいて、対象物13の作業対象面の3次元形状を再構成し、少なくとも表面形状の3次元座標データを取得する。さらに、3DCADデータを作成しても良い。
【0073】
ここで、作業者は、カメラ8で撮影された映像を用いて、対象物13の作業対象面の目視観察を行う。また、作業者は、作業計画を立案する。そして、複数の作業目標を設定する。例えば、対象物13の表面の全面積のうち、作業目標となる面積範囲を設定する。なお、対象物13の全体積における所定の体積範囲を作業目標としても良い。
【0074】
次のステップS2において、メイン制御部15の座標設定部23は、対象物13の表面の位置を示す座標情報を設定する。例えば、作業者は、対象物13の作業対象面の3次元形状に基づいて、主作業の目標座標を決定し、クレーン7またはマニピュレータ3を活用して取扱装置2を用いた作業の指示を行う。
【0075】
次のステップS3において、メイン制御部15は、計画された複数の作業目標のうち、実行する所定の作業目標を設定する。例えば、対象物13の所定の箇所を被加工部32(図5)として作業目標を設定する。そして、立案された作業計画の情報が時系列成分データ保存データベース26に記憶される。
【0076】
次のステップS4において、メイン制御部15は、主作業を実行する。この主作業は、放射性物質が含まれる可能性がある対象物を取り扱う主たる作業であり、対象物13に含まれる物質の分析以外を目的とするものである。ここで、被加工部32(図5)で対象物13の加工が行われ、微粒子(ダスト)が舞い上がる。
【0077】
次のステップS5において、メイン制御部15は、主作業を実行した対象物13の箇所を特定する。例えば、主作業を行い、実際に作業対象面の3次元形状が変化した場合には、メイン制御部15は、その座標をカメラ8と3次元計測装置9で取得する。そして、3次元再構成データベース28に記憶されたデータを比較し、作業対象面が変化したことを確認する。
【0078】
ここで、ステップS4からS5と並列に、ステップS6からS9が実行される。ステップS6において、捕集制御部21は、気中捕集装置14を制御し、微粒子の捕集を行う。この微粒子を捕集する作業は、対象物13に含まれる物質の分析を目的とする副次的な作業である。
【0079】
例えば、作業指示に基づき、主作業を開始する前に、気体採取管5の吸引部6を介して、主作業装置4の近傍の気体(空気)の吸引を開始する。そして、気体採取管5を介して気中捕集装置14まで気体の移送を行う。
【0080】
次のステップS7において、捕集制御部21の微粒子分析部24は、捕集された微粒子を分析する。例えば、微粒子の分析は、主作業の実行と同時に行う。ここで、分析データを得る。
【0081】
次のステップS8において、捕集制御部21は、微粒子が捕集された状況を示す捕集情報を取得する。なお、メイン制御部15が捕集情報を取得しても良い。
【0082】
次のステップS9において、捕集制御部21の対象物分析部25は、微粒子分析部24による分析により得られた微粒子の分析データと微粒子が捕集された状況を示す捕集情報とに基づいて、対象物13に含まれる物質を分析する。
【0083】
ステップS5およびS9の後に進むステップS10において、対象物分析部25は、分析データに対応する座標情報に基づいて、対象物13における主作業が行われた箇所(作業目標の面積範囲または体積範囲)を特定し、この特定された箇所に含まれる物質を分析(推定)する。なお、メイン制御部15が、捕集制御部21で得られた分析データに基づいて、対象物13に含まれる物質の分析を行っても良い。
【0084】
なお、分析データは、物体成分マップデータベース27に記憶される。そして、主作業を行う度に、対象物13のそれぞれの箇所に存在する物質がマッピングされる。主作業の対象となった対象物13の体積の配置を計測することにより、その体積範囲とその代表成分との対応付けから、物質の成分の分布を把握することができる。
【0085】
次のステップS11において、メイン制御部15は、計画された全ての作業目標が完了したか否かを判定する。ここで、全ての作業目標が完了していない場合(ステップS11でNOの場合)は、ステップS3に戻る。一方、全ての作業目標が完了した場合(ステップS11でYESの場合)は、対象物管理方法を終了する。
【0086】
以上のステップは、対象物管理方法に含まれる少なくとも一部の処理であり、他のステップが対象物管理方法に含まれていても良い。
【0087】
なお、第1実施形態では、捕集された微粒子の分析を主作業の実行と同時に行っているが、その他の態様であっても良い。例えば、主作業の実行後に、捕集された微粒子の分析を行っても良い。また、捕集された微粒子の分析を、主作業が実行された日後に行っても良い。
【0088】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について図8から図10を用いて説明する。なお、前述した実施形態に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0089】
図8に示すように、第2実施形態では、原子力施設11の構造物12の内部に水30が溜まっており、水中に存在する対象物13を取り扱う形態を例示する。例えば、マニピュレータ3は、取扱装置2から水中まで延び、その先端部の主作業装置4が水中に配置されている。
【0090】
第2実施形態の対象物管理システム1Aは、前述の第1実施形態の構成に加えて、水中の微粒子を捕集する水中捕集装置70を備える。この水中捕集装置70は、気中捕集装置14とともに構造物12から離れた位置に設けられている。例えば、水中捕集装置70は、セル10の外部の汚染されていない清浄エリアに設けられている。
【0091】
この水中捕集装置70は、対象物13に由来する微粒子の物質の分析を行う分析装置を兼ねる。また、微粒子をサンプルとして保存する装置も兼ねる。また、水中捕集装置70は、自動または手動による遠隔操作ができる装置である。
【0092】
第2実施形態では、水中捕集装置70から水中の主作業装置4まで液体採取管29が延びている。この液体採取管29は、取扱装置2とマニピュレータ3の内外に配管され、その先端部の吸引部71(吸引口)が、主作業装置4の近傍の水中に配置されている。また、吸引部71から水30を移送させる液体移送ポンプ52が設けられている。液体移送ポンプ52を駆動させると、吸引部71から水中捕集装置70まで液体採取管29を介して水30が移送される。主作業により対象物13から微粒子(ダスト)が舞い上がると、吸引部71が周囲の水30(液体)とともに微粒子を吸引し、その微粒子が水中捕集装置70に取り込まれる。
