(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】振動素子、発振器、電子機器、及び移動体
(51)【国際特許分類】
H03H 9/02 20060101AFI20240925BHJP
H03H 9/19 20060101ALI20240925BHJP
H10N 30/20 20230101ALI20240925BHJP
H10N 30/30 20230101ALI20240925BHJP
H10N 30/80 20230101ALI20240925BHJP
【FI】
H03H9/02 J
H03H9/02 N
H03H9/19 D
H10N30/20
H10N30/30
H10N30/80
(21)【出願番号】P 2020087260
(22)【出願日】2020-05-19
【審査請求日】2023-03-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】西澤 竜太
(72)【発明者】
【氏名】松尾 敦司
(72)【発明者】
【氏名】山口 啓一
(72)【発明者】
【氏名】松永 拓
【審査官】志津木 康
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-021741(JP,A)
【文献】特開2013-197824(JP,A)
【文献】特開2013-098841(JP,A)
【文献】特開2002-026658(JP,A)
【文献】特開平09-018279(JP,A)
【文献】特開2003-224451(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H3/007-3/10
H03H9/00-9/76
H10N30/00-39/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
両主面を含み、第1振動部と第2振動部と第3振動部とを有する水晶基板と、
前記第1振動部において前記水晶基板の前記両主面に形成されている一対の第1励振電
極と、
前記第2振動部において前記第2振動部を前記水晶基板の厚さ方向に挟むように形成さ
れている一対の第2励振電極と、
前記第3振動部において前記第3振動部を前記水晶基板の厚さ方向に挟むように形成さ
れている一対の第3励振電極と、を備え、
前記一対の第2励振電極のうちの少なくとも一方の前記第2励振電極は、前記両主面に
対して傾斜している第1傾斜面に形成され、
前記一対の第3励振電極のうちの少なくとも一方の前記第3励振電極は、前記両主面に
対して傾斜している第2傾斜面に形成され、
前記第2傾斜面は、前記第1傾斜面に対して傾斜しており、
水晶の結晶軸(X、Y、Z)のX軸およびZ軸に沿った面をX軸の回りに回転させた角
度を切断角度としたとき、
前記両主面の切断角度は、略35°15´であり、
前記両主面と前記第1傾斜面と前記第2傾斜面とは切断角度が異なり、
前記第1傾斜面の切断角度は、前記両主面の切断角度よりも大きく、前記第2傾斜面の
切断角度は、前記両主面の切断角度よりも小さく、
前記第1傾斜面の切断角度をθaとし、
前記第2傾斜面の切断角度をθbとしたとき、
θa-5′≦θb≦θa-20°を満たす、
振動素子。
【請求項2】
前記第1振動部と前記第2振動部と前記第3振動部とは、周波数-温度特性が異なる、
請求項1に記載の振動素子。
【請求項3】
前記第2振動部の周波数-温度特性および前記第3振動部の周波数-温度特性は、前記
第1振動部の周波数-温度特性よりも周波数変化量が大きい、
請求項2に記載の振動素子。
【請求項4】
前記第1傾斜面および前記第2傾斜面は、前記第1振動部から離れるにしたがって前記
第2振動部の厚さおよび前記第3振動部の厚さが薄くなるように傾斜している、
請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載の振動素子。
【請求項5】
前記第1傾斜面および前記第2傾斜面は、前記第1振動部に近づくにしたがって前記第
2振動部の厚さおよび前記第3振動部の厚さが薄くなるように傾斜している、
請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載の振動素子。
【請求項6】
前記第1振動部は、前記両主面のうちの少なくとも一方の前記主面に凸部が形成されて
いる、
請求項1乃至請求項5の何れか一項に記載の振動素子。
【請求項7】
前記振動素子は、前記振動素子をパッケージに固定する固定部を有し、前記第1振動部
、前記第2振動部および前記第3振動部と、前記固定部との間に、貫通孔および幅狭部の
少なくとも一方を備える、
請求項1乃至請求項6の何れか一項に記載の振動素子。
【請求項8】
前記第1振動部と前記第2振動部との間、および前記第1振動部と前記第3振動部との
間の少なくとも一方に、貫通孔および薄肉部の少なくとも一方を備える、
請求項1乃至請求項7の何れか一項に記載の振動素子。
【請求項9】
請求項1乃至請求項8の何れか一項に記載の振動素子と、
前記第1励振電極に電気的に接続され、第1発振信号を出力する第1発振回路と、
前記第2励振電極に電気的に接続され、第2発振信号を出力する第2発振回路と、
前記第3励振電極に電気的に接続され、第3発振信号を出力する第3発振回路と、
前記第2発振信号および前記第3発振信号の少なくとも一方が入力され、前記入力され
た信号に基づいて、前記第1発振信号の発振周波数を制御する制御信号を出力する制御信
号出力回路と、を備えている、
発振器。
【請求項10】
温度センサーと、
前記第2発振信号および前記第3発振信号が入力され、前記温度センサーの温度検出結
果に基づいて、前記第2発振信号または前記第3発振信号を選択的に出力する出力選択回
路と、をさらに備え、
前記制御信号出力回路は、前記出力選択回路の出力信号に基づいて、前記制御信号を出
力する、
請求項9に記載の発振器。
【請求項11】
前記出力選択回路は、前記第2発振信号および前記第3発振信号のうち、前記温度セン
サーが検出した温度における周波数変化量が大きい周波数-温度特性を有する方を選択し
て出力する、
請求項10に記載の発振器。
【請求項12】
請求項9乃至請求項11の何れか一項に記載の発振器を備えている、
電子機器。
【請求項13】
請求項9乃至請求項11の何れか一項に記載の発振器を備えている、
移動体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動素子、発振器、電子機器、及び移動体に関する。
【背景技術】
【0002】
広い温度範囲に亘って安定した周波数信号を得ることを目的として、温度検出用素子と温度補償回路とを備えた温度補償水晶発振器(TCXO:Temperature Compensated Crystal Oscillator)が広く使用されている。しかし、TCXOは、水晶からなる振動素子と温度検出用素子とが別々に構成されているため、温度検出用素子が検出した温度と、振動素子の温度との間には検出誤差が生じ、高精度な温度補償を行うことが難しい。
【0003】
そのため、特許文献1に示すように、共通の圧電板に、発振信号出力用の第1振動部と温度検出用の第2振動部とを設けた振動素子が開示されている。共通の圧電板に2つの振動部を形成しているため、第1振動部と第2振動部の間の熱伝達が速やかに行われる。従って、振動素子と温度検出用素子とが別々に構成されている場合に比べ、温度検出用の第2振動部により検出される温度と、発振信号出力用の第1振動部の温度と、の間の検出誤差は小さくなり、より高精度な温度補償を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の振動素子では、発振信号出力用の励振電極と温度検出用の励振電極とが、圧電板の切断角度が同じ面に形成されているので、発振信号出力用の第1振動部と温度検出用の第2振動部とは、同様の周波数-温度特性を有することになる。発振信号出力用の第1振動部は、温度変化に対して周波数変化が小さくなるような切断角度に設定されるため、それにともなって温度検出用の第2振動部も温度変化に対して周波数変化が小さい周波数-温度特性となり、周波数変化に対する温度変化の分解能が低く、精度の良い温度検出ができないという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
