(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】免疫老化改善用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 36/73 20060101AFI20240925BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
A61K36/73
A61P37/04
(21)【出願番号】P 2020108408
(22)【出願日】2020-06-24
【審査請求日】2023-01-19
(73)【特許権者】
【識別番号】593106918
【氏名又は名称】株式会社ファンケル
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100194803
【氏名又は名称】中村 理弘
(72)【発明者】
【氏名】野口 真行
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 知倫
(72)【発明者】
【氏名】澤野 健史
【審査官】佐々木 大輔
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第103815482(CN,A)
【文献】特開2006-316026(JP,A)
【文献】Pharmaceutical Chemistry Journal,1997年,Vol.31, No.9,pp.488-491
【文献】Experimental Gerontology,2010年,Vol.45,pp.763-771
【文献】Biochimica et Biophysica Acta,2002年,Vol.1593,pp.29-36
【文献】PNAS,2009年,Vol.106, No.37,pp.15807-15812
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/73
A61P 43/00
A61P 31/12
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キンミズヒキ抽出物を有効成分として含有する免疫老化の改善及び/又は抑制用組成物
(但し、ナツメ由来の成分を含有しない)。
【請求項2】
免疫老化が加齢によるものである請求項1に記載の免疫老化の改善及び/又は抑制用組成物。
【請求項3】
免疫老化が、ナイーブT細胞の減少及び/又はメモリーT細胞の増加による免疫応答の低下である請求項1又は2に記載の免疫老化の改善及び/又は抑制用組成物。
【請求項4】
免疫老化が、CD4陽性及び/又はCD8陽性T細胞のうち、PD-1を発現するT細胞の増加による免疫応答の低下である請求項1~3のいずれかに記載の免疫老化の改善及び/又は抑制用組成物。
【請求項5】
キンミズヒキ抽出物を有効成分として含有する、免疫老化による生体異常の改善、軽減、又は生体異常抑制用組成物
(但し、ナツメ由来の成分を含有しない)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫老化改善用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
若年者の加齢は、生体の成熟と安定化をもたらすが、成年後の加齢(老化)には、様々な生理機能の低下が指摘されている。このような生理機能の低下のなかでも、免疫機能の低下現象が特徴的なものとして著名である。加齢に伴う免疫の変化は、胸腺機能の低下に伴う獲得免疫応答能の低下、炎症性素因の増大、自己免疫リスクの増大が具体的な変化である。このような加齢に伴う免疫の変化は免疫老化と呼ばれる。
免疫老化は、免疫系の加齢に伴う変化の特徴を包括して表現した用語であり、おおむね、獲得免疫応答能の低下、炎症性素因の増大、自己免疫リスクの増大、という3つの兆候により特徴づけられている。すなわち、感染源から身体を防御し、それらを排除する正常な免疫応答が低下する一方、慢性炎症や自己免疫応答が亢進するという、二面性をもつことに特徴がある。加齢によりあらゆる免疫細胞が質的および機能的に変化をきたすが、T細胞を産生する胸腺の機能が早期に低下することから、加齢による変化は、T細胞がもっとも大きいといわれている。