【0093】
なお、気中捕集装置14から延びる気体採取管5は、気中捕集装置14から水面の近傍にまで延びている。この気体採取管5の先端部の吸引部6(吸引口)は、主作業装置4の直上かつ水面上に配置されている。例えば、主作業により所定のガス72が発生した場合には、そのガス72が気泡となって水面上に現れる。そして、吸引部6からガス72が吸引され、気中捕集装置14に取り込まれる。気中捕集装置14は、捕集したガス72またはガス72に含まれるダストの成分を分析する。
【0094】
水中で対象物13を加工する際に発生する微粒子は、コロイド状になって液中に浮遊することが想定される。水面上の気中に飛散する微粒子は、相対的に少ないことが考えられる。そのような状況で水中に含まれる微粒子の分析を行うことで、主作業の対象となった対象物13の物質の成分の分布を把握することができる。また、主作業の対象となった対象物13の体積を計測することにより、その体積の範囲と、その範囲の代表的な物質の成分とを対応付けて記録することで、対象物13の全体の成分の分布を把握することができる。
【0095】
図9に示すように、水中捕集装置70は、気中捕集装置14と同様に、カートリッジ35と保持部38とブロア46と成分分析計測装置49とを備える。さらに、水中捕集装置70は、液体噴射装置50と乾燥機51と圧縮空気噴射装置57とを備える。
【0096】
この水中捕集装置70では、液体採取管29が筐体34の外部からカートリッジ35が保持される保持部38の近傍まで延びている。この液体採取管29の基端部に液体噴射装置50が設けられている。
【0097】
液体噴射装置50には、圧縮空気噴射装置57から延びる注気チューブ58が接続されている。圧縮空気噴射装置57は、給気口53から空気を取り込んで、その空気を圧縮して液体噴射装置50に送る。なお、圧縮空気噴射装置57は、アキュムレータとポンプと開閉弁を備える(図示略)。
【0098】
液体採取管29で移送された水30は、圧縮空気噴射装置57から送られる圧縮空気の圧力により、液体噴射装置50のノズル59から吹き出す。この吹き出した水30が捕集用フィルタ42に吹き付けられる。
【0099】
また、液体噴射装置50には、液体採取管29の余剰な水30を排出するための排水管60が接続されている。なお、排水管60で筐体34の外部に排出される水30は、セル10の内部の汚染エリアに排出される。または、別途に設けられる所定の汚染水処理設備(図示略)で処理され、汚染エリア以外に排出される。
【0100】
また、排出管45とブロア46の間に、乾燥機51が設けられている。ブロア46は、カートリッジ35の空気を吸引している。捕集用フィルタ42に吹き付けられた水30は、空気(例えば、飽和蒸気を含む空気)とともに乾燥機51に送られる。そして、乾燥機51で除湿された空気がブロア46に吸引される。
【0101】
次に、第2実施形態の対象物管理システム1Aの構成を図10に示すブロック図を参照して説明する。
【0102】
第2実施形態の捕集制御部21は、前述の第1実施形態の構成に加えて、核分裂判定部73を備える。この捕集制御部21には、水中捕集装置70が接続されている。
【0103】
捕集制御部21は、水中捕集装置70の制御を行う。例えば、捕集制御部21は、メイン制御部15から送られる各種情報または各種指令に基づいて、水中捕集装置70の制御を行う。
【0104】
なお、第2実施形態の気中捕集装置14は、希ガス検出部74を備える。例えば、気中捕集装置14(図2)の成分分析計測装置49が、少なくとも希ガスモニタとしての希ガス検出部74を含むものとして構成されている。
【0105】
気中捕集装置14の希ガス検出部74は、吸引部6で吸引された気体(流体)に含まれる希ガスを検出する。そして、捕集制御部21の核分裂判定部73は、検出された希ガスの成分に基づいて、対象物13における主作業が行われた箇所で核分裂反応が生じたか否かを判定する。このようにすれば、臨界発生などの核分裂反応が生じたことを把握することができ、必要に応じて主作業を停止することができる。
【0106】
また、希ガス検出部74は、例えば、燃料被覆管などに閉じ込められている希ガスの放出、核燃料物質などの放射性物質に対して入熱されることで放出される核反応生成物を検出することができる。
【0107】
第2実施形態では、対象物13が水中に存在しても分析を行うことができる。主作業の間、液体移送ポンプ52で主作業装置4の近傍の水30が吸引される。そして、この移送された水30に含まれる微粒子が、捕集用フィルタ42で捕集される。この捕集用フィルタ42に付着した微粒子を、成分分析計測装置49を用いて分析する。そして、分析された微粒子の分析データが時系列成分データ保存データベース26に記憶される。
【0108】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態について図11から図16を用いて説明する。なお、前述した実施形態に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0109】
図11に示すように、第3実施形態では、原子力施設11の構造物12の内部の対象物13を収納容器75に収納し、この収納容器75を他の場所に搬送する主作業を行う。この主作業には、対象物13の加工、掴み、掬いなどが含まれる。収納容器75は、例えば、クレーン7から構造物12の内部に吊り下げられる。クレーン7は、取扱装置2とともに収納容器75を昇降させる昇降装置となっている。
【0110】
図12に示すように、吊下ワイヤ76により収納容器75が吊り下げられている。この収納容器75は、取扱装置2とともに昇降可能となっている。取扱装置2には、カメラ8と3次元計測装置9が設けられており、カメラ8と3次元計測装置9により、収納容器75に収納された対象物13の表面の映像(画像)と3次元形状を取得する。なお、カメラ8と3次元計測装置9は、その向きを調整できるように、上下左右に方向または位置を変えられる機構を備えても良い。
【0111】
次に、第3実施形態の対象物管理システム1Bの構成を図13に示すブロック図を参照して説明する。
【0112】
第3実施形態のメイン制御部15は、前述の第1実施形態の構成に加えて、差分抽出部77と物質記録部78と容器記録部79とを備える。
【0113】
差分抽出部77は、形状取得部22が取得した形状情報に基づいて、主作業の開始前と完了後の対象物13の表面の形状の差分を抽出する。
【0114】
