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特許7559187インバータ装置の余寿命診断制御装置、エレベータシステムおよびインバータ装置の余寿命診断方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-20
(45)【発行日】2024-10-01
(54)【発明の名称】インバータ装置の余寿命診断制御装置、エレベータシステムおよびインバータ装置の余寿命診断方法
(51)【国際特許分類】
   B66B 3/00 20060101AFI20240924BHJP
   B66B 5/00 20060101ALI20240924BHJP
   B66B 1/18 20060101ALI20240924BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20240924BHJP
【FI】
B66B3/00 R
B66B5/00 G
B66B1/18 F
H02M7/48 M
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023208298
(22)【出願日】2023-12-11
【審査請求日】2023-12-11
(73)【特許権者】
【識別番号】390025265
【氏名又は名称】東芝エレベータ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100170575
【弁理士】
【氏名又は名称】森 太士
(72)【発明者】
【氏名】竹沢 悟史
【審査官】板澤 敏明
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-109041(JP,A)
【文献】特開2005-354812(JP,A)
【文献】特開2011-196703(JP,A)
【文献】特開2013-23305(JP,A)
【文献】特開2011-26065(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 3/00
B66B 5/00
B66B 1/18
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パワー半導体素子を搭載したインバータ装置によって駆動される回転機を備えたエレベータにおける前記インバータ装置の余寿命診断制御装置であって、
温度差基準値設定部と、パワーサイクル寿命計算部と、パワーサイクル数換算部と、パワーサイクル数積算部と、パワーサイクル数記憶部と、余寿命診断部とを備え、
前記温度差基準値設定部は、エレベータ走行時に発生する前記パワー半導体素子の温度上昇前後の温度差を一定値として換算するための基準となる温度差を予め設定し、
前記パワーサイクル寿命計算部は、前記パワー半導体素子の温度を測定する温度測定部により測定されるエレベータ走行時の前記パワー半導体素子の温度差と、パワー半導体素子の温度差に対するパワーサイクル数の関係を表したパワーサイクル耐量カーブとから前記パワー半導体素子の余寿命を算出し、
前記パワーサイクル数換算部は、前記パワーサイクル寿命計算部により算出された実走行時のパワーサイクル寿命と、前記温度差基準値設定部で設定した温度差基準値のパワーサイクル寿命と、の比から実走行の温度差におけるパワーサイクル数を温度差基準値のパワーサイクル数へ換算し、
前記パワーサイクル数積算部は、温度差基準値によるパワーサイクル数をエレベータが走行する度に積算し、
前記パワーサイクル数記憶部は、前記パワーサイクル数積算部により積算したパワーサイクル数を所定年数分(1年分)記憶し、翌年の推定パワーサイクル数と仮定し、
前記余寿命診断部は、前記パワーサイクル数積算部で積算したパワーサイクル積算値と、前記パワーサイクル数記憶部で算出した翌年の推定パワーサイクル数と、から余寿命を算出する、インバータ装置の余寿命診断制御装置。
【請求項2】
前記温度差基準値設定部は、エレベータ据付時にテストランを実施した際の温度差を取得し、取得された温度差を前記温度差基準値として設定する、請求項1に記載のインバータ装置の余寿命診断制御装置。
【請求項3】
交換推奨アラーム発報部と、延命運転条件決定部とをさらに備え、
