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  • 特許-樹脂フィルム及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-20
(45)【発行日】2024-10-01
(54)【発明の名称】樹脂フィルム及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20240924BHJP
   B29C 48/08 20190101ALI20240924BHJP
   B29C 48/21 20190101ALI20240924BHJP
   B29C 48/305 20190101ALI20240924BHJP
   B29C 48/88 20190101ALI20240924BHJP
   B29C 51/14 20060101ALI20240924BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20240924BHJP
【FI】
C08J5/18 CEW
C08J5/18 CEY
B29C48/08
B29C48/21
B29C48/305
B29C48/88
B29C51/14
B32B27/30 A
B32B27/30 D
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2022500361
(86)(22)【出願日】2021-02-04
(86)【国際出願番号】 JP2021004177
(87)【国際公開番号】W WO2021161899
(87)【国際公開日】2021-08-19
【審査請求日】2023-05-23
(31)【優先権主張番号】P 2020020911
(32)【優先日】2020-02-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】馬場 拓充
(72)【発明者】
【氏名】永岡 洪太
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼野 敬司
【審査官】加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/059369(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/142453(WO,A1)
【文献】特開2005-112972(JP,A)
【文献】特開平06-091734(JP,A)
【文献】国際公開第2012/133668(WO,A1)
【文献】特開2011-218646(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/18
B29C 48/08
B29C 48/21
B29C 48/305
B29C 48/88
B29C 51/14
B32B 27/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリフッ化ビニリデン系樹脂及びポリメタクリル酸エステル系樹脂の合計100質量部に対して、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を50~80質量部、及びポリメタクリル酸エステル系樹脂を20~50質量部含有する樹脂組成物で構成された樹脂フィルムであって、
前記樹脂組成物の結晶化度が15%~35%であり、
前記樹脂組成物におけるα型結晶及びβ型結晶の合計質量に対するα型結晶の比率が0~1質量%であり、
樹脂フィルムの平均厚みが5~200μmであり、
樹脂フィルムのJIS K7136:2000に基づいて測定されるHAZEが20%以下である、
樹脂フィルム。
【請求項2】
少なくとも一方の表面における、JIS B0601:2001に基づいて測定される算術平均粗さRaが100nm以下である請求項1に記載の樹脂フィルム。
【請求項3】
JIS K7136:2000に基づいて測定されるHAZEが5%以下である請求項1又は2に記載の樹脂フィルム。
【請求項4】
JIS K7375:2008に基づいて測定される全光線透過率が90%以上である請求項1~3のいずれか一項に記載の樹脂フィルム。
【請求項5】
25℃から170℃まで平均昇温速度3.5℃/secとして空気中で加熱し、170℃に到達後1秒以内に25℃の温度環境下に置き、空気中で25℃まで放冷した後の、JIS K7136:2000に基づいて測定されるHAZE値の変化量ΔHAZEが5%以下である請求項1~4のいずれか一項に記載の樹脂フィルム。
【請求項6】
ポリフッ化ビニリデン系樹脂及びポリメタクリル酸エステル系樹脂の合計100質量部に対して、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を50~80質量部、及びポリメタクリル酸エステル系樹脂を20~50質量部含有する樹脂組成物で構成された表面層と、
ポリフッ化ビニリデン系樹脂及びポリメタクリル酸エステル系樹脂の合計100質量部に対して、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を0~30質量部、及びポリメタクリル酸エステル系樹脂を70~100質量部含有する樹脂組成物で構成され、前記表面層に積層された裏面層と、
を備えた樹脂フィルムであって、
表面層を構成する樹脂組成物の結晶化度が15%~35%であり、
表面層を構成する樹脂組成物におけるα型結晶及びβ型結晶の合計質量に対するα型結晶の比率が0~1質量%であり、
表面層の平均厚みが5~200μmであり、
裏面層の平均厚みが5~300μmであり、
樹脂フィルムのJIS K7136:2000に基づいて測定されるHAZEが20%以下である、
樹脂フィルム。
【請求項7】
表面層の外表面及び裏面層の外表面の少なくとも一方における、JIS B0601:2001に基づいて測定される算術平均粗さRaが100nm以下である請求項6に記載の樹脂フィルム。
【請求項8】
JIS K7136:2000に基づいて測定されるHAZEが5%以下である請求項6又は7に記載の樹脂フィルム。
【請求項9】
JIS K7375:2008に基づいて測定される全光線透過率が90%以上である請求項6~8のいずれか一項に記載の樹脂フィルム。
【請求項10】
25℃から170℃まで平均昇温速度3.5℃/secとして空気中で加熱し、170℃に到達後1秒以内に25℃の温度環境下に置き、空気中で25℃まで放冷する操作の前後で、JIS K7136:2000に基づいて測定されるHAZE値の変化量ΔHAZEが5%以下である請求項6~9のいずれか一項に記載の樹脂フィルム。
【請求項11】
裏面層を構成する樹脂組成物が、ポリフッ化ビニリデン系樹脂及びポリメタクリル酸エステル系樹脂の合計100質量部に対して、紫外線吸収剤を0.1~10質量部含有する請求項6~10のいずれか一項に記載の樹脂フィルム。
【請求項12】
紫外線吸収剤がトリアジン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、又は、これらの混合物を含有する請求項11に記載の樹脂フィルム。
【請求項13】
裏面層を構成する樹脂組成物が、ポリフッ化ビニリデン系樹脂及びポリメタクリル酸エステル系樹脂の合計100質量部に対して、架橋(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子を0.1~10質量部含有する請求項6~12のいずれか一項に記載の樹脂フィルム。
【請求項14】
基材とのラミネートに用いられる請求項1~13のいずれか一項に記載の樹脂フィルム。
【請求項15】
基材における樹脂フィルムとの貼合面における、JIS Z8741:1997に基づいて測定される60°鏡面光沢度が100~600であり、JIS Z8781-4:2013に基づくL*a*b*色空間における受光角15°のL*が0~20である請求項14に記載の樹脂フィルム。
【請求項16】
加熱成形に用いられる請求項1~13のいずれか一項に記載の樹脂フィルム。
【請求項17】
ポリフッ化ビニリデン系樹脂及びポリメタクリル酸エステル系樹脂の合計100質量部に対して、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を50~80質量部、及びポリメタクリル酸エステル系樹脂を20~50質量部含有する樹脂組成物を200℃~260℃の温度でTダイから平均厚みが5~200μmのフィルム状に溶融押出成形する工程と、
Tダイの出口から押し出された後、秒以内に溶融押出成形されたフィルムの少なくとも一方の表面を30~50℃に温度調節された金属ロールの表面に接触させて冷却する工程と、
を含む請求項1~5のいずれか一項に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【請求項18】
ポリフッ化ビニリデン系樹脂及びポリメタクリル酸エステル系樹脂の合計100質量部に対して、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を50~80質量部、及びポリメタクリル酸エステル系樹脂を20~50質量部含有する第一樹脂組成物と、
