(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-20
(45)【発行日】2024-10-01
(54)【発明の名称】メソテリンを標的とする免疫療法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/12 20060101AFI20240924BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20240924BHJP
C07K 14/725 20060101ALI20240924BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20240924BHJP
C07K 16/18 20060101ALI20240924BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20240924BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240924BHJP
C12N 15/867 20060101ALI20240924BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20240924BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240924BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240924BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240924BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240924BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240924BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20240924BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240924BHJP
A61K 35/12 20150101ALI20240924BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20240924BHJP
A61K 38/19 20060101ALI20240924BHJP
A61K 38/20 20060101ALI20240924BHJP
【FI】
C12N15/12
C12N15/13 ZNA
C07K14/725
C07K19/00
C07K16/18
C12N15/62 Z
C12N15/63 Z
C12N15/867 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61P43/00 105
A61P35/00
A61P35/02
A61P43/00 121
A61K39/395 E
A61K39/395 T
A61K35/12
A61K35/17
A61K38/19
A61K38/20
(21)【出願番号】P 2021524371
(86)(22)【出願日】2019-11-08
(86)【国際出願番号】 US2019060570
(87)【国際公開番号】W WO2020097530
(87)【国際公開日】2020-05-14
【審査請求日】2022-11-08
(32)【優先日】2018-11-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】522256406
【氏名又は名称】フレッド ハッチンソン キャンサー センター
(73)【特許権者】
【識別番号】516316897
【氏名又は名称】ジュノー セラピューティクス インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シュミット, トーマス エム.
(72)【発明者】
【氏名】シャピュイ, アウディ ジー.
(72)【発明者】
【氏名】グリーンバーグ, フィリップ ディー.
【審査官】白井 美香保
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/129270(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/112944(WO,A1)
【文献】T cells engineered against a native antigen can surmount immunologic and physical barriers to treat pancreatic ductal adenocarcinoma,Cancer cell,2015年,Vol.28,p.638-652
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
C12N 1/00-7/08
Genbank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt
CAPLUS/BIOSIS/MEDLINE/EMBASE(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
T細胞受容体(TCR)α鎖可変ドメイン(Vα)及びTCRβ鎖可変ドメイン(Vβ)を含む結合タンパク質であって、
(a)前記Vαは、それぞれ、配列番号93、94及び39のアミノ酸配列の相補性決定領域(CDR)1α、CDR2α及びCDR3αを含み、
(b)前記Vβは、それぞれ、配列番号91、92及び40のアミノ酸配列のCDR1β、CDR2β及びCDR3βを含み、
前記結合タンパク質が、Msln
530-538ペプチド(配列番号32):HLA-A
*02:01複合体に特異的に結合することが可能である、結合タンパク質。
【請求項2】
前記Vαは、配列番号102に示されているアミノ酸配列と少なくと
も90%同一性を有するアミノ酸配列を含み、前記Vβは、配列番号101に示されているアミノ酸配列と少なくと
も90%同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の結合タンパク質。
【請求項3】
前記Vαは、配列番号102に示されているアミノ酸配列を含み、前記Vβは、配列番号101に示されているアミノ酸配列を含む、請求項2に記載の結合タンパク質。
【請求項4】
前記Vαは、配列番号102に示されているアミノ酸配列からなり、前記Vβは、配列番号101に示されているアミノ酸配列からなる、請求項3に記載の結合タンパク質。
【請求項5】
TCRα鎖(TCRα)及びTCRβ鎖(TCRβ)を含み、前記TCRαは、配列番号110若しくは29に示されているアミノ酸配列と少なくと
も90%同一性を有するアミノ酸配列を含み、及び/又は前記TCRβは、配列番号109若しくは28に示されているアミノ酸配列と少なくと
も90%同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の結合タンパク質。
【請求項6】
前記TCRαは、配列番号110若しくは29に示されているアミノ酸配列と少なくと
も90%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、及び/又は前記TCRβは、配列番号109若しくは28に示されているアミノ酸配列と少なくと
も90%の同一性を有するアミノ酸配列からなる、請求項5に記載の結合タンパク質。
【請求項7】
前記TCRαは、配列番号110又は29に示されているアミノ酸配列を含み、前記TCRβは、配列番号109又は28に示されているアミノ酸配列を含む、請求項5に記載の結合タンパク質。
【請求項8】
前記TCRαは、配列番号110又は29に示されているアミノ酸配列からなり、前記TCRβは、配列番号109又は28に示されているアミノ酸配列からなる、請求項7に記載の結合タンパク質。
【請求項9】
(i)配列番号32の残基1、5若しくは9のいずれか1つ又は複数のアラニン変異誘発は、前記結合タンパク質による前記Msln
530-538ペプチド(配列番号32):HLA-A
*02:01複合体への結合を阻止しないか、又は実質的に損なわない、
(ii)前記結合タンパク質は、ペプチド:HLA複合体に結合することが可能であり、前記ペプチドは、配列番号62に示されているコンセンサスアミノ酸配列を含むか若しくは配列番号62に示されているコンセンサスアミノ酸配列からなる、及び/又は
(iii)前記結合タンパク質は、ペプチド:HLA複合体に結合しないか又は特異的に結合せず、前記ペプチドは、配列番号63~77のいずれか1つ又は複数に示されているアミノ酸配列を含むか又は配列番号63~77のいずれか1つ又は複数に示されているアミノ酸配列からなり、前記HLAは、HLA-A:02*01である、
請求項1~8のいずれか一項に記載の結合タンパク質。
【請求項10】
前記結合タンパク質は、TCRであるか又はTCRを含む、請求項1~6、及び9のいずれか一項に記載の結合タンパク質。
【請求項11】
前記TCRは、可溶性である、請求項10に記載の結合タンパク質。
【請求項12】
TCRの抗原結合断片、scTCR若しくはCARであるか、又はTCRの抗原結合断片、scTCR若しくはCARを含む、請求項1~6及び9のいずれか一項に記載の結合タンパク質。
【請求項13】
(i)ヒトであるか、ヒト化されているか、若しくはキメラである、
(ii)CD8の非存在下で、又はCD8とは独立して、Msln
530-538ペプチド:HLA-A
*02:01複合体に結合することが可能である、及び/又は
(iii)約9μM、約8μM、約7μM、約6μM、約5μM、約4μM、約3μM、約2μM、約1μM、約0.9μM、約0.8μM、約0.7μM、約0.6μM、約0.5μM、約0.4μM、約0.3μM、約0.2μM、若しくはそれ未満のMSLNペプチドのEC50を有する、
請求項1~12のいずれか一項に記載の結合タンパク質。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項に記載の結合タンパク質及び薬学的に許容される担体、希釈剤、又は賦形剤を含む組成物。
【請求項15】
請求項1~13のいずれか一項に記載の結合タンパク質をコードするポリヌクレオチド。
【請求項16】
(i)配列番号25に示されているポリヌクレオチド配列と少なくと
も90%同一性を有するポリヌクレオチド、(ii)配列番号26に示されているポリヌクレオチド配列と少なくと
も90%同一性を有するポリヌクレオチド、又は(iii)(i)及び(ii)の両方を含む、請求項15に記載のポリヌクレオチド。
【請求項17】
配列番号30に示されているアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする、請求項15又は16に記載のポリヌクレオチド。
【請求項18】
前記結合タンパク質をコードする前記ポリヌクレオチドは、配列番号27及び120のいずれか1つに示されているポリヌクレオチド配列と少なくと
も90%同一性を有する、請求項15~17のいずれか一項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項19】
配列番号120に示されているポリヌクレオチド配列を含むか又は配列番号120に示されているポリヌクレオチド配列からなる、請求項15~18のいずれか一項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項20】
CD8共受容体β鎖及びCD8共受容体α鎖をさらにコードする、請求項15又は16に記載のポリヌクレオチド。
【請求項21】
RNAを含む、請求項15、17及び20のいずれか一項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項22】
(i)発現制御配列、
(ii)RNAプロセシングシグナル、
(iii)細胞質mRNAを安定化させる配列、及び/又は
(iv)翻訳効率を増強する配列
に作動可能に連結した請求項15~21のいずれか一項に記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
【請求項23】
前記ポリヌクレオチドを宿主細胞に送達することが可能である、請求項22に記載の発現ベクター。
【請求項24】
前記宿主細胞は、造血幹細胞、造血前駆細胞、又はヒト免疫系細胞である、請求項23に記載の発現ベクター。
【請求項25】
前記ヒト免疫系細胞は、CD4+T細胞、CD8+T細胞、CD4-CD8-二重陰性T細胞、γδT細胞、ナチュラルキラー細胞、ナチュラルキラーT細胞、マクロファージ、樹状細胞、又はそれらの任意の組合せである、請求項24に記載の発現ベクター。
【請求項26】
前記T細胞は、ナイーブT細胞、セントラルメモリーT細胞、幹細胞メモリーT細胞、エフェクターメモリーT細胞、又はそれらの任意の組合せである、請求項25に記載の発現ベクター。
【請求項27】
ウイルスベクターである、請求項22~26のいずれか一項に記載の発現ベクター。
【請求項28】
前記ウイルスベクターは、レンチウイルスベクター、γ-レトロウイルスベクター、バキュロウイルスベクター、又はαウイルスベクターである、請求項27に記載の発現ベクター。
【請求項29】
(i)プラスミドベクター、コスミドベクター、RNAベクター、直鎖状DNA分子、環状DNA分子、直鎖状RNA分子、若しくは環状RNA分子、及び/又は
(ii)トランスポゾンベクター
である、請求項22~26のいずれか一項に記載の発現ベクター。
【請求項30】
組換え宿主細胞のin vitro又はex vivo調製方法であって、請求項15~21のいずれか一項に記載のポリヌクレオチド及び/又は請求項22~29のいずれか一項に記載の発現ベクターを宿主細胞に導入することを含む、方法。
【請求項31】
請求項15~21のいずれか一項に記載のポリヌクレオチド及び/又は請求項22~29のいずれか一項に記載の発現ベクターを含
む宿主細胞
であって、前記ポリヌクレオチド及び/又は前記発現ベクターは、宿主細胞に対して異種である、宿主細胞。
【請求項32】
細胞表面上で、コードされる前記結合タンパク質を発現することが可能である、請求項31に記載
の宿主細胞。
【請求項33】
前記宿主細胞は、造血幹細胞、造血前駆細胞又はヒト免疫系細胞である、請求項32に記載
の宿主細胞。
【請求項34】
前記免疫系細胞は、CD4+T細胞、CD8+T細胞、CD4-CD8-二重陰性T細胞、γδT細胞、ナチュラルキラー細胞、ナチュラルキラーT細胞、マクロファージ、樹状細胞、又はそれらの任意の組合せである、請求項33に記載
の宿主細胞。
【請求項35】
前記免疫系細胞は、T細胞である、請求項33又は34に記載
の宿主細胞。
【請求項36】
前記T細胞が、ナイーブT細胞、セントラルメモリーT細胞、幹細胞メモリーT細胞、エフェクターメモリーT細胞、又はそれらの任意の組合せである、請求項35に記載
の宿主細胞。
【請求項37】
(1)前記宿主細胞が、約10
-2μMのペプチド、約10
-1μMのペプチド、約1μMのペプチド、若しくは約10
1μMのペプチドの濃度の、前記結合タンパク質が結合する前記MSLNペプチドの存在下にある場合、前記宿主細胞におけるNur77発現が増加し、並びに/又は
(2)前
記宿主細胞が、コードされる前記結合タンパク質が結合する前記メソテリンペプチドが存在しないという条件で、
(i)HLA-C6:02:01
(ii)HLA-B13:02:01ではなくHLA-B13:01:01;
(iii)HLA-A3;
(iv)HLA-A29;
(v)HLA-B40;
(vi)HLA-B44;
(vii)HLA-C3;
(viii)HLA-C16;
(ix)HLA-A1;
(x)HLA-24;
(xi)HLA-B7;
(xii)HLA-B57;
(xiii)HLA-C7;
(xiv)HLA-A11;
(xv)HLA-B15;
(xvi)HLA-C4;
(xvii)HLA-C12;
(xviii)HLA-B8;
(xix)HLA-B49;
(xx)HLA-B51;
(xxi)HLA-C15;
(xxii)HLA-A30;
(xxiii)HLA-A68;
(xxiv)HLA-C2;
(xxv)HLA-A32;
(xxvi)HLA-A33;
(xxvii)HLA-B55;
(xxviii)HLA-C1;
(xxvix)HLA-C5;
(xxix)HLA-B8;
(xxx)HLA-B35若しくは
(xxxi)(i)~(xxx)の任意の組合せ
を発現する細胞と接触させた場合、IFN-γを産生しないか、及び/又は活性化及び/又は細胞傷害活性を示さない、請求項31~36のいずれか一項に記載
の宿主細胞。
【請求項38】
前記ペプチドは、抗原提示細胞によって前記宿主細胞に提示される、請求項37に記載
の宿主細胞。
【請求項39】
請求項31~38のいずれか一項に記載
の宿主細胞、及び薬学的に許容される担体、賦形剤、又は希釈剤を含む細胞組成物。
【請求項40】
(i)請求項15~21のいずれか一項に記載のポリヌクレオチド、又は
(ii)請求項22~29のいずれか一項に記載の発現ベクター
及び薬学的に許容される担体、賦形剤、若しくは希釈剤を含む組成物。
【請求項41】
請求項1~13のいずれか一項に記載の結合タンパク質及び薬学的に許容される担体、賦形剤、若しくは希釈剤
、
請求項15~21のいずれか一項に記載のポリヌクレオチド及び薬学的に許容される担体、賦形剤、若しくは希釈剤、
請求項22~29のいずれか一項に記載の発現ベクター及び薬学的に許容される担体、賦形剤、若しくは希釈剤、
請求項31~38のいずれか一項に記載
の宿主細胞及び薬学的に許容される担体、賦形剤、若しくは希釈
剤
を含む、対象におけるメソテリンの発現及び/又は活性に関連する疾患又は障害を処置する方法において使用するための医薬組成物。
【請求項42】
請求項31~38のいずれか一項に記載
の宿主細胞及び薬学的に許容される担体、賦形剤、又は希釈剤を含む、請求項41に記載の医薬組成物。
【請求項43】
メソテリンの発現及び/又は活性に関連する疾患又は障害は、過剰増殖性疾患又は増殖性疾患である、請求項41又は42に記載の医薬組成物。
【請求項44】
メソテリンの発現及び/又は活性に関連する前記疾患又は障害は、がんである、請求項41~43のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項45】
前記がんは、固形がん又は血液学的悪性腫瘍である、請求項44に記載の医薬組成物。
【請求項46】
前記がんは、胆嚢がん、膀胱がん、骨及び軟部組織の癌、脳腫瘍、乳がん、子宮頸がん、結腸がん、結腸直腸腺癌、結腸直腸がん、類腱腫、胎児性がん、子宮内膜がん、食道がん、胃がん、胃腺癌、多形性膠芽腫、婦人科腫瘍、頭頸部扁平上皮癌、肝がん、肺がん、中皮腫、悪性黒色腫、骨肉腫、卵巣がん、膵臓がん、膵管腺癌、原発性星状細胞腫瘍、原発性甲状腺がん、前立腺がん、腎臓がん、腎細胞癌、横紋筋肉腫、皮膚がん、軟部組織肉腫、精巣胚細胞腫瘍、尿路上皮がん、子宮肉腫、又は子宮がんを含む、請求項44又は45に記載の医薬組成物。
【請求項47】
前記がんは、膵臓がん、卵巣がん、乳がん、胃がん、結腸直腸がん、中皮腫、又は肺がんを含む、請求項44又は45に記載の医薬組成物。
【請求項48】
前記対象は、これまでにリンパ球枯渇化学療法を受けたことがある、請求項41~47のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項49】
前記リンパ球枯渇化学療法は、シクロホスファミド、フルダラビン、又はその両方を含む、請求項48に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
配列表に関する宣言
本出願に関連する配列表は、紙コピーの代わりにテキスト形式で提供されており、これにより参照により本明細書に組み込まれる。配列表を含有するテキストファイルの名称は、360056_475WO_SEQUENCE_LISTING.txtである。テキストファイルは115KBであり、2019年11月8日に作成され、EFS-Webを介して電子的に提出されている。
【0002】
本開示は、生物医学の分野に関し、具体的には、細胞がメソテリンを発現する疾患または障害の処置における使用、例えばがん療法における使用に有用な方法および組成物に関する。特に、本開示の実施形態は、腫瘍関連抗原であるメソテリンに対して高親和性を有するTCR、このような高親和性抗原特異的なTCRを発現するT細胞、それをコードする核酸の方法および組成物、ならびに操作されたT細胞を含む細胞免疫療法を行うための使用方法に関する。
【背景技術】
【0003】
腫瘍特異的T細胞の養子移入は、既存の腫瘍を排除するための魅力的な戦略であり、既存の腫瘍を排除し、再発を防止するために、in vivoにおける抗原特異的T細胞のロバストな集団の確立を必要とする(Stromnes, et al., Immunol. Rev. 257: 145, 2014を参照)。腫瘍特異的CD8+細胞傷害性Tリンパ球(CTL)の移入は安全であり、精選された患者において直接の抗腫瘍活性を媒介することができるが(Chapuis et al., Cancer Res. 72:LB-136, 2012;Chapuis et al., Sci. Transl. Med. 5: 174ral27, 2013;およびChapuis et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 09:4592, 2012を参照)、各患者またはドナーから単離されたCTLのアビディティにおける変動性は、臨床試験における抗腫瘍有効性を制限する(Chapuis et al., 2013を参照)。TCRの親和性はCTLアビディティの重要な決定基であるため(Zoete et al., Frontiers Immunol. 4:26%, 2013を参照)、腫瘍特異的抗原に特異的なよく特徴付けられたT細胞クローンから単離された高親和性TCRα/β遺伝子を使用して、ドナーまたは患者T細胞の抗原特異性をリダイレクトするための戦略が開発されてきた(Stromnes et al., Immunol. Rev. 257: 145, 2014およびRobbins et al., J. Clin. Oncol. 29:917, 2011を参照)。
自己/腫瘍反応性TCRを発現するT細胞は中枢性および末梢性寛容に晒されるため、このような高親和性自己/腫瘍反応性T細胞はまれであり(Stone and Kranz, Frontiers Immunol. 4:244, 2013を参照)、相対的なTCR親和性はドナー間で広範に変化する。それゆえに、多くの一致したドナーをスクリーニングして、TCRα/β遺伝子治療構築物を生成できる十分に高い親和性の腫瘍特異的なT細胞クローンを同定しなければならない。例えば、単一のHLA-対立遺伝子に対する高い機能的なアビディティを有する天然に誘発されたウィルムス腫瘍抗原1(WT1)特異的TCRの単離は、75人より多くの正常なドナーの末梢レパートリーからの数千もの個々のT細胞クローンを表す数百ものWT特異的T細胞株のスクリーニングを必要とした(Chapuis et al., 2013;Schmitt et al., Hum. Gene Ther. 20:1240, 2009;およびHo et al., J. Immunol. Methods 310:40, 2006を参照)。これは極めて多大な時間と労力を要するプロセスである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Stromnes, et al., Immunol. Rev. 257: 145, 2014
【文献】Chapuis et al., Cancer Res. 72:LB-136, 2012
【文献】Chapuis et al., Sci. Transl. Med. 5: 174ral27, 2013
【文献】Chapuis et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 09:4592, 2012
【文献】Zoete et al., Frontiers Immunol. 4:26%, 2013
【文献】Stromnes et al., Immunol. Rev. 257: 145, 2014
【文献】Robbins et al., J. Clin. Oncol. 29:917, 2011
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
様々ながん、例えば固形腫瘍に対する代替の抗原特異的免疫療法への必要性がある。本開示の実施形態は、これらの必要性に取り組むものであり、他の関連する利点を提供する。
本明細書で開示の実施形態は、添付の図面と併せて、以下の説明および添付の特許請求の範囲を参照すると、より完全に明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1-1】
図1Aは、ペプチド:HLA四量体の結合に対するTCRの富化倍率(fold-enrichment)に基づく、Msln
20(配列番号31)に特異的なTCRの同定および選択を描写する。さらなる研究のために選択されたTCRを丸で囲む。
【0007】
【
図1-2】
図1Bは、Msln
530:HLA四量体に結合するTCRのプールからの四量体の富化倍率に基づくMsln
530(配列番号32)に特異的なTCRの同定および選択を描写する。さらなる研究のために選択されたTCRを丸で囲む。
【0008】
【
図2】
図2は、CD8共受容体の存在または非存在下で、細胞によって発現されたTCRがMsln
530ペプチド:HLA複合体を検出できるか否かを決定するためのアッセイにおける、Msln
530特異的TCRによる四量体の結合を描写する(四量体結合に基づいて親和性によりランク付けする)。CD8とは無関係の結合は、それぞれのT細胞クローンの高親和性と相関する。
【0009】
【
図3-1】
図3A~3Cは、Msln特異的TCRのさらなる機能試験を示す。(A)フローサイトメトリーによって測定した、Nur77-tdTomato導入遺伝子を発現するレポーター細胞株に基づく抗原によって駆動される活性化に関して評価した、T細胞クローンの代表的なデータ。Nur77は、ヒトT細胞における抗原受容体シグナル伝達のインジケーターである(例えば、Ashouri and Weiss, J. Immunol. 198(2):657-658 (2017)を参照)。このアッセイにおいて、T細胞クローンを、示された通り、ペプチドの濃度を増加させてパルスしたT2標的細胞と共にインキュベートした。(B)示された濃度のペプチドでパルスしたT2細胞に対する感受性に従ってランク付けした、TCRのNur77レポーター活性。(C)Nur77レポーター活性に関するペプチドのEC50に基づいたTCRのアビディティのランク付け。「B11」(本明細書では11Bとも呼ばれる)は、試験したTCRクローンのうち最も低いEC50を有していた。
【
図3-2】
図3A~3Cは、Msln特異的TCRのさらなる機能試験を示す。(A)フローサイトメトリーによって測定した、Nur77-tdTomato導入遺伝子を発現するレポーター細胞株に基づく抗原によって駆動される活性化に関して評価した、T細胞クローンの代表的なデータ。Nur77は、ヒトT細胞における抗原受容体シグナル伝達のインジケーターである(例えば、Ashouri and Weiss, J. Immunol. 198(2):657-658 (2017)を参照)。このアッセイにおいて、T細胞クローンを、示された通り、ペプチドの濃度を増加させてパルスしたT2標的細胞と共にインキュベートした。(B)示された濃度のペプチドでパルスしたT2細胞に対する感受性に従ってランク付けした、TCRのNur77レポーター活性。(C)Nur77レポーター活性に関するペプチドのEC50に基づいたTCRのアビディティのランク付け。「B11」(本明細書では11Bとも呼ばれる)は、試験したTCRクローンのうち最も低いEC50を有していた。
【0010】
【
図4】
図4は、Nur77トマトレポーター活性に基づくペプチドに対する応答におけるTCRクローンの機能的な評価を示す。「B9」および「A11」(本明細書では「11A」とも呼ばれる)を含む数種のTCRは、より低い四量体結合を示したが、高い抗原特異性を付与する。TCRを、四量体結合に従ってランク付けする(左から右に、および上から下に)。
【0011】
【
図5-1】
図5A~5Cは、一次CD8
+T細胞で異種性発現されたTCRの機能的な評価を示す。CD8+T細胞をドナーPBMCから精製し、各TCRをレンチウイルスにより形質導入した。8日後、四量体陽性に関して高いとソートされた細胞をさらにソートし、さらに8~10日拡大した。
【
図5-2】
図5A~5Cは、一次CD8
+T細胞で異種性発現されたTCRの機能的な評価を示す。CD8+T細胞をドナーPBMCから精製し、各TCRをレンチウイルスにより形質導入した。8日後、四量体陽性に関して高いとソートされた細胞をさらにソートし、さらに8~10日拡大した。
【0012】
【
図6-1】
図6A~6Cは、インターフェロン-ガンマ産生によって測定した、示されたMsln特異的TCRを形質導入し、ペプチドでパルスしたT2細胞とインキュベートしたときの機能的な活性に関して評価した一次CD8+T細胞の特徴付けを示す(A、B)。T2細胞にパルスしたペプチドの量に基づいて、TCRをEC50によってランク付けした(C)。
【
図6-2】
図6A~6Cは、インターフェロン-ガンマ産生によって測定した、示されたMsln特異的TCRを形質導入し、ペプチドでパルスしたT2細胞とインキュベートしたときの機能的な活性に関して評価した一次CD8+T細胞の特徴付けを示す(A、B)。T2細胞にパルスしたペプチドの量に基づいて、TCRをEC50によってランク付けした(C)。
【0013】
【
図7-1】
図7A~7Dは、示されたMsln
530特異的TCRまたはMsln
20特異的TCRを形質導入したCD8+T細胞による、外因性IFN-γの存在または非存在下における、2つの代表的なMsln陽性腫瘍細胞株((A、B)MDA-MB-468および(C、D)MDA-MB-231)の特異的溶解を示す。
【
図7-2】
図7A~7Dは、示されたMsln
530特異的TCRまたはMsln
20特異的TCRを形質導入したCD8+T細胞による、外因性IFN-γの存在または非存在下における、2つの代表的なMsln陽性腫瘍細胞株((A、B)MDA-MB-468および(C、D)MDA-MB-231)の特異的溶解を示す。
【0014】
【
図8】
図8は、標的Msln
20ペプチド(配列番号31)のそのアミノ酸が、例示的なMsln
20特異的TCRによる有効な結合および殺滅に必須であるかを評価するためのアラニン変異誘発スキャニング実験に関する。配列番号31のペプチドに沿ったそれぞれの連続した位置の代わりにアラニンが使用された一連のバリアントペプチドを生成し、各バリアントペプチドを、示されたMsln
20特異的TCRを発現するCD8+T細胞によるIFN-γ産生に関して評価した。これらのデータは、配列番号31の3~6位がTCR結合に必須であることを示す。配列番号60のコンセンサス配列において、「X」は、配列番号31中の示された残基のアラニンへの置換変異が、その同族ペプチド標的(cognate peptide target)へのTCRの機能的な結合に影響を与えないか、または実質的に影響を与えないことを示す。
【0015】
【
図9】
図9A~9Dは、Msln
20(配列番号31)またはMsln
530(配列番号32)に特異的なTCRを使用したアラニン変異誘発スキャニング実験からの結果を示す。x軸は、各アラニン置換ペプチドへの応答におけるIFN-γ+T細胞のパーセントを示す。y軸は、試験したペプチドの配列を示し、Xは、野生型ペプチドと比較してほぼ正常な機能的な活性によって示された通り、この残基がTCR特異性に必要ではないことを示す。
【0016】
【
図10】
図10は、アラニンスキャニング実験によって決定した場合のTCRの特異性に基づいて、標的Msln
530ペプチド(配列番号32)との交差反応性の可能性に関して調査したヒトペプチド(配列番号63~77)を示す。示されたペプチドをコードする遺伝子は、表の左に示される。アラニンスキャニングによって同定された必須の残基を含有するコンセンサス配列を、実施例8に記載されたように予測アルゴリズムに入力した。
【0017】
【
図11】
図11Aおよび11Bは、ヒトプロテオームにおけるMsln
530に潜在的な相同性を有する合成されたペプチドの分析を描写する。実施例9に記載されたように、高用量(10μM)のペプチドでパルスしたT2細胞とインキュベートしたときの2つのMsln
530特異的TCRの機能的な活性(
図11A、
図11B)をIFN-γによって測定した。(B)試験したTCRとの交差反応性を示したペプチドの場合、用量依存性滴定を実行して、EC50を決定した。T2細胞にパルスしたペプチドの量に基づいて、TCRをEC50によってランク付けした。ペプチド#10は、EHFと呼ばれる遺伝子由来である。この遺伝子は、上皮特異的な発現によって特徴付けられるETS転写因子サブファミリーに属するタンパク質をコードする。ETSは、転写リプレッサーとして作用し、上皮の分化および発癌現象に関与し得る。
【0018】
【
図12-1】
図12A~12Iは、野生型ペプチドの存在または非存在下で(in the presence of absence of)、多様なドナー由来のリンパ芽球様細胞株(LCL)を標的化することによって本開示の例示的なMsln特異的TCR(Meso20-3B、Meso530-11A、またはMeso530-11B)を発現するT細胞のアロ反応性潜在性を調査する実験を描写する。
【
図12-2】
図12A~12Iは、野生型ペプチドの存在または非存在下で(in the presence of absence of)、多様なドナー由来のリンパ芽球様細胞株(LCL)を標的化することによって本開示の例示的なMsln特異的TCR(Meso20-3B、Meso530-11A、またはMeso530-11B)を発現するT細胞のアロ反応性潜在性を調査する実験を描写する。
【
図12-3】
図12A~12Iは、野生型ペプチドの存在または非存在下で(in the presence of absence of)、多様なドナー由来のリンパ芽球様細胞株(LCL)を標的化することによって本開示の例示的なMsln特異的TCR(Meso20-3B、Meso530-11A、またはMeso530-11B)を発現するT細胞のアロ反応性潜在性を調査する実験を描写する。
【0019】
【
図13-1】
図13A~13Hは、多様なドナー由来のLCLを標的化して、実施例10に記載されたように、他のHLAサブタイプへの交差反応性がないことを評価することによる、アロ反応性の追加の分析を描写する。細胞株FAHおよびGIMに関して示された通り、Meso530-11Bは、非HLA-A2対立遺伝子の場合、ペプチドの存在下における潜在的な反応性を示す(表で強調した通り)。
【
図13-2】
図13A~13Hは、多様なドナー由来のLCLを標的化して、実施例10に記載されたように、他のHLAサブタイプへの交差反応性がないことを評価することによる、アロ反応性の追加の分析を描写する。細胞株FAHおよびGIMに関して示された通り、Meso530-11Bは、非HLA-A2対立遺伝子の場合、ペプチドの存在下における潜在的な反応性を示す(表で強調した通り)。
【
図13-3】
図13A~13Hは、多様なドナー由来のLCLを標的化して、実施例10に記載されたように、他のHLAサブタイプへの交差反応性がないことを評価することによる、アロ反応性の追加の分析を描写する。細胞株FAHおよびGIMに関して示された通り、Meso530-11Bは、非HLA-A2対立遺伝子の場合、ペプチドの存在下における潜在的な反応性を示す(表で強調した通り)。
【
図13-4】
図13A~13Hは、多様なドナー由来のLCLを標的化して、実施例10に記載されたように、他のHLAサブタイプへの交差反応性がないことを評価することによる、アロ反応性の追加の分析を描写する。細胞株FAHおよびGIMに関して示された通り、Meso530-11Bは、非HLA-A2対立遺伝子の場合、ペプチドの存在下における潜在的な反応性を示す(表で強調した通り)。
【発明を実施するための形態】
【0020】
一部の態様では、本開示は、TCRアルファ鎖可変ドメイン(Vα)およびTCRベータ鎖可変ドメイン(Vβ)を含み、Msln20-28もしくはMsln530-538エピトープならびに/またはペプチド(Msln20-28(SLLFLLFSL;配列番号31))およびMsln530-538(配列番号32(VLPLTVAEV))(本明細書ではそれぞれMsln20およびM530とも呼ばれる)に特異的に結合することが可能である結合タンパク質を、例えばペプチド:HLA複合体の形態で提供する。本開示の実施形態のいずれかでは、Msln特異的結合タンパク質は、Mslnペプチド:HLA複合体に結合することが可能であり、Mslnペプチドは、配列番号31または32に示されているアミノ酸配列を含み、HLAは、HLA-A2、例えばHLA-A*02:01であるかまたはそれを含む。
【0021】
ある特定の実施形態では、Msln20-28特異的結合タンパク質(Msln-specific 20-28-specific binding protein)は、(a)配列番号33または35に示されているCDR3アミノ酸配列を含むTCR Vα、およびTCR Vβであって、必要に応じて、TCR Vβは、配列番号95または97に示されているアミノ酸配列と少なくとも約85%(すなわち、少なくとも約85%、86%、87%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、またはそれより高い)同一性を有する、TCR VαおよびTCR Vβ;(b)配列番号34または36に示されているCDR3アミノ酸配列を含むTCR Vβ、および(b)TCR Vαであって、必要に応じて、配列番号96または98に示されているアミノ酸配列と少なくとも約85%(すなわち、少なくとも約85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、またはそれより高い)同一性を有する、TCR Vα;あるいは(c)配列番号33または35に示されているCDR3アミノ酸配列を含み、必要に応じて、配列番号96または98に示されているアミノ酸配列と少なくとも約85%同一性を有するTCR Vα、および配列番号34または36に示されているCDR3アミノ酸配列を含み、必要に応じて、配列番号95または97に示されているアミノ酸配列と少なくとも約85%同一性を有するTCR Vβを含む。