前記交換推奨アラーム発報部は、インバータ装置の余寿命が予め設定した余寿命に達した際にインバータ装置の交換を推奨するアラームを発報し、
前記延命運転条件決定部は、エレベータ走行時の温度差の最大値が設定した延命後の余寿命を満たせる温度差となるようにエレベータの走行速度を下げながらテストランを行うことでエレベータの走行条件を自動で設定し、エレベータ制御部に延命運転の指令を出し、延命運転に切り替える、請求項1に記載のインバータ装置の余寿命診断制御装置。
【請求項4】
請求項1に記載の余寿命診断部からの余寿命診断結果と、他号機のエレベータ制御盤からのインバータ装置の余寿命診断結果とを入力する余寿命比較部と、呼び優先号機決定部とを有するエレベータシステムであって、
前記余寿命比較部は、複数台号機の運行制御の場合、各号機のインバータ装置の余寿命を比較し、
前記呼び優先号機決定部は各階の呼びに対し、余寿命が長い号機を優先的に稼働させ、各号機のインバータ装置の余寿命を調整する、エレベータシステム。
【請求項5】
三相交流電源で駆動するパワー半導体素子を搭載したインバータ装置の余寿命を診断する余寿命診断制御装置における余寿命診断方法であって、
前記パワー半導体素子の温度を測定し、
エレベータ走行時に発生する前記パワー半導体素子の温度上昇前後の温度差を一定値として換算するための基準となる温度差を予め設定し、
測定されるエレベータ走行時の前記パワー半導体素子の温度差とパワー半導体素子の温度差に対するパワーサイクル数の関係を表したパワーサイクル耐量カーブから前記パワー半導体素子の余寿命を算出し、
算出された実走行時のパワーサイクル寿命と設定した温度差基準値のパワーサイクル寿命の比から実走行の温度差におけるパワーサイクル数を温度差基準値のパワーサイクル数へ換算し、
温度差基準値によるパワーサイクル数をエレベータが走行する度に積算し、積算したパワーサイクル数を1年分記憶し、翌年の推定パワーサイクル数と仮定し、
積算したパワーサイクル積算値と算出した翌年の推定パワーサイクル数から余寿命を算出する、エレベータに使用されるインバータ装置の余寿命診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、インバータ装置の余寿命診断制御装置、エレベータシステムおよびインバータ装置の余寿命診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エレベータには、電動機を駆動制御するインバータ装置が使用されている。従来のエレベータにおけるインバータ装置は使用環境や使用条件がエレベータ毎に異なるため、寿命予測は実施せず、インバータ装置を構成する部品のメーカ保証値や稼働実績を基に交換周期を検討している。
【0003】
しかし、エレベータのパワー半導体素子は使用環境の違いにより、交換前に熱劣化破損する可能性がある。
【0004】
従来、エレベータのインバータ装置の寿命予測としては、例えば、エレベータの運転量予測とパワー半導体素子の温度実測値から寿命曲線を導出し、期間ごとの寿命消費を予測する例がある。
【0005】
また、一般的なインバータ装置の寿命予測として、パワー半導体素子に対する出力周波数指令値と出力電流値とに基づき、パワー半導体素子のジャンクション温度の上昇時のピーク値、下降時のピーク値を計算しパワーサイクル耐量カーブに対する割合を算出して寿命予測する例がある。この例では、パワー半導体素子のシリコンチップ下のハンダに対する熱劣化により寿命を予測する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第7096964号
【文献】特開2006-254574号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、エレベータのある期間の運転量予測から温度変化を予測し、期間ごとの寿命曲線を算出している従来例では、期間内で発生する運転量の予測と実測で誤差が積み重なると、算出した寿命曲線にずれが発生する可能性がある。また、運転量の予測に複雑なモデルを使用しなければならず処理の複雑化が問題となる。
【0008】
また、パワー半導体素子のシリコンチップ下のハンダに対する熱劣化により寿命を予測する従来例では、シリコンチップ下のハンダの温度変化は非常に速く、熱抵抗と損失から1周期で温度差のピークと温度下降のピークの差ΔTjを計算可能であるが、パワー半導体素子の絶縁基板下のハンダの温度変化は比較的長い時間がかかり、熱時定数など劣化により不確定となる要素が多く、計算は困難である。
