(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-20
(45)【発行日】2024-10-01
(54)【発明の名称】樹脂組成物の製造方法および樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08J 3/20 20060101AFI20240924BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20240924BHJP
C08L 51/00 20060101ALI20240924BHJP
C08C 1/02 20060101ALI20240924BHJP
【FI】
C08J3/20 Z CEZ
C08L101/00
C08L51/00
C08C1/02
(21)【出願番号】P 2021509699
(86)(22)【出願日】2020-03-30
(86)【国際出願番号】 JP2020014658
(87)【国際公開番号】W WO2020196920
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2023-02-07
(31)【優先権主張番号】P 2019063423
(32)【優先日】2019-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】長岡 優
【審査官】西山 義之
(56)【参考文献】
【文献】特表2003-522232(JP,A)
【文献】特開2002-308914(JP,A)
【文献】国際公開第2010/082482(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/00- 3/28
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00- 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構成単位として、芳香族ビニル単量体、ビニルシアン単量体、および(メタ)アクリレート単量体からなる群より選択される1種以上の単量体に由来する構成単位を含む重合体からなるグラフト部を有する重合体微粒子(A)を含むラテックスに、25℃において100mPa・s~1,000,000mPa・sの粘度を有する液体であるか、半固体であるか、または固体である樹脂(B)を混合する樹脂混合工程と、
前記樹脂混合工程により得られたラテックスに、剪断応力を与える剪断工程と、
前記剪断工程の後、ラテックス中から、重合体微粒子(A)および樹脂(B)を含有する凝集体である樹脂組成物と水成分とを分離する第1の分離工程と、を含み、
前記重合体微粒子(A)と前記樹脂(B)との合計を100重量%とした場合に、前記重合体微粒子(A)が1~70重量%、前記樹脂(B)が30~99重量%である、樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
さらに、前記第1の分離工程において凝集体を分離した水成分から、重合体微粒子(A)および樹脂(B)を含有する凝集体である樹脂組成物を凝集させる凝集工程と、
前記凝集工程の後、重合体微粒子(A)および樹脂(B)を含有する凝集体である樹脂組成物と水成分とを分離する第2の分離工程と、を含む、請求項1に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
前記凝集工程は、前記第1の分離工程において凝集体を分離した水成分を凍結させる工程を含む、請求項2に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
構成単位として、芳香族ビニル単量体、ビニルシアン単量体、および(メタ)アクリレート単量体からなる群より選択される1種以上の単量体に由来する構成単位を含む重合体からなるグラフト部を有する重合体微粒子(A)を含むラテックスを、
1秒~20分未満の時間で凍結させる急速凍結工程と、
前記急速凍結工程により凍結したラテックスを解凍する解凍工程と、
前記急速凍結工程後のラテックスに、25℃において100mPa・s~1,000,000mPa・sの粘度を有する液体であるか、半固体であるか、または固体である樹脂(B)を混合する樹脂混合工程と、
前記解凍工程および樹脂混合工程の後、ラテックス中から、重合体微粒子(A)および樹脂(B)を含有する凝集体である樹脂組成物と水成分とを分離する分離工程と、
を含み、
前記重合体微粒子(A)と前記樹脂(B)との合計を100重量%とした場合に、前記重合体微粒子(A)が1~70重量%、前記樹脂(B)が30~99重量%である、樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
構成単位として、芳香族ビニル単量体、ビニルシアン単量体、および(メタ)アクリレート単量体からなる群より選択される1種以上の単量体に由来する構成単位を含む重合体からなるグラフト部を有する重合体微粒子(A)を含むラテックスに、25℃において100mPa・s~1,000,000mPa・sの粘度を有する液体であるか、半固体であるか、または固体である樹脂(B)を混合する樹脂混合工程と、
前記樹脂混合工程により得られた樹脂(B)が分散したラテックスを凍結させる凍結工程と、
前記凍結工程により凍結したラテックスを解凍する解凍工程と、
前記解凍工程の後、ラテックス中から、重合体微粒子(A)および樹脂(B)を含有する凝集体である樹脂組成物と水成分とを分離する分離工程と、
を含み、
前記重合体微粒子(A)と前記樹脂(B)との合計を100重量%とした場合に、前記重合体微粒子(A)が1~70重量%、前記樹脂(B)が30~99重量%である、樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
さらに、前記凍結工程の前に、前記樹脂混合工程により発生した凝集体を取り除く除去工程を含む、請求項5に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項7】
前記分離工程、第1の分離工程または第2の分離工程において、前記凝集体の含水量が、凝集体100重量%中、5重量%~60重量%に調整する工程を含む、請求項1,2,4,5のいずれか1項に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項8】
さらに、前記樹脂組成物を洗浄する洗浄工程を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項9】
構成単位として、芳香族ビニル単量体、ビニルシアン単量体、および(メタ)アクリレート単量体からなる群より選択される1種以上の単量体に由来する構成単位を含む重合体からなるグラフト部を有する重合体微粒子(A)と、
25℃において100mPa・s~1,000,000mPa・sの粘度を有する液体であるか、半固体であるか、または固体である樹脂(B)と、を含有し、
前記重合体微粒子(A)と前記樹脂(B)との合計を100重量%とした場合に、前記重合体微粒子(A)が1~70重量%、前記樹脂(B)が30~99重量%であり、
樹脂(B)中の重合体微粒子(A)の含有量を5重量%とした場合の、樹脂(B)中における重合体微粒子(A)の分散性が、グラインドゲージを用いてJIS K5101に従い評価したとき、0μm以下であり、
有機溶剤を実質的に含むものではなく、
元素SおよびPの含有量が、いずれも150ppm以下であり、
電気伝導度が0.6mS/cm以下であり、
前記樹脂(B)は、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリオール樹脂およびアミノ-ホルムアルデヒド樹脂(メラミン樹脂)からなる群より選択される少なくとも1種である、樹脂組成物。
【請求項10】
さらに、元素Ca、Mg、Fe、Zn、BaおよびAlの含有量が、いずれも100ppm以下である、請求項9に記載の樹脂組成物。
【請求項11】
前記重合体微粒子(A)は、弾性体と、当該弾性体に対してグラフト結合された前記グラフト部と、を有するゴム含有グラフト共重合体である、請求項9または10に記載の樹脂組成物。
【請求項12】
前記弾性体は、ジエン系ゴム、(メタ)アクリレート系ゴムおよびポリシロキサンゴム系弾性体からなる群より選択される1種以上を含むものである、請求項11に記載の樹脂組成物。
【請求項13】
前記樹脂(B)は、熱硬化性樹脂を含むものである、請求項9~12のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物の製造方法および樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
熱硬化性樹脂は高い耐熱性、機械的強度などの種々の優れた性質を持つため、様々な分野で使用されている。熱硬化性樹脂の中でもエポキシ樹脂は、例えば、電子回路封止剤、塗料、接着剤及び繊維強化材料のマトリクス樹脂として幅広い用途に用いられている。エポキシ樹脂は耐熱性、耐薬品性、絶縁性などに優れているが、熱硬化性樹脂の特徴である耐衝撃性が不十分という問題を有している。熱硬化性樹脂の耐衝撃性を改善するために、熱硬化性樹脂にエラストマーを添加する方法が広く用いられている。
【0003】
前記エラストマーとしては、重合体微粒子(例えば架橋重合体微粒子)が挙げられる。重合体微粒子と熱硬化性樹脂(例えばエポキシ樹脂)とを単に混合することは容易である。混合方法としては、例えば、1μmより小さい粒子径を有する重合体微粒子を幾つか集めて、1μm以上の粒子径を有する重合体微粒子の粉粒体を作製した後、当該粉粒体と熱硬化性樹脂とを機械的に混合する方法が挙げられる。なお、このように重合体微粒子を幾つか集めて作製された重合体微粒子の粉粒体を2次粒子といい、粉粒体となる前の、1μmより小さい粒子径を有する重合体微粒子そのものを1次粒子ともいう。上述の混合方法により、熱硬化性樹脂中に、重合体微粒子の2次粒子を分散させることは可能である。しかしながら、1μmより小さい粒子径を有する重合体微粒子の1次粒子を熱硬化性樹脂に分散させることは、工業レベルでは非常に難しい。
【0004】
上述のように、重合体微粒子の2次粒子(粉粒体)と熱硬化性樹脂とを機械的に混合して樹脂組成物を得る場合、樹脂組成物中で重合体微粒子の1次粒子同士は凝集したままである。そのため、得られた樹脂組成物を硬化させて得られる硬化物の表面外観が非常に悪いという問題がある。そのため、熱硬化性樹脂へ重合体微粒子を1次粒子の状態で分散させる各種の製造方法が提案されている。
【0005】
特許文献1には、溶剤を使用して重合性有機化合物(H)(熱硬化性樹脂)へゴム状重合体粒子(A)(重合体微粒子)を分散させる製造方法が開示されている。
【0006】
特許文献2には、脱水樹脂を利用することにより、溶剤を使用することなく、エポキシ基を含有する化合物(熱硬化性樹脂)へ架橋ゴム状共重合体(重合体微粒子)を分散させる製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開公報「WO2005/028546号」
【文献】日本国公開特許公報「特開平5-339471号」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述のような従来技術は、環境負荷または樹脂組成物中の重合体微粒子の分散性の観点からは、十分なものでなく、さらなる改善の余地があった。また、ラテックスから重合体微粒子を回収する際に、溶剤を用いたり、無機塩等を用いた塩析を行ったりする場合、環境負荷の問題や不純物が含まれてしまう等の問題があった。
【0009】
本発明の一実施形態は、前記問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、環境負荷が小さく、また不純物が少ない、かつ重合体微粒子の分散性に優れる、新規の樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意検討した結果、重合体微粒子を含むラテックスから重合体微粒子を回収するにあたり、(i)ラテックスを凍結させる工程、および/または、(ii)ラテックスを剪断する工程、を行うことにより、乳化効果を弱めることができ、溶剤や無機塩等の凝固剤を用いることなく、重合体微粒子を回収できるという新規知見を見出した。さらに、かかる方法で得られた重合体微粒子を含む樹脂組成物は、マトリクス樹脂に混合した際に良好な分散性を示すことを独自に見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち本発明の一実施形態は、以下の構成を含むものである。
【0012】
重合体微粒子(A)を含むラテックスを、急速に凍結させる急速凍結工程と、前記急速凍結工程により凍結したラテックスを解凍する解凍工程と、前記急速凍結工程後のラテックスに、25℃において100mPa・s~1,000,000mPa・sの粘度を有する液体であるか、半固体であるか、または固体である樹脂(B)を混合する樹脂混合工程と、前記解凍工程および樹脂混合工程の後、ラテックス中から、重合体微粒子(A)および樹脂(B)を含有する凝集体である樹脂組成物と水成分とを分離する分離工程と、を含む樹脂組成物の製造方法。
【0013】
重合体微粒子(A)を含むラテックスに、25℃において100mPa・s~1,000,000mPa・sの粘度を有する液体であるか、半固体であるか、または固体である樹脂(B)を混合する樹脂混合工程と、前記樹脂混合工程により得られた樹脂(B)が分散したラテックスを凍結させる凍結工程と、前記凍結工程により凍結したラテックスを解凍する解凍工程と、前記解凍工程の後、ラテックス中から、重合体微粒子(A)および樹脂(B)を含有する凝集体である樹脂組成物と水成分とを分離する分離工程と、を含む樹脂組成物の製造方法。
【0014】
重合体微粒子(A)を含むラテックスに、25℃において100mPa・s~1,000,000mPa・sの粘度を有する液体であるか、半固体であるか、または固体である樹脂(B)を混合する樹脂混合工程と、前記樹脂混合工程により得られたラテックスに、剪断応力を与える剪断工程と、前記剪断工程の後、ラテックス中から、重合体微粒子(A)および樹脂(B)を含有する凝集体である樹脂組成物と水成分とを分離する第1の分離工程と、を含む、樹脂組成物の製造方法。
【0015】
構成単位として、芳香族ビニル単量体、ビニルシアン単量体、および(メタ)アクリレート単量体からなる群より選択される1種以上の単量体に由来する構成単位を含む重合体からなるグラフト部を有する重合体微粒子(A)と、25℃において100mPa・s~1,000,000mPa・sの粘度を有する液体であるか、半固体であるか、または固体である樹脂(B)と、を含有し、前記重合体微粒子(A)と前記樹脂(B)との合計を100重量%とした場合に、前記重合体微粒子(A)が1~70重量%、前記樹脂(B)が30~99重量%であり、樹脂(B)中の重合体微粒子(A)の含有量を5重量%とした場合の、樹脂(B)中における重合体微粒子(A)の分散性が、グラインドゲージを用いてJIS K5101に従い評価したとき、0μm以下であり、有機溶剤を実質的に含むものではなく、元素SおよびPの含有量が、いずれも150ppm以下であり、電気伝導度が0.6mS/cm以下である、樹脂組成物。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一実施形態によれば、環境負荷が小さく、不純物が少なく、かつ重合体微粒子の分散性に優れる樹脂組成物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の一実施形態について以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明は、以下に説明する各構成に限定されるものではなく、請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能である。また、異なる実施形態または実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態または実施例についても、本発明の技術的範囲に含まれる。さらに、各実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を組み合わせることにより、新しい技術的特徴を形成することができる。なお、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。また、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上(Aを含みかつAより大きい)B以下(Bを含みかつBより小さい)」を意図する。
【0018】
〔1.樹脂組成物の製造方法(凍結工程を含む実施形態1)〕
本発明の一実施形態に係る樹脂組成物の製造方法は、重合体微粒子(A)を含むラテックスを、急速に凍結させる急速凍結工程と、前記急速凍結工程により凍結したラテックスを解凍する解凍工程と、前記急速凍結工程後のラテックスに、25℃において1,000,000mPa・s以下の粘度を持つ樹脂(B)を混合する樹脂混合工程と、前記解凍工程および樹脂混合工程の後、ラテックス中から、重合体微粒子(A)および樹脂(B)を含有する凝集体である樹脂組成物と水成分とを分離する分離工程と、を含む製造方法である。本発明の一実施形態に係る樹脂組成物の製造方法を、以下、単に本製造方法と称する場合もある。
【0019】
本発明者は、重合体微粒子(A)を含むラテックスを急速に凍結させることにより、重合体微粒子(A)同士の凝集より、水の凍結速度が速くなるため、重合体微粒子(A)が緩く凝集した緩凝集体ができることを見出した。この重合体微粒子(A)が緩く凝集した緩凝集体に、樹脂(B)を添加し混合することにより、重合体微粒子(A)が樹脂(B)に均一分散した凝集体が得られる。一方、重合体微粒子(A)を含むラテックスをゆっくり凍結すると、重合体微粒子(A)同士が固く凝集してしまい、その後、樹脂(B)と混合しても重合体微粒子(A)が樹脂(B)に均一分散した凝集体が得られ難いため、好ましくない。すなわち、本製造方法においては、凍結速度が速いことが重要といえる。
【0020】
本製造方法によれば、凝固剤等の塩を使用しないため、低夾雑物(低不純物)の凝集体を得ることができる。また、有機溶剤を使用しないため、環境負荷が小さい。加えて、凍結工程を行うことにより、重合体微粒子(A)等の凝集体と水成分とを効率よく分離できるため、重合体微粒子(A)を高収率で回収できる。また、凝集体への乳化剤の巻き込みが少なくでき、乳化剤由来物質(不純物)の含有量が少ない凝集体が得ることができる。
【0021】
以下、本製造方法の各工程について詳説した後、重合体微粒子(A)、樹脂(B)等について説明する。
【0022】
(1-1.急速凍結工程)
急速凍結工程は、重合体微粒子(A)を含むラテックスを、急速に凍結させる工程である。本工程は、ラテックス中の重合体微粒子(A)を凝集させるための工程である。本明細書において「急速に凍結」とは、1秒~20分未満でラテックスを凍らせることを意図する。本工程では、5秒~15分の時間でラテックスを凍結させることが好ましく、15秒~10分の時間であることがより好ましく、20秒~5分の時間であることがさらに好ましい。
【0023】
重合体微粒子(A)を含むラテックスを急速に凍結させる具体的な方法については特に限定されず、瞬間冷凍、急速冷凍に関する種々の技術を利用できる。例えば、-80℃~-10℃に冷却した金属面にラテックスを接触させる方法、スプレークーラーを用いてラテックスを冷気中に噴霧することにより、瞬間的に冷却・凝固させる方法、液体窒素、冷却したアルコール等の溶剤にラテックスを入れる方法、ドライアイスやコールドストーンにラテックスを接触させる方法等を好ましく例示できる。
【0024】
なお、本明細書において「凍結」とは、ラテックスが固体になった状態を意図する。本工程では、一部のラテックスが固体になっていれば好ましく、50%以上のラテックスが固体になっていることが好ましく、より好ましくは70%以上のラテックスが固体になっている状態であり、より好ましくは80%以上のラテックスが固体になっている状態であり、より好ましくは90%以上のラテックスが固体になっている状態であり、さらに好ましくは98%以上のラテックスが固体になっている状態であり、最も好ましくはラテックスが100%固体になっている状態である。
【0025】
急速凍結は、ラテックス温度が低下する過程で最大氷結晶生成温度帯(-1℃~-5℃の間)を短時間のうちに通過するような方法であり、氷の結晶が100μm以下であることを意味する。本工程では、50μm以下であることが好ましく、より好ましくは30μm以下であり、より好ましくは15μm以下で、より好ましくは5μm以下である。さらに好ましくは1μm以下、0.8μm以下、0.5μm以下、0.3μm以下、0.2μm以下であり、特に好ましくは0.1μm以下である。
【0026】
また、凍結後、後述する解凍工程を実施するまでの期間は、特に限定されないが、凍結後、2週間以内、1週間以内、2日以内、1日以内であることが好ましく、より好ましくは、凍結工程後、遅滞なく解凍工程を実施することである。凍結した状態の保管期間が短いほど、氷の結晶の成長を抑制でき、得られる重合体微粒子(A)の分散性が良好となる。
【0027】
(1-2.解凍工程)
解凍工程は、前記急速凍結工程により凍結したラテックスを解凍する工程である。具体的な解凍方法については特に限定されず、公知の解凍技術を利用できる。例えば、冷凍されたラテックスを常温または加熱した加温庫で戻す方法、直接または間接的に蒸気を噴きかける方法、熱水をかける方法、湯せんする方法、加熱した金属面に接触させる方法、加熱した液体に投入する方法、マイクロ波を照射する方法を好ましく例示できる。生産性の観点から、押出機のような加熱した金属面に接触させる方法、加熱した液体に投入する方法が好ましい。また、解凍時間も特に限定されない。例えば、1秒~180分で行うことが好ましく、より好ましくは1秒~60分であり、さらに好ましくは1秒~30分で、特に好ましくは1秒~15分である。
【0028】
(1-3.樹脂混合工程)
