(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-20
(45)【発行日】2024-10-01
(54)【発明の名称】制動力制御装置及びこれを備える魚釣用リール
(51)【国際特許分類】
A01K 89/0155 20060101AFI20240924BHJP
A01K 89/015 20060101ALI20240924BHJP
【FI】
A01K89/0155 ZAB
A01K89/015 A
(21)【出願番号】P 2021134999
(22)【出願日】2021-08-20
【審査請求日】2023-08-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000002495
【氏名又は名称】グローブライド株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140822
【氏名又は名称】今村 光広
(72)【発明者】
【氏名】安田 悠
【審査官】大澤 元成
(56)【参考文献】
【文献】実開昭63-023975(JP,U)
【文献】特開2019-126270(JP,A)
【文献】特開2020-080766(JP,A)
【文献】特開2017-175933(JP,A)
【文献】特開2004-208630(JP,A)
【文献】特開2020-188733(JP,A)
【文献】特開平04-197123(JP,A)
【文献】特開2004-208631(JP,A)
【文献】特開2009-159847(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 89/00-89/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リール本体に軸支され、釣糸を巻回可能なスプールと、該スプールの回転速度を検出する回転速度検出部と、該スプールへの制動力を発生させる制動部と、該制動部の制動力を制御する制動力制御部と、を備える制動力制御装置であって、
該制動力制御部は、投擲開始からの経過時間又は前記回転速度検出部の検出情報に応じて制動力を調整する
ものであり、
前記制動力制御部は、投擲の第一の時間の間は時間毎に規定されたブレーキ設定値に基づき制動力を制御し、該投擲の第二の時間の間は前記スプールの回転速度に基づき規定されたブレーキ設定値に基づき制動力を制御するように構成され、
前記投擲の前記第一の時間は、該投擲の加速領域に対応し、前記投擲の前記第二の時間は、該投擲の巡航領域に対応し、前記ブレーキ設定値は、前記スプールに作用する制動力がスプール回転速度に比例して大きくなるような関係式により規定されるものであることを特徴とする制動力制御装置。
【請求項2】
前記投擲の第一の時間のブレーキ設定値と、前記投擲の第二の時間のブレーキ設定値とは、個別に設定・変更可能にされる、請求項
1に記載の制動力制御装置。
【請求項3】
前記制動部は、前記スプールの角速度に比例して増加する制動力を発生させるものであり、前記制動力制御部は、
該スプールの該角速度に対する該制動力の比例係数を変更可能に制御する、請求項1
又は2に記載の制動力制御装置。
【請求項4】
前記制動部は、前記スプールに設けた導電性部材と、前記リール本体に設けた磁力発生部と、該磁力発生部の磁場状態を変化させる磁場調整部と、を備える、請求項1から
3までのいずれか1項に記載の制動力制御装置。
【請求項5】
前記導電性部材は、インダクトロータであり、前記磁力発生部は、永久磁石であり、前記磁場調整部は、モータと減速機である、請求項
4に記載の制動力制御装置。
【請求項6】
前記制動力制御部は、前記導電性部材に働く磁場の強さが前記スプールの回転速度に比例するように制御する、請求項
4又は
5に記載の制動力制御装置。
【請求項7】
前記制動部は、前記スプールに設けられた制動板と、該制動板と接触する磁気粘性流体と、を備え、該制動力制御部は、該磁気粘性流体に作用する磁場を調整する磁場調整部を備える、請求項1から
3までのいずれか1項に記載の制動力制御装置。
【請求項8】
請求項1から
7までのいずれか1項に記載の制動力制御装置を有する魚釣用リール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制動力制御装置、特に、リール本体に回転自在に装着されたスプールを制動する両軸受リールの制動力制御装置、及びこれを備える魚釣用リールに関する。
【背景技術】
【0002】
両軸受リール、特に、釣り糸の先端にルアー等を装着して投擲(キャスティング)するベイトキャスティングリールには、投擲時のバックラッシュを防止するためにスプールを制動する制動装置が設けられている。このような制動装置では、スプールとリール本体との間に発電機構を設け、それを電気的に制御してキャスティング途中の制動力を調整可能な電気制御式の制動装置が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に係る制動装置では、張力と角加速度が比例しているとみなし、角加速度を常時監視しながら、制動装置の短絡または開放を切り替えることで、その角加速度が目標範囲内に留まるようにフィードバック制御を行っている。
