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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】液体製剤中の酵素の安定化方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 9/10 20060101AFI20240925BHJP
【FI】
C12N9/10
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020048388
(22)【出願日】2020-03-18
(65)【公開番号】P2021145603
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2022-11-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【弁理士】
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(72)【発明者】
【氏名】大平 琢哉
(72)【発明者】
【氏名】森中 直紀
【審査官】平林 由利子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/182123(WO,A1)
【文献】特開2000-014374(JP,A)
【文献】国際公開第2012/077817(WO,A1)
【文献】特開平04-090848(JP,A)
【文献】特開2001-260285(JP,A)
【文献】特開2002-238521(JP,A)
【文献】特開平09-201397(JP,A)
【文献】国際公開第2014/136914(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 9/00- 9/99
B32B 1/00-43/00
B65B 81/18-81/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)トランスグルタミナーゼを溶媒に溶解して液体製剤を調製する工程、及び
(2)液体製剤を容器の容量が100ccの時に23℃・50%RH・1気圧における1日あたりの酸素透過量が0.1cc以下である包装材料からなる包装容器に保存する工程、
を含む液体製剤中のトランスグルタミナーゼの安定化方法であって、
(1)が液体製剤1gに対して、1U~1,000Uのトランスグルタミナーゼを溶解し、液体製剤の総重量に対して5重量%~25重量%のグルタミン酸塩又はグルコン酸塩を添加して液体製剤を調製する工程であり、
(2)の包装材料が、PETをダイアモンドライクカーボン(DLC)膜でコーティングした積層包装材料、PET/アルミニウム箔/ナイロン層/酸素吸収層/シーラント層を有する積層包装材料、又はPET/アルミニウム箔/ナイロン層/中間層/酸素吸収層/シーラント層を有するアルミニウム積層包装材料であり、
34℃で1ヶ月保存後のトランスグルタミナーゼの残存活性率が85%以上である、方法。
【請求項2】
液体製剤1gに対して、10U~350Uのトランスグルタミナーゼを溶解する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
液体製剤の総重量に対して10重量%~20重量%のグルタミン酸塩又はグルコン酸塩を添加する工程を含む請求項1に記載の方法。
【請求項4】
グルタミン酸塩又はグルコン酸塩が、グルコン酸ナトリウムである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
液体製剤のpHを4~7に調整する工程を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
保存温度が1℃以上45℃以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
34℃で1ヶ月保存後のトランスグルタミナーゼの残存活性率が90%以上である、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
(1)トランスグルタミナーゼを溶媒に溶解して液体製剤を調製する工程、及び
(2)液体製剤を容器の容量が100ccの時に23℃・50%RH・1気圧における1日あたりの酸素透過量が0.1cc以下である包装材料からなる包装容器に保存する工程、
を含む、液体製剤の保存方法であって、
(1)が液体製剤1gに対して、1U~1,000Uのトランスグルタミナーゼを溶解し、液体製剤の総重量に対して5重量%~25重量%のグルタミン酸塩又はグルコン酸塩を添加して液体製剤を調製する工程であり、
