(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】抄造体、硬化物および抄造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
D21H 13/10 20060101AFI20240925BHJP
D21H 13/36 20060101ALI20240925BHJP
D21H 17/46 20060101ALI20240925BHJP
D21H 17/67 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
D21H13/10
D21H13/36
D21H17/46
D21H17/67
(21)【出願番号】P 2020078059
(22)【出願日】2020-04-27
【審査請求日】2023-03-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】磯部 大輔
【審査官】河内 浩志
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-102394(JP,A)
【文献】特開2011-021093(JP,A)
【文献】特開昭60-038473(JP,A)
【文献】特表平07-505660(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21H11/00-11/22
13/00-13/50
17/00-17/70
C08J 5/04- 5/10
B29B15/08-15/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性樹脂組成物
中に強化繊維が分散され
た抄造体であって、
前記熱硬化性樹脂組成物が熱硬化性樹脂および無機フィラーを含む混練物であって、前記無機フィラーの含有量が、前記熱硬化性樹脂組成物全量に対して、5質量%以上50質量%以下であり、
当該熱硬化性樹脂中に無機フィラーが微分散している、抄造体。
【請求項2】
熱硬化性樹脂組成物
中に強化繊維が分散され
た抄造体であって、
前記熱硬化性樹脂組成物が、エラストマー成分により変性された熱硬化性樹脂を含む混練物であって、前記エラストマー成分の含有量が、前記熱硬化性樹脂組成物全量に対して、1重量%以上40重量%以下である、抄造体。
【請求項3】
前記熱硬化性樹脂が、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン、および不飽和ポリエステル樹脂からなる群より選択される1種又は2種以上を含む、請求項1または2に記載の抄造体。
【請求項4】
前記強化繊維が、金属繊維、炭素繊維、ガラス繊維、セラミック繊維、ポリアミド繊維、アラミド繊維、ポリイミド繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ポリパラフェニレンベンズオキサゾール繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリアクリロニトリル繊維、およびエチレンビニルアルコール繊維の中から選ばれる1種または2種以上を含む、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の抄造体。
【請求項5】
前記熱硬化性樹脂の含有量が、前記抄造体全量に対して、20質量%以上、80質量%以下である、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の抄造体。
【請求項6】
前記無機フィラーが、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化アルミニウム(アルミナ)、結晶または溶融シリカ、表面処理シリカ、タルク、カオリン、クレー、マイカ、ドロマイト、ウォラストナイト、ガラス繊維、炭素繊維、ガラスビーズ、ジルコン、およびモリブデン化合物の中から選ばれる1種または2種以上である、請求項1に記載の抄造体。
【請求項7】
前記無機フィラーの平均粒径が、0.1~100μmである、請求項1または6に記載の抄造体。
【請求項8】
前記エラストマー成分は、ポリビニルアセタール系樹脂、またはアクリルゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、シリコーンゴム、ブチルゴム、ウレタンゴム、ポリブタジエン、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、およびこれらの共重合物からなる群から選択される1種または2種以上である、請求項2に記載の抄造体。
【請求項9】
前記ポリビニルアセタール系樹脂のアセタール化度が50~80%である、請求項8に記載の抄造体。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか一項に記載の抄造体を硬化した硬化物。
【請求項11】
熱硬化性樹脂と無機フィラーとを混練し、熱硬化性樹脂組成物を得る工程と、
前記熱硬化性樹脂組成物と、強化繊維とを、分散媒中で分散した後、抄造法を用いて前記分散媒を除去して、抄造体を得る工程と、
を含む、抄造体の製造方法。
【請求項12】
熱硬化性樹脂とエラストマー成分とを混練し、エラストマー成分により変性された熱硬化性樹脂を含む熱硬化性樹脂組成物を得る工程と、
前記変性された熱硬化性樹脂を含む熱硬化性樹脂組成物と、強化繊維とを、分散媒中で分散した後、抄造法を用いて前記分散媒を除去して、抄造体を得る工程と、
を含む、抄造体の製造方法。
【請求項13】
前記熱硬化性樹脂組成物は粉末状である、請求項11または12に記載の抄造体の製造方法。
【請求項14】
前記熱硬化性樹脂組成物の平均粒径(d50)が、10~100μmである、請求項11乃至13いずれか一項に記載の抄造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抄造体、硬化物および抄造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機繊維、炭素繊維、ガラス繊維などの単繊維が、樹脂マトリックス中に分散した繊維強化プラスチック(Fiber Reinforced Plastics:FRP)の製造方法として、紙抄きの技術である抄造法を応用することが検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、短繊維の強化繊維の繊維束の集団からなる強化繊維基材と、熱硬化性樹脂からなるマトリックス樹脂と、からなる繊維強化樹脂が記載されている。特許文献1によれば、強化繊維基材の繊維束の一定数以上が、特定の単糸数となるように分繊され、また、真直な繊維束数が特定の数以上であり、繊維束の配向が二次元的に疑似等方性であり、強化繊維の体積含有率が特定の数以上であることによって、等方性の程度が高く、高い強度を発現できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示されるような技術は、抄造体に含まれる強化繊維に着目し、特定範囲の短繊維の強化繊維束を用いることで、強化繊維の配向による異方性を低減しようとするものであった。
