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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-20
(45)【発行日】2024-10-01
(54)【発明の名称】保持装置、及び緻密層付き多孔質体
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/683 20060101AFI20240924BHJP
   H01L 21/3065 20060101ALI20240924BHJP
   C04B 38/00 20060101ALI20240924BHJP
【FI】
H01L21/68 R
H01L21/302 101G
C04B38/00 303Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2023216578
(22)【出願日】2023-12-22
【審査請求日】2024-02-22
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】弁理士法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】植松 大輔
(72)【発明者】
【氏名】井上 志郎
(72)【発明者】
【氏名】大原 穂波
(72)【発明者】
【氏名】佐成 巧
【審査官】湯川 洋介
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/220943(WO,A1)
【文献】特許第7397974(JP,B2)
【文献】国際公開第2020/090613(WO,A1)
【文献】特開2009-246013(JP,A)
【文献】特開2018-200972(JP,A)
【文献】特開2004-356124(JP,A)
【文献】特開2004-352513(JP,A)
【文献】特開2003-234300(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/683
H01L 21/3065
C04B 38/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1表面、前記第1表面の反対側に配される第2表面を含む板状部材と、前記第1表面側に開口したガス流出口、及び前記第2表面側に開口したガス流入口を含み、前記板状部材の内部に形成されるガス流路と、前記ガス流路内に配される多孔質体とを有する保持基板を備える保持装置であって、
前記多孔質体は、絶縁性の材料を主成分とする骨格基材を備えており、前記骨格基材は、複数の連通孔からなる連通孔群が形成されており、
前記連通孔群は、5μm未満の範囲と、5μm以上15μm以下の範囲とに、それぞれ1つずつHgポロシメーターで測定された気孔径分布のピークを有する保持装置。
【請求項2】
前記多孔質体の気孔率が、70%以上90%以下である請求項1に記載の保持装置。
【請求項3】
5μm未満の範囲と、5μm以上15μm以下の範囲とに、それぞれ1つずつHgポロシメーターで測定された気孔径分布のピークを有する連通孔群を含む柱状の多孔質体と、前記多孔質体の周囲に配される筒状の、前記多孔質体よりも気孔率が小さい緻密層とを備え、前記多孔質体はセラミックスを主成分とする、静電チャック用の緻密層付き多孔質体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保持装置、及び緻密層付き多孔質体に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体を製造する際にウェハ(半導体ウェハ)を保持する保持装置の一例として、静電チャックが挙げられる(特許文献1参照)。静電チャックは、絶縁性のセラミックス(例えば、アルミナ)を主体とした保持基板(セラミック基板)を備えており、その保持基板の表面上でウェハが静電引力により保持される。静電引力は、保持基板の内部に設けられたチャック電極に電圧が印加されることで、発生する。
【0003】
この種の静電チャックでは、プラズマエッチング等のプラズマ処理において、保持基板とウェハとの間に、ヘリウムガス等の熱伝導ガスを供給して、ウェハから熱を取り除くことが行われている。そのため、静電チャックの保持基板の内部には、外部から供給された熱伝導ガスを、ウェハに向かって流すためのガス流路が形成されている。保持基板の表面には、ガス流路の終端に位置するガス流出口が複数設けられており、各ガス流出口から、ウェハに向かって熱伝導ガスが供給される。
