IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社東芝の特許一覧 ▶ 東芝エネルギーシステムズ株式会社の特許一覧

特許7559250太陽電池、多接合型太陽電池、太陽電池モジュール及び太陽光発電システム
<>
  • 特許-太陽電池、多接合型太陽電池、太陽電池モジュール及び太陽光発電システム 図1
  • 特許-太陽電池、多接合型太陽電池、太陽電池モジュール及び太陽光発電システム 図2
  • 特許-太陽電池、多接合型太陽電池、太陽電池モジュール及び太陽光発電システム 図3
  • 特許-太陽電池、多接合型太陽電池、太陽電池モジュール及び太陽光発電システム 図4
  • 特許-太陽電池、多接合型太陽電池、太陽電池モジュール及び太陽光発電システム 図5
  • 特許-太陽電池、多接合型太陽電池、太陽電池モジュール及び太陽光発電システム 図6
  • 特許-太陽電池、多接合型太陽電池、太陽電池モジュール及び太陽光発電システム 図7
  • 特許-太陽電池、多接合型太陽電池、太陽電池モジュール及び太陽光発電システム 図8
  • 特許-太陽電池、多接合型太陽電池、太陽電池モジュール及び太陽光発電システム 図9
  • 特許-太陽電池、多接合型太陽電池、太陽電池モジュール及び太陽光発電システム 図10
  • 特許-太陽電池、多接合型太陽電池、太陽電池モジュール及び太陽光発電システム 図11
  • 特許-太陽電池、多接合型太陽電池、太陽電池モジュール及び太陽光発電システム 図12
  • 特許-太陽電池、多接合型太陽電池、太陽電池モジュール及び太陽光発電システム 図13
  • 特許-太陽電池、多接合型太陽電池、太陽電池モジュール及び太陽光発電システム 図14
  • 特許-太陽電池、多接合型太陽電池、太陽電池モジュール及び太陽光発電システム 図15
  • 特許-太陽電池、多接合型太陽電池、太陽電池モジュール及び太陽光発電システム 図16
  • 特許-太陽電池、多接合型太陽電池、太陽電池モジュール及び太陽光発電システム 図17
  • 特許-太陽電池、多接合型太陽電池、太陽電池モジュール及び太陽光発電システム 図18
  • 特許-太陽電池、多接合型太陽電池、太陽電池モジュール及び太陽光発電システム 図19
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-20
(45)【発行日】2024-10-01
(54)【発明の名称】太陽電池、多接合型太陽電池、太陽電池モジュール及び太陽光発電システム
(51)【国際特許分類】
   H01L 31/072 20120101AFI20240924BHJP
   H01L 31/077 20120101ALI20240924BHJP
【FI】
H01L31/06 400
H01L31/06 520
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2023542578
(86)(22)【出願日】2022-03-23
(86)【国際出願番号】 JP2022013553
(87)【国際公開番号】W WO2023181187
(87)【国際公開日】2023-09-28
【審査請求日】2023-07-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119035
【弁理士】
【氏名又は名称】池上 徹真
(74)【代理人】
【識別番号】100141036
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 章
(74)【代理人】
【識別番号】100178984
【弁理士】
【氏名又は名称】高下 雅弘
(72)【発明者】
【氏名】杉本 寛太
(72)【発明者】
【氏名】水野 幸民
(72)【発明者】
【氏名】山本 和重
(72)【発明者】
【氏名】山崎 六月
(72)【発明者】
【氏名】中川 直之
(72)【発明者】
【氏名】芝崎 聡一郎
(72)【発明者】
【氏名】西田 靖孝
(72)【発明者】
【氏名】保西 祐弥
【審査官】桂城 厚
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-150603(JP,A)
【文献】国際公開第2020/059053(WO,A1)
【文献】特開2021-022648(JP,A)
【文献】特開2021-009957(JP,A)
【文献】特開2014-170865(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110112225(CN,A)
【文献】NAKAGAWA, Naoyuki et al.,Development of a Zn-based n-layer in Cuprous Oxide Top Cells for High-efficiency Tandem Photovoltaics,2020 47th IEEE Photovoltaic Specialists Conference (PVSC),IEEE,2021年07月05日,pp.0983-0985,DOI: 10.1109/PVSC45281.2020.9300600
【文献】WANG, Ying et al.,Improving the p-type conductivity of Cu2O thin films by Ni doping and their heterojunction with n-ZnO,Applied Surface Science,2022年03月18日,590 (2022), 153047,pp.1-12,doi.org/10.1016/j.apsusc.2022.153047
【文献】MINAMI, Tadatsugu et al.,Relationship between the electrical properties of the n-oxide and p-Cu2O layers and the photovoltaic properties of Cu2O-based heterojunction solar cells,Solar Energy Materials & Solar Cells,2015年12月18日,147(2016),pp.85-93,http://dx.doi.org/10.1016/j.solmat.2015.11.033
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/00-31/078
H01L 31/18-31/20
H02S 10/00-10/40
H02S 30/00-99/00
H10K 30/00-99/00
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
Science Direct
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項6】
前記第1領域の前記正孔濃度は、4.0×10-12[cm-3]以上9.0×10 [cm-3]以下[cm-3]以下である請求項1ないし5のいずれか1項に記載の太陽電池。
【請求項17】
請求項16に記載の太陽電池モジュールを用いて発電する太陽光発電システム
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池、多接合型太陽電池、太陽電池モジュール及び太陽光発電システムに関する。
【背景技術】
【0002】
