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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-20
(45)【発行日】2024-10-01
(54)【発明の名称】粒子加速器および粒子加速方法
(51)【国際特許分類】
   H05H 5/02 20060101AFI20240924BHJP
【FI】
H05H5/02 A
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021133213
(22)【出願日】2021-08-18
(65)【公開番号】P2023027878
(43)【公開日】2023-03-03
【審査請求日】2024-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川崎 泰介
【審査官】右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開平2-109300(JP,A)
【文献】特開2015-053187(JP,A)
【文献】特開2017-4599(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0276582(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05H 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子を出力するビーム源と、
前記荷電粒子が通過するビームラインに対応する部分に開口部が形成されて前記ビームラインに沿って並べられた少なくとも2枚の板状を成す加速電極と、
前記荷電粒子が先の前記加速電極を通過して次の前記加速電極に到達するまでの期間に先の前記加速電極に印加させる電圧をパルス的に発生させる電圧パルス発生機構と、
を備える、
粒子加速器。
【請求項2】
それぞれの前記加速電極に対応して設けられ、前記電圧パルス発生機構から印加される電圧を前記加速電極に伝搬する電圧パルス伝搬路を備え、
複数の前記電圧パルス伝搬路に対して電圧を印加する少なくとも1つの前記電圧パルス発生機構が設けられており、
それぞれの前記電圧パルス伝搬路で電圧が伝搬されるときのディレイ時間が、前記荷電粒子が前記加速電極を順次通過するタイミングに応じて調整されている、
請求項1に記載の粒子加速器。
【請求項3】
前記電圧パルス発生機構は、それぞれの前記加速電極に対応して設けられたスイッチング素子と、前記スイッチング素子に接続された電源と、を備え、
前記電圧パルス発生機構は、前記スイッチング素子が開であるときに前記電源から電圧を印加しておき、前記スイッチング素子が瞬間的に閉となることで前記パルス的な電圧を前記加速電極に印加する、
請求項1または請求項2に記載の粒子加速器。
【請求項4】
複数の前記スイッチング素子に対して電圧を印加する少なくとも1つの前記電源が設けられている、
請求項3に記載の粒子加速器。
【請求項5】
前記スイッチング素子が光伝導スイッチであり、
前記電圧パルス発生機構は、前記光伝導スイッチを動作させるパルスレーザーを出力するレーザー発振器を備える、
請求項3または請求項4に記載の粒子加速器。
【請求項6】
前記光伝導スイッチが前記加速電極に直に接続されている、
請求項5に記載の粒子加速器。
【請求項7】
前記電圧パルス発生機構は、少なくとも1つの前記レーザー発振器から出力される前記パルスレーザーが進行し、かつそれぞれの前記光伝導スイッチに向けて分岐された光路を備え、
前記パルスレーザーが前記光路のそれぞれの前記分岐を進行して前記光伝導スイッチまで到達する時間が、前記荷電粒子が前記加速電極を順次通過するタイミングに応じて調整されている、
請求項5または請求項6に記載の粒子加速器。
【請求項8】
前記電圧パルス発生機構は、前記光路に設けられて前記パルスレーザーが進行する媒質となる媒質部材を備え、
前記媒質部材の屈折率と長さ寸法の少なくとも一方の調整により、前記パルスレーザーが前記光路を進行して前記光伝導スイッチまで到達する時間が調整されている、
請求項7に記載の粒子加速器。
【請求項9】
前記電圧パルス発生機構は、前記光路のそれぞれの前記分岐に対応する光路長を調整可能な光路長調整機構を備え、
