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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-20
(45)【発行日】2024-10-01
(54)【発明の名称】チップソー及びチップソーの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23D 61/02 20060101AFI20240924BHJP
   B23D 47/00 20060101ALI20240924BHJP
   B27B 33/08 20060101ALI20240924BHJP
   B28D 1/04 20060101ALI20240924BHJP
【FI】
B23D61/02 Z
B23D47/00 E
B27B33/08 A
B28D1/04 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022505962
(86)(22)【出願日】2021-03-03
(86)【国際出願番号】 JP2021008089
(87)【国際公開番号】W WO2021182213
(87)【国際公開日】2021-09-16
【審査請求日】2023-09-13
(31)【優先権主張番号】P 2020043845
(32)【優先日】2020-03-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000165398
【氏名又は名称】兼房株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】弁理士法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】淺香 慶一
(72)【発明者】
【氏名】渡部 友朗
【審査官】荻野 豪治
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-141835(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0221534(US,A1)
【文献】実開平06-071110(JP,U)
【文献】特開2004-098273(JP,A)
【文献】特開2006-142462(JP,A)
【文献】特開昭57-201120(JP,A)
【文献】特表2010-528892(JP,A)
【文献】国際公開第2016/178307(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第106041208(CN,A)
【文献】特表2013-500174(JP,A)
【文献】特開2009-233782(JP,A)
【文献】米国特許第4766794(US,A)
【文献】特開2004-050367(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23D 45/00 - 65/04
B27B 33/08
B28D 1/00 - 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
切断時に用いられるチップソーであって、
円盤状の台金と、
前記台金の外周に接合される複数の切削用チップと、
前記複数の切削用チップの相互間の周方向のピッチを有し、
前記ピッチは、最大ピッチと、最小ピッチを含み、前記最大ピッチの大きさと前記最小ピッチの大きさの比率が3倍以上であり、すべての前記ピッチは、互いに素の関係であるチップソー。
【請求項2】
請求項1に記載のチップソーであって、
前記複数の切削用チップは、前記ピッチを構成する第1チップと第2チップを含み、前記第1チップと前記第2チップがそれぞれ前記台金の本体から径方向外方に突出する第1刃体と第2刃体のそれぞれに接合され、
前記第1刃体と前記第2刃体の間には、前記台金の前記本体から径方向外方に突出しかつ切削用チップが接合されていないダミー刃体が設けられ、
前記ダミー刃体と前記第1刃体の間、および前記ダミー刃体と前記第2刃体の間のそれぞれに前記切削用チップを研磨する際に使用される送り棒が挿入される挿入凹部が形成されているチップソー。
【請求項3】
請求項1または2に記載のチップソーであって、
1ピッチと第2ピッチと第3ピッチを含む前記ピッチで配置された複数の隣接する前記切削用チップからなるチップ組を複数有し、
前記第1ピッチと前記第2ピッチと前記第3ピッチのそれぞれの大きさの差は、(10/前記複数の切削用チップの個数)°以上であるチップソー。
【請求項4】
チップソーの製造方法であって、
円盤状の台金に接続される複数の切削用チップの相互間の周方向の複数のピッチ中のすべての前記ピッチが互いに素であり、かつ前記複数のピッチ中の最大ピッチの大きさと最小ピッチの大きさの比率が3倍以上であるように前記各ピッチを求め、
前記各ピッチにおいて前記複数の切削用チップを前記台金の外周に接合する、チップソーの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の1つの形態は、チップソー及びチップソーの製造方法に関する。チップソーは、例えば木材及び木質材料、外壁等の窯業系材料、パイプ等の鉄鋼材料やアルミニウム等の非鉄金属材料の被削材を切断する。