ポリフッ化ビニリデン系樹脂及びポリメタクリル酸エステル系樹脂の合計100質量部に対して、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を0~30質量部、及びポリメタクリル酸エステル系樹脂を70~100質量部含有する第二樹脂組成物とを、
第一樹脂組成物の平均厚みが5~200μmであり、第二樹脂組成物の平均厚みが5~300μmとなるように、200℃~260℃の温度でTダイからフィルム状に溶融共押出成形する工程と、
Tダイの出口から押し出された後、秒以内に溶融共押出成形されたフィルムの少なくとも第一樹脂組成物側の表面を30~50℃に温度調節された金属ロールの表面に接触させて冷却する工程と、
を含む請求項6~13のいずれか一項に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【請求項19】
金属ロールの表面における、JIS B0601:2001に基づいて測定される算術平均粗さRaが100nm以下である請求項17又は18に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリフッ化ビニリデン系樹脂を含有する樹脂フィルム及びその製造方法に関する。とりわけ、本発明は基材へのラミネートに好適に使用可能なポリフッ化ビニリデン系樹脂を含有する樹脂フィルム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリフッ化ビニリデン系樹脂を含有する樹脂フィルムは耐候性及び耐薬品性に優れていることから、自動車の内装若しくは外装、又は、電化製品部材等に用いられる加飾フィルムの最外層に好適に用いられている。加飾フィルムは、最外層のフィルムに対して、加飾層を貼り合わせる工程を経て製造されるのが一般的である。貼り合わせの手法としては接着剤を用いたラミネート及び熱ラミネートが一般的である。
【0003】
近年、自動車内装を筆頭に意匠の多様化及び複雑化が進んでおり、色及び風合いを損なわないように、加飾フィルムの最外層には高い透明性が求められている。このため、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を含有する樹脂フィルムの透明性を向上させるための技術が開発されてきた。
【0004】
特許文献1(国際公開第2011/142453号)には、高い結晶性、透明性、及び表面平滑性を備えたフィルムを提供するため、フッ化ビニリデン系樹脂(A)及びアクリル系樹脂(B)を含有する、少なくとも一方の面の算術平均粗さが0.1~20nm、示差走査熱量計により測定される結晶融解熱が18~40J/g、及び、ヘーズ値が3.5以下であるフィルムが提案されている。
【0005】
特許文献2(特開2012-187934号公報)には、含フッ素アルキル(メタ)アクリレート成分を含有するフッ素系(メタ)アクリル樹脂を使用することによって、車輌内外装部材用途にも使用でき、透明性、表面硬度、耐薬品性、耐汚染性に優れる、新規なフッ素樹脂フィルムの作製に成功したことが記載されている。そして、当該文献には、フッ素樹脂フィルム層が、アクリル系樹脂(A)からなるフィルム層の少なくとも片面に積層されてなる、フッ素樹脂積層アクリル系樹脂フィルムであって、前記フッ素樹脂フィルム層が、含フッ素アルキル(メタ)アクリレートポリマー成分を含むフッ素系(メタ)アクリル樹脂(B)を含むフッ素樹脂(C)を成形してなるものである、フッ素樹脂積層アクリル系樹脂フィルムが具体的に開示されている。
【0006】
また、フッ化ビニリデン系樹脂の結晶型を制御することにより、フッ化ビニリデン系樹脂を含有する樹脂フィルムの特性を改善した技術も知られている。
【0007】
特許文献3(国際公開第2019/107302号)には、裏面層に表面層が積層した2層を含むフッ化ビニリデン系樹脂多層フィルムであって、前記表面層は、フッ化ビニリデン系樹脂80質量%以上とメタクリル酸エステル系樹脂20質量%以下とを含有し、前記表面層の結晶化度は45%以上であり、前記フッ化ビニリデン系樹脂の全結晶成分に占めるα結晶の比率は60%以上であり、前記表面層の厚みは15μm以上であり、前記裏面層は、メタクリル酸エステル系樹脂90質量%以上を含有している、フッ化ビニリデン系樹脂多層フィルムが開示されている。当該フィルムは、酸性雨によるフィルムの変色及び加飾フィルムに含有されるヒンダードアミン系光安定剤によるポリエン構造生成によるフィルムの変色を、高温、高湿環境下で長期に抑制することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開第2011/142453号
【文献】特開2012-187934号公報
【文献】国際公開第2019/107302号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
加飾フィルムは先述したように、最外層のフィルムに対して、加飾層を熱ラミネートによって貼り合わせる工程を経て作製されることが多い。また、自動車内装用部品に対して加飾フィルムによる表面被覆を行う手法として、フィルムインサート成形、インモールド成形、真空ラミネート成形などがある。中でもフィルムインサート成形は主流となっている。フィルムインサート成形は、加飾フィルムを加熱して予備成形を行なうことから、インモールド成形及び真空ラミネート成形と比較してより複雑な形状の部品に対しても加飾フィルムが追従し、良好な表面被覆状態を実現できるという利点がある。
【0010】
しかし、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を含有する樹脂フィルムを、熱ラミネート及びフィルムインサート成形のような加熱及び冷却を伴うプロセスに使用する場合、白化して外観が変化するという問題があることが分かった。上述した先行技術では白化に対する認識が不足しており、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を含有する樹脂フィルムには白化防止の観点から改善の余地が残されている。
【0011】
そこで、本発明は一実施形態において、透明性が高く、加熱及び冷却を行なっても白化し難いポリフッ化ビニリデン系樹脂を含有する樹脂フィルム及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記の課題を達成するべく種々の研究を行った結果、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を含有する樹脂組成物の結晶化度及びα型結晶の比率を制御することが樹脂フィルムの白化を防止する上で有利であることを見出し、以下に例示される本発明に至った。
【0013】
[1]
ポリフッ化ビニリデン系樹脂及びポリメタクリル酸エステル系樹脂の合計100質量部に対して、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を50~80質量部、及びポリメタクリル酸エステル系樹脂を20~50質量部含有する樹脂組成物で構成された樹脂フィルムであって、
前記樹脂組成物の結晶化度が15%~35%であり、
前記樹脂組成物におけるα型結晶及びβ型結晶の合計質量に対するα型結晶の比率が0~15質量%であり、
樹脂フィルムの平均厚みが5~200μmであり、
樹脂フィルムのJIS K7136:2000に基づいて測定されるHAZEが20%以下である、
樹脂フィルム。
[2]
少なくとも一方の表面における、JIS B0601:2001に基づいて測定される算術平均粗さRaが100nm以下である[1]に記載の樹脂フィルム。
[3]
JIS K7136:2000に基づいて測定されるHAZEが5%以下である[1]又は[2]に記載の樹脂フィルム。
[4]
JIS K7375:2008に基づいて測定される全光線透過率が90%以上である[1]~[3]のいずれか一項に記載の樹脂フィルム。
[5]
25℃から170℃まで平均昇温速度3.5℃/secとして空気中で加熱し、170℃に到達後1秒以内に25℃の温度環境下に置き、空気中で25℃まで放冷した後の、JIS K7136:2000に基づいて測定されるHAZE値の変化量ΔHAZEが5%以下である[1]~[4]のいずれか一項に記載の樹脂フィルム。
[6]
ポリフッ化ビニリデン系樹脂及びポリメタクリル酸エステル系樹脂の合計100質量部に対して、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を50~80質量部、及びポリメタクリル酸エステル系樹脂を20~50質量部含有する樹脂組成物で構成された表面層と、
ポリフッ化ビニリデン系樹脂及びポリメタクリル酸エステル系樹脂の合計100質量部に対して、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を0~30質量部、及びポリメタクリル酸エステル系樹脂を70~100質量部含有する樹脂組成物で構成され、前記表面層に積層された裏面層と、
を備えた樹脂フィルムであって、
表面層を構成する樹脂組成物の結晶化度が15%~35%であり、