それぞれの前記光路長の調整により、前記パルスレーザーが前記光路を進行して前記光伝導スイッチまで到達する時間が調整されている、
請求項7または請求項8に記載の粒子加速器。
【請求項10】
前記電圧パルス発生機構は、それぞれの前記スイッチング素子に対応して設けられ、一端がグラウンドに接続されているとともに他端が前記スイッチング素子と並列に前記電源に接続されているコンデンサを備える、
請求項3から請求項9のいずれか1項に記載の粒子加速器。
【請求項11】
前記電圧パルス発生機構は、前記スイッチング素子と直列に前記電源に接続されている抵抗器を備える、
請求項3から請求項10のいずれか1項に記載の粒子加速器。
【請求項12】
それぞれの前記加速電極に対応して設けられ、前記加速電極と前記加速電極に印加された電圧を降圧させるグラウンドとの間に設けられた抵抗器を備える、
請求項1から請求項11のいずれか1項に記載の粒子加速器。
【請求項13】
前記加速電極の厚み寸法が前記加速電極同士の間の離間寸法よりも小さくなっている、
請求項1から請求項12のいずれか1項に記載の粒子加速器。
【請求項14】
少なくとも3枚の前記加速電極が前記ビームラインに沿って等間隔に並んでいる、
請求項1から請求項13のいずれか1項に記載の粒子加速器。
【請求項15】
ビーム源が、荷電粒子を出力するステップと、
前記荷電粒子が通過するビームラインに沿って並べられた少なくとも2枚の板状を成す加速電極の前記ビームラインに対応する部分に形成された開口部を前記荷電粒子が順次通過するステップと、
電圧パルス発生機構が、前記荷電粒子が先の前記加速電極を通過して次の前記加速電極に到達するまでの期間に先の前記加速電極に印加させる電圧をパルス的に発生させるステップと、
を含む、
粒子加速方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、粒子加速技術に関する。
【背景技術】
【0002】
加速器は、静電場または高周波を用いて電場を発生して粒子の加速を行う。しかし、加速電場を上げていくと、静電場加速ではパッシェンの法則、高周波加速ではキルパトリック放電限界という経験則に従って放電が起こる。ここで、真空度の向上、表面処理、加速周波数の向上により放電電圧の改善は可能であるが、現実的には、静電場加速で1MV/m程度の加速勾配、高周波加速で40MV/m程度の加速勾配が限界である。
【0003】
特に、イオンのように質量が大きい粒子を加速する場合は、粒子速度が相対論的速度であるβ=1に近づくまで時間がかかる。高周波加速でイオンを加速する際には、徐々に変化する粒子速度に加速位相を合わせるため、加速効率がさらに低下し、数百kV/m~数MV/mの加速勾配となる。その結果、数百平方メートル以上の巨大なサイズの加速器が必要となり、加速器の普及を妨げる原因となっている。
【0004】
これらの問題を回避する誘電体壁加速器(Dielectric Wall Accelerator:DWA)というものが知られている。これは、パルス電場を利用した加速器の一種で、スイッチング素子により発生したパルス電場を電極まで伝搬し、加速電場を発生させるものである。加速のための電極を積層することで、多段化が容易であり、静電場加速のように粒子エネルギーに応じた大電圧を掛ける必要もない。また、スイッチのタイミングを粒子ビームに同期させることで、イオンのような質量の大きな粒子の加速も数十MV/m以上の加速勾配で実現できる。しかし、複数並んだ電極間に加速電場と減速電場が1つ置きに印加されるため、減速電場をスイッチにより打ち消しても実行的な加速勾配が半分になってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許第5757146号明細書
【文献】特表2013-504150号公報
【文献】特開平3-226997号公報