【0004】
なお、プラズマ処理時に印加される高周波電力により、ガス流路内で異常放電(アーキング)が発生して、その異常放電により保持基板上のウェハが損傷することがあった。そのため、このような異常放電の発生を抑制するために、ガス流路内に、ガス透過性の多孔質体が設けられていた。多孔質体は、絶縁性のセラミック材料からなる骨格基材と、その骨格基材の内部に形成される三次元網目状の複数の連通孔とからなる。このような多孔質体に、ガス流路の上流側から熱伝導ガスが供給されると、熱伝導ガスは、多孔質体内の三次元網目状の連通孔を通過してガス流路の下流側へ移動する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4959905号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
多孔質体の強度と、多孔質体内を通過可能なガス流量との間には、所謂、トレードオフの関係があるため、それらを好適に両立させることが難しく、問題となっていた。
【0007】
本発明の目的は、必要なガス流量を保持しつつ、強度を向上させた多孔質体を備える保持装置等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するための手段は、以下の通りである。即ち、
<1> 第1表面、前記第1表面の反対側に配される第2表面を含む板状部材と、前記第1表面側に開口したガス流出口、及び前記第2表面側に開口したガス流入口を含み、前記板状部材の内部に形成されるガス流路と、前記ガス流路内に配される多孔質体とを有する保持基板を備える保持装置であって、前記多孔質体は、絶縁性の材料を主成分とする骨格基材を備えており、前記骨格基材は、複数の連通孔からなる連通孔群が形成されており、 前記連通孔群は、5μm未満の範囲と、5μm以上15μm以下の範囲とに、それぞれ1つずつHgポロシメーターで測定された気孔径分布のピークを有する保持装置。
【0009】
<2> 前記多孔質体の気孔率が、70%以上90%以下である前記<1>に記載の保持装置。
【0010】
<3> 5μm未満の範囲と、5μm以上15μm以下の範囲とに、それぞれ1つずつHgポロシメーターで測定された気孔径分布のピークを有する連通孔群を含む柱状の多孔質体と、前記多孔質体の周囲に配される筒状の、前記多孔質体よりも気孔率が小さい緻密層とを備える緻密層付き多孔質体。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、必要なガス流量を保持しつつ、強度を向上させた多孔質体を備える保持装置等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施形態1に係る保持装置の外観構成を模式的に表した斜視図
図2】実施形態1に係る保持装置の内部構造を模式的に表した断面図
図3】基板側ガス流路の一部を拡大した保持基板の断面図
図4】保持基板の製造方法を模式的に表した説明図
図5】保持基板の製造方法を模式的に表した説明図
図6】実施形態2に係る保持基板の基板側ガス流路の一部を拡大した断面図
図7】実施例1等の各サンプルにおける多孔質体の気孔径分布を示すグラフ
図8】実施例1の多孔質体の切断面のSEM画像
【発明を実施するための形態】
【0013】
<実施形態1>
以下、実施形態1に係る保持装置100を、図1図5を参照しつつ説明する。保持装置100は、対象物(例えば、ウェハW)を、静電引力によって吸着して保持する静電チャックである。静電チャックは、例えば、減圧されたチャンバー内でプラズマを用いてエッチングを行うプロセスにおいて、ウェハWを載置するテーブルとして使用される。
【0014】
図1は、実施形態1に係る保持装置100の外観構成を模式的に表した斜視図であり、図2は、実施形態1に係る保持装置100の内部構造を模式的に表した断面図である。保持装置100は、円板状の保持基板(セラミック基板)10と、その保持基板10よりも大きな円板状のベース部材20とを備える。例えば、保持基板10が、直径300mm及び厚み3mmの円板状をなす場合、ベース部材20は、直径340mm及び厚み20mmの円板状に設定される。なお、保持基板10及びベース部材20には、それぞれ、互いの位置合わせを行うための位置決め部(凹凸等)が設けられてもよい。
【0015】
保持基板10及びベース部材20は、保持基板10が上側に配され、かつベース部材20が下側に配された状態で、上下方向に互いに重ねられる。保持基板10及びベース部材20は、それらの間に介在される接合材30により、互いに接合される。
