(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-20
(45)【発行日】2024-10-01
(54)【発明の名称】無方向性金属平板状製品、無方向性金属平板状製品の製造方法、および無方向性金属平板状製品の使用
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20240924BHJP
C22C 38/34 20060101ALI20240924BHJP
C21D 8/12 20060101ALI20240924BHJP
H01F 1/147 20060101ALI20240924BHJP
【FI】
C22C38/00 303U
C22C38/34
C21D8/12 A
H01F1/147 175
(21)【出願番号】P 2023509808
(86)(22)【出願日】2021-06-04
(86)【国際出願番号】 EP2021064998
(87)【国際公開番号】W WO2022048803
(87)【国際公開日】2022-03-10
【審査請求日】2023-02-10
(32)【優先日】2020-09-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】510041496
【氏名又は名称】ティッセンクルップ スチール ヨーロッパ アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】ThyssenKrupp Steel Europe AG
【住所又は居所原語表記】Kaiser-Wilhelm-Strasse 100,47166 Duisburg Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110001771
【氏名又は名称】弁理士法人虎ノ門知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】オラフ フィッシャー
(72)【発明者】
【氏名】カール テルゲル
(72)【発明者】
【氏名】アントン ヴィドヴィチ
(72)【発明者】
【氏名】ニナ マーリア ヴィンクラー
(72)【発明者】
【氏名】ユリア ダーメン
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンダー マトス コスタ
【審査官】鈴木 毅
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-080948(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0073800(KR,A)
【文献】特開2011-219795(JP,A)
【文献】特表2006-501361(JP,A)
【文献】特開2011-094233(JP,A)
【文献】特開2011-246810(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104726794(CN,A)
【文献】特開2013-010982(JP,A)
【文献】特開2017-066469(JP,A)
【文献】特開2018-111865(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0271053(US,A1)
【文献】特開2015-224349(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00 - 38/60
C21D 8/12
H01F 1/147
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量パーセント、略してwt%で表される以下に示す各成分、
C:0.0020~0.005、
Si:2.6~2.9、
Al:0.5~0.8、
Mn:1.1~1.3、
Cr:0.7~1.6、
N:0.0001~0.0060、
S:0.0001~0.0035、
Ti:0.001~0.010、
P:0.004~0.060
、ならびに
残部Feおよび不可避の不純物、
からな
り、
表面から深さ0.95μmまでの境界領域において、AlおよびSiの合計含有量(kg/m^3)に対する、MnおよびCrの合計含有量(kg/m^3)の比が0.2以上である、無方向性金属平板状製品。
【請求項2】
28℃での比電気抵抗が、0.60Ωmm
2/m≦ρ
spec≦0.70Ωmm
2/mである、請求項1に記載の平板状製品。
【請求項3】