【背景技術】
【0002】
チップソーは、円盤状の台金と、台金の外周に接合された複数の切削用チップを有する。切削用チップは、例えば超硬合金や多結晶ダイヤモンド(PCD)焼結体で構成される。切削用チップは台金の周方向に所定の間隔(ピッチ)を空けて配置される。切削用チップは、台金の周方向にすくい面が向く姿勢で台金に接合される。チップソーを台金の円盤状の中心を通る軸回りに回転させることで、切削用チップのすくい面の端縁の切れ刃が被削材を切削する。複数の切削用チップが被削材を断続的に切削して被削材に溝を形成する。これによりチップソーで被削材を切断できる。
【0003】
各切削用チップは、被削材を切削する際に被削材から切削抵抗を受ける。切削抵抗の台金の厚み方向(横方向)の成分は、チップソーを横方向に加振して切削振動を生じさせる。加振力は、ピッチを空けて配置された各切削用チップが被削材を切削するたびに断続的に発生する。各切削用チップが被削材を切削するたびに発生する加振力の断続周波数(Hz)は、下記の式(1)によって求められる。
【0004】
(式1)断続周波数(Hz)={360×回転数(rpm)}/{60×ピッチ(°)}
切削振動を引き起こす加振周波数は、多くの場合に断続周波数、または断続周波数の整数倍の高調波の周波数、または断続周波数の整数分の1倍の低調波の周波数である。加振周波数とチップソーの固有振動数が一致すると、共振現象によってチップソーに大きい切削振動が発生する。チップソーの切削振動が大きくなると、切削動力や切削騒音が増加する。さらに被削材に柄飛び等の欠損が生じ易くなるため、被削材の切断品質が悪化し得る。
【0005】
加振周波数とチップソーの固有振動数の一致を抑制できるランダムピッチのチップソーが従来提供されている。特許第3030705号公報と特許第6472875号公報には、ランダムピッチのチップソーが開示されている。ランダムピッチのチップソーでは、各ピッチの大きさにばらつきが設けられている。そのため各切削用チップと対応する各断続周波数にばらつきが生じる。これにより加振周波数が分散され、チップソーの固有振動数と一致する加振周波数による加振力を抑制できる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のランダムピッチのチップソーでは、加振周波数の分散に改良の余地があった。例えば、下記の現象は従来知られていなかったが、この度、発明者が下記の現象を発見した。すなわち加振周波数による加振力は、断続周波数を中心とする狭い周波数領域に集中する傾向がある。そのため加振周波数のピークとチップソーの固有振動数が一致する際に、切削振動の振幅が大きくなる場合がある。そこで切削振動を効果的に抑制できるチップソーをこの度、提案する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の1つの特徴によればチップソーは、切断時に用いられる。チップソーは、円盤状の台金と、台金の外周に接合される複数の切削用チップを有する。複数の切削用チップの相互間には、周方向のピッチが形成される。ピッチは、最大ピッチと、最小ピッチを含み、最大ピッチの大きさと最小ピッチの大きさの比率は3倍以上である。
【0008】
断続周波数は、切削用チップのピッチと反比例の関係がある。そのため断続周波数の最大値と最小値の比率も3倍以上になる。これにより加振周波数は、広い周波数領域で分散される。そのためチップソーの固有振動数と一致する加振周波数による加振力を小さくできる。かくしてチップソーの切削振動を効果的に抑制できる。
【0009】
本開示の他の特徴によれば複数の切削用チップの配置が、台金の円盤状の中心を通る回転軸に対し、回転非対称である。ここで回転非対称とは、回転軸を中心に回転させる際に360°回転させないと同じ形状にならない性質を示す。したがって断続周波数の非周期性が大きくなる。そのため加振周波数をより分散し易い。これにより加振周波数による加振力を更に分散して小さくできる。
【0010】
本開示の他の特徴によれば複数の切削用チップは、ピッチを構成する第1チップと第2チップを含む。第1チップと第2チップがそれぞれ台金の本体から径方向外方に突出する第1刃体と第2刃体のそれぞれに接合される。第1刃体と第2刃体の間には、台金の本体から径方向外方に突出しかつ切削用チップが接合されていないダミー刃体が設けられる。ダミー刃体と第1刃体の間、およびダミー刃体と第2刃体の間のそれぞれに切削用チップを研磨する際に使用される送り棒が挿入される挿入凹部が形成される。
【0011】
なお切削用チップは、例えば研磨位置に位置決めされて回転する砥石を近づけられることで研磨される。複数の切削用チップは、台金を所定の角度で回転させることで研磨位置へ順に送られる。例えば送り棒を台金の挿入凹部に挿入させかつ台金の周方向に沿って移動させる。これにより台金が所定の角度分だけ回転する。したがって挿入凹部を所定のピッチの間に設けることで、ピッチの最大値よりも小さい角度で送り棒によって台金を回転させることができる。これにより切削用チップをスムーズに効率良く研磨することができる。
【0012】
本開示の他の特徴によればチップソーは、円盤状の台金と、台金の外周に接合される複数の切削用チップを有する。複数の切削用チップの相互間には、周方向のピッチが形成される。ピッチの比が互いに素の関係の第1ピッチと第2ピッチと第3ピッチを含む。