樹脂混合工程は、前記急速凍結工程後のラテックスに、25℃において1,000,000mPa・s以下の粘度を持つ樹脂(B)を混合する工程である。本工程は、ラテックス中に樹脂(B)を添加して混ぜ合わせる工程である。
【0029】
樹脂混合工程は、前記解凍工程の前後のいずれの段階で実施してもよく、また、解凍工程と同時(解凍工程の途中段階)で実施してもよい。例えば、解凍工程の前に実施する場合は、凍ったラテックスに樹脂(B)を添加した後、ラテックスを解凍させ、ラテックスと樹脂(B)とを混合することができる。また解凍工程の後に実施する場合は、解凍されたラテックスに樹脂(B)を添加し混合すればよい。解凍工程の途中に実施する場合は、解凍中のラテックスに樹脂(B)を添加し混合する方法を挙げることができる。
【0030】
重合体微粒子(A)と樹脂(B)とを混合する方法は、種々の方法が利用でき、特に限定されない。例えば、重合体微粒子(A)の水性ラテックスに対して樹脂(B)を直接添加する方法もしくは樹脂(B)を溶解させた溶液状態にて重合体微粒子(A)の水性ラテックスに添加する方法などが挙げられる。
【0031】
また、重合体微粒子(A)と樹脂(B)とを混合する手段も、特に限定されない。例えば、重合体微粒子(A)を含むラテックスと樹脂(B)とを撹拌する、ニーダーで混練する、押出機で混練する、自転公転ミキサーで混合する等を挙げることができる。
【0032】
(1-4.分離工程)
分離工程は、前記解凍工程および樹脂混合工程の後、ラテックス中から、重合体微粒子(A)および樹脂(B)を含有する凝集体である樹脂組成物と水成分とを分離する工程である。上述した工程により発生した当該ラテックス中の水を取り除いて、前記重合体微粒子(A)および樹脂(B)を含む凝集体である樹脂組成物を得る工程とも換言できる。
【0033】
凝集体と水成分とを分離する方法については特に限定されない。例えば、ろ過、圧搾脱水等の方法が挙げられる。なお、水成分とは、水を主たる成分とするが、乳化剤、凝集しなかった重合体微粒子(A)、樹脂(B)等を含む混合物である。
【0034】
本分離工程においては、前記凝集体の含水量が、凝集体100重量%中、5重量%~60重量%に調整する工程を含むことが好ましい。凝集体の含水量をかかる範囲とすることにより、得られた樹脂組成物を熱硬化性樹脂に配合した際に、粘度が高くなり過ぎず、ハンドリングが容易になる。なお、本明細書中において、樹脂組成物の含水量は、水分測定装置を用いて測定された値とする。含水量の測定方法については、下記実施例にて詳述する。
【0035】
(1-5.洗浄工程)
本製造方法は、さらに、前記分離工程で得られた樹脂組成物を洗浄する洗浄工程を含むことが好ましい。凝集体である樹脂組成物を洗浄することにより、夾雑物等の含有量が少ない凝集体が得られる。洗浄工程は、水で洗浄することがより好ましく、イオン交換水または純水で洗浄することがさらに好ましい。
【0036】
洗浄工程は、樹脂組成物を洗浄する工程であればよく、具体的な方法について特に限定されない。例えば、樹脂組成物と水とを混合して攪拌機、ホモミキサー、高せん断乳化機等によりせん断を加えて撹拌する方法、樹脂組成物と水とをニーダーを用いて混練する方法、自転公転ミキサーで混合する方法等の方法を挙げることができる。ニーダーとしては、バッチ式ニーダー、連続式ニーダー、押出機等、各種利用できる。
【0037】
洗浄の時間は特に限定されず、例えば、1秒間~60分間を挙げることができるが、1秒間~45分間であることが好ましく、1秒間~30分間であることがより好ましい。
【0038】
洗浄の回数は特に限定されず、例えば、1~10回を挙げることができるが、1~6回であることが好ましく、1~4回であることがより好ましい。
【0039】
洗浄水の量は特に限定されず、例えば、樹脂組成物1重量部に対して、0.5重量部~1000重量部であることを挙げることができるが、1.0重量部~500重量部であることが好ましく、1.5重量部~200重量部であることがより好ましい。また、ニーダーを用いた混練により洗浄する場合、洗浄水を少なくできるため、より好ましい。
【0040】
洗浄水の温度も限定されず、例えば、常温のもの、加熱した温水を適宜使用し得る。温水の温度としては、例えば、10℃~100℃を挙げることができるが、15℃~90℃であることが好ましく、20℃~85℃であることがより好ましく、25℃~60℃であることが特に好ましい。洗浄効果は温水の方が高いため、加熱した洗浄水を使用することが好ましい。なお、樹脂組成物が熱で劣化する場合は、洗浄温度は低いほうが好ましく、また洗浄時間は短いほうが好ましい。
【0041】
また、洗浄した水を除く方法も限定されず、例えば、洗浄水の払い出し、減圧濾過、油水分離、圧搾脱水等の方法を挙げることができる。
【0042】
(その他の工程)
上述した工程以外に、得られた樹脂組成物を加熱し、脱揮・乾燥させる工程を備えていてもよい。かかる工程も種々の方法を利用でき、特に限定されない。例えば、加熱および真空脱揮等が挙げられる。
【0043】
(1-6.重合体微粒子(A))
重合体微粒子(A)は、重合により得られる微粒子であればよく、特に限定されない。重合体微粒子(A)としては、例えば、少なくとも、構成単位として、芳香族ビニル単量体、ビニルシアン単量体、および(メタ)アクリレート単量体からなる群より選択される1種以上の単量体に由来する構成単位を含む重合体からなるグラフト部を有するものであることが好ましい。重合体微粒子(A)は、グラフト共重合体ともいえる。
【0044】
(グラフト部)
本明細書において、任意の重合体に対してグラフト結合された重合体をグラフト部と称する。グラフト部は、構成単位として、芳香族ビニル単量体、ビニルシアン単量体、および(メタ)アクリレート単量体からなる群より選択される1種以上の単量体に由来する構成単位を含む重合体である。グラフト部は、前記構成を有するため、種々の役割を担うことができる。「種々の役割」とは、例えば、(a)重合体微粒子(A)と熱硬化性樹脂との相溶性を向上させること、(b)混合対象のマトリクス樹脂である熱硬化性樹脂における重合体微粒子(A)の分散性を向上させること、および(c)樹脂組成物またはその硬化物において重合体微粒子(A)を一次粒子の状態で分散させること、などである。
【0045】
芳香族ビニル単量体の具体例としては、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、およびジビニルベンゼンなどが挙げられる。
【0046】
ビニルシアン単量体の具体例としては、アクリロニトリル、およびメタクリロニトリルなどが挙げられる。
【0047】
(メタ)アクリレート単量体の具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、およびヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。本明細書において(メタ)アクリレートとは、アクリレートおよび/またはメタクリレートを意味する。
【0048】
上述した、芳香族ビニル単量体、ビニルシアン単量体、および(メタ)アクリレート単量体からなる群より選択される1種以上の単量体は、1種類のみが用いられてもよく、2種以上が組み合わせて用いられてもよい。
【0049】
グラフト部は、構成単位として、反応性基含有単量体に由来する構成単位を含むことが好ましい。前記反応性基含有単量体は、エポキシ基、オキセタン基、水酸基、アミノ基、イミド基、カルボン酸基、カルボン酸無水物基、環状エステル、環状アミド、ベンズオキサジン基、およびシアン酸エステル基からなる群から選択される1種以上の反応性基を含有する単量体であることが好ましく、エポキシ基、水酸基、およびカルボン酸基からなる群から選択される1種以上の反応性基を含有する単量体であることがより好ましい。前記構成によると、樹脂組成物中で重合体微粒子(A)のグラフト部と熱硬化性樹脂とを化学結合させることができる。これにより、樹脂組成物中またはその硬化物中で、重合体微粒子(A)を凝集させることなく、重合体微粒子(A)の良好な分散状態を維持することができる。
【0050】
エポキシ基を有する単量体の具体例としては、グリシジル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートグリシジルエーテル、およびアリルグリシジルエーテルなどが挙げられる。
【0051】
水酸基を有する単量体の具体例としては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシ直鎖アルキル(メタ)アクリレート(特に、ヒドロキシ直鎖C1-6アルキル(メタ)アクリレート);カプロラクトン変性ヒドロキシ(メタ)アクリレート;α-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、α-(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチルなどのヒドロキシ分岐アルキル(メタ)アクリレート;二価カルボン酸(フタル酸など)と二価アルコール(プロピレングリコールなど)とから得られるポリエステルジオール(特に飽和ポリエステルジオール)のモノ(メタ)アクリレートなどのヒドロキシル基含有(メタ)アクリレート類、などが挙げられる。
【0052】
カルボン酸基を有する単量体の具体例としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸およびクロトン酸などのモノカルボン酸、並びに、マレイン酸、フマル酸、およびイタコン酸などのジカルボン酸などが挙げられる。カルボン酸基を有する単量体としては、前記モノカルボン酸が好適に用いられる。
【0053】
上述した反応性基含有単量体は、1種類のみが用いられてもよく、2種以上が組み合わせて用いられてもよい。
【0054】
グラフト部は、グラフト部100重量%中、反応性基含有単量体に由来する構成単位を、0.5~90重量%含むことが好ましく、1~50重量%含むことがより好ましく、2~35重量%含むことがさらに好ましく、3~20重量%含むことが特に好ましい。グラフト部が、グラフト部100重量%中、反応性基含有単量体に由来する構成単位を、(a)0.5重量%以上含まれている場合、得られる樹脂組成物は、十分な耐衝撃性を有する硬化物を提供することができ、(b)90重量%以下含まれている場合、得られる樹脂組成物は、十分な耐衝撃性を有する硬化物を提供することができ、かつ、当該樹脂組成物の貯蔵安定性が良好となるという利点を有する。
【0055】
反応性基含有単量体に由来する構成単位は、グラフト部に含まれることが好ましく、グラフト部にのみ含まれることがより好ましい。
【0056】
グラフト部は、構成単位として、多官能性単量体に由来する構成単位を含んでいてもよい。グラフト部が、多官能性単量体に由来する構成単位を含む場合、(a)樹脂組成物中において重合体微粒子(A)の膨潤を防止することができる、(b)樹脂組成物の粘度が低くなるため、樹脂組成物の取扱い性が良好となる傾向がある、および(c)熱硬化性樹脂における重合体微粒子(A)の分散性が向上する、などの利点を有する。
【0057】
グラフト部が多官能性単量体に由来する構成単位を含まない場合、グラフト部が多官能性単量体に由来する構成単位を含む場合と比較して、得られる樹脂組成物は、靱性および耐衝撃性により優れる硬化物を提供することができる。
【0058】
多官能性単量体は、同一分子内にラジカル重合性反応基を2以上有する単量体ともいえる。前記ラジカル重合性反応基は、好ましくは炭素-炭素二重結合である。多官能性単量体としては、ブタジエンは含まれず、アリル(メタ)アクリレートのようなエチレン性不飽和二重結合を有する(メタ)アクリレートなどが例示される。(メタ)アクリル基を2つ有する単量体としては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、およびポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート類が挙げられる。前記ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート類としては、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(600)ジ(メタ)アクリレートなどが例示される。また、3つの(メタ)アクリレート基を有する単量体として、アルコキシレーテッドトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート類、グリセロールプロポキシトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレートなどが例示される。アルコキシレーテッドトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート類としては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリエトキシトリ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。さらに、4つの(メタ)アクリル基を有する単量体として、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、などが例示される。またさらに、5つの(メタ)アクリル基を有する単量体として、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートなどが例示される。またさらに、6つの(メタ)アクリル基を有する単量体として、ジトリメチロールプロパンヘキサ(メタ)アクリレートなどが例示される。
【0059】
上述の多官能性単量体の中でも、グラフト部の重合に好ましく用いられ得る多官能性単量体としては、アリルメタクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、およびポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート類が挙げられる。これら多官能性単量体は、1種類のみが用いられてもよく、2種以上が組み合わせて用いられてもよい。
【0060】
グラフト部は、グラフト部100重量%中、多官能性単量体に由来する構成単位を、1~20重量%含むことが好ましく、5~15重量%含むことがより好ましい。
【0061】
グラフト部は、構成単位として、上述した単量体に由来する構成単位の他に、他の単量体に由来する構成単位を含んでいてもよい。
【0062】
また、グラフト部は、後述する弾性体に対してグラフト結合された重合体であることが好ましい。
【0063】
(グラフト部のガラス転移温度)
グラフト部のガラス転移温度は、190℃以下が好ましく、160℃以下がより好ましく、140℃以下がより好ましく、120℃以下がより好ましく、80℃以下が好ましく、70℃以下がより好ましく、60℃以下がより好ましく、50℃以下がより好ましく、40℃以下がより好ましく、30℃以下がより好ましく、20℃以下がより好ましく、10℃以下がより好ましく、0℃以下がより好ましく、-20℃以下がより好ましく、-40℃以下がより好ましく、-45℃以下がより好ましく、-50℃以下がより好ましく、-55℃以下がより好ましく、-60℃以下がより好ましく、-65℃以下がより好ましく、-70℃以下がより好ましく、-75℃以下がより好ましく、-80℃以下がより好ましく、-85℃以下がより好ましく、-90℃以下がより好ましく、-95℃以下がより好ましく、-100℃以下がより好ましく、-105℃以下がより好ましく、-110℃以下がより好ましく、-115℃以下がより好ましく、-120℃以下がさらに好ましく、-125℃以下が特に好ましい。
【0064】
グラフト部のガラス転移温度は、0℃以上が好ましく、30℃以上がより好ましく、50℃以上がより好ましく、70℃以上がより好ましく、90℃以上がさらに好ましく、110℃以下であることが特に好ましい。
【0065】
グラフト部のTgは、グラフト部に含まれる構成単位の組成などによって、決定され得る。換言すれば、グラフト部を製造(重合)するときに使用する単量体の組成を変化させることにより、得られるグラフト部のTgを調整することができる。
【0066】
グラフト部のTgは、重合体微粒子からなる平面板を用いて、粘弾性測定を行うことによって得ることができる。具体的には、以下のようにしてTgを測定できる:(1)重合体微粒子からなる平面板について、動的粘弾性測定装置(例えば、アイティー計測制御株式会社製、DVA-200)を用いて、引張条件で動的粘弾性測定を行い、tanδのグラフを得る;(2)得られたtanδのグラフについて、tanδのピーク温度をガラス転移温度とする。ここで、tanδのグラフにおいて、複数のピークが得られた場合には、最も高いピーク温度をグラフト部のガラス転移温度とする。
【0067】
(グラフト部のグラフト率)
本発明の一実施形態において、重合体微粒子(A)は、グラフト部と同じ構成を有する重合体であり、かつ後述する弾性体に対してグラフト結合されていない重合体を有していてもよい。本明細書において、グラフト部と同じ構成を有する重合体であり、かつ弾性体に対してグラフト結合されていない重合体を、非グラフト重合体とも称する。当該非グラフト重合体も、本発明の一実施形態に係る重合体微粒子(A)の一部を構成するものとする。前記非グラフト重合体は、グラフト部の重合において製造された重合体のうち、後述する弾性体に対してグラフト結合していないものともいえる。
【0068】
本明細書において、グラフト部の重合において製造された重合体のうち、後述する弾性体に対してグラフト結合された重合体、すなわちグラフト部の割合を、グラフト率と称する。グラフト率は、(グラフト部の重量)/{(グラフト部の重量)+(非グラフト重合体の重量)}×100で表される値、ともいえる。
【0069】
グラフト部のグラフト率は、70%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。グラフト率が70%以上である場合、樹脂組成物の粘度が高くなりすぎないという利点を有する。
【0070】
本明細書において、グラフト率の算出方法は下記の通りである。先ず、重合体微粒子(A)を含有する水性ラテックスを得、次に、当該水性ラテックスから、重合体微粒子(A)の粉体を得る。水性ラテックスから重合体微粒子(A)の粉体を得る方法としては、具体的には、(i)前記水性ラテックス中の重合体微粒子(A)を凝析し、(ii)得られる凝析物を脱水し、(iii)さらに凝析物を乾燥することにより、重合体微粒子(A)の粉体を得る方法が挙げられる。次いで、重合体微粒子(A)の粉体2gをメチルエチルケトン(以下、MEKとも称する。)50mLに溶解する。その後、得られたMEK溶解物を、MEKに可溶な成分(MEK可溶分)とMEKに不溶な成分(MEK不溶分)とに分離する。具体的には、遠心分離機(日立工機(株)社製、CP60E)を用い、回転数30000rpmにて1時間、得られたMEK溶解物を遠心分離に供し、当該溶解物を、MEK可溶分とMEK不溶分とに分離する。ここで、遠心分離作業は合計3セット実施する。得られたMEK可溶分とMEK不溶分との重量を測定し、次式よりグラフト率を算出する。
グラフト率(%)={(メチルエチルケトン不溶分の重量)―(グラフト部以外の重合体の重量)}/(グラフト部以外の重合体の重量)×100
なお、グラフト部以外の重合体の重量は、グラフト部以外の重合体までを構成する単量体の仕込み量である。グラフト部以外の重合体は、例えば弾性体である。また、重合体微粒子(A)が後述する表面架橋重合体を含む場合、グラフト部以外の重合体は、弾性体および表面架橋重合体の両方を含む。また、グラフト率の算出において、重合体微粒子(A)を凝析する方法は特に限定されず、溶剤を用いる方法、凝析剤を用いる方法、水性ラテックスを噴霧する方法などが用いられ得る。
【0071】
(グラフト部の変形例)
本発明の一実施形態において、グラフト部は、同一の組成の構成単位を有する1種のグラフト部のみからなってもよい。本発明の一実施形態において、グラフト部は、それぞれ異なる組成の構成単位を有する複数種のグラフト部からなってもよい。
【0072】
本発明の一実施形態において、グラフト部が複数種のグラフト部からなる場合について説明する。この場合、複数種のグラフト部のそれぞれを、グラフト部1、グラフト部2、・・・、グラフト部nとする(nは2以上の整数)。グラフト部は、それぞれ別々に重合されたグラフト部1、グラフト部2、・・・、およびグラフト部nを混合して得られる混合物を含んでいてもよい。グラフト部は、グラフト部1、グラフト部2、・・・、およびグラフト部nをそれぞれ順に重合して得られる重合体を含んでいてもよい。このように、複数の重合体(グラフト部)をそれぞれ順に重合することを、多段重合とも称する。複数種のグラフト部を多段重合して得られる重合体を、多段重合グラフト部とも称する。多段重合グラフト部の製造方法については、後に詳述する。
【0073】
グラフト部が複数種のグラフト部からなる場合、これら複数種のグラフト部の全てが弾性体に対してグラフト結合されていなくてもよい。少なくとも1種のグラフト部の少なくとも一部が弾性体に対してグラフト結合されていればよく、その他の種(その他の複数種)のグラフト部は、弾性体に対してグラフト結合されているグラフト部にグラフト結合されていてもよい。また、グラフト部が複数種のグラフト部からなる場合、複数種のグラフト部と同じ構成を有する重合体であり、かつ弾性体に対してグラフト結合されていない複数種の重合体(複数種の非グラフト重合体)を有していてもよい。
【0074】
グラフト部1、グラフト部2、・・・、およびグラフト部nからなる多段重合グラフト部について説明する。当該多段重合グラフト部において、グラフト部nは、グラフト部n-1の少なくとも一部を被覆し得るか、またはグラフト部n-1の全体を被覆し得る。当該多段重合グラフト部において、グラフト部nの一部はグラフト部n-1の内側に入り込んでいることもある。
【0075】
多段重合グラフト部において、複数のグラフト部のそれぞれが、層構造を有していてもよい。例えば、多段重合グラフト部が、グラフト部1、グラフト部2、およびグラフト部3からなる場合、グラフト部1をグラフト部における最内層とし、グラフト部1の外側にグラフト部2の層が存在し、さらにグラフト部2の層の外側にグラフト部3の層が最外層として存在する態様も、本発明の一態様である。このように、複数のグラフト部のそれぞれが層構造を有する多段重合グラフト部は、多層グラフト部ともいえる。すなわち、本発明の一実施形態において、グラフト部は、複数種のグラフト部の混合物、多段重合グラフト部および/または多層グラフト部を含んでいてもよい。