【文献】国際公開第2011/136168号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、加速器の小型化を図ることができ、かつ粒子を加速する加速勾配を向上させることができる粒子加速技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施形態に係る粒子加速器は、荷電粒子を出力するビーム源と、前記荷電粒子が通過するビームラインに対応する部分に開口部が形成されて前記ビームラインに沿って並べられた少なくとも2枚の板状を成す加速電極と、前記荷電粒子が先の前記加速電極を通過して次の前記加速電極に到達するまでの期間に先の前記加速電極に印加させる電圧をパルス的に発生させる電圧パルス発生機構と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明の実施形態により、加速器の小型化を図ることができ、かつ粒子を加速する加速勾配を向上させることができる粒子加速技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1実施形態の粒子加速器を示す構成図。
図2】加速電極を示す説明図。
図3】粒子加速方法を示すフローチャート。
図4】第2実施形態の粒子加速器を示す構成図。
図5】第3実施形態の粒子加速器を示す構成図。
図6】光路長調整機構の第1例を示す説明図。
図7】光路長調整機構の第2例を示す説明図。
図8】第4実施形態の粒子加速器を示す構成図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(第1実施形態)
以下、図面を参照しながら、粒子加速器および粒子加速方法の実施形態について詳細に説明する。まず、第1実施形態について図1から図3を用いて説明する。
【0011】
図1の符号1は、第1実施形態の粒子加速器である。この粒子加速器1は、電子、ミュオン、荷電パイ中間子、イオンなどの荷電粒子を加速して出力する装置である。
【0012】
粒子加速器1は、ビーム源2と加速電極3と電圧パルス発生機構4と電圧パルス伝搬路5とを備える。
【0013】
ビーム源2は、加速の対象と成る荷電粒子を出力する装置である。例えば、電子を出力する場合には、電子銃などがビーム源2となる。イオンを出力する場合には、ECRイオン源またはPIGイオン源などがビーム源2となる。なお、ビーム源2から出力された荷電粒子のビームが通過する経路をビームライン6と称する。
【0014】
本実施形態では、ビームライン6に沿って複数枚(少なくとも2枚)の加速電極3が1列に並べられている。これらの加速電極3は、板状を成す電極である。例えば、円盤状の加速電極3を例示する。なお、四角形状の加速電極3でも良い。これらの加速電極3は、内部が真空にされた真空容器(図示略)の中に置かれている。荷電粒子は、ビームライン6に沿って真空中を飛行する。
【0015】
それぞれの加速電極3には、ビームライン6に対応する中央の部分に開口部7が形成されている。開口部7の形状は、例えば、円形状となっている。なお、四角形状の開口部7でも良い。
【0016】
ビーム源2から出力された荷電粒子は、それぞれの加速電極3の開口部7を順次通過する。ここで、加速電極3同士の間に電位差が生じると、加速電極3同士の間に電場が発生し、加速電極3同士の間にある荷電粒子がビームライン6に沿って加速されるようになる。
【0017】
本実施形態では、電圧パルス発生機構4が、ビーム源2に近い方の加速電極3から順にパルス的な高電圧を印加し、荷電粒子を加速する電場を発生させる。つまり、飛行している荷電粒子の後方側(上流側)直近にある加速電極3に高電圧を印加し、これと荷電粒子の前方側(下流側)直近にある加速電極3との間に生じた電場により、常に、荷電粒子が前方側に引かれるようにし、加速を行う。
【0018】
電圧パルス発生機構4は、荷電粒子が先の加速電極3を通過して次の加速電極3に到達するまでの期間に次の加速電極3に印加させる高電圧をパルス的に発生させる。
【0019】
この電圧パルス発生機構4は、それぞれの加速電極3に対応して設けられた複数のスイッチ8と、それぞれのスイッチ8に接続された高圧電源9と、制御部10とを備える。
【0020】
第1実施形態では、スイッチ8がスイッチング素子を構成している。スイッチ8の一方の極は、電圧パルス伝搬路5を介して加速電極3に接続されている。また、スイッチ8の他方の極は、高圧電源9に接続されている。
【0021】
スイッチング素子として、例えば、ダイオードスイッチ、リレースイッチ、スパークギャップなどの素子を用いても良い。また、スイッチング素子として、例えば、半導体オープニングスイッチ(Semiconductor Opening Switch:SOS)、所謂SOSダイオードスイッチを用いても良い。つまり、スイッチング素子は、高速で開とすることが可能なものであれば良い。
【0022】