表面層を構成する樹脂組成物におけるα型結晶及びβ型結晶の合計質量に対するα型結晶の比率が0~15質量%であり、
表面層の平均厚みが5~200μmであり、
裏面層の平均厚みが5~300μmであり、
樹脂フィルムのJIS K7136:2000に基づいて測定されるHAZEが20%以下である、
樹脂フィルム。
[7]
表面層の外表面及び裏面層の外表面の少なくとも一方における、JIS B0601:2001に基づいて測定される算術平均粗さRaが100nm以下である[6]に記載の樹脂フィルム。
[8]
JIS K7136:2000に基づいて測定されるHAZEが5%以下である[6]又は[7]に記載の樹脂フィルム。
[9]
JIS K7375:2008に基づいて測定される全光線透過率が90%以上である[6]~[8]のいずれか一項に記載の樹脂フィルム。
[10]
25℃から170℃まで平均昇温速度3.5℃/secとして空気中で加熱し、170℃に到達後1秒以内に25℃の温度環境下に置き、空気中で25℃まで放冷する操作の前後で、JIS K7136:2000に基づいて測定されるHAZE値の変化量ΔHAZEが5%以下である[6]~[9]のいずれか一項に記載の樹脂フィルム。
[11]
裏面層を構成する樹脂組成物が、ポリフッ化ビニリデン系樹脂及びポリメタクリル酸エステル系樹脂の合計100質量部に対して、紫外線吸収剤を0.1~10質量部含有する[6]~[10]のいずれか一項に記載の樹脂フィルム。
[12]
紫外線吸収剤がトリアジン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、又は、これらの混合物を含有する[11]に記載の樹脂フィルム。
[13]
裏面層を構成する樹脂組成物が、ポリフッ化ビニリデン系樹脂及びポリメタクリル酸エステル系樹脂の合計100質量部に対して、架橋(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子を0.1~10質量部含有する[6]~[12]のいずれか一項に記載の樹脂フィルム。
[14]
基材とのラミネートに用いられる[1]~[13]のいずれか一項に記載の樹脂フィルム。
[15]
基材における樹脂フィルムとの貼合面における、JIS Z8741:1997に基づいて測定される60°鏡面光沢度が100~600であり、JIS Z8781-4:2013に基づくL*a*b*色空間における受光角15°のL*が0~20である[14]に記載の樹脂フィルム。
[16]
加熱成形に用いられる[1]~[13]のいずれか一項に記載の樹脂フィルム。
[17]
ポリフッ化ビニリデン系樹脂及びポリメタクリル酸エステル系樹脂の合計100質量部に対して、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を50~80質量部、及びポリメタクリル酸エステル系樹脂を20~50質量部含有する樹脂組成物を200℃~260℃の温度でTダイから平均厚みが5~200μmのフィルム状に溶融押出成形する工程と、
Tダイの出口から押し出された後、6秒以内に溶融押出成形されたフィルムの少なくとも一方の表面を30~50℃に温度調節された金属ロールの表面に接触させて冷却する工程と、
を含む樹脂フィルムの製造方法。
[18]
ポリフッ化ビニリデン系樹脂及びポリメタクリル酸エステル系樹脂の合計100質量部に対して、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を50~80質量部、及びポリメタクリル酸エステル系樹脂を20~50質量部含有する第一樹脂組成物と、
ポリフッ化ビニリデン系樹脂及びポリメタクリル酸エステル系樹脂の合計100質量部に対して、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を0~30質量部、及びポリメタクリル酸エステル系樹脂を70~100質量部含有する第二樹脂組成物とを、
第一樹脂組成物の平均厚みが5~200μmであり、第二樹脂組成物の平均厚みが5~300μmとなるように、200℃~260℃の温度でTダイからフィルム状に溶融共押出成形する工程と、
Tダイの出口から押し出された後、6秒以内に溶融共押出成形されたフィルムの少なくとも第一樹脂組成物側の表面を30~50℃に温度調節された金属ロールの表面に接触させて冷却する工程と、
を含む樹脂フィルムの製造方法。
[19]
金属ロールの表面における、JIS B0601:2001に基づいて測定される算術平均粗さRaが100nm以下である[17]又は[18]に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一実施形態によれば、透明性が高く、加熱及び冷却を行なっても白化し難いポリフッ化ビニリデン系樹脂を含有する樹脂フィルムが得られる。そのため、本発明の一実施形態に係る樹脂フィルムは、フィルムインサート成形のような加熱及び冷却を伴うプロセスに好適に使用できる。当該樹脂フィルムは、基材へ貼り付けて使用することができ、例えば加飾フィルムの最外層として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の第二の実施形態に係る樹脂フィルムの積層構造を示す模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について説明する。以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態を例示的に示したものであり、これにより本発明の技術的範囲が狭く解釈されることを意図するものではない。
【0017】
(1.第一の実施形態)
第一の実施形態に係る樹脂フィルムは、ポリフッ化ビニリデン系樹脂及びポリメタクリル酸エステル系樹脂の合計100質量部に対して、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を50~80質量部、及びポリメタクリル酸エステル系樹脂を20~50質量部含有する樹脂組成物で構成することができる。
【0018】
当該樹脂組成物の結晶化度は一実施形態において、15%~35%とすることができる。結晶化度の下限が15%以上、好ましくは20%以上であることで、優れた耐薬品性を示すことができる。また、結晶化度の上限が35%以下、好ましくは30%以下であることで、α型結晶の総量を抑制することができるので、白化を防止する効果が高くなる。
【0019】
本明細書において、樹脂組成物の結晶化度は、JIS K 7121:2012に基づいて測定したスペクトルから、結晶融解エンタルピー(J/g)を融解ピークの積分値より算出し、(結晶化度(%))=(樹脂組成物の単位質量あたりの結晶融解エンタルピー(J/g))/(PVDFの結晶の単位質量あたりの結晶融解エンタルピー(J/g))×100(%)の計算式により、算出することとする。ただし、(PVDFの結晶の単位質量あたりの結晶融解エンタルピー)=104.6J/gとする。
【0020】
白化を防止するという観点から、当該樹脂組成物におけるα型結晶及びβ型結晶の合計質量に対するα型結晶の比率は小さいことが望ましい。具体的には、当該比率は0~15質量%であることが好ましく、0~10質量%であることがより好ましく、0~8質量%であることがより好ましく、0~5質量%であることが更により好ましい。
【0021】
本明細書において、樹脂組成物におけるα型結晶及びβ型結晶の合計質量に対するα型結晶の比率は、反射法で求めた樹脂組成物の赤外線吸収スペクトルからα型結晶の特性吸収波数765cm-1における吸収強度(ピーク高さ(α))、β型結晶の特性吸収波数840cm-1における吸収強度(ピーク高さ(β))をそれぞれ測定し、以下の計算式より求めることとする。
α型結晶の比率(%)=(α)/((α)+(β))×100(%)
【0022】
第一の実施形態に係る樹脂フィルムの厚さは、5~200μmであることが好ましく、5~100μmであることがより好ましく、5~40μmであることが更により好ましく、10~20μmが特に好ましい。樹脂フィルムが5μm以上であると製膜性が向上すると共に、表面層として使用したときの保護機能を向上させることができ、200μm以下とすることにより、白化が目立たなくなると共に、透明性の向上及びコスト削減を実現することができる。第一の実施形態に係る樹脂フィルムは、単層で形成してもよいし、複数層で形成してもよいが、合計平均厚みが上述した厚さに収まるようにすることが望ましい。
【0023】
第一の実施形態に係る樹脂フィルムのJIS K7136:2000に基づいて測定されるHAZEは、透明性を高めるという観点から、20%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましく、5%以下であることが更により好ましく、2%以下であることが最も好ましく、例えば0.1~20%の範囲とすることができる。
【0024】