【0005】
この方式では、スプールの角加速度を検出する必要がある。スプールの角加速度を検出するには、例えば、2個のフォトセンサ等によってインクリメンタル式エンコーダを構成し、スプールの角度を得た後に、角度を時間で2回微分することにより角加速度を得る方法や、スプールに磁石をリール本体にコイルを設けることで、スプールの回転に比例した逆起電力を検出することで角速度を得た後に、角速度を時間で1回微分することで角加速度を得る方法がある。
【0006】
しかしながら、前者の方式では、角度を2回微分する際に、ノイズの影響を受けやすくなり求められる精度での制御を行うことが難しいという問題があった。また、後者の方式では、スプールに磁石を設ける必要があり、スプールのイナーシャを低減させるには限界があるという問題があった。
【0007】
また、そもそも角加速度を常時監視するフィードバックループを構成するため、条件によっては発振の影響を受けやすく、マイコンの計算負荷が高くなってしまうという問題もあった。
【0008】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、加速度を監視することなく、バックラッシュ防止と飛距離向上を両立させることができる制動力制御装置及びこれを備える魚釣用リールを提供することにある。本発明のこれら以外の目的は、本明細書全体を参照することにより明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一実施形態に係る制動力制御装置は、リール本体に軸支され、釣糸を巻回可能なスプールと、該スプールの回転速度を検出する回転速度検出部と、該スプールへの制動力を発生させる制動部と、該制動部の制動力を制御する制動力制御部と、を備える制動力制御装置であって、該制動力制御部は、投擲開始からの経過時間又は前記回転速度検出部の検出情報に応じて制動力を調整するように構成される。
【0010】
本発明の一実施形態に係る制動力制御装置において、前記制動力制御部は、投擲の第一の時間の間は時間毎に規定されたブレーキ設定値に基づき制動力を制御し、該投擲の第二の時間の間は前記スプールの回転速度に基づき規定されたブレーキ設定値に基づき制動力を制御するように構成される。
【0011】
本発明の一実施形態に係る制動力制御装置において、前記投擲の第一の時間のブレーキ設定値と、前記投擲の第二の時間のブレーキ設定値とは、個別に設定・変更可能にされる。
【0012】
本発明の一実施形態に係る制動力制御装置において、前記制動部は、前記スプールの角速度に比例して増加する制動力を発生させるものであり、前記制動力制御部は、その比例係数を変更可能に制御するように構成される。
【0013】
本発明の一実施形態に係る制動力制御装置は、前記制動部は、前記スプールに設けた導電性部材と、前記リール本体に設けた磁力発生部と、該磁力発生部の磁場状態を変化させる磁場調整部と、を備えるように構成される。
【0014】
本発明の一実施形態に係る制動力制御装置において、前記導電性部材は、インダクトロータであり、前記磁力発生部は、永久磁石であり、前記磁場調整部は、モータと減速機である。
【0015】
本発明の一実施形態に係る制動力制御装置において、前記制動力制御部は、前記導電性部材に働く磁場の強さが前記スプールの回転速度に比例するように制御する。
【0016】
本発明の一実施形態に係る制動力制御装置において、前記制動部は、前記スプールに設けられた制動板と、該制動板と接触する磁気粘性流体と、を備え、該制動力制御部は、該磁気粘性流体に作用する磁場を調整する磁場調整部を備えるように構成される。
【0017】
本発明の一実施形態に係る魚釣用リールは、上記いずれかの制動力制御装置を有するように構成される。
【発明の効果】
【0018】
上記実施形態によれば、加速度を監視することなく、バックラッシュ防止と飛距離向上を両立させることができる制動力制御装置及びこれを備える魚釣用リールを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】魚釣用リールを用いてルアー等の漁具を投擲し回収する手順の一例を示す図である。
【
図2】魚釣用リールを用いてルアー等の漁具を投擲し回収する際のスプール回転速度の推移を示す図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る制動力制御装置を有する魚釣用リールの構成を説明する図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る制動力制御装置を有する魚釣用リールの構成を説明する図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る制動力制御装置を有する魚釣用リールの構成を説明する図である。
【
図6】本発明の一実施形態に係る制動力制御装置によるスプール回転速度と制動トルクとの関係を説明する図である。
【
図7】本発明の一実施形態に係る制動力制御装置による経過時間とブレーキ設定値との関係を説明する図である。
【
図8】本発明の一実施形態に係る制動力制御装置による制御方法のフローチャートを説明する図である。
【
図9】本発明の一実施形態に係る制動力制御装置による経過時間とスプール回転速度等との関係を説明する図である。