(2)の包装材料が、PETをダイアモンドライクカーボン(DLC)膜でコーティングした積層包装材料、PET/アルミニウム箔/ナイロン層/酸素吸収層/シーラント層を有する積層包装材料、又はPET/アルミニウム箔/ナイロン層/中間層/酸素吸収層/シーラント層を有するアルミニウム積層包装材料であり、
34℃で1ヶ月保存後のトランスグルタミナーゼの残存活性率が85%以上である、方法。
【請求項9】
液体製剤1gに対して、10U~350Uのトランスグルタミナーゼを溶解する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
液体製剤の総重量に対して10重量%~20重量%のグルタミン酸塩又はグルコン酸塩を添加する工程を含む請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
グルタミン酸塩又はグルコン酸塩が、グルコン酸ナトリウムである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
液体製剤のpHを4~7に調整する工程を含む、請求項8~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
保存温度が1℃以上45℃以下である、請求項8~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
34℃で1ヶ月保存後のトランスグルタミナーゼの残存活性率が90%以上である、請求項8~13のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体製剤中の酵素の安定化方法に関し、さらに詳しくは、トランスグルタミナーゼを含有する液体製剤中の該酵素の安定化方法及び該液体製剤の保存方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食品分野において、魚肉や畜肉等の食肉の改質や加工に使用されるトランスグルタミナーゼなどの酵素製剤は、安定性の観点からは、通常、粉末状、顆粒状等の固形状製剤として提供される。トランスグルタミナーゼの粉体の安定化については、内部に特徴のあるガスバリヤー性を有する外袋と、脱酸素剤、脱水剤、窒素発生剤、炭酸ガス発生剤等の安定化剤が含まれ外袋が密封されている包装品の使用(特許文献1)や、安定化剤や脱酸素剤や包材によりトランスグルタミナーゼを安定化させることが知られている(特許文献2)。
【0003】
しかし、トランスグルタミナーゼなどを基質に作用させる際には、適当な溶媒に溶解し、液状の製剤として用いることが多く、従来の固形状製剤では、使用に際し、溶媒に溶解する必要があるため、利便性に欠け、さらには、溶媒に溶解する際に微生物汚染を招く恐れがあるという問題があった。
【0004】
一方で、トランスグルタミナーゼ等の酵素は液体の状態では酵素活性が低下しやすいことが知られている。かかる活性低下に対しては、例えばトランスグルタミナーゼを含有する液状の製剤として、ポリオールを含有し、特定の狭い範囲内のpH値を有するポリオール-水懸濁液にトランスグルタミナーゼを含有させた製剤(特許文献3)、トランスグルタミナーゼを水分活性調整剤、酸化還元電位制御剤、保存剤およびpH調整剤とともに溶解させた製剤(特許文献4)、あるいはグリシン、プロリン、セリン、グルタミン酸塩、アスパラギン酸塩および有機酸塩を特定の量を加えることによりトランスグルタミナーゼの安定性が向上した液体製剤が知られている(特許文献5)。しかし簡便に調製でき冷蔵条件以外で長期に保存できる液体製剤は知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第3422137号公報
【文献】特許第3281368号公報
【文献】特表2014-532421号公報
【文献】中国特許第105462950号
【文献】WO2019/182123号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、室温以上でもトランスグルタミナーゼなどの酵素を含有する液体製剤中の酵素活性を安定化する方法及び液体製剤中の酵素活性を長期に維持する保存方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、トランスグルタミナーゼの液体製剤を特定の酸素透過量の包装材からなる容器に保存することにより、液体製剤中のトランスグルタミナーゼ等の酵素が室温以上でも高く残存しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下に関する。
[1](1)酵素を溶媒に溶解して液体製剤を調製する工程、及び
(2)液体製剤を容器の容量が100ccの時に23℃・50%RH・1気圧における1日あたりの酸素透過量が0.1cc以下である包装材料からなる包装容器に保存する工程、
を含む液体製剤中の酵素の安定化方法。
[2]酵素がトランスグルタミナーゼである[1]に記載の方法。
[3]液体製剤1gに対して、1U~1,000Uのトランスグルタミナーゼを溶解する、[1]又は[2]に記載の方法。