第一の実施形態に係る樹脂フィルムは、加熱前後でのHAZE変化が小さいという特徴を有することができる。例示的には、25℃から170℃まで平均昇温速度3.5℃/secとして空気中で加熱し、170℃に到達後1秒以内に25℃の温度環境下に置き、空気中で、25℃まで放冷した後の、JIS K7136:2000に基づいて測定されるHAZE値の変化量ΔHAZEを5%以下とすることができ、好ましくは3%以下とすることができ、より好ましくは1%以下とすることができ、例えば0.5~5%とすることができる。ΔHAZEは、加熱前のHAZE値をHAZEb(%)、加熱後のHAZE値をHAZEa(%)とすると、ΔHAZE(%)=|HAZEa-HAZEb|で表される。
【0025】
第一の実施形態に係る樹脂フィルムのJIS K7375:2008に基づいて測定される全光線透過率は、透明性を高めるという観点から、80%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましく、90%以上であることが更により好ましく、例えば80~95%とすることができる。
【0026】
第一の実施形態に係る樹脂フィルムの少なくとも一方の表面、好ましくは両面における、JIS B0601:2001に基づいて測定される算術平均粗さRaは、透明性を高めるという観点から、100nm以下であることが好ましく、90nm以下であることがより好ましく、例えば70~100nmとすることができる。
【0027】
第一の実施形態に係る樹脂フィルムを構成する樹脂組成物におけるポリフッ化ビニリデン系樹脂とポリメタクリル酸エステル系樹脂の混合比は、両者の合計100質量部に対して、ポリフッ化ビニリデン系樹脂:ポリメタクリル酸エステル系樹脂=50~80質量部:20~50質量部であることが好ましく、60~75質量部:25~40質量部であることがより好ましい。ポリフッ化ビニリデン系樹脂及びポリメタクリル酸エステル系樹脂の合計100質量部に対して、ポリフッ化ビニリデン系樹脂が50質量部以上であると、耐薬品性、耐候性及び耐汚染性等の特性を向上させることができる。また、樹脂フィルム中にポリメタクリル酸エステル系樹脂が少量含有することで、α型結晶の比率が大きくなるのを防止できると共に、第一の実施形態に係る樹脂フィルムを表面層として後述する裏面層に積層させて用いたときに、接着性及び密着性を向上させることができる。
【0028】
第一の実施形態に係る樹脂フィルムを構成する樹脂組成物は、ポリフッ化ビニリデン系樹脂及びポリメタクリル酸エステル系樹脂の他に、本発明の目的を損なわない範囲において、他の樹脂、可塑剤、熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、結晶核剤、ブロッキング防止剤、シール性改良剤、離型剤、着色剤、顔料、発泡剤、難燃剤などを適宜含有することができる。しかしながら、一般的には、樹脂フィルムを構成する樹脂組成物中のポリフッ化ビニリデン系樹脂及びポリメタクリル酸エステル系樹脂の合計含有量は80質量%以上であり、典型的には90質量%以上であり、より典型的には95質量%以上であり、100質量%とすることもできる。第一の実施形態に係る樹脂フィルムを構成する樹脂組成物に紫外線吸収剤を含有させてもよいが、コストやブリードアウトの観点からは、含有させないことが好ましい。
【0029】
本明細書において、ポリフッ化ビニリデン系樹脂とは、フッ化ビニリデンのホモポリマーの他、フッ化ビニリデン及びフッ化ビニリデンと共重合可能な単量体の共重合体をいう。フッ化ビニリデンと共重合可能な単量体としては、例えばフッ化ビニル、四フッ化エチレン、六フッ化プロピレン、六フッ化イソブチレン、三フッ化塩化エチレン、各種のフッ化アルキルビニルエーテル、更にはスチレン、エチレン、ブタジエン、及びプロピレン等の公知のビニル単量体などがあり、これらを単独で又は二種以上を組み合わせて使用することができる。これらの中でも、フッ化ビニル、四フッ化エチレン、六フッ化プロピレン及び三フッ化塩化エチレンから選択される少なくとも一種が好ましく、六フッ化プロピレンがより好ましい。
【0030】
ポリフッ化ビニリデン系樹脂を得るための重合反応としては、ラジカル重合、アニオン重合等の公知の重合反応が挙げられる。また、重合方法としては、懸濁重合、乳化重合等の公知の重合方法が挙げられる。重合反応及び/又は重合方法により、得られる樹脂の結晶化度、力学的性質等が変化する。
【0031】
ポリフッ化ビニリデン系樹脂の融点の下限は、150℃以上が好ましく、160℃以上がより好ましい。ポリフッ化ビニリデン系樹脂の融点の上限は、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)の融点に等しい170℃以下が好ましい。
【0032】
ポリメタクリル酸エステル系樹脂のガラス転移点(Tg)の下限は、70℃以上が好ましく、80℃以上がより好ましい。ポリメタクリル酸エステル系樹脂のTgの上限は、120℃以下が好ましい。
【0033】
ポリフッ化ビニリデン系樹脂の融点及びポリメタクリル酸エステル系樹脂のTgは、熱流束示差走査熱量測定(熱流束DSC)にて測定することができる。例えば、ブルカー・エイエックスエス社製、示差走査熱量測定装置DSC3100SAを用い、サンプル質量1.5mg、昇温速度10℃/分で室温から200℃まで加熱したときに得られるDSC曲線(first run)から求めることができる。
【0034】
本明細書において、ポリメタクリル酸エステル系樹脂とは、メタクリル酸メチル等のメタクリル酸エステルのホモポリマー、メタクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルと共重合可能な単量体の共重合体であって、樹脂フィルム中で粒径が1μm未満のもの(粒径が特定できないほど微細なもの及びマトリクス相を形成しているものを含む。)をいう。逆に言えば、樹脂フィルム中で粒径が1μm以上の樹脂粒子は本明細書におけるポリメタクリル酸エステル系樹脂には含まれない。樹脂粒子の粒径は、樹脂フィルムを小型の金属製万力に挟んで固定し、片刃ナイフを用いて樹脂フィルムの断面が平滑になるようにカットし、万力に樹脂フィルムを挟んだ状態で、共焦点式レーザー顕微鏡(例:キーエンス社製VK-X110)を用いて樹脂フィルム断面を拡大倍率2000倍で観察したときに、当該樹脂粒子を取り囲むことのできる最小円の直径を指す。
【0035】
メタクリル酸エステルと共重合可能な単量体としては、アクリル酸ブチル、メタアクリル酸ブチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル等の(メタ)アクリル酸エステル類;スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、o-メチルスチレン、t-ブチルスチレン、ジビニルベンゼン、トリスチレン等の芳香族ビニル単量体;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル単量体;グリシジル(メタ)アクリレート等のグリシジル基含有単量体;酢酸ビニル、酪酸ビニル等のカルボン酸ビニル系単量体;エチレン、プロピレン、イソブチレン等のオレフィン系単量体;1,3-ブタジエン、イソプレン等のジエン系単量体;マレイン酸、無水マレイン酸、(メタ)アクリル酸等の不飽和カルボン酸系単量体;ビニルメチルケトン等のエノン系単量体などがあり、これらを単独で又は二種以上を組み合わせて使用することができる。これらの中でも、ポリフッ化ビニリデン系樹脂との相溶性、フィルムの強度、及び裏面層との接着性、密着性の理由により、メタクリル酸メチルのホモポリマー、又は、メタクリル酸ブチルを主体としたアクリル系ゴムに対して(メタ)アクリル酸メチルを主体としたモノマーを共重合させたアクリル系ゴム変性アクリル系共重合体が好ましい。
【0036】
共重合体としては、ランダム共重合体、グラフト共重合体、ブロック共重合体(例えばジブロックコポリマー、トリブロックコポリマー、グラジエントコポリマー等のリニアタイプ、アームファースト法又はコアファースト法で重合した星型共重合体など)、重合可能な官能基を持つ高分子化合物であるマクロモノマーを用いた重合により得られる共重合体(マクロモノマー共重合体)、及びこれらの混合物などが挙げられる。なかでも、樹脂の生産性の観点から、グラフト共重合体及びブロック共重合体が好ましい。
【0037】
ポリメタクリル酸エステル系樹脂を得るための重合反応としては、ラジカル重合、リビングラジカル重合、リビングアニオン重合、リビングカチオン重合等の公知の重合反応が挙げられる。また、重合方法としては、塊状重合、懸濁重合、乳化重合、溶液重合等の公知の重合方法が挙げられる。重合反応及び重合方法により、得られる樹脂の力学的性質が変化する。
【0038】
第一の実施形態に係る樹脂フィルムは、例示的には以下の工程を実施することにより製造可能である。
工程1:ポリフッ化ビニリデン系樹脂及びポリメタクリル酸エステル系樹脂の合計100質量部に対して、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を50~80質量部、及びポリメタクリル酸エステル系樹脂を20~50質量部含有する樹脂組成物を200℃~260℃の温度でTダイから平均厚みが5~200μmのフィルム状に溶融押出成形する工程。
工程2:Tダイの出口から押し出された後、6秒以内に溶融押出成形されたフィルムの少なくとも一方の表面を30~50℃に温度調節された金属ロールの表面に接触させて冷却する工程。