【0022】
特に別段の指定がない限り、本明細書で使用される場合、配列同一性の「少なくとも約(およその)(at least about)」示されたパーセンテージは、示されたパーセンテージ±その20%、ならびに特定のパーセンテージより高いあらゆる整数および非整数のパーセンテージを含む。したがって、参照された配列(例えば、配列番号1~123のいずれか1つ)との「少なくとも約85%」同一性は、参照された配列との約85%、86%、87%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%同一性を含み、さらに、2つの整数のパーセンテージ間の全ての非整数のパーセンテージ(例えば、92.5%、99.1%など)も含む。
【0023】
ある特定の実施形態では、Msln20-28特異的結合タンパク質は、配列番号33に示されているCDR3αのアミノ酸配列および配列番号34に示されているCDR3βのアミノ酸配列を含む。さらなる実施形態では、結合タンパク質は、配列番号80に示されているCDR1αのアミノ酸配列、配列番号81または118に示されているCDR2αのアミノ酸配列、配列番号78、82、83、または84のいずれか1つに示されているCDR1βのアミノ酸配列、および配列番号79に示されているCDR2βのアミノ酸配列を含む。ある特定の実施形態では、Vαは、配列番号96に示されているアミノ酸配列と少なくとも約85%同一性を有するアミノ酸配列を含み、および/またはVβは、配列番号95に示されているアミノ酸配列と少なくとも約85%同一性を有するアミノ酸配列を含み、必要に応じてCDR1α、CDR2α、CDR1β、および/またはCDR2βにおける変更はない。
【0024】
ある特定の実施形態では、Msln20-28特異的結合タンパク質は、(i)(a)TRBV12-4*01によりコードされるアミノ酸配列と(例えば、長さが少なくとも約10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、105、または108個の連続するアミノ酸であるTRBV12-4*01によりコードされるアミノ酸配列と)少なくとも約85%同一性を有するアミノ酸配列、および/または(b)TRBJ2-7*01によりコードされるアミノ酸配列と(例えば、長さが少なくとも約5、6、7、8、9、10、11、12、13、または14個のアミノ酸であるTRBJ2-7*01によりコードされるアミノ酸配列と)少なくとも約85%同一性を有するアミノ酸配列を含むTCR Vβ、ならびに/あるいは(ii)(a)TRAV1-1*01によりコードされるアミノ酸配列と(例えば、長さが少なくとも約10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、105、または107個の連続するアミノ酸であるTRAV1-1*01によりコードされるアミノ酸配列と)少なくとも約85%同一性を有するアミノ酸配列、および/または(b)TRAJ3*01によりコードされるアミノ酸配列と(例えば、長さが少なくとも約5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、または20個のアミノ酸であるTRAJ3*01によりコードされるアミノ酸配列と)少なくとも約85%同一性を有するアミノ酸配列を含むTCR Vαを含む。
【0025】
本開示の実施形態のいずれかでは、TCR Vβは、TRBD1*01またはTRBD2*02によりコードされるアミノ酸配列と少なくとも約85%同一なアミノ酸配列を含んでいてもよい。
【0026】
これらのおよび他のTCR遺伝子によりコードされるアミノ酸配列は公知であり、例えば、ヒトTRAV、TRBV、TRAJ、TRBJ、TRBD、TRAC、およびTRBD対立遺伝子に関する遺伝子表ならびにヌクレオチドおよびアミノ酸配列を提供するimgt.orgで見出すことができる。
【0027】
ある特定の実施形態では、Msln20-28特異的結合タンパク質は、配列番号36に示されているCDR3αのアミノ酸配列および配列番号35に示されているCDR3βのアミノ酸配列を含む。一部の実施形態では、結合タンパク質は、配列番号85に示されているCDR1αのアミノ酸配列、配列番号86または119に示されているCDR2αのアミノ酸配列、配列番号82、83、または84のいずれか1つに示されているCDR1βのアミノ酸配列、および配列番号79に示されているCDR2βのアミノ酸配列をさらに含む。ある特定の実施形態では、Vαは、配列番号98に示されているアミノ酸配列と少なくとも約85%同一性を有するアミノ酸配列を含み、および/またはVβは、配列番号97に示されているアミノ酸配列と少なくとも約85%同一性を有するアミノ酸配列を含み、必要に応じてCDR1α、CDR2α、CDR1β、および/またはCDR2βにおける変更はない。
【0028】
ある特定の実施形態では、Msln20-28特異的結合タンパク質は、(a)TRAV12-3*01によりコードされるアミノ酸配列と(例えば、長さが少なくとも約10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、105、または108個の連続するアミノ酸であるTRAV12-3*01によりコードされるアミノ酸配列と)少なくとも約85%同一性を有するアミノ酸配列、および/または(b)TRA29*01によりコードされるアミノ酸配列と(例えば、長さが少なくとも約5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、または19個のアミノ酸TRAJ29*01によりコードされるアミノ酸配列と)少なくとも約85%同一性を有するアミノ酸配列を含むTCR Vαを含む。
【0029】
ある特定の実施形態では、配列番号31の残基1、2、7、8、または9のいずれか1つまたは複数のアラニン変異誘発は、Msln20-28特異的結合タンパク質による結合を阻止しないか、または実質的に損なわない。ある特定の実施形態では、Msln20-28特異的結合タンパク質は、例えば本明細書で開示のようなペプチド:HLA複合体の形態で、配列番号60に示されているコンセンサスアミノ酸配列を含むかまたはそれからなるペプチドに結合することが可能である。
【0030】
ある特定の実施形態では、Msln530-538特異的結合タンパク質は、(a)配列番号37または39に示されているCDR3アミノ酸配列を含むTCR Vα、およびTCR Vβであって、TCR Vβは、必要に応じて、配列番号99または101に示されているアミノ酸配列と少なくとも約85%同一性を有する、TCR VαおよびTCR Vβ;(b)配列番号34または36に示されているCDR3アミノ酸配列を含むTCR Vβ、および(b)TCR Vαであって、必要に応じて、配列番号100または102に示されているアミノ酸配列と少なくとも約85%同一性を有するTCR Vα;あるいは(c)配列番号37または39に示されているCDR3アミノ酸配列を含むTCR Vαおよび配列番号38または40に示されているCDR3アミノ酸配列を含むTCR Vβを含む。
【0031】
ある特定の実施形態では、Msln530-538特異的結合タンパク質は、配列番号37に示されているCDR3αのアミノ酸配列および配列番号38に示されているCDR3βのアミノ酸配列を含む。一部の実施形態では、結合タンパク質は、配列番号89に示されているCDR1αのアミノ酸配列、配列番号90に示されているCDR2αのアミノ酸配列、配列番号83または87のいずれか1つに示されているCDR1βのアミノ酸配列、および配列番号88に示されているCDR2βのアミノ酸配列をさらに含む。ある特定の実施形態では、Vαは、配列番号100に示されているアミノ酸配列と少なくとも約85%同一性を有するアミノ酸配列を含み、および/またはVβは、配列番号99に示されているアミノ酸配列と少なくとも約85%同一性を有するアミノ酸配列を含み、必要に応じてCDR1α、CDR2α、CDR1β、および/またはCDR2βにおける変更はない。
【0032】
ある特定の実施形態では、Msln530-538特異的結合タンパク質は、配列番号39に示されているCDR3αのアミノ酸配列および配列番号40に示されているCDR3βのアミノ酸配列を含む。一部の実施形態では、結合タンパク質は、配列番号93に示されているCDR1αのアミノ酸配列、配列番号94に示されているCDR2αのアミノ酸配列、配列番号83、84、または91のいずれか1つに示されているCDR1βのアミノ酸配列、および配列番号92に示されているCDR2βのアミノ酸配列をさらに含む。ある特定の実施形態では、Vαは、配列番号102に示されているアミノ酸配列と少なくとも約85%同一性を有するアミノ酸配列を含み、および/またはVβは、配列番号101に示されているアミノ酸配列と少なくとも約85%同一性を有するアミノ酸配列を含み、必要に応じてCDR1α、CDR2α、CDR1β、および/またはCDR2βにおける変更はない。
【0033】
ある特定の実施形態では、Msln530-538特異的結合タンパク質は、TRBJ2-3*01によりコードされるアミノ酸配列と(例えば、長さが少なくとも約4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、または15個の連続するアミノ酸であるTRBJ2-3*01によりコードされるアミノ酸配列と)少なくとも約85%同一性を有するアミノ酸配列を含むTCR Vβを含む。
【0034】
ある特定の実施形態では、配列番号32の残基3、5、6、または9のいずれか1つまたは複数のアラニン変異誘発は、Msln530-538特異的結合タンパク質による結合を阻止しないか、または実質的に損なわない。ある特定の実施形態では、Msln530-538特異的結合タンパク質は、例えば本明細書で開示のようなペプチド:HLA複合体の形態で、配列番号61に示されているコンセンサスアミノ酸配列を含むかまたはそれからなるペプチドに結合することが可能である。
【0035】
ある特定の実施形態では、配列番号32の残基1、5、または9のいずれか1つまたは複数のアラニン変異誘発は、Msln530-538特異的結合タンパク質による結合を阻止しないか、または実質的に損なわない。ある特定の実施形態では、Msln530-538特異的結合タンパク質は、例えば本明細書で開示のようなペプチド:HLA複合体の形態で、配列番号62に示されているコンセンサスアミノ酸配列を含むかまたはそれからなるペプチドに結合することが可能である。
【0036】
ある特定の実施形態では、本開示のMsln530-538特異的結合タンパク質は、ペプチド:HLA複合体と結合しないか、またはMsln530-538と比べてそれに特異的に結合せず、このペプチドは、配列番号63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、および77のいずれか1つまたは複数に示されているアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、HLAは、必要に応じて、HLA-A2、例えばHLA-A:02*01を含む。
【0037】
本開示の実施形態のいずれかでは、Msln特異的結合タンパク質(すなわち、Msln20-28特異的結合タンパク質、Msln530-538特異的結合タンパク質)は、CD8の非存在下で、またはCD8とは独立して、本明細書で開示のようなMslnペプチド:HLA複合体に結合することが可能である。ある特定の実施形態では、結合タンパク質(例えば、ヒトT細胞の細胞表面上で発現される場合)は、約9μM、約8μM、約7μM、約6μM、約5μM、約4μM、約3μM、約2μM、約1μM、約0.9μM、約0.8μM、約0.7μM、約0.6μM、約0.5μM、約0.4μM、約0.3μM、約0.2μM、またはそれ未満のMslnペプチドのEC50を有する。
【0038】
Msln特異的結合タンパク質は、Mslnペプチド抗原の非存在下で、様々なヒトHLAタイプに対して非アロ反応性である。ある特定の実施形態では、この開示のMsln特異的結合タンパク質を発現する免疫細胞(例えば、T細胞)は、本明細書で提供されるMslnペプチドの非存在下の場合、(i)HLA-C6:02:01、(ii)HLA-B13:02:01ではなくHLA-B13:01:01、(iii)HLA-A3;(iv)HLA-A29;(v)HLA-B40;(vi)HLA-B44;(vii)HLA-C3;(viii)HLA-C16;(ix)HLA-A1;(x)HLA-24;(xi)HLA-B7;(xii)HLA-B57;(xiii)HLA-C7;(xiv)HLA-A11;(xv)HLA-B15;(xvi)HLA-C4;(xvii)HLA-C12;(xviii)HLA-B8;(xix)HLA-B49;(xx)HLA-B51;(xxi)HLA-C15;(xxii)HLA-A30;(xxiii)HLA-A68;(xxiv)HLA-C2;(xxv)HLA-A32;(xxvi)HLA-A33;(xxvii)HLA-B55;(xxviii)HLA-C1;(xxvix)HLA-C5;(xxix)HLA-B8;(xxx)HLA-B35または(xxxi)(i)~(xxx)の任意の組合せを発現する細胞と接触させた場合、IFN-γを産生しないか、ならびに/または活性化(例えば、CD8発現、CD3発現、Nur77発現)および/もしくは細胞傷害活性(例えば、特異的な殺滅、パーフォリンおよび/またはグランザイムの産生および放出)を示さない。
【0039】
結合タンパク質を含む、コードする、および/または発現する組成物および組換え宿主細胞(例えば、免疫細胞、例えばT細胞)も提供される。本開示の実施形態のいずれかでは、結合タンパク質は、宿主T細胞による細胞表面上での発現が可能である。本開示の実施形態のいずれかでは、Mslnペプチド:HLA複合体への免疫細胞(例えば、T細胞)の表面上で発現されるMsln特異的結合タンパク質による結合は、免疫細胞を活性化し、この場合、活性化は、必要に応じて、Nur77の発現および/または活性によって決定される。
【0040】
本開示の結合タンパク質は、同族Mlsnペプチド抗原に高度な感受性を有する。ある特定の実施形態では、Nur77発現は、免疫細胞が、約10-2μMのペプチド、約10-1μMのペプチド、約1μMのペプチド、または約101μMのペプチドの存在下にあるとき増加し、この場合、ペプチドは、必要に応じて抗原提示細胞によって提示され、すなわち、ペプチド:HLA複合体の形態である。
【0041】
別の態様では、本明細書に記載のようなメソテリン特異的結合タンパク質をコードするポリヌクレオチドが提供される。ある特定の実施形態では、結合タンパク質をコードするポリヌクレオチドは、配列番号1~5、9~13、17~21、25~27、および120のいずれか1つに示されているポリヌクレオチド配列と少なくとも約50%の配列同一性(すなわち、少なくとも約50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、86%、87%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、またはそれより高い)を有するポリヌクレオチドを含む。ポリヌクレオチドを含有するベクターも提供される。
【0042】
本開示の結合タンパク質、および組換え宿主細胞、ならびに関連する組成物は、メソテリンの発現および/または活性に関連する疾患または障害、例えばがんなどを有する対象を処置するのに使用することができる。ある特定の実施形態では、がんは、固形がんである。ある特定の実施形態では、固形がんは、胆嚢がん、膀胱がん、骨および軟部組織の癌、脳腫瘍、乳がん、子宮頸がん、結腸がん、結腸直腸腺癌、結腸直腸がん、類腱腫、胎児性がん、子宮内膜がん、食道がん、胃がん、胃腺癌、多形性膠芽腫、婦人科腫瘍、頭頸部扁平上皮癌、肝がん、肺がん、中皮腫、悪性黒色腫、骨肉腫、卵巣がん、膵臓がん、膵管腺癌、原発性星状細胞腫瘍、原発性甲状腺がん、前立腺がん、腎臓がん、腎細胞癌、横紋筋肉腫、皮膚がん、軟部組織肉腫、精巣胚細胞腫瘍、尿路上皮がん、子宮肉腫、または子宮がんであるかまたはそれを含む。ある特定の実施形態では、本開示の組成物および組換え宿主細胞は、Msln20-28ペプチドが、がんの腫瘍細胞上で発現されるがん、またはMsln530-538ペプチドが、がんの腫瘍細胞上で発現されるがん、例えば、中皮腫、膵臓がん、卵巣がん、または肺がんなどを処置するのに使用することができる。
【0043】
本明細書で提供される結合タンパク質をコードするポリヌクレオチド、結合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むベクター、およびベクターを含む宿主細胞も本明細書で提供される。
【0044】
本開示をより詳細に説明する前に、本明細書で使用されるある特定の用語の定義を提供することはその理解に有益であり得る。特に別様の定義がない限り、本明細書で使用される技術用語は、当技術分野で理解される通常の意味を有する。追加の定義は、この開示にわたり記載される。
【0045】
本明細書では、任意の濃度範囲、パーセンテージ範囲、比率範囲、または整数範囲は、別様の指示がない限り、挙げられている範囲内の任意の整数の値および適切な場合はその分数(例えば、整数の10分の1および100分の1など)を含むと理解されるべきである。また、ポリマーサブユニット、サイズ、または厚さなど、任意の物理的特徴に関して本明細書に挙げられている任意の数範囲は、別様の指示がない限り、挙げられている範囲内の任意の整数を含むと理解されるべきである。「約」は、本明細書で使用される場合、測定可能な値、範囲、または構造を指す場合、別段の指定がない限り、特定された値からの±20%、±10%、±5%、±1%、または±0.1%の変動を包含することを意味する。
【0046】
用語「a」および「an」は、本明細書で使用される場合、列挙されている成分の「1つまたは複数」を指すことが理解されるべきである。選択肢の使用(例えば、「または」)は、選択肢のいずれか1つ、すべて、または任意の組合せを意味すると理解されるべきである。本明細書で使用される場合、用語「含む(include)」、「有する(have)」、および「含む(comprise)」は同義的に使用され、これらの用語およびその変化形は、非限定的であると解釈されることが意図されている。
【0047】
「必要に応じた」または「必要に応じて」は、後に記載される要素、成分、事象、または状況が生じてもよくまたは生じなくともよいこと、ならびに本明細書は、要素、成分、事象、または状況が生じる場合およびそれらが生じない場合を含むことを意味する。
【0048】
加えて、本明細書に記載の構造およびサブユニットの種々の組合せに由来する個々の構築物または構築物の群は、各構築物または構築物の群が個々に示されている場合と同程度に、本出願により開示されることが理解されるべきである。したがって、特定の構造または特定のサブユニットの選択は、本開示の範囲内にある。
【0049】
用語「から本質的になる(consisting essentially of)」は、「含む(comprising)」と等価ではなく、請求項の指定の材料もしくはステップまたは特許請求されている主題の基本的特色に実質的に影響を及ぼさないものを指す。例えば、タンパク質ドメイン、領域、もしくはモジュール(例えば、結合性ドメイン、ヒンジ領域、またはリンカー)、またはタンパク質(1つまたは複数のドメイン、領域、またはモジュールを有してもよい)は、ドメイン、領域、モジュール、またはタンパク質のアミノ酸配列が、ドメイン、領域、モジュール、またはタンパク質の長さの、組合せで多くとも20%(例えば、多くとも15%、10%、8%、6%、5%、4%、3%、2%、または1%)に寄与する伸長、欠失、変異、またはそれらの組合せ(例えば、アミノ末端またはカルボキシ末端またはドメイン間のアミノ酸)を含み、ドメイン(複数可)、領域(複数可)、モジュール(複数可)、またはタンパク質(複数可)の活性(例えば、結合タンパク質の標的結合親和性)に実質的な影響を及ぼさない(つまり、40%、30%、25%、20%、15%、10%、5%、または1%以下など、活性を50%よりも高度には低減させない)場合、特定のアミノ酸配列「から本質的になる」。
【0050】
本明細書で使用される場合、「アミノ酸」は、天然に存在するアミノ酸および合成アミノ酸、ならびに天然に存在するアミノ酸と同様に機能するアミノ酸アナログおよびアミノ酸模倣物を指す。天然に存在するアミノ酸は、遺伝子コードによりコードされるもの、ならびに後で修飾されるもの、例えば、ヒドロキシプロリン、γ-カルボキシグルタメート、およびO-ホスホセリンである。アミノ酸アナログは、天然に存在するアミノ酸と同じ基本的化学構造を有する化合物、つまり水素、カルボキシル基、アミノ基、およびR基に結合しているα-炭素、例えば、ホモセリン、ノルロイシン、メチオニンスルホキシド、メチオニンメチルスルホニウムを指す。そのようなアナログは、修飾R基(例えば、ノルロイシン)または修飾ペプチド骨格を有するが、天然に存在するアミノ酸と同じ基本的化学構造を維持している。アミノ酸模倣物は、アミノ酸の一般的化学構造とは異なる構造を有するが、天然に存在するアミノ酸と同様に機能する化学化合物を指す。
【0051】
「変異」は、本明細書で使用される場合、それぞれ参照または野生型核酸分子またはポリペプチド分子と比較した、核酸分子またはポリペプチド分子の配列における変化を指す。変異は、ヌクレオチド(複数可)またはアミノ酸(複数可)の置換、挿入、または欠失を含む、幾つかの異なるタイプの変化を配列にもたらすことができる。ある特定の実施形態では、変異は、1または3つのコドンまたはアミノ酸の置換、1つから約5つのコドンまたはアミノ酸の欠失、またはそれらの組合せである。
【0052】
「保存的置換」は、特定のタンパク質の結合特徴に有意に影響を与えずそれを変更しないアミノ酸置換を指す。一般に、保存的置換は、置換されるアミノ酸残基が、類似の側鎖を有するアミノ酸残基で置き換えられるものである。保存的置換としては、以下の群の1つに見出される置換が挙げられる:群1:アラニン(AlaまたはA)、グリシン(GlyまたはG)、セリン(SerまたはS)、トレオニン(ThrまたはT);群2:アスパラギン酸(AspまたはD)、グルタミン酸(GluまたはZ);群3:アスパラギン(AsnまたはN)、グルタミン(GlnまたはQ);群4:アルギニン(ArgまたはR)、リジン(LysまたはK)、ヒスチジン(HisまたはH);群5:イソロイシン(IleまたはI)、ロイシン(LeuまたはL)、メチオニン(MetまたはM)、バリン(ValまたはV);群6:フェニルアラニン(PheまたはF)、チロシン(TyrまたはY)、トリプトファン(TrpまたはW)。それに加えてまたはその代わりに、アミノ酸は、類似の機能、化学構造、または組成(例えば、酸性、塩基性、脂肪族、芳香族、または硫黄含有)により、保存的置換群にグループ分けすることができる。例えば、脂肪族グループ分けは、置換の目的では、Gly、Ala、Val、Leu、およびIleを含んでいてもよい。他の保存的置換群には、以下のものが挙げられる:硫黄含有:Metおよびシステイン(CysまたはC);酸性:Asp、Glu、Asn、およびGln;小型脂肪族の非極性またはわずかに極性の残基:Ala、Ser、Thr、Pro、およびGly;極性負電荷残基とそれらのアミド:Asp、Asn、Glu、およびGln;極性正電荷残基:His、Arg、およびLys;大型脂肪族非極性残基:Met、Leu、Ile、Val、およびCys;ならびに大型芳香族残基:Phe、Tyr、およびTrp。追加の情報は、Creighton (1984) Proteins, W.H. Freeman and Companyに見出すことができる。本開示のバリアントタンパク質、ペプチド、ポリペプチド、およびアミノ酸配列は、ある特定の実施形態では、参照アミノ酸配列に対して1つまたは複数の保存的置換を含んでいてもよい。
【0053】
「タンパク質」または「ポリペプチド」は、本明細書で使用される場合、アミノ酸残基のポリマーを指す。タンパク質は、天然に存在するアミノ酸ポリマー、ならびに1つまたは複数のアミノ酸残基が、対応する天然に存在するアミノ酸の人工的化学模倣物であるアミノ酸ポリマーおよび天然に存在しないアミノ酸ポリマーに該当する。
【0054】
「融合タンパク質」は、本明細書で使用される場合、単鎖で少なくとも2つの別個のドメインまたはモチーフを有するタンパク質であって、これらのドメインまたはモチーフが、タンパク質中に一緒に天然に見出されない(例えば、指定された配置、順番、または数で見出されない、または全く見出されない)ものを指す。ある特定の実施形態では、融合タンパク質は、単一のペプチドまたはポリペプチド中に一緒に天然に見出されない少なくとも2つの別個のドメインまたはモチーフを含む。融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを、PCRまたは組換え遺伝子操作などを使用して構築してもよく、またはそのような融合タンパク質を合成してもよい。融合タンパク質は、タグ、リンカー、または形質導入マーカーなど、他の成分をさらに含有してもよい。ある特定の実施形態では、宿主細胞(例えば、T細胞)によって発現または産生される融合タンパク質は、細胞表面に存在し、そこで融合タンパク質は、細胞膜に固定されており(例えば、膜貫通ドメインを介して)、細胞外の部分または成分を含み(例えば、結合ドメインを含有し、ある特定の実施形態では、リンカー、スペーサー、またはその両方を含有する)、細胞内の部分または成分を含む。
【0055】
「接合部アミノ酸」または「接合部アミノ酸残基」は、結合性ドメインと隣接する定常ドメインとの間またはTCR鎖と隣接する自己切断性ペプチドとの間など、ポリペプチドの2つの隣接するモチーフ、領域、またはドメイン間にある1つまたは複数(例えば、約2~10個)のアミノ酸残基を指す。接合部アミノ酸は、融合タンパク質の構築物設計に起因する場合がある(例えば、融合タンパク質をコードする核酸分子の構築中に制限酵素部位を使用することに起因するアミノ酸残基)。
【0056】
「核酸分子」または「ポリヌクレオチド」は、天然サブユニット(例えば、プリン塩基またはピリミジン塩基)または非天然サブユニット(例えば、モルホリン環)で構成されていてもよい、共有結合で連結されているヌクレオチドを含むポリマー化合物を指す。プリン塩基としては、アデニン、グアニン、ヒポキサンチン、およびキサンチンが挙げられ、ピリミジン塩基としては、ウラシル、チミン、およびシトシンが挙げられる。核酸分子としては、ポリリボ核酸(RNA)、cDNA、ゲノムDNA、および合成DNAを含むポリデオキシリボ核酸(DNA)が挙げられ、これらはいずれも一本鎖であってもよくまたは二本鎖であってもよい。一本鎖の場合、核酸分子は、コード鎖であってもよくまたは非コード鎖(アンチセンス鎖)であってもよい。アミノ酸配列をコードする核酸分子は、同じアミノ酸配列をコードするすべてのヌクレオチド配列を含む。また、ヌクレオチド配列の一部のバージョンは、イントロン(複数可)が共転写機序または転写後機序により除去される限り、イントロン(複数可)を含んでいてもよい。言い換えれば、異なるヌクレオチド配列は、遺伝子コードの冗長性または縮重の結果として、またはスプライシングにより、同じアミノ酸配列をコードすることができる。
【0057】
この開示の核酸分子のバリアントも企図される。バリアント核酸分子は、本明細書に記載のような、既定の、または参照ポリヌクレオチドの核酸分子に、少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、好ましくは95%、96%、97%、98%、99%、または99.9%同一であるか、または約65~68℃で、0.015Mの塩化ナトリウム、0.0015Mのクエン酸ナトリウム、または約42℃で、0.015Mの塩化ナトリウム、0.0015Mのクエン酸ナトリウム、および50%のホルムアミドのストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下でポリヌクレオチドにハイブリダイズするものである。核酸分子バリアントは、標的分子と特異的に結合するなど、本明細書に記載の機能を有する融合タンパク質またはその結合性ドメインをコードする能力を維持する。
【0058】
「パーセント配列同一性」は、配列を比較することによって決定した場合の、2つまたはそれより多くの配列間の関係を指す。配列同一性を決定するための好ましい方法は、比較されている配列間に最良の一致が得られるように設計される。例えば、配列は、最適な比較目的のためにアライメントされる(例えば、最適なアライメントのために、第1および第2のアミノ酸または核酸配列の一方または両方に、ギャップを導入することができる)。さらに、非相同配列は、比較目的のために無視してもよい。本明細書で参照される配列同一性パーセントは、別様の指示がない限り、参照配列の長さにわたって計算される。配列同一性および類似性を決定するための方法は、公的に利用可能なコンピュータープログラムに見出すことができる。配列アライメントおよびパーセント同一性の計算は、BLASTプログラム(例えば、BLAST2.0、BLASTP、BLASTN、またはBLASTX)を使用して実行することができる。BLASTプログラムで使用される数学アルゴリズムは、Altschul et al., Nucleic Acids Res. 25:3389-3402, 1997に見出すことができる。この開示の文脈内で、分析のために配列分析ソフトウェアが使用される場合、分析の結果は、参照されたプログラムの「デフォルト値」に基づいていることが理解される。「デフォルト値」は、最初の初期設定のときに、元からソフトウェアに搭載されている値またはパラメーターのあらゆるセットを意味する。
【0059】
当技術分野で理解されているように、2つのポリペプチド間の「類似性」は、ポリペプチドのアミノ酸配列およびそれに対する保存的アミノ酸置換を、第2のポリペプチドの配列と比較することにより決定される(例えば、GENEWORKS(商標)、Align、Clustal(商標)、またはBLASTアルゴリズムなどを使用して)。ある特定の実施形態では、BLASTアルゴリズムが好ましい。
【0060】
用語「単離された」は、材料がその元の環境(例えば、それが天然に存在する場合、天然環境)から取り出されていることを意味する。例えば、生きた動物中に存在する天然に存在する核酸またはポリペプチドは単離されていないが、天然系中に共に存在する材料の一部または全部から分離された同じ核酸またはポリペプチドは、単離されている。そのような核酸は、ベクターの一部であってもよく、および/またはそのような核酸またはポリペプチドは、組成物(例えば、細胞溶解物)の一部であってもよく、そのようなベクターまたは組成物は、核酸またはポリペプチドにとって自然環境の一部ではないという点で依然として単離されていると言える。用語「遺伝子」は、ポリペプチド鎖の産生に関与するDNAのセグメントを意味し、コード領域の前および後の領域(「リーダーおよびトレーラー」)、加えて個々のコードセグメント(エクソン)間の介在配列(イントロン)を含む。
【0061】
一部の文脈において、用語「バリアント」は、本明細書で使用される場合、参照された全長配列の少なくとも1つの断片を指し、より具体的には、全長配列と比べて、一方または両方の末端で1つまたは複数のアミノ酸が切り取られた、1つまたは複数のアミノ酸配列または核酸配列を指す。このような断片は、元の配列またはそのバリアントの、少なくとも6、7、8、10、12、15、20、25、50、75、100、150、または200個の連続したアミノ酸を有するペプチドを含むかまたはそれをコードする。バリアントの全体の長さは、少なくとも6、7、8、9、10、11、12、20、25、30、40、50、60、70、80、90、100、またはそれより多くのアミノ酸であり得る。
【0062】
一部の実施形態では、用語「バリアント」は、少なくとも1つの断片に関するだけでなく、参照される参照アミノ酸配列またはその断片と、少なくとも40%、50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または99.5%同一なアミノ酸配列を含むポリペプチドまたはその断片であって、生物学的活性またはポリペプチドの折り畳みもしくは構造に必須のアミノ酸以外のアミノ酸が欠失しているかまたは置換されており、1つまたは複数のこのような必須アミノ酸が、保存的な方式で置き換えられているか、および/またはポリペプチドの生物学的活性が保存されるようにアミノ酸が付加されているものに関する。最先端技術としては、2つの所与の核酸配列またはアミノ酸配列をアライメントし、同一性の程度を計算するのに使用可能な様々な方法が挙げられる(例えば、Arthur Lesk (2008), Introduction to bioinformatics, Oxford University Press, 2008, 3rd editionを参照)。一部の実施形態では、Clustal Wソフトウェアを、デフォルト設定を使用して使用することができる(Larkin, M. A., et al. (2007). Clustal W and Clustal X version 2.0. Bioinformatics, 23, 2947-2948)。
【0063】
ある特定の実施形態では、バリアントは、加えて、化学修飾、例えば、同位体標識または共有結合修飾、例えばグリコシル化、リン酸化、アセチル化、脱炭酸、シトルリン化、水酸化などを含んでいてもよい。ポリペプチドを修飾するための方法は公知であり、一般的に、ポリペプチドの所望の活性を無効にしたり実質的に低下させたりしないように使用する。
【0064】
一実施形態では、核酸分子の「バリアント」という用語は、その相補鎖が、参照または野生型核酸に、例えばストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸を含む。ハイブリダイゼーション反応のストリンジェンシーは、当業者によって容易に決定可能であり、一般的に、プローブ長さ、洗浄温度、および塩濃度に依存する経験的な計算である。一般的に、より長いプローブは、適したアニーリングのためにより高い温度を必要とする一方で、より短いプローブはより低い温度を必要とする。ハイブリダイゼーションは、一般的に、その融解温度未満の環境に存在する相補鎖に再アニールする変性DNAの能力に依存する:プローブとハイブリダイゼーション可能な配列との間の所望の相同性の程度がより高いと、使用してよい相対的な温度もより高くなる。結果として、より高い相対的な温度は、反応条件をより高いストリンジェントにし、一方でより低い温度は、反応条件をより低いストリンジェントにする傾向があると予想される。ハイブリダイゼーション反応のストリンジェンシーの追加の詳細および説明については、Ausubel, F. M. (1995), Current Protocols in Molecular Biology. John Wiley & Sons, Inc.を参照されたい。さらに、当業者であれば、ハイブリダイゼーションによりDNA配列を同定するための方法に関するマニュアルであるBoehringer Mannheim GmbH (1993) The DIG System Users Guide for Filter Hybridization, Boehringer Mannheim GmbH, Mannheim, GermanyおよびLiebl, W., Ehrmann, M., Ludwig, W., and Schleifer, K. H. (1991) International Journal of Systematic Bacteriology 41: 255-260に記載されている指示に従うことができる。一実施形態では、ストリンジェントな条件は、あらゆるハイブリダイゼーションに適用され、すなわち、ハイブリダイゼーションは、プローブが標的配列と70%またはそれより高く同一である場合のみに起こる。標的配列に対してより低い程度同一性を有するプローブがハイブリダイズする可能性があるが、このようなハイブリッドは不安定であり、ストリンジェントな条件下で、例えば、塩濃度を2×SSCに低くし、またはそれに続き必要に応じて、0.5×SSCに低くし、同時に、温度は、例えば、約50℃~68℃、約52℃~68℃、約54℃~68℃、約56℃~68℃、約58℃~68℃、約60℃~68℃、約62℃~68℃、約64℃~68℃、または約66℃~68℃である条件下での洗浄工程で除去される。一実施形態では、温度は、約64℃~68℃または約66℃~68℃である。塩の濃度は、0.2×SSCに調整することが可能であり、または0.1×SSCにも調整することが可能である。参照または野生型配列に対して少なくとも70%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または99.5%同一性の程度を有する核酸配列を単離することが可能である。一実施形態では、核酸配列のバリアントという用語は、本明細書で使用される場合、遺伝子コードの縮重に従って、参照核酸配列と同じアミノ酸配列をコードするあらゆる核酸配列およびそれらのバリアントを指す。
【0065】