T細胞サブセットは、加齢とともにその構成も変化する。特に免疫老化の状態ではナイーブT細胞が減少し、メモリーT細胞が増加することが知られている。また、老化したT細胞は、サイトカインの産生能も減弱し、PD-1などのT細胞の活性化を抑制する抑制性受容体の発現が増加している。いわゆるチェックポイント分子の一つであるPD-1を発現する細胞が増加する。これにより、T細胞は自己の活性化が抑制され、さらに、PD-1に結合するリガンドであるPD-L1およびPD-L2は、抗原提示細胞の表面や血管内皮等に発現し、老化に伴って増加し、T細胞を抑制させる。このように免疫老化の指標が明らかになってきた。
これまでの知見から、免疫老化を改善するためには、T細胞のサブセットを正常化させ、PD-1発現細胞を低下させることで改善が可能となると考えられている。
【0003】
さらにまた、このような観点から免疫老化を改善するためのいくつかの提案がなされている。特許文献1には、免疫細胞のCD11bに結合するCD11bモジュレータと免疫細胞を接触させることによって、免疫細胞におけるPD-1の発現を阻害する方法が提案されている。
また特許文献2には、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)により幹細胞を富化した自己血漿と、ABO/Rhタイプの適合するドナーの臍帯血から得られる幹細胞豊富な血漿とを組み合わせた、幹細胞豊富な血漿を投与することで、老化したT細胞を補強する移植免疫強化の提案がなされている。しかし、まだこのような手法は、実用化には至っていない。
【0004】
現在も免疫老化改善のための薬剤や改善方法が探索されており、免疫老化を改善させる薬剤や改善方法が希求されている。
【0005】
一方、植物由来の抽出物が様々な医療用途に用いられている。中でもキンミズヒキ抽出物が近年注目されている。
キンミズヒキ(金水引、学名:Agrimonia pilosa)は、バラ科キンミズヒキ属の多年草で漢方薬に利用される。生薬名は仙鶴草である。キンミズヒキの花期の地上部の茎葉には、精油とタンニンを含んでおり、そのうちの主成分となるタンニンは、細胞組織を引き締める収斂作用があることが知られている。また、水で煮出した水性エキスには、胆嚢の働きを助ける利胆作用があるといわれている。根には、タンニンのほか、フェノール性配糖体、アグリモノリド、フィトステロール、バニル酸、タキシフォリンなどが含まれることが知られている。
【0006】
キンミズヒキ抽出物の薬理効果として、特許文献3にはキンミズヒキ抽出成分を有効成分とする神経活性化組成物が記載されている。
特許文献4には、キンミズヒキ抽出物を含有する美白剤、抗老化剤、皮膚化粧料が記載されている。
特許文献5には、キンミズヒキ抽出物を含有するαグルコシダーゼ阻害剤が記載されている。
特許文献6には、キンミズヒキ抽出物を有効成分として含有する皮膚外用剤及びアレルゲン賦活剤が記載されている。
しかしキンミズヒキ抽出物が、上述の免疫老化の抑制や、その改善用途に用いることができることは知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特表2018-524300号公報
【文献】特開2019-112463号公報
【文献】特開2018-8888号公報
【文献】特開2010-65009号公報
【文献】特開2006-16388号公報
【文献】特開2008-174529号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、T細胞の分化を研究する過程で、様々な植物抽出物のスクリーニングを行い、T細胞の分化を制御する抽出物を見出した。そして、この抽出物は、加齢に伴う免疫老化を改善し、細胞性免疫の応答を回復することを見出し、本発明をなした。
すなわち、本発明は、加齢に伴う免疫老化の改善及び/又は抑制用組成物を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の構成は以下のとおりである。