これに対し、本発明者は、抄造体のマトリックス樹脂に新たに着目し、特定のマトリックス樹脂を用いて抄造体を得ることによって、硬化物としたときの曲げ強度および曲げ弾性率を向上できることを見出し、本発明を完成させた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、熱硬化性樹脂組成物および強化繊維がそれぞれ独立して分散された分散媒を用いて得られた抄造体であって、
前記熱硬化性樹脂組成物が熱硬化性樹脂を含み、
前記熱硬化性樹脂組成物中に無機フィラーが微分散している、抄造体が提供される。
【0007】
また、本発明によれば、熱硬化性樹脂組成物および強化繊維がそれぞれ独立して分散された分散媒を用いて得られた抄造体であって、
前記熱硬化性樹脂組成物が、変性された熱硬化性樹脂を含む、が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、硬化物としたときの曲げ強度および曲げ弾性率を向上できる抄造体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施形態に係る抄造体の断面と平面の一部を示す模式図である。
【
図2】本実施形態に係る抄造体の製造方法の一例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0011】
<抄造体>
図1は、本実施形態に係る抄造体21の断面と平面の一部示す模式図である。抄造体21は、熱硬化性樹脂Aをマトリックス樹脂として、強化繊維が分散した成形材であり、Bステージ状態のものである。熱硬化性樹脂Aは、強化繊維Bどうしを結着する結着材として機能するとともに、後の加熱処理により抄造体21による成形体を得るための成形材料として機能する。
【0012】
図1においては、抄造体のうちの点線で示される領域は、断面と平面の一部の拡大模式図である。本実施形態に係る抄造体21は、後述する抄造法により得られたものであり、以下の点において構造上の特徴1~3を有するものである。
(特徴1)抄造体21の表面の平面視において、強化繊維Bがランダムに配向している。
(特徴2)抄造体21の厚み方向における断面視において、強化繊維Bの配向状態が高度に制御されており、強化繊維Bが特定方向に配向している。言い換えれば、抄造体21の厚み方向において、強化繊維Bは積層した状態である。
(特徴3)強化繊維B同士が熱硬化性樹脂Aにより結着している。
【0013】
抄造体21は、抄造法によって形成されたものであるため、熱硬化性樹脂Aが均一に分散し、加工性に優れるものである。これにより抄造体21の意匠性を向上させることもできる。また、抄造法は、抄造体21を構成する材料の組み合わせに制約が少ない。
【0014】
本実施形態に係る抄造体21は、以下に説明するように、第1の形態または第2の形態をとるものである。
【0015】
<<第1の形態>>
本実施形態に係る抄造体の第1の形態は、熱硬化性樹脂組成物および強化繊維がそれぞれ独立して分散された分散媒を用いて得られた抄造体であって、当該熱硬化性樹脂組成物中に無機フィラーが微分散している。言い換えると、第1の形態に係る抄造体は、内部に微分散された無機フィラーを備える熱硬化性樹脂を含有する熱硬化性樹脂組成物と、強化繊維とを、後述の分散媒中に分散させ、抄造することによって、得られるものである。
これにより、抄造体において、抄造体において、熱硬化樹脂の近傍に無機フィラーが位置するようになるため、無機フィラーにより熱硬化樹脂の弾性率を高めることができる結果、抄造体の硬化物全体としての曲げ強度および曲げ弾性率を向上しやすくなる。
【0016】
熱硬化性樹脂組成物を得る方法としては、特に限定されないが、例えば、熱硬化性樹脂と無機フィラーと任意の添加剤とをミキサーを用いて混合した後、二軸ロール等を用いて、例えば70~90℃、5~10分混練することにより混練物を得る。得られた混練物を冷却後、粉砕することにより、内部に無機フィラーが微分散した粉末状の熱硬化性樹脂組成物(成形材料)を得ることができる。
【0017】
粉末状の熱硬化性樹脂組成物の平均粒径(d50)としては、10~100μmが好ましく、20~80μmがより好ましく、30~70μmであることがさらに好ましい。これにより、無機フィラーを内部に分散させつつ、のちに得られる抄造体の機械的強度を向上しやすくなる。
なお、熱硬化性樹脂組成物の平均粒径は、後述の無機フィラーと同様の方法で測定できる。
【0018】
[無機フィラー]
第1の形態において、無機フィラーは、熱硬化性樹脂の弾性率を高くするために用いられる。
無機フィラーとしては、例えば、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化アルミニウム(アルミナ)、結晶または溶融シリカ、表面処理シリカ、タルク、カオリン、クレー、マイカ、ドロマイト、ウォラストナイト、ガラス繊維、炭素繊維、ガラスビーズ、ジルコン、およびモリブデン化合物の中から選ばれる1種または2種以上が挙げられる。なかでも、抄造体全体として曲げ強度および曲げ弾性率を向上させやすくする観点から、溶融シリカが好ましく、クレーがより好ましく、これらの混合物であってもよい。
【0019】
無機フィラーは、表面処理が施されたものであってもよい。表面処理としては、例えば、予めシランカップリング剤等のカップリング剤によるものが挙げられる。これにより、無機フィラーの凝集を抑制し、良好な分散性を得ることができる。
カップリング剤としては、例えばγ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン等の1級アミノシランを用いることができる。