[4]液体製剤の総重量に対して5重量%~25重量%のグルタミン酸塩、アスパラギン酸塩、酢酸塩、クエン酸塩およびグルコン酸塩からなる群より選択される1種以上のカルボン酸塩を添加する工程を含む[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5]カルボン酸塩が、グルタミン酸ナトリウム及びグルコン酸ナトリウムからなる群より選択される1種以上である、[4]に記載の方法。
[6]液体製剤のpHを4~7に調整する工程を含む、[1]~[5]のいずれかに記載の方法。
[7]前記包装材料が、ポリエチレンテレフタレート、ガスバリア性膜を有するポリエチレンテレフタレート及びアルミからなる群から選択される材料を含む、[1]~[6]のいずれかに記載の方法。
[8]前記包装材料がさらに酸素吸収層を含む、[1]~[7]のいずれかに記載の方法。
[9]保存温度が1℃以上45℃以下である、[1]~[8]のいずれかに記載の方法。
[10]34℃で1ヶ月保存後の酵素の残存活性率が75%以上である、[1]~[8]のいずれかに記載の方法。
[11](1)酵素を溶媒に溶解して液体製剤を調製する工程、及び
(2)液体製剤を容器の容量が100ccの時に23℃・50%RH・1気圧における1日あたりの酸素透過量が0.1cc以下である包装材料からなる包装容器に保存する工程、
を含む、液体製剤の保存方法。
[12]酵素がトランスグルタミナーゼである[11]に記載の方法。
[13]液体製剤1gに対して、1U~1,000Uのトランスグルタミナーゼを溶解する、[11]又は[12]に記載の方法。
[14]液体製剤の総重量に対して5重量%~25重量%のグルタミン酸塩、アスパラギン酸塩、酢酸塩、クエン酸塩およびグルコン酸塩からなる群より選択される1種以上のカルボン酸塩を添加する工程を含む[11]~[13]のいずれかに記載の方法。
[15]カルボン酸塩が、グルタミン酸ナトリウム及びグルコン酸ナトリウムからなる群より選択される1種以上である、[14]に記載の方法。
[16]液体製剤のpHを4~7に調整する工程を含む、[11]~[15]のいずれかに記載の方法。
[17]前記包装材料が、ポリエチレンテレフタレート、ガスバリア性膜を有するポリエチレンテレフタレート及びアルミからなる群から選択される材料を含む、[11]~[16]のいずれかに記載の方法。
[18]前記包装材料がさらに酸素吸収層を含む、[11]~[17]のいずれかに記載の方法。
[19]保存温度が1℃以上45℃以下である、[11]~[18]のいずれかに記載の方法。
[20]34℃で1ヶ月保存後の酵素の残存活性率が75%以上である、[11]~[18]のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、室温以上でも長期に酵素活性が保たれる液体製剤を提供することができる。
本発明により、液体製剤は冷蔵設備がなくても保存できるため、簡便に保存でき、さらに広く流通させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】試験例1において、容器素材の違いが液体製剤のトランスグルタミナーゼ活性の残存率に及ぼす影響を示す図である。
図2】試験例2において、容器の脱酸素機能及びグルタミン酸ナトリウム(MSG)の添加が、1、2及び3ヶ月保存での液体製剤のトランスグルタミナーゼ活性の残存率に及ぼす影響を示す図である。
図3】試験例2において、脱酸素機能を有するアルミ容器及び該機能の無いアルミ容器を用いた場合に、MSG又はグルコン酸ナトリウムの添加が酵素活性残存率に及ぼす影響を比較して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、酵素を溶媒に溶解して液体製剤を調製する工程、及び
液体製剤を特定の酸素透過度の包装材料からなる包装容器に保存する工程を含む、液体製剤中の酵素の安定化方法(以下、「本発明の安定化方法」とも称する)を提供する。
【0012】
1.酵素を溶媒に溶解して液体製剤を調製する工程
酵素としては、特に限定されないが、トランスグルタミナーゼ、4-α-グルカノトランスフェラーゼ、α-アミラーゼ、α-グルコシルトランスフェラーゼ、β-アミラーゼ、グルコアミラーゼ、α-グルコシダーゼ、マルトテトラオヒドロラーゼ、グルコースオキシダーゼなどが挙げられ、なかでもトランスグルタミナーゼが好ましい。トランスグルタミナーゼとしては、微生物より得られるカルシウム非依存性のものが好ましく用いられる。
微生物由来のカルシウム非依存性トランスグルタミナーゼとしては、ストレプトマイセス属に属する放線菌により産生されるトランスグルタミナーゼが挙げられ、特許第2572716号公報に記載された方法等に従って得ることができるが、味の素株式会社等から提供されている「アクティバTG-K」、「アクティバTG-S」等、市販の製品を用いることもできる。