電圧パルス伝搬路5は、それぞれの加速電極3に対応して設けられ、電圧パルス発生機構4から印加される高電圧を加速電極3に伝搬する。なお、電圧パルス伝搬路5は、同軸ケーブルまたはストリップラインなどで構成されている。第1実施形態では、複数の電圧パルス伝搬路5に対して電圧を印加する1つの電圧パルス発生機構4が設けられている。それぞれの加速電極3は、電圧パルス伝搬路5を介して1つの電圧パルス発生機構4に接続されている。
【0023】
電圧パルス発生機構4は、スイッチ8が開(OFF)であるときに高圧電源9から電圧を印加しておき、スイッチ8が瞬間的に閉(ON)となることでパルス的な高電圧を加速電極3に印加するように制御される。このようにすれば、スイッチ8が開であるときに電圧を蓄えておき、スイッチ8が閉したときに瞬間的に電流を流してパルス的な高電圧を加速電極3に印加させることができる。
【0024】
また、電圧パルス発生機構4は、それぞれのスイッチ8に対応して設けられた複数のコンデンサ11を備える。これらのコンデンサ11は、一端がグラウンド12に接続されているとともに、他端がスイッチ8と並列に高圧電源9に接続されている。このようにすれば、高圧電源9から印加される電圧をコンデンサ11に蓄えておき、スイッチ8の閉時に、加速電極3に向けて高電圧を瞬間的に印加することができる。
【0025】
制御部10は、それぞれのスイッチ8の開閉動作を制御する。この制御部10は、スイッチ8の動作を制御する制御信号を送るための信号線13を介してそれぞれのスイッチ8に接続されている。
【0026】
それぞれの加速電極3は、高圧電源9から加速電極3に印加された電圧を降圧させるため、グラウンド14に接続されている。なお、それぞれの加速電極3とグラウンド14との間には、抵抗器15が設けられている。このようにすれば、それぞれの加速電極3に対応して抵抗器15が設けられているため、スイッチ8が閉したときの短絡を防ぐことができる。
【0027】
図2に示すように、加速電極3の厚み寸法Tは、充分に薄いものとなっている。例えば、加速電極3の厚み寸法Tは、少なくとも加速電極3同士の間の離間寸法Dよりも小さくなっている。このようにすれば、荷電粒子の加速に寄与しない加速電極3の開口部7を通過中の期間を減らし、荷電粒子の加速に寄与する加速電極3同士の間を通過中の期間を増やすことができる。
【0028】
本実施形態では、加速電極3の厚み寸法Tが、加速電極3同士の離間寸法Dの5分の1以下となっている。例えば、離間寸法Dが1.0~10.0mmの場合には、厚み寸法Tが0.2~2.0mmの範囲内に設定される。
【0029】
例えば、荷電粒子が加速電極3同士の間を通過中のときには、荷電粒子が加速される。一方、荷電粒子が加速電極3を通過中のとき、つまり開口部7内を飛行中であるときには、荷電粒子が加速されない。そのため、加速電極3の厚み寸法Tは、離間寸法Dよりも充分に薄い方が良い。
【0030】
ここで、それぞれの離間寸法Dを合計した距離が有効加速長となる。本実施形態では、加速電極3が並んだ合計距離Fに対する有効加速長を83%以上とすることができる。なお、従来技術の有効加速長は8%以下程度であるため、これらの技術と比べると、本実施形態では、大幅に有効加速長を増大させることができる。
【0031】
また、複数(少なくとも3枚)加速電極3がビームライン6に沿って等間隔に並んでいる。つまり、全ての離間寸法Dが同一となっている。このようにすれば、荷電粒子が加速電極3を順次通過するときのタイミングを把握し易いため、電圧パルス発生機構4で電圧をパルス的に発生させるタイミングの調整を行い易くなる。なお、電極間の離間寸法Dは、全てが同一となっている必要はなく、電極間によってそれぞれ別の離間寸法Dであっても良い。
【0032】
次に、本実施形態の粒子加速器1を用いて実行される粒子加速方法について図3のフローチャートを用いて説明する。この粒子加速器1の動作原理および粒子加速器1の動作によって受動的に生じる作用効果を含めて説明する。前述の図面を適宜参照する。
【0033】
なお、理解を助けるために、複数枚の加速電極3のうち所定の3枚に着目して説明する。例えば、ビームライン6の上流側にあり、最初に荷電粒子が通過するものを先の加速電極3(1枚目の電極)と称する。一方、ビームライン6の下流側にあり、後に荷電粒子が通過するものを次の加速電極3(2枚目の電極)と称する。さらに、この次の加速電極3に対し、ビームライン6の下流側にあり、最後に荷電粒子が通過するものを次のさらに次の加速電極3(3枚目の電極)と称する。