新しい太陽電池の1つに、亜酸化銅(CuO)を光吸収層に用いた太陽電池がある。CuOはワイドギャップ半導体である。CuOは地球上に豊富に存在する銅と酸素からなる安全かつ安価な材料であるため、高効率かつ低コストな太陽電池が実現できると期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-46196号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、変換効率に優れた太陽電池、多接合型太陽電池、太陽電池モジュール及び太陽光発電システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態の太陽電池は、p電極と、n電極と、p電極上に設けられたp型光吸収層と、p型光吸収層とn電極の間に設けられたn型層と、を含む。p型光吸収層のn型層側の表面からp電極側に向かって第1領域を含み、第1領域は、n型ドーパントを含み、第1領域の厚さは、1500[nm]以上p型光吸収層の厚さ[nm]以下であり、第1領域のn型ドーパントの濃度は、1.0×1014[cm-3]以上1.0×1019[cm ]以下であり、第1領域において、n型ドーパントの濃度及び正孔濃度は、10≦{n型ドーパントの濃度[cm-3]}/{正孔濃度[cm-3]}≦5.0×1026を満たす。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1図1は、実施形態の太陽電池の模式断面図。
図2図2は、実施形態の太陽電池の模式断面図。
図3図3は、実施形態の太陽電池の分析スポットを説明する図。
図4図4は、実施形態の多接合型太陽電池の断面図。
図5図5は、実施形態の太陽電池モジュールの斜視図。
図6図6は、実施形態の太陽電池モジュールの断面図。
図7図7は、実施形態の太陽光発電システムの構成図。
図8図8は、実施形態の車両の模式図。
図9図9は、実施形態の飛翔体の模式図。
図10図10は、実施例に関する表。
図11図11は、実施例に関する表。
図12図12は、実施例に関する表。
図13図13は、実施例に関する表。
図14図14は、実施例に関する表。
図15図15は、実施例に関する表。
図16図16は、実施例に関する表。
図17図17は、実施例に関する表。
図18図18は、実施例に関する表。
図19図19は、実施例に関する表。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、図面を参照しながら、本発明の好適な一実施形態について詳細に説明する。なお、特に記載が無い限り、25℃、1気圧(大気)における物性値を示している。また、平均は、算術平均値を表している。各濃度は、対象の領域又は層の平均濃度である。各層において、特定の元素が含まれるとは、例えば、SIMS(Secondary Ion Mass Spectrometry)で存在が確認される元素であり、特定の元素が含まれないとは、例えば、SIMS
で存在が確認できない元素である。
【0008】
明細書中、「/」は、割り算記号を表している。ただし、「又は/及び」の「/」は、「又は」を意味している。明細書中「・」はかけ算記号を表している。明細書の数値の「.」は、小数点を表している。
【0009】
(第1実施形態)
第1実施形態は、太陽電池に関する。図1に、第1実施形態の太陽電池100の模式断面図を示す。図1に示すように、本実施形態に係る太陽電池100は、基板1、第1電極であるp電極2と、p型光吸収層3と、n型層4と、第2電極であるn電極5を有する。n型層4のn電極5との間等には、図示しない中間層が含まれていてもよい。太陽光はn電極5側、p電極2側いずれから入射しても良いが、n電極5側から入射するのがより好ましい。実施形態の太陽電池100は、透過型の太陽電池であるため、多接合型太陽電池のトップセル側(光入射側)に用いることが好ましい。図1では基板1をp電極2のp型光吸収層3側とは反対側に設けているが、基板1をn電極5のn型層4側とは反対側に設けてもよい。以下は、図1に示す形態について説明するが、基板1の位置が異なること以外はn電極5側に基板1が設けられた形態も同様である。実施形態の太陽電池100は、n電極5側からp電極2側に向かって光が入射する。
【0010】
基板1は、透明な基板である。基板1には、光を透過するアクリル、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート(PET)ポリプロピレン(PP)、フッ素系樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー(FEP)、エチレンテトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)など)、ポリアリレート、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォンやポリエーテルイミドなどの有機系の基板やソーダライムガラス、白板ガラス、化学強化ガラスや石英などの無機系の基板を用いることができる。基板1は、上記に挙げた基板を積層してもよい。
【0011】
p電極2は、基板1上に設けられており、基板1とp型光吸収層3との間に配置されている。p電極2は、p型光吸収層3とオーミック接合することが好ましい。p電極2は、p型光吸収層3側に設けられた光透過性を有する導電層である。p電極2の厚さは、典型的には、100nm以上2000nm以下である。図1では、p電極2は、p型光吸収層3と直接接している。p電極2は、1層以上の酸化物透明導電膜を含むことが好ましい。酸化物透明導電膜としては、酸化インジウムスズ(Indium Tin Oxide;ITO)、アルミニウムドープ酸化亜鉛(Al-doped Zinc Oxide;AZO)、ボロンドープ酸化亜鉛(Boron-doped Zinc Oxide;BZO)、ガリウムドープ酸化亜鉛(Gallium-doped Zinc Oxide;
GZO)、ドープされた酸化スズ、チタンドープ酸化インジウム(Titanium-doped Indium Oxide;ITiO)、酸化インジウム酸化亜鉛(Indium Zinc Oxide;IZO)や酸化インジウムガリウム亜鉛(Indium Gallium Zinc Oxide;IGZO)、水素ドープ酸化イン
ジウム(Hydrogen-doped Indium Oxide;IOH)などの半導体導電膜を用いることがで
き、特に限定されない。酸化物透明導電膜は、複数の膜を持つ積層膜であってもよい。酸化スズなどの膜へのドーパントとしては、In、Si、Ge、Ti、Cu、Sb、Nb、Ta、W、Mo、F及びClなどからなる群から選ばれる1種以上であれば特に限定され
ない。p電極2は、In、Si、Ge、Ti、Cu、Sb、Nb、Ta、W、Mo、F及びClなどからなる群から選ばれる1種以上の元素がドープされた酸化スズ膜が含まれる
ことが好ましい。ドープされた酸化スズ膜において、In、Si、Ge、Ti、Cu、Sb、Nb、Ta、W、Mo、F及びClなどからなる群から選ばれる1種以上の元素は、
酸化スズ膜に含まれるスズに対して10原子%以下含まれることが好ましい。p電極2として、酸化物透明導電膜と金属膜を積層した積層膜を用いることができる。金属膜は、厚さが1[nm]以上2[μm]以下であることが好ましく、金属膜に含まれる金属(合金を含む)は、Mo、Au、Cu、Ag、Al、TaやWなど特に限定されない。また、p電極2は、酸化物透明導電膜と基板1の間、又は、酸化物透明導電膜とp型光吸収層3の間にドット状、ライン状もしくはメッシュ状の電極(金属、合金、グラフェン、導電性窒化物及び導電性酸化物からなる群より選ばれる1種以上)を含むことが好ましい。ドット状、ライン状もしくはメッシュ状の金属は、酸化物透明導電膜に対して開口率が50%以上であることが好ましい。ドット状、ライン状もしくはメッシュ状の金属は、Mo、Au、Cu、Ag、Al、TaやWなど特に限定されない。p電極2に金属膜を用いる場合、透過性の観点から5[nm]以下程度の膜厚とすることが好ましい。ライン状やメッシュ状の金属膜を用いる場合、透過性は開口部で確保されるため、金属膜の膜厚に関してはこの限りではない。
【0012】
酸化物透明導電膜のp型光吸収層3側の最表面にはp型光吸収層3とオーミック接合するドープされた酸化スズ膜が設けられていることが好ましい。酸化物透明導電膜のp型光吸収層3側の最表面に設けられているドープされた酸化スズ膜の少なくとも一部がp型光吸収層3と直接的に接していることが好ましい。
