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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-20
(45)【発行日】2024-10-01
(54)【発明の名称】床版架け替え方法
(51)【国際特許分類】
   E01D 22/00 20060101AFI20240924BHJP
   E01D 19/12 20060101ALI20240924BHJP
   E01D 21/00 20060101ALI20240924BHJP
   E01D 24/00 20060101ALI20240924BHJP
【FI】
E01D22/00 A
E01D19/12
E01D21/00 A
E01D21/00 B
E01D24/00
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2024059604
(22)【出願日】2024-04-02
(62)【分割の表示】P 2020078864の分割
【原出願日】2020-04-28
(65)【公開番号】P2024074895
(43)【公開日】2024-05-31
【審査請求日】2024-04-02
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129425
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 護晃
(74)【代理人】
【識別番号】100168642
【弁理士】
【氏名又は名称】関谷 充司
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100217076
【弁理士】
【氏名又は名称】宅間 邦俊
(72)【発明者】
【氏名】三室 恵史
(72)【発明者】
【氏名】山中 宏之
(72)【発明者】
【氏名】南 浩郎
【審査官】高橋 雅明
(56)【参考文献】
【文献】実開昭60-070617(JP,U)
【文献】特開2018-100564(JP,A)
【文献】特開2004-232426(JP,A)
【文献】特開2016-098489(JP,A)
【文献】特開2009-191458(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D 22/00
E01D 19/12
E01D 21/00
E01D 24/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
床版を揚重して移動可能な揚重移動機を用いて、床版の列に対し一の進行方向に順次架け替え作業を行う床版架け替え方法であって、
床版架け替え対象の橋梁が、第1の車線と第2の車線とを含む複数の車線を有し、
前記第1の車線にて前記床版架け替え方法を行っている間、前記第2の車線にて一般車両の通行が可能であり、
前記第2の車線における前記第1の車線に隣接する端部上に仮設防護柵が設置されており、
前記揚重移動機は、既設床版の列上を移動するとともに、前記揚重移動機から前記架け替え作業の進行方向と反対方向に張り出した位置に吊り点を有し、
前記架け替え作業は、
(1)前記揚重移動機により、既設床版を吊り上げて撤去する既設床版撤去工程と、
(2)前記揚重移動機が既設床版を吊り上げて前記架け替え作業の進行方向に移動し、既設床版搬出用の運搬車両が前記揚重移動機の前記吊り点の下方に位置し、その後、前記揚重移動機が既設床版を前記既設床版搬出用の運搬車両に吊り下ろして、前記既設床版搬出用の運搬車両に既設床版を載せて退出させる既設床版搬出工程と、
(3)新設床版搬入用の運搬車両が前記揚重移動機の前記吊り点の下方に位置し、その後、前記揚重移動機が前記新設床版搬入用の運搬車両から新設床版を吊り上げて、その後、前記新設床版搬入用の運搬車両を退出させる新設床版搬入工程と、
(4)前記揚重移動機が前記架け替え作業の進行方向と反対方向に移動して、新設床版を吊り下ろして設置する新設床版設置工程と、