【
図10】本発明の一実施形態に係る制動力制御装置によるスプール回転速度変化とブレーキ設定値との関係を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る制動力制御装置及びこれを備える魚釣用リールの実施形態について、添付図面を参照しながら具体的に説明する。複数の図面において共通する構素には当該複数の図面を通じて同一の参照符号が付されている。各図面は、説明の便宜上、必ずしも正確な縮尺で記載されているとは限らない点に留意されたい。
【0021】
まず、本リールを含む一般的な魚釣用リール1を用いて、ルアー等の漁具を投擲し、回収する手順の一例について、
図1、
図2を参照しながら説明する。まず、
図1(a)に示すように、ルアー7を釣竿10の竿先から所定の長さに調整し、クラッチをオフにし、スプールフリー状態にする。このとき、釣糸がルアーの自重等により出ていくことの無いよう、魚釣用リール1のスプール3を親指で押さえておく。
【0022】
次に、
図1(b)~(d)に示すように、釣竿10を振ることで、ルアー7に初速を与える。そして、
図1(e)に示すように、ルアー7の速度及び放出方向が適正になったタイミングで、親指をスプール3から離すと、ルアー7を投擲することができる。
【0023】
さらに、投擲後、
図1(g)以降、ルアー7は釣糸からの張力や、空気抵抗を受けることで減速を始める。他方、スプール3は、釣糸からの張力によって回転を始める。釣糸の放出速度とルアー7の飛行速度が一致するとスプール3は最高回転数となり、釣糸は張力を失う。ルアー7はその後も空気抵抗等により失速を続ける。この際、スプール3が慣性により高速回転を続けると、釣糸の放出速度がルアー7の飛行速度を上回る。これにより、釣糸は余分に放出され、魚釣用リール1内で糸がらみが生じる。これを避けるために、スプール3には制動装置により所定の制動力を掛けるようにすることができる。
【0024】
図2にスプール速度の時間変化を示す。横軸は、スプール回転開始からの経過時間、縦軸にスプールの回転数を示す。
図2に示すように、スプール3は投擲開始と共に急激に増速し、最高速度に達する。回転数の最高速度は投擲するルアー7の種類や狙いとなる距離、スプールに巻かれた糸の径の違い等によって6000rpmから40000rpm程度であり、最高速度に達するまでの時間は70msから150ms程度である。本発明の一実施形態では、この領域を加速領域と呼ぶことにする。
【0025】
その後、糸長が十分に放出されるとルアー7は釣竿10の動作の影響を受けなくなり、空気抵抗の影響が支配的になり、ルアー速度は漸減する。本発明の一実施形態では、この領域を巡航領域と呼ぶこととする。加速領域と巡航領域の境界は、スプール回転開始から100msから400ms程度の時間の経過後となることが多い。その後、ルアー7の高度が十分下がると着水し、ルアー速度は急減速する。本発明の一実施形態では、この領域を着水領域と呼ぶことにする。
【0026】
各領域において、制動装置による制動力が大きすぎると、ルアー7を投擲できる距離が短くなってしまう。他方で、制動装置による制動力が小さすぎると、糸がらみが発生し、巻き取りや放出が正常に行うことが難しくなってしまう。制動力の適正値は、ルアー7の質量や空気抵抗によって変化し得る。さらに、当該制動力の適正値は、釣竿10の長さ、投擲方法や風などの自然環境等、様々な影響によって変化し得る。
【0027】
次に、
図3から5を参照して、本発明の一実施形態に係る制動力制御装置100を取付けた魚釣用リール1の部品構成を説明する。
図3は、本発明の一実施形態に係る制動力制御装置100の構成を示すシステム図である。
図4は、本発明の一実施形態に係る制動力制御装置100の部品構成を示す分解斜視図である。
図5は、組み立て後の本発明の一実施形態に係る制動力制御装置100の断面図である。
【0028】
本発明の一実施形態に係る魚釣用リール1は、リール本体を構成するフレーム2と、スプール3と、被制動部材(インダクトロータ)4と、軸受け11と、反射板12と、固定磁石5と、回転磁石6と、セットプレート13と、ロック部材14と、中蓋15と、モータ16と、減速ギヤ17と、電池18と、基板19と、外蓋21とで構成される。なお、説明の簡略化のため、リール本体は公知の一部機能を省略している。
【0029】
スプール3は、概略円筒状に構成され、正回転させると外周に釣糸を巻き取ることがで
きる。スプール3を回転支持する一対の軸受け11は、一方がフレーム(リール本体)2
に固定され、他方がセットプレート13に固定される。
【0030】
ここで、フレーム(リール本体)2は、釣竿に取り付け可能であり、魚釣用リール1は、従来の魚釣り用リールと同様、図示しない操作手段(ハンドル)を有し、ユーザの操作によってスプール3を正方向回転させると、釣糸を巻き取ることができる。ハンドル(図示しない)の回転は、ギヤ等の伝達手段によってスプール3に伝達される。魚釣用リール1は、クラッチ手段(図示しない)を有し、ユーザはクラッチ手段を操作することで、スプール3への動力伝達の接続・解放を選択することができる。接続状態では操作手段による巻き取りが可能である。開放状態ではスプール3を正逆方向に自由に回転させることができ、釣糸は放出可能となる。
