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特許7559016基板接合体の製造方法、液体吐出基板の製造方法、基板接合体、及び液体吐出基板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-20
(45)【発行日】2024-10-01
(54)【発明の名称】基板接合体の製造方法、液体吐出基板の製造方法、基板接合体、及び液体吐出基板
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/02 20060101AFI20240924BHJP
   B41J 2/16 20060101ALI20240924BHJP
   B41J 2/14 20060101ALI20240924BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20240924BHJP
【FI】
H01L21/02 B
B41J2/16 503
B41J2/14 607
H01L21/304 621B
【請求項の数】 35
(21)【出願番号】P 2022129394
(22)【出願日】2022-08-15
(65)【公開番号】P2024025986
(43)【公開日】2024-02-28
【審査請求日】2023-05-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石川 哲史
【審査官】佐藤 靖史
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/161906(WO,A1)
【文献】特開2016-001681(JP,A)
【文献】特開2018-202826(JP,A)
【文献】特開2006-114847(JP,A)
【文献】特開2021-020388(JP,A)
【文献】特開2017-054930(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/02
B41J 2/16
B41J 2/14
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
素子の一部を形成する第1基板と、素子の他部を形成する第2基板とが接合された基板接合体の製造方法であって、
前記第2基板に対向する前記第1基板の面である接合面が前記第2基板に向かって凸形状となるように前記第1基板の接合面に無機膜を成膜するとともに前記第1基板の接合面と反対側の面である接合逆面に無機膜を成膜する成膜工程と、
前記第1基板と前記第2基板を近接させ接触させる接触工程と、
前記第1基板と前記第2基板を接着剤を介して接合する接合工程と、
を有し、
前記成膜工程では、前記第1基板の接合面に成膜される無機膜に生じる応力と膜厚の積と、前記接合逆面に成膜される無機膜に生じる応力と膜厚の積と、の差が負の値になるように前記第1基板の接合面及び接合逆面に無機膜を成膜することを特徴とする基板接合体の製造方法。
【請求項2】
前記成膜工程では、前記第1基板の接合面の凸形状が、前記接合面の周縁部から前記接合面の中央部に向かって径方向に沿って凸となるお椀型形状になるように前記無機膜を成膜する請求項1に記載の基板接合体の製造方法。
【請求項3】
前記成膜工程では、前記第1基板の接合面の凸形状が、前記接合面の周縁部から前記接合面の中央部を通る特定の直線に向かって当該直線に垂直の方向に沿って凸となる鞍型形状になるように前記無機膜を成膜する請求項1に記載の基板接合体の製造方法。
【請求項4】
前記成膜工程では、前記無機膜に圧縮応力が生じるように前記無機膜を成膜する請求項1~3のいずれか1項に記載の基板接合体の製造方法。
【請求項5】
前記成膜工程では、SiC、SiN、SiO、TiO、Ta、HfO、ZrO、及びAlのいずれかを含む前記無機膜を成膜する請求項1~3のいずれか1項に記載の基板接合体の製造方法。
【請求項6】
前記成膜工程では、前記第1基板の接合面の凸形状の頂点と平坦な状態の前記第1基板
の接合面との距離である凸量は0.1~3mmとなるように前記無機膜を成膜する請求項1~3のいずれか1項に記載の基板接合体の製造方法。
【請求項7】
前記成膜工程では、スパッタ法、CVD法、又は蒸着法で前記無機膜が成膜される請求項1~3のいずれか1項に記載の基板接合体の製造方法。
【請求項8】
前記成膜工程では、前記第1基板の接合面の全面に前記無機膜が成膜される請求項1~3のいずれか1項に記載の基板接合体の製造方法。
【請求項9】
前記成膜工程では、前記第1基板の接合面の一部に前記無機膜が成膜される請求項1~3のいずれか1項に記載の基板接合体の製造方法。
【請求項10】
前記接合工程では、接着剤層の厚さが1~5μmになるように接合が行われる請求項1~3のいずれか1項に記載の基板接合体の製造方法。
【請求項11】
前記成膜工程では、前記第1基板の前記接合逆面に成膜される前記無機膜に引張応力が生じるように前記接合逆面に無機膜を成膜する請求項1~3のいずれか1項に記載の基板接合体の製造方法。
【請求項12】
前記第1基板の接合面に凹部又は貫通孔を形成する形成工程をさらに有する請求項1~3のいずれか1項に記載の基板接合体の製造方法。
【請求項13】
前記成膜工程は、前記凹部又は貫通孔の壁面に無機膜を成膜する工程を含む請求項12に記載の基板接合体の製造方法。
【請求項14】
前記形成工程では、前記第1基板の厚さの1/6以上の深さの凹部を形成する請求項12に記載の基板接合体の製造方法。
【請求項15】
前記成膜工程では、前記第1基板の厚さをT、前記第1基板の接合面の無機膜に生じる応力をσ、前記第1基板の接合面の無機膜の厚さをt、前記凹部又は貫通孔による開口面積と前記第1基板の接合面の面積との比である開口率をR、特性値A=T/(σ×t)とした場合、-1800×R-1300≦A≦-600×R-40となるように、前記第1基板の接合面に無機膜を成膜する請求項14に記載の基板接合体の製造方法。
