(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-20
(45)【発行日】2024-10-01
(54)【発明の名称】脂肪組織製品および製造方法
(51)【国際特許分類】
A61L 27/36 20060101AFI20240924BHJP
A61L 27/56 20060101ALI20240924BHJP
A61L 27/50 20060101ALI20240924BHJP
A61L 27/20 20060101ALI20240924BHJP
A61L 27/02 20060101ALI20240924BHJP
【FI】
A61L27/36 130
A61L27/56
A61L27/50
A61L27/20
A61L27/36 410
A61L27/02
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023097529
(22)【出願日】2023-06-14
(62)【分割の表示】P 2020514959の分割
【原出願日】2018-10-18
【審査請求日】2023-07-10
(32)【優先日】2017-10-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504154148
【氏名又は名称】ライフセル コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】LifeCell Corporation
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】弁理士法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】シュ,フゥイ
(72)【発明者】
【氏名】ファン,キャリー
(72)【発明者】
【氏名】シャー,ミリナル
(72)【発明者】
【氏名】ジェソップ,イスラエル,ジェイムズ
【審査官】田澤 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-529164(JP,A)
【文献】国際公開第2003/017826(WO,A2)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0049459(KR,A)
【文献】特表2016-527338(JP,A)
【文献】特表2014-512232(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 15/00-33/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組織製品組成物であって、
多孔質スポンジに形成された後に粒子状組織組成物に形成された脂肪無細胞組織マトリックスを含み、前記粒子状組成物が、5重量%~15重量%の脂肪組織マトリックスの粒子を含み、当該粒子は、当該粒子が製造された前記多孔質スポンジに由来する微多孔質構造を含むことを特徴とする組織製品組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の組織製品組成物において、
前記粒子が、乾燥していることを特徴とする組織製品組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の組織製品組成物において、
当該組成物が、5重量%~15重量%の固体の脂肪無細胞組織マトリックスを含むことを特徴とする組織製品組成物。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の組織製品組成物において、
前記粒子が、0.05mm~4mmの最長寸法を有することを特徴とする組織製品組成物。
【請求項5】
請求項4に記載の組織製品組成物において、
脂肪組織マトリックスの前記粒子が、50ミクロン~4mmの最長寸法を有することを特徴とする組織製品組成物。
【請求項6】
請求項4に記載の組織製品組成物において、
脂肪組織マトリックスの前記粒子が、1mm~1.5mmの最長寸法を有することを特徴とする組織製品組成物。
【請求項7】
請求項4に記載の組織製品組成物において、
脂肪組織マトリックスの前記粒子が、2mm~3.5mmの最長寸法を有することを特徴とする組織製品組成物。
【請求項8】
請求項1に記載の組織製品組成物において、
脂肪組織マトリックスの前記粒子が、2mm~3mmの最長寸法を有することを特徴とする組織製品組成物。
【請求項9】
請求項1に記載の組織製品組成物が、さらに、流動性担体を含むことを特徴とする組織製品組成物。
【請求項10】
請求項9に記載の組織製品組成物において、
前記流動性担体が、水性流体を含むことを特徴とする組織製品組成物。
【請求項11】
請求項10に記載の組織製品組成物において、
前記流動性担体が、生理食塩水を含むことを特徴とする組織製品組成物。
【請求項12】
請求項10または11に記載の組織製品組成物において、
当該組成物が、80重量%~95重量%の水を含むことを特徴とする組織製品組成物。
【請求項13】
請求項9または10に記載の組織製品組成物において、
前記流動性担体が、流動性ヒアルロン酸担体であることを特徴とする組織製品組成物。
【請求項14】
請求項13に記載の組織製品組成物において、
ヒアルロン酸が、架橋されていないことを特徴とする組織製品組成物。
【請求項15】
請求項13に記載の組織製品組成物において、
ヒアルロン酸が、架橋されていることを特徴とする組織製品組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、組織マトリックスに関し、より詳細には、脂肪組織を治療または再生するための注入材料に関する。
【0002】
本開示は、米国特許法第119条に基づいて、2017年10月18日に出願された米国仮出願第62/573,892号の優先権を主張するものであり、その全体が引用により本明細書に援用されるものとする。
【背景技術】
【0003】
現在、組織治療のための注入材料の改善に対する要求がある。例えば、様々な顔の特徴(例えば、線、皺、不十分な大きさ、または望ましい形状または形態ではない部分)を治療するために、ヒアルロン酸系材料などの注入材料が使用されることがある。そのような材料は、どんなに効果的であっても、一時的な改善しか提供することはなく、最終的には体に吸収され、脂肪組織などの組織の再生を誘発することができない。さらに、組織治療および再生のための脂肪系材料を開発するための研究が行われてきたが、現在の材料は少量の処置または注入に適していないか、脂肪再生に非常に効果的であることが証明されていない。
【発明の概要】
【0004】
そこで、本開示は、脂肪系組織製品による注入、小量移植、またはより大きな空隙の充填または容量追加のための組成物を提供する。また、本開示は、そのような組成物を製造する方法も提供する。
【0005】
本開示は、脂肪組織マトリックスから注入可能な製品を製造する方法を提供する。この方法は、脂肪組織を選択するステップと、脂肪組織を機械的に処理して、組織のサイズを小さくするステップと、機械的に処理した組織を処理して、組織から実質的にすべての細胞物質を除去するステップと、組織を溶液に懸濁して懸濁液を形成するステップと、懸濁液を処理して、微多孔質構造を有する安定化した三次元構造を生成するステップと、安定化した三次元構造を機械的に処理して粒子を生成するステップとを含むことができる。
【0006】
本開示は、組織製品組成物も提供する。この組成物は、粒子状組織マトリックスを含むことができ、組織製品組成物が、多孔質スポンジに形成された後に粒子状に形成された脂肪無細胞組織マトリックスを含み、粒子状組織マトリックスが、約0.05mm~3mmの最長寸法を有する粒子を含む。
【0007】
本開示は、開示される製品を使用した治療方法も提供する。
【0008】
上述した一般的な説明および以下の詳細な説明はともに、単なる例示および説明であって、特許請求の範囲に規定される本発明を限定するものではないことが理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0009】
添付図面は、本明細書中に組み込まれて、その一部を構成するものであり、本開示の例示的な実施形態を例示し、その説明とともに本開示の原理を説明するのに役立つものである。
【
図1】