振動素子は、第1振動部と第2振動部と第3振動部とを有する水晶基板と、前記第1振動部において前記水晶基板の両主面に形成されている一対の第1励振電極と、前記第2振動部において前記第2振動部を前記水晶基板の厚さ方向に挟むように形成されている一対の第2励振電極と、前記第3振動部において前記第3振動部を前記水晶基板の厚さ方向に挟むように形成されている一対の第3励振電極と、を備え、前記一対の第2励振電極のうちの少なくとも一方の前記第2励振電極は、前記両主面に対して傾斜している第1傾斜面に形成され、前記一対の第3励振電極のうちの少なくとも一方の前記第3励振電極は、前記両主面に対して傾斜している第2傾斜面に形成され、前記第2傾斜面は、前記第1傾斜面に対して傾斜している。
【0007】
発振器は、上記に記載の振動素子と、前記第1励振電極に電気的に接続され、第1発振信号を出力する第1発振回路と、前記第2励振電極に電気的に接続され、第2発振信号を出力する第2発振回路と、前記第3励振電極に電気的に接続され、第3発振信号を出力する第3発振回路と、前記第2発振信号および前記第3発振信号の少なくとも一方が入力され、前記入力された信号に基づいて、前記第1発振信号の発振周波数を制御する制御信号を出力する制御信号出力回路と、を備えている。
【0008】
電子機器は、上記に記載の発振器を備えている。
【0009】
移動体は、上記に記載の発振器を備えている。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図4】水晶基板の切断角度と周波数-温度特性の関係を示す図。
【
図5】振動素子の周波数-温度特性の一例を示す図。
【
図24】実施形態7に係る発振器の回路構成を示すブロック図。
【
図25】実施形態8に係る発振器の回路構成を示すブロック図。
【
図26】振動素子の周波数変化量の差分と温度の関係の一例を示す図。
【
図27】実施形態9に係る電子機器の一例である携帯電話機を示す斜視図。
【
図28】実施形態10に係る移動体の一例である自動車を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.実施形態1
実施形態1に係る振動素子1の概略構成について、
図1及び
図2を参照して説明する。
【0012】
なお、
図1及び
図2中のY’軸、Z’軸は、互いに直交する軸X、Y、Zのうち、Y軸とZ軸とをX軸の回りに所定の角度回転させた軸である。
【0013】
実施形態1の振動素子1は、水晶基板2と、第1振動部3に形成された第1励振電極4と、第2振動部5に形成された第2励振電極6と、第3振動部7に形成された第3励振電極8と、固定部9に形成された端子10,11,12と、第1励振電極4と端子10とを導通接続するリード電極13と、第2励振電極6と端子11とを導通接続するリード電極14と、第3励振電極8と端子12とを導通接続するリード電極15と、を備えている。
【0014】
振動素子1は、第1振動素子X1と、第2振動素子X2と、第3振動素子X3と、を備えている。第1振動素子X1は、一対の第1励振電極4が形成された第1振動部3を有する。第2振動素子X2は、一対の第2励振電極6が形成された第2振動部5を有する。第3振動素子X3は、一対の第3励振電極8が形成された第3振動部7を有する。第1振動素子X1と、第2振動素子X2と、第3振動素子X3は、水晶基板2を共用しているので、外部からの熱が均等に伝わり易い構造になっている。
【0015】
水晶基板2は、第1振動部3と、第2振動部5と、第3振動部7と、水晶基板2を図示しないパッケージなどに固定するための固定部9と、を有している。なお、水晶基板2は、XZ’面を主面とし、Y’軸に沿った方向を厚さ方向とする平板である。
【0016】
第1振動部3、第2振動部5、及び第3振動部7は、Z’軸に沿った方向に並んで配置されており、Z’軸の正方向に向かって、第3振動部7、第1振動部3、第2振動部5の順で配置されている。固定部9は、第1振動部3と、第2振動部5と、第3振動部7に対して、Z’軸に直交するX軸に沿った方向に配置されている。
【0017】
第1振動部3は、水晶基板2の第1主面16aと、第1主面16aに平行な第2主面16bと、を有している。第1振動部3の第1主面16aと第2主面16bには、一対の第1励振電極4が水晶基板2の厚さ方向に挟むように形成されている。第1主面16a側の第1励振電極4と第2主面16b側の第1励振電極4とは、Y’軸に沿った方向からの平面視で重なるように配置されている。なお、第1主面16aと第2主面16bとは、両主面に相当する。
【0018】
第2振動部5は、水晶基板2の第1傾斜面17と第2主面16bとを有している。第2振動部5の第1傾斜面17と第2主面16bには、第2振動部5を水晶基板2の厚さ方向に挟むように、一対の第2励振電極6が形成されている。第1傾斜面17側の第2励振電極6と第2主面16b側の第2励振電極6とは、Y’軸に沿った方向からの平面視で重なるように配置されている。
【0019】
なお、第1傾斜面17は、第1主面16aに対して所定の傾斜角度で傾斜している傾斜面であり、実施形態1では、第1傾斜面17は、第1振動部3から離れるにしたがって第2振動部5の厚さが薄くなるように傾斜している。
【0020】
第3振動部7は、水晶基板2の第2傾斜面18と第2主面16bとを有している。第3振動部7の第2傾斜面18と第2主面16bには、第3振動部7を水晶基板2の厚さ方向に挟むように、一対の第3励振電極8が形成されている。第2傾斜面18側の第3励振電極8と第2主面16b側の第3励振電極8とは、Y’軸に沿った方向からの平面視で重なるように配置されている。
【0021】
なお、第2傾斜面18は、第1主面16aに対して所定の傾斜角度で傾斜している傾斜面であり、実施形態1では、第2傾斜面18は、第1振動部3から離れるにしたがって第3振動部7の厚さが薄くなるように傾斜している。
【0022】
第1振動素子X1は、第1振動部3と、第1振動部3に形成された第1励振電極4と、固定部9に形成された端子10と、第1励振電極4と端子10とを導通接続するリード電極13と、を備えている。
【0023】
第1振動素子X1の第1主面16aには、第1励振電極4と、図示しない発振回路と電気的に接続するための端子10と、第1励振電極4と端子10とを電気的に接続するリード電極13と、が形成されている。さらに、第1振動素子X1の第2主面16bには、第1励振電極4と、図示しない発振回路と電気的に接続するための端子10と、第1励振電極4と端子10とを電気的に接続するリード電極13と、が形成されている。
【0024】
第2振動素子X2は、第2振動部5と、第2振動部5に形成された第2励振電極6と、固定部9に形成された端子11と、第2励振電極6と端子11とを導通接続するリード電極14と、を備えている。
【0025】
第2振動素子X2の第1傾斜面17には、第2励振電極6と、図示しない発振回路と電気的に接続するための端子11と、第2励振電極6と端子11とを電気的に接続するリード電極14と、が形成されている。さらに、第2振動素子X2の第2主面16bには、第2励振電極6と、図示しない発振回路と電気的に接続するための端子11と、第2励振電極6と端子11とを電気的に接続するリード電極14と、が形成されている。
【0026】
第3振動素子X3は、第3振動部7と、第3振動部7に形成された第3励振電極8と、固定部9に形成された端子12と、第3励振電極8と端子12とを導通接続するリード電極15と、を備えている。
【0027】