(1)キンミズヒキ抽出物を有効成分として含有する免疫老化の改善及び/又は抑制用組成物。
(2)免疫老化が加齢によるものである(1)に記載の免疫老化の改善及び/又は抑制用組成物。
(3)免疫老化が、ナイーブT細胞の減少及び/又はメモリーT細胞の増加による免疫応答の低下である(1)又は(2)に記載の免疫老化の改善及び/又は抑制用組成物。
(4)免疫老化が、CD4陽性及び/又はCD8陽性T細胞のうち、PD-1を発現するT細胞の増加による免疫応答の低下である(1)~(3)のいずれかに記載の免疫老化の改善及び/又は抑制用組成物。
(5)キンミズヒキ抽出物を有効成分として含有する、免疫老化による生体異常の改善、軽減、又は生体異常抑制用組成物。
【0010】
本発明により、免疫老化の改善及び/又は抑制用組成物が提供される。
また本発明によりキンミズヒキ抽出物を有効成分として含有する、免疫老化によって引き起こされる各種生体異常の改善、軽減又は生体異常の抑制用の組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】CD4+T細胞のうち、CD4とPD-1で展開したカウンタープロットを示す。データは、n=5のうち、代表的な1つの結果を載せている。
【
図2】
図1で示すPD-1+CD4+T細胞の比率(%)を平均化したデータをグラフ化したものである。
【
図3】CD8+T細胞のうち、CD8とPD-1で展開したカウンタープロットを示す。データは、n=5のうち、代表的な1つの結果を載せている。
【
図4】
図3で示すPD-1+CD8+T細胞の比率(%)を平均化したデータをグラフ化したものである。
【
図5】CD4+T細胞のうち、CD44とCD62Lで展開したドットプロットである。
【
図6】
図5のうち、ナイーブT細胞(CD44lowCD62Lhigh細胞)の比率(%)をグラフ化したものである。
【
図7】
図5のうち、メモリーT細胞(CD44highCD62Llow細胞)の比率(%)をグラフ化したものである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本願明細書において、「免疫老化」とは、胸腺機能の低下や免疫担当細胞の機能等の変化 (低下)であって、T細胞に占めるナイーブT細胞数の減少及び/又はメモリーT細胞数の増加した状態であるか、もしくはCD4陽性及び/又はCD8陽性T細胞のうち、PD-1を発現するT細胞の増加をいう。
また本願明細書において「免疫老化の改善」とは、
1.加齢によって変化したナイーブ/メモリーT細胞比率を、若齢様に回帰させること。
2.CD4陽性及び/又はCD8陽性T細胞のうち、PD-1を発現するT細胞を減少させること。
のいずれか、又は両方を実現することをいう。
さらにまた「免疫老化の抑制」とは、
1.T細胞に占めるナイーブT細胞数の減少を抑制すること及び/又はメモリーT細胞の加齢による増加を抑制すること、
2.CD4陽性及び/又はCD8陽性T細胞のうち、PD-1を発現するT細胞の増加を抑制すること、
のいずれか、又は両方を実現することをいう。
そして、本発明でいう免疫老化によって引き起こされる各種生体異常とは、「獲得免疫応答能の低下、炎症性素因の増大、自己免疫リスクの増大」及び「獲得免疫応答能の低下、炎症性素因の増大、自己免疫リスクの増大に伴う疾患」をいう。
【0013】
キンミズヒキ(学名:Agrimonia pilosa)は、バラ科キンミズヒキ属の多年草であり、本州、四国、九州などの林の縁、原野、路傍に生息しており、容易に入手可能である。別名、龍牙草ともいう。本発明において、キンミズヒキは、漢方生薬、民間療法薬、健康食品(ハーブティー)原料として市販されている乾燥物を使用することができる。全草を乾燥させたものは、仙鶴草の生薬名で市販されている。これを使用することもできる。
また自生あるいは栽培された全草を採取し、これを自然乾燥又は加熱乾燥させたものを使用することができる。これを細切し、約10倍量の水または、含水濃度0~99.5%(v/v)エタノールに3~5日間浸漬して室温で抽出するか、あるいは還流冷却器を付して50~80℃で5~24時間抽出し、濾過してキンミズヒキ抽出液を回収する。この抽出液は、ロータリーエバポレーターなどの減圧真空乾燥装置、又は凍結乾燥装置によって、水及びエタノールを除去してキンミズヒキ抽出物とする。