【0016】
保持基板10は、上側に配される略円形状の第1表面S1と、その第1表面S1の反対側(つまり、下側)に配され、かつベース部材20と対向する略円形状の第2表面S2とを有する。ベース部材20は、上側に配され、かつ保持基板10の第2表面S2と対向する略円形状の第3表面S3と、その第3表面S3の反対側(つまり、下側)に配される略円形状の第4表面S4とを有する。上述した接合材30は、保持基板10の第2表面S2とベース部材20の第3表面S3との間で挟まれつつ、層状に広がった状態となっている。
【0017】
保持基板10は、円板状の板状部材11と、その板状部材11の内部に形成された基板側ガス流路12とを備える。板状部材11の上側の表面が、保持基板10の第1表面S1となる。また、板状部材11の下側の表面が、保持基板10の第2表面S2となる。
【0018】
板状部材11は、セラミックスを主成分とする板状(円板状)をなした絶縁性の部材である。本明細書において、「主成分」とは、含有割合の最も多い成分を意味する。本実施形態の板状部材11は、アルミナ(Al)からなる。なお、他の実施形態においては、窒化アルミニウム(AlN)等の他のセラミックスからなるものであってもよい。
【0019】
基板側ガス流路(ガス流路の一例)12は、保持装置100が備える不活性ガス(例えば、熱伝導ガスであるヘリウムガス)を流すための流路60の一部を構成する。基板側ガス流路12は、保持基板10の板状部材11の内部に形成される。基板側ガス流路12は、保持基板10の第2表面S2に開口した入口12aと、第1表面S1に開口したガス流出口12bとを含む、保持基板10内を貫通する孔からなる。入口12aから不活性ガスが供給されると、不活性ガスは、基板側ガス流路12内を通って最終的にガス流出口12bから外部に排出される。
【0020】
図3は、基板側ガス流路12の一部を拡大した保持基板10の断面図である。図3には、保持基板10を厚み方向に沿って切断した断面構造が示されている。基板側ガス流路12は、図2及び図3に示されるように、第1縦流路部120と、横流路部130と、第2縦流路部140とを備える。
【0021】
第1縦流路部120は、第1表面S1側に開口したガス流出口12bを含み、ガス流出口12bから第2表面S2側に、板状部材11の厚み方向に沿って延びた有底の流路である。この第1縦流路部120内に、後述する多孔質体70が充填される。
【0022】
横流路部130は、第1縦流路部120と接続し、第1表面S1に対して平行に延びた流路である。横流路部130の下流側の端部は、第1縦流路部120の上流側の端部と接続している。なお、基板側ガス流路12において、入口12a側が上流側であり、ガス流出口12bが下流側である。
【0023】
第2縦流路部140は、図2に示されるように、第2表面S2に開口した入口12aを含み、入口12aから第1表面S1側に、板状部材11の厚み方向に沿って延びた流路である。第2縦流路部140の下流側の端部は、横流路部130の上流側の端部と接続している。なお、入口12aは、基板側ガス流路12の入口をなしている。
【0024】
また、保持基板10は、基板側ガス流路12の一部である第1縦流路部120に充填され、セラミックスを主成分とするガス透過性の多孔質体70を備える。多孔質体70の詳細は、後述する。
【0025】
保持基板10は、更に、電極部材であるチャック電極40を備える。チャック電極40は、全体的には、第1表面S1に略平行な平面状(層状)をなしている。チャック電極40は、例えば、タングステン、モリブデン、白金等の導電性材料から形成される。チャック電極40は、図2に示されるように、保持基板10(板状部材11)の内部において、第1表面S1側に配されている。チャック電極40は、端子等を介して外部の電源に接続されており、チャック電極40に対して給電が行われると、静電引力が発生し、この静電引力によってウェハWが、保持基板10の第1表面S1に吸着保持される。チャック電極40には、厚み方向(上下方向)に貫通する貫通孔41が形成されている。なお、他の実施形態において、電極部材として高周波電極、ヒータ電極を備えていてもよい。
【0026】
図1及び図2に示されるように、保持基板10の第1表面S1には、複数のガス流出口12bが設けられている。第1表面S1の外周縁部は、それよりも内側の部分と比べて僅かに上方に突出しつつ、円環状に形成されている。そのため、第1表面S1にウェハWが吸着保持されると、図2に示されるように、ウェハWと第1表面S1の内側の部分との間に隙間(ギャップ)Gが形成される。