第3振動素子X3の第2傾斜面18には、第3励振電極8と、図示しない発振回路と電気的に接続するための端子12と、第3励振電極8と端子12とを電気的に接続するリード電極15と、が形成されている。さらに、第3振動素子X3の第2主面16bには、第3励振電極8と、図示しない発振回路と電気的に接続するための端子12と、第3励振電極8と端子12とを電気的に接続するリード電極15と、が形成されている。
【0028】
第1振動素子X1は、第1振動部3の両主面16a,16bに一対の第1励振電極4が形成されているので、端子10に電圧を印加することにより、第1振動部3を振動させることができる。
【0029】
第2振動素子X2は、第2振動部5の第1傾斜面17と第2主面16bに水晶基板2の厚さ方向に挟むように一対の第2励振電極6が形成されているので、端子11に電圧を印加することにより、第2振動部5を振動させることができる。
【0030】
第3振動素子X3は、第3振動部7の第2傾斜面18と第2主面16bに水晶基板2の厚さ方向に挟むように一対の第3励振電極8が形成されているので、端子12に電圧を印加することにより、第3振動部7を振動させることができる。
【0031】
第1振動部3と固定部9との間と、第2振動部5と固定部9との間と、第3振動部7と固定部9との間には、それぞれ第1貫通孔19、第2貫通孔20、第3貫通孔21が設けられている。第1貫通孔19、第2貫通孔20、第3貫通孔21が設けられていることにより、振動素子1を接着剤やバンプなどの接合部材により図示しないパッケージに固定する際に生じる応力が、固定部9から第1振動部3や第2振動部5や第3振動部7に伝わることを低減することができる。
【0032】
また、第1振動部3と固定部9との間と、第2振動部5と固定部9との間と、第3振動部7と固定部9との間と、には、それぞれ幅狭部22a,22b,22c,22dが設けられている。幅狭部とは、水晶基板2において、第1振動部3と固定部9とを接続する部分、第2振動部5と固定部9とを接続する部分、第3振動部7と固定部9とを接続する部分のZ’軸に沿った方向の長さが、水晶基板2のZ’軸に沿った方向の全長より短い部分である。幅狭部22a,22b,22c,22dが設けられていることにより、振動素子1を接着剤やバンプなどの接合部材により図示しないパッケージに固定する際に生じる応力が、固定部9から第1振動部3や第2振動部5や第3振動部7に伝わることを低減することができる。
【0033】
なお、実施形態1では、幅狭部22a,22b,22c,22dを、第1貫通孔19、第2貫通孔20、第3貫通孔21により形成しているが、貫通孔に限らず、Y’軸に沿った方向からの平面視で水晶基板2のX軸に沿った方向に平行な辺の一部をZ’軸に沿った方向に切り欠いた切り欠き部を水晶基板2に設けることにより、幅狭部を形成しても構わない。
【0034】
次に、本実施形態の水晶基板2の切断角度について、
図3を参照して説明する。
図3に示すように、水晶等の圧電材料は三方晶系に属し、互いに直交する結晶軸X、Y、Zを有する。X軸、Y軸、Z軸は、夫々電気軸、機械軸、光学軸と呼称される。
【0035】
例えば、圧電基板としては、XZ面をX軸の回りに所定の角度θ1だけ回転させた平面に沿って、水晶から切り出された、所謂回転Yカット水晶基板からなる平板が水晶基板2として用いられる。なお、角度θ1は、回転Yカット水晶基板の切断角度とも呼称される。
【0036】
なお、XZ面をX軸の回りに回転させる回転方向は、矢印Bで示され、回転軸となるX軸の正方向から見て左回りを正回転とし、右回りを負回転とする。
【0037】
Y軸をX軸の回りに角度θ1回転させた座標軸をY’軸とし、Z軸をX軸の回りに角度θ1回転させた座標軸をZ’軸とすると、回転Yカット水晶基板は、直交する結晶軸X、Y’、Z’で表すことができる。回転Yカット水晶基板は、厚み方向がY’軸に沿った方向であり、Y’軸に直交するX軸とZ’軸を含むXZ’面が主面であり、主面に厚み滑り振動が主振動として励振される。
【0038】
ここで、角度θ1を略35°15′とした回転Yカット水晶基板は、ATカット水晶基板と呼称され、優れた周波数-温度特性を有する。以下、本実施形態においては、水晶基板2の一例として、ATカット水晶基板を用いて説明するが、ATカット水晶基板に限定されず、例えば、厚み滑り振動を励振するBTカット等の水晶基板であってもよい。また、水晶基板2としてATカット水晶基板を用いる場合、角度θ1は略35°15′であればよく、例えば、角度θ1は35°17′でもよい。
【0039】
なお、本実施形態においては、水晶基板2の角度θ1を35°15′としている。従って、水晶基板2の両主面16a,16bの切断角度は角度θ1、すなわち、35°15′となる。
【0040】
水晶基板2の第1傾斜面17は、第1主面16aを基準として角度θ2だけ傾斜している。つまり、水晶基板2の第1傾斜面17は、Z’軸からX軸の回りに正方向に回転しているので、第1傾斜面17の切断角度はθ1+θ2、すなわち、35°15′+θ2となる。
【0041】
水晶基板2の第2傾斜面18は、第1主面16aを基準として角度θ3だけ傾斜している。つまり、水晶基板2の第2傾斜面18は、Z’軸からX軸の回りに負方向に回転しているので、第2傾斜面18の切断角度はθ1-θ3、すなわち、35°15′-θ3となる。
【0042】
本実施形態においては、第1傾斜面17の切断角度はθ1+θ2であり、第2傾斜面18の切断角度はθ1-θ3であり、第1傾斜面17の切断角度と第2傾斜面18の切断角度と、は異なる。
【0043】
第1傾斜面17の切断角度と第2傾斜面18の切断角度と、が異なるということは、第2傾斜面18は第1傾斜面17に対して傾斜している、ともいう。
【0044】
次に、水晶基板2の切断角度と周波数-温度特性の関係について、
図4及び
図5を参照して説明する。
図4は、回転Yカット水晶基板において、切断角度が35°15′のATカット水晶基板を基準として2′間隔で切断角度を変化させた時の切断角度に対する周波数-温度特性の関係を示したものである。例えば、
図4中、+10で示される曲線は、切断角度が35°15′+10′、すなわち、切断角度が35°25′の回転Yカット水晶基板の周波数-温度特性を示す。このように、切断角度を変化させることにより、温度変化に対する周波数変化量Δf/fを調整することができる。
【0045】
ここで、本実施形態では、第2振動部5を励振する一対の第2励振電極6の一方は第1傾斜面17に、他方は第2主面16bに設けられているので、本実施形態の第2振動素子X2の周波数-温度特性は、第1傾斜面17の切断角度θ1+θ2=35°15′+θ2に対応する周波数-温度特性と、第2主面16bの切断角度θ1=35°15′に対応する周波数-温度特性との中間の特性となる。具体的には、第2振動素子X2の温度変化に対する周波数変化量Δf/fは、切断角度が((θ1+θ2)+θ1)/2=(2θ1+θ2)/2、すなわち、θ1+θ2/2=35°15′+θ2/2の時の温度変化に対する周波数変化量Δf/fとなる。
【0046】
また、第3振動部7を励振する一対の第3励振電極8の一方は第2傾斜面18に、他方は第2主面16bに設けられているので、本実施形態の第3振動素子X3の周波数-温度特性は、第2傾斜面18の切断角度35°15′-θ3に対応する周波数-温度特性と、第2主面16bの切断角度35°15′に対応する周波数-温度特性との中間の特性となる。具体的には、第3振動素子X3の温度変化に対する周波数変化量Δf/fは、切断角度が35°15′-θ3/2の時の温度変化に対する周波数変化量Δf/fとなる。
【0047】
本実施形態の振動素子1の周波数-温度特性の一例を示す
図5において、AT1は第1振動素子X1の周波数-温度特性を示し、AT2は第2振動素子X2の周波数-温度特性を示し、AT3は第3振動素子X3の周波数-温度特性を示す。
【0048】
第1振動部3の角度θ1は35°15′であり、ATカット水晶基板をそのまま使用しているので、温度変化に対する第1振動素子X1の周波数変化量Δf/fは小さい。従って、第1振動素子X1を発振信号出力用とすることにより、温度変化に対して比較的安定した発振信号を得ることができる。
【0049】