カップリング剤を用いる場合、その含有量は、特に限定されないが、無機フィラー100重量部に対して0.05~3重量部であるのが好ましく、0.1~2重量部であるのがより好ましい。
【0020】
無機フィラーの含有量は、当該熱硬化性樹脂組成物全量に対して、5質量%以上、70質量%以下であることが好ましく、10質量%以上、60質量%以下であることがより好ましく、20質量%以上、50質量%以下であることがさらに好ましい。
無機フィラーの含有量を、上記下限値以上とすることにより、機械的強度を向上できる。一方、無機フィラーの含有量を、上記上限値以下とすることにより、良好な機械的強度が安定的に得られやすくなる。
【0021】
無機フィラーの平均粒径は、0.1~100μmであることが好ましく、0.1~50μmであることがより好ましく、0.1~20μmであることがさらに好ましい。
無機フィラーの平均粒径を、上記下限値以上とすることにより、機械的強度が向上できる。一方、無機フィラーの平均粒径を、上記上限値以下とすることにより、分散性を良好にでき、機械的強度を安定化できる。
無機フィラーの材料として、繊維状のものを選択した場合、カット処理などにより、繊維長を短くすることが好適である。
【0022】
無機フィラーの平均粒径は、体積基準粒度分布の累積50%となる粒子径(D50)であり、市販のレーザー式粒度分布計(たとえば、株式会社島津製作所製、SALD-7000)で測定することができる。
【0023】
<<第2の形態>>
本実施形態に係る抄造体の第2の形態は、熱硬化性樹脂組成物および強化繊維がそれぞれ独立して分散された分散媒を用いて得られた抄造体であって、当該熱硬化性樹脂組成物が、変性された熱硬化性樹脂を含む。すなわち、第2の形態に係る抄造体は、変性された熱硬化樹脂と、強化繊維とを、後述の分散媒中に分散させ、抄造することによって、得られるものである。
これにより、熱硬化樹脂の弾性率を安定的に高めることができ、抄造体全体として曲げ強度および曲げ弾性率を向上できるようになる。
【0024】
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物を得る方法としては、特に限定されないが、例えば、熱硬化性樹脂と、例えば後述のエラストマー成分等とをミキサーを用いて混合した後、二軸ロール等を用いて、例えば70~90℃、5~10分混練することにより混練物を得る。得られた混練物を冷却後、粉砕することにより、エラストマー成分等によって変性された熱硬化性樹脂を含む熱硬化性樹脂組成物(成形材料)を得ることができる。
【0025】
変性された熱硬化性樹脂としては、後述の熱硬化性樹脂に対して、エラストマー成分によって変性されたものが好適である。
エラストマー成分としては、ポリビニルアセタール系樹脂、またはアクリルゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、シリコーンゴム、ブチルゴム、ウレタンゴム、ポリブタジエン、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、およびこれらの共重合物からなる群から選択される1種または2種以上が挙げられる。
これにより、熱硬化性樹脂の靭性を向上させることができ、これを用いた抄造体において、その曲げ強度および曲げ弾性率を向上しやすくなる。
【0026】
なかでもポリビニルアセタール系樹脂が好ましい。なお、ポリビニルアセタール系樹脂とは、ポリビニルアルコールをホルムアルデヒドやアセトアルデヒドなどのカルボニル化合物でアセタール化した樹脂であり、ポリビニルアセタール系樹脂としては、たとえば、ポリビニルホルマールやポリビニルブチラールなどが挙げられる。これらのうち、いずれか1種以上を使用できる。ポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度は反応性を得る観点から50%以上が好ましく、60%以上がより好ましく、一方、相溶性の観点から80%以下が好ましい。
【0027】
上記エラストマー成分の含有量は、例えば、熱硬化性樹脂組成物全体(重量100%)に対して、例えば、好ましくは1重量%以上40重量%以下、より好ましくは2重量%以上20重量%以下、さらに好ましくは3重量%以10重量%以下である。
【0028】
以下、上記の第1の形態および第2の形態に共通する内容について、説明する。
【0029】
[熱硬化性樹脂A]
熱硬化性樹脂は、抄造体におけるマトリックス樹脂として用いられる。
熱硬化性樹脂としては、具体的には、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン、および不飽和ポリエステル樹脂などを用いることができる。熱硬化性樹脂としては、上記具体例のうち、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。熱硬化性樹脂としては、上記具体例のうち例えば、フェノール樹脂を用いることが好ましい。これにより、成形物の強度を向上できる。したがって、曲げ強度の異方性をより小さくできる。また、強化繊維の分散性をより向上できる観点でも好ましい。
【0030】
(フェノール樹脂)
上記フェノール樹脂としては、具体的には、ノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂、アリールアルキレン型フェノール樹脂などが挙げられる。フェノール樹脂として、これらの中の1種類を単独で用いてよいし、異なる重量平均分子量を有する2種類以上を併用してもよく、1種類または2種類以上と、それらのプレポリマーとを併用してもよい。フェノール樹脂としては、上記具体例のうち例えば、ノボラック型フェノール樹脂またはレゾール型フェノール樹脂を用いるのが好ましい。
【0031】
ノボラック型フェノール樹脂は、フェノール類とアルデヒド類とを、無触媒または酸性触媒の存在下で反応させて得られる樹脂であれば、用途に合わせて適宜選択することができる。たとえば、ランダムノボラック型やハイオルソノボラック型のフェノール樹脂も用
いることができる。
なお、このノボラック型フェノール樹脂は、通常、フェノール類に対するアルデヒド類のモル比(アルデヒド類/フェノール類)が0.5以上1.0以下となるように制御した上で、反応させて得ることができる。
【0032】
このノボラック型フェノール樹脂を調製する際に用いられるフェノール類の具体例としては、フェノール、o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール、キシレノール、アルキルフェノール類、カテコール、レゾルシン等が挙げられる。なお、これらのフェノール類は単独、あるいは2種以上を混合して使用してもよい。