「機能的バリアント」は、ポリペプチドまたはコードされるポリペプチドが、親ポリペプチドの活性の、少なくとも50%の効率で、好ましくは少なくとも55%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、99.9%、または100%のレベルで、コードされる親ポリペプチドの少なくとも1つの機能を実行することが可能であるように、この開示の親または参照化合物に構造的に類似した、または実質的に構造的に類似しているが、いくつかの状況において組成がわずかに異なっている(例えば、1つの塩基、原子または官能基が異なる、付加または除去されている;または1つまたは複数のアミノ酸が、変異している、挿入または欠失されている)ポリペプチドまたはポリヌクレオチドを指す。言い換えれば、この開示のポリペプチドまたはコードされるポリペプチドの機能的バリアントは、機能的バリアントが、結合親和性(例えば、会合(Ka)または解離(KD)定数を測定するBiacore(登録商標)または四量体染色)、アビディティ、または宿主細胞の活性化を測定するためのアッセイなどの選択されたアッセイで、親または参照ポリペプチドと比較してパフォーマンスにおいて50%以下の低下を呈示する場合、「類似の結合」、「類似の親和性」または「類似の活性」を有する。「機能的な部分」または「機能的な断片」は、本明細書で使用される場合、親または参照化合物のドメイン、モチーフ、部分または断片のみを含むポリペプチドまたはポリヌクレオチドを指し、ポリペプチドまたはコードされるポリペプチドは、親または参照化合物のドメイン、部分または断片に関連して、親ポリペプチドの活性の、少なくとも50%の活性、好ましくは少なくとも55%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、99.9%、または100%のレベルを保持するか、または生物学的利益(例えば、エフェクター機能)を提供する。
【0066】
本開示のポリペプチドまたはコードされるポリペプチドの「機能的部分」または「機能的断片」は、機能的部分または機能的断片が、親ポリペプチドまたは参照ポリペプチドと比較して、結合親和性を測定するためのアッセイまたはエフェクター機能(例えば、サイトカイン放出)を測定するためのアッセイなど、選択されたアッセイにおいて50%以下(親和性に関しては、好ましくは、親または参照と比較して20%以下または10%以下または1log差以下)のパフォーマンス低下を示す場合、「類似の結合性」または「類似の活性」を有する。ある特定の実施形態では、機能的部分は、エフェクター分子、エフェクタードメイン、共刺激分子、または共刺激ドメインの「シグナル伝達部分」を指す。
【0067】
「変更されたドメイン」または「変更されたタンパク質」は、野生型モチーフ、領域、ドメイン、ペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質(例えば、野生型のTCRα鎖、TCRβ鎖、TCRα定常ドメイン、またはTCRβ定常ドメイン)と、少なくとも85%(例えば、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.1%、99.2%、99.3%、99.4%、99.5%、99.6%、99.7%、99.8%、または99.9%)の非同一配列同一性(non-identical sequence identity)を有するモチーフ、領域、ドメイン、ペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質を指す。
【0068】
「異種性」または「非内因性」または「外因性」は、本明細書で使用される場合、宿主細胞または対象にとって天然ではないあらゆる遺伝子、タンパク質、化合物、核酸分子、もしくは活性、または変更された宿主細胞または対象にとって天然のあらゆる遺伝子、タンパク質、化合物、核酸分子、もしくは活性を指す。異種性、非内因性、または外因性は、天然の、および変更された遺伝子、タンパク質、化合物、または核酸分子の間で構造、活性、またはその両方が異なるように変異した、またはそれ以外の方法で変更された遺伝子、タンパク質、化合物、または核酸分子を含む。ある特定の実施形態では、異種性、非内因性、または外因性遺伝子、タンパク質、または核酸分子(例えば、受容体、リガンドなど)は、宿主細胞または対象にとって内因性でなくてもよいが、その代わりに、このような遺伝子、タンパク質、または核酸分子をコードする核酸が、コンジュゲーション、形質転換、トランスフェクション、エレクトロポレーションなどによって宿主細胞に付加されてもよく、その場合、付加される核酸分子は、宿主細胞ゲノムに組み込まれていてもよいし、または染色体外の遺伝物質として(例えば、プラスミドまたは他の自己増殖ベクターとして)存在していてもよい。異種性ポリヌクレオチドを含む宿主細胞の場合において、ポリヌクレオチドは、ポリヌクレオチドを含有するように後代それ自体を操作した(例えば、形質導入した)か否かにかかわらず、宿主細胞の後代にとって「異種性」であることが理解される。
【0069】
用語「相同な」または「相同体」は、宿主細胞、宿主種、または宿主株に見出される、またはそれ由来の遺伝子、タンパク質、化合物、核酸分子、または活性を指す。例えば、異種性または外因性ポリヌクレオチドまたはポリペプチドをコードする遺伝子は、天然ポリヌクレオチドまたは遺伝子に相同であってもよく、相同なポリペプチドまたは活性をコードするが、ポリヌクレオチドまたはポリペプチドは、変更された構造、配列、発現レベル、またはそれらの任意の組合せを有していてもよい。非内因性ポリヌクレオチドまたは遺伝子、加えてコードされるポリペプチドまたは活性は、同じ種由来であってもよいし、異なる種由来であってもよいし、またはそれらの組合せであってもよい。
【0070】
本明細書で使用される場合、用語「内因性」または「天然」は、宿主細胞または対象に通常存在するポリヌクレオチド、遺伝子、タンパク質、化合物、分子、または活性を指す。
【0071】
用語「発現」は、本明細書で使用される場合、ポリペプチドが遺伝子などの核酸分子のコード配列に基づいて産生されるプロセスを指す。このプロセスは、転写、転写後制御、転写後修飾、翻訳、翻訳後制御、翻訳後修飾、またはそれらの任意の組合せを含んでいてもよい。発現される核酸分子は、典型的には、発現制御配列(例えば、プロモーター)に作動可能に連結している。
【0072】
用語「作動可能に連結した」は、一方の機能が他方により影響を受けるように、2つまたはそれよりも多くの核酸分子が単一の核酸断片において関連付けられていることを指す。例えば、プロモーターは、そのコード配列の発現に影響を及ぼすことが可能である場合(つまり、コード配列が、プロモーターの転写制御下にある場合)、コード配列と作動可能に連結している。「連結されていない」は、関連する遺伝学的エレメントが、互いに密接に関連付けられておらず、一方の機能が他方に影響を及ぼさないことを意味する。
【0073】
核酸分子を細胞へと挿入するという状況における「導入される」という用語は、「トランスフェクション」、または「形質転換」、または「形質導入」を意味し、真核細胞または原核細胞への核酸分子の組込みに対する言及を含み、その場合、核酸分子は、細胞のゲノムへと組み込まれてもよく(例えば、染色体、プラスミド、プラスチド、またはミトコンドリアDNA)、自律性レプリコンに変換されてもよく、または一過性に発現されてもよい(例えば、トランスフェクトされたmRNA)。本明細書で使用される場合、用語「遺伝子操作された」、「組換えの」、または「非天然の」、または「修飾された」は、少なくとも1つの遺伝子変更を含むか、または外因性核酸分子の導入により修飾されている生物、微生物、細胞、核酸分子、またはベクターを指し、そのような変更または修飾は、遺伝子操作(つまり、人為的介入)により導入される。遺伝子変更としては、例えば、タンパク質、融合タンパク質、もしくは酵素をコードする発現可能な核酸分子を導入する修飾、または他の核酸分子の付加、欠失、置換、または細胞の遺伝物質の他の機能的破壊が挙げられる。追加の修飾としては、例えば、修飾が、例えば、内因性核酸分子もしくは遺伝子の発現が、制御されるか、調節解除されるか、もしくは構成的になるように、ポリヌクレオチド、遺伝子、またはオペロンの発現を変更する非コード調節領域が挙げられ、そのような変更または修飾は遺伝子操作により導入することができる。遺伝子変更としては、例えば、1つもしくは複数のタンパク質もしくは酵素をコードする核酸分子(プロモーターなどの発現制御エレメントを含んでいてもよい)を導入する修飾、または他の核酸分子の付加、欠失、置換、または細胞の遺伝物質の他の機能的破壊もしくはそれに対する他の機能的追加を挙げることができる。例示的な修飾としては、参照分子または親分子の異種性または相同性ポリペプチドのコード領域またはそれらの機能的断片における修飾が挙げられる。
【0074】
本明細書に記載のように、1つよりも多くの異種性核酸分子は、別々の核酸分子として、複数の個々に制御される遺伝子として、ポリシストロン性核酸分子として、融合タンパク質をコードする単一の核酸分子として、またはそれらの任意の組合せとして宿主細胞へと導入されていてもよい。2つまたはそれよりも多くの異種性核酸分子が宿主細胞へと導入される場合、2つまたはそれよりも多くの異種性核酸分子は、単一の核酸分子として(例えば、単一のベクターにて)、別々のベクターで導入されてもよく、単一の部位もしくは複数の部位にて宿主染色体へと組み込まれてもよく、またはそれらの任意の組合せであってもよいと理解される。参照される異種性核酸分子またはタンパク質活性の数は、宿主細胞へと導入される別々の核酸分子の数ではなく、コード核酸分子の数またはタンパク質活性の数を指す。
【0075】
用語「構築物」は、組換え核酸分子を含有するあらゆるポリヌクレオチドを指す。構築物は、ベクター(例えば、細菌ベクター、ウイルスベクター)に存在していてもよく、またはゲノムに組み込まれていてもよい。「ベクター」は、別の核酸分子を輸送することが可能な核酸分子である。ベクターは、例えば、染色体、非染色体、半合成または合成核酸分子を含み得る、プラスミド、コスミド、ウイルス、RNAベクターまたは直鎖状または環状DNAまたはRNA分子であってもよい。本開示のベクターとしてはまた、トランスポゾンシステム(例えば、スリーピングビューティー(Sleeping Beauty)、例えば、Geurts et al., Mol. Ther. 8:108, 2003: Mates et al., Nat. Genet. 41:753, 2009を参照されたい)も挙げられる。例示的なベクターは、自律複製が可能なもの(エピソームベクター)、ポリヌクレオチドを細胞ゲノムに送達することが可能なもの(例えば、ウイルスベクター)、またはそれらに連結されている核酸分子を発現することが可能なもの(発現ベクター)である。
【0076】
本明細書で使用される場合、用語「宿主」は、目的のポリペプチドを産生するための異種性核酸分子による遺伝子改変の標的となる細胞(例えば、本明細書に記載のような免疫系細胞)または微生物を指す。ある特定の実施形態では、宿主細胞は、必要に応じて、例えば、異種性タンパク質の生合成に関連するまたは関連しない所望の特性を付与する他の遺伝子改変を既に保有していてもよくまたは含むように修飾されていてもよい(例えば、検出可能なマーカーの包含;内因性TCRの欠失、変更、もしくは短縮;または共刺激因子の発現増加)。
【0077】
「結合ドメイン」(「結合領域」または「結合部分」とも呼ばれる)は、本明細書で使用される場合、標的分子(例えば、Msln20-28ペプチド(配列番号31)またはMsln530-538ペプチド(配列番号32)、ある特定の実施形態では、HLA分子との複合体の形態で)と、特異的に、非共有結合によって会合する、一体化する、またはそれと化合する能力を有する、ペプチド、オリゴペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質などの分子を指す。結合性ドメインは、生物学的分子または他の目的の標的に対する、任意の天然に存在する、合成の、半合成の、または組換え的に産生された結合パートナーを含む。一部の実施形態では、結合性ドメインは、抗体またはTCRまたは機能的結合性ドメインまたはそれらの抗原結合性断片などの抗原結合性ドメインである。例示的な結合性ドメインとしては、一本鎖抗体可変領域(例えば、単一ドメイン抗体、sFv、scFv、およびFab)、受容体外部ドメイン(例えば、TNF-α)、リガンド(例えば、サイトカインおよびケモカイン)、一本鎖TCR(scTCR)などのTCRの抗原結合性領域、生物学的分子、アプタマー、または単一ドメイン抗体(例えば、ラクダまたは魚由来の単一ドメイン抗体;例えば、Arbabi-Ghahroudi M (2017) Front. Immunol. 8: 1589を参照)に結合する特異的能力について選択された合成ポリペプチドが挙げられる。
【0078】
用語「可変領域」または「可変ドメイン」は、TCRα鎖もしくはβ鎖(またはγδTCRの場合、γ鎖およびδ鎖)のドメイン、または抗原への結合に関与する抗体重鎖もしくは軽鎖のドメイン(すなわち、抗原と接触し結合をもたらすアミノ酸および/または他の構造を含有する)を指す。天然TCRのα鎖およびβ鎖の可変ドメイン(それぞれ、VαおよびVβ)は、一般に類似の構造を有し、各ドメインは、4つの概して保存されているフレームワーク領域(FR)および3つのCDRを含む。また、抗体重鎖(VH)および抗体軽鎖(VL)の可変ドメインは各々、一般に、4つの概して保存されているフレームワーク領域(FR)および3つのCDRを含む。TCRおよび抗体の両方において、フレームワーク領域は、CDRを隔てており、CDRは、フレームワーク領域間に配置される(すなわち、一次構造で)。
【0079】
天然TCRのα鎖およびβ鎖の可変ドメイン(それぞれVαおよびVβ)は、一般的に、4つの保存されたフレームワーク領域(FR)および3つのCDRを含む各ドメインと類似の構造を有する。Vαドメインは、2つの別個のDNAセグメント、すなわち可変遺伝子セグメントおよび結合遺伝子セグメント(joining gene segment)(V-J)によりコードされ、Vβドメインは、3つの、5つの別個のDNAセグメント(three 5 separate DNA segment)、すなわち、可変遺伝子セグメント、多様性遺伝子セグメント、および結合遺伝子セグメント(V-D-J)によりコードされる。ヒトTCR V、D、およびJ対立遺伝子は、そのヌクレオチドおよびコードされるアミノ酸配列を含めて当技術分野において公知である。単一のVαまたはVβドメインが、抗原結合特異性を付与するのに十分であり得る。さらに、特定の抗原と結合するTCRは、抗原と結合するTCR由来のVαまたはVβドメインを使用して単離して、それぞれ相補的VαまたはVβドメインのライブラリーをスクリーニングすることができる。
【0080】
用語「相補性決定領域」、および「CDR」は、「高度可変領域」または「HVR」と同義であり、一般的に、抗原特異性および/または結合親和性を付与し、一次構造でフレームワーク配列によって互いに隔てられている、TCRまたは抗体可変領域内のアミノ酸の配列を指すことが当技術分野において公知である。一部の場合において、フレームワークのアミノ酸は、結合にも寄与し得、例えば、抗原または抗原を含有する分子と接触する場合もある。一般に、各可変領域には3つのCDRが存在する(つまり、TCRα鎖およびβ鎖可変領域の各々に3つのCDRが存在する;抗体重鎖および軽鎖可変領域の各々に3つのCDRが存在する)。TCRの場合において、CDR3は、プロセシングされた抗原を認識することに関与する主要なCDRと考えられる。CDR1およびCDR2は、主として、または一部の場合において独占的に、MHCと相互作用する。可変ドメイン配列は、番号付けスキーム(例えば、Kabat、EU、国際免疫遺伝学情報システム(International Immunogenetics Information System:IMGT)およびAho)にアラインすることができ、これらは、等価な残基位置に注釈を付けること、および抗原受容体番号付けおよび受容体分類(Antigen receptor Numbering And Receptor Classification :ANARCI)ソフトウェアツール(2016, Bioinformatics 15:298-300)を使用して異なる分子を比較することを可能にする。本明細書に記載のある特定の実施形態では、CDRは、IMGT番号付けシステムに従って番号付けされる。
【0081】
「と特異的に結合する」は、本明細書で使用される場合、結合ドメイン、またはそれを含むタンパク質が、105M-1に等しいかまたはそれより大きい親和性またはKa(すなわち、単位1/Mでの特定の結合相互作用の平衡会合定数)で標的分子に会合または結合するが、サンプル中の他のいずれの分子または成分との有意に会合も結合(uniting)もしないことを指す。結合性ドメイン(またはその融合タンパク質)は、「高親和性」結合性ドメイン(またはその融合タンパク質)または「低親和性」結合性ドメイン(またはその融合タンパク質)に分類することができる。「高親和性」結合ドメインは、少なくとも107M-1、少なくとも108M-1、少なくとも109M-1、少なくとも1010M-1、少なくとも1011M-1、少なくとも1012M-1、または少なくとも1013M-1のKaを有する結合ドメインを指す。「低親和性」結合ドメインは、最大107M-1、最大106M-1、または最大105M-1のKaを有する結合ドメインを指す。代替として、親和性は、単位Mでの特定の結合相互作用の平衡解離定数(Kd)(例えば、10-5M~10-13M)と定義することができる。ある特定の実施形態では、結合ドメインは、「強化された親和性」を有していてもよく、これは、選択された、または操作された結合ドメインが、野生型(または親)結合ドメインより強く標的抗原に結合することを指す。例えば、増強された親和性は、標的抗原に対するKa(平衡会合定数)が野生型結合性ドメインよりも高いことによるものであってもよく、または標的抗原に対するKdが野生型結合性ドメインのKdよりも低いことによるものであってもよく、または標的抗原のオフレート(Koff)が野生型結合性ドメインのオフレートよりも低いことによるものであってもよい。特定の標的に特異的に結合する本開示の結合性ドメインを同定するための、ならびにウエスタンブロット、ELISA、およびBIACORE(登録商標)分析など、結合性ドメインまたは融合タンパク質の親和性を決定するための様々なアッセイが公知である(例えば、Scatchard, et al., Ann. N. Y. Acad. Sci. 57: 660, 1949;および米国特許第5,283,173号明細書または米国特許第5,468,614号明細書なども参照されたい)。
【0082】
親和性または見かけの親和性または相対的な親和性を評価するためのアッセイは、公知である。ある特定の例において、TCRの見かけの親和性を、例えば標識した四量体を使用するフローサイトメトリーによって、様々な濃度の四量体への結合を評価することによって測定する。一部の例において、TCRの見かけのKdを、所定の濃度の範囲での標識した四量体(すなわち、ペプチド:MHC四量体)の2倍希釈、それに続く非線形回帰による結合曲線の決定を使用して測定し、見かけのKdを、最大半量結合をもたらすリガンドの濃度として決定する。ある特定の実施形態では、Msln20-28またはMsln530-538特異的結合タンパク質としては、Msln20-28もしくはMsln530-538特異的免疫グロブリンスーパーファミリー結合タンパク質、またはそれぞれ、それらの結合部分が挙げられる。
【0083】
「MHC-ペプチド四量体染色」は、抗原特異的T細胞を検出するのに使用されるアッセイを指し、これは、MHC分子の四量体が、それぞれ少なくとも1つのエピトープ(例えば、Msln20-28またはMsln530-538)と同族である(例えば、それと同一な、またはそれに関する)アミノ酸配列を有する同一なペプチドを含むことを特徴とし、複合体は、同族エピトープに特異的なTCRに結合することが可能である。MHC分子の各々を、ビオチン分子でタグ化することができる。ビオチン化MHC/ペプチドは、ストレプトアビジンの添加によって四量体化され、これは、蛍光標識することができる。四量体は、蛍光標識を介したフローサイトメトリーによって検出してもよい。ある特定の実施形態では、MHC-ペプチド四量体アッセイは、本開示の強化された親和性を有するTCRを検出または選択するために使用される。サイトカインのレベルは、例えば、ELISA、ELISpot、細胞内サイトカイン染色、およびフローサイトメトリー、およびそれらの組合せ(例えば、細胞内サイトカイン染色およびフローサイトメトリー)を含む、本明細書に記載の方法および当技術分野で実施される方法に従って決定することができる。免疫応答の抗原特異的誘発または刺激に起因する免疫細胞増殖およびクローン性拡大は、末梢血細胞またはリンパ節に由来する細胞の試料中の循環リンパ球などのリンパ球を単離し、細胞を抗原で刺激し、トリチウム標識チミジンの組込み、またはMTTアッセイなどの非放射性アッセイなどにより、サイトカイン産生、細胞増殖、および/または細胞生存率を測定することにより決定することができる。Th1免疫応答とTh2免疫応答とのバランスに対する本明細書に記載の免疫原の効果は、例えば、IFN-γ、IL-12、IL-2、およびTNF-βなどのTh1サイトカインの、ならびにIL-4、IL-5、IL-9、IL-10、およびIL-13などの2型サイトカインのレベルを決定することにより調査することができる。
【0084】
「抗原」または「Ag」は、本明細書で使用される場合、免疫応答を誘発する免疫原性分子を指す。この免疫応答は、抗体産生、特定の免疫担当細胞(T細胞など)の活性化、または両方を伴ってもよい。抗原(免疫原性分子)は、例えば、ペプチド、糖ペプチド、ポリペプチド、糖ポリペプチド、ポリヌクレオチド、多糖、または脂質などであってもよい。抗原は、合成してもよく、組換えにより産生してもよく、または生物学的試料に由来してもよいことは容易に明らかである。1つまたは複数の抗原を含有し得る例示的な生物学的試料としては、組織試料、腫瘍試料、細胞、生物学的流体、またはそれらの組合せを挙げることができる。抗原は、化学的に合成してもよいし、または抗原を発現するように改変または遺伝子操作された細胞によって産生してもよい。
【0085】
用語「エピトープ」または「抗原エピトープ」は、免疫グロブリン、T細胞受容体(TCR)、キメラ抗原受容体などの同族結合分子、または他の結合分子、ドメインもしくはタンパク質が認識し、特異的に結合するあらゆる分子、構造、アミノ酸配列またはタンパク質決定基を含む。エピトープ決定基は、一般に、アミノ酸または糖側鎖などの、化学的に活性な分子の表面基を含有し、特定の三次元構造特色ならびに特定の電荷特色を有することができる。
【0086】
「Msln20-28」および「Msln20-28ペプチド」、ならびに「Msln20ペプチド」は、本明細書で使用される場合、配列番号50のメソテリンアミノ酸20~28(ヒトメソテリン、アイソフォーム1)、すなわち、SLLFLLFSL(配列番号31)を含むかまたはそれからなるペプチドを指し、このペプチドは、HLA-A*201と会合することができる。
【0087】
「Msln530-538」および「Msln530-538ペプチド」、「Msln530ペプチド」は、本明細書で使用される場合、配列番号50のメソテリンアミノ酸530~538、例えば、VLPLTVAEV(配列番号32)を含むかまたはそれからなるペプチドを指し、このペプチドは、HLA-A*201と会合することができる。
【0088】
用語「Msln20-28特異的結合タンパク質」は、Msln20-28ペプチドに特異的に結合する、および/またはそれに特異的である、および/またはそれとの高いアビディティを有するかもしくはそれを付与するタンパク質またはポリペプチドを指す。一部の実施形態では、タンパク質またはポリペプチドは、Msln20-28、例えば、MHCまたはHLA分子と複合体化したMsln20-28ペプチドに、例えば細胞表面上で、特定の親和性で、または少なくともおよその特定の親和性で結合する。Msln20-28特異的結合タンパク質は、Msln20-28ペプチド、そのバリアント、またはその断片に結合し得る。例えば、Msln20-28特異的結合タンパク質は、配列番号31(SLLFLLFSL)のアミノ酸配列、または配列番号31と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列に結合し得る。ある特定の実施形態では、Msln20-28特異的結合タンパク質は、例えば同じアッセイによって測定した場合、Msln20-28-ペプチド:HLA複合体(またはMsln20-28由来のペプチド:MHC複合体)と、本明細書で提供される例示的なMsln20-28特異的結合タンパク質、例えば本明細書で提供されるMsln20-28特異的TCRのいずれかによって示される親和性とおよそ同じ、少なくともおよそ同じ、またはそれよりも大きいかおよそ大きい親和性で結合する。ある特定の実施形態では、Msln20-28特異的結合タンパク質は、本明細書で提供されるMsln20-28エピトープ、例えば、配列番号60によるコンセンサスエピトープ配列に結合することができる。本明細書で開示のように、Msln特異的結合タンパク質は、配列番号60と高い配列相同性または同一性を有する非Mslnヒトタンパク質またはペプチドと結合しないか、または実質的に結合しない。
【0089】
用語「Msln530-538特異的結合タンパク質」は、Msln530-538ペプチドに特異的に結合する、および/またはそれに特異的である、および/またはそれとの高いアビディティを有するかもしくはそれを付与するタンパク質またはポリペプチドを指す。一部の実施形態では、タンパク質またはポリペプチドは、Msln530-538に結合し、例えばMsln530-538ペプチドは、例えば細胞表面上で、特定の親和性で、または少なくともおよその特定の親和性で、MHCまたはHLA分子と複合体化している。Msln530-538特異的結合タンパク質は、Msln530-538ペプチド、そのバリアント、またはその断片に結合し得る。例えば、Msln530-538特異的結合タンパク質は、配列番号32のアミノ酸配列(VLPLTVAEV)、または配列番号32と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列に結合し得る。ある特定の実施形態では、Msln530-538特異的結合タンパク質は、例えば同じアッセイによって測定した場合、Msln530-538-ペプチド:HLA複合体(またはMsln530-538由来のペプチド:MHC複合体)と、本明細書で提供される例示的なMsln530-538特異的結合タンパク質、例えば本明細書で提供されるMsln530-538特異的TCRのいずれかによって示される親和性とおよそ同じ、少なくともおよそ同じ、またはそれよりも大きいかおよそ大きい親和性で、結合する。ある特定の実施形態では、Msln530-538特異的結合タンパク質は、本明細書で提供されるMsln530-538エピトープ、例えば、配列番号61または62によるコンセンサスエピトープ配列に結合することができる。本明細書で開示のように、Msln特異的結合タンパク質は、配列番号61または62と高い配列相同性または同一性を有する非Mslnヒトタンパク質またはペプチドと結合しないか、または実質的に結合しない。
【0090】
本開示の結合ドメインが特異的に結合する標的分子は、目的の細胞(「標的細胞」)上で、またはそれと会合して見出され得る。例示的な標的細胞としては、がん細胞、自己免疫疾患もしくは障害または炎症性疾患もしくは障害に関連する細胞、および感染性生物または細胞(例えば、細菌、ウイルス、またはウイルス感染細胞)が挙げられる。哺乳動物寄生虫などの感染性生物の細胞も、標的細胞として企図される。
【0091】
用語「機能的なアビディティ」は、所与のリガンド濃度に対するin vitroにおける免疫細胞(例えば、T細胞、NK細胞、NK-T細胞)応答の生物学的な尺度または活性化の閾値を指し、生物学的な尺度としては、サイトカイン産生(例えば、IFNγ産生、IL-2産生など)、細胞傷害活性、および増殖を挙げることができる。例えば、in vitroで、サイトカインを産生すること、細胞傷害性であること、または増殖することによって低い抗原用量に生物学的に(免疫学的に)応答するT細胞は、高い機能的なアビディティを有するとみなされ、一方でより低い機能的なアビディティを有するT細胞は、高いアビディティのT細胞に類似して、免疫応答が惹起される前に、より多くの量の抗原を必要とする。機能的なアビディティは、親和性およびアビディティと異なることが理解される。親和性は、結合タンパク質とその抗原/リガンドとの間のあらゆる所与の結合の強度を指す。一部の結合タンパク質は多価であり、複数の抗原に結合し、この場合、全体的な連結の強度がアビディティである。
【0092】
機能的なアビディティと免疫応答の有効性との間に多数の相関が存在する。一部のex vivoの研究は、別個のT細胞の機能(例えば、増殖、サイトカイン産生など)は異なる閾値で引き起こされ得ることを示している(例えば、Betts et al., J. Immunol. 172:6407, 2004;Langenkamp et al., Eur. J. Immunol. 32:2046, 2002を参照)。機能的なアビディティに影響を与える要因としては、(a)pMHC-複合体へのTCRの親和性、すなわちTCRとpMHCとの間の相互作用の強度(Cawthon et al., J. Immunol. 167:2577, 2001)、(b)TCRおよびCD4またはCD8共受容体の発現レベル、および(c)シグナル伝達分子の分布および組成(Viola and Lanzavecchia, Science 273:104, 1996)、加えて、T細胞の機能およびTCRシグナル伝達を弱める分子の発現レベルが挙げられる。
【0093】
指定された曝露時間後のベースラインの応答と最大応答との間の最大半量応答を誘導するのに必要な抗原の濃度は、「最大半量有効濃度」または「EC50」と呼ばれる。EC50値は、一般的に、モル濃度(モル/リットル)の量として示されるが、以下:-log10(EC50)のように対数値に変換されることが多い。例えば、EC50が1μM(10-6M)に等しい場合、log10(EC50)値は、-6である。使用される別の値は、pEC50であり、これは、EC50の負の対数(-log10(EC50))と定義される。上記の例において、1μMに等しいEC50は、6のpEC50値を有する。ある特定の実施形態では、この開示の結合タンパク質の機能的なアビディティは、T細胞によってIFNγ産生を促進するその能力の尺度ということになり、これは、本明細書に記載のアッセイを使用して測定することができる。「高い機能的なアビディティ」のTCRまたはその結合ドメインは、少なくとも10-4M、少なくとも約10-5M、または少なくとも約10-6MのEC50を有するTCRまたはその結合ドメインを指す。
【0094】
ある特定の実施形態では、本明細書に記載のようなメソテリン特異的結合タンパク質またはドメインは、宿主T細胞によって発現させることができ、T細胞のアビディティ化または誘導の決定を含む、さらに抗原特異的なT細胞応答の決定も含むT細胞活性をアッセイするための多数の当技術分野で容認された方法論のいずれかに従って、機能的に特徴付けることができる。ある特定の実施形態では、結合タンパク質は、クラスI HLA拘束性の方式でヒトメソテリンに対する抗原特異的T細胞応答を促進することが可能である。さらなる実施形態では、クラスI HLA拘束性応答は、輸送体に関連しており、抗原プロセシング(TAP)とは無関係である。ある特定の実施形態では、抗原特異的T細胞応答は、CD4+ヘルパーTリンパ球(Th)応答およびCD8+細胞傷害性Tリンパ球(CTL)応答の少なくとも1つを含む。関連の実施形態では、CTL応答は、メソテリンを過剰発現する細胞に方向付けられる。T細胞活性をアッセイするための手法のさらなる例としては、T細胞増殖、T細胞サイトカイン放出、抗原特異的T細胞刺激、MHC拘束性T細胞刺激、CTL活性(例えば、事前にローディングした標的細胞からの51Cr放出を検出することによって)、T細胞表現型のマーカー発現における変化、およびT細胞の機能の他の尺度の決定が挙げられる。これらのおよび類似のアッセイを実行するための手順は、例えば、Lefkovits(Immunology Methods Manual: The Comprehensive Sourcebook of Techniques, 1998)に見出すことができる。また、Current Protocols in Immunology;Weir, Handbook of Experimental Immunology, Blackwell Scientific, Boston, MA (1986);Mishell and Shigii (eds.) Selected Methods in Cellular Immunology, Freeman Publishing, San Francisco, CA (1979);Green and Reed, Science 281:1309 (1998)およびそこで引用された文献)も参照されたい。
【0095】
「免疫系細胞」は、本明細書で使用される場合、骨髄中の造血幹細胞から生じる免疫系のあらゆる細胞を指し、造血幹細胞は、2つの主要な系統、すなわち、骨髄性前駆細胞(これは、骨髄性細胞、例えば単球、マクロファージ、樹状細胞、巨核球、および顆粒球を生じさせる)、およびリンパ性前駆細胞(これは、リンパ性細胞、例えばT細胞、B細胞、およびナチュラルキラー(NK)細胞を生じさせる)を生じさせる。例示的な免疫系細胞としては、CD4+T細胞、CD8+T細胞、CD4-CD8-二重陰性T細胞、γδT細胞、調節性T細胞、幹細胞メモリーT細胞、ナチュラルキラー細胞(例えば、NK細胞またはNK-T細胞)、B細胞、および樹状細胞が挙げられる。マクロファージおよび樹状細胞は、「抗原提示細胞」または「APC」と称することもでき、これらは、ペプチドと複合体化したAPCの表面上の主要組織適合複合体(MHC)受容体が、T細胞の表面上でTCRと相互作用すると、T細胞を活性化できる特殊化した細胞である。
【0096】
「T細胞」または「Tリンパ球」は、胸腺で成熟し、TCRを産生する免疫系細胞である。T細胞は、ナイーブ(抗原に曝露されていない;TCMと比較して、CD62L、CCR7、CD28、CD3、CD127、およびCD45RAの発現が増加、ならびにCD45ROの発現が減少)、メモリーT細胞(TM)(抗原を経験し、長命である)、およびエフェクター細胞(抗原を経験し、細胞傷害性である)であってもよい。TMは、セントラルメモリーT細胞(TCM、ナイーブT細胞と比較して、CD62L、CCR7、CD28、CD127、CD45RO、およびCD95の発現増加、およびCD54RAの発現減少)およびエフェクターメモリーT細胞(TEM、ナイーブT細胞またはTCMと比較して、CD62L、CCR7、CD28、CD45RAの発現減少、およびCD127の発現増加)のサブセットにさらに分けることができる。
【0097】
エフェクターT細胞(TE)は、TCMと比較して、CD62L、CCR7、CD28の発現が減少しており、グランザイムおよびパーフォリン陽性である、抗原を経験したCD8+細胞傷害性Tリンパ球を指す。他の例示的なT細胞としては、CD4+CD25+(Foxp3+)調節性T細胞およびTreg17細胞などの調節性T細胞、ならびにTr1、Th3、CD8+CD28-、およびQa-1拘束性T細胞が挙げられる。
【0098】
ヘルパーT細胞(TH)は、サイトカインを放出することによって他の免疫細胞の活性に影響を与えるCD4+細胞である。CD4+T細胞は、適応免疫応答を活性化および抑制することができ、これら2つの機能のどれが誘導されるかは、他の細胞およびシグナルの存在に依存する。T細胞は、公知の技術を使用して収集でき、様々な部分集団またはそれらの組合せは、公知の技術によって、例えば抗体への結合親和性、フローサイトメトリー、または免疫磁気選択によって、富化または枯渇させることができる。
【0099】
「T細胞系統の細胞」は、他のリンパ性細胞由来の細胞、および赤芽球系統または骨髄性系統の細胞と区別する、T細胞、またはそれらの前駆体もしくは前駆細胞の少なくとも1つの表現型の特徴を示す細胞を指す。このような表現型の特徴としては、T細胞に特異的な1つまたは複数のタンパク質(例えば、CD3+、CD4+、CD8+)の発現、またはT細胞に特異的な生理学的、形態学的、機能的、もしくは免疫学的な特徴を挙げることができる。例えば、T細胞系統の細胞は、T細胞系統に関係づけられる(committed)前駆細胞もしくは前駆体細胞;CD25+未成熟および不活性化T細胞;CD4もしくはCD8系統(linage)コミットメントを受けた細胞;CD4+CD8+二重陽性である胸腺細胞の前駆細胞;単一陽性CD4+もしくはCD8+;TCRαβもしくはTCRγδ;または成熟T細胞、および機能的もしくは活性化T細胞であり得る。
【0100】
「造血前駆細胞」は、成熟した細胞型(例えば、T細胞系統の細胞)へのさらなる分化が可能な造血幹細胞(HSC)または胎児組織由来の細胞である。ある特定の実施形態では、CD24loLin-CD117+造血前駆細胞が有用である。本明細書で定義されているように、造血前駆細胞は、T細胞系統の細胞へとさらに分化することが可能な胚性幹細胞を含んでいてもよい。造血前駆細胞は、ヒト、マウス、ラット、または他の哺乳動物を含む種々の動物種に由来してもよい。「胸腺細胞の前駆細胞」または「胸腺細胞」は、胸腺中に存在する造血前駆細胞である。
【0101】
「造血幹細胞」または「HSC」は、in vivo、in vitroにおける本質的に無制限の増殖のいずれかで自己再生が可能であり、T細胞系統の細胞などの他の細胞型への分化が可能な未分化造血細胞を指す。HSCは、例えば、これらに限定されないが、胎児肝臓、骨髄、および臍帯血から単離することができる。
【0102】
「胚性幹細胞」、「ES細胞」、または「ESC」は、発生中の胚の生殖細胞系に組み込まれ、その一部になる能力を有する未分化胚性幹細胞を指す。胚性幹細胞は、造血前駆細胞および任意の組織または器官へと分化することが可能である。本明細書での使用に好適な胚性幹細胞としては、J1 ES細胞株、129J ES細胞株、マウス幹細胞株D3(アメリカ培養細胞系統保存機関)に由来する細胞、129/Svマウスに由来するR1またはE14K細胞株、Balb /cおよびC57B1/6マウスに由来する細胞株、ならびにヒト胚性幹細胞(例えば、WICELL(登録商標)Research Institute、WI;またはES cell International、Melbourne、Australia)が挙げられる。