第2振動部5は、第1傾斜面17の角度θ2を変えることで、また、第3振動部7は、第2傾斜面18の角度θ3を変えることで、温度変化に対する周波数変化量Δf/fが大きくなるように調整することができる。温度変化に対する第2振動素子X2及び第3振動素子X3の周波数変化量Δf/fが大きいということは、周波数変化に対する温度変化の分解能が高く、精度の良い温度検出ができるということである。従って、第2振動素子X2及び第3振動素子X3を温度検出用とすることにより、温度を精度よく検出することができる。
【0050】
本実施形態では、第2振動部5の第1傾斜面17の切断角度は、両主面16a,16bの切断角度θ1とすると、θ1+θ2、すなわち、35°15′+θ2であり、第2振動部5の第1傾斜面17の切断角度は、両主面16a,16bの切断角度θ1より大きい。また、第3振動部7の第2傾斜面18の切断角度は、θ1-θ3、すなわち、35°15′-θ3であり、両主面16a、16bの切断角度θ1より小さい。第2振動部5の第1傾斜面17の切断角度と、第3振動部7の第2傾斜面18の切断角度と、をそれぞれ異なる角度とすることにより、温度検出用の第2振動素子X2と第3振動素子X3のそれぞれの周波数-温度特性を異ならせることができる。
【0051】
温度検出用の第2振動素子X2と第3振動素子X3のそれぞれの周波数-温度特性を異ならせることにより、例えば、第2振動素子X2の方が第3振動素子X3よりも周波数変化に対する温度変化の分解能が高く、精度の良い温度検出ができる温度範囲では、第2振動素子X2に基づいて温度検出を行い、第3振動素子X3の方が第2振動素子X2よりも周波数変化に対する温度変化の分解能が高く、精度の良い温度検出ができる温度範囲では、第3振動素子X3に基づいて温度検出を行うことで、より一層高精度な温度検出が可能となる。
【0052】
例えば、
図5において、温度Tが-10℃から60℃の温度範囲では、第3振動素子X3よりも第2振動素子X2の方が、周波数変化に対する温度変化の分解能が高いので、第2振動素子X2に基づいて温度検出を行うと良い。一方、温度Tが-10℃よりも低い、または、60℃よりも高い温度範囲では、第2振動素子X2は、周波数変化に対する温度変化の分解能が低くなり、さらには、第2振動素子X2の周波数変化が温度変化に対して単調増加あるいは単調減少を示さなくなる。そこで、温度Tが-10℃よりも低い、または、60℃よりも高い温度範囲では、第2振動素子X2よりも周波数変化に対する温度変化の分解能が高い第3振動素子X3に基づいて温度検出をするようにすれば良い。
【0053】
なお、第2振動素子X2を温度検出に用いる温度範囲や、第3振動素子X3を温度検出に用いる温度範囲は、前記の温度範囲に限定されず、第2振動部5及び第3振動部7の周波数-温度特性に基づいて任意に設定することができる。
【0054】
さらに、第1振動素子X1と第2振動素子X2と第3振動素子X3は、共通の水晶基板2に形成されているため、第1振動素子X1と第2振動素子X2と第3振動素子X3の間の熱伝達が速やかに行われる。そのため、第1振動素子X1の温度は、温度検出用の第2振動素子X2と第3振動素子X3によって速やかにかつ精度よく検出することができるので、第1振動素子X1の温度補償を速やかにかつ精度よく行うことができる。
【0055】
以下、振動素子1の製造方法について
図6~
図11を参照しながら説明する。振動素子1の製造方法は、水晶基板準備工程と、レジスト塗布工程と、ドライエッチング工程と、個片化工程と、電極形成工程と、を含んでいる。
【0056】
1.1 水晶基板準備工程
図6に示すように、振動素子1の量産性や製造コストを考慮し、複数個の振動素子1をバッチ処理方式で製造できる大型水晶基板80を準備する。大型水晶基板80は、水晶原石を所定の切断角度θ1で切断し、ラッピングやポリッシュ加工等を施し、所望の厚さとなっている。なお、実施形態1では、切断角度θ1は35°15′である。
【0057】
1.2 レジスト塗布工程
図7に示すように、大型水晶基板80の両主面16a,16bにレジスト82を塗布する。ここで、第1主面16aにレジスト82を塗布する方法として、第2励振電極6が形成される第1傾斜面17と、第3励振電極8が形成される第2傾斜面18と、の形状に対応した窪みを備えた金型にレジスト82を充填し、金型に充填されたレジスト82を第1主面16aに転写して硬化させる方法を用いる。
【0058】
1.3 ドライエッチング工程
次に、ドライエッチング法を用いて、
図8において矢印で示すように、プラズマエッチング装置等を用いて、第1主面16aの上方からドライエッチングを行う。
【0059】
図9はドライエッチングにより、レジスト82を除去した状態を表している。
図7で形成された第1主面16a上の傾斜面の形状のレジスト82の形状がそのまま大型水晶基板80に転写されて薄肉化されている。このようにして大型水晶基板80に第1傾斜面17と第2傾斜面18が形成される。
【0060】
1.4 個片化工程
図9では、大型水晶基板80に複数の水晶片が連結した状態になっているので、大型水晶基板80を個片化する。
図9の仮想線Lを基準として、ダイシングまたは湿式エッチング法によって大型水晶基板80を個片化する。
図10に個片化された水晶基板2を示す。
【0061】
1.5 電極形成工程
図11に示すように、個片化された水晶基板2に、蒸着またはスパッタリングによって、第1励振電極4、第2励振電極6、第3励振電極8等を形成し、振動素子1とする。
【0062】
なお、第1傾斜面17や第2傾斜面18の形成は前述の方法以外の手段によって形成してもよい。例えば、一部を薄肉化したレジスト82を形成する方法としては、光量分布の異なる条件でレジスト82を露光するグレイスケール露光を用いる方法でもよい。
【0063】
また、大型水晶基板80を個片化する前に、大型水晶基板80に一括して第1励振電極4、第2励振電極6、第3励振電極8等を形成してから、個片化して、振動素子1を得る方法でもよい。
【0064】
第1振動素子X1、第2振動素子X2、及び第3振動素子X3は、共通の水晶基板2に形成されており、第1振動素子X1と第2振動素子X2と第3振動素子X3の間の熱伝達が速やかに行われる。また、ドライエッチング法のような水晶基板への負荷が少ない製造方法で第1傾斜面17及び第2傾斜面18を形成することができるので、水晶基板2の機械的強度の低下や経時的な劣化が生じにくい。
【0065】
本実施形態では、第1振動部3が、水晶基板2の両主面16a,16bに形成されている一対の第1励振電極4により励振されるのに対し、第2振動部5及び第3振動部7は、両主面16a,16bに対して角度θ2,θ3傾斜している第1傾斜面17及び第2傾斜面18に一対の第2励振電極6及び第3励振電極8のうち一方を形成しているため、第1振動部3を有する第1振動素子X1の周波数-温度特性と、第2振動部5を有する第2振動素子X2の周波数-温度特性及び第3振動部7を有する第3振動素子X3の周波数-温度特性と、をそれぞれ異なる特性とすることができる。
【0066】
第1振動部3を周波数-温度特性の周波数変化量の小さい切断角度とし、第2振動部5の第1傾斜面17及び第3振動部7の第2傾斜面18を周波数-温度特性の周波数変化量の大きい切断角度とすることで、第1振動素子X1を発振信号出力用に、また、第2振動素子X2及び第3振動素子X3を温度検出用に用いることができる。
【0067】
また、第2傾斜面18は、第1傾斜面17に対して傾斜している。つまり、第1傾斜面17の切断角度と、第2傾斜面18の切断角度と、を異ならせることで、第2振動素子X2の周波数-温度特性と、第3振動素子X3の周波数-温度特性と、をそれぞれ異なる特性とすることができる。
【0068】
そのため、例えば、第2振動素子X2の方が第3振動素子X3よりも周波数変化に対する温度変化の分解能が高く、精度の良い温度検出ができる温度範囲では、第2振動素子X2に基づいて温度検出を行い、第3振動素子X3の方が第2振動素子X2よりも周波数変化に対する温度変化の分解能が高く、精度の良い温度検出ができる温度範囲では、第3振動素子X3に基づいて温度検出を行うことで、より一層高精度な温度検出が可能となる。