【0033】
また、ノボラック型フェノール樹脂を調製する際に用いられるアルデヒド類の具体例としては、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、ベンズアルデヒド等のアルデヒド化合物、およびこれらのアルデヒド化合物の発生源となる物質、あるいはこれらのアルデヒド化合物の溶液等を用いることができる。なお、これらのアルデヒド類は単独、あるいは2種以上を混合して使用してもよい。
【0034】
また、ノボラック型フェノール樹脂を調製する際に用いられる酸性触媒の具体例としては、蓚酸、酢酸等の有機カルボン酸、ベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、メタンスルホン酸等の有機スルホン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1’-ジホスホン酸、2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸等の有機ホスホン酸、塩酸、硫酸、リン酸等の無機酸等が挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0035】
レゾール型フェノール樹脂は、フェノール類とアルデヒド類とを、塩基性触媒の存在下で反応させて得られる樹脂であれば、用途に合わせて適宜選択することができる。
なお、このレゾール型フェノール樹脂は、通常、フェノール類に対するアルデヒド類のモル比(アルデヒド類/フェノール類)が1.3以上1.7以下となるように制御した上で、反応させて得ることができる。
【0036】
このレゾール型フェノール樹脂を調製する際に用いられるフェノール類の具体例としては、フェノール、o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール、キシレノール、アルキルフェノール類、カテコール、レゾルシン等が挙げられる。
なお、これらのフェノール類は単独、あるいは2種以上を混合して使用してもよい。
【0037】
また、レゾール型フェノール樹脂を調製する際に用いられるアルデヒド類の具体例としては、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、ベンズアルデヒド等のアルデヒド化合物、およびこれらのアルデヒド化合物の発生源となる物質、あるいはこれらのアルデヒド化合物の溶液等を用いることができる。なお、これらのアルデヒド類は単独、あるいは2種以上を混合して使用してもよい。
【0038】
また、レゾール型フェノール樹脂を調製する際に用いられる塩基性触媒の具体例としては、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物、カルシウム、マグネシウム、バリウムなどアルカリ土類金属の酸化物及び水酸化物、炭酸ナトリウム、アンモニア水、トリエチルアミン、ヘキサメチレンテトラミンなどのアミン類、酢酸マグネシウムや酢酸亜鉛などの二価金属塩などが挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0039】
(エポキシ樹脂)
上記エポキシ樹脂としては限定されず、その分子量、分子構造に関係なく、1分子内にエポキシ基を2個以上有するモノマー、オリゴマー、ポリマー全般を使用することが可能
である。
エポキシ樹脂の具体例としては、例えば、ビフェニル型エポキシ樹脂;ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型、テトラメチルビスフェノールF型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂;スチルベン型エポキシ樹脂;フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂;トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、アルキル変性トリフェノールメタン型エポキシ樹脂等に例示されるトリフェニル型エポキシ樹脂等の多官能エポキシ樹脂;フェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂、フェニレン骨格を有するナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、ビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂(ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂)、ビフェニレン骨格を有するナフトールアラルキル型エポキシ樹脂等のフェノールアラルキル型エポキシ樹脂;ジヒドロキシナフタレン型エポキシ樹脂、ジヒドロキシナフタレンの2量体をグリシジルエーテル化して得られるエポキシ樹脂等のナフトール型エポキシ樹脂;トリグリシジルイソシアヌレート、モノアリルジグリシジルイソシアヌレート等のトリアジン核含有エポキシ樹脂;ジシクロペンタジエン変性フェノール型エポキシ樹脂等の有橋環状炭化水素化合物変性フェノール型エポキシ樹脂;臭素化ビスフェノールA型、臭素化フェノールノボラック型などの臭素化型エポキシ樹脂;トリス(ヒドロキシフェニル)メタン型エポキシ樹脂などが挙げられる。エポキシ樹脂としては、これらの中から1種を単独で用いてよいし、異なる2種類以上を併用してもよい。
【0040】
熱硬化性樹脂の重量平均分子量の上限値としては、例えば、10000以下であることが好ましく、9000以下であることがより好ましく、8000以下であることが更に好ましい。これにより、スラリーを形成した時の粘度を低減し、強化繊維、熱硬化性樹脂の分散性をさらに向上できる。
また、熱硬化性樹脂の重量平均分子量の下限値としては、例えば、2000以上であることが好ましく、3000以上であることがより好ましく、4000以上であることが更に好ましい。これにより、成形物としたときの機械的強度を向上できる。したがって、曲げ強度の異方性をより小さくできる。
【0041】
抄造体中の熱硬化性樹脂の含有量の下限値としては、例えば、抄造体の全固形分に対して、30質量部以上であることが好ましく、35質量部以上であることがより好ましく、40質量部以上であることがさらに好ましく、45質量部以上であることが一層好ましい。これにより、抄造体中の強化繊維のランダム配向性をさらに向上できる。