【0009】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、絶縁基板下のハンダ劣化によるパワー半導体素子の寿命に対し、エレベータの走行毎にパワー半導体素子の温度を測定し、簡易的な計算によるリアルタイム寿命診断を行うことで、エレベータの負荷がわずかですみ、余寿命の予測精度を向上させるインバータ装置の余寿命診断制御装置、エレベータシステムおよびインバータ装置の余寿命診断方法を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の課題を解決するための実施形態は、パワー半導体素子を搭載したインバータ装置によって駆動される回転機を備えたエレベータにおける前記インバータ装置の余寿命診断制御装置であって、
温度差基準値設定部と、パワーサイクル寿命計算部と、パワーサイクル数換算部と、パワーサイクル数積算部と、パワーサイクル数記憶部と、余寿命診断部とを備える。
【0011】
前記温度差基準値設定部は、エレベータ走行時に発生する前記パワー半導体素子の温度上昇前後の温度差を一定値として換算するための基準となる温度差を予め設定する。
【0012】
前記パワーサイクル寿命計算部は、前記パワー半導体素子の温度を測定する温度測定部により測定されるエレベータ走行時の前記パワー半導体素子の温度差と、パワー半導体素子の温度差に対するパワーサイクル数の関係を表したパワーサイクル耐量カーブとから前記パワー半導体素子の余寿命を算出する。
【0013】
前記パワーサイクル数換算部は、前記パワーサイクル寿命計算部により算出された実走行時のパワーサイクル寿命と、前記温度差基準値設定部で設定した温度差基準値のパワーサイクル寿命と、の比から実走行の温度差におけるパワーサイクル数を温度差基準値のパワーサイクル数へ換算する。
【0014】
前記パワーサイクル数積算部は、温度差基準値によるパワーサイクル数をエレベータが走行する度に積算する。
【0015】
前記パワーサイクル数記憶部は、前記パワーサイクル数積算部により積算したパワーサイクル数を所定年数分(1年分)記憶し、翌年の推定パワーサイクル数と仮定する。
【0016】
前記余寿命診断部は、前記パワーサイクル数積算部で積算したパワーサイクル積算値と、前記パワーサイクル数記憶部で算出した翌年の推定パワーサイクル数と、から余寿命を算出する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】第1実施形態の構成を示すブロック図。
図2】パワー半導体素子の構造を示す説明図。
図3】パワーサイクル耐量カーブの例を示す説明図。
図4】第1実施形態の動作を示すフローチャート。
図5A図4のステップS3~S5に示す処理の説明図。
図5B図4のステップS6~S7に示す処理の説明図。
図6】第2実施形態の動作を示すフローチャート。
図7】第3実施形態の構成を示すブロック図。
図8】第3実施形態の動作を示すフローチャート。
図9A図8のステップS19~S20に示す処理の説明図。
図9B図8のステップS19~S20に示す処理の説明図。
図10】第4実施形態の構成を示すブロック図。
図11】第4実施形態の動作を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<第1実施形態>
図1に第1実施形態に係るエレベータシステム1Aの構成を示すブロック図を示す。
【0019】
図1に示すように、第1実施形態のエレベータシステム1Aにおけるエレベータ制御盤20Aには、三相交流電源10が供給され、巻上機30を駆動制御している。エレベータ制御盤20Aはインバータ装置40と余寿命診断制御装置50Aとを備える。
【0020】
インバータ装置40は、コンバータ部41と、平滑コンデンサ42と、インバータ部43と、温度測定部44とを備える。
【0021】
初めに、本発明の実施形態における余寿命診断対象となるパワー半導体素子60について、図2を参照して説明する。
【0022】