【0103】
用語「T細胞受容体」(TCR)は、MHC受容体に結合している抗原ペプチドと特異的に結合することが可能な免疫グロブリンスーパーファミリーメンバー(可変結合性ドメイン、定常ドメイン、膜貫通領域、および短い細胞質尾部を有する;例えば、Janeway, et al., Immunobiology: The Immune System in Health and Disease, 3rd Ed., Current Biology Publications, p. 4:33, 1997を参照)を指す。TCRは、細胞の表面上に見出されてもよく、または可溶性形態であってもよく、一般に、α鎖およびβ鎖(それぞれTCRαおよびTCRβとしても知られている)もしくはγ鎖およびδ鎖(それぞれTCRγおよびTCRδとしても知られている)を有するヘテロ二量体で構成されている。免疫グロブリンと同様に、TCR鎖の細胞外部分(例えば、α鎖およびβ鎖)は、2つの免疫グロブリンドメイン:N末端の可変ドメイン(例えば、α鎖可変ドメインすなわちVα、β鎖可変ドメインすなわちVβ;典型的にはカバット付番に基づきアミノ酸1~116(Kabat, et al., ”Sequences of Proteins of Immunological Interest,” US Dept. Health and Human Services, Public Health Service National Institutes of Health, 1991, 5th ed.))および細胞膜に隣接する1つの定常ドメイン(例えば、α鎖定常ドメインすなわちCα、典型的にはカバットに基づきアミノ酸117~259、β鎖定常ドメインすなわちCβ、典型的にはカバットに基づきアミノ酸117~295)を含有する。また、免疫グロブリンと同様に、可変ドメインは、フレームワーク領域(FR)により隔てられている相補性決定領域(CDR)を含有する(例えば、Jores, et al., Proc. Nat’l Acad. Sci. U.S.A. 57:9138, 1990;Chothia, et al., EMBO J. 7:3745, 1988を参照;また、Lefranc, et al., Dev. Comp. Immunol. 27:55, 2003を参照)。ある特定の実施形態では、TCRは、T細胞(またはTリンパ球)の表面に見出され、CD3複合体と会合する。本開示で使用されるTCRの供給源は、ヒト、マウス、ラット、ネコ、イヌ、ヤギ、ウマ、または他の哺乳動物など、種々の動物種に由来してもよい。
【0104】
「CD3」は、6つの鎖の多タンパク質複合体である(Borst J, et al., J Biol Chem, 258(8): 5135-41, 1983および上記のJaneway, et al., p.172 and 178, 1999を参照)。哺乳動物では、複合体は、CD3γ鎖、CD3δ鎖、2つのCD3ε鎖、およびCD3ζ鎖のホモ二量体を含む。CD3γ鎖、CD3δ鎖、およびCD3ε鎖は、単一の免疫グロブリンドメインを含有する免疫グロブリンスーパーファミリーの関連細胞表面タンパク質である。CD3γ鎖、CD3δ鎖、およびCD3ε鎖の膜貫通領域は負に荷電されており、これは、こうした鎖がTCR鎖の正荷電領域と会合することが可能になると考えられている特色である。CD3γ鎖、CD3δ鎖、およびCD3ε鎖の細胞内尾部は各々、免疫受容体チロシンに基づく活性化モチーフまたはITAMとして知られている単一の保存されたモチーフを含有するが、各CD3ζ鎖は3つを有する。いずれか1つの理論により束縛されないが、ITAMは、TCR複合体のシグナル伝達能力にとって重要であると考えられている。本開示で使用されるCD3は、ヒト、マウス、ラット、または他の哺乳動物を含む、種々の動物種に由来してもよい。
【0105】
本明細書で使用される場合、「TCR複合体」は、CD3とTCRとの会合により形成される複合体を指す。例えば、TCR複合体は、CD3γ鎖、CD3δ鎖、2つのCD3ε鎖、CD3ζ鎖のホモ二量体、TCRα鎖、およびTCRβ鎖で構成されていてもよい。あるいは、TCR複合体は、CD3γ鎖、CD3δ鎖、2つのCD3ε鎖、CD3ζ鎖のホモ二量体、TCRγ鎖、およびTCRδ鎖で構成されていてもよい。
【0106】
「TCR複合体の成分」は、本明細書で使用される場合、TCR鎖(つまり、TCRα、TCRβ、TCRγ、またはTCRδ)、CD3鎖(つまり、CD3γ、CD3δ、CD3ε、またはCD3ζ)、または2つもしくはそれよりも多くのTCR鎖もしくはCD3鎖により形成される複合体(例えば、TCRαおよびTCRβの複合体、TCRγおよびTCRδの複合体、CD3εおよびCD3δの複合体、CD3γおよびCD3εの複合体、またはTCRα、TCRβ、CD3γ、CD3δ、および2つのCD3ε鎖の部分TCR複合体)を指す。
【0107】
「主要組織適合複合体」(MHC)は、ペプチド抗原を細胞表面へと送達する糖タンパク質を指す。MHCクラスI分子は、膜を跨ぐα鎖(3つのαドメインを有する)および非共有結合で会合しているβ2ミクログロブリンを有するヘテロ二量体である。MHCクラスII分子は、どちらも膜を跨ぐ2つの膜貫通糖タンパク質αおよびβで構成されている。各鎖は2つのドメインを有する。MHCクラスI分子は、細胞質ゾルを起源とするペプチドを細胞表面に送達し、そこでペプチド:MHC複合体は、CD8+T細胞により認識される。MHCクラスII分子は、小胞系を起源とするペプチドを細胞表面に送達し、そこでペプチドはCD4+T細胞により認識される。ヒトMHCは、ヒト白血球抗原(HLA)と呼ばれる。
メソテリン特異的結合タンパク質
【0108】
ある特定の態様では、本開示は、本明細書に記載のようなメソテリンペプチド抗原(例えば、配列番号31または配列番号32に示されているアミノ酸配列を含む、それからなる、またはそれから本質的になるペプチド)に特異的に結合することが可能である結合タンパク質を提供する。本明細書に記載の結合タンパク質は、TCRアルファ鎖可変ドメイン(Vα)およびTCRベータ鎖可変ドメイン(Vβ)を含む。本開示の実施形態のいずれかでは、メソテリン特異的結合タンパク質は、メソテリンペプチド:HLA複合体、例えばメソテリンペプチド:HLA-A*02:01複合体に特異的に結合することが可能である。
【0109】
ある特定の実施形態では、(a)配列番号37または39に示されているCDR3アミノ酸配列を含むTCR Vα、およびTCR Vβであって、TCR Vβは、必要に応じて、配列番号99または101に示されているアミノ酸配列と少なくとも約85%(すなわち、少なくとも約86%、85%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、またはそれより高い)同一性を有するアミノ酸配列を含んでいてもよい、TCR VαおよびTCR Vβ;(b)配列番号38または40に示されているCDR3アミノ酸配列を含むTCR Vβ、および(b)TCR Vαであって、必要に応じて、配列番号100または102に示されているアミノ酸配列と少なくとも約85%(すなわち、少なくとも約86%、85%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、またはそれより高い)同一性を有するアミノ酸配列を含んでいてもよいTCR Vα;あるいは(c)配列番号37または39に示されているCDR3アミノ酸配列を含み、必要に応じて、配列番号100または102に示されているアミノ酸配列と少なくとも約85%同一性を有するアミノ酸配列を含んでいてもよいTCR Vα、および配列番号38または40に示されているCDR3アミノ酸配列を含み、必要に応じて、配列番号99または101に示されているアミノ酸配列と少なくとも約85%同一性を有するアミノ酸配列を含んでいてもよいTCR Vβを含むMsln-530-538特異的結合タンパク質が提供される。
【0110】
本明細書に記載の実施形態のいずれかでは、この開示のコードされるポリペプチド(例えば、TCR可変ドメインまたはTCR鎖)は、「シグナルペプチド」(リーダー配列、リーダーペプチド、またはトランジットペプチドとしても公知)を含んでいてもよい。シグナルペプチドは、新たに合成されたポリペプチドを細胞の内部または外部の適切な箇所に標的化する。シグナルペプチドは、局在化もしくは分泌中に、または局在化もしくは分泌が完了したら、ポリペプチドから除去されてよい。シグナルペプチドを有するポリペプチドは、本明細書では「プレタンパク質」と呼ばれ、そのシグナルペプチドが除去されたポリペプチドは、本明細書では、「成熟」タンパク質またはポリペプチドと呼ばれる。代表的なシグナルペプチドとしては、配列番号6、14、22、28、または29のいずれか1つの1~19位;配列番号7の1~17位;配列番号15の1~22位;配列番号23の1~21位のアミノ酸配列が挙げられる。例示的な成熟ポリペプチド配列は、配列番号95~119に提供される。
【0111】
本開示の実施形態のいずれかでは、Msln530-538特異的結合タンパク質は、配列番号100または102に示されているアミノ酸配列と少なくとも約85%同一性を有するアミノ酸配列を含むTCR Vα、および/または配列番号99または101に示されているアミノ酸配列と少なくとも約85%同一性を有するアミノ酸配列を含むTCR Vβを含んでいてもよい。ある特定の実施形態では、結合タンパク質は、参照されたTCR可変ドメイン配列のバリアントを含むが、ただし結合タンパク質のCDRの少なくとも3つまたは4つは、参照されたTCR可変ドメイン配列によれば配列に変化がなく、配列変化を有するCDRは、最大でわずか2つのアミノ酸置換、最大で連続する5つのアミノ酸欠失、またはそれらの組合せを有する。
【0112】
ある特定の実施形態では、Msln530-538特異的結合タンパク質は、配列番号39に示されているCDR3αのアミノ酸配列および配列番号40に示されているCDR3βのアミノ酸配列を含む。一部の実施形態では、結合タンパク質は、配列番号93に示されているCDR1αのアミノ酸配列、配列番号94に示されているCDR2αのアミノ酸配列、配列番号83、84、もしくは91のいずれか1つに示されているCDR1βのアミノ酸配列、および/または配列番号92に示されているCDR2βのアミノ酸配列をさらに含む。さらなる実施形態では、Vαは、配列番号102に示されているアミノ酸配列と少なくとも約85%同一性を有するアミノ酸配列を含み、および/またはVβは、配列番号101に示されているアミノ酸配列と少なくとも約85%同一性を有するアミノ酸配列を含み、必要に応じてCDR1α、CDR2α、CDR1β、および/またはCDR2βにおける変更はない。
【0113】
ある特定の実施形態では、Msln530-538特異的結合タンパク質は、TRBJ2-3*01によりコードされるアミノ酸配列と(例えば、長さが少なくとも約4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、または15個の連続するアミノ酸であるTRBJ2-3*01によりコードされるアミノ酸配列と)少なくとも約85%同一性を有するアミノ酸配列、および/またはTRAV21*01またはTRAV21*02によりコードされるアミノ酸配列と(例えば、長さが少なくとも約10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、105、または107個のアミノ酸であるTRAV21*01またはTRAV21*02によりコードされる配列と)少なくとも約85%同一性を有するアミノ酸配列、および/またはTRBV5-4*01によりコードされるアミノ酸配列と(例えば、長さが少なくとも約10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、105、または108個のアミノ酸であるTRBV5-4*01によりコードされる配列と)少なくとも約85%同一性を有するアミノ酸配列、および/またはTRAJ57*01によりコードされるアミノ酸配列と(例えば、長さが少なくとも約5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、または20個のアミノ酸であるTRAJ57*01によりコードされる配列と)少なくとも約85%同一性を有するアミノ酸配列を含むTCR Vβを含む。
【0114】
ある特定の実施形態では、Msln530-538特異的結合タンパク質は、配列番号102に示されているアミノ酸配列を含むかまたはそれからなるTCR Vαおよび配列番号101に示されているアミノ酸配列を含むかまたはそれからなるTCR Vβを含む。
【0115】
他の実施形態では、Msln530-538特異的結合タンパク質は、配列番号37に示されているCDR3αのアミノ酸配列および配列番号38に示されているCDR3βのアミノ酸配列を含む。一部の実施形態では、結合タンパク質は、配列番号89に示されているCDR1αのアミノ酸配列、配列番号90に示されているCDR2αのアミノ酸配列、配列番号83または87のいずれか1つに示されているCDR1βのアミノ酸配列、および配列番号88に示されているCDR2βのアミノ酸配列をさらに含む。ある特定の実施形態では、Vαは、配列番号100に示されているアミノ酸配列と少なくとも約85%同一性を有するアミノ酸配列を含み、および/またはVβは、配列番号99に示されているアミノ酸配列と少なくとも約85%同一性を有するアミノ酸配列を含み、必要に応じてCDR1α、CDR2α、CDR1β、および/またはCDR2βにおける変更はない。
【0116】
ある特定の実施形態では、Msln530-538特異的結合タンパク質は、TRAV4-1*01によりコードされるアミノ酸配列と(例えば、長さが少なくとも約10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、105、または108個のアミノ酸であるTRAV4-1*01によりコードされる配列と)少なくとも約85%同一性を有するアミノ酸配列、および/またはTRAJ18*01によりコードされるアミノ酸配列と(例えば、長さが少なくとも約5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、または21個のアミノ酸であるTRAJ18*01によりコードされる配列と)少なくとも約85%同一性を有するアミノ酸配列、および/またはTRBJ1-1*01によりコードされるアミノ酸配列と(例えば、長さが少なくとも約5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、または15個のアミノ酸であるTRBJ1-1*01によりコードされる配列と)少なくとも約85%同一性を有するアミノ酸配列、および/またはTRBJ2-3*01によりコードされるアミノ酸配列と(例えば、長さが少なくとも約5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、または16個のアミノ酸であるTRBJ2-3*01によりコードされる配列と)少なくとも約85%同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0117】
ある特定の実施形態では、Msln530-538特異的結合タンパク質は、配列番号100に示されているアミノ酸配列を含むかまたはそれからなるTCR Vαおよび配列番号99に示されているアミノ酸配列を含むかまたはそれからなるTCR Vβを含む。
【0118】
ある特定の実施形態では、配列番号32の残基3、5、6、または9のいずれか1つまたは複数のアラニン変異誘発は、Msln530-538特異的結合タンパク質による結合を阻止しないか、または実質的に損なわない。ある特定の実施形態では、Msln530-538特異的結合タンパク質は、例えば本明細書で開示のようなペプチド:HLA複合体の形態で、配列番号61に示されているコンセンサスアミノ酸配列を含むかまたはそれからなるペプチドに結合することが可能である。
【0119】
ある特定の実施形態では、配列番号32の残基1、5、または9のいずれか1つまたは複数のアラニン変異誘発は、Msln530-538特異的結合タンパク質による結合を阻止しないか、または実質的に損なわない。ある特定の実施形態では、Msln530-538特異的結合タンパク質は、例えば本明細書で開示のようなペプチド:HLA複合体の形態で、配列番号62に示されているコンセンサスアミノ酸配列を含むかまたはそれからなるペプチドに結合することが可能である。
【0120】
本明細書で開示のようなMsln特異的結合タンパク質を、有利には、非Msln標的、例えば健康な組織で発現する非Msln標的に対するアロ反応性の低いリスクからリスクがないことを示す。簡単に言えば、本開示は、Msln特異的結合タンパク質は、本明細書で提供されるMslnペプチド抗原との配列相同性を有するヒトタンパク質と反応しないか、または実質的に反応しないことを示す。したがって、結合タンパク質は、Mslnペプチド抗原に高度に特異的である。
【0121】
例えば、ある特定の実施形態では、本開示のMsln530-538特異的結合タンパク質は、ペプチド:HLA複合体と結合しないか、またはMsln530-538への結合と比べてそれに特異的に結合せず、このペプチドは、配列番号63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、および77のいずれか1つまたは複数に示されているアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、HLAは、必要に応じて、HLA-A2、例えばHLA-A:02*01を含んでいてもよい。
【0122】
ある特定の実施形態では、(a)配列番号33または35に示されているCDR3アミノ酸配列を含むTCR Vα、およびTCR Vβであって、TCR Vβは、必要に応じて、配列番号95または97に示されているアミノ酸配列と少なくとも約85%(すなわち、少なくとも約85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、またはそれより高い)同一性を有する、TCR VαおよびTCR Vβ;(b)配列番号34または36に示されているCDR3アミノ酸配列を含むTCR Vβ、および(b)TCR Vαであって、必要に応じて、配列番号96または98に示されているアミノ酸配列と少なくとも約85%同一性を有する、TCR Vα;あるいは(c)配列番号33または35に示されているCDR3アミノ酸配列を含むTCR Vαおよび配列番号34または36に示されているCDR3アミノ酸配列を含むTCR Vβであって、TCR Vαは、必要に応じて、配列番号95または97に示されているアミノ酸配列と少なくとも約85%同一性を有するアミノ酸配列を含んでいてもよく、TCR Vβは、必要に応じて、配列番号96または98に示されているアミノ酸配列と少なくとも約85%同一性を有するアミノ酸配列を含んでいてもよい、TCR VαおよびTCR Vβを含むMsln20-28特異的結合タンパク質が提供される。
【0123】
本開示の実施形態のいずれかでは、Msln20-28特異的結合タンパク質は、配列番号96もしくは98に示されているアミノ酸配列と少なくとも約85%同一性を有するアミノ酸配列を含むTCR Vα、および/または配列番号95もしくは97に示されているアミノ酸配列と少なくとも約85%同一性を有するアミノ酸配列を含むTCR Vβを含んでいてもよい。ある特定の実施形態では、結合タンパク質は、参照されたTCR可変ドメイン配列のバリアントを含むが、ただし結合タンパク質のCDRの少なくとも3つまたは4つは、参照されたTCR可変ドメイン配列によると配列に変化がなく、配列変化を有するCDRは、最大でわずか2つのアミノ酸置換、最大で連続する5つのアミノ酸欠失、またはそれらの組合せを有する。
【0124】
ある特定の実施形態では、Msln20-28特異的結合タンパク質(Msln20-28-specific binding protein specific binding protein)は、配列番号33に示されているCDR3αのアミノ酸配列および配列番号34に示されているCDR3βのアミノ酸配列を含む。一部の実施形態では、結合タンパク質は、配列番号80に示されているCDR1αのアミノ酸配列、配列番号81または118に示されているCDR2αのアミノ酸配列、配列番号78、83、または84のいずれか1つに示されているCDR1βのアミノ酸配列、および配列番号79に示されているCDR2βのアミノ酸配列をさらに含む。ある特定の実施形態では、Vαは、配列番号96に示されているアミノ酸配列と少なくとも約85%同一性を有するアミノ酸配列を含み、および/またはVβは、配列番号95に示されているアミノ酸配列と少なくとも約85%同一性を有するアミノ酸配列を含み、必要に応じてCDR1α、CDR2α、CDR1β、および/またはCDR2βにおける変更はない。
【0125】
ある特定の実施形態では、Msln20-28特異的結合タンパク質は、(i)(a)TRBV12-4*01によりコードされるアミノ酸配列と(例えば、長さが少なくとも約10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、105、または108個の連続するアミノ酸であるTRBV12-4*01によりコードされるアミノ酸配列と)少なくとも約85%(すなわち、少なくとも約85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、またはそれより高い)同一性を有するアミノ酸配列;および/または(b)TRBJ2-7*01によりコードされるアミノ酸配列と(例えば、長さが少なくとも約5、6、7、8、9、10、11、12、13、または14個のアミノ酸であるTRBJ2-7*01によりコードされるアミノ酸配列と)少なくとも約85%同一性を有するアミノ酸配列を含むTCR Vβ;ならびに/あるいは(ii)(a)TRAV1-1*01によりコードされるアミノ酸配列と(例えば、長さが少なくとも約10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、105、または107個の連続するアミノ酸であるTRAV1-1*01によりコードされるアミノ酸配列と)少なくとも約85%同一性を有するアミノ酸配列、および/または(b)TRAJ3*01によりコードされるアミノ酸配列と(例えば、長さが少なくとも約5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、または20個のアミノ酸であるTRAJ3*01によりコードされるアミノ酸配列と)少なくとも約85%同一性を有するアミノ酸配列、および/または(c)TRBJ2-3*01によりコードされるアミノ酸配列と(例えば、長さが少なくとも約5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、または16個のアミノ酸であるTRBJ2-3*01によりコードされる配列と)少なくとも約85%同一性を有するアミノ酸配列(r an amino acid sequence)を含むTCR Vαを含む。
【0126】
ある特定の実施形態では、Msln20-28特異的結合タンパク質は、配列番号96に示されているアミノ酸配列を含むかまたはそれからなるTCR Vα、および配列番号95に示されているアミノ酸配列を含むかまたはそれからなるTCR Vβを含む。
【0127】
ある特定の実施形態では、Msln20-28特異的結合タンパク質は、配列番号35に示されているCDR3αのアミノ酸配列および配列番号36に示されているCDR3βのアミノ酸配列。一部の実施形態では、結合タンパク質は、配列番号85に示されているCDR1αのアミノ酸配列、配列番号86または119に示されているCDR2αのアミノ酸配列、配列番号82、83、または84のいずれか1つに示されているCDR1βのアミノ酸配列、および配列番号79に示されているCDR2βのアミノ酸配列をさらに含む。ある特定の実施形態では、Vαは、配列番号98に示されているアミノ酸配列と少なくとも約85%同一性を有するアミノ酸配列を含み、および/またはVβは、配列番号97に示されているアミノ酸配列と少なくとも約85%同一性を有するアミノ酸配列を含み、必要に応じてCDR1α、CDR2α、CDR1β、および/またはCDR2βにおける変更はない。
【0128】
ある特定の実施形態では、Msln20-28特異的結合タンパク質は、(a)TRAV12-3*01によりコードされるアミノ酸配列と(例えば、長さが少なくとも約10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、105、または108個の連続するアミノ酸であるTRAV12-3*01によりコードされるアミノ酸配列と)少なくとも約85%同一性を有するアミノ酸配列、および/または(b)TRAJ29*01によりコードされるアミノ酸配列と(例えば、長さが少なくとも約5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、または19個のアミノ酸であるTRAJ29*01によりコードされるアミノ酸配列と)少なくとも約85%同一性を有するアミノ酸配列、および/または(c)および/またはTRBJ2-3*01によりコードされるアミノ酸配列と(例えば、長さが少なくとも約5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、または16個のアミノ酸であるTRBJ2-3*01によりコードされる配列と)少なくとも約85%同一性を有するアミノ酸配列を含むTCR Vαを含む。
【0129】
ある特定の実施形態では、Msln20-28特異的結合タンパク質は、配列番号98に示されているアミノ酸配列を含むかまたはそれからなるTCR Vαおよび配列番号97に示されているアミノ酸配列を含むかまたはそれからなるTCR Vβを含む。
【0130】
ある特定の実施形態では、配列番号31の残基1、2、7、8、または9のいずれか1つまたは複数のアラニン変異誘発は、Msln20-28特異的結合タンパク質による結合を阻止しないか、または実質的に損なわない。ある特定の実施形態では、Msln20-28特異的結合タンパク質は、例えば本明細書で開示のようなペプチド:HLA複合体の形態で、配列番号60に示されているコンセンサスアミノ酸配列を含むかまたはそれからなるペプチドに結合することが可能である。
【0131】
本開示の実施形態のいずれかでは、Msln特異的結合タンパク質は、Mslnペプチド:HLA複合体に結合することが可能であり、Mslnペプチドは、配列番号31または32に示されているアミノ酸配列を含み、HLAは、HLA-A2、例えばHLA-A*02:01であるかまたはそれを含む。
【0132】
本開示の実施形態のいずれかでは、この開示のMsln特異的結合タンパク質を発現する免疫細胞(例えば、T細胞)は、本明細書で提供されるMslnペプチドの非存在下の場合、(i)HLA-C6:02:01;(ii)HLA-B13:02:01ではなくHLA-B13:01:01;(iii)HLA-A3;(iv)HLA-A29;(v)HLA-B40;(vi)HLA-B44;(vii)HLA-C3;(viii)HLA-C16;(ix)HLA-A1;(x)HLA-24;(xi)HLA-B7;(xii)HLA-B57;(xiii)HLA-C7;(xiv)HLA-A11;(xv)HLA-B15;(xvi)HLA-C4;(xvii)HLA-C12;(xviii)HLA-B8;(xix)HLA-B49;(xx)HLA-B51;(xxi)HLA-C15;(xxii)HLA-A30;(xxiii)HLA-A68;(xxiv)HLA-C2;(xxv)HLA-A32;(xxvi)HLA-A33;(xxvii)HLA-B55;(xxviii)HLA-C1;(xxvix)HLA-C5;(xxix)HLA-B8;(xxx)HLA-B35または(xxxi)(i)~(xxx)の任意の組合せを発現する細胞と接触させた場合、IFN-γを産生しないか、ならびに/または活性化(例えば、CD8発現、CD3発現、Nur77発現)および/もしくは細胞傷害活性(例えば、特異的な殺滅、パーフォリンおよび/またはグランザイムの産生および放出)を示さない。
【0133】
本開示の実施形態のいずれかでは、Msln特異的結合タンパク質は、宿主細胞の表面上で発現される場合、CD8の非存在下で、またはCD8とは独立して、本明細書で開示のようなMslnペプチド:HLA複合体に結合することが可能である。
【0134】
ある特定の実施形態では、本開示による結合タンパク質は、約9μM、約8μM、約7μM、約6μM、約5μM、約4μM、約3μM、約2μM、約1μM、約0.9μM、約0.8μM、約0.7μM、約0.6μM、約0.5μM、約0.4μM、約0.3μM、約0.2μM、またはそれ未満のMslnペプチドのEC50を有する。
【0135】
本開示の実施形態のいずれかでは、Msln特異的結合タンパク質は、CD3タンパク質とより効率的に会合することが可能である、および/またはMsln特異的結合タンパク質が宿主T細胞またはNK-T細胞中で発現される場合、内因性TCRと比べて細胞表面での発現の増加を示す。
【0136】
ある特定の実施形態では、結合タンパク質は、TCR、単鎖TCR(scTCR)、またはCARである。
【0137】
一部の実施形態では、結合タンパク質は、TCRである。ある特定の実施形態では、結合タンパク質は、TCR Vβ、TCR Cβ、TCR Vα、およびTCR Cαを含み、VβおよびCβは、一緒にTCRβ鎖(TCRβ)を含み、VαおよびCαは、一緒に、TCRα鎖(TCRα)を含み、TCRβおよびTCRαは、会合して二量体を形成することが可能である。さらなる実施形態では、TCR Cβは、アミノ酸57位において天然セリンの代わりにシステインアミノ酸を含み(例えば、GV(S→C)TD)、TCR Cαは、アミノ酸48位において天然トレオニンの代わりにシステインアミノ酸を含む(例えば、DK(T→C)VL;例えば、Cohen et al., Cancer Res. 67(8): 3898-3903 (2007)を参照)。
【0138】
さらなる実施形態では、Msln特異的結合タンパク質は、TCRβおよびTCRαを含むTCRであり、TCRβおよびTCRαはそれぞれ、配列番号(i)103もしくは6(TCRβ)および104もしくは7(TCRα);(ii)105もしくは14(TCRβ)および106もしくは15(TCRα);(iii)107もしくは22(TCRβ)および108もしくは23(TCRα);または(iv)109もしくは28(TCRβ)および110もしくは29(TCRα)に示されているアミノ酸配列と、少なくとも約85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%同一性、またはそれより高い同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0139】
ある特定の実施形態では、結合タンパク質は、可溶性TCRであり、これは、必要に応じて細胞傷害性および/または検出可能なエレメントまたは作用物質を含むかまたはそれとカップリングされる。(例えば、Walseng et al., PLoS One doi:10.1371/journal.pone.0119559 (2015)を参照)。組換え的に産生された可溶性TCRを単離および精製するために有用な方法は、例として、組換え可溶性TCRを培養培地へと分泌する好適な宿主細胞/ベクター系から上清を得ること、および次いで市販のフィルターを使用して培地を濃縮することを含んでいてもよい。濃縮した後、濃縮物を、単一の好適な精製マトリックスに、または親和性マトリックスもしくはイオン交換レジンなどの一連の好適なマトリックスにアプライしてもよい。1つまたは複数の逆相HPLCステップを使用して、組換えポリペプチドをさらに精製してもよい。こうした精製方法は、免疫原をその天然環境から単離する際にも使用することができる。本明細書に記載の単離/組換え可溶性TCRの1つまたは複数を大規模産生するための方法は、適切な培養条件を維持するためにモニターおよび制御されるバッチ細胞培養を含む。可溶性TCRの精製は、本明細書に記載されており、当技術分野で公知であり、国内外の規制当局の法律およびガイドラインに準じる方法に従って実施することができる。
【0140】
一部の実施形態では、2つまたはそれより多くの別個のポリペプチドドメインまたは配列は、リンカー(例えば、scTCRまたはCARの状況では、TCRVαおよびTCRVβ)によって接続される。「リンカー」は、2つのタンパク質、ポリペプチド、ペプチド、ドメイン、領域、またはモチーフを接続し、得られたポリペプチドが標的分子への特異的結合親和性(例えば、scTCR)を保持するか、またはシグナル伝達活性(例えば、TCR複合体)を保持するように、2つのサブ結合ドメインの相互作用に適合可能なスペーサー機能を提供することができるアミノ酸配列を指す。ある特定の実施形態では、リンカーは、約2~約35個のアミノ酸、約4~約20個のアミノ酸、約8~約15個のアミノ酸、約15~約25個のアミノ酸、または別の好適な数のアミノ酸で構成される。一般的に、リンカーは、好ましくは化学的に不活性であり、フレキシブルであり、非免疫原性であるか、または最小限の免疫原性を有する。リンカー配列は、例えば、連結されたドメインによる、またはそれらの間の所望のタンパク質相互作用を容易にするために、所望の長さが達成されるように繰り返されていてもよい。例示的なリンカー(グリシン-セリンリンカーを含む)およびリンカーの特性は、例えば、Chen et al., Adv. Drug Deliv Rev, 65(10):1357-1369 (2013)で、さらに、van Rosmalen et al., Biochemistry 56(60):6565-6574 (2017)で論じられており、これらのリンカーのアミノ酸配列および設計特性は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0141】
特定の実施形態では、Msln特異的結合タンパク質は、scTCR(例えば、単鎖αβTCRタンパク質、例えばVα-L-Vβ、Vβ-L-Vα、Vα-Cα-L-Vα、またはVα-L-Vβ-Cβであり、式中、VαおよびVβは、それぞれTCRαおよびβ可変ドメインであり、CαおよびCβは、それぞれTCRαおよびβ定常ドメインであり、Lは、リンカーである)であるかまたはそれを含む。
【0142】
ある特定の実施形態では、Msln特異的結合タンパク質は、CARであるかまたはそれを含む。「キメラ抗原受容体」(CAR)は、天然に存在しない、または宿主細胞中に天然に存在しない方法で一緒に連結された2つまたはそれより多くの天然に存在する(または操作された)アミノ酸配列を含有するように操作された本開示の融合タンパク質を指し、このような融合タンパク質は、細胞の表面上に存在する場合、受容体として機能することができる。本開示のCARは、膜貫通ドメインおよび1つまたは複数の細胞内シグナル伝達ドメイン(必要に応じて共刺激ドメイン(複数可)を含有していてもよい)に連結した抗原結合ドメイン(例えば、免疫グロブリンまたは免疫グロブリン様分子、例えば、がん抗原に特異的な抗体またはTCR由来のscFvもしくはscTCRから得られるかまたはそれに由来するもの、またはNK細胞からのキラー免疫受容体に由来するかそれから得られる、または抗原に特異的に結合する能力を有するかまたは有するように操作されている、別のタンパク質(天然、組換え、または合成)に由来するかまたはそれから得られる抗原結合ドメイン)を含む細胞外部分を含む(例えば、Sadelain et al., Cancer Discov., 3(4):388 (2013)を参照;またHarris and Kranz, Trends Pharmacol. Sci., 37(3):220 (2016);Stone et al., Cancer Immunol. Immunother., 63(11):1163 (2014)も参照)。ある特定の実施形態では、結合タンパク質は、抗原特異的TCR結合性ドメインを含むCARを含む(例えば、Walseng et al., Scientific Reports 7: 10713, 2017を参照;この文献のTCR CAR構築物および方法は、参照により全体が本明細書に組み込まれる)。
ポリヌクレオチド、ベクター、および宿主細胞
【0143】
この開示のMsln特異的結合タンパク質、またはその部分(例えば、TCR可変ドメイン)をコードするポリヌクレオチドも本明細書で提供される。当業者であれば、遺伝子コードの縮重のため、本明細書に記載のような結合タンパク質またはその部分をコードする多数のヌクレオチド配列が存在することを理解されたい。一部のそのようなポリヌクレオチドは、天然の、元の、または同定されたポリヌクレオチド配列のヌクレオチド配列と、限定的なまたは最小限の配列同一性しか有しない場合がある。にもかかわらず、コドン使用頻度の違いにより異なるポリヌクレオチドは、本開示により明示的に企図される。
【0144】
ある特定の実施形態では、宿主細胞、例えば哺乳類細胞における発現のためにコドン最適化された配列が具体的に企図される。コドン最適化は、公知の技術およびツールを使用して、例えば、GenScript(登録商標)OptimumGene(商標)ツールを使用して実行することができる。コドン最適化配列としては、少なくとも部分的にコドン最適化されている(すなわち、1つまたは複数のコドンが、宿主細胞における発現のために最適化されている)配列、および完全にコドン最適化されている配列が挙げられる。ある特定の免疫宿主細胞における発現のためのコドン最適化は、例えば、Scholten et al., Clin. Immunol. 119:135, 2006に記載されている。
【0145】
本開示のTCR鎖をコードする例示的なポリヌクレオチド配列は、配列番号1~4、9~12、17~20、25、および26で提供される。したがって、ある特定の実施形態では、Msln特異的結合タンパク質をコードするポリヌクレオチドは、配列番号1~4、9~12、17~20、25、および26のいずれか1つに示されているポリヌクレオチド配列と少なくとも約50%(すなわち、少なくとも約50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、86%、87%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、またはそれより高い)同一性を有するポリヌクレオチドを含む。