【0034】
まず、電圧が印加されていない状態において、それぞれの加速電極3は、グラウンド14に接続されているため、これらの電位はゼロ(0V)となっている。
【0035】
ここで、ステップS1において、ビーム源2が荷電粒子を出力する。この荷電粒子はビームライン6に沿って飛行する。
【0036】
次のステップS2において、荷電粒子が先の加速電極3(1枚目の電極)の開口部7を通過する。
【0037】
次のステップS3において、電圧パルス発生機構4は、先の加速電極3(1枚目の電極)に印加させる電圧をパルス的に発生させる。この高電圧は、電圧パルス伝搬路5を介して先の加速電極3に伝搬される。このとき、先の加速電極3と次の加速電極3(2枚目の電極)との間に生じる電場により荷電粒子が加速される。
【0038】
次のステップS4において、荷電粒子が次の加速電極3(2枚目の電極)の開口部7を通過する。
【0039】
次のステップS5において、電圧パルス発生機構4は、次の加速電極3(2枚目の電極)に印加させる電圧をパルス的に発生させる。この高電圧は、電圧パルス伝搬路5を介して次の加速電極3に伝搬される。このとき、次の加速電極3と次のさらに次の加速電極3(3枚目の電極)との間に生じる電場により荷電粒子が加速される。
【0040】
以後、下流側に並んだ加速電極3において同様の動作が繰り返されることで、荷電粒子が加速される。そして、荷電粒子がビーム源2から出力される度に、この粒子加速方法が繰り返されることで、粒子加速器1から荷電粒子のビームが出力される。同一構造の加速電極3が多段に積層されていることで、高エネルギーになるまで荷電粒子を加速することが可能になる。
【0041】
第1実施形態では、電圧パルス発生機構4が、荷電粒子が先の加速電極3を通過して次の加速電極3に到達するまでの期間に先の加速電極3に印加させる電圧をパルス的に発生させる。なお、荷電粒子が先の加速電極3を通過して次の加速電極3に到達するまでの期間中に発生するパルスは1回となっている。また、荷電粒子が先の加速電極3を通過して次の加速電極3に到達するまでの期間のうち、全ての期間で先の加速電極3に電圧が印加される必要はなく、少なくとも一部の期間で先の加速電極3に電圧が印加されれば良い。
【0042】
また、それぞれの電圧パルス伝搬路5の電圧の伝搬時間を予め逆算しておき、加速用の電場が発生するタイミングと、先の加速電極3と次の加速電極3の間を荷電粒子が通過するタイミングとが同期されるように、電圧パルス発生機構4の動作を設定することで、加速用の電場によって荷電粒子が加速される。
【0043】
また、加速用の電場は、荷電粒子が加速電極3同士の間を通過する期間だけ、パルス的(瞬間的)に生じていれば良い。
【0044】
また、加速電極3はグラウンド14に接続されているため、加速電極3に印加された高電圧は、電圧パルス発生機構4の動作終了または電流供給容量を超えた電圧パルス発生機構4の電圧降下によりゼロになるまで低下する。そのため、パルス的な高電圧の印加となり、静電場加速のパッシェンの法則、高周波加速のキルパトリックの放電限界を超えた加速勾配を実現することが可能になる。
【0045】
なお、荷電粒子を減速させる減速電場は、所定の加速電極3とその上流にある加速電極3との間に生じ得る。しかし、減速電場の発生は、既に荷電粒子が所定の加速電極3を通過した後となるため、この減速電場が実効的な荷電粒子の加速に影響することはない。
【0046】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について図4を用いて説明する。なお、前述した実施形態に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0047】
図4に示すように、第2実施形態の粒子加速器1Aは、複数の電圧パルス発生機構4A,4Bを備える。例えば、ビームライン6に沿って1列に並んだそれぞれの加速電極3において、前段側の加速電極3に高電圧を印加する第1電圧パルス発生機構4Aと、後段側の加速電極3に高電圧を印加する第2電圧パルス発生機構4Bとが設けられている。
【0048】
電圧パルス発生機構4A,4Bは、スイッチング素子としてのスイッチ8と直列に高圧電源9に接続されている抵抗器16を備える。このようにすれば、スイッチ8が閉したときの短絡を防ぐことができる。