【0069】
また、本実施形態では、第1傾斜面17及び第2傾斜面18は、第1振動部3から離れるにしたがって第2振動部5及び第3振動部7の厚さが薄くなるように傾斜しているので、第1振動部3の周波数-温度特性と、第2振動部5及び第3振動部7の周波数-温度特性とをそれぞれ異なる特性とすることができる。従って、第1振動素子X1の周波数-温度特性は発振信号出力に適した特性としながら、第2振動素子X2及び第3振動素子X3の周波数-温度特性は温度検出に適した特性に調整することができる。
【0070】
さらに、第1振動素子X1、第2振動素子X2及び第3振動素子X3は、共通の水晶基板2に形成されているため、第1振動素子X1、第2振動素子X2及び第3振動素子X3の間の熱伝達が速やかに行われる。そのため、第1振動素子X1の温度は、温度検出用の第2振動素子X2と第3振動素子X3によって速やかにかつ精度よく検出することができるので、第1振動素子X1の温度補償を速やかにかつ精度よく行うことができる。
【0071】
なお、実施形態1においては、第1振動部3、第2振動部5及び第3振動部7は、Z’軸の正方向に沿って、第3振動部7、第1振動部3、第2振動部5の順に配置されているが、第1振動部3、第2振動部5及び第3振動部7の配置は、これに限定されない。
【0072】
本実施形態では、第1傾斜面17は、水晶基板2の第1主面16aに形成しているが、第2主面16bに形成してもよく、両主面16a,16bの両方に形成してもよい。
【0073】
また、本実施形態では、第2傾斜面18は、水晶基板2の第1主面16aに形成しているが、第2主面16bに形成してもよく、両主面16a,16bの両方に形成してもよい。
【0074】
なお、水晶基板2としてATカット水晶基板を用いる場合、水晶基板2の第1傾斜面17と、水晶基板2の第2傾斜面18のうち、切断角度が大きい方の傾斜面の切断角度θaとし、他方の傾斜面の切断角度θbとすると、θbの好ましい範囲は、θa-5′以上θa-20°以下である。切断角度θbをθa-5′以上とすると、水晶基板2の第1傾斜面17の切断角度と、水晶基板2の第2傾斜面18の切断角度の差が十分に大きくなるため、温度検出用の第2振動素子X2と第3振動素子X3のそれぞれの周波数-温度特性を十分に異ならせることができ、精度の良い温度検出ができるので好ましい。また、切断角度θbを大きくしていくと、傾斜面を形成するのが困難になるため、切断角度θbをθa-20°以下とすることが好ましい。なお、本実施形態においては、第1傾斜面17の切断角度θ1+θ2がθaに相当し、第2傾斜面18の切断角度θ1-θ3がθbに相当する。
【0075】
2.実施形態2
実施形態2に係る振動素子1aの概略構成について、
図12及び
図13を参照して説明する。実施形態1と同一の構成については、同一の符号を付して、重複する説明を省略する。
【0076】
図12及び
図13に示すように、実施形態2において、第1振動部3、第2振動部5a及び第3振動部7aは、Z’軸の正方向に沿って、第3振動部7a、第1振動部3、第2振動部5aの順に配置されている。
【0077】
実施形態2では、水晶基板2aにおいて、第2振動部5aに設けられた第1傾斜面17a及び第3振動部7aに設けられた第2傾斜面18aは、第1振動部3に近づくにしたがって、第2振動部5a及び第3振動部7aの厚さが薄くなるように傾斜している。
【0078】
水晶基板2aの第1傾斜面17aは、Z’軸からX軸の回りに角度θ2だけ負方向に回転している。つまり、第1傾斜面17aの切断角度は、両主面16a,16bの切断角度θ1とすると、θ1-θ2、すなわち、35°15′-θ2となり、両主面16a、16bの切断角度θ1より小さい。また、水晶基板2の第2傾斜面18aは、Z’軸からX軸の回りに角度θ3だけ正方向に回転している。つまり、第2傾斜面18aの切断角度は、θ1+θ3、すなわち、35°15′+θ3となり、両主面16a、16bの切断角度θ1より大きい。このように、第1傾斜面17aの切断角度はθ1-θ2であり、第2傾斜面18aの切断角度はθ1+θ3であり、第1傾斜面17aの切断角度と、第2傾斜面18aの切断角度と、は異なる。
【0079】
また、第1振動部3は、第1振動部3の端面に段差24を有し、第2振動部5aの第1傾斜面17a、及び第3振動部7aの第2傾斜面18aに対して、第1振動部3はY’軸の正方向に突出した形状を有する。
【0080】
本実施形態によれば、第2振動部5aを有する第2振動素子X2a及び第3振動部7aを有する第3振動素子X3aの周波数-温度特性は、第1振動部3の周波数-温度特性よりも周波数変化量を大きくすることができるので、第2振動素子X2a及び第3振動素子X3aを温度検出に用いると、周波数変化に対する温度変化の分解能が高く、精度の良い温度検出ができ、実施形態1と同様な効果を得ることができる。
また、本実施形態によれば、実施形態1での効果に加えて、以下の効果を得ることができる。
【0081】
第1傾斜面17aは、第1振動部3から離れるにしたがって第2振動部5aの厚さが厚くなるように傾斜している。そのため、第2振動部5aの振動は、水晶基板2aの厚さが厚い方に寄るので、第2振動部5aの振動領域は、第1振動部3から離れることになる。従って、第2振動部5aの振動による第1振動部3への影響を低減することができる。
【0082】
第2傾斜面18aも、第1傾斜面17aと同様に、第1振動部3から離れるにしたがって第3振動部7aの厚さが厚くなるように傾斜しているので、第3振動部7aの振動による第1振動部3への影響を低減することができる。
【0083】
また、第1振動部3の端面には、段差24が設けられている。この段差24により、第1振動部3の振動エネルギーを第1振動部3に閉じ込め、振動漏洩を低減できるので、第1振動部3の振動を安定させることができる。
【0084】
3.実施形態3
実施形態3に係る振動素子1bの概略構成について、
図14及び
図15を参照して説明する。実施形態1と同一の構成については、同一の符号を付して、重複する説明を省略する。
【0085】
図14及び
図15に示すように、実施形態3において、第1振動部3、第2振動部5及び第3振動部7bは、Z’軸の正方向に沿って、第3振動部7b、第1振動部3、第2振動部5の順に配置されている。
【0086】
実施形態3では、水晶基板2bにおいて、第2振動部5に設けられた第1傾斜面17は、第1振動部3から離れるにしたがって第2振動部5の厚さが薄くなるように傾斜し、第3振動部7bに設けられた第2傾斜面18bは、第1振動部3に近づくにしたがって第3振動部7bの厚さが薄くなるように傾斜している。
【0087】
水晶基板2bの第2傾斜面18bは、Z’軸からX軸の回りに角度θ3だけ正方向に回転している。つまり、第2傾斜面18bの切断角度はθ1+θ3、すなわち、35°15′+θ3となる。
【0088】
実施形態3では、水晶基板2bの第1傾斜面17と、水晶基板2bの第2傾斜面18bと、はどちらもZ’軸からX軸の回りに正方向に回転させた傾斜面であるので、第1傾斜面17の切断角度はθ1+θ2であり、第2傾斜面18bの切断角度はθ1+θ3である。ただし、第1傾斜面17の角度θ2と、第2傾斜面18bの角度θ3と、は異なるので、第1傾斜面17の切断角度と第2傾斜面18bの切断角度は異なる。
【0089】
本実施形態では、第3振動部7bは、両主面16a,16bに対して傾斜している第2傾斜面18bに一対の第3励振電極8のうち一方を形成しているため、実施形態1と同様に、第1振動部3の周波数-温度特性と、第3振動部7bの周波数-温度特性とをそれぞれ異なる特性とすることができる。
【0090】
また、本実施形態では、第1傾斜面17の切断角度と、第2傾斜面18bの切断角度と、が異なる。つまり、第2傾斜面18bは第1傾斜面17に対して傾斜しているので、実施形態1と同様に、第2振動部5を有する第2振動素子X2の周波数-温度特性と、第3振動部7bを有する第3振動素子X3bの周波数-温度特性とをそれぞれ異なる特性とすることができる。