【0027】
ベース部材20は、例えば、金属(アルミニウム、アルミニウム合金等)、金属とセラミックスの複合体(Al-SiC)、又はセラミックス(SiC)を主成分として構成される。
【0028】
ベース部材20の内部には、冷媒流路21が設けられている。冷媒流路21に冷媒(例えば、フッ素系不活性液体、水等)が流されることで、プラズマ熱の冷却が行われる。また、冷媒流路21に冷媒が流されると、ベース部材20が冷却され、接合材30を介したベース部材20と保持基板10との間の伝熱(熱引き)により、保持基板10が冷却される。その結果、保持基板10の第1表面S1で保持されたウェハWが冷却される。なお、冷媒流路21における冷媒の流量を適宜、調整することにより、第1表面S1で保持されたウェハWの温度を制御することができる。
【0029】
ベース部材20の内部には、流路60の一部を構成するベース側ガス流路22が設けられている。ベース側ガス流路22は、全体的には、ベース部材20の厚み方向に延びた貫通孔状をなしており、ベース部材20の第4表面S4に開口した入口22aと、第3表面S3に開口した出口22bとを備える。入口22aは、ベース側ガス流路22の入口をなすと共に、保持装置100に設けられた流路60全体の入口をなしている。
【0030】
接合材30は、例えば、シリコーン系の有機接合剤、無機接合剤、又はAl系の金属接着剤を含むボンディングシート等により構成される。接合材30としては、保持基板10及びベース部材20の双方に対して高い接着力を備えつつ、高い耐圧性及び熱伝導性を備えるものが好ましい。
【0031】
接合材30にも、流路60の一部を構成する接合側ガス流路31が形成されている。接合側ガス流路31は、層状の接合材30を厚み方向に貫通する孔からなる。
【0032】
流路60は、保持装置100の第1表面S1側に、不活性ガス(ヘリウムガス等)を供給するものである。第1表面S1には、上述したように、流路60の出口であるガス流出口12bが多数設けられており、各ガス流出口12bから不活性ガスが排出される形で、第1表面S1側に不活性ガスが供給される。このような流路60は、上述したように、ベース側ガス流路22と、接合側ガス流路31と、基板側ガス流路(ガス流路)12とを備える。
【0033】
流路60の入口22aは、ベース部材20の第4表面S4に複数設けられている。各入口22aから不活性ガス(図2中の矢印H)が供給されると、その不活性ガスは、各入口22aに接続したベース側ガス流路22、接合側ガス流路31及び基板側ガス流路(ガス流路)12を順次通過し、最終的に、第1表面S1に設けられた複数のガス流出口12bから排出される。
【0034】
ベース側ガス流路22の出口22bは、接合側ガス流路31の下側(ベース部材20側)の開口部と接続する。また、接合側ガス流路31の上側(保持基板10側)の開口部は、基板側ガス流路(ガス流路)12の入口12aと接続する。基板側ガス流路(ガス流路)12の入口12aは、保持基板10の第2表面S2に複数設けられている。
【0035】
このような基板側ガス流路(ガス流路)12の入口12aを含む第2縦流路部140は、その下流側で、複数の横流路部130と接続する。そして、各横流路部130には、それぞれ第1縦流路部120が接続されている。つまり、基板側ガス流路(ガス流路)12は、保持基板10(板状部材11)の内部において、上流側から下流側に向かって複数に分岐した形をなしている。
【0036】
次いで、基板側ガス流路12に充填される多孔質体70について、詳細に説明する。多孔質体70は、絶縁性のセラミックスを主成分とする、多数の気孔からなる連通孔を含むガス透過性の部材である。多孔質体70は、基板側ガス流路12における複数の第1縦流路部120に対して、それぞれ充填される。多孔質体70は、全体的には、上下方向(保持基板10の厚み方向)に延びた円柱状をなしており、このような多孔質体70は、絶縁性のセラミックスを主成分とする骨格基材を備えており、その骨格基材の内部に、複数の連通孔からなる連通孔群が形成されている。
【0037】
連通孔群は、複数の小径の連通孔と、複数の大径の連通孔とを備えている。連通孔群は、連通孔同士が互いに連なることで、全体的には、三次元網目状をなしている。連通孔群を構成する各連通孔は、例えば、多孔質体70の製造時に、造孔材として使用されるカーボン粉末等の焼失した痕や、後述する骨格基材を形成するための粉末状のセラミック材料(例えば、アルミナ粉末)が存在していない部分等からなる。