【0076】
重合体微粒子(A)の製造において弾性体とグラフト部とがこの順で重合される場合、得られる重合体微粒子(A)において、グラフト部の少なくとも一部分は、弾性体の少なくとも一部分を被覆し得る。弾性体とグラフト部とがこの順で重合されるとは、換言すれば、弾性体とグラフト部とが多段重合されるともいえる。弾性体とグラフト部とを多段重合して得られる重合体微粒子(A)は、多段重合体ともいえる。
【0077】
重合体微粒子(A)が多段重合体である場合、グラフト部は弾性体の少なくとも一部を被覆し得るか、または弾性体の全体を被覆し得る。重合体微粒子(A)が多段重合体である場合、グラフト部の一部は弾性体の内側に入り込んでいることもある。
【0078】
重合体微粒子(A)が多段重合体である場合、弾性体およびグラフト部が、層構造を有していてもよい。例えば、弾性体を最内層(コア層とも称する。)とし、弾性体の外側にグラフト部の層が最外層(シェル層とも称する。)として存在する態様も、本発明の一態様である。弾性体をコア層とし、グラフト部をシェル層とする構造はコアシェル構造ともいえる。このように、弾性体およびグラフト部が層構造(コアシェル構造)を有する重合体微粒子(A)は、多層重合体またはコアシェル重合体ともいえる。すなわち、本発明の一実施形態において、重合体微粒子(A)は、多段重合体であってもよく、かつ/または、多層重合体もしくはコアシェル重合体であってもよい。ただし、グラフト部を有している限り、重合体微粒子(A)は前記構成に制限されるわけではない。
【0079】
グラフト部の少なくとも一部分は、弾性体の少なくとも一部分を被覆していることが好ましい。換言すれば、グラフト部の少なくとも一部分は、重合体微粒子(A)の最も外側に存在することが好ましい。
【0080】
(弾性体)
重合体微粒子(A)は、さらに弾性体を有するものであることが好ましい。すなわち、重合体微粒子(A)は、弾性体と、当該弾性体に対してグラフト結合されたグラフト部と、を有するゴム含有グラフト共重合体であることが好ましい。以下、重合体微粒子(A)がゴム含有グラフト共重合体である場合を例に挙げて、本発明の一実施形態を説明する。
【0081】
当該弾性体は、ジエン系ゴム、(メタ)アクリレート系ゴムおよびポリシロキサンゴム系弾性体からなる群より選択される1種以上を含むことが好ましい。弾性体は、ゴム粒子と言い換えることもできる。
【0082】
重合体微粒子(A)がジエン系ゴムを含む場合(場合A)について説明する。場合Aにおいて、弾性体がジエン系ゴムを含む場合、得られる樹脂組成物は、靱性および耐衝撃性に優れる硬化物を提供することができる。
【0083】
前記ジエン系ゴムは、構成単位として、ジエン系単量体に由来する構成単位を含む弾性体である。前記ジエン系単量体は、共役ジエン系単量体と言い換えることもできる。場合Aにおいて、ジエン系ゴムは、構成単位100重量%中、ジエン系単量体に由来する構成単位を50~100重量%、およびジエン系単量体と共重合可能なジエン系単量体以外のビニル系単量体に由来する構成単位を0~50重量%、含むものであってもよい。場合Aにおいて、ジエン系ゴムは、構成単位として、ジエン系単量体に由来する構成単位よりも少ない量において、(メタ)アクリレート系単量体に由来する構成単位を含んでいてもよい。
【0084】
ジエン系単量体としては、例えば、1,3-ブタジエン、イソプレン(2-メチル-1,3-ブタジエン)、2-クロロ-1,3-ブタジエンなどが挙げられる。これらの単量体は、1種類のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0085】
ジエン系単量体と共重合可能なジエン系単量体以外のビニル系単量体(以下、ビニル系単量体A、とも称する。)としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレンなどのビニルアレーン類;アクリル酸、メタクリル酸などのビニルカルボン酸類;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのビニルシアン類;塩化ビニル、臭化ビニル、クロロプレンなどのハロゲン化ビニル類;酢酸ビニル;エチレン、プロピレン、ブチレン、イソブチレンなどのアルケン類;ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、ジビニルベンゼンなどの多官能性単量体、などが挙げられる。上述した、ジエン系単量体以外のビニル系単量体は、1種類のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。上述した、ジエン系単量体以外のビニル系単量体の中でも、特に好ましくはスチレンである。なお、場合Aにおけるジエン系ゴムにおいて、ジエン系単量体以外のビニル系単量体に由来する構成単位は任意成分である。場合Aにおいて、ジエン系ゴムは、ジエン系単量体に由来する構成単位のみから構成されてもよい。
【0086】
場合Aにおいて、ジエン系ゴムとしては、1,3-ブタジエンに由来する構成単位からなるブタジエンゴム(ポリブタジエンゴムとも称する。)、または、1,3-ブタジエンとスチレンとの共重合体であるブタジエン-スチレンゴム(ポリスチレン-ブタジエンとも称する。)が好ましく、ブタジエンゴムがより好ましい。前記構成によると、重合体微粒子(A)がジエン系ゴムを含むことによる所望の効果がより発揮され得る。また、ブタジエン-スチレンゴムは、屈折率の調整により、得られる硬化物の透明性を高めることができる点においても、より好ましい。
【0087】
弾性体が(メタ)アクリレート系ゴムを含む場合(場合B)について説明する。場合Bでは、多種の単量体の組合せにより、弾性体の幅広い重合体設計が可能となる。
【0088】
前記(メタ)アクリレート系ゴムは、構成単位として、(メタ)アクリレート系単量体に由来する構成単位を含む弾性体である。場合Bにおいて、(メタ)アクリレート系ゴムは、構成単位100重量%中、(メタ)アクリレート系単量体に由来する構成単位を50~100重量%、および(メタ)アクリレート系単量体と共重合可能な(メタ)アクリレート系単量体以外のビニル系単量体に由来する構成単位を0~50重量%、含むものであってもよい。場合Bにおいて、(メタ)アクリレート系ゴムは、構成単位として、(メタ)アクリレート系単量体に由来する構成単位よりも少ない量において、ジエン系単量体に由来する構成単位を含んでいてもよい。
【0089】
(メタ)アクリレート系単量体としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレート類;フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートなどの芳香環含有(メタ)アクリレート類;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類;グリシジル(メタ)アクリレート、グリシジルアルキル(メタ)アクリレートなどのグリシジル(メタ)アクリレート類;アルコキシアルキル(メタ)アクリレート類;アリル(メタ)アクリレート、アリルアルキル(メタ)アクリレートなどのアリルアルキル(メタ)アクリレート類;モノエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレートなどの多官能性(メタ)アクリレート類などが挙げられる。これらの(メタ)アクリレート系単量体は、1種類のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの(メタ)アクリレート系単量体の中でも、特に好ましくは、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、および2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートである。
【0090】
(メタ)アクリレート系単量体と共重合可能な(メタ)アクリレート系単量体以外のビニル系単量体(以下、(メタ)アクリレート系単量体以外のビニル系単量体、とも称する。)としては、前記ビニル系単量体Aにおいて列挙した単量体が挙げられる。(メタ)アクリレート系単量体以外のビニル系単量体は、1種類のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。(メタ)アクリレート系単量体以外のビニル系単量体の中でも、特に好ましくはスチレンである。なお、場合Bにおける(メタ)アクリレート系ゴムにおいて、(メタ)アクリレート系単量体以外のビニル系単量体に由来する構成単位は任意成分である。場合Bにおいて、(メタ)アクリレート系ゴムは、(メタ)アクリレート系単量体に由来する構成単位のみから構成されてもよい。
【0091】
弾性体がポリシロキサンゴム系弾性体を含む場合(場合C)について説明する。場合Cにおいて、得られる樹脂組成物は、十分な耐熱性を有し、かつ低温での耐衝撃性に優れる硬化物を提供することができる。
【0092】
ポリシロキサンゴム系弾性体としては、例えば、(a)ジメチルシリルオキシ、ジエチルシリルオキシ、メチルフェニルシリルオキシ、ジフェニルシリルオキシ、ジメチルシリルオキシ-ジフェニルシリルオキシなどの、アルキルもしくはアリール2置換シリルオキシ単位から構成されるポリシロキサン系重合体、(b)側鎖のアルキルの一部が水素原子に置換されたオルガノハイドロジェンシリルオキシなどの、アルキルもしくはアリール1置換シリルオキシ単位から構成されるポリシロキサン系重合体、が挙げられる。これらのポリシロキサン系重合体は、1種類のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのポリシロキサン系重合体の中でも、(a)得られる樹脂組成物が耐熱性に優れる硬化物を提供することができることから、ジメチルシリルオキシ単位、メチルフェニルシリルオキシ単位、および/またはジメチルシリルオキシ-ジフェニルシリルオキシ単位から構成される重合体が好ましく、(b)容易に入手できて経済的でもあることから、ジメチルシリルオキシ単位から構成される重合体が最も好ましい。
【0093】
場合Cにおいて、重合体微粒子(A)は、重合体微粒子(A)に含まれる弾性体100重量%中、ポリシロキサンゴム系弾性体を80重量%以上含有していることが好ましく、90重量%以上含有していることがより好ましい。前記構成によると、得られる樹脂組成物は、耐熱性に優れる硬化物を提供することができる。
【0094】
弾性体は、ジエン系ゴム、(メタ)アクリレート系ゴムおよびポリシロキサンゴム系弾性体以外の弾性体をさらに含んでいてもよい。ジエン系ゴム、(メタ)アクリレート系ゴムおよびポリシロキサンゴム系弾性体以外の弾性体としては、例えば天然ゴムが挙げられる。
【0095】
(弾性体の架橋構造)
重合体微粒子(A)の熱硬化性樹脂中での分散安定性を保持する観点から、弾性体には、架橋構造が導入されていることが好ましい。弾性体に対する架橋構造の導入方法としては、一般的に用いられる手法を採用することができ、例えば以下の方法が挙げられる。すなわち、弾性体の製造において、弾性体を構成し得る単量体に、多官能性単量体および/またはメルカプト基含有化合物などの架橋性単量体を混合し、次いで重合する方法が挙げられる。本明細書において、弾性体など重合体を製造することを、重合体を重合する、とも称する。
【0096】
また、ポリシロキサンゴム系弾性体に架橋構造を導入する方法としては、次のような方法も挙げられる:(a)ポリシロキサンゴム系弾性体を重合するときに、多官能性のアルコキシシラン化合物を他の材料と共に一部併用する方法、(b)ビニル反応性基、メルカプト基などの反応性基をポリシロキサンゴム系弾性体に導入し、その後ビニル重合性の単量体または有機過酸化物などを添加してラジカル反応させる方法、または、(c)ポリシロキサンゴム系弾性体を重合するときに、多官能性単量体および/またはメルカプト基含有化合物などの架橋性単量体を他の材料と共に混合し、次いで重合を行う方法、など。
【0097】
多官能性単量体としては、上述した(グラフト部)の項で例示した多官能性単量体が挙げられる。
【0098】
メルカプト基含有化合物としては、アルキル基置換メルカプタン、アリル基置換メルカプタン、アリール基置換メルカプタン、ヒドロキシ基置換メルカプタン、アルコキシ基置換メルカプタン、シアノ基置換メルカプタン、アミノ基置換メルカプタン、シリル基置換メルカプタン、酸基置換メルカプタン、ハロ基置換メルカプタンおよびアシル基置換メルカプタン等が挙げられる。アルキル基置換メルカプタンとしては、炭素数1~20のアルキル基置換メルカプタンが好ましく、炭素数1~10のアルキル基置換メルカプタンがより好ましい。アリール基置換メルカプタンとしては、フェニル基置換メルカプタンが好ましい。アルコキシ基置換メルカプタンとしては、炭素数1~20のアルコキシ基置換メルカプタンが好ましく、炭素数1~10のアルコキシ基置換メルカプタンがより好ましい。酸基置換メルカプタンとしては、好ましくは、カルボキシル基を有する炭素数1~10のアルキル基置換メルカプタン、または、カルボキシル基を有する炭素数1~12のアリール基置換メルカプタン、である。
【0099】
(弾性体のガラス転移温度)
弾性体のガラス転移温度は、80℃以下が好ましく、70℃以下がより好ましく、60℃以下がより好ましく、50℃以下がより好ましく、40℃以下がより好ましく、30℃以下がより好ましく、20℃以下がより好ましく、10℃以下がより好ましく、0℃以下がより好ましく、-20℃以下がより好ましく、-40℃以下がより好ましく、-45℃以下がより好ましく、-50℃以下がより好ましく、-55℃以下がより好ましく、-60℃以下がより好ましく、-65℃以下がより好ましく、-70℃以下がより好ましく、-75℃以下がより好ましく、-80℃以下がより好ましく、-85℃以下がより好ましく、-90℃以下がより好ましく、-95℃以下がより好ましく、-100℃以下がより好ましく、-105℃以下がより好ましく、-110℃以下がより好ましく、-115℃以下がより好ましく、-120℃以下がさらに好ましく、-125℃以下が特に好ましい。本明細書において、「ガラス転移温度」を「Tg」と称する場合もある。当該構成によると、低いTgを有する粉粒体を得ることができる。その結果、得られる粉粒体を含む樹脂組成物は、優れた靱性を有する硬化物または成形体を提供できる。弾性体のTgは、弾性体からなる平面板を用いて、粘弾性測定を行うことによって得ることができる。具体的には、以下のようにしてTgを測定できる:(1)弾性体からなる平面板について、動的粘弾性測定装置(例えば、アイティー計測制御株式会社製、DVA-200)を用いて、引張条件で動的粘弾性測定を行い、tanδのグラフを得る;(2)得られたtanδのグラフについて、tanδのピーク温度をガラス転移温度とする。ここで、tanδのグラフにおいて、複数のピークが得られた場合には、最も低いピーク温度を弾性体のガラス転移温度とする。
【0100】
一方、得られる硬化物の弾性率(剛性)の低下を抑制することができる、すなわち十分な弾性率(剛性)を有する硬化物が得られることから、弾性体のTgは、0℃よりも大きいことが好ましく、20℃以上であることがより好ましく、50℃以上であることがさらに好ましく、80℃以上であることが特に好ましく、120℃以上であることが最も好ましい。
【0101】
弾性体のTgは、弾性体に含まれる構成単位の組成などによって、決定され得る。換言すれば、弾性体を製造(重合)するときに使用する単量体の組成を変化させることにより、得られる弾性体のTgを調整することができる。
【0102】
ここで、1種類の単量体のみを重合させてなる単独重合体としたとき、0℃よりも大きいTgを有する単独重合体を提供する単量体の群を、単量体群aとする。また、1種類の単量体のみを重合させてなる単独重合体としたとき、0℃未満のTgを有する単独重合体を提供する単量体の群を、単量体群bとする。単量体群aから選択される少なくとも1種の単量体に由来する構成単位を50~100重量%(より好ましくは、65~99重量%)、および単量体群bから選択される少なくとも1種の単量体に由来する構成単位を0~50重量%(より好ましくは、1~35重量%)含む弾性体を、弾性体Xとする。弾性体Xは、Tgが0℃よりも大きい。また、弾性体が弾性体Xを含む場合、得られる樹脂組成物は、十分な剛性を有する硬化物を提供することができる。
【0103】
弾性体のTgが0℃よりも大きい場合も、弾性体に架橋構造が導入されていることが好ましい。架橋構造の導入方法としては、前記の方法が挙げられる。
【0104】
前記単量体群aに含まれ得る単量体としては、以下に限るものではないが、例えば、スチレン、2-ビニルナフタレンなどの無置換ビニル芳香族化合物類;α―メチルスチレンなどのビニル置換芳香族化合物類;3-メチルスチレン、4-メチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、2,5-ジメチルスチレン、3,5-ジメチルスチレン、2,4,6―トリメチルスチレンなどの環アルキル化ビニル芳香族化合物類;4-メトキシスチレン、4-エトキシスチレンなどの環アルコキシル化ビニル芳香族化合物類;2-クロロスチレン、3―クロロスチレンなどの環ハロゲン化ビニル芳香族化合物類;4-アセトキシスチレンなどの環エステル置換ビニル芳香族化合物類;4-ヒトロキシスチレンなどの環ヒドロキシル化ビニル芳香族化合物類;ビニルベンゾエート、ビニルシクロヘキサノエートなどのビニルエステル類;塩化ビニルなどのビニルハロゲン化物類;アセナフタレン、インデンなどの芳香族単量体類;メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、イソプロピルメタクリレートなどのアルキルメタクリレート類;フェニルメタクリレートなどの芳香族メタクリレート;イソボルニルメタクリレート、トリメチルシリルメタクリレートなどのメタクリレート類;メタクリロニトリルなどのメタクリル酸誘導体を含むメタクリル単量体;イソボルニルアクリレート、tert-ブチルアクリレートなどのある種のアクリル酸エステル;アクリロニトリルなどのアクリル酸誘導体を含むアクリル単量体、などが挙げられる。さらに、前記単量体群aに含まれ得る単量体としては、アクリルアミド、イソプロピルアクリルアミド、N-ビニルピロリドン、イソボルニルメタクリレート、ジシクロペンタニルメタクリレート、2-メチル-2-アダマンチルメタクリレート、1-アダマンチルアクリレート及び1-アダマンチルメタクリレート、など、単独重合体としたとき120℃以上のTgを有する単独重合体を提供し得る単量体が挙げられる。これらの単量体aは、1種類のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0105】
前記単量体bとしては、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレートなどが挙げられる。これらの単量体bは、1種類のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの単量体bの中でも、特に好ましくは、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、および2-エチルヘキシルアクリレートである。
【0106】
(弾性体の体積平均粒子径)
弾性体の体積平均粒子径は、0.03μm~50.00μmが好ましく、0.05μm~10.00μmがより好ましく、0.08μm~2.00μmがより好ましく、0.10μm~1.00μmがさらに好ましく、0.10μm~0.80μmがよりさらに好ましく、0.10μm~0.50μmが特に好ましい。弾性体の体積平均粒子径が(a)0.03μm以上である場合、所望の体積平均粒子径を有する弾性体を安定的に得ることができ、(b)50.00μm以下である場合、得られる硬化物または成形体の耐熱性および耐衝撃性が良好となる。弾性体の体積平均粒子径は、弾性体を含む水性ラテックスを試料として、動的光散乱式粒子径分布測定装置などを用いて、測定することができる。弾性体の体積平均粒子径の測定方法については、下記実施例にて詳述する。
【0107】
(弾性体の割合)
重合体微粒子(A)中に占める弾性体の割合は、重合体微粒子(A)全体を100重量%として、40~97重量%が好ましく、60~95重量%がより好ましく、70~93重量%がさらに好ましい。弾性体の前記割合が、(a)40重量%以上である場合、得られる樹脂組成物は、靱性および耐衝撃性に優れる硬化物を提供することができ、(b)97重量%以下である場合、重合体微粒子(A)は容易には凝集しないため、樹脂組成物が高粘度となることがなく、その結果、得られる樹脂組成物は取り扱いに優れたものとなり得る。
【0108】
(弾性体のゲル含量)
弾性体は、適切な溶媒に対して膨潤し得るが、実質的には溶解しないものであることが好ましい。弾性体は、使用する熱硬化性樹脂に対して、不要であることが好ましい。
【0109】
弾性体は、ゲル含量が60重量%以上であることが好ましく、80重量%以上であることがより好ましく、90重量%以上であることがさらに好ましく、95重量%以上であることが特に好ましい。弾性体のゲル含量が前記範囲内である場合、得られる樹脂組成物は、靱性に優れる硬化物を提供できる。
【0110】
本明細書においてゲル含量の算出方法は下記の通りである。先ず、重合体微粒子(A)を含有する水性ラテックスを得、次に、当該水性ラテックスから、重合体微粒子(A)の粉粒体を得る。水性ラテックスから重合体微粒子(A)の粉粒体を得る方法としては、特に限定されないが、例えば、(i)当該水性ラテックス中の重合体微粒子(A)を凝集させ、(ii)得られる凝集物を脱水し、(iii)さらに凝集物を乾燥することにより、重合体微粒子(A)の粉粒体を得る方法が挙げられる。次いで、重合体微粒子(A)の粉粒体2.0gをメチルエチルケトン(MEK)50mLに溶解する。その後、得られたMEK溶解物を、MEKに可溶な成分(MEK可溶分)とMEKに不溶な成分(MEK不溶分)とに分離する。具体的には、遠心分離機(日立工機(株)社製、CP60E)を用い、回転数30000rpmにて1時間、得られたMEK溶解物を遠心分離に供し、当該溶解物を、MEK可溶分とMEK不溶分とに分離する。ここで、遠心分離作業は合計3セット実施する。得られたMEK可溶分とMEK不溶分との重量を測定し、次式よりゲル含量を算出する。
