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特許7558927低反射フィルム、及びこれを用いた光学センシングキット、並びに低反射成形体
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  • 特許-低反射フィルム、及びこれを用いた光学センシングキット、並びに低反射成形体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-20
(45)【発行日】2024-10-01
(54)【発明の名称】低反射フィルム、及びこれを用いた光学センシングキット、並びに低反射成形体
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/02 20060101AFI20240924BHJP
   B32B 7/023 20190101ALI20240924BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20240924BHJP
   G02B 1/111 20150101ALI20240924BHJP
   G02B 5/00 20060101ALI20240924BHJP
【FI】
G02B5/02 C
B32B7/023
B32B27/20 Z
G02B1/111
G02B5/00 B
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021508931
(86)(22)【出願日】2020-03-06
(86)【国際出願番号】 JP2020009573
(87)【国際公開番号】W WO2020195693
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2023-02-27
(31)【優先権主張番号】P 2019063509
(32)【優先日】2019-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000125978
【氏名又は名称】株式会社きもと
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100118991
【弁理士】
【氏名又は名称】岡野 聡二郎
(72)【発明者】
【氏名】野澤 和洋
(72)【発明者】
【氏名】長濱 豪士
(72)【発明者】
【氏名】富澤 秀造
【審査官】森内 正明
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-268105(JP,A)
【文献】特表2010-534342(JP,A)
【文献】特開2018-4844(JP,A)
【文献】特開2018-46040(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 7/023
B32B 27/20
C09J 7/20
C09J 7/38
C09J 201/00
G02B 1/10 - 1/18
G02B 5/00 - 5/136
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一樹脂層を少なくとも備え、
前記第一樹脂層は、バインダー樹脂、及び2~14μmの平均粒子径D50を有する有機樹脂粒子を少なくとも含有し、
前記第一樹脂層側の表面の反射率及び光沢度が、以下の関係;
(1)70度正反射率 :0.0%以上2.5%以下(波長550nm)
(2)60度鏡面光沢度:0.0%以上6.0%以下
75度鏡面光沢度:0.0%以上6.0%以下
85度鏡面光沢度:0.0%以上6.0%以下
(3)20°鏡面光沢度、45°鏡面光沢度、60°鏡面光沢度、75°鏡面光沢度、及び85°鏡面光沢度の合計が7.5%以下
を満たし、
前記第一樹脂層の膜厚Tが、前記第一樹脂層に含まれる前記有機樹脂粒子の平均粒子径D 50 に対して、0.5~2.4倍又は3.0~8.0倍であることを特徴とする、
低反射フィルム。
【請求項2】
前記有機樹脂粒子は、5~14μmの平均粒子径D50を有する
請求項1に記載の低反射フィルム。
【請求項3】
前記バインダー樹脂の総質量に対する前記有機樹脂粒子の含有割合が0.6~2.5である
請求項1又は2に記載の低反射フィルム。
【請求項4】
0.5以上の光学濃度を有する
請求項1~3のいずれか一項に記載の低反射フィルム。
【請求項5】
前記第一樹脂層は、カーボンブラックをさらに含有する
請求項1~4のいずれか一項に記載の低反射フィルム。
【請求項6】
前記第一樹脂層、及び粘着層をこの順に少なくとも備える積層構造を有する
請求項1~5のいずれか一項に記載の低反射フィルム。
【請求項7】
前記第一樹脂層、及び基材フィルムをこの順に少なくとも備える積層構造を有する
請求項1~5のいずれか一項に記載の低反射フィルム。
【請求項8】
前記第一樹脂層、基材フィルム、及び粘着層をこの順に少なくとも備える積層構造を有する
請求項1~5のいずれか一項に記載の低反射フィルム。
【請求項9】
前記第一樹脂層、基材フィルム、第二樹脂層、及び粘着層をこの順に少なくとも備える積層構造を有する
請求項1~5のいずれか一項に記載の低反射フィルム。
【請求項10】
前記粘着層が、ゴム系粘着剤、アクリル系粘着剤、オレフィン系粘着剤、シリコーン系粘着剤、及びウレタン系粘着剤よりなる群から選択される1以上の粘着剤を含有する
請求項6、8、9のいずれか一項のいずれか一項に記載の低反射フィルム。
【請求項11】
前記第一樹脂層の表面粗さRaが、0.8~4.0μmである
請求項1~10のいずれか一項に記載の低反射フィルム。
【請求項12】
移動ビークルの室内に配置され、可視光線ないしは赤外線に対して透明なウィンドウを介して前記室外を撮像し又は前記室外の可視光線ないしは赤外線を検出する、光学センサと、
前記室内に配置された内装部品の表面を被覆し、前記表面における外光の反射光を低減して、前記光学センサの撮像精度及び/又は検出精度を向上させる、低反射フィルムと、
を少なくとも備え、
低反射フィルムは、
第一樹脂層を少なくとも備え、
前記第一樹脂層は、バインダー樹脂、及び2~14μmの平均粒子径D50を有する有機樹脂粒子を少なくとも含有し、
前記第一樹脂層側の表面の反射率及び光沢度が、以下の関係;
(1)70度正反射率 :0.0%以上2.5%以下(波長550nm)
(2)60度鏡面光沢度:0.0%以上6.0%以下
75度鏡面光沢度:0.0%以上6.0%以下
85度鏡面光沢度:0.0%以上6.0%以下
(3)20°鏡面光沢度、45°鏡面光沢度、60°鏡面光沢度、75°鏡面光沢度、及び85°鏡面光沢度の合計が7.5%以下
を満たし、
前記第一樹脂層の膜厚Tが、前記第一樹脂層に含まれる前記有機樹脂粒子の平均粒子径D 50 に対して、0.5~2.4倍又は3.0~8.0倍であることを特徴とする、
光学センシングキット。
【請求項13】
