(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-20
(45)【発行日】2024-10-01
(54)【発明の名称】アスタチン同位体製造装置およびアスタチン同位体製造方法
(51)【国際特許分類】
G21G 4/08 20060101AFI20240924BHJP
G21G 1/10 20060101ALI20240924BHJP
【FI】
G21G4/08
G21G1/10
(21)【出願番号】P 2021101192
(22)【出願日】2021-06-17
【審査請求日】2024-01-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮本 真哉
(72)【発明者】
【氏名】湯原 勝
(72)【発明者】
【氏名】大森 孝
(72)【発明者】
【氏名】和田 怜志
(72)【発明者】
【氏名】宮寺 晴夫
(72)【発明者】
【氏名】手塚 勝
【審査官】後藤 慎平
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/112034(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第105148732(CN,A)
【文献】国際公開第2018/173811(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21G 1/00-7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エアロゾルを発生させるエアロゾル発生部と、
内部で前記エアロゾル発生部により発生した前記エアロゾルをガス流とともに下流に流す発生チェンバと、
アルファ線が照射されてアスタチン同位体が生成されたターゲット材から前記アスタチン同位体を分離させるアスタチン分離部と、
内部に前記ターゲット材が収容され、前記ターゲット材から分離された前記アスタチン同位体を前記ガス流とともに下流に流す分離チェンバと、
前記アスタチン分離部よりも下流側の流路を形成する部材の少なくとも一部を加熱し、前記部材の内面に対する前記エアロゾルの付着を抑制する付着抑制用ヒータと、
前記分離チェンバから流れる前記ガス流に含まれる前記エアロゾルを捕捉し、捕捉された前記エアロゾルに含まれる前記アスタチン同位体を回収する回収部と、
前記回収部の下流側に設けられ、前記分離チェンバの内部の前記ガス流を吸引するポンプと、
を備える、
アスタチン同位体製造装置。
【請求項2】
前記分離チェンバの内部に配置する前の前記ターゲット材に前記アルファ線を照射する照射装置を備え、
前記アスタチン分離部は、前記ターゲット材の温度が前記アスタチン同位体の沸点以上の温度になるまで加熱する分離用ヒータである、
請求項1に記載のアスタチン同位体製造装置。
【請求項3】
前記分離チェンバの内部に設けられた前記ターゲット材に前記アルファ線を照射する照射装置を備え、
前記照射装置は、前記アルファ線の照射により前記ターゲット材から前記アスタチン同位体を分離させる前記アスタチン分離部を兼ねる、
請求項1に記載のアスタチン同位体製造装置。
【請求項4】
前記回収部は、前記エアロゾルを捕捉するフィルタを備える、
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のアスタチン同位体製造装置。
【請求項5】
前記ポンプで回収したガスを再び前記流路の上流側に送る再利用ラインを備える、
請求項
1から請求項4のいずれか1項に記載のアスタチン同位体製造装置。
【請求項6】
前記ガス流は、ヘリウム、ネオン、アルゴンおよび窒素の少なくともいずれか1つを含む、
請求項1から請求項
5のいずれか1項に記載のアスタチン同位体製造装置。
【請求項7】
前記エアロゾルは、塩化ナトリウムおよび塩化カリウムの少なくとも一方を含む、
請求項1から請求項
6のいずれか1項に記載のアスタチン同位体製造装置。
【請求項8】
前記発生チェンバの下流側が漏斗状を成す、
請求項1から請求項
7のいずれか1項に記載のアスタチン同位体製造装置。
【請求項9】
エアロゾル発生部が、エアロゾルを発生させるステップと、
発生チェンバの内部で前記エアロゾル発生部により発生した前記エアロゾルをガス流とともに下流に流すステップと、
アスタチン分離部が、アルファ線が照射されてアスタチン同位体が生成されたターゲット材から前記アスタチン同位体を分離させるステップと、
分離チェンバの内部に前記ターゲット材が収容され、前記ターゲット材から分離された前記アスタチン同位体を前記ガス流とともに下流に流すステップと、
付着抑制用ヒータが、前記アスタチン分離部よりも下流側の流路を形成する部材の少なくとも一部を加熱し、前記部材の内面に対する前記エアロゾルの付着を抑制するステップと、
回収部が、前記分離チェンバから流れる前記ガス流に含まれる前記エアロゾルを捕捉し、捕捉された前記エアロゾルに含まれる前記アスタチン同位体を回収するステップと、
前記回収部の下流側に設けられたポンプが、前記分離チェンバの内部の前記ガス流を吸引するステップと、
を含む、
アスタチン同位体製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、アスタチン同位体製造技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、がん治療において、アルファ線を用いたがん治療が注目されている。アルファ線は飛程が短いため、アルファ線を放射する薬剤を用いて、標的となるがん細胞を選択的に攻撃することができる。そのため、正常細胞に対するダメージが小さいという利点がある。アルファ線を放射する薬剤として様々な放射性同位体が検討されている。特に、アスタチン-211は、半減期が短く、改変に伴い7.45MeV、5.87MeVといった高エネルギーのα線を放出することから、最も期待されている放射性同位体の1つである。その一方で半減期が7.2時間と短いために、分離に時間をかけてしまうと、生成したアスタチン-211が減少してしまう。そこで、迅速な分離方法が求められている。迅速かつ簡易な分離方法として、ターゲット材であるビスマスとの融点・沸点の差を利用した分離技術が知られている。しかし、この従来の分離技術では、回収部または搬送部である配管などの壁面にアスタチン-211が付着するため、有機溶剤またはアルカリ溶液などを用いて、付着したアスタチン-211を溶離または回収する必要がある。
【0003】
そこで、発明者らは、エアロゾルを用いた新たな分離技術を開発した。この新たな分離技術は、配管などの壁面に付着したアスタチン-211の溶離または回収を不要とし、搬送距離の延伸を可能とするものである。しかし、エアロゾルは、ビスマスからアスタチン-211を加熱した分離部に導入されると、分離部の後段の冷却過程で、エアロゾルの一部が配管などに付着し、その回収率が低下してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2015/195042号
