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特許7559217月面の土壌から資源を生成するプラント及びその運転方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-20
(45)【発行日】2024-10-01
(54)【発明の名称】月面の土壌から資源を生成するプラント及びその運転方法
(51)【国際特許分類】
   C25B 1/04 20210101AFI20240924BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20240924BHJP
   C22B 5/12 20060101ALI20240924BHJP
   H01M 8/00 20160101ALI20240924BHJP
   H01M 8/0606 20160101ALI20240924BHJP
   C25B 15/023 20210101ALI20240924BHJP
【FI】
C25B1/04
C25B9/00 A
C22B5/12
H01M8/00 Z
H01M8/0606
C25B15/023
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023508299
(86)(22)【出願日】2021-03-25
(86)【国際出願番号】 JP2021012458
(87)【国際公開番号】W WO2022201408
(87)【国際公開日】2022-09-29
【審査請求日】2023-06-30
(73)【特許権者】
【識別番号】519355493
【氏名又は名称】日揮グローバル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100179833
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 将尚
(72)【発明者】
【氏名】田中 秀林
(72)【発明者】
【氏名】深浦 希峰
(72)【発明者】
【氏名】森 創一
【審査官】萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-148155(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0271228(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0178292(US,A1)
【文献】特開平05-262300(JP,A)
【文献】特開2014-122399(JP,A)
【文献】特表2013-542345(JP,A)
【文献】特開平03-271102(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/00-15/08
C22B 5/00-5/20
H01M 8/00-8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
月面の土壌から資源を生成する月面上のプラントであって、
前記土壌から採取した含水レゴリスから水を抽出する水抽出部と、
水の電気分解により水素と酸素とを生成する電気分解部と、
前記土壌から採取した乾燥レゴリス及び前記含水レゴリスから水を抽出した残りの成分に含まれる酸化金属を水素により還元して還元金属を得る還元部と、
前記電気分解により生成した水素を貯蔵する水素貯蔵部と、
前記電気分解により生成した酸素を貯蔵する酸素貯蔵部と、
前記含水レゴリスから抽出された水及び前記還元部で得られた水を貯蔵する水貯蔵部と、
を備え、前記還元部に用いられる還元装置と、前記水抽出部に用いられる抽出装置を、太陽光の集光照射又は電熱により加熱する装置として共通化したことを特徴とするプラント。
【請求項2】
水素と酸素とから電力を生成する燃料電池をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載のプラント。
【請求項3】
発電設備をさらに備えることを特徴とする請求項1又は2に記載のプラント。
【請求項4】
水、酸素、水素、電力から選択される少なくとも1種についての需要量又は供給量の少なくとも一方に基づいて、前記プラントを制御する制御部を有することを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のプラント。
【請求項5】
前記制御部が、酸素の需要量又は供給量の少なくとも一方について、水素と酸素との化学反応に要する酸素の量と、月面における生命維持に要する酸素の量とを考慮して、前記プラントを制御することを特徴とする請求項4に記載のプラント。