【0013】
断続周波数は、切削用チップのピッチと反比例の関係がある。そのため少なくとも3つの大きさのピッチによって各断続周波数が分散される。しかも各断続周波数の比がそれぞれ互いに素の関係になっている。異なる断続周波数の高調波が重なる場合は、互いの公倍数の周波数となる場合である。互いに素の関係である断続周波数の公倍数は、非常に大きい周波数となる。大きい周波数での切削振動は発生し難いことから、チップソーの切削振動を抑制できる。
【0014】
本開示の他の特徴によればチップソーは、第1ピッチと第2ピッチと第3ピッチを含むピッチで配置された複数の隣接する切削用チップからなるチップ組を複数有する。したがって互いに素の関係である少なくとも3つの大きさのピッチの組合せによって各断続周波数が分散される。さらにチップソーは、チップ組を繰り返し有することで形成し易い。また切削用チップが多いチップソーは、全てのピッチを互いに素の関係で設定すると各ピッチの差が小さくなり易い。そこでチップ組の繰り返しを許容することにより、互いに素の関係である各ピッチの差を所定以上に大きくできる。これによりチップソーの固有振動数と一致する加振周波数による加振力を小さくできる。
【0015】
本開示の他の特徴によれば第1ピッチと第2ピッチと第3ピッチのそれぞれの大きさの差は、(10/複数の切削用チップの個数)°以上である。したがって各断続周波数の大きさに所定以上の差を設けることができる。そのため各断続周波数が互いに近づくことを抑制できる。これによりチップソーの固有振動数と一致する加振周波数による加振力を小さくできる。
【0016】
本開示の他の特徴は、チップソーの製造方法に関する。円盤状の台金に接続される複数の切削用チップの相互間の周方向の各ピッチの比が少なくとも3つの互いに素である整数を含むように各ピッチを求める。各ピッチにおいて複数の切削用チップを台金の外周に接合する。断続周波数は、切削用チップのピッチと反比例の関係がある。そのため少なくとも3つの大きさのピッチによって各断続周波数が分散される。しかも各断続周波数の比がそれぞれ互いに素の関係になっている。異なる断続周波数の高調波が重なる場合は、互いの公倍数の周波数となる場合である。互いに素の関係である断続周波数の公倍数は、非常に大きい周波数となる。大きい周波数での切削振動は発生し難いことから、チップソーの切削振動を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】第1実施形態に係るチップソーの正面図である。
図2図1中II部分の拡大正面図である。
図3】第1実施形態に係るチップソーのピッチを示す表である。
図4】ピッチ比率と切削振動の最大振幅を示すグラフである。
図5】実験例1のチップソーのピッチを示す表である。
図6】実験例2のチップソーのピッチを示す表である。
図7】実験例3のチップソーのピッチを示す表である。
図8】実験例4のチップソーのピッチを示す表である。
図9】実験例5のチップソーのピッチを示す表である。
図10】実験例6のチップソーのピッチを示す表である。
図11】実験例7のチップソーのピッチを示す表である。
図12】実験例3のチップソーの切削振動を示すグラフである。
図13】実験例4のチップソーの切削振動を示すグラフである。
図14】実験例5のチップソーの切削振動を示すグラフである。
図15】実験例6のチップソーの切削振動を示すグラフである。
図16】実験例7のチップソーの切削振動を示すグラフである。
図17】等ピッチのチップソーの切削振動を示すグラフである。
図18】ピッチの違いによる断続周波数と加振力の関係を示すグラフである。
図19図18に示す各チップソーのピッチを概略的に示す図である。
図20】切削用チップの研磨処理を概略的に示す斜視図である。
図21】チップソーの製作のフローチャートである。
図22】第2実施形態に係るチップソーの正面図である。
図23】第2実施形態に係るチップソーのピッチを示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本開示の第1実施形態を図1~21に基づいて説明する。図1に示すようにチップソー1は、円盤状の台金2と、台金2の外周に接合される複数の切削用チップ10を有する。チップソー1は、例えば複数の台金2を接合させた構成ではなく、切断時に単体で用いられる。チップソー1は、例えば充電バッテリ式の電動丸のこや定置式のチップソー切断機等の切削工具に回転可能に装着される。チップソー1は、台金2を回転させて各切削用チップ10で被削材に溝を形成し、最終的に被削材を切断する。被削材は、例えば木材及び木質材料、樹脂系材料、複合材料、あるいはサイディングボード等の窯業系材料である。あるいは被削材は、炭素鋼、一般構造圧延鋼、クロムモリブデン鋼、ステンレス鋼、鋳鉄等の鉄鋼材料、あるいは例えばアルミ及びアルミ合金、銅及び銅合金等の非鉄金属である。
【0019】
図1に示すように台金2の中心部には台金2の板厚方向に貫通する略円形の取付孔3が設けられる。取付孔3に切削工具の回転軸が挿入されて、チップソー1が切削工具に装着される。切削工具の回転軸が回転することで、台金2の中心2aを中心としてチップソー1が図1において時計回りに回転する。台金2の周縁には、台金2の径方向外方に突出する複数の突出部4,7が所定の間隔を有して設けられる。突出部4は、チップソー1の回転方向前方の端部に矩形状に切欠かれたチップシート6を有する。チップシート6に切削用チップ10が接合される。