【0031】
また、魚釣用リール1は、所定値以上のトルクが働いた際にスプール3を空転させることで釣糸の破断を防止するドラグ手段や、ハンドルの逆転を防止する逆転防止手段を備えてもよい。さらに、スプール3の回転に応じて釣糸を案内する案内部の位置を往復運動させることで、釣糸を均等に巻き取るオシレータ装置を設けてもよい。
【0032】
セットプレート13は、フレーム2に固定可能である。本発明の一実施形態では、ロック部材に設けた複数本の爪を回転させることで、フレーム2に設けた保持部に係止する、バヨネット構造をとることで、スプール3やセットプレート13をフレーム2から着脱可能としているが、ビス止めや接着等の方法により固定しても構わない。
【0033】
セットプレート13をフレーム2に固定することで、スプール3は回転可能に軸支され
る。また、セットプレート13に固定磁石5および回転磁石6を保持することで、後述の
制動力発生部(制動力発生手段)20を構成する。また、セットプレート13と中蓋15
と外蓋21とを一体のものとすることで、サイドプレートユニットを構成し得る。中蓋1
5と外蓋21によって水密室を構成し、内部に基板19、電池18、モータ16、センサ
等の電気部品を収納している。
【0034】
次に、主に
図3を参照して、制動力の発生原理と、制動力の調整方法について説明する。なお、本発明の一実施形態では、渦電流によって制動トルクをスプールに付与する方式を用いて説明するが、当該方式以外にも様々な方式が考えられる。スプール3には、アルミニウムや銅などの非磁性導体からなる環状回転体状の被制動部(インダクトロータ)4が取付けられる。インダクトロータ4の外周側には、円筒形状の回転磁石6が配置され、内周側には、円筒状の固定磁石5が配置される。
【0035】
固定磁石5は、外周部がN等分されN極S極交互に着磁される。また、回転磁石6は、内周部がN等分されN極S極交互に着磁される。固定磁石5と回転磁石6によって作られた磁場は、その間に位置するインダクトロータ4(渦電流発生板ともいう)を貫通する。したがって、スプールの回転時には、インダクトロータ4に渦電流が発生し、回転速度に応じた制動トルクが働く。制動トルクの大きさは、磁場の強さおよび回転速度に比例する。
【0036】
これにより、本発明の一実施形態の制動力発生部(制動力発生手段)20を実現している。なお、遠心力とばね力との釣り合いによりインダクトロータ4を軸方向に移動可能とすることで、磁石とインダクトロータの対向面積を変え、回転速度と制動力の関係を調整するような機構を用いてもよい。
【0037】
回転磁石6は、回転磁石ホルダ22に固定され、セットプレート13に対して回転可能に支持される。回転磁石ホルダ22は、ギヤ部を有し、モータから減速ギヤ17を介して力の伝達を受ける。位置センサ24は、回転磁石6の位置に応じた電圧信号を制御部に伝えることができる。本発明の一実施形態では、ギヤ部を構成するギヤの一部の角度位置をボリュームで検知することによってそれを実現しているが、回転磁石6の角度を磁気センサで検知する等公知の他の手段を用いてもよい。
【0038】
また、クラッチ手段の状態を検出するクラッチ状態検出部(クラッチ状態検出手段)31を設け、クラッチが接続状態から解放状態に切り替わった際にキャスト準備をしたと見做している。モータドライバ25は、モータ16に所定の電力を供給し、モータ16を回転させる。制動力制御部(制動力制御手段)30は、位置センサ24からの信号に基づき、モータドライバ25によってモータ16を正逆回転させることで、回転磁石6を所定の位置にフィードバック制御する。このようにして、被制動部4に働く磁場を所定の大きさに設定することができる。
【0039】
被制動部材4に働く磁場は、回転磁石6と固定磁石5が同極同士で対向した際に最小となり、異極同士で対向した際に最大となる。回転磁石6を、同極対向から異極対向へと回転させていくと、被制動部材4に働く磁場は、概ね角度移動量に比例して増大する。
【0040】
以下では、同極対向状態をブレーキ設定値1、異極対向状態をブレーキ設定値20と定義する。従ってスプール3に働く制動トルクは、概ねブレーキ設定値に比例して大きくなる。スプール3に働く制動トルクとスプール3の速度、ブレーキ設定値の関係を
図6に示す。図示のように、制動トルクが、スプール回転速度およびブレーキ設定値に比例して増加することが判る。制動力制御部30は、モータ16によって回転磁石を所定の位置に移動させることで、スプール3に所望の制動力を付与することができる。
【0041】
次に、スプール3の回転速度を検出する回転速度検出手段(
図3に示す例では、スプール回転センサ26)について説明する。本発明の一実施形態では、スプールが1回転するたびに所定回数のパルス信号を出力する、公知のインクリメンタル式ロータリーエンコーダを用いて回転速度を検知している。すなわち、スプールに取付けた反射板12をN等分し、その面を交互に明暗に塗り分け、反射率を変えている。明部は、金属面や白色塗装を行なう。暗部は、黒色塗装など、反射率の低い表面処理を施す。
【0042】