【0013】
本発明における液体製剤におけるトランスグルタミナーゼの含有量は、本発明の液体製剤1gあたり1U(ユニット)~1,000Uが好ましく、10U~350Uがより好ましい。
【0014】
トランスグルタミナーゼの酵素活性については、例えば、ヒドロキサメート法により測定し、算出することができる。すなわち、ベンジルオキシカルボニル-L-グルタミニルグリシンとヒドロキシルアミンを基質として反応を行わせ、トリクロロ酢酸存在下で、前記反応で生成したヒドロキサム酸の鉄錯体を形成させた後、525nmの吸光度を測定して、ヒドロキサム酸の生成量を検量線より求めることにより、酵素活性を算出することができる。本明細書では、37℃、pH=6.0で1分間に1μmolのヒドロキサム酸を生成する酵素量を、1Uと定義した(特開昭64-027471号公報参照)。
【0015】
液体製剤には、酵素の安定性をより高めるという観点から、カルボン酸塩を液体製剤に添加することが好ましい。
カルボン酸塩としては、グルタミン酸塩、アスパラギン酸塩、酢酸塩、クエン酸塩およびグルコン酸塩が挙げられ、単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。
【0016】
カルボン酸の塩としては、具体的には無機塩基、有機塩基、無機酸、有機酸との塩およびアミノ酸との塩等が挙げられる。
【0017】
無機塩基との塩としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属との塩、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属との塩、アンモニウム塩等が挙げられる。
有機塩基との塩としては、例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミンとの塩、モルホリン、ピペリジン等の複素環式アミンとの塩等が挙げられる。
無機酸との塩としては、例えば、ハロゲン化水素酸(塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸等)、硫酸、硝酸、リン酸等との塩等が挙げられる。
有機酸との塩としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロパン酸等のモノカルボン酸との塩;シュウ酸、マロン酸、リンゴ酸、コハク酸等の飽和ジカルボン酸との塩;マレイン酸、フマル酸等の不飽和ジカルボン酸との塩;クエン酸等のトリカルボン酸との塩;α-ケトグルタル酸等のケト酸との塩等が挙げられる。
アミノ酸との塩としては、グリシン、アラニン等の脂肪族アミノ酸との塩;フェニルアラニン等の芳香族アミノ酸との塩;リジン等の塩基性アミノ酸との塩;ピログルタミン酸等のラクタムを形成したアミノ酸との塩等が挙げられる。
【0018】
本発明における液体製剤における溶解性およびトランスグルタミナーゼの安定化効果の観点からは、カルボン酸塩としては、ナトリウム塩等のアルカリ金属塩が好ましく用いられる。
本発明における液体製剤においては、上記したカルボン酸塩として、正塩のみならず酸性塩(水素塩)も好適に用いられ、また、これらの水和物も用いることができる。
なお、カルボン酸塩として、これらの水和物を用いた場合には、本発明の製剤中のカルボン酸塩の各含有量は、それぞれ無水和物に換算した含有量で表される。
【0019】
本発明においては、カルボン酸塩は、天然に存在する動植物等から抽出し精製したもの、あるいは、化学合成法、発酵法、酵素法又は遺伝子組換え法等によって得られるもののいずれを使用してもよいが、各社より提供されている市販の製品を利用してもよい。
【0020】
グルタミン酸塩およびアスパラギン酸塩は、L-体、D-体、DL-体のいずれも使用できるが、好ましくは、L-体およびDL-体であり、さらに好ましくは、L-体である。
【0021】
本発明において酵素と一緒に溶解させるカルボン酸塩は、酵素の安定性の観点から、液体製剤の総重量に対して、カルボン酸塩の総含有量として、通常5重量%以上、好ましくは10重量%以上含有される。
一方、本発明において液体製剤におけるカルボン酸塩の総含有量は、通常25重量%以下であり、好ましくは20重量%以下である。前記カルボン酸塩の総含有量が25重量%を超えると、トランスグルタミナーゼの安定化効果がプラトーとなり、カルボン酸塩の含有量に見合う効果が見込めないため、経済的でないからである。
【0022】
本発明において液体製剤とは、酵素を溶媒に溶解してなる液体の製剤である。
ここで、「液体製剤」とは、室温で溶液の形態である製剤をいい、粘性を有する液体の形態である製剤も含まれる。
なお、「室温」とは、第十七改正日本薬局方通則に定義される室温、すなわち1℃~30℃をいう。