図2に示すように、インバータ部43を構成するパワー半導体素子60は、銅ベース61、絶縁基板62、絶縁基板下ハンダ63、シリコンチップ64、シリコンチップ下ハンダ65、アルミワイヤ66を備える。銅ベース61はパワー半導体素子60の基体となり、絶縁基板下ハンダ63を介して絶縁基板62と接合される。同様に絶縁基板62はシリコンチップ下ハンダ65を介してシリコンチップ64と接合される。パワー半導体素子60はスイッチング時に損失が発生し、シリコンチップ64が発熱するとシリコンチップ下ハンダ65、絶縁基板62、絶縁基板下ハンダ63、銅ベース61へと熱を放熱する。温度測定部44は銅ベース61の側面の温度を測定する。温度測定値は温度測定部44から余寿命診断制御装置50Aに出力される。
【0023】
余寿命診断制御装置50Aは、パワーサイクル寿命計算部51と、パワーサイクル数換算部52と、パワーサイクル数積算部53と、余寿命診断部54と、温度差基準値設定部55と、パワーサイクル数記憶部56と、エレベータ制御部57と、を備える。
【0024】
パワーサイクル寿命計算部51は、パワー半導体素子60の温度を測定する温度測定部44により測定されるエレベータ走行時のパワー半導体素子60の温度上昇前後の温度差と、パワー半導体素子60の温度差に対するパワーサイクル数の関係を表したパワーサイクル耐量カーブとからパワー半導体素子60の余寿命を算出する。
【0025】
パワーサイクル数換算部52は、パワーサイクル寿命計算部51により算出された実走行時のパワーサイクル寿命と、温度差基準値設定部55で設定した温度差基準値のパワーサイクル寿命と、の比から実走行の温度差におけるパワーサイクル数を温度差基準値のパワーサイクル数へ換算する。
【0026】
パワーサイクル数積算部53は、温度差基準値によるパワーサイクル数をエレベータが走行する度に積算する。
【0027】
余寿命診断部54は、パワーサイクル数積算部53で積算したパワーサイクル積算値と、パワーサイクル数記憶部56で算出した翌年の推定パワーサイクル数と、から余寿命を算出する。
【0028】
温度差基準値設定部55は、エレベータ走行時に発生するパワー半導体素子の温度差を一定値として換算するための基準となる温度差を予め設定する。
【0029】
パワーサイクル数記憶部56は、パワーサイクル数積算部53により積算したパワーサイクル数を所定年数分(1年分)記憶し、翌年の推定パワーサイクル数と仮定する。
【0030】
エレベータ制御部57は、エレベータ制御盤20Aおよび余寿命診断制御装置50Aと連携してエレベータを制御する。
【0031】
図3に示す曲線はパワー半導体素子60固有のパワーサイクル耐量カーブの例である。パワーサイクル耐量カーブはパワー半導体素子60の温度上昇前後の温度差ΔTに対する繰り返し発生するパワーサイクルとの関係を表し、使用可能なパワーサイクル寿命を示す。
このパワーサイクル耐量カーブは以下の式で表すことができる。
【0032】
PC.LIFE(ΔT)=A×ΔT-B
ここでPC.LIFEはパワーサイクル寿命、ΔTは温度差、A,Bは係数。
【0033】
図4は本発明の第1実施形態の動作を示すフローチャートである。
【0034】
エレベータ運転開始前に温度差基準値設定部55により、温度差基準値ΔT0を設定する(S1)。この温度差基準値ΔT0はエレベータ走行時に発生する温度差にはバラツキがあるため、温度差を一定値として換算するための基準値となる。エレベータ稼働開始後、エレベータ停止時から走行した際に発生するパワー半導体素子60の温度差ΔTを温度測定部44で測定する(S2)。次いで、パワーサイクル寿命計算部51で、図3に示したパワーサイクル耐量カーブから温度差ΔTのパワーサイクル寿命と温度差基準値ΔT0のパワーサイクル寿命を計算する(S3)。
【0035】
その後、パワーサイクル数換算部52で温度差ΔTのパワーサイクル寿命と温度差基準値ΔT0のパワーサイクル寿命を比較する(S4)。そして、温度差ΔTのパワーサイクル数を温度差基準値ΔT0のパワーサイクル数に換算する(S5)。この換算は温度差ΔTと温度差基準値ΔT0をパワーサイクル耐量カーブの式に置き、パワーサイクル寿命の比PC.LIFE(ΔT0)/PC.LIFE(ΔT)を算出し、この比をΔTの1サイクルを温度差基準値ΔT0に換算したパワーサイクル数として換算する。
【0036】