【0038】
多孔質体70を構成する骨格基材は、例えば、アルミナ粉末等の粉末状のセラミック材料の焼結体からなる。多孔質体70に使用する粉末状のセラミックス材料としては、互いに異なる中心粒径を有するものを使用することが好ましい。例えば、大径のセラミックス材料と、小径のセラミックス材料とを混ぜて併用する場合、大径のセラミックス材料の割合が小径のセラミックス材料よりも多くなるように調整することが好ましい。
【0039】
大径のセラミックス材料(例えば、大径のアルミナ粉末)としては、本発明の目的を損なわない限り、特に制限はないが、例えば、1.0μm以上5.0μm以下の範囲に、中心粒径を有するものが好ましい。
【0040】
小径のセラミックス材料(例えば、小径のアルミナ粉末)としては、本発明の目的を損なわない限り、特に制限はないが、例えば、0.1μm以上0.8μm以下の範囲に、中心粒径を有するものが好ましい。
【0041】
本実施形態の多孔質体70は、5μm未満の範囲と、5μm以上15μm以下の範囲(好ましくは、5μm以上10μm以下の範囲)とに、それぞれ1つずつHgポロシメーター(水銀圧入式ポロシメーター)で測定された気孔径分布のピーク(ピークトップ、極大値)を有する連通孔群を備える。Hgポロシメーターによる多孔質体70の気孔分布の測定方法は、後述する。
【0042】
なお、多孔質体70(骨格基材)に形成される小径の連通孔は、Hgポロシメーターで測定された気孔径分布において、5μm未満の範囲にピーク(ピークトップ、極大値)を有する連通孔として定義される。また、骨格基材に形成される大径の連通孔は、Hgポロシメーターで測定された気孔径分布において、5μm以上15μm以下の範囲(好ましくは、5μm以上10μm以下の範囲)にピーク(ピークトップ、極大値)を有する連通孔として定義される。
【0043】
多孔質体70の気孔率は、本発明の目的を損なわない限り特に制限はないが、例えば、70%以上90%以下であることが好ましい。また、保持装置100の第1表面S1に対して略直交する方向において前記気孔が120μm以上の長さで繋がってなる過大空間を含まないことが好ましい。
【0044】
多孔質体70は、その下側に空間Vが形成されるように、第1縦流路部120に充填される。多孔質体70は、円形状の上端面70aがガス流出口12bから露出し、かつ円形状の下端面70bが開口部12cから空間V側に露出する形で、円筒状の第1縦流路部120内に充填される。本実施形態の場合、第1表面S1及び上端面70aは、互いに同一平面をなすように配されている。
【0045】
多孔質体70の下端面70bは、横流路部130内の空間Vに面しており、基板側ガス流路(ガス流路)12の上流側から供給された不活性ガスが、この下端面70bから多孔質体70内に供給される。下端面70bは、多孔質状であり、その下端面70bが不活性ガスの入口となる。
【0046】
また、多孔質体70の周面70cは、上下方向に真っ直ぐに延びた円筒状をなしている。多孔質体70と、第1縦流路部120を構成する周壁部111とは、互いに焼結して接合されている。
【0047】
続いて、本実施形態の保持装置100の製造方法の一例を説明する。ここで、先ず図4及び図5を参照しつつ、保持装置100を構成する保持基板10の製造方法について説明する。図4及び図5は、保持基板10の製造方法を模式的に表した説明図である。この保持基板10の製造方法は、グリーンシート(セラミックグリーンシート)を利用するシート積層法を応用したものである。なお、図4及び図5において、保持基板10の下側(第2表面S2側)が各図の上側に対応し、かつ保持基板10の上側(第1表面S1側)が各図の下側に対応するように示される。
【0048】
先ず、図4(A)に示されるように、保持基板10の板状部材11を形成するためのグリーンシートを複数枚積層して、第1積層物80aが形成される。なお、第1積層物80aを構成する所定のグリーンシートには、導体層9が形成されており、そのようなグリーンシートが、他のグリーンシートに積層される。
【0049】
グリーンシート用のスラリーは、例えば、アルミナ粉末、アクリル系バインダ、分散剤、可塑剤等を含む混合物に、更に有機溶剤を加えたものを、ボールミルを用いて混合することで得られる。このスラリーを、キャスティング装置でシート状に成形し、その後、得られた成形物を乾燥させることで、複数枚のグリーンシートが得られる。
【0050】