反射板12と対向する位置に、2つの反射式フォトセンサを配置することで、それぞれのフォトセンサと対向する面の明暗を検出することができる。これにより、スプール3の回転を検出することができる。本発明の一実施形態では、反射板12の明暗間隔を180°として、2つのフォトセンサを90°離して配置している。これにより、スプール3が1回転するたびに4パルスの信号を出力している。
【0043】
インクリメンタル式ロータリーエンコーダとしては、上述のように反射式のフォトセンサを使う以外にも、透過式のフォトセンサや、磁気センサを用いても同様の効果が実現できる。スプールの回転量は、当該ロータリーエンコーダのパルス数に基づき算出することができる。また、時間あたりのパルス数変化を算出することで、スプールの回転速度を検出することができる。なお、回転速度検出手段としては、この方法に限らず、従来公知の他の手段を用いることができる。また、上述のように、スプールに接触しない非接触式の回転速度検出手段を用いることで、スプールに無駄な摩擦抵抗を生じさせることを避けることができる。
【0044】
本発明の一実施形態に係る制動力制御装置は、リール本体に軸支され、釣糸を巻回可能なスプールと、該スプールの回転速度を検出する回転速度検出部と、該スプールへの制動力を発生させる制動部と、該制動部の制動力を制御する制動力制御部と、を備える制動力制御装置であって、該制動力制御部は、投擲開始からの経過時間又は前記回転速度検出部の検出情報に応じて制動力を調整するように構成される。
【0045】
本発明の一実施形態に係る制動力制御装置によれば、加速度を監視することなく、バックラッシュ防止と飛距離向上を両立させることができる制動力制御装置を提供することが可能となる。特に、本発明の一実施形態に係る制動力制御装置では、加速度や張力を算出する必要がないため、速度検出時に発生するノイズに強く、ブレーキ速度によってブレーキ設定値を決めるフィードフォワード制御のため、発振せずまた計算負荷を低減することができる。
【0046】
本発明の一実施形態に係る制動力制御装置において、前記制動力制御部は、投擲の第一の時間の間は時間毎に規定されたブレーキ設定値に基づき制動力を制御し、該投擲の第二の時間の間は前記スプールの回転速度に基づき規定されたブレーキ設定値に基づき制動力を制御するように構成される。このようにすることで、加速度変化の大きい第一の時間においても、速度が漸減する第二の時間においても、それぞれ加速度を求める必要なく適切な制動力を働かせることが可能となる。
【0047】
本発明の一実施形態に係る制動力制御装置において、前記投擲の第一の時間のブレーキ設定値と、前記投擲の第二の時間のブレーキ設定値とは、個別に設定・変更可能にされる。このようにすることで、制動トルクの最適値が釣竿の振り方等などの個人差の大きい要因によって左右される第一の時間と、空気抵抗等の個人差の少ない要因によって左右される第二の時間とで、別々に制動力を設定することができる。これにより、容易に制動力を最適化することが可能となる。
【0048】
本発明の一実施形態に係る制動力制御装置において、前記制動部は、前記スプールの角速度に比例して増加する制動力を発生させるものであり、前記制動力制御部は、その比例係数を変更可能に制御するように構成される。ここで、「比例」とは、数学的に比例する場合だけでなく、比例と同視できる場合(略比例)を含むものとする。また、略比例とは、スプールの角速度をω、制動力設定値をBとした場合、Bとωの関係をB=kωnとして最小二乗法などで近似した際に、nの値が1付近、たとえば0.5~1.5の範囲にある場合をいうものとする。このようにして、ルアー等の投擲物の速度変化とスプールの速度変化を概ね一致させることができるため、フィードフォワード制御による制動力の最適化が可能となる。
【0049】
本発明の一実施形態に係る制動力制御装置は、前記制動部は、前記スプールに設けた導電性部材と、前記リール本体に設けた磁力発生部と、該磁力発生部の磁場状態を変化させる磁場調整部と、を備えるように構成される。
【0050】
本発明の一実施形態に係る制動力制御装置において、前記導電性部材は、インダクトロータであり、前記磁力発生部は、永久磁石であり、前記磁場調整部は、モータと減速機である。
【0051】
本発明の一実施形態に係る制動力制御装置において、前記制動力制御部は、前記導電性部材に働く磁場の強さが前記スプールの回転速度に比例するように制御する。
【0052】
本発明の一実施形態に係る制動力制御装置において、前記制動部は、前記スプールに設けられた制動板と、該制動板と接触する磁気粘性流体と、を備え、該制動力制御部は、該磁気粘性流体に作用する磁場を調整する磁場調整部を備えるように構成される。
【0053】
本発明の一実施形態に係る魚釣用リールは、上記いずれかの制動力制御装置を有するように構成される。このようにして、本発明の一実施形態に係る魚釣用リールにより、加速度を監視することなく、バックラッシュ防止と飛距離向上を両立させることができる制動力制御装置を備える魚釣用リールを提供することが可能となる。特に、本発明の一実施形態に係る制動力制御装置では、加速度や張力を算出する必要がないため、速度検出時に発生するノイズに強く、ブレーキ速度によってブレーキ設定値を決めるフィードフォワード制御のため、発振せずまた計算負荷を低減することができる。
【0054】