【文献】国際公開第2019/088113号
【文献】国際公開第2019/112034号
【非特許文献】
【0005】
【文献】E. Aneheim, “Automated astatination of biomolecules - a stepping stone towards multicenter clinical trials,” Science Reports, 2015.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、アスタチン同位体を効率的に製造することができるアスタチン同位体製造技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施形態に係るアスタチン同位体製造装置は、エアロゾルを発生させるエアロゾル発生部と、内部で前記エアロゾル発生部により発生した前記エアロゾルをガス流とともに下流に流す発生チェンバと、アルファ線が照射されてアスタチン同位体が生成されたターゲット材から前記アスタチン同位体を分離させるアスタチン分離部と、内部に前記ターゲット材が収容され、前記ターゲット材から分離された前記アスタチン同位体を前記ガス流とともに下流に流す分離チェンバと、前記アスタチン分離部よりも下流側の流路を形成する部材の少なくとも一部を加熱し、前記部材の内面に対する前記エアロゾルの付着を抑制する付着抑制用ヒータと、前記分離チェンバから流れる前記ガス流に含まれる前記エアロゾルを捕捉し、捕捉された前記エアロゾルに含まれる前記アスタチン同位体を回収する回収部と、前記回収部の下流側に設けられ、前記分離チェンバの内部の前記ガス流を吸引するポンプと、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明の実施形態により、アスタチン同位体を効率的に製造することができるアスタチン同位体製造技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1実施形態のアスタチン同位体製造装置を示す断面図。
【
図3】第1実施形態のアスタチン同位体製造方法を示すフローチャート。
【
図4】エアロゾルの回収率と加熱温度との関係を示すグラフ。
【
図5】エアロゾルの回収率とガス流量との関係を示すグラフ。
【
図6】エアロゾルの発生速度とガス流量との関係を示すグラフ。
【
図7】アスタチン同位体の回収率とガス流量との関係を示すグラフ。
【
図8】エアロゾルの回収率と加熱の有無との関係を示すグラフ。
【
図9】アスタチン同位体の回収率と加熱の有無との関係を示すグラフ。
【
図10】第2実施形態のアスタチン同位体製造装置を示す断面図。
【
図11】第2実施形態のアスタチン同位体製造方法を示すフローチャート。
【
図12】第3実施形態のアスタチン同位体製造装置を示す断面図。
【
図13】第3実施形態のアスタチン同位体製造方法を示すフローチャート。
【
図14】エアロゾルの回収率と製造装置の形式との関係を示すグラフ。
【
図15】アスタチン同位体の回収率と製造装置の形式との関係を示すグラフ。
【
図16】第4実施形態のアスタチン同位体製造装置を示す断面図。
【
図17】第4実施形態のアスタチン同位体製造方法を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(第1実施形態)
以下、図面を参照しながら、アスタチン同位体製造装置およびアスタチン同位体製造方法の実施形態について詳細に説明する。まず、第1実施形態について
図1から
図9を用いて説明する。なお、
図1の紙面左側を上流側とし、紙面右側を下流側として説明する。
【0011】
図1の符号1は、第1実施形態のアスタチン同位体製造装置である。このアスタチン同位体製造装置1は、主に、がん治療に用いる放射性同位体としてのアスタチン同位体を製造するためのものである。なお、アスタチン同位体を製造する工程には、所定の物質からアスタチン同位体を分離し、回収する工程が含まれる。例えば、アスタチン同位体は、加熱により気相として分離可能となっている。
【0012】
製造の対象となるアスタチン同位体としては、アスタチン-211(211At)を例示する。また、がん治療に用いるアスタチン同位体のみならず、研究に用いるアスタチン同位体でも良い。
【0013】
第1実施形態のアスタチン同位体製造装置1は、エアロゾル発生用ヒータ2と発生チェンバ3とアスタチン分離用ヒータ4と分離チェンバ5と付着抑制用ヒータ6と回収部7と吸引ライン8と再利用ライン9とガス循環ポンプ10とガス流量計11とエアロゾル用温度計12とアスタチン用温度計13と制御部14とを備える。
【0014】
第1実施形態では、発生チェンバ3と分離チェンバ5が直列に接続された直列型のアスタチン同位体製造装置1を例示する。
【0015】
エアロゾル発生用ヒータ2は、例えば、電熱ヒータであり、発生チェンバ3の外周を覆うように設けられている。このエアロゾル発生用ヒータ2が、第1実施形態のエアロゾル発生部となっている。なお、このエアロゾル発生用ヒータ2は、発生チェンバ3を加熱できれば良いので必要に応じて適宜その配置は変更可能である。
【0016】
発生チェンバ3は、例えば、ガラスなどの材質で形成された円筒状を成す容器である。この発生チェンバ3は、その円筒の軸が水平方向に延びるように配置されている。発生チェンバ3の上流側の端部は、第1栓部材15により閉塞されている。
【0017】
一方、発生チェンバ3の下流側は、端部に行くに従って窄まる漏斗状を成し、その端部の開口が第1接続管16を介して分離チェンバ5に接続されている。
【0018】
発生チェンバ3の内部には、エアロゾルの発生源となるエアロゾル基材17が収容されている。エアロゾル発生用ヒータ2を作動させて、発生チェンバ3を加熱するとともにエアロゾル基材17を加熱すると、エアロゾル基材17からエアロゾルが発生する。
【0019】
エアロゾル基材17としては、塩化ナトリウム(NaCl)および塩化カリウム(KCl)の少なくとも一方を含む粒状体を用いる。このエアロゾル基材17をエアロゾル発生用ヒータ2で加熱することで、塩化ナトリウムまたは塩化カリウムのエアロゾルが発生する。このようにすれば、仮に、回収されるアスタチン同位体にエアロゾルの成分が混じっても、塩化ナトリウムまたは塩化カリウムのような生理食塩水の成分であれば、このアスタチン同位体を人体に投与した場合に悪影響が生じることがない。
【0020】
なお、エアロゾル基材17としては、ヨウ化ナトリウム(NaI)、ヨウ化カリウム(KI)、ヨウ化鉛(PbI)および塩化鉛(PbCl)の少なくとも1つを含む固形材を用いても良い。そして、これらの物質が含まれるエアロゾルを発生させても良い。
【0021】