物質記録部78は、対象物13に含まれる物質の移動を記録する。例えば、物質記録部78は、差分抽出部77が抽出した差分に基づいて、対象物13の少なくとも一部が第1位置P1(図14)から第2位置P2(図15)に移動されたと推定される場合に、移動された対象物13に含まれる物質が第1位置P1から第2位置P2に移動されたものとして記録する。
【0115】
このようにすれば、主作業により対象物13が移動された場合に、その移動先に存在する物質を推定することができる。なお、対象物13の移動は、例えば、対象物13の所定の箇所が掘り出された場合に、その掘り出された対象物13が異なる場所に移動した場合などが考えられる。また、対象物13の移動先は、収納容器75であっても良い。
【0116】
容器記録部79は、対象物13を収納容器75に収納するときに捕集された微粒子の分析データを、収納容器75に対応付けて記録する。
【0117】
このようにすれば、収納容器75に収納された物質に関する分析データを記録し、収納容器75ごとに存在する物質の分析を行うことができる。また、仕分けまたは収納容器75に纏めて収納する目的で対象物13を移動する際に発生する微粒子から、収納容器75の単位で対象物13の物質の成分を推定することができる。
【0118】
第3実施形態では、対象物13を収納容器75に収納して移動できる状態に加工しても、その管理を行うことができる。例えば、収納容器75に収納された対象物13と再堆積した対象物13と切粉などの分析データが、作業範囲に対応してマッピングされる。ここで、異なる複数の区画から移動され、混合された対象物13の纏まりについては、主作業で発生する切粉などが、移動元に存在すると仮定できる。そこで、移動時に発生する微粒子の成分を、移動される対象物13ごとに計測する。そして、複数の区画から移動されて混合された対象物13の成分を推定する。
【0119】
また、1つの収納容器75に対して、複数の箇所から対象物13が移動される場合がある。その場合には、複数の箇所の物質が混合された状態で1つの収納容器75に収容されてしまう。その場合でも、主作業が行われる度に、そのとき舞い上がった微粒子の分析データが取得され、収納容器75に対応付けて記録される。なお、複数の箇所の分析データの平均値が、収納容器75に対応付けて記録されても良い。
【0120】
また、ウラン(U)またはプルトニウム(Pu)と、UまたはPu随伴核種の成分比率を計測することによって、これらの物質の計量管理に資する収納容器75の内部の含有量を推定することができる。ここで、UまたはPu随伴核種には、UまたはPuと随伴し、高エネルギーのγ線を放出するFP核種、例えば、低揮発性を示すセリウム(Ce)、ユーロピウム(Eu)、1MeVを超える高エネルギーのγ線を放出する144Ce、154Euなどが含まれる。
【0121】
時系列成分データ保存データベース26は、収納容器75に対応付けて分析データを蓄積する。物体成分マップデータベース27は、それぞれの収納容器75に対応付けられた分析データを蓄積する。3次元再構成データベース28は、カメラ8を用いて得られた収納容器75の内部の対象物13の映像と、3次元計測装置9で得られた収納容器75の内部の対象物13の表面の3次元形状を示すデータとを蓄積する。
【0122】
次に、第3実施形態の対象物管理システム1Bを用いて実行される対象物管理方法について図16のフローチャートを用いて説明する。この対象物管理方法を実行することによって受動的に生じる作用効果を含めて説明する。なお、前述の図面を適宜参照する。
【0123】
第3実施形態の対象物管理方法のステップS1からステップS9までは、第1実施形態の対象物管理方法(図7)と同様となっている。
【0124】
なお、第3実施形態のステップS1では、カメラ8と3次元計測装置9とを用いて、収納容器75の内部の対象物13の表面の3次元形状を取得する処理を含む。ここで、主作業の開始前の対象物13の表面の形状が取得される。
【0125】
ステップS5の後に進むステップS12において、メイン制御部15の形状取得部22は、カメラ8と3次元計測装置9とを用いて、対象物13における作業対象面(表面)の3次元形状を取得する。なお、収納容器75の内部の対象物13の表面の3次元形状も取得する。ここで、主作業の完了後の対象物13の表面の形状が取得される。
【0126】
次のステップS13において、メイン制御部15の差分抽出部77は、形状取得部22が取得した形状情報に基づいて、主作業の開始前と完了後の対象物13の表面の形状の差分を抽出する。
【0127】
ステップS9およびS13の後に進むステップS14において、メイン制御部15の物質記録部78は、差分抽出部77が抽出した差分に基づいて、対象物13の少なくとも一部が移動されたか否かを判定する。例えば、対象物13の一部が、第1位置P1(図14)から第2位置P2(図15)に移動されたか否かを判定する。ここで、対象物13が移動してない場合(ステップS14でNOの場合)は、ステップS16に進む。一方、対象物13が移動した場合(ステップS14でYESの場合)は、ステップS15に進む。
【0128】
ステップS15において、メイン制御部15の物質記録部78は、対象物13の移動先を特定する。例えば、第2位置P2(図15)を特定する。そして、この特定された箇所に含まれる物質の分析データを、その箇所の座標情報に対応付けて記録する。例えば、捕集制御部21の対象物分析部25は、この特定された箇所に含まれる物質を分析(推定)する。その分析データが物体成分マップデータベース27に記憶される。
【0129】
ステップS14またはS15の後に進むステップS16において、メイン制御部15の容器記録部79は、差分抽出部77が抽出した差分に基づいて、対象物13の少なくとも一部が収納容器75に収納されたか否かを判定する。ここで、対象物13が収納容器75に収納されていない場合(ステップS16でNOの場合)は、ステップS18に進む。一方、対象物13が収納容器75に収納された場合(ステップS16でYESの場合)は、ステップS17に進む。
【0130】
ステップS17において、メイン制御部15の容器記録部79は、対象物13が収納された収納容器75を特定する。そして、この特定された収納容器75に含まれる物質の分析データを、その収納容器75を識別可能な識別情報(例えば、容器ID)に対応付けて記録する。例えば、捕集制御部21の対象物分析部25は、この収納容器75に含まれる物質を分析(推定)する。その分析データが物体成分マップデータベース27に記憶される。
【0131】
ステップS16またはS17の後に進むステップS18において、メイン制御部15は、計画された全ての作業目標が完了したか否かを判定する。ここで、全ての作業目標が完了していない場合(ステップS18でNOの場合)は、ステップS3に戻る。一方、全ての作業目標が完了した場合(ステップS18でYESの場合)は、対象物管理方法を終了する。
