(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-20
(45)【発行日】2024-10-01
(54)【発明の名称】制振性および耐熱性に優れたブロック共重合体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 297/04 20060101AFI20240924BHJP
【FI】
C08F297/04
(21)【出願番号】P 2023015873
(22)【出願日】2023-02-06
【審査請求日】2023-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】594042044
【氏名又は名称】ENEOSクレイトンエラストマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤▲崎▼ 光
(72)【発明者】
【氏名】山本 慎吾
【審査官】赤澤 高之
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-284830(JP,A)
【文献】国際公開第2017/086265(WO,A1)
【文献】特開2002-071964(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 297/00-297/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2個の
スチレンブロックと、少なくとも1個の
イソプレンと
スチレンがランダムに結合した重合体ブロックからなり、ビニル基を含み、下記a)~d)を満たす、当該ビニル基が非水添のブロック共重合体:
a)ブロック共重合体中の
スチレン含有量が45~60
重量%かつ、
イソプレンと
スチレンがランダムに結合した重合体ブロック中の
スチレンのランダム結合率が70~90
モル%。
b)測定周波数10Hzにおけるtanδピーク温度が0~30℃かつ、そのピーク値が0.7以上。
c)測定周波数10Hzにおいて、tanδが0.3以上である温度幅が45℃以上である。
d)共役ジエン重合体のビニル結合含有量が40モル%以下である。
【請求項2】
ブロック共重合体の重量平均分子量が100000~300000である、請求項
1に記載のブロック共重合体。
【請求項3】
少なくとも2個の
スチレンを主体とする重合体ブロックを生成する第1のステップと、第1のステップで得られた重合体ブロックに、少なくとも1個の
イソプレンおよび
スチレンをランダムに結合させてなる重合体ブロックを生成する第2のステップと、第2のステップで得られた重合体ブロックに、少なくとも2個の
スチレンを主体とする重合体ブロックを生成する第3のステップとを含む、ブロック共重合体の製造方法
であって、
各ステップでの重合反応を2,2-ジ(テトラヒドロフリル)プロパン存在下で行い、その添加量が有機リチウム化合物に対して0.4~0.6等量である、方法。
【請求項4】
重合温度範囲が40~90℃である、請求項
3に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制振性および耐熱性に優れたブロック共重合体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
制振とは、固体表面の振動エネルギーを熱に変換し、減衰することで振動を抑制する現象である。制振を目的として使用される材料を制振材料と言い、快適性の向上を目的に自動車、鉄道、家電、精密機器や住宅などに使用されている。代表的な制振材料として、金属、エラストマー、プラスチックやアスファルトが挙げられるが、その中でもエラストマーは粘弾性を有し、振動の減衰効果が高いことから、特に広く用いられている。
【0003】
制振性の判断材料としては、動的粘弾性測定によって得られるtanδの値を指標とするのが一般的であり、tanδの値が高いほど、振動の減衰効果が高い。前述の通り粘弾性を有する特性から、制振材料としてエラストマーが良く使用されているが、その中でもスチレン系ブロック共重合体はtanδのピーク値が高く、制振材料として好適である。特に、リビングアニオン重合によって製造されるスチレン系ブロック共重合体はその分子設計の自由度が高く、tanδピーク値やピーク温度の調整が容易であることから、制振性の付与対象に合わせた様々なものが開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平2-102212号公報