【0020】
図1に示すように突出部(ダミー刃体)7は、突出部(第1刃体)4aと突出部(第2刃体)4bの間に設けられる。第1刃体4aと第2刃体4bには、切削用チップ(第1チップ)10dと切削用チップ(第2チップ)10eがそれぞれ接合される。ダミー刃体7は、チップシート6を有さずに台金2の径方向外方に突出する。そのためダミー刃体7には、切削用チップ10が接合されていない。突出部4,7の間には、周方向に窪む歯室(挿入凹部)5が形成される。そのため歯室5は、隣接する突出部4同士、隣接する第1刃体4aとダミー刃体7の間、あるいは隣接する第2刃体4bとダミー刃体7の間に設けられる。歯室5は、台金2の周方向に所定角度の間隔で設けられる。台金2の円盤面には、歯室5から台金2の径方向内方へ延びる外部スリット8が複数設けられる。外部スリット8は設けられていなくても良い。外部スリット8に加えてまたは外部スリット8の代わりに内部スリットを設ける場合がある。内部スリットは、両端が台金2の中央領域に位置し、例えば歯室5に対して開放していない。
【0021】
図2に示すように切削用チップ10は、チップソー1の回転方向前方にすくい面10aを有する。切削用チップ10は、台金2の径方向外方に逃げ面10bを有する。すくい面10aと逃げ面10bの交差する部分に切れ刃10cが形成される。各切れ刃10cは、径方向において同じ高さに設定されている。各切削用チップ10は、周方向にピッチ11を空けて配置される。ピッチ11は、台金2の中心2a(図1参照)を中心とする周方向の角度である。ピッチ11は、例えば中心2aと各切削用チップ10の切れ刃10cを通る仮想線を想定した際に、隣接する各仮想線間の角度である。チップソー1の外径は、例えば50~200mmである。外径が125mmのチップソー1において、ピッチの1°は周方向長さ1.09mmに相当する。
【0022】
図1に示すようにチップソー1は、10個の各切削用チップ10の間に10個のピッチ11a~11jを有する。ピッチ11a~11jは、例えば図3に示す製作時角度で設定される。ピッチ11a~11jは、ピッチ11aからチップソー1の回転方向前方へ向けて順番に13:53:17:47:19:43:23:37:29:31の比の関係である。すなわちピッチ11a~11jは、全刃互いに素の関係である。最大のピッチ11bと最小のピッチ11aの比率(ピッチ比率)は、53:13で概ね4倍、例えば3~5倍である。ピッチ11a~11jの差の最小値は2°である。なお図3,5~11に示す各ピッチは、大きさの順で並べたものであり、周方向の並び順を示すものではない。
【0023】
図1に示すようにチップソー1は、台金2の周方向に並んだ3個以上の切削用チップ10と3個以上の互いに異なるピッチ11を具備するチップ群12を有する。チップ群12は、例えばピッチ11a,11b,11cと、各ピッチ11a,11b,11cの回転方向後端または前端に位置する3個の切削用チップ10で構成される。チップ群12のピッチ11a,11b,11cと3個の切削用チップ10は、台金2の周方向に交互に並ぶ。チップソー1は、ピッチ11a~11jの大きさは全て異なるため、チップ群12を繰り返して有しない形状である。したがってピッチ11の並びは、台金2の中心2aを通る回転軸を中心に回転させる際、360°回転させないと同じ形状にならない回転非対称である。チップ群12は、例えば台金2の周方向に交互に並んだ他の3個のピッチと他の3個の切削用チップ10で構成されても良い。あるいはチップ群12は、4個またはそれ以上のピッチと、ピッチと同数の切削用チップ10で構成されていても良い。
【0024】
図1,3を参照してピッチ11a~11jを設定してチップソー1を製造する流れを説明する。まずピッチ11a~11jの比率を互いに素の関係で設定する。台金2の全周の360°をピッチ11a~11jの各比率で割り振った角度(°)を求める。各角度(°)の小数点以下を四捨五入で丸め処理(端数処理)した角度(°)を求める。丸め処理した角度の合計が360°である場合は、丸め処理した角度を製作時角度に設定する。丸め処理した角度の合計が360°より大きい場合は、1つまたは複数のピッチ11を1°切り下げて合計を360°にする。丸め処理した角度の合計が360°より小さい場合は、1つまたは複数のピッチ11を1°切り上げて合計を360°にする。図3に示す例では、丸め処理した角度の合計が361°である。そのため33°のピッチを1°切り下げて32°を製作時角度に設定する。これによりピッチ11a~11jの合計が360°になる。整数になるように丸め処理したが、桁を変えて小数点以下で丸め処理しても良い。
【0025】
次に各ピッチ11の大きさに基づいて台金2の外周に突出部4を設ける。各突出部4の回転方向前方の端部にチップシート6を設ける。各チップシート6に切削用チップ10を接合する。ピッチ11が大きい場合には隣接する突出部4の間に、径方向外方に突出するダミー刃体7を形成する。例えば最大値であるピッチ11bの両端の第1刃体4aと第2刃体4bの間にダミー刃体7を形成する。これにより第1刃体4aとダミー刃体7の間、および第2刃体4bとダミー刃体7の間に歯室5が形成される。