前記有機樹脂粒子は、5~14μmの平均粒子径D50を有する
請求項12に記載の光学センシングキット。
【請求項14】
前記内装部品が、樹脂成形体、樹脂成形体を用いた多層積層体、不織布、及び表皮材よりなる群から選択される1以上である
請求項12又は13に記載の光学センシングキット。
【請求項15】
物品の表面を被覆する低反射成形体であり、
前記低反射成形体は、バインダー樹脂、及び2~14μmの平均粒子径D50を有する有機樹脂粒子を少なくとも含有し、前記低反射成形体の少なくとも1つの表面の反射率及び光沢度が、以下の関係;
(1)70度正反射率 :0.0%以上2.5%以下(波長550nm)
(2)60度鏡面光沢度:0.0%以上6.0%以下
75度鏡面光沢度:0.0%以上6.0%以下
85度鏡面光沢度:0.0%以上6.0%以下
(3)20°鏡面光沢度、45°鏡面光沢度、60°鏡面光沢度、75°鏡面光沢度、及び85°鏡面光沢度の合計が7.5%以下
を満たし、
前記第一樹脂層の膜厚Tが、前記第一樹脂層に含まれる前記有機樹脂粒子の平均粒子径D 50 に対して、0.5~2.4倍又は3.0~8.0倍であることを特徴とする、
低反射成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広角度側の表面反射率及び表面光沢度が小さな、新規な低反射フィルム、及びこれを用いた光学センシングキット、並びに低反射成形体等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のセンシング技術の目覚ましい進歩により、自動車、列車、汽車、電車、船舶、貨物船、航空機、宇宙機、ロケット、輸送機器、乗り物等の各種の移動体(以下、「移動ビークル」と称する場合がある。)においては、高度なセンシング技術の導入が検討されている。
【0003】
一例を挙げると、自車両の前方に存在する障害物(例えば他車両、歩行者、ガードレール、家屋等)を検出するために、撮像素子を備えたカメラモジュールや赤外線センサ等の光学センサを車室内に設置した自動車の開発が進展している。こうした光学センサ類は、例えばウィンドウガラスを通して、車室内から車室外を撮影し、或いは車室内から車室外の可視光線や赤外線を検出している。
【0004】
一方、こうした光学センサ類が設置される移動ビークルの室内には、例えばダッシュボード、ルーフトリム、サンバイザー、スイッチパネル、デコレーションパネル、ステアリング、シート等の内装部材が数多く設置されており、また、光学センサ類には、カメラフード、レンズフード等の樹脂製の付属品が設けられていることもある(以降において、これらを総称して「内装部品」と称する場合がある)。
【0005】
これらの内装部品においては、近年、軽量且つ耐久性に優れる熱可塑性樹脂や熱可塑性エラストマー等の樹脂製の成形体、これらの樹脂を用いた多層積層体、或いは不織布や表皮材等が多用されている。また、移動ビークルの内装部品としては、安全性の観点から、又は高級感を与えるマット調の落ち着いた風合いを得るという意匠性の観点から、製品表面の光沢を抑えて艶消し性を付与した樹脂材料が数多く提案されている(特許文献1~4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平06-057007号公報
【文献】特開平07-314519号公報
【文献】特開2002-220562号公報
【文献】特開2003-020384号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した光学センサ類を用いたセンシング技術において、内装部品の表面で反射した光(不要光)が光学センサ類に入射されてしまうと、ハレーション、レンズフレア、ゴースト等が発生して撮像画像を著しく劣化させ、或いは、センシングの検出精度を著しく低下させてしまう。これに対し、特許文献1~4の技術は、外観で艶消し性を付与するための技術に過ぎず、その表面光沢度は依然として大きいままである(60度鏡面光沢度で9~35%(特許文献1)、60度鏡面光沢度で10~30%(特許文献2)、60度鏡面光沢度で7.3~15.2%(特許文献3)、45度鏡面光沢度で4.7~18%(特許文献4)。そのため、表面光沢度がより小さい材料の開発が求められている。
【0008】
とりわけ、移動ビークルの光学センシングキット用途においては、今後、極めて高精度な撮影やセンシング等が求められる趨勢にある。ここで、この種の用途に用いられる低光沢な樹脂材料においては、通常、広角度側(入射角及び反射角が45°以上)の鏡面光沢度の強度が、低角度側(入射角及び反射角が45°未満)の鏡面光沢度に比して相対的に大きな値をとる。そのため、特許文献1~4の低光沢な樹脂材料は、45度鏡面光沢度や60度鏡面光沢度が大きい値であるばかりか、さらに広角度側の鏡面光沢度、例えば75度鏡面光沢度や85度鏡面光沢度がより大きな値となる。例えば、市販品の遮光フィルム(KIMOTO社、製品名:カーボンフェザーX6B)の表面反射率及び表面光沢度は、以下のとおりである。したがって、このような従来技術の樹脂材料を光学センシングキット用途に用いた場合には、広角度側の反射光の影響が依然として大きく残るため、より高精度な撮影やセンシング等を行うことは困難である。
【表1】
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものである。すなわち本発明の目的は、広角度領域の表面反射率及び表面光沢度が小さな、新規な低反射フィルム、及びこれを用いた光学センシングキット、並びに低反射成形体等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために、より高精度な撮影やセンシング等に適した低反射フィルムの表面光学特性について鋭意検討した結果、広角度領域の表面反射率及び表面光沢度が小さな低反射フィルム並びに低反射成形体を新たに見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、以下に示す種々の具体的態様を提供する。
〔1〕第一樹脂層を少なくとも備え、前記第一樹脂層は、バインダー樹脂、及び2~20μmの平均粒子径D50を有する有機樹脂粒子を少なくとも含有し、前記第一樹脂層側の表面の反射率及び光沢度が、以下の関係を満たすことを特徴とする、低反射フィルム。
(1)70度正反射率 :0.0%以上2.5%以下(波長550nm)
(2)60度鏡面光沢度:0.0%以上6.0%以下
75度鏡面光沢度:0.0%以上6.0%以下
85度鏡面光沢度:0.0%以上6.0%以下
(3)20°鏡面光沢度、45°鏡面光沢度、60°鏡面光沢度、75°鏡面光沢度、及び85°鏡面光沢度の合計が7.5%以下
【0012】
〔2〕前記有機樹脂粒子は、5~20μmの平均粒子径D50を有する〔1〕に記載の低反射フィルム。
〔3〕前記バインダー樹脂に対する前記有機樹脂粒子の含有割合が0.6~2.5である〔1〕又は〔2〕に記載の低反射フィルム。