【請求項16】
前記形成工程は、前記第1基板の接合面と反対側の面である接合逆面に凹部又は貫通孔を形成する工程を含み、
前記第1基板の接合面に形成される凹部又は貫通孔による開口面積と前記凹部又は貫通孔が形成された接合面の面積との比である開口率は、
前記接合逆面に形成される凹部又は貫通孔による開口面積と前記凹部又は貫通孔が形成された接合逆面の面積との比である開口率より、大きい請求項12に記載の基板接合体の製造方法。
【請求項17】
前記成膜工程は、前記第2基板の接合面が前記第1基板の接合面に向かって凸形状となるように前記第2基板の接合面に無機膜を成膜する工程を含む請求項1~3のいずれか1項に記載の基板接合体の製造方法。
【請求項18】
前記第1基板及び前記第2基板は、複数の素子が形成されるウエハ状の基板である請求項1~3のいずれか1項に記載の基板接合体の製造方法。
【請求項19】
液体を吐出する吐出口と前記吐出口に連通して前記液体を供給する第1流路が形成され
た第1基板と、前記第1流路と連結されて流路を構成する第2流路が形成された第2基板とが接合された液体吐出基板の製造方法であって、
前記第1基板と前記第2基板を請求項1~3のいずれか1項に記載の基板接合体の製造方法によって接合する工程を有する液体吐出基板の製造方法。
【請求項20】
素子の一部を形成する第1基板と、素子の他部を形成する第2基板と、が接着剤層を介して接合された基板接合体であって、
前記第1基板の接合面と前記接着剤層との間に、内部に圧縮応力が生じている無機膜を有するとともに、前記第1基板の接合面と反対側の面である接合逆面に無機膜を有し、
前記第1基板の接合面に設けられる無機膜に生じる応力と膜厚の積と、前記接合逆面に設けられる無機膜に生じる応力と膜厚の積と、の差が負の値であることを特徴とする基板接合体。
【請求項21】
素子の一部を形成する第1基板と、素子の他部を形成する第2基板と、が接着剤層を介して接合された基板接合体であって、
前記第1基板の接合面と前記接着剤層との間に、内部に圧縮応力が生じている無機膜を有し、
前記第1基板は、前記接合面に設けられた凹部又は貫通孔を有することを特徴とする基板接合体。
【請求項22】
前記無機膜は、SiC、SiN、SiO、TiO、Ta、HfO、ZrO、及びAlのいずれかを含む請求項20又は21に記載の基板接合体。
【請求項23】
前記無機膜は、前記第1基板の接合面の全面に設けられる請求項20又は21に記載の基板接合体。
【請求項24】
前記無機膜は、前記第1基板の接合面の一部に設けられる請求項20又は21に記載の基板接合体。
【請求項25】
前記接着剤層の厚さは1~5μmである請求項20又は21に記載の基板接合体。
【請求項26】
前記第1基板の接合面と反対側の面である接合逆面に無機膜を有し、
前記第1基板の接合面に設けられる無機膜に生じる応力と膜厚の積と、前記接合逆面に設けられる無機膜に生じる応力と膜厚の積と、の差が負の値である請求項21に記載の基板接合体。
【請求項27】
前記接合逆面に成膜される無機膜は、内部に引張応力が生じている無機膜である請求項20又は26に記載の基板接合体。
【請求項28】
前記第1基板は、前記接合面に設けられた凹部又は貫通孔を有する請求項20に記載の基板接合体。
【請求項29】
前記凹部又は貫通孔の壁面に形成された無機膜を有する請求項21又は28に記載の基板接合体。
【請求項30】
前記第1基板は前記凹部を有し、前記凹部の深さは前記第1基板の厚さの1/6以上である請求項21又は28に記載の基板接合体。
【請求項31】
前記第1基板の厚さをT、前記第1基板の接合面の無機膜に生じる応力をσ、前記第1基板の接合面の無機膜の厚さをt、前記凹部又は貫通孔による開口面積と前記接合面の面
積との比である開口率をR、A=T/(σ×t)とした場合、-1800×R-1300≦A≦-600×R-40を満たす請求項21又は28に記載の基板接合体。
【請求項32】
前記第1基板の接合面と反対側の面である接合逆面に設けられた凹部又は貫通孔を有し、
前記第1基板の接合面に形成される凹部又は貫通孔による開口面積と前記凹部又は貫通孔が形成された接合面の面積との比である開口率は、
前記接合逆面に形成される凹部又は貫通孔による開口面積と前記凹部又は貫通孔が形成された接合逆面の面積との比である開口率より、大きい請求項21又は28に記載の基板接合体。
【請求項33】
前記第2基板の接合面と前記接着剤層との間に、内部に圧縮応力が生じている無機膜を有する請求項20又は21に記載の基板接合体。
【請求項34】
前記第1基板及び前記第2基板は、複数の素子が形成されるウエハ状の基板である請求項20又は21に記載の基板接合体。
【請求項35】
請求項20又は21に記載の基板接合体を有する液体吐出ヘッド用の液体吐出基板であって、
前記第1基板には、液体を吐出する吐出口と前記吐出口に連通して前記液体を供給する第1流路が形成され、
前記第2基板には、前記第1流路と連結されて流路を形成する第2流路が形成されていることを特徴とする液体吐出基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は基板接合体の製造方法、液体吐出基板の製造方法、基板接合体、及び液体吐出基板