【0146】
ある特定の実施形態では、配列番号(i)それぞれ1および3;(ii)それぞれ2および4;(iii)それぞれ9および11;(iv)それぞれ10および12;(v)それぞれ17および19;(vi)それぞれ18および20;または(vii)それぞれ25および26に示されているポリヌクレオチド配列と少なくとも約50%同一性を有する、TCRα鎖をコードするポリヌクレオチドおよびTCRβ鎖をコードするポリヌクレオチドが提供される。
【0147】
ある特定の実施形態では、本開示の結合タンパク質またはTCRの2つまたはそれよりも多くの成分または部分をコードするポリヌクレオチドは、単一のオープンリーディングフレームに動作可能なように関連付けられている2つまたはそれよりも多くのコード配列を含む。そのような配置は、有利には、例えば、それらが約1:1比で産生されるようにTCRのアルファ鎖およびベータ鎖を同時発現させるなど、所望の遺伝子産物の協調的発現を可能にすることができる。ある特定の実施形態では、TCR(例えば、アルファ鎖およびベータ鎖)など、本開示の結合タンパク質の2つまたはそれよりも多くの置換遺伝子産物(substituent gene product)は、別々の分子として発現され、翻訳後に会合する。さらなる実施形態では、本開示の結合タンパク質の2つまたはそれよりも多くの置換遺伝子産物は、切断可能なまたは除去可能なセグメントにより隔てられている部分を有する単一のペプチドとして発現される。
【0148】
例えば、自己切断性ペプチド(「リボソームスキップエレメント」とも呼ばれる)は、単一のポリヌクレオチドまたはベクターによりコードされる分離可能なポリペプチドの発現に有用であり、これらは、当技術分野において公知であり、その例としては、例えば、配列番号41~46のいずれか1つに示されるヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドによりコードされるP2Aペプチド、トセアアシグナ(Thoseaasigna)ウイルス2A(T2A)ペプチド、例えば配列番号47に示されるヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドによりコードされるペプチド、ウマ鼻炎Aウイルス(ERAV)2A(E2A)ペプチド、例えば配列番号48に示されるヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドによりコードされるペプチド、および口蹄疫ウイルス2A(F2A)ペプチド、例えば配列番号49に示されるヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドによりコードされるペプチドが挙げられる。自己切断性ペプチドの例示的なアミノ酸配列は、配列番号113~117に提供される。
【0149】
本開示のMsln特異的TCRをコードする例示的なポリヌクレオチドであって、TCRβ鎖をコードするポリヌクレオチドとTCRα鎖をコードするポリヌクレオチドとの間に自己切断性ペプチドをコードするポリヌクレオチドが配置されているものとしては、配列番号8、16、24、および30のいずれか1つに示されているアミノ酸配列をコードするものが挙げられる。例示的なこのようなポリヌクレオチドは、配列番号5、13、21、27、および120のいずれか1つに示されているポリヌクレオチド配列を有し;ある特定の実施形態では、配列番号5、13、21、27、および120のいずれか1つに示されているポリヌクレオチド配列と少なくとも約50%同一性を有するポリヌクレオチドが提供される。
【0150】
さらなる実施形態では、結合タンパク質は、コードする導入遺伝子構築物の一部として発現されるか、および/または結合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有する宿主免疫細胞はさらに、1つまたは複数の追加のアクセサリータンパク質、例えばセーフティスイッチタンパク質;タグ、選択マーカー;CD8共受容体β鎖;CD8共受容体α鎖もしくは両方;またはそれらの任意の組合せをさらにコードしていてもよい。結合タンパク質をコードおよび発現するのに有用なポリヌクレオチドおよび導入遺伝子構築物およびアクセサリー成分(例えば、セーフティスイッチタンパク質、選択マーカー、CD8共受容体β鎖、またはCD8共受容体α鎖の1つまたは複数)は、公開されたPCT出願国際公開第2018/058002号パンフレットに記載されており、前記ポリヌクレオチド、導入遺伝子構築物、およびアクセサリー成分は、そのヌクレオチド配列およびそのアミノ酸配列を含め、本明細書によって参照により組み込まれる。本開示の結合タンパク質、セーフティスイッチタンパク質、タグ、選択マーカー、CD8共受容体β鎖、またはCD8共受容体α鎖のいずれかまたはすべては、単一の核酸分子にコードされていてもよく、または別々の核酸分子であるかまたは別々の核酸分子に存在するポリヌクレオチド配列によりコードされていてもよいことが理解される。
【0151】
例示的なセーフティスイッチタンパク質としては、以下のものが挙げられる:例えば、細胞外N末端リガンド結合性ドメインおよび細胞内受容体チロシンキナーゼ活性を欠くが、その天然アミノ酸配列を保持し、I型膜貫通細胞表面局在化を有し、医薬品等級の抗EGFRモノクローナル抗体、セツキシマブ(Erbitux)tEGF受容体(tEGFr;Wang et al., Blood 118: 1255-1263, 2011)に対する立体構造的にインタクトな結合性エピトープを有する短縮型EGF受容体ポリペプチド(huEGFRt);カスパーゼポリペプチド(例えば、iCasp9;Straathof et al., Blood 105: 4247-4254, 2005;Di Stasi et al., N. Engl. J. Med. 365: 1673-1683, 2011;Zhou and Brenner, Exp. Hematol. pii: S0301-472X (16) 30513-6. doi:10.1016/j.exphem.2016.07.011)、RQR8(Philip et al., Blood 124: 1277-1287, 2014);ヒトc-mycタンパク質(Myc)に由来する10個アミノ酸のタグ(Kieback et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 105: 623-628, 2008);ならびにRQR(CD20+CD34;Philip et al., 2014)などのマーカー/セーフティスイッチポリペプチド。
【0152】
本開示の組換え宿主細胞に有用な他のアクセサリー成分は、細胞の同定、選別、単離、富化、または追跡を可能にするタグまたは選択マーカーを含む。例えば、所望の特色を有する標識化細胞(例えば、抗原特異的TCRおよびセーフティスイッチタンパク質)を試料中の非標識化細胞から選別して、所望の純度の産物に包含させるためにより効率的に活性化および拡大することができる。
【0153】
本明細書で使用される場合、用語「選択マーカー」は、選択マーカーを含むポリヌクレオチドを形質導入した免疫細胞の検出および正の選択を可能にする同定可能な変化を細胞に付与する核酸構築物(およびコードされる遺伝子産物)を含む。RQRは、CD20の主要な細胞外ループおよび2つの最小CD34結合部位を含む選択マーカーである。一部の実施形態では、RQRをコードするポリヌクレオチドは、16個アミノ酸のCD34最小エピトープをコードするポリヌクレオチドを含む。一部の実施形態では、CD34最小エピトープは、CD8共受容体ストークドメイン(Q8)のアミノ末端位置に組み込まれる。さらなる実施形態では、CD34最小結合部位配列は、CD20に対する標的エピトープと一緒になって、T細胞(RQR8)に対するコンパクトなマーカー/自殺遺伝子を形成することができる(Philip et al., 2014、この文献は参照により本明細書に組み込まれる)。この構築物は、臨床的に承認されている医薬品抗体リツキシマブを使用し、導入遺伝子を発現するように遺伝子操作されたT細胞の選択的欠失を可能にする、例えば磁気ビーズ(Miltenyi)に結合されているCD34特異的抗体を用いた、この構築物を発現する免疫細胞の選択を可能にする(Philip et al., 2014)。
【0154】
また、さらなる例示的な選択マーカーとしては、以下のものが挙げられる:通常はT細胞上では発現されない幾つかの短縮型I型膜貫通タンパク質:短縮型低親和性神経成長因子、短縮型CD19、および短縮型CD34(例えば、Di Stasi et al., N. Engl. J. Med. 365: 1673-1683, 2011;Mavilio et al., Blood 83: 1988-1997, 1994;Fehse et al., Mol. Ther. 1: 448-456, 2000を参照;これらの文献の各々は全体が本明細書に組み込まれる)。CD19およびCD34の有用な特徴は、臨床等級選別のためのこうしたマーカーを標的とすることができる既製のMiltenyi CliniMACs(商標)選択系が利用できることである。しかしながら、CD19およびCD34は、ベクターのパッケージング能力および組込みベクターの転写効率に負担をかけ得る比較的大きな表面タンパク質である。細胞外非シグナル伝達ドメインまたは種々のタンパク質(例えば、CD19、CD34、LNGFR)を含有する表面マーカーも使用することができる。任意の選択マーカーを使用することができ、それは医薬品等の製造管理及び品質管理に関する基準(Good Manufacturing Practice)に適合しなければならない。ある特定の実施形態では、選択マーカーは、目的の遺伝子産物(例えば、TCRまたはCARなど、本開示の結合タンパク質)をコードするポリヌクレオチドと共に発現される。選択マーカーのさらなる例としては、例えば、GFP、EGFP、β-gal、またはクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)などのレポーターが挙げられる。ある特定の実施形態では、例えばCD34などの選択マーカーを細胞で発現させ、CD34を使用して、本明細書に記載の方法で使用するための目的の形質導入細胞を選択的に富化または単離することができる(例えば、免疫磁気選択により)。本明細書で使用される場合、CD34マーカーは、抗CD34抗体、または例えば、CD34に結合するscFv、TCR、または他の抗原認識部分とは区別される。
【0155】
ある特定の実施形態では、選択マーカーは、RQRポリペプチド、短縮型低親和性神経成長因子(tNGFR)、短縮型CD19(tCD19)、短縮型CD34(tCD34)、またはそれらの任意の組合せを含む。
【0156】
本開示の様々な実施形態を実施することにおいて、組換えDNA、ペプチド、およびオリゴヌクレオチド合成;イムノアッセイ;組織培養;および形質転換(例えば、エレクトロポレーションおよびリポフェクション)のための標準的な技術を使用することができる。酵素反応および精製技法は、製造業者の仕様に従って、または当技術分野で一般的に達成されるように、または本明細書に記載のように実施することができる。こうしたおよび関連する技法および手順は、一般に、当技術分野で周知の従来方法に従って、微生物学、分子生物学、生化学、分子遺伝学、細胞生物学、ウイルス学、および免疫学技法における種々の一般的でより具体的な文献に記載のように実施することができる。これらの文献は、本明細書全体にわたって引用および考察されている(例えば、Sambrook, et al, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 3d ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y.;Current Protocols in Molecular Biology (John Wiley and Sons, updated July 2008);Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology, Greene Pub. Associates and Wiley-Interscience;Glover, DNA Cloning: A Practical Approach, vol. I & II (IRL Press, Oxford Univ. Press USA, 1985);Current Protocols in Immunology (Edited by: John E. Coligan, Ada M. Kruisbeek, David H. Margulies, Ethan M. Shevach, Warren Strober 2001 John Wiley & Sons, NY, NY);Real-Time PCR: Current Technology and Applications, Edited by Julie Logan, Kirstin Edwards and Nick Saunders, 2009, Caister Academic Press, Norfolk, UK;Anand, Techniques for the Analysis of Complex Genomes, (Academic Press, New York, 1992);Guthrie and Fink, Guide to Yeast Genetics and Molecular Biology (Academic Press, New York, 1991);Oligonucleotide Synthesis (N. Gait, Ed., 1984);Nucleic Acid Hybridization (B. Hames & S. Higgins, Eds., 1985);Transcription and Translation (B. Hames & S. Higgins, Eds., 1984);Animal Cell Culture (R. Freshney, Ed., 1986);Perbal, A Practical Guide to Molecular Cloning (1984);Next-Generation Genome Sequencing (Janitz, 2008 Wiley-VCH);PCR Protocols (Methods in Molecular Biology) (Park, Ed., 3rd Edition, 2010 Humana Press);Immobilized Cells And Enzymes (IRL Press, 1986);the treatise, Methods In Enzymology (Academic Press, Inc., N.Y.);Gene Transfer Vectors For Mammalian Cells (J. H. Miller and M. P. Calos eds., 1987, Cold Spring Harbor Laboratory);Harlow and Lane, Antibodies, (Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y., 1998);Immunochemical Methods In Cell And Molecular Biology (Mayer and Walker, eds., Academic Press, London, 1987);Handbook Of Experimental Immunology, Volumes I-IV (D. M. Weir and CC Blackwell, eds., 1986);Roitt, Essential Immunology, 6th Edition, (Blackwell Scientific Publications, Oxford, 1988);Embryonic Stem Cells: Methods and Protocols (Methods in Molecular Biology) (Kurstad Turksen, Ed., 2002);Embryonic Stem Cell Protocols: Volume I: Isolation and Characterization (Methods in Molecular Biology) (Kurstad Turksen, Ed., 2006);Embryonic Stem Cell Protocols: Volume II: Differentiation Models (Methods in Molecular Biology) (Kurstad Turksen, Ed., 2006);Human Embryonic Stem Cell Protocols (Methods in Molecular Biology) (Kursad Turksen Ed., 2006);Mesenchymal Stem Cells: Methods and Protocols (Methods in Molecular Biology) (Darwin J. Prockop, Donald G. Phinney, and Bruce A. Bunnell Eds., 2008);Hematopoietic Stem Cell Protocols (Methods in Molecular Medicine) (Christopher A. Klug, and Craig T. Jordan Eds., 2001);およびHematopoietic Stem Cell Protocols (Methods in Molecular Biology) (Kevin D. Bunting Ed., 2008) Neural Stem Cells: Methods and Protocols (Methods in Molecular Biology) (Leslie P. Weiner Ed., 2008)を参照)。
【0157】
本開示によるポリヌクレオチドを含むベクターも提供される。本明細書で開示のような例示的な発現ベクターを含む、任意の好適な発現ベクターを使用することができる。さらに、発現ベクターは、ポリヌクレオチドを宿主細胞に送達するように構成されていてもよく、または送達することが可能であってもよい。
【0158】
典型的なベクターは、それに連結されているか、または宿主生物にて複製が可能である別の核酸を輸送することが可能な核酸分子を含んでいてもよい。本明細書で考察されているように、ベクターの一部の例としては、プラスミド、ウイルスベクター、およびコスミドなどが挙げられる。
【0159】
一部のベクターは、それらが導入される宿主細胞において自律複製が可能であってもよいが(例えば、細菌複製起点を有する細菌ベクターおよびエピソーム性哺乳動物ベクター)、他のベクターは、宿主細胞へと導入されると宿主細胞のゲノムに組み込まれ、それにより宿主ゲノムと共に複製される。加えて、一部のベクターは、それらが動作可能なように連結している遺伝子の発現を指図することが可能である(こうしたベクターは、「発現ベクター」と呼ばれる場合がある)。関連の実施形態によれば、1つまたは複数の作用物質(例えば、本明細書に記載のようなMsln特異的結合タンパク質をコードするポリヌクレオチド、またはそのバリアント)を対象に共投与する場合、各作用物質は、別々の、または同じベクターに存在していてもよく、複数のベクター(それぞれ異なる作用物質または同じ作用物質を含有する)が細胞または細胞集団に導入されてもよいし、または対象に投与されてもよいことがさらに理解される。
【0160】
「発現ベクター」は、本明細書で使用される場合、好適な宿主中で核酸分子の発現を実行することが可能な好適な制御配列に作動可能に連結されている核酸分子を含有するDNA構築物を指す。そのような制御配列としては、転写をもたらすプロモーター、そのような転写を制御するための必要に応じたオペレーター配列、好適なmRNAリボソーム結合部位をコードする配列、ならびに転写および翻訳の終結を制御する配列が挙げられる。ベクターは、プラスミド、ファージ粒子、ウイルス、または単に潜在的なゲノムインサートであってもよい。好適な宿主へと形質転換されると、ベクターは、宿主ゲノムとは独立して複製および機能してもよく、または一部の場合では、ゲノム自体へと組み込まれてもよい。本明細書では、「プラスミド」、「発現プラスミド」、「ウイルス」および「ベクター」は、しばしば同義的に使用される。
【0161】
ある特定の実施形態では、ウイルスベクターは、標的に特異的なポリペプチドをコードする非内因性核酸配列を導入するのに使用される。ウイルスベクターは、レトロウイルスベクターまたはレンチウイルスベクターであり得る。またウイルスベクターとしては、形質導入マーカーをコードする核酸配列も挙げることができる。
【0162】
本開示の組成物との使用に好適なウイルスベクターとしては、ヒトの遺伝子治療適用のために同定されたものが挙げられる(Pfeifer and Verma, Ann. Rev. Genomics Hum. Genet. 2: 177, 2001を参照)。好適なウイルスベクターとしては、RNAウイルスに基づくベクター、例えばレトロウイルス由来ベクター、例えば、モロニーマウス白血病ウイルス(MLV)由来ベクターが挙げられ、さらに、より複雑なレトロウイルス由来ベクター、例えば、レンチウイルス由来ベクターが挙げられる。HIV-1由来ベクターは、このカテゴリーに属する。
【0163】
ウイルスベクターとしては、以下のものが挙げられる:レトロウイルス;アデノウイルス;パルボウイルス(例えば、アデノ随伴ウイルス);コロナウイルス;オルトミクソウイルス(例えば、インフルエンザウイルス)、ラブドウイルス(例えば、狂犬病ウイルスおよび水疱性口内炎ウイルス)、パラミクソウイルス(例えば、麻疹およびセンダイ)などのマイナス鎖RNAウイルス;ピコルナウイルスおよびアルファウイルスなどのプラス鎖RNAウイルス;ならびにアデノウイルス、ヘルペスウイルス(例えば、単純ヘルペスウイルス1型および2型、エプスタインバーウイルス、およびサイトメガロウイルス)、およびポックスウイルス(例えば、ワクシニア、鶏痘、およびカナリア痘)を含む二本鎖DNAウイルス。他のウイルスとしては、これらに限定されないが、ノーウォークウイルス、トガウイルス、フラビウイルス、レオウイルス、パポバウイルス、ヘパドナウイルス、および肝炎ウイルスが挙げられる。レトロウイルスの例としては、トリ白血症-肉腫、哺乳動物C型、B型ウイルス、D型ウイルス、HTLV-BLV群、レンチウイルス、およびスプマウイルスが挙げられる(Coffin, J. M., Retroviridae: The viruses and their replication, In Fundamental Virology, Third Edition, B. N. Fields, et al., Eds., Lippincott-Raven Publishers, Philadelphia, 1996)。
【0164】
「レトロウイルス」は、RNAゲノムを有するウイルスであり、これは、逆転写酵素を使用してDNAに逆転写され、次いで逆転写されたDNAは宿主細胞ゲノムに取り込まれる。「ガンマレトロウイルス」は、レトロウイルス科の属を指す。ガンマレトロウイルスの例としては、マウス幹細胞ウイルス、マウス白血病ウイルス、ネコ白血病ウイルス、ネコ肉腫ウイルス、およびトリ細網内皮症ウイルスが挙げられる。
【0165】
「レンチウイルスベクター」は、本明細書で使用される場合、遺伝子送達用のHIVに基づくレンチウイルスベクターを指し、組込み型であってもよくまたは非組込み型であってもよく、比較的大きなパッケージング容量を有してもよく、一連の異なる細胞型に形質導入することができる。レンチウイルスベクターは、通常は、3つまたはそれよりも多くのプラスミド(パッケージング、エンベロープ、およびトランスファー)を産生細胞へと一過性にトランスフェクトした後で生成される。HIVと同様に、レンチウイルスベクターは、ウイルス表面糖タンパク質と細胞表面にある受容体との相互作用を介して標的細胞に進入する。進入すると、ウイルスRNAは逆転写を受け、逆転写はウイルス逆転写酵素複合体により媒介される。逆転写の産物は、二本鎖線状ウイルスDNAであり、これは、感染細胞のDNAへのウイルス組込みの基質である。「レンチウイルス」は、分裂細胞および非分裂細胞に感染することが可能なレトロウイルスの属を指す。レンチウイルスの幾つかの例としては、HIV(ヒト免疫不全ウイルス:1型HIVおよび2型HIVを含む);ウマ伝染性貧血ウイルス;ネコ免疫不全ウイルス(FIV);ウシ免疫不全ウイルス(BIV);およびサル免疫不全ウイルス(SIV)が挙げられる。他の例としては、HIV-2、FIV、ウマ伝染性貧血ウイルス、SIV、およびマエディビスナウイルス(ヒツジレンチウイルス)由来のレンチウイルスベクターが挙げられる。
【0166】
キメラ抗原受容体導入遺伝子を含有するウイルス粒子を哺乳動物宿主細胞に形質導入するためにレトロウイルスおよびレンチウイルスウイルスベクターおよびパッケージング細胞を使用するための方法は、当技術分野で公知であり、以下の文献において以前に記載されている:例えば、米国特許第8,119,772号明細書;Walchli, et al., PLoS One 6:327930, 2011;Zhao, et al., J. Immunol. 174:4415, 2005;Engels, et al., Hum. Gene Ther. 14: 1155, 2003;Frecha, et al., Mol. Ther. 75: 1748, 2010;およびVerhoeyen, et al., Methods Mol. Biol. 506:91, 2009。レトロウイルスおよびレンチウイルスベクター構築物および発現系も市販されている。
【0167】
ある特定の実施形態では、ウイルスベクターは、ガンマレトロウイルス、例えば、モロニーマウス白血病ウイルス(MLV)由来ベクターであってもよい。他の実施形態では、ウイルスベクターは、より複雑なレトロウイルス由来ベクター、例えば、レンチウイルス由来ベクターであってもよい。HIV-1由来ベクターは、この範疇に属する。他の例としては、HIV-2、FIV、ウマ伝染性貧血ウイルス、SIV、およびマエディビスナウイルス(ヒツジレンチウイルス)に由来するレンチウイルスベクターが挙げられる。TCRまたはCAR導入遺伝子を含有するウイルス粒子を哺乳動物宿主細胞に形質導入するためにレトロウイルスおよびレンチウイルスウイルスベクターおよびパッケージング細胞を使用するための方法は、当技術分野で公知であり、以下の文献において以前に記載されている:例えば、米国特許第8,119,772号明細書;Walchli et al., PLoS One 6: 327930, 2011;Zhao et al., J. Immunol. 174: 4415, 2005;Engels et al., Hum. Gene Ther. 14:1155, 2003;Frecha et al., Mol. Ther. 18:1748, 2010;およびVerhoeyen et al., Methods Mol. Biol. 506: 97, 2009。レトロウイルスおよびレンチウイルスベクター構築物および発現系も市販されている。例えば、アデノウイルスに基づくベクターおよびアデノ随伴ウイルス(AAV)に基づくベクターを含むDNAウイルスベクター;アンプリコンベクター、複製欠損HSV、および弱毒化HSVを含む単純ヘルペスウイルス(HSV)に由来するベクターを含む他のウイルスベクターも、ポリヌクレオチド送達に使用することができる(Krisky et al., Gene Ther. 5: 1517, 1998)。
【0168】
遺伝子治療に使用するために開発された他のベクターも、本開示の組成物および方法と共に使用することができる。そのようなベクターとしては、バキュロウイルスおよびαウイルスに由来するもの(Jolly, D J. 1999. Emerging Viral Vectors. pp 209-40 in Friedmann T. ed. The Development of Human Gene Therapy. New York: Cold Spring Harbor Lab)、またはプラスミドベクター(Sleeping Beautyまたは他のトランスポゾンベクターなど)が挙げられる。
【0169】
ウイルスベクターゲノムが、宿主細胞において別々の転写物として発現される複数のポリヌクレオチドを含む場合、ウイルスベクターはまた、バイシストロン性またはマルチシストロン性発現を可能にする2つ(またはそれよりも多く)の転写物間に追加の配列を含んでいてもよい。ウイルスベクターで使用されるそのような配列の例としては、内部リボソーム侵入部位(IRES)、フューリン切断部位、ウイルス2Aペプチド、またはそれらの任意の組合せが挙げられる。
【0170】
ある特定の実施形態では、Msln特異的結合タンパク質をコードするポリヌクレオチドは、ベクターの1つまたは複数のある特定のエレメントに動作可能なように連結されていてもよい。例えば、それらがライゲートされているコード配列の発現およびプロセシングをもたらすために必要なポリヌクレオチド配列が、動作可能なように連結していてもよい。発現制御配列としては、適切な転写開始、終結、プロモーター、およびエンハンサー配列;スプライシングおよびポリアデニル化シグナルなどの効率的なRNAプロセシングシグナル;細胞質mRNAを安定化する配列;翻訳効率を増強する配列(つまり、コザックコンセンサス配列);タンパク質安定性を増強する配列;およびおそらくはタンパク質分泌を増強する配列を挙げることができる。発現制御配列は、それらが目的の遺伝子、およびトランスでまたは遠隔で作用して目的の遺伝子を制御する発現制御配列と隣接している場合、動作可能なように連結していてもよい。一部の実施形態では、ウイルスまたはプラスミドベクターは、形質導入マーカー(例えば、緑色蛍光タンパク質、tEGFR、tCD19、tNGFRなど)をさらに含む。
【0171】
ある特定の実施形態では、ベクターは、ポリヌクレオチド構築物を宿主細胞(例えば、造血前駆細胞またはヒト免疫系細胞)に送達することが可能である。具体的な実施形態では、ベクターは、構築物を、例えば、CD4+ T細胞、CD8+ T細胞、CD4-CD8-ダブルネガティブT細胞、γδT細胞、ナチュラルキラー細胞、樹状細胞、またはそれらの任意の組合せなどのヒト免疫系細胞に送達することが可能である。さらなる実施形態では、ベクターは、構築物を、ナイーブT細胞、セントラルメモリーT細胞、幹細胞メモリーT細胞、エフェクターメモリーT細胞、またはそれらの任意の組合せに送達することが可能である。一部の実施形態では、本開示の構築物をコードするベクターは、宿主細胞にて染色体ノックアウトを実施するために使用することができる(例えば、CRISPR-Casエンドヌクレアーゼまたは本明細書に開示のような別のエンドヌクレアーゼ)、または遺伝子治療の代替(gene therapy replacement)もしくは遺伝子修復療法において治療用導入遺伝子もしくはその部分を宿主細胞に送達するために使用することができるヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドをさらに含んでいてもよい。あるいは、染色体ノックアウトまたは遺伝子置き換えまたは遺伝子修復療法に使用されるヌクレアーゼは、本開示の構築物をコードするベクターとは独立して宿主細胞に送達してもよい。
【0172】
Msln特異的結合タンパク質を組換え的に産生するために使用される発現ベクターの構築は、例えば、Sambrook, et al. (1989 and 2001 editions; Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, NY)およびAusubel, et al. (Current Protocols in Molecular Biology (2003))に記載のような、制限エンドヌクレアーゼ消化、ライゲーション、形質転換、プラスミド精製、およびDNA配列決定の使用を含む、当技術分野で公知の任意の好適な分子生物学操作技法を使用することにより達成することができる。効率的な転写および翻訳を得るために、各組換え発現構築物中のポリヌクレオチドは、目的のタンパク質またはペプチドをコードするヌクレオチド配列に作動可能に(つまり、動作可能なように)連結したリーダー配列、特にプロモーターなど、少なくとも1つの適切な発現制御配列(調節配列とも呼ばれる)を含む。
【0173】
ある特定の実施形態では、Msln20-28またはMsln530-538ペプチドに特異的な結合タンパク質をコードする核酸分子は、養子移入療法における使用のために宿主細胞(例えば、T細胞)にトランスフェクト/形質導入するのに使用される。TCR配列決定の進歩は、記載されており(例えば、Robins, et al, 2009 Blood 114: 4099; Robins, et al, 2010 Sci. Translat. Med. 2:47ra64, PMID: 20811043;Robins, et al. 2011 (Sept. 10) J. lmm. Meth. Epub ahead of print, PMID: 21945395;およびWarren, et al., 2011 Genome Res. 21: 790)、本開示による実施形態を実施する過程で使用することができる。
【0174】
同様に、所望の核酸でT細胞をトランスフェクト/形質導入するための方法(例えば、US2004/0087025)は、例えば、所望の抗原特異性を有するT細胞を使用する養子移入手順を有するとして記載されており(例えば、Schmitt, et al., Hum. Gen. 20: 1240, 2009;Dossett, et al., Mol. Ther. 77:742, 2009;Till et al, Blood 112:2261, 2008;Wang, et al., Hum. Gene Ther. 18:112, 2007;Kuball et al, Blood 109:2331, 2007;US2011/0243972;US2011/0189141;およびLeen, et al., Ann. Rev. Immunol. 25:243, 2007)、HLA受容体と複合体化したMsln20-28(配列番号31)またはMsln530-538(配列番号32)ペプチドに特異的な結合タンパク質を対象とするものなどの本明細書における教示に基づいて、これらの方法論の本開示の実施形態への適合が企図される。
【0175】
組換え発現ベクターとしては、例えば、リンパ組織特異的な転写調節エレメント(TRE)、例えばBリンパ球、Tリンパ球、または樹状細胞特異的TREが挙げられる。リンパ組織特異的TREは、当技術分野において公知である(例えば、Thompson, et al., Mol. Cell. Biol. 72:1043, (1992);Todd et al, J. Exp. Med. 177: 1663, (1993);およびPenix, et al., J. Exp. Med. 775: 1483, (1993)を参照)。
【0176】
本明細書で開示のようなMsln特異的結合タンパク質をコードする(例えば、それをコードする異種性ポリヌクレオチドを含む)および/または発現する組換え(例えば、改変された)宿主細胞も提供される。一部の実施形態では、宿主細胞は、造血前駆細胞、またはヒト免疫系細胞など、本明細書に開示のような免疫系細胞であってもよい。本開示の実施形態のいずれかでは、免疫系細胞は、CD4+T細胞、CD8+T細胞、CD4-CD8-二重陰性T細胞、γδT細胞、ナチュラルキラー細胞、ナチュラルキラー(natural kill)T細胞、マクロファージ、樹状細胞、またはそれらの任意の組合せである。加えて、T細胞は、ナイーブT細胞、セントラルメモリーT細胞、エフェクターメモリーT細胞、幹細胞メモリーT細胞、またはそれらの任意の組合せであってもよい。ある特定の実施形態では、宿主細胞は、本明細書に開示のようなベクターを使用して、異種性ポリヌクレオチドを含むかまたは含有するように修飾されている。
【0177】
組換え宿主細胞は、同種異系、同系、または自己性であってもよい(例えば、治療のために宿主細胞を受ける対象に対して)。宿主細胞が内因性TCRをコードするある特定の実施形態では、T細胞により発現される異種性結合タンパク質またはTCRは、内因性TCRと比較して、CD3タンパク質とより効率的に会合することが可能である。一部の実施形態では、宿主T細胞により発現されるMsln特異的結合タンパク質は、CD3複合体と会合することができ、機能的表面発現および免疫活性、例えば、サイトカインの産生および/または抗原発現標的細胞の殺滅を示す。ある特定の実施形態では、Msln特異的結合タンパク質は、内因性TCRと比較して、より高い細胞表面発現を有してもよい。
【0178】
本開示の実施形態のいずれかでは、宿主免疫細胞などの宿主細胞は、例えば、PD-1、TIM3、LAG3、CTLA4、TIGIT、HLA成分、またはTCR成分、またはそれらの任意の組合せなどの内因性免疫細胞タンパク質の染色体遺伝子ノックアウトを含んでいてもよい。本明細書で使用される場合、用語「染色体遺伝子ノックアウト」は、宿主細胞による機能的に活性な内因性のポリペプチド産物の産生を防止する(例えば、低減、遅延、抑制、または阻止する)遺伝子変更または宿主細胞に導入された阻害性作用物質を指す。染色体遺伝子ノックアウトをもたらす変更としては、例えば、ナンセンス変異の導入(未成熟終止コドンの形成を含む)、ミスセンス変異、遺伝子欠失、および鎖切断、ならびに宿主細胞における内因性遺伝子発現を阻害する阻害性核酸分子の異種性発現を挙げることができる。
【0179】
染色体遺伝子ノックアウトは、ノックアウト手順または作用物質の使用後に、宿主免疫細胞のDNAを配列決定することにより直接的に確認することができる。染色体遺伝子ノックアウトは、ノックアウト後に、遺伝子発現の非存在(例えば、遺伝子によりコードされるmRNAまたはポリペプチド産物の非存在)から推測することもできる。