図1は、本開示の実施形態に係る、脂肪組織マトリックススポンジを生成するプロセスを概説するフローチャートである。
【
図2】
図2は、本開示の実施形態に係る、注入可能な脂肪組織マトリックス製品を製造するプロセスを概説するフローチャートである。
【
図3】
図3は、様々な実施形態に従って製造された脂肪組織マトリックススポンジのバルク片を示している。
【
図4】
図4は、脂肪組織マトリックススポンジを粉砕することにより製造された後の2~3mmの寸法を有する粒子状組織マトリックスの拡大図である。
【
図5】
図5は、100~300ミクロンの粒子を生成するために脂肪組織マトリックススポンジを粉砕または破砕して生成された無細胞組織マトリックス粒子の群と、その水和後のペースト/プリン状の注入材料とを示している。
【
図6】
図6は、開示の実施例のプロセスに従って生成された脂肪組織マトリックス粒子の走査電子顕微鏡(SEM)写真および原子間力顕微鏡写真を示している。
【
図7】
図7Aは、開示の実施例に従って生成された脂肪組織マトリックス材料の示差走査熱量測定曲線を示している。
図7Bは、開示の実施例に従って生成された脂肪組織マトリックス材料のマッソントリクローム染色切片である。
図7Cは、電子ビーム滅菌が有る場合および無い場合の、開示の実施例に従って生成された脂肪組織のコラゲナーゼ消化曲線を示している。
【
図8】
図8Aは、開示の実施例に従って生成された脂肪組織マトリックス材料のヘマトキシリンおよびエオシン(「H&E」)染色切片である。
図8Bは、開示の実施例に従って生成された脂肪組織のDNAおよび脂質含有量測定の表である。
図8Cは、開示の実施例に従って生成された、天然脂肪対照と比較される、MHC-1&II染色に対して効果のない、脂肪組織マトリックス材料の免疫染色部分である。
【
図9】
図9は、天然脂肪対照と比較される、開示の実施例に従って生成された脂肪組織マトリックスであって、主要な細胞外マトリックスタンパク質(例えば、タイプI、タイプIIIおよびタイプIV)コラーゲンの免疫組織学的分析の対象となる脂肪組織マトリックスの組織学的画像を提供している。
【
図10】
図10は、インビトロでの3つの異なる細胞タイプ(例えば、脂肪生成間葉系幹細胞、内皮細胞および皮膚線維芽細胞)の成長を支援する、開示の実施例に従って生成された脂肪組織マトリックスの光学顕微鏡画像を提供している。
【
図11】
図11は、開示の実施例に従って調製されたヌードラットの皮下移植後の注入可能な脂肪組織マトリックスの外植片の全体写真を提供している。
【
図13】
図13は、開示の実施例に記載されているように、4または8週間のラット皮下移植後に残っている外植片の体積を示す棒グラフである。
【
図14】
図14Aは、開示の実施例に記載されている8週間の外植片のマッソントリクローム染色切片である。
図14Bは、開示の実施例に記載されている8週間の外植片の別のマッソントリクローム染色切片である。
図14Cは、開示の実施例に記載されている8週間の外植片の別のマッソントリクローム染色切片である。
【
図15】
図15は、1.5年間の保存後に湿潤脂肪組織マトリックス製品に形成された凝集体の顕微鏡画像を提供している。
【
図16】
図16は、流動性担体としてHAを含む場合または含まない場合の、脂肪マトリックス製品の注入力のグラフである。
【
図17】
図17は、実施例に記載の4週間HA脂肪外植片のH&E染色切片である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
ここで、本開示に係る特定の例示的な実施形態を詳細に参照する。その特定の例が添付図面に示されている。同一または類似の部分を指すために、可能な限り、図面全体を通して同じ符号を使用するものとする。
【0011】
本出願において、単数形の使用は、特に明記しない限り、複数形を含む。本出願において、「または」の使用は、特に明記しない限り、「および/または」を意味する。さらに、「含んでいる」という用語、並びに、「含む」および「含まれる」などの他の形態の使用は限定的なものではない。本明細書に記載の任意の範囲は、両端点と、両端点間の全ての値を含むものと理解されたい。
【0012】
本明細書で使用されている節の見出しは、単なる編成目的に過ぎず、記載されている主題を限定するものとして解釈されるべきではない。特許、特許出願、記事、書籍および論文に限定される訳ではないが、それらを含む、本出願で引用したすべての文書または文書の一部は、如何なる目的に対しても、その全体が引用により本明細書に明示的に援用されるものとする。
【0013】
本明細書で使用する「組織製品」とは、細胞外マトリックスタンパク質を含む任意のヒトまたは動物の組織を指す。「組織製品」には、無細胞または部分的に脱細胞化された組織マトリックス、並びに、外来性細胞で再配置された脱細胞化組織マトリックスが含まれる。
【0014】
本明細書で使用される「無細胞組織マトリックス」という用語は、組織再生を支援する足場として役立つのに必要な相当量の天然コラーゲンおよび糖タンパク質を保持する、ヒトまたは動物組織に由来する細胞外マトリックスを指す。「無細胞組織マトリックス」は、酸抽出精製コラーゲンなどの精製コラーゲン材料とは異なるものであり、それらは、他のマトリックスタンパク質を実質的に含まず、精製プロセスにより組織マトリックスの自然な微細構造特性を保持しない。「無細胞組織マトリックス」と呼ぶが、そのような組織マトリックスは、例えば、幹細胞や「無細胞組織マトリックス」が移植される患者からの細胞を含む、外来性細胞と結合されることを理解されたい。「脱細胞化脂肪組織マトリックス」は、脂肪細胞外マトリックスを生成するためにすべての細胞が除去された脂肪系組織を指すことが理解されよう。「脱細胞化脂肪組織マトリックス」は、機械的処理、スポンジの形成および/または粒子マトリックスを生成する更なる処理を含む、本明細書で議論されるようにさらに処理された無傷マトリックスまたはマトリックスを含み得る。
【0015】
「無細胞」または「脱細胞化」組織マトリックスは、光学顕微鏡を使用しても細胞が見えない組織マトリックスを指すことが理解されよう。
【0016】
様々なヒトおよび動物組織を使用して、患者を治療するための製品を製造することができる。例えば、様々な疾患および/または構造的損傷(例えば、外傷、手術、萎縮、および/または長期の摩耗や変性により)に起因して損傷または喪失したヒト組織の再生、修復、増加、補強および/または治療のための様々な組織製品が製造されている。そのような製品は、例えば、無細胞組織マトリックス、組織同種移植片または異種移植片、および/または再構成組織(すなわち、成長できる材料をもたらすために細胞が播種された、少なくとも部分的に脱細胞化された組織)を含むことができる。
【0017】
軟組織および硬組織を治療するために、様々な組織製品が製造されている。例えば、ALLODERM(登録商標)およびSTRATTICE(商標)(ニュージャージー州ブランチバーグ所在のLIFECELL CORPORATION)は、それぞれヒトおよびブタの真皮から製造された2つの真皮無細胞組織マトリックスである。そのような材料は特定のタイプの疾病を治療するのに非常に有用であるが、特定の用途には異なる生物学的および機械的特性を有する材料が望ましい場合がある。例えば、ALLODERM(登録商標)およびSTRATTICE(商標)は、構造的欠損の治療を支援するために、かつ/または(例えば、腹壁のために、または乳房再建において)組織の支持を与えるために使用されており、それらの強度と生物学的特性により、そのような用途に適したものとなっている。しかし、そのような材料は、生存脂肪細胞を含む脂肪組織の生産が望まし結果である場合に、脂肪含有組織の再生、修復、交換および/または増加には理想的ではない場合がある。そこで、本開示は、脂肪含有組織を伴う組織欠損/欠陥の治療に有用な組織製品を提供する。本開示は、そのような組織製品を製造する方法も提供する。
【0018】