〔4〕前記第一樹脂層の膜厚が、前記第一樹脂層に含まれる前記有機樹脂粒子の平均粒子径D50に対して、0.5~8.0倍である〔1〕~〔3〕のいずれか一項に記載の低反射フィルム。
〔5〕0.5以上の光学濃度を有する〔1〕~〔4〕のいずれか一項に記載の低反射フィルム。
〔6〕前記第一樹脂層は、カーボンブラックをさらに含有する〔1〕~〔5〕のいずれか一項に記載の低反射フィルム。
【0013】
〔7〕前記第一樹脂層、及び粘着層をこの順に少なくとも備える積層構造を有する〔1〕~〔6〕のいずれか一項に記載の低反射フィルム。
〔8〕前記第一樹脂層、及び基材フィルムをこの順に少なくとも備える積層構造を有する〔1〕~〔7〕のいずれか一項に記載の低反射フィルム。
〔9〕前記第一樹脂層、基材フィルム、及び粘着層をこの順に少なくとも備える積層構造を有する〔1〕~〔8〕のいずれか一項に記載の低反射フィルム。
〔10〕前記第一樹脂層、基材フィルム、第二樹脂層、及び粘着層をこの順に少なくとも備える積層構造を有する〔1〕~〔9〕のいずれか一項に記載の低反射フィルム。
〔11〕前記粘着層が、ゴム系粘着剤、アクリル系粘着剤、オレフィン系粘着剤、シリコーン系粘着剤、及びウレタン系粘着剤よりなる群から選択される1以上の粘着剤を含有する〔7〕~〔10〕のいずれか一項に記載の低反射フィルム。
〔12〕前記第一樹脂層の表面粗さRaが、0.8~4.0μmである〔1〕~〔11〕のいずれか一項に記載の低反射フィルム。
【0014】
〔13〕移動ビークルの室内に配置され、可視光線ないしは赤外線に対して透明なウィンドウを介して前記室外を撮像し又は前記室外の可視光線ないしは赤外線を検出する、光学センサと、前記室内に配置された内装部品の表面を被覆し、前記表面における外光の反射光を低減して、前記光学センサの撮像精度及び/又は検出精度を向上させる、低反射フィルムと、を少なくとも備え、低反射フィルムは、第一樹脂層を少なくとも備え、前記第一樹脂層は、バインダー樹脂、及び2~20μmの平均粒子径D50を有する有機樹脂粒子を少なくとも含有し、前記第一樹脂層側の表面の反射率及び光沢度が、以下の関係を満たすことを特徴とする、光学センシングキット。
(1)70度正反射率 :0.0%以上2.5%以下(波長550nm)
(2)60度鏡面光沢度:0.0%以上6.0%以下
75度鏡面光沢度:0.0%以上6.0%以下
85度鏡面光沢度:0.0%以上6.0%以下
(3)20°鏡面光沢度、45°鏡面光沢度、60°鏡面光沢度、75°鏡面光沢度、及び85°鏡面光沢度の合計が7.5%以下
〔14〕前記有機樹脂粒子は、5~20μmの平均粒子径D50を有する〔13〕に記載の光学センシングキット。
〔15〕前記内装部品が、樹脂成形体、樹脂成形体を用いた多層積層体、不織布、及び表皮材よりなる群から選択される1以上である〔13〕又は〔14〕に記載の光学センシングキット。
ここで、上記〔13〕又は〔14〕に記載の光学センシングキットで用いる低反射フィルムは、上記〔3〕~〔12〕のいずれか1以上の技術的特徴をさらに有することが好ましい。
【0015】
〔16〕物品の表面を被覆する低反射成形体であり、前記低反射成形体は、バインダー樹脂、及び2~20μmの平均粒子径D50を有する有機樹脂粒子を少なくとも含有し、前記低反射成形体の少なくとも1つの表面の反射率及び光沢度が、以下の関係を満たすことを特徴とする、低反射成形体。
(1)70度正反射率 :0.0%以上2.5%以下(波長550nm)
(2)60度鏡面光沢度:0.0%以上6.0%以下
75度鏡面光沢度:0.0%以上6.0%以下
85度鏡面光沢度:0.0%以上6.0%以下
(3)20°鏡面光沢度、45°鏡面光沢度、60°鏡面光沢度、75°鏡面光沢度、及び85°鏡面光沢度の合計が7.5%以下
ここで、上記〔16〕に記載の低反射成形体は、上記〔3〕~〔12〕のいずれか1以上の技術的特徴をさらに有することが好ましい。ここで、第一樹脂層は第一樹脂層に読み替えるものとし、低反射フィルムは低反射成形体に読み替えるものとする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、広角度領域の表面反射率及び表面光沢度が小さな低反射フィルム並びに低反射成形体を実現でき、従来には存在しなかった新たな新素材を提供することができる。そして、この低反射フィルム或いは低反射成形体を用いることで、例えば、広角度側から見ても表面光沢度が小さな、艶消し加工品を実現することができ、また、光学センシングキット用途で内装部品のスキンフィルムとして低反射フィルムを用いることで、光学センサ類の撮像画像や検出精度の劣化ないしは低下を抑制することができる。したがって、本発明によれば、広角度領域の低反射性に優れる新素材を実現でき、また、自動車、列車、汽車、電車、船舶、貨物船、航空機、宇宙機、ロケット、輸送機器、乗り物等の各種の移動ビークルにおいて、高精度な撮影やセンシング等を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】一実施形態の低反射フィルム100を示す概略断面図である。
図2】変形例の低反射フィルム200を示す概略断面図である。
図3】変形例の低反射フィルム300を示す概略断面図である。
図4】変形例の低反射フィルム400を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。また、図面の寸法比率は、図示の比率に限定されるものではない。但し、以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、本明細書において、例えば「1~100」との数値範囲の表記は、その上限値「100」及び下限値「1」の双方を包含するものとする。また、他の数値範囲の表記も同様である。
【0019】
(第一実施形態)
図1は、本発明の第一実施形態の低反射フィルム100の要部を示す断面図である。この低反射フィルム100は、基材フィルム11と、この基材フィルム11の一方の面11a側に設けられた第一樹脂層21と、基材フィルム11の他方の面11b側に設けられた粘着層31と、を備えている。すなわち、本実施形態の低反射フィルム100は、第一樹脂層21、基材フィルム11、及び粘着層31が、少なくともこの順に配列された積層構造(3層構造)を有する。なお、この積層構造において、第一樹脂層21は表側の最表面に配置されるとともに粘着層31は裏側の最表面に配置されており、第一樹脂層21及び粘着層31は、表側及び裏側の最表面にそれぞれ露出した状態で配置されている。なお、第一樹脂層21の表面には、必要に応じて、帯電防止層や保護層等の任意の層が設けられていてもよい。
【0020】