【0180】
ある特定の実施形態では、染色体遺伝子ノックアウトまたは遺伝子ノックインは、宿主細胞の染色体編集により行われる。染色体編集は、例えば、エンドヌクレアーゼを使用して実施することができる。本明細書で使用される場合、「エンドヌクレアーゼ」は、ポリヌクレオチド鎖内のホスホジエステル結合を触媒切断することが可能な酵素を指す。ある特定の実施形態では、エンドヌクレアーゼは、標的遺伝子を切断することが可能であり、それにより標的遺伝子を不活性化または「ノックアウト」する。エンドヌクレアーゼは、天然に存在する、組換えの、遺伝子改変された、または融合エンドヌクレアーゼであってもよい。エンドヌクレアーゼによって引き起こされる核酸鎖切断は、一般的に、相同組換えまたは非相同末端結合(NHEJ)の異なる機序により修復される。相同組換え中、ドナー遺伝子「ノックイン」のために、標的遺伝子「ノックアウト」のために、および必要に応じてドナー遺伝子ノックイン事象または標的遺伝子ノックアウト事象により標的遺伝子を不活性化するために、ドナー核酸分子を使用することができる。NHEJは、切断部位のDNA配列に変化をもたらすこと(例えば、少なくとも1つのヌクレオチドの置換、欠失、または付加)が多いエラープローン修復プロセスである。NHEJを使用して、標的遺伝子を「ノックアウト」してもよい。エンドヌクレアーゼの例としては、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、TALE-ヌクレアーゼ、CRISPR-Casヌクレアーゼ、メガヌクレアーゼ、およびmegaTALが挙げられる。
【0181】
本明細書で使用される場合、「ジンクフィンガーヌクレアーゼ」(ZFN)は、FokIエンドヌクレアーゼなどの非特異的DNA切断ドメインに融合されたジンクフィンガーDNA結合ドメインを含む融合タンパク質を指す。約30個アミノ酸の各ジンクフィンガーモチーフは、約3塩基対のDNAに結合し、ある特定の残基のアミノ酸を変化させて、トリプレット配列特異性を変更することができる(例えば、Desjarlais et al., Proc. Natl. Acad. Sci. 90:2256-2260, 1993; Wolfe et al., J. Mol. Biol. 285: 1917-1934, 1999を参照)。複数のジンクフィンガーモチーフを縦列に連結して、約9~約18塩基対の範囲の長さを有する領域など、所望のDNA配列への結合特異性を作出することができる。背景として、ZFNは、ゲノムにおける部位特異的DNA二本鎖切断(DSB)の形成を触媒することによりゲノム編集を媒介し、DSB部位のゲノムに相同性であるフランキング配列を含む導入遺伝子の標的化組込みは、相同組換え修復により促進される。あるいは、ZFNによる生成されるDSBは、非相同末端結合(NHEJ)による修復を介して標的遺伝子のノックアウトをもたらすことができる。これは、切断部位におけるヌクレオチドの挿入または欠失をもたらすエラープローン細胞修復経路である。ある特定の実施形態では、遺伝子ノックアウトは、ZFN分子を使用して行われる、挿入、欠失、変異、またはそれらの組合せを含む。
【0182】
本明細書で使用される場合、「転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ」(TALEN)は、TALE DNA結合ドメイン、およびFokIエンドヌクレアーゼなどのDNA切断ドメインを含む融合タンパク質を指す。「TALE DNA結合ドメイン」または「TALE」は、各々が、一般に12番目および13番目のアミノ酸が多岐にわたる、高度に保存された33~35個アミノ酸の配列を有する1つまたは複数のTALE反復ドメイン/ユニットで構成されている。TALE反復ドメインは、TALEと標的DNA配列との結合に関与する。こうした多岐にわたるアミノ酸残基は、反復可変二残基(RVD)と呼ばれ、特異的なヌクレオチド認識と関連する。こうしたTALEのDNA認識のための天然(標準)コードは、TALEの12位および13位のHD(ヒスチン-アスパラギン酸)配列が、シトシン(C)に対するTALE結合をもたらし、NG(アスパラギン-グリシン)がTヌクレオチドに結合し、NI(アスパラギン-イソロイシン)がAに結合し、NN(アスパラギン-アスパラギン)がGまたはAヌクレオチドに結合し、NG(アスパラギン-グリシン)がTヌクレオチドに結合するように決定されている。非標準(非定型)RVDも公知である(例えば、米国特許出願公開第2011/0301073号明細書を参照。この文献の非定型RVDは、参照により全体が本明細書に組み込まれる)。TALENを使用して、T細胞のゲノムの部位特異的二本鎖切断(DSB)を指図することができる。非相同末端結合(NHEJ)は、アニーリングのための配列の重複がほとんどまたはまったくない二本鎖切断の両側からDNAをライゲートし、それにより遺伝子発現をノックアウトするエラーを導入する。あるいは、相同組換え修復は、導入遺伝子に相同性フランキング配列が存在する場合、導入遺伝子をDSB部位に導入することができる。ある特定の実施形態では、遺伝子ノックアウトは、TALEN分子を使用して行われる、挿入、欠失、変異、またはそれらの組合せを含む。
【0183】
本明細書で使用される場合、「クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート/Cas」(CRISPR/Cas)ヌクレアーゼ系は、CRISPR RNA(crRNA)誘導Casヌクレアーゼを使用して、塩基対相補性によりゲノム内の標的部位(プロトスペーサーとして知られている)を認識し、短い保存されたプロトスペーサー関連モチーフ(PAM)が相補性標的配列の3’直後に続く場合はDNAを切断する系を指す。CRISPR/Cas系は、Casヌクレアーゼの配列および構造に基づいて3つの型(つまり、I型、II型、およびIII型)に分類される。I型およびIII型のcrRNA誘導監視複合体は、複数のCasサブユニットを必要とする。最も研究されているII型系は、少なくとも3つの成分:RNA誘導Cas9ヌクレアーゼ、crRNA、およびトランス作用性crRNA(tracrRNA)を含む。tracrRNAは、二重鎖形成領域を含む。crRNAおよびtracrRNAは、Cas9ヌクレアーゼと相互作用し、crRNAのスペーサーとPAMの上流にある標識DNAのプロトスペーサーとの間のワトソンクリック塩基対形成によりCas9/crRNA:tracrRNA複合体を標的DNAの特定の部位へと誘導することが可能な二重鎖を形成する。Cas9ヌクレアーゼは、crRNAスペーサーにより画定される領域内で二本鎖切断(double-stranded break)を切断する。NHEJによる修復は、標的遺伝子座の発現を妨害する挿入および/または欠失をもたらす。あるいは、相同性フランキング配列を有する導入遺伝子を、相同組換え修復によりDSB部位に導入することができる。crRNAおよびtracrRNAは、単一のガイドRNA(sgRNAまたはgRNA)へと遺伝子操作することができる(例えば、Jinek et al., Science 337: 816-21, 2012を参照)。さらに、標的部位に相補的なガイドRNAの領域は、所望の配列を標的とするように変更またはプログラムすることができる(Xie et al., PLOS One 9: e100448, 2014;米国特許出願公開第2014/0068797号明細書、米国特許出願公開第2014/0186843号明細書;米国特許第8,697,359号明細書、およびPCT公報国際公開第2015/071474号パンフレット;これらの文献の各々は参照により組み込まれる)。ある特定の実施形態では、遺伝子ノックアウトは、CRISPR/Casヌクレアーゼ系を使用して行われる、挿入、欠失、変異、またはそれらの組合せを含む。
【0184】
免疫細胞タンパク質をコードする内因性遺伝子をノックアウトするための例示的なgRNA配列およびそれを使用するための方法としては、Ren et al., Clin. Cancer Res. 23(9): 2255-2266 (2017)に記載のものが挙げられる。この文献のgRNA、CAS9 DNA、ベクター、および遺伝子ノックアウト技法は、参照により全体が本明細書に組み込まれる。
【0185】
本明細書で使用される場合、「メガヌクレアーゼ」は、「ホーミングエンドヌクレアーゼ」とも呼ばれ、大きな認識部位(約12~約40塩基対の二本鎖DNA配列)により特徴付けられるエンドデオキシリボヌクレアーゼを指す。メガヌクレアーゼは、配列および構造モチーフに基づいて、LAGLIDADG(配列番号121)、GIY-YIG(配列番号122)、HNH、His-Cysボックス、およびPD-(D/E)XK(配列番号123)の5つのファミリーに分けることができる。例示的なメガヌクレアーゼとしては、以下:I-SceI、I-CeuI、PI-PspI、PI-Sce、I-SceIV、I-CsmI、I-PanI、I-SceII、I-PpoI、I-SceIII、I-CreI、I-TevI、I-TevII、およびI-TevIIIが挙げられ、これらの認識配列は公知である(例えば、米国特許第5,420,032号明細書および米国特許第6,833,252号明細書;Belfort et al., Nucleic Acids Res. 25: 3379-3388, 1997;Dujon et al., Gene 82: 115-118, 1989;Perler et al., Nucleic Acids Res. 22: 1125-1127, 1994;Jasin, Trends Genet. 12: 224-228, 1996;Gimble et al., J. Mol. Biol. 263: 163-180, 1996;Argast et al., J. Mol. Biol. 280: 345-353, 1998を参照)。
【0186】
ある特定の実施形態では、天然に存在するメガヌクレアーゼを使用して、PD-1、LAG3、TIM3、CTLA4、TIGIT、HLAをコードする遺伝子、またはTCR成分をコードする遺伝子から選択される標的の部位特異的ゲノム修飾を促進することができる。
【0187】
他の実施形態では、標的遺伝子に対する新規の結合特異性を有する遺伝子操作されたメガヌクレアーゼが、部位特異的ゲノム修飾に使用される(例えば、Porteus et al., Nat. Biotechnol. 23: 967-73, 2005;Sussman et al., J. Mol. Biol. 342: 31-41, 2004;Epinat et al., Nucleic Acids Res. 31: 2952-62, 2003;Chevalier et al., Molec. Cell 10: 895-905, 2002;Ashworth et al., Nature 441: 656-659, 2006;Paques et al., Curr. Gene Ther. 7: 49-66, 2007;米国特許出願公開第2007/0117128号明細書;米国特許出願公開第2006/0206949号明細書;米国特許出願公開第2006/0153826号明細書;米国特許出願公開第2006/0078552号明細書;および米国特許出願公開第2004/0002092号明細書を参照)。さらなる実施形態では、染色体遺伝子ノックアウトは、megaTALとして知られている融合タンパク質を作製するためにTALENのモジュラーDNA結合ドメインで修飾されているホーミングエンドヌクレアーゼを使用して生成される。megaTALは、1つまたは複数の標的遺伝子をノックアウトするだけでなく、目的のポリペプチドをコードする外因性ドナー鋳型と組み合わせて使用する場合は、異種性または外因性ポリヌクレオチドを導入(ノックイン)するためにも使用することができる。
【0188】
ある特定の実施形態では、染色体遺伝子ノックアウトは、腫瘍関連抗原に特異的に結合する抗原特異的受容体をコードする異種性ポリヌクレオチドを含む宿主細胞(例えば、免疫細胞)に導入される阻害性核酸分子を含み、阻害性核酸分子は、標的特異的阻害剤をコードし、コードされる標的特異的阻害剤は、宿主免疫細胞において、内因性遺伝子発現(つまり、PD-1、TIM3、LAG3、CTLA4、TIGIT、HLA成分、またはTCR成分、またはそれらの任意の組合せの)を阻害する。
【0189】
ある特定の実施形態では、目的の結合タンパク質は、例えば、目的のポリヌクレオチドを宿主細胞にノッキングするのに有用な本開示の技術または試薬のいずれかを使用して宿主細胞にノックインしてもよい。一部の実施形態では、結合タンパク質をコードするポリヌクレオチドは、宿主細胞にノックインされ、内因性染色体に、例えば細胞核中に組み込まれない。一部の実施形態では、結合タンパク質をコードするポリヌクレオチドは、内因性遺伝子座で宿主細胞にノックインされ、必要に応じて内因性遺伝子座のコード配列を崩壊させる。ある特定の実施形態では、結合タンパク質をコードするポリヌクレオチドは、内因性TCR遺伝子座にノックインされ、それによって内因性TCRがノックアウトされ、目的のタンパク質がノックインされる。例えば、Eyquem et al., Nature 543(7643):113-117 (2017)を参照されたい。
【0190】
一部の実施形態では、メソテリン特異的結合タンパク質をコードするポリヌクレオチド(例えば、配列番号6~8、14~16、22~24、28~40、78~110、118、119のいずれか1つまたは複数に示されているアミノ酸配列を含む、それからなる、またはそれから本質的になるポリペプチド)が、宿主細胞にノックインされる。本明細書に記載の結合タンパク質は、TCRアルファ鎖可変ドメイン(Vα)およびTCRベータ鎖可変ドメイン(Vβ)を含む。本開示の実施形態のいずれかでは、メソテリン特異的結合タンパク質は、メソテリンペプチド:HLA複合体、例えばメソテリンペプチド:HLA-A*02:01複合体に特異的に結合することが可能である。
【0191】
一部の実施形態では、遺伝子ノックインは、本明細書に記載のようなメソテリンペプチド抗原(例えば、配列番号6~8、14~16、22~24、28~40、78~110、118、または119のいずれか1つまたは複数に示されているアミノ酸配列と少なくとも約85%(すなわち、少なくとも約86%、85%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、またはそれより高い)同一性を有するアミノ酸配列を含む、それからなる、またはそれから本質的になるペプチド)に特異的に結合することが可能な結合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを導入するのに使用することができる。
【0192】
ある特定の実施形態では、メソテリン特異的結合タンパク質(例えば、TCR)をコードするポリヌクレオチドが宿主細胞にノックインされ、宿主細胞は、異なる結合タンパク質をコードするポリヌクレオチドをさらに含む。一部の実施形態では、異なる結合タンパク質は、宿主細胞にとって異種である。他の実施形態では、異なる結合タンパク質は、宿主細胞にとって内因性である。ある特定の実施形態では、異なる結合タンパク質をコードするポリヌクレオチドは、宿主細胞にノックインされる。ある特定の実施形態では、異なる結合タンパク質は、異なる抗原(例えば、異なるMsln抗原、または異なるタンパク質もしくは標的由来の抗原、例えば、BCMA、CA19-9、BRAF、CD3、CEACAM6、c-Met、EGFR、EGFRvIII、ErbB2、ErbB3、ErbB4、EphA2、IGF1R、GD2、O-アセチルGD2、O-アセチルGD3、GHRHR、GHR、FLT1、KDR、FLT4、CD44v6、CD151、CA125、CEA、CTLA-4、GITR、BTLA、TGFBR2、TGFBR1、IL6R、gp130、ルイスA、ルイスY、TNFR1、TNFR2、PD1、PD-L1、PD-L2、HVEM、MAGE-A(例えば、MAGE-A1、MAGE-A3、およびMAGE-A4など)、KRAS、HER2、NY-ESO-1、PSMA、RANK、ROR1、TNFRSF4、CD40、CD137、TWEAK-R、HLA、HLAに結合した腫瘍もしくは病原体関連ペプチド、HLAに結合したhTERTペプチド、HLAに結合したチロシナーゼペプチド、LTβR、LIFRβ、LRP5、MUC1、OSMRβ、TCRα、TCRβ、CD19、CD20、CD22、CD25、CD28、CD30、CD33、CD52、CD56、CD79a、CD79b、CD80、CD81、CD86、CD123、CD171、CD276、B7H4、TLR7、TLR9、PTCH1、WT-1、HA1-H、Robo1、α-フェトプロテイン(AFP)、Frizzled、OX40、PRAME、およびSSX-2など)に特異的な結合タンパク質である。例えば、宿主細胞は、Msln抗原:HLA複合体に特異的に結合する結合タンパク質をコードするノックインされたポリヌクレオチド、およびCA19-9抗原に特異的に結合する結合タンパク質をコードする(例えば、ノックインされた)ポリヌクレオチド(例えば、TCRまたはCAR)を含んでいてもよい。
【0193】
ある特定の実施形態では、本開示のMsln特異的結合タンパク質をコードする、および/または発現する宿主免疫細胞は、in vivoで腫瘍などの同族Msln抗原を発現する標的組織中に優先的に移動するかまたは局在化することが可能であるが、同じタイプの隣接しない組織中では統計学的に有意な低減された量で存在する。実例として、宿主免疫細胞は、肺腫瘍に存在してもよいが(例えば、コードされる結合タンパク質のTCR V領域のディープシーケンシングを使用して決定される)、腫瘍に隣接していない同じ肺の組織ではより低いレベルで存在するか、またはまったく存在しない。一部の実施形態では、非隣接組織は、疾患組織または悪性組織から少なくとも3cm除去された組織を含むかまたはそれを指す。
【0194】
ある特定の実施形態では、宿主細胞は、対象に投与することができるものなど、細胞の組成物中で富化されている。本明細書で使用される場合、混合物中の細胞型の量に関する「富化」または「枯渇」は、1つまたは複数の富化または枯渇プロセスまたはステップに起因する細胞の混合物中の「富化」型の数の増加、「枯渇」細胞の数の減少、または両方を指す。したがって、富化プロセスに供される細胞の原集団の供給源に応じて、混合物または組成物は、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%、またはそれよりも多くの(数またはカウントで)「富化」細胞を含有してもよい。枯渇プロセスに供された細胞は、50%、45%、40%、35%、30%、25%、20%、15%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、または1%パーセント、またはそれ未満の(数またはカウントで)「枯渇」細胞を含有する混合物または組成物をもたらすことができる。ある特定の実施形態では、CD4+細胞を富化させるがCD8+細胞は枯渇させること、またはCD62L+細胞を富化させるがCD62L-細胞は枯渇させること、またはそれらの組合せなど、混合物中の特定の細胞型の量を富化させ、異なる細胞型の量を枯渇させる。
使用
【0195】
別の態様では、本開示は、有効量の本明細書に記載のような組成物(例えば、結合タンパク質、組換え宿主細胞、ポリヌクレオチド、ベクター、または関連の組成物)を対象に投与することによって、それを必要とする対象(すなわち、メソテリン抗原に関連する疾患または障害を有する、またはそれを有する疑いのある対象)を処置する方法を提供する。このような疾患の処置における使用のための、またはこのような疾患の処置のための医薬品を製造するための、このような組成物も提供される。そのような疾患としては、固形がんおよび血液悪性腫瘍など、種々の形態の増殖性疾患または過剰増殖性疾患が挙げられる。
【0196】
「処置する」または「処置」または「軽快させる」は、対象(例えば、ヒトまたは非ヒト哺乳動物、例えば霊長類、ウマ、ネコ、イヌ、ヤギ、マウス、またはラット)の疾患、障害、または状態の医学的管理を指す。一般的に、本開示の結合タンパク質を発現する宿主細胞、および必要に応じてアジュバントを含む適切な用量または処置レジメンは、治療または予防的利益を引き出すのに十分な量で投与される。治療的または予防的/防止的利益としては、臨床転帰の向上;疾患に関連付けられる症状の軽減または緩和;症状の発生の減少;生活の質の向上;より長い無病状態;疾患の程度の縮小;疾患状態の安定化;疾患進行の遅延;寛解;生存;長期生存;またはそれらの任意の組合せが挙げられる。
【0197】
本明細書で使用される場合、用語「養子免疫療法(adoptive immune therapy)」または「養子免疫療法(adoptive immunotherapy)」および「養子細胞療法」は、天然に存在する、または遺伝子操作された、疾患抗原特異的免疫細胞(例えば、T細胞)の投与を指す。養子細胞免疫療法は、自己性(免疫細胞はレシピエントに由来する)であってもよく、同種異系(免疫細胞は同じ種のドナーに由来する)であってもよく、または同系(免疫細胞はレシピエントと遺伝的に同一のドナーに由来する)あってもよい。
【0198】
この開示の結合タンパク質または宿主細胞の「治療有効量」または「有効量」は、統計学的に有意な様式で、臨床転帰の向上;疾患に関連する症状の軽減または緩和;症状の発生の減少;生活の質の向上;より長い無病状態;疾患の程度の縮小、疾患状態の安定化;疾患進行の遅延;寛解;生存;または長期生存などの治療効果をもたらすのに十分な結合タンパク質または宿主細胞の量を指す。治療有効量は、単独で投与される個々の活性成分または単一の活性成分を発現する細胞を指す場合、単独のその成分またはその成分を発現する細胞の作用を指す。治療有効量は、組合せを指す場合、連続的に投与されるかまたは同時に投与されるかに関わらず、活性成分または組み合わされた補助的な活性成分と、活性成分を発現する細胞との、治療効果をもたらす組み合わされた量を指す。組合せはまた、1つより多くの活性成分、例えば、本開示の抗原または融合タンパク質に特異的に結合する2つの異なる結合タンパク質を発現する細胞であってもよい。
【0199】
「統計学的に有意な」は、本明細書で使用される場合、スチューデントのt検定を使用して計算した場合、0.050またはそれ未満のp値を指し、測定している特定の事象または結果が偶然に起こった可能性が低いことを示す。
【0200】
「過剰増殖性障害」は、本明細書で使用される場合、正常細胞または非疾患細胞と比較して過剰な成長または増殖を指す。例示的な過剰増殖性障害としては、腫瘍、がん、新生物性組織、癌、肉腫、悪性細胞、前悪性細胞、ならびに非新生物性または非悪性過剰増殖性障害(例えば、腺腫、線維腫、脂肪腫、平滑筋腫、血管腫、線維症、再狭窄、ならびに関節リュウマチ、骨関節炎、乾癬、または炎症性腸疾患などの自己免疫疾患)が挙げられる。過剰増殖性疾患という状況ではよりゆっくり生じる異常または過剰な成長を伴うある特定の疾患は、「増殖性疾患」と呼ばれる場合があり、その例としては、ある特定の腫瘍、がん、新生物組織、癌、肉腫、悪性細胞、前悪性細胞、ならびに非新生物または非悪性障害が挙げられる。
【0201】
さらに、「がん」は、あらゆる細胞の促進された増殖を指す場合もあり、これは、固形腫瘍、腹水腫瘍、血液もしくはリンパ液または他の悪性腫瘍;結合組織の悪性腫瘍;転移性疾患;臓器または幹細胞移植後の微小残存病変;多剤耐性がん、一次または二次性悪性腫瘍、悪性腫瘍に関する新脈管形成(angiogenesis)、またはがんの他の形態を含む。
【0202】
本開示の結合タンパク質、宿主細胞、ポリヌクレオチド、ベクター、および組成物は、Msln20-28ペプチドをがんの腫瘍細胞上で発現する、および/またはMsln530-538ペプチドを、がんの腫瘍細胞上で発現するがんを処置するため、またはその処置のための医薬を製造するために有用であり、処置のための例示的ながんとしては、中皮腫、膵臓がん、卵巣がん、および肺がんが挙げられる。
【0203】
ある特定の実施形態では、本開示の結合タンパク質、宿主細胞、ポリヌクレオチド、ベクター、および組成物は、固形がんまたは血液学的悪性腫瘍などのがんを処置するために、および/またはその処置のための医薬品の製造において有用である。ある特定の実施形態では、固形がんは、胆嚢がん、膀胱がん、骨および軟部組織の癌、脳腫瘍、乳がん、子宮頸がん、結腸がん、結腸直腸腺癌、結腸直腸がん、類腱腫、胎児性がん、子宮内膜がん、食道がん、胃がん、胃腺癌、多形性膠芽腫、婦人科腫瘍、頭頸部扁平上皮癌、肝がん、肺がん、中皮腫、悪性黒色腫、骨肉腫、卵巣がん、膵臓がん、膵管腺癌、原発性星状細胞腫瘍、原発性甲状腺がん、前立腺がん、腎臓がん、腎細胞癌、横紋筋肉腫、皮膚がん、軟部組織肉腫、精巣胚細胞腫瘍、尿路上皮がん、子宮肉腫、または子宮がんから選択されるか、またはそれを含む。
【0204】
ある特定の実施形態では、本開示の方法および使用に従って処置可能ながんは、癌、肉腫、神経膠腫、リンパ腫、白血病、骨髄腫、またはそれらの任意の組合せを含む。ある特定の実施形態では、がんは、頭または頸部のがん、黒色腫、膵臓がん、胆管癌、肝細胞がん、トリプルネガティブ乳がん(TNBC)を含む乳がん、胃がん、非小細胞肺がん、前立腺がん、食道がん、中皮腫、小細胞肺がん、結腸直腸がん、膠芽腫、またはそれらの任意の組合せを含む。ある特定の実施形態では、がんは、アスキン腫瘍、ブドウ状肉腫、軟骨肉腫、ユーイング肉腫、PNET、悪性血管内皮腫、悪性シュワン鞘腫、骨肉腫、胞巣状軟部肉腫、血管肉腫、葉状嚢肉腫、隆起性皮膚線維肉腫(DFSP)、類腱腫、線維形成性小円形細胞腫瘍、類上皮肉腫、骨外性軟骨肉腫、骨外性骨肉腫、線維肉腫、消化管間質腫瘍(GIST)、血管周囲細胞腫、血管肉腫、カポジ肉腫、平滑筋肉腫、脂肪肉腫、リンパ管肉腫、リンパ肉腫、未分化多形肉腫、悪性末梢神経鞘腫瘍(MPNST)、神経線維肉腫、横紋筋肉腫、滑膜肉腫、未分化多形肉腫、扁平上皮癌、基底細胞癌、腺癌、形成性胃組織炎(linitis plastic)、ビポーマ、胆管癌、肝細胞癌、腺様嚢胞癌、腎細胞癌、グラビッツ腫瘍、上衣細胞腫、星細胞腫、乏突起神経膠腫、脳幹神経膠腫、視神経膠腫(optice nerve glioma)、混合膠腫、ホジキンリンパ腫、B細胞リンパ腫、非ホジキンリンパ腫(NHL)、バーキットリンパ腫、小リンパ球性リンパ腫(SLL)、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、濾胞性リンパ腫、免疫芽球性大細胞リンパ腫、前駆Bリンパ芽球性リンパ腫、およびマントル細胞リンパ腫、ワルデンシュトレームマクログロブリン血症、CD37+樹状細胞リンパ腫、リンパ形質細胞性リンパ腫、脾性辺縁帯リンパ腫、粘膜関連リンパ組織(MALT)型の節外性辺縁帯B細胞リンパ腫、節性辺縁帯B細胞リンパ腫、縦隔(胸腺)大細胞型B細胞リンパ腫、血管内大細胞型B細胞リンパ腫、原発性滲出性リンパ腫、成人T細胞リンパ腫、節外性NK/T細胞リンパ腫、鼻型、腸症関連T細胞リンパ腫、肝脾T細胞リンパ腫、芽球型NK細胞リンパ腫、セザリー症候群、血管免疫芽球性T細胞リンパ腫、未分化大細胞リンパ腫、またはそれらの任意の組合せを含む。
【0205】
ある特定の実施形態では、がんは、固形腫瘍を含む。一部の実施形態では、固形腫瘍は、肉腫または癌である。ある特定の実施形態では、固形腫瘍は、軟骨肉腫;線維肉腫(線維芽細胞肉腫);隆起性皮膚線維肉腫(DFSP);骨肉腫;横紋筋肉腫;ユーイング肉腫;消化管間質腫瘍;平滑筋肉腫;血管肉腫(血管の肉腫);カポジ肉腫;脂肪肉腫;多形肉腫;または滑膜肉腫から選択される。
【0206】
ある特定の実施形態では、固形腫瘍は、肺癌(例えば、腺癌、扁平上皮癌(類表皮癌);扁平上皮癌;腺癌;腺扁平上皮癌;未分化癌;大細胞癌;小細胞癌;乳癌(例えば、腺管上皮内癌(非浸潤性)、上皮内小葉癌(非浸潤性)、浸潤性乳管癌、浸潤性小葉癌、非浸潤性癌);肝臓癌(例えば、肝細胞癌、胆管癌または胆嚢がん);大細胞未分化癌、細気管支肺胞癌);卵巣癌(例えば、表層上皮性-間質性腫瘍(腺癌)または卵巣上皮癌(これは、漿液性腫瘍、類内膜腫瘍および粘液性嚢胞腺癌を含む)、類表皮(扁平上皮癌)、胎児性癌および絨毛癌(胚細胞腫瘍));腎臓癌(例えば、腎腺癌、副腎腫、移行上皮癌(腎盂)、扁平上皮癌、ベリーニ管癌、明細胞腺癌、移行上皮癌、腎盂のカルチノイド腫瘍);副腎癌(例えば、副腎皮質癌)、精巣の癌(例えば、生殖細胞癌(精上皮腫、絨毛癌、胎児性癌、奇形癌)、漿液性癌);胃癌(例えば、腺癌);腸癌(例えば、十二指腸の腺癌);結腸直腸癌;または皮膚癌(例えば、基底細胞癌、扁平上皮癌)から選択される。ある特定の実施形態では、固形腫瘍は、卵巣癌、卵巣上皮癌、子宮頸部腺癌もしくは小細胞癌、膵臓癌、結腸直腸癌(例えば、腺癌または扁平上皮癌)、肺癌、乳管癌、または前立腺の腺癌である。
【0207】
本開示の実施形態のいずれかでは、宿主細胞は、同種異系細胞、同系細胞、または自己細胞である。本発明によって処置できる対象は、一般的に、ヒトおよび他の霊長類対象であり、例えば獣医学の目的のためのサルおよび類人猿である。前述の実施形態のいずれかでは、対象は、ヒト対象であり得る。対象は、雄または雌であってもよく、乳児、若年、青年、成人、および老人対象を含むあらゆる好適な年齢であってもよい。本開示による細胞は、医学技術における当業者によって決定した通りに、処置しようとする疾患、状態、または障害に適切な方式で投与することができる。上記実施形態のいずれかにおいて、本明細書に記載のような融合タンパク質を含む細胞は、除去されるタグを有する細胞と遭遇するように、静脈内に、腹腔内に、腫瘍内に、骨髄に、リンパ節に、または脳脊髄液に投与される。組成物の適切な用量、好適な持続時間、および投与頻度は、患者の状態;疾患、状態、または障害のサイズ、タイプ、および重症度;タグを有する細胞の望ましくないタイプまたはレベルまたは活性、活性成分の特定の形態;および投与方法のような要因によって決定される。
【0208】
一般に、適切な投与量および処置レジメンは、利益を提供するのに十分な量の活性分子または細胞を提供する。そのような反応は、未処置対象と比較して、処置した対象の臨床転帰の向上(例えば、より頻繁な寛解、完全なもしくは部分的なまたはより長い無病生存期間)を確立することによりモニターすることができる。腫瘍タンパク質に対する既存の免疫応答の増加は、一般に、臨床転帰の向上と相関する。そのような免疫応答は、一般に、日常的である標準的な増殖、細胞傷害性、またはサイトカインアッセイを使用して評価することができる。
【0209】
予防的使用の場合、用量は、疾患または障害に関連付けられる疾患の防止、発症遅延、または重症度の減弱に十分であるべきである。本明細書に記載の方法に従って投与される免疫原性組成物の予防的利益は、前臨床研究(in vitro研究およびin vivo動物研究を含む)および臨床研究を実施し、そこから得られたデータを、適切な統計的、生物学的、および臨床的な方法および技法で分析することにより決定することができ、これらはすべて当業者であれば容易に実施することができる。
【0210】
養子細胞療法の場合、有効量は、処置したヒトまたは非ヒト哺乳動物において臨床的に望ましい結果をもたらすことが可能な、養子移入で使用されるMsln特異的結合タンパク質をコードまたは発現する宿主細胞の量(すなわち、統計学的に有意な様式で、Msln特異的抗原応答、例えば細胞傷害性T細胞応答を発現する細胞に対して特異的なT細胞免疫応答を誘導または強化するのに十分な量)である。特定の実施形態では、T細胞は、ナイーブT細胞、セントラルメモリーT細胞、幹細胞メモリーT細胞、エフェクターメモリーT細胞、またはそれらの任意の組合せである。
【0211】
本明細書で開示のようなMsln特異的結合タンパク質、宿主(すなわち、修飾)免疫細胞、ポリヌクレオチド、またはベクター、および薬学的に許容される担体、希釈剤、または賦形剤を含む医薬組成物(組成物)も企図される。用語「薬学的に許容される賦形剤または担体」または「生理学的に許容される賦形剤または担体」は、ヒトまたは他の非ヒト哺乳類対象への投与に好適であり、安全であるかまたは重篤な有害事象を引き起こさないと一般的に認識されている、生体適合性の媒体、例えば、生理食塩水を指し、これらは、本明細書においてより詳細に記載される。好適な賦形剤としては、水、食塩水、デキストロース、またはグリセロールなど、およびそれらの組合せが挙げられる。実施形態では、本明細書に開示のような融合タンパク質または宿主細胞を含む組成物は、好適な注入媒体をさらに含む。好適な注入媒体は、任意の等張性媒体製剤、典型的にはノーマルセーライン、Normosol R(Abbott)またはPlasma-Lyte A(Baxter)、水中5%デキストロース、乳酸リンゲル液であってもよい。注入媒体に、ヒト血清アルブミンまたは他のヒト血清成分を補充していてもよい。
【0212】
医薬組成物は、医学分野の当業者により決定されるように、処置(または防止)しようとする疾患または状態に適切な様式で投与することができる。組成物の適切な用量ならびに好適な投与期間および投与頻度は、患者の健康状態、患者の大きさ(つまり、体重、嵩、または体面積)、患者の状態のタイプおよび重症度、活性成分の特定の形態、および投与方法などの要因により決定される。一般に、適切な用量および処置レジメンは、治療的および/または予防的利益を(より頻繁な完全なまたは部分的な寛解、またはより長い無病生存期間および/もしくは全生存期間、または症状の重症度の軽減など、臨床転帰の向上を含む、本明細書に記載のものなど)提供するのに十分な量の組成物(複数可)を提供する。
【0213】
本明細書には、有効量の修飾免疫細胞または修飾免疫細胞を含む組成物を含む単位用量も提供される。ある特定の実施形態では、単位用量は、(i)少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、または少なくとも約95%の修飾CD4+ T細胞を含む組成物と、(ii)少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、または少なくとも約95%の修飾CD8+ T細胞を含む組成物とを約1:1比の組合せで含み、単位用量は、低減された量のナイーブT細胞を含有するかまたはナイーブT細胞を実質的に含有しない(つまり、同等の数のPBMCを有する患者試料と比較して、約50%未満、約40%未満、約30%未満、約20%未満、約10%未満、約5%未満、または約1%未満(less then)のナイーブT細胞の集団が単位用量中に存在する)。
【0214】
一部の実施形態では、単位用量は、(i)少なくとも約50%の修飾CD4+ T細胞を含む組成物と、(ii)少なくとも約50%の修飾CD8+ T細胞を含む組成物とを約1:1比の組合せで含み、単位用量は、低減された量のナイーブT細胞を含有するかまたはナイーブT細胞を実質的に含有しない。さらなる実施形態では、単位用量は、(i)少なくとも約60%の修飾CD4+ T細胞を含む組成物と、(ii)少なくとも約60%の修飾CD8+ T細胞を含む組成物とを約1:1比の組合せで含み、単位用量は、低減された量のナイーブT細胞を含有するかまたはナイーブT細胞を実質的に含有しない。またさらなる実施形態では、単位用量は、(i)少なくとも約70%の操作されたCD4+ T細胞を含む組成物と、(ii)少なくとも約70%の操作されたCD8+ T細胞を含む組成物とを約1:1比の組合せで含み、単位用量は、低減された量のナイーブT細胞を含有するかまたはナイーブT細胞を実質的に含有しない。一部の実施形態では、単位用量は、(i)少なくとも約80%の修飾CD4+ T細胞を含む組成物と、(ii)少なくとも約80%の修飾CD8+ T細胞を含む組成物とを約1:1比の組合せで含み、単位用量は、低減された量のナイーブT細胞を含有するかまたはナイーブT細胞を実質的に含有しない。一部の実施形態では、単位用量は、(i)少なくとも約85%の修飾CD4+ T細胞を含む組成物と、(ii)少なくとも約85%の修飾CD8+ T細胞を含む組成物とを約1:1比の組合せで含み、単位用量は、低減された量のナイーブT細胞を含有するかまたはナイーブT細胞を実質的に含有しない。一部の実施形態では、単位用量は、(i)少なくとも約90%の修飾CD4+ T細胞を含む組成物と、(ii)少なくとも約90%の修飾CD8+ T細胞とを含む組成物を約1:1比の組合せで含み、単位用量は、低減された量のナイーブT細胞を含有するかまたはナイーブT細胞を実質的に含有しない。
【0215】
組成物または単位用量中の細胞の量は、少なくとも1つの細胞(例えば、1つの組換えCD8+ T細胞部分集団(例えば、必要に応じてメモリーおよび/またはナイーブCD8+ T細胞を含む);1つの組換えCD4+ T細胞部分集団(例えば、必要に応じてメモリーおよび/またはナイーブCD4+ T細胞を含む))であるか、またはより典型的には102個よりも多くの細胞、例えば、最大で104個、最大で105個、最大で106個、最大で107個、最大で108個、最大で109個、または1010個よりも多くの細胞である。ある特定の実施形態では、細胞は、約104~約1010細胞/m2の範囲で、好ましくは、約105~約109細胞/m2の範囲で投与される。一部の実施形態では、投与される用量は、最大で約3.3×105細胞/kgを含む。一部の実施形態では、投与される用量は、最大で約1×106細胞/kgを含む。一部の実施形態では、投与される用量は、最大で約3.3×106細胞/kgを含む。一部の実施形態では、投与される用量は、最大で約1×107細胞/kgを含む。ある特定の実施形態では、組換え宿主細胞は、最大で約5×104細胞/kg、5×105細胞/kg、5×106細胞/kg、または最大で約5×107細胞/kgを含む用量で対象に投与される。ある特定の実施形態では、組換え宿主細胞は、少なくとも約5×104細胞/kg、5×105細胞/kg、5×106細胞/kg、または最大で約5×107細胞/kgを含む用量で対象に投与される。細胞の数は、組成物が意図される最終的な使用、ならびにそこに含まれる細胞のタイプに依存する。例えば、結合タンパク質を発現またはコードするように修飾された細胞は、そのような細胞の少なくとも30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、またはそれよりも多くを含有する細胞集団を含む。本明細書で提供される使用の場合、細胞は、一般に、1リットルもしくはそれ未満、500mlもしくはそれ未満、250mlもしくはそれ未満、または100mlもしくはそれ未満の体積中にある。実施形態では、所望の細胞の密度は、典型的には104細胞/mlよりも大きく、一般に107細胞/mlよりも大きく、一般に108細胞/mlまたはそれよりも大きい。細胞は、単回注入として投与してもよく、またはある時間範囲にわたる複数回注入で投与してもよい。ある特定の実施形態では、臨床的に関連する数の細胞を、累積で106、107、108、109、1010、または1011個に等しいかまたはそれを超える細胞の複数回の注入に配分してもよい。ある特定の実施形態では、細胞の単位用量は、同種異系ドナーに由来する造血幹細胞と共に共投与してもよい(例えば、同時にまたは同時期に(contemporaneously))。一部の実施形態では、単位用量に含まれる細胞の1つまたは複数は、対象に対して自己性である。