組織製品は、細胞成分の少なくとも一部を除去するために処理された脂肪組織を含むことができる。場合によっては、すべてまたは実質的にすべての細胞物質が除去され、それにより脂肪細胞外マトリックスタンパク質が残る。さらに、細胞外および/または細胞内脂質の一部またはすべてを除去するように、製品を処理することができる。しかしながら、場合によっては、細胞外および/または細胞内脂質の完全な除去は、脂肪マトリックスの構造および機能に損傷を与える可能性がある。例えば、長期間化学的または酵素的に処理された脂肪組織は、コラーゲンを変性または他の方法で損傷させているか、脂肪の再生に必要なタンパク質が枯渇している可能性がある。このため、場合によっては、製品には一定レベルの残留脂質が含まれている。残留脂質含量は、例えば、製品の約5重量%、6重量%、7重量%、8重量%、9重量%または10重量%である。以下にさらに説明するように、細胞外マトリックスタンパク質をさらに処理して、三次元の多孔質またはスポンジ状材料を生成することができ、多孔質またはスポンジ状材料をさらに処理して、注入可能な製品を生成することができる。
【0019】
上述したように、本開示の組織製品は、脂肪組織から形成される。脂肪組織は、ヒトまたは動物の供給源に由来する。例えば、ヒトの脂肪組織は死体から得られるものであってもよい。さらに、ヒトの脂肪組織は、生体ドナー(例えば、自己組織)から得ることもできる。脂肪組織は、ブタ、サルなどの動物または他の供給源から取得することもできる。動物の供給源を使用する場合、組織をさらに処理して、ブタや他の哺乳類には存在するがヒトや霊長類には存在しない1,3-α-ガラクトース部分などの抗原成分を除去することができる。Xu,Hui等による「A Porcine-Derived Acellular Dermal Scaffold that Supports Soft Tissue Regeneration:Removal of Terminal Galactose-α-(1,3)-Galactose and Retention of matrix Structure」Tissue Engineering,Vol.15,1-13(2009)を参照されたい。この文献は、引用によりその全体が援用されるものとする。さらに、脂肪組織は、抗原部分を除去するために遺伝的に改変された動物から得られるものであってもよい。
【0020】
図1および
図2は、本開示の組織製品を製造するための例示的なプロセスを示している。
図1は、基本ステップを示すフローチャートを提供するものであり、適切な脂肪組織スポンジを生成し、その後、さらに処理して注入可能または移植可能な粒子を生成するために使用することができる。図示のように、プロセスはいくつかのステップを含むことができるが、使用される特定の組織、所望の用途または他の要因に応じて、追加または代替のステップが追加または置換されることを理解されたい。
【0021】
図示のように、プロセス100は、全体として、組織を受け取るステップ110で開始することができる。組織は、例えば、ヒトまたは動物の脂肪組織を含む、様々な脂肪組織タイプを含むようにしてもよい。適切な組織源には、同種移植組織、自家移植組織または異種移植組織が含まれる。異種移植片が使用される場合、組織には、ブタ、ウシ、イヌ、ネコを含む動物、家畜または野生の供給源、および/または他の任意の適切な哺乳動物または非哺乳動物の脂肪供給源からの脂肪が含まれる。
【0022】
組織は、任意の望ましい手法を使用して動物供給源から採取することができるが、可能であれば、無菌または滅菌技術を使用して通常は採取するようにしてもよい。組織は、低温または凍結状態で保存するようにしてもよく、あるいは長期保存による望ましくない変化を防ぐために直ちに処理するようにしてもよい。
【0023】
組織を受け取った後、組織は最初にステップ120で機械的サイズ縮小の処理を受け、かつ/またはステップ130で機械的脱脂の処理を受ける。機械的サイズ縮小には、手動刃または他の任意の適切な粉砕プロセスを使用した組織の目に見える切断または大きな切断が含まれる。
【0024】
ステップ130の機械的脱脂は、組織の製造において重要である。具体的には、脂質の除去を支援するために、脂肪が様々な機械的処理条件に曝される。例えば、機械的処理は、組織の粉砕、混合、細断、すりおろし、または他の処理を含むことができる。機械的処理は、ある程度の加熱を可能にする条件下で実行されてもよく、これは脂質の遊離または除去を補助することができる。例えば、機械的処理は、脂肪組織が最高122°F(50℃)まで加熱される条件下で実行されるようにしてもよい。外部熱の適用は、脂質を放出するのに不十分である場合があり、よって、機械的破壊中に発生する熱が脂質除去の補助に好ましい場合がある。いくつかの例では、機械的処理中の加熱が、温度上昇のパルスであり、持続時間の短いものであってもよい。この熱パルスは、機械的破壊によって破壊された脂肪細胞から放出された脂質の液化を引き起こし、その後、バルク脂質除去のための効率的な相分離を引き起こす可能性がある。一例では、ブタの脂肪組織を処理する場合、そのプロセス中に到達する温度は100°Fを超えるが、122°F(50℃)を超えることはない。到達温度範囲は、脂肪組織の由来に応じて調整することができる。例えば、温度は、飽和度の低い組織、例えば霊長類組織を処理する場合、約80°F、90°F、100°F、110°Fまたは120°Fまでさらに下げることができる。代替的には、脂肪が、例えば80°F、90°F、100°F、110°F、120°Fの最低温度に達するようにプロセスを選択することもできる。
【0025】
場合によっては、洗浄液を殆どまたは全く加えずに組織を機械的に処理することにより、機械的脱脂を実施することができる。例えば、組織は、溶媒を使用せずに粉砕または混合することにより機械的に処理されるようにしてもよい。代替的には、組織の破砕に、例えば流動性を高めたり、粘度を下げるために水分が必要な場合、水を使用することができ、その水には、純水、生理食塩水、または生理食塩水またはリン酸緩衝生理食塩水を含む他の緩衝液が含まれる。いくつかの例では、生理食塩水(例えば、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、または塩および/または界面活性剤を含む溶液)などの生体適合性である特定の量の溶媒を加えることによって、組織が処理される。塩および/または界面活性剤を含む、細胞溶解を促進する他の溶液が適切である場合もある。
【0026】
ステップ140では、機械的処理および脂質除去の後に、脂肪を洗浄することができる。例えば、組織は、様々な生体適合性緩衝液での1回または複数回のすすぎで洗浄することができる。例えば、適切な洗浄溶液には、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、または他の適切な生体適合性材料または生理学的溶液が含まれる。一実施例では、水をリンス剤として使用して細胞をさらに破壊し、その後、リン酸緩衝生理食塩水または他の適切な生理食塩水を導入して、マトリックスタンパク質を生体適合性緩衝液に戻すことができる。
【0027】
洗浄は、組織から脂質を分離するために、遠心分離または他のプロセスとともに実行することができる。例えば、いくつかの実施形態では、材料は水または別の溶媒で希釈される。その後、希釈された材料は遠心分離され、遊離脂質が上部に流れる一方、細胞外マトリックスタンパク質がペレットとして堆積する。その後、タンパク質ペレットを再懸濁し、十分な量の脂質が除去されるまで洗浄と遠心分離を繰り返す。
【0028】
洗浄後、ステップ150に示すように、脂肪を処理して脂肪組織から一部またはすべての細胞を除去することができる。細胞除去プロセスは、複数の適切なプロセスを含むことができる。例えば、脂肪組織から細胞を除去する適切な方法には、細胞を破壊するのにかつ/または細胞成分を除去するのに十分な濃度および時間で、デオキシコール酸、ポリエチレングリコールまたは他の界面活性剤などの界面活性剤による処理が含まれる。
【0029】
細胞除去後、ステップ160に示すように、使用する組織または望ましい最終構造に応じて、追加の処理および/または洗浄ステップを組み込むことができる。例えば、追加の洗浄または処理を行って抗原性物質、例えば霊長類以外の動物組織に存在する可能性のあるアルファ-1,3-ガラクトース部分などの抗原成分を除去することができる。さらに、洗浄ステップの間、前および/または後に、追加の溶液または試薬を使用して材料を処理するようにしてもよい。例えば、酵素、界面活性剤および/または他の薬剤を1または複数のステップで使用して、細胞材料または脂質をさらに除去し、抗原性材料を除去し、かつ/または材料の細菌または他のバイオバーデンを低減することができる。例えば、細胞および脂質の除去を補助するために、ドデシル硫酸ナトリウムまたはTritonなどの界面活性剤を使用する、1または複数の洗浄ステップを含むようにしてもよい。さらに、酵素、例えば、リパーゼ、DNAses、RNAses、アルファ-ガラクトシダーゼまたは他の酵素を使用して、核物質、異種源からの抗原、残留細胞成分および/またはウイルスを確実に破壊することができる。さらに、酸性溶液および/または過酸化物を使用して、細胞材料をさらに除去し、細菌および/またはウイルス、または他の潜在的な感染性病原体を破壊するのを助けることができる。