ゲル含量(%)=(メチルエチルケトン不溶分の重量)/{(メチルエチルケトン不溶分の重量)+(メチルエチルケトン可溶分の重量)}×100
(弾性体の変形例)
本発明の一実施形態において、弾性体は、ジエン系ゴム、(メタ)アクリレート系ゴムおよびポリシロキサンゴム系弾性体からなる群より選択される1種類であり、かつ同一の組成の構成単位を有する1種の弾性体のみからなってもよい。本発明の一実施形態において、弾性体は、それぞれ異なる組成の構成単位を有する複数種の弾性体からなってもよい。
【0111】
本発明の一実施形態において、弾性体が複数種の弾性体からなる場合について説明する。この場合、複数種の弾性体のそれぞれを、弾性体1、弾性体2、・・・、および弾性体nとする。ここで、nは2以上の整数である。弾性体は、それぞれ別々に重合された弾性体1、弾性体2、・・・、および弾性体nを混合して得られる混合物を含んでいてもよい。弾性体は、弾性体1、弾性体2、・・・、および弾性体nを多段重合して得られる重合体を含んでいてもよい。複数種の弾性体を多段重合して得られる重合体を、多段重合弾性体とも称する。多段重合弾性体の製造方法については、後に詳述する。
【0112】
弾性体1、弾性体2、・・・、および弾性体nからなる多段重合弾性体について説明する。当該多段重合弾性体において、弾性体nは、弾性体n-1の少なくとも一部を被覆し得るか、または弾性体n-1の全体を被覆し得る。当該多段重合弾性体において、弾性体nの一部は弾性体n-1の内側に入り込んでいることもある。
【0113】
多段重合弾性体において、複数の弾性体のそれぞれが、層構造を有していてもよい。例えば、多段重合弾性体が、弾性体1、弾性体2、および弾性体3からなる場合、弾性体1を最内層とし、弾性体1の外側に弾性体2の層が存在し、さらに弾性体2の層の外側に弾性体3の層が弾性体における最外層として存在する態様も、本発明の一態様である。このように、複数の弾性体のそれぞれが層構造を有する多段重合弾性体は、多層弾性体ともいえる。すなわち、本発明の一実施形態において、弾性体は、複数種の弾性体の混合物、多段重合弾性体および/または多層弾性体を含んでいてもよい。
【0114】
(表面架橋重合体)
重合体微粒子(A)は、弾性体、および、当該弾性体に対してグラフト結合されたグラフト部以外に、表面架橋重合体を有することが好ましい。前記構成によると、(a)重合体微粒子(A)の製造において、耐ブロッキング性を改善することができるとともに、(b)熱硬化性樹脂における重合体微粒子(A)の分散性がより良好となる。これらの理由としては、特に限定されないが、以下のように推測され得る:表面架橋重合体が弾性体の少なくとも一部を被覆することにより、重合体微粒子(A)の弾性体部分の露出が減り、その結果、弾性体同士が引っ付きにくくなるため、重合体微粒子(A)の分散性が向上する。
【0115】
重合体微粒子(A)が表面架橋重合体を有する場合、さらに以下の効果も有し得る:(a)本樹脂組成物の粘度を低下させる効果、(b)弾性体における架橋密度を上げる効果、および(c)グラフト部のグラフト効率を高める効果。弾性体における架橋密度とは、弾性体全体における架橋構造の数の程度を意味する。
【0116】
表面架橋重合体は、構成単位として、多官能性単量体に由来する構成単位を30~100重量%、およびその他のビニル系単量体に由来する構成単位を0~70重量%、合計100重量%含む重合体からなる。
【0117】
表面架橋重合体の重合に用いられ得る多官能性単量体としては、上述の多官能性単量体と同じ単量体が挙げられる。それら多官能性単量体の中でも、表面架橋重合体の重合に好ましく用いられ得る多官能性単量体としては、アリルメタクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、およびポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート類が挙げられる。これら多官能性単量体は、1種類のみが用いられてもよく、2種以上が組み合わせて用いられてもよい。
【0118】
重合体微粒子(A)は、ゴム含有グラフト共重合体の重合とは独立して重合された表面架橋重合体を含んでいてもよく、または、ゴム含有グラフト共重合体と共に重合された表面架橋重合体を含んでいてもよい。重合体微粒子(A)は、弾性体と表面架橋重合体とグラフト部とをこの順に多段重合して得られる多段重合体であってもよい。これらいずれの態様においても、表面架橋重合体は弾性体の少なくとも一部を被覆し得る。
【0119】
表面架橋重合体は、弾性体の一部とみなすこともできる。重合体微粒子(A)が表面架橋重合体を含む場合、グラフト部は、(a)表面架橋重合体以外の弾性体に対してグラフト結合されていてもよく、(b)表面架橋重合体に対してグラフト結合されていてもよく、(c)表面架橋重合体以外の弾性体および表面架橋重合体の両方に対してグラフト結合されていてもよい。重合体微粒子(A)が表面架橋重合体を含む場合、上述した弾性体の体積平均粒子径とは、表面架橋重合体を含む弾性体の体積平均粒子径を意図する。
【0120】
重合体微粒子(A)が、弾性体と表面架橋重合体とグラフト部とをこの順に多段重合して得られる多段重合体である場合(場合D)について説明する。場合Dにおいて、表面架橋重合体は、弾性体の一部を被覆し得るか、または弾性体の全体を被覆し得る。場合Dにおいて、表面架橋重合体の一部は弾性体の内側に入り込んでいることもある。場合Dにおいて、グラフト部は、表面架橋重合体の一部を被覆し得るか、または表面架橋重合体の全体を被覆し得る。場合Dにおいて、グラフト部の一部は表面架橋重合体の内側に入り込んでいることもある。場合Dにおいて、弾性体、表面架橋重合体およびグラフト部が、層構造を有していてもよい。例えば、弾性体を最内層(コア層)とし、弾性体の外側に表面架橋重合体の層が中間層として存在し、表面架橋重合体の外側にグラフト部の層が最外層(シェル層)として存在する態様も、本発明の一態様である。
【0121】
(重合体微粒子(A)の体積平均粒子径(Mv))
重合体微粒子(A)の体積平均粒子径(Mv)は、所望の粘度を有し、かつ高度に安定した樹脂組成物を得ることができることから、0.03μm~50.00μmが好ましく、0.05μm~10.00μmがより好ましく、0.08μm~2.00μmがより好ましく、0.10μm~1.00μmがさらに好ましく、0.10μm~0.80μmがよりさらに好ましく、0.10μm~0.50μmが特に好ましい。重合体微粒子(A)の体積平均粒子径(Mv)が前記範囲内である場合、マトリクス樹脂における重合体微粒子(A)の分散性が良好となるという利点も有する。なお、本明細書において、「重合体微粒子(A)の体積平均粒子径(Mv)」とは、特に言及する場合を除き、重合体微粒子(A)の1次粒子の体積平均粒子径を意図する。重合体微粒子(A)の体積平均粒子径は、重合体微粒子(A)を含む水性ラテックスを試料として、動的光散乱式粒子径分布測定装置などを用いて、測定することができる。重合体微粒子(A)の体積平均粒子径については、下記実施例にて詳述する。重合体微粒子(A)の体積平均粒子径は、樹脂組成物の硬化物を切断し、切断面を電子顕微鏡などを用いて撮像し、得られた撮像データ(撮像画像)を用いて測定することもできる。
【0122】
熱硬化性樹脂中における重合体微粒子(A)の粒子径の個数分布は、低粘度であり取り扱い易い樹脂組成物が得られることから、体積平均粒子径の0.5倍以上1倍以下の半値幅を有することが好ましい。
【0123】
(1-7.重合体微粒子(A)の製造方法(ラテックス製造工程))
本発明の一実施形態において、前記樹脂混合工程の前段階として、重合体微粒子(A)の製造工程、特に重合体微粒子(A)を含むラテックスを製造するラテックス製造工程を含んでいてもよい。ラテックスとは水性ラテックスを意図する。
【0124】
例えば、重合体微粒子(A)は、任意の重合体を重合した後、当該重合体の存在下にて重合体に対してグラフト部を構成する重合体をグラフト重合することによって、製造できる。以下、弾性体を重合した後、弾性体の存在下にて弾性体に対してグラフト部を構成する重合体をグラフト重合することによって、重合体微粒子(A)を製造する場合を例に挙げて、重合体微粒子(A)の製造方法の一例を説明する。
【0125】
重合体微粒子(A)は、公知の方法、例えば、乳化重合、懸濁重合、マイクロサスペンジョン重合などの方法により製造することができる。具体的には、重合体微粒子(A)における弾性体の重合、グラフト部の重合(グラフト重合)、表面架橋重合体の重合は、公知の方法、例えば、乳化重合、懸濁重合、マイクロサスペンジョン重合などの方法により製造することができる。これらの中でも特に、重合体微粒子(A)の組成設計が容易である、工業生産が容易である、および本樹脂組成物の製造に好適に用いられ得る重合体微粒子(A)の水性ラテックスが容易に得られることから、重合体微粒子(A)の製造方法としては、乳化重合が好ましい。以下、重合体微粒子(A)に含まれ得る弾性体、グラフト部、および任意の構成である表面架橋重合体の製造方法について、説明する。
【0126】
(弾性体の製造方法)
弾性体が、ジエン系ゴムおよび(メタ)アクリレート系ゴムからなる群より選択される少なくとも1種以上を含む場合を考える。この場合、弾性体は、例えば、乳化重合、懸濁重合、マイクロサスペンジョン重合などの方法により製造することができ、その製造方法としては、例えばWO2005/028546号公報に記載の方法を用いることができる。
【0127】
弾性体が、ポリシロキサンゴム系弾性体を含む場合を考える。この場合、弾性体は、例えば、乳化重合、懸濁重合、マイクロサスペンジョン重合などの方法により製造することができ、その製造方法としては、例えばWO2006/070664号公報に記載の方法を用いることができる。
【0128】
弾性体が複数種の弾性体(例えば弾性体1、弾性体2、・・・、弾性体n)からなる場合の、弾性体の製造方法について説明する。この場合、弾性体1、弾性体2、・・・、弾性体nは、それぞれ別々に上述の方法により重合され、その後混合されることにより、複数種の弾性体を有する弾性体が製造されてもよい。または、弾性体1、弾性体2、・・・、弾性体nは、それぞれ順に多段重合され、複数種の弾性体を有する弾性体が製造されてもよい。
【0129】
弾性体の多段重合について、具体的に説明する。例えば、(1)弾性体1を重合して弾性体1を得る;(2)次いで弾性体1の存在下にて弾性体2を重合して2段弾性体1+2を得る;(3)次いで弾性体1+2の存在下にて弾性体3を重合して3段弾性体1+2+3を得る;(4)以下、同様に行った後、弾性体1+2+・・・+(n-1)の存在下にて弾性体nを重合して多段重合弾性体1+2+・・・+nを得る。
【0130】
(グラフト部の製造方法)
グラフト部は、例えば、グラフト部の形成に用いる単量体を、公知のラジカル重合により重合することによって形成することができる。(a)弾性体、または(b)弾性体および表面架橋重合体を含む重合体微粒子前駆体、を水性ラテックスとして得た場合には、グラフト部の重合は乳化重合法により行うことが好ましい。グラフト部は、例えば、WO2005/028546号公報に記載の方法に従って製造することができる。
【0131】
グラフト部が複数種のグラフト部(例えばグラフト部1、グラフト部2、・・・、グラフト部n)からなる場合の、グラフト部の製造方法について説明する。この場合、グラフト部1、グラフト部2、・・・、グラフト部nは、それぞれ別々に上述の方法により重合され、その後混合されることにより、複数種のグラフト部を有するグラフト部が製造されてもよい。または、グラフト部1、グラフト部2、・・・、グラフト部nは、それぞれ順に多段重合され、複数種のグラフト部を有するグラフト部が製造されてもよい。
【0132】
グラフト部の多段重合について、具体的に説明する。例えば、(1)グラフト部1を重合してグラフト部1を得る;(2)次いでグラフト部1の存在下にてグラフト部2を重合して2段グラフト部1+2を得る;(3)次いでグラフト部1+2の存在下にてグラフト部3を重合して3段グラフト部1+2+3を得る;(4)以下、同様に行った後、グラフト部1+2+・・・+(n-1)の存在下にてグラフト部nを重合して多段重合グラフト部1+2+・・・+nを得る。
【0133】
グラフト部が複数種のグラフト部からなる場合、複数種のグラフト部を有するグラフト部を重合した後、弾性体にそれらグラフト部をグラフト重合して、重合体微粒子(A)を製造してもよい。弾性体の存在下にて、弾性体に対して複数種のグラフト部構成する複数種の重合体を順に多段グラフト重合して、重合体微粒子(A)を製造してもよい。
【0134】
(表面架橋重合体の製造方法)
表面架橋重合体は、表面架橋重合体の形成に用いる単量体を公知のラジカル重合により重合することによって形成することができる。弾性体を水性ラテックスとして得た場合には、表面架橋重合体の重合は乳化重合法により行うことが好ましい。
【0135】
重合体微粒子(A)の製造方法として、乳化重合法を採用する場合、重合体微粒子(A)の製造には、公知の乳化剤(分散剤)を用いることができる。
【0136】
重合体微粒子(A)の製造方法として、乳化重合法を採用する場合、重合体微粒子(A)の製造には、熱分解型開始剤を用いることができる。前記熱分解型開始剤としては、例えば、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、過酸化水素、過硫酸カリウム、および過硫酸アンモニウムなどの公知の開始剤を挙げることができる。
【0137】
重合体微粒子(A)の製造には、レドックス型開始剤を使用することもできる。前記レドックス型開始剤は、(a)有機過酸化物および無機過酸化物などの過酸化物と、(b)必要に応じてナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート、グルコースなどの還元剤、および必要に応じて硫酸鉄(II)などの遷移金属塩、さらに必要に応じてエチレンジアミン四酢酸二ナトリウムなどのキレート剤、さらに必要に応じてピロリン酸ナトリウムなどのリン含有化合物などと、を併用した開始剤である。前記有機過酸化物としては、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、パラメンタンハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、およびt-ヘキシルパーオキサイドなどが挙げられる。前記無機過酸化物としては、過酸化水素、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどが挙げられる。
【0138】
レドックス型開始剤を用いた場合には、前記過酸化物が実質的に熱分解しない低い温度でも重合を行うことができ、重合温度を広い範囲で設定することができるようになる。そのため、レドックス型開始剤を用いることが好ましい。レドックス型開始剤の中でも、クメンハイドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、パラメンタンハイドロパーオキサイド、およびt-ブチルハイドロパーオキサイドなどの有機過酸化物をレドックス型開始剤として用いることが好ましい。前記開始剤の使用量、並びに、レドックス型開始剤を用いる場合には前記還元剤、遷移金属塩およびキレート剤などの使用量は、公知の範囲で用いることができる。
【0139】
弾性体、グラフト部または表面架橋重合体に架橋構造を導入する目的で、弾性体、グラフト部または表面架橋重合体の重合に多官能性単量体を使用する場合、公知の連鎖移動剤を公知の使用量の範囲で用いることができる。連鎖移動剤を使用することにより、得られる弾性体、グラフト部もしくは表面架橋重合体の分子量および/または架橋度を容易に調節することができる。
【0140】
重合体微粒子(A)の製造には、上述した成分に加えて、さらに界面活性剤を用いることができる。前記界面活性剤の種類および使用量は、公知の範囲である。
【0141】
重合体微粒子(A)の製造において、重合における重合温度、圧力、および脱酸素などの条件は、公知の範囲のものが適用することができる。
【0142】
(1-8.樹脂(B))
樹脂(B)は、25℃において100mPa・s~1,000,000mPa・sの粘度を有する液体であるか、半固体であるか、または固体である限り、その他の性状は、特に限定されない。なお、「樹脂(B)は、25℃において100mPa・s~1,000,000mPa・sの粘度を有する」とは、「25℃である樹脂(B)が、100mPa・s~1,000,000mPa・sの粘度を有する」ことを意図する。
【0143】
樹脂(B)が液体である場合、樹脂(B)の粘度は、25℃において、750,000mPa・s以下であることが好ましく、700,000mPa・s以下であることがより好ましく、500,000mPa・s以下であることがより好ましく、350,000mPa・s以下であることがより好ましく、300,000mPa・s以下であることがより好ましく、250,000mPa・s以下であることがより好ましく、100,000mPa・s以下であることがより好ましく、75,000mPa・s以下であることがより好ましく、50,000mPa・s以下であることがより好ましく、30,000mPa・s以下であることがより好ましく、25,000mPa・s以下であることがより好ましく、20,000mPa・s以下であることがさらに好ましく、15,000mPa・s以下であることが特に好ましい。前記構成によると、樹脂(B)は流動性に優れるという利点を有する。
【0144】
また樹脂(B)の粘度は、25℃において、200mPa・s以上であることがより好ましく、300mPa・s以上であることがより好ましく、400mPa・s以上であることがより好ましく、500mPa・s以上であることがより好ましく、750mPa・s以上であることがさらに好ましく、1000mPa・s以上であることがよりさらに好ましく、1500mPa・s以上であることが特に好ましい。当該構成によると、樹脂(B)は重合体微粒子(A)中に含浸しない。そのため、樹脂(B)によって重合体微粒子(A)同士の融着を防ぐことができる。
【0145】
樹脂(B)の粘度は、25℃において、100mPa・s~750,000mPa・sがより好ましく、100mPa・s~700,000mPa・sがより好ましく、100mPa・s~350,000mPa・sがより好ましく、100mPa・s~300,000mPa・sがより好ましく、100mPa・s~50,000mPa・sがより好ましく、100mPa・s~30,000mPa・sがさらに好ましく、100mPa・s~15,000mPa・sが特に好ましい。
【0146】
樹脂(B)が半固体である場合、樹脂(B)は半液体であるともいえ、樹脂(B)は、1,000,000mPa・sより大きい粘度を有しているともいえる。樹脂(B)が、半固体であるか、または固体である場合、得られる粉粒体を含む樹脂組成物は、べたつきが少なく取り扱いやすいという利点を有する。
【0147】
樹脂(B)の粘度は、粘度計により測定することができる。樹脂(B)の粘度の測定方法は、下記実施例にて詳述する。
【0148】
また樹脂(B)の粘度は、重合体微粒子(A)中に樹脂(B)が入り込むことにより重合体微粒子(A)同士の融着を防ぐことができることから、25℃において、100mPa・s以上であることがより好ましく、500mPa・s以上であることがさらに好ましく、1000mPa・s以上であることがよりさらに好ましく、1500mPa・s以上であることが特に好ましい。
【0149】
さらに、マトリクス樹脂が熱硬化性樹脂である場合、25℃での樹脂(B)の粘度は、25℃での熱硬化性マトリクス樹脂の粘度に50000mPa・sを加えた値以下であることが好ましい。樹脂(B)と熱硬化性マトリクス樹脂の均一混合を容易にするという点から、25℃での樹脂(B)の粘度が25℃での熱硬化性マトリクス樹脂の粘度以上の場合、25℃での樹脂(B)の粘度は、25℃での熱硬化性マトリクス樹脂の粘度に20000mPa・sを加えた値以下であることがより好ましく、10000mPa・sを加えた値以下であることがより好ましく、5000mPa・sを加えた値以下であることがさらに好ましく、0mPa・sを加えた値以下であることがもっとも好ましい。
【0150】
また樹脂(B)は、示差熱走査熱量測定(DSC)のサーモグラムが25℃以下の吸熱ピークを有する樹脂であることが好ましく、0℃以下の吸熱ピークを有する樹脂であることがより好ましい。
【0151】
また、樹脂(B)としては、後述する混合対象のマトリクス樹脂である熱硬化性樹脂と同じ樹脂であってもよく、熱硬化性樹脂と異なる樹脂であってもよい。一例として、樹脂組成物の製造方法において樹脂(B)が使用され、かつ樹脂(B)が熱硬化性樹脂と同じ種類の樹脂である場合を考える。この場合、得られる樹脂組成物ではマトリクス樹脂と樹脂(B)との区別をつけることはできないため、外見上、得られる樹脂組成物は、重合体微粒子(A)以外にマトリクス樹脂のみを有しているように見える。次に、樹脂組成物の製造方法において樹脂(B)が使用され、かつ樹脂(B)がマトリクス樹脂と異なる種類の樹脂である場合を考える。この場合、得られる樹脂組成物ではマトリクス樹脂と樹脂(B)とは識別可能である。この場合、最終的に得られる樹脂組成物は、重合体微粒子(A)以外に、マトリクス樹脂以外の樹脂として、樹脂(B)を含み得る。
【0152】
樹脂(B)は、例えば、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、または熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂との任意の組み合わせであってもよい。本樹脂組成物が樹脂(B)を含む場合、樹脂(B)は、熱硬化性樹脂中にて、重合体微粒子(A)の分散性を高める効果を有し得る。
【0153】