Abs[P
1.0;1000×d/(J
200;1000×([Mn]+[Cr])^2)]<9、および/または、
P
1.0;400<16W/kg、および/または、
P
1.0;1000<70W/kg、および/または、
200A/m、1000HzにおけるJ>1.0T
であり、
平板状製品厚さが0.19mm~0.31mmである、
請求項1または2に記載の平板状製品。
【請求項4】
18℃以上28℃以下の温度において、
2.2≦([Mn]+[Cr])
2×[ρ
spec]≦5.5
を満たし、
前記式中、
[Mn]は、Mn含有量(wt%)の無次元値を表し、
[Cr]は、Cr含有量(wt%)の無次元値を表し、
[ρ
spec]は、最終焼鈍後の冷間圧延ストリップの比電気抵抗(Ωmm
2/m)の無次元値を表す、
請求項1から3のいずれか一項に記載の平板状製品。
【請求項5】
厚さdが、d<0.35mmである、請求項1から
4のいずれか一項に記載の平板状製品。
【請求項6】
厚さdが、0.19mm<d<0.35mmである、請求項
5に記載の平板状製品。
【請求項7】
請求項1から
6のいずれか一項に記載の
無方向性金属平板状製品を製造するための方法であって、
A)請求項1に記載の元素組成を含む溶融物を溶融するステップと、
B)前記溶融物を鋳込んで、圧延可能な一次製品
、一次ストリップ、スラブ、または薄スラブを形成するステップと、
C)最終圧延温度820℃~890℃で前記一次製品を熱間圧延するステップと、
D)酸洗ステップと、
E)熱間圧延ストリップを焼鈍するステップと、
F)冷間圧延ステップと、
G)最終焼鈍ステップと、
を含
み、
前記熱間圧延ストリップを焼鈍する前記ステップE)を、700~790℃の温度で、12時間~36時間実施し、表面から深さ0.95μmまでの境界領域において、AlおよびSiの合計含有量(kg/m^3)に対する、MnおよびCrの合計含有量(kg/m^3)の比が0.2以上である前記平板状製品を製造する、方法。
【請求項8】
前記熱間圧延ステップの開始時に前記一次製品を1200℃以下の予熱温度まで加熱する、請求項
7に記載の方法。
【請求項9】
前記ステップ
C)の後に、前記熱間圧延ストリップを巻取温度500℃~750℃で巻き取る、請求項
7または
8に記載の方法。
【請求項10】
冷間圧延する前記ステップF)を総冷間圧延度75%~90%で実施する、請求項
7から
9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記平板状製品を4パス以下で0.19mm~0.31mmの厚さまで圧延する、請求項
10に記載の方法。
【請求項12】
前記最終焼鈍ステップを930℃~1070℃の温度で実施する、請求項
7から
11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
回転電気機械のラメラとしての、請求項1から
6のいずれか一項に記載の平板状製品から打ち抜かれた打抜きの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無方向性金属平板状製品、平板状製品の製造方法、および使用に関する。
【背景技術】
【0002】
以下に説明する開発の文脈において、金属平板状製品という用語は、特に、鋳込みによって製造される、鋼ストリップ、鋼シート、鋼切片、または鋼製抜き板などの、圧延製品を含む。特に、本発明は、電磁鋼ストリップとして形成される平板状製品、および、電磁鋼シートとして形成される平板状製品に関する。
【0003】
無方向性平板状製品、特に、無方向性電磁鋼ストリップまたはシートは、多くの電子技術応用分野で必要とされている。
【0004】
無方向性電磁鋼ストリップまたは無方向性電磁鋼シートは、「NO電磁鋼ストリップ」または「NO電磁鋼シート」(NGO=Non Grain Oriented(無方向性))と称されることも多く、たとえば、回転電気機械の部品を製造するための基材として用いられる。このような用途において、無方向性金属平板状製品は、電磁界の方向を制御し、増幅するために用いられる。上述したようなストリップやシートの用途の代表的な分野は、電気モータや電気発電機におけるロータやステータである。
【0005】
多くの電気モータの場合、たとえば、いわゆるエレクトロモビリティ関連での用途に開発され、その重要性が増しつつあるモータの場合、単位時間における高速回転での運転が望まれる。高速回転で電気モータを運転する場合、モータを駆動するための根本的な基盤として必要な交流電磁界の周波数が高い。そのため、比較的高い周波数の交流電磁界で使用することが想定される材料がますます必要とされている。