【0030】
材料は、脂質および細胞成分を除去した後に、多孔性またはスポンジ状の材料に形成することができる。ステップ170に示すように、通常、細胞外マトリックスは最初に水性溶媒に再懸濁されて、スラリー状の材料を形成する。十分な量の溶媒を使用することにより、材料を、所望の組織製品のサイズと形状を有する型に注ぎ込むことができる液体物質に形成することができる。加える水または溶媒の量は、最終材料の望ましい多孔度に基づいて変化し得る。場合によっては、スラリー状材料は、約2重量%~約10重量%、好ましくは約2重量%~約5重量%の固形分濃度を有することができる。場合によっては、再懸濁した細胞外マトリックスを、粉砕、切断、混合または他のプロセスによって、さらに1回または複数回、機械的に処理することができ、処理した材料は、1回または複数回、遠心分離および再懸濁して、細胞材料または脂質(必要な場合)をさらに除去し、かつ/または細胞外マトリックスの粘度を制御することができる。
【0031】
追加の洗浄および粉砕ステップが完了したら、ステップ180に示すように、再懸濁材料を容器または型に入れて、多孔質のスポンジ状製品を形成する。通常は、材料を乾燥させて多孔質構造の三次元マトリックスを残すことにより、多孔質またはスポンジ状材料を形成する。いくつかの実施形態では、材料が凍結乾燥される。凍結乾燥は、
図3に示すように、型の形状に概ね一致する三次元構造の製造を可能にする。特定の凍結乾燥プロトコルは、使用する溶媒、サンプルサイズに基づいて、かつ/または処理時間を最適化するように、変更することができる。1つの適切な凍結乾燥プロセスには、材料を20~40分間で-10℃まで冷却すること;サンプルを-10℃で120~180分間保持して、サンプルをさらに-40℃に冷却して完全に凍結させること:真空を適用すること;温度を-5℃に上げて、30~60時間保持すること;温度を25℃に上げて、6~12時間保持することが含まれる。その後、凍結乾燥したサンプルを凍結乾燥機から取り出して、窒素下でホイルポーチ内に包装することができる。
【0032】
固体またはスポンジの形成後、ステップ190に示すように、任意選択的には、材料を安定化することができる。場合によっては、安定化は、架橋、デヒドロサーマル(DHT)プロセスでの処理などの追加プロセス、または他の適切な安定化方法を含むことができる。例えば、一般に、機械的に処理された組織は、多孔質マトリックスに形成されると、体内に埋め込まれたり、濡れたり、あるいは溶液中に置かれたりしたときに、よりパテ状またはペースト状の材料を形成する。このため、所望の形状とサイズが失われる可能性がある。さらに、細胞の付着、組織の成長、血管の形成および組織の再生を支援するために重要である多孔質構造が失われる可能性がある。このため、材料のサイズ、形状および構造を安定させるために、材料をさらに処理するようにしてもよい。
【0033】
いくつかの実施形態では、安定化のために材料が架橋されている。いくつかの実施形態において、材料が凍結乾燥後に架橋される。しかしながら、凍結乾燥プロセスの前または最中に材料を架橋することもできる。架橋は様々な方法で実行することができる。一実施形態では、材料を、グルタルアルデヒド、ジェネピン、カルボジイミド(例えば、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC))およびジイソシアネートなどの架橋剤と接触させることにより、架橋を行うことができる。さらに、真空中で材料を加熱することにより、架橋を行うようにしてもよい。例えば、いくつかの実施形態では、材料を、減圧または真空で、70℃~120℃、または80℃~110℃、または約100℃まで、または特定の範囲内の任意の値に加熱するようにしてもよい。さらに、紫外線照射、ガンマ線照射および/または電子ビーム照射を含む、他の架橋プロセス、またはプロセスの組合せを使用して、開示された製品の何れかを生成するようにしてもよい。さらに、真空は必須ではないが、架橋時間を短縮する場合がある。さらに、マトリックスタンパク質の融解が起きない限り、かつ/または架橋に十分な時間が提供される限りは、より低い又は高い温度を使用することができる。
【0034】
様々な実施形態では、架橋プロセスを制御して、所望の機械的、生物学的および/または構造的特徴を有する組織製品を生成することができる。例えば、架橋は材料の全体的な強度に影響を与える可能性があり、プロセスは所望の強度を生み出すように制御される。さらに、架橋の量は、移植時に製品が所望の形状および構造(例えば、多孔性)を維持する能力に影響を与える可能性がある。このため、体内に移植されたとき、水性環境と接触したとき、かつ/または(例えば、周囲の組織または材料によって)圧縮されたとき、安定した三次元形状を生成するように架橋の量を選択することができる。
【0035】
過剰な架橋は、細胞外マトリックス材料を変化させる可能性がある。例えば、過剰な架橋はコラーゲンまたは他の細胞外マトリックスタンパク質を損傷する可能性がある。損傷したタンパク質は、組織製品が脂肪組織部位または他の解剖学的位置に配置されたときに、組織再生を支援しない場合がある。さらに、過剰な架橋により、材料が脆くなったり、弱くなったりする場合がある。このため、所望の生物学的、機械的および/または構造的特徴を維持しながら、所望のレベルの安定性をもたらすように、架橋の量が制御される。
【0036】
例示的な架橋プロセスは、上記のように製造された凍結乾燥材料をグルタルアルデヒドまたはEDCと接触させることを含むことができる。例えば、0.1%のグルタルアルデヒド溶液を使用し、組織を約18時間溶液に浸した後、水で広範囲にすすぎ、溶液を除去する。代替的には、またはこれと組み合せて、デヒドロサーマル(DHT)プロセスを使用するようにしてもよい。例えば、1つの例示的なデヒドロサーマルプロセスには、100℃、約20水銀柱インチで材料を18時間処理した後、水に浸すことが含まれる。最終的な架橋組織製品は、フィルムポーチ内に保存することができる。
【0037】
固体またはスポンジの形成後、組織製品をさらに処理して、注入可能な形態を生成することができる。注入可能な形態を形成するための例示的なプロセスは、
図2において、プロセス200で示される。なお、「注入可能」とは、シリンジ、カニューレ、または針で注入される材料を含み得るが、開示された材料は、(例えば、手、またはスパチュラ、チューブなどの他のバルク機器、または流動性材料を処理するために装備された他のデバイスによる)手動挿入を含む他の投与モードに適したサイズおよび機械的特性を有するように製造できることを理解されたい。
【0038】
注入可能性をもたらすプロセスは、ステップ210に示すように、バルクスポンジを得ることから始まる。バルクスポンジを得ることは、
図1を参照して説明されるプロセスまたはその適切なバリエーションを使用して実行される。本開示の一態様では、プロセスが、安定した(ブタまたはヒトの)脂肪組織マトリックススポンジから始まる。
【0039】
バルクスポンジ材料が得られた後、ステップ220に示すように、材料はサイズ縮小または粒子形成の処理を受ける。サイズ縮小または粒子形成は、所望サイズおよびサイズ分布の粒子を生成するための機械的切断、粉砕または混合を含み得る。本開示のいくつかの態様では、初期材料が乾燥スポンジである場合、乾燥スポンジをより小さい粒子に縮小するために粉砕が好ましい場合がある。サイズ縮小は、室温で実行することができる。
【0040】
特に、粒子内の多孔質スポンジ構造を維持するために、スポンジサイズの縮小を行うべきであることが発見されている。そのため、粒子は、脂質生成を支援するためにスポンジ構造を維持するのに十分な大きさでなければならない。多孔質構造の喪失または欠如は、脂肪の成長を支援しない組成物をもたらし得る。例えば、粒子は、少なくとも0.5ミクロン、1ミクロン、2ミクロン、3ミクロン、4ミクロン、またはそれ以上のサイズを有するようにスポンジから形成されるようにしてもよい。粒子のサイズは、スポンジの微細構造に基づいて選択することができる。