【0091】
水晶基板2bの第1傾斜面17と、水晶基板2bの第2傾斜面18bとは、どちらもZ’軸からX軸の回りに角度θ2,θ3だけ正方向、つまり、同じ方向に回転しているので、第2振動素子X2の周波数-温度特性と、第3振動素子X3bの周波数-温度特性とは、同様な三次曲線となる。そこで、第2振動素子X2の周波数-温度特性と、第3振動素子X3bの周波数-温度特性との差分を取ることで、周波数変化に対する温度変化の分解能を高くすることができ、第1振動素子X1の温度を速やかにかつ精度よく検出することができる。
【0092】
4.実施形態4
実施形態4に係る振動素子1cの概略構成について、
図16及び
図17を参照して説明する。実施形態1と同一の構成については、同一の符号を付して、重複する説明を省略する。
【0093】
図16及び
図17に示すように、実施形態4では、第1振動部3cにおける両主面16a,16bには、それぞれ凸部25が形成されている。凸部25を有する第1振動部3cには、水晶基板2cの厚さ方向に挟むように一対の第1励振電極4が形成されている。
【0094】
本実施形態によれば、実施形態1での効果に加えて、以下の効果を得ることができる。第1振動素子X1cは、第1振動部3cの凸部25を含む領域を第1励振電極4により励振するので、第1振動部3cの振動エネルギーは凸部25を含む領域に閉じ込められ、凸部25を含む領域以外への振動の漏洩を低減することができ、第1振動素子X1cの振動が安定する。また、第1振動素子X1cのインピーダンスを下げることができ、Q値も高まるので、このような第1振動素子X1cを発振器に用いると、搬送波対雑音比のよい高精度な発振器を実現することができる。
【0095】
なお、本実施形態では、第1振動部3cにおける両主面16a,16bの両方のそれぞれに凸部25を形成したが、第1振動部3cにおける両主面16a,16bのどちらか一方の主面に凸部を形成してもよい。
【0096】
また、本実施形態では、凸部25は、第1振動部3cにおける両主面16a,16bからY’軸に沿った方向に突出したメサ形状としたが、凸部25の形状は球面形状でもよい。
【0097】
5.実施形態5
実施形態5に係る振動素子1dの概略構成について、
図18及び
図19を参照して説明する。実施形態1と同一の構成については、同一の符号を付して、重複する説明を省略する。
【0098】
図18及び
図19に示すように、実施形態5では、水晶基板2dは、第1振動部3と第2振動部5との間、及び第1振動部3と第3振動部7との間に、貫通孔26を有する。
【0099】
本実施形態によれば、実施形態1での効果に加えて、以下の効果を得ることができる。第1振動部3と第2振動部5との間、及び第1振動部3と第3振動部7との間に、貫通孔26を設けることにより、第1振動部3の振動と、第2振動部5の振動及び第3振動部7の振動と、が相互に影響しあうことを抑制することができる。
【0100】
6.実施形態6
実施形態6に係る振動素子1eの概略構成について、
図20及び21を参照して説明する。実施形態1と同一の構成については、同一の符号を付して、重複する説明を省略する。
【0101】
図20及び
図21に示すように、実施形態6では、水晶基板2eには、第1振動部3と第2振動部5との間、及び第1振動部3と第3振動部7との間に、第2主面16b側に開口する凹部27が設けられている。つまり、
図21に示すように、第1振動部3と第2振動部5との間、及び第1振動部3と第3振動部7の間に、薄肉部28が形成されている。
【0102】
本実施形態によれば、実施形態1での効果に加えて、以下の効果を得ることができる。第1振動部3と第2振動部5との間、及び第1振動部3と第3振動部7との間に薄肉部28を設けることにより、第1振動部3の振動と、第2振動部5の振動及び第3振動部7の振動と、が相互に影響しあうことを抑制することができる。
【0103】
なお、凹部27は、第1傾斜面17、第2傾斜面18、第1主面16aに形成してもよい。
【0104】
7.実施形態7
実施形態7に係る発振器100の概略構成について、
図22~
図24を参照して説明する。実施形態7に係る発振器100では、前述した振動素子1,1a,1b,1c,1d,1eのいずれかを用いることができるが、以下では、実施形態1で説明した振動素子1を適用した例を示して説明する。
【0105】
発振器100は、
図22に示すように、振動素子1を内蔵した振動子40と、振動素子1を駆動するための発振回路61a,61b,61cと制御信号出力回路63とを有するICチップ60と、振動子40やICチップ60を収納するパッケージ本体50と、ガラス、セラミック、又は金属等からなる蓋部材57と、を備えている。
【0106】
パッケージ本体50は、
図22及び
図23に示すように、実装端子45、第1の基板51、第2の基板52、及びシールリング53を積層して形成されている。また、パッケージ本体50は、上方に開放するキャビティー58を有している。なお、振動子40とICチップ60とを収容するキャビティー58内は、蓋部材57をシールリング53により接合することで、減圧雰囲気あるいは窒素などの不活性気体雰囲気に気密封止されている。
【0107】
実装端子45は、第1の基板51の外部底面に複数設けられている。また、実装端子45は、第1の基板51の上方に設けられた接続電極43や接続端子44と、図示しない貫通電極や層間配線を介して、電気的に接続されている。
【0108】
パッケージ本体50のキャビティー58内には、振動子40とICチップ60が収容されている。振動子40は、半田や導電性接着剤を介して第1の基板51の上方に設けられた接続電極43に固定されている。ICチップ60は、接着剤等の接合部材55を介して第1の基板51の上方に固定されている。また、キャビティー58には、複数の接続端子44が設けられている。接続端子44は、ボンディングワイヤー56によってICチップ60の上方に設けられた接続端子46と電気的に接続されている。
【0109】
ICチップ60は、第1振動素子X1を発振し第1発振信号を出力する第1発振回路61aと、第2振動素子X2を発振し第2発振信号を出力する第2発振回路61bと、第3振動素子X3を発振し第3発振信号を出力する第3発振回路61cと、第2発振信号及び第3発振信号に基づいて、第1発振信号の発振周波数を制御する制御信号を出力する制御信号出力回路63と、を有している。
【0110】
次に、発振器100の回路構成について説明する。なお、以下の説明では、発振器100の一例について、TCXOを挙げて説明する。
【0111】
制御信号出力回路63は、発振器100の外部の温度変化に依らずに、あるいは外部の温度変化の影響を抑えながら、出力端65から設定周波数f0を出力するための回路である。設定周波数f0は、基準温度T0において、基準電圧V0を第1発振回路61aに印加した時に得られる出力周波数である。
【0112】
第1振動素子X1の一対の第1励振電極4には、端子10を介して第1発振回路61aが電気的に接続されている。第2振動素子X2の一対の第2励振電極6には、同様に端子11を介して、温度検出用とするための第2発振回路61bが電気的に接続されている。第3振動素子X3の一対の第3励振電極8には、端子12を介して、温度検出用とするための第3発振回路61cが電気的に接続されている。
【0113】
第1発振回路61aと、第2発振回路61b及び第3発振回路61cとの間には、制御信号出力回路63に出力する周波数fを選択する出力選択回路90と、出力選択回路90から出力された出力信号である周波数fに基づいて、第1振動素子X1の温度を推定し、この温度において第1発振回路61aにて第1発振信号としての設定周波数f0が得られる制御電圧VC(VC=V0-ΔV)を演算するための制御信号出力回路63が設けられている。
【0114】