一般にフィードバック制御は、フィードフォワード制御に比べて外乱に強い、最適設定を出しやすいといったメリットがある。フィードバック制御を用いる従来の制動力制御装置は、上述のように角加速度が監視対象として用いられる。しかしながら、角加速度を得る精度や応答速度には限界があり、特に、ルアー等の投擲物の重量は数gオーダーになることが多いため、角加速度は数g重に相当する精度が必要となる。従って、角加速度を監視対象としたフィードバック制御では、角加速度を求める精度や応答性が不足すると、制動力の最適設定を出しにくかったり、発振の影響を受ける及び計算負荷が大きくなるというデメリットがある。本発明の一実施形態においては、上述のようにすることで、投擲時に必要な制動力をあらかじめ把握した上で制動装置の特性を決定することができる。これにより、フィードバックを用いる必要がなくなるため、発振の影響を回避しかつ計算負荷を低減することができるという技術的効果を奏する。
【0055】
次に、本発明の一実施形態に係る制動力制御装置による制御方法を、
図7から9を参照してより詳細に説明する。
図7は、ユーザが設定する制動力の設定値の一例である。図中の左側では加速領域におけるブレーキ設定値を、右側では巡航領域におけるブレーキ設定値を設定している。
【0056】
本発明の一実施形態において、加速領域では、投擲開始からの経過時間に応じてブレー
キ設定値を決める。P1は投擲開始時のブレーキ設定値B1に設定したことを表し、P2はt1
経過後にブレーキ設定値B2に変更したことを表す。巡航領域では、スプールの回転速度に
応じてブレーキ設定値を決める。P3は、スプール回転速度が最高速の時のブレーキ設定
値B3に設定したことを表し、P4は、スプール回転数が最高速のX%以下のときのブレーキ設定値B4に設定したことを表す。本実施例では、P3とP4の間(スプール速度が最高速のX%~100%の間)のブレーキ設定値は、ブレーキ設定値B3~B4の間で線型的に変化するように設定している。
【0057】
次に、
図8は、本発明の一実施形態に係る制動力制御装置による制御方法を説明するためのフローチャートである。本発明の一実施形態に係る制動力制御装置100は、投擲(キャスト)準備を検知する(ステップF1)と、ブレーキ設定値を初期状態へ変更する(ステップF2)。本発明の一実施形態では、クラッチ手段の状態を検出するクラッチ状態検出部(クラッチ状態検出手段)31を設け、クラッチが接続状態から解放状態に切り替わった際にキャスト準備をしたと見做している。
【0058】
その他のキャスト準備の検出方法としては、スプールが停止した状態から釣糸の繰出し
方向への回転を開始した場合や、釣竿が特定の方向を向くなどの所定の姿勢となっている
場合、又は前記リール1の所定方向の角速度が設定閾値以上となる場合などによっても、
投擲(キャスト)準備を検出することができる。ブレーキ
設定値の初期状態は、
図7にお
ける点1の設定値B1を用いる。
【0059】
スプール回転センサ26によって得られたスプールの回転速度が所定値を超えることを検出したら、投擲(キャスト)が開始したと見做す(ステップF3)。この時にタイマーを0に初期化する(ステップF4)。投擲(キャスト)開始からの経過時間tが所定値T1未満の場合は(ステップF5)、加速領域にあると見做す。この領域では、ブレーキ設定値はスプール速度に関わらず、時間によって変化させる(ステップF6)。この時のブレーキ設定値は、
図7の加速領域上の曲線P1-P2-P3で表す関数によって決定できる。
【0060】
投擲(キャスト)開始からの経過時間tが所定値T1以上となると、制御装置は巡航状態に遷移したとみなす。所定値T1は、例えば、200から500msの範囲である。この状態では、速度変化に応じてブレーキ設定値を変更する。この領域では、タイマーが所定時間Δt経過する毎に(ステップF7)、スプールの回転速度を取得する(ステップF8)。それに応じて、制御回路は
図7の巡航領域上の曲線P3-P4で示す関数によって決定する設定に基づき、目標となるブレーキ設定値を算出し、モータを駆動して回転磁石を所定の位置に移動させる(ステップF9)。スプール回転速度が所定値以下(
図8に示す例では、速度0であるか否か)になったら(ステップF10)、投擲が終了したと見做し、次の投擲(キャスト)開始まで待機をする(ステップF11)。
【0061】
図9は、キャスト結果の一例であり、横軸にキャスト開始からの経過時間を示す。縦軸にはスプールの回転速度変化、ブレーキ設定値の変化、スプールに働く制動トルクの変化をそれぞれ示す。中央に図示のように、加速領域では、ブレーキ設定値を経過時間に応じて変更している。また、同様に、巡航領域においては、ブレーキ設定値はスプール回転速度の減少と共に低下させている。その結果、下部に図示のように、キャスト後半の制動トルクが小さくなり、飛距離向上に効果がある。この巡航領域の後半では、上部に図示のように、スプール回転速度及びルアー速度も低下しており、スプールに巻かれた糸の径も小さくなっているため、制動トルクを小さくしてもバックラッシュが発生することは少ない。
【0062】
以上のように、加速領域における制動トルクと、スプール速度漸減中の制動トルクを独立して設定することができる。これにより、釣糸のバックラッシュ防止とルアーの投擲距離向上を両立させることができる。