【請求項6】
前記制御部が、水素の需要量又は供給量の少なくとも一方について、水素と酸素との化学反応に要する水素の量と、前記酸化金属の還元に要する水素の量とを考慮して、前記プラントを制御することを特徴とする請求項4又は5に記載のプラント。
【請求項7】
前記制御部が、貯蔵されている水の残量が十分である場合に、前記還元部から供給される水の全量を前記電気分解に使用することを判断し、貯蔵されている水の残量が十分でない場合に、前記含水レゴリスから水を抽出することを判断することを特徴とする請求項4に記載のプラント。
【請求項8】
月面の土壌から資源を生成する月面上のプラントの運転方法であって、
前記土壌から採取した含水レゴリスから水を抽出し、
少なくとも前記含水レゴリスから抽出された水を含む水の電気分解により水素と酸素とを生成し、
前記土壌から採取した乾燥レゴリス及び前記含水レゴリスから水を抽出した残りの成分に含まれる酸化金属を、前記電気分解により生成された水素により還元して還元金属を得とともに、
前記電気分解により生成した水素を水素貯蔵部に貯蔵し、
前記電気分解により生成した酸素を酸素貯蔵部に貯蔵し、
前記含水レゴリスから抽出された水及び前記酸化金属の還元で得られた水を水貯蔵部に貯蔵し、
前記酸化金属の還元に用いられる還元装置と、前記含水レゴリスからの水抽出に用いられる抽出装置を、太陽光の集光照射又は電熱により加熱する装置として共通化することを特徴とするプラントの運転方法。
【請求項9】
水、酸素、水素、電力から選択される少なくとも1種についての需要量又は供給量の少なくとも一方に基づいて、前記プラントを制御することを特徴とする請求項8に記載のプラントの運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、月面の土壌から資源を生成するプラント及びその運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、月面フィード物質の選鉱によりチタン鉄鉱を豊富に含む富有フィードを分離する工程、富有フィードを水素含有ガスで還元して水と鉄又はチタンの金属を生成する工程、生成水を電気分解して水素と酸素とを発生させる工程などを含む合成月面物質製造方法が記載されている。
【0003】
月は地球に比べて重力が小さいため、月面上の大気は極めて希薄である。このため、人類が月面で活動するためには、水素、酸素、水等の軽元素からなる物質を安定的に利用可能にすることが望まれる。
【0004】
特許文献1の従来技術及び課題に関する欄には、生命維持に必要な酸素を得るため、地球から輸送する最小限の材料を使用して、月面で酸素及び副産物の製造装置を提供すること等の課題が掲げられている。また、特許文献1の作用の欄には、他の地球派生試薬と同様に、正味の水素の消費は、漏洩以外では起こらないことが表明されている。
【0005】
しかし、特許文献1に記載の製造方法の実施に不可欠な水素は、地球から輸送される材料と位置付けられている。特許文献1に記載の製造方法は、水素に関しては、月面で採取可能なチタン鉄鉱等の金属酸化物を水素で還元する工程と、これにより生成した水を電気分解して水素と酸素とを発生させる工程との間で、繰り返し循環されることが想定されている。この循環系に水素を供給する手段としては、地球から輸送すること以外の手法が、何ら示唆されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平3-271102号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、月面の土壌から資源を生成するプラント及びその運転方法において、月面で水素を供給し、資源として循環することが可能なプラント及びその運転方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様は、月面の土壌から資源を生成するプラントであって、前記土壌のうち含水レゴリスから水を抽出する水抽出部と、水の電気分解により水素と酸素とを生成する電気分解部と、前記土壌に含まれる酸化金属を水素により還元する還元部と、を備えることを特徴とするプラントである。
【0009】
本発明の第2の態様は、水素と酸素とから電力を生成する燃料電池をさらに備えることを特徴とする第1の態様のプラントである。
【0010】
本発明の第3の態様は、発電設備をさらに備えることを特徴とする第1又は第2の態様のプラントである。
【0011】
本発明の第4の態様は、水、酸素、水素、電力から選択される少なくとも1種についての需要量又は供給量の少なくとも一方に基づいて、前記プラントを制御する制御部を有することを特徴とする第1~第3のいずれか1の態様のプラントである。
【0012】