例えば、パワー半導体素子60のパワーサイクル耐量カーブの式がPC.LIFE(ΔT)=3×108×ΔT-2.721のとき、ΔT0=10K、ΔT=8Kの場合、温度差基準値ΔT0のパワーサイクル寿命は570,323サイクルで、温度差ΔTのパワーサイクル寿命は1,046,678サイクルとなり、パワーサイクル寿命の比PC.LIFE(ΔT0)/PC.LIFE(ΔT)は0.5445となる。よって、温度差基準値ΔT0を10Kに設定したエレベータが走行時に8Kの温度差が発生した場合、0.5445サイクルとして、寿命診断を行う。
【0037】
次にパワーサイクル数積算部53でエレベータが走行する度に算出した温度差基準値ΔT0のパワーサイクル数を積算し(S6)、余寿命診断部54でパワーサイクル耐量カーブより積算されたパワーサイクル数の温度差基準値ΔT0のパワーサイクル寿命に対する残りサイクル数を算出する(S7)。
【0038】
図5A図5Bは、ステップS3からステップS7までの処理をグラフ化して示している。
【0039】
また、同時にパワーサイクル数記憶部56で1年間のパワーサイクル数を記憶し(S8)、翌年の推定パワーサイクル数とする(S9)。
【0040】
余寿命診断部54で算出したパワーサイクル寿命に対する残りサイクル数と予測した翌年の推定パワーサイクル数からパワー半導体素子60の余寿命年数を診断する(S10)。
【0041】
例えば、温度差基準値ΔT0を10Kとし、積算されたパワーサイクル数が300,000サイクルで、パワーサイクル寿命が570,323サイクルとする。この場合、残りのパワーサイクル数は570,323-300,000=270,323サイクルであり、翌年の推定パワーサイクル数が38,000サイクルのとき、270,323/38,000で余寿命年数は約7年となる。
【0042】
インバータ装置40が交換されない場合(S11のNO)、この余寿命診断を毎走行実施し、リアルタイムで余寿命の監視を行う。インバータ装置40を交換した場合(S11のYES)、交換時に積算、記憶したデータをリセットし(S12)、終了する。
【0043】
このように、第1実施形態によれば、走行毎の温度差を予め設定した温度差に換算することで、バラツキのある温度差を統一し、パワーサイクル数を積算するリアルタイムの寿命診断と毎年更新される推定パワーサイクル数の予測により、インバータ装置40の余寿命診断の精度を向上させることができる。
【0044】
<第2実施形態>
次に、第2実施形態に係るインバータ装置40の余寿命診断を説明する。なお、第2実施形態におけるエレベータシステムの構成は、図1と同じであるため、図示は省略する。
【0045】
図6に第2実施形態の動作を示すフローチャートを示す。基本的な動作は第1実施形態と同様であるが、温度差基準値の設定方法が異なり、テストランによる温度差基準値設定を行う点を特徴とする。
【0046】
第2実施形態に係るインバータ装置40の余寿命診断は、エレベータ据付直後にインバータ装置40に最も負荷がかかる条件の乗りかごに積載がない状態での下降運転で最上階から最下階までテストランを実施(S13)し、テストラン時に発生するパワー半導体素子60の温度差を温度測定部44で測定する(S14)。このときの温度差は最大負荷時の温度差であるため、一回の走行で発生する温度差の最大値となる。測定したテストランの温度差を温度差基準値設定部55で温度差基準値ΔT0として設定する(S15)。
【0047】
このように、第2実施形態によれば、エレベータ据付時にインバータ装置40の最大負荷の温度差を測定することで温度差基準値を最大値と設定することで温度差が最大値のときの余寿命予測が可能となるため、各エレベータの温度差の最大値を知ることができ、温度差が最大値となる走行を何回行えるかの実力値を推定することができる。
【0048】
<第3実施形態>
次に、第3実施形態に係るインバータ装置40の余寿命診断を説明する。図7は第3実施形態に係るエレベータシステム1Bの構成を示すブロック図を示す。図7において、第1実施形態と同様のものについてはその説明を省略する。
【0049】
図7に示すように、第3実施形態の余寿命診断制御装置50Bは、第1実施形態の余寿命診断制御装置50Aに加えて、交換推奨アラーム発報部58と、延命運転条件決定部59とをさらに備える。
【0050】
交換推奨アラーム発報部58は、インバータ装置40の余寿命が予め設定した余寿命に達した際にインバータ装置40の交換を推奨するアラームを発報する。
【0051】