ここで本明細書において、「~の一方(他方)の面側に設けられた」とは、本実施形態のように基材フィルム11の表面(例えば面11aや面11b)に第一樹脂層21や粘着層31が直接載置された態様のみならず、基材フィルム11の面11aと第一樹脂層21との間や、基材フィルム11の面11bと粘着層31との間に、図示しない任意の層(例えばプライマー層、接着層等)が介在して第一樹脂層21や粘着層31が基材フィルム11から離間して配置された態様を包含する意味である。また、第一樹脂層21及び粘着層31を少なくとも備える積層構造とは、第一樹脂層21及び粘着層31のみが基材フィルム11上に直接積層した構造のみならず、3層構造の層間に上述したような任意の層をさらに設けた構造を包含する意味である。
【0021】
基材フィルム11は、第一樹脂層21及び粘着層31を支持可能なものである限り、その種類は特に限定されない。寸法安定性、機械的強度及び軽量化等の観点から、合成樹脂フィルムが好ましく用いられる。合成樹脂フィルムの具体例としては、ポリエステルフィルム、ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン)フィルム、ポリイミドフィルム、ポリアミドフィルム、ポリアミドイミドフィルム、ポリスチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム等が挙げられる。また、アクリル系、ナイロン系、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン系、セルロース系、ポリスルホン系、ポリフェニレンスルフィド系、ポリエーテルスルホン系、ポリエーテルエーテルケトン系のフィルムを用いることもできる。これらの中でも、基材フィルム11としては、ポリエステルフィルムやポリイミドフィルムが好適に用いられる。とりわけ、一軸又は二軸延伸フィルム、特に二軸延伸ポリエステルフィルムは、機械的強度及び寸法安定性に優れるため、特に好ましい。また、耐熱用途には、ポリイミドフィルム、ポリアミドイミドフィルム、ポリアミドフィルムが特に好ましく、ポリイミドフィルム、ポリアミドイミドフィルムが最も好ましい。これらは1種を単独で用いることができ、また2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0022】
基材フィルム11の厚みは、要求性能及び用途に応じて適宜設定でき、特に限定されない。軽量化及び薄膜化の観点からは、基材フィルム11の厚みは、0.5μm以上、250μm以下が好ましく、より好ましくは1μm以上、100μm以下、さらに好ましくは5μm以上、50μm以下、特に好ましくは10μm以上、30μm以下である。なお、第一樹脂層21や粘着層31との接着性を向上させる観点から、必要に応じて、基材フィルム11表面にアンカー処理やコロナ処理等の各種公知の表面処理を行うこともできる。
【0023】
なお、基材フィルム11の外観は、透明、半透明、不透明のいずれであってもよく、特に限定されないが、遮光性を有することが好ましい。例えば発泡ポリエステルフィルム等の発泡した合成樹脂フィルムや、各種顔料を含有させた合成樹脂フィルムを用いることもできる。例えば、黒色、灰色、紫色、青色、茶色、赤色、緑色等の暗色系の顔料又は染料を1種以上含有する合成樹脂フィルムを用いることにより、光学濃度の高い遮光膜とすることができる。ここで用いる顔料や染料としては、当業界で公知のものから適宜選択して用いることができ、その種類は特に限定されない。例えば黒色系の顔料としては、黒色樹脂粒子、マグネタイト系ブラック、銅・鉄・マンガン系ブラック、チタンブラック、カーボンブラック等が挙げられる。これらの中でも、隠蔽性に優れることから、黒色樹脂粒子、チタンブラック、カーボンブラックが好ましい。これらは1種を単独で用いることができ、また2種以上を組み合わせて用いることもできる。基材フィルム11が顔料又は染料を含有する場合、その含有割合は、要求性能及び用途に応じて適宜設定でき、特に限定されない。寸法安定性、機械的強度、軽量化等の観点から、顔料及び染料の合計の含有割合は、基材フィルム11の総量に対して、0.3~15質量%であることが好ましく、より好ましくは0.4~12質量%、さらに好ましくは0.5~10質量%である。
【0024】
第一樹脂層21は、バインダー樹脂22、及び2~20μmの平均粒子径D50を有する有機樹脂粒子23を少なくとも含有する樹脂層であって、上述した所定の反射率及び光沢度を有する樹脂層である。第一樹脂層21を構成する素材としては、当業界で公知のものを用いることができ、その種類は特に限定されない。このようにバインダー樹脂と、このバインダー樹脂中に分散された有機樹脂粒子23とを含有する樹脂層を用いることで、上述した光学特性を満たす第一樹脂層21を実現することができる。以下、さらに詳述する。
【0025】
バインダー樹脂22としては、ポリ(メタ)アクリル酸系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリビニルブチラール系樹脂、セルロース系樹脂、ポリスチレン/ポリブタジエン樹脂、ポリウレタン系樹脂、アルキド樹脂、アクリル系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、エポキシエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、エポキシアクリレート系樹脂、ウレタンアクリレート系樹脂、ポリエステルアクリレート系樹脂、ポリエーテルアクリレート系樹脂、フェノール系樹脂、メラミン系樹脂、尿素系樹脂、ジアリルフタレート系樹脂等の熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂が挙げられるが、これらに特に限定されない。また、熱可塑性エラストマー、熱硬化性エラストマー、紫外線硬化型樹脂、電子線硬化型樹脂等も用いることができる。これらは1種を単独で用いることができ、また2種以上を組み合わせて用いることもできる。なお、バインダー樹脂22は、要求性能及び用途に応じて、適宜選択して用いることができる。例えば、耐熱性が求められる用途においては、熱硬化性樹脂が好ましい。
【0026】
第一樹脂層21中のバインダー樹脂22の含有量(総量)は、膜形成に必要な程度で適宜調整すればよく、特に限定されない。より優れた表面反射率及び表面光沢度を有する第一樹脂層21を実現する観点から、バインダー樹脂22の含有量(総量)は、第一樹脂層21の総量に対して、5~65質量%が好ましく、より好ましくは15~55質量%、さらに好ましくは20~50質量%であり、特に好ましくは25~45質量%である。
【0027】
上述した反射率及び光沢度を付与するために、本実施形態の低反射フィルム100の第一樹脂層21には、比較的に粗大な有機樹脂粒子23が含有されている。目的とする反射率及び光沢度を再現性よく得る観点から、有機樹脂粒子23の平均粒子径D50は、2~20μmであることが好ましく、より好ましくは4~20μm、さらに好ましくは5~20μm、よりさらに好ましくは6~15μm、特に好ましくは7~14μm、最も好ましくは10~14μmである。
【0028】