【0006】
高周波交流磁界で運転する電気モータの開発において、材料開発者は、電気モータの高効率化という課題に直面している。このような背景に対して、比較的高い周波数で再磁化損失が比較的低く、かつ、磁気分極および磁気誘導が比較的高く、また、導磁率が比較的高い無方向性金属平板状製品、特に、無方向性電磁鋼ストリップおよび無方向性電磁鋼シートが必要とされている。
【0007】
上記特性の組み合わせは、実績のある電磁鋼ストリップや電磁鋼シートにおいて、電磁鋼ストリップおよび電磁鋼シートの出発合金におけるケイ素および/またはアルミニウムの重量比が高いことによって、良好にもたらされる。しかし、上記元素の比率が高いと、一般に、ケイ素および/またはアルミニウム含有量が大きい結果として言及される特性を有する従来公知のNO電磁鋼ストリップまたはNO電磁鋼シートは、脆性が比較的高いという短所を伴い、よって、加工性、たとえば冷間圧延能の点で短所を伴う。たとえば、NO電磁鋼ストリップの冷間圧延中に前記鋼ストリップが破損することが多くなり得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した背景に対して、本発明の目的は、磁気特性の点で、所定の要件をその要件と同等以上に満たす、既知の平板状鋼製品の代替品を提供することである。提供する平板状製品は、たとえば0.35mm未満の非常に薄い最終厚さでも使用可能であるものとする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、請求項1に記載の特徴を有する平板状製品を提供する。本発明は、さらに、請求項7に記載の特徴を有する方法を提供する。本発明は、さらに、請求項13に記載の特徴を有する平板状製品、および、請求項15に記載の特徴を有する使用を含む。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に示す合金成分を有する鋼からなる無方向性金属平板状製品を提供する。その元素を、重量パーセント、簡潔にwt%で示す。
C:0.0020~0.005
Si:2.6~2.9
Al:0.5~0.8
Mn:1.1~1.3
Cr:0.7~1.6、好ましくは0.9~1.6、特に好ましくは1.0~1.6
N:0.0001~0.0060
S:0.0001~0.0035
Ti:0.001~0.010
P:0.004~0.060
任意成分:0.001~0.15
残部のFeおよび不可避の不純物
【0011】
なお、残部の仕様は、残部を含むすべての合金成分の重量比が合計して100wt%になるという事実に関するものとして理解される。
【0012】
特に、Ni、Cu、Sn、Co、Zr、Nb、V、およびMoは、これらの元素の重量比の合計が前記上限を超えない限り、任意成分として含まれていてもよい。
【0013】
このプロセスにより、MgおよびCaは、0.0005wt%~0.005wt%の比率で含まれていてもよく、また、本説明の文脈において、上記不可避の不純物に含まれる。
【0014】
有利な磁気特性と有利な機械特性とを兼ね備えた平板状製品を提供するために非常に重要な策は、電磁鋼ストリップまたはシートの既知の組成と比較して、本発明による合金仕様を有する平板状製品のMn含有量およびCr含有量をかなり増加させることで達成された。
【0015】
驚くべきことに、Mn含有量を増加させ、Cr含有量を増加させることによって、Siおよび/またはAlの含有量が多く、Mnおよび/またはCrの含有量が少ない材料と比較して、所望の数値範囲内の磁気特性プロファイルが得られるだけでなく、たとえば冷間圧延中、機械応力下で有利な挙動を示すという驚くべき結果が得られる。両結果とも、製造した実施例の説明において、以下に詳細に説明し、かつ、実証する。
【0016】
磁気特性に関して、驚くべきことに、本発明による材料は、比較的高い磁気分極と比較的低い再磁化損失を兼ね備えていることが示されている。
【0017】
好ましくは、無方向性平板状製品は、無方向性電磁鋼ストリップまたは無方向性電磁鋼シートであり、それぞれ、本発明による合金組成を有する鋼で形成される。
【0018】
本発明による平板状製品は、下記の関係式が選択的または累積的に適用される磁気分極および再磁化損失を有することが好ましい。
Abs[P1.0;1000×d/(J200;1000×([Mn]+[Cr])^2)]<9、および/または
P1.0;400<16W/kg、および/または