例えばトランスグルタミナーゼなどの酵素およびカルボン酸塩を溶解させる溶媒としては、精製水、脱イオン水、水道水等の食品製造用水として適する水、酢酸緩衝液、リン酸緩衝液等の緩衝液が挙げられる。なかでも、酢酸緩衝液、リン酸緩衝液が好ましく、リン酸緩衝液がより好ましい。
【0023】
またトランスグルタミナーゼ及びカルボン酸塩を溶解させる溶媒の温度としては、通常0~70℃、好ましくは4~50℃である。
また溶解に要する時間は、適宜設定されるが、通常0.1~1440分である。
【0024】
本発明の方法においては、液体製剤のpHを調整する工程を含んでもよい。pHは、酵素、例えばトランスグルタミナーゼの安定性の観点からは、通常は4~7、好ましくは4~6、より好ましくは5~6に調整される。
なお、本発明において液体製剤のpHは、通常のガラス電極法により、20℃にて測定される。
【0025】
pHの調整は、pH調整剤もしくは緩衝剤を用いて行うことができる。pH調整剤もしくは緩衝剤としては、トランスグルタミナーゼなどの酵素とカルボン酸塩を含有する溶液のpHを所望の範囲に調整することができ、可食性のものであれば、特に制限なく用いることができる。例えば、塩酸、クエン酸、クエン酸ナトリウム、コハク酸、酢酸、酢酸ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、乳酸、乳酸ナトリウム、リン酸、リン酸三ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム等が例示される。
これらの中でも、クエン酸、クエン酸ナトリウム、酢酸、酢酸ナトリウム、リン酸、リン酸水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム等が好ましく用いられる。
また、本発明の方法におけるpHを調整する工程は、上記溶解する工程と同時またはその後に行ってもよい。また溶解する前、すなわちあらかじめクエン酸緩衝液、酢酸緩衝液、リン酸緩衝液等の溶媒のpHを4~7に調整する工程であってもよい。かかる緩衝液における各種緩衝剤の液体製剤中の濃度は、0.01M~1M程度とすることが好ましい。
【0026】
本発明の方法においては、バブリング工程を含んでもよい。本工程により酸素を除去することにより、酵素活性の低下を抑制することができる。
バブリングは、慣用の方法で行うことができるが、例えばタンク等に貯蔵された液体製剤に対し、不活性ガスを接触させて酸素による酵素活性の低下を防ぎ活性を維持することができる。
不活性ガスとしては、窒素やアルゴンが挙げられるが、無味、無臭であり水中への溶解性も低いため、製品に影響を及ぼさないという点から窒素が好ましい。
【0027】
さらに、本発明の方法においては、本発明の特徴を損なわない範囲で、液体製剤に増粘安定剤(アルギン酸ナトリウム、キサンタンガム、カルボキシメチルセルロースナトリウム等)、保存料(安息香酸ナトリウム、エデト酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム等)、酸化防止剤(アスコルビン酸、エリソルビン酸等)等の食品添加物を添加する工程、混合する工程を含むことができる。
【0028】
2.液体製剤を酸素透過量が低い包装材料からなる包装容器に保存する工程
上記の工程により得られた液体製剤は、酸素透過量が低い包装材料からなる包装容器に保存することにより、液体製剤中のトランスグルタミナーゼなどの酵素が安定化され、長期間保存することができる。
【0029】
本発明において、「酸素透過量」とは、容器や容器の材料(フィルム等)がどのくらい酸素を透過するかの指標であり、「酸素透過量が低い」とは、容器の容量が100ccの時に23℃・50%RHにおいてMOCON酸素透過率測定装置(OX-TRAN 2/61)などの機械を用いて、空の容器の中に窒素を充填し容器外から測定した1気圧における1日あたりの酸素透過量が0.1cc以下であることを意味する。なお酵素の安定化の観点から0.05cc以下が好ましく、0.01cc以下がより好ましく、0ccが特に好ましい。
本発明における酸素透過量が低い包装材料(以下本発明における包装材料と略するときもある)としては、酵素の安定化の観点から、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ガスバリア性膜を有するポリエチレンテレフタレート、アルミニウム、ナイロン、ガスバリア性膜を有するナイロン、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリビニルアルコール(PVA)等が挙げられる。なかでもガスバリア性膜を有するポリエチレンテレフタレート、アルミニウムが好ましい。
ガスバリア性膜としては、ダイアモンドライクカーボン(Diamond like Carbon、DLC)膜、SiC、SiO、SiOC、SiN、SiON、SiONC、Si含有ダイアモンドカーボンなどのSi含有膜、アルミナ膜が挙げられるが、ガスバリア性や化学的安定性の点から、DLC膜が好ましい。また、ガスバリア性膜は、異なる組成の膜を複数重ねたものでもよい。