本発明の第5の態様は、前記制御部が、酸素の需要量又は供給量の少なくとも一方について、水素と酸素との化学反応に要する酸素の量と、月面における生命維持に要する酸素の量とを考慮して、前記プラントを制御することを特徴とする第4の態様のプラントである。
【0013】
本発明の第6の態様は、前記制御部が、水素の需要量又は供給量の少なくとも一方について、水素と酸素との化学反応に要する水素の量と、前記酸化金属の還元に要する水素の量とを考慮して、前記プラントを制御することを特徴とする第4又は第5の態様のプラントである。
【0014】
本発明の第7の態様は、前記制御部が、貯蔵されている水の残量が十分である場合に、前記還元部から供給される水の全量を前記電気分解に使用することを判断し、貯蔵されている水の残量が十分でない場合に、前記含水レゴリスから水を抽出することを判断することを特徴とする第4の態様のプラントである。
【0015】
本発明の第8の態様は、月面の土壌から資源を生成するプラントの運転方法であって、前記土壌のうち含水レゴリスから水を抽出し、少なくとも前記含水レゴリスから抽出された水を含む水の電気分解により水素と酸素とを生成し、前記土壌に含まれる酸化金属を、前記電気分解により生成された水素により還元することを特徴とするプラントの運転方法である。
【0016】
本発明の第9の態様は、水、酸素、水素、電力から選択される少なくとも1種についての需要量又は供給量の少なくとも一方に基づいて、前記プラントを制御することを特徴とする第8の態様のプラントの運転方法である。
【発明の効果】
【0017】
第1の態様によれば、月面の土壌から採取可能な含水レゴリスから水を抽出し、水の電気分解により月面で水素を生成することができるので、月面で水素を供給し、資源として循環させることが可能になる。
【0018】
第2の態様によれば、水の電気分解で得られた水素と酸素を電力に変換してエネルギーを得ることができる。
【0019】
第3の態様によれば、プラントで利用しやすい形態のエネルギーである電力を効率的に得ることができる。第3の態様を第2の態様と組み合わせることにより、電力を水素及び酸素の形態で物質的に貯蔵することができる。
【0020】
第4の態様によれば、月面で入手しにくい軽元素からなる物質である水素、酸素、水、又は汎用的なエネルギーである電力の管理を容易にすることができる。
【0021】
第5の態様によれば、エネルギーの貯蔵形態として利用可能な水素及び酸素と、月面活動に必要となる生命維持用の酸素とのバランスを考慮して、プラントを効果的に運転することができる。
【0022】
第6の態様によれば、エネルギーの貯蔵形態として利用可能な水素及び酸素と、水を得るための原料として利用可能な水素とのバランスを考慮して、プラントを効果的に運転することができる。
【0023】
第7の態様によれば、含水レゴリスから水を抽出する量を低減して、含水レゴリスの資源をより長期間にわたって保全することができる。
【0024】
第8の態様によれば、月面の土壌から採取可能な含水レゴリスから水を抽出し、水の電気分解により月面で水素を生成することができるので、月面で水素を供給し、資源として循環させることが可能になる。
【0025】
第9の態様によれば、月面で入手しにくい軽元素からなる物質である水素、酸素、水、又は汎用的なエネルギーである電力の管理を容易にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】月面の土壌から資源を生成するプラントの一例を示す概念図である。
図2】制御部の一例を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1は、月面の土壌から資源を生成するプラントの一例を示す概念図である。実施形態のプラント100は、月面の土壌のうち含水レゴリス21から水を抽出する水抽出部11と、水の電気分解により水素と酸素とを生成する電気分解部12と、月面の土壌に含まれる酸化金属等23を水素により還元する還元部13と、を備えている。
【0028】
月面の土壌からは、水を含まない乾燥レゴリス22だけでなく、含水レゴリス21を採取することができる。水抽出部11を用いて、含水レゴリス21から水を抽出することにより、月面で水素の原料となる水を得ることができる。水抽出部11における水の抽出方法は特に限定されないが、太陽光の集光照射、電熱等により含水レゴリス21から水を揮発させる方法が挙げられる。揮発した水は、冷却により液体に凝結又は固体に凝固させることができる。なお、水抽出部11は、前述の方法による含水レゴリス21からの水抽出に加え、月面の永久影に存在する氷を融解することによって水を得てもよい。
【0029】