を含み、
前記既設床版搬出工程において、前記揚重移動機が既設床版を前記既設床版搬出用の運搬車両に吊り下ろす前に、既設床版を吊り上げている状態で既設床版を90°回転させることで、既設床版の長手方向を橋軸直角方向から橋軸方向に変え、
前記新設床版設置工程において、新設床版を吊り下ろす前に、新設床版を吊り上げている状態で新設床版を90°回転させることで、新設床版の長手方向を橋軸方向から橋軸直角方向に変え、
前記揚重移動機は、左右の接地部で既設床版の列上に支持されて、左右の接地部間に前記運搬車両が通り抜けることができる空間を有し、
前記既設床版搬出工程及び/又は前記新設床版搬入工程において、前記運搬車両が前記揚重移動機の前記吊り点の下方へ進入する際に、前記運搬車両が、前記揚重移動機の左右の接地部間の前記空間を通って移動する、床版架け替え方法。
【請求項2】
前記吊り点は、前記揚重移動機の上部に支持されて前記揚重移動機から前記反対方向に張り出す桁の先端側に設けられている、請求項1に記載の床版架け替え方法。
【請求項3】
前記運搬車両は、前記橋梁における一般車両が通行する車線を走行することができる、請求項1又は請求項2に記載の床版架け替え方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既設の橋梁などにおいて床版の架け替え(既設床版の撤去とこれに替わる新設床版の設置)を行う際の床版架け替え方法に関する。
【背景技術】
【0002】
床版は、プレキャストコンクリート製で、橋梁において主桁(橋桁)上に並べられて路面の基礎をなしている。
かかる床版については、長年の使用による内部の鉄筋の腐食などの理由で、架け替え(既設床版の撤去と新設床版の設置)が求められる場合がある。
【0003】
従来の床版架け替え方法としては、特許文献1に記載の方法が知られている。
ここで用いられる床版架け替え機は、橋軸方向前後の門型フレームを連結してなり前後の門型フレームで床版架け替え位置を跨ぐ自走式の門型構造体と、門型構造体の天井部に沿って並列に配設される2組のレールと、各レールに懸架されて移動可能な第1及び第2の吊上装置(チェーンブロック)と、を備える。
【0004】
第1の吊上装置は新設床版の搬入・設置用、第2の吊上装置は既設床版の撤去・搬出用であり、これらは、床版を吊り上げた状態で、橋軸方向で互いに反対方向にすれ違うことができる。
また、トレーラなどの運搬車両が、新設床版の搬入、及び、既設床版の搬出に用いられる。
【0005】
上記の床版架け替え機を用いた床版架け替え方法では、第1の吊上装置による新設床版の搬入位置(トレーラからの吊り上げ位置)から架け替え位置(新設床版の吊り下ろし設置位置)への移送と、第2の吊上装置による既設床版の架け替え位置(既設床版の吊り上げ撤去位置)から搬出位置(トレーラへの吊り下ろし位置)への移送とを同時に行うことが可能となり、新設床版の搬入・設置と、既設床版の撤去・搬出を並行して行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2018-100564号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の床版架け替え方法では、床版架け替え機が床版架設位置を跨ぐようになり、一方の門型フレームは撤去前の既設床版上に載るが、他方の門型フレームは設置直後の新設床版上に載ることになる。
従って、設置直後の新設床版に大きな負荷をかけることになる。
【0008】
一般に、プレキャストコンクリート製の床版は、床版間に予め定められた隙間をあけて設置し、この隙間には、両床版から内部の鉄筋(定着用の継手)が突出している。従って、この隙間に間詰めコンクリート(モルタル)を打設することで、完成する。
このため、設置直後の床版は、未完成状態であり、これに床版架け替え機の荷重をかけることが好ましくない場合がある。
【0009】