に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェット方式を用いた記録装置(液体吐出装置)は、液体吐出ヘッドの吐出口からインク(記録液)滴を吐出飛翔させ、これを記録媒体に付着させて記録する構成となっている。この種の液体吐出ヘッドの構成について以下で説明する。液体吐出ヘッドは、MEMS技術を使用し、圧電素子、電気配線、発泡室等を含む液体流路、及び振動膜が形成された基板に対して、吐出口が形成された基板を接合することによって形成される。圧電素子は、吐出口と連通する発泡室内の液体を加圧するため、電気機械変換素子からなり、振動板は発泡室の一部を形成するもので、圧電素子の振動をインクに伝搬する部材である。発泡室の位置に吐出口が形成されることになる。複数の圧電素子の各々に対応する位置に吐出口が形成されている。
【0003】
特許文献1には、圧電素子からなる液体吐出ヘッドについて、シリコン基板を接合することで製造する製造方法が記載されている。このような基板同士の接合では、基板の接合界面に気泡が混入し、気泡が排出されないまま接合されてしまうことがある。これは、接合時に基板同士が接触する際、ランダムな位置で接触することで気泡が抱き込まれ、さらに気泡の排出経路に基板同士の接触点があると、気泡の外部への排出の障害となることで発生する。液体吐出ヘッド用の基板接合において気泡の混入により接合部にボイド(空隙)が生じると、インクリークが発生し、圧電素子部へのインク混入、及び混色するといった課題がある。これに対し特許文献2では、断面凸状球面形状の載置テーブルに基板を載置して接合することで、接合装置内で基板の接合面を凸形状とし、中央の一点の接触点から外側に接触点が広がるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-91272号公報
【文献】特開2002-190435号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2の技術では、載置テーブルの形状で定まる一定の凸形状に基板が変形することになる。基板には厚くて剛性の高い基板や薄くて剛性が低い基板等、多種類あるため、同一形状の載置テーブルを用いると凸形状が不十分となったり、凸形状が過剰となり剛性の低い基板でクラックが発生したりする可能性がある。
【0006】
本発明は、基板同士の接合部におけるボイドの発生を抑制することができる基板接合体及び液体吐出基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、素子の一部を形成する第1基板と、素子の他部を形成する第2基板とが接合された基板接合体の製造方法であって、
前記第2基板に対向する前記第1基板の面である接合面が前記第2基板に向かって凸形状となるように前記第1基板の接合面に無機膜を成膜するとともに前記第1基板の接合面と反対側の面である接合逆面に無機膜を成膜する成膜工程と、
前記第1基板と前記第2基板を近接させ接触させる接触工程と、
前記第1基板と前記第2基板を接着剤を介して接合する接合工程と、
を有し、
前記成膜工程では、前記第1基板の接合面に成膜される無機膜に生じる応力と膜厚の積と、前記接合逆面に成膜される無機膜に生じる応力と膜厚の積と、の差が負の値になるように前記第1基板の接合面及び接合逆面に無機膜を成膜することを特徴とする基板接合体の製造方法である。
【0008】
本発明は、素子の一部を形成する第1基板と、素子の他部を形成する第2基板と、が接
着剤層を介して接合された基板接合体であって、
前記第1基板の接合面と前記接着剤層との間に、内部に圧縮応力が生じている無機膜を有するとともに、前記第1基板の接合面と反対側の面である接合逆面に無機膜を有し、
前記第1基板の接合面に設けられる無機膜に生じる応力と膜厚の積と、前記接合逆面に設けられる無機膜に生じる応力と膜厚の積と、の差が負の値であることを特徴とする基板接合体である。
また、本発明は、素子の一部を形成する第1基板と、素子の他部を形成する第2基板と、が接着剤層を介して接合された基板接合体であって、
前記第1基板の接合面と前記接着剤層との間に、内部に圧縮応力が生じている無機膜を有し、
前記第1基板は、前記接合面に設けられた凹部又は貫通孔を有することを特徴とする基板接合体である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、基板同士の接合部におけるボイドの発生を抑制することができる基板接合体及び液体吐出基板の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】液体吐出基板の製造時のウエハ状の基板を示す斜視図
図2】実施例の液体吐出基板の製造時の基板の断面模式図
図3】従来の液体吐出基板の製造時の基板の断面模式図
図4】実施例の無機膜の膜応力、膜厚、基板厚と基板の凸量の関係を示す図
図5】実施例の無機膜の膜応力、膜厚、基板の凸量の関係を示す図
図6】実施例の基板の接合面に凹部や貫通孔がある場合を模式的に示す図
図7】実施例の無機膜の膜応力、膜厚、基板の凸量、開口率の関係を示す図
図8】実施例の開口率、特性値A、凸量との関係を示す図
図9】実施例の液体吐出基板の断面図
図10】実施例の液体吐出基板の製造方法を示す図
図11】実施例のインクジェット記録装置の概略構成図
図12】実施例の液体吐出ヘッドモジュールの概略図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る液体吐出ヘッド及び液体吐出装置について説明する。以下、液体の一例としてインクを吐出するインクジェット記録ヘッド及びインクジェット記録装置に本発明を適用した実施例を説明するが、本発明は他の装置にも適用可能である。例えば、プリンタ、複写機、通信システムを有するファクシミリ、プリンタ部を有するワードプロセッサ等の装置、各種処理装置と複合的に組み合わせた産業記録装置、例えば、バイオチップ作製や電子回路印刷等を行う装置に適用することができる。また、液体噴射ヘッドの基本的構成は以下の実施例に限定されるものではない。本発明は、広く液体噴射ヘッドの全般を対象としたものであり、インク以外の液体を噴射するものにも適用することができる。実施例の構成は説明のための一例であって、本発明の範囲内で種々の組み合わせや改変が可能である。