抄造体中の熱硬化性樹脂の含有量の上限値としては、例えば、抄造体の全固形分に対して、70質量部以下であることが好ましく、65質量部以下であることがより好ましく、60質量部以下であることが更に好ましく、55質量部以下であることが一層好ましい。これにより、抄造体の成形性を向上でき、所望の形状に成形しやすくなり、精密な構造を要する用途に成形物を応用できる観点で好ましい。
なお、本実施形態において、抄造体の全固形分とは、分散媒を除く原料成分の合計を示す。
【0042】
[強化繊維B]
本実施形態に係る強化繊維としては限定されず、具体的には、金属繊維;炭素繊維、ガラス繊維、セラミック繊維などの無機繊維;木材繊維、木綿、麻、羊毛等の天然繊維;レーヨン繊維などの再生繊維;セルロース繊維などの半合成繊維;ポリアミド繊維、アラミド繊維、ポリイミド繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ポリパラフェニレンベンズオキサゾール繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリアクリロニトリル繊維、エチレンビニルアルコール繊維などの合成繊維などを用いることができる。強化繊維としては、上記具体例のうち、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。強化繊維としては、上記具体例のうち例えば、無機繊維または合成繊維を用いることが好ましい。また、無機繊維としては、例えば、ガラス繊維または炭素繊維を用いるのが好ましい。さらに、合成繊維としては、例えば、アラミド繊維を用いることが好ましい。これにより、好適に抄造体、成形物を強化できる。また、スラリー中での強化繊維の分散性をさらに向上できる観点でも好ましい。
【0043】
(その他の成分)
本実施形態に係る抄造体は、上述した熱硬化性樹脂、強化繊維の他にも、例えば、パルプ繊維、抄造薬剤、イオン交換剤、充填剤、凝集剤、導電性付与剤、難燃剤、難燃助剤、顔料、染料、滑剤、離型剤、相溶化剤、分散剤、結晶核剤、可塑剤、熱安定剤、酸化防止剤、着色防止剤、紫外線吸収剤、流動性改質剤、発泡剤、抗菌剤、制震剤、防臭剤、摺動性改質剤、帯電防止剤などが例示される。
以下、代表成分について説明する。
【0044】
(パルプ繊維)
本実施形態に係る抄造体は、有機繊維をフィブリル化したパルプ繊維をさらに含むことができる。パルプ繊維としては、特に限定されるものではないが、例えば、リンターパルプや木材パルプ等のセルロース繊維、ケナフ、ジュート、竹などの天然繊維、パラ型全芳香族ポリアミド繊維やその共重合体、芳香族ポリエステル繊維、ポリベンザゾール繊維、メタ型アラミド繊維やその共重合体、アクリル繊維、アクリロニトリル繊維、ポリイミド繊維、ポリアミド繊維などの有機繊維をフィブリル化したパルプ状繊維が挙げられる。パルプ繊維としては、上記具体例のうち、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0045】
有機繊維のフィブリル化方法については特に限定されないが、有機繊維を水に分散させたスラリーとしてビーターもしくはリファイナーなどで叩解することにより、フィブリル化処理有機繊維を作製することができる。叩解時のスラリー濃度は任意であるが、固形分濃度0.1~10質量%が好ましい。
【0046】
(抄造薬剤)
本実施形態の抄造体には、材料歩留まり等の向上を目的として抄造薬剤を添加することができる。抄造薬剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、アクリル系重合体、ビニル系重合体、ポリウレタン、ポリアミド、ポリエステル、ポリエチレンオキシド等の熱可塑性樹脂が挙げられ、これらより選ばれる1種、又は2種以上が用いられる。また、抄造薬剤として用いられる熱可塑性樹脂は、アミノ基、エポキシ基、カルボキシル基、オキサゾリン基、カルボン酸塩基及び酸無水物基から選択される少なくとも1種の官能基を有することが好ましく、2種以上の官能基を有していてもよい。中でも、アミノ基を有する熱可塑性樹脂がより好ましい。
【0047】
(イオン交換剤)
本実施形態の抄造体は、イオン交換能を有する粉末状物質であるイオン交換剤を含んでもよい。イオン交換剤としては、具体的には、粘土鉱物、鱗片状シリカ微粒子、ハイドロタルサイト類、フッ素テニオライト、膨潤性合成雲母などが挙げられる。イオン交換剤としては、上記具体例のうち、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。これにより、強化繊維の繊維長を長く維持したまま熱硬化性樹脂と、強化繊維との凝集物を効率よく作製することができる観点で都合がよい。
【0048】
上記粘土鉱物としては、天然物でも合成されたものであっても特に限定されるものではないが、例えば、スメクタイト、ハロイサイト、カネマイト、ケニヤイト、燐酸ジルコニウム及び燐酸チタニウムなどが挙げられる。上記ハイドロタルサイト類としては、イオン交換能を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えば、ハイドロタルサイ
ト、ハイドロタルサイト状物質などが挙げられる。上記フッ素テニオライトとしては、イオン交換能を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えば、リチウム型フッ素テニオライト、ナトリウム型フッ素テニオライトなどが挙げられる。上記膨潤性合成雲母としては、イオン交換能を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えば、ナトリウム型四珪素フッ素雲母、リチウム型四珪素フッ素などが挙げられ、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0049】
これらのうちでは、粘土鉱物がより好ましく、スメクタイトが天然物から合成物まで存在し、選択の幅が広いという点においてさらに好ましい。
上記スメクタイトとしては、イオン交換能を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えば、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト及びスチーブンサイトなどが挙げられる。上記モンモリロナイトは、アルミニウムの含水ケイ酸塩であるが、モンモリロナイトを主成分とし、他に石英や雲母、長石、ゼオライトなどの鉱物を含んでいるベントナイトであってもよい。着色や不純物を気にする用途に用いる場合などには、不純物が少ない合成スメクタイトが好ましい。