エアロゾル用温度計12は、エアロゾル発生用ヒータ2で加熱されたときのエアロゾル基材17の温度、つまり、エアロゾルの温度を検出するために設けられている。このエアロゾル用温度計12は、熱電対であり、第1栓部材15を貫通して発生チェンバ3の内部に挿入されている。エアロゾル用温度計12の先端は、エアロゾル基材17に接触されている。
【0022】
また、発生チェンバ3の上流側には、不活性ガスを導入する第1ガス導入管18が接続されている。この第1ガス導入管18は、第1栓部材15を貫通して発生チェンバ3の内部に挿入されている。
【0023】
第1ガス導入管18を介して不活性ガスが導入されることにより、発生チェンバ3および分離チェンバ5の内部で不活性ガスの流れであるガス流Gが生じる。このガス流Gによりエアロゾルおよびアスタチン同位体が移送される。
【0024】
不活性ガスは、ヘリウム、ネオン、アルゴンおよび窒素の少なくとも1つから成る。このようにすれば、ガス流Gが、エアロゾルおよびアスタチン同位体に対して反応し難くなり、エアロゾルおよびアスタチン同位体を安定的に移送することができる。
【0025】
なお、ガス流量計11は、第1ガス導入管18に設けられている。このガス流量計11により、発生チェンバ3および分離チェンバ5の内部のガス流Gの流量、つまり、エアロゾルの流量を検出することができる。なお、ガス流Gの流量を把握することで、発生チェンバ3および分離チェンバ5の内部の気圧を把握することもできる。さらに、必要に応じて発生チェンバ3および分離チェンバ5の内部に圧力計(図示せず)を付加することも可能である。
【0026】
発生チェンバ3の内部で発生したエアロゾルは、ガス流Gとともに発生チェンバ3の下流に流れる。第1実施形態では、発生チェンバ3の下流側が漏斗状を成すことで、粗いエアロゾルを下流に流さないようにできる。また、適切なサイズのエアロゾルを下流に流すことができるため、エアロゾルにアスタチン同位体を含ませ易くなる。さらに、エアロゾルが分離チェンバ5の内面などに付着し難くなる。
【0027】
アスタチン分離用ヒータ4は、例えば、電熱ヒータであり、分離チェンバ5の外周を覆うように設けられている。このアスタチン分離用ヒータ4が、第1実施形態のアスタチン分離部となっている。
【0028】
分離チェンバ5は、例えば、ガラスなどの材質で形成された円筒状を成す容器である。この分離チェンバ5は、その円筒の軸が水平方向に延びるように配置されている。分離チェンバ5の上流側の端部は、第2栓部材19により閉塞されている。
【0029】
分離チェンバ5の上流側には、不活性ガスを導入する第2ガス導入管20が接続されている。この第2ガス導入管20は、第2栓部材19を貫通して発生チェンバ3の内部に挿入されている。発生チェンバ3から延びる第1接続管16は、第2ガス導入管20の上流側の端部に接続されている。
【0030】
一方、分離チェンバ5の下流側は、端部に行くに従って窄まる漏斗状を成し、その端部の開口が第2接続管21を介して回収部7に接続されている。
【0031】
分離チェンバ5の内部には、アスタチン同位体が生成されたターゲット材22が収容されている。アスタチン分離用ヒータ4を作動させて、分離チェンバ5を加熱するとともにターゲット材22を加熱すると、ターゲット材22からアスタチン同位体が分離される。つまり、アスタチン同位体が揮発される。
【0032】
ターゲット材22は、例えば、ビスマスで形成されている。第1実施形態では、
図2に示すように、予めターゲット材22にアルファ線α(ヘリウム原子核)を照射し、アスタチン同位体を生成する。
【0033】
第1実施形態のアスタチン同位体製造装置1は、分離チェンバ5の内部に配置する前のターゲット材22にアルファ線αを照射する照射装置23を備える。なお、第1実施形態では、ターゲット材22にアルファ線αを照射した後に、分離チェンバ5の内部にターゲット材22を収容するバッチ式のアスタチン同位体製造装置1となっている。
【0034】
アスタチン同位体を生成する際には、まず、作業者は、ターゲット材22を所定の照射容器24に収容する。照射容器24の内部の空気は、真空ポンプ25により吸引される。この照射容器24内は真空状態でも良く、さらにはHeなどの不活性ガスを満たしてアスタチン同位体を生成させても良い。そして、照射装置23から出力されるアルファ線αを、照射容器24の照射窓26を介してターゲット材22に照射する。この照射により、ターゲット材22でアスタチン同位体が生成される。アスタチン同位体が充分に生成された後、作業者は、ターゲット材22を照射容器24から取り出し、分離チェンバ5の内部に収容する。
【0035】
そして、
図1に示すように、アスタチン分離用ヒータ4は、ターゲット材22の温度がアスタチン同位体の沸点以上かつビスマスの沸点未満の温度になるまで加熱する。このようにすれば、ターゲット材22にアルファ線αを照射する工程と、ターゲット材22からアスタチン同位体を分離する工程を分けることができる。そのため、アスタチン同位体の製造に関するそれぞれの工程を簡素化することができる。
【0036】
分離チェンバ5の内部でターゲット材22から分離されると、アスタチン同位体がエアロゾルに捕集される。このエアロゾルおよびアスタチン同位体は、不活性ガスの流れであるガス流Gとともに、分離チェンバ5の下流に流れる。分離チェンバ5から流れるガス流Gは、第2接続管21を介して回収部7に導かれる。
【0037】
アスタチン用温度計13は、アスタチン分離用ヒータ4で加熱されたときのターゲット材22の温度を検出するために設けられている。このアスタチン用温度計13は、熱電対であり、第2栓部材19を貫通して分離チェンバ5の内部に挿入されている。アスタチン用温度計13の先端は、ターゲット材22に接触されている。
【0038】
付着抑制用ヒータ6は、分離チェンバ5の下流側と第2接続管21の外周を覆うように設けられている。この付着抑制用ヒータ6は、アスタチン分離用ヒータ4よりも下流側の流路を形成する部材の少なくとも一部を加熱し、部材の内面に対するエアロゾルの付着を抑制する。第1実施形態では、流路を形成する部材が、分離チェンバ5と第2接続管21となっている。
【0039】
回収部7は、分離チェンバ5から流れるガス流Gに含まれるエアロゾルを捕捉し、捕捉されたエアロゾルに含まれるアスタチン同位体を回収する。
【0040】
回収部7は、アスタチン同位体を含むエアロゾルを捕捉するフィルタ27を備える。このようにすれば、エアロゾルをフィルタ27で捕捉し、捕捉したエアロゾルに含まれるアスタチン同位体を回収することができる。
【0041】
回収部7の下流側には、吸引ライン8が接続されている。この吸引ライン8は、ガス循環ポンプ10に接続されている。ガス循環ポンプ10を駆動すると、回収部7を介して分離チェンバ5の内部のガス流Gが吸引される。このようにすれば、発生チェンバ3および分離チェンバ5の内部から効率的にガス流Gを吸引することができる。
【0042】