【0013】
p型光吸収層3は、p型の半導体層である。p型光吸収層3は、p電極2上に設けられている。p型光吸収層3は、p電極2と直接的に接していても良いし、p電極2との電気的なコンタクトを確保できる限り、他の層が存在していても良い。p型光吸収層3は、電極2とn型層4との間に配置される。p型光吸収層3はn型層4と直接的に接している。p型光吸収層3は、第1領域3aを含む。p型光吸収層3は、化合物半導体であることが好ましい。p型光吸収層3は、ノンドープであるときにp型の化合物半導体であることが好ましい。ノンドープであるときにp型の化合物半導体層としては、亜酸化銅(亜酸化銅化合物)、カルコパイライト構造を有する化合物、ケステライト構造を有する化合物、スタンナイト構造を有する化合物及びペロブスカイト構造を有する化合物のいずれか1種を含む半導体層であって、いずれか1種のみを含む半導体層が好ましい。
【0014】
p型光吸収層3が亜酸化銅を含む場合、亜酸化銅を主体とする亜酸化銅化合物であることが好ましい。つまり、p型光吸収層3は、亜酸化銅化合物を含む半導体層であることが好ましい。p型光吸収層3は、亜酸化銅化合物の多結晶であることが好ましい。亜酸化銅化合物には、一部不純物として、銅(Cu)、酸化銅(CuO)及び水酸化銅(Cu(OH))からなる群より選ばれる1種以上の亜酸化銅の不純物が微量に含まれていてもよい。シミュレーションでは、不純物は考慮していないが、不純物が微量(p型光吸収層3に占める質量比率が0.1%以下)に含まれる場合でも不純物が存在しない場合と同様に第1領域3aの効果が得られる。
【0015】
亜酸化銅化合物に含まれる酸素の原子数は、銅の原子数を1とすると0.48以上0.56以下が好ましい。銅に対して酸素が多いと亜酸化銅化合物に含まれる酸化銅の比率が高くなることで、バンドギャップが狭くなり、p型光吸収層3の透光性が低下するため好ましくない。銅の比率に対して酸素が少ないと亜酸化銅化合物に含まれる銅が多くなることで、透光性が低下するため好ましくない。
【0016】
亜酸化銅化合物は、亜酸化銅を主体とする酸化物である。p型光吸収層3に含まれる全ての金属元素を100[%]とするとき、p型光吸収層3に含まれる銅元素は95[%]以上100[%]以下が好ましく98[%]以下以上100[%]以下がより好ましく、99[%]以上100[%]以下がさらにより好ましい。
【0017】
亜酸化銅化合物は、銅、酸素及びM1で表される元素を含み、任意にM3で表される元素を含む、又は、銅、酸素、M1で表される元素又は/及びM2で表される元素を含み、任意にM3で表される元素を含む。M1で表される元素は、Cl、F、Br及びIからなる群より選ばれる1種以上のハロゲン元素であることが好ましい。M2で表される元素は、Mn、Tc及びReからなる群より選ばれる1種以上の金属元素が好ましい。M3は、Sn、Sb、Ag、Li、Na、K、Cs、Rb、Al、In、Zn、Mg、Ga、Si、Ge、N、P、B、Ti、Hf、Zr及びCaからなる群より選ばれる1種以上の元素であることが好ましい。p型光吸収層3は、亜酸化銅又はM3で表される元素を含む亜酸化銅の複合酸化物にn型ドーパントであるM1で表される元素又は/及びM2で表される元素がドープされている。M3で表される元素を含まない条件のシミュレーションから第1領域3aなどの条件が求められているが、M3で表される元素がp型光吸収層3に含まれる場合、具体的には亜酸化銅の複合酸化物にn型ドーパントがドープされた第1領域3aが含まれるp型光吸収層3において第1領域3aの効果が得られる。
【0018】
p型光吸収層3の95[wt%]以上100[wt%]以下は亜酸化銅化合物であることが好ましく、p型光吸収層3の98[wt%]以上100[wt%]以下は亜酸化銅化合物であることがより好ましく、99[wt%]以上100[wt%]以下は亜酸化銅化合物であることがさらにより好ましい。p型光吸収層3の100[wt%]を亜酸化銅化合物で構成することができる。
【0019】
p型光吸収層3に含まれる異相が少なく結晶性が良いとp型光吸収層3の透光性が高くなるため好ましい。p型光吸収層3にM3の元素が含まれると、p型光吸収層3のバンドギャップを調整することができる。p型光吸収層3のバンドギャップは、2.0[eV]以上2.2[eV]以下であることが好ましい。かかる範囲のバンドギャップであると、Siを光吸収層に用いた太陽電池をボトムセルに用い、実施形態の太陽電池をトップセルに用いた多接合型太陽電池において、トップセル及びボトムセルの両方で太陽光を効率よく利用できる。p型光吸収層3は、Sn又は/及びSbを含むことが好ましい。p型光吸収層3のSnやSbは、p型光吸収層3に添加されたものでもよいし、p電極2に由来するものでもよい。p型光吸収層3に含まれるGaは、p型光吸収層3を成膜する原料には含まれず、n型層4に含まれるGaがp型光吸収層3に拡散したものである。n型層4の成膜時に他の元素も用いる場合はこれらの元素もp型光吸収層3に拡散する場合がある。
【0020】
上記p型光吸収層3の組成比は、p型光吸収層3の全体の組成比である。また、上記のp型光吸収層3の化合物組成比は、p型光吸収層3において全体的に満たすことが好ましい。
【0021】
p型光吸収層3とn型層4が異種の化合物であってpnがヘテロ接合している場合、n型層4の元素がp型光吸収層3に拡散し、又は/及び、p型光吸収層3の元素がn型層4に拡散すると、p型光吸収層3とn型層4の間にお互いの元素が拡散した厚さが20[nm]以下の混合領域が存在する場合がある。混合領域に占める金属元素の90[atom%]以下がp型光吸収層3に含まれる金属であって、さらに、混合領域に占める金属元素の10[atom%]以上がn型層4に含まれる金属元素である。混合領域が存在する場合、p型光吸収層3のn型層4側の表面は、混合領域を除いたp型光吸収層3のn型層4側の表面であり、n型層4のp型光吸収層3側の表面は、混合領域を除いたn型層4のp型光吸収層3側の表面である。
【0022】
p型光吸収層3の厚さは、電子顕微鏡による断面観察や、段差計によって求められ、2000[nm]以上15000[nm]以下(1[μm]以上15[μm]以下)が好ましく、2500[nm]以上10000[nm]以下がより好ましく、4000[nm]以上10000[nm]以下がさらにより好ましく、4000[nm]以上8000[nm]以下が好ましい。p型光吸収層3は、表面に凹凸の高低差が少なくてp型光吸収層3の最小厚さと最大厚さの差は、0[nm]以上100[nm]以下が好ましく、0[nm]以上50[nm]以下がより好ましい。p型光吸収層3は、直方体形状を有する。
【0023】
シミュレーションソフトウェアとしてSCAPS(SCAPS-1D for thin film solar cells developed at ELIS, University of Gent)を用い、ポアソン方程式と電流連続の式を解く
計算を行なうシミュレーションによってp-型、i型又はn-型のいずれかである第1領域3aがp型光吸収層3のn型層4側に存在し、第1領域3aとn型層4が接合することで、第1領域3aが存在しない場合と比べて短絡電流密度が増加し、変換効率が向上することを発見した。
【0024】
第1領域3aは、p型光吸収層3中のn型ドーパント含まれた領域である。第1領域3aは、n型層4側の表面からp電極2側向かって存在する。M1で表される元素及びM2で表される元素が亜酸化銅のn型ドーパントであり、第1領域3aにはM1で表される元素が含まれる、又は、M1又は/及びM2で表される元素が含まれる。第1領域3aは、p-型、i型又はn型ドーパントを含むが電子濃度[cm-3]が1015[cm-3]以上のように完全にはn型化していないn-型の領域である。第1領域3aに含まれるn型ドーパントとして、Clを含むことが好ましい。第1領域3aに含まれるn型ドーパントは、Clであることが好ましい。
【0025】