また、導体層9を形成するためのメタライズペーストは、例えば、アルミナ粉末、アクリル系バインダ、有機溶剤の混合物に、タングステンやモリブデン等の導電性粉末を添加して混錬することで得られる。このメタライズペーストを、例えばスクリーン印刷装置を用いて印刷することにより、特定のグリーンシート上に、導体層9が形成される。
【0051】
次いで、図4(B)に示されるように、第1積層物80aの所定箇所に、第1縦流路部120を形成するための孔部81が形成される。孔部81は、第1積層物80aを厚み方向に貫通する形で円筒状に設けられる。孔部81は、公知の加工装置(ルーター等)を利用して、第1積層物80aの所定箇所に形成される。
【0052】
次いで、図4(C)に示されるように、第1積層物80aの孔部81に対して、多孔質体70を形成するための多孔質体用ペースト7が充填される。多孔質体用ペースト7は、例えば、アルミナ粉末、2種類の造孔材(カーボン粉末、樹脂ビーズ)、バインダ、有機溶剤等を含む混合物を混錬することで得られる。多孔質体用ペースト7の詳細は、後述する実施例において説明する。
【0053】
多孔質体用ペースト7を孔部81に充填する方法としては、例えば、射出成型装置を用いる方法、スクリーン印刷装置を用いる方法等が挙げられる。なお、孔部81に多孔質体用ペースト7が充填された第1積層物80aは、適宜、乾燥される。
【0054】
その後、図5(D)に示されるように、第1積層物80aと、第2積層物80bとが積層される。第2積層物80bは、複数枚のグリーンシートが積層されたものからなる。なお、第2積層物80bの所定箇所には、第2縦流路部140を形成するための孔部82や、横流路部130を形成するための溝部83が設けられている。第1積層物80a及び第2積層物80bからなる積層物は、例えば、20枚のグリーンシートの積層物からなり、それらは互いに熱圧着される。前記積層物の外周は、適宜、切断されてもよい。そして、前記積層物をマシニングによって切削加工して円板状の成形体を作製する。その後、得られた成形体を脱脂焼成し、更に、脱脂焼成後の成形体を焼成(本焼成)することで焼成体が得られる。
【0055】
その後、焼成体の表面に、凸状の外周縁部に対応する部分を遮蔽するマスクを配置し、例えばセラミックス等の粒体を投射するショットブラストを行うことにより、焼成体の表面に凸状の外周縁部を形成する。その後、この焼成体の表面を研磨加工等することにより、図5(E)に示されるような、板状部材11を有する保持基板10が得られる。
【0056】
なお、上述した脱脂焼成及び本焼成は、保持基板10の第1表面S1側が上側に、かつ第2表面S2側が下側となるように、第1積層物80a及び第2積層物80bの積層物を配置して行われる。このような脱脂焼成及び本焼成において、孔部81に充填された多孔質体用ペースト7(未焼成組成物)と、板状部材11等を形成するためのグリーンシートの積層物とが、同時に焼成される。
【0057】
ベース部材20の製造方法は、基本的に従来品の製造方法と同じである。そのため、その詳細説明は省略する。
【0058】
保持基板10及びベース部材20がそれぞれ作製された後、それらを、接合材30を利用して接合する。接合材30による保持基板10及びベース部材20の接合は、基本的には、従来品における接合と同じである。そのため、その詳細説明は省略する。このようにして、保持装置100が製造される。
【0059】
以上のような本実施形態の保持装置100に使用される多孔質体70は、強度を保持しつつ、ガス流量を向上させたものとなっている。
【0060】
<実施形態2>
次いで、実施形態2に係る保持装置が備える保持基板10Aを、図6を参照しつつ説明する。図6は、実施形態2に係る保持基板10Aの基板側ガス流路12Aの一部を拡大した断面図である。本実施形態の保持基板10Aの基本的な構成は、実施形態1と同じである。そのため、図6では、実施形態1と対応する部分について、実施形態1と同一の符号に更に符号「A」を追加した符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0061】
保持基板10Aは、円板状の板状部材11Aと、その内部に形成された基板側ガス流路12Aとを備える。基板側ガス流路12Aは、図6に示されるように、第1縦流路部120Aと、横流路部130Aと、第2縦流路部140Aとを備える。そして、第1縦流路部120Aに、セラミックスを主成分とするガス透過性の多孔質体70Aが充填される。多孔質体70Aの構成は、実施形態1の多孔質体70と同様である。多孔質体70Aは、5μm未満の範囲と、5μm以上15μm以下の範囲(好ましくは、5μm以上10μm以下の範囲)とに、それぞれ1つずつHgポロシメーターで測定された気孔径分布のピーク(ピークトップ、極大値)を有する連通孔群を含む柱状をなしている。