なお、ガス循環ポンプ10の駆動を制御することで、ガス流Gの流量の調整を行うことができる。さらに、発生チェンバ3および分離チェンバ5の内部の気圧の調整を行うことができる。例えば、発生チェンバ3および分離チェンバ5の内部の気圧の上昇によるエアロゾルおよびアスタチン同位体の移送効率の低下を抑制するために、必要に応じてガス循環ポンプ10の駆動を制御し、気圧の調整を行う。
【0043】
なお、ガス循環ポンプ10で吸引されるガス流Gの一部は、オフガスQとなって排出される。また、オフガスQとなって排出された量と同じ量の不活性ガスを、ガス循環ポンプ10を介して新たに注入しても良い。
【0044】
ガス循環ポンプ10の排出側には、再利用ライン9が接続されている。この再利用ライン9は、発生チェンバ3の第1ガス導入管18に接続される。ガス循環ポンプ10で回収されたガスは、再利用ライン9を介して再び発生チェンバ3に送られる。つまり、ガス循環ポンプ10で回収されたガスは、再びガス流Gの流路の上流側に送られる。このようにすれば、不活性ガスを何度も循環させて再利用することができる。
【0045】
制御部14は、アスタチン同位体製造装置1を統括的に制御する。この制御部14は、プロセッサおよびメモリなどのハードウェア資源を有し、CPUが各種プログラムを実行することで、ソフトウェアによる情報処理がハードウェア資源を用いて実現されるコンピュータで構成される。さらに、本実施形態のアスタチン同位体製造方法は、各種プログラムをコンピュータに実行させることで実現される。
【0046】
例えば、制御部14は、エアロゾル発生用ヒータ2とアスタチン分離用ヒータ4と付着抑制用ヒータ6とガス循環ポンプ10を制御する。また、ガス流量計11とエアロゾル用温度計12とアスタチン用温度計13で検出した情報は、制御部14に入力される。制御部14は、入力された情報に基づいて、ガス流Gの流量、エアロゾル基材17の温度、およびターゲット材22の温度を適切に制御する。
【0047】
次に、アスタチン同位体製造装置1を用いて実行されるアスタチン同位体製造方法について
図3のフローチャートを用いて説明する。このアスタチン同位体製造装置1の動作によって受動的に生じる作用効果を含めて説明する。なお、前述の図面を適宜参照する。
【0048】
まず、ステップS1において、作業者は、ターゲット材22を照射容器24に収容する。そして、照射装置23が、照射容器24の内部に収容されたターゲット材22にアルファ線αを照射する。
【0049】
次のステップS2において、作業者は、ターゲット材22を照射容器24から取り出して分離チェンバ5の内部に収容する。
【0050】
次のステップS3において、作業者は、エアロゾル基材17を発生チェンバ3の内部に収容する。
【0051】
次のステップS4において、エアロゾル発生部としてのエアロゾル発生用ヒータ2が、が、エアロゾル基材17を加熱してエアロゾルを発生させる。なお、前述したステップS3およびステップS4は、ステップS1およびステップS2と並行して進められても良い。
【0052】
次のステップS5において、発生チェンバ3の内部でエアロゾル発生用ヒータ2により発生したエアロゾルが、ガス流Gとともに発生チェンバ3の下流に流れる。
【0053】
次のステップS6において、アスタチン分離部としてのアスタチン分離用ヒータ4が、アルファ線αが照射されてアスタチン同位体が生成されたターゲット材22を加熱する。ここで、ターゲット材22からアスタチン同位体が分離される。
【0054】
次のステップS7において、分離チェンバ5の内部でターゲット材22から分離されたアスタチン同位体が、ガス流Gとともに分離チェンバ5の下流に流れる。
【0055】
次のステップS8において、付着抑制用ヒータ6が、アスタチン分離用ヒータ4よりも下流側の流路を形成する部材、つまり、分離チェンバ5および第2接続管21を加熱し、これらの部材の内面に対するエアロゾルの付着を抑制する。
【0056】
次のステップS9において、回収部7が、分離チェンバ5から流れるガス流Gに含まれるエアロゾルを捕捉し、捕捉されたエアロゾルに含まれるアスタチン同位体を回収する。
【0057】
そして、アスタチン同位体製造方法を終了する。なお、以上のステップは、アスタチン同位体製造方法に含まれる少なくとも一部であり、他のステップがアスタチン同位体製造方法に含まれていても良い。
【0058】
次に、アスタチン同位体製造装置1の効果を検証するために、発明者らが行った実験結果について
図4から
図9のグラフを用いて説明する。
【0059】
実験で用いた発生チェンバ3および分離チェンバ5は、内径が4.2cmのものを用いた。また、不活性ガスとしてヘリウム(He)ガスを用いた。さらに、エアロゾルを発生させるためのエアロゾル発生用ヒータ2の温度を750℃に設定した。なお、エアロゾルの回収率は、実験後にチェンバ、配管、フィルタなどの各部材を水で洗浄し、その水の重量と、水に含まれるエアロゾル成分の濃度を測定し、各部材に対する分配比から求めた。
【0060】
また、アスタチン分離用ヒータ4の温度を500℃に設定した。アスタチン同位体は、日本原子力研究開発機構原子力科学研究所に付属しているタンデム加速器を用いてヘリウム原子核を加速し、これをビスマスのターゲット材22に照射して生成した。なお、アスタチン同位体の回収率は、実験後にチェンバ、配管、フィルタなどの各部材を0.01mol/lの水酸化ナトリウム溶液で洗浄し、その溶液の重量と、溶液に含まれるアスタチン同位体の濃度を測定し、照射により生成したアスタチン同位体との比から求めた。
【0061】
図4のグラフは、エアロゾルとして塩化カリウム(KCl)または塩化ナトリウム(NaCl)を用いた場合のエアロゾルの回収率を示している。なお、この実験では、付着抑制用ヒータ6が設けられていないアスタチン同位体製造装置1を用いた。ヘリウムガスを1.5L/minで常に通気させた。
【0062】
この
図4のグラフに示すように、塩化カリウムと塩化ナトリウムのいずれをエアロゾルとして用いても、加熱がなければ、ほぼ100%近くエアロゾルを回収部7に移送することができることが分かる。しかし、アスタチン分離用ヒータ4の加熱温度を上げていくと、エアロゾルの回収率が低下する。例えば、500℃では、塩化カリウムの回収率が67.4%に低下する。また、塩化ナトリウムの回収率が76.5%に低下する。このように、アスタチン分離用ヒータ4による加熱が、流路を形成する部材の内面に対するエアロゾルの付着を促進するものであり、エアロゾルの回収率を低下させる要因であることが分かる。
【0063】
図5のグラフは、エアロゾルとして塩化カリウムまたは塩化ナトリウムを用いて、ガス流Gの流量を変化させた場合のエアロゾルの回収率を示している。ヘリウムガスを1.5L/minまたは5.0L/minで常に通気させた。
【0064】
この
図5のグラフに示すように、それぞれのガス流量に対して、エアロゾルとして塩化ナトリウムを用いた場合には、ほぼ同じ結果となった。しかし、エアロゾルとして塩化カリウムを用いた場合には、流速を上げたときの方が、エアロゾルの回収率が向上されることが分かった。