【0026】
図4に示すようにピッチ11の最大値と最小値のピッチ比率と、台金2の板厚方向におけるチップソー1の最大振幅の関係を示した。実験の結果、ピッチ比率(倍)と空転時の振幅を除いた切削振動の最大振幅(mm)の間に以下の式(2)で示す相関関係があることがわかった。
【0027】
(式2)最大振幅(mm)=1.2316×exp(-0.692×ピッチ比率)
実験結果の回帰式によれば、ピッチ比率が3倍のチップソーの最大振幅は、ピッチ比率が2倍のチップソーの概ね半分である。またピッチ比率が3倍のチップソーの最大振幅は、ピッチ比率が1倍である等ピッチのチップソーの概ね4分の1である。ピッチ比率が4倍のチップソーの最大振幅は、ピッチ比率が3倍のチップソーの概ね半分である。従来のチップソーのピッチ比率は、概ね1~2倍である。そのためピッチ比率を3倍以上に設定することで、チップソー1の最大振幅を従来よりも半分以上抑制できると考えられる。ピッチ比率が過大な場合においては、最大振幅をより抑制できるが、過大なピッチ比率が悪影響を及ぼす時がある。例えば1つのピッチが他のピッチに比べて大きくなる。大きいピッチの後のチップが大きな厚みで被削材を切断する場合が生じる。この場合、前記チップには、他のチップに比べて大きな切削抵抗が加わる。そのため最大振幅を効果的に抑制できるピッチ比率は、3倍以上であり、より好ましくは5倍以下であると考えられる。
【0028】
図5にピッチ11a~11j(図1参照)の実験例1を示す。実験例1のピッチ11a~11jは、全刃互いに素の関係である。ピッチ比率は、127:43で概ね3倍である。台金2の全周の360°を各比率で割り振った角度(°)の小数第2位を四捨五入で丸め処理した角度(°)を求める。丸め処理した角度の合計が360.2°であるため、29.1°,34.3°のピッチをそれぞれ0.1°切り下げて29°,34.2°に設定する。各ピッチ11a~11jの差の最小値は2.6°である。
【0029】
図6にピッチ11a~11j(図1参照)の実験例2を示す。実験例2のピッチ11a~11jは、全刃互いに素の関係である。ピッチ比率は、131:73で概ね1.8倍である。台金2の全周の360°を各比率で割り振った角度(°)の小数第2位を四捨五入で丸め処理した角度(°)を求める。丸め処理した角度の合計が360°であるため、丸め処理した角度を製作時角度に設定する。各ピッチ11a~11jの差の最小値は1.4°であり、図3,5に示す実験例よりも小さい。
【0030】
図7~11にピッチ11(図1参照)の実験例3~7をそれぞれ示す。実験例3~7のチップソーは、11個の切削用チップ10と11個のピッチ11を有する。ピッチ11は、全刃互いに素の関係である。台金2の全周の360°を各比率で割り振った角度(°)の小数第3位を四捨五入で丸め処理した角度(°)を求める。実験例3~5,7では、丸め処理した角度の合計が360°であるため、丸め処理した角度を製作時角度に設定する。実験例6のように丸め処理した角度の合計が360°より大きい場合は、1つまたは複数のピッチ11を0.01°切り下げて合計を360°にする。実験例6では、38.83°,40.05°のピッチをそれぞれ0.01°切り下げて38.82°,40.04°に設定した。丸め処理した角度の合計が360°より小さい場合は、1つまたは複数のピッチ11を0.01°切り上げて合計を360°にする。
【0031】
図7に示すように実験例3のピッチ11(図1参照)は、ピッチ比率が83:23で概ね3.6倍である。各ピッチ11の差の最小値は2.44°である。図8に示すように実験例4のピッチ11は、ピッチ比率が89:29で概ね3.06倍である。各ピッチ11の差の最小値は2.19°である。図9に示すように実験例5のピッチ11は、ピッチ比率が113:53で概ね2.13倍である。各ピッチ11の差の最小値は1.56°である。図10に示すように実験例6のピッチ11は、ピッチ比率が197:127で概ね1.55倍である。各ピッチ11の差の最小値は0.81°である。図11に示すように実験例7のピッチ11は、ピッチ比率が457:383で概ね1.19倍である。各ピッチ11の差の最小値は0.31°である。このようにピッチ比率が小さくなるほど各ピッチ11の差の最小値が小さくなる傾向がある。
【0032】
実験例3~7のランダムピッチのチップソーについて被削材を切削する際の切削振動を測定した。図12~16に示すように、ピッチ比率が大きくなるほど切削振動の振幅が抑制される傾向があった。特にピッチ比率が概ね3.06倍以上の実験例3,4のチップソーにおいて、切削振動の振幅が小さく抑制された。例えば図13に示す実験例4のチップソーの切削振動は、図16に示す実験例7のチップソーの切削振動の概ね10~30%の振幅である。さらに図12,13に示すように実験例3,4のチップソーにおいて、切削開始時を除いた切削中の切削振動が略一定であった。
【0033】