【0063】
投擲(キャスト)直後のスプール増速中は、釣糸が常時スプールを引っ張っているため、糸フケは発生せず、バックラッシュが起こることはないため、制動をかける必要は無い。最もバックラッシュが発生しやすいのは、スプールが最高速度に達した後、減速に転じた直後であり、これを防止するためにスプールにはこのタイミングで適切な制動をかける必要がある。この時の制動トルクの最適値は、使用している釣竿の特性(長さ、硬さ、密度等)や釣竿の振り方、キャスト前のルアーの垂らし長さ、ルアー重量、ルアー軌跡によって変化する。したがって、個人差が大きい。本発明の一実施形態では、この領域においてブレーキ設定値を時間毎に規定することができる。これにより、制動を加える必要のない時間での制動力を小さくして、制動をかける必要のある時間での制動力を十分大きくすることが、容易に行なえる。
【0064】
巡航中では、ルアーは徐々に減速をする。減速の理由は、主にルアーや釣糸に働く空気抵抗力である。ほとんどの場合、投擲中の空気抵抗は乱流域となり、ルアー速度の二乗および前方投影面積に比例する。またその比例係数は、ルアーの形状に大きく依存する。釣糸の張力が十分小さい場合、空気抵抗力は、ルアー重量にルアーの減速度を乗じたものとなるため、ルアーの減速度(速度変化)はルアー速度の二乗に比例する。スプールの回転速度を、ルアーの速度変化と同等程度に(若干大きく)減速させることで、釣糸が常にスプールを引っ張る状態を継続させることができる。すなわち、糸フケの発生を防止させ、バックラッシュの発生を防止することができる。
【0065】
従って、ルアー速度漸減中は、スプールにはルアー形状やルアー重量に応じた制動をかければ良い。この時の制動力の最適値は、使用している竿の特性や、竿の振り方にはそれほど依存しないため、個人差や竿による差は少ない。本発明の一実施形態では、この領域においてブレーキ設定値をスプールの回転速度に基づいて規定することができる。これにより、ルアーの速度変化とスプールの速度変化をおおむね一致させることが容易となり、ブレーキの最適化が容易に行える。
【0066】
本発明の一実施形態に係る制動力制御装置100によれば、キャスト初期の制動トルクと、巡航中の制動トルクを独立して設定することができる。これにより、それぞれの条件において制動条件の最適化が行なえ、釣糸のバックラッシュ防止とルアーの投擲距離向上を両立させることができる。例えば、ルアーを変更した際は加速領域の設定のみを変更し、風向きなどの気象条件が変更した際は巡航領域の設定のみを変更するなど、状況に応じた設定変更が可能となる。
【0067】
また、本発明の一実施形態では、
図7に示すように、スプール回転速度に比例させてブレーキ設定値を下げている。スプール制動トルクは、
図6に示すように、概ねブレーキ設定値およびスプール回転速度と比例関係にある。また、本実施例では、
図7に示すように、ブレーキ設定値はスプール回転速度に比例して大きくしている。従って、本発明の一実施形態において、スプール制動トルクはおおむねスプール回転速度の二乗に比例して大きくなる。上述のようにルアーへの空気抵抗がルアー速度の二乗に比例して大きくなる場合は、このように設定することでスプールの減速とルアーの減速を同期させることができ、制動条件の最適化が行い易い。
【0068】
また、スプールに巻き取られる釣糸の巻き取り半径は、スプールの回転回数に応じて減じていく。スプールから釣糸の放出される速度vは、スプールの回転速度ωに釣糸の巻き取り半径rを乗じたものとなる。したがって、糸が放出されていくことで半径rが小さくなると、釣糸の速度変化Δvに対して、回転速度変化Δωは比較的小さくなる。すなわち、遠方に飛んだ時は、手前にいるときよりも必要制動力は小さくなる。スプールの幅が狭いときや、釣糸の径が太いときなど、釣糸の巻き取り半径の変化量が大きくなる条件では、この影響が強い。この影響を補正するために、スプール回転数に応じてブレーキ設定値を変更してもよい。
【0069】
なお、ルアーの形状や飛行速度によっては、空気抵抗がルアー
速度の二乗に比例して大きくならないこともある。さらに、ルアーの飛行軌跡によって、重力による増減速の影響を受けるため、必ずしも
図7のようにスプール回転速度に比例させてブレーキ設定値を下げるのが最適とは限らない。そのような条件では、
図10(A)、(B)に示すように、ブレーキ設定値がスプール回転速度変化に対して、上に凸になるような曲線や、下に凸になるような曲線で変化させることで、スプール回転速度と制
動トルクの関係を調整することができる。このようにして、巡航中のルアーに、任意の制動トルクを掛けることができる。
【0070】
ユーザが本発明の一実施形態に係る制動力制御装置100のブレーキ設定を変更する状況としては、ユーザが少しでも投擲距離を伸ばすために、時間をかけて設定の最適条件を探すケースと、魚釣りに集中するために、設定変更に要する手間をなるべく少なくしたいケースがある。
【0071】
本発明の一実施形態では、ブレーキ設定の条件のパラメータが複数存在するため、リール本体でそれぞれの値を設定するのが難しくなることがある。そのため、上記の各パラメータ(例えば、
図7におけるP1からP4のブレーキ設定値)を変更するためには、スマートフォン等の外部情報機器によって設定値を作り、それを制御装置に送信する方法が有効である。これにより、各設定値を独立して設定可能である。