【0216】
本開示の単位用量、組成、または処置レジメンは、本明細書に記載のようなMsln特異的結合タンパク質または組換え宿主細胞を含んでいてもよく、さらに、異なる抗原(例えば、異なるMsln抗原、または異なるタンパク質もしくは標的由来の抗原、例えば、BCMA、CA19-9、BRAF、CD3、CEACAM6、c-Met、EGFR、EGFRvIII、ErbB2、ErbB3、ErbB4、EphA2、IGF1R、GD2、O-アセチルGD2、O-アセチルGD3、GHRHR、GHR、FLT1、KDR、FLT4、CD44v6、CD151、CA125、CEA、CTLA-4、GITR、BTLA、TGFBR2、TGFBR1、IL6R、gp130、ルイスA、ルイスY、TNFR1、TNFR2、PD1、PD-L1、PD-L2、HVEM、MAGE-A(例えば、MAGE-A1、MAGE-A3、およびMAGE-A4など)、KRAS、HER2、NY-ESO-1、PSMA、RANK、ROR1、TNFRSF4、CD40、CD137、TWEAK-R、HLA、HLAに結合した腫瘍もしくは病原体関連ペプチド、HLAに結合したhTERTペプチド、HLAに結合したチロシナーゼペプチド、LTβR、LIFRβ、LRP5、MUC1、OSMRβ、TCRα、TCRβ、CD19、CD20、CD22、CD25、CD28、CD30、CD33、CD52、CD56、CD79a、CD79b、CD80、CD81、CD86、CD123、CD171、CD276、B7H4、TLR7、TLR9、PTCH1、WT-1、HA1-H、Robo1、α-フェトプロテイン(AFP)、Frizzled、OX40、PRAME、およびSSX-2など)に特異的な結合タンパク質を発現する(例えば、修飾)免疫細胞も含むことが理解される。例えば、単位用量または治療レジメンは、CA19-9抗原に特異的に結合する結合タンパク質(例えば、TCRまたはCAR)を発現するMsln抗原:HLA複合体および修飾CD4+T細胞(および/または修飾CD8+T細胞)に特異的に結合する結合タンパク質を発現する修飾CD4+T細胞を含んでいてもよい。
【0217】
本明細書に記載の実施形態のいずれかでは、単位用量は、等しい、またはおよそ等しい数の操作されたCD45RA-CD3+CD8+および修飾CD45RA-CD3+CD4+TM細胞を含む。
【0218】
本明細書に記載の医薬組成物は、密封されたアンプルまたはバイアルなど、単位用量または複数用量の容器で提供することができる。そのような容器は、患者に注入されるまで製剤の安定性を保持するために凍結されていてもよい。
【0219】
本明細書で使用される場合、組成物の投与は、例えば、静脈内、経口、膣、直腸、または皮下などの送達経路または送達モードに関わらず、それを対象に送達することを指す。投与は、継続的または断続的におよび非経口的に行うことができる。投与は、認識されている状態、疾患、または疾患状態を有することが既に確認されている対象を処置するためであってもよく、またはそのような状態、疾患、もしくは疾患状態を発症し易いかもしくは発症するリスクがある対象を処置するためのものであってもよい。補助療法との共投与は、任意の順序および任意の投薬スケジュールでの複数の薬剤の同時送達および/または逐次送達を含んでいてもよい(例えば、組換え宿主細胞を、1つまたは複数のサイトカイン;カルシニューリン阻害剤、コルチコステロイド、微小管阻害剤などの免疫抑制療法剤、低用量のミコフェノール酸プロドラッグ、またはそれらの任意の組合せと共に)。
【0220】
本主題の組成物が非経口的に投与される場合、組成物は、滅菌水性または油性液剤または懸濁剤も含むことができる。好適な非毒性で非経口的に許容される希釈剤または溶媒としては、水、リンゲル液、等張性塩溶液、1,3-ブタンジオール、エタノール、プロピレングリコール、または水との混合物中のポリエチレングリコールが挙げられる。水性液剤または懸濁剤は、酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、ホウ酸ナトリウム、または酒石酸ナトリウムなど、1つまたは複数の緩衝剤をさらに含んでいてもよい。無論、任意の投与量単位製剤を調製する際に使用される任意の材料は、薬学的に純粋であり、使用される量において実質的に無毒性であるべきである。加えて、活性化合物は、徐放性調製物および製剤に組み込まれてもよい。投与量単位形態は、本明細書で使用される場合、処置する対象のための1単位の投与量に適した物理的に別個の単位を指し、各単位は、適切な医薬担体と共に、所望の治療効果を生み出すように計算された所定量の組換え細胞または活性化合物を含有してもよい。
【0221】
ある特定の実施形態では、本明細書に記載の組成物(例えば、組換え宿主細胞)の複数の用量を対象に投与し、組成物は、約2~約4週間の投与間隔で対象に投与してもよい。
【0222】
本開示の処置方法または防止方法は、処置過程またはレジメンの一部として対象に施すことができ、本開示の単位用量、細胞、または組成物の投与前または投与後の追加の処置を含んでいてもよい。例えば、ある特定の実施形態では、例えば、組換え宿主細胞の単位用量を受ける対象は、造血細胞移植(HCT;骨髄破壊的および非骨髄破壊的HCTを含む)を受けているかまたは以前に受けたことがある。HCTを実施するための技法およびレジメンは、当技術分野で公知であり、臍帯血、骨髄、もしくは末梢血に由来する細胞、造血幹細胞、動員された幹細胞、または羊水に由来する細胞など、任意の好適なドナー細胞の移植を含んでいてもよい。したがって、ある特定の実施形態では、本開示の1つの組換え宿主細胞は、改変型HCT療法では造血幹細胞と共にまたはその直ぐ後で投与することができる。一部の実施形態では、HCTは、HLA成分をコードする遺伝子の染色体ノックアウト、TCR成分をコードする遺伝子の染色体ノックアウト、または両方を含むドナー造血細胞を含む。
【0223】
CTL免疫応答のレベルは、本明細書に記載されており、当技術分野で日常的に実施されている多数の免疫学的方法のいずれか1つにより決定することができる。CTL免疫応答のレベルは、本明細書に記載のMsln特異的結合タンパク質(またはそれらをコードするおよび/または発現する宿主細胞)または免疫原性組成物のいずれか1つの投与前にまたは投与後に決定してもよい。CTL活性を決定するための細胞傷害性アッセイは、当技術分野で日常的に実施されている幾つかの技法および方法のいずれか1つを使用して実施することができる(例えば、Henkart, et al., ”Cytotoxic T-Lymphocytes” in Fundamental Immunology, Paul (ed.) (2003 Lippincott Williams & Wilkins, Philadelphia, PA), pages 1127-50、およびそこに引用されている文献を参照)。
【0224】
抗原特異的T細胞応答は、典型的には、本明細書に記載のT細胞機能パラメーター(例えば、増殖、サイトカイン放出、CTL活性、細胞表面マーカー表現型の変更など)のいずれかにより観察されるT細胞応答を比較することにより決定され、比較は、適切な状況にて同族抗原に曝露されたT細胞(例えば、免疫適合性の抗原提示細胞により提示された際にT細胞を初期刺激または活性化するために使用される抗原)と、その代わりに構造的に異なるかまたは無関係の対照抗原に曝露された同じ供給源集団に由来するT細胞との間で行ってもよい。同族抗原に対する応答が、対照抗原に対する応答よりも統計的に有意に大きいことは、抗原特異性であることを意味する。
【0225】
本明細書に記載のようなMslnペプチドに対する免疫応答の存在およびレベルを決定するために、対象から生物学的試料を得ることができる。「生物学的試料」は、本明細書で使用される場合、血液試料(それから血清または血漿を調製することができる)、生検標本、体液(例えば、肺洗浄液、腹水、粘膜洗浄液、滑液など)、骨髄、リンパ節、組織外植片、臓器培養物、または対象もしくは生物学的供給源に由来する任意の他の組織もしくは細胞調製物であってもよい。また、生物学的試料は、いずれの免疫原性組成物も受ける前の対象から得ることができ、この生物学的試料は、ベースライン(つまり、免疫前)データを確立するための対照として有用である。
【0226】
一部の実施形態では、本発明の組成物を受ける対象は、これまでに化学療法、例えばリンパ球枯渇化学療法を受けたことがある。さらなる実施形態では、リンパ球枯渇化学療法は、シクロホスファミド、フルダラビン、抗胸腺細胞グロブリン、オキサリプラチン、またはそれらの組合せを含む。一部の実施形態では、本発明の組成物は、これまでに、放射線療法、サイトカイン、抗体、抗体-薬物コンジュゲート、もしくはFc融合タンパク質を含む免疫療法、アンチセンスヌクレオチド療法、遺伝子治療、ワクチン、または外科手術、またはそれらの任意の組合せを受けたことがある。
【0227】
本開示による方法および使用は、併用療法において疾患または障害を処置するために1つまたは複数の追加の薬剤を投与することをさらに含んでいてもよい。例えば、ある特定の実施形態では、併用療法は、組成物(例えば、任意の1つまたは複数の結合タンパク質、それらをコードするおよび/または発現する修飾宿主細胞、ポリヌクレオチド、ベクター)を、免疫チェックポイント阻害剤と共に(併せて、同時に、または逐次的に)投与することを含む。一部の実施形態では、併用療法は、本開示の組成物を、刺激性免疫チェックポイント作用物質のアゴニストと共に投与することを含む。さらなる実施形態では、併用療法は、本開示の組成物を、二次療法、例えば化学療法剤、放射線療法、外科手術、抗体、抗体薬物コンジュゲート、サイトカイン、アンチセンス療法、遺伝子治療、ワクチン、またはそれらの任意の組合せと共に投与することを含む。
【0228】
本明細書で使用される場合、用語「免疫抑制剤(immune suppression agent)」または「免疫抑制作用物質(immunosuppression agent)」は、免疫応答の制御または抑制を支援するための阻害シグナルを提供する1つまたは複数の細胞、タンパク質、分子、化合物、または複合体を指す。例えば、免疫抑制剤としては、免疫刺激を部分的または完全に遮断する;免疫活性化を減少、防止、もしくは遅延させる;または免疫抑制を増加、活性化、もしくは上方制御する分子が挙げられる。標的とする(例えば、免疫チェックポイント阻害剤を用いて)例示的な免疫抑制作用物質としては、以下のものが挙げられる:PD-1、PD-L1、PD-L2、LAG3、CTLA4、B7-H3、B7-H4、CD244/2B4、HVEM、BTLA、CD160、TIM3、GAL9、KIR、PVR1G(CD112R)、PVRL2、アデノシン、A2aR、免疫抑制性サイトカイン(例えば、IL-10、IL-4、IL-1RA、IL-35)、IDO、アルギナーゼ、VISTA、TIGIT、LAIR1、CEACAM-1、CEACAM-3、CEACAM-5、Treg細胞、またはそれらの任意の組合せ。
【0229】
免疫抑制剤阻害剤(免疫チェックポイント阻害剤とも呼ばれる)は、化合物、抗体、抗体断片、または融合ポリペプチド(例えば、CTLA4-FcまたはLAG3-FcなどのFc融合)、アンチセンス分子、リボザイム、またはRNAi分子、または低分子量有機分子であってもよい。本明細書に開示の実施形態のいずれかでは、方法は、以下の免疫抑制成分のいずれか1つの1つまたは複数の阻害剤を単独でまたは任意の組合せで含む本開示の組成物を含んでいてもよい。
【0230】
したがって、ある特定の実施形態では、本開示による処置方法は、PD-1阻害剤を対象に投与することをさらに含んでいてもよい。
PD-1阻害剤は、ニボルマブ(OPDIVO(登録商標));ペムブロリズマブ(KEYTRUDA(登録商標));イピリムマブ+ニボルマブ(YERVOY(登録商標)+OPDIVO(登録商標));セミプリマブ;IBI-308;ニボルマブ+リラトリマブ;BCD-100;カムレリズマブ;JS-001;スパルタリズマブ;チスレリズマブ;AGEN-2034;BGBA-333+チスレリズマブ;CBT-501;ドスタルリマブ;デュルバルマブ+MEDI-0680;JNJ-3283;パゾパニブ塩酸塩+ペムブロリズマブ;ピジリズマブ;REGN-1979+セミプリマブ;ABBV-181;ADUS-100+スパルタリズマブ;AK-104;AK-105;AMP-224;BAT-1306;BI-754091;CC-90006;セミプリマブ+REGN-3767;CS-1003;GLS-010;LZM-009;MEDI-5752;MGD-013;PF-06801591;Sym-021;チスレリズマブ+パミパリブ;XmAb-20717;AK-112;ALPN-202;AM-0001;アルツハイマー病に関してPD-1をアンタゴナイズする抗体;BH-2922;BH-2941;BH-2950;BH-2954;固形腫瘍に関してCTLA-4およびPD-1をアンタゴナイズする生物製剤;腫瘍学に関してPD-1およびLAG-3を標的とする二重特異性モノクローナル抗体;BLSM-101;CB-201;CB-213;CBT-103;CBT-107;細胞性免疫療法+PD-1阻害剤;CX-188;HAB-21;HEISCOIII-003;IKT-202;JTX-4014;MCLA-134;MD-402;mDX-400;MGD-019;腫瘍学に関してPDCD1をアンタゴナイズするモノクローナル抗体;腫瘍学に関してPD-1をアンタゴナイズするモノクローナル抗体;腫瘍学に関してPD-1を阻害する腫瘍溶解性ウイルス;OT-2;PD-1アンタゴニスト+ロペグインターフェロンアルファ-2b;PEGMP-7;PRS-332;RXI-762;STIA-1110;TSR-075;腫瘍学に関してHER2およびPD-1を標的とするワクチン;腫瘍学および自己免疫障害に関してPD-1を標的とするワクチン;XmAb-23104;腫瘍学に関してPD-1を阻害するアンチセンスオリゴヌクレオチド;AT-16201;腫瘍学に関してPD-1を阻害する二重特異性モノクローナル抗体;IMM-1802;固形腫瘍および血液腫瘍に関してPD-1およびCTLA-4をアンタゴナイズするモノクローナル抗体;ニボルマブバイオシミラー;腫瘍学に関してCD278およびCD28をアゴナイズし、PD-1をアンタゴナイズする組換えタンパク質;自己免疫障害および炎症性障害に関してPD-1をアゴナイズする組換えタンパク質;SNA-01;SSI-361;YBL-006;AK-103;JY-034;AUR-012;BGB-108;固形腫瘍に関してPD-1、Gal-9、およびTIM-3を阻害する薬物;ENUM-244C8;ENUM-388D4;MEDI-0680;転移性黒色腫および転移性肺がんに関してPD-1をアンタゴナイズするモノクローナル抗体;腫瘍学に関してPD-1を阻害するモノクローナル抗体;腫瘍学に関してCTLA-4およびPD-1を標的とするモノクローナル抗体;NSCLCに関してPD-1をアンタゴナイズするモノクローナル抗体;腫瘍学に関してPD-1およびTIM-3を阻害するモノクローナル抗体;腫瘍学に関してPD-1を阻害するモノクローナル抗体;血液悪性腫瘍および固形腫瘍に関してPD-1およびVEGF-Aを阻害する組換えタンパク質;腫瘍学に関してPD-1をアンタゴナイズする小分子;Sym-016;イネビリズマブ+MEDI-0680;転移性黒色腫に関してPDL-1およびIDOを標的とするワクチン;膠芽腫に関する抗PD-1モノクローナル抗体+細胞性免疫療法;腫瘍学に関してPD-1をアンタゴナイズする抗体;血液悪性腫瘍および細菌感染症に関してPD-1/PD-L1を阻害するモノクローナル抗体;HIVに関してPD-1を阻害するモノクローナル抗体;および/または固形腫瘍に関してPD-1を阻害する小分子を含んでいてもよい。
【0231】
ある特定の実施形態では、本開示の組成物は、LAG525、IMP321、IMP701、9H12、BMS-986016、またはそれらの任意の組合せなどのLAG3阻害剤と組み合わせて使用される。
【0232】
ある特定の実施形態では、本開示の組成物は、CTLA4の阻害剤と組み合わせて使用される。ある特定の実施形態では、組成物は、イピリムマブ、トレメリムマブ、CTLA4-Ig融合タンパク質(例えば、アバタセプト、ベラタセプト)、またはそれらの任意の組合せなど、CTLA4特異的抗体またはその結合性断片と組み合わせて使用される。
【0233】
ある特定の実施形態では、本開示の組成物は、エノブリツズマブ(MGA271)、376.96、または両方など、B7-H3特異的抗体またはその結合性断片と組み合わせて使用される。B7-H4抗体結合性断片は、例えば、Dangaj et al., Cancer Res. 73:4820, 2013に記載のようなscFvまたはその融合タンパク質、ならびに米国特許第9,574,000号明細書およびPCT特許公報国際公開第201640724号A1パンフレットおよび国際公開第2013/025779号A1パンフレットに記載のものであってもよい。
【0234】
ある特定の実施形態では、本開示の組成物は、CD244の阻害剤と組み合わせて使用される。
【0235】
ある特定の実施形態では、本開示の組成物は、BLTA、HVEM、CD160、またはそれらの任意の組合せの阻害剤と組み合わせて使用される。抗CD-160抗体は、例えば、PCT公報国際公開第2010/084158号パンフレットに記載されている。
【0236】
ある特定の実施形態では、本開示の組成物は、TIM3の阻害剤と組み合わせて使用される。
【0237】
ある特定の実施形態では、本開示の組成物は、Gal9の阻害剤と組み合わせて使用される。
【0238】
ある特定の実施形態では、本開示の組成物は、デコイアデノシン受容体など、アデノシンシグナル伝達の阻害剤と組み合わせて使用される。
【0239】
ある特定の実施形態では、本開示の組成物は、A2aRの阻害剤と組み合わせて使用される。
【0240】
ある特定の実施形態では、本開示の組成物は、リリルマブ(BMS-986015)など、KIRの阻害剤と組み合わせて使用される。
【0241】
ある特定の実施形態では、本開示の組成物は、阻害性サイトカイン(典型的には、TGFβ以外のサイトカイン)またはTreg発生もしくは活性の阻害剤と組み合わせて使用される。
【0242】
ある特定の実施形態では、本開示の組成物は、レボ-1-メチルトリプトファン、エパカドスタット(INCB024360;Liu et al., Blood 115:3520-30, 2010)、エブセレン(Terentis et al., Biochem. 49:591-600, 2010)、インドキシモド、NLG919(Mautino et al., American Association for Cancer Research 104th Annual Meeting 2013; Apr 6-10, 2013)、1-メチル-トリプトファン(1-MT)-チラ-パザミン、またはそれらの任意の組合せなどのIDO阻害剤と組み合わせて使用される。
【0243】
ある特定の実施形態では、本開示の組成物は、N(オメガ)-ニトロ-L-アルギニンメチルエステル(L-NAME)、N-オメガ-ヒドロキシ-ノル-l-アルギニン(ノル-NOHA)、L-NOHA、2(S)-アミノ-6-ボロノヘキサン酸(ABH)、S-(2-ボロノエチル)-L-システイン(BEC)、またはそれらの任意の組合せなどのアルギナーゼ阻害剤と組み合わせて使用される。
【0244】
ある特定の実施形態では、本開示の組成物は、CA-170(Curis、Lexington、Mass.)など、VISTAの阻害剤と組み合わせて使用される。
【0245】
ある特定の実施形態では、本開示の組成物は、例えばCOM902(Compugen、Toronto、Ontario Canada)など、TIGITの阻害剤、例えばCOM701(Compugen)など、CD155の阻害剤、または両方と組み合わせて使用される。
【0246】
ある特定の実施形態では、本開示の組成物は、PVRIG、PVRL2、または両方の阻害剤と組み合わせて使用される。抗PVRIG抗体は、例えば、PCT公報国際公開第2016/134333号パンフレットに記載されている。抗PVRL2抗体は、例えば、PCT公報国際公開第2017/021526号パンフレットに記載されている。
【0247】
ある特定の実施形態では、本開示の組成物は、LAIR1阻害剤と組み合わせて使用される。
【0248】
ある特定の実施形態では、本開示の組成物は、CEACAM-1、CEACAM-3、CEACAM-5、またはそれらの任意の組合せの阻害剤と組み合わせて使用される。
【0249】
ある特定の実施形態では、本開示の組成物は、刺激性免疫チェックポイント分子の活性を増加させる(つまり、アゴニストである)薬剤と組み合わせて使用される。例えば、組成物は、以下のものと組み合わせて使用することができる:CD137(4-1BB)アゴニスト(例えば、ウレルマブなど)、CD134(OX-40)アゴニスト(例えば、MEDI6469、MEDI6383、またはMEDI0562など)、レナリドミド、ポマリドミド、CD27アゴニスト(例えば、CDX-1127など)、CD28アゴニスト(例えば、TGN1412、CD80、またはCD86など)、CD40アゴニスト(例えば、CP-870,893、rhuCD40L、またはSGN-40など)、CD122アゴニスト(例えば、IL-2など)、GITRのアゴニスト(例えば、PCT特許公報国際公開第2016/054638号パンフレットに記載のヒト化モノクローナル抗体など)、ICOS(CD278)のアゴニスト(例えば、GSK3359609、mAb88.2、JTX-2011、Icos145-1、Icos314-8、またはそれらの任意の組合せなど)。本明細書に開示の実施形態のいずれかでは、方法は、上述のもののいずれかを単独でまたは任意の組合せで含む、刺激性免疫チェックポイント分子の1つまたは複数のアゴニストと共に、本開示の組成物を投与することを含んでいてもよい。
【0250】
ある特定の実施形態では、併用療法は、本開示の組成物と、非炎症性固形腫瘍により発現されるがん抗原に特異的な抗体もしくはその抗原結合性断片、放射線処置、外科手術、化学療法剤、サイトカイン、RNAi、またはそれらの任意の組合せの1つまたは複数を含む二次療法とを含む。
【0251】
ある特定の実施形態では、併用療法の方法は、本開示の組成物を投与すること、および放射線処置または外科手術をさらに施すことを含む。放射線療法は、当技術分野で周知であり、ガンマ線照射などのX線療法、および放射性医薬品療法を含む。対象における所与のがんを処置するのに適切な外科手術および外科的技法は、当業者に周知である。
【0252】
免疫抗がんまたは抗腫瘍応答の促進に有用なサイトカインとしては、本開示の組成物と共に単独でまたは任意の組合せで用いられる、例えば、IFN-α、IL-2、IL-3、IL-4、IL-10、IL-12、IL-13、IL-15、IL-16、IL-17、IL-18、IL-21、IL-24、およびGM-CSFが挙げられる。さらなる実施形態では、サイトカインは逐次的に投与されるが、ただし対象には、サイトカイン投与前に、Msln特異的組成物が少なくとも3回または4回投与されていた。ある特定の実施形態では、サイトカインは皮下投与される。一部の実施形態では、対象は、カルシニューリン阻害剤、コルチコステロイド、微小管阻害剤、低用量のミコフェノール酸プロドラッグ、またはそれらの任意の組合せなどの免疫抑制療法を受けたことがあるか、またはさらに受けている。またさらなる実施形態では、治療されている対象は、非骨髄破壊的または骨髄破壊的造血細胞移植を受けたことがあり、処置は、非骨髄破壊的造血細胞移植の少なくとも2か月後~少なくとも3か月後に施されてもよい。
【0253】
ある特定の実施形態では、併用療法の方法は、本開示に従って本開示の組成物を投与すること、および化学療法剤をさらに投与することを含む。化学療法剤としては、これらに限定されないが、以下のものが挙げられる:クロマチン機能の阻害剤、トポイソメラーゼ阻害剤、微小管阻害薬、DNA損傷剤、代謝拮抗剤(葉酸アンタゴニスト、ピリミジンアナログ、プリンアナログ、および糖修飾アナログなど)、DNA合成阻害剤、DNA相互作用物質(挿入剤など)、およびDNA修復阻害剤。例示的な化学療法剤としては、これらに限定されないが、以下の群が挙げられる:ピリミジンアナログ(5-フルオロウラシル、フロクスウリジン、カペシタビン、ゲムシタビン、およびシタラビン)、およびプリンアナログ、葉酸アンタゴニスト、および関連阻害剤(メルカプトプリン、チオグアニン、ペントスタチン、および2-クロロデオキシアデノシン(クラドリビン))などの代謝拮抗剤/抗がん剤;ビンカアルカロイド(ビンブラスチン、ビンクリスチン、およびビノレルビン)などの天然産物、タキサン(パクリタキセル、ドセタキセル)、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ノコダゾール、エポチロン、およびナベルビンなどの微小管破壊剤、エピジポドフィロトキシン(エトポシド、テニポシド)、DNA損傷剤(アクチノマイシン、アムサクリン、アントラサイクリン、ブレオマイシン、ブスルファン、カンプトテシン、カルボプラチン、クロラムブシル、シスプラチン、シクロホスファミド、シトキサン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、エピルビシン、ヘキサメチルメラミンオキサリプラチン、イホスファミド(iphosphamide)、メルファラン、メルクロレタミン(merchlorehtamine)、マイトマイシン、ミトキサントロン、ニトロソ尿素、プリカマイシン、プロカルバジン、タキソール、タキソテール、テモゾラミド(temozolamide)、テニポシド、トリエチレンチオホスホルアミド、およびエトポシド(VP16))を含む抗増殖剤/抗有糸分裂剤;ダクチノマイシン(アクチノマイシンD)、ダウノルビシン、ドキソルビシン(アドリアマイシン)、イダルビシン、アントラサイクリン、ミトキサントロン、ブレオマイシン、プリカマイシン(ミトラマイシン)、およびマイトマイシンなどの抗生物質;酵素(L-アスパラギンを全身性に代謝し、それら自体のアスパラギンを合成する能力を有しない細胞を欠乏させるL-アスパラギナーゼ);抗血小板剤;窒素マスタード(メクロレタミン、シクロホスファミドおよびアナログ、メルファラン、クロラムブシル)、エチレンイミンおよびメチルメラミン(ヘキサメチルメラミンおよびチオテパ)、アルキルスルホネート-ブスルファン、ニトロソ尿素(カルムスチン(BCNU)およびアナログ、ストレプトゾシン)、トラゼン-ダカルバジニン(trazenes-dacarbazinine)(DTIC)などの抗増殖性/抗有糸分裂性アルキル化剤(DTIC);葉酸アナログ(メトトレキセート)などの抗増殖性/抗有糸分裂性代謝拮抗剤;白金配位錯体(シスプラチン、カルボプラチン)、プロカルバジン、ヒドロキシ尿素、ミトタン、アミノグルテチミド;ホルモン、ホルモンアナログ(エストロゲン、タモキシフェン、ゴセレリン、ビカルタミド、ニルタミド)、およびアロマターゼ阻害剤(レトロゾール、アナストロゾール);抗凝固剤(ヘパリン、合成ヘパリン塩、およびトロンビンの他の阻害剤);線維素溶解剤(組織プラスミノーゲンアクチベーター、ストレプトキナーゼ、およびウロキナーゼなど)、アスピリン、ジピリダモール、チクロピジン、クロピドグレル、アブシキシマブ;抗遊走剤;抗分泌剤(ブレベルジン);免疫抑制剤(シクロスポリン、タクロリムス(FK-506)、シロリムス(ラパマイシン)、アザチオプリン、ミコフェノール酸モフェチル);抗血管新生化合物(TNP470、ゲニステイン)および成長因子阻害剤(血管内皮成長因子(VEGF)阻害剤、線維芽細胞成長因子(FGF)阻害剤);アンジオテンシン受容体遮断剤;一酸化窒素ドナー;アンチセンスオリゴヌクレオチド;抗体(トラスツズマブ、リツキシマブ);キメラ抗原受容体;細胞周期阻害剤および分化誘導剤(トレチノイン);mTOR阻害剤、トポイソメラーゼ阻害剤(ドキソルビシン(アドリアマイシン)、アムサクリン、カンプトテシン、ダウノルビシン、ダクチノマイシン、エニポシド(eniposide)、エピルビシン、エトポシド、イダルビシン、イリノテカン(CPT-11)、およびミトキサントロン、トポテカン、イリノテカン)、コルチコステロイド(コルチゾン、デキサメタゾン、ヒドロコルチゾン、メチルペドニソロン(methylpednisolone)、プレドニゾン、およびプレニゾロン(prenisolone));成長因子シグナル伝達キナーゼ阻害剤;ミトコンドリア機能障害誘導剤、コレラ毒素、リシン、シュードモナス(Pseudomonas)外毒素、ボルデテラ・パータシス(Bordetella pertussis)アデニル酸シクラーゼ毒素、またはジフテリア毒素などの毒素、およびカスパーゼ活性化因子;ならびにクロマチン破壊因子。
【0254】
一部の実施形態では、T細胞ベースのワクチンを投与することをさらに含む療法を使用してもよい(例えば、PCT公報国際公開第2017/192924号を参照、そこに記載のT細胞ワクチン、免疫原性エンハンサー、トランスポゾン発現構築物、および関連方法は、その全体が(in their entireties entirety)参照により組み込まれる)。ある特定の実施形態では、ワクチン組成物(vaccine compoistion)は、リポソームRNA調製物を含む(例えば、Kreiter, et al, Nature 520: 692, 2015を参照、そこに記載の調製物およびそれらの製造方法は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)。ある特定の実施形態では、ワクチン組成物は、ペプチドでパルスした樹状細胞または他の抗原提示細胞を調製するために使用され、これは、ex vivo、in vitro、またはin vivoで実行することができる。
【0255】
本開示はまた、抗原でパルスした抗原提示細胞を調製するための方法も提供する。一部の実施形態では、本方法は、in vitroにおいて、抗原のプロセシングおよび提示に十分な条件および時間で抗原提示細胞と接触させて、(i)対象と免疫適合性である抗原提示細胞の集団、および(ii)本明細書に記載のようなポリヌクレオチド、ペプチド、免疫原性組成物、および/または発現ベクターを生じさせ、それによって、本明細書に記載のようなMslnペプチドに対する抗原特異的T細胞応答を惹起することが可能な、抗原でパルスした抗原提示細胞を得ることを含む。本方法は、Msln特異的T細胞を生成するのに十分な条件下および時間にわたって、抗原パルス抗原提示細胞を1つまたは複数の免疫適合性T細胞と接触させることをさらに含んでいてもよい。
【0256】
ある特定の実施形態では、本方法は、in vitroまたはex vivoにおいて、このようにして決定された結合タンパク質をコードする核酸配列を含むポリヌクレオチドを免疫細胞の集団にトランスフェクトまたは形質導入し、それによって、細胞が対象に投与されたときに、必要に応じて、Msln抗原に対する抗原特異的T細胞応答を養子移入または付与するのに有効な量で、操作されたMsln特異的免疫細胞の集団を得ることをさらに含む。
【0257】
一部の実施形態では、免疫細胞株は、Hoら(2006 J Immunol Methods 310 (1-2): 40-52)を参照)により記載のように生成することができる。例えば、樹状細胞(DC)は、GM-CSF(800U/ml)およびIL-4(1000U/ml)を補充したDC培地(CELLGENIX(商標)、Freiburg、Germany)中で2日間にわたって(-2日目~0日目)培養することにより、PBMCのプラスチック付着画分から得ることができる。-1日目に、成熟サイトカインTNFα(1100U/ml)、IL-1β(2000U/ml)、IL-6(1000U/ml)、およびPGE2(1μg/ml)を添加してもよい。0日目に、DCを回収し、洗浄し、無血清DC培地中にて2~4時間にわたってペプチド(10μg/mlの単一ペプチドまたは2μg/mlのペプチドプール)でパルスしてもよい。CD8 T細胞を、抗CD8マイクロビーズ(MILTENYI BIOTEC(商標)、Auburn、Calif.)を使用してPBMCから単離し、IL-21(30ng/ml)の存在下で1:5~1:10のエフェクター標的(E:T)比のDCで刺激してもよい。3日目に、IL-2(12.5U/ml)、IL-7(5ng/ml)、およびIL-15(5ng/ml)を添加してもよい。細胞を、IL-21の存在下で2時間にわたってペプチドパルスした後、照射した自己PBMCのプラスチック付着画分を抗原提示細胞(APC)として使用して10日目~14日目に再刺激してもよい。再刺激後、細胞を1日目からIL-2(25U/ml)、IL-7(5ng/ml)、およびIL-15(5ng/ml)を補充してもよい。限界希釈の細胞をプレーティングし、OKT3(ORTHO BIOTECH(商標)、Bridgewater、N.J.)でコーティングしたTM-LCLおよびフィーダーとしての同種異系PBMCを用いて拡大させることにより(REPプロトコール)、(Ho, et al., 2006 J Immunol Methods 310 (1-2): 40-52を参照)に記載のようにT細胞クローンを生成することができる。
【0258】
本開示は、他の実施形態のなかでも、以下の実施形態を提供する。
【0259】