【0132】
(第4実施形態)
次に、第4実施形態について図17から図18を用いて説明する。なお、前述した実施形態に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0133】
図17に示すように、第4実施形態の気中捕集装置14Cは、ロール状を成す捕集用フィルタ42Cを備える。カートリッジ35は、捕集用フィルタ42Cを送り出す送出部80と、捕集用フィルタ42Cを巻き取る巻取部81を備える。長尺の帯状を成す捕集用フィルタ42Cは、送出部80と巻取部81のそれぞれの軸に巻回可能となっている。
【0134】
なお、送出部80と巻取部81のそれぞれの軸は、所定の回転機構(図示略)により回転する。所定期間が経過する度、例えば、主作業を開始する度に、送出部80と巻取部81の軸を回転させる。そして、所定期間ごとに捕集用フィルタ42Cの新しい部分で微粒子を捕集する。また、捕集時刻と捕集位置(主作業が行われた位置)が記録される。このようにすれば、1つの捕集用フィルタ42Cの使用期間を延ばせる。例えば、1つのカートリッジ35で、複数回の主作業の微粒子を、それぞれ区分けして捕集することができる。
【0135】
また、カートリッジ35は、放射線を遮蔽する遮蔽板82を備える。特に、巻取部81に巻き取られた捕集用フィルタ42Cは、放射性物質が付着した状態で巻き取られるため、高線量となる。成分分析計測装置49が、吸引用開口部39を介して捕集用フィルタ42Cの線量を計測する場合に、巻取部81に巻き取られた捕集用フィルタ42Cから放射される放射線が計測に影響を与えないようにするために、遮蔽板82が設けられている。
【0136】
また、気中捕集装置14Cは、三方弁としての切換弁54を備える。この切換弁54は、気体採取管5に設けられている。さらに、切換弁54は、給気口53に接続されている。例えば、切換弁54の3つの口のうち、2つの口は、気体採取管5に接続される。残り1つの口は、筐体34の側面に設けられた給気口53に接続されている。この切換弁54を切り換えることで、気体採取管5を通過するセル10の内部空間の気体の流れを止め、給気口53を介して筐体34の近傍の清浄な空気を吸引することができる。
【0137】
例えば、セル10の内部空間から吸引される気体に多量の放射性物質が含まれている場合に、一時的に切換弁54を切り換えて、捕集用フィルタ42Cに付着した放射性物質を希釈することができる。
【0138】
次に、第4実施形態の対象物管理システム1Cの構成を図18に示すブロック図を参照して説明する。
【0139】
第4実施形態のメイン制御部15は、前述の第1実施形態の構成に加えて、差分抽出部77と物質記録部78とフィルタ記録部83と巻取速度調整部84とを備える。
【0140】
なお、第4実施形態の気中捕集装置14は、線量計85を備える。例えば、気中捕集装置14(図2)の成分分析計測装置49が、少なくとも線量計85を含むものとして構成されている。この線量計85は、捕集用フィルタ42Cに付着した放射性物質による線量を計測する。なお、計測される線量は、例えば、雰囲気線量または表面線量のいずれでも良い。
【0141】
フィルタ記録部83は、捕集用フィルタ42Cのそれぞれの部分に対応付けて、微粒子が捕集された主作業に関する情報を記録する。
【0142】
例えば、捕集用フィルタ42Cの長手方向のそれぞれの部分を所定の寸法ごとに区切るようにする。そして、それぞれの区切られた部分を、所定期間ごとに吸引用開口部39に露呈させる。このようにして、捕集用フィルタ42Cのそれぞれの部分に、所定期間ごとの微粒子が捕集される。それぞれの所定期間は、主作業に対応付けられて記録される。分析データは、捕集用フィルタ42Cの位置を示す情報に対応付けられて、時系列成分データ保存データベース26に記録される。
【0143】
このようにすれば、複数回の主作業が行われた際に、捕集された微粒子がいずれの主作業に対応しているものかを把握することができる。なお、主作業に関する情報は、分析データでも良いし、捕集情報でも良いし、主作業を識別可能な識別情報(主作業ID)でも良い。
【0144】
巻取速度調整部84は、線量計85で計測された線量に応じて、巻取部81の巻き取り速度を調整する。
【0145】
このようにすれば、捕集用フィルタ42Cの線量を適切に調整できる。例えば、線量計85で計測された線量が、フィルタ用の閾値であって予め定められた所定の閾値よりも低い場合には、巻取部81の巻き取り速度を遅くして、捕集用フィルタ42Cの使用期間を延ばすことができる。一方、線量計85で計測された線量が閾値よりも高い場合には、巻取部81の巻き取り速度を速くして、捕集用フィルタ42Cの線量を抑えることができる。
【0146】
また、微粒子の捕集量に応じて、捕集用フィルタ42Cの巻き取り速度、または、捕集用フィルタ42Cの使用期間を調整し、捕集用フィルタ42Cの無駄な保存を避けることができる。さらに、既定の高線量の物質が回収された場合には、その物質を希釈したり、主作業を停止したりすることができる。または、高線量の物質を主作業装置4に送り返して、捕集作業の安全を図ることができる。
【0147】
なお、第4実施形態では、ロール状を成す捕集用フィルタ42Cが気中捕集装置14Cに適用される形態を例示しているが、その他の態様であっても良い。例えば、ロール状を成す捕集用フィルタ42Cが水中捕集装置70(図9)に適用される形態でも良い。
【0148】
(第5実施形態)
次に、第5実施形態について図19から図20を用いて説明する。なお、前述した実施形態に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0149】
図19に示すように、第5実施形態の気中捕集装置14Dは、光学顕微鏡としての光学観察部56を備える。また、カートリッジ35と保持部38には、光学観察部56に対応する位置に窓55が設けられている。
【0150】
光学観察部56は、捕集用フィルタ42に捕集された微粒子を光学的に拡大観察するために設けられている。作業者は、光学観察部56を用いて、捕集用フィルタ42の表面を観察することができる。そして、捕集用フィルタ42に捕集された微粒子の粒径寸法と粒径分布を計測することができる。微粒子の粒径寸法(サイズ)と粒径分布を計測することで、採取された微粒子の体積を取得することができる。そして、主作業装置4の近傍の微粒子の濃度を把握することができる。
【0151】