出力選択回路90は、選択制御部91と、出力選択部92と、を有する。選択制御部91は、出力選択部92と、温度センサー93と、温度推定部68に電気的に接続されている。温度センサー93は、振動素子1の外部の温度を検出する。選択制御部91は、温度センサー93により検出された温度に基づき、第2発振回路61bから出力される第2発振信号としての発振周波数f2と、第3発振回路61cから出力される第3発振信号としての発振周波数f3のうち、制御信号出力回路63に出力する周波数fを選択する。さらに、選択制御部91は、出力選択回路90から出力される出力信号である周波数fを切替えるように、出力選択部92を制御する。出力選択部92は、選択制御部91の選択に基づき、第2発振回路61bから出力される発振周波数f2と、第3発振回路61cから出力される発振周波数f3の一方を、出力選択回路90から出力される出力信号である周波数fとして、制御信号出力回路63に出力する。
【0115】
第2発振回路61bの入力端64bから第2発振回路61bに基準電圧V10が入力され、第3発振回路61cの入力端64cから第3発振回路61cに基準電圧V11が入力され、出力端65から設定周波数f0が出力される。また、第1発振回路61a、第2発振回路61b、第3発振回路61cとには、バリキャップダイオード66で安定化された基準電圧V10、V11と制御電圧Vcとがそれぞれに入力される。
【0116】
第2振動素子X2及び第3振動素子X3は温度検出部として用いられている。第2振動素子X2を駆動する第2発振回路61bから出力される第2発振信号としての発振周波数f2は、第2振動素子X2の周波数-温度特性に基づき、第2振動素子X2の温度Tに応じた出力となる。また、第3振動素子X3を駆動する第3発振回路61cから出力される第3発振信号としての発振周波数f3は、第3振動素子X3の周波数-温度特性に基づき、第3振動素子X3の温度Tに応じた出力となる。このようにして、第2振動素子X2の温度Tと、第3振動素子X3の温度Tと、を求めることができる。
【0117】
第1振動素子X1は、第2振動素子X2及び第3振動素子X3と共通する水晶基板2に設けられており、第1振動素子X1と、第2振動素子X2及び第3振動素子X3と、は結合しており、熱伝達時間の差がないので、第2振動素子X2の温度T及び第3振動素子X3の温度Tから、第1振動素子X1の温度Tを正確に推定することができる。
【0118】
第2振動部5の切断角度と、第3振動部7の切断角度と、は異なるため、第2振動素子X2の周波数-温度特性と、第3振動素子X3の周波数-温度特性と、は異なる。そこで、例えば、第2振動素子X2の方が第3振動素子X3よりも周波数変化に対する温度変化の分解能が高く、精度の良い温度検出ができる温度範囲では、第2振動素子X2の温度Tに基づいて、第1振動素子X1の温度Tを推定し、第3振動素子X3の方が第2振動素子X2よりも周波数変化に対する温度変化の分解能が高く、精度の良い温度検出ができる温度範囲では、第3振動素子X3の温度Tに基づいて、第1振動素子X1の温度Tを推定すれば、第1振動素子X1の温度Tをより一層高精度に推定することができる。
【0119】
制御信号出力回路63は、第2振動素子X2と第3振動素子X3のうち、周波数変化量が大きい周波数-温度特性を有する方の温度Tに基づき、第1発振回路61aから第1発振信号として設定周波数f0を出力するための制御電圧VC(VC=V0-ΔV)を演算する。
【0120】
具体的には制御信号出力回路63は、出力選択回路90から出力される周波数fを計測するための例えば周波数カウンターなどからなる周波数検出部67と、この周波数検出部67において計測した周波数fに基づいて温度Tを推定する温度推定部68と、温度推定部68において推定した温度Tに基づいて補償電圧ΔVを演算するための補償電圧演算部69と、補償電圧演算部69にて演算された補償電圧ΔVを基準電圧V0から減算した制御電圧VCを第1発振回路61aに出力するための加算部70と、を備えている。
【0121】
温度推定部68には、以下の(1)式に示す第2発振回路61bの周波数-温度特性と、(2)式に示す第3発振回路61cの周波数-温度特性が記憶されている。
【0122】
出力選択部92が、制御信号出力回路63に出力する周波数fとして、第2発振回路61bから出力される発振周波数f2を選択した場合は、温度推定部68は、(1)式の周波数-温度特性と、第2発振回路61bから出力される発振周波数f2と、に基づいて、第2振動素子X2の温度Tを求め、第2振動素子X2の温度Tから第1振動素子X1の温度Tを推定することができる。
【0123】
出力選択部92が、制御信号出力回路63に出力する周波数fとして、第3発振回路61cから出力される発振周波数f3を選択した場合は、温度推定部68は、(2)式の周波数-温度特性と、第3発振回路61cから出力される発振周波数f3と、に基づいて、第3振動素子X3の温度Tを求め、第3振動素子X3の温度Tから第1振動素子X1の温度Tを推定することができる。
f1=f10{1+α2(T-T10)3+β2(T-T10)+γ2} ・・・(1)
f2=f11{1+α3(T-T11)3+β3(T-T11)+γ3} ・・・(2)
【0124】
また、補償電圧演算部69は、第1発振回路61aの温度特性である例えば3次関数発生器を備えており、以下の(3)~(5)式及び温度Tに基づいて、補償電圧ΔVを求めるように構成されている。
ΔV=V0(Δf/f0) ・・・(3)
Δf/f0=α1(T-T0)3+β1(T-T0)+γ1 ・・・(4)
ΔV=V0{α1(T-T0)3+β1(T-T0)+γ1} ・・・(5)
ここで、α1、β1、γ1と、α2、β2、γ2及びα3、β3、γ3は、夫々第1発振回路61a、第2発振回路61b及び第3発振回路61cに固有の定数であり、温度や基準電圧を種々変えて出力周波数を測定することにより求められる。尚、Δf=f-f0であり、またf10は第2発振回路61bにおいて基準温度T10にて基準電圧V10を印加した時に得られる出力周波数であり、f11は第3発振回路61cにおいて基準温度T11にて基準電圧V11を印加した時に得られる出力周波数である。
【0125】
第2発振回路61bの入力端64bに制御電圧V10を入力すると、第2発振回路61bでは、第2振動素子X2の温度Tに基づいて、既述の式(1)で求められる発振周波数f1において基本波の厚み滑り振動で発振する。第3発振回路61cの入力端64cに制御電圧V11を入力すると、第3発振回路61cでは、第3振動素子X3の温度Tに基づいて、既述の式(2)で求められる発振周波数f2において基本波の厚み滑り振動で発振する。
【0126】
出力選択回路90は、温度センサー93により検出された温度に基づき、第2発振回路61bから出力される第2発振信号としての発振周波数f2と、第3発振回路61cから出力される第3発振信号としての発振周波数f3のうち一方を、出力選択回路90から出力される出力信号である周波数fとして、制御信号出力回路63に出力する。
【0127】
この周波数fは、周波数検出部67を介して温度推定部68に入力される。温度推定部68は、出力選択回路90の出力選択部92の選択に基づき、第2振動素子X2の温度Tまたは第3振動素子X3の温度Tを求め、第1振動素子X1の温度Tを推定する。そして、補償電圧演算部69では、温度推定部68にて得られた温度Tに基づいて補償電圧ΔVが演算され、加算部70を介して制御電圧VCが第1発振回路61aに印加される。第1発振回路61aでは、第1振動素子X1の温度T及び制御電圧VCに応じた第1発振信号である周波数、即ち設定周波数f0において厚み滑り振動で振動する。
【0128】
つまり、温度Tでは、第1発振回路61aは、基準温度T0との差分(T-T0)だけ、当該第1発振回路61aの周波数-温度特性に沿って発振周波数が設定周波数f0からずれようとする。しかし、前記差分に対応する分だけ基準電圧V0よりも低いあるいは高い制御電圧VCを第1発振回路61aに印加しているので、当該差分を相殺した出力周波数、すなわち、設定周波数f0を得ることができる。
【0129】