【0062】
板状部材11Aの上側の表面が、保持基板10Aの第1表面SA1となり、板状部材11Aの下側の表面が、保持基板10Aの第2表面SA2となる。保持基板10Aの内部には、チャック電極40Aが設けられている。
【0063】
本実施形態の板状部材11Aには、複数の取付孔部150Aが設けられており、各取付孔部150Aに、取付体(緻密層付き多孔質体)90Aが接着剤を利用して固定されている。図6には、説明の便宜上、1つの取付孔部150Aと、それに固定される1つの取付体(緻密層付き多孔質体)90Aとが示される。取付孔部150Aは、第1開口部(取付口)151A側から第2表面SA2側に真っ直ぐに延びた円筒状をなしている。
【0064】
取付体(緻密層付き多孔質体)90Aは、上下方向に延びた円柱状(柱状)の多孔質体70Aと、多孔質体70Aの周囲に配される上下方向に延びた円筒状(筒状)の取付枠部(緻密層)50Aとからなる。多孔質体70A及び取付枠部(緻密層)50Aは、同時焼成により、互いに固相接合されて一体化されている。多孔質体70Aの気孔率は、取付枠部(緻密層)50Aの気孔率よりも高くなっている。取付枠部(緻密層)50Aは、ガス不透過性で(例えば、気孔率5%以下、相対密度95%以上)ある。
【0065】
第1縦流路部120Aは、第1表面SA1側に開口したガス流出口12Abを含み、ガス流出口12Abから第2表面SA2側に、板状部材11Aの厚み方向に沿って延びている。第1縦流路部120Aは、上下方向に延びた略円筒状をなしており、ガス流出口12Abの反対側に、第1縦流路部120Aの入口であり、ガス流出口12Abと略同径の開口部12Acが設けられている。この開口部12Acから、多孔質体70Aの下端面70Abが空間VA側に露出している。
【0066】
多孔質体70Aは、その下側に空間VAが形成されるように、第1縦流路部120Aに充填される。多孔質体70Aの上端面70Aaは平坦であり、平面視で円形状をなしている。この上端面70Aaは、ガス流出口12Abから露出している。本実施形態の場合、第1表面SA1及び上端面70Aaは、互いに同一平面をなすように配されている。
【0067】
以上のように、本実施形態の保持装置では、取付孔部150Aに、取付体(緻密層付き多孔質体)90Aが、接着剤を使用して取り付けられる構成となっている。そのため、本実施形態の保持装置では、保持基板10Aにおける基板側ガス流路12A内の多孔質体70Aの修理が容易な構造となっている。
【0068】
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。なお、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0069】
〔実施例1〕
中心粒径が2.2μmのアルミナ粉末1と、中心粒径が0.4μmのアルミナ粉末2とを用意し、それらを75:25の割合(体積比)で混ぜ合わせることで、混合アルミナ粉末を得た。また、造孔材として、中心粒径が40μmの樹脂ビーズと、中心粒径が5μmのカーボン粉末とを用意し、それらを70:30の割合(体積比)で混ぜ合わせることで、混合造孔材を得た。そして、混合アルミナ粉末と混合造孔材とを、20:80の割合(体積比)で混ぜ合わせることで、混合粉末を得た。更に、得られた混合粉末と、射出成形用のバインダ(市販品)とを、78:22の割合(体積比)で混ぜ合わせることで、多孔質体用のペースト状の未焼成組成物(多孔質体用ペースト)を得た。
【0070】
得られた多孔質体用の未焼成組成物を、グリーンシート上に加工された直径約4mm、深さ約5mmの孔部に射出成形し、それを所定サイズに切り取った後、脱脂、焼成することで、実施例1の多孔質体を含むサンプルを得た。
【0071】
〔実施例2、実施例3及び比較例1〕
各材料の混合割合(体積比)を、表1に示される値に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2、実施例3及び比較例1の各サンプルを作製した。
【0072】
【表1】
【0073】
〔気孔分布〕
JIS R1655-2003に準拠して、Hgポロシメーター(水銀圧入式ポロシメーター)を用いて、実施例1等の各サンプルにおける多孔質体の気孔径分布を測定した。結果は、図7に示した。図7は、実施例1等の各サンプルにおける多孔質体の気孔径分布を示すグラフである。図7に示されるグラフの縦軸は、Log微分細孔容積(Log Differential Intrusion)(mL/g)を表し、横軸は、気孔径(nm)を表す。