【0049】
第2実施形態では、複数の電圧パルス発生機構4A,4Bが設けられているため、加速電極3の多段化が容易になる。
【0050】
なお、加速電極3と同じ数の電圧パルス発生機構4が設けられていても良い。例えば、1つの加速電極3に対して1つの電圧パルス発生機構4が設けられ、加速電極3に対し個々にパルス的な高電圧が印加されても良い。
【0051】
また、第1電圧パルス発生機構4Aと第2電圧パルス発生機構4Bを構成する部品の一部が共通であっても良い。例えば、1つの制御部10で第1電圧パルス発生機構4Aと第2電圧パルス発生機構4Bの動作が制御されても良い。
【0052】
なお、複数のスイッチ8に対して電圧を印加する少なくとも1つの高圧電源9が設けられていれば良い。このようにすれば、複数のスイッチ8に対する高圧電源9の接続数を、実施形態に応じて適宜調整することができる。
【0053】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態について図5から図7を用いて説明する。なお、前述した実施形態に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0054】
図5に示すように、第3実施形態の粒子加速器1Bでは、スイッチング素子が光伝導スイッチ17となっている。さらに、この第3実施形態の電圧パルス発生機構18は、光伝導スイッチ17を動作させるパルスレーザーを出力するレーザー発振器19を備える。このようにすれば、パルスレーザーによりスイッチング素子の開閉の制御を行うことができる。なお、第3実施形態の制御部20は、レーザー発振器19に接続され、パルスレーザーの出力の制御を行う。
【0055】
開状態(OFF)の光伝導スイッチ17にパルスレーザーに励起されると、閉状態(ON)となる。この性質を利用して、光伝導スイッチ17の動作を制御する。なお、レーザー発振器19は、Qスイッチレーザーまたはモード同期レーザーなどで良い。
【0056】
また、第3実施形態では、光伝導スイッチ17が加速電極3に直に接続されている。このようにすれば、電圧パルス発生機構18の構造を簡略化することができる。なお、前述の第1実施形態と同様に、光伝導スイッチ17が電圧パルス伝搬路5(図1)を介して加速電極3に接続されても良い。
【0057】
さらに、電圧パルス発生機構18は、レーザー発振器19から出力されるパルスレーザーが進行し、かつそれぞれの光伝導スイッチ17に向けて分岐された光路21を備える。なお、光路21の分岐は、部分透過ミラーなどを用いて行えば良い。
【0058】
ここで、パルスレーザーが光路21のそれぞれの分岐を進行して光伝導スイッチ17まで到達する時間が、荷電粒子が加速電極3を順次通過するタイミングに応じて調整されている。このようにすれば、光路21の調整により加速電極3に電圧を印加するタイミングを調整することができる。
【0059】
また、電圧パルス発生機構18は、光路21のそれぞれの分岐に対応する光路長を調整可能な光路長調整機構22を備える。ここで、それぞれの光路長の調整により、パルスレーザーが光路21を進行して光伝導スイッチ17まで到達する時間が調整されている。このようにすれば、光路長の調整により、パルスレーザーが、光路21のそれぞれの分岐を進行して光伝導スイッチ17まで到達する時間を調整することができる。
【0060】
例えば、図6に示すように、光路長調整機構22には、光路21の一部を形成する媒質部材として、光の進行を直角に変更する複数のプリズム23,24,25が設けられている。ここで、光路長調整機構22は、固定された2つのプリズム23,24と、その間に配置された可動するプリズム25とで形成する。これらのプリズム23,24,25によって、コ字形の光路21が形成されている。そして、可動するプリズム25が固定されたプリズム23,24から離れる方向に移動すると、光路21の光路長が延びる。一方、可動するプリズム25が固定されたプリズム23,24に近づく方向に移動すると、光路21の光路長が縮む。このようにして、パルスレーザーが光伝導スイッチ17まで到達する時間を調整する。
【0061】