次に、第5実施形態の物質量推定方法について図20のフローチャートを用いて説明する。なお、前述の図面を適宜参照する。
【0152】
まず、ステップS21において、作業者は、光学観察部56の拡大観察に基づいて、捕集用フィルタ42に付着した微粒子のサイズに応じた個数を計測する。
【0153】
次のステップS22において、作業者は、それぞれのサイズの微粒子の個数と分析データから吸引部6で吸引された気体(流体)における微粒子の密度(例えば、嵩密度)を計算する。
【0154】
次のステップS23において、作業者は、計算した微粒子の密度と吸引部6が気体(流体)を吸引したときの吸引速度とに基づいて、対象物13に存在する物質の量を推定する。
【0155】
そして、物質量推定方法を終了する。なお、以上のステップは、物質量推定方法に含まれる少なくとも一部の処理であり、他のステップが物質量推定方法に含まれていても良い。
【0156】
第5実施形態では、微粒子の粒径と密度を考慮した捕集比率の補正により分析精度を向上できる。つまり、対象物13に存在する物質の量を推定することができる。例えば、微粒子の粒径ごとにその分布の計測を行うことで、対象物13から捕集用フィルタ42による捕集に至るまでの途中の配管内に留まる物質の量を把握することができる。例えば、気体を吸引するときの終端速度の計算に基づき、吸引部6から捕集用フィルタ42まで移送される物質の量を把握することができる。そして、主作業装置4の近傍で発生している微粒子に関する物質の総量の推定精度を高めることができる。
【0157】
なお、第5実施形態では、気中捕集装置14Dに設けられた光学観察部56を用いて、捕集用フィルタ42に付着した微粒子を拡大観察しているが、その他の態様であっても良い。例えば、捕集用フィルタ42をカートリッジ35から取り外し、作業者が、別途に設けた光学顕微鏡で捕集用フィルタ42に付着した微粒子を拡大観察しても良い。そして、より詳細な成分の分析または顕微鏡観察などを行っても良い。
【0158】
(第6実施形態)
次に、第6実施形態について図21から図23を用いて説明する。なお、前述した実施形態に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0159】
図21に示すように、第6実施形態の水中捕集装置70Eは、バッファタンク61を備える。このバッファタンク61は、液体採取管29が、液体噴射装置50に至るまでの途中に設けられている。このバッファタンク61は、液体採取管29で移送された水30が一時的に貯留される。
【0160】
バッファタンク61には、その底部の近傍から延び、その内部に貯留された水30を採取するための注水管63が設けられている。注水管63には、移送ポンプ64が設けられている。この移送ポンプ64を介して、注水管63が液体噴射装置50に接続される。
【0161】
第6実施形態では、吸引された水30を、液体噴射装置50に至るまでの途中で、バッファタンク61に貯留する。そして、バッファタンク61に貯留した水30を、移送ポンプ64によって液体噴射装置50に送る。
【0162】
また、バッファタンク61の下面には、線量計62が設けられている。この線量計62は、バッファタンク61の内部の水30の線量を計測する。つまり、線量計62は、吸引した水30(流体)に含まれる放射性物質による線量を計測する。この計測された線量は、時系列成分データ保存データベース26(図22)に記憶される。
【0163】
また、第6実施形態の水中捕集装置70Eは、レーザ回折式の粒度分布測定装置65を備える。バッファタンク61には、粒度分布測定装置65に対応する位置に窓66が設けられている。粒度分布測定装置65は、バッファタンク61の内部の水30に浮遊しているコロイド粒子の粒径寸法と粒径分布を計測する。この計測されたコロイド粒子の粒径寸法と粒径分布は、時系列成分データ保存データベース26(図22)に記憶される。
【0164】
なお、バッファタンク61のオーバーフローを防止するために、水位計(図示略)を設けて、バッファタンク61の水位を監視しても良い。
【0165】
第6実施形態の捕集用フィルタ42Eは、水30(流体)に含まれる微粒子を捕集する複数枚の積層されたフィルタから成る。この捕集用フィルタ42Eは、それぞれの粗さが異なり微粒子のサイズに応じて篩い分けるための複数のフィルタから成る。
【0166】
例えば、カートリッジ35の内部において、目開き(隙間)が最も大きいフィルタが、吸引用開口部39に最も近い位置に設けられる。目開きが最も小さいフィルタが、排出用開口部44に最も近い位置に設けられる。つまり、捕集用フィルタ42Eに水30が吹き付けられた際には、粗いフィルタから順に、水30が通過する。そして、それぞれのフィルタごとに、粒径寸法(サイズ)が異なる微粒子が捕集される。
【0167】
次に、第6実施形態の対象物管理システム1Eの構成を図22に示すブロック図を参照して説明する。
【0168】
第6実施形態のメイン制御部15は、前述の第1実施形態の構成に加えて、差分抽出部77と物質記録部78とを備える。
【0169】
第6実施形態の捕集制御部21は、前述の第1実施形態の構成に加えて、停止部86を備える。この捕集制御部21には、水中捕集装置70Eが接続されている。
【0170】
停止部86は、線量計62で計測された線量が予め定められた上限値を超えた場合に、吸引部71(図8)による水30流体の吸引を停止する。つまり、水中捕集装置70Eを停止する。
【0171】
例えば、捕集用フィルタ42Eの線量が高くなり、その後に捕集用フィルタ42Eの保管および管理が難しくなるおそれがある場合には、自動的に吸引部71による水30(流体)の吸引を停止し、捕集用フィルタ42Eの線量が高くなり過ぎないようにする。つまり、停止部86がインターロックとして機能する。
【0172】
なお、第6実施形態では、停止部86による停止の制御が水中捕集装置70Eに適用される態様を例示しているが、その他の態様であっても良い。例えば、停止部86による停止の制御を気中捕集装置14に適用しても良い。
【0173】
次に、第6実施形態の物質量推定方法について図23のフローチャートを用いて説明する。なお、前述の図面を適宜参照する。
【0174】
まず、ステップS31において、作業者は、捕集用フィルタ42Eを分解する。そして、作業者は、フィルタの重量を計測する重量計測、または、フィルタの電位差を計測する電位計測の少なくとも一方を用いて、それぞれのフィルタに付着した微粒子の粒子量を計測する。
【0175】
次のステップS32において、作業者は、それぞれのサイズの粒子量と分析データから吸引部71(図8)で吸引された水30(流体)における微粒子の密度(例えば、嵩密度)を計算する。