【0041】
引き続き
図2を参照すると、次のステップ230では、サイズ選択が望ましい場合がある。例えば、安定化されたスポンジは、粉砕または粒子を生成するために処理されると、流動性/注入可能な脂肪組織マトリックス材料として所望のサイズの粒子を得るために、篩分けまたは他の方法で選別される。いくつかの例では、様々な針サイズに対応するために、異なる粒子サイズの1または複数の注入可能な脂肪組織マトリックススポンジが望ましい場合がある。この場合、材料を篩にかけて、好ましい粒子サイズ範囲を達成する。一実施形態では、粒子サイズが、50ミクロン~2,800ミクロンの範囲である。例えば、粉砕したスポンジを篩にかけて、微細粒子(例えば、50~100ミクロン)、中程度の粒子(例えば、0.4mm~0.6mm)、大きな粒子(例えば、0.8mm~1mm)、さらに大きな粒子(例えば、2.8mm~3.4mm)というように、好ましい寸法の粒子を回収することができる。本開示のいくつかの態様では、この範囲の粒子サイズが、様々な生物学的応答を引き起こさない場合がある。言い換えれば、例えば、50ミクロン~2,800ミクロンの範囲の粒子サイズでは、生物学的反応に差異が生じない可能性がある。特定のサイズの注射針を必要とする様々なアプリケーションでは、生物学的反応が異なるかどうかを考慮する必要なく、特定のサイズの粒子を選択することができる。
【0042】
粒子のサイズが選択されると、次のステップ240では、粒子が水和および/または別の担体に所望の程度まで添加されて、流動性および所望の程度の固形分がもたらされる。例えば、篩分けした粒子は、5~12%の固形分濃度をもたらすように、生理食塩水または他の材料で水和される。さらに、ヒアルロン酸系材料(例えば、JUVEDERM(登録商標)、ALLERGANまたは同様の材料)を含む、他の担体を使用または追加することができる。いくつかの他の実施例では、水、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水または他の適切な生理学的溶液を使用して、粒子を水和するようにしてもよい。本開示のいくつかの実施例では、ステップ240をステップ230の前に実行することができ、サイズ選択を行う前および/または粒子を篩にかける前に、粒子を水和または担体に加えることができる。
【0043】
図4および
図5には、例示的な粒子状物質が示されている。
図4は、脂肪組織マトリックススポンジを粉砕することにより製造された後の2~3mmの寸法を有する粒子状組織マトリックスの拡大図である。
図5は、100~300ミクロンの粒子をもたらすために脂肪組織マトリックススポンジを粉砕または破砕して生成された無細胞組織マトリックス粒子の群、および水和後のペースト/プリン状の注入可能な材料を示している。
【0044】
本開示の特定の態様によれば、所望の組織マトリックス固形分を有する材料を使用することができる。例えば、固形分が5%~12%の材料を使用することができ、7.5~10%の材料が望ましい。別の実施例では、注入を容易にするとともに、注入部位からの粒子の散逸を防ぐために、固形分が5%~10%の材料に適切な担体を使用するようにしてもよい。適切な担体は、流動性担体、例えば、流動性ヒアルロン酸担体である。いくつかの実施例では、ヒアルロン酸担体は非架橋ヒアルロン酸担体である。いくつかの他の実施例では、ヒアルロン酸担体は架橋ヒアルロン酸担体である。
【0045】
本明細書で使用される「ヒアルロン酸系材料」は、ヒアルロン酸(HA)を含む材料である。HAはヒアルロン酸を指すとともに、その任意の塩も指し、それには、ヒアルロン酸ナトリウム、ヒアルロン酸カリウム、ヒアルロン酸マグネシウム、ヒアルロン酸カルシウムおよびそれらの組合せが含まれるが、それらに限定されるものではない。ヒアルロン酸系材料には、HAおよびその薬学的に許容される塩の両方を含むことができる。例示的なHA系材料は、JUVEDERM(登録商標)およびJUVEDERM VOLUMA(登録商標)として市販されている。ヒアルロン酸系材料は、例えばリドカインなどの追加の薬剤を含むことができることを理解されたい。
【0046】
本明細書におけるHAの「分子量」を表す数値はすべて、ダルトンでの重量平均分子量(Mw)を示すものとして理解されたい。
【0047】
HAの分子量は、固有粘度(m3/kg)=9.78×10-5×Mw0.690、というMark Houwinkの関係を使用する固有粘度測定から計算される。固有粘度は、欧州薬局方で規定されている手順(HAモノグラフ N°1472,01/2009)に従って測定される。
【0048】
本明細書で使用される高分子量HAは、少なくとも約1.0百万ダルトン(Mw≧106Daまたは1MDa)~約4.0MDaの分子量を有するHA材料を云う。本組織製品組成物に組み込まれる高分子量HAは、約1.5MDa~約3.0MDaの範囲の分子量を有するか、または高分子量HAは、約2.0MDaの重量平均分子量を有することができる。別の例では、高分子量HAが約3.0MDaの分子量を有するようにしてもよい。
【0049】
本明細書で使用される低分子量HAは、約1.0MDa未満の分子量を有するHA材料を云う。低分子量HAは、約200,000Da(0.2MDa)~1.0MDa未満、例えば、約300,000Da(0.3MDa)~約750,000Da(0.75MDa)の分子量を有することができるが、最大0.99MDaである。好ましくは、低分子量HA材料と高分子量HA材料の分子量分布の間に重なりは存在しない。好ましくは、低分子量HAと高分子量HAの混合物は、二峰性の分子量分布を有する。混合物は、マルチモーダル分布を持つ場合もある。
【0050】
本発明の一態様では、脂肪組織製品組成物が、高分子量成分および低分子量成分を有するHAを含み、高分子量成分が、低分子量成分の重量平均分子量の少なくとも2倍の重量平均分子量を有し得る。例えば、組成物中の高分子量HAと低分子量HAの分子量比が少なくとも2:1であってもよい。例えば、組織製品組成物は、約500,000Daの重量平均分子量を有する低分子量成分と、約1.0MDaまたは少なくとも約1.0MDaの重量平均分子量を有する高分子量成分とを有するHAを含むことができる。別の例では、本発明に係る組織製品組成物が、約800,000Daの重量平均分子量を有する低分子量成分と、約1.6MDaまたは少なくとも約1.6MDaの重量平均分子量を有する高分子量成分とを有するHAを含むことができる。なお、多くの異なるタイプのHAを脂肪組織製品組成物に組み込むことができ、上述した例は限定することを意図していないことを理解されたい。
【0051】
いくつかの例示的な実施形態では、HAが、1または複数の適切な架橋剤を使用して架橋される。架橋剤は、多糖およびそれらの誘導体をそれらのヒドロキシル基を介して架橋するのに適していることが知られている任意の薬剤であってもよい。適切な架橋剤には、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル(または1,4-ビス(2,3-エポキシプロポキシ)ブタンまたは1,4-ビスグリシジルオキシブタン;これらはすべてBDDEとして一般的に知られている)、1,2-ビス(2,3-エポキシプロポキシ)エチレン、1-(2,3-エポキシプロピル)-2,3-エポキシシクロヘキサン、および1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(一般にEDCとして知られている)が含まれるが、これらに限定されるものではない。他の適切なヒアルロン酸架橋剤には、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル(PETGE)などの多機能PEG系架橋剤、ジビニルスルホン(DVS)、1,2-ビス(2,3-エポキシプロポキシ)エチレン(EGDGE)、1,2,7,8-ジエポキシオクタン(DEO)、(フェニレンビス-(エチル)-カルボジイミドおよび1,6ヘキサメチレンビス(エチルカルボジイミド)、アジピン酸ジヒドラジド(ADH)、ビス(スルホスクシンイミジル)スベレート(BS)、ヘキサメチレンジアミン(HMDA)、1-(2,3-エポキシプロピル)-2,3-エポキシシクロヘキサン、またはそれらの組合せが含まれるが、それらに限定されるものではない。
【0052】