有機樹脂粒子23の素材としては、当業界で公知のものを用いることができ、その種類は特に限定されない。具体的には、ポリメチルメタクリレート系、ポリスチレン系、ポリエステル系、ポリウレタン系、ゴム系等の樹脂粒子が挙げられるが、これらに特に限定されない。また、有機樹脂粒子23の外観は、透明、半透明、不透明のいずれであってもよく、特に限定されない。また、有機樹脂粒子23の外観は、無色でもよいが、着色されていてもよい。例えば、黒色、灰色、紫色、青色、茶色、赤色、緑色等に着色された着色有機樹脂粒子を用いることにより、光学濃度の高い遮光膜とすることができる。有機樹脂粒子23は、1種を単独で用いることができ、また2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0029】
第一樹脂層21中の有機樹脂粒子23の含有量(総量)は、上述した表面反射率や表面光沢度が得られる限り、特に限定されない。より優れた表面反射率及び表面光沢度を有する第一樹脂層21を実現する観点から、有機樹脂粒子23の含有量(総量)は、第一樹脂層21の総量に対して、35~95質量%が好ましく、より好ましくは40~85質量%、さらに好ましくは45~80質量%であり、特に好ましくは50~75質量%である。このとき、使用する有機樹脂粒子23の種類や平均粒子径D50等によって変動するが、上述した好ましい表面反射率や表面光沢度を再現性よく実現する観点から、バインダー樹脂22の使用割合を考慮して有機樹脂粒子23の含有量を上記範囲内で設定することが好ましい。すなわち、第一樹脂層21中のバインダー樹脂の総質量に対して、有機樹脂粒子の含有割合は0.6~2.5が好ましく、より好ましくは0.7~2.3、さらに好ましくは0.8~2.0である。
【0030】
第一樹脂層21は、有機樹脂粒子23とともに、無機粒子24を含有していてもよい。無機粒子24を併用することにより、遮光性をより高めたり、表面反射率や表面光沢度をより低減させたりすることができる。無機粒子24としては、当業界で公知の各種顔料や染料を用いることができ、その種類は特に限定されない。例えばカオリン、焼成カオリン、焼成クレー、未焼成クレー、シリカ(例えば天然シリカ、溶融シリカ、アモルファスシリカ、中空シリカ、湿式シリカ、合成シリカ、アエロジル等)、アルミニウム化合物(例えばベーマイト、水酸化アルミニウム、アルミナ、ハイドロタルサイト、ホウ酸アルミニウム、窒化アルミニウム等)、マグネシウム化合物(例えば、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム等)、カルシウム化合物(例えば炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、硫酸カルシウム、亜硫酸カルシウム、ホウ酸カルシウム等)、モリブデン化合物(例えば酸化モリブデン、モリブデン酸亜鉛等)、タルク(例えば天然タルク、焼成タルク等)、マイカ(雲母)、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、硫酸バリウム、ホウ酸亜鉛、メタホウ酸バリウム、ホウ酸ナトリウム、窒化ホウ素、凝集窒化ホウ素、窒化ケイ素、窒化炭素、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム、錫酸亜鉛等の錫酸塩等が挙げられるが、これらに特に限定されない。また、遮光性や隠蔽性を高める観点からは黒色無機顔料が好ましく用いられる。黒色無機顔料としては、例えば、黒色樹脂粒子、マグネタイト系ブラック、銅・鉄・マンガン系ブラック、チタンブラック、カーボンブラック、アニリンブラック等が挙げられるが、これらに特に限定されない。これらの中でも、黒色無機顔料としては、黒色樹脂粒子、チタンブラック、カーボンブラック、アニリンブラックが好ましく、より好ましくはカーボンブラック、アニリンブラックである。一方、近年においては、デザイン性の観点などから、高級感のある低光沢で黒々しいデザインに人気が高まりつつあり、それとの調和が求められてきている。このような要求に対しては、無機粒子24として例えば中空シリカ等の中空粒子を用い、第一樹脂層21中で光散乱を増やし、第一樹脂層21の表面反射率、とりわけ広角度領域の表面反射率を低減させることで、より黒々しい暗色系の第一樹脂層21を実現することもできる。これらの無機粒子は、1種を単独で用いることができ、また2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0031】
カーボンブラックとしては、オイルファーネスブラック、ランプブラック、チャンネルブラック、ガスファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、ケッチェンブラック等、各種公知の製法で作製されたものが知られているが、その種類は特に制限されない。第一樹脂層21に導電性を付与し静電気による帯電を防止する観点から、導電性カーボンブラックが特に好ましく用いられる。カーボンブラックの歴史は古く、例えば三菱化学株式会社、旭カーボン株式会社、御国色素株式会社、レジノカラー工業株式会社、Cabot社、DEGUSSA社等から、各種グレードのカーボンブラック単体及びカーボンブラック分散液が市販されており、要求性能や用途に応じて、これらの中から適宜選択すればよい。なお、カーボンブラックの粒子サイズは、要求性能等に応じて適宜設定でき、特に限定されない。カーボンブラックの平均粒子径D50は、0.01~2.0μmであることが好ましく、より好ましくは0.05~1.0μm、さらに好ましくは0.08~0.5μmである。なお、本明細書における平均粒子径D50とは、レーザー回折式粒度分布測定装置(例えば、島津製作所社:SALD-7000等)で測定される、体積基準のメジアン径(D50)を意味する。
【0032】
無機粒子24を用いる場合、分散性、製膜性、取扱性、遮光性、艶消し性等の観点から、また、上述したバインダー樹脂22や有機樹脂粒子23との配合バランスの観点から、無機粒子24の含有量(総量)は、第一樹脂層21の総量に対して、1~55質量%が好ましく、より好ましくは5~45質量%、さらに好ましくは7~40質量%であり、特に好ましくは7~30質量%である。
【0033】
なお、第一樹脂層21は、当業界で公知の各種添加剤を含有していてもよい。その具体例としては、滑剤、導電剤、難燃剤、抗菌剤、防カビ剤、酸化防止剤、可塑剤、樹脂硬化剤、硬化促進剤、レベリング剤、流動調整剤、消泡剤、分散剤等が挙げられるが、これらに特に限定されない。滑剤としては、ポリエチレン、パラフィン、ワックス等の炭化水素系滑剤;ステアリン酸、12-ヒドロキシステアリン酸等の脂肪酸系滑剤;ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド等のアミド系滑剤;ステアリン酸ブチル、ステアリン酸モノグリセリド等のエステル系滑剤;アルコール系滑剤;金属石鹸、滑石、二硫化モリブデン等の固体潤滑剤;シリコーン樹脂粒子;ポリテトラフッ化エチレンワックス、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素樹脂粒子等が挙げられるが、これらに特に限定されない。これらの中でも、特に有機系滑剤が好ましく用いられる。また、バインダー樹脂として、紫外線硬化型樹脂や電子線硬化型樹脂を用いる場合には、例えばn-ブチルアミン、トリエチルアミン、トリ-n-ブチルホスフィン等の増感剤や紫外線吸収剤等を用いてもよい。これらは1種を単独で用いることができ、また2種以上を組み合わせて用いることもできる。これらの含有割合は、特に限定されないが、第一樹脂層21中に含まれる全樹脂成分に対する固形分換算で、一般的にはそれぞれ0.01~5質量%であることが好ましい。