また、図7に示すように、光路長調整機構22には、端面が傾斜された複数のプリズム26,27,28が設けられている。例えば、端面が傾斜された2つのプリズム26,27の間に、三角形のプリズム28が設けられている。ここで、三角形のプリズム28が、他の2つのプリズム26,27に対して、離れる方向または近づく方向に移動すると、光路21の光路長(光路差)が変更される。このようにして、パルスレーザーが光伝導スイッチ17まで到達する時間を調整する。
【0062】
なお、光路長調整機構22の追加または代替として、光路21上にメカニカルな動作をしない単なる媒質部材を設けるようにしても良い。そして、光路21のそれぞれの分岐に対応する媒質部材の屈折率と長さ寸法の少なくとも一方を調整し、パルスレーザーが光路21を進行して光伝導スイッチ17まで到達する時間を調整しても良い。このようにすれば、媒質部材の調整によりパルスレーザーが対応する光路21を進行して光伝導スイッチ17まで到達する時間を調整することができる。なお、媒質部材の材質を適宜変更することで屈折率を変更することができる。例えば、ガラスなどの屈折率が1より大きい媒質部材であれば、光路21を進行するパルスレーザーのディレイ時間(遅延時間)を延ばすことができる。
【0063】
次に動作原理を説明する。前述の第1実施形態と同様に、事前に高圧電源9により、それぞれの光伝導スイッチ17の両端に電位差を持たせておく。このとき、それぞれの加速電極3はグラウンド14に接続されているため、その電位はゼロとなる。その後、ビーム源2から出力された荷電粒子がビームライン6に沿って飛行する。
【0064】
ここで、レーザー発振器19からパルスレーザーが出力されると、最初の加速電極3に接続された光伝導スイッチ17が励起され、光伝導スイッチ17が閉となる。光伝導スイッチ17の両端には、予め高電圧がかかっているため、閉となることでパルス的な高電圧が発生する。この高電圧は、加速電極3に印加される。そして、最初の加速電極3が発生させる電場により荷電粒子が加速される。
【0065】
なお、パルスレーザーにより光伝導スイッチ17が動作するタイミングは、最初の加速電極3に荷電粒子が到達するタイミングで、この加速電極3に電圧がかかるように調整されている。
【0066】
荷電粒子が先の加速電極3を通過すると、先の加速電極3に接続された光伝導スイッチ17が閉となり、この加速電極3に高電圧が印加される。そして、この先の加速電極3と次の加速電極3の間に生じた電場により、荷電粒子が加速される。
【0067】
ここで、先の加速電極3と次の加速電極3をそれぞれ励起するための光路21の光路長(光路差)の調整により、パルスレーザーの進行時間が調整されている。例えば、パルスレーザーがそれぞれの光伝導スイッチ17まで到達する時間の差が、先の加速電極3から次の加速電極3まで荷電粒子が通過する時間と同じになるように調整されている。そのため、次の加速電極3に荷電粒子が到達したタイミングで、この加速電極3に高電圧がかかる。
【0068】
以上の工程を繰り返すことにより、荷電粒子は、複数の加速電極3の間で次々と加速され高エネルギーに達する。
【0069】
第3実施形態では、1つのパルスレーザーで複数の光伝導スイッチ17を動作させるため、それぞれの光伝導スイッチ17の動作タイミングにジッターが発生せず、それぞれの光伝導スイッチ17を荷電粒子の通過に同期させることができる。そして、高エネルギーになるまで加速することが可能となる。
【0070】
なお、光伝導スイッチ17と同じ数のレーザー発振器19が設けられていても良い。例えば、1つの光伝導スイッチ17に対して1つのレーザー発振器19が設けられ、光伝導スイッチ17に対し個々にパルスレーザーが照射されても良い。
【0071】
なお、複数の光伝導スイッチ17に対してパルスレーザーを照射する少なくとも1つのレーザー発振器19が設けられていれば良い。このようにすれば、複数の光伝導スイッチ17に対するレーザー発振器19の設置数を、実施形態に応じて適宜調整することができる。
【0072】
(第4実施形態)
次に、第4実施形態について図8を用いて説明する。なお、前述した実施形態に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0073】
図8に示すように、第4実施形態の粒子加速器1Cの電圧パルス発生機構29では、スイッチング素子が設けられておらず、それぞれの加速電極3が電圧パルス伝搬路5を介して高圧電源9に接続されている。
【0074】