本発明に従って形成された脂肪組織製品組成物の例示的な一実施形態では、脂肪組織製品組成物が、ヒアルロン酸系材料を含む流動性担体と、担体と混合される複数の脂肪組織マトリックス粒子とを含む。いくつかの例示的な実施形態では、流動性担体が、追加の薬剤と混合されていないHAを含み、他の例示的な実施形態では、流動性担体が、追加の薬剤と混合されたHAを含む。追加の薬剤としては、麻酔薬、例えば、アミノアミド局所麻酔薬およびその塩、またはアミノエステル局所麻酔薬およびその塩が挙げられるが、それらに限定されるものではない。例えば、プロカイン、クロロプロカイン、コカイン、シクロメチカイン、シメトカイン、プロポキシカイン、プロカイン、プロパラカイン、テトラカイン、またはそれらの塩、またはそれらの任意の組合せが挙げられる。いくつかの実施形態において、麻酔薬には、アルチカイン、ブピバカイン、シンコカイン、エチドカイン、レボブピバカイン、リドカイン、メピバカイン、ピペロカイン、プリロカイン、ロピバカイン、トリメカイン、またはそれらの塩、またはそれらの任意の組合せが含まれる。
【0053】
流動性担体は、当初は、脂肪マトリックス粒子と混合してスラリーを形成することができる流動性液体溶液の形態であってもよい。その後、形成したスラリーは、患者への投与のためにシリンジまたは他の注入デバイスに装填することができる。いくつかの例示的な実施形態では、流動性担体は、脂肪組織製品組成物の注入性を改善するのに十分な量の非架橋HAであってもよい。いくつかの例示的な実施形態では、流動性担体は、脂肪組織製品組成物の注入性を改善するのに十分な量の架橋HAであってもよい。本明細書では、流動性担体がHAを含むとして記載しているが、HSGAG、CSGAGおよび/またはケラチン硫酸型GAGなど、他のグリコサミノグリカン(GAG)を流動性担体として利用できると考えられる。
【0054】
外科的移植は、体の特定の領域を修復するために脂肪組織マトリックス材料を移植するのに適した選択肢であるが、一部の用途では注入が好ましい場合がある。脂肪組織マトリックスの粒子化は、自然の形態での脂肪組織マトリックスの適用と比較して、適用および注入を改善することが分かったが、粒子化されていても、純粋な脂肪組織マトリックスは、患者に容易に適用または注入されないことが分かった。特に、粒子化組織マトリックス材料は、保存後に拡散または凝集する傾向があることから、粒子化組織マトリックス材料の適用は制御が難しいことが分かった。さらに、粒子状無細胞組織マトリックスを注入するのに必要な注入力は比較的高く、シリンジなどの注入デバイスに装填された粒子状組織マトリックスのすべてを注入することは比較的難しいことが分かった。
【0055】
脂肪組織マトリックス材料を注入する上記問題のいくつかに対処するために、本明細書に記載の例示的な実施形態は、ヒアルロン酸系材料を含む流動性担体内で混合される脂肪組織マトリックス粒子を含む組織製品組成物を提供する。形成した組織製品組成物は、本明細書でさらに説明されるように、移植および/または注入領域での組織成長を促進する特性を維持しながら、純粋な脂肪組織マトリックス粒子よりも容易に適用することができる。
【0056】
例示的な一実施形態では、脂肪組織マトリックス粒子および流動性担体が、本発明に係る組織製品組成物を形成するために、ほぼ無菌条件下で大容量バッチで混合されるものであってもよい。混合は、例えば、脂肪組織マトリックス粒子と流動性担体を一緒に攪拌してスラリーを形成することを含むことができる。混合のパラメータおよび手法は、流動性担体および無細胞組織マトリックス粒子の特性、および組織製品組成物中のそれぞれの大体の量に従って、変更することができ、当業者であれば日常的な実験から容易に導き出すことができる。
【0057】
本発明に従って組織製品組成物を配合するために、様々なタイプのヒアルロン酸系材料を使用することができる。場合によっては、すべてのタイプのHAが、当初は、20mgHA/mLの濃度の溶液に含まれる。例示的なHAタイプには、HAタイプ1、HAタイプ2、HAタイプ3およびHAタイプ4が含まれる。HAタイプ1は、320PaのG’値を有する非架橋ヒアルロン酸であり、HAタイプ2とHAタイプ3は、対照的に、架橋度に応じて異なるG’値およびG”値を持つEDC架橋剤で架橋されたヒアルロン酸である。HAタイプ2のG’値は160Paであり、HAタイプ3のG’値は500~550Paであった。HAタイプ4も架橋されている。HAタイプ4のG’値は350Paである。
【0058】
様々なヒアルロン酸系材料を脂肪組織マトリックス粒子と混合して、以下の表1に記載の様々な組織製品組成物を生成することができる。なお、本明細書に記載のヒアルロン酸系材料は単なる例示に過ぎず、他のヒアルロン酸系材料を脂肪組織マトリックス粒子と混合できることを理解されたい。さらに、表1に示す組成物は例示に過ぎず、本発明に従って他の配合の組織製品組成物を形成することも可能である。
【0059】
ここで表1を参照すると、本発明に従って形成された組織製品組成物の例示的な実施形態が記載されている。表1には、様々な組織製品組成物を示す組成物1~4が例示されているが、本発明に従って他の組織製品組成物を形成できることを理解されたい。各組成物1~4では、脂肪組織マトリックス粒子がブタ脂肪組織に由来し、流動性担体と混ぜ合わせたときに、「流動性脂肪組織マトリックス」とも呼ばれる脂肪組織マトリックススラリーをもたらした。20mgHA/mLの濃度で提供された流動性担体と混合する前に、脂肪組織マトリックス粒子は、水性緩衝液中で100mg/mLの濃度であった。表1から分かるように、脂肪マトリックス:HAの比率を調整して、本明細書でさらに説明するように、様々な流動特性を有するスラリーを生成することができる。本明細書に記載の比率は、体積または質量の何れかによるものであり、表1に示す例示的な実施形態では、比率が、体積脂肪マトリックス:体積HAとして与えられることを理解されたい。組成物1、2に例示するように、脂肪マトリックス:HAの比率は9:1であり、組成物3、4に例示するように、脂肪マトリックス:HAの比率は4:1である。なお、これらの比率は単なる例示であり、組織製品組成物の他の例示的な実施形態は、開示した比率間の任意の値を含む、脂肪マトリックス:HAの他の比率を有し得ることを理解されたい。
【0060】
本開示の特定の態様によれば、所望の組織マトリックス粒子固形分を有する組織製品組成物を使用することができる。例えば、固形分が7.5%~10%など、固形分が5%~15%の材料が、組織マトリックス粒子と混合されるヒアルロン酸系材料の種類に応じて、望ましい場合がある。いくつかの例示的な実施形態では、組織製品組成物が、100mg/mLに対応する10%の無細胞脂肪マトリックス粒子の固形分を有する。
【0061】
上述したように、組織製品は、患者の中または上に埋め込まれたときに、細胞の内殖および組織再生を支援する能力を有する必要がある。さらに、組織製品は、脂肪由来幹細胞などの幹細胞を含む細胞の担体として機能するとともに、そのような細胞の成長を支援する能力を備える必要がある。このため、上記プロセスは、許容できない方法で(例えば、タンパク質構造に損傷を与えたり、かつ/または重要なグリコサミノグリカンおよび/または成長因子を除去したりすることにより)細胞外マトリックスタンパク質を変えてはならない。いくつかの実施形態では、製品が、透過型電子顕微鏡検査によって証明されるように、正常なコラーゲンバンディングを有するであろう。
【0062】
種々の実施形態では、組織製品が、天然ヒアルロン酸およびコンドロイチン硫酸の何れか一方または両方を保持するプロセスで処理される。このため、組織製品は、ヒアルロン酸および硫酸コンドロイチンの何れか一方または両方を含むことができる。さらに、ネイティブの成長因子を維持するプロセスを選択することができる。例えば、組織製品は、PECAM-1、HGF、VEGF、PDGF-BB、フォリスタチン、IL-8およびFGF-basicのなかから選択される1または複数の成長因子を含むように生産されるものであってもよい。
【0063】
脂肪組織マトリックスは、IV型およびVI型コラーゲンが豊富となる場合である。I型コラーゲンに対するこれら2種類のコラーゲンの比率は真皮マトリックスとは異なる場合があり、これは生体内で脂肪マトリックスと真皮マトリックスを区別するために使用される重要な因子となる可能性がある。
【0064】