第1領域3aのn型ドーパントはn型層4側が高濃度でp電極2側が低濃度になるように濃度が傾斜している場合がある。このとき、第1領域3aには、n-型、i型とp-型のうちの2つ又は3つの導電型が存在する。
【0026】
第1領域3aの厚さが10[nm]程度や100[nm]程度である第1領域3aを設けても変換効率の向上は確認されないが、上記の厚さよりも非常に厚い第1領域3aを設けることで短絡電流密度が顕著に増加し、変換効率が向上する。厚い第1領域3aを設けてもFF(曲線因子)が同程度か増加するため、厚い第1領域3aは、変換効率の向上に寄与する。第1領域3aの厚さは、1500[nm]以上p型光吸収層3の厚さ[nm]以下であることが好ましく、2000[nm]以上p型光吸収層3の厚さ[nm]以下であることがより好ましい。p型光吸収層3が全体的に第1領域3aである形態も、一部が第1領域3aである形態も第1領域3aが存在しない形態と比べて短絡電流密度及び変換効率が向上することがシミュレーションより明らかになった。
【0027】
第1領域3aは、連続した1つの領域であることが好ましい。第1領域3aがp型光吸収層3中において、分割した2つ以上の領域として存在しているとp型光吸収層内の空乏
層幅が狭くなるという理由によって短絡電流密度が低下してしまう。第1領域3aとn型層4の間に第1領域3aではないp型光吸収層3が存在するとp型光吸収層内の空乏層幅
が狭くなるという理由により短絡電流密度が低下してしまう。そこで、p型光吸収層3のn型層4側の表面からp電極2側にむかって連続した1つの第1領域3aが存在することが好ましい。
【0028】
p型光吸収層3のn型層4側の表面に第1領域3と第1領域3aではないp型光吸収層3の両方が存在すると、n型層4は、第1領域3aと接合している部分と第1領域3aではないp型光吸収層3と接合している部分の両方が含まれることによって、部分的に空乏層幅が狭くなるという理由により短絡電流密度が低下してしまう。そこで、p型光吸収層3のn型層4側の表面の全面に第1領域3a存在していることが好ましい。
【0029】
第1領域3aが薄い領域であると第1領域3aを設けることによる短絡電流密度増加の効果がほとんどない。第1領域3aの厚さが十分にあることで、短絡電流密度が増加する。
【0030】
p型光吸収層3の厚さが2000[nm]以上4000nm未満である場合、短絡電流密度を増大させる観点から第1領域3aの厚さは、1500[nm]以上p型光吸収層3の厚さ[nm]以下であることがより好ましい。変換効率を向上させる観点からp型光吸収層3の厚さは、4000[nm]m以上10000[nm]以下が好ましい。p型光吸収層3の厚さが4000[nm]以上である場合、p型光吸収層3の厚さをt[nm]とするとき、第1領域3aの厚さは、((t-4000)/2)+1500[nm]以上t[nm]以下であることが好ましく、((t-2000)/2)+1000[nm]以上t[nm]以下であることがより好ましく、((t-2000)/2)+2000[nm]以上t[nm]以下であることがさらにより好ましい。
【0031】
p型光吸収層3の厚さが2000[nm]以上4000[nm]未満である場合、短絡電流密度を増大させる観点から第1領域3aの厚さは、1500[nm]以上t[nm]未満が好ましく、1500[nm]以上0.9t[nm]以下がより好ましい。また、p型光吸収層3の厚さが4000[nm]以上である場合、第1領域3aの厚さは、((t-4000)/2)+1500[nm]以上t[nm]未満であることが好ましく、((t-2000)/2)+1000[nm]以上t[nm]未満であることがより好ましく、((t-2000)/2)+2000[nm]以上t[nm]未満であることがさらにより好ましい。また、p型光吸収層3の厚さが4000[nm]以上である場合、第1領域3aの厚さは、((t-4000)/2)+1500[nm]以上0.9t[nm]以下であることが好ましく、((t-2000)/2)+1000[nm]以上0.9t[nm]以下であることがより好ましく、((t-2000)/2)+2000[nm]以上0.9t[nm]以下であることがさらにより好ましい。
【0032】
短絡電流密度の増加効果は、第1領域3aの厚さが2000[nm]以上で顕著になる。そこで、p型光吸収層3の厚さが2000[nm]以上15000[nm]以下で、第1領域3aの厚さが2000[nm]以上t[nm]以下であることが好ましい。p型光吸収層3の一部は第1領域3aではない場合、第1領域3aの厚さが2000[nm]以上t[nm]未満であることが好ましく、2000[nm]以上0.9t[nm]以下であることが好ましい。第1領域3aの厚さを2000nm以上とする場合、p型光吸収層3の厚さは、4000nm以上10000nm以下が好ましく、4000nm以上8000nm以下がより好ましく、4000nm以上6000nm以下がさらにより好ましい。
【0033】
短絡電流密度を増加させる観点から、p型光吸収層3の厚さが2000[nm]以上15000[nm]以下、好ましくは4000[nm]以上10000[nm]以下、より好ましくは4000[nm]以上8000[nm]以下、さらにより好ましくは4000[nm]以上6000[nm]以下で、第1領域3aの厚さは、2000[nm]以上((p型光吸収層3の厚さ[nm])-(p型光吸収層3の厚さ[nm]-2000[nm])/4)[nm]以下であることがより好ましい。
【0034】
第1領域3aの最小厚さと最大厚さの差は、0[nm]以上500[nm]以下であることが好ましく、0[nm]以上300[nm]以下であることがより好ましい。第1領域3aの厚さのばらつきが少ないとp型光吸収層3内の空乏層幅のばらつきが少ないという理由により好ましい。
【0035】
第1領域3aにおいて、Cl、F、Br及びIからなる群より選ばれる1種以上のハロゲン元素の総濃度(n型ドーパントの濃度)[cm-3]が1.0×1014[cm-3]以上1.0×1019[cm-3]以下であって、かつ、1.0×10≦{n型ドーパントの濃度[cm-3]}/{正孔濃度[cm-3]}≦5.0×1026を満たすことが好ましい。第1領域3aにM2で表される元素が含まれる場合、n型ドーパントの濃度[cm-3]は、Mn、Tc及びReからなる群より選ばれる1種以上の元素の総濃度、又は、Cl、F、Br、I、Mn、Tc及びReからなる群より選ばれる1種以上の元素の総濃度[cm-3]である。上記{n型ドーパントの濃度[cm-3]}/{正孔濃度[cm-3]}範囲を満たすとき、短絡電流密度が向上し、開放電圧及び曲率因子が中程度以上であるため、変換効率の高い太陽電池100を得ることができる。
【0036】
n型ドーパントによって短絡電流密度の増加を確認できたp型光吸収層3のバルクの正孔濃度(n型ドーパントが含まれていない状態の正孔濃度)は、1.0×1014[cm-3]以上1.0×1019[cm-3]以下である。上記のn型ドーパントの濃度を満たす場合において、第1領域3aの正孔濃度が高い場合や正孔濃度が低い場合には、第1領域3aを設けることで、短絡電流密度が増加しない、又は、低下してしまう。バルクの正孔濃度によって、第1領域3aの好ましい正孔濃度の範囲が異なる。そこで、発明者らのシミュレーションから、第1領域3aのn型ドーパントの濃度と第1領域3aの正孔濃度の関係から短絡電流密度が増加する条件を発見した。第1領域3aにおいて、1.0×10≦{n型ドーパントの濃度[cm-3]}/{正孔濃度[cm-3]}≦5.0×1026を満たすことが好ましい。
【0037】
なお、第1領域3aの厚さが1500nm未満である場合においても、短絡電流密度が顕著に増加する場合もあるが、第1領域3aの厚さが1500nm未満の場合、n型ドーパントの濃度やバルクの正孔濃度(n型ドーパントが含まれていない状態の正孔濃度)によって短絡電流密度が増加し難い形態も含まれる。第1領域3aが1500nm以上で、1.0×10≦{n型ドーパントの濃度[cm-3]}/{正孔濃度[cm-3]}≦5.0×1026を満たすときは、いずれのシミュレーション結果でも短絡電流密度が増加している。