【0176】
次のステップS33において、作業者は、計算した微粒子の密度と吸引部71(図8)が水30(流体)を吸引したときの吸引速度とに基づいて、対象物13に存在する物質の量を推定する。
【0177】
そして、物質量推定方法を終了する。なお、以上のステップは、物質量推定方法に含まれる少なくとも一部の処理であり、他のステップが物質量推定方法に含まれていても良い。
【0178】
第6実施形態では、微粒子の粒径と密度を考慮した捕集比率の補正により分析精度を向上できる。つまり、対象物13に存在する物質の量を推定することができる
【0179】
(第7実施形態)
次に、第7実施形態について図24から図26を用いて説明する。なお、前述した実施形態に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0180】
図24に示すように、第7実施形態の水中捕集装置70Fは、バッファタンク61とともに、三方弁としての切換弁67を備える。
【0181】
切換弁67は、バッファタンク61に受け入れる水30(流体)に含まれる放射性物質の濃度を調整するために設けられている。例えば、切換弁67は、バッファタンク61に水30を送る液体採取管29に設けられている。さらに、切換弁67は、清浄な水を供給する給水管68に接続されている。例えば、切換弁67の3つの口のうち、2つの口は、液体採取管29に接続される。残り1つの口は、給水管68に接続される。この切換弁67を切り換えることで、液体採取管29を通過するセル10の内部空間の水30の流れを止め、給水管68を介して正常な水をバッファタンク61に供給することができる。そして、放射性物質で汚染された水30を希釈することができる。
【0182】
次に、第7実施形態の分析データ取得方法について図25のフローチャートを用いて説明する。なお、前述の図面を適宜参照する。また、ブロック図は、第6実施形態の対象物管理システム1E(図22)の構成と同じものとして説明する。
【0183】
まず、ステップS41において、捕集制御部21は、バッファタンク61の下面に設けられた線量計62(図24)で、バッファタンク61に貯められた水30(流体)に含まれる放射性物質による線量を計測する。
【0184】
次のステップS42において、バッファタンク61に貯められた水30の線量が、汚染水用の閾値であって予め定められた所定の閾値よりも高いか否かを判定する。ここで、水30の線量が閾値よりも高い場合(ステップS42でYESの場合)は、ステップS43に進む。一方、水30の線量が閾値以下の場合(ステップS42でNOの場合)は、ステップS44に進む。
【0185】
ステップS43において、捕集制御部21は、切換弁67を切り換えて、給水管68を介して正常な水をバッファタンク61に供給する。ここで、放射性物質を含む水30を、放射性物質を含まない清浄な水(流体)で希釈して放射性物質の濃度を低下させる。また、給水管68から供給した清浄な水の量、つまり、希釈量を記録する。
【0186】
次のステップS44において、捕集制御部21は、水中捕集装置70Fによる捕集作業が完了したか否かを判定する。なお、捕集作業の完了は、主作業の完了を含む。ここで、捕集作業が完了していない場合(ステップS44でNOの場合)は、ステップS41に戻る。一方、捕集作業が完了した場合(ステップS44でYESの場合)は、ステップS45に進む。
【0187】
次のステップS45において、捕集制御部21の微粒子分析部24は、捕集された微粒子を分析する。ここで、分析データを得る。
【0188】
次のステップS46において、捕集制御部21の微粒子分析部24は、微粒子を捕集したときに水30を希釈したか否かを判定する。ここで、水30を希釈していない場合(ステップS46でNOの場合)は、ステップS48に進む。一方、水30を希釈している場合(ステップS46でYESの場合)は、ステップS47に進む。
【0189】
ステップS47において、捕集制御部21の微粒子分析部24は、分析データに対して放射性物質を希釈した希釈量に応じた逓倍を行う。
【0190】
次のステップS48において、捕集制御部21の微粒子分析部24は、分析データの出力を行う。ここで、捕集制御部21は、分析データをメイン制御部15に送る。メイン制御部15は、出力部18に分析データを出力する。
【0191】
そして、分析データ取得方法を終了する。なお、以上のステップは、分析データ取得方法に含まれる少なくとも一部の処理であり、他のステップが分析データ取得方法に含まれていても良い。
【0192】
第7実施形態では、捕集用フィルタ42の線量を適切に調整できる。例えば、線量計62で計測された線量が閾値よりも高い場合には、捕集用フィルタ42に付着する放射性物質を希釈して、捕集用フィルタ42の線量を抑えることができる。さらに、捕集用フィルタ42に付着する放射性物質を希釈しても、その希釈量に応じて逓倍を行うことで、対象物13に含まれる物質の量を分析することができる。
【0193】
次に、第7実施形態のカートリッジ交換方法について図26のフローチャートを用いて説明する。なお、前述の図面を適宜参照する。また、ブロック図は、第6実施形態の対象物管理システム1E(図22)の構成と同じものとして説明する。
【0194】
まず、ステップS51において、捕集制御部21は、バッファタンク61の下面に設けられた線量計62(図24)で、バッファタンク61に貯められた水30(流体)に含まれる放射性物質による線量を計測する。ここで、計測した線量に基づいて、捕集用フィルタ42に付着した放射性物質による線量の累積量を取得する。この累積量は、メイン制御部15に送られ、出力部18を用いて出力される。
【0195】
なお、成分分析計測装置49が、少なくとも線量計を含むものとして構成され、この成分分析計測装置49を用いて、捕集用フィルタ42の線量を直に計測しても良い。そして、捕集用フィルタ42に付着した放射性物質による線量の累積量を取得しても良い。
【0196】
次のステップS52において、作業者は、捕集用フィルタ42の線量の累積量が、予め定められた目標値よりも低いか否かを判定する。ここで、捕集用フィルタ42の累積量が目標値よりも低い場合(ステップS52でYESの場合)は、ステップS53に進む。一方、捕集用フィルタ42の累積量が目標値以上である場合(ステップS52でNOの場合)は、ステップS54に進む。
【0197】
ステップS53において、作業者は、カートリッジ35の交換時期を延ばす。そして、分析データ取得方法を終了する。
【0198】