本実施形態の発振器100は、第1振動素子X1の周波数-温度特性は発振信号出力に適した特性としながら、第2振動素子X2の周波数-温度特性と、第3振動素子X3の周波数-温度特性と、は温度検出に適した特性に調整することができるので、第2振動素子X2の発振周波数f2と、第3振動素子X3の発振周波数f3と、に基づいて、第1振動素子X1から出力される設定周波数f0を速やかにかつ高精度に温度補償することができる。従って、設定周波数f0が安定した高精度の発振器100を得ることができる。
【0130】
また、第2振動素子X2の周波数-温度特性と、第3振動素子X3の周波数-温度特性と、を異なる特性とし、第2振動素子X2と第3振動素子X3のうち、温度センサー93が検出した温度における周波数変化量が大きい周波数-温度特性を有する方の振動素子の温度Tに基づいて、第1振動素子X1の温度Tを推定すれば、第1振動素子X1の温度Tをより一層高精度に推定することができる。従って、設定周波数f0がより一層安定した高精度の発振器100を得ることができる。
【0131】
8.実施形態8
実施形態8に係る発振器100aの回路構成について、
図25を参照し説明する。実施形態7と同一の構成については、同一の符号を付して、重複する説明を省略する。
【0132】
実施形態8は、第2振動素子X2の発振周波数f2と、第3振動素子X3の発振周波数f3との和あるいは差を求め、このようにして演算された周波数fを温度検出信号として使用する形態である。
【0133】
第1発振回路61aと、第2発振回路61b及び第3発振回路61cとの間には、第2振動素子X2の第2発振回路61bから出力される第2発振信号としての発振周波数f2と、第3振動素子X3の第3発振回路61cから出力される第3発振信号としての発振周波数f3に基づいて、第1振動素子X1の温度を推定し、この温度において第1発振回路61aにて第1発振信号としての設定周波数f0が得られる制御電圧VC(VC=V0-ΔV)を演算するための制御信号出力回路63bが設けられている。
【0134】
制御信号出力回路63bは、周波数検出部67b,67cと、温度推定部68bと、補償電圧演算部69と、加算部70と、を有する。
【0135】
第2発振回路61bから出力される発振周波数f2は、周波数検出部67bを介して温度推定部68bに入力される。第3発振回路61cから出力される発振周波数f3は、周波数検出部67cを介して温度推定部68bに入力される。
【0136】
温度推定部68bは、発振周波数f2とf3の差分(f2-f3)を演算し、演算により得られた周波数の差分(f2-f3)と、周波数の差分(f2-f3)と温度Tとの関係データに基づいて、第1振動素子X1の温度Tを推定する。
【0137】
図26は、周波数の差分(f2-f3)と温度Tとの関係データの一例を表すものであり、第2振動素子X2の周波数-温度特性である3次曲線から第3振動素子X3の周波数-温度特性である3次曲線を差し引いたものである。
図26から分かるように、演算された周波数の差分(f2-f3)は、温度Tに対して概略比例関係にある。
【0138】
温度推定部68bは、周波数の差分(f2-f3)と温度Tとの関係データを記憶する記憶部と、発振周波数f2とf3の差分(f2-f3)を演算する演算部と、周波数の差分(f2-f3)に対応する温度Tを図示しない記憶部内の関係データから読み出す読み出し部と、を備えている。
【0139】
発振周波数f2とf3の差分(f2-f3)を演算する代わりに、発振周波数f2とf3の和(f2+f3)を求め、周波数の和(f2+f3)と温度Tとの関係データを参照して温度Tを求めるようにしても良い。また、発振周波数f2とf3の差分を演算する代わりに、発振周波数f2を電圧変換したV2と、発振周波数f3を電圧変換したV3との差分を求め、電圧の差分(V2-V3)と温度Tとの関係データを参照して温度Tを求めるようにしても良い。
【0140】
本実施形態の発振器100aは、第1振動素子X1の周波数-温度特性は発振信号出力に適した特性としながら、第2振動素子X2の周波数-温度特性と、第3振動素子X3の周波数-温度特性と、を温度検出に適した特性に調整することができるので、第2振動素子X2の発振周波数f2と、第3振動素子X3の発振周波数f3と、に基づいて、第1振動素子X1から出力される設定周波数f0を速やかにかつ高精度に温度補償することができる。従って、設定周波数f0が安定した高精度の発振器100aを得ることができる。
【0141】
また、第2振動素子X2の周波数-温度特性と、第3振動素子X3の周波数-温度特性と、を異なる特性とし、第2振動素子X2の発振周波数f2と、第3振動素子X3の発振周波数f3との和あるいは差に基づいて、第1振動素子X1の温度Tを推定すれば、第1振動素子X1の温度Tをより一層高精度に推定することができる。従って、設定周波数f0がより一層安定した高精度の発振器100aを得ることができる。
【0142】
9.実施形態9
実施形態9に係る発振器100,100aを備えている電子機器の一例である携帯電話機について、
図27を参照して説明する。なお、以下の説明では、発振器100を適用した構成を例示して説明する。
【0143】
携帯電話機1200には、基準クロック等として機能する発振器100が内蔵されている。
【0144】
本実施形態の電子機器は、発振器100の効果を利用して、電子機器の特性を向上させることができる。
【0145】
なお、発振器100は、
図27の携帯電話機の他、パーソナルコンピューター、ディジタルスチルカメラ、時計、タブレット端末、インクジェット式吐出装置、テレビ、ビデオカメラ、ビデオテープレコーダー、カーナビゲーション装置、電子手帳、電子辞書、電卓、電子ゲーム機器、ワードプロセッサー、ワークステーション、テレビ電話、防犯用テレビモニター、電子双眼鏡、POS端末、医療機器、魚群探知機、各種測定機器、計器類、フライトシミュレーター等に適用することができる。
【0146】
10.実施形態10
実施形態10に係る発振器100,100aを備えている移動体の一例である自動車について、
図28を参照して説明する。なお、以下の説明では、発振器100を適用した構成を例示して説明する。
【0147】
自動車1500には、基準クロック等として機能する発振器100が搭載されている。発振器100は、キーレスエントリー、イモビライザー、カーナビゲーションシステム、カーエアコン、アンチロックブレーキシステム、エアバック、タイヤ・プレッシャー・モニタリング・システム、エンジンコントロール、ハイブリッド自動車や電気自動車の電池モニター、車体姿勢制御システム、等の電子制御ユニットに広く適用できる。
【0148】
本実施形態の移動体は、発振器100の効果を利用して、移動体の特性を向上させることができる。
【0149】
なお、発振器100は、
図28の自動車の他、二足歩行ロボットや電車などの制御部、ラジコン飛行機、ラジコンヘリコプター、およびドローンなどの遠隔操縦あるいは自律式の飛行体の制御部、農業機械、もしくは建設機械などの制御部、ロケット、人工衛星、船舶、無人搬送車などの制御に適用することができる。
【符号の説明】
【0150】
1,1a,1b,1c,1d,1e…振動素子、2…水晶基板、3…第1振動部、4…第1励振電極、5…第2振動部、6…第2励振電極、7…第3振動部、8…第3励振電極、9…固定部、10,11,12…端子、13,14,15…リード電極、16a…第1主面、16b…第2主面、17…第1傾斜面、18…第2傾斜面、19…第1貫通孔、20…第2貫通孔、21…第3貫通孔、22a,22b,22c,22d…幅狭部、61a…第1発振回路、61b…第2発振回路、61c…第3発振回路、63,63b…制御信号出力回路、64b,64c…入力端、65…出力端、66…バリキャップダイオード、67,67b,67c…周波数検出部、68,68b…温度推定部、69…補償電圧演算部、70…加算部、90…出力選択回路、91…選択制御部、92…出力選択部、93…温度センサー、100…発振器、1200…電子機器としての携帯電話機、1500…移動体としての自動車、X1…第1振動素子、X2…第2振動素子、X3…第3振動素子、θ1,θ2,θ3…角度。