【0065】
図6のグラフは、エアロゾルとして塩化カリウムまたは塩化ナトリウムを用いて、ガス流Gの流量を変化させた場合のエアロゾルの発生量を示している。ヘリウムガスを1.5L/minまたは5.0L/minで常に通気させた。
【0066】
この
図6のグラフに示すように、エアロゾルとして塩化カリウムまたは塩化ナトリウムのいずれを用いても、流速を上げたときの方が、エアロゾルの発生量が増加することが分かった。
【0067】
図7のグラフは、エアロゾルとして塩化カリウムまたは塩化ナトリウムを用いて、ガス流Gの流量を変化させた場合のアスタチン同位体の回収率を示している。ヘリウムガスを1.5L/minまたは5.0L/minで常に通気させた。
【0068】
エアロゾルとして塩化カリウムを用いた場合には、ヘリウムガスの流量が1.5L/minのときのアスタチン同位体の回収率が29.4%であり、ヘリウムガスの流量が5.0L/minのときのアスタチン同位体の回収率が60.8%である。また、エアロゾルとして塩化ナトリウムを用いた場合には、ヘリウムガスの流量が1.5L/minのときのアスタチン同位体の回収率が24.6%であり、ヘリウムガスの流量が5.0L/minのときのアスタチン同位体の回収率が43.6%である。このように、ヘリウムガスの流量を上げるとアスタチン同位体の回収率が向上されることが分かる。
【0069】
つまり、ガスの流量を調整することで、エアロゾルの回収率が向上し、エアロゾルの発生量が増えるようになる。そして、アスタチン同位体の回収率も向上することが分かる。なお、エアロゾルが無い場合のアスタチン同位体の回収率は、4.2%程度であり、アスタチン同位体を殆ど回収できなかった。
【0070】
図8のグラフは、付着抑制用ヒータ6を用いて、アスタチン分離用ヒータ4よりも下流側の流路を形成する部材の温度を制御した場合の実験結果を示す。エアロゾルとして塩化カリウムまたは塩化ナトリウムを用いて、付着抑制用ヒータ6による加熱を行わない場合と、付着抑制用ヒータ6により160℃になるまで加熱した場合のエアロゾルの回収率を示している。ヘリウムガスを1.5L/minで常に通気させた。
【0071】
この
図8のグラフに示すように、エアロゾルが塩化カリウムまたは塩化ナトリウムのいずれの場合であっても、付着抑制用ヒータ6による加熱を行わないときよりも、付着抑制用ヒータ6により160℃になるまで加熱したときの方が、エアロゾルの回収率が向上することが分かる。
【0072】
図9のグラフは、付着抑制用ヒータ6を用いて、アスタチン分離用ヒータ4よりも下流側の流路を形成する部材の温度を制御した場合の実験結果を示す。エアロゾルとして塩化カリウムを用いて、付着抑制用ヒータ6による加熱を行わない場合と、付着抑制用ヒータ6により160℃になるまで加熱した場合のアスタチン同位体の回収率を示している。ヘリウムガスを1.5L/minで常に通気させた。
【0073】
この
図9のグラフに示すように、付着抑制用ヒータ6による加熱を行わない場合には、アスタチン同位体の回収率が29.4%である。これに対し、付着抑制用ヒータ6により160℃になるまで加熱した場合には、アスタチン同位体の回収率が33.9%となる。
【0074】
つまり、付着抑制用ヒータ6により、アスタチン分離用ヒータ4よりも下流側の部材を加熱し、エアロゾルの温度の低下が緩やかになるように制御することで、エアロゾルが部材の内面に付着してしまうことを抑制することができる。その結果、回収部7におけるアスタチン同位体の回収率が向上することが分かる。
【0075】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について
図10から
図11を用いて説明する。なお、前述した実施形態に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。なお、
図10の紙面左側を上流側とし、紙面右側を下流側として説明する。
【0076】
図10に示すように、第2実施形態のアスタチン同位体製造装置1Aは、前述の第1実施形態と同様に直列型となっている。しかし、第2実施形態のアスタチン同位体製造装置1Aでは、分離チェンバ5Aの構成が、前述の第1実施形態と異なっている。第2実施形態の分離チェンバ5Aは、箱状を成している。この分離チェンバ5Aには、アルファ線αを入射させる照射窓28が設けられている。そして、この分離チェンバ5Aの近傍に照射装置23が設けられている。この照射装置23は、制御部14により制御される。
【0077】
第2実施形態では、アルファ線αが未だ照射されていないターゲット材22を分離チェンバ5Aの内部に収容する。そして、照射装置23から出力されるアルファ線αを、分離チェンバ5Aの照射窓28を介してターゲット材22に照射する。この照射により、ターゲット材22でアスタチン同位体が生成される。この第2実施形態では、ターゲット材22で連続的にアスタチン同位体を生成する連続式のアスタチン同位体製造装置1Aとなっている。
【0078】
また、照射装置23は、アルファ線αの照射によりターゲット材22からアスタチン同位体を分離させるアスタチン分離部を兼ねる。第2実施形態では、アスタチン分離用ヒータ4(
図1)が設けられておらず、アルファ線αの照射によりターゲット材22が加熱される。このようにすれば、ターゲット材22を加熱する構成を簡素化することができる。なお、第2実施形態でも、アスタチン分離用ヒータ4を設けるようにし、照射装置23によるアルファ線αの照射と、アスタチン分離用ヒータ4による加熱の双方を用いて、ターゲット材22を加熱しても良い。
【0079】
照射装置23は、ターゲット材22の温度がアスタチン同位体の沸点以上かつビスマスの沸点未満の温度になるまで加熱する。この加熱により、ターゲット材22からアスタチン同位体が分離される。なお、アルファ線αの照射で生じる反跳により、ターゲット材22からアスタチン同位体を分離しても良い。
【0080】
また、付着抑制用ヒータ6Aは、分離チェンバ5Aの下流側と第2接続管21の外周を覆うように設けられている。この付着抑制用ヒータ6Aは、分離チェンバ5Aの下流側と第2接続管21を加熱し、これらの部材の内面に対するエアロゾルの付着を抑制する。
【0081】
次に、アスタチン同位体製造装置1Aを用いて実行されるアスタチン同位体製造方法について
図11のフローチャートを用いて説明する。このアスタチン同位体製造装置1Aの動作によって受動的に生じる作用効果を含めて説明する。なお、前述の図面を適宜参照する。
【0082】
まず、ステップS11において、作業者は、ターゲット材22を分離チェンバ5Aの内部に収容する。
【0083】
次のステップS12において、作業者は、エアロゾル基材17を発生チェンバ3の内部に収容する。
【0084】