【文献】特開2002-284830号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで特許文献1では、2個以上の芳香族ビニル化合物からなるブロックと1個以上のイソプレンまたはイソプレン-ブタジエンからなるブロックより構成されるブロック共重合体の製造方法が開示されている。ここでイソプレンまたはイソプレン-ブタジエンからなるブロックのビニル結合含有量を40%以上にすることでtanδの主分散ピーク温度が0℃以上となり、実用的な温度範囲で高い制振性能を得られることが示されている。
【0006】
また、特許文献2においては、芳香族ビニル化合物からなるブロックとイソプレンとスチレンの混合物からなるブロックを有するブロック共重合体が検討されている。このブロック共重合体におけるイソプレンのビニル結合含有量を30~60%に調整することによって、tanδの主分散ピーク温度を30℃以上とすることができ、高温の環境下において制振性に優れていることが見出されている。
【0007】
しかしながら特許文献1においては、ブロック共重合体のtanδの主分散ピーク温度に関してのみ記載があり、その吸収強度や吸収強度の温度幅についての記載はない。また、一般に共重合体中のビニル結合量が高くなると耐熱性が低くなることが知られているところ、特許文献1にて開示されている共重合体はいずれもビニル結合量が高いことから、耐熱性に問題があることが考えられる。
【0008】
特許文献2においてはイソプレンとスチレンの混合物から構成されたブロックの構造を調節することで、30~70℃の範囲におけるtanδが0.2以上、tanδ主分散ピーク温度が30℃以上となることが示されてはいるが、tanδ主分散ピーク温度を室温付近とし、且つ、ビニル含量を少なくする方法についての言及はない。また、該当ブロックのイソプレン単位とスチレン単位との連鎖分布の形態については特に限定されておらず、ランダム結合率に関する言及もない。さらに特許文献2においては耐熱性の向上を目的に、ブロック共重合体の二重結合を水添することが示されているが、工業生産することを考えると水添工程が増える分、生産性低下やエネルギーコストの上昇が確実であり、費用や環境影響の観点から好ましくない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記問題点について鋭意検討した結果、スチレンなどの芳香族ビニル系単量体からなる重合体ブロックと、少なくとも1個の共役ジエン単量体と芳香族ビニル単量体からなる重合体ブロックとから構成される重合体において、共役ジエン単量体と芳香族ビニル単量体との連鎖分布の形態をランダムとし、且つ、ランダム結合率を特定の範囲とした場合には、低ビニル含量であっても、tanδの主分散ピークが室温付近となり、常温での作業環境下で広範囲の用途に好適であり、広い温度範囲で高い制振効果を有するブロック重合体が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち本発明は、上述した課題を解決するために、以下の態様を含む。
(1)少なくとも2個の芳香族ビニル単量体を主体とする重合体ブロックと、少なくとも1個の共役ジエン単量体と芳香族ビニル単量体がランダムに結合した重合体ブロックからなり、ビニル基を含み、下記a)~d)を満たす、当該ビニル基が非水添のブロック共重合体。
a)ブロック共重合体中の芳香族ビニル単量体含有量が45~60重量%かつ、共役ジエン単量体と芳香族ビニル単量体がランダムに結合した重合体ブロック中の芳香族ビニル単量体のランダム結合率が70~90モル%。
b)測定周波数10Hzにおけるtanδピーク温度が0~30℃かつ、そのピーク値が0.7以上。
c)測定周波数10Hzにおいて、tanδが0.3以上である温度幅が45℃以上である。
(2)共役ジエン重合体のビニル結合含有量が40モル%以下である、(1)に記載のブロック共重合体。