含水レゴリス21から抽出された水は、水貯蔵部14に貯蔵することができる。水貯蔵部14は水を貯蔵することができるタンク等の容器であってもよい。水貯蔵部14で水が貯蔵される状態は特に限定されず、液相、気相、固相等の水の純物質であってもよく、水が他の材料に混合、吸着、吸収等された状態でもよい。水貯蔵部14には、含水レゴリス21から抽出された水以外の水を合わせて貯蔵してもよい。
【0030】
電気分解部12を用いて水を電気分解することにより、水素と酸素とを生成することができる。電気分解部12で処理される水は、含水レゴリス21から抽出された水に限らず、他の工程から得られる水であってもよい。電気分解部12に用いられる電気分解装置は、特に限定されないが、例えば固体電解質を含む電気分解装置を用いてもよい。電気分解に使用される水は、液相でも気相でもよい。
【0031】
水の電気分解により生成した水素及び酸素は、それぞれ水素貯蔵部15及び酸素貯蔵部16に貯蔵することができる。水素貯蔵部15で水素が貯蔵される状態は特に限定されず、気相、液相、固相等の純物質であってもよく、水素が他の材料に混合、吸着、吸収等された状態でもよい。酸素貯蔵部16で酸素が貯蔵される状態は特に限定されず、気相、液相、固相等の純物質であってもよく、酸素が他の材料に混合、吸着、吸収等された状態でもよい。
【0032】
水の電気分解により得られた酸素の少なくとも一部は、生命維持33に用いることができる。生命維持33に関する設備としては、月面に居住する人又は動物の活動に関する施設が挙げられる。人又は動物の呼吸により排出される二酸化炭素は、藻類等の植物による光合成に利用してもよい。これにより、呼吸により消費される酸素を、光合成により再生することができる。
【0033】
水の電気分解により得られた水素の少なくとも一部は、酸化金属等23の還元に用いることができる。酸化金属等23は、含水レゴリス21から水を抽出した残りの成分でもよく、乾燥レゴリス22でもよい。酸化金属等23に含まれる酸化金属の割合が増加するように、酸化金属等23の選別、熱処理等を行ってもよい。
【0034】
少なくとも水抽出部11及び電気分解部12を備えるプラント100は、月面の土壌から採取可能な含水レゴリス21から水を抽出し、電気分解により月面で水素を生成することができる。これにより、月面で得られた物質から水素を供給し、資源として循環させることが可能になる。実施形態のプラント100は、月面で入手可能な物質だけを用いて運転することが可能である。プラント100の運転開始時あるいは所望の時期において、地球から輸送される水素、酸素又は水を用いてプラント100の運転に必要な物質を補充してもよい。
【0035】
還元部13は、水素を用いて酸化金属等23を還元することにより、還元金属等17を得ることができる。還元部13に使用される水素は、水の電気分解により生成された水素に限らず、他の工程から得られる水素であってもよい。還元部13における酸化金属の還元方法は特に限定されないが、太陽光の集光照射、電熱等により、水素を含む条件で、酸化金属を加熱する方法が挙げられる。
【0036】
還元部13において酸化金属等23を加熱する装置と、水抽出部11において含水レゴリス21を加熱する装置は、異なる装置でもよく、同一の装置であってもよい。還元部13に用いられる酸化金属等23の還元装置と、水抽出部11に用いられる抽出装置を共通化した場合は、プラント100の構成を簡略化することができる。
【0037】
土壌に含まれる酸化金属としては、金属酸化物、複酸化物、金属ケイ酸塩等が挙げられる。酸化金属等23は、酸化金属以外の成分を含んでもよい。酸化金属が還元されて得られる還元金属としては、鉄(Fe)、チタン(Ti)、シリコン(Si)等が挙げられる。酸化金属等23から酸化金属を還元して得られる還元金属等17は、還元金属以外の成分を含んでもよい。還元金属等17は、建築資材34等として用いることができる。
【0038】
還元部13に供給された水素は、酸化金属等23を還元した結果、水を生成する。還元部13で得られた水は、水貯蔵部14を通じて電気分解部12に供給することができる。プラント100が電気分解部12及び還元部13を備えることにより、水素を電気分解部12と還元部13との間で循環させることができる。
【0039】
還元部13で得られる水の量を2αモルとし、水抽出部11で得られる水の量を2βモルとするとき、水貯蔵部14には(2α+2β)モルの水が供給される。(2α+2β)モルの水を電気分解することにより、(2α+2β)モルの水素と、(α+β)モルの酸素とが得られる。還元部13で2αモルの水を得るには、2αモルの水素が必要である。このため、電気分解で得られた(2α+2β)モルの水素のうち、少なくとも2αモルを還元部13に供給することが好ましい。その結果として残る2βモルの水素と、(α+β)モルの酸素との比率2β:α+βは、α:βの比率に応じて、2:1から0:1の間で任意に調整することが可能である。