また、特許文献1に記載の床版架け替え方法では、1台の床版架け替え機に、2台の吊上装置が必要で、しかもすれ違いを可能とする必要があることから、床版架け替え機の構成が複雑になるという問題点もあった。
【0010】
本発明は、このような実状に鑑み、設置直後の新設床版に負荷をかけることなく、しかも比較的簡単な構成で実施可能な、床版架け替え方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る床版架け替え方法は、床版を揚重して移動可能な揚重移動機を用いて、床版の列に対し一の進行方向に順次架け替え作業を行う床版架け替え方法であって、
床版架け替え対象の橋梁が、第1の車線と第2の車線とを含む複数の車線を有し、
前記第1の車線にて前記床版架け替え方法を行っている間、前記第2の車線にて一般車両の通行が可能であり、
前記第2の車線における前記第1の車線に隣接する端部上に仮設防護柵が設置されており、
前記揚重移動機は、既設床版の列上を移動するとともに、前記揚重移動機から前記架け替え作業の進行方向と反対方向に張り出した位置に吊り点を有し、
前記架け替え作業は、
(1)前記揚重移動機により、既設床版を吊り上げて撤去する既設床版撤去工程と、
(2)前記揚重移動機が既設床版を吊り上げて前記架け替え作業の進行方向に移動し、既設床版搬出用の運搬車両が前記揚重移動機の前記吊り点の下方に位置し、その後、前記揚重移動機が既設床版を前記既設床版搬出用の運搬車両に吊り下ろして、前記既設床版搬出用の運搬車両に既設床版を載せて退出させる既設床版搬出工程と、
(3)新設床版搬入用の運搬車両が前記揚重移動機の前記吊り点の下方に位置し、その後、前記揚重移動機が前記新設床版搬入用の運搬車両から新設床版を吊り上げて、その後、前記新設床版搬入用の運搬車両を退出させる新設床版搬入工程と、
(4)前記揚重移動機が前記架け替え作業の進行方向と反対方向に移動して、新設床版を吊り下ろして設置する新設床版設置工程と、
を含み、
前記既設床版搬出工程において、前記揚重移動機が既設床版を前記既設床版搬出用の運搬車両に吊り下ろす前に、既設床版を吊り上げている状態で既設床版を90°回転させることで、既設床版の長手方向を橋軸直角方向から橋軸方向に変え、
前記新設床版設置工程において、新設床版を吊り下ろす前に、新設床版を吊り上げている状態で新設床版を90°回転させることで、新設床版の長手方向を橋軸方向から橋軸直角方向に変える。
前記揚重移動機は、左右の接地部で既設床版の列上に支持されて、左右の接地部間に前記運搬車両が通り抜けることができる空間を有し、
前記既設床版搬出工程及び/又は前記新設床版搬入工程において、前記運搬車両が前記揚重移動機の前記吊り点の下方へ進入する際に、前記運搬車両が、前記揚重移動機の左右の接地部間の前記空間を通って移動する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、揚重移動機は、既設床版上を移動するだけであり、揚重移動機が新設床版に負荷をかけることは無い。
また、基本的に、1台の揚重移動機で実施でき、しかも吊り点は1つで、その吊り点を揚重移動機に対し相対移動させる必要もないので、簡単な構成で実施でき、コスト等の低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態として床版架け替え対象の橋梁の工事例を示す正面図
図2】同上の工事例の平面図及び側面図
図3】床版架け替え作業の手順を示す側面図
図4】床版架け替え作業の手順を示す平面図
図5】2台の揚重移動機を用いる場合の床版架け替えパターンの説明図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
図1は本発明の一実施形態として床版架け替え対象の橋梁の工事例を示す正面図である。また、図2は同上の工事例の(a)平面図及び(b)側面図である。
【0015】
床版の架け替えによる橋梁の再構築については、供用中の道路を対象とするものであるため、工事に伴う交通規制等によるソーシャルロスを最小限にすることが最重要課題となる。このため、本実施形態での床版の架け替えは、いわゆる「半断面施工」としている。