一実施形態では、T細胞受容体(TCR)α鎖可変ドメイン(Vα)およびTCRβ鎖可変ドメイン(Vβ)を含む結合タンパク質であって、(a)Vαは、配列番号39または37に示されているCDR3アミノ酸配列を含み、Vβは、必要に応じて、配列番号101または99に示されているアミノ酸配列と少なくとも約85%同一性を有するアミノ酸配列を含み、(b)Vβは、配列番号40または配列番号38に示されているCDR3アミノ酸配列を含み、Vαは、必要に応じて、配列番号102または100に示されているアミノ酸配列と少なくとも約85%同一性を有するアミノ酸配列を含み、および/あるいは(c)Vαは、配列番号39または37に示されているCDR3アミノ酸配列を含み、Vβは、配列番号40または38に示されているCDR3アミノ酸配列を含む結合タンパク質が存在し、該結合タンパク質は、メソテリン(Msln)ペプチド:HLA複合体に特異的に結合することが可能である。一実施形態では、(i)本明細書で開示される結合タンパク質の(a)、(b)、および/または(c)のVαは、配列番号102または100に記載のアミノ酸配列と少なくとも約85%同一性を有するアミノ酸配列を含むが、ただしCDRの少なくとも3つまたは4つは、配列に変化がなく、配列変化を有するCDRは、最大でわずか2つのアミノ酸置換、最大で連続する5つのアミノ酸欠失、またはそれらの組合せを有し、および/あるいは(ii)本明細書で開示される結合タンパク質の(a)、(b)、および/または(c)のVβは、配列番号101または99に示されているアミノ酸配列と少なくとも約85%同一性を有するアミノ酸配列を含むが、ただしCDRの少なくとも3つまたは4つは、配列に変化がなく、配列変化を有するCDRは、最大でわずか2つのアミノ酸置換、最大で連続する5つのアミノ酸欠失、またはそれらの組合せを有する。さらに、一実施形態に記載の結合タンパク質は、(a)配列番号93に示されているCDR1αアミノ酸配列、(b)配列番号94に示されているCDR2αアミノ酸配列、(c)配列番号39に示されているCDR3αアミノ酸配列、(d)配列番号83に示されているCDR1βアミノ酸配列、必要に応じて配列番号84に示されている、さらに必要に応じて配列番号91に示されているCDR1βアミノ酸配列、(e)配列番号92に示されているCDR2βアミノ酸配列、および(f)配列番号40に示されているCDR3βアミノ酸配列を含んでいてもよい。さらにその上、一実施形態に記載の結合タンパク質は、(a)TRBJ2-3*01、(b)TRAV21*01もしくはTRAV21*02、(c)TRBV5-4*01、(d)TRAJ57*01、および/または(e)TRBD1*01もしくはTRBD2*02によりコードされるアミノ酸配列と少なくとも85%同一性を有するアミノ酸配列を含んでいてもよい。さらにその上、一実施形態に記載の結合タンパク質は、配列番号102に示されているアミノ酸配列と少なくとも約85%同一性を有するアミノ酸配列を含むVα、および配列番号101に示されているアミノ酸配列と少なくとも約85%同一性を有するアミノ酸配列を含むVβを含んでいてもよい。一部の場合において、実施形態は、Vαが、配列番号102に示されているアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、Vβが、配列番号101に示されているアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる、結合タンパク質を含んでいてもよい。さらにその上、一実施形態における結合タンパク質は、TCRα鎖(TCRα)およびTCRβ鎖(TCRβ)を含んでいてもよく、TCRαは、配列番号110または29に示されているアミノ酸配列と少なくとも約85%同一性を有するアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、および/またはTCRβは、配列番号109または28に示されているアミノ酸配列と少なくとも約85%同一性を有するアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる。一部の実施形態は、TCRαが、配列番号110または29に示されているアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、TCRβが、配列番号109または28に示されているアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる、結合タンパク質を含んでいてもよい。さらなる実施形態では、結合タンパク質は、(a)配列番号89に示されているCDR1αのアミノ酸配列、(b)配列番号90に示されているCDR2αのアミノ酸配列、(c)配列番号37に示されているCDR3αのアミノ酸配列、(d)配列番号83に示されているCDR1βのアミノ酸配列、必要に応じて配列番号87に示されているCDR1βのアミノ酸配列、(e)配列番号88に示されているCDR2βのアミノ酸配列、および(f)配列番号38に示されているCDR3βのアミノ酸配列を含む。一実施形態では、結合タンパク質は、(a)TRBJ1-1*01もしくはTRBJ2-3*01、(b)TRAV4-1*01、(c)TRAJ18*01、および/または(d)TRBD1*01もしくはTRBD2*02によりコードされるアミノ酸配列と少なくとも85%同一性を有するアミノ酸配列を含んでいてもよい。一実施形態では、結合タンパク質は、配列番号100に示されているアミノ酸配列と少なくとも約85%同一性を有するアミノ酸配列を含むVαを含んでいてもよく、Vβは、配列番号99に示されているアミノ酸配列と少なくとも約85%同一性を有するアミノ酸配列を含む。一実施形態では、結合タンパク質は、配列番号100に示されているアミノ酸配列を含むかまたはそれからなるVαを含んでいてもよく、Vβは、配列番号99に示されているアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる。一部の実施形態において、結合タンパク質は、TCRα鎖(TCRα)およびTCRβ鎖(TCRβ)を含み、TCRαは、配列番号108または23に示されているアミノ酸配列と少なくとも約85%同一性を有するアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、および/またはTCRβは、配列番号107または22に示されているアミノ酸配列と少なくとも約85%同一性を有するアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる。一部の実施形態において、結合タンパク質は、配列番号108または23に示されているアミノ酸配列を含むかまたはそれからなるTCRαを含み、TCRβは、配列番号107または22に示されているアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる。一部の実施形態では、結合タンパク質は、配列番号32:ヒト白血球抗原(HLA)複合体に特異的に結合することが可能な結合タンパク質を含み、一部のこのような例において、HLAは、HLA-A*201を含む。一部の実施形態では、配列番号32の残基3、5、6、または9のいずれか1つまたは複数のアラニン変異誘発は、結合タンパク質によるMslnペプチド:HLA複合体への結合を阻止しないか、または実質的に損なわない。一部の実施形態において、結合タンパク質は、ペプチド:HLA複合体に結合することが可能であり、ペプチドは、配列番号61に示されているコンセンサスアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる。一部の実施形態では、配列番号32の残基1、5、または9のいずれか1つまたは複数のアラニン変異誘発は、結合タンパク質によるMslnペプチド:HLA複合体への結合を阻止しないか、または実質的に損なわない。一部の実施形態では、結合タンパク質は、ペプチド:HLA複合体に結合することが可能であり、ペプチドは、配列番号62に示されているコンセンサスアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる。一部の実施形態では、結合タンパク質は、ペプチド:HLA複合体に結合しないかまたは特異的に結合せず、ペプチドは、配列番号63~77のいずれか1つまたは複数に示されているアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、HLAは、必要に応じてHLA-A:02*01である。
【0260】
一実施形態では、結合タンパク質は、T細胞受容体(TCR)α鎖可変ドメイン(Vα)およびTCRβ鎖可変ドメイン(Vβ)を含み、(a)Vαは、配列番号33または35に示されているCDR3アミノ酸配列を含み、Vβは、必要に応じて、配列番号95または97に示されているアミノ酸配列と少なくとも約85%同一性を有するアミノ酸配列を含み、(b)Vβは、配列番号34または36に示されているCDR3アミノ酸配列を含み、Vαは、必要に応じて、配列番号96または98に示されているアミノ酸配列と少なくとも約85%同一性を有するアミノ酸配列を含み;および/あるいは(c)Vαは、配列番号33または35に示されるCDR3アミノ酸配列を含み、Vβは、配列番号40または38に示されるCDR3アミノ酸配列を含み、結合タンパク質は、メソテリン(Msln)ペプチド:HLA複合体に特異的に結合することが可能である。一実施形態では、(i)(a)、(b)、および/または(c)のVαは、配列番号96または98に示されているアミノ酸配列と少なくとも約85%同一性を有するアミノ酸配列を含むが、ただしCDRの少なくとも3つまたは4つは、配列に変化がなく、配列変化を有するCDRは、最大でわずか2つのアミノ酸置換、最大で連続する5つのアミノ酸欠失、またはそれらの組合せを有し、および/または(ii)(a)、(b)、および/または(c)のVβは、配列番号95または97に示されているアミノ酸配列と少なくとも約85%同一性を有するアミノ酸配列を含むが、ただしCDRの少なくとも3つまたは4つは、配列に変化がなく、配列変化を有するCDRは、最大でわずか2つのアミノ酸置換、最大で連続する5つのアミノ酸欠失、またはそれらの組合せを有する。一実施形態では、結合タンパク質は、(a)配列番号80に示されているCDR1αアミノ酸配列、(b)配列番号81または118に示されているCDR2αアミノ酸配列、(c)配列番号33に示されているCDR3αアミノ酸配列、(d)配列番号83に示されているCDR1βのアミノ酸配列、必要に応じて配列番号84に示されている、さらに必要に応じて配列番号78に示されているCDR1βのアミノ酸配列、(e)配列番号79に示されているCDR2βアミノ酸配列、および(f)配列番号34に示されているCDR3βアミノ酸配列を含む。一実施形態では、結合タンパク質は、(a)TRBJ2-7*01もしくはTRBJ2-3*01、(b)TRAV1-1*01、(c)TRBV12-4*01、(d)TRAJ3*01、および/または(e)TRBD1*01もしくはTRBD2*02によりコードされるアミノ酸配列と少なくとも85%同一性を有するアミノ酸配列を含む。一実施形態では、結合タンパク質は、配列番号96に示されているアミノ酸配列と少なくとも約85%同一性を有するアミノ酸配列を含むVα、および配列番号95に示されているアミノ酸配列と少なくとも約85%同一性を有するアミノ酸配列を含むVβを含む。一実施形態では、結合タンパク質は、配列番号96に示されているアミノ酸配列を含むかまたはそれからなるVα、および配列番号95に示されているアミノ酸配列を含むかまたはそれからなるVβを含む。一実施形態では、結合タンパク質は、TCRα鎖(TCRα)およびTCRβ鎖(TCRβ)を含み、TCRαは、配列番号104または7に示されているアミノ酸配列と少なくとも約85%同一性を有するアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、および/またはTCRβは、配列番号103または6に示されているアミノ酸配列と少なくとも約85%同一性を有するアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる。一実施形態では、結合タンパク質は、配列番号104または7に示されているアミノ酸配列を含むかまたはそれからなるTCRαを含み、TCRβは、配列番号103または106に示されているアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる。一実施形態では、結合タンパク質は、(a)配列番号85に示されているCDR1αアミノ酸配列、(b)配列番号86または119に示されているCDR2αアミノ酸配列、(c)配列番号35に示されているCDR3αアミノ酸配列、(d)配列番号83に示されているCDR1βアミノ酸配列、必要に応じて配列番号84に示されている、さらに必要に応じて配列番号82に示されているCDR1βアミノ酸配列、(e)配列番号79に示されているCDR2βアミノ酸配列、および(f)配列番号36に示されているCDR3βアミノ酸配列を含む。一実施形態では、結合タンパク質は、(a)TRBJ2-3*01、(b)TRAV12-3*01、(c)TRBV12-3*01、(d)TRAJ29*01、および/または(e)TRBD1*01またはTRBD2*02によりコードされるアミノ酸配列と少なくとも85%同一性を有するアミノ酸配列を含む。一実施形態では、結合タンパク質は、配列番号98に示されているアミノ酸配列と少なくとも約85%同一性を有するアミノ酸配列を含むVα、および配列番号97に示されているアミノ酸配列と少なくとも約85%同一性を有するアミノ酸配列を含むVβを含む。一実施形態では、結合タンパク質は、配列番号98に示されているアミノ酸配列を含むかまたはそれからなるVα、および配列番号97に示されているアミノ酸配列を含むかまたはそれからなるVβを含む。一実施形態では、結合タンパク質は、TCRα鎖(TCRα)およびTCRβ鎖(TCRβ)を含み、TCRαは、配列番号106または15に示されているアミノ酸配列と少なくとも約85%同一性を有するアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、および/またはTCRβは、配列番号105または14に示されているアミノ酸配列と少なくとも約85%同一性を有するアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる。一実施形態では、結合タンパク質は、配列番号106または15に示されているアミノ酸配列を含むかまたはそれからなるTCRα、および配列番号105または14に示されているアミノ酸配列を含むかまたはそれからなるTCRβを含む。一実施形態では、結合タンパク質は、配列番号31:ヒト白血球抗原(HLA)複合体に特異的に結合することが可能であり、HLAは、必要に応じてHLA-A*201である。一実施形態では、結合タンパク質は、必要に応じて可溶性であるTCR、TCRの抗原結合断片、scTCR、またはCARであるかまたはそれを含む。一実施形態では、結合タンパク質は、ヒトであるか、ヒト化されているか、またはキメラである。一実施形態では、結合タンパク質は、CD8の非存在下で、またはCD8とは独立して、メソテリン:HLA複合体に結合することが可能である。
【0261】
一実施形態では、結合タンパク質は、約9μM、約8μM、約7μM、約6μM、約5μM、約4μM、約3μM、約2μM、約1μM、約0.9μM、約0.8μM、約0.7μM、約0.6μM、約0.5μM、約0.4μM、約0.3μM、約0.2μM、またはそれ未満のMslnペプチドのEC50を有する。
【0262】
一実施形態では、本明細書に記載の結合タンパク質、および薬学的に許容される担体、希釈剤、または賦形剤を含む組成物が提供される。
【0263】
一実施形態では、ポリヌクレオチドは、本明細書に記載の結合タンパク質をコードする。一部の実施形態では、ポリヌクレオチドは、宿主細胞における発現のためにコドン最適化されており、宿主細胞は、必要に応じて、ヒト免疫系細胞であり、好ましくはT細胞である。また一部の実施形態では、ポリヌクレオチドは、配列番号1~4、9~12、17~20、25、および26のいずれか1つに示されているポリヌクレオチド配列と少なくとも約50%同一性を有する。一部の実施形態では、ポリヌクレオチドは、(i)それぞれ配列番号1および3、(ii)それぞれ配列番号2および4、(iii)それぞれ配列番号9および11、(iv)それぞれ配列番号10および12、(v)それぞれ配列番号17および19;(vi)それぞれ配列番号18および20、または(vii)それぞれ配列番号25および26に示されているポリヌクレオチド配列と少なくとも約50%同一性を有する、TCRα鎖をコードするポリヌクレオチドおよびTCRβ鎖をコードするポリヌクレオチドを含む。一部の実施形態では、ポリヌクレオチドは、TCRβ鎖をコードするポリヌクレオチドと、TCRα鎖をコードするポリヌクレオチドとの間に配置された自己切断性ペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む。一部の実施形態では、コードされるポリペプチドは、配列番号8、16、24、および30のいずれか1つに示されているアミノ酸配列を含む。一部の実施形態では、結合タンパク質をコードするポリヌクレオチドは、配列番号5、13、21、27、および120のいずれか1つに示されているポリヌクレオチド配列と少なくとも約50%同一性を有する。特定の実施形態では、結合タンパク質をコードするポリヌクレオチドは、配列番号120に示されているポリヌクレオチド配列を含むかまたはそれからなる。
【0264】
一部の実施形態では、発現制御配列に作動可能に連結した本明細書に記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクターが提供される。一部の実施形態では、発現ベクターは、宿主細胞にポリヌクレオチドを送達することが可能である。一部の実施形態では、宿主細胞は、造血前駆細胞またはヒト免疫系細胞である。一部の実施形態では、免疫系細胞は、CD4+T細胞、CD8+T細胞、CD4-CD8-二重陰性T細胞、γδT細胞、ナチュラルキラー細胞、ナチュラルキラーT細胞、マクロファージ、樹状細胞、またはそれらの任意の組合せである。一部の実施形態では、免疫系細胞は、ナイーブT細胞、セントラルメモリーT細胞、幹細胞メモリーT細胞、エフェクターメモリーT細胞、またはそれらの任意の組合せである。一部の実施形態では、発現ベクターは、ウイルスベクターである。一部の実施形態では、ウイルスベクターは、レンチウイルスベクターまたはγ-レトロウイルスベクターである。
【0265】
一実施形態では、組換え宿主細胞は、本明細書に記載のような結合タンパク質をコードする異種性ポリヌクレオチドおよび/または本明細書に記載のような発現ベクターを含み、組換え宿主細胞は、その細胞表面上で、コードされる結合タンパク質を発現することが可能である。一部の実施形態では、組換え宿主細胞は、造血前駆細胞またはヒト免疫系細胞である。一部の実施形態では、組換え宿主細胞は、CD4+T細胞、CD8+T細胞、CD4-CD8-二重陰性T細胞、γδT細胞、ナチュラルキラー細胞、ナチュラルキラーT細胞、マクロファージ、樹状細胞、またはそれらの任意の組合せである。一部の実施形態では、組換え宿主細胞は、T細胞である。一部の実施形態では、組換え宿主細胞は、ナイーブT細胞、セントラルメモリーT細胞、幹細胞メモリーT細胞、エフェクターメモリーT細胞、またはそれらの任意の組合せである。一部の実施形態では、組換え宿主細胞は、内因性TCRをコードするT細胞またはNK-T細胞であり、異種性ポリヌクレオチドによりコードされるメソテリン特異的結合タンパク質は、内因性TCRと比較して、CD3タンパク質とより効率的に会合することが可能である。一部の実施形態では、宿主細胞が、約10-2μMのペプチド、約10-1μMのペプチド、約1μMのペプチド、または約101μMのペプチドの濃度の、コードされる結合タンパク質が結合するMslnペプチドの存在下にある場合、Nur77発現は、組換え宿主細胞において増加し、ペプチドは、必要に応じて、抗原提示細胞によって宿主細胞に提示される。一部の実施形態では、組換え宿主細胞は、組換え宿主細胞が、コードされる結合タンパク質が結合するメソテリンペプチドが存在しないという条件で、(i)HLA-C6:02:01、(ii)HLA-B13:02:01ではなくHLA-B13:01:01、(iii)HLA-A3;(iv)HLA-A29;(v)HLA-B40;(vi)HLA-B44;(vii)HLA-C3;(viii)HLA-C16;(ix)HLA-A1;(x)HLA-24;(xi)HLA-B7;(xii)HLA-B57;(xiii)HLA-C7;(xiv)HLA-A11;(xv)HLA-B15;(xvi)HLA-C4;(xvii)HLA-C12;(xviii)HLA-B8;(xix)HLA-B49;(xx)HLA-B51;(xxi)HLA-C15;(xxii)HLA-A30;(xxiii)HLA-A68;(xxiv)HLA-C2;(xxv)HLA-A32;(xxvi)HLA-A33;(xxvii)HLA-B55;(xxviii)HLA-C1;(xxvix)HLA-C5;(xxix)HLA-B8;(xxx)HLA-B35または(xxxi)(i)~(xxx)の任意の組合せを発現する細胞と接触させた場合、IFN-γを産生しないか、ならびに/または活性化および/もしくは細胞傷害活性を示さないものである。一部の実施形態では、組換え宿主細胞は、内因性TCRをコードするT細胞またはNK-T細胞を含み、異種性ポリヌクレオチドによりコードされる結合タンパク質は、内因性TCRと比較してより高い細胞表面発現を有する。
【0266】
一実施形態では、本明細書に記載の組換え宿主細胞、および薬学的に許容される担体、賦形剤、または希釈剤を含む細胞組成物が提供される。
【0267】
一実施形態では、有効量の本明細書に記載の組換え宿主細胞または細胞組成物を含む単位用量が提供される。
【0268】
一実施形態では、対象におけるメソテリンの発現および/または活性に関連する疾患または障害を処置する方法であって、有効量の本明細書に記載の結合タンパク質、本明細書に記載の組換え宿主細胞、本明細書に記載の組成物、または本明細書に記載の単位用量を対象に投与することを含む、方法が提供される。一実施形態では、本方法は、対象におけるメソテリンの発現および/または活性に関連する疾患または障害を処置する方法であって、疾患または障害は、過剰増殖性疾患または増殖性疾患である、方法を含む。一実施形態では、本方法は、対象におけるメソテリンの発現および/または活性に関連する疾患または障害を処置する方法であって、疾患または障害は、がんであり、必要に応じて、がんは、固形がんまたは血液学的悪性腫瘍である、方法を含む。一実施形態では、本方法は、対象におけるメソテリンの発現および/または活性に関連する疾患または障害を処置する方法であって、疾患または障害は、胆嚢がん、膀胱がん、骨および軟部組織の癌、脳腫瘍、乳がん、子宮頸がん、結腸がん、結腸直腸腺癌、結腸直腸がん、類腱腫、胎児性がん、子宮内膜がん、食道がん、胃がん、胃腺癌、多形性膠芽腫、婦人科腫瘍、頭頸部扁平上皮癌、肝がん、肺がん、中皮腫、悪性黒色腫、骨肉腫、卵巣がん、膵臓がん、膵管腺癌、原発性星状細胞腫瘍、原発性甲状腺がん、前立腺がん、腎臓がん、腎細胞癌、横紋筋肉腫、皮膚がん、軟部組織肉腫、精巣胚細胞腫瘍、尿路上皮がん、子宮肉腫、または子宮がんの1つである、方法を含む。一実施形態では、本方法は、対象におけるメソテリンの発現および/または活性に関連する疾患または障害を処置する方法であって、疾患または障害は、膵臓がん、卵巣がん、乳がん、胃がん、結腸直腸がん、中皮腫、または肺がんの1つである、方法を含む。一実施形態では、結合タンパク質、宿主細胞、組成物、または単位用量は、非経口的に、または静脈内に投与される。一実施形態では、本方法は、複数の用量の結合タンパク質、宿主細胞、組成物、または単位用量を対象に投与することを含み、必要に応じて、複数の用量は、約2~約4週間の投与間隔で投与される。一実施形態では、方法は、サイトカインを対象に投与することをさらに含む。一実施形態では、本方法は、IL-2、IL-15、IL-21、またはそれらの任意の組合せを投与することを含む。一実施形態では、本方法は、免疫チェックポイント阻害剤、刺激性免疫チェックポイント作用物質のアゴニスト、放射線療法、抗体、抗体-薬物コンジュゲート、Fc融合タンパク質、アンチセンスヌクレオチド療法、遺伝子治療、ワクチン、外科手術、化学療法、またはそれらの任意の組合せをさらに受けているか、または受けたことがある対象を含む。
【0269】
一実施形態では、本明細書に記載の結合タンパク質、本明細書に記載の組成物、本明細書に記載のポリヌクレオチド、本明細書に記載の発現ベクター、本明細書に記載の組換え宿主細胞、本明細書に記載の細胞組成物、または本明細書に記載の単位用量は、メソテリンの発現および/または活性によって特徴付けられる疾患または障害の処置における使用のためのものである。
【0270】
一実施形態では、本明細書に記載の結合タンパク質、本明細書に記載の組成物、本明細書に記載のポリヌクレオチド、本明細書に記載の発現ベクター、本明細書に記載の組換え宿主細胞、本明細書に記載の細胞組成物、または本明細書に記載の単位用量は、メソテリンの発現および/または活性によって特徴付けられる疾患または障害の養子免疫療法における使用のためのものである。
【0271】
一実施形態では、本明細書に記載の結合タンパク質、本明細書に記載の組成物、本明細書に記載のポリヌクレオチド、本明細書に記載の発現ベクター、本明細書に記載の組換え宿主細胞、本明細書に記載の細胞組成物、または本明細書に記載の単位用量は、メソテリンの発現および/または活性によって特徴付けられる疾患または障害を処置するための医薬品の製造で使用するためのものである。
【0272】
一実施形態では、メソテリンの発現および/または活性によって特徴付けられる疾患または障害が、中皮腫、膵臓がん、卵巣がん、肺がん、Msln20-28ペプチドを、がんの腫瘍細胞上で発現するそのがん、またはMsln530-538ペプチドを、がんの腫瘍細胞上で発現するそのがんである、本明細書に記載の使用のための結合タンパク質、組成物、ポリヌクレオチド、発現ベクター、組換え宿主細胞、細胞組成物、または単位用量。
【0273】
一実施形態では、メソテリンの発現および/または活性によって特徴付けられる疾患または障害が、膵臓がん、卵巣がん、乳がん、胃がん、結腸直腸がん、中皮腫、または肺がんである、本明細書に記載の使用のための結合タンパク質、組成物、ポリヌクレオチド、発現ベクター、組換え宿主細胞、細胞組成物、または単位用量。
【0274】
一実施形態では、配列番号32:HLA-A:02*01複合体に特異的に結合することが可能である結合タンパク質をコードする単離されたポリヌクレオチドであって、配列番号120に示されているポリヌクレオチド配列を含むかまたはそれからなる、ポリヌクレオチドが提供される。一実施形態では、配列番号32:HLA-A:02*01複合体に特異的に結合することが可能である結合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターであって、ポリヌクレオチドが、発現制御配列に作動可能に連結した配列番号120に示されているポリヌクレオチド配列を含むかまたはそれからなる、発現ベクターが提供される。このような実施形態では、発現ベクター(the expression vector, the expression vector)は、宿主細胞にポリヌクレオチドを送達することが可能である。このような実施形態では、宿主細胞は、造血前駆細胞またはヒト免疫系細胞である。このような実施形態では、発現ベクター免疫系細胞(the expression vector immune system cell)は、CD4+T細胞、CD8+T細胞、CD4-CD8-二重陰性T細胞、γδT細胞、ナチュラルキラー細胞、ナチュラルキラーT細胞、マクロファージ、樹状細胞、またはそれらの任意の組合せである。このような実施形態では、発現ベクター免疫系細胞は、ナイーブT細胞、セントラルメモリーT細胞、幹細胞メモリーT細胞、エフェクターメモリーT細胞、またはそれらの任意の組合せである。発現ベクターが、ウイルスベクターである、請求項86~90のいずれか一項に記載の発現ベクター。このような実施形態では、発現ベクターは、レンチウイルスベクターまたはγ-レトロウイルスベクターであるウイルスベクターである。
【0275】
一実施形態では、本明細書に記載のポリヌクレオチドおよび/または本明細書に記載の発現ベクターを含む組換え宿主細胞であり、前記組換え宿主細胞が、その細胞表面上で、コードされる結合タンパク質を発現することが可能である。このような実施形態では、組換え宿主細胞は、造血前駆細胞またはヒト免疫系細胞である。このような実施形態では、組換え宿主細胞は、免疫系細胞であり、免疫系細胞は、CD4+T細胞、CD8+T細胞、CD4-CD8-二重陰性T細胞、γδT細胞、ナチュラルキラー細胞、ナチュラルキラーT細胞、マクロファージ、樹状細胞、またはそれらの任意の組合せである。このような実施形態では、組換え宿主細胞は、T細胞である。このような実施形態では、組換え宿主細胞は、ナイーブT細胞、セントラルメモリーT細胞、幹細胞メモリーT細胞、エフェクターメモリーT細胞、またはそれらの任意の組合せである。
【実施例】
【0276】
(実施例1)
Msln
20またはMsln
530に特異的なTCRの同定および選択。
例示的なMsln
20またはMsln
530に特異的なTCRクローンは、それぞれ
図1Aおよび1Bに示され、本明細書で示されたTCR単離のための次世代シーケンシング(NGS)ベースの方法における各TCRクローン型の富化スコアがT細胞頻度と比較される。y軸における富化スコアは、ペプチド:HLA四量体への結合の大きさと相関する。全てのTCRを合成し、レポーターT細胞株および一次CD8
+PBMCで発現されたときの機能に関して試験した。最大の機能的なアビディティを有するTCRは、レシピエントのCD8
+T細胞に移行したときに、取り囲まれる(encircled)。これらのデータは、最大の機能的な活性を有すると同定されたTCRが、最大規模の四量体結合を有さず、ペプチド拡大T細胞集団でまれであったことを示す。理論に縛られることはないが、これは、これらのアビディティが高い(highly avid)クローン型によるTCR表面発現の減少に部分的に起因し得る。100種より多くのTCR構築物を合成し、評価した(Msln
20=60種のTCRを合成した;Msln
530=42種のTCRを合成した)。メソテリン特異的なT細胞株を18人のドナーから生成した。細胞を滴定した濃度の四量体で染色し、ソートし、単一細胞TCRシーケンシングによって分析した(合計で約8回のソーティング実験)。
(実施例2)
Msln
530TCRによる四量体結合
【0277】
Msln
530特異的TCRをコードする構築物を、内因性TCR α/β鎖が欠如したCD8
-Jurkat T細胞にレンチウイルスで形質導入し(Jurkat76-暗い灰色のプロット)、またはJurkat76細胞に、CD8αβを発現するように形質導入した(Jurkat76-CD8αβ-明るい灰色のプロット)(
図2を参照)。TCRα/β鎖の非存在下で、CD3は、細胞表面で発現できない。それゆえに、CD3発現は、これらの細胞においてTCR表面発現の代用であり、TCR表面発現に対応する四量体結合を評価することを可能にする。
図2を参照すれば、TCRは、CD3発現に対応する四量体結合の順に提示され、示されたラインより上のTCRは、CD8とは無関係とみなされ、これは高親和性に特徴的である。
(実施例3)
抗原特異的T細胞応答の評価
【0278】
最大レベルの四量体結合を示した4つのTCRを、Nur77遺伝子座にノックインされたtdTomato導入遺伝子を有するレポーターJurkat T細胞株を使用して、抗原特異的な機能に関して評価した。T2標的細胞を、滴定した濃度のペプチドでパルスし、
図3Aに示された通り、TCR発現T細胞を、tdTomato発現に関して評価した。各ペプチド濃度で検出されたtdTomato陽性細胞のパーセンテージをプロットし、非線形回帰によって用量応答曲線に当てはめた(
図3B)。各TCRの計算したEC50をプロットし、TCR B11(本明細書では11Bとも呼ばれる)を最もアビディティが高いTCRとして同定した(
図3Bおよび3Cにおける矢印を参照)。最大レベルの四量体結合を有する2つのTCR(A16およびA3、これらはそれぞれ16Aおよび3Aとも呼ばれる)は、より低い抗原感受性を有することが見出され、これらも
図3Bにおいて矢印で示される。
(実施例4)
Msln
530特異的TCRの機能的な評価
【0279】
上位4つの四量体結合体に関して機能は四量体結合と相関していなかったため、全ての選択されたMsln
530特異的TCRを、抗原感受性の代用として、より低い濃度のペプチド(0.1μm)に応答するtdTomato発現に関して評価した(
図4を参照)。より低いレベルで四量体と結合した2つのTCR(B9およびA11)は、抗原に応答して高レベルのtdTomato発現を媒介することが見出された。
図4において、これらおよび他のTCRからのデータは、囲みで示され;これらは、さらなる研究のための一連のTCRを含んでいた。B9およびA11を含む数種のTCRが、より低い四量体結合にもかかわらず、高い抗原特異的な活性を付与する。
図4において、TCRは、四量体結合の順で提示される。
(実施例5)
選択されたTCRの機能的な評価
【0280】
図5A~5Cを参照して、CD8
+T細胞をドナーPBMCから精製し、Msln
530またはMsln
20に特異的なTCRでレンチウイルスにより形質導入した(これを実施例3および4に記載されるものと類似のプロセスを介して選択した)。8日後、四量体
hi細胞をソートし、さらに8~10日拡大した。形質導入したT細胞を四量体およびCD8で染色して、純度および一様の高いレベルのCD8発現を確認した。
【0281】
図6A~6Cで示されるように、Msln
20(A)またはMsln
530(B)に特異的なTCRを形質導入したエフェクターCD8
+T細胞を、ペプチドでパルスしたT2標的細胞と共にインキュベートし、用量依存性IFN-γ産生を、細胞内IFN-γのフローサイトメトリー分析によって評価した(エフェクター細胞=TCRを形質導入した一次CD8+T細胞(ソートした);標的=ペプチドでパルスしたT2細胞)。各ペプチド濃度で検出されたIFN-γ陽性細胞のパーセンテージをプロットし、非線形回帰によって用量応答曲線に当てはめた。各TCRの計算されたEC50をプロットした。
図6Cにおいて、各エピトープに特異的な最もアビディティが高いTCR(それぞれ「20-B3」および「530-B11」)は、矢印で示される。
(実施例6)
TCRを形質導入したCD8
+T細胞による腫瘍細胞殺滅
【0282】
Msln、MDA-MB-231およびMDA-MB-468を発現する2つの腫瘍細胞株を、特異的な腫瘍細胞溶解を測定するクロム放出アッセイを使用して、滴定した比率のソートおよび精製したMsln特異的TCRを形質導入したCD8
+T細胞によって標的化した(
図7A~7Cを参照)。TCR Msln
530-B11の結果は、最大アビディティのTCRの同定であり、矢印で示される。
(実施例7)
Msln
20およびMsln
530ペプチドのアラニンスキャニングによるエピトープ分析
【0283】
図8は、Mlsn標的ペプチド配列のそれぞれの連続したアミノ酸をアラニンで置き換え、TCRを形質導入したT細胞を、バリアントペプチドでパルスしたHLA-A2
+標的細胞と共にインキュベートしたエピトープ分析アッセイを示す。図の下に、Msln
20特異的TCRによる各バリアントペプチドに応答したIFN-γ産生の代表的なデータを示す。
【0284】
4つの試験したTCRのそれぞれにつき各アラニンで置換したペプチドに応答したIFN-γ+T細胞のパーセントを示すアラニンスキャンアッセイの結果は、
図9A~9Dに示される。必須の残基は、それらの1文字アミノ酸コードによって同定され、非必須の残基は、Xによって示される。
(実施例8)
ヒトプロテオームにおけるMsln
530に相同なエピトープのための分析
【0285】
Msln特異的TCRとの潜在的な交差反応性を有すると予測されたヒトペプチドを、
図10で例示されるように、ScanPrositeツールを使用して、示したMsln
530特異的TCR(A11およびB11)のそれぞれの示したコンセンサスエピトープモチーフについてヒトプロテオームを検索することによって同定した。得られたペプチドを、3つの異なる予測アルゴリズム:SITHPATHI、PanMHCnet、およびIEDBを使用して、HLA-A2結合に関して分析した。各アプローチの推奨されたカットオフは、アルゴリズムの名称の隣に、括弧内に列挙する。潜在的な交差反応するペプチドは、図の記号で示された通りであり、これらをさらなる分析のために合成した。
(実施例9)
ヒトプロテオームにおけるMsln
530に潜在的な相同性を有する合成されたペプチドの分析
【0286】
T2標的細胞を、Msln
530-A11および-B11TCRとの交差反応性について潜在性を有するペプチドでパルスし、これらのTCRを発現するように形質導入したT細胞と共にインキュベートし、純度でソートした(
図11A~11Bを参照;エフェクターT細胞=四量体でソートしたTCRを形質導入したCD8
+T細胞;標的細胞=10μMのペプチドでパルスしたT2細胞)。潜在的な反応性を検出するために、高用量のペプチド(10μM)を使用した。Msln
530-11AおよびMsln
530-11Bに関して、
図11AにIFN-γ陽性TCRを形質導入したT細胞のパーセンテージを示す。グラフの右側に、10μMの野生型Msln
530ペプチドでの応答、および非特異的なT細胞活性化カクテルで得られた最大反応を示す。1つのみのペプチド(#10)が、10μMのペプチドで、TCR Msln
530-11Bを形質導入したT細胞からの低いレベル(<20%)の応答を惹起した。
図11Bにおけるグラフは、生理学的なレベルでの反応性を決定するための、Msln
530ペプチドに対するMsln
530-11Bを形質導入したT細胞の反応性と、それに対するペプチド#10を含むいくつかの潜在的交差反応性ペプチドの用量応答曲線を示す。パーセントIFN-γ
+データを、非線形回帰によって用量応答曲線に当てはめ、EC50値を計算した。これをグラフの下に示す。これらのデータは、ペプチド#10のMsln
530-11BのEC50が、Msln
530のものより3000倍大きいことを示し、それゆえに、Msln
530-11Bは、Msln
530に、ペプチド#10より一層大きい特異性を有する。
(実施例10)
多様なドナー由来のLCLを標的化することによるアロ反応性の分析
【0287】
Msln
20-3BまたはMsln
530-11Aもしくは-11Bを発現するT細胞の潜在的アロ反応性を決定するために、TCRを形質導入したT細胞を、より一般的な対立遺伝子の多くを含む多様なHLA対立遺伝子を天然に発現する同種異系LCLと共に培養した。
図12Aの表中に、LCL株および対応するHLA対立遺伝子発現を列挙する。各細胞株につき(
図12B~12I)、IFN-γ発現のパーセンテージは、付加したMsln
530ペプチド(これは、LCL細胞株がHLA-A2発現を欠く場合に、形質導入したT細胞によって提示される)の存在または非存在下で、T細胞およびLCL細胞を共培養した場合に示される。
【0288】
図13A~13Hに、多様なLCL細胞株のT細胞標的化のさらなる分析を示す。Msln
20-3BまたはMsln
530-11Aもしくは-11Bを発現するT細胞の潜在的アロ反応性を決定するために、TCRを形質導入したT細胞を、より一般的な対立遺伝子の多くを含む多様なHLA対立遺伝子を天然に発現する同種異系LCLと共に培養した。
図13Aの表中に、LCL株および対応するHLA対立遺伝子発現を列挙する。各細胞株につき、IFN-γ発現のパーセンテージは、付加したMsln
530ペプチド(これは、LCL細胞株がHLA-A2発現を欠く場合に、形質導入したT細胞によって提示される)の存在または非存在下で、標的およびエフェクター細胞を共培養した後に示される。この第2のセットのLCLは、連鎖不平衡を示し、一般的に一緒に見出されるHLA-C6およびHLA-B13を発現する数々の株を含む。これらのLCLのうち数種が、Msln
530-11Bを形質導入したT細胞からの応答を惹起した。これらのデータは、HLA-B13:02:01を発現する細胞のみが応答を惹起するが、HLA-B13:02:01ではなくHLA-C6:02:01またはHLA-B13:01:01を発現する細胞は応答を惹起しないことから、HLA-B13:02:01が、アロ反応性対立遺伝子であることを示す。
【0289】
表1は、異なる集団におけるHLA-B13:02:01およびHLA-A2:01:01の共発現の頻度を示す。HLA-B13:02:01に特異的なある程度のアロ反応性を検出した。しかしながら、集団内の小さいハプロタイプ頻度を考慮すれば、これは、患者が交差反応性である対立遺伝子を呈示することはまれな事象である。
【表1】
【0290】
上記に記載の種々の実施形態を組み合わせて、さらなる実施形態を提供することができる。2018年11月9日に出願された米国特許仮出願第62/758,397号明細書を含む、本明細書で言及されているおよび/または出願データシートに列挙されている米国特許、米国特許出願公開、米国特許出願、外国特許、外国特許出願、および非特許刊行物はすべて、参照により全体が本明細書に組み込まれる。実施形態の態様は、必要な場合、種々の特許、出願、および刊行物の概念を使用して、またさらなる実施形態を提供するように改変することができる。
上記の詳細な説明に照らして、こうしたおよび他の変化を実施形態になすことができる。一般に、以下の特許請求の範囲では、使用される用語は、特許請求の範囲を、明細書および特許請求の範囲に開示されている特定の実施形態に限定するものとは解釈されるべきではなく、そのような特許請求の範囲の権利内にある均等物の完全な範囲と共にすべての考え得る実施形態を含むと解釈されるべきである。したがって、特許請求の範囲は本開示により限定されない。
【配列表】