【0040】
水の電気分解により得られた水素及び酸素を使用する比率は特に限定されないが、水素及び酸素を2:1のモル比で利用することも可能である。例えば、プラント100に燃料電池31を設置することにより、水素と酸素とから電力32を生成することができる。電力32は、エネルギーとして、プラント100内又は外の所望の設備に供給することができる。例えば電力32を生命維持33の目的で供給することができる。
【0041】
電気分解部12に供給された水は、水素と酸素とに電気分解される。燃料電池31は、水素と酸素とから電力32を得ると同時に水を生成する。プラント100が電気分解部12及び燃料電池31を備えることにより、電気分解部12と燃料電池31との間で、水素及び酸素を循環させることができる。
【0042】
プラント100は、発電設備20をさらに備えてもよい。発電設備20のエネルギー源としては、特に限定されないが、例えば、太陽光、太陽熱、太陽風等の自然エネルギーでもよく、ヘリウム-3(He)等の原子力でもよい。原子力は核融合、核分裂等を利用してよく、燃料は月面で得られる物質でも、地球から輸送された物質でもよい。
【0043】
例えば、電気分解部12のエネルギー源として、発電設備20から供給される電力を用いてもよい。これにより、発電設備20の電力を、水の電気分解により得られる水素及び酸素の形態で物質的に貯蔵することができる。
【0044】
発電設備20で得られた電力は、プラント100の各所に用いることができる。例えば、水抽出部11、電気分解部12、還元部13等の物質変換部10の動作に必要なエネルギーを発電設備20から供給してもよい。発電設備20で得られた電力が、プラント100以外の施設等に供給されてもよい。プラント100が、プラント100に属さない発電設備20から電力の供給を受けてもよい。
【0045】
発電設備20を運転する事業主体が、プラント100を運転する事業主体と同一でもよく、異なってもよい。発電設備20の設置場所が、プラント100の設置範囲に含まれてもよく、プラント100の設置範囲外であってもよい。
【0046】
物質変換部10から得られる水素及び酸素は、月面上で資源を循環して使用される用途に限らず、系外で消費される用途に使用してもよい。例えば、ロケット等の物体の推進薬として水素及び酸素を使用する場合、水素及び酸素の燃焼に由来する物質は、物体を推進するために宇宙空間に放出される。推進用の水素及び酸素の比率は特に限定されないが、例えば、2:0.75のモル比であってもよい。
【0047】
プラント100の制御方法は、特に限定されず、完全自動制御でもよいし、少なくとも一部の項目について、人間による指示又は操作を受けてもよい。人間がプラント100に指示又は操作を与える場合は、月面の現地からの操作でもよく、プラント100から離れた月面上、地球上又は宇宙空間からの遠隔操作であってもよい。
【0048】
月面の現地でプラント100を操作する場合は、プラント100又は水抽出部11、電気分解部12、還元部13等の各部の少なくともいずれかが操作部を有してもよい。必要に応じて、プラント100又はその各部が、自動制御と手動操作とを切り替え可能であってもよい。人間による指示又は操作は、後述する制御部に対する指示又は操作であってもよく、後述する制御部の機能について、少なくとも一部を人間が判断してもよい。
【0049】
プラント100は、水、酸素、水素、電力から選択される少なくとも1種についての需要量又は供給量の少なくとも一方に基づいて、プラント100を制御する制御部を有することが好ましい。これにより、月面で入手しにくい軽元素からなる物質である水素、酸素、水、又は汎用的なエネルギーである電力の管理を容易にすることができる。
【0050】
制御部の入力は、水の需要量、水の供給量、酸素の需要量、酸素の供給量、水素の需要量、水素の供給量、電力の需要量、電力供給量から選択される少なくとも1種を含むことが好ましいが、その他のパラメータを入力に含んでもよい。制御部は、例えばプログラムを有する電子回路を含んでもよい。制御部は、必要に応じて、記憶装置を持ってよい。記憶装置は、例えば、半導体メモリー、磁気ハードディスク等を用いて実現することができる。
【0051】
制御部は、前述の入力パラメータを自動的に取得して自律的に制御を行ってもよく、外部から人の指示又は操作を受け付けて制御を行ってもよい。制御部が人の指示又は操作を受け付けて制御を行う場合、プラント100は、プラント100から離れた月面上、地球上又は宇宙空間からの遠隔操作を可能とする通信手段を有することが好ましい。通信手段は、無線でもよく、少なくとも一部が有線であってもよい。通信手段としては、送信装置及び受信装置、又はその一方が挙げられる。