【0012】
(ヘッド全体の説明)
図11は、実施例に係るインクジェット記録装置101の概略構成図である。インクジェット記録装置101は、搬送部110による記録媒体111の一度の搬送で、液体吐出ヘッドモジュール100により記録媒体111に画像を記録するワンパスタイプの記録装置である。以下、記録媒体111の幅方向をX方向、記録媒体111の搬送方向(矢印Aで示す)をY方向、X方向及びY方向に交差する方向をZ方向とする。X方向及びY方向は液体吐出ヘッドモジュール100の後述するノズルが形成された吐出面に沿う方向であり、X方向(第1方向)はノズルの配列方向であり、Y方向(第2方向)はノズル列の配列方向である。Y方向(第2方向)は吐出面に沿いX方向(第1方向)と交差する方向である。典型的には、X方向及びY方向は水平面に沿い互いに直交し、Z方向は鉛直方向に
平行である。
【0013】
液体吐出ヘッドモジュール100は、シアン、マゼンタ、イエロー及びブラックのインクを吐出する個別のモジュールから構成される。各色の液体吐出ヘッドモジュールを区別する場合、符号C、M、Y、Kを付して区別する。4色の液体吐出ヘッドモジュールは、記録媒体111の搬送方向(Y方向)に沿って配列されている。また、各色の液体吐出ヘッドモジュールは、記録媒体111の幅方向(X方向)に沿って配列されたサブモジュールを有する。サブモジュールを区別する場合、符号a、bを付して区別する。図11において、液体吐出ヘッドモジュール100は、記録媒体111に対し鉛直上方に配置され、鉛直下向き(Z方向)にインクを吐出する。なお、図11に示す液体吐出ヘッドモジュール100の構成は一例であり、本発明は他の形態の液体吐出ヘッドモジュールにも適用可能である。
【0014】
(液体吐出ヘッドの構成の説明)
図12は、液体吐出ヘッドモジュール100の概略図である。図12(a)は、液体吐出ヘッドモジュール100を吐出面側から見た斜視図である。図12(b)は、液体吐出基板200の吐出面を示す図である。図12(c)は液体吐出基板200の吐出面と反対側の面を示す図である。
【0015】
液体吐出ヘッドモジュール100は、ヘッド本体400と、ヘッド本体400に配置された複数の液体吐出基板200とを有する。液体吐出ヘッドモジュール100は、液体吐出基板200の吐出面301に沿ってX方向(第1方向)に配列された複数のノズル300を有する。
【0016】
液体吐出基板200は、ノズル基板201を有し、ノズル基板201の長手方向(X方向)に沿って複数のノズル300が配列され、ノズル列を形成している。ノズル基板201には、短手方向(Y方向)に沿って複数のノズル列が配列されている。液体吐出基板200は、流路形成基板204を有し、流路形成基板204に形成された供給外部開口部220を介して外部のインクタンクから液体吐出基板200にインクが供給される。供給されたインクは、液体吐出基板200内部の流路を流れ、ノズル300から吐出され、記録媒体111に滴下する。複数の供給外部開口部220には、ヘッド本体400に設けられる共通供給口(不図示)を介してインクタンク(不図示)からインクが供給される。
【0017】
ヘッド本体400には、ノズル300からインクを吐出させる圧電素子等のアクチュエータを駆動する電力や信号を供給するための電気回路基板(不図示)が配置されている。電気回路基板は、液体吐出基板200のアクチュエータが設けられた振動基板202の端子500と配線(不図示)で接続されている。なお、図12に示す液体吐出ヘッドモジュール100の構成は一例であり、本発明は他の形態の液体吐出ヘッドモジュールにも適用可能である。
【0018】
図9は、液体吐出基板200の断面図である。図9は、図12(b)におけるBB断面を示す。液体吐出基板200は、圧電素子15、圧電素子の隣接層に振動膜16を具備したアクチュエータ基板12に対して、凹部14が形成された流路基板11が接着剤層21を介して接合されている。また、吐出口19が形成されたノズル基板13は、接着剤層29を介して、アクチュエータ基板12に接合されている。流路基板11、アクチュエータ基板12、ノズル基板13が接合された構造体において、流路17、発泡室18が形成される。発泡室18は吐出口19に連通して液体を供給する第1流路であり、流路17は発泡室18に連結されて流路を構成する第2流路である。流路基板11とアクチュエータ基板12との接合部は、内部に圧縮応力が生じている無機膜20、22を有する。それぞれの接合面に無機膜20、22が形成された流路基板11とアクチュエータ基板12は、接
着剤層21を介して接合される。アクチュエータ基板12とノズル基板13との接合部は、内部に圧縮応力が生じている無機膜28、30を有する。それぞれの接合面に無機膜28、30が形成されたアクチュエータ基板12とノズル基板13は、接着剤層29を介して接合される。液体吐出基板200はこのように複数の基板が接着剤層を介して接合された基板接合体である。図9の例では、流路基板11とアクチュエータ基板12の接合部の全体、アクチュエータ基板12とノズル基板13の接合部の全体に無機膜が設けられているが、無機膜は接合部の一部に設けられていても良い。接着剤層21、29の厚さは1~5μmである。図9の例では流路基板11とノズル基板13は接合部とは反対側の面である接合逆面に無機膜が形成されていないが、接合逆面にも無機膜を形成しても良い。その場合、接合部の無機膜に生じる応力と膜厚の積と、接合逆面の無機膜に生じる応力と膜厚の積と、の差が負の値になると良い。図9の例では、流路基板11、アクチュエータ基板12、ノズル基板13には基板接合体において流路17、発泡室18、吐出口19となる凹部や貫通孔が形成されており、これら凹部や貫通孔の壁面にも無機膜が形成されている。
【0019】