ステップS54において、作業者は、カートリッジ35の交換時期を短くする。そして、分析データ取得方法を終了する。
【0199】
なお、以上のステップは、カートリッジ交換方法に含まれる少なくとも一部の処理であり、他のステップがカートリッジ交換方法に含まれていても良い。
【0200】
第7実施形態では、カートリッジ35を交換する時期を適切に調整できる。例えば、線量計62で計測された線量が目標値よりも低い場合には、カートリッジ35を交換する時期を延ばすことができる。一方、線量計62で計測された線量が目標値よりも高い場合には、カートリッジ35を交換する時期を短くして、カートリッジ35の内部の捕集用フィルタ42の線量を抑えることができる。
【0201】
なお、第7実施形態では、切換弁67をバッファタンク61に受け入れる水30(流体)に含まれる放射性物質の濃度を調整するために用いているが、その他の態様であっても良い。例えば、切換弁67を排水管(図示略)に接続しても良い。この切換弁67を切り換えることで、液体採取管29の余剰な水30を排水管に排出するようにしても良い。例えば、バッファタンク61への注水を止める場合には、切換弁67を切り換えて排水管に水30を排出する。さらに、排水管で筐体34の外部に排出される水30は、セル10の内部の汚染エリアに排出される。または、別途に設けられる所定の汚染水処理設備(図示略)で処理され、汚染エリア以外に排出される。
【0202】
(第8実施形態)
次に、第8実施形態について図27から図28を用いて説明する。なお、前述した実施形態に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0203】
図27に示すように、第8実施形態の対象物管理システム1Gは、マニピュレータ3Aに接続された第1主作業装置4Aと、マニピュレータ3Bに接続された第2主作業装置4Bを備える。第8実施形態では、これら2台の主作業装置4A,4Bを用いて、同一の対象物13の表面の2箇所で同時に主作業を行う。
【0204】
ここで、第1主作業装置4Aが主作業を行う位置を第1作業位置W1とする。第2主作業装置4Bが主作業を行う位置を第2作業位置W2とする。第1作業位置W1と第2作業位置W2の間には、所定の離間距離Lが設けられている。
【0205】
また、第1主作業装置4Aに対応する気体採取管5Aの吸引部6A(吸引口)が、第1主作業装置4Aの近傍に配置されている。さらに、第2主作業装置4Bに対応する気体採取管5Bの吸引部6B(吸引口)が、第2主作業装置4Bの近傍に配置されている。
【0206】
次に、第8実施形態の対象物管理システム1Gの構成を図28に示すブロック図を参照して説明する。
【0207】
第8実施形態のメイン制御部15には、第1主作業装置4Aと第2主作業装置4Bとが接続されている。また、メイン制御部15は、前述の第1実施形態の構成に加えて、データ補正部87を備える。
【0208】
データ補正部87は、複数の箇所で同時に主作業を行った場合に得られる分析データの補正を行う。例えば、吸引部6A,6Bが吸引した微粒子の量の補正を行う。
【0209】
また、第1主作業装置4Aに対応する第1気中捕集装置14Aが設けられている。さらに、第2主作業装置4Bに対応する第2気中捕集装置14Bが設けられている。これら2第の気中捕集装置14A,14Bが捕集制御部21に接続されている。
【0210】
図27から図28に示すように、吸引部6Aが第1主作業装置4Aの近傍に配置された気体採取管5Aは、第1気中捕集装置14Aに接続されている。さらに、吸引部6Bが第2主作業装置4Bの近傍に配置された気体採取管5Bは、第2気中捕集装置14Bに接続されている。
【0211】
吸引部6Aは、第1作業位置W1で発生した微粒子を吸引するとともに、第2作業位置W2で発生した微粒子も吸引する。つまり、第1気中捕集装置14Aは、主作業装置4A,4Bを用いたそれぞれの主作業で舞い上がる微粒子を捕集する。
【0212】
ここで、吸引部6Aが吸引した微粒子には、第2作業位置W2で発生した微粒子が含まれる。また、吸引部6Bが吸引した微粒子には、第1作業位置W1で発生した微粒子が含まれる。そこで、メイン制御部15のデータ補正部87は、微粒子の量の補正を行う。
【0213】
第2作業位置W2で発生した微粒子は、第1作業位置W1から第2作業位置W2まで移動するときに希釈される。この希釈の度合い(希釈率)は、離間距離Lに応じて変化する。なお、実際には第1作業位置W1から吸引部6Aの間にも離間距離があるが、理解を助けるために、第1作業位置W1と吸引部6Aの離間距離は無いものとして説明する。
【0214】
ここで、第1作業位置W1で発生する微粒子の量をNAとする。第2作業位置W2で発生する微粒子の量をNBとする。第2作業位置W2で発生した微粒子が、第1作業位置W1まで到達する間(離間距離Lの移動の間)に、気体により希釈される希釈率をdAとする。また、第1作業位置W1で発生した微粒子が、第2作業位置W2まで到達する間(離間距離Lの移動の間)に、気体により希釈される希釈率をdBとする。希釈率dA,dBは、離間距離Lの関数である。なお、実際には微粒子が離間距離Lを移動する時間が考慮されるが、理解を助けるために、移動時間は無いものとして説明する。
【0215】
例えば、第1作業位置W1の吸引部6Aが吸引する微粒子の量NA’は、以下の式(1)で表される。
NA’=NA+dANB (1)
【0216】
ここで、第1作業位置W1で発生した微粒子の量NAを求めるためには、以下の式(2)を用いる。
NA=(NA’-dANB’)/(1-dAdB) (2)
【0217】
また、第2作業位置W2の吸引部6Bが吸引する微粒子の量NB’は、以下の式(3)で表される。
NB’=NB+dBNA (3)
【0218】
ここで、第2作業位置W2で発生した微粒子の量NBを求めるためには、以下の式(4)を用いる。
NB=(NB’-dBNA’)/(1-dAdB) (4)
【0219】
メイン制御部15のデータ補正部87は、離間距離Lに応じた希釈率dA,dBを取得し、これらの希釈率dA,dBと前述の式に基づいて、微粒子の量の補正を行う。
【0220】
このように、それぞれの作業位置W1,W2で発生した微粒子の量に基づいて、適切な分析データを得ることが可能である。そして、微粒子の粒径分布と成分が分かれば、その平均密度と粒径寸法(サイズ)から、微粒子の挙動を計算またはシミュレーションで求めることができる。
【0221】