【0016】
すなわち、床版架け替え対象の橋梁が、4本並列に設けられるH形鋼からなる主桁(橋桁)1上に、床版2を2列に並べて、2車線A、Bを構成している場合に、片側ずつ、例えば先に車線Aの床版架け替え工事を行い、この間、車線Bの一般車両の通行を可能とする。この場合、中間(車線Bの床版の端部上)に仮設防護柵3を設置する。
【0017】
図2はまた、本発明の一実施形態として1台の揚重移動機による床版架け替え作業の基本パターンを示している。
すなわち、床版を揚重して移動可能な揚重移動機10を用いて、床版の列に対し一の進行方向(図2の矢印方向)に順次架け替え作業を行う。言い換えれば、床版架け替えエリア(既設床版の列)の一端部から他端部に向かって、順次架け替え作業を行う。
【0018】
また、床版架け替え作業の進行方向(図2の矢印方向)が揚重移動機10の基本的な移動方向となる。従って、揚重移動機10が図2で左側に進むことを前進といい、逆に右側に進むことを後退という。また、揚重移動機10の図2で左側が前方、図2で右側が後方となる。
【0019】
また、トレーラあるいはトラックなどの運搬車両20を用いて、揚重移動機10が撤去した既設床版の搬出、及び、揚重移動機10が設置する新設床版の搬入を行う。
この場合、運搬車両20は、車線Aの床版架け替え作業の間、既設床版の搬出、及び、新設床版の搬入のために、供用中の車線Bを走行することができる。
【0020】
次に、本実施形態において床版架け替え作業に用いる揚重移動機10及び運搬車両20について、図1及び図2により、更に詳しく説明する。
【0021】
揚重移動機10は、その本体が門型構造であり、左右の接地部(12)で既設床版2上に支持され、左右の接地部間に運搬車両20が通り抜けることができる空間13を有している。
【0022】
前記左右の接地部は、本実施形態では、車輪12により構成されている。これにより、接地部で走行でき、接地部が走行部を兼ねることができる。
【0023】
また、本実施形態での車輪12は、軌道輪であり、既設床版2の列上に鋼製枕木(図示省略)を介して敷設された一対のレール11上を走行する。このように軌道輪とすることで、架け替え作業の際の揚重移動機10の位置、及び、通り抜け用の空間13の位置を安定させることができる。
但し、車輪12をタイヤ式として、レール敷設作業を不要とすることを妨げるものではない。
【0024】
揚重移動機10はまた、既設床版2の列上を移動するとともに、揚重移動機10の本体から床版架け替え作業の進行方向と反対方向(後方)に張り出した位置に吊り点(吊り装置15)を有する。
従って、揚重移動機10は、その本体の上部に支持されて後方へ張り出す桁14と、桁14の先端側に設けられた吊り装置15とを含む。
【0025】
吊り装置15は、少なくともシーブ又はワイヤ繰り出し部を含み、ウインチなどの動力部は吊り装置15とシーブ等を介して連動する。
【0026】
吊り装置15は、既設床版を撤去のために吊り上げること、撤去した既設床版を搬出用の運搬車両に吊り下ろすこと、新設床版を搬入用の運搬車両から吊り上げること、及び、新設床版を設置のために吊り下ろすことが可能である。
【0027】
ここにおいて、吊り装置15は桁14により支持され、桁14は揚重移動機10の後方に張り出しているため、吊り装置15を前後に移動させることなく、上記の吊り上げ・吊り下ろし作業が可能となる。
【0028】
運搬車両20としては、タイヤ式のトレーラあるいはトラックなどを用いる。従って、一般道路を走行することができる。
但し、専用の台車を用いることを妨げるものではない。
【0029】
次に本実施形態での床版架け替え作業の手順を図3及び図4により説明する。
図3は床版架け替え作業の手順を示す側面図、図4は同上の床版架け替え作業の手順を示す平面図である。なお、図3の(a)~(h)と図4の(a)~(h)は互いに対応している。また、図3及び図4では説明の簡略化のためレール11の図示を省略した。また、既設床版2に対し、新設床版には「2N」の符号を付した。