【0034】
第一樹脂層21の厚みTは、要求性能及び用途に応じて適宜設定でき、特に限定されない。高い光学濃度、軽量化及び薄膜化のバランスの観点からは、第一樹脂層21の厚みTは、0.1μm以上が好ましく、より好ましくは0.2μm以上、さらに好ましくは0.5μm以上、特に好ましくは1.0μm以上、最も好ましくは4.0μm以上であり、上限側は40μm以下が好ましく、より好ましくは35μm以下、さらに好ましくは30μm以下、特に好ましくは25μm以下である。ここで、第一樹脂層21の厚みTは、図示のごとく表面凹凸がある場合には、その最大厚みとする。このとき、上述した好ましい表面反射率や表面光沢度を再現性よく実現する観点から、使用する有機樹脂粒子23の平均粒子径D50を考慮して第一樹脂層21の厚みTを上記範囲内で設定することが望ましい。すなわち、有機樹脂粒子23の平均粒子径D50をt(μm)としたとき、第一樹脂層21の厚みT(μm)は、T/tが0.5~8.0の範囲内となるように調整することが好ましい。膜形成方法によっても異なるが、一般的には、T/tは0.5~3.0が好ましく、より好ましくは0.6~2.5、さらに好ましくは0.9~2.4、特に好ましくは1.0~2.3、最も好ましくは1.3~2.2である。また、塗工方法によっては、T/tは1.5以上が好ましく、より好ましくは2.0以上、さらに好ましくは、3.0以上であり、その上限としては、8.0以下が好ましく、より好ましくは7.5以下となる場合もある。なお、必要に応じて、第一樹脂層21表面にアンカー処理やコロナ処理等の各種公知の表面処理を行うこともできる。
【0035】
一方、軽量化、薄膜化、取扱性等の観点から、低反射フィルム100の総厚みは、0.5μm以上が好ましく、より好ましくは5μm以上、さらに好ましくは10μm以上、特に好ましくは25μm以上であり、上限側は、500μm以下が好ましく、より好ましくは400μm以下、さらに好ましくは300μm以下、特に好ましくは250μm以下である。
【0036】
遮光部材としての高い遮光性を具備する観点から、第一樹脂層21の光学濃度(OD)は、0.5以上であることが好ましく、より好ましくは1.0以上、さらに好ましくは1.7以上、特に好ましくは2.0以上である。なお、本明細書において、光学濃度(OD)は、ISO 5-2に準拠し、光学濃度計(X-Rite361T:エックスライト社)及びオルソフィルタを用いて測定して得られた値とする。
【0037】
ここで、本実施形態の低反射フィルム100は、上述したとおり、広角度領域の表面反射率及び表面光沢度を小さくするために、その表面形状が凹凸に調整されている。低反射フィルム100の第一樹脂層21側の表面(本実施形態では第一樹脂層21の表面)の表面粗さRaは、要求性能及び用途に応じて適宜設定でき、特に限定されないが、より優れた表面反射率及び表面光沢度を実現する観点から、高い光学濃度、軽量化及び薄膜化のバランスの観点からは、0.8~4.0μmが好ましく、より好ましくは1.0~3.6μm、さらに好ましくは1.5~3.3μm、特に好ましくは2.0~3.0μmである。なお、本明細書において、表面粗さRaは、JIS-B0601(2001)の算術平均粗さ(Ra)の測定方法に準じて測定される値である。例えば触針式表面粗さ測定機(SURFCOM 1500SD2-3DF:東京精密社)により測定できる。
【0038】
そして、本実施形態の低反射フィルム100の表面反射率は、上述したとおり、広角度領域の表面反射を小さくするために、低反射フィルム100の第一樹脂層21側の表面(本実施形態では第一樹脂層21の表面)の70度正反射率が0.0%以上2.5%以下(波長550nm)に調整されている。より高い艶消し性及び低い表面反射等を実現する観点から、70度正反射率は0.0%以上2.0%以下(波長550nm)が好ましく、より好ましくは0.0%以上1.5%以下(波長550nm)、さらに好ましくは0.0%以上1.0%以下(波長550nm)、特に好ましくは0.0%以上0.5%以下(波長550nm)である。なお、本明細書において、70度正反射率は、分光光度計(SolidSpec-3700:島津製作所社)を用い、波長550nmの光の入射受光角70°における第一樹脂層21表面の正反射率(鏡面反射率)(%)を測定して得られた値である。
【0039】
また、本実施形態の低反射フィルム100の鏡面光沢度は、上述したとおり、広角度領域の鏡面光沢を小さくするために、低反射フィルム100の第一樹脂層21側の表面(本実施形態では第一樹脂層21の表面)の鏡面光沢度は、60度鏡面光沢度が0.0%以上6.0%以下、75度鏡面光沢度が0.0%以上6.0%以下、85度鏡面光沢度が0.0%以上6.0%以下に調整されている。より高い艶消し性及び低い光沢性等を実現する観点から、60度鏡面光沢度は0.0%以上4.0%以下、75度鏡面光沢度は0.0%以上4.0%以下、85度鏡面光沢度は0.0%以上4.0%以下がそれぞれ好ましく、60度鏡面光沢度は0.0%以上3.0%以下、75度鏡面光沢度は0.0%以上3.0%以下、85度鏡面光沢度は0.0%以上3.0%以下がさらに好ましく、60度鏡面光沢度は0.0%以上2.0%以下、75度鏡面光沢度は0.0%以上2.0%以下、85度鏡面光沢度は0.0%以上2.0%以下がさらに好ましい。
【0040】
このとき、低角度領域から広角度領域まで幅広い低光沢を実現する観点から、また、遮光性、低光沢、低反射性、光吸収性等のバランスの観点から、本実施形態の低反射フィルム100の鏡面光沢度は、20°鏡面光沢度、45°鏡面光沢度、60°鏡面光沢度、75°鏡面光沢度、及び85°鏡面光沢度の合計が、7.5%以下が好ましく、より好ましくは6.0%以下、さらに好ましくは5.0%以下、特に好ましくは4.0%以下、最も好ましくは3.0%以下である。なお、本明細書において、鏡面光沢度は、JIS-Z8741:1997に準拠し、デジタル変角光沢計(Gloss Meter VG7000:日本電色社)を用い、それぞれ規定の入射受光角(20°、45°、60°、75°、85°)における第一樹脂層21表面の光沢度(鏡面光沢度)(%)を測定して得られた値である。
【0041】