本明細書に記載の組織製品は、様々な異なる解剖学的部位の治療に使用することができる。例えば、本明細書中に記載されているように、本開示の組織製品は、脂肪組織マトリックスから生成される。このため、脂肪組織製品は、他の組織タイプから製造された材料と比較して、特定の組織部位に移植されたときに、優れた再生能力を提供すると考えられている。場合によっては、組織製品は、主に又はかなりの部分が脂肪組織である組織部位に埋め込まれるものであってもよい。場合によっては、組織製品は、例えば、線、皺、空隙または窪みを治療するために、ボリュームを追加するために、または失われた組織と置き換えるために、顔の詰め物として使用されるものであってもよい。場合によっては、組織部位が(例えば、豊胸、切除組織の置換、またはインプラント周囲の配置のために)乳房を含む場合がある。さらに、他の脂肪組織を含む任意の部位を選択することができる。例えば、組織製品は、顔、臀部、腹部、腰部、大腿部、または天然の脂肪に似た構造と感触を有する追加の脂肪組織が望まれる他の任意の部位での再建または美容用途に使用することができる。それらの部位の何れにおいても、皺、弛みまたは望ましくない形状を減らすか、またはなくすために組織を使用することができる。
【0065】
乳房組織の置換または増加のために使用される場合、組織は、他の組織製品を超える利点を提供することができる。例えば、いくつかの組織製品は内殖と組織形成を可能にするが、それらの製品は、正常な乳房の肌合いと肌触りを模倣することはなく、放射線画像で異常に見えるかなりの線維組織を形成し得る。本開示の組織製品は脂肪から形成されるため、それらは脂肪組織のより正常な再生を支援することができる。
【0066】
さらに、組織製品は、細胞の担体として使用されるものであってもよい。例えば、製品は、上述した何れかの部位に移植または使用されるが、細胞が播種されるようにしてもよい。場合によっては、そのような細胞には、脂肪由来幹細胞などの幹細胞が含まれることがある。さらに、他の多能性細胞、および任意の組織源(例えば、血液、骨髄、胎児幹細胞、臍帯血細胞など)からの細胞を使用することができる。細胞は、移植後または移植前に組織に播種することができる。さらに、細胞は、移植前に組織製品上で培養され、その後、体内または体上に移植されるようにしてもよい。
【0067】
上述したように、粒子状組織マトリックス製品はさらに、組織製品の注入を容易にするための流動性担体を含むことができる。様々な実施形態では、粒子状組織マトリックスと流動性担体は別々の容器に包装されており、注入の直前に混合されるまで接触しない。例えば、粒子状組織マトリックスと流動性担体は、マルチバレルシリンジの別々のバレルに包装され、内容物が注入される直前または注入されるときに混合される。他の実施形態では、粒子状組織マトリックスおよび流動性担体は、予め混合されて、一緒に包装される。材料は別々に乾燥されるか、または生体適合性緩衝液に保存され、生体適合性緩衝液が、組織マトリックスおよび/または担体の生物学的特性を保持し、細菌の増殖を防ぎ、滅菌または保存中の損傷を防ぐことができる。
【0068】
以下の実施例は、本開示を例示するためのものであって、決して限定するものではない。
【実施例】
【0069】
A.脂肪組織材料の製造:
脂肪組織マトリックス材料を製造するために、ブタ脂肪組織を最初に2インチのストリップにスライスし、食品グレードのミートチョッパで粗く細断した。細断した脂肪組織は、さらに処理する準備ができていない場合は、-80℃で凍結するようにしてもよい。凍結材料は、一晩で室温または4℃で解凍することができる。前処理した材料は、RETSCH(登録商標)GM300(GRINDOMIX)により2000rpmで粗粉砕し、その後、4000rpmでさらに粉砕して、固体マトリックスからオイルの相分離を行った。脂肪マトリックス固形分を遠心分離により採取し、緩衝液で洗浄した。マトリックス材料を、室温で一晩、EDTA-Triton溶液で脱細胞化し、4時間毎に溶液を交換した。マトリックスタンパク質を再び洗浄した。洗浄中、マトリックスペレットを遠心分離して組織マトリックスをペレット化し、使用済み溶液をデカントした。懸濁液を再び機械的に粉砕して、マトリックス繊維をさらに分解した。洗浄後、マトリックスペレットを、約2~3%w/wの固形分濃度で20%のPBSに再懸濁した。スラリーを金属トレイに入れ、凍結乾燥してスポンジを形成し、DHT処理を行って材料を安定化させた。その後、安定化させたスポンジを粉砕して、篩にかけ、流動性/注入可能なブタ無細胞組織スラリー(PATS)材料として所望のサイズの粒子を得た。粒子状物質は、5~15%のペーストになり、電子ビームによる最終滅菌を受けた。
【0070】
B.プロセスが無傷のコラーゲン構造を生成:
上記プロセスで製造した組織製品を、走査型電子顕微鏡(SEM)および原子間力顕微鏡(AFM)による分析にかけた。その結果は、組織製品が、
図6に示すように、構造、多孔性などを含む典型的なコラーゲンバンディングパターンを有するコラーゲン材料を含む多孔性足場であることを示していた。顕微鏡は、正常なバンディングパターンを持つ無傷のコラーゲンを示している。
【0071】
組織製品をさらに示差走査熱量測定(DSC)にかけた。DSCの結果は、
図7Aに例示するように、組織製品の融解開始温度が61.5℃であることを示している。この実施例では、組織製品の融解開始温度が天然の組織(例えば、原料の脂肪)と同様であった。
【0072】
組織を、マッソントリクローム染色およびコラゲナーゼ消化アッセイにもかけた。コラゲナーゼ消化は、上述したように生成された組織について、電子ビーム滅菌のある場合と無い場合で実行した。染色およびコラゲナーゼ消化の結果は、
図7Bおよび
図7Cにそれぞれ示されている。具体的には、
図7Cは、開示の実施例に従って生成された脂肪組織の、電子ビーム滅菌のある場合と無い場合の、コラゲナーゼ消化曲線を示している。電子ビーム滅菌が無く、DHT安定化のみの場合には、消化時間の関数として残留する固形物の割合が、8時間後に約18%に低下する。一方、電子ビーム滅菌とDHT安定化を併用すると、同じ消化期間の後、残留固形物の割合が約25%に近付き、DHTのみよりわずかに高くなる。
【0073】
続けて
図7Bおよび
図7Cを参照すると、材料は、トリクロム切片上の正常なコラーゲンを示すトリクロム染色を有し、電子ビームによる最終滅菌後でもコラゲナーゼ感受性が変化していなかった。一般に、コラーゲンがトリクロム染色されている場合、正常なコラーゲンは赤色ではなく青色で表示されるはずである。総合すると、顕微鏡検査、DSC、染色およびコラゲナーゼ消化は、保存されたコラーゲンを示している。
【0074】
C.記載のプロセスは、足場内の細胞、細胞残骸およびオイルの除去に効率的である:
説明したように製造したサンプルは、
図8Aに示すように、ヘマトキシリンおよびエオシン染色(「H&E」)を受け、
図8Bに示すように、DNAおよび脂質含量分析を受け、(組織マトリックス対天然脂肪対照を示す)
図8Cに示すように、MHCIおよびII成分の免疫染色を受けた。H&E組織学では、組織製品が細胞の兆候のない多孔質構造を示した。この観察結果と一致して、組織製品の残留DNAと遊離オイルは非常に少なくなっていた。免疫染色により、組織製品はMHC-1およびII染色の効果がなく、記載のプロセスが脱細胞化に効率的であることを示している。
【0075】
D.組織製品が天然脂肪の主要マトリックス成分を保持した:
組織を、I型、III型およびIV型を含む主要な細胞外マトリックスタンパク質の免疫組織学的分析にかけた。
図9を参照すると、脂肪組織製品(下段)は、天然脂肪マトリックス(上段)の元の特性を保持していた。
【0076】
E.組織製品が複数の組織細胞の成長を支援する:
組織製品スポンジが脂肪組織、脈管構造、および真皮組織のような他の結合組織の成長を支援する潜在能力があるかどうかを試験するために、3つの異なる細胞タイプを選択した。具体的には、脂肪生成間葉系幹細胞、内皮細胞および真皮線維芽細胞など、正常なヒト個体から単離した一次細胞をすべて試験した。それら組織から単離した細胞を組織製品に播種し、1、7、16日間培養した。細胞増殖は、細胞増殖アッセイキットで定量化した。CyQUANT(登録商標)Cell Proliferation Assay Kitを使用して、蛍光色素によりDNA含有量で細胞増殖を定量化した。組織製品を細胞増殖について分析した。
図10に示すように、細胞播種足場が生死染色液で染色され、蛍光顕微鏡下で細胞の生存率と成長が観察された。組織製品は、インビトロで3種類すべての細胞増殖を支援する。