次のステップS13において、エアロゾル発生部としてのエアロゾル発生用ヒータ2が、エアロゾル基材17を加熱してエアロゾルを発生させる。
【0085】
次のステップS14において、発生チェンバ3の内部でエアロゾル発生用ヒータ2により発生したエアロゾルが、ガス流Gとともに発生チェンバ3の下流に流れる。
【0086】
次のステップS15において、照射装置23が、分離チェンバ5Aの内部に設けられたターゲット材22にアルファ線αを照射する。
【0087】
次のステップS16において、アスタチン分離部としての照射装置23が、ターゲット材22にアルファ線αを照射することで、ターゲット材22を加熱する。ここで、ターゲット材22からアスタチン同位体が分離される。
【0088】
次のステップS17において、分離チェンバ5Aの内部でターゲット材22から分離されたアスタチン同位体が、ガス流Gとともに分離チェンバ5Aの下流に流れる。
【0089】
次のステップS18において、付着抑制用ヒータ6Aが、分離チェンバ5Aの下流側と第2接続管21を加熱し、これらの部材の内面に対するエアロゾルの付着を抑制する。
【0090】
次のステップS19において、回収部7が、分離チェンバ5Aから流れるガス流Gに含まれるエアロゾルを捕捉し、捕捉されたエアロゾルに含まれるアスタチン同位体を回収する。
【0091】
そして、アスタチン同位体製造方法を終了する。なお、以上のステップは、アスタチン同位体製造方法に含まれる少なくとも一部であり、他のステップがアスタチン同位体製造方法に含まれていても良い。
【0092】
第2実施形態では、分離チェンバ5Aの内部で、ターゲット材22にアルファ線αを照射し、連続的にアスタチン同位体を生成することができるため、アスタチン同位体の製造効率を向上させることができる。
【0093】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態について
図12から
図15を用いて説明する。なお、前述した実施形態に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。なお、
図12の紙面左側を上流側とし、紙面右側を下流側として説明する。
【0094】
図12に示すように、第3実施形態のアスタチン同位体製造装置1Bは、発生チェンバ3と分離チェンバ5が並列に接続された並列型となっている。なお、第3実施形態では、ターゲット材22にアルファ線αを照射した後に、分離チェンバ5の内部にターゲット材22を収容するバッチ式のアスタチン同位体製造装置1Bとなっている。
【0095】
第3実施形態では、ガス循環ポンプ10から延びる再利用ライン9が2つに分岐している。この再利用ライン9は、発生チェンバ3の第1ガス導入管18と分離チェンバ5の第2ガス導入管20の双方に接続されている。
【0096】
発生チェンバ3の上流側に不活性ガスが導入されることにより、発生チェンバ3の内部で不活性ガスの流れである第1ガス流G1が生じる。この第1ガス流G1によりエアロゾルが移送される。また、分離チェンバ5の上流側に不活性ガスが導入されることにより、分離チェンバ5の内部で不活性ガスの流れである第2ガス流G2が生じる。この第2ガス流G2によりアスタチン同位体が移送される。
【0097】
発生チェンバ3の第1ガス導入管18には、発生チェンバ3の内部の第1ガス流G1の流量を検出する第1ガス流量計11Aが設けられている。また、分離チェンバ5の第2ガス導入管20には、分離チェンバ5の内部の第2ガス流G2の流量を検出する第2ガス流量計11Bが設けられている。
【0098】
なお、第1ガス流量計11Aと第2ガス流量計11Bで検出した情報は、制御部14に入力される。制御部14は、入力された情報に基づいて、第1ガス流G1と第2ガス流G2の流量を適切に制御する。
【0099】
第3実施形態のアスタチン同位体製造装置1Bは、混合チェンバ30を備える。この混合チェンバ30は、例えば、箱状を成し、発生チェンバ3および分離チェンバ5の下流側に設けられている。
【0100】
発生チェンバ3および分離チェンバ5の下流側は、端部に行くに従って窄まる漏斗状を成している。また、発生チェンバ3の下流側の端部の開口が第1配管31を介して混合チェンバ30に接続されている。さらに、分離チェンバ5の下流側の端部の開口が第2配管32を介して混合チェンバ30に接続されている。なお、分離チェンバ5の下流側から混合チェンバ30までは、アスタチンの付着を防ぐため第2配管32が160℃程度に加熱されている。
【0101】
発生チェンバ3の内部でエアロゾル基材17から発生したエアロゾルは、第1ガス流G1とともに混合チェンバ30に流れる。さらに、分離チェンバ5の内部でターゲット材22から分離したアスタチン同位体は、第2ガス流G2とともに混合チェンバ30に流れる。
【0102】
混合チェンバ30に導入された第1ガス流G1および第2ガス流G2は、混合チェンバ30の内部で混合されて混合ガス流G3となる。ここで、第2ガス流G2に含まれるアスタチン同位体が、第1ガス流G1に含まれるエアロゾルに捕集される。このエアロゾルおよびアスタチン同位体は、不活性ガスの流れである混合ガス流G3とともに、分離チェンバ5の下流に流れる。この混合ガス流G3は、第3配管33を介して回収部7に導かれる。
【0103】
なお、回収部7の下流側には、吸引ライン8が接続されている。この吸引ライン8は、ガス循環ポンプ10に接続されている。ガス循環ポンプ10を駆動すると、回収部7を介して混合チェンバ30の内部の混合ガス流G3が吸引される。このようにすれば、混合ガス流G3の吸引とともに、発生チェンバ3および分離チェンバ5の内部から効率的に第1ガス流G1および第2ガス流G2を吸引することができる。そして、再利用ライン9は、ガス循環ポンプ10で回収した不活性ガスを再び発生チェンバ3および分離チェンバ5の上流側に送る。
【0104】
次に、アスタチン同位体製造装置1Bを用いて実行されるアスタチン同位体製造方法について
図13のフローチャートを用いて説明する。このアスタチン同位体製造装置1Bの動作によって受動的に生じる作用効果を含めて説明する。なお、前述の図面を適宜参照する。
【0105】
まず、ステップS21において、作業者は、ターゲット材22を照射容器24(
図2)に収容する。そして、照射装置23が、照射容器24の内部に収容されたターゲット材22にアルファ線αを照射する。
【0106】
次のステップS22において、作業者は、ターゲット材22を照射容器24から取り出して分離チェンバ5の内部に収容する。
【0107】
次のステップS23において、作業者は、エアロゾル基材17を発生チェンバ3の内部に収容する。
【0108】
次のステップS24において、エアロゾル発生部としてのエアロゾル発生用ヒータ2が、エアロゾル基材17を加熱してエアロゾルを発生させる。
【0109】
次のステップS25において、発生チェンバ3の内部でエアロゾル発生用ヒータ2により発生したエアロゾルが、第1ガス流G1とともに発生チェンバ3の下流に流れる。