【0014】
キンミズヒキ抽出物を有効成分とする加齢に伴う免疫老化の改善及び/又は抑制用組成物は、前記抽出物をそのまま、あるいは慣用の医薬用製剤担体とともに医薬用組成物として動物及びヒトに投与することができる。医薬用組成物の剤形としては特に制限されるものではなく、必要に応じて適宜選択すればよい。例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤などの経口剤や、注射剤、坐薬などの非経口剤が挙げられる。投与量は、経口剤の場合、通常成人で抽出物の乾燥質量で1~1000mgを1日数回に分けて服用するのが適当である。
【0015】
本発明において錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤などの経口剤は、デンプン、乳糖、白糖、マンニット、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類などの賦形剤を用いて常法に従って製造される。この種の経口剤には本発明組成物の他に結合剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤、着色剤、香料などを適宜使用できる。
【0016】
有効成分以外の配合成分を次に例示する。結合剤としてはデンプン、デキストリン、アラビアガム、ゼラチン、ヒドロキシプロピルスターチ、メチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、結晶性セルロース、エチルセルロース、ポリビニルピロリドン、マクロゴールなどが例示できる。崩壊剤としてはデンプン、ヒドロキシプロピルスターチ、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルボキシメチルセルロース、低置換ヒドロキシプロピルセルロースなどを例として挙げることができる。界面活性剤としてはラウリル硫酸ナトリウム、大豆レシチン、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどを挙げることができる。滑沢剤としては、タルク、ロウ類、水素添加植物油、ショ糖脂肪酸エステル、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ポリエチレングリコールなどを例示できる。流動性促進剤としては軽質無水ケイ酸、乾燥水酸化アルミニウムゲル、合成ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウムなどを例として挙げることができる。
【0017】
またキンミズヒキ抽出物を有効成分として含有する免疫老化による生体異常の改善、軽減、又は生体異常発生抑制用の組成物の含有量には、特に制限はない。通常は、キンミズヒキ抽出物は、組成物当たり0.01~50質量%、好ましくは0.1~30質量%を含むように配合する。
以下、実施例として動物を用いた効果試験例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【実施例】
【0018】
<免疫担当細胞へのキンミズヒキ抽出物の効果試験>
1.試験方法
(1)試験試料の調製
・キンミズヒキ抽出物の調製
キンミズヒキの生薬(仙鶴草、株式会社栃本天海堂)400から500gをミキサーで粉砕した。次いで粉砕物質量の10倍量の99.5%のエチルアルコールを加え、十分浸漬させた。これを室温で4日間攪拌した後、固液分離して抽出液を得た。本工程を3回繰り返し、得られた抽出液を、常法によりロータリーエバポレーターを用いて、エチルアルコール及び水を蒸発除去し、乾固物を得た。この乾固物を本発明のキンミズヒキ抽出物として以下の試験に用いた。
【0019】
(2)試験動物
・老齢動物:入荷時78週齢のC57BL/6Jマウス(雄性、78週齢、日本チャールス・リバー株式会社)。
・若齢動物:入荷時7週齢のC57BL/6Jマウス(雄性、7週齢、日本チャールス・リバー株式会社)。