なお、空間内の気流の発生状態については、主作業装置4A,4Bの周辺の風速分布などを事前または事後に取得する。例えば、モックアップ試験などを通じて確認しても良いし、主作業中に空間内の気流計測を行っても良い。また、空間の形状または寸法が事前に計測されている場合には、この空間の換気に影響がある空調または気体を注入したときの流量などの運転条件を取得する。そして、これらの運転条件から、この空間の気流条件を計算しても良い。
【0222】
第8実施形態では、同一空間の複数の箇所で主作業を行う場合でも、それぞれの作業位置W1,W2における対象物13の分析データを得ることができる。また、それぞれの作業位置W1,W2の座標、同一空間の内部の気流の傾向、微粒子の沈降、吸着を把握することで、拡散する微粒子の濃度の傾向を把握することができる。
【0223】
なお、第8実施形態では、2台の主作業装置4A,4Bを用いて、同一の対象物13の表面の2箇所で同時に主作業を行う態様を例示しているが、その他の態様であっても良い。例えば、3台以上の主作業装置4を用いて、同一の対象物13の表面の3箇所以上で同時に主作業を行う形態でも良い。
【0224】
対象物管理システムおよび対象物管理方法を第1実施形態から第8実施形態に基づいて説明したが、いずれか1の実施形態において適用された構成を他の実施形態に適用しても良いし、各実施形態において適用された構成を組み合わせても良い。
【0225】
なお、前述の実施形態において、基準値(第1閾値、第2閾値、目標値)を用いた任意の値(線量、累積量)の判定は、「任意の値が基準値以上か否か」の判定でも良いし、「任意の値が基準値を超えているか否か」の判定でも良い。或いは、「任意の値が基準値以下か否か」の判定でも良いし、「任意の値が基準値未満か否か」の判定でも良い。また、基準値が固定されるものでなく、変化するものであっても良い。従って、基準値の代わりに所定範囲の値を用い、任意の値が所定範囲に収まるか否かの判定を行っても良い。また、予め装置に生じる誤差を解析し、基準値を中心として誤差範囲を含めた所定範囲を判定に用いても良い。
【0226】
なお、前述の実施形態のフローチャートにおいて、各ステップが直列に実行される形態を例示しているが、必ずしも各ステップの前後関係が固定されるものでなく、一部のステップの前後関係が入れ替わっても良い。また、一部のステップが他のステップと並列に実行されても良い。
【0227】
前述の実施形態のシステムは、専用のチップ、FPGA(Field Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)、またはCPU(Central Processing Unit)などのプロセッサを高集積化させた制御装置と、ROM(Read Only Memory)またはRAM(Random Access Memory)などの記憶装置と、HDD(Hard Disk Drive)またはSSD(Solid State Drive)などの外部記憶装置と、ディスプレイなどの表示装置と、マウスまたはキーボードなどの入力装置と、通信インターフェースとを備える。このシステムは、通常のコンピュータを利用したハードウェア構成で実現できる。
【0228】
なお、前述の実施形態のシステムで実行されるプログラムは、ROMなどに予め組み込んで提供される。もしくは、このプログラムは、インストール可能な形式または実行可能な形式のファイルでCD-ROM、CD-R、メモリカード、DVD、フレキシブルディスク(FD)などのコンピュータで読み取り可能な非一過性の記憶媒体に記憶されて提供するようにしても良い。
【0229】
また、このシステムで実行されるプログラムは、インターネットなどのネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせて提供するようにしても良い。また、このシステムは、構成要素の各機能を独立して発揮する別々のモジュールを、ネットワークまたは専用線で相互に接続し、組み合わせて構成することもできる。
【0230】
以上説明した少なくとも1つの実施形態によれば、主作業により対象物から舞い上がる微粒子を捕集する作業を行う捕集装置を備えることにより、放射性物質が含まれる可能性がある対象物を取り扱う作業を遂行しつつ、対象物に含まれる物質の分析を行うことができる。
【0231】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。これら実施形態またはその変形は、発明の範囲と要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0232】
1(1A,1B,1C,1E,1G)…対象物管理システム、2…取扱装置、3(3A,3B)…マニピュレータ、4(4A,4B)…主作業装置、5…(5A,5B)気体採取管、6(6A,6B)…吸引部、7…クレーン、8…カメラ、9…3次元計測装置、10…セル、11…原子力施設、12…構造物、13…対象物、14(14A,14B,14C,14D)…気中捕集装置、15…メイン制御部、16…記憶部、17…入力部、18…出力部、19,20…通信部、21…捕集制御部、22…形状取得部、23…座標設定部、24…微粒子分析部、25…対象物分析部、26…時系列成分データ保存データベース、27…物体成分マップデータベース、28…3次元再構成データベース、29…液体採取管、30…水、31…3次元形状を示す画像、32…被加工部、33…周辺の箇所、34…筐体、35…カートリッジ、36…シール部材、37…蓋、38…保持部、39…吸引用開口部、40…基端部、41…シャッター、42(42C,42E)…捕集用フィルタ、43…除去用フィルタ、44…排出用開口部、45…排出管、46…ブロア、47…排気管、49…成分分析計測装置、50…液体噴射装置、51…乾燥機、52…液体移送ポンプ、53…給気口、54…切換弁、55…窓、56…光学観察部、57…圧縮空気噴射装置、58…注気チューブ、59…ノズル、60…排水管、61…バッファタンク、62…線量計、63…注水管、64…移送ポンプ、65…粒度分布測定装置、66…窓、67…切換弁、68…給水管、70(70E,70F)…水中捕集装置、71…吸引部、72…ガス、73…核分裂判定部、74…希ガス検出部、75…収納容器、76…吊下ワイヤ、77…差分抽出部、78…物質記録部、79…容器記録部、80…送出部、81…巻取部、82…遮蔽板、83…フィルタ記録部、84…巻取速度調整部、85…線量計、86…停止部、87…データ補正部、L…離間距離、P1…第1位置、P2…第2位置、W1…第1作業位置、W2…第2作業位置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
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