【0110】
次のステップS26において、アスタチン分離部としてのアスタチン分離用ヒータ4が、アルファ線αが照射されてアスタチン同位体が生成されたターゲット材22を加熱する。ここで、ターゲット材22からアスタチン同位体が分離される。
【0111】
次のステップS27において、分離チェンバ5の内部でターゲット材22から分離されたアスタチン同位体が、第2ガス流G2とともに分離チェンバ5の下流に流れる。
【0112】
次のステップS28において、混合チェンバ30が、第1ガス流G1および第2ガス流G2を混合させて混合ガス流G3とする。この混合ガス流G3が、混合チェンバ30の下流に流れる。
【0113】
次のステップS29において、回収部7が、混合チェンバ30から流れる混合ガス流G3に含まれるエアロゾルを捕捉し、捕捉されたエアロゾルに含まれるアスタチン同位体を回収する。
【0114】
そして、アスタチン同位体製造方法を終了する。なお、以上のステップは、アスタチン同位体製造方法に含まれる少なくとも一部であり、他のステップがアスタチン同位体製造方法に含まれていても良い。
【0115】
次に、アスタチン同位体製造装置1Bの効果を検証するために、発明者らが行った実験結果について
図14から
図15のグラフを用いて説明する。
【0116】
実験では、直列型のアスタチン同位体製造装置1(
図1)と、並列型のアスタチン同位体製造装置1B(
図12)の比較を行った。
【0117】
実験で用いた発生チェンバ3および分離チェンバ5は、内径が4.2cmのものを用いた。また、不活性ガスとしてヘリウム(He)ガスを用いた。このヘリウムガスを1.5L/minで常に通気させた。さらに、エアロゾルを発生させるためのエアロゾル発生用ヒータ2の温度を750℃に設定した。なお、エアロゾルの回収率は、実験後にチェンバ、配管、フィルタなどの各部材を水で洗浄し、その水の重量と、水に含まれるエアロゾル成分の濃度を測定し、各部材に対する分配比から求めた。
【0118】
また、アスタチン分離用ヒータ4の温度を500℃に設定した。アスタチン同位体は、日本原子力研究開発機構原子力科学研究所に付属しているタンデム加速器を用いてヘリウム原子核を加速し、これをビスマスのターゲット材22に照射して生成した。なお、アスタチン同位体の回収率は、実験後にチェンバ、配管、フィルタなどの各部材を0.01mol/lの水酸化ナトリウム溶液で洗浄し、その溶液の重量と、溶液に含まれるアスタチン同位体の濃度を測定し、照射により生成したアスタチン同位体との比から求めた。
【0119】
なお、直列型のアスタチン同位体製造装置1では、付着抑制用ヒータ6の温度を160℃に設定した。また、並列型のアスタチン同位体製造装置1Bでは、分離チェンバ5から下流側の流路を形成する部材の温度が160℃になるように調整した。
【0120】
図14のグラフは、エアロゾルとして塩化ナトリウム(NaCl)を用いた場合のエアロゾルの回収率を示している。このグラフに示すように、直列型のアスタチン同位体製造装置1のエアロゾルの回収率は、80.5%である。これに対して、並列型のアスタチン同位体製造装置1Bのエアロゾルの回収率は、97.8%である。この結果により、並列型のアスタチン同位体製造装置1Bの方が、エアロゾルの回収率が向上されることが分かる。
【0121】
図15のグラフは、エアロゾルとして塩化カリウム(KCl)を用いた場合のアスタチン同位体の回収率を示している。このグラフに示すように、直列型のアスタチン同位体製造装置1のアスタチン同位体の回収率は、29.4%である。これに対して、並列型のアスタチン同位体製造装置1Bのアスタチン同位体の回収率は、68.2%である。この結果により、並列型のアスタチン同位体製造装置1Bの方が、アスタチン同位体の回収率が向上されることが分かる。
【0122】
第3実施形態の並列型のアスタチン同位体製造装置1Bでは、発生したエアロゾルが再加熱されることがないため、エアロゾルおよびアスタチン同位体の移送効率を向上させることができる。また、エアロゾルの再加熱による影響を考慮しなくても良いため、分離チェンバ5から混合チェンバ30までの温度を高めることができる。例えば、少なくとも130℃以上に加熱することができる。これにより、分離チェンバ5から混合チェンバ30までの第2ガス流G2の流路を形成する部材の内面に対するエアロゾルの付着を抑制することができる。
【0123】
(第4実施形態)
次に、第4実施形態について
図16から
図17を用いて説明する。なお、前述した実施形態に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。なお、
図16の紙面左側を上流側とし、紙面右側を下流側として説明する。
【0124】
図16に示すように、第4実施形態のアスタチン同位体製造装置1Cは、前述の第3実施形態と同様に並列型となっている。しかし、第4実施形態のアスタチン同位体製造装置1Cでは、分離チェンバ5Cの構成が、前述の第3実施形態と異なっている。第4実施形態の分離チェンバ5Cは、第2実施形態(
図10)と同様に、箱状を成している。この分離チェンバ5Cには、アルファ線αを入射させる照射窓28が設けられている。そして、この分離チェンバ5Cの近傍に照射装置23が設けられている。この照射装置23は、制御部14により制御される。
【0125】
第4実施形態では、アルファ線αが未だ照射されていないターゲット材22を分離チェンバ5Cの内部に収容する。そして、照射装置23から出力されるアルファ線αを、分離チェンバ5Cの照射窓28を介してターゲット材22に照射する。この照射により、ターゲット材22でアスタチン同位体が生成される。この第4実施形態では、ターゲット材22で連続的にアスタチン同位体を生成する連続式のアスタチン同位体製造装置1Cとなっている。
【0126】
また、照射装置23は、アルファ線αの照射によりターゲット材22からアスタチン同位体を分離させるアスタチン分離部を兼ねる。第4実施形態では、アスタチン分離用ヒータ4(
図12)が設けられておらず、アルファ線αの照射によりターゲット材22が加熱される。このようにすれば、ターゲット材22を加熱する構成を簡素化することができる。なお、第4実施形態でも、アスタチン分離用ヒータ4を設けるようにし、照射装置23によるアルファ線αの照射と、アスタチン分離用ヒータ4による加熱の双方を用いて、ターゲット材22を加熱しても良い。
【0127】
照射装置23は、ターゲット材22の温度がアスタチン同位体の沸点以上かつビスマスの沸点未満の温度になるまで加熱する。この加熱により、ターゲット材22からアスタチン同位体が分離される。なお、アルファ線αの照射で生じる反跳により、ターゲット材22からアスタチン同位体を分離しても良い。
【0128】
次に、アスタチン同位体製造装置1Cを用いて実行されるアスタチン同位体製造方法について