【0052】
制御部が酸素の需要量又は供給量の少なくとも一方を考慮する場合、水素と酸素との化学反応に要する酸素の量と、月面における生命維持に要する酸素の量とを考慮してもよい。また、制御部が、水素の需要量又は供給量の少なくとも一方を考慮する場合、水素と酸素との化学反応に要する水素の量と、酸化金属の還元に要する水素の量とを考慮してもよい。水素と酸素との化学反応を実施するための設備としては、上述した燃料電池31が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0053】
大気のない月面では、酸素の供給が制限されている。しかも酸素呼吸を行う生命の維持には酸素を欠かすことができない。このため、制御部において、水素と酸素との化学反応に関する水素又は酸素の需要量又は供給量と、それ以外の用途に関する水素又は酸素の需要量又は供給量とを分けて考慮することにより、エネルギーの貯蔵形態として利用可能な水素及び酸素と、他の用途とのバランスを考慮して、プラントを効果的に運転することができる。酸化金属の還元に要する水素の量は、水を得るための原料として利用可能な水素の量と理解することができる。
【0054】
図2に、制御部の一例を示す。この制御部40では、入力(INPUT)パラメータとして、電力の供給量の一例である発電量41と、酸素需要量42と、水の供給量の一例である貯蔵水残量43等が設定されている。入力パラメータは、計算ブロック44に入力される。計算ブロック44の出力(OUTPUT)に基づいて、配電装置45が発電設備20等の電力を水抽出部11、電気分解部12、還元部13等に振り分けることができる。
【0055】
酸素需要量42は、生命維持33等の目的で、単独で消費される酸素の需要量でもよい。酸素需要量42が、燃料電池31等の目的で水素との化学反応に使用される酸素の需要量を含んでもよい。酸素需要量42は、酸素貯蔵部16の残量と酸素の使用予測に基づいて、算定することが可能である。
【0056】
以下の計算例の説明では、酸素需要量42の一例として、「酸素需要の過剰量」を示す。酸素需要の過剰量XO2は、酸素需要量をQO2、水素需要量をQH2、所定量の水素を酸化するのに必要な酸素量の比をkとするとき、XO2=QO2-k×QH2で定義される。QO2とQH2との比がモル比で表わされる場合、係数kは1/2に等しい。QO2とQH2との比が質量比で表わされる場合、係数kは、酸素の原子量A(O)≒16及び水素の原子量A(H)≒1を用いて、k=(1/2)×[A(O)/A(H)]≒8で表される。
【0057】
計算例の前提として、発電設備20等から供給される電力は潤沢にあるものと仮定する。さらに含水レゴリス21は、月面では貴重な資源と考えられることから、含水レゴリス21の消費量、すなわち、含水レゴリス21から水を抽出する量を抑制することを設定する。この場合、所望の「酸素需要の過剰量」に対して、還元部13から供給される水の電気分解により、可能な限り多くの酸素を生成する必要がある。
【0058】
そこで、計算ブロック44は、第1ステップS1として、酸素需要の過剰量に応じて、還元部13の必要稼働率と必要電力を算定する。その結果、計算ブロック44は還元部13の電力量E13を決定することができる。
【0059】
次に、計算ブロック44は、第2ステップS2として、還元部13の稼働率に応じて、還元部13から供給される水の電気分解に必要な電力を算出する。ただし、生命維持に必要な酸素量について、水の供給量が重要な指標となることから、還元部13から供給される水の全量を電気分解に使用するかどうかを検討する必要がある。
【0060】
そこで、計算ブロック44は、第3ステップS3として、水貯蔵部14における貯蔵水残量43に基づいて、還元部13から供給される水の全量を電気分解に使用するかどうかを判断し、電気分解に使用する水の割合として、「電気分解比率」を算出する。貯蔵水残量43が十分である場合、計算ブロック44は、還元部13から供給される水の全量を電気分解に使用することを判断し、「電気分解比率」を100%に設定し、上述の第2ステップS2で算出された値をそのまま電気分解部12の電力量E12と決定する。
【0061】
貯蔵水残量43が十分でない場合、計算ブロック44は、第4ステップS4として、還元部13から供給される水の一部を電気分解に使用することを判断し、「電気分解比率」として100%未満の値を算出する。計算ブロック44は、「電気分解比率」に応じて、上述の第2ステップS2で算出された値から減少させた量を、電気分解部12の電力量E12として出力する。また、計算ブロック44は、100%から「電気分解比率」を差し引いた割合に応じて、含水レゴリス21から水を抽出する量を算出し、水抽出部11の電力量E11を決定する。