図18にピッチが相違する各チップソーの断続周波数と加振力の関係を示す。図18に示す等ピッチのチップソーは、図19で模式的に示すように同じ大きさのピッチ41で配置された複数の切削用チップ10を有する。図18に示すランダムピッチのチップソーは、図19で模式的に示すように比率が1:2であるピッチ42とピッチ43において周方向に交互に配置された複数の切削用チップ10を有する。図18に示す互いに素の関係のランダムピッチのチップソーは、図19で模式的に示すように互いに素の関係の大きさのピッチ11a~11c,11h~11jで配置された複数の切削用チップ10を有する。全刃互いに素の関係のランダムピッチは、どの2つのピッチを選んでも互いに素の関係を有する。3種類のチップソーは、それぞれ10個の切削用チップ10(図1参照)を有し、6000rpmの回転数で使用される。
【0034】
図18に示す各チップソーの断続周波数は、式(1)を参照するように各ピッチ(°)と反比例の関係がある。図18に示すように等ピッチのチップソーは、1000Hzを中心とする狭い周波数領域に集中しており断続周波数における加振力が大きい。比率が1:2のランダムピッチのチップソーの断続周波数は、2:1の比である1000Hzと500Hzを中心として、2つの狭い周波数領域それぞれにピークを有する。1000Hzを中心とする第1のピークは、例えば等ピッチのチップソーの最大加振力の略4分の3である。500Hzを中心とする第1のピークは、例えば等ピッチのチップソーの最大加振力の略半分である。
【0035】
全刃互いに素の関係のランダムピッチと対応する各断続周波数は、広い周波数領域で分散される。例えば1000Hzを中心として前後それぞれに250Hzの比較的広い幅を有して分散される。これにより断続周波数の最大加振力が、例えば等ピッチのチップソーの最大加振力の4分の1以下に抑制される。なお図18において左方の100Hzに見られる各断続周波数のピークは、チップソーの回転数の6000rpmと対応するものである。
【0036】
図18に示す各チップソーの断続周波数は、式(1)を参照するようにチップソーの回転数と比例の関係がある。そのため、チップソーの回転数を大きくすると断続周波数のピークが高い周波数領域へ移動する。チップソーの固有振動数もチップソーの回転数と相関性がある。例えばチップソーの回転数を大きくすることでチップソーの固有振動数が高い周波数領域へ移動する。しかしながら断続周波数は、チップソーの回転数の変化による移動量がチップソーの固有振動数よりも大きい。そのためチップソーの回転数を変える際に断続周波数とチップソーの固有振動数が一致する場合がある。切削振動は、チップソーの固有振動数と一致する断続周波数の加振力と対応して大きくなる。そのため全刃互いに素の関係のランダムピッチのチップソーは、断続周波数とチップソーの固有振動数が一致し得る周波数領域は広くなる。一方でチップソーの固有振動数と一致する断続周波数の加振力を例えば等ピッチのチップソーの4分の1以下に抑制できる。これにより切削振動を小さく抑制できる。
【0037】
図17に示すように等ピッチのチップソーの切削振動を、図12~16に示す実験例3~7と同条件で測定した。等ピッチのチップソーの切削振動は、図15に示す実験例6のチップソーよりも振幅が大きい傾向があり、かつ図16に示す実験例7のチップソーよりも振幅が抑制される傾向がある。これは、等ピッチのチップソーの狭い周波数領域に集中する断続周波数とチップソーの固有振動数との一致量が小さかったためと考えられる。しかしながらチップソーの回転数が変化することで断続周波数の加振力のピークとチップソーの固有振動数が容易に一致し得る。そのため等ピッチのチップソーの切削振動は、チップソーの回転数によって例えば実験例7のチップソーよりも容易に振幅が大きくなり得る。
【0038】
図20,21にしたがってチップソー1を製作するフローを説明する。まず図21に示すステップ(以下、STと略記する)01で台金2を作成する。図20に示すように台金2には、チップシート6を具備する突出部4と、チップシート6を具備しないダミー刃体7が形成される。台金2のチップシート6に切削用チップ10を接合する(図21のST02)。中心2a(図1参照)を中心として台金2が回転するように台金2を研磨装置にセットする(ST03)。研磨装置にセットされたチップソー1の切削用チップ10が順に研磨される(ST04)。
【0039】
図21のST04で示す切削用チップ10の研磨処理の流れを説明する。送り棒30が台金2の側方から歯室5に進入する(ST05)。送り棒30をチップソー1の回転方向と反対方向(図20において下方)に所定の距離だけ移動させる。これによりチップソー1が中心2a(図1参照)を中心として所定の角度だけ回転する。かくして送り棒30が切削用チップ10を研磨位置に送る(ST06)。切削用チップ10が研磨位置に移動すると、送り棒30が歯室5から台金2の厚み方向に離脱する(ST07)。そのため送り棒30が初期位置に移動する(ST08)。砥石31を回転させて研磨位置の切削用チップ10に近づける。これにより砥石31が切削用チップ10を研磨する(ST09)。砥石31は、切削用チップ10のすくい面10aまたは逃げ面10b、あるいはその両方を研磨する。チップソー1の全ての切削用チップ10の研磨が完了していない場合(ST10)、送り棒30が研磨作業の終わった切削用チップ10の前方の歯室5に進入する(ST05)。送り棒30が各切削用チップ10を順に研磨位置に送る。これにより全ての切削用チップ10の研磨が完了するまで研磨処理が行われる。切削用チップ10の研磨処理が完了すると(ST10)、チップソー1の作成が終了する。