第4実施形態では、それぞれの電圧パルス伝搬路5で電圧が伝搬されるときのディレイ時間が、荷電粒子が加速電極3を順次通過するタイミングに応じて調整されている。このようにすれば、電圧パルス伝搬路5のディレイ時間の調整により加速電極3に電圧を印加するタイミングを調整することができる。
【0075】
例えば、電圧パルス伝搬路5の長さ寸法がそれぞれ異なるように調整されている。そして、高圧電源9からパルス的な高電圧が出力されたときに、それぞれの加速電極3に高電圧が到達するタイミングが異なるように調整されている。
【0076】
なお、スイッチング素子として光伝導スイッチ17(図5)を用いる場合には、光路21を進行するパルスレーザーのディレイ時間の調整(光路長の調整)と、電圧パルス伝搬路5のディレイ時間の調整とを併用しても良い。
【0077】
粒子加速器および粒子加速方法を第1実施形態から第4実施形態に基づいて説明したが、いずれか1の実施形態において適用された構成を他の実施形態に適用しても良いし、各実施形態において適用された構成を組み合わせても良い。
【0078】
前述の実施形態の制御部10,20は、プロセッサおよびメモリなどのハードウェア資源を有し、CPUが各種プログラムを実行することで、ソフトウェアによる情報処理がハードウェア資源を用いて実現されるコンピュータで構成される。さらに、前述の実施形態の粒子加速方法は、各種プログラムをコンピュータに実行させることで実現される。
【0079】
前述の実施形態の制御部10,20は、専用のチップ、FPGA(Field Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)、またはCPU(Central Processing Unit)などのプロセッサを高集積化させた制御装置と、ROM(Read Only Memory)またはRAM(Random Access Memory)などの記憶装置と、HDD(Hard Disk Drive)またはSSD(Solid State Drive)などの外部記憶装置と、ディスプレイなどの表示装置と、マウスまたはキーボードなどの入力装置と、通信インターフェースとを備える。この制御部10,20は、通常のコンピュータを利用したハードウェア構成で実現できる。
【0080】
なお、前述の実施形態の制御部10,20で実行されるプログラムは、ROMなどに予め組み込んで提供される。もしくは、このプログラムは、インストール可能な形式または実行可能な形式のファイルでCD-ROM、CD-R、メモリカード、DVD、フレキシブルディスク(FD)などのコンピュータで読み取り可能な非一過性の記憶媒体に記憶されて提供するようにしても良い。
【0081】
また、この制御部10,20で実行されるプログラムは、インターネットなどのネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせて提供するようにしても良い。また、この制御部10,20は、構成要素の各機能を独立して発揮する別々のモジュールを、ネットワークまたは専用線で相互に接続し、組み合わせて構成することもできる。
【0082】
以上説明した少なくとも1つの実施形態によれば、荷電粒子が先の加速電極を通過して次の加速電極に到達するまでの期間に先の加速電極に印加させる電圧をパルス的に発生させる電圧パルス発生機構を備えることにより、加速器の小型化を図ることができ、かつ粒子を加速する加速勾配を向上させることができる。
【0083】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。これら実施形態またはその変形は、発明の範囲と要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0084】
1(1A,1B,1C)…粒子加速器、2…ビーム源、3…加速電極、4…電圧パルス発生機構、4A…第1電圧パルス発生機構、4B…第2電圧パルス発生機構、5…電圧パルス伝搬路、6…ビームライン、7…開口部、8…スイッチ、9…高圧電源、10…制御部、11…コンデンサ、12…グラウンド、13…信号線、14…グラウンド、15,16…抵抗器、17…光伝導スイッチ、18…電圧パルス発生機構、19…レーザー発振器、20…制御部、21…光路、22…光路長調整機構、23,24,25,26,27,28…プリズム、29…電圧パルス発生機構。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8