(3)ブロック共重合体の重量平均分子量が100000~300000である、(1)~(2)のいずれかに記載のブロック共重合体。
(4)
少なくとも2個の芳香族ビニル単量体を主体とする重合体ブロックを生成する第1のステップと、第1のステップで得られた重合体ブロックに、少なくとも1個の共役ジエン単量体および芳香族ビニル単量体をランダムに結合させてなる重合体ブロックを生成する第2のステップと、第2のステップで得られた重合体ブロックに、少なくとも2個の芳香族ビニル単量体を主体とする重合体ブロックを生成する第3のステップとを含む、ブロック共重合体の製造方法。
(5)
前記第2のステップにおいて、芳香族ビニル単量体と共役ジエン単量体を同時、あるいはこの一方を投入後、直ちにもう一方を投入する(4)に記載の方法。
(6)
前記ランダム化剤が、エーテル類またはアミン類である、(4)に記載の方法。
(7)
前記ランダム化剤が、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、2,2-ジ(テトラヒドロフリル)プロパン、クラウンエーテル、トリエチルアミン、N,N-ジメチルアニリンおよびN,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミンからなる群から選択される少なくとも1つである、(6)に記載の方法。
(8)
前記第1のステップにおいて、得られる重合体ブロックの分子量が、7000~25000の範囲である、(4)に記載の方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、制振性および耐熱性に優れたブロック共重合体を提供することが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のブロック共重合体は、少なくとも2個の芳香族ビニル単量体を主体とする重合体ブロックと、少なくとも1個の共役ジエン単量体を主体とする重合体ブロックからなり、ブロック共重合体中の芳香族ビニル単量体含有量が45~60重量%かつ、共役ジエン単量体と芳香族ビニル単量体がランダムに結合した重合体ブロック中の芳香族ビニル単量体のランダム結合率が70~90モル%であることを特徴とし、代表的な例として下記一般式で表されるものがある。
Ar1-D-Ar2 (A)
【0013】
上記一般式(A)において、Ar1及びAr2は芳香族ビニル化合物を主体の単量体とする重合体ブロックである。重合体ブロックAr1及びAr2は、互いに同一でも異なっていても良く、芳香族ビニル単量体としては、スチレン、t-ブチルスチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、o-メトキシスチレン、p-メトキシスチレンなどが挙げられ、この中でスチレンが特に好ましい。
【0014】
また、上記一般式(A)において、Dは共役ジエン単量体を主体とする重合体ブロックである。重合体ブロックDにおける共役ジエン単量体としては、1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、2-メチル-1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン、4,5-ジエチル-1,3-オクタジエン、3-ブチル-1,3-オクタジエン、7-メチル-3-メチレン-1,6-オクタジエン、クロロプレンなどが挙げられ、この中で1,3-ブタジエン、イソプレンが好ましく、イソプレンがより好ましい。
【0015】
本発明のブロック重合体において最も重要なことは、上記一般式(A)中の重合体ブロックDにおける芳香族ビニル単量体のランダム結合率を70~90モル%とすることである。ランダム結合率がこの範囲でない場合、tanδの温度依存性が高くなり、吸収ピーク温度を外れた地点でのtanδが著しく低下する。ランダム結合率は、後述する実施例にて代表してスチレンを用いて求めたように、1H-NMRを測定し、芳香族ビニル単量体由来のユニットにおける芳香環周りの水素に起因するピークの強度(積分値)を用いて見積もることができる値である。
【0016】