図17のフローチャートを用いて説明する。このアスタチン同位体製造装置1Cの動作によって受動的に生じる作用効果を含めて説明する。なお、前述の図面を適宜参照する。
【0129】
まず、ステップS31において、作業者は、ターゲット材22を分離チェンバ5Cの内部に収容する。
【0130】
次のステップS32において、作業者は、エアロゾル基材17を発生チェンバ3の内部に収容する。
【0131】
次のステップS33において、エアロゾル発生部としてのエアロゾル発生用ヒータ2が、エアロゾル基材17を加熱してエアロゾルを発生させる。
【0132】
次のステップS34において、発生チェンバ3の内部でエアロゾル発生用ヒータ2により発生したエアロゾルが、第1ガス流G1とともに発生チェンバ3の下流に流れる。
【0133】
次のステップS35において、照射装置23が、分離チェンバ5Cの内部に設けられたターゲット材22にアルファ線αを照射する。
【0134】
次のステップS36において、アスタチン分離部としての照射装置23が、ターゲット材22にアルファ線αを照射することで、ターゲット材22を加熱する。ここで、ターゲット材22からアスタチン同位体が分離される。
【0135】
次のステップS37において、分離チェンバ5Cの内部でターゲット材22から分離されたアスタチン同位体が、第2ガス流G2とともに分離チェンバ5Cの下流に流れる。
【0136】
次のステップS38において、混合チェンバ30が、第1ガス流G1および第2ガス流G2を混合させて混合ガス流G3とする。この混合ガス流G3が、混合チェンバ30の下流に流れる。
【0137】
次のステップS39において、回収部7が、混合チェンバ30から流れる混合ガス流G3に含まれるエアロゾルを捕捉し、捕捉されたエアロゾルに含まれるアスタチン同位体を回収する。
【0138】
そして、アスタチン同位体製造方法を終了する。なお、以上のステップは、アスタチン同位体製造方法に含まれる少なくとも一部であり、他のステップがアスタチン同位体製造方法に含まれていても良い。
【0139】
第4実施形態では、分離チェンバ5Cの内部で、ターゲット材22にアルファ線αを照射し、連続的にアスタチン同位体を生成することができるため、アスタチン同位体の製造効率を向上させることができる。さらに、発生したエアロゾルが再加熱されることがないため、エアロゾルおよびアスタチン同位体の移送効率を向上させることができる。
【0140】
アスタチン同位体製造装置およびアスタチン同位体製造方法を第1実施形態から第4実施形態に基づいて説明したが、いずれか1の実施形態において適用された構成を他の実施形態に適用しても良いし、各実施形態において適用された構成を組み合わせても良い。
【0141】
例えば、第1または第2実施形態の付着抑制用ヒータ6,6Aを、第3または第4実施形態のアスタチン同位体製造装置1B,1Cの混合チェンバ30(または分離チェンバ5,5C)よりも下流側の流路を形成する部材を覆うように設けても良い。そして、これらの部材の内面に対するエアロゾルの付着を抑制するようにしても良い。
【0142】
なお、前述の実施形態のフローチャートにおいて、各ステップが直列に実行される形態を例示しているが、必ずしも各ステップの前後関係が固定されるものでなく、一部のステップの前後関係が入れ替わっても良い。また、一部のステップが他のステップと並列に実行されても良い。
【0143】
前述の実施形態の制御部14は、専用のチップ、FPGA(Field Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)、またはCPU(Central Processing Unit)などのプロセッサを高集積化させた制御装置と、ROM(Read Only Memory)またはRAM(Random Access Memory)などの記憶装置と、HDD(Hard Disk Drive)またはSSD(Solid State Drive)などの外部記憶装置と、ディスプレイなどの表示装置と、マウスまたはキーボードなどの入力装置と、通信インターフェースとを備える。この制御部14は、通常のコンピュータを利用したハードウェア構成で実現できる。
【0144】
なお、前述の実施形態の制御部14で実行されるプログラムは、ROMなどに予め組み込んで提供される。もしくは、このプログラムは、インストール可能な形式または実行可能な形式のファイルでCD-ROM、CD-R、メモリカード、DVD、フレキシブルディスク(FD)などのコンピュータで読み取り可能な非一過性の記憶媒体に記憶されて提供するようにしても良い。
【0145】
また、この制御部14で実行されるプログラムは、インターネットなどのネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせて提供するようにしても良い。また、この制御部14は、構成要素の各機能を独立して発揮する別々のモジュールを、ネットワークまたは専用線で相互に接続し、組み合わせて構成することもできる。
【0146】
なお、第3または第4実施形態では、混合チェンバ30が設けられているが、その他の態様であっても良い。例えば、混合チェンバ30を設けずに、第1配管31と第2配管32と第3配管33とが一体化された三又の配管とし、この一体化された配管が混合チェンバ(混合部)を兼ねても良い。その場合には、第1配管31と第2配管32が合流する部分で、第1ガス流および第2ガス流が混合されて混合ガス流が生じる。
【0147】
以上説明した少なくとも1つの実施形態によれば、第1ガス流および第2ガス流を混合させて混合ガス流とする混合チェンバ、または、エアロゾルの付着を抑制する付着抑制用ヒータを備えることにより、アスタチン同位体を効率的に製造することができる。
【0148】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。これら実施形態またはその変形は、発明の範囲と要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0149】
1(1A,1B,1C)…アスタチン同位体製造装置、2…エアロゾル発生用ヒータ、3…発生チェンバ、4…アスタチン分離用ヒータ、5(5A,5C)…分離チェンバ、6(6A)…付着抑制用ヒータ、7…回収部、8…吸引ライン、9…再利用ライン、10…ガス循環ポンプ、11…ガス流量計、11A…第1ガス流量計、11B…第2ガス流量計、12…エアロゾル用温度計、13…アスタチン用温度計、14…制御部、15…第1栓部材、16…第1接続管、17…エアロゾル基材、18…第1ガス導入管、19…第2栓部材、20…第2ガス導入管、21…第2接続管、22…ターゲット材、23…照射装置、24…照射容器、25…真空ポンプ、26…照射窓、27…フィルタ、28…照射窓、30…混合チェンバ、31…第1配管、32…第2配管、33…第3配管、G…ガス流、G1…第1ガス流、G2…第2ガス流、G3…混合ガス流、Q…オフガス、α…アルファ線。