P1.0;1000<70W/kg
【0019】
上記式における数式記号は、下記のように選択される。
Abs[]:角括弧内の値の絶対値
P1.0;1000:材料において再磁化周波数1000Hzおよび磁束密度1.0Tを有する交流電磁界における再磁化損失(W/kg)
P1.0;400:材料において再磁化周波数400Hzおよび磁束密度1.0Tを有する交流電磁界における再磁化損失(W/kg)
J200;1000:1000Hzの交流電磁界における磁界強度200A/mでの磁気分極
d:材料厚さ(mm)
【0020】
上記値の数値はすべて、無次元数値として、つまり無単位で、式の角括弧内で用いるためのものである。これは、経験的に見出された式であり、この式は、得られた結果を要約し、かつ、上記の単位を有する上述した式記号に関連する無次元数値を使用する際に、本発明による好ましいサンプルに対して有効である。
【0021】
関係式P1.0;400<16W/kgは、材料において再磁化周波数400Hzおよび磁束密度1.0Tを有する交流電磁界における再磁化損失(W/kg)が16W/kg未満であることを示す。
【0022】
関係式P1.0;1000<16W/kgは、材料において再磁化周波数1000Hzおよび磁束密度1.0Tを有する交流電磁界における再磁化損失が70W/kg未満であることを示す。
【0023】
選択的または付加的に、J200;1000>1.0を適用することが好ましい。J200;1000>1.0は、1000Hzの交流電磁界において磁界強度200A/mでの磁気分極が1.0Tより大きいことを示す。
【0024】
磁気分極および磁界強度を求めるための方法は、当業者に既知であり、たとえば、磁気分極を求めるためのエプスタインフレームによって、特に、DIN EN60404-2:2009-01:磁性材料第2部:エプスタインフレームを用いて電磁鋼ストリップおよびシートの磁気特性を求めるための方法に従うものである。
【0025】
好ましくは、平板状製品は、選択的または付加的に、18℃以上、28℃以下の温度、好ましくは20℃以上、24℃以下の温度で、下記の関係式が維持されることを特徴としてもよい。
2.2≦([Mn]+[Cr])2×[ρspec]≦5.5
上記式中、
[Mn]は、Mn含有量(wt%)の無次元値を表し、
[Cr]は、Cr含有量(wt%)の無次元値を表し、
[ρspec]は、特に最終焼鈍される冷間圧延ストリップの比電気抵抗(Ωmm2/m)の無次元値を表す。
【0026】
比電気抵抗とMnおよびCr含有量との上記関係式を満たす平板状製品は、所望の上記特性を特に所望のレベルで兼ね備えていることが分かっている。上記関係式は、鋼合金中のMnの重量比と鋼合金中のCrの重量比とを関連付けている。その結果、一方では、最低含有量は、MnとCrの合計にもあり、それによって所与の比抵抗および関連する電磁気特性がもたらされ、他方では、MnまたはCrの最大含有量は、MnとCrの合計でさえ超えず、それによって電磁気特性に関連する短所がもたらされることが、所与の比抵抗に対して達成されている。
【0027】
特に好ましい平板状製品は、製造プロセスにおける焼鈍の結果、表面層のMnおよびCrの含有量が増加するという、平板状製品の、観察された驚くべき特性を示すことを、選択的または付加的に、特徴としてもよい。すなわち、MnおよびCrは、平板状製品の内部と比較して、平板状製品の端部の層に蓄積される。
【0028】
これは、たとえば、平板状製品が、平板状製品の内部におけるMn含有量およびCr含有量よりも、上記で規定した寸法におけるMn含有量およびCr含有量が高い箇所までの、表面からの深さの範囲があることを意味する。もちろん、この深さ範囲は、平板状製品の両側、すなわち上方側および下方側に存在する。
【0029】
端部の層、すなわち、表面までの境界領域におけるMnおよびCrの含有量を、前記境界領域の体積について積分した際に、その値が、AlおよびSiの含有量に対して0.2以上である平板状製品が好ましい。
【0030】
表面から深さ0.95マイクロメートルまでの領域において、この境界領域の体積について積分して得られるMnおよびCrの含有量の値が、AlおよびSiの含有量に対して0.2以上である平板状製品が、特に好ましい。
【0031】
つまり、最終焼鈍後、0μm~0.95μmの表面層、すなわち表面から最大0.95μmの深さにおいて、MnおよびCrの体積積分の質量密度の合計の、SiおよびAlの体積積分の質量密度の合計に対する比が0.2以上であることが好ましい。
【0032】
数式で表すと以下の通りとなる。
【0033】