【0039】
樹脂組成物における結晶化度を適正な範囲に制御すると共に、α型結晶の比率を小さくするという観点からは、200℃~260℃の温度でTダイから押し出された溶融状態の樹脂組成物を、急冷することが望ましい。具体的には、樹脂組成物がTダイの出口からフィルム状に押し出された後、6秒以内、好ましくは4秒以内に30~50℃、好ましくは40~45℃に温度調節された金属ロールの表面に接触させることが望ましい。α型結晶は140℃付近で生成及び成長しやすいところ、当該条件で急冷することで140℃付近を急速に通過することができるので、α型結晶の生成を効果的に抑制することができる。金属ロール表面の温度調節の方法としては、例えば金属ロールの内部に冷却水等の冷却媒体を流通させる方法が挙げられる。
【0040】
溶融押出成形の方法としては、Tダイを用い製膜するTダイ法、及びインフレーションダイスを用いる方法が挙げられる。冷却時、金属ロールに対向させてゴム製のタッチロールを配し、ダイスの出口から押出される溶融状態の樹脂組成物を、金属ロール(キャストロール)及びタッチロールの間でピンチすることが、フィルムに金属ロールの平滑面を転写する観点からより好ましい。
【0041】
樹脂フィルムの表面粗さを小さくするという観点からは、金属ロールの表面粗さは小さいことが望ましく、更にタッチロールの表面粗さも小さいことが望ましい。金属ロール及びタッチロールの表面粗さが樹脂フィルムの表面粗さに反映されるからである。従って、金属ロールの表面における、JIS B0601:2001に基づいて測定される算術平均粗さRaは100nm以下であることが好ましく、80nm以下であることがより好ましく、60nm以下であることが更により好ましく、40nm以下であることが更により好ましく、20nm以下であることが更により好ましく、例えば10~100nmとすることができる。タッチロールの表面における、JIS B0601:2001に基づいて測定される算術平均粗さRaは150nm以下であることが好ましく、120nm以下であることがより好ましく、例えば100~150nmとすることができる。
【0042】
(2.第二の実施形態)
図1には第二の実施形態に係る樹脂フィルム(100)の積層構造を示す模式的な断面図が示されている。樹脂フィルム(100)は、少なくとも表面層(110)と、表面層(110)に積層された裏面層(120)をこの順に備える。典型的には、表面層(110)と裏面層(120)の間には他の樹脂層が介在することなく、両者は直接接合されている。
【0043】
第二の実施形態に係る樹脂フィルムのJIS K7136:2000に基づいて測定されるHAZEは、透明性を高めるという観点から、20%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましく、5%以下であることが更により好ましく、2%以下であることが最も好ましく、例えば0.1~20%の範囲とすることができる。
【0044】
第二の実施形態に係る樹脂フィルムは、加熱前後でのHAZE変化が小さいという特徴を有することができる。例示的には、25℃から170℃まで平均昇温速度3.5℃/secとして空気中で加熱し、170℃に到達後1秒以内に25℃の温度環境下に置き、空気中で25℃まで放冷した後の、JIS K7136:2000に基づいて測定されるHAZE値の変化量ΔHAZEを5%以下とすることができ、好ましくは3%以下とすることができ、より好ましくは1%以下とすることができ、例えば0.5~5%とすることができる。ΔHAZEは、加熱前のHAZE値をHAZEb(%)、加熱後のHAZE値をHAZEa(%)とすると、ΔHAZE(%)=|HAZEa-HAZEb|で表される。
【0045】
第二の実施形態に係る樹脂フィルムのJIS K7375:2008に基づいて測定される全光線透過率は、透明性を高めるという観点から、80%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましく、90%以上であることが更により好ましく、例えば80~95%とすることができる。
【0046】
第二の実施形態に係る樹脂フィルムは、透明性を高めるという観点から、表面層の外表面及び裏面層の外表面の少なくとも一方、好ましくは両方における、JIS B0601:2001に基づいて測定される算術平均粗さRaが、100nm以下であることが好ましく、90nm以下であることがより好ましく、例えば70~100nmとすることができる。
【0047】
表面層は、ポリフッ化ビニリデン系樹脂及びポリメタクリル酸エステル系樹脂の合計100質量部に対して、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を50~80質量部、及びポリメタクリル酸エステル系樹脂を20~50質量部含有する樹脂組成物で構成することができる。表面層を構成する樹脂組成物の実施形態については、組成、結晶化度、α型結晶の比率、厚み、HAZE、全光線透過率を含め、第一の実施形態に係る樹脂フィルムを構成する樹脂組成物の実施形態と同一の説明が適用されるためその説明を省略する。
【0048】
裏面層の厚さは、5~300μmであることが好ましく、5~100μmであることがより好ましく、10~75μmであることが更により好ましく、25~35μmが特に好ましい。裏面層が5μm以上であると製膜性が向上すると共に、後述する熱ラミネート時の接着性を向上させることができ、300μm以下とすることにより、加熱成形性と透明性の向上及びコスト削減を実現することができる。裏面層は、単層で形成してもよいし、複数層で形成してもよいが、合計平均厚みが上述した厚さに収まるようにすることが望ましい。
【0049】
裏面層は、ポリフッ化ビニリデン系樹脂及びポリメタクリル酸エステル系樹脂の合計100質量部に対して、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を0~30質量部、及びポリメタクリル酸エステル系樹脂を70~100質量部含有する樹脂組成物で構成することができる。
【0050】
裏面層を構成する樹脂組成物におけるポリフッ化ビニリデン系樹脂とポリメタクリル酸エステル系樹脂の混合比は、両者の合計100質量部に対して、ポリフッ化ビニリデン系樹脂:ポリメタクリル酸エステル系樹脂=0~30質量部:70~100質量部であることが好ましく、20~30質量部:70~80質量部であることがより好ましい。ポリフッ化ビニリデン系樹脂及びポリメタクリル酸エステル系樹脂の合計100質量部に対して、ポリメタクリル酸エステル系樹脂が70質量部以上であると後述する加飾層等の他の層との密着性を向上させることができる。また、裏面層中にポリフッ化ビニリデン系樹脂が少量含有することで、耐候性や表面層との接着性、密着性を向上させることができる。
【0051】
裏面層を構成する樹脂組成物におけるポリフッ化ビニリデン系樹脂及びポリメタクリル酸エステル系樹脂のそれぞれの種類、融点及び重合反応については、表面層を構成する樹脂組成物におけるポリフッ化ビニリデン系樹脂及びポリメタクリル酸エステル系樹脂と同一の説明が適用されるためその説明を省略する。
【0052】
裏面層を構成する樹脂組成物におけるポリフッ化ビニリデン系樹脂の含有量は少ないため、裏面層においてはα型結晶及びβ型結晶は生成しないのが典型的である。このため、裏面層においては、結晶化度及びα型結晶の比率を特定する必要はない。
【0053】
裏面層を構成する樹脂組成物は、ポリフッ化ビニリデン系樹脂及びポリメタクリル酸エステル系樹脂の他に、本発明の目的を損なわない範囲において、紫外線吸収剤、他の樹脂、可塑剤、熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、結晶核剤、ブロッキング防止剤、シール性改良剤、離型剤、着色剤、顔料、発泡剤、難燃剤などを適宜含有することができる。しかしながら、一般的には、裏面層におけるポリフッ化ビニリデン系樹脂及びポリメタクリル酸エステル系樹脂の合計含有量は80質量%以上であり、典型的には90質量%以上であり、より典型的には95質量%以上であり、100質量%とすることもできる。
【0054】
裏面層を構成する樹脂組成物は、好ましくは紫外線吸収剤を含有する。裏面層を構成する樹脂組成物が紫外線吸収剤を含有することで、紫外線が遮断され、耐候性を効果的に高めることができる。紫外線吸収剤としては、限定的ではないが、ハイドロキノン系、トリアジン系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、シアノアクリレート系、オキザリックアシッド系、ヒンダードアミン系、サリチル酸誘導体等が挙げられ、これらを単独で又は二種以上を組み合わせて使用することができる。中でも紫外線遮断効果の持続性から、トリアジン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、又は、これらの混合物を含有することが好ましい。
【0055】