高級感のある低光沢で黒々しい暗色系のデザインを実現する観点から、実施形態の低反射フィルム100の一表面のCIE 1976 XYZ表色系における視感反射率Y値は、積分球を用いた拡散反射率に基づくもので0.1~4.0%であることが好ましく、より好ましくは0.1~3.0%、さらに好ましくは0.1~2.0%、特に好ましくは0.1~1.0%である。なお、視感反射率Y値は、人間が感じる反射光の強さをそのまま表現した定量値に相当し、この値が小さいほど、反射光の強度が小さく低反射で黒々しい暗色系のデザインとなる。視感反射率Y値は、JIS Z 8701に準拠して測定される、XYZ(Yxy)表色系の視感反射率Y(%)であり、分光測色計(例えば分光光度計U?4100(日立ハイテクノロジーズ社製))を用いて測定することができる。なお、低角度領域から広角度領域まで幅広く低光沢で暗色なデザインを実現する観点から、各角度の鏡面反射率に基づく視感反射率Y値は、それぞれ以下の関係を満たすことが好ましい。
5°: 0.01~0.10%(より好ましくは0.01~0.05%)
20°: 0.01~0.10%(より好ましくは0.01~0.05%)
45°: 0.01~0.20%(より好ましくは0.01~0.06%)
60°: 0.01~0.50%(より好ましくは0.01~0.25%)
70°: 0.01~1.50%(より好ましくは0.01~0.40%)
【0042】
一方、低反射フィルム100の第一樹脂層21側の表面(本実施形態では第一樹脂層21の表面)の導電性(Ω/□)は、要求性能及び用途に応じて適宜設定でき、特に限定されないが、取扱性等の観点からは、1.0×108(Ω/□)以下が好ましく、より好ましくは1.0×107(Ω/□)以下、さらに好ましくは1.0×106(Ω/□)以下、特に好ましくは1.0×105Ω以下である。なお、本明細書において、導電性は、JIS-K6911:1995に準拠して測定される値である。このような第一樹脂層21は、例えば顔料として導電性カーボンブラックを使用したり、第一樹脂層21表面に導電性カーボンブラックを付与する帯電防止処理を行うことにより得ることができる。
【0043】
遮光部材としての高い遮光性を具備する観点から、低反射フィルム100の全体の光学濃度(OD)は、0.5以上であることが好ましく、より好ましくは1.0以上、さらに好ましくは1.7以上、特に好ましくは2.0以上である。
【0044】
粘着層31は、上述した基材フィルム11の面11b側に設けられ、図示しない被着品と粘着接合する層である。このように粘着層31側を被着品に粘着接合することにより、広角側領域で低反射率且つ低光沢な表面を付与可能である。被着品の種類は、特に限定されないが、移動ビークルの室内の内装部品、例えばダッシュボード、ルーフトリム、サンバイザー、スイッチパネル、デコレーションパネル、ステアリング、シート、光学センサ類のカメラフードやレンズフード等が好ましい。
【0045】
粘着層31を構成する素材は、当業界で公知のものを用いることができ、また、被着品の表面素材(樹脂成形体、この樹脂成形体を用いた多層積層体、不織布、及び表皮材等)に応じて適宜選択すればよく、その種類は特に限定されない。例えば、ゴム系粘着剤、アクリル系粘着剤、オレフィン系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ウレタン系粘着剤が好ましく用いられる。
【0046】
本実施形態の低反射フィルム100の製造方法は、上述した構成のものが得られる限り、特に限定されない。ドクターコート、ディップコート、ロールコート、バーコート、ダイコート、ブレードコート、エアナイフコート、キスコート、スプレーコート、スピンコート等の従来公知の塗布方法が好適に用いられる。
【0047】
具体的には、上述したバインダー樹脂22及び有機樹脂粒子23、並びに必要に応じて配合される任意成分(無機粒子24、各種添加剤)を溶媒中に含有する塗布液を、基材フィルム11の面11a上に塗布し、乾燥させた後、必要に応じて熱処理や加圧処理等を行うことにより、基材フィルム11上に第一樹脂層21を製膜できる。また、粘着剤を溶媒中に含有する塗布液を、基材フィルム11の面11b上に塗布し、乾燥させた後、必要に応じて熱処理や加圧処理等を行うことにより、基材フィルム11上に粘着層31を製膜できる。このとき、基材フィルム11と第一樹脂層21及び/又は粘着層31との接着性を向上させるため、必要に応じてアンカー処理やコロナ処理等を行うこともできる。また、必要に応じて、基材フィルム11と第一樹脂層21及び/又は粘着層31との間にプライマー層や接着層等の中間層を設けることもできる。そして、一旦シート状に成形した後、真空成形や圧空成形等を行うこともできる。
【0048】
ここで使用する塗布液の溶媒としては、水;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等のエーテル系溶剤;メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等のアルコール系溶剤;ヘキサン、シクロヘキサン等の非極性溶媒;ジメチルホルムアミド等の非プロトン性極性溶媒;トルエン等の芳香族系溶媒;並びにこれらの混合溶媒等を用いることができる。
【0049】
(作用)
本実施形態の低反射フィルム100においては、低反射フィルム100の第一樹脂層21側の表面(本実施形態では第一樹脂層21の表面)の70度正反射率及びの鏡面光沢度が所定範囲内に調整されているため、広角度領域のみならず、低角度領域から広角度領域にわたって表面反射率及び表面光沢度が小さい。したがって、この低反射フィルム100を用いることで、広角度側から見ても低角度側から見ても、表面反射率及び表面光沢度が小さな、艶消し加工品を実現することができる。また、移動ビークルの室内に配置された内装部品の表面を被覆し、その表面における外光の反射光を低減して、室内に配置された光学センサの撮像精度及び/又は検出精度を向上させる、低反射フィルムとして本実施形態の低反射フィルム100を用いることで、光学センサ類の撮像画像や検出精度の劣化ないしは低下を抑制することができる。したがって、本実施形態の低反射フィルム100によれば、自動車、列車、汽車、電車、船舶、貨物船、航空機、宇宙機、ロケット、輸送機器、乗り物等の各種の移動ビークルにおいて、高精度な撮影やセンシング等を実現することができる。
【0050】
(変形例)
なお、上記の第一実施形態においては、第一樹脂層21、基材フィルム11、及び粘着層31が、少なくともこの順に配列された3層積層構造を有する低反射フィルム100を例示したが、2層以上の樹脂層が設けられていてもよい。例えば図2に示すように、第一樹脂層21、基材フィルム11、第二樹脂層41、及び粘着層31が、少なくともこの順に配列された積層構造(4層構造)を有する低反射フィルム200としてもよい。また、第一樹脂層21、第二樹脂層41、基材フィルム11、及び粘着層31が、少なくともこの順に配列された積層構造(4層構造)としてもよい。
【0051】