【0038】
第1領域3aにおいて、n型ドーパントの濃度[cm-3]が1.0×1014[cm-3]以上1.0×1019[cm-3]以下であって、かつ、正孔濃度が4.0×10-12[cm-3]以上9.0×1013[cm-3]以下であることがより好ましい。第1領域3aにおいて、n型ドーパントの濃度[cm-3]が9.0×1014c[m ]以上1.0×1017[cm-3]以下であって、かつ、正孔濃度が5.0×10 11[cm-3]以上2.0×10[cm-3]以下であることがさらにより好ましい。
【0039】
第1領域3aのn型ドーパントの濃度の最小値と最大値の差は、1倍以上1000倍以下であることが好ましく、1倍以上100倍以下であることがより好ましく、1倍以上50倍以下であることがさらにより好ましい。ただし、第1領域3aのn型ドーパント濃度がn型層4側で高く、p電極2側に向かって低くなるように傾斜している場合は、上記のn型ドーパント濃度の最小値と最大値の差よりも大きい場合がある。
【0040】
p型光吸収層3の全体が第1領域3aであってもよいが、p型光吸収層3のp電極2側は、第1領域3aではないことが好ましい。第1領域3aではない領域のp型光吸収層3の正孔濃度は、第1領域3aの正孔濃度の1倍以上100,000倍以下が好ましく、第1領域3aの正孔濃度の5倍以上100000倍以下であることがより好ましく、第1領域3aの正孔濃度の10倍以上100000倍以下であることがさらにより好ましい。第1領域3aではない領域のp型光吸収層3の正孔濃度は、1.0×1014[cm-3]以上1.0×1019[cm-3]以下であることが好ましく、1.0×1015[cm-3]以上1.0×1018[cm-3]以下であることがより好ましい。第1領域3aではない領域のp型光吸収層3においてn型ドーパントの濃度[cm-3]が1.0×1014[cm-3]以上1.0×1019[cm-3]以下であること又は/及び1.0×10≦{n型ドーパントの濃度[cm-3]}/{正孔濃度[cm-3]}≦5.0×1026を満たさない。
【0041】
亜酸化銅化合物のM3のうちSi、Ge、N及びPは亜酸化銅のp型ドーパントである。p型光吸収層3にSi、Ge、N及びPからなる群より選ばれる1種以上が含まれる場合、第1領域3aには、亜酸化銅のp型ドーパントが含まれている場合がある。第1領域3a中のSi、Ge、N及びPの総濃度[cm-3]は、n型ドーパントの濃度[cm ]の30%以下が好ましく、n型ドーパントの濃度[cm-3]の10%以下であることがより好ましく、n型ドーパントの濃度[cm-3]の1%以下であることが好ましい。第1領域3aにp型ドーパントが含まれる場合において、n型ドーパントの濃度[cm-3]は、Cl、F、Br及びIからなる群より選ばれる1種以上のハロゲン元素の総濃度、Mn、Tc及びReからなる群より選ばれる1種以上の元素の総濃度、又は、Cl、F、Br、I、Mn、Tc及びReからなる群より選ばれる1種以上の元素の総濃度[cm-3]からSi、Ge、N及びPの総濃度[cm-3]を差し引いた濃度[cm-3]である。
【0042】
p型光吸収層3において、第1領域3aは、p型光吸収層3のn型層4側を向く表面からp型光吸収層3のp電極2側に向かって存在している。p型光吸収層3の全体が第1領域3aである太陽電池100及びp型光吸収層3の一部が第1領域3aである太陽電池100の両方が好ましい形態である。
【0043】
第1領域3aと第1領域3aではないp型光吸収層3との境界は、n型ドーパントの濃度[cm-3]の条件及び正孔濃度[cm-3]と{n型ドーパントの濃度[cm-3]}/{正孔濃度[cm-3]}の条件を満たさなくなる境界であって、結晶組織的な界面ではない。p型光吸収層3の全体がp型領域3aである場合は、第1領域3aと第1領域3aではないp型光吸収層3との境界が存在しない。
【0044】
図2の太陽電池の模式断面図に示すようにp型領域3aを含んだp型光吸収層3は、p電極2側にp+型の第2領域3bを含むことが好ましい。第2領域3bを設けることで、再結合を抑制し、短絡電流密度を増加させることができる。
【0045】
第2領域3bは、正孔濃度が5.0×1017[cm-3]以上1.0×1020[cm-3]以下の領域である。第1領域3aではないp型光吸収層3には、第2領域3bが含まれる場合がある。第2領域3bの領域厚さが薄すぎると、再結合抑制の効果が少なくなってしまう。また、第2領域3bの領域厚さが厚すぎると、第2領域3bの光キャリア生成の量子効率は第2領域3b以外の光キャリア層の量子効率と比べて低いため、短絡電流が低下して好ましくない。そこで、第2領域3bの厚さは、0[nm]以上100nm以下が好ましく、1[nm]以上100[nm]以下がより好ましく、10[nm]以上100[nm]以下がより好ましい。
【0046】
p型光吸収層3中に第1領域3a及び第2領域3bの両方が含まれる場合、p型光吸収層3の第1領域3aでも第2領域3bでもない領域の正孔濃度は、第1領域3aの正孔濃度の1倍以上100000倍以下であり第2領域3bの正孔濃度の0.00001倍以上0.1倍以下であることが好ましく、第1領域3aの正孔濃度の5倍以上100000倍以下であり第2領域3bの正孔濃度の0.00001倍以上0.01倍以下であることがより好ましく、第1領域3aの正孔濃度の10倍以上100000倍以下であり第2領域3bの正孔濃度の0.00001倍以上0.01倍以下であることがさらにより好ましい。
【0047】
第2領域3bには、Si、Ge、N及びPからなる群より選ばれる1種以上のp型ドーパントが含まれていることが好ましい。第2領域3bに含まれるp型ドーパントの濃度は、5.0×1017[cm-3]以上1.0×1021[cm-3]以下であることが好ましく、1.0×1018[cm-3]以上1.0×1021[cm-3]以下であることがより好ましい。
【0048】
p型光吸収層3などの組成分析は、例えば、図3の分析スポットを説明する図に示すような等間隔に可能な限り隔たり無く分布した分析スポット(A1~A9)を例えば二次イオン質量分析法(Secondary Ion Mass Spectrometry;SIMS)で分析することで求め
られる。図2は太陽電池100を光の入射側から見た模式図である。p型光吸収層3の組成を分析する場合、D1はp型光吸収層3の幅方向の長さであり、D2はp型光吸収層3の奥行き方向の長さである。組成分析は、例えば、n型層4の表面からp電極2に向かって行なう。
【0049】
p型光吸収層3の組成は、p型光吸収層3の厚さをdとする場合、p電極2側のp型光吸収層3の表面から0.1d、0.2d、0.3d、0.4d、0.5d、0.6d、0.7d、0.8d、0.9dの深さにおける組成の平均値である。SIMSの場合、p型光吸収層3の表面を分析するとn型層4の元素が検出されやすいため、0.1d地点からp型光吸収層3の分析することで平均組成を求めることが好ましい。0.1d、0.2d、0.3d、0.4d、0.5d、0.6d、0.7d、0.8d、0.9dの深さにおいてn型ドーパントを含めた全体組成をまず求める。再度SIMS測定でn型ドーパントの濃度のみを分析することで、詳細なn型ドーパントの濃度のプロファイルが求まる。求めたn型ドーパントの濃度プロファイルからp型光吸収層3中の第1領域3aの存在推定位置と第2領域3bの存在位置とp型光吸収層3全体のn型ドーパントの濃度を求めることができる。
【0050】
n型ドーパントの濃度から求めた第1領域3aと第2領域3bの存在推定位置の情報を用いて、p型光吸収層3の正孔濃度を求める。例えば、p型光吸収層3の厚さが6μmで、第1領域3aがp型光吸収層3のn型層4側の表面から4μmまでの深さに存在すると推定されるとき、例えば、まず、n型層4側からp型光吸収層3側に向かって研磨又はエッチングによって部材を除去して、p型光吸収層3単体の全体の正孔濃度を測定する。次いで、p型光吸収層3のp電極2側からp型光吸収層3を除去しながら例えば除去厚さ500nm毎に正孔濃度を測定する。p型光吸収層3のn型層4側の表面からの厚さが4μm前後になるまでp型光吸収層3をp電極2側から除去して上記第1領域3aの正孔濃度の条件を満たす位置を求める。正孔濃度を求める際の除去厚さの間隔を500nmから100nmにすることで、測定精度を高めることができる。そして、n型ドーパントの濃度と正孔濃度の条件を満たしている領域を第1領域3aとする。また、求められた正孔濃度から、p型光吸収層3の第1領域3aを除いた領域の正孔濃度も求めることができる。