裏面層を構成する樹脂組成物中の紫外線吸収剤の含有量は、裏面層のポリフッ化ビニリデン系樹脂とポリメタクリル酸エステル系樹脂の合計100質量部に対して0.1~10質量部であることが好ましい。裏面層を構成する樹脂組成物中の紫外線吸収剤の含有量を、ポリフッ化ビニリデン系樹脂とポリメタクリル酸エステル系樹脂の合計100質量部に対して、0.1質量部以上とすることにより、好ましくは1質量部以上とすることにより、より好ましくは2質量部以上とすることにより、耐候性の更なる向上効果と共に、紫外線吸収効果が期待でき、また、裏面層を構成する樹脂組成物中の紫外線吸収剤の含有量を、ポリフッ化ビニリデン系樹脂とポリメタクリル酸エステル系樹脂の合計100質量部に対して、10質量部以下とすることにより、より好ましくは5質量部以下とすることにより、紫外線吸収剤がフィルム表面にブリードアウトすることを防止し、表面層との密着性低下を防止でき、また、コスト削減を実現することができる。
【0056】
裏面層を構成する樹脂組成物は、架橋(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子を含有してもよい。裏面層を構成する樹脂組成物が架橋(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子を少量含有することで僅かに白く濁らせた外観変化の小さな樹脂フィルムを作製することが可能となる。当初から僅かに白く濁らせた樹脂フィルムとすることで、より幅広い意匠表現が可能となる。裏面層を構成する樹脂組成物中の架橋(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子の含有量は、ポリフッ化ビニリデン系樹脂及びポリメタクリル酸エステル系樹脂の合計100質量部に対して0.1~10質量部であることが好ましい。架橋(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子としては、限定的ではないが、架橋ポリメタクリル酸メチル、架橋ポリメタクリル酸エチル、架橋ポリノルマルブチルメタクリレート等が挙げられ、これらを単独で又は二種以上を組み合わせて使用することができる。中でも裏面層との屈折率の差が小さいという理由から、ポリメタクリル酸メチルを含有することが好ましい。
【0057】
本明細書において、架橋(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子は、樹脂フィルム中における粒径が1μm以上のものを指す。樹脂粒子の粒径は、樹脂フィルムを先述した方法により観察したときに、当該樹脂粒子を取り囲むことのできる最小円の直径を指す。従って、架橋(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子であっても、樹脂フィルム中で粒径が1μm未満のものは、上述したポリメタクリル酸エステル系樹脂に関する定義を満たせば、ポリメタクリル酸エステル系樹脂に該当する。
【0058】
樹脂フィルムにおける、架橋(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子の算術平均粒子径はフィルム外観及び製膜性の観点から、1~4μmが好ましく、1.5~3.5μmがより好ましい。
【0059】
表面層と裏面層とが積層された積層体は、例えば複数の押出成形機を利用して複数の樹脂を溶融状態で接着積層する溶融共押出成形法により製造可能である。溶融共押出成形法には、複数の樹脂をシートの状態にした後に、Tダイ内部の先端で各層を接触接着するマルチマニホールドダイ方式と、複数の樹脂を合流装置(フィードブロック)内で接着後にシート状に拡げるフィードブロックダイ方式と、複数の樹脂をシートの状態に成形した後、Tダイ外部の先端で各層を接触させて接着するデュアルスロットダイ方式がある。また丸型ダイを使用するインフレーション成形法でも製造可能である。
【0060】
第二の実施形態に係る樹脂フィルムは、例示的には以下の工程を実施することにより製造可能である。
工程1:
ポリフッ化ビニリデン系樹脂及びポリメタクリル酸エステル系樹脂の合計100質量部に対して、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を50~80質量部、及びポリメタクリル酸エステル系樹脂を20~50質量部含有する第一樹脂組成物と、
ポリフッ化ビニリデン系樹脂及びポリメタクリル酸エステル系樹脂の合計100質量部に対して、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を0~30質量部、及びポリメタクリル酸エステル系樹脂を70~100質量部含有する第二樹脂組成物とを、
第一樹脂組成物の平均厚みが5~200μmであり、第二樹脂組成物の平均厚みが5~300μmとなるように、200℃~260℃の温度でTダイからフィルム状に溶融共押出成形する工程。
工程2:
Tダイの出口から押し出された後、6秒以内に溶融共押出成形されたフィルムの少なくとも第一樹脂組成物側の表面を30~50℃に温度調節された金属ロールの表面に接触させて冷却する工程。
【0061】
第一樹脂組成物における結晶化度を適正な範囲に制御すると共に、α型結晶の比率を小さくするという観点からは、200℃~260℃の温度でTダイからフィルム状に押し出された溶融状態にある第一樹脂組成物及び第二樹脂組成物の積層体を、第一樹脂組成物側の表面から急冷することが望ましい。具体的には、Tダイの出口から押し出された後、6秒以内、好ましくは4秒以内に溶融共押出成形されたフィルムの少なくとも第一樹脂組成物側の表面を30~50℃、好ましくは40~45℃に温度調節された金属ロールの表面に接触させることが望ましい。金属ロール表面の温度調節の方法としては、例えば金属ロールの内部に冷却水等の冷却媒体を流通させる方法が挙げられる。
【0062】
冷却時、金属ロールに対向させてゴム製のタッチロールを配し、Tダイの出口から押出される溶融状態にある第一樹脂組成物及び第二樹脂組成物の積層体を、金属ロール及びタッチロールの間でピンチすることが、フィルムに平滑面を転写する観点からより好ましい。
【0063】
樹脂フィルムの表面粗さを小さくするという観点からは、金属ロールの表面粗さは小さいことが望ましく、更にタッチロールの表面粗さも小さいことが望ましい。金属ロール及びタッチロールの表面粗さが樹脂フィルムの表面粗さに反映されるからである。従って、金属ロールの表面における、JIS B0601:2001に基づいて測定される算術平均粗さRaは100nm以下であることが好ましく、80nm以下であることがより好ましく、60nm以下であることが更により好ましく、40nm以下であることが更により好ましく、20nm以下であることが更により好ましく、例えば10~100nmとすることができる。タッチロールの表面における、JIS B0601:2001に基づいて測定される算術平均粗さRaは150nm以下であることが好ましく、120nm以下であることがより好ましく、例えば100~150nmとすることができる。
【0064】
(3.基材と積層された樹脂フィルム)
第一の実施形態及び第二の実施形態に係る樹脂フィルムにはそれぞれ、基材を積層してもよい。従って、本発明は一実施形態において、第一の実施形態に係る樹脂フィルムの何れか一方の面に基材が積層された樹脂フィルムが提供される。また、本発明は別の一実施形態において第二の実施形態に係る樹脂フィルムの表面層及び/又は裏面層に基材が積層された樹脂フィルムが提供される。基材が積層された樹脂フィルムの総厚みの平均値が、50~1000μmであると、自動車内装用部品への接着の作業性やコストの点で好ましい。
【0065】
基材としては、例えば加飾層、保護層、粘着層、印刷層、金属蒸着層等の層が挙げられる。基材は一種を単層で使用してもよいし、二種以上を組み合わせて積層して使用してもよい。典型的な実施形態においては、第二の実施形態に係る樹脂フィルムの裏面層に加飾層を積層した樹脂フィルムが提供される。また、別の典型的な実施形態においては、第二の実施形態に係る樹脂フィルムの裏面層に印刷層を形成し、印刷層に他の基材(加飾層等)を積層した樹脂フィルムが提供される。加飾層としては、例えば、アクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂又はこれらの樹脂を成分とする樹脂組成物等を用いることができる。また、加飾層には、適宜、顔料等の添加剤を加えることもできる。
【0066】
また、第一の実施形態及び第二の実施形態に係る樹脂フィルムは、加飾層以外の他の層として、アイソタクティックまたはシンジオタクティックのポリプロピレン、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)等のフィルムと多層化することができ、様々な加飾処理、例えばシボ成形等を行うこともできる。
【0067】
上述したように、第一の実施形態及び第二の実施形態に係る樹脂フィルムは、高い透明性を有し、白化もし難いという特性を有することができる。従って、当該樹脂フィルムを、白化が目立ちやすい明度及び光沢度の高い基材表面に適用することで、この特性を効果的に活用することができる。従って、好適な一実施形態においては、基材における樹脂フィルムとの貼合面における、JIS Z8741:1997に基づいて測定される60°鏡面光沢度は、100~600、典型的には300~550であり、JIS Z8781-4:2013に基づくL*a*b*色空間における受光角15°のL*は、0~20、典型的には0~5である。