樹脂(B)における熱硬化性樹脂としては、後述するマトリクス樹脂の項で説明する種々の熱硬化性樹脂が挙げられる。樹脂(B)において、熱硬化性樹脂は1種類のみ使用されてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0154】
樹脂(B)における熱可塑性樹脂としては、例えば、構成単位として、芳香族ビニル単量体、ビニルシアン単量体、および(メタ)アクリレート単量体からなる群より選択される1種以上の単量体に由来する構成単位を含む重合体などが挙げられる。樹脂(B)において、熱可塑性樹脂は1種類のみ使用されてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0155】
混合対象のマトリクス樹脂が熱硬化性樹脂である場合、種々の物性へ影響を与える虞がないことから、樹脂(B)はマトリクス樹脂の熱硬化性樹脂と同種類であることが好ましい。つまり、マトリクス樹脂の熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂である場合、樹脂(B)もエポキシ樹脂であることが好ましい。樹脂(B)がマトリクス樹脂の熱硬化性樹脂と異なる場合、樹脂(B)はマトリクス樹脂の熱硬化性樹脂と相溶するものであることが好ましい。
【0156】
前記重合体微粒子(A)と前記樹脂(B)との合計を100重量%とした場合に、前記重合体微粒子(A)が1~70重量%、前記樹脂(B)が30~99重量%であることが好ましい。前記の範囲であれば、液状の熱硬化性樹脂の特徴(耐熱性、剛性等)を維持しつつ、破壊靭性、接着強度、面衝撃性等を向上させるができる。なお、前記の範囲は、樹脂組成物の製造方法にて得られた凝集体(樹脂組成物)における前記重合体微粒子(A)と前記樹脂(B)との割合を意図したものである。
【0157】
また、粘度の点から、より好ましくは重合体微粒子(A)が10~60重量%、樹脂(B)が90~40重量%であり、さらに好ましくは重合体微粒子(A)が20~50重量%、樹脂(B)が80~50重量%であり、特に好ましくは重合体微粒子(A)が25~45重量%、樹脂(B)が75~55重量%である。
【0158】
(その他)
本明細書では、油脂および脂肪酸エステルもまた、樹脂(B)に含まれる。樹脂(B)として好適に利用できる、油脂としては、エポキシ化大豆油およびエポキシ化アマニ油などのエポキシ化油脂、などが挙げられる。エポキシ化大豆油としては市販品を用いることもでき、例えば、ADEKA社製、アデカイザーO-130P等を挙げることができる。樹脂(B)として好適に利用できる、脂肪酸エステルとしては、エポキシ化脂肪酸ブチル、エポキシ化脂肪酸2-エチルヘキシル、エポキシ化脂肪酸オクチルエステルおよびエポキシ化脂肪酸アルキルエステルなどのエポキシ化脂肪酸エステル、などが挙げられる。
【0159】
エポキシ化油脂およびエポキシ化脂肪酸エステルは、エポキシ系可塑剤と称される場合もある。すなわち、本明細書では、エポキシ系可塑剤もまた、樹脂(B)に含まれる。エポキシ化油脂およびエポキシ化脂肪酸エステル以外のエポキシ系可塑剤としては、エポキシヘキサヒドロフタル酸ジエポキシステアリルおよびエポキシヘキサヒドロフタル酸ジ2-エチルヘキシルなどが挙げられる。
【0160】
上述した、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂との混合物、油脂、および脂肪酸エステルの各々は、酸化防止剤と混合して使用することができる。本明細書では、上述した各々の物質と混合して使用する場合に限り、酸化防止剤を樹脂(B)の一部とみなす。酸化防止剤のみを使用する場合には、酸化防止剤は樹脂(B)とはみなされない。
【0161】
酸化防止剤としては、特に限定されない。酸化防止剤としては、例えば、(a)フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、ラクトン系酸化防止剤、ヒドロキシルアミン系酸化防止剤等の一次酸化防止剤、および(b)イオウ系酸化防止剤、リン系酸化防止剤等の二次酸化防止剤、などが挙げられる。
【0162】
前記フェノール系酸化防止剤としてはヒンダードフェノール系酸化防止剤を挙げることができる。ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、分子内にヒンダードフェノール構造あるいは片ヒンダードフェノール構造を有する化合物が挙げられる。フェノール系酸化防止剤としてはとしては市販品を用いることもでき、例えば、BASFジャパン株式会社製、イルガノックス245等を挙げることができる。
【0163】
前記アミン系酸化防止剤としては、特に限定されず、従来公知のものを広く使用できる。アミン系酸化防止剤の具体例としては、アミン-ケトン系化合物として、2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン重合体、6-エトキシ-1,2-ジヒドロ-2,2,4-トリメチルキノリン、およびジフェニルアミンとアセトンとの反応物、等が挙げられる。
【0164】
前記アミン系酸化防止剤には、芳香族系アミン化合物も含まれる。芳香族系アミン化合物としては、ナフチルアミン系酸化防止剤、ジフェニルアミン系酸化防止剤、およびp-フェニレンジアミン系酸化防止剤が挙げられる。
【0165】
ラクトン系酸化防止剤、ヒドロキシルアミン系酸化防止剤およびイオウ系酸化防止剤としては、それぞれ、特に限定されず、従来公知のものを広く使用できる。
【0166】
リン系酸化防止剤としては、特に限定されず、従来公知のものを広く使用できる。活性水素を含むリン酸およびリン酸エステルは得られる粉粒体を含む樹脂組成物の貯蔵安定性、および当該樹脂組成物が提供する硬化物または成形体の耐熱性に悪影響を与え得る。そのため、リン系酸化防止剤としては、リン酸およびリン酸エステルを分子内に含まない、アルキルホスファイト、アリールホスファイト、アルキルアリールホスファイト化合物などが好ましい。
【0167】
前記酸化防止剤としては、その他、従来公知の物質を使用してもよい。酸化防止剤としては、例えば大成社発行の「酸化防止剤ハンドブック」(昭和51年10月25日初版発行)、シーエムシー出版発行の「高分子添加剤ハンドブック」(春名徹編著、2010年11月7日第1版発行)等に記載された種々の物質を使用してもよい。
【0168】
樹脂(B)は、熱硬化性樹脂、熱硬化性樹脂と酸化防止剤との混合物、熱可塑性樹脂、熱可塑性樹脂と酸化防止剤との混合物、油脂、油脂と酸化防止剤との混合物、脂肪酸エステル、脂肪酸エステルと酸化防止剤との混合物、エポキシ硬化剤、およびエポキシ硬化剤と酸化防止剤との混合物、からなる群から選択される1つ以上であることが好ましく、エポキシ樹脂、アクリル系重合体、エポキシ樹脂と酸化防止剤との混合物、アクリル系重合体と酸化防止剤との混合物、および、エポキシ系可塑剤と酸化防止剤との混合物からなる群から選択される1つ以上であることがより好ましく、エポキシ樹脂と酸化防止剤との混合物、アクリル系重合体と酸化防止剤との混合物、および、エポキシ系可塑剤と酸化防止剤との混合物からなる群から選択される1つ以上であることがさらに好ましく、エポキシ系可塑剤と酸化防止剤との混合物であることが特に好ましい。当該構成によると、(a)得られる粉粒体を含む樹脂組成物は耐熱性に優れる硬化物または成形体を提供できるとともに、(b)マトリクス樹脂中の重合体微粒子(A)の分散性を向上させることができる、という利点を有する。
【0169】
〔2.樹脂組成物の製造方法(凍結工程を含む実施形態2)〕
また、本発明の他の一実施形態に係る樹脂組成物の製造方法は、重合体微粒子(A)を含むラテックスに、25℃において1,000,000mPa・s以下の粘度を持つ樹脂(B)を混合する樹脂混合工程と、前記樹脂混合工程により得られた樹脂(B)が分散したラテックスを凍結させる凍結工程と、前記凍結工程により凍結したラテックスを解凍する解凍工程と、前記解凍工程の後、ラテックス中から、重合体微粒子(A)および樹脂(B)を含有する凝集体である樹脂組成物と水成分とを分離する分離工程と、を含む樹脂組成物の製造方法である。
【0170】
本発明者は、重合体微粒子(A)を含むラテックスと樹脂(B)とを混合した後、凍結することにより、ラテックス中の水が凍り、重合体微粒子(A)と樹脂(B)とが濃縮され、重合体微粒子(A)と樹脂(B)との凝集体と水とが分離されることを見出した。重合体微粒子(A)を含むラテックス中に、樹脂(B)を分散させることにより、重合体微粒子(A)の間に樹脂(B)が入り込む。その後、このラテックスを凍結させると、凍結速度が遅い場合でも重合体微粒子(A)同士の凝集を防ぐことができ、重合体微粒子(A)が樹脂(B)に均一に分散した凝集体が得られる。なお、重合体微粒子(A)と樹脂(B)とを混合した後、凍結させる本製造方法の場合、凍結速度は遅くても速くてもよい。
【0171】
本製造方法によれば、上述した製造方法と同様に、凝固剤等の塩や有機溶剤を使用しないため、環境負荷が小さく、かつ低夾雑物(低不純物)の凝集体を得ることができる。また、凍結工程を経ているため、重合体微粒子(A)の回収効率も良好であり、加えて凝集体への乳化剤の巻き込みが少なく、乳化剤由来物質(不純物)の含有量が少ない凝集体が得ることができる。
【0172】
以下、本実施形態に関する各工程について説明するが、以下に詳説した事項以外は、適宜、実施形態1の記載を援用する。
【0173】
(2-1.樹脂混合工程)
樹脂混合工程は、重合体微粒子(A)を含むラテックスに、25℃において1,000,000mPa・s以下の粘度を持つ樹脂(B)を混合する工程である。本工程は、重合体微粒子(A)を含むラテックスに、樹脂(B)を添加して、前記ラテックスを混合して前記樹脂(B)を当該ラテックス中に分散させる工程ともいえる。凍結工程の前に実施し、ラテックス中に樹脂(B)を分散させること以外、実施形態1と同様である。
【0174】
また、本樹脂混合工程においては、前記樹脂(B)は予め水に分散させた乳化物(乳化液または水性エマルジョンとも称する。)として、前記ラテックスと混合することが好ましい。これにより、重合体微粒子(A)を含むラテックス中に、樹脂(B)を均一に分散させることができ、後述する凍結工程以降の実施により、重合体微粒子(A)と樹脂(B)とがより均一に分散した凝集体を得ることができる。
【0175】
(2-2.凍結工程)
凍結工程は、前記樹脂混合工程により得られた樹脂(B)が分散したラテックスを凍結させる工程である。本工程は、前記ラテックスを凍結させて前記重合体微粒子(A)および前記樹脂(B)を凝集させる工程である。
【0176】
ここでいう「凍結」とは、急速に凍結させる工程、および、ゆっくりと凍結させる工程を含む。急速凍結の方法については、実施形態1と同様である。また、「ゆっくりと凍結させる」とは、20分間~24時間でラテックスを凍らせることを意図し、30分間~12時間でラテックスを凍結させることがより好ましく、1時間~10時間であることがさらに好ましい。例えば、凍結速度の遅い方法の一例として、ラテックスを-10℃~-80℃の冷凍庫で凍結させる方法、トンネル式・スパイラル式フリーザーで凍結させる方法等を挙げることができる。
【0177】
(2-3.解凍工程)
解凍工程は、前記凍結工程により凍結したラテックスを解凍する工程である。具体的な解凍方法については、実施形態1と同様である。
【0178】
(2-4.分離工程)
分離工程は、前記解凍工程の後、ラテックス中から、重合体微粒子(A)および樹脂(B)を含有する凝集体である樹脂組成物と水成分とを分離する工程である。前記解凍工程により発生した当該ラテックス中の水を取り除いて、前記重合体微粒子(A)および樹脂(B)を含む凝集体である樹脂組成物を得る工程とも換言できる。分離工程の具体的な方法については、実施形態1と同様である。
【0179】
本製造方法は、さらに、樹脂組成物を洗浄する洗浄工程を含むことが好ましい。得られた凝集体である樹脂組成物を水で洗浄することにより、水溶性化合物(夾雑物)の含有量が少ない凝集体が得られる。洗浄工程の詳細は、実施形態1と同様である。
【0180】
(2-5.除去工程)
本製造方法には、さらに、前記凍結工程の前に、前記樹脂混合工程により発生した凝集体を取り除く除去工程を含むことが好ましい。樹脂混合工程において、ラテックス中で凝集物が発生する場合があるが、その場合、凝集した樹脂組成物をいったん取り除いてから前記凍結工程を行うことが好ましい。樹脂混合工程で発生する凝集体は、その後にラテックスを凍結させても重合体微粒子(A)が凝集しないためである。これにより、凍結工程で効率よく、重合体微粒子(A)および樹脂(B)を凝集させて回収することができる。
【0181】
〔3.樹脂組成物の製造方法(剪断工程を含む実施形態3)〕
また、本発明の他の一実施形態に係る樹脂組成物の製造方法は、重合体微粒子(A)を含むラテックスに、25℃において1,000,000mPa・s以下の粘度を持つ樹脂(B)を混合する樹脂混合工程と、前記樹脂混合工程により得られたラテックスに、剪断応力を与える剪断工程と、前記剪断工程の後、ラテックス中から、重合体微粒子(A)および樹脂(B)を含有する凝集体である樹脂組成物と水成分とを分離する第1の分離工程と、を含む、樹脂組成物の製造方法である。
【0182】
本発明者は、重合体微粒子(A)を含むラテックスと樹脂(B)とを混合させた後、この混合ラテックスに剪断を加えることにより、ラテックスの乳化効果が弱まり、ラテックス中の重合体微粒子(A)が樹脂(B)に分散した状態で凝集した凝集体が得られ、ラテックス中の水が分離されることを見出した。
【0183】
本製造方法によれば、有機溶剤や凝固剤等の塩を使用しないため、環境負荷も小さく、低夾雑物の凝集体を得ることができる。また、剪断を加えることで凝集体と水に分離をすることができるため、低乳化剤の凝集体が得ることができる。
【0184】
以下、本実施形態に関する各工程について説明するが、以下に詳説した事項以外は、適宜、実施形態1および2の記載を援用する。
【0185】
(3-1.樹脂混合工程)
樹脂混合工程は、重合体微粒子(A)を含むラテックスに、25℃において1,000,000mPa・s以下の粘度を持つ樹脂(B)を混合する工程である。本工程は実施形態1および2と同様である。
【0186】
なお、本実施形態に係る製造方法においては、後述する剪断工程により容易に凝集体ができるという観点から、ラテックス中の固形分濃度(重合体微粒子(A)と樹脂(B)との合計の濃度)を1%以上にすることが好ましく、3%以上にすることがより好ましく、5%以上にすることがさらに好ましい。
【0187】
(3-2.剪断工程)
剪断工程は、前記樹脂混合工程により得られたラテックスに、剪断応力を与える工程である。本工程は、前記樹脂混合工程により得られたラテックス(重合体微粒子(A)と樹脂(B)との混合液)に、剪断応力を加えて、重合体微粒子(A)および樹脂(B)を凝集させる工程である。
【0188】
ラテックスに剪断応力を加える方法については特に限定されず、種々の技術を用いることができる。例えば、ホモミキサーによりラテックスを3000rpm~25000rpmで撹拌する工程、高剪断乳化機によりラテックスを500rpm~12000rpmで撹拌する工程、高圧式ホモジナイザーを挙げることができる。凝集速度の観点から、ホモミキサーを使用する場合は5000rpm~25000rpmで撹拌することが好ましく、7000rpm~20000rpmで撹拌することが好ましく、8000rpm~20000rpmで撹拌することがより好ましい。高剪断乳化機によりラテックスを撹拌する場合は、1000rpm~12000rpmで撹拌することが好ましく、2000rpm~20000rpmで撹拌することが好ましく、2500rpm~20000rpmで撹拌することがより好ましい。
【0189】
また、本工程には、前記樹脂混合工程の前段階として、樹脂(B)を混合する前の、重合体微粒子(A)を含むラテックスに予め剪断応力を加えておく態様を含む。他に、樹脂(B)に予め剪断応力を加えておく態様も含む。さらに、前記樹脂混合工程の前に、予め重合体微粒子(A)を含むラテックスと、樹脂(B)との両方に剪断応力を加えておく態様であってもよい。これらの方法は、ラテックスの乳化力を弱めて、凝集体を効率よく得られる点で好ましい。
【0190】
樹脂(B)の粘度が高い場合は、最適な粘度になるように調整することが好ましい。例えば、最適な粘度としては、100mPa・s~750,000mPa・sがより好ましく、150mPa・s~700,000mPa・sがより好ましく、200mPa・s~350,000mPa・sがより好ましく、250mPa・s~300,000mPa・sがより好ましく、300mPa・s~50,000mPa・sがより好ましく、350mPa・s~30,000mPa・sがさらに好ましく、400mPa・s~15,000mPa・sが特に好ましい。粘度の調整する手段としては特に限定されないが、例えば、温度を調節する方法を挙げることができる。樹脂(B)の粘度を最適な値とすることにより、移送時の圧力が高くなり過ぎることを防止でき、本剪断工程を効率よく実施でき、凝集体を効率よく取得することができる。
【0191】
また、本剪断工程は、気液界面の存在下で実施することが好ましい。当該構成によると、重合体微粒子(A)および樹脂(B)を効率よく凝集させることができる。本剪断工程を気液界面の存在下で実施するためには、前記樹脂混合工程により得られたラテックスに中に気泡(エアーまたはバブルとも称する。)が存在すればよい。換言すれば、本剪断工程は、前記樹脂混合工程により得られたラテックスと気体(例えば、空気、二酸化炭素および窒素)とを混合しつつ、実施することが好ましい。
【0192】
また、本工程におけるラテックスの温度は、特に限定されない。例えば、重合体微粒子(A)の劣化の観点から、10℃~90℃が好ましく、15℃~80℃がより好ましく、20℃~70℃がさらに好ましい。
【0193】
本剪断工程は、種々の実施態様で行うことができ、特に限定されない。例えば、(i)前記樹脂混合工程により得られたラテックスを投入した容器に剪断手段(乳化機等)を設置してバッチ式で行う態様、(ii)前記ラテックスを剪断手段(乳化機等)に通す工程を循環させて複数回実施する態様、(iii)樹脂混合工程と剪断工程とを連続的に行う態様(ラテックスを通す流路と樹脂(B)通す流路との合流後に、剪断手段(乳化機等)を設置して、前記樹脂混合工程により得られたラテックスに剪断を付与する工程)、(iv)前記(iii)の態様において複数回、剪断手段(乳化機等)を通す態様、(v)前記(iii)または(iv)において剪断手段(乳化機等)を通したラテックスを凝集体と水に分離して、前記(iii)または(iv)の操作を、複数回剪断を付与する態様、などを挙げることができる。
【0194】
(3-3.第1の分離工程)
第1の分離工程は、前記剪断工程の後、ラテックス中から、重合体微粒子(A)および樹脂(B)を含有する凝集体である樹脂組成物と水成分とを分離する工程である。前記剪断凝集により発生したラテックス中の水を取り除いて、重合体微粒子(A)および樹脂(B)を含む第1の凝集体を得る工程といえる。分離工程の詳細については、実施形態1と同様である。
【0195】
(3-4.凝集工程および第2の分離工程)
本製造方法は、さらに、前記第1の分離工程において凝集体を分離した水成分から、重合体微粒子(A)および樹脂(B)を含有する凝集体である樹脂組成物を凝集させる凝集工程と、前記凝集工程の後、重合体微粒子(A)および樹脂(B)を含有する凝集体である樹脂組成物と水成分とを分離する第2の分離工程と、を含むことが好ましい。本工程は、上述した工程により回収しきれなかった重合体微粒子(A)と樹脂(B)とを含む凝集体を、再凝集させて回収する工程である。
【0196】
これらの工程により、未凝集の重合体微粒子(A)を回収することができ、生産性が向上する。また、COD(化学的酸素要求量)が低下し排水負荷が低減される。
【0197】
また、第2の分離工程により得られた凝集体を、前記第1の分離工程により得られた凝集体と混合させて、樹脂組成物としてもよい。
【0198】
凝集工程において、重合体微粒子(A)および樹脂(B)を凝集させる具体的な方法については特に限定されず、例えば、凝固剤を用いる方法、ラテックスを凍結させる方法が挙げられる。
【0199】
例えば、使用可能な凝固剤としては、乳化重合ラテックスを凝析・凝固し得る性質を有する無機酸(塩)および/または有機酸(塩)の水溶液、高分子凝集剤であればよいが、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化リチウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化リチウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、塩化カルシウム、硫酸第一鉄、硫酸マグネシウム、硫酸亜鉛、硫酸銅、塩化バリウム、塩化第一鉄、塩化第二鉄、塩化マグネシウム、硫酸第二鉄、硫酸アルミニウム、カリウムミョウバン、鉄ミョウバン等の無機塩類の水溶液、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸類の水溶液、酢酸、ギ酸等の有機酸類およびそれらの水溶液、酢酸ナトリウム、酢酸カルシウム、ギ酸ナトリウム、ギ酸カルシウム等の有機酸塩類の水溶液、高分子凝集剤としては、親水基と疎水基とを有する高分子化合物であればよく特に限定されず、アニオン系、カチオン系、ノニオン系のいずれの高分子凝集剤であってもよいが、本発明の一実施形態の作用効果をより高めることができるという点より、カチオン系の高分子凝集剤が好ましい。カチオン系の高分子凝集剤としては、分子内にカチオン性基を有する高分子凝集剤、すなわち水に溶解させた際にカチオン性を示す高分子凝集剤、たとえば、ポリアミン類、ポリジシアンジアミド類、カチオン化デンプン、カチオン系ポリ(メタ)アクリルアミド、水溶性アニリン樹脂、ポリチオ尿素、ポリエチレンイミン、第4級アンモニウム塩類、ポリビニルピリジン類、キトサン等であればよく、単独または2種以上を混合して用いることができる。これらの中でも、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム、塩化アンモニウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化バリウム、塩酸、硫酸等の一価若しくは二価の無機塩あるいは無機酸の水溶液が好適に使用できる。前記凝固剤の添加方法には特に制限は無く、一気に添加、分割添加、あるいは連続的に添加することができる。