【0050】
上記イオン交換能を有する粉末状物質として、例えば、クニミネ工業(株)製のクニピア(ベントナイト)、スメクトンSA(合成サポナイト)、AGCエスアイテック(株)製のサンラブリー(鱗片状シリカ微粒子)、コープケミカル(株)製のソマシフ(膨潤性合成雲母)、ルーセンタイト(合成スメクタイト)、堺化学工業(株)製のハイドロタルサイトSTABIACE HT-1(ハイドロタルサイト)などが市販品として入手可能であるが、これらに限定されるものではない。
【0051】
(充填材)
上記充填剤としては、破砕ガラス、マイカ、タルク、カオリン、セリサイト、ベントナイト、ゾノトライト、セピオライト、スメクタイト、モンモリロナイト、ワラステナイト、シリカ、炭酸カルシウム、ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラスマイクロバルーン、クレー、二硫化モリブデン、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アンチモン、酸化アルミ、酸化亜鉛、ポリリン酸カルシウム、グラファイト、硫酸バリウム、硫酸マグネシウム、ホウ酸亜鉛、ホウ酸亜カルシウム、ホウ酸アルミニウムウィスカ、チタン酸カリウムウィスカが例示される。
【0052】
(凝集剤)
本実施形態に係る抄造体は、例えば、凝集剤を含んでもよい。これにより、熱硬化性樹脂と、強化繊維とをフロック上に凝集させることができる。
凝集剤としては、具体的には、カチオン性高分子凝集剤、アニオン性高分子凝集剤、ノニオン性高分子凝集剤、両性高分子凝集剤などを用いることができる。このようなものとして、例えば、カチオン性ポリアクリルアミド、アニオン性ポリアクリルアミド、ホフマンポリアクリルアミド、マンニックポリアクリルアミド、両性共重合ポリアクリルアミド、カチオン化澱粉、両性澱粉、ポリエチレンオキサイドなどを挙げることができる。これらの高分子凝集剤は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。また、高分子凝集剤として、ポリマー構造や分子量、水酸基やイオン性基などの官能基量などは、必要特性に応じて特に制限無く使用可能である。また、高分子凝集剤としては、例えば、和光純薬工業株式会社製や関東化学工業株式会社製、住友精化株式会社製のポリエチレンオキシドや、ハリマ化成株式会社製のカチオン性PAMであるハリフィックス、アニオン性PAMであるハーマイドB-15、両性PAMであるハーマイドRB-300、三和澱粉工業株式会社製カチオン化澱粉であるSC-5などが市販品として入手可能であるが、これらに限定されるものではない。
【0053】
本実施形態の抄造体は、上述の構成材料の他に、特性向上を目的とした酸化防止剤や紫外線吸収剤などの安定剤、離型剤、可塑剤、難燃剤、樹脂の硬化触媒や硬化促進剤、顔料、乾燥紙力向上剤、湿潤紙力向上剤などの紙力向上剤、歩留まり向上剤、濾水性向上剤、サイズ定着剤、消泡剤、酸性抄紙用ロジン系サイズ剤、中性製紙用ロジン系サイズ剤、アルキルケテンダイマー系サイズ剤、アルケニルコハク酸無水物系サイズ剤、特殊変性ロジン系サイズ剤などのサイズ剤、硫酸バンド、塩化アルミ、ポリ塩化アルミなどの凝結剤などを、生産条件調整や、要求される物性を発現させることを目的に様々な添加剤を使用することができる。
【0054】
<抄造体の製造方法>
本実施形態に係る抄造体の製造方法は、例えば、湿式抄造法である。
本実施形態に係る抄造体の製造法は、上述した熱硬化性樹脂組成物と、強化繊維とがそれぞれ独立して分散された分散媒を含むスラリーを調製するスラリー調製工程と、分散液に凝集剤を添加して、凝集物を形成する凝集工程と、底面にメッシュを備える容器に、スラリーを入れ、分散媒と、凝集物とを分離する分離工程と、凝集物を脱水プレスすることで、抄造体を作製する脱水工程とを含む。
以下に、
図1に基づいて各工程の詳細を説明する。
【0055】
(スラリー調製工程)
スラリー調製工程では、
図2(a)に示すように、熱硬化性樹脂Aを含む熱硬化性樹脂組成物と、強化繊維Bと、分散媒とを含むスラリーを調製する。すなわち、スラリーは、熱硬化性樹脂および強化繊維がそれぞれ独立して分散された分散媒を含む。
また、スラリーは、上述した抄造体の原料成分のうち、凝集剤以外のその他の成分をさらに含んでもよい。
スラリーを調製する方法としては限定されないが、例えば、攪拌機を備える容器中で撹拌する方法が挙げられる。
【0056】
熱硬化性樹脂組成物の形態としては、適切に分散媒を得る観点から、顆粒状、または粉末状であることが好ましい。
【0057】
(分散媒)
分散媒としては限定されず、具体的には、水;エタノール、1-プロパノール、1-ブタノール、エチレングリコールなどのアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、2-ヘプタノン、シクロヘキサノンなどのケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸メチルなどのエステル類;テトラヒドロフラン、イソプロピルエーテル、ジオキサン、フルフラールなどのエーテル類などが挙げられる。分散媒としては、上記具体例のうち、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0058】
ここで、スラリーは、上記材料に加えて、ポリ(メタ)アクリル酸エステルエマルジョン、パルプ繊維を含むものであってもよい。
【0059】
上記のポリ(メタ)アクリル酸エステルエマルジョンは、熱硬化性樹脂A、強化繊維B、必要に応じてパルプ繊維、及び必要に応じて他の成分を分散媒中で混合し、撹拌した後に添加してもよいし、上記成分と同時に混合してもよい。各成分をより高度に分散させるために、ポリ(メタ)アクリル酸エステルエマルジョンは、上記各成分を分散媒中で混合し撹拌した後に加えるのが好ましい。
また、パルプ繊維が配合されることにより、強化繊維Bを高度に分散させることができる。
又は、熱硬化性樹脂A、強化繊維B、及びポリエーテルオキサイドを分散媒中で混合して、第一のスラリーを得た後に、当該第一の混合水性スラリーに、ポリ(メタ)アクリル酸エステルエマルジョンを混合して、第二のスラリーを調製してもよい