図1は、液体吐出基板を製造するために接合されるウエハ状の2つのシリコン基板を示す図である。基板1(第1基板)には素子(チップ)が形成される素子形成領域1Aが多数形成されており、それ以外の領域1Bからは素子の取得は行われない。実施例では、少なくとも2枚以上のウエハ状の基板を接合し、切断により分割することにより、複数の素子を得る。図1は、素子としての液体吐出基板の一部を形成する基板1(第1基板)と、素子としての液体吐出基板の他部を形成する基板2(第2基板)とを接合し、基板接合体を製造する様子を模式的に示している。
【0020】
図2図3は、図1のX-X’断面の断面模式図を示している。図2は実施例の製造方法による基板の接合の様子を示し、図3は従来の製造方法による基板の接合の様子を示す。
【0021】
従来の製造方法では、図3(a)に示すように、平坦な基板1と平坦な基板2を矢印A方向で近接させ、接着剤3を介して接合する。この場合、基板同士がランダムな複数の位置で接触するため、基板間に抱き込んだ気泡が排出されずに、図3(b)に示すように、接合部にボイド7が発生することがあった。
【0022】
実施例の製造方法では、図2(a)に示すように、接合する2枚の基板の少なくとも一方の接合面が他方の接合面に対して凸形状となるようにする。こうすることで、矢印A方向に基板1、2を近接させたときに、基板中央から接触開始し、中央から外周に向かって接触面積が広がっていく。これにより、基板間の空気が外側へ排出され、基板間に気泡を抱き込むことを抑制し、図2(b)に示すように、接合部にボイドが生じることを抑制できる。図2(a)では基板1(第1基板)の接合面が基板2(第2基板)の接合面に向かって凸形状となるように基板1の接合面に無機膜5を成膜し、かつ、基板2の接合面が基板1の接合面に向かって凸形状となるように基板2の接合面に無機膜4を成膜している。しかし、例えば基板1の接合面にのみ無機膜を成膜しても良いし、基板2の接合面にのみ無機膜を成膜しても良い。
【0023】
基板の凸形状は、お椀型形状(周縁部から中央部に向かって径方向に沿って凸となる形状)や鞍型形状(周縁部から中央部を通る特定の直線に向かって当該直線に垂直の方向に沿って凸となる形状)が考えられる。凸形状は基板に加工されているパターンに依存する。例えば、加工形状が未加工や等方的なレイアウトの場合はお椀型になり、加工形状が異方的なレイアウト(細長い流路等)の場合、鞍型になる。凸形状の頂点(凸形状の基板において対向する基板に最も近い点)の位置は、基板の中央に限られない。凸形状の頂点が基板の中央からずれていても、凸形状の頂点で対向する基板に接触開始し、凸形状の頂点
から外周に向かって徐々に接触が進んでいく作用効果は同様に得られる。
【0024】
基板の接合面に、圧縮応力が働くような成膜条件でSiC、SiN、SiO、TiO、Ta、HfO、ZrO、Al等に代表される無機膜を成膜することで、基板を凸形状にする。成膜手法はスパッタ法、CVD法、蒸着法等のドライ成膜を例示できる。例えば、プラズマCVDの成膜としてシャワーヘッドに13.56MHzのRF電源をHF(100W)、プラテンに380kHzのRF電源をLF(200W)として、SiHとCHを用い、圧力100Paに調整しトライオード成膜する。これにより-500MPaの圧縮応力のSiC膜が成膜される。図2の例では、基板1に無機膜5を成膜し、基板2に無機膜4を成膜し、基板1、2がお互いに向かって凸となるようにした例を示しているが、これに限られない。2枚の基板のうち一方の基板の接合面にのみ無機膜を成膜し、当該一方の基板のみが相手基板に向かって凸となるようにしてもよい。
【0025】
図4(a)は無機膜4を成膜した際の基板2の凸量を示す模式図である。凸形状の基板2において、凸形状の頂点と基板2が平坦な状態であったときの基板2の接合面との間の接合面に垂直の方向Zでの距離を凸量とする。凸量としては、0.1mm以上が好ましい。成膜される膜が圧縮応力(圧縮応力は負値)の場合に、成膜面が凸になる。凸量は、形状(基板剛性)、膜応力(圧縮応力)、膜厚で決まる。なお、無機膜4は、単層でも良いし、多層でも良い。
【0026】
図4(b)は、無機膜4の膜応力及び膜厚と基板2の凸量との関係を示す。基板厚は400μmとした。膜応力は圧縮応力であり負値である。図4(b)に示すように、膜応力(絶対値)が大きいほど凸量は大きくなる。また、膜厚が大きいほど凸量は大きくなる。
【0027】
図4(c)は、基板2の厚さと基板2の凸量との関係を示す。膜応力は-500MPaとした。図4(c)に示すように、基板厚が小さいほど凸量は大きくなる。基板の剛性が低下するためと考えられる。ボイド抑制のためには基板厚600μm以下とするのが好ましい。
【0028】
図5(a)は、基板2の両面に無機膜4、6が成膜された状態を示す。図5(a)に示すように、基板2の接合面とは反対側の面(接合逆面という)に成膜されている無機膜6が引張応力(引張応力は正値)の場合、無機膜6の存在により無機膜4によるZ方向の凸量は増加する。接合逆面に、引張応力が働くような成膜条件でSiC、SiN、SiO、TiO、Ta、HfO、ZrO、Al等の無機膜を成膜しても良い。例えば、TiO膜については、ALD成膜法で、チャンバ内温度を80℃にして、成膜すると500MPa(引張応力)になる。チャンバ内温度を上昇させると応力増大する。
【0029】