延命運転条件決定部59は、エレベータ走行時の温度差の最大値が設定した延命後の余寿命を満たせる温度差となるようにエレベータの走行速度を下げながらテストランを行うことでエレベータの走行条件を自動で設定し、エレベータ制御部57に延命運転の指令を出し、延命運転に切り替える。
【0052】
図8は第3実施形態の動作を示すフローチャートである。基本的な動作は第1実施形態と同様であるが、インバータ装置40の余寿命が予め設定した余寿命に達したときにインバータ装置40を交換しなかった場合にエレベータの延命動作を行う点が第1実施形態と異なる。
【0053】
具体的には第1実施形態の余寿命診断後、パワー半導体素子60の余寿命が予め設定したアラーム発報を行う余寿命に至っていない場合(S16のNO)は、余寿命診断を繰り返し、パワー半導体素子60の余寿命が予め設定したアラーム発報を行う年数に達した場合(S16のYES)は、交換推奨アラーム発報部58がインバータ装置40の交換を推奨するアラームを発報する(S17)。インバータ装置40を交換しない状態で(S11のNO)、任意で設定した時間が経過すると延命運転へ自動的に移行する。
【0054】
延命運転に移行する際、延命運転条件決定部59で延命後の余寿命を再設定し(S18)、パワーサイクル耐量カーブから延命後の余寿命を満たすことができる温度差基準値ΔTeを決定する(S19)。
【0055】
例えば、パワー半導体素子60のパワーサイクル耐量カーブの式がPC.LIFE(ΔT)=3×108×ΔT-2.721で、予めアラーム発報を行う余寿命の年数を1年と設定したとき、温度差基準値ΔT0が10Kの場合、パワーサイクル寿命は570,323サイクルであり、1年間の推定パワーサイクル数が38,000サイクルとすると、余寿命が1年のときの積算されたパワーサイクル数は532,323サイクルとなり、パワーサイクル寿命に対して約93%の割合となる。延命後の余寿命を3年に設定した場合、延命後の温度差基準値ΔTeのパワーサイクル数が温度差基準値ΔT0のパワーサイクル寿命に対する割合93%まで積算されている状態で、残りサイクル数が114,000サイクル以上となる温度差は6Kとなるため、延命後の温度差基準値ΔTeを6Kに設定する。
【0056】
次に、延命後の温度差基準値ΔTeを満たすエレベータの走行条件を決定するために、最下階から最上階のテストランを数回行い、エレベータの走行速度を徐々に落としていき、温度差基準値ΔTeとなる速度を決定する(S20)。
【0057】
図9A図9Bは、ステップS19,S20の処理をグラフ化して示している。
【0058】
延命運転条件決定後はエレベータ制御部57に延命運転切替の指令を出し、延命運転前と同様の制御でリアルタイムの寿命診断を行い(S21)、余寿命が延命運転時に設定した余寿命に至っていない場合(S22のNO)はリアルタイムの寿命診断を繰り返し、余寿命が延命運転時に設定した余寿命に達した場合(S22のYES)は交換推奨アラーム発報部58がインバータ装置40の交換を推奨するアラームを発報する(S17)。
【0059】
交換推奨アラーム発報後、インバータ装置40を交換実施した場合(S11のYES)、交換時に記憶したデータをリセット(S12)し、延命運転から通常運転へ切り替えて終了する。
【0060】
このように、第3実施形態によれば、インバータ装置40が交換されなかった場合に延命運転を行うことで、インバータ装置40の寿命破損を遅らせることが可能となる。また、各物件におけるインバータ装置40の交換優先度の選択肢を増やすことができる。
【0061】
<第4実施形態>
次に第4実施形態に係るインバータ装置40の余寿命診断を説明する。図10は第4実施形態の構成を示す。図11に第4実施形態の動作を示すフローチャートを示す。なお、図10において、第1実施形態と同様のものについてはその説明を省略する。
【0062】
図10に示すインバータ装置40の余寿命診断を実行するエレベータシステム1Cは、2カー以上の場合を想定し、他号機制御盤80とエレベータ制御盤外部に余寿命比較部71と、呼び優先号機決定部72を備える。なお、第4実施形態の余寿命診断制御装置50Cは、第3実施形態の余寿命診断制御装置50Bと比較して、余寿命診断部54の余寿命診断結果が余寿命比較部71にも出力されている点で相違する。
【0063】
余寿命比較部71は、複数台号機の運行制御の場合、他号機制御盤80の余寿命診断結果を入力して、各号機のインバータ装置40の余寿命を比較する。
【0064】