【0068】
第一の実施形態及び第二の実施形態に係る樹脂フィルムに対してそれぞれ、基材を積層する方法としては、例えば、接着剤ラミネート及び熱ラミネートが挙げられる。その他の公知のラミネート方法を採用することもできる。また、第一の実施形態及び第二の実施形態に係る樹脂フィルムを用いて加熱成形することができる。加熱成形の方法としては、例えば、樹脂フィルムの片面又は両面に基材を貼り合わせた上で、真空成形、圧空成形、真空圧空成形する方法が挙げられる。
【0069】
自動車内装用部品等の物品に対して、加飾フィルムによる表面被覆を行う手法としては、例えば、フィルムインサート成形、インモールド成形、及び真空ラミネート成形(TOM成形のような真空・圧空成形を含む)が挙げられる。中でもフィルムインサート成形は、加飾フィルムを加熱して予備成形を行なうことから、インモールド成形及び真空ラミネート成形と比較してより複雑な形状の部品に対しても加飾フィルムが追従し、良好な表面被覆状態を実現できるという利点がある。フィルムインサート成形は加熱及び冷却を伴うものの、第一の実施形態及び第二の実施形態に係る樹脂フィルムは加熱及び冷却を行なっても白化し難いことから、フィルムインサート成形を好適に適用できる。
【実施例
【0070】
以下、本発明を実施例に基づいて、比較例と対比しつつ詳細に説明する。
【0071】
<1.単層フィルム>
(1-1.材料)
ポリフッ化ビニリデン系樹脂(PVDF)として、アルケマ社製の商品名Kynar(カイナー)1000HD(融点168℃のPVDFホモポリマー)を用意した。
ポリメタクリル酸エステル系樹脂(PMMA)として、住友化学社製のスミペックスMGSS(Tg101℃のポリメタクリル酸メチル)を用意した。
【0072】
(1-2.フィルム作製)
試験番号に応じて、表1に記載の組成に従って、φ30mmの2軸押出機によって混練後、各コンパウンドを得た。得られた各コンパウンドをφ40mmのTダイ式単軸押出機を用いて溶融押出成形し、押し出されたフィルム状の樹脂組成物を、冷却水が内部に流通する金属ロール及びゴム製のタッチロールで挟んで冷却し、表1に記載の所定平均厚みのフィルムを得た。この際、Tダイの出口(リップ)における樹脂組成物の温度を210℃、Tダイの出口から押し出された後、フィルムの一方の表面を金属ロールの表面に接触させるまでの時間を4秒として固定し、金属ロールの表面温度(表中の「金属ロール温度」)を変化させることで、フィルムを構成する樹脂組成物の結晶化度及びα型結晶の比率を制御した。また、比較例6においては、タッチロールの表面粗さを変化させることでフィルムのタッチロールとの接触面の表面粗さを変化させた。
【0073】
(1-3.フィルム平均厚み)
上記の条件で作製した各フィルム(幅方向の長さ800mm)について、レーザー顕微鏡(キーエンス社製、VK-X100)を使用して、フィルムの断面を倍率2000倍で観察し、フィルムの厚みを2点間距離に基づき計測した。測定は流れ方向(MD)の任意の1箇所についてフィルム幅方向(TD)に50mm間隔で17箇所行ない、その平均値を測定値とした。結果を表1に示す。
【0074】
(1-4.表面粗さ)
上記の条件で作製した各フィルムについて、フィルムの両面のJIS B0601:2001に基づく算術平均粗さRaを測定した。算術平均粗さRaの測定は、レーザー顕微鏡(キーエンス社製、VK-X100)を使用して、フィルム表面を倍率1000倍で使用した。結果を表1に示す。なお、金属ロール表面におけるJIS B0601:2001に基づく算術平均粗さRaを接触式の表面粗さ計(株式会社ミツトヨ、SJ210)により測定したところ、0.013μmであった。タッチロール表面におけるJIS B0601:2001に基づく算術平均粗さRaを接触式の表面粗さ計(株式会社ミツトヨ、SJ210)により測定したところ、0.116μm(但し、比較例6は3.712μm)であった。
【0075】
(1-5.結晶化度)
上記の条件で作製した各フィルムを構成する樹脂組成物の結晶化度を、先述した方法により結晶融解エンタルピーに基づき測定した。結晶融解エンタルピーの測定は、DSC(BRUKER社製、DSC3100SA)を使用し、フィルムのサンプル1.5mgをアルミパン内に密封して室温から200℃まで10℃/minの昇温速度で昇温する条件で行なった。結果を表1に示す。
【0076】
(1-6.α型結晶比率)
上記の条件で作製した各フィルムを構成する樹脂組成物について、α型結晶の比率を先述した方法により赤外線吸収スペクトルに基づき測定した。赤外線吸収スペクトルは、JASCO社製FT-IR(FT/IR4600)を用いて積算回数64回の条件で測定した。結果を表1に示す。
【0077】
(1-7.全光線透過率)
上記の条件で作製した各フィルムについて、ヘイズメーターNDH7000(日本電色工業社製)を使用し、JIS K7375:2008に基づく全光線透過率を求めた。結果を表1に示す。
【0078】
(1-8.HAZE)
上記の条件で作製した各フィルムについて、ヘイズメーターNDH7000(日本電色工業社製)を使用し、25℃におけるJIS K7136:2000に基づくHAZE値(加熱前)を測定した。次いで、上記の条件で作製した各フィルムに対して、25℃から170℃まで平均昇温速度3.5℃/secとして空気中で加熱し、170℃に到達後1秒以内に25℃の温度環境下に置き、空気中で25℃まで放冷した。当該加熱及び冷却を経たフィルムについて、ヘイズメーターNDH7000(日本電色工業社製)を使用し、JIS K7136:2000に基づくHAZE値(加熱後)を測定した。結果を表1に示す。
【0079】
(1-9.白化耐性)
上記の条件で作製した各フィルムについて、170℃まで平均昇温速度3.5℃/secとして空気中で加熱し、170℃に到達後1秒以内に25℃の温度環境下に置き、空気中で25℃まで放冷した。加熱前後におけるフィルムの白化状態を以下の基準で目視評価した。結果を表1に示す。
〇:・・・白化確認できなかった
×:・・・白化確認できた
【0080】
(1-10.耐薬品性1)
上記の条件で作製した各フィルムを10cm角に切り出し、5gの薬品(日焼け止めクリーム、商品名:ニュートロジーナ Ultra Sheer SPF45)を金属ロールの表面を接触させた側のフィルム表面に塗り、55℃で4時間静置後に拭き取って外観確認を行なった。評価は以下の基準で行った。結果を表1に示す。
◎:外観変化無し
○:微かに薬品の付着痕が残ったり、微かに皺が入る。
×:フィルムが白く濁ったり、大きく変形する。
【0081】
(1-11.耐薬品性2)
上記の条件で作製した各フィルムの金属ロールの表面を接触させた側の表面に、0.2mLの薬品(エンジンオイル、商品名:HONDA ウルトラU)を滴下し、室温で1.5時間静置後に拭き取り、その後さらに80℃で3時間静置してから外観確認を行なった。評価は以下の基準で行った。結果を表1に示す。
◎:外観変化無し
○:微かに薬品の付着痕が残ったり、微かに皺が入る。
×:フィルムが白く濁ったり、大きく変形する。
【0082】
(1-12.製膜性)
上記の条件で作製した各フィルムの製膜性を以下の基準で評価した。結果を表1に示す。
◎:全く問題ない
○:フィルムのコシが不足し巻取り不良となる
×:フィルムの穴開きや破断が発生するため製膜が困難
【0083】
【表1-1】
【0084】
【表1-2】
【0085】
<2.積層フィルム>
(2-1.材料)
・表面層用
ポリフッ化ビニリデン系樹脂(PVDF)として、アルケマ社製の商品名Kynar1000HD(融点168℃のPVDFホモポリマー)を用意した。
ポリメタクリル酸エステル系樹脂として、住友化学社製の商品名スミペックスMGSS(Tg101℃のポリメタクリル酸メチル)を用意した。
・裏面層用
ポリフッ化ビニリデン系樹脂(PVDF)として、アルケマ社製の商品名Kynar720(フッ化ビニリデンのホモポリマー、融点169℃)を用意した。
ポリメタクリル酸エステル系樹脂として、三菱ケミカル社製の商品名ハイペットHBS000アクリル酸ブチル(n-BA)とメタクリル酸ブチル(BMA)のゴム成分を含むポリメタクリル酸エステル系樹脂を用意した。
トリアジン系紫外線吸収剤として、BASF社製の商品名Tinuvin1600を用意した。
架橋アクリル酸エステル系微粒子として、アイカ工業社製の商品名GM-0105(体積中位粒子径:2μm)を用意した。原料として使用する架橋(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子の体積中位粒子径は、レーザー回折・散乱法により測定して求めた体積基準の累積粒径分布曲線の50体積%粒子径を指す。なお、当該粒子には1μm未満の粒径のものは実質的に存在しなかったため、原料中に配合する全量が樹脂フィルムにおいて架橋(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子を構成するとみなして差し支えない。