図5(b)は、無機膜4の膜応力及び膜厚と基板2の凸量との関係を示す。基板厚は400μmとし、接合逆面に引張応力+500MPa、膜厚0.5μmの無機膜6を成膜した。図4(b)と比較すると、圧縮応力、膜厚が同じ場合、接合逆面に引張応力の無機膜6を成膜したときの方が基板2の凸量が大きくなることがわかる。なお、接合逆面に圧縮応力の無機膜6を成膜する場合、接合面側の無機膜4の応力と膜厚の積と、接合逆面側の無機膜6の応力と膜厚の積との差が負の値になるようにすることで、接合面が凸形状となる。無機膜の圧縮応力を調整する方法としては、成膜時の圧力を調整する方法がある。例えば、プラズマCVDの成膜としてシャワーヘッドに13.56MHzのRF電源をHF(100W)、プラテンに380kHzのRF電源をLF(200W)として、SiHとCHを用い、圧力100Paに調整しトライオード成膜する。これにより-500MPaの圧縮応力のSiC膜が成膜される。圧力を50Paに調整しトライオード成膜することで、-650MPの圧縮応力のSiC膜が成膜される。
【0030】
図4(b)、図4(c)では未加工基板の凸量を示しているが、図6(b)のように凹部51を基板2の接合面に形成する加工を施した場合、接合面の凸量が増加する。図6(b)は図6(a)の枠線Aで囲んだ部分の拡大図である。さらに、凹部51が形成された領域の面積(開口面積という)が大きくなるほど、接合面の凸量が増加する。また、接合逆面へ貫通する貫通孔50を形成する加工を施してもよい。凹部51の深さは基板厚の1/6以上であるとより凸量が増加する。図4図5図6(a)、図6(b)では無機膜を接合面の全面に成膜する例を示したが、図6(c)のように、接合面の一部に無機膜4をパターニングしても良い。基板の接合面と接合逆面の両面に凹部や貫通孔の加工を施す場合、接合面の開口率が接合逆面の開口率より大きくなるようにすると、接合面が凸形状になりやすい。ここで、開口率とは、接合面の面積に対する凹部又は貫通孔による開口面積の割合である。第1基板の接合面に凹部や貫通孔を形成した場合、第1基板の接合面のうち第2基板に対向する部分及び凹部又は貫通孔の壁面に無機膜を成膜すると良い。
【0031】
図7(a)は、開口率が30%の基板2の凸量と、無機膜4の膜応力及び膜厚との関係を示す。開口率30%の基板では、開口率0%(凹部や貫通孔が形成されていない)基板と比較し、無機膜の膜応力と膜厚の条件が同じであれば凸量が4倍程度増加した。図7(b)は、開口率及び無機膜の膜厚と、凸量との関係を示す。図7(b)は、種々の開口率の加工を接合面に施した基板に、一定の膜応力の無機膜を種々の膜厚で成膜した場合の基板の成膜面の凸量を示す。図7(b)に示すように、開口率30%の基板の接合面に膜応力-500MPa、膜厚0.05μmの無機膜を成膜した場合の接合面の凸量は0.1mm程度となり、開口率が大きいほど凸量が大きくなった。
【0032】
基板の接合面の凸量が大きすぎると基板の剛性によってはクラックが入る可能性があるため、接合面を加工している基板については、凸量は3mm以下が良い。膜応力-1000MPa、膜厚1.0μmの無機膜を接合面に成膜した場合、凸量が3mmを超え、基板にクラックが生じる可能性がある。
【0033】
図8は、基板厚T[μm]、無機膜の膜応力σ[MPa]、無機膜の膜厚t[μm]、接合面の開口率R[%]、凸量B[mm]の関係を示す。図8の横軸は開口率R、縦軸は特性値A=T/σ×tである。図4(b)に示す膜応力σ、膜厚t、凸量Bの関係、図4(c)に示す基板厚T、膜厚t、凸量Bの関係、図7(b)に示す開口率R、膜厚t、凸量Bの関係から、特性値Aと開口率Rの関係をプロットすると、図8のようになる。開口率Rが一定ならば、凸量Bが大きいほど特性値Aは小さくなる。図8のグラフL1(A=-600×R-40)は凸量B=0.1mmの場合の特性値Aと開口率Rの関係を示し、グラフL2(A=-1800×R-1300)はB=3mmの場合の特性値Aと開口率Rの関係を示す。凸量の好適な範囲は0.1~3mmである。基板の接合面の開口率Rと基板厚Tに応じて、-1800×R-1300≦A≦-600×R-40となるように、グラフL1とL2の間にある特性値Aの値から成膜する無機膜の膜応力σ、膜厚tを設定する。この設定により接合面に無機膜を成膜することで、クラックの発生を抑制しつつ、基板の接合面を凸形状にすることができる。
【0034】
図10は実施例の液体吐出ヘッド用の液体吐出基板の製造方法を示す図である。
【0035】
図10(a)は流路基板11を示す。流路基板11は、例えばシリコン基板からなり、ポジレジストを露光、現像し、その後、Siドライエッチングにより最終的に流路17となる貫通部と凹部14が形成される。次いで、流路基板11の接合面に無機膜20が成膜される。無機膜20は、例えば膜応力-500MPa(圧縮応力)、膜厚0.15μmのSiC膜とし、CVD法で成膜される。無機膜20の圧縮応力が働くことにより、流路基板11の接合面は凸形状(図10(a)で下方向に凸)になる。接合面に凹部14が形成されていることにより、接合面は凸形状をとりやすい。
【0036】
次いで、図10(b)に示すアクチュエータ基板12が準備される。アクチュエータ基板12は、活性層24、26、BOX層25、27からなるSOI基板であり、加工により、振動膜16となる層が形成される。振動膜16上に圧電素子15が配置される。圧電素子15は、振動膜16上に形成された下部電極と、下部電極上に形成された圧電素子15と、圧電素子15上に形成された上部電極とを備える。保護膜23は圧電素子15及び上部電極の各層を覆うように設けられる。
【0037】
圧電素子15としては、金属酸化物結晶の焼結体からなり、例えばPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)膜を用いることができる。駆動IC(不図示)から圧電素子15に駆動電圧が印可されると、逆圧電効果によって、圧電素子15が変形する。これにより、圧電素子15とともに振動膜16が変形し、それによって、発泡室18の容積変化がもたらされ、液体が加圧され、吐出口19から微小液滴となって吐出される。
【0038】
アクチュエータ基板12の流路基板11に対向する接合面には無機膜22が成膜される。無機膜22の構成は無機膜20と同様とする。これによりアクチュエータ基板12の流路基板11に対向する接合面は流路基板11に向かって凸形状となる。