DLC膜としては、アモルファスカーボン膜、水素化アモルファスカーボン膜、テトラヘドラルアモルファスカーボン膜、水素化テトラヘドラルアモルファスカーボン膜などが挙げられる。
【0030】
本発明における包装材料は、上記材料単体でも、異なる材料を複数重ねた積層包装材料であってもよい。
例えば、本発明における包装材料は、酸素バリア層であるアルミニウム含有層で構成され、アルミニウム含有層は、アルミニウムなどの金属箔または金属蒸着膜を含む層であり、酸素の遮断性が高い事が好ましい。
【0031】
さらに包装材料は、酸素バリア層の他に酸素吸収層、ナイロン層、シーラント層などで構成されていてもよい。また外側に外層を有することもできる。
【0032】
酸素吸収層とは、酸素吸収剤を含む層であり、脱酸素機能を有する層である。酸素吸収剤としては、従来知られているものが使用可能であるが、特に鉄粉を主剤とし、塩化ナトリウム、塩化カルシウム等のハロゲン化アルカリ金属又はハロゲン化アルカリ土類金属を酸化促進剤とするものが、衛生上及び酸素吸収能力の観点で好適である。酸素吸収層は、酸素吸収剤をポリオレフィンなどと混練して作成することができる。
【0033】
シーラント層とは、ヒートシール層とも呼ばれ、材質はポリオレフィンが挙げられ、ヒートシール層は白色に着色されていることが好ましい。
【0034】
そして、上記の各層において、ポリオレフィンが材質とされる場合、このようなポリオレフィンはポリプロピレンまたはプロピレン含量が70%以上のポリプロピレン共重合体であることが好ましい。
【0035】
このような包装材料において、外側に有することもできる外層には、特別の制限はなく、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)などの材質を使用することができる。
【0036】
本発明における包装材料の厚さは、通常200μm前後以下とすることができる。
例えばナイロン層の厚みは、包装材料全体の厚みを考慮すれば、通常3~40μmとすることができる。
【0037】
本発明における包装材料の具体例としては、PETをDLC膜でコーティングした積層包装材料、前記材料にさらに特殊シュリンクを施した積層包装材料などのPETの材料、ナイロン層を酸素バリア層と酸素吸収層との間に設けた、PET/アルミニウム(AL)箔/ナイロン(NY)層/酸素吸収層/シーラント層である積層包装材料、NY層と酸素吸収層の間にポリオレフィンなどの中間層を配置した、PET/AL箔/NY層/中間層/酸素吸収層/シーラント層などのアルミニウム積層包装材料が挙げられる。
【0038】
本発明における包装材料よりなる包装容器は、少なくともその一部が上述の積層包装材料よりなることを特徴とする包装容器であり、形状は酵素が安定化する限り特に限定されないが、袋体、パックインボックス、ボトル、成型品が挙げられる。
【0039】
本発明における包装材料からなる包装容器を作成する方法は、それ自体には特別の制限はなく、適宜従来の方法に準ずることができる。
【0040】
本発明において液体製剤を上記包装容器に保存する方法は慣用の方法で行うことができる。保存時に酸素を除くために、容器内ヘッドスペース(飲料上部の空間部分)に窒素などの不活性ガスを同時に封入してもよい。
また液体製剤を保存した後は、包装容器を密閉することが望ましく、密閉する方法は慣用の方法で行うことができる。
【0041】
本発明においては、保存する温度は、液体製剤中の酵素が安定化されるという観点から、通常1℃以上であり、4℃以上が好ましくまた上限は同様の観点から45℃以下であり、35℃以下が好ましく、24℃以下がより好ましい。
【0042】
また保存期間は液体製剤中の酵素活性が維持される限り特に限定されないが、通常3年以内、好ましくは2年以内、より好ましくは1年以内である。
【0043】
本発明において「安定化」とは、酵素が保存期間中に高い活性を維持する状態を意味する。
高い活性とは、酵素が作用できる程度の活性を意味し、例えば、トランスグルタミナーゼ含有液体製剤では、34℃で1ヶ月保存後のトランスグルタミナーゼの残存活性率が、通常75%以上であり、好ましくは80%以上であり、より好ましくは85%以上、特に好ましくは90%以上である。上限は通常100%である。
トランスグルタミナーゼの残存活性率は、上記のようにヒドロキサメート法により測定することができる。
【0044】
さらに、本発明は、酵素を溶媒に溶解して液体製剤を調製する工程、及び
液体製剤を容器の容量が100ccの時に23℃・50%RH・1気圧における1日あたりの酸素透過量が0.1cc以下である包装材料からなる包装容器に保存する工程を含む、液体製剤の保存方法(以下、「本発明の保存方法」とも称する)を提供する。
【0045】
本発明の保存方法における、各工程、各種定義及び好適範囲は既述に準じる。