呼び優先号機決定部72は、各階の呼びに対し、余寿命が長い号機を優先的に稼働させ、各号機のインバータ装置の余寿命を調整する。
【0065】
図11は第4実施形態の動作を示すフローチャートである。基本的な動作は第1実施形態と同様であるが、インバータ装置40の余寿命が予め設定した余寿命に達したときにインバータ装置40を交換しなかった場合に余寿命が長い他号機のエレベータを優先して稼働させ延命動作を行う点が第1実施形態と異なる。
【0066】
具体的には第1実施形態の余寿命診断後、パワー半導体素子60の余寿命が予め設定した余寿命でない場合(S16のNO)は、余寿命診断を繰り返し、パワー半導体素子60の余寿命が予め設定した余寿命に達した場合(S16のYES)に、インバータ装置40が交換されないまま(S11のNO)、ある程度の時間が経過すると余寿命比較部71で各号機のインバータ装置40の余寿命を比較する(S23)。各号機で余寿命を比較した結果、余寿命が最も長い号機を各階の呼びに対して、優先して稼働させる(S24)。
【0067】
例えば、余寿命比較前は各階の呼びに対して最も近い号機が稼働するとした場合、余寿命比較後は各階の呼びに対して上下2階床に余寿命が長い号機が停止していた場合は優先的に稼働させる。このとき上下1階床に余寿命が短い号機があった場合も余寿命が短い号機は稼働させず、余寿命が長い号機を優先的に稼働させる。
【0068】
各号機で優先させる号機を決定した後は延命動作前と同様の制御でリアルタイムでの寿命診断を行い(S25)、優先して稼働していた号機の余寿命が設定した余寿命に至っていない場合(S26のNO)はリアルタイムでの寿命診断を繰り返し、優先して稼働していた号機の余寿命が設定した余寿命に達した場合(S26のYES)にインバータ装置40の交換を実施しなければ(S11のNO)、再度各号機で余寿命を比較し、インバータ装置40を交換した場合(S11のYES)、交換時に記憶したデータをリセット(S12)し終了する。
【0069】
このように、第4実施形態によれば、2カー以上の物件で余寿命を比較し、余寿命が長い号機を優先的に稼働させることで、余寿命が短い号機のインバータ装置40の寿命破損を遅らせることが可能となることと、各号機の余寿命を同等に調整できるため、インバータ装置40の交換を同時に行うことができる。
【0070】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0071】
1A,1B,1C…エレベータシステム、10…三相交流電源、20A,20B,20C…エレベータ制御盤、30…巻上機、40…インバータ装置、41…コンバータ部、42…平滑コンデンサ、43…インバータ部、44…温度測定部、50A,50B,50C…余寿命診断制御装置、51…パワーサイクル寿命計算部、52…パワーサイクル数換算部、53…パワーサイクル数積算部、54…余寿命診断部、55…温度差基準値設定部、56…パワーサイクル数記憶部、57…エレベータ制御部、58…交換推奨アラーム発報部、59…延命運転条件決定部、60…パワー半導体素子、61…銅ベース、62…絶縁基板、63…絶縁基板下ハンダ、64…シリコンチップ、65…シリコンチップ下ハンダ、66…アルミワイヤ、71…余寿命比較部、72…呼び優先号機決定部、80…他号機制御盤
【要約】
【課題】エレベータの走行毎にパワー半導体素子の温度を測定し、簡易的な計算によるリアルタイム寿命診断を行うことで、エレベータの負荷がわずかですみ、余寿命の予測精度を向上させる。
【解決手段】パワー半導体素子の温度を測定し、エレベータ走行時に発生するパワー半導体素子の温度上昇前後の温度差を一定値として換算するための基準となる温度差を予め設定し、パワーサイクル耐量カーブからパワー半導体素子の余寿命を算出し、算出された実走行時のパワーサイクル寿命と設定した温度差基準値のパワーサイクル寿命の比から実走行の温度差におけるパワーサイクル数を温度差基準値のパワーサイクル数へ換算し、温度差基準値によるパワーサイクル数をエレベータが走行する度に積算し、積算したパワーサイクル数を1年分記憶し、翌年の推定パワーサイクル数と仮定し、積算したパワーサイクル積算値と算出した翌年の推定パワーサイクル数から余寿命を算出する。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9A
図9B
図10
図11