【0077】
F.組織製品が体積を保持し、生体内の脂肪生成を支援した:
製品の生物学的性能を、皮下ヌードラットモデルで試験した。
図11に示すように、この研究は製品の様々な配合を試験するために設計した。
【0078】
実施例Aに記載されるように製造した製品を、5つの異なるサイズ範囲、すなわち、ARM1:2.8~3.4mm;ARM2:0.8~1.0mm;ARM3:0.4~0.6mm;ARM4:0.05~0.1mm;ARM5:0.1~1mmに分類した。6番目のARMであるARM6には、凍結乾燥やその後のステップ無しで、脱細胞化プロセスの直後に得られた材料であるスラリーと繊維が実際に含まれていた。ARM6は、ARM1~5のようにDHT安定化3D微多孔質構造を持つ組織製品と比較するための対照として使用した。ARM7には、同様のプロセスで調製されたスポンジが含まれていたが、それは真皮の無細胞組織マトリックスからのものであった。真皮組織はStrattice(登録商標)であった。
【0079】
ARM1~5は、注入可能なペーストを作製するために、先ず、生理食塩水中で固形分10重量%で水和し、ARM6も同様に、固形分10%に調整した。ARM7は、真皮スポンジからの厚さ5mmの10mmパンチであり、PBSで水和した。各注入可能な脂肪材料の約0.5ccアリコート(ARM1~6)およびARM7の10mmパンチを、三つ組の各ARMのためにヌードラットの皮下領域に移植した。
【0080】
4週間目に、粗観測のために外植片を採取し、組織学的分析の対象とした。
図11は、ヌードラットへの皮下移植後の注入可能な脂肪組織マトリックスの外植片の粗観測を示している。点線は注入した材料を示している。触診すると、外植片は何れも柔らかかった。すべての粒子サイズ範囲の注入可能な脂肪は、少なくとも4週間持続した。特定の粒子サイズの注入可能な脂肪インプラントが少なくとも12週間良好に持続することも観察された(データは示していない)。
【0081】
図12は、低倍率での外植片の追加のマッソントリクローム染色を示している。安定化したPATSスポンジから調製したARM1~4では、組織の内殖を伴う強力な脂肪生成反応が観察された。対照的に、3D構造を欠く(すなわち、凍結乾燥および安定化を省いた)ARM6の脂肪組織マトリックススラリーは、脂肪生成反応(c)を誘発しなかった。
【0082】
さらに、ARM7は、
図12に示すように、同じヌードラットモデルの皮下空間に移植された場合の無傷のスポンジ状ブタ真皮組織足場をさらに示している。体積は保持されたが、マッソントリクローム染色により、真皮足場での脂肪組織再生は見られなかった。
【0083】
図13に示すように、代表的な注入可能な脂肪マトリックス製品(ARM1:2.8~3.4mm、ARM2:0.8~1.0mm、ARM5:0.1~1.0mm)の体積保持率を、ARM6のスラリーとともに、8週間についても評価した。多孔質微細構造を持つ粒子であるARM1、2、5は何れも、移植された体積と比較した場合に、最大8週間、外植片の体積を84%以上保持した。
【0084】
ARM3:0.4~0.6mmおよびARM4:0.05~0.1mmについても、これらのARMは4週間でARM1、2、5と同様の生物学的反応を示したため、同様の結果が予想される。微視的には、0.4~0.6mmの粒子はARM1、2、5に似た多孔質微細構造を持つ。0.05~0.1mmの粒子は小さ過ぎて無傷の微細孔がないが、殆どの粒子は分岐があり、DHTを含む安定化した材料(データは示されていない)により、互いに接触したときに同様の細孔を形成する可能性があり、これは、ARM6のスラリー材料とは根本的に異なる。対照的に、微多孔質構造のない移植片、脂肪組織のスラリー形態(例えば、ARM6)は、触診したときに見付け難いか、または非常に平らであった。これは、大きな移植体積喪失を示している。外植片の重量は、時間の経過とともに減少し、8週の終わりに約38%しか残っていなかった。これは、大きな移植体積喪失を示している。
【0085】
図14A~
図14Cは、ARM2の外植片の拡大したマッソントリクローム染色切片で、良好な脂肪生成を示している。脂肪細胞は白い領域であり、それは豊富で大きかった。また、血管新生がはっきりと分かった。同様の組織学的所見がARM5のサンプルでも見られた(図面には示されていない)。
【0086】
総合すると、結果は、
図11および
図13に示すように、試験したすべてのサイズ(例えば、50μm~3.4mm)の脂肪組織マトリックス粒子が体積を維持することを示し、かつ、最大8週間まで良好な細胞浸潤および血行再建反応を示した。データは
図12に4週間のみが示されている。一方、対照のARM6では、同じプロセスで調製した同じ材料からなるが、凍結乾燥およびDHT安定化を受けていないスラリーは、
図12のARM6に示されるように、移植片において脂肪組織の内殖反応が観察されなかった。ARM6が細孔構造を欠くことから、その結果は、脂肪生成中に微多孔質細孔構造が重要または注目に値する可能性があることを示唆している。さらに、ARM6は、8週間の終わりに著しい体積喪失を被り(
図13)、これはさらに、組織製品のDHT安定化が生体内での体積保持に重要であることを示している。さらに、脂肪組織の内殖は脂肪マトリックスに特異的であり、
図12のARM7に示すように、同様のプロセスを使用して真皮の無細胞マトリックスで調製した無傷のスポンジ状足場には存在しなかった。
【0087】
G.ヒアルロン酸(HA)を担体として使用することが、脂肪組織製品の注入性を高めた:
図15は、1.5年間保存された組織マトリックスと比較した、新鮮な脂肪組織マトリックスの画像を提供しており、両方とも実施例Aに記載されるように調製されたものである。それら画像は様々な倍率で提供されている。図示のように、10%の固形物を含む湿潤構成の脂肪組織マトリックス材料は、1.5年間の保存後に凝集体を形成した。生物学的試験は、凝集がヌードラットの皮下領域における体積保持や脂肪組織の内殖などの材料の生物学的性能に影響を与えないことを示している。しかしながら、臨床環境での非侵襲的送達の場合、10%の脂肪組織製品には注入性を促進するために担体が必要になることがある。
【0088】
脂肪組織材料の注入性を促進するために、20mg/mLの非架橋ヒアルロン酸(HA)担体を、新たに調製した脂肪組織マトリックス(10%、0.1~1.0mm)または1.5年前の脂肪組織マトリックス(10%、0.1~1mm)と混合した。混合材料中のHA添加剤の最終濃度は2mg/mLであった。HA添加剤の有る場合と無い場合について、脂肪材料の注入に必要な圧縮荷重(N)を、Instronモデル5865材料テスター(マサチューセッツ州ノーウッド所在のInstron Corporation)で評価した。HAを含まない脂肪材料は16G針または18G針の何れかを介して注入し、HA添加剤を含む脂肪材料は18G針を介して注入した。HA添加剤を含む製品または含まない製品の経時的な平均圧縮力(n=3)を計算し、プロットした。
【0089】
表2に示すように、担体としてHAを使用しない場合、16G針を使用した新鮮な脂肪材料の注入は円滑であったが、1.5年前の脂肪は大きな抵抗を受けた。HAを担体として追加すると、新鮮な脂肪材料と1.5年前の材料がともに注入可能になった。
【0090】
図16に示すように、担体としてHA無しでは、0.15mm/秒および0.25mm/秒の両方の速度による新たに調製した脂肪材料の注入は、18G針で大きな抵抗を受け、一方、2mg/mLのHA添加剤(最終濃度)を含む製品の注入は、0.25mm/秒の速度でも、非常に滑らかになった。
【0091】
脂肪製品とHA添加剤との混合物の生物学的性能を評価するために、20mg/mLの架橋ヒアルロン酸(HAタイプ4)と脂肪組織マトリックス(10%)を1:10の比率で混合し、混合物をヌードラットの皮下領域に注入した。HA-脂肪製品混合物の外植片を注入の4週間後に採取したところ、
図17に示すように、外植片に強力な脂肪組織の内殖が観察された。
【0092】
本開示の原理は、特定の用途の例示的な実施形態を参照して本明細書に記載したが、本開示はそれに限定されないことを理解されたい。当業者および本明細書で提供される教示へのアクセスを有する者は、追加の変更、応用、実施形態、および均等物の置換がすべて本明細書に記載の実施形態の範囲内に含まれることを認識するであろう。よって、本発明は、上述した説明によって限定されると見なされるべきではない。