【0086】
(2-2.フィルム作製)
試験番号に応じて、表2に記載の組成に従って、φ30mmの2軸押出機によって混練後、表面層用と裏面層用の各コンパウンドを得た。表面層用コンパウンド及び裏面層用コンパウンドをφ40mmの単軸押出機2台と先端にフィードブロック及びTダイを取り付けたフィードブロック方式のTダイ式多層押出機を使用して溶融共押出成形を行い、押し出されたフィルム状の樹脂組成物を、冷却水が内部に流通する金属ロール及びゴム製のタッチロールで挟んで冷却し、表2に記載の所定平均厚みのフィルムを得た。この際、Tダイの出口(リップ)における樹脂組成物の温度を210℃、Tダイの出口から押し出された後、フィルムの表面層側の表面を金属ロール(但し、比較例12はタッチロール)の表面に接触させるまでの時間を4秒として固定し、金属ロールの表面温度(表中の「金属ロール温度」)を変化させることで、フィルムの表面層を構成する樹脂組成物の結晶化度及びα型結晶の比率を制御した。また、比較例12については、タッチロールの表面粗さを変化させることでフィルムのタッチロールとの接触面(表面層側)の表面粗さを変化させた。比較例13については、タッチロールの表面粗さを変化させることでフィルムのタッチロールとの接触面(裏面層側)の表面粗さを変化させた。
【0087】
(2-3.フィルム平均厚み)
上記の条件で作製した各フィルム(幅方向の長さ800mm)について、レーザー顕微鏡(キーエンス社製、VK-X100)を使用して、フィルムの断面を倍率2000倍で観察し、表面層及び裏面層の厚みを2点間距離に基づき計測した。測定は流れ方向(MD)の任意の1箇所についてフィルム幅方向(TD)に50mm間隔で17箇所行ない、その平均値を測定値とした。結果を表2に示す。
【0088】
(2-4.表面粗さ)
上記の条件で作製した各フィルムについて、フィルムの両面のJIS B0601:2001に基づく算術平均粗さRaを測定した。算術平均粗さRaの測定は、レーザー顕微鏡(キーエンス社製、VK-X100)を使用して、倍率2000倍の条件で使用した。結果を表2に示す。なお、金属ロール表面におけるJIS B0601:2001に基づく算術平均粗さRaを接触式の表面粗さ計(株式会社ミツトヨ、SJ210)により測定したところ、0.013μmであった。タッチロール表面におけるJIS B0601:2001に基づく算術平均粗さRaを接触式の表面粗さ計(株式会社ミツトヨ、SJ210)により測定したところ、0.116μm(但し、比較例12は3.712μm)であった。
【0089】
(2-5.結晶化度)
上記の条件で作製した各フィルムの表面層を構成する樹脂組成物の結晶化度を、先述した方法により結晶融解エンタルピーに基づき測定した。結晶融解エンタルピーの測定は、DSC(BRUKER社製、DSC3100SA)を使用し、フィルムのサンプル1.5mgをアルミパン内に密封して室温から200℃まで10℃/minの昇温速度で昇温する条件で行った。結果を表2に示す。なお、下層はポリメタクリル酸エステル系樹脂を多く含有するため結晶化しない。従って、積層フィルムの状態で測定を行なっても得られる結晶の融解エントロピーは実質的には表層の結晶のみを評価したことになる。
【0090】
(2-6.α型結晶比率)
上記の条件で作製した各フィルムの表面層を構成する樹脂組成物について、α型結晶の比率を先述した方法により赤外線吸収スペクトルに基づき測定した。赤外線吸収スペクトルは、JASCO社製FT-IR(FT/IR4600)を用いて積算回数64回の条件で測定した。結果を表2に示す。
【0091】
(2-7.全光線透過率)
上記の条件で作製した各フィルムについて、ヘイズメーターNDH7000(日本電色工業社製)を使用し、JIS K7375:2008に基づく全光線透過率を求めた。結果を表2に示す。
【0092】
(2-8.HAZE)
上記の条件で作製した各フィルムについて、ヘイズメーターNDH7000(日本電色工業社製)を使用し、25℃におけるJIS K7136:2000に基づくHAZE値(加熱前)を測定した。次いで、上記の条件で作製した各フィルムに対して、25℃から170℃まで平均昇温速度3.5℃/secとして空気中で加熱し、170℃に到達後1秒以内に25℃の温度環境下に置き、空気中で25℃まで放冷した。当該加熱及び冷却を経たフィルムについて、ヘイズメーターNDH7000(日本電色工業社製)を使用し、JIS K7136:2000に基づくHAZE値(加熱後)を測定した。結果を表2に示す。
【0093】
(2-9.白化耐性)
上記の条件で作製した各フィルムについて、170℃まで平均昇温速度3.5℃/secとして空気中で加熱し、170℃に到達後1秒以内に25℃の温度環境下に置き、空気中で25℃まで放冷した。加熱前後におけるフィルムの白化状態を以下の基準で目視評価した。結果を表2に示す。
〇:・・・白化確認できなかった
×:・・・白化確認できた
【0094】
(2-10.耐薬品性1)
上記の条件で作製した各フィルムを10cm角に切り出し、5gの薬品(日焼け止めクリーム、商品名:ニュートロジーナ Ultra Sheer SPF45)を金属ロールの表面を接触させた側のフィルム表面(すなわち表面層の表面)に塗り、55℃で4時間静置後に拭き取って外観確認を行なった。評価は以下の基準で行った。結果を表2に示す。
◎:外観変化無し
○:微かに薬品の付着痕が残ったり、微かに皺が入る。
×:フィルムが白く濁ったり、大きく変形する。
【0095】
(2-11.耐薬品性2)
上記の条件で作製した各フィルムの金属ロールの表面を接触させた側の表面(すなわち表面層の表面)に、0.2mLの薬品(エンジンオイル、商品名:HONDA ウルトラU)を滴下し、室温で1.5時間静置後に拭き取り、その後さらに80℃で3時間静置してから外観確認を行なった。評価は以下の基準で行った。結果を表2に示す。
◎:外観変化無し
○:微かに薬品の付着痕が残ったり、微かに皺が入る。
×:フィルムが白く濁ったり、大きく変形する。
【0096】
(2-12.紫外線吸収剤のブリードアウト)
上記の条件で作製した各フィルムに対して、-30℃×7h→23℃×1h→80℃×15h→23℃×1hの環境下に暴露することを1サイクルとして、合計4サイクルの冷熱サイクル試験を行った。冷熱サイクル試験後、裏面層の表面に紫外線吸収剤がブリードアウトしているかをレーザー顕微鏡にて倍率2000倍で観察した。結果を表2に示す。
○:ブリードアウトなし
×:ブリードアウトあり
【0097】
(2-13.製膜性)
上記の条件で作製した各フィルムの外観に基づき製膜性を以下の基準で評価した。結果を表2に示す。
◎:全く問題ない
○:穴開き等がわずかに発生するが製膜可能
×:顕著な穴開きやフィルムの破断の発生により製膜が困難
【0098】
(2-14.白色ポリ塩化ビニルフィルムとの剥離強度)
上記の条件で作製した各フィルムの裏面層側から、ロール温度140℃、ライン速度0.5m/minで白色ポリ塩化ビニルフィルム(共和レザー社製)に熱ラミネートした。得られた基材が積層されたフィルムを10mm幅に切り出し、ストログラフ(東洋精機社製、STROGRAPH VE10)を用いて、幅方向に直交する方向に50mm/minの速度で白色ポリ塩化ビニルフィルムからフィルムを剥離する180°剥離試験を行った。このときの剥離強度の最大値を測定値とした。結果を表2に示す。
【0099】
<考察>
実施例1~16においては、樹脂フィルムを構成する樹脂組成物の組成、結晶化度、α型結晶の比率、平均厚み、HAZEが共に好適であったことから、透明性が高く、加熱及び冷却を行なっても白化し難い樹脂フィルムが得られた。また、耐薬品性にも優れていた。なお、実施例15では、裏面層に架橋アクリル酸エステル系微粒子を添加したことで、裏面層の外表面の表面粗さが他の実施例に比べてやや大きかった。実施例16においては裏面層のPVDFの比率が上がることで紫外線吸収剤の相溶性が悪くなり、紫外線吸収剤のブリードアウトが見られた。
比較例1、2、8、9においては、樹脂フィルムを構成する樹脂組成物の組成が不適切であったため、α型結晶の比率が大きくなり、加熱による白化が生じた。
比較例3、10においては、樹脂フィルムの平均厚みが薄すぎたことで、製膜が困難となった。
比較例4、11においては、樹脂フィルムの平均厚みが厚すぎたことで白化が確認された。
比較例5においては、樹脂フィルムを構成する樹脂組成物の組成が不適切であったため、樹脂フィルムを構成する樹脂組成物の結晶化度が上がらず、耐薬品性が劣った。
比較例6においては、樹脂フィルムのタッチロールとの接触面における表面粗さが大きく、透明性が不十分となった。
比較例12においては、樹脂フィルムの表面層の外表面における表面粗さが大きく、透明性が不十分となった。
比較例7、14においては、冷却時の金属ロールの温度が高かったため、α型結晶の比率が高くなり、白化が生じた。
比較例13においては、架橋アクリル酸エステル系微粒子の添加量が多すぎたこと、及び、裏面層の外表面における表面粗さが大きいことで透明性が不十分となった。
【0100】
【表2-1】
【0101】
【表2-2】
【0102】
【表2-3】
【符号の説明】
【0103】
100 樹脂フィルム
110 表面層
120 裏面層
図1