本発明においては、保存する温度は、液体製剤中の酵素が安定化されるという観点から、通常1℃以上であり、4℃以上が好ましく、また上限は同様の観点から45℃以下であり、35℃以下が好ましく、24℃以下がより好ましい。
【0046】
また本発明の保存方法において、保存期間は、酵素活性が維持される限り特に限定されないが、通常2年以内、好ましくは1年以内である。
【0047】
本発明の保存方法においては、本発明の特徴を損なわない範囲で、既述に準じて、pH調整剤もしくは緩衝剤の他の食品添加物、例えば増粘安定剤、保存料、殺菌剤、酸化防止剤等を添加する工程及びその他の工程を含むこともできる。
【実施例
【0048】
以下に実施例により、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0049】
[試験例1]包装材の検討
微生物由来のトランスグルタミナーゼ1,000U/g、「アクティバTG」、味の素株式会社)を表1のように0.05Mリン酸バッファ(pH6.0)に溶解し、液体TGサンプルを調製した。
液体TGサンプル100gをポリエチレン(PE)容器(約150cc)、バリアポリエチレンテレフタレート(バリアPET)容器(約100cc)、アルミ容器(約250cc)にそれぞれ封入し、4℃、24℃、34℃、44℃で保管した(高温による加速保存試験)。なおバリアPET容器は、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)素材でペットの表面をコーティングした容器である。
各容器の材質の酸素透過量は、MOCON酸素透過率測定装置(OX-TRAN 2/61)を用いて測定した。容器容量が100ccの時の各材質の酸素透過量は、23℃・50%RH・1気圧において、1日あたり、PEは、0.174cc、バリアPETは、0.006cc及びアルミ容器はクラックが無い状態であれば0(酸素は透過しない)である。また44℃・78%RHの場合、1日あたり、PEは、0.434cc、バリアPETは、0.014cc及びアルミ容器はクラックが無い状態であれば0(酸素は透過しない)である。
また比較対象として、1.5mlのマイクロチューブに液体TGサンプルを入れ、-80℃で保管した。
1か月後にサンプルを回収し、ヒドロキサメート法により各サンプルのトランスグルタミナーゼ活性を測定し、-80℃保管サンプルの酵素活性に対する残存率を算出した。
【0050】
【表1】
図1に示すように、バリアPET容器及びアルミ容器で保存したトランスグルタミナーゼの活性残存率はPE容器に比べて高いことが認められた。
【0051】
[試験例2]トランスグルタミナーゼの安定化効果の評価
微生物由来のトランスグルタミナーゼを表2のように0.05Mリン酸バッファ(pH6.0)に溶解し、グルタミン酸ナトリウム(MSG)添加区にはMSGを10%、グルコン酸ナトリウム添加区にはグルコン酸ナトリウムを10%配合した。
液体TGサンプル100gを脱酸素機能のあるアルミ容器(250cc)とないアルミ容器(250cc)にそれぞれ封入し、4℃、24℃、34℃、44℃で保管した(高温による加速保存試験)。脱酸素機能のあるアルミ容器は、アルミ箔層及び酸素吸収層からなる積層包装材料で作られた容器である。
また比較対象として、1.5mlのマイクロチューブに液体TGサンプルを入れ、-80℃で保管した。
1か月後、2か月後、3か月後にサンプルを回収し、ヒドロキサメート法により各サンプルのトランスグルタミナーゼ活性を測定し、-80℃保管サンプルの酵素活性に対する残存率を算出した。
【0052】
【表2】
【0053】
図2に示すように、4℃保存ではトランスグルタミナーゼの活性残存率には大きな違いは認められなかったが、24℃保存では、MSG無添加区では、脱酸素機能を有する容器の区の残存率が高かった。
34℃保存では、脱酸素機能が無い容器に保存したMSG無添加区ではほぼトランスグルタミナーゼが残っていなかった。
一方、脱酸素機能を有する容器で保存した場合は、経時的に残存率が低下した。他方MSG添加区では、特に脱酸素機能を有する容器に保存した場合に酵素活性は高く維持された。
【0054】
MSGとグルコン酸ナトリウムの比較を図3に示した。なお34℃3ヶ月保存のグルコン酸ナトリウム添加区における試験は未実施のため記載していない。
グルタミン酸ナトリウムおよびグルコン酸ナトリウムの添加区では、34℃保存においては、顕著なトランスグルタミナーゼの安定化効果を示し、さらに脱酸素機能を有するアルミ容器で保存した場合はさらに安定化効果が高まることが確認された。また44℃保存では、グルコン酸ナトリウムの添加区では、脱酸素機能を有するアルミ容器で保存した場合にはさらに安定化効果が高まることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明により、室温以上でも保存・流通が可能な液体製剤を提供することができる。
図1
図2
図3