【0030】
また、図3及び図4では、床版架け替え作業は、右端から左方向に進行する。従って、図3及び図4における現在の床版架け替え位置より右側には、主桁1上に設置済みの新設床版2Nがあり、左側には撤去前の既設床版2が存在している。そして、最新に設置された新設床版2Nに隣接する位置から既設床版2が撤去され、これに替えて新設床版2Nが設置されることになる。
【0031】
図3(a)及び図4(a)では、揚重移動機10は、既設床版の撤去位置、すなわち、床版架け替え位置に近接する既設床版2上で、吊り点(吊り装置15)が床版架け替え位置の上方にくる位置に移動している。
【0032】
揚重移動機10は、かかる既設床版の撤去位置で、既設床版2を主桁1上から吊り上げて、撤去する。
このとき、既設床版搬出用の運搬車両20は、空荷で、揚重移動機10の前方(図で左方)に待機している。
【0033】
図3(a)及び図4(a)の工程が、揚重移動機10により、既設床版2を吊り上げて撤去する、既設床版撤去工程に相当する。
【0034】
次に、図3(b)及び図4(b)に示すように、揚重移動機10が撤去した既設床版2を吊り上げたまま前方へ受渡し位置まで移動する。運搬車両20は、揚重移動機10の下(通り抜け用の空間)を通って、揚重移動機10の後方(吊り点の下方)へ進入、位置する。
そして、揚重移動機10が撤去した既設床版2を運搬車両20の荷台に吊り下ろす。この吊り下ろしの際に、人力等により、介錯ロープを用いるなどして、既設床版2を90°回転させ、既設床版2の長手方向を橋軸直角方向から橋軸方向に変える。これにより、揚重移動機10が撤去した既設床版2を運搬車両20に受渡すことができる。
【0035】
次に、図3(c)及び図4(c)に示すように、揚重移動機10が床版受渡し位置より更に前方へ移動してもよい。これにより、運搬車両20がバックで、床版受取り位置から前方へ移動した後、方向転換するなどして、退出することができる。これにより、供用中の車線Bを通って帰ることができる。
【0036】
なお、揚重移動機10を図3(b)及び図4(b)の床版受渡し位置に待機させたまま、運搬車両20がバックで、揚重移動機10の下(通り抜け用の空間)を通って、退出するようにしてもよいし、揚重移動機10の下(通り抜け用の空間)を通らず、運搬車両20の前進により退出してもよい。
【0037】
図3(b)及び図4(b)~図3(c)及び図4(c)の工程が、揚重移動機10が既設床版2を吊り上げて架け替え作業の進行方向に移動し、既設床版搬出用の運搬車両20が揚重移動機10の吊り点の下方に位置し、その後、揚重移動機10が既設床版2を運搬車両20に吊り下ろして、運搬車両20に既設床版2を載せて退出させる、既設床版搬出工程に相当する。
【0038】
運搬車両20が既設床版2を載せて退出した後、図3(d)及び図4(d)に示すように、新たな運搬車両20が新設床版2Nを載せて車線B経由でやってくる。
揚重移動機10は、床版受取り位置(受渡し位置と同じ)で待機している。
そして、運搬車両20は、揚重移動機10の下(通り抜け用の空間)を通って、揚重移動機10の後方(床版受渡し位置;図示点線位置)へ進入、位置する。
【0039】
なお、揚重移動機10を図3(c)及び図4(c)の位置に待機させた状態で、新設床版2Nを載せた運搬車両20を、揚重移動機10の下を通過させることなく、先に床版受渡し位置に進入させ、次いで揚重移動機10を床版受取り位置まで移動させるようにしてもよい。
【0040】
次に、図3(e)及び図4(e)に示すように、揚重移動機10が、その吊り装置により、運搬車両20の荷台から新設床版2Nと吊り上げる。これにより、新設床版2Nを運搬車両20から受取ることができる。
【0041】
次に、図3(f)及び図4(f)に示すように、空荷となった運搬車両20がバックで、揚重移動機10の下(通り抜け用の空間)を通って退出し、揚重移動機10の前方で待機する(新設床版搬入用の運搬車両と既設床版搬出用の運搬車両とを兼ねる場合)。また、揚重移動機10の下(通り抜け用の空間)を通らず、運搬車両20の前進により退出してもよい。