【0062】
さらに計算ブロック44は、上述のように決定された物質変換部10の各部の電力量E11,E12,E13の合計が、全体の発電量Tを超えないかどうかを検査するステップを有してもよい。配電装置45は、全体の発電量Tの中から、計算ブロック44により決定された電力量E11,E12,E13に応じて、それぞれ水抽出部11、電気分解部12及び還元部13に電力を供給する。
【0063】
発電量Tが潤沢にない場合は、還元部13の動作を停止して、電気分解部12及び水抽出部11を優先的に動作させてもよい。この場合は、上述した第1ステップS1において、計算ブロック44は、還元部13の電力量E11が0となるように決定することができる。この場合、第2ステップS2において、計算ブロック44は、還元部13から供給される水の代わりに、水貯蔵部14から供給可能な水の電気分解に必要な電力を算出してもよい。さらに第3ステップS3において、計算ブロック44は、貯蔵水残量43に基づいて、水貯蔵部14から供給される水の全量を電気分解に使用するかどうかを判断する。貯蔵水残量43が十分でない場合、計算ブロック44は、第4ステップS4において、水貯蔵部14から供給される水の一部を電気分解に使用することを判断し、「電気分解比率」として100%未満の値を算出する。これにより、計算ブロック44は、電気分解部12の電力量E12及び水抽出部11の電力量E11を決定することができる。
【0064】
発電量Tが潤沢にある場合と潤沢にない場合のいずれにおいても、制御部40が、貯蔵水残量43が十分である場合に、物質変換部10に供給可能な水の全量を電気分解に使用することを判断し、貯蔵水残量43が十分でない場合に、含水レゴリス21から水を抽出することを判断してもよい。これにより、含水レゴリス21から水を抽出する量を低減して、含水レゴリス21の資源をより長期間にわたって保全することができる。
【0065】
生命維持33に関する設備等から生活排水やその処理水等の水源が存在する場合は、水源に基づく水の量を水貯蔵部14における貯蔵水残量43に参入してもよい。計算ブロック44は、生活排水を処理する設備から電気分解に適した脱イオン水を得る設備の電力量を算出してもよい。他の水源から電気分解用の水を得る工程を、含水レゴリス21から水を抽出する工程と同様に取り扱ってもよい。
【0066】
水抽出部11が太陽熱等を利用して、電力を消費しない設備である場合、上述の第4ステップS4において、計算ブロック44は、水抽出部11の電力量E11が0となるように決定することができる。計算ブロック44は、上述した第1ステップS1、第2ステップS2及び第3ステップS3と同様にして、還元部13の電力量E13及び電気分解部12の電力量E12を決定することができる。
【0067】
物質変換部10から得られる水素及び酸素を、ロケット等の物体の推進薬として水素及び酸素を使用することを考慮する場合、制御部40は、液化燃料として用いられる水素の需要量を入力パラメータに含めてもよい。また、制御部40は、液化設備の稼働に必要な電力量を出力パラメータに含めてもよい。
【0068】
以上、本発明を好適な実施形態に基づいて説明してきたが、本発明は上述の実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。改変としては、構成要素の追加、置換、省略、その他の変更が挙げられる。
【0069】
生命維持33の需要が少ない場合等、酸素の需要が少ない期間は、水抽出部11及び電気分解部12を主に稼働させ、還元部13の稼働を停止して、酸化金属等23の貯蓄を進めてもよい。この場合、電気分解部12で生成される水素及び酸素を燃料電池31で水に戻してもよい。
【0070】
生命維持33の需要が多い場合等、酸素の需要が多い期間は、電気分解部12及び還元部13を主に稼働させ、水抽出部11の稼働を停止してもよい。これにより、水素を酸化金属等23の還元に消費し、より多くの酸素を生命維持33に供給してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は、月面開発に関する各種の産業に利用することができる。また、本発明は、月以外の天体における宇宙開発に応用することができる。
【符号の説明】
【0072】
10…物質変換部、11…水抽出部、12…電気分解部、13…還元部、14…水貯蔵部、15…水素貯蔵部、16…酸素貯蔵部、17…還元金属等、20…発電設備、21…含水レゴリス、22…乾燥レゴリス、23…酸化金属等、31…燃料電池、32…電力、33…生命維持、34…建築資材、40…制御部、41…発電量、42…酸素需要量、43…貯蔵水残量、44…計算ブロック、45…配電装置、100…プラント。
図1
図2