このとき、第二樹脂層41としては、従来公知の樹脂層を用いることができ、また、上述した第一樹脂層21と同様の組成の樹脂層や遮光膜(但し、これらの正反射率及び鏡面光沢度は特に限定されない。)を用いることもでき、その種類は特に限定されない。第二樹脂層41の光学濃度(OD)は、特に限定されないが、0.5以上であることが好ましく、より好ましくは1.0以上、さらに好ましくは1.7以上、特に好ましくは2.0以上である。また、樹脂層21,31を積層させた場合、低反射フィルム100の全体の光学濃度(OD)は、1.5~6.0が好ましく、より好ましくは2.0~6.0、さらに好ましくは2.3~6.0、特に好ましくは4.5~6.0、最も好ましくは5.0~6.0である。
【0052】
また、図3に示すように、粘着層31を省略した2層積層構造を有する低反射フィルム300とすることもできるし、図4に示すように、基材フィルム11を省略した2層積層構造を有する低反射フィルム400とすることもできる。そして、上記の第一実施形態においては、第一樹脂層21を平面(基材フィルム11)上に設けた例を示したが、第一樹脂層21は、曲面上に設けることもでき、また、凹凸面上に設けることもできる。
【0053】
なお、上述した実施形態や各変形例における第一樹脂層21は、それ単独で、低反射成形体と表現される物品として認識可能である。すなわち、本発明の第一樹脂層21は、低反射フィルムとして実施可能であるのみならず、より厚みのある低反射成形体として実施可能である。このとき、低反射成形体の厚みは、上述したフィルム形態の場合の厚み(第一樹脂層21の厚みT)に制限されるものではなく、任意に設定することができる。例えば、厚み50~1000μmの低反射成形体としたり、厚み1~10mmの低反射成形体としたり、厚み1cm以上の低反射成形体とすることができる。
【実施例
【0054】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。なお、以下において特に断りのない限り、「部」は「質量部」を表す。
【0055】
(実施例1)
基材として厚み50μmの二軸延伸PETフィルム(東レ社、商品名:ルミラーT60、高透明タイプ、全光線透過率(550nm):89.1%)の片面に、下記の樹脂層用塗布液をバーコート法により乾燥後の厚みが8μmとなるように塗布し乾燥させ、基材フィルム上に厚み8μmの第一樹脂層を形成することで、実施例1の低反射フィルムを作製した。
【0056】
<樹脂層用塗布液>
・バインダー樹脂 16.4質量部
(DIC社、アクリディックA807、固形分:50質量%)
・有機樹脂粒子 9.0質量部
(アクリルビーズ、平均粒子径D50:8μm)
・無機粒子 2.4質量部
(東海カーボン社、トーカブラック#5500、平均粒子径D50:25nm)
・樹脂硬化剤 2.4質量部
(DIC社、バーノックDN980、固形分:75質量%)
・希釈溶剤 77.0質量部
(MEK:トルエン=50:50の混合溶媒)
【0057】
(実施例2~30、及び比較例1~9、並びに実施例31)
表2~4に示すように、有機樹脂粒子の種類及び平均粒子径D50、バインダー樹脂の使用量の使用有無及び使用量、希釈溶媒の使用量並びに樹脂層の厚みを変更する以外は、実施例1と同様におこなって、実施例2~30及び比較例1~9の低反射フィルムを作製した。また、基材として厚み50μmの二軸延伸PETフィルム(東レ社、商品名:ルミラーT60、高透明タイプ、全光線透過率(550nm):89.1%)の片面に、表4に示す樹脂層用塗布液を乾燥後に厚み15μmとなるように塗布し乾燥させ、基材フィルム上に厚み15μmの第一樹脂層を形成することで、実施例31の低反射フィルムを作製した。
【0058】
得られた実施例1~31及び比較例1~9の低反射フィルムについて、以下の条件で各物性の測定及び評価を行った。評価結果を、表2~4に併せて示す。
【0059】
(1)膜厚/粒子径
低反射フィルムの厚みを有機樹脂粒子の平均粒子径D50で除して、算出した。
【0060】
(2)鏡面光沢度
JIS-Z8741:1997に準拠し、デジタル変角光沢計(Gloss Meter VG7000:日本電色社)を用い、それぞれ規定の入射受光角(20°、45°、60°、75°、85°)における第一樹脂層21側の表面の光沢度(鏡面光沢度)(%)を測定した。
【0061】
(3)70度正反射率
分光光度計(SolidSpec-3700:島津製作所社)を用い、波長550nmの光の入射受光角70°における第一樹脂層21側の表面の正反射率(鏡面反射率)(%)を測定した。
【0062】
(4)光学濃度OD
ISO 5-2に基づき光学濃度計(X-Rite361T:エックスライト社)を用い、第一樹脂層21の光学濃度を測定した。なお、測定時にはオルソフィルタを用いた。
【0063】
(4)表面粗さRa
JIS-B0601(2001)の算術平均粗さ(Ra)の測定方法に準じ、触針式表面粗さ測定機(SURFCOM 1500SD2-3DF:東京精密社)を用いて、第一樹脂層21側の表面の表面粗さRa(μm)を測定した。
【0064】
(5)視感反射率Y値
実施例1の低反射フィルムの視感反射率Y値を、JIS Z 8701に準拠し、分光測色計(例えば分光光度計U?4100(日立ハイテクノロジーズ社製))及び積分球を用いて拡散反射率を基準に測定したところ、0.81%であった。また、入射受光角(5°、20°、45°、60°、70°)における鏡面反射率に基づく視感反射率Y値は、それぞれ以下のとおりであった。
5°: 0.03%
20°: 0.02%
45°: 0.04%
60°: 0.10%
70°: 0.37%
【表2】
【0065】
【表3】
【0066】
【表4】
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、精密機械分野、半導体分野、光学機器分野、電子機器分野等における高性能な低反射フィルムとして広く且つ有効に利用可能である。例えば、高性能一眼レフカメラ、コンパクトカメラ、ビデオカメラ、携帯電話、プロジェクタ、車載カメラ、車載センサ、光学センサ等に搭載されるレンズユニットやカメラモジュールやセンサユニット等に用いる低反射フィルムとして広く且つ有効に利用可能であり、とりわけ、移動ビークルの内装部品、例えばダッシュボード、ルーフトリム、サンバイザー、スイッチパネル、デコレーションパネル、ステアリング、シート、光学センサ類のカメラフードやレンズフード等の低反射フィルムとして殊に有効に利用可能である。
【符号の説明】
【0068】
11 ・・・基材(基材フィルム)
11a・・・面
11b・・・面
21 ・・・第一樹脂層
22 ・・・バインダー樹脂
23 ・・・有機樹脂粒子
24 ・・・無機粒子
31 ・・・粘着層
41 ・・・第二樹脂層
T ・・・第一樹脂層の厚み
t ・・・有機樹脂粒子の平均粒子径
100 ・・・低反射フィルム
200 ・・・低反射フィルム
300 ・・・低反射フィルム
400 ・・・低反射フィルム
図1
図2
図3
図4