【0039】
次に、図10(c)に示すように、流路基板11とアクチュエータ基板12が接着剤層21を介して接合される。接合は、接着剤の軟化温度に応じた温度(例えば150℃)で加熱することで行われる。接着剤層の厚さは1~5μmとする。このとき、流路基板11の接合面及びアクチュエータ基板12の接合面は互いに対向する方向に凸形状であり、各基板の中央付近の1点から接触開始し、中央から外側に向かって接触領域が広がっていく。そのため、接合面間の気泡が外部に排出されやすく、接合部にボイドが生じにくい。
【0040】
次に、図10(d)に示すように、アクチュエータ基板12の流路基板11との接合面とは反対の第2接合面に対し、研削、研磨により薄化され、接合後に発泡室18となる凹部が形成される。これによりアクチュエータ基板12の第2接合面の開口率は例えば30%になるとする。
【0041】
次に、図10(e)に示すように、アクチュエータ基板12の第2接合面に対して、無機膜28が成膜される。無機膜28の構成は無機膜20、22と同様に、膜応力-500MPa(圧縮応力)、膜厚0.15μmのSiC膜とし、CVD法で成膜される。無機膜28の圧縮応力が働くことによりアクチュエータ基板12の第2接合面は図10(e)の下方に向かって凸形状になる。
【0042】
次に、図10(f)に示すように、シリコン基板31に接合後に吐出口19となる貫通孔が形成されたノズル基板13の接合面に対して、無機膜30が成膜される。ノズル基板13の接合面の開口率は30%とする。無機膜30の構成は無機膜20、22、28と同様に、膜応力-500MPa(圧縮応力)、膜厚0.15μmのSiC膜とし、CVD法で成膜される。無機膜30の圧縮応力が働くことによりノズル基板13の接合面は図10(f)の上方に向かって凸形状になる。
【0043】
次に、図10(g)に示すように、アクチュエータ基板12の第2接合面とノズル基板13の接合面とを対向させる。
【0044】
次に、図10(h)に示すように、アクチュエータ基板12の第2接合面とノズル基板13の接合面とを接着剤層29を介して接合する。接合は接着剤の材質によって決まる温度(例えば150℃)で加熱することで行われる。接着剤層の厚さは1~5μmとする。このとき、アクチュエータ基板12の第2接合面とノズル基板13の接合面は互いに対向
する方向に凸形状であり、各基板の中央付近の1点から接触開始し、中央から外側に向かって接触領域が広がっていく。そのため、接合面間の気泡が外部に排出されやすく、接合部にボイドが生じにくい。
【0045】
以上のような工程で製造される液体吐出ヘッド用の液体吐出基板においては、基板同士の接合部にボイドが生じることがより確実に抑制される。特に圧電素子を備えた液体吐出ヘッドの場合、インク流路と圧電素子が密閉された空間が近い。本実施例の製造方法により製造される液体吐出基板を有する液体吐出ヘッドでは、基板同士の接合部のボイドの発生を抑制できることにより、インクリーク、圧電素子部へのインク混入、混色等の発生を抑制できる。
【0046】
本実施形態の開示は、以下の構成及び方法を含む。
(方法1)
素子の一部を形成する第1基板と、素子の他部を形成する第2基板とが接合された基板接合体の製造方法であって、
前記第2基板に対向する前記第1基板の面である接合面が前記第2基板に向かって凸形状となるように前記第1基板の接合面に無機膜を成膜する成膜工程と、
前記第1基板と前記第2基板を近接させ接触させる接触工程と、
前記第1基板と前記第2基板を接着剤を介して接合する接合工程と、
を有することを特徴とする基板接合体の製造方法。
(方法2)
前記成膜工程では、前記第1基板の接合面の凸形状が、前記接合面の周縁部から前記接合面の中央部に向かって径方向に沿って凸となるお椀型形状になるように前記無機膜を成膜する方法1に記載の基板接合体の製造方法。
(方法3)
前記成膜工程では、前記第1基板の接合面の凸形状が、前記接合面の周縁部から前記接合面の中央部を通る特定の直線に向かって当該直線に垂直の方向に沿って凸となる鞍型形状になるように前記無機膜を成膜する方法1に記載の基板接合体の製造方法。
(方法4)
前記成膜工程では、前記無機膜に圧縮応力が生じるように前記無機膜を成膜する方法1~3のいずれか1項に記載の基板接合体の製造方法。
(方法5)
前記成膜工程では、SiC、SiN、SiO、TiO、Ta、HfO、ZrO、及びAlのいずれかを含む前記無機膜を成膜する方法1~4のいずれか1項に記載の基板接合体の製造方法。
(方法6)
前記成膜工程では、前記第1基板の接合面の凸形状の頂点と平坦な状態の前記第1基板の接合面との距離である凸量は0.1~3mmとなるように前記無機膜を成膜する方法1~5のいずれか1項に記載の基板接合体の製造方法。
(方法7)
前記成膜工程では、スパッタ法、CVD法、又は蒸着法で前記無機膜が成膜される方法1~6のいずれか1項に記載の基板接合体の製造方法。
(方法8)
前記成膜工程では、前記第1基板の接合面の全面に前記無機膜が成膜される方法1~7のいずれか1項に記載の基板接合体の製造方法。
(方法9)
前記成膜工程では、前記第1基板の接合面の一部に前記無機膜が成膜される方法1~7のいずれか1項に記載の基板接合体の製造方法。
(方法10)
前記接合工程では、接着剤層の厚さが1~5μmになるように接合が行われる方法1~
9のいずれか1項に記載の基板接合体の製造方法。
(方法11)
前記成膜工程は、前記第1基板の接合面と反対側の面である接合逆面に無機膜を成膜する工程を含み、
前記成膜工程では、前記第1基板の接合面に成膜される無機膜に生じる応力と膜厚の積と、前記接合逆面に成膜される無機膜に生じる応力と膜厚の積と、の差が負の値になるように前記第1基板の接合面及び接合逆面に無機膜を成膜する方法1~10のいずれか1項に記載の基板接合体の製造方法。