【0042】
図3(d)及び図4(d)~図3(f)及び図4(f)の工程が、新設床版搬入用の運搬車両20が揚重移動機10の吊り点の下方に位置し、その後、揚重移動機10が運搬車両20から新設床版2Nを吊り上げて、その後、運搬車両20を退出させる、新設床版搬入工程に相当する。
【0043】
次に、図3(g)及び図4(g)に示すように、揚重移動機10が設置用の新設床版2Nを吊ったまま、架け替え作業の進行方向と反対側に移動して、新設床版の設置位置、すなわち、床版架け替え位置に近接する既設床版2上で、吊り点(吊り装置15)が床版架け替え位置の上方にくる位置まで移動する。
【0044】
揚重移動機10は、かかる新設床版の設置位置で、新設床版2Nを主桁1上に吊り下ろして、設置する。この吊り下ろしの際に、人力等により、介錯ロープを用いるなどして、新設床版2Nを90°回転させ、新設床版2Nの長手方向を橋軸方向から橋軸直角方向に変える。これにより、揚重移動機10が新設床版2Nを正しく設置することができる。
【0045】
図3(g)及び図4(g)の工程が、揚重移動機10が前記架け替え作業の進行方向と反対方向に移動して、新設床版2Nを吊り下ろして設置する、新設床版設置工程に相当する。
【0046】
以上で床版架け替えの1サイクル(1つの架け替え位置での既設床版の撤去から新設床版の設置まで)が終了し、次の床版架け替えに移行する。
このため、図3(h)及び図4(h)に示すように、揚重移動機10が床版1枚分前進し、図3(a)及び図4(a)と同様に、次の既設床版2を主桁1上から吊り上げて、撤去する。
【0047】
このように、揚重移動機10が既設床版2の列上を床版架け替え作業の進行方向に順次(床版1枚分ずつ)移動しつつ、図3(a)及び図4(a)~図3(g)及び図4(g)の工程を繰り返すことで、床版架け替え作業を効率良く進行することができる。
【0048】
また、図3(f)及び図4(f)で新設床版の搬入を終えた後に待機させている運搬車両20は、次の架け替え作業において(すなわち、図3(h)及び図4(h)において)、撤去した既設床版2の搬出に用いる。
【0049】
すなわち、床版搬入用の運搬車両20は、床版を受け渡してから、空荷で退出させた後、待機させ、次の架け替え作業での床版搬出用の運搬車両20として用いる。これにより、運搬車両20を効率良く運用することができる。
【0050】
また、本実施形態では、既設床版搬出工程において、揚重移動機10が既設床版2を運搬車両20に吊り下ろす前に、既設床版2を吊り上げている状態で既設床版2の向きを変え、新設床版設置工程において、新設床版2Nを吊り下ろす前に、新設床版2Nを吊り上げている状態で新設床版2Nの向きを変えるようにしている。
このように吊り上げている状態で向きを変えるので、向きを変えるために、ターンテーブルなどの大掛かりな装置を用いることなく、人力等で、簡便に実施可能となる。
【0051】
また、本実施形態では、揚重移動機10は、左右の接地部で既設床版2の列上に支持されて、左右の接地部間に運搬車両20が通り抜けることができる空間13を有し、既設床版搬出工程又は新設床版搬入工程において、運搬車両20が揚重移動機10の吊り点の下方へ進入する際に、運搬車両20が、揚重移動機10の左右の接地部間の空間13を通って揚重移動機10の下方に位置、又は移動する。これにより、運搬車両20の進入を容易に行わせることができる。
【0052】
また、本実施形態では、既設床版搬出工程又は新設床版搬入工程において、運搬車両20が揚重移動機10の吊り点の下方から退出する際に、揚重移動機10を運搬車両20への既設床版受渡し位置又は運搬車両20からの新設床版受取り位置よりも架け替え作業の進行方向に移動させ、又は、運搬車両20の前方に移動して、運搬車両20が、揚重移動機10を避けて移動する。これにより、運搬車両20の退出、特に架け替え作業場所からの退出を容易かつ自由に行わせることができる。