また、本実施形態にかかるブロック共重合体において、ブロック共重合体中の芳香族ビニル単量体含有量が45~60重量%、好ましくは50~60重量%である。前述した重合体ブロックDにおける芳香族ビニル単量体のランダム結合率とブロック共重合体中の芳香族ビニル単量体含有量を調整することで、ブロック共重合体のtanδピーク温度を0~30℃とし、かつ、ブロック共重合体のtanδピーク値を0.7以上とし、幅広い温度範囲における制振性を付与することができる。前述した芳香族ビニル単量体のランダム結合率およびブロック共重合体中の芳香族ビニル単量体含有量は後述した方法により測定された値である。また、ブロック共重合体は、tanδが0.3以上である温度幅が45℃以上であり、広い温度範囲で制振性を維持することができる。
【0017】
また、本実施形態にかかるブロック共重合体は耐熱性に優れており、230℃において30分間暴露した場合でも、その流動性にほとんど影響がない。この耐熱性は、後述した方法により測定された230℃で30分加熱時のメルトフローレートの変化率で評価することができ、好ましくは5%以下、さらに好ましくは3%以下である。
【0018】
また、共役ジエン単量体のビニル結合(1,2-および3,4-結合の合計)含有量は40モル%以下であり、好ましくは15%から40モル%である。ビニル結合含有量が大きすぎる、例えば40モル%を超えた場合、加熱時にビニル基の架橋反応が起こりやすくなり、耐熱性が低下する。ビニル結合含有量は、後述する実施例にて代表してイソプレンを用いて求めたように、1H-NMRを測定し、イソプレンの炭素鎖由来のユニットにおける水素に起因するピークの強度(積分値)を用いて見積もることができる値である。このビニル結合含有量は、重合開始剤の種類と使用量、ならびにランダム化剤を用いる場合はランダム化剤の種類と使用量などにより調整することができる。
【0019】
また、ブロック共重合体の重量平均分子量は、100000~300000であり、好ましくは120000~300000であり、さらに好ましくは150000~250000である。この値が小さすぎる、例えば100000を下回った場合、ブロック共重合体の粘着性が著しく上昇し、乾燥工程への付着により工業生産が実現困難となる。一方、この値が大きすぎる、例えば300000を超えた場合、ポリマー硬度が高すぎることで加工性が損なわれ、材料としての使用が困難になる。重量平均分子量は、後述した方法により測定された値である。
【0020】
また、ブロック共重合体のメルトフローレート(190℃、2.16kg荷重)は好ましくは0.1~20、さらに好ましくは1~16である。メルトフローレート(190℃、2.16kg荷重)は後述した方法により測定された値である。ブロック共重合体の分子量やメルトフローレートは、重合開始剤、例えば、sec-ブチルリチウムの添加量で調節される。
【0021】
本実施形態に係るブロック共重合体の重合方法は、少なくとも2個の芳香族ビニル単量体を主体とする重合体ブロック(Ar1)を生成する第1のステップと、第1のステップで得られた重合体ブロックに、少なくとも1個の共役ジエン単量体および芳香族ビニル単量体をランダムに結合させてなる重合体ブロック(D)を生成する第2のステップと、第2のステップで得られた重合体ブロックに、少なくとも2個の芳香族ビニル単量体を主体とする重合体ブロック(Ar2)を生成する第3のステップとを含む。
【0022】
また、この重合方法は、連続法、カップリング法によるものなど特に限定はされないが、カップリング法により重合したものについては、一定量のジブロック共重合体や未反応のカップリング剤、カップリング反応に伴う不純物が混入する可能性がある。これらの成分はブロック共重合体の強度低下や劣化の原因となるため、重合方法は連続法であることが好ましい。また、重合体ブロックDにおいて共役ジエン単量体と芳香族ビニル単量体のランダム結合性は、各単量体の投入のタイミング等で調整可能であるが、反応の効率化の観点、反応時間を短縮するという観点などから、重合系にランダム化剤を添加することが好ましい。一般に共役ジエン単量体の反応速度の方が芳香族ビニル単量体の反応速度よりも高いことから、ランダム化剤としては、芳香族ビニル単量体の反応速度を上げるように作用するものを用いることができ、例えばテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、2,2-ジ(テトラヒドロフリル)プロパン、クラウンエーテルなどのエーテル類、トリエチルアミン、N,N-ジメチルアニリン、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミンなどのアミン類などが挙げられる。これらは一種類を単独使用しても、二種類以上を併用してもよい。ランダム化剤を用いることにより、共役ジエン単量体同士の反応が優先的に進むのを抑えることが可能になり、結果として共役ジエン単量体および芳香族ビニル単量体の反応をランダムに進めることが促進される。