【0074】
図7に示されるように、実施例1~3の気孔径分布のグラフには、5μm未満の範囲と、5μm以上15μm以下の範囲とに、それぞれ1つずつピーク(ピークトップ、極大値)を有していた。これにより、実施例1~3の多孔質体は、5μm未満の範囲と、5μm以上15μm以下の範囲とに、それぞれ1つずつHgポロシメーターで測定された気孔径分布のピーク(ピークトップ、極大値)を有する連通孔群を備えることが確かめられた。
【0075】
これに対して、比較例1の気孔径分布のグラフには、5μm以上15μm以下の範囲に、1つだけピークを有していた。比較例1の場合、多孔質体の製造時に、造孔材として樹脂ビーズのみを使用し、カーボン粉末を使用しなかったため、このような結果になったと推測される。
【0076】
〔SEM画像〕
実施例1のサンプルに含まれる多孔質体を切断し、その切断面を、走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)で撮影した(倍率:1000倍)。得られたSEM画像は、図8に示した。図8は、実施例1の多孔質体の切断面のSEM画像である。図8に示されるように多孔質体70の骨格基材71の内部に、多数の連通孔72からなる連通孔群720が形成されている。図8には、気孔径の小さい小径の連通孔72aと、気孔径の大きい大径の連通孔72bとが示されている。また、多孔質体70の骨格基材71には、球状の樹脂ビーズが焼失(消失)した痕73も形成されている。図8に示されるように、各連通孔72は、樹脂ビーズの痕73と比べて小さい。
【0077】
〔透過量〕
実施例1等の各サンプルが備える多孔質体について、以下に示される方法で、ガス透過量を測定した。サンプルを、Heガス導入ユニットにセットし、50Torrの圧力下におけるHeガスの透過量を測定した。結果は、表1に示した。なお、表1の実施例1~3の透過量の結果は、比較例1の結果に対する倍率で示した。
【0078】
〔強度〕
実施例1等の各サンプルが備える多孔質体について、ISO14577に準拠してマルテンス硬さを測定した。結果は、表1に示した。なお、表1の実施理1~3の強度の結果は、比較例1の結果に対する倍率で示した。
【0079】
表1に示されるように、実施例1は、比較例1に対して透過量を犠牲にするものの、強度を3.72倍向上させることができた。なお、実施例1の透過量は、実施品において、必要な流量を十分確保できるものであった。
【0080】
また、実施例2は、造孔材として樹脂ビーズとカーボン粉末とを、7:3の割合で配合した場合である。このような実施例2は、造孔材として樹脂ビーズのみを使用した比較例1と比べて、透過量は1割下がるものの、強度が1.71倍向上する結果となった。
【0081】
なお、実施例1は、実施例2に対して造孔材の比率が少ないため透過量が下がるものの、強度は向上した。
【0082】
また、実施例3の場合、比較例1に対して、アルミナ粉末のうち、小径のアルミナ粉末1の比率を少なくすることで、強度は下がるものの、透過量は向上する結果となった。
【符号の説明】
【0083】
100…保持装置、10…保持基板、11…板状部材、12…基板側ガス流路(ガス流路)、12b…ガス流出口、120…第1縦流路部、130…横流路部、140…第2縦流路部、70…多孔質体、71…骨格基材、72…連通孔、72a…小径の連通孔、72b…大径の連通孔、720…連通孔群、V…空間、S1…第1表面、S2…第2表面、W…ウェハ(対象物)
【要約】
【課題】強度を保持しつつ、ガス流量を向上させた多孔質体を備える保持装置等の提供。
【解決手段】本発明の保持装置100は、第1表面S1、第1表面S1の反対側に配される第2表面S2を含む板状部材11と、第1表面S1側に開口したガス流出口12b、及び第2表面S2側に開口したガス流入口12aを含み、板状部材11の内部に形成されるガス流路120と、ガス流路120内に配される多孔質体70とを有する保持基板10を備える保持装置100であって、多孔質体70は、絶縁性の材料を主成分とする骨格基材71を備えており、骨格基材71は、複数の連通孔72からなる連通孔群720が形成されており、連通孔群720は、5μm未満の範囲と、5μm以上15μm以下の範囲とに、それぞれ1つずつHgポロシメーターで測定された気孔径分布のピークを有する。
【選択図】図7
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8