【0040】
図1に示すようにチップソー1のピッチ11は、最大値と最小値のピッチ比率が例えば4倍である。そのため各ピッチ11に合わせて送り棒30(図21参照)で台金2を回転させようとすると、台金2の回転角度を1回の研磨処理の度に変更させる必要がある。図1に示すように歯室5は、台金2の周方向に所定角度の間隔を空けて設けられる。
【0041】
送り棒30を軸方向外方から各歯室5または突出部4,7の切削用チップのない外側の空間に進入させる。続いて送り棒30を周方向に所定量(例えば同じ角度の間隔)回転させる。歯室5または空間内に侵入した送り棒30は、歯室5の壁面またはチップに当たり、チップソー1を周方向に押す。これにより台金2を回転させることができ、すべての切削用チップ10を研磨できる。例えば、図1では36°以上、40°未満の一定間隔で送り棒30を周方向に回転させる。送り棒30を軸方向外方に退避させ、送り棒30を周方向へ移動させて、元の位置に戻す。続いて、送り棒30を軸方向外方から再度、各歯室5または突出部4,7の切削用チップのない外側の空間に進入させる。そして送り棒30を周方向に回転させる。これら動作を繰り返すことで、チップソー1を回転させることができ、すべての切削用チップ10の研磨をすることができる。
【0042】
切削用チップ10を具備しないダミー刃体7が研磨位置に送られた場合、ST09(図21参照)を行わずに送り棒30をダミー刃体7の回転方向前方の歯室5に進入させる(ST05)。あるいはST09に代えて、切削用チップ10を研磨する場合と同様に砥石31をダミー刃体7の手前で回転(空転)させる。かくして切削用チップ10の研磨処理をスムーズに行うことができる。
【0043】
上述するようにチップソー1は、切断時に用いられる。チップソー1は、図1に示すように円盤状の台金2と、台金2の外周に接合される複数の切削用チップ10を有する。複数の切削用チップ10のピッチ11は複数の異なる大きさを有する。最大値であるピッチ11bと最小値であるピッチ11aの比率は3倍以上である。
【0044】
断続周波数は、切削用チップ10のピッチ11と反比例の関係がある。そのため断続周波数の最大値と最小値の比率も3倍以上になる。これにより加振周波数は、広い周波数領域で分散される。そのためチップソー1の固有振動数と一致する加振周波数による加振力を小さくできる。かくしてチップソー1の切削振動を効果的に抑制できる。
【0045】
図1に示すようにピッチ11の並びは、台金2の円盤状の中心2aを通る回転軸に対し、回転非対称である。したがって断続周波数の非周期性が大きくなる。そのため加振周波数をより分散し易い。これにより加振周波数による加振力を更に分散して小さくできる。
【0046】
図1に示すように複数の切削用チップ10は、ピッチ11bを構成する第1チップ10dと第2チップ10eを含む。第1チップ10dと第2チップ10eがそれぞれ台金2の本体から径方向外方に突出する第1刃体4aと第2刃体4bのそれぞれに接合される。第1刃体4aと第2刃体4bの間には、台金2の本体から径方向外方に突出しかつ切削用チップ10が接合されていないダミー刃体7が設けられる。ダミー刃体7と第1刃体4aの間、およびダミー刃体7と第2刃体4bの間のそれぞれに切削用チップ10を研磨する際に使用される送り棒30(図20参照)が挿入される歯室5が形成される。
【0047】
なお切削用チップ10は、例えば研磨位置に位置決めされて回転する砥石31(図20参照)を近づけられることで研磨される。複数の切削用チップ10は、台金2を所定の角度で回転させることで研磨位置へ順に送られる。例えば送り棒30を台金2の歯室5に挿入させかつ台金2の周方向に沿って移動させる。これにより台金2が所定の角度分だけ回転する。したがって歯室5をピッチ11bの間に設けることで、ピッチ11bの最大値よりも小さい角度で送り棒30によって台金2を回転させることができる。これにより切削用チップ10をスムーズに効率良く研磨することができる。
【0048】
図1に示すようにチップソー1は、円盤状の台金2と、台金2の外周に接合される複数の切削用チップ10を有する。複数の切削用チップ10のピッチ11は、少なくとも3つの大きさからなる。少なくとも3つの大きさのピッチ11の比は、それぞれが互いに素の関係である。
【0049】
断続周波数は、切削用チップ10のピッチ11と反比例の関係がある。そのため少なくとも3つの大きさのピッチ11によって各断続周波数が分散される。しかも各断続周波数の比がそれぞれ互いに素の関係になっている。異なる断続周波数の高調波が重なる場合は、互いの公倍数の周波数となる場合である。互いに素の関係である断続周波数の公倍数は、非常に大きい周波数となる。大きい周波数での切削振動は発生し難いことから、チップソー1の切削振動を抑制できる。
【0050】
図3に示すように少なくとも3つの大きさの異なるピッチ11a~11jの差は、(10/複数の切削用チップ10の個数)°以上となる1°以上である。したがって各断続周波数の大きさに所定以上の差を設けることができる。そのため各断続周波数が互いに近づくことを抑制できる。これによりチップソー1の固有振動数と一致する加振周波数による加振力を小さくできる。
【0051】