【0200】
添加する凝固剤量は、樹脂組成物100重量部に対して、1重量部~50重量部であることを挙げることができるが、2重量部~30重量部であることが好ましく、3重量部~20重量部であることがより好ましい。なお、添加する凝固剤量は、ラテックスの種類に応じて適宜変更することができる。
【0201】
なかでも、凝集工程としては、前記第1の分離工程において凝集体を分離した水成分を凍結させる凍結工程を含むことが好ましい。本凍結工程によれば、前記第1の分離工程において凝集体を分離した水成分(ラテックス)と樹脂(B)とを凍結させることにより、ラテックス中の水が凍り、重合体微粒子(A)と樹脂(B)とが濃縮されて、重合体微粒子(A)と樹脂(B)との凝集体となり、水が分離される。凍結工程によって凝集体を得ることで、凝固剤等を用いる必要がないため、夾雑物の少ない凝集体が得られる。凍結工程の詳細は、実施形態1,2と同様である。第2の分離工程の詳細については、実施形態1と同様である。
【0202】
本製造方法は、さらに、樹脂組成物を洗浄する洗浄工程を含むことが好ましい。得られた凝集体である樹脂組成物を水で洗浄することにより、水溶性化合物(夾雑物)の含有量が少ない凝集体が得られる。洗浄工程の詳細は、実施形態1と同様である。
【0203】
〔4.樹脂組成物〕
本発明の一実施形態に係る樹脂組成物は、構成単位として、芳香族ビニル単量体、ビニルシアン単量体、および(メタ)アクリレート単量体からなる群より選択される1種以上の単量体に由来する構成単位を含む重合体からなるグラフト部を有する重合体微粒子(A)と、25℃において1,000,000mPa・s以下の粘度を持つ樹脂(B)と、を含有し、前記重合体微粒子(A)と前記樹脂(B)との合計を100重量%とした場合に、前記重合体微粒子(A)が1~70重量%、前記樹脂(B)が30~99重量%であり、樹脂(B)中の重合体微粒子(A)の含有量を5重量%とした場合の、樹脂(B)中における重合体微粒子(A)の分散性が、グラインドゲージを用いてJIS K5101に従い評価したとき、0μm以下であり、有機溶剤を実質的に含むものではなく、元素SおよびPの含有量が、いずれも150ppm以下であり、電気伝導度が0.6mS/cm以下である、樹脂組成物である。以下、単に本樹脂組成物と称する場合もある。
【0204】
また、本樹脂組成物は、さらに、元素Ca、Mg、Fe、Zn、BaおよびAlの含有量が、いずれも100ppm以下であることが好ましい。
【0205】
本樹脂組成物は、有機溶剤の含有量が少ないため、環境負荷が小さく、また人体への悪影響も少ない。また、電気伝導度が0.6mS/cm以下であることは、樹脂組成物中のイオン量が少ないことを意味する。樹脂組成物中のイオン量が少ないことは、樹脂組成物中、乳化剤や凝固剤(無機塩)や金属石鹸に由来する不純物、夾雑物(水溶性化合物)が少ないことを意味する。このため、本樹脂組成物は、電子材料等への用途に適する。これは、イオン量は、基板配線や素子のリードが腐食したり、絶縁不良やマイグレーションを引き起こしたりする原因となるためである。なお、本樹脂組成物は、例えば、上述した樹脂組成物の製造方法により得ることができる。
【0206】
(4-1.分散性)
本樹脂組成物は、樹脂(B)中の重合体微粒子(A)の含有量を5重量%とした場合の、樹脂(B)中における重合体微粒子(A)の分散性が、グラインドゲージを用いてJIS K5101に従い評価したとき、0μm以下であることが好ましい。本樹脂組成物において、重合体微粒子(A)が樹脂(B)中に均一に分散しているため、本樹脂組成物をマトリクス樹脂に混合する場合、マトリクス樹脂中に重合体微粒子(A)を良好に分散させ得る。なお、具体的な分散性の評価方法については、下記実施例にて詳述する。
【0207】
(4-2.有機溶剤)
本樹脂組成物は、有機溶剤を実質的に含まない。「有機溶剤を実質的に含まない」とは、樹脂組成物中の有機溶剤の量が100ppm以下であることを意図する。
【0208】
本樹脂組成物に含まれる有機溶剤の量(含溶剤量とも称する。)は100ppm以下であることが好ましく、50ppm以下であることがより好ましく、25ppm以下であることがさらに好ましく、10ppm以下であることが特に好ましい。本樹脂組成物に含まれる有機溶剤の量は、本樹脂組成物に含まれる揮発成分(但し水は除く)の量ともいえる。本樹脂組成物に含まれる有機溶剤(揮発成分)の量は、例えば、所定量の樹脂組成物を熱風乾燥機などで加熱し、加熱前後の樹脂組成物の重量を測定することにより、減少した重量分として求めることができる。また、本樹脂組成物に含まれる有機溶剤(揮発成分)の量は、ガスクロマトグラフィーによって求めることもできる。また、本樹脂組成物および樹脂組成物に含まれる粉粒体の製造において、有機溶剤を使用していない場合、得られる樹脂組成物に含まれる有機溶剤の量は、0ppmとみなすことができる。
【0209】
本樹脂組成物に実質的に含まれない有機溶剤としては、(a)酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチルなどのエステル類、(b)アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、(c)エタノール、(イソ)プロパノール、ブタノールなどのアルコール類、(d)テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、ジオキサン、ジエチルエーテルなどのエーテル類、(e)ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、並びに(f)塩化メチレン、クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素類が挙げられる。
【0210】
(4-3.元素S等の含有量)
本樹脂組成物は、元素SおよびPの含有量が、いずれも150ppm以下である。さらに、元素Ca、Mg、Fe、Zn、BaおよびAlの含有量が、いずれも100ppm以下であることが好ましい。また、前記各元素の含有量は、100ppm以下であることが好ましく、60ppm以下であることがより好ましく、25ppm以下であることがさらに好ましく、10ppm以下であることが特に好ましい。
【0211】
(4-4.電気伝導度)
本樹脂組成物における電気伝導度は0.6mS/cm以下である。また、電気伝導度は、0.5mS/cm以下であることがより好ましく、0.3mS/cm以下であることがさらに好ましく、0.15mS/cm以下であることが特に好ましい。なお、不純物としての元素Naの含有量については、Na+由来の金属石鹸が水に溶けやすいため、本電気伝導度で把握し得る。例えば、元素Naの含有量が多い場合、Na+が多くなるため、電気伝導度が高くなる。したがい、本電気伝導度が上記所定値より低い場合、元素Naの含有量も低いと考えられる。
【0212】
本明細書において、「電気伝導度」とは、前記樹脂組成物を同量のイオン交換水で、90℃、30分間混合して分離した水の電気伝導度のことをいう。具体的な測定方法は、後述する実施例において詳説する。
【0213】
(4-5.重合体微粒子(A)および樹脂(B))
重合体微粒子(A)および樹脂(B)については、上述した実施形態1(樹脂組成物の製造方法)と同様であり、実施形態1の各記載を援用できる。なかでも、重合体微粒子(A)は、弾性体と、当該弾性体に対してグラフト結合されたグラフト部と、を有するゴム含有グラフト共重合体であることが好ましい。また、前記弾性体は、ジエン系ゴム、(メタ)アクリレート系ゴムおよびポリシロキサンゴム系弾性体からなる群より選択される1種以上を含むものであることが好ましい。
【0214】
また、樹脂(B)は、熱硬化性樹脂であることが好ましい。なかでも、熱硬化性樹脂が、エチレン性不飽和モノマー、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリオール樹脂およびアミノ-ホルムアルデヒド樹脂(メラミン樹脂)からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0215】
上述した構成であれば、液状硬化性樹脂の特徴(耐熱性、剛性等)を維持しつつ、破壊靭性、接着強度、面衝撃性等を向上させ得る。
【0216】
〔5.樹脂組成物(本樹脂組成物とマトリクス樹脂との混合物)〕
本発明の一実施形態には、上述した樹脂組成物とマトリクス樹脂とを混合した樹脂組成物も含まれ得る。すなわち、本樹脂組成物は、上述した樹脂組成物とマトリクス樹脂とを含有するものである。
【0217】
(5-1.マトリクス樹脂)
マトリクス樹脂としては、熱硬化性樹脂を好適に利用し得る。熱硬化性樹脂は、エチレン性不飽和単量体を重合させてなる重合体を含む樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリオール樹脂およびアミノ-ホルムアルデヒド樹脂(メラミン樹脂)からなる群より選択される少なくとも1種の熱硬化性樹脂を含むことが好ましい。また、熱硬化性樹脂としては、芳香族ポリエステル原料を重合させてなる重合体を含む樹脂も挙げられる。芳香族ポリエステル原料としては、芳香族ビニル化合物、(メタ)アクリル酸誘導体、シアン化ビニル化合物、マレイミド化合物などのラジカル重合性単量体、ジメチルテレフタレート、アルキレングリコールなどが挙げられる。これら熱硬化性樹脂は1種類のみを用いてもよく、2種以上を併用して用いてもよい。
【0218】
(エチレン性不飽和単量体)
エチレン性不飽和単量体としては、分子中にエチレン性不飽和結合を少なくとも1個有するものであれば特に限定されない。
【0219】
エチレン性不飽和単量体としては、アクリル酸、α-アルキルアクリル酸、α-アルキルアクリル酸エステル、β-アルキルアクリル酸、β-アルキルアクリル酸エステル、メタクリル酸、アクリル酸のエステル、メタクリル酸のエステル、酢酸ビニル、ビニルエステル、不飽和エステル、多不飽和カルボン酸、多不飽和エステル、マレイン酸、マレイン酸エステル、無水マレイン酸およびアセトキシスチレンが挙げられる。これらは1種類のみを用いてもよく、2種以上を併用して用いてもよい。
【0220】
(エポキシ樹脂)
エポキシ樹脂としては、分子中にエポキシ結合を少なくとも1個有するものであれば特に限定されない。
【0221】
エポキシ樹脂の具体例としては例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAプロピレンオキシド付加物のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA(もしくはF)型エポキシ樹脂、フッ素化エポキシ樹脂、ポリブタジエンもしくはNBRを含有するゴム変性エポキシ樹脂、テトラブロモビスフェノールAのグリシジルエーテルなどの難燃型エポキシ樹脂、p-オキシ安息香酸グリシジルエーテルエステル型エポキシ樹脂、m-アミノフェノール型エポキシ樹脂、ジアミノジフェニルメタン系エポキシ樹脂、ウレタン結合を有するウレタン変性エポキシ樹脂、各種脂環式エポキシ樹脂、多価アルコールのグリシジルエーテル、ヒダントイン型エポキシ樹脂、石油樹脂などのような不飽和重合体のエポキシ化物、および含アミノグリシジルエーテル樹脂、などが挙げられる。前記多価アルコールとしては、N,N-ジグリシジルアニリン、N,N-ジグリシジル-o-トルイジン、トリグリシジルイソシアヌレート、ポリアルキレングリコールジグリシジルエーテル、およびグリセリンなどが挙げられる。エポキシ樹脂としては、前記のエポキシ樹脂にビスフェノールA(もしくはF)類、または多塩基酸類などを付加反応させて得られるエポキシ化合物も挙げられる。エポキシ樹脂は、これらに限定されるものではなく、一般に使用されているエポキシ樹脂が使用され得る。これらのエポキシ樹脂は、1種類のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0222】
上述したエポキシ樹脂の中でもエポキシ基を一分子中に少なくとも2個有するものが、樹脂組成物の硬化において、反応性が高く、かつ得られた硬化物が3次元的網目を作りやすいなどの点から好ましい。また、エポキシ樹脂としては、経済性および入手のし易さに優れることから、エポキシ基を一分子中に少なくとも2個有するエポキシ樹脂の中でもビスフェノール型エポキシ樹脂を主成分とするものが好ましい。
【0223】
(フェノール樹脂)
フェノール樹脂は、フェノール類とアルデヒド類とを反応させて得られる化合物であれば特に限定されない。フェノール類としては特に限定されないが、例えば、フェノール、オルソクレゾール、メタクレゾール、パラクレゾール、キシレノール、パラターシャリーブチルフェノール、パラオクチルフェノール、パラフェニルフェノール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、およびレゾルシンなどのフェノール類が挙げられる。特に好ましいフェノール類としては、フェノール、およびクレゾールが挙げられる。
【0224】
アルデヒド類としては特に限定されないが、例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ブチルアルデヒド、およびアクロレインなど、並びにこれらの混合物が挙げられる。アルデヒド類としては、上述したアルデヒド類の発生源となる物質、またはこれらのアルデヒド類の溶液を使用することもできる。アルデヒド類としては、フェノール類とアルデヒド類とを反応させるときの操作が容易であることから、ホルムアルデヒドが好ましい。
【0225】
フェノール類とアルデヒド類とを反応させるときの、フェノール類(P)とアルデヒド類(F)とのモル比(F/P)(以下、反応モル比とも称する)は特に限定されない。反応において酸触媒を使用する場合、前記反応モル比(F/P)は0.4~1.0であることが好ましく、0.5~0.8であることがより好ましい。反応においてアルカリ触媒を使用する場合、前記反応モル比(F/P)は0.4~4.0であることが好ましく、0.8~2.5であることがより好ましい。反応モル比が前記下限値以上である場合、歩留まりが低くなりすぎず、また、得られるフェノール樹脂の分子量が小さくなる虞がない。一方、反応モル比が前記上限値以下である場合、フェノール樹脂の分子量が大きくなりすぎずかつ軟化点が高くなりすぎないため、加熱時に充分な流動性を得られる。また、反応モル比が前記上限値以下である場合、分子量のコントロールが容易であり、反応条件に起因したゲル化、もしくは部分的なゲル化物が生じる虞がない。
【0226】
(ポリオール樹脂)
ポリオール樹脂は、末端に活性水素を2個以上有する化合物であり、分子量50~20,000程度の2官能以上のポリオールである。ポリオール樹脂としては、脂肪族アルコール類、芳香族アルコール類、ポリエーテル型ポリオール類、ポリエステル型ポリオール類、ポリオレフィンポリオール類、およびアクリルポリオール類などを挙げることができる。
【0227】
脂肪族アルコールは、二価アルコール、または三価以上のアルコール(三価アルコール、四価アルコールなど)のいずれであってもよい。二価アルコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコールなどのアルキレングリコール類(特に炭素数が1~6程度のアルキレングリコール類)、当該アルキレングリコール類の2分子以上(例えば、2~6分子程度)の脱水縮合物(ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコールなど)などが挙げられる。三価アルコールとしては、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、1,2,6-ヘキサントリオールなど(特に炭素数が3~10程度の三価アルコール)が挙げられる。四価アルコールとしては、ペンタエリスリトール、ジグリセリンなどが挙げられる。また、単糖、オリゴ糖、多糖などの糖類が挙げられる。
【0228】
芳香族アルコールとしては、ビスフェノールA、ビスフェノールFなどのビスフェノール類;ジヒドロキシビフェニルなどのビフェニル類;ハイドロキノン、フェノールホルムアルデヒド縮合物などの多価フェノール類;ナフタレンジオールなどが挙げられる。
【0229】
ポリエーテル型ポリオールとしては、例えば、活性水素を含有する開始剤、1種類または2種以上の存在下、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、スチレンオキサイドなどを開環重合して得られるランダム共重合体またはブロック共重合体など、およびこれら共重合体の混合物などが挙げられる。ポリエーテル型ポリオールの開環重合に用いられる、活性水素を含有する開始剤としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ビスフェノールAなどのジオール類;トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセリンなどのトリオール類;単糖、オリゴ糖、多糖などの糖類;ソルビトール;アンモニア、エチレンジアミン、尿素、モノメチルジエタノールアミン、モノエチルジエタノールアミンなどのアミン類;などが挙げられる。
【0230】
ポリエステル型ポリオールとしては、例えば(a)マレイン酸、フマル酸、アジピン酸、セバシン酸、フタル酸、ドデカン二酸、イソフタル酸、アゼライン酸などの多塩基酸および/またはその酸無水物と、(b)エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-へキサンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、3-メチル-1,5-ペンタンジオールなどの多価アルコールとを、エステル化触媒の存在下、150~270℃の温度範囲で重縮合させて得られる重合体が挙げられる。さらに、(a)ポリエステル型ポリオールとしては、ε-カプロラクトン、バレロラクトンなどの開環重合物、および、(b)ポリカーボネートジオール、ヒマシ油などの活性水素を2個以上有する活性水素化合物、などが挙げられる。
【0231】
ポリオレフィン型ポリオールとしては、ポリブタジエンポリオール、ポリイソプレンポリオール、およびそれらの水添物などが挙げられる。
【0232】
アクリルポリオールとしては、例えば、(a)ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、およびビニルフェノールなどの水酸基含有単量体と、(b)n-ブチル(メタ)アクリレートおよび2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートなどの汎用単量体との共重合体、並びにそれら共重合体の混合物などが挙げられる。
【0233】
これらポリオール樹脂の中でも、得られる樹脂組成物の粘度が低く作業性に優れ、当該樹脂組成物が硬度と靱性とのバランスに優れた硬化物を提供できることから、ポリエーテル型ポリオールが好ましい。また、これらポリオール樹脂の中でも、得られる樹脂組成物が接着性に優れる硬化物を提供できることから、ポリエステル型ポリオールが好ましい。
【0234】
(アミノ-ホルムアルデヒド樹脂)
アミノ-ホルムアルデヒド樹脂は、アミノ化合物とアルデヒド類とをアルカリ性触媒下で反応させて得られる化合物であれば特に限定されない。前記アミノ化合物としては、メラミン;グアナミン、アセトグアナミン、ベンゾグアナミンなどの6-置換グアナミン類;CTUグアナミン(3,9-ビス[2-(3,5-ジアミノ-2,4,6-トリアザフェニル)エチル]-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン)、CMTUグアナミン(3,9-ビス[(3,5-ジアミノ-2,4,6-卜リアザフェニル)メチル]-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン)などのアミン置換トリアジン化合物;尿素、チオ尿素、エチレン尿素などの尿素類を挙げることができる。また前記アミノ化合物としては、メラミンのアミノ基の水素をアルキル基、アルケニル基、および/またはフェニル基で置換した置換メラミン化合物(米国特許第5,998,573号明細書(対応日本公開公報:特開平9-143238号)に記載されている。)、並びに、メラミンのアミノ基の水素をヒドロキシアルキル基、ヒドロキシアルキルオキシアルキル基、および/またはアミノアルキル基で置換した置換メラミン化合物(米国特許第5,322,915号明細書(対応日本公開公報:特開平5-202157号)に記載されている。)なども使用することができる。前記アミノ化合物としては、上述した化合物中でも、工業的に生産されており安価であることから、多官能性アミノ化合物である、メラミン、グアナミン、アセトグアナミン、およびベンゾグアナミンが好ましく、メラミンが特に好ましい。上述したアミノ化合物は、1種類のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。またこれらアミノ化合物に加えて、(a)フェノール、クレゾール、アルキルフェノール、レゾルシン、ハイドロキノン、およびピロガロールなどのフェノール類、並びに(b)アニリン、などを追加して用いても良い。
【0235】
前記アルデヒド類としては、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド、およびフルフラールなどが挙げられる。前記アルデヒド類としては、安価であり、先に挙げたアミノ化合物との反応性が良いことから、ホルムアルデヒド、およびパラホルムアルデヒドが好ましい。アミノ-ホルムアルデヒド樹脂の製造において、アルデヒド類は、アミノ化合物1モルに対して、有効アルデヒド基当たり1.1~6.0モルを使用することが好ましく、1.2~4.0モルを使用することが特に好ましい。
【0236】
(熱硬化性樹脂の物性)