【0023】
また、第1のステップは、得られる重合体ブロック(Ar1)の重量平均分子量が、好ましくは7000~25000、さらに好ましくは9000~21000となるように終えてもよい。第1のステップで得られる重合体ブロック(Ar1)がこのような分子量となるようにすることで、ブロック共重合体の分子量およびメルトフローレートを好ましい範囲に調整することができる。
【0024】
第2のステップでは、芳香族ビニル単量体と共役ジエン単量体を同時、あるいはこの一方を投入後、直ちにもう一方を投入することが好ましい。このようにすることにより、重合体ブロック(D)のランダム性を上げることが可能になる。
【0025】
重合溶媒としては、n-ペンタン、イソペンタン、n-ヘキサン、イソヘキサン、ヘプタン、オクタン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素、ジエチルエーテル、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、2-メチルテトラヒドロフランなどのエーテルやトリエチルアミン、トリ(n-プロピル)アミンなどの第三級アミンが挙げられるが、共役ジエン単量体のビニル含量抑制および調整の観点から、重合溶媒として脂肪族および芳香族炭化水素を選択することが好ましい。これらの溶媒は、一種類を単独使用しても、二種類以上を混合して使用してもよい。
【0026】
重合開始剤である上記有機アルカリ金属化合物としては、有機リチウム化合物、有機ナトリウム化合物などが挙げられ、特に有機リチウム化合物が好ましい。有機リチウム化合物の具体例としては、メチルリチウム、エチルリチウム、n-プロピルリチウム、イソプロピルリチウム、n-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウム、tert-ブチルリチウムなどが挙げられる。
【0027】
重合反応は、通常30~100℃、好ましくは40~90℃で実施する。重合は、一定温度下に制御して実施してもよいし、熱除去を行わずに上昇温度下で実施してもよい。
【0028】
また、重合反応を完結させるのに重合停止剤を用いてもよく、このような重合停止剤としては、アルコールおよび水など、例えばメタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノールなどが挙げられる。
【0029】
得られた重合液はスチームストリッピングなどの公知の方法で脱溶剤を行うことにより、ブロック共重合体を得ることができる。なお、必要に応じてブロック共重合体に酸化防止剤などの添加剤を添加しても良い。
【実施例】
【0030】
以下に述べる実施例および比較例により、さらに詳細に本願実施形態について説明してゆく。
【0031】
以下の実施例、比較例によって得たブロック共重合体の分析は、以下の手法で行った。
得られたブロック共重合体の各種物性は以下のように測定した。
(1)重量平均分子量(Mw)
重量平均分子量測定には、東ソー社製ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(HLC-8320)を用い、カラムはWaters社製のUltrabondagel E750Aを用いた。溶媒にはテトラヒドロフランを使用し、測定条件は温度45℃、流速1.0mL/分、試料濃度0.1%、注入量20μLで測定し、標準ポリスチレンで換算した値である。
(2)ブロック共重合体のミクロ構造(重量%あるいはモル%)