【0060】
(凝集工程)
凝集工程では、分散液に凝集剤を添加して、凝集物を形成する。
ここで、凝集剤としては、上述したものを用いることができる。なお、熱硬化性樹脂と、強化繊維とが十分に凝集し、凝集物を形成する場合、凝集工程は、例えば、行わなくてもよい。
【0061】
(分離工程)
分離工程では、
図2(b)に示すように底面にメッシュ60を備える容器に、スラリーを入れ、分散媒と、凝集物とを分離する。これにより、
図2(c)メッシュ上に、シート状の凝集物が残存する。なお、凝集物は、例えば、スラリーの原料成分を含む。
【0062】
本実施形態において、メッシュ60の形状を適宜選択することによって、得られる抄造体21の形状を調整することが可能である。たとえば、平坦なシート形状のメッシュ60を用いた場合、シート様の形状を有する抄造体10が得られる。また、たとえば、波型、凹凸等の立体形状を有するメッシュ60を用いた場合、立体形状を有する抄造体21が得られる。抄造体21の形状は、これを硬化成型して得られる成形体20の形状、金型の形状等に応じて適宜選択することができる。また、抄造体21の厚みは、材料スラリー中の上記各材料の量を調整したり、再度スラリーを作製して分離工程を行ったりすることによって調整することができる。
【0063】
(脱水工程)
脱水工程では、凝集物を脱水プレスすることで、抄造体を作製する。
脱水プレスの条件は、例えば、温度20℃以上30℃以下で、圧力1kgf/cm2以上50kgf/cm2以下とすることができる。
ここで、脱水プレスは、例えば、抄造体の脱水率が20%以下となるように行われることが好ましい。なお、本実施形態にかかる脱水率とは、脱水処理する前に凝集物に含まれる分散媒の質量を100%としたとき、脱水処理した後の凝集物(抄造体)に含まれる分散媒の質量を示す。
【0064】
<成形物の製造方法>
次に、成形物の製造方法について説明する。
本実施形態に係る成形物の製造方法は、例えば、抄造体を熱処理する乾燥工程と、抄造体を加熱加圧下で金型成形し、成形物を作製する成形工程とを含む。
以下、詳細について説明する。
【0065】
(乾燥工程)
乾燥工程では、
図2(d)に示すように抄造体を熱処理する。これにより、抄造体から分散媒をさらに取り除く。
乾燥する方法としては限定されず、例えば、
図2(d)に示すようにオーブン70などを用いることができる。
ここで、乾燥する温度としては、熱硬化性樹脂の融点以上反応温度以下とすることができる。なお、反応温度とは、示差走査熱量(DSC:Differential scanning calorimetry)測定における昇温過程において、算出される反応率が0%を最初に越える温度である。ここで、反応率とは、次のように求められる。まず、硬化反応を行っていない抄造体について、DSC測定により温度プロファイルを測定する。これにより得られる硬化反応の温度プロファイルから算出される、硬化反応の発熱ピークの単位質量あたりに換算した発熱量をA[mJ/mg]とする。次いで、反応率を算出する抄造体についても、同様に、硬化反応の発熱ピークの単位質量あたりに換算した発熱量B[mJ/mg]を算出する。上記A及びBを用いて、以下の式より、反応率が求められる。
(式) (反応率)=B/A×100[%]
【0066】
(成形工程)
成形工程では、抄造体を加熱加圧下で金型成形し、成形物を作製する。
本実施形態に係る成形物は、抄造体を加熱加圧下で金型成型することにより得られる。成形体は、目的の形状を有する金型を用いて、シート状または立体形状の抄造体21を加熱加圧することにより作製することができる。成型方法としては、例えば、プレス成形が挙げられる。
【0067】
なお、本実施形態に係る成形物の硬化状態は、Bステージの硬化状態である。
ここで、成形工程における加熱温度を、上述した熱硬化性樹脂の融点以上反応温度以下とする場合、成形物をBステージの硬化状態とすることができる。
【0068】
<硬化物の製造方法>
なお、本実施形態に係る成形物は、さらに反応温度より大きい温度で加熱処理することで、Cステージの硬化状態の硬化物としてもよい。ここで、反応温度より大きい温度の加熱処理は、例えば、上記成形工程と同時におこなってもよい。
【0069】
硬化物のガラス転移温度としては、例えば、180℃以上であることが好ましく、230℃以上であることがより好ましく、260℃以上であることが更に好ましい。これにより、耐熱性を向上することができる。
また、硬化物のガラス転移温度としては、例えば、300℃以下であってもよい。
【0070】
[用途]
本実施形態に係る抄造体、成形物、硬化物の用途としては、曲げ強度など機械的特性の異方性が小さいことが求められる用途であれば限定されない。本実施形態に係る抄造体、成形物、硬化物の用途としては、具体的には、保護部材、携行部材などに好適に用いることができる。
保護部材としては、具体的には、電子機器の筐体といった電子機器部材;自動車、飛行機などのボディといった輸送機器部材;圧力容器、建築物などの産業用資材の壁材といった、内容物を保護するものが挙げられる。保護部材の用途では、あらゆる方向から荷重、変形が加わったとしても、クラックなどの破壊が発生しない特性が求められる。
また、携行部材としては、携帯電話、スマートフォンなどの携行可能な電子機器の筐体、内部部材といった電子機器部材;テニスラケット、ゴルフクラブなどのスポーツ用品部材などの人間が携行するものが挙げられる。携行部材の用途では、該携行部材を落下させる、該携行部材の使用者が販売者の思いもよらない方法で使用するといったことが原因で、大きな荷重、変形が加わったとしても、クラックなどの破壊が発生しない特性が求められる。
本実施形態に係る抄造体、成形物、硬化物は、曲げ強度の異方性が小さい観点から、保護部材、携行部材の用途に好適に用いることができる。
【0071】
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
以下、参考形態の例を付記する。
1. 熱硬化性樹脂組成物および強化繊維がそれぞれ独立して分散された分散媒を用いて得られた抄造体であって、
前記熱硬化性樹脂組成物が熱硬化性樹脂を含み、
当該熱硬化性樹脂中に無機フィラーが微分散している、抄造体。
2. 熱硬化性樹脂組成物および強化繊維がそれぞれ独立して分散された分散媒を用いて得られた抄造体であって、
前記熱硬化性樹脂組成物が、変性された熱硬化性樹脂を含む、抄造体。