【0051】
p型光吸収層3は、例えばスパッタなどによって成膜されることが好ましい。
【0052】
p型光吸収層3がカルコパイライト構造を有する化合物を含む場合、カルコパイライト構造を有する化合物として、例えば、11族元素(Cu、Ag)、13族元素(Al、Ga、In)及び16族(S、Se、Te)を含む化合物が挙げられる。カルコパイライト構造を有する化合物のn型ドーパントとしては、Zn又は/及びCdが好ましい。
【0053】
p型光吸収層3がケステライト構造を有する化合物を含む場合、ケステライト構造を有する化合物として、例えば、CuZnSn(S,Se)が挙げられる。ケステライト構造を有する化合物のn型ドーパントとしては、Cdが好ましい。
【0054】
p型光吸収層3がスタンナイト構造を有する化合物を含む場合、スタンナイト構造を有する化合物として、例えば、Cu(Fe、Zn)Sn(S,Se)が挙げられる。スタンナイト構造を有する化合物のn型ドーパントとしては、Cdが好ましい。
【0055】
p型光吸収層3がペロブスカイト構造を有する化合物を含む場合、ペロブスカイト構造を有する化合物として、CHNHPbX(Xは少なくとも1種以上のハロゲン)が挙げられる。
【0056】
n型層4は、n型の半導体層である。n型層4は、p型光吸収層3とn電極5との間に配置される。n型層4は、p型光吸収層3上に設けられていることが好ましい。n型層4は、p型光吸収層3のp電極2と接した面とは反対側の面と直接接している。n型層4は、Gaを含む酸化物を含む半導体層、又は、n型の亜酸化銅化合物を含む半導体層を含むことが好ましい。Gaを含む酸化物を含む半導体層、又は、n型の亜酸化銅化合物を含む半導体層がp型光吸収層3とpn接合(混合領域がi型であればpin接合)を形成する。n型層4にGaを含む酸化物を含む半導体層を用いるとき、太陽電池100は、ヘテロ接合型の太陽電池である。n型層4に亜酸化銅化合物を含む半導体層を用いるとき、太陽電池100は、ホモ接合型の太陽電池である。n型層4は、Gaを含む酸化物を含む半導体層、又は、n型の亜酸化銅化合物を含む半導体層の単層でもよいし、多層でもよい。多層のn型層4は、組成の異なるGaを含む酸化物を含む半導体層が複数層含まれる形態やn型の亜酸化銅化合物を含む半導体層組成の異なるGaを含む酸化物を含む半導体層が複数層含まれる形態が挙げられる。ヘテロ接合型の太陽電池であってもホモ接合型の太陽電池であっても空乏層幅が拡大することで理論上は短絡電流密度が向上するため、ヘテロ接合型の太陽電池及びホモ接合型の太陽電池において第1領域3aを設けることによって短絡電流密度及び変換効率が向上する。
【0057】
Gaを主成分とする化合物(酸化物)を含むことが好ましい。n型層4はGaを主成分とする酸化物に他の酸化物が混合していてもよいし、Gaを主成分とする酸化物に他の元素がドープしていてもよいし、他の元素がドープしたGaを主成分とする酸化物と他の酸化物が混合していてもよい。n型層4は、単層又は多層である。n型層4に含まれる金属元素のうち、Gaが40原子%以上であることが好ましく、50原子%以上であることがより好ましい。n型層4に含まれる金属元素は、p型光吸収層3側からn電極5側に傾斜していてもよい。
【0058】
n型層4は、M3で表される元素とGaを含む酸化物を含むことが好ましい。Gaを主成分とする酸化物は、例えば、M3で表される元素とGaを含む酸化物である。n型層4は、H、Sn、Sb、Cu、Ag、Li、Na、K、Cs、Rb、Al、In、Zn、Mg、Si、Ge、N、B、Ti、Hf、Zr及びCaからなる群より選ばれる1種以上の元素であるM3とGaを含む酸化物を含むことが好ましい。n型層4は、H、Sn、Sb、Cu、Ag、Li、Na、K、Cs、Rb、Al、In、Zn、Mg、Si、Ge、N、B、Ti、Hf、Zr及びCaからなる群より選ばれる1種以上の元素であるM3とGaを含む酸化物を90wt%以上100wt%以下含むことが好ましい。n型層4のGaを主成分とする化合物は、平均組成がGaM3で表されるM3とGaを含む酸化物であることが好ましい。h、i及びjは、1.8≦h≦2.1、0≦i≦0.2及び2.9≦j≦3.1を満たすことが好ましい。
【0059】
n型層4の90[wt%]以上100[wt%]以下は、M3とGaを含む酸化物であることが好ましい。n型層4の95[wt%]以上100[wt%]以下は、M3とGaを含む酸化物であることがより好ましい。n型層4の98[wt%]以上100[wt%]以下は、M3とGaを含む酸化物で表される化合物であることがさらにより好ましい。n型層4に含まれるCuは、n型層4を成膜する原料には含まれず、p型光吸収層3に含まれるCuがn型層4に拡散したものである。p型光吸収層3の成膜時に他の元素も用いる場合はこれらの元素もn型層4に拡散する場合がある。
【0060】
n型層4の膜厚は、典型的には、3[nm]以上100[nm]以下である。n型層4の厚さが3nm未満であるとn型層4のカバレッジが悪い場合にリーク電流が発生し、特性を低下させてしまう場合がある。カバレッジが良い場合は上記膜厚に限定されない。n型層4の厚さが50[nm]を超えるとn型層4の過度の高抵抗化による特性低下や、透過率低下による短絡電流低下が起こる場合がある。従って、n型層4の厚さは3[nm]以上20[nm]以下がより好ましく、5[nm]以上20[nm]以下がさらにより好ましい。
【0061】
なお、n型層4の化合物の組成は、特に条件を付けなければn型層4全体の平均組成である。n型層4の組成は、n型層4の厚さをdとする場合、p型光吸収層3側のn型層4の表面から0.2d、0.5d、0.8dの深さにおける組成の平均値である。n型層4の化合物の元素組成比が傾斜しているといった条件がある場合を除き各深さにおいて、n型層4は、上記及び下記の好適な組成を満たすことが好ましい。なお、n型層4が非常に薄い場合(例えば5nm以下)は、p型光吸収層3側のn型層4の表面から0.5dの深さにおける組成をn型層4の全体の組成とみなすことができる。なお、分析はn型層4の表面からの各距離において図3の分析スポットを説明する図に示すような等間隔に可能な限り隔たり無く分布した分析スポット(A1~A9)を例えば二次イオン質量分析法(Secondary Ion Mass Spectrometry;SIMS)で分析することで求められる。図
3は太陽電池100を光の入射側から見た模式図である。n型層4の組成を分析する場合、D1はn型層4の幅方向の長さであり、D2はn型層4の奥行き方向の長さである。
【0062】
p型光吸収層3が亜酸化銅を含まない形態において、n型の酸化物層などをn型層4として用いることができる。
【0063】
n電極5は、可視光に対して、光透過性を有するn型層4側の電極である。n電極5は、n型層4上に設けられていることが好ましい。n電極5とp型光吸収層3によってn型層4を挟んでいる。n型層4とn電極5の間には、図示しない中間層を設けることができる。n電極5には、酸化物透明導電膜を用いることが好ましい。n電極5で用いられる酸化物透明導電膜としては、酸化インジウムスズ、アルミニウムドープ酸化亜鉛、ボロンドープ酸化亜鉛、ガリウムドープ酸化亜鉛、インジウムドープ酸化亜鉛、チタンドープ酸化インジウム、酸化インジウムガリウム亜鉛及び水素ドープ酸化インジウムからなる群より選ばれる1種以上の半導体導電膜であることが好ましい。酸化スズなどの膜へのドーパントとしては、In、Si、Ge、Ti、Cu、Sb、Nb、Ta、W、Mo、F及びClなどからなる群から選ばれる1種以上であれば特に限定されない。n電極5は、酸化物透