1,1,2,2-テトラクロロエタン-d2を溶媒として1H-NMR(Bruker社製、AVANCE III HD500)を測定し、得られた積分値を各構造が有する水素1個当たりの値に換算した後、スチレン含量(重量%)、ビニル結合含有量(ビニル含量(モル%))および結合スチレンのランダム結合率(モル%)を算出した。以下に、着目する化学シフト(TMS基準:δ=0)と、各化学シフトに対応する水素の帰属と、当該水素が関わる構造との関係を示す。また、各値の計算式において、全水素とも強度(積分値)が等しいものとして扱い、A~Eは各化学シフトでの強度(積分値)をそれぞれ示す。また、スチレンの分子量を104とし、イソプレンの分子量を68とした。
【0032】
【0033】
各構造が有する水素1個当たりの値
・1,4-ポリイソプレン:B-2C
・3,4-イソプレン:A/2
・1,2-イソプレン:C
・ブロックスチレン(BS):D/2
・ランダムスチレン(RS):ランダムスチレンの芳香環周りの全水素の強度÷5
=[(ブロックスチレンのオルト位以外のスチレンの芳香環周りの全水素の強度)-(ブロックスチレンの芳香環周りのオルト位以外の水素の強度)]÷5
=[E-3×BS]÷5
=[E-3×D/2]/5
【0034】
・1,4-ポリイソプレン含量(モル%):[1,4-イソプレン/総イソプレン]×100
=[(B-2C)/[(B-2C)+A/2+C]]×100
・ビニル結合量=ビニルイソプレン含量(モル%):[(1,2-イソプレン、3,4-イソプレンの合計)/総イソプレン]×100
=[(A/2+C)/{(B-2C)+A/2+C}]×100
・スチレン含量(重量%):{(BS+RS)×104}/{(BS+RS)×104+総イソプレン×68}]×100
・ランダム結合率(モル%):[RS/(BS+RS)]×100
(3)ブロック共重合体の動的粘弾性測定
UBM製粘弾性測定装置(Rheogel E-4000)を用いて、周波数10Hz、昇温速度5℃/分の条件で測定した。
(4)メルトフローレート[MFR](g/10分)
テスター産業社製、オートメルトインデクサー(TP-404型)を用いて、JIS K7210(190℃、21.2N)に従い測定した。
(5)ブロック共重合体の耐熱性測定
上記オートメルトインデクサーを用いて、各ブロック共重合体の230℃におけるMFRを測定した。この値を基準とし、各ブロック共重合体を230℃の加熱炉内に30分間保持した後の測定値と比較し、保持前後の変化の比率(%)を以て耐熱性を評価した。尚、荷重についてはブロック共重合体の流動性に合わせ、21.2Nまたは49.0Nとした。
【0035】
(実施例1)
ブロック共重合体1の重合
ジャケットと攪拌機の付いた内容積5Lのステンレス製重合容器を充分に窒素で置換した後、シクロヘキサン3.3Lを仕込み、ジャケットに温水を通して反応系を55℃とした。
次いで、10%のsec-ブチルリチウム・シクロヘキサン溶液3.3mLおよび2,2-ジ-(2-テトラヒドロフリル)プロパンを0.30mL添加して1分間撹拌後、スチレン50gを添加して重合を開始した。30分間反応後、スチレンを主体とする重合体ブロックの重合平均分子量は12200に達し、イソプレン250gおよびスチレン150gを2分割して添加し、計60分間反応した。その後、さらにスチレン50gを添加し、30分間反応した。反応完結後、メタノールを添加して反応を停止し、ブロック共重合体1を得た。
【0036】
(実施例2)
ブロック共重合体2の重合
添加するsec-ブチルリチウム・シクロヘキサン溶液を2.7mLおよび2,2-ジ-(2-テトラヒドロフリル)プロパンを0.24mLに変更し、第1のステップで得られるスチレンを主体とする重合体ブロックの重合平均分子量を15400に変更し、イソプレン/スチレンの添加量をそれぞれ240g/160gに変更した以外は実施例1と同様の手順で操作しブロック共重合体2を得た。
【0037】
(実施例3)
ブロック共重合体3の重合
添加するsec-ブチルリチウム・シクロヘキサン溶液を2.5mLおよび2,2-ジ-(2-テトラヒドロフリル)プロパンを0.23mLに変更し、第1のステップで得られるスチレンを主体とする重合体ブロックの重合平均分子量を16200に変更し、イソプレン/スチレンの添加量をそれぞれ225g/175gに変更した以外は実施例1と同様の手順で操作し、ブロック共重合体3を得た。
【0038】
(実施例4)
ブロック共重合体4の重合