【0072】
設定変更に要する手間を少なくしたい時は、外部機器を利用せずに魚釣り用リールのみで設定できるようにすることが望ましいが、魚釣り用リール本体は、外部情報機器に比べ、操作手段を設けられるスペースに制約を受けることが多い。この場合は、魚釣り用リールによる操作により、上記パラメータの一部を変更可能とするのが有効である。例えば、
図7の例では、ブレーキ設定値B2=B3として、魚釣り用リールからはブレーキ設定値B2の値のみを調整可能とする。すると、ブレーキ設定値B2が変更されることで、ブレーキ設定値B3も変更される。これにより、設定変更に要する手間を少なくしながら、大まかな調整が可能となる。
【0073】
本発明の一実施形態に係る制動力制御装置100では、スプールに設けた被制動部材に渦電流を発生させることで制動力を得る制動装置を利用しており、制動トルクは上述のようにスプールの回転速度におおむね比例する。巡航中のルアーの減速は、上述のように概ね速度の二乗に比例した空気抵抗力を受ける。従って、ブレーキ設定値を、スプール速度に比例させて小さくさせていくことで、概ねスプールに働く制動力とルアーに働く空気抵抗を同期させることができる。 また、渦電流式ブレーキでは、制動トルクはスプール角速度に比例するため、ブレーキ設定値を変更しない場合でも、最適な制動トルクから大きく外れることはない。従って、ブレーキ設定値を変更する頻度を少なくしても最適な制動トルクから外れることはなく、計算負荷を減らすことができるという技術的効果が得られる。
【0074】
制動トルクがスプール回転速度に概ね比例する制動装置としては、上述のような渦電流式の制動装置以外に、流体の粘性抵抗を利用した制動装置がある。流体の粘性抵抗を制御する方法としては、例えば磁場の強さによって粘度を制御できるMR流体を用いた、MR流体式制動装置があり、これを用いても本発明の一実施形態と同様の効果を奏する。
【0075】
渦電流式の制動装置の他の効果として、省電力効果とフェイルセーフ効果が挙げられる。本発明の一実施形態における渦電流式では、被制動部材に対して永久磁石によって磁場を働かせている。これにより、制御装置への通電を切った場合でも、スプールに制動トルクを付与することができる。従って、投擲(キャスト)中に制御装置が異常停止した場合でもスプールのバックラッシュを抑制することが可能であり、フェイルセーフを実現している。
【0076】
また、ブレーキ設定値を変更したい場合のみに制御装置がモータに通電をすればよいため、省電力を実現することができる。さらに、渦電流式の制動装置を用いているため、スプール制動トルクは常時スプール速度に比例する。すなわち、回転磁石を移動させない場合でも、スプール速度が低下すれば、それに伴い制動トルクは低下する。そのため、ブレーキ設定値を変更する時間Δtを変えても、スプールに働く制動力の時間変化は大きく変わらない。従って、時間Δtを比較的大きく設定することができ、モータの消費電力低減や、マイコンの計算負荷抑制を実現することができる。
【0077】
上述のように、本発明の一実施形態に係る制動力制御装置では、スプールの加速度を求める必要が無い。本発明の一実施形態に係る制動力制御装置では、上述のように、インクリメンタル式エンコーダを用いてスプールの回転速度を求め、その値に応じてブレーキ設定値を決定している。なお、スプールの回転速度を微分することで、すなわち所定時間内のスプールの回転速度変化量を算出することで、スプールの加速度を得ることもできる。
【0078】
しかしながら、インクリメンタル式エンコーダは離散的データとなり、さらに各種演算を行なう際の処理時間が必要なため、制御装置がスプールの回転速度を得る時間間隔も離散的になる。したがって、回転速度の微分値はノイズの影響を受けやすい。それを避けるために平滑化フィルタ処理を施すと、時間遅れが生じる。すなわち、時間遅れなくノイズの少ない加速度を得るのは一般的に困難であり、マイコンへの計算負荷も大きくなる。そこで、本発明の一実施形態に係る制動力制御装置によれば、スプールの加速度を求めることなくスプールへの制動トルクを決定しているため、マイコンへの計算負荷の大きくなることを避けることができる。
【0079】
本明細書で説明された各構成要素の寸法、材料、及び配置は、実施形態中で明示的に説明されたものに限定されず、この各構成要素は、本発明の範囲に含まれうる任意の寸法、材料、及び配置を有するように変形することができる。また、本明細書において明示的に説明していない構成要素を、説明した実施形態に付加することもできるし、各実施形態において説明した構成要素の一部を省略することもできる。
【符号の説明】
【0080】
1 魚釣用リール
2 フレーム
3 スプール
4 被制動部材(インダクトロータ)
5 固定磁石
6 回転磁石
7 ルアー
10 釣竿
11 軸受け
12 反射板
13 セットプレート
14 ロック部材
15 中蓋
16 モータ
18 電池
19 基板
20 制動力発生部(制動力発生手段)
21 外蓋
22 回転磁石ホルダ
23 減速ギヤ
24 位置センサ
25 モータドライバ
26 スプール回転センサ
30 制動力制御部
31 投擲準備検知部(投擲準備検知手段)