老齢動物は、入荷後1週間精製飼料(AIN-93M オリエンタル酵母工業株式会社)で馴化飼育した後、1群5匹とし、Vehicle群、キンミズヒキ抽出物(A.P)投与群の2群に群分けし、試験に供した。
また若齢動物(Young)5匹は、入荷後精製飼料(AIN-93M オリエンタル酵母工業株式会社)で1週間馴化飼育したのち採血を行った。
【0020】
(3)試験動物へのキンミズヒキ抽出物の投与方法
前記のキンミズヒキ抽出物を精製飼料AIN-93Mと混合し、キンミズヒキ抽出物が0.5質量%となるよう十分に攪拌混合し、これを試験餌として、試験開始から4か月間自由摂取させた。
【0021】
(4)効果の確認方法
試験動物の免疫老化とその改善及び/又は抑制効果を確認するため、T細胞サブセットの比率を確認した。
老齢動物の飼育期間経過後、イソフルラン吸引麻酔下で心臓採血により全血を採取し、これを血漿と血球に分離した。血球は、フィコール(GEヘルスケアライフサイエンス)にて白血球を遠心分離した。この白血球画分を用いてT細胞のサブセットを解析した。
若齢動物も同様にイソフルラン吸引麻酔下で心臓採血により全血を採取し、これを血漿と血球に分離した。
なお若齢動物の採血及び白血球画分の採取も老齢動物と同様に行った。
T細胞のサブセット解析は、サブセット特定用の各抗体を用いてラベル染色を行い、セルソーター「FACSAriaII(商標)」(BD Biosciences社)によって、セルソートして行った。
【0022】
T細胞サブセット解析に用いた抗体は次のとおりである。
APC/cy7-抗CD4抗体(Biolegend社):CD4+T細胞マーカー
APC-抗PD-1抗体(eBioscience社):PD-1発現細胞マーカー
FITC-抗CD44抗体(Biolegend社)及びPE/Cy7-抗CD62L抗体(Biolegend):ナイーブT細胞及びメモリーT細胞マーカー
PerCP/Cy5.5-抗CD8抗体(Biolegend社):CD8+細胞マーカー
各抗体を用いて染色を行い、セルソーター「FACSAriaII(商標)」(BD Biosciences社)によってT細胞サブセットの解析を行った。
なおソーティング結果によって解析した発現細胞の比率は、テューキー・クレーマー法によって統計解析し有意差検定を行った。P値が0.05以下の場合、有意差ありと判定した。
【0023】
2.フローサイトメーターによる解析結果
本実験結果に示す「+」は、その細胞に発現していることを示す。たとえば、PD-1+CD4+T細胞であれば、PD-1およびCD4をいずれも発現するT細胞を示す。
(1)PD-1及びCD4をマーカーとした解析
図1に、CD4+T細胞を、CD4とPD-1で展開したカウンタープロットのうち、代表的な1つの結果を示す。なお、図中の数値はPD-1+CD4+T細胞の比率(%)である。また
図2に、
図1で示すPD-1+CD4+T細胞の比率(%)を平均化し、グラフ化したものを示した。
図1、
図2から、老化によってPD-1+CD4+T細胞が増加し、キンミズヒキ抽出物投与によってPD-1+CD4+T細胞の割合が減少していることが分かる。すなわち加齢によって、PD-1+CD4+T細胞は増加するが、キンミズヒキ抽出物を投与することで減少した。
PD-1+CD4+T細胞は、細胞性免疫を抑制することが知られており、この細胞の白血球当たりの比率を減少させていることは、キンミズヒキ抽出物が加齢(老化)に伴う細胞性免疫能の低下、すなわち免疫老化を改善することを裏付ける結果であった。
【0024】
(2)PD-1及びCD8をマーカーとした解析
図3にCD8+T細胞を、CD8とPD-1で展開したカウンタープロットのうち、代表的な1つの結果を示す。なお、図中の数値は
図1同様、PD-1+CD8+T細胞の比率(%)である。また
図4に、
図3で示すPD-1+CD8+T細胞の比率(%)を平均化し、グラフ化したものを示した。これらの結果からは、マウスの老齢化によってPD-1+CD8+T細胞が増加し、キンミズヒキ抽出物投与によって減少することが読み取れる。
すなわちキンミズヒキ抽出物投与群によって、加齢に伴って増加するPD-1+CD8+T細胞が顕著に抑制されることが明らかとなった。