明導電膜を低抵抗化するために、メッシュやライン形状の電極を含むことができる。メッシュやライン形状の電極には、Mo、Au、Cu、Ag、Al、TaやWなど特に限定されない。n電極5には、グラフェンも用いることができる。グラフェンは、銀ナノワイヤと積層させることが好ましい。
【0064】
n電極5の厚さは、電子顕微鏡による断面観察や、段差計によって求められ、特に限定はないが、典型的には、50[nm]以上2[μm]以下である。
【0065】
n電極5は、例えばスパッタなどによって成膜されることが好ましい。
【0066】
(第2実施形態)
第2実施形態は、多接合型太陽電池に関する。図4に第2実施形態の多接合型太陽電池の断面概念図を示す。図4の多接合型太陽電池200は、光入射側に第1実施形態の太陽電池(第1太陽電池)100と、第2太陽電池201を有する。第2太陽電池201の光吸収層のバンドギャップは、第1実施形態の太陽電池100のp型光吸収層3よりも小さいバンドギャップを有する。なお、実施形態の多接合型太陽電池200は、3以上の太陽電池を接合させた太陽電池も含まれる。
【0067】
第1実施形態の第1太陽電池100のp型光吸収層(亜酸化銅)3のバンドギャップが2.0[eV]以上2.2[eV]以下程度であるため、第2太陽電池201の光吸収層のバンドギャップは、1.0[eV]以上1.6[eV]以下であることが好ましい。第2太陽電池201の光吸収層としては、Inの含有比率が高いCIGS系及びCdTe系からなる群から選ばれる1種以上の化合物半導体層、結晶シリコン及びペロブスカイト型化合物からなる群より選ばれる1種であることが好ましい。
【0068】
(第3実施形態)
第3実施形態は、太陽電池モジュールに関する。図5に第3実施形態の太陽電池モジュール300の斜視図を示す。図5の太陽電池モジュール300は、第1太陽電池モジュール301と第2太陽電池モジュール302を積層した太陽電池モジュールである。第1太陽電池モジュール301は、光入射側であり、第1実施形態の太陽電池100を用いている。第2太陽電池モジュール302には、第2太陽電池201を用いることが好ましい。
【0069】
図6に太陽電池モジュール300の断面図を示す。図6では、第1太陽電池モジュール301の構造を詳細に示し、第2太陽電池モジュール302の構造は示していない。第2太陽電池モジュール302では、用いる太陽電池の光吸収層などに応じて適宜、太陽電池モジュールの構造を選択する。図6の太陽電池モジュール300は、複数の太陽電池100(太陽電池セル)が横方向に並んで配線304で電気的に直列に接続した破線で囲われたサブモジュール303が複数含まれ、複数のサブモジュール303が電気的に並列もしくは直列に接続している。隣り合うサブモジュール303は、バスバー305で電気的に接続している。
【0070】
隣り合う太陽電池100は、上部側のn電極5と下部側のp電極2が配線304によって接続している。第3実施形態の太陽電池100も第1実施形態の太陽電池100と同様に、基板1、p電極2、p型光吸収層3、n型層4とn電極5を有する。サブモジュール303中の太陽電池100の両端は、バスバー305と接続し、バスバー305が複数のサブモジュール303を電気的に並列もしくは直列に接続し、第2太陽電池モジュール302との出力電圧を調整するように構成されていることが好ましい。なお、第3実施形態に示す太陽電池100の接続形態は一例であり、他の接続形態によって太陽電池モジュールを構成することができる。
【0071】
(第4実施形態)
第4実施形態は太陽光発電システムに関する。第4実施形態の太陽電池モジュールは、第4実施形態の太陽光発電システムにおいて、発電を行う発電機として用いることができる。実施形態の太陽光発電システムは、太陽電池モジュールを用いて発電を行うものであって、具体的には、発電を行う太陽電池モジュールと、発電した電気を電力変換する手段と、発電した電気をためる蓄電手段又は発電した電気を消費する負荷とを有する。図7に実施形態の太陽光発電システム400の構成図を示す。図7の太陽光発電システムは、太陽電池モジュール401(300)と、コンバーター402と、蓄電池403と、負荷404とを有する。蓄電池403と負荷404は、どちらか一方を省略しても良い。負荷404は、蓄電池403に蓄えられた電気エネルギーを利用することもできる構成にしてもよい。コンバーター402は、DC-DCコンバーター、DC-ACコンバーター、AC-ACコンバーターなど変圧や直流交流変換などの電力変換を行う回路又は素子を含む装置である。コンバーター402の構成は、発電電圧、蓄電池403や負荷404の構成に応じて好適な構成を採用すればよい。
【0072】
太陽電池モジュール300に含まれる受光したサブモジュール303に含まれる太陽電池セルが発電し、その電気エネルギーは、コンバーター402で変換され、蓄電池403で蓄えられるか、負荷404で消費される。太陽電池モジュール401には、太陽電池モジュール401を常に太陽に向けるための太陽光追尾駆動装置を設けたり、太陽光を集光する集光体を設けたり、発電効率を向上させるための装置等を付加することが好ましい。
【0073】
太陽光発電システム400は、住居、商業施設や工場などの不動産に用いられたり、車両、航空機や電子機器などの動産に用いられたりすることが好ましい。実施形態の変換効率に優れた太陽電池を太陽電池モジュールに用いることで、発電量の増加が期待される。
【0074】
太陽光発電システム400の利用例として車両を示す。図8に車両500の構成概念図を示す。図8の車両500は、車体501、太陽電池モジュール502、電力変換装置503、蓄電池504、モーター505とタイヤ(ホイール)506を有する。車体501の上部に設けられた太陽電池モジュール502で発電した電力は、電力変換装置503変換されて、蓄電池504にて充電されるか、モーター505等の負荷で電力が消費される。太陽電池モジュール502又は蓄電池504から供給される電力を用いてモーター505によってタイヤ(ホイール)506を回転させることにより車両500を動かすことができる。太陽電池モジュール502としては、多接合型ではなく、第1実施形態の太陽電池100等を備えた第1太陽電池モジュールだけで構成されていてもよい。透過性のある太陽電池モジュール502を採用する場合は、車体501の上部に加え、車体501の側面に発電する窓として太陽電池モジュール502を使用することも好ましい。
【0075】
太陽光発電システム400の利用例として飛翔体(ドローン)を示す。飛翔体は、太陽電池モジュール401を用いている。本実施形態にかかる飛翔体の構成を、図9の飛翔体600の模式図を用いて簡単に説明する。飛翔体600は、太陽電池モジュール401、機体骨格601、モーター602、回転翼603と制御ユニット604を有する。太陽電池モジュール401、モーター602、回転翼603と制御ユニット604は、機体骨格601に配置している。制御ユニット604は、太陽電池モジュール401から出力した電力を変換したり、出力調整したりする。モーター602は太陽電池モジュール401から出力された電力を用いて、回転翼603を回転させる。実施形態の太陽電池モジュール401を有する本構成の飛翔体600とすることで、より多くの電力を用いて飛行することができる飛翔体が提供される。
以下、実施例に基づき本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0076】
(実施例A-1~A-9、比較例A-1~A-15)