3. 前記熱硬化性樹脂が、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン、および不飽和ポリエステル樹脂からなる群より選択される1種又は2種以上を含む、1.または2.に記載の抄造体。
4. 前記強化繊維が、金属繊維、炭素繊維、ガラス繊維、セラミック繊維、ポリアミド繊維、アラミド繊維、ポリイミド繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ポリパラフェニレンベンズオキサゾール繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリアクリロニトリル繊維、およびエチレンビニルアルコール繊維の中から選ばれる1種または2種以上を含む、1.乃至3.のいずれか一つに記載の抄造体。
5. 前記熱硬化性樹脂の含有量が、前記抄造体全量に対して、20質量%以上、80質量%以下である、1.乃至4.のいずれか一つに記載の抄造体。
6. 前記無機フィラーが、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化アルミニウム(アルミナ)、結晶または溶融シリカ、表面処理シリカ、タルク、カオリン、クレー、マイカ、ドロマイト、ウォラストナイト、ガラス繊維、炭素繊維、ガラスビーズ、ジルコン、およびモリブデン化合物の中から選ばれる1種または2種以上である、1.に記載の抄造体。
7. 前記無機フィラーの含有量が、前記熱硬化性樹脂組成物全量に対して、5質量%以上、70質量%以下である、1.または6.に記載の抄造体。
8. 前記無機フィラーの平均粒径が、0.1~100μmである、1.、6、7いずれか一つに記載の抄造体。
9. 前記変性された熱硬化性樹脂が、エラストマー成分により変性されたものである、2.に記載の抄造体。
10. 前記エラストマー成分は、ポリビニルアセタール系樹脂、またはアクリルゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、シリコーンゴム、ブチルゴム、ウレタンゴム、ポリブタジエン、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、およびこれらの共重合物からなる群から選択される1種または2種以上である、9.に記載の抄造体。
11. 前記ポリビニルアセタール系樹脂のアセタール化度が50~80%である、10.に記載の抄造体。
12. 1.乃至11.のいずれか一つに記載の抄造体を硬化した硬化物。
13. 熱硬化性樹脂と無機フィラーとを混練し、熱硬化性樹脂組成物を得る工程と、
前記熱硬化性樹脂組成物と、強化繊維とを、分散媒中で分散した後、抄造法を用いて前記分散媒を除去して、抄造体を得る工程と、
を含む、抄造体の製造方法。
14. 変性された熱硬化性樹脂を含む熱硬化性樹脂組成物と、強化繊維とを、分散媒中で分散した後、抄造法を用いて前記分散媒を除去して、抄造体を得る工程と、
を含む、抄造体の製造方法。
【実施例】
【0072】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
各実施例、各比較例で用いた成分の詳細について以下に示す。
【0073】
[実施例1~7]
<熱硬化性樹脂組成物の調製>
まず、以下に示す原料1を用い表1に示す配合比率に従い、原料1をミキサーにより混合した。次いで、得られた混合物を80℃、5分二軸ロール混練した後、冷却、粉砕して、平均粒径50μmの熱硬化性樹脂組成物を得た。これにより、熱硬化性樹脂中に、無機フィラーが微分散した熱硬化性樹脂組成物が得られた。
【0074】
(原料1)
熱硬化性樹脂
・フェノール樹脂1:レゾール型フェノール樹脂「51723」住友ベークライト社製
・フェノール樹脂2:ノボラック型フェノール樹脂「A1087」住友ベークライト社製
無機フィラー
・無機フィラー1:クレー(焼成ケイ酸アルミニウム)「サテントンSP-33」(平均粒径1.3μm)BASF社製
・無機フィラー2:シリカ「FB-105」(平均粒径18μm)デンカ社製
エラストマー成分
・エラストマー1:ポリビニルアルコール(アセタール化度66mol%)「エスレックBX-5」積水化学工業社製
・エラストマー2:ポリビニルアルコール(アセタール化度74mol%)「エスレックKS-10」積水化学工業社製
【0075】
<抄造体の作製>
得られた熱硬化性樹脂組成物を用いて、以下の原料2を準備した。なお、体積%とは、実施例1の抄造体の固形分全量(100体積%)に対する体積の百分率を意味する。
(原料2)
・熱硬化性樹脂組成物:上記で得られた熱硬化性樹脂組成物 55体積%
・強化繊維:PAN系炭素繊維(東レ社製、T800SC、繊維の平均長さ6mm) 40体積%
・パルプ:アラミドパルプ(帝人社製、トワロン(登録商標)1094) 5体積%
【0076】
分散媒としての水に、上記原料2を加え、20分間撹拌して、固形分濃度0.15重量%のスラリーを得た。
得られたスラリーに、あらかじめ調製したポリ(メタ)アクリル酸エステルエマルジョン(ハイモ株式会社製の「ハイモロック DR-9300」)を、スラリー中の固形分に対して300ppmとなるように添加し、スラリー中の固形分を凝集させた。
次いで、凝集物を含むスラリーを、30メッシュの金属網(スクリーン)で濾過し、スクリーン上に残ったシート状の凝集物を、圧力3MPaでプレスして脱水率が20%となるように脱水した。脱水した凝集物を、70℃で3時間乾燥させて、Bステージ状態のシート状抄造体を得た。なお、脱水率とは、素形体(脱水前)に含まれる水の質量を100%としたとき、脱水後の素形体(抄造体)に含まれる水の質量を示す。
これにより、熱硬化性樹脂中に無機フィラーが微分散している、抄造体が得られた。
【0077】
[参考例1、2]
まず、表1に示す割合で各原料を準備し、熱硬化性樹脂と無機フィラーを混練する作業を行なっていない熱硬化性樹脂組成物を用意した。すなわち、熱硬化性樹脂中に、無機フィラーが微分散していないものとした。その後、上記実施例と同様の手順で、抄造体を作製した。
【0078】
<硬化物の作製>
得られた抄造体を180℃、80MPaで15分加熱した後、180℃8時間処理させ、硬化物を得た。
【0079】
得られた硬化物について、以下の測定を行った。結果を、表1に示す。
・曲げ試験:曲げ弾性率(GPa)、および曲げ強度(MPa)の測定
ISO178に準拠して、曲げ弾性率(GPa)と曲げ強度(MPa)とを測定した。
【0080】
【符号の説明】
【0081】
21 抄造体
60 メッシュ
70 オーブン
A 熱硬化性樹脂
B 繊維フィラー