熱硬化性樹脂の性状は特に限定されない。熱硬化性樹脂は、25℃において100mPa・s~1,000,000mPa・sの粘度を有することが好ましい。熱硬化性樹脂の粘度は、25℃において、50,000mPa・s以下であることがより好ましく、30,000mPa・s以下であることがさらに好ましく、15,000mPa・s以下であることが特に好ましい。前記構成によると、熱硬化性樹脂は流動性に優れるという利点を有する。25℃において100mPa・s~1,000,000mPa・sの粘度を有する熱硬化性樹脂は、液体であるともいえる。
【0237】
熱硬化性樹脂の流動性が大きくなるほど、換言すれば粘度が小さくなるほど、熱硬化性樹脂中に、重合体微粒子(A)を一次粒子の状態で分散させることが困難となる。従来、25℃において1,000,000mPa・s以下の粘度を有する熱硬化性樹脂中に、重合体微粒子(A)を一次粒子の状態で分散させることは非常に困難であった。しかし、本発明の一実施形態に係る樹脂組成物は、上述した構成を有する重合体微粒子(A)が、25℃において1,000,000mPa・s以下の粘度を有する熱硬化性樹脂中で良好に分散しているという利点を有する。
【0238】
また熱硬化性樹脂の粘度は、重合体微粒子(A)中に熱硬化性樹脂が入り込むことにより重合体微粒子(A)同士の融着を防ぐことができることから、25℃において、100mPa・s以上であることがより好ましく、500mPa・s以上であることがさらに好ましく、1000mPa・s以上であることがよりさらに好ましく、1500mPa・s以上であることが特に好ましい。
【0239】
熱硬化性樹脂は、1,000,000mPa・sより大きい粘度を有していてもよい。熱硬化性樹脂は、半固体(半液体)であってもよく、固体であってもよい。熱硬化性樹脂が1,000,000mPa・sより大きい粘度を有する場合、得られる樹脂組成物が、べたつきが少なく取り扱いやすいという利点を有する。
【0240】
熱硬化性樹脂は、示差熱走査熱量測定(DSC)のサーモグラムにて25℃以下の吸熱ピークを有することが好ましく、0℃以下の吸熱ピークを有することがより好ましい。前記構成によると、熱硬化性樹脂は流動性に優れるという利点を有する。
【0241】
(5-2.本樹脂組成物とマトリクス樹脂との配合比率等)
本樹脂組成物とマトリクス樹脂との配合比率は、本樹脂組成物とマトリクス樹脂の合計を100重量%とした場合に、通常、本樹脂組成物が0.5~50重量%、マトリクス樹脂が50~99.5重量%であることが好ましく、本樹脂組成物が1~35重量%、マトリクス樹脂が65~99重量%であることがより好ましく、本樹脂組成物が1.5~25重量%、マトリクス樹脂が75~98.5重量%であることが特に好ましく、本樹脂組成物が2.5~20重量%、マトリクス樹脂が80~97.5重量%であることがもっとも好ましい。
【0242】
マトリクス樹脂が熱硬化性樹脂である場合、その状態は、本樹脂組成物との混合時に流動するのであれば特に限定されず、室温で固体であってもよいが、作業性の点から液状が好ましい。
【0243】
本樹脂組成物を熱硬化性マトリクス樹脂と混合する際の温度は、熱硬化性マトリクス樹脂が流動し得る温度になることが一般的であるが、熱硬化性マトリクス樹脂が流動し得る温度で樹脂(B)が流動しうるなら、樹脂(B)と熱硬化性マトリクス樹脂を均一に混合することが容易になる。逆に、熱硬化性マトリクス樹脂が液状で、これに添加する本樹脂組成物中のエポキシ樹脂が固体である場合は、両者を均一に混合することが難しくなる。なお本明細書では、25℃で熱硬化性マトリクス樹脂が液状である場合は、「25℃での熱硬化性マトリクス樹脂の粘度は、25℃での樹脂(B)の粘度以上である」と解釈する。
【0244】
(5-3.その他の任意成分)
本樹脂組成物とマトリクス樹脂との混合物には、耐ブロッキング性および熱硬化性マトリクス樹脂への分散性の向上の点から、さらにブロッキング防止剤を含むことが好ましい。ブロッキング防止剤は、上記効果を奏するものであれば特に制限されない。ブロッキング防止剤としては、二酸化ケイ素、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、ケイ酸アルミニウム、珪藻土、ゼオライト、カオリン、タルク、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、硫酸バリウム、ヒドロケイ酸マグネシウム等の無機微粒子からなるブロッキング防止剤;有機微粒子からなるブロッキング防止剤;ポリエチレンワックス、高級脂肪酸アミド、金属セッケン、シリコーン油などの油脂系ブロッキング防止剤が挙げられる。これらの中で、微粒子からなるブロッキング防止剤が好ましく、有機微粒子からなるブロッキング防止剤がより好ましく、芳香族ビニルモノマー、ビニルシアンモノマー、(メタ)アクリレートモノマーより選択される1種以上の単量体単位を含む重合体の有機微粒子からなるブロッキング防止剤が特に好ましい。
【0245】
微粒子からなるブロッキング防止剤は、一般に、微粒子が液中に分散してなるもの、またはコロイド状のものである。ブロッキング防止剤中の微粒子は、体積平均粒子径(Mv)が、通常10μm以下、好ましくは0.05~10μmである。ブロッキング防止剤の含有量は、本樹脂組成物とマトリクス樹脂との総重量に対して、好ましくは0.01~5.0重量%、より好ましくは0.5~3.0重量%である。
【0246】
本樹脂組成物とマトリクス樹脂との混合物は、必要に応じて、前述した成分以外の、その他の任意成分を含有してもよい。その他の任意成分としては、硬化剤、顔料および染料などの着色剤、体質顔料、紫外線吸収剤、酸化防止剤、熱安定化剤(ゲル化防止剤)、可塑剤、レベリング剤、消泡剤、シランカップリング剤、帯電防止剤、難燃剤、滑剤、減粘剤、低収縮剤、無機質充填剤、有機質充填剤、熱可塑性樹脂、乾燥剤、並びに分散剤などが挙げられる。
【0247】
ブロッキング防止剤や添加剤(前記その他の任意成分)は、本樹脂組成物の製造方法における任意の工程中で適宜添加することができる。例えば、ブロッキング防止剤や前記添加剤は、重合体微粒子(A)が凝固する前もしくは凝固した後の水懸濁液中へ添加することができ、または、本樹脂組成物もしくは本樹脂組成物とマトリクス樹脂との混合物へ添加することができる。
【0248】
本樹脂組成物とマトリクス樹脂との混合物は、マトリクス樹脂以外の、公知の熱硬化性樹脂をさらに含んでいてもよいし、公知の熱可塑性樹脂をさらに含んでいてもよい。
【0249】
〔6.硬化物〕
本発明の一実施形態に係る硬化物は、〔5.樹脂組成物(本樹脂組成物とマトリクス樹脂との混合物)〕の項で説明した樹脂組成物を硬化させたものである。以下、単に本硬化物ともいう。
【0250】
本硬化物は、前記構成を有するため、金属板等に塗布した後、硬化させた場合でも、錆が発生し難い。また、(a)表面美麗であり、(b)高剛性および高弾性率を有し、かつ(c)靱性および接着性に優れるものである。
【0251】
〔7.その他の用途〕
上述した本樹脂組成物および本樹脂組成物とマトリクス樹脂との混合物(以下、単に本樹脂組成物等と称する。)は、様々な用途に使用することができ、それらの用途は特に限定されない。本樹脂組成物等は、それぞれ、例えば、接着剤、コーティング材、強化繊維のバインダー、複合材料、3Dプリンターの造形材料、封止剤、電子基板、インキバインダー、木材チップバインダー、ゴムチップ用バインダー、フォームチップバインダー、鋳物用バインダー、床材用およびセラミック用の岩盤固結材、ウレタンフォームなどの用途に好ましく用いられる。ウレタンフォームとしては、自動車シート、自動車内装部品、吸音材、制振材、ショックアブソーバー(衝撃吸収材)、断熱材、工事用床材クッションなどが挙げられる。
【0252】
本樹脂組成物等は、上述した用途の中でも、接着剤、コーティング材、強化繊維のバインダー、複合材料、3Dプリンターの造形材料、封止剤、および電子基板として用いられることがより好ましい。
【0253】
(7-1.接着剤)
本発明の一実施形態に係る接着剤は、上述した本樹脂組成物等を含むものである。本発明の一実施形態に係る接着剤は、前記構成を有するため、接着性に優れるものである。
【0254】
本発明の一実施形態に係る接着剤を、単に本接着剤ともいう。
【0255】
本接着剤は、自動車内装材用、一般木工用、家具用、内装用、壁材用および食品包装用などの種々の用途に好適に用いられ得る。
【0256】
本接着剤は、冷間圧延鋼、アルミニウム、ファイバーグラスで強化されたポリエステル(FRP)、炭素繊維で強化されたエポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂の硬化物のパネル、炭素繊維で強化された熱可塑性樹脂シートのパネル、シートモウルディングコンパウンド(SMC)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリカーボネート、ポリプロピレン、TPO、木材およびガラス、など、種々の被着体へ良好な接着性を示す。
【0257】
本接着剤は低温(-20℃程度)から常温のみならず、高温(80℃程度)においても接着性能および柔軟性に優れる。よって本接着剤は構造用接着剤としてより好適に用いることができる。
【0258】
本接着剤を用いた構造用接着剤は、例えば、自動車および車両(新幹線、電車など)、土木、建築、建材、木工、電気、エレクトロニクス、航空機、宇宙産業分野などの構造部材の接着剤として使用することができる。特に、自動車関連の用途としては、天井、ドア、シートなどの内装材の接着、および、ランプなどの自動車照明灯具、サイドモールなどの外装材の接着などを挙げることができる。
【0259】
本接着剤は、本樹脂組成物等を用いて製造することができる。本接着剤の製造方法としては、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。
【0260】
(7-2.コーティング材)
本発明の一実施形態に係るコーティング材は、上述した本樹脂組成物等を含むものである。本発明の一実施形態に係るコーティング材は、前記構成を有するため、耐荷重性および耐摩耗性に優れた塗膜を提供できる。
【0261】
本発明の一実施形態に係るコーティング材を、単に本コーティング材ともいう。
【0262】
本コーティング材を、例えば床または廊下に施工する場合には、一般に実施されている施工法を適用することができる。たとえば、素地調整した下地にプライマーを塗布後、施工条件に応じて、コテ、ローラー、レーキ、スプレーガンなどを用いて本コーティング材を均一に塗工する。本コーティング材を塗工後、硬化が進み、性能の良い舗装膜が得られる。本コーティング材を硬化して得た塗膜は、耐荷重性および耐摩耗性に優れた塗膜となり得る。
【0263】
本コーティング材の施工方法に依存して、当該コーティング材に用いられる樹脂組成物の粘度を調整してもよい。例えば、本コーティング材の施工にコテまたはレーキを使用する場合、当該コーティング材に用いられる樹脂組成物の粘度は、一般的には500~9,000cps/25℃程度に調整され得る。本コーティング材の施工にローラーまたはスプレーを使用する場合、当該コーティング材に用いられる樹脂組成物の粘度は、一般的には100~3,000cps/25℃程度に調整され得る。
【0264】
本コーティング材が塗付される下地(換言すれば、床または廊下の材質)としては特に限定は無い。前記下地としては、具体的には、(a)コンクリート壁、コンクリート板、コンクリートブロック、CMU(Concrete Masonry Unit)、モルタル板、ALC(Autoclaved Light-weight Concrete)板、石膏板(Dens Glass Gold:Georgia Pacific社製など)、スレート板などの無機系下地、(b)木質系下地(木材、合板、OSB(Oriented Strand Board)など)、アスファルト、変性ビチューメンの防水シート、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)の防水シート、TPOの防水シート、プラスチック、FRP、ウレタンフォーム断熱材などの有機系下地、および(c)金属パネルなどの金属系下地、などが挙げられる。
【0265】
本コーティング材を、金属の下地または多孔質下地に塗布する場合について説明する。前記塗布の後、コーティング材を硬化して得られる積層体は、前記下地への防食性に優れるものである。また、前記塗布の後、コーティング材が硬化されて得られる塗膜は、下地に対して、優れた耐クラック性および耐荷重性を付与し得る。そのため、本コーティング材を、金属の下地または多孔質下地に塗布する態様は特に好ましい態様である。
【0266】
本コーティング材の塗付方法としては特に限定は無いが、コテ、レーキ、刷毛、ローラー、エアースプレー、エアレススプレーなどの公知の塗布方法により行うことができる。
【0267】
本コーティング材の用途としては、特に限定されないが、自動車用、電気機器用、事務機用、建材用、木材用、塗り床用、舗装用、重防食用、コンクリート防食用、屋上および屋根の防水用、屋上および屋根の耐食用、地下防水用の塗膜防水材用、自動車補修用、缶塗装用、上塗り用、中塗り用、下塗り用、プライマー用、電着塗料用、高耐候塗料用、無黄変塗料用、などが挙げられる。塗り床用コーティング材、および舗装用コーティング材などに使用する場合、工場、実験室、倉庫、およびクリーンルームなどに使用することができる。
【0268】
本コーティング材は、本樹脂組成物等を用いて製造することができる。本コーティング材の製造方法としては、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。
【0269】
(7-3.複合材料)
本発明の一実施形態に係る複合材料は、上述した本樹脂組成物等を、強化繊維のバインダーとして含むものである。本発明の一実施形態に係る複合材料は、前記構成を有するため、靭性および耐衝撃性に優れるという利点を有する。
【0270】
本発明の一実施形態に係る複合材料を、単に本複合材料ともいう。
【0271】
本複合材料は、強化繊維を含み得る。前記強化繊維としては、特に限定されないが、ガラス繊維、ガラス長繊維、炭素繊維、天然繊維、金属繊維、熱可塑性樹脂繊維、ボロン繊維、アラミド繊維、ポリエチレン繊維、ザイロン強化繊維などが挙げられる。これら強化繊維の中でも、特に、ガラス繊維および炭素繊維が好ましい。
【0272】
本複合材料の製造方法(成形方法)としては、特に限定されないが、プリプレグを用いたオートクレーブ成形法、フィラメントワインド成形法、ハンドレイアップ成形法、真空バッグ成形法、樹脂注入成形(RTM)法、バキュームアシスト樹脂注入成形(VARTM)法、引き抜き成形法、射出成型法、シートワインディング成形法、スプレーアップ法、BMC(Bulk Molding Compound)法、SMC(Sheet MoldingCompound)法、などが挙げられる。
【0273】
特に、強化繊維として炭素繊維を用いた場合、本複合材料の製造方法としては、プリプレグを用いたオートクレーブ成形法、フィラメントワインド成形法、ハンドレイアップ成形法、真空バッグ成形法、樹脂注入成形(RTM)法、バキュームアシスト樹脂注入成形(VARTM)法、などを使用することが好ましい。
【0274】
本複合材料の用途としては、特に限定されないが、航空機、宇宙機、自動車、自転車、船舶、兵器、風車、スポーツ用品、容器、建築材料、防水材、プリント基板、電気絶縁材料、などが挙げられる。
【0275】
本複合材料は、本樹脂組成物等を用いて、製造することができる。本複合材料に関する、強化繊維、製造方法(成形方法)、製造条件(成形条件)、配合剤、用途、などのより詳細内容については、米国公開特許2006/0173128号公報、米国公開特許2012/0245286号公報、特表2002-530445号公報(国際公開WO2000/029459号公報)、特開昭55-157620号公報(米国特許第4251428号公報)、特表2013-504007号公報(国際公開WO2011/028271号公報)、特開2007-125889号公報(米国公開特許2007/0098997号公報)、特開2003-220661号公報(米国公開特許2003/0134085号公報)に記載された内容を挙げることができる。
【0276】
(7-4.3Dプリンターの造形材料)
本発明の一実施形態に係る3Dプリンターの造形材料は、上述した本樹脂組成物等を含むものである。本発明の一実施形態に係る3Dプリンターの造形材料は、前記構成を有するため、靭性および耐衝撃性に優れるという利点を有する。
【0277】
本発明の一実施形態に係る3Dプリンターの造形材料を、単に本造形材料ともいう。
【0278】
本造形材料の用途としては、特に限定されないが、実際に製品を作る前のデザインの検証および機能検証などを目的とした試作品、航空機の部品、建築部材および医療機器の部品などが挙げられる。
【0279】
本造形材料は、本本樹脂組成物等を用いて製造することができる。本造形材料の製造方法としては、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。
【0280】
(7-5.封止剤)
本発明の一実施形態に係る封止剤は、上述した本樹脂組成物等を用いてなるものである。本発明の一実施形態に係る封止剤は、前記構成を有するため、靭性および耐衝撃性に優れるという利点を有する。
【0281】
本発明の一実施形態に係る封止剤を、単に本封止剤ともいう。
【0282】
本封止剤の用途としては、特に限定されないが、半導体などの各種電気機器およびパワ-デバイスなどの封止などが挙げられる。
【0283】
本封止剤は、本樹脂組成物等を用いて製造することができる。本封止剤の製造方法としては、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。
【0284】
(7-6.電子基板)
本発明の一実施形態に係る電子基板は、上述した本樹脂組成物等を用いてなるものである。本発明の一実施形態に係る電子基板は、前記構成を有するため、靭性および耐衝撃性に優れるという利点を有する。
【0285】
本発明の一実施形態に係る電子基板を、単に本電子基板ともいう。
【0286】
本電子基板の用途としては、特に限定されないが、プリント回路、プリント配線、プリント回路板、プリント回路実装品、プリント配線板およびプリント板などが挙げられる。
【0287】
本電子基板は、本樹脂組成物等を用いて、本樹脂組成物等から製造することができる。本電子基板の製造方法としては、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。
【0288】
〔まとめ〕
本発明の一実施形態には、以下の発明が含まれる。
【0289】
(1)重合体微粒子(A)を含むラテックスを、急速に凍結させる急速凍結工程と、前記急速凍結工程により凍結したラテックスを解凍する解凍工程と、前記急速凍結工程後のラテックスに、25℃において100mPa・s~1,000,000mPa・sの粘度を有する液体であるか、半固体であるか、または固体である樹脂(B)を混合する樹脂混合工程と、前記解凍工程および樹脂混合工程の後、ラテックス中から、重合体微粒子(A)および樹脂(B)を含有する凝集体である樹脂組成物と水成分とを分離する分離工程と、を含む樹脂組成物の製造方法。
【0290】
(2)重合体微粒子(A)を含むラテックスに、25℃において100mPa・s~1,000,000mPa・sの粘度を有する液体であるか、半固体であるか、または固体である樹脂(B)を混合する樹脂混合工程と、前記樹脂混合工程により得られた樹脂(B)が分散したラテックスを凍結させる凍結工程と、前記凍結工程により凍結したラテックスを解凍する解凍工程と、前記解凍工程の後、ラテックス中から、重合体微粒子(A)および樹脂(B)を含有する凝集体である樹脂組成物と水成分とを分離する分離工程と、を含む樹脂組成物の製造方法。
【0291】
(3)さらに、前記凍結工程の前に、前記樹脂混合工程により発生した凝集体を取り除く除去工程を含む、(2)に記載の樹脂組成物の製造方法。
【0292】
(4)重合体微粒子(A)を含むラテックスに、25℃において100mPa・s~1,000,000mPa・sの粘度を有する液体であるか、半固体であるか、または固体である樹脂(B)を混合する樹脂混合工程と、前記樹脂混合工程により得られたラテックスに、剪断応力を与える剪断工程と、前記剪断工程の後、ラテックス中から、重合体微粒子(A)および樹脂(B)を含有する凝集体である樹脂組成物と水成分とを分離する第1の分離工程と、を含む、樹脂組成物の製造方法。
【0293】
(5)さらに、前記第1の分離工程において凝集体を分離した水成分から、重合体微粒子(A)および樹脂(B)を含有する凝集体である樹脂組成物を凝集させる凝集工程と、前記凝集工程の後、重合体微粒子(A)および樹脂(B)を含有する凝集体である樹脂組成物と水成分とを分離する第2の分離工程と、を含む、(4)に記載の樹脂組成物の製造方法。
【0294】
(6)前記凝集工程は、前記第1の分離工程において凝集体を分離した水成分を凍結させる工程を含む、(5)に記載の樹脂組成物の製造方法。
【0295】
(7)前記分離工程、第1の分離工程または第2の分離工程において、前記凝集体の含水量が、凝集体100重量%中、5重量%~60重量%に調整する工程を含む、(1),(2),(4),(5)のいずれかに記載の樹脂組成物の製造方法。
【0296】
(8)さらに、前記樹脂組成物を洗浄する洗浄工程を含む、(1)~(7)のいずれかに記載の樹脂組成物の製造方法。
【0297】
(9)前記重合体微粒子(A)と前記樹脂(B)との合計を100重量%とした場合に、前記重合体微粒子(A)が1~70重量%、前記樹脂(B)が30~99重量%である、(1)~(8)のいずれかに記載の樹脂組成物の製造方法。
【0298】
(10)構成単位として、芳香族ビニル単量体、ビニルシアン単量体、および(メタ)アクリレート単量体からなる群より選択される1種以上の単量体に由来する構成単位を含む重合体からなるグラフト部を有する重合体微粒子(A)と、25℃において100mPa・s~1,000,000mPa・sの粘度を有する液体であるか、半固体であるか、または固体である樹脂(B)と、を含有し、前記重合体微粒子(A)と前記樹脂(B)との合計を100重量%とした場合に、前記重合体微粒子(A)が1~70重量%、前記樹脂(B)が30~99重量%であり、樹脂(B)中の重合体微粒子(A)の含有量を5重量%とした場合の、樹脂(B)中における重合体微粒子(A)の分散性が、グラインドゲージを用いてJIS K5101に従い評価したとき、0μm以下であり、有機溶剤を実質的に含むものではなく、元素SおよびPの含有量が、いずれも150ppm以下であり、 電気伝導度が0.6mS/cm以下である、樹脂組成物。