以下の条件でシミュレーションを行なった。太陽電池100は、p型光吸収層3、n型層4、n電極5が順に積層した構成である。シミュレーションによって、開放電圧[V]、短絡電流密度[mA/cm]、曲率因子、変換効率を求めた。シミュレーションにおいて、基板1を考慮に入れていないが、基板1の有無はシミュレーションで考慮されないため、基板1が存在する場合においても下記の実施形態と同様の結果が得られる。シミュレーションにおいて、シミュレーションにおいて、p電極2を考慮に入れていない。シミュレーションソフトは、太陽電池の層数に制限がある。p型光吸収層3とp電極2がオーミック接合をするのであれば、p電極2の具体的な層組成を考慮しなくても太陽電池100の直列抵抗Rsの抵抗値として評価をすることができる。そこで、p型光吸収層3とp電極2がオーミック接合する前提(直列抵抗Rsにp電極2のシート抵抗と界面抵抗が反映されている前提)で、p電極2が含まれない太陽電池100のシミュレーションを行なった。
【0077】
p型光吸収層3:CuO層 厚さ、欠陥準位、n型ドーパントがドープされた状態の第1領域3aの正孔濃度(正孔濃度)、第1領域3aの厚さは図10の表に示す。
n型層4:Ga層 厚さ11[nm]。
n電極5:Zn0.80Sn0.201.2層(厚さ11nm)とAl添加ZnO層(厚さ57[nm])の積層。
n型ドーパント:Cl。
直列抵抗Rs=8[Ω・cm]
シミュレーション方法:SCAPS ポアソン方程式と電流連続の式を解く。
【0078】
図10の表において、各実施例と比較対象(コントロール)の比較例番号も示している。n型ドーパントの濃度が0の比較例の正孔濃度は、n型ドーパントがドープされていない状態の正孔濃度である。実施例のp型光吸収層3のノンドープ状態の正孔濃度は、比較対象の比較例の正孔濃度である。シミュレーションを行なって得られた開放電圧[V]、短絡電流密度[mA/cm]、曲率因子、変換効率を図11の表に示す。
【0079】
実施例Aでは、第1領域3aの厚さに関して評価をしている。p型光吸収層3の厚さが4000nm及び6000nmにおいて、第1領域3aの膜厚が厚い方が短絡電流密度及び変換効率が向上した。第1領域3aの厚さが薄い場合には、短絡電流密度及び変換効率の向上が少なく、第1領域3aの厚さは、1500nm以上が好ましい。しかし、p型光吸収層3の膜厚が厚い場合において、第1領域3aの厚さが厚すぎるとバルク内再結合の影響が大きくなって曲線因子の低下が確認された。p型光吸収層3の厚さが6000nmの場合、第1領域3aの厚さが4000nmのときに最も変換効率が向上した。
【0080】
(実施例B-1~B-15、比較例B-1~B-13)
以下の条件でシミュレーションを行なった。太陽電池100は、実施例Aと同じく、p型光吸収層3、n型層4、n電極5が順に積層した構成である。シミュレーションによって、開放電圧[V]、短絡電流密度[mA/cm]、曲率因子、変換効率を求めた。実施例Aと同様にp型光吸収層3にはCuO層を用い、p型光吸収層3の厚さ、欠陥準位、n型ドーパントがドープされた状態の第1領域3aの正孔濃度(正孔濃度)、第1領域3aの厚さは図12の表に示す。シミュレーションを行なって得られた開放電圧[V]、短絡電流密度[mA/cm]、曲率因子、変換効率を図13の表に示す。
【0081】
実施例Bでは、n型ドーパントの濃度に関して評価をしている。空乏層幅の拡大が目的であるため、第1領域3aがi型に近づくほど高い変換効率が得られる。しかし、第1領
域3aが明らかなn型になると短絡電流密度が低下した。第1領域3aが明らかなn型である場合(比較例B-6、B-12、B-13)、第1領域3aの厚さが厚いほど短絡電流密度が大きく低下した。n型ドーパントの濃度/正孔濃度は、10未満である(例えば、比較例B-1から比較例B-5)において、曲率因子は低下傾向である。n型ドーパントの濃度/正孔濃度は、10以上である(例えば、実施例B-1から実施例B-4)において、曲率因子は増加傾向であり、かつ、短絡電流密度の増加も認められた。n型ドーパントの濃度/正孔濃度が5.0×1026より大きくなると、短絡電流密度及び曲率因子は低下傾向になった。
【0082】
(実施例C-1~C-5、比較例C-1~C-27)
以下の条件でシミュレーションを行なった。太陽電池100は、実施例Aと同じく、p型光吸収層3、n型層4、n電極5が順に積層した構成である。シミュレーションによって、開放電圧[V]、短絡電流密度[mA/cm]、曲率因子、変換効率を求めた。実施例Aと同様にp型光吸収層3にはCuO層を用い、p型光吸収層3の厚さ、欠陥準位、n型ドーパントがドープされた状態の第1領域3aの正孔濃度(正孔濃度)、第1領域3aの厚さは図14、16の表に示す。シミュレーションを行なって得られた開放電圧[V]、短絡電流密度[mA/cm]、曲率因子、変換効率を図15、17の表に示す。
【0083】
図14図15図16及び図17に示すように、実施例Cでは、n型ドーパントのドープ前の状態における正孔濃度とn型ドーパントの濃度を変えて評価をしている。ドープ前の状態におけるp型光吸収層3の正孔濃度が低い場合は既に空乏層幅が広いため、n型ドーパントによる短絡電流密度の向上効果が低い。p型光吸収層3の正孔濃度が1017[cm-3]以上の場合において、n型ドーパント濃度/正孔濃度が1021以下のとき
に空乏層幅が広がらずバルク内再結合が増加するだけとなり短絡電流密度と曲線因子が低下する。また、ドープ前の状態におけるp型光吸収層3の正孔濃度が高い場合、中間の場合、低い場合において、正孔濃度の数値と短絡電流密度及び変換効率が向上する関係性がなかったが、n型ドーパント濃度に加え、n型ドーパント濃度/正孔濃度も考慮すること
で、短絡電流密度及び変換効率が向上するドーピング条件が判明した。n型ドーパント濃度/正孔濃度も考慮することで判明したドーピングの条件では、ドープ前のp型光吸収層
3の正孔濃度が1014から1019の範囲で短絡電流密度と変換効率が向上した。ドープ前の状態で短絡電流密度と変換効率が高い太陽電池において、第1領域3aによる短絡電流密度と変換効率が大きく向上しており、第1領域3aを設けることが高効率な太陽電池をさらに高効率にすることができることがわかった。n型ドーパント濃度/正孔濃度が
10未満の場合と5.0×1026より大きい場合では、短絡電流密度が低いなどの理由で変換効率が低いか十分に高く無い。n型ドーパント濃度/正孔濃度が10以上5.0×
1026で型ドーパントの濃度は、1.0×1014[cm-3]以上1.0×1019[cm-3]以下の場合には、短絡電流密度と変換効率の向上が確認された。
【0084】
(実施例D-1~D-4、比較例D-1)
以下の条件でシミュレーションを行なった。太陽電池100は、実施例Aと同じく、p型光吸収層3、n型層4、n電極5が順に積層した構成である。シミュレーションによって、開放電圧[V]、短絡電流密度[mA/cm]、曲率因子、変換効率を求めた。実施例Aと同様にp型光吸収層3にはCuO層を用い、p型光吸収層3の厚さ、欠陥準位、第2領域3bの正孔濃度(正孔濃度)、第2領域3bの厚さは図18の表に示す。シミュレーションを行なって得られた開放電圧[V]、短絡電流密度[mA/cm]、曲率因子、変換効率を図19の表に示す。
【0085】
実施例Dでは、第2領域3bに関して評価をしている。第2領域3b、つまり、p+型領域がp型光吸収層3の裏面側に存在すると、裏面側の正孔濃度が増加する。裏面側の局所的な正孔濃度の増加によって裏面再結合が減少して短絡電流密度が増加する。
明細書中一部の元素は、元素記号のみで示している。
【符号の説明】
【0086】
100…太陽電池(第1太陽電池)、1…基板、2…p電極、3…p型光吸収層、3a…第1領域、3b…第2領域、4…n型層、5…n電極
200…多接合型太陽電池、201…第2太陽電池、
300…太陽電池モジュール、6…基板、301第1太陽電池モジュール、302…第2太陽電池モジュール、303…サブモジュール、304…バスバー、
400…太陽光発電システム、401…太陽電池モジュール、402…コンバーター、403…蓄電池、404…負荷
500…車両、501…車体、502…太陽電池モジュール、503…電力変換装置、504…蓄電池、505…モーター、506…タイヤ(ホイール)
600…飛翔体、601…機体骨格、602…モーター、603…回転翼、604…制御ユニット
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19