【0053】
以上では、図5(a)に示すように、1台の揚重移動機10を用いて、床版架け替えエリア(既設床版の列)の一端部から他端部に向かって、床版架け替え作業を進行させているが、工期の短縮などのため、2台の揚重移動機10を用いて、次のような床版架け替えパターンで作業を進行させることも可能である。
【0054】
例えば、図5(b)に示すように、2台の揚重移動機10A、10Bを用い、既設床版2の列中の任意に1つの位置(中間位置)から、それぞれ反対方向(離れる方向)に、順次架け替え作業を行う。
【0055】
又は、図5(c)に示すように、2台の揚重移動機10A、10Bを用い、既設床版2の列中の任意の2つの位置(両端位置)から、これらの間の中間位置に向かって、順次架け替え作業を行う。
【0056】
このような方法(架け替えパターン)をとることで、床版架け替え作業をより効率良く進めることができる。
【0057】
なお、図示の実施形態はあくまで本発明を概略的に例示するものであり、本発明は、説明した実施形態により直接的に示されるものに加え、特許請求の範囲内で当業者によりなされる各種の改良・変更を包含するものであることは言うまでもない。
なお、特願2020-078864号の出願当初の請求項は以下の通りであった。
[請求項1]
床版を揚重して移動可能な揚重移動機を用いて、床版の列に対し一の進行方向に順次架け替え作業を行う床版架け替え方法であって、
前記揚重移動機は、既設床版の列上を移動するとともに、前記揚重移動機から前記架け替え作業の進行方向と反対方向に張り出した位置に吊り点を有し、
前記架け替え作業は、
(1)前記揚重移動機により、既設床版を吊り上げて撤去する既設床版撤去工程と、
(2)前記揚重移動機が既設床版を吊り上げて前記架け替え作業の進行方向に移動し、既設床版搬出用の運搬車両が前記揚重移動機の前記吊り点の下方に位置し、その後、前記揚重移動機が既設床版を前記運搬車両に吊り下ろして、前記運搬車両に既設床版を載せて退出させる既設床版搬出工程と、
(3)新設床版搬入用の運搬車両が前記揚重移動機の前記吊り点の下方に位置し、その後、前記揚重移動機が前記運搬車両から新設床版を吊り上げて、その後、前記運搬車両を退出させる新設床版搬入工程と、
(4)前記揚重移動機が前記架け替え作業の進行方向と反対方向に移動して、新設床版を吊り下ろして設置する新設床版設置工程と、
を含む、床版架け替え方法。
[請求項2]
前記揚重移動機は、左右の接地部で既設床版の列上に支持されて、左右の接地部間に前記運搬車両が通り抜けることができる空間を有し、
前記既設床版搬出工程又は前記新設床版搬入工程において、前記運搬車両が前記揚重移動機の前記吊り点の下方へ進入する際に、前記運搬車両が、前記揚重移動機の左右の接地部間の前記空間を通って移動する、請求項1記載の床版架け替え方法。
[請求項3]
前記既設床版搬出工程又は前記新設床版搬入工程において、前記運搬車両が前記揚重移動機の前記吊り点の下方から退出する際に、前記揚重移動機を前記運搬車両への既設床版受渡し位置又は前記運搬車両からの新設床版受取り位置よりも前記架け替え作業の進行方向に移動させ、前記運搬車両が、前記揚重移動機を避けて移動する、請求項1又は請求項2記載の床版架け替え方法。
[請求項4]
前記揚重移動機を2台用い、既設床版の列中の任意の1つの位置から、それぞれ反対方向に、順次架け替え作業を行う、請求項1~請求項3のいずれか1つに記載の床版架け替え方法。
[請求項5]
前記揚重移動機を2台用い、既設床版の列中の任意の2つの位置から、これらの間の中間位置に向かって、順次架け替え作業を行う、請求項1~請求項3のいずれか1つに記載の床版架け替え方法。
【符号の説明】
【0058】
1 主桁
2 床版(既設床版)
2N 新設床版
3 仮設防護柵
10、10A、10B 揚重移動機
11 レール
12 車輪(左右の接地部)
13 通り抜け用の空間
14 桁
15 吊り装置(吊り点)
20 運搬車両
図1
図2
図3
図4
図5