添加するsec-ブチルリチウム・シクロヘキサン溶液を2.4mLおよび2,2-ジ-(2-テトラヒドロフリル)プロパンを0.28mLに変更し、第1のステップで得られるスチレンを主体とする重合体ブロックの重合平均分子量を16800に変更し、イソプレン/スチレンの添加量をそれぞれ225g/175gに変更した以外は実施例1と同様の手順で操作し、ブロック共重合体4を得た。
【0039】
(実施例5)
ブロック共重合体5の重合
添加するsec-ブチルリチウム・シクロヘキサン溶液を2.3mLおよび2,2-ジ-(2-テトラヒドロフリル)プロパンを0.31mLに変更し、第1のステップで得られるスチレンを主体とする重合体ブロックの重合平均分子量を17600に変更し、イソプレン/スチレンの添加量をそれぞれ225g/175gに変更した以外は実施例1と同様の手順で操作し、ブロック共重合体5を得た。
【0040】
(実施例6)
ブロック共重合体6の重合
添加するsec-ブチルリチウム・シクロヘキサン溶液を2.7mLに変更し、第1のステップで得られるスチレンを主体とする重合体ブロックの重合平均分子量を15500に変更した以外は実施例1と同様の手順で操作し、ブロック共重合体6を得た。
【0041】
(比較例1)
ブロック共重合体7の重合
ジャケットと攪拌機の付いた内容積5Lのステンレス製重合容器を充分に窒素で置換した後、シクロヘキサン3.3Lを仕込み、ジャケットに温水を通して反応系を55℃とした。
次いで、sec-ブチルリチウム・シクロヘキサン溶液2.7mLおよびN,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミンを0.20mL添加して1分間撹拌後、スチレン50gを添加して重合を開始した。30分間反応後、スチレンを主体とする重合体ブロックの重合平均分子量は15000に達し、イソプレン250gおよびスチレン150gを2分割して添加し、計60分間反応した。その後、さらにスチレン50gを添加し、30分間反応した。反応完結後、メタノールを添加して反応を停止し、ブロック共重合体7を得た。
【0042】
(比較例2)
ブロック共重合体8の重合
添加するsec-ブチルリチウム・シクロヘキサン溶液を2.1mLおよび2,2-ジ-(2-テトラヒドロフリル)プロパンを0.29mLに変更し、第1のステップで得られるスチレンを主体とする重合体ブロックの重合平均分子量を19400に変更した以外は実施例1と同様の手順で操作し、ブロック共重合体8を得た。
【0043】
(比較例3)
ブロック共重合体9の重合
ジャケットと攪拌機の付いた内容積5Lのステンレス製重合容器を充分に窒素で置換した後、シクロヘキサン3.3Lを仕込み、ジャケットに温水を通して反応系を55℃とした。
次いで、sec-ブチルリチウム・シクロヘキサン溶液3.3mLおよび2,2-ジ-(2-テトラヒドロフリル)プロパンを1.09mL添加して1分間撹拌後、スチレン50gを添加して重合を開始した。30分間反応後、スチレンを主体とする重合体ブロックの重合平均分子量は12400に達し、反応系を40℃に冷却し、イソプレン400gを2分割して添加し、計180分間反応した。その後、再度反応系を55℃に昇温し、スチレン50gを添加して30分間反応した。反応完結後、メタノールを添加して反応を停止し、ブロック共重合体8を得た。
【0044】
実施例、比較例の手法で得たブロック共重合体の物性を表2に示す。
【0045】
【0046】
表1より、実施例1~6はビニル含量が40モル%以下であるが、いずれもtanδが0~30℃の範囲かつ0.7以上であり、常温における制振性が高い。また、tanδが0.3以上である温度幅が広く、ピーク温度からずれた場合でも制振性を維持していることが分かる。また、熱的な安定性も高い。
【0047】
比較例1は、実施例1~6対比で共役ジエンブロックに導入した芳香族ビニル単量体のランダム結合性が低いものである。ランダム性結合性の不足により、tanδピーク温度が目標範囲外となった。また、tanδが0.3以上である温度範囲も狭い。
【0048】
比較例2、3は、実施例1~6対比でビニル結合含有量が高いものであり、耐熱性が劣っていた。ビニル結合含有量の上昇により、加熱時の架橋反応が起こりやすくなったことが要因と推定する。また、比較例3については、tanδピーク温度が30℃を超えていた。