【0034】
上記式中、
[Mn]は、Mn含有量(wt%)の無次元値を表し、
[Cr]は、Cr含有量(wt%)の無次元値を表し、
[Al]は、Al含有量(wt%)の無次元値を表し、
[Si]は、Si含有量(wt%)の無次元値を表し、
上記積分の境界は、表面から下方の深さ(マイクロメートル)を示し、上記積分記号は、本発明による好ましい平板状製品の、深さ0.95μmまでと表面全体とにわたる、Mn含有量とCr含有量の合計の、Al含有量とSi含有量の合計に対する比が、0.2より大きいことを表す。
【0035】
驚くべきことに、深さ分解能元素分析の結果、本発明による元素組成では、平板状製品の表面に近い領域においてMnおよびCrが明らかに多く含まれるための必要条件がもたらされていることが示された。表面に近い領域において元素MnおよびCrが多く含まれているという特別な特徴を、試験仕様書ISO 11505:2012-12に従ってグロー放電発光分析法(Glow-Discharge Optical Emission Spectroscopy:GDOES)により、最終焼鈍後のサンプルに対して実験的に判定した。
【0036】
従来の高ケイ素電磁鋼ストリップ平板状製品よりも高いMnおよびCr含有量を有する本発明の平板状製品の、深さ0.95μmまでの表面層において、元素分布が特殊かつ新規であるため、当業者に既知の脆化秩序相(D03型構造)が、表面のSiおよびAl含有量が高いことによって形成され、原子格子の秩序のMnおよびCr関連の「妨害」によってもたらされるであろうことが、ある程度まで防止され得る。Si含有量およびAl含有量に対してMnおよびCrが多く含まれることが起こるという意味で上述したような比例的な重量過剰により、既知のSiおよびAlにより誘発される脆性相が、必然的に、ある程度減少するという事実の結果、当業者に既知の成形性に対するこれらの脆性相の悪影響は結果的になくなり、したがって、本発明による平板状製品およびその開発品は、冷間圧延、打抜きおよび被覆時、一般には成形時の加工性が高い。
【0037】
特に好ましくは、本発明による平板状製品は、28℃の温度における比電気抵抗の値が0.60Ωmm2/m~0.70Ωmm2/m、より好ましくは0.60Ωmm2/m~0.65Ωmm2/mの範囲内にあることを、代替的または付加的に特徴としてもよい。上記仕様の比電気抵抗は、得られた良好な磁気特性と相関関係にある。
【0038】
特に好ましくは、平板状製品の最大厚さが、0.35mm未満、特に好ましくは0.19mm~0.31mmである。一実施形態において、平板状製品は、金属シートまたは金属ストリップであり、その厚さは、いずれの場所においても前述の基準を満たす。平板状製品の厚さは、上述したように薄いことが好ましい。厚さが大きいよりも、厚さが薄い方が再磁化損失が低減するからである。冷間圧延性が期待どおりに優れていると、本発明による平板状製品の加工性が向上し、したがって、特に有利となることが分かる。
【0039】
以下に説明する方法の1つを用いて、冒頭で説明した合金仕様に基づく長所を有する材料を製造してもよい。たとえば、以下に説明する本発明による方法によって、特に有利な特性の組み合わせを有する平板状製品を製造する。下記ステップを実施する。
A)上述した合金仕様に従った元素組成を含む溶融物を溶融するステップ
B)前記溶融物を鋳込んで、圧延可能な一次製品、特に一次ストリップ、スラブ、または薄スラブを形成するステップ
C)最終圧延温度820℃~890℃で上記一次製品を熱間圧延するステップ
D)酸洗ステップ
E)任意に、熱間圧延ストリップを焼鈍するステップ
F)冷間圧延ステップ
G)最終焼鈍ステップ
【0040】
本発明の範囲内において、最終焼鈍は、上記製造方法の最後、すなわち、絶縁ラッカーコーティングを実施する前の最後の方法ステップにおける本発明による平板状製品の焼鈍を意味すると理解される。
【0041】
熱間圧延の開始時に一次製品を1200℃以下の予熱温度にまで加熱すると、特に有利な特性が得られる。
ステップD)を、ステップC)の後に実施する。
【0042】
熱間圧延ストリップを、ステップC)、またはステップD)を実施する場合にはステップD)の後、ステップE)を実施する場合にはステップE)の前、および/またはステップF)の前に、500℃~750℃の巻取温度で巻き取ることが特に好ましい。
【0043】
ステップE)における熱間圧延ストリップの焼鈍を、700℃~790℃の温度で実施することが好ましい。熱間圧延ストリップの焼鈍を、12時間以上、36時間以内で実施することが好ましい。