(方法12)
前記成膜工程では、前記第1基板の前記接合逆面に成膜される前記無機膜に引張応力が生じるように前記接合逆面に無機膜を成膜する方法11に記載の基板接合体の製造方法。(方法13)
前記第1基板の接合面に凹部又は貫通孔を形成する形成工程をさらに有する方法1~12のいずれか1項に記載の基板接合体の製造方法。
(方法14)
前記成膜工程は、前記凹部又は貫通孔の壁面に無機膜を成膜する工程を含む方法13に記載の基板接合体の製造方法。
(方法15)
前記形成工程では、前記第1基板の厚さの1/6以上の深さの凹部を形成する方法13又は14に記載の基板接合体の製造方法。
(方法16)
前記成膜工程では、前記第1基板の厚さをT、前記第1基板の接合面の無機膜に生じる応力をσ、前記第1基板の接合面の無機膜の厚さをt、前記凹部又は貫通孔による開口面積と前記第1基板の接合面の面積との比である開口率をR、特性値A=T/(σ×t)とした場合、-1800×R-1300≦A≦-600×R-40となるように、前記第1基板の接合面に無機膜を成膜する方法13~15のいずれか1項に記載の基板接合体の製造方法。
(方法17)
前記形成工程は、前記第1基板の接合面と反対側の面である接合逆面に凹部又は貫通孔を形成する工程を含み、
前記第1基板の接合面に形成される凹部又は貫通孔による開口面積と前記凹部又は貫通孔が形成された接合面の面積との比である開口率は、
前記接合逆面に形成される凹部又は貫通孔による開口面積と前記凹部又は貫通孔が形成された接合逆面の面積との比である開口率より、大きい方法13~16のいずれか1項に記載の基板接合体の製造方法。
(方法18)
前記成膜工程は、前記第2基板の接合面が前記第1基板の接合面に向かって凸形状となるように前記第2基板の接合面に無機膜を成膜する工程を含む方法1~17のいずれか1項に記載の基板接合体の製造方法。
(方法19)
前記第1基板及び前記第2基板は、複数の素子が形成されるウエハ状の基板である方法1~18のいずれか1項に記載の基板接合体の製造方法。
(方法20)
液体を吐出する吐出口と前記吐出口に連通して前記液体を供給する第1流路が形成された第1基板と、前記第1流路と連結されて流路を構成する第2流路が形成された第2基板とが接合された液体吐出基板の製造方法であって、
前記第1基板と前記第2基板を方法1~19のいずれか1項に記載の基板接合体の製造方法によって接合する工程を有する液体吐出基板の製造方法。
(構成21)
素子の一部を形成する第1基板と、素子の他部を形成する第2基板と、が接着剤層を介
して接合された基板接合体であって、
前記第1基板の接合面と前記接着剤層との間に、内部に圧縮応力が生じている無機膜を有することを特徴とする基板接合体。
(構成22)
前記無機膜は、SiC、SiN、SiO、TiO、Ta、HfO、ZrO、及びAlのいずれかを含む構成21に記載の基板接合体。
(構成23)
前記無機膜は、前記第1基板の接合面の全面に設けられる構成21又は22に記載の基板接合体。
(構成24)
前記無機膜は、前記第1基板の接合面の一部に設けられる構成21又は22に記載の基板接合体。
(構成25)
前記接着剤層の厚さは1~5μmである構成21~24のいずれか1項に記載の基板接合体。
(構成26)
前記第1基板の接合面と反対側の面である接合逆面に無機膜を有し、
前記第1基板の接合面に設けられる無機膜に生じる応力と膜厚の積と、前記接合逆面に設けられる無機膜に生じる応力と膜厚の積と、の差が負の値である構成21~25のいずれか1項に記載の基板接合体。
(構成27)
前記接合逆面に成膜される無機膜は、内部に引張応力が生じている無機膜である構成26に記載の基板接合体。
(構成28)
前記第1基板は、前記接合面に設けられた凹部又は貫通孔を有する構成21~27のいずれか1項に記載の基板接合体。
(構成29)
前記凹部又は貫通孔の壁面に形成された無機膜を有する構成28に記載の基板接合体。(構成30)
前記凹部の深さは前記第1基板の厚さの1/6以上である構成28又は29に記載の基板接合体。
(構成31)
前記第1基板の厚さをT、前記第1基板の接合面の無機膜に生じる応力をσ、前記第1基板の接合面の無機膜の厚さをt、前記第1流路により前記第1基板の接合面に形成される開口面積と前記接合面の面積との比である開口率をR、A=T/(σ×t)とした場合、-1800×R-1300≦A≦-600×R-40を満たす構成28~30のいずれか1項に記載の基板接合体。
(構成32)
前記第1基板の接合面と反対側の面である接合逆面に設けられた凹部又は貫通孔を有し、
前記第1基板の接合面に形成される凹部又は貫通孔による開口面積と前記凹部又は貫通孔が形成された接合面の面積との比である開口率は、
前記接合逆面に形成される凹部又は貫通孔による開口面積と前記凹部又は貫通孔が形成された接合逆面の面積との比である開口率より、大きい構成28~31のいずれか1項に記載の基板接合体。
(構成33)
前記第2基板の接合面と前記接着剤層との間に、内部に圧縮応力が生じている無機膜を有する構成21~32のいずれか1項に記載の基板接合体。
(構成34)
前記第1基板及び前記第2基板は、複数の素子が形成されるウエハ状の基板である構成
21~33のいずれか1項に記載の基板接合体。
(構成35)
構成21~34のいずれか1項に記載の基板接合体を有する液体吐出ヘッド用の液体吐出基板であって、
前記第1基板には、液体を吐出する吐出口と前記吐出口に連通して前記液体を供給する第1流路が形成され、
前記第2基板には、前記第1流路と連結されて流路を形成する第2流路が形成されていることを特徴とする液体吐出基板。
【符号の説明】
【0047】
1:第1基板、2:第2基板、3:接着剤、4:無機膜、5:無機膜
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