【0299】
(11)さらに、元素Ca、Mg、Fe、Zn、BaおよびAlの含有量が、いずれも100ppm以下である、(10)に記載の樹脂組成物。
【0300】
(12)前記重合体微粒子(A)は、弾性体と、当該弾性体に対してグラフト結合された前記グラフト部と、を有するゴム含有グラフト共重合体である、(10)または(11)に記載の樹脂組成物。
【0301】
(13)前記弾性体は、ジエン系ゴム、(メタ)アクリレート系ゴムおよびポリシロキサンゴム系弾性体からなる群より選択される1種以上を含むものである、(12)に記載の樹脂組成物。
【0302】
(14)前記樹脂(B)は、熱硬化性樹脂を含むものである、(10)~(13)のいずれかに記載の樹脂組成物。
【実施例】
【0303】
以下、実施例および比較例によって本発明の一実施形態をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。本発明の一実施形態は、前記または後記の趣旨に適合し得る範囲で適宜変更して実施することが可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。なお下記実施例および比較例において「部」および「%」とあるのは、重量部または重量%を意味する。
【0304】
[評価方法]
先ず、実施例および比較例によって製造した樹脂組成物の評価方法について、以下説明する。
【0305】
<体積平均粒子径の測定>
水性ラテックスに分散している弾性体または重合体微粒子(A)の体積平均粒子径(Mv)は、Nanotrac WaveII-EX150(マイクロトラックベル株式会社製)を用いて測定した。脱イオン水で水性ラテックスを希釈したものを測定試料として用いた。測定は、水、および、各製造例で得られた弾性体または重合体微粒子(A)の屈折率を入力し、計測時間120秒、ローディングインデックス1~20の範囲内になるように試料濃度を調整して行った。
【0306】
<樹脂(B)の示差熱走査熱量測定(DSC)>
以下の実施例および比較例で使用した樹脂(B)である液状エポキシ樹脂(三菱ケミカル株式会社製、JER828)の示差熱走査熱量を、DSC7020(株式会社日立ハイテクサイエンス製)を用いて測定した。昇温速度は10℃/minとした。その結果、液状エポキシ樹脂は、-15℃に吸熱ピークを有することが分かった。
【0307】
<粘度測定>
以下の実施例および比較例で使用した樹脂(B)である液状エポキシ樹脂(三菱ケミカル株式会社製、JER828)、または得られた樹脂組成物の粘度測定行った。使用した装置は、BROOKFIELD社製デジタル粘度計DV-II+Pro型であった。また、粘度領域によってスピンドルCPE-52を用い、測定温度25℃にてShear Rate(ずり速度)を必要に応じ変化させて、粘度を測定した。その結果、液状エポキシ樹脂は12,000mPa・sであった。
【0308】
<分散性の評価>
得られた樹脂組成物にさらに樹脂(B)を添加し、樹脂(B)中の重合体微粒子(A)の含有量が5重量%である組成物を得た。得られた組成物における、樹脂(B)中の、重合体微粒子(A)の分散性について、グラインドゲージを用いてJIS K5101に従い分散性を評価した。具体的な方法は下記の通りである。組成物をグラインドゲージ上に載せ、金属スクレーパーでゲージ上の組成物をかき取り、分散状態を目視で確認した。スクレーパーの運動で生じた粒状痕が、3mm幅の帯の中に5~10個の点が発生した位置の目盛りを読み取った。なお、得られた値が小さいほど、分散性に優れることを意味する。
【0309】
<樹脂組成物中の含溶剤量の測定>
得られた樹脂組成物中の含溶剤量は、ガスクロマトグラフィー(島津製作所社製、GC-2014)を用いて測定した。
【0310】
<樹脂組成物中の元素S、P、Ca、Mg、Fe、Zn、BaおよびAlの測定>
樹脂組成物中の元素S、P、Ca、Mg、Fe、Zn、BaおよびAlの含有量は、蛍光X線分析装置SPECTROXEPOS(SPECTRO社製)を用いて測定した。
【0311】
<電気電導度の測定>
樹脂組成物100gおよびイオン交換水100gを撹拌槽で90℃、900rpmの条件で30分間撹拌を行った。その後、油水分離をして洗浄水を取り出し、ポータブル型電気伝導率計(HORIBA社製)を用いて測定した。
【0312】
1.弾性体の重合
製造例1-1;ポリブタジエンゴムラテックス(R-1)の調製
耐圧重合器中に、脱イオン水200部、リン酸三カリウム0.03部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(EDTA)0.002部、硫酸第一鉄・7水和塩0.001部、および乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(SDBS)1.55部を投入した。次に、投入した原料を撹拌しつつ、耐圧重合器内部の気体を窒素置換することにより、耐圧重合器内部から酸素を十分に除いた。その後、ブタジエン(Bd)100部を耐圧重合器内に投入し、耐圧重合器内の温度を45℃に昇温した。その後、パラメンタンハイドロパーオキサイド(PHP)0.03部を耐圧重合器内に投入し、続いてナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート(SFS)0.10部を耐圧重合器内に投入し、重合を開始した。重合開始から15時間目に、減圧下にて脱揮して、重合に使用されずに残存した単量体を脱揮除去することにより、重合を終了した。重合中、PHP、EDTAおよび硫酸第一鉄・7水和塩のそれぞれを、任意の量および任意の時宜で耐圧重合器内に添加した。当該重合により、ポリブタジエンゴムを主成分とする弾性体を含む水性ラテックス(R-1)を得た。得られた水性ラテックスに含まれる弾性体の体積平均粒子径
は90nmであった。
【0313】
製造例1-2;ポリブタジエンゴムラテックス(R-2)の調製
耐圧重合器中に、前記で得たポリブタジエンゴムラテックス(R-1)を固形分で7部、脱イオン水200部、リン酸三カリウム0.03部、EDTA0.002部、及び硫酸第一鉄・7水和塩0.001部を投入した。次に、投入した原料を撹拌しつつ、耐圧重合器内部の気体を窒素置換することにより、耐圧重合器内部から酸素を十分に除いた。その後、Bd93部を耐圧重合器内に投入し、耐圧重合器内の温度を45℃に昇温した。その後、PHP0.02部を耐圧重合器内に投入し、続いてSFS0.10部を耐圧重合器内に投入し、重合を開始した。重合開始から30時間目に、減圧下にて脱揮して、重合に使用されずに残存した単量体を脱揮除去することにより、重合を終了した。重合中、PHP、EDTA、硫酸第一鉄・7水和塩およびSDBSのそれぞれを、任意の量および任意の時宜で耐圧重合器内に添加した。当該重合により、ポリブタジエンゴムを主成分とする弾性体を含む水性ラテックス(R-2)を得た。得られた水性ラテックスに含まれる弾性体の体積平均粒子径は195nmであった。
【0314】
製造例1-3;ポリスチレン-ブタジエンゴムラテックス(R-3)の調製
耐圧重合器中に、脱イオン水160部、EDTA0.002部、硫酸第一鉄・7水和塩0.001部、ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸0.029部、および水酸化ナトリウム0.003部を投入した。ここで、ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸は、水酸化ナトリウムの存在下で、ポリオキシエチレンラウリルエーテルリンナトリウムとなり、乳化剤として機能した。次に、投入した原料を撹拌しつつ、耐圧重合器内部の気体を窒素置換することにより、耐圧重合器内部から酸素を十分に除いた。その後、Bd76.5部、およびスチレン(St)23.5部を耐圧重合器内に投入し、耐圧重合器内の温度を45℃に昇温した。その後、PHP0.03部を耐圧重合器内に投入し、続いてSFS0.05部を耐圧重合器内に投入し、重合を開始した。重合開始から20時間目に、減圧下にて脱揮して、重合に使用されずに残存した単量体を脱揮除去することにより、重合を終了した。重合中、PHP、ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸および水酸化ナトリウムのそれぞれを、任意の量および任意の時宜で耐圧重合器内に添加した。当該重合により、ポリスチレン-ブタジエンゴムを主成分とする弾性体を含む水性ラテックス(R-3)を得た。得られた水性ラテックスに含まれる弾性体の体積平均粒子径は192nmであった。
【0315】
製造例1-4;ポリブタジエンゴムラテックス(R-4)の調製
耐圧重合器中に、脱イオン水200重量部、リン酸三カリウム0.03重量部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(EDTA)0.002重量部、硫酸第一鉄・7水和塩0.001重量部、および乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(SDBS)1.55重量部を投入した。次に、投入した原料を撹拌しつつ、耐圧重合器内部の気体を窒素置換することにより、耐圧重合器内部から酸素を十分に除いた。その後、ブタジエン(Bd)100重量部を耐圧重合器内に投入し、耐圧重合器内の温度を45℃に昇温した。その後、パラメンタンハイドロパーオキサイド(PHP)0.03重量部を耐圧重合器内に投入し、続いてナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート(SFS)0.10重量部を耐圧重合器内に投入し、重合を開始した。重合開始から15時間目に、減圧下にて脱揮して、重合に使用されずに残存した単量体を脱揮除去することにより、重合を終了した。重合中、PHP、EDTAおよび硫酸第一鉄・7水和塩のそれぞれを、任意の量および任意の時宜で耐圧重合器内に添加した。当該重合により、ポリブタジエンゴムを主成分とする弾性体を含む水性ラテックス(R-4)を得た。得られた水性ラテックスに含まれる弾性体の体積平均粒子径は70nmであった。
【0316】
2.重合体微粒子(A)の調製(グラフト部の重合)
製造例2-1;重合体微粒子ラテックス(L-1)の調製
ガラス製反応器に、前記ポリブタジエンゴムラテックス(R-2)250部(ポリブタジエンゴムを主成分とする弾性体87部を含む)、および、脱イオン水50部を投入した。ここで、前記ガラス製反応器は、温度計、撹拌機、還流冷却器、窒素流入口、および単量体の添加装置を有していた。ガラス製反応器中の気体を窒素で置換し、60℃にて投入した原料を撹拌した。次に、EDTA0.004部、硫酸第一鉄・7水和塩0.001部、およびSFS0.2部をガラス製反応器内に加え、10分間撹拌した。その後、メチルメタクリレート(MMA)12.5部、St0.5部、およびt-ブチルハイドロパーオキサイド(BHP)0.035部の混合物をガラス製反応器内に、80分間かけて連続的に添加した。その後、BHP0.013部をガラス製反応器内に添加し、さらに1時間、ガラス製反応器内の混合物の撹拌を続けて重合を完結させた。以上の操作により、重合体微粒子(A)および乳化剤を含む水性ラテックス(L-1)を得た。単量体成分の重合転化率は99%以上であった。得られた水性ラテックスに含まれる重合体微粒子(A)の体積平均粒子径は200nmであった。得られた水性ラテックス(L-1)における固形分濃度(重合体微粒子(A)の濃度)は30%であった。
【0317】
製造例2-2;重合体微粒子ラテックス(L-2)の調製
ガラス製反応器に、前記ポリスチレン-ブタジエンゴムラテックス(R-3)250部(ポリスチレン-ブタジエンゴムを主成分とする弾性体87部を含む)、および、脱イオン水50部を投入した。ここで、前記ガラス製反応器は、温度計、撹拌機、還流冷却器、窒素流入口、および単量体の添加装置を有していた。ガラス製反応器中の気体を窒素で置換し、60℃にて投入した原料を撹拌した。次に、EDTA0.004部、硫酸第一鉄・7水和塩0.001部、およびSFS0.2部をガラス製反応器内に加え、10分間撹拌した。その後、MMA12.5部、St0.5部、およびBHP0.035部の混合物をガラス製反応器内に、80分間かけて連続的に添加した。その後、BHP0.013部をガラス製反応器内に添加し、さらに1時間、ガラス製反応器内の混合物の撹拌を続けて重合を完結させた。以上の操作により、重合体微粒子(A)および乳化剤を含む水性ラテックス(L-2)を得た。単量体成分の重合転化率は99%以上であった。得られた水性ラテックスに含まれる重合体微粒子(A)の体積平均粒子径は200nmであった。得られた水性ラテックス(L-2)における固形分濃度(重合体微粒子(A)の濃度)は30%であった。
【0318】
製造例2-3;重合体微粒子ラテックス(L-3)の調製
ガラス製反応器に、前記ポリブタジエンゴムラテックス(R-4)250重量部(ポリブタジエンゴムを主成分とする弾性体83重量部を含む)を投入した。ここで、前記ガラス製反応器は、温度計、撹拌機、還流冷却器、窒素流入口、および単量体の添加装置を有していた。ガラス製反応器中の気体を窒素で置換し、60℃にて投入した原料を撹拌した。次に、EDTA0.004重量部、硫酸第一鉄・7水和塩0.001重量部、およびSFS0.20重量部をガラス製反応器内に加え、10分間撹拌した。その後、メチルメタクリレート(MMA)0.8重量部、スチレン(St)5.4重量部、アクリロニトリル(AN)3.9重量部、グリシジルメタクリレート(GMA)6.9重量部およびt-ブチルハイドロパーオキサイド(BHP)0.043重量部の混合物をガラス製反応器内に、120分間かけて連続的に添加した。その後、BHP0.013重量部をガラス製反応器内に添加し、さらに1時間、ガラス製反応器内の混合物の撹拌を続けて重合を完結させた。以上の操作により、重合体微粒子(A)を含む水性ラテックス(L-3)を得た。単量体成分の重合転化率は99%以上であった。得られた水性ラテックスに含まれる重合体微粒子(A)の体積平均粒子径は80nmであった。得られた水性ラテックス(L-3)における固形分濃度(重合体微粒子(A)の濃度)は30%であった。
【0319】
(実施例1)
水性ラテックス(L-1)333gを-30℃の金属面に供給して1分後に掻き取り、凍結したラテックス(L-1)を得た。凍結したラテックス(L-1)を常温で解凍した。解凍したラテックス(L-1)と樹脂(B)である液状エポキシ樹脂(三菱ケミカル株式会社製、JER828。以下、同様。)66.7gとを連続式ニーダーを用いて混錬した。次に、ラテックス中から、重合体微粒子(A)および樹脂(B)を含有する凝集体である樹脂組成物と水成分とを分離した。得られた凝集体(樹脂組成物)およびイオン交換水100gを連続ニーダーに供給する操作と、得られた混合物を遠心脱水に供する操作とを合計3サイクル繰り返し、洗浄された凝集体を得た。得られた凝集体について、115℃で真空脱揮を行って水を除去したのちに各分析を行った。
【0320】
(比較例1)
水性ラテックス(L-1)333gを-30℃の金属面に供給して1分後に掻き取る、との操作の代わりに、水性ラテックス(L-1)333gを-20℃の冷凍庫内に12時間放置する操作を行い、凍結したラテックス(L-1)を得た。それ以外は実施例1と同様の操作を行った。
【0321】
(実施例2)
ホモミキサーを用いて水性ラテックス(L-1)333gを12000rpmで撹拌を行い、当該ホモミキサーに樹脂(B)である液状エポキシ樹脂150gを投入して、さらに30分間撹拌を行った。得られた撹拌物を-20℃の冷凍庫内に12時間放置して、凍結したラテックス(L-1)を得た。凍結したラテックス(L-1)を50℃の温水で湯せんして解凍した。解凍したラテックス(L-1)中から、重合体微粒子(A)および樹脂(B)を含有する凝集体である樹脂組成物と水成分とを分離した。得られた凝集体200gおよびイオン交換水300gを混合し、混合物を90℃、30分間撹拌を行った。得られた混合物から、油水分離をして凝集体を取り出した。得られた凝集体について、115℃で真空脱揮を行って水を除去したのちに各分析を行った。
【0322】
(実施例3)
水性ラテックス(L-1)の代わりに水性ラテックス(L-2)333gを用いた以外は実施例2と同様の操作を行った。
【0323】
(実施例4)
ホモミキサーを用いて水性ラテックス(L-1)333gを12000rpmで撹拌を行い、当該ホモミキサーに樹脂(B)である液状エポキシ樹脂150gを投入して、さらに30分間撹拌を行った。得られた撹拌物を16メッシュの金網に供して濾過を行い、金網上に残った凝集体と金網を通過した液(濾液)とをそれぞれ回収した。得られた濾液を、-20℃の冷凍庫内に12時間放置して、凍結したラテックス(L-1)を得た。凍結したラテックス(L-1)を50℃の温水で湯せんして解凍した。次に、上記金網上に残った凝集体と解凍したラテックス(L-1)とを連続式ニーダーを用いて混錬した。混練後の混合物(ラテックス)中から、重合体微粒子(A)および樹脂(B)を含有する凝集体である樹脂組成物と水成分とを分離した。得られた凝集体200gおよびイオン交換水300gを混合し、混合物を90℃、30分間撹拌を行った。得られた混合物から、油水分離をして凝集体を取り出した。得られた凝集体について、115℃で真空脱揮を行って水を除去したのちに各分析を行った。
【0324】
(実施例5)
高せん断乳化機を用いて水性ラテックス(L-1)333gを6000rpmで撹拌を行い、当該高せん断乳化機に樹脂(B)である液状エポキシ樹脂66.7gを投入して、さらに90分間撹拌を行った。得られた撹拌物(ラテックス)中から、重合体微粒子(A)および樹脂(B)を含有する凝集体である樹脂組成物と水成分とを分離した。得られた凝集体およびイオン交換水100gを連続ニーダーに供給する操作と、得られた混合物を遠心脱水する操作とを合計3サイクル繰り返し、洗浄された凝集体を得た。得られた凝集体について、115℃で真空脱揮を行って水を除去したのちに各分析を行った。
【0325】
(実施例6)
高せん断乳化機を用いて水性ラテックス(L-1)333gを6000rpmで撹拌を行い、当該高せん断乳化機に樹脂(B)である液状エポキシ樹脂66.7gを投入して、さらに90分間撹拌を行った。得られた撹拌物(ラテックス)中から、重合体微粒子(A)および樹脂(B)を含有する凝集体である樹脂組成物と水成分とを分離した。次に、得られた水成分を-20℃の冷凍庫内に12時間放置して、凍結した水成分を得た。凍結した水成分を解凍した。次に、解凍した水成分と上記凝集体とを混合した。得られた混合物(ラテックス)中から、重合体微粒子(A)および樹脂(B)を含有する凝集体である樹脂組成物と水成分とを分離した。その後は実施例4と同様の操作を行った。
【0326】
(実施例7)
水性ラテックス(L-1)の代わりに水性ラテックス(L-3)333gを用いた以外は実施例2と同様の操作を行った。
【0327】
(比較例2)
水性ラテックス(L-1)333gに24%硫酸ナトリウム20gを加えてスパチュラで混合して、重合体微粒子(A)を含有する凝集体を得た。その後、ラテックス中から、凝集体と水成分とを分離した。得られた凝集体およびイオン交換水500gを混合し、混合物を50℃、30分間撹拌を行った。撹拌物を減圧濾過に供し、撹拌物から洗浄水を除去した。この操作をさらに2回(合計3回)繰り返し、凝集体を得た。得られた凝集体および液状エポキシ樹脂150gを連続式ニーダーを用いて混錬し、凝集体を得た。得られた凝集体について、115℃で真空脱揮を行って水を除去したのちに各分析を行った。
【0328】
(比較例3)
1L混合槽の混合槽内の温度を30℃とした後、混合槽にメチルエチルケトン(MEK)126部を投入した。その後、混合槽内のMEKを撹拌しながら、混合槽に、重合体微粒子(A)の水性ラテックス(L-1)を126部投入した。次に、投入された原料を均一に混合後、撹拌しながら、水200部(合計452部)を混合槽に80部/分の供給速度で投入した。水の供給終了後、速やかに撹拌を停止し、浮上性の凝集体を含むスラリー液を得た。
【0329】
次に、混合槽内に凝集体を残し、液相350質量部を混合槽下部の払い出し口より排出した。得られた凝集体(重合体微粒子(A)ドープ)にMEK150部を添加してこれらを混合し、重合体微粒子(A)が分散した有機溶媒溶液を得た。この有機溶媒溶液277部(重合体微粒子(A)を42.9部含む)に液状エポキシ樹脂100部を投入し、得られたブレンド物を混合後、混合物からMEKを減圧留去し、樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物について、各分析を行った。
【0330】
(比較例4)
水性ラテックス(L-1)333gに液状エポキシ樹脂150gを加えた。得られた混合物について、115℃で真空脱揮を行って水を除去した。得られた組成物について、各分析を行った。
【0331】
(比較例5)
液状エポキシ樹脂150gに24%硫酸ナトリウム20gを加えてスパチュラで混合した。得られた混合物に、水性ラテックス(L-1)333gを加えてスパチュラで混合して、重合体微粒子(A)および樹脂(B)を含有する凝集体を得た。その後、ラテックス中から、凝集体と水成分とを分離した。得られた凝集体200gおよびイオン交換水300gを混合し、混合物を90℃、30分間撹拌を行った。次に、得られた混合物から油水分離をして凝集体を取り出した。得られた凝集体について、115℃で真空脱揮を行って水を除去したのちに各分析を行った。
【0332】
(比較例6)
24%硫酸ナトリウムの代わりに24%塩化ナトリウム20gを用いた。それ以外は比較例5と同様の操作を行った。
【0333】
(比較例7)
水性ラテックス(L-1)の代わりに水性ラテックス(L-2)333gを用いた以外は比較例5と同様の操作を行った。
【0334】
(比較例8)
水性ラテックス(L-1)の代わりに水性ラテックス(L-3)333gを用いた以外は比較例5と同様の操作を行った。
【0335】
【産業上の利用可能性】
【0336】
本発明の一実施形態によれば、熱硬化性樹脂へ配合し、接着剤、コーティング材等の種々の用途に好適に用いることができる。