図1に示すチップソー1の製造方法は、まず円盤状の台金2に接続される複数の切削用チップ10における各ピッチ11の比を少なくとも3つの互いに素である整数を含む整数であると設定して各ピッチ11を求める。次に各ピッチ11において複数の切削用チップ10を台金2の外周に接合する。断続周波数は、切削用チップ10のピッチ11と反比例の関係がある。そのため少なくとも3つの大きさのピッチ11によって各断続周波数が分散される。しかも各断続周波数の比がそれぞれ互いに素の関係になっている。異なる断続周波数の高調波が重なる場合は、互いに公倍数の周波数となる場合である。互いに素の関係である断続周波数の公倍数は、非常に大きい周波数となる。大きい周波数での切削振動は発生し難いことから、チップソー1の切削振動を抑制できる。
【0052】
次に本開示の第2施形態を図22,23に基づいて説明する。図22に示すチップソー20は、図1に示すチップソー1の10個の切削用チップ10に代えて、40個の切削用チップ10を有する。40個の切削用チップ10は、周方向に所定のピッチ22を空けて突出部4のチップシート6に接合される。台金2の円盤面には、蛇行状の制振スリット21が複数設けられる。台金2の円盤面には、歯室5から台金2の径方向内方へ延びる外部スリット24が複数設けられる。制振スリット21と外部スリット24はいずれか一方のみでも良く、いずれも設けられていなくても良い。
【0053】
図22に示すようにチップソー20は、台金2の周方向に並んだ10個の切削用チップ10と10個のピッチ22a~22jを含むチップ組23を有する。チップ組23を構成する各切削用チップ10と各ピッチ22は、台金2の周方向に交互に並ぶ。チップソー20にはチップ組23の繰り返しがある。チップソー20は、4組のチップ組23を有する。
【0054】
図22,23に示すようにピッチ22a~22iは、ピッチ22aからチップソー20の回転方向前方へ向けて順番に19:59:23:53:29:47:31:41:37の比の関係である。すなわちピッチ22a~22iは、全て大きさが異なり互いに素の関係である。ピッチ22a~22jの内、ピッチ22jは予め9°に設定した。ピッチ22a~22iは、90°から9°を差し引いた81°をそれぞれの比率で割り振った角度で設定される。各角度を小数第3位で四捨五入して丸め処理した角度を求める。丸め処理した角度の合計が81.01°であった。そのため5.5°のピッチを0.01°切り下げて5.49°に設定した。最大のピッチ22bと最小のピッチ22aのピッチ比率は、59:19で概ね3.1倍である。ピッチ22a~22iの差の最小値は0.48°である。なおピッチ22a~22iにピッチ22jを含めた場合の差の最小値は0.16°である。
【0055】
上述するようにチップソー20は、図22に示すように互いに素の関係である少なくとも3つの大きさのピッチ22で配置された複数の隣接する切削用チップ10からなるチップ組23を複数有する。したがって互いに素の関係である少なくとも3つの大きさのピッチ22の組合せによって各断続周波数が分散される。さらにチップソー20は、チップ組23を繰り返し有することで形成し易い。また切削用チップ10が多いチップソー20は、全てのピッチ22を互いに素の関係で設定すると各ピッチ22の差が小さくなり易い。そこでチップ組23の繰り返しを許容することにより、互いに素の関係である各ピッチ22の差を所定以上に大きくできる。これにより各ピッチ22と対応する断続周波数が近づくことを抑制できる。
【0056】
図23に示すように少なくとも3つの大きさの異なるピッチ22a~22iの差は、(10/複数の切削用チップ10の個数)°以上となる0.25°以上である。したがって各断続周波数の大きさに所定以上の差を設けることができる。そのため各断続周波数が互いに近づくことを抑制できる。これによりチップソー1の固有振動数と一致する加振周波数による加振力を小さくできる。
【0057】
以上説明した各実施形態のチップソー1,20には様々な変更を加えることができる。例えば外径が50mm以下、あるいは外径が200mm以上のチップソーに適用しても良い。チップソーに設けられる切削用チップ10の個数は、例示した個数に限らず3個以上であれば適用することができる。切れ刃10cが同じ高さに設定されたチップソー1を例示した。これに代えて、例えば大きいピッチ11の回転方向後方の切れ刃10cの高さを低くしても良い。これにより高さの低い切れ刃10cの切削抵抗を小さくでき、切削振動をより抑制することができる。所定のピッチの間に1つに限らず複数のダミー刃体7を設けても良い。
【0058】
ピッチ11a~11jが、全て互いに素の関係であるチップソー1を例示した。これに代えて、例えばピッチ11a~11jのうち3~9個のピッチが、互いに素の関係であっても良い。あるいは、例えばピッチ11a~11jの中に同じ大きさのものがあり、かつ互いに素の関係である少なくとも3つの大きさのピッチを有する構成としても良い。互いに素の関係である少なくとも3つの大きさのピッチ22を含むチップ組23を複数有するチップソー20を例示した。これに代えて、例えば互いに素の関係である少なくとも3つの大きさのピッチを含むチップ組を複数有し、かつチップ組と一致しないピッチを含むチップソーであっても良い。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23