【0044】
ステップF)の冷間圧延の結果、総冷間圧延度75%~90%の場合に得られる平板状製品の特性は特に有利なものとなる。平板状製品を0.19mm~0.31mmの厚さまで圧延することが特に好ましい。圧延は、4パス以下で実施することがより好ましい。
【0045】
最終焼鈍については、930℃~1070℃の好ましい温度で実施すると、有利な特性が得られることが示されている。最終焼鈍時間は最大300秒であることが特に好ましい。最終焼鈍時間は、少なくとも50秒であることが好ましい。
【0046】
最終焼鈍は、平板状製品が、通過する連続運転炉、たとえば水平連続炉において実施することが好ましい。
【0047】
上述した最終焼鈍を、2段階ではなく1段階で実施することが特に好ましい。
【0048】
ステップA)~ステップG)を、アルファベット順に実施することが特に好ましい。
【0049】
本願の別の態様は、上述した方法のいずれかを用いて取得され得る平板状製品、またはその開発品である。
【0050】
本願のさらに別の態様は、上述した平板状製品の1つを打ち抜いて得た打抜き品を、回転電気機械のラメラとしての使用である。
【実施例】
【0051】
以下、例示的な実施形態を参照しながら、より詳細に本発明を説明する。
【0052】
本発明による3つの電磁鋼ストリップを製造し、以下、変形例1、変形例2、変形例3と称する。変形例1、2、3の組成を表1に示す。さらなる変形例を、参考例1、参考例2、参考例3と称する。参考例1、参考例2、参考例3は、本発明によらない比較サンプルとして機能し、これらの合金組成も同様に表1に示す。
【0053】
表に示す合金から、低含有量の硫黄および窒素を、取鍋精錬炉によって調整し、連続射込みや薄スラブ射込みによって各スラブを製造した。その後、熱間圧延、酸洗、熱間圧延ストリップ焼鈍、冷間圧延、および最終焼鈍によって、上記各スラブからストリップを製造した。実施例では、熱間圧延前に材料を最高1200℃まで加熱し、最終圧延温度820℃~890℃および巻取温度500℃~750℃で熱間圧延ストリップの厚さが1.3mm~1.9mmになるまで圧延した。
【0054】
製造した熱間圧延ストリップを酸洗し、次に、700~790℃で24時間、焼鈍した。本工程は、必ずしも本発明の一部である必要はなく、すなわち任意の工程である。焼鈍後の熱間圧延ストリップを、4パス以下で、総冷間圧延度75~90%で、最終厚さ0.19mm~0.31mm(+/-8%)となるように形成した。
【0055】
最高温度930℃~1070℃で最終焼鈍を実施する。
【0056】
変形例1~3および参考例1~3の製造パラメータを表1に示す。
【0057】
【0058】
最終焼鈍後、上記サンプルの比電気抵抗を測定した。測定には、DIN EN 60404-13:2015-01によるホイートストン測定ブリッジを使用した。
【0059】
【0060】
作成したサンプル1~3および参考例1~3の特性を表3に示す。
【0061】
1.0T、1000Hzにおける磁気値P、および200A/m、1000Hzにおける磁気値Jを、IEC404-3に従って60×60mm2のパネルを用いて求めた。このとき、各例において、縦方向の値と横方向の値の平均値を求めた。
【0062】
特に、非常に良好な磁気分極に加えて、1000Hz、磁界強度200A/mにおいて所望の通り小さい磁気再磁化損失Pが1.0T、1000Hzで起こることが分かった。これは、ほぼ、参考サンプルで得られた結果の大きさ順である。
【0063】
【0064】
表4は、分析1~3から製造されたサンプル1.1、2.1、2.2、2.3、3.1、および、参考分析1~3から製造された参考サンプル1.1、1.2、2.1、3.1~3.5の下記の特性を示す。点(ドット)の後の数字は、実施した試験の堅牢性を裏付けるため、光学分析用の1つのサンプルからランダムに複数のサンプルを作成したことを意味する。たとえば、参考材料3から5つのサンプルを作成し、3.1~3.5の番号をつけた。
【0065】
平板状製品の表面層にMnおよびCrの元素が多く含まれているという特別な特徴は、試験仕様書ISO 11505:2012-12に従ってグロー放電分光法により判定した。測定は、サンプルの上側(OS)と下側(US)で実施する。さらに、サンプルの端(R1/R2)と中央(M)の位置で帯域幅を横断して測定した。サンプル深さ0~12μmにわたる質量測定曲線を得て、その曲線から、Mn、Cr、Al、およびSiに対して、表面(0μm)からサンプル深さ0.95μmまでの質量密度の積分評価を行った。
【0066】