以上の解析(1)(2)から、キンミズヒキ抽出物は、免疫老化によって生じているCD4及び/又はCD8陽性T細胞に発現するPD-1を抑制して免疫老化を改善する作用を有することが明らかとなった。
【0025】
(3)CD44及びCD62Lをマーカーとした解析
ナイーブT細胞はCD44の発現が低くCD62L発現が高い(CD44lowCD62Lhigh)細胞であり、メモリーT細胞は、CD44の発現が高くCD62Lの発現が低い(CD44highCD62Llow)細胞である。
図5にCD4+T細胞を、CD44とCD62Lで展開したドットプロットを示す。
CD44の発現量とCD62L発現量で配置したソーティング二次元マップは、若齢動物(Young)、Vehicle、キンミズヒキ抽出物(A.P)投与群の3群、それぞれに異なる分布パターンを示すが、若齢動物とキンミズヒキ抽出物投与群は、類似したパターンを示した。すなわち若齢動物及びキンミズヒキ投与群は、メモリーT細胞の密度が低く、CD44の発現が低くナイーブT細胞の密度が高い。
一方Vehicleは、逆のパターンを示す。すなわちメモリーT細胞の密度が高く、ナイーブT細胞の密度が低いことが分かった。
【0026】
T細胞には抗原未感作のナイーブフェノタイプ(ナイーブT細胞)と抗原感作を受けたメモリーフェノタイプ(メモリーT細胞)が存在する。
上記の結果は、キンミズヒキ投与群である老齢動物のT細胞サブセットの構成が、メモリーT細胞の少ない、ナイーブT細胞の多い、若齢動物と同じT細胞サブセット構成に変化していることを示している。
すなわち、キンミズヒキ抽出物は、加齢によるT細胞サブセットの構成を若齢動物と同じ構成にする作用を有していることが明らかとなった。
【0027】
(4)CD4による再解析
上記(3)で解析した細胞群を、CD4をマーカーとして再解析した。この再解析により、CD44及びCD62Lを発現したT細胞当たりのCD4+T細胞すなわちナイーブT細胞又はメモリーT細胞の比率を知ることができる。
1)ナイーブT細胞の比率
図6に
図5を再解析して得たナイーブT細胞の比率(%)を示す。
すなわち、若齢動物の場合、ナイーブT細胞の比率は80.1%であった。一方Vechcleは35.6%に減少した。これに対して、キンミズヒキ抽出物投与群は59.4%に回復していた。
【0028】
2)メモリーT細胞の比率
図7に
図5を再解析して得たメモリーT細胞の比率を示す。
若齢動物の場合、メモリーT細胞の比率は14.7%であった。一方Vechcleは56.3%に増加した。これに対して、キンミズヒキ抽出物投与群は、33.5%に減少していた。
【0029】
すなわちCD4+T細胞中のナイーブT細胞とメモリーT細胞の比率を下記の表1のとおりである。
【0030】
【0031】
図6、
図7及び表1から明らかなように、キンミズヒキ抽出物は、老化動物のCD4+T細胞のサブセットの比率を若齢動物のサブセットと同様の、ナイーブT細胞とメモリーT細胞の比率に近づけ、サブセット比率を改善させることが明らかとなった。すなわちキンミズヒキ抽出物はCD4+T細胞のサブセットのナイーブT細胞とメモリーT細胞比率を若齢動物とサブセットの比率に近づけるように作用していることが明らかとなった。
【0032】
3.キンミズヒキ抽出物の効果試験の総括
以上の解析結果から明らかとなった作用効果を総括すると以下のとおりである。
(1)キンミズヒキ抽出物は、免疫老化を改善及び/又は抑制する。
(2)キンミズヒキ抽出物の主たる作用点はT細胞である。
(3)キンミズヒキ抽出物は、免疫老化した老化関連T細胞である免疫老化の原因であるCD4陽性及び/又はCD8陽性T細胞に発現するPD-1の増加を抑制する。
(4)キンミズヒキ抽出物は、免疫老化したCD4+T細胞のナイーブT細胞とメモリーT細胞の比率を正常化するように作用する。
(5)キンミズヒキ抽出物は、上記(1)~(4)のとおり免疫老化を改善する。したがって、免疫老化によって引き起こされる「獲得免疫応答能の低下、炎症性素因の増大、自己免疫リスクの増大」及び「獲得免疫応答能の低下、炎症性素因の増大、自己免疫リスクの増大に伴う疾患」をそれぞれ改善、軽減、もしくは生じる生体異常疾患発生を抑制するように作用する。