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  • 特許-制御装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】制御装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20240925BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20240925BHJP
   B62D 101/00 20060101ALN20240925BHJP
   B62D 113/00 20060101ALN20240925BHJP
   B62D 119/00 20060101ALN20240925BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/04
B62D101:00
B62D113:00
B62D119:00
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020090855
(22)【出願日】2020-05-25
(65)【公開番号】P2021187178
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2023-04-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【弁理士】
【氏名又は名称】新居 広守
(72)【発明者】
【氏名】永野 貴宣
【審査官】田邉 学
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-129995(JP,A)
【文献】特開2018-024334(JP,A)
【文献】国際公開第2014/167630(WO,A1)
【文献】特開2017-040606(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00
B62D 5/04
B62D 101/00
B62D 113/00
B62D 119/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクチュエータの動作を制御する制御装置であって、
前記アクチュエータの制御に用いられる所定の物理量をそれぞれ独立して検出する第一検出手段、および第二検出手段からそれぞれ第一検出情報、および第二検出情報を取得する第一情報取得部、および第二情報取得部と、
前記第一検出手段から取得した第一検出情報に基づき前記アクチュエータの動作を制御するための第一制御量を導出する第一演算部と、
前記第二検出手段から取得した第二検出情報に基づき前記アクチュエータの動作を制御するための第二制御量を前記第一演算部の演算と並行して導出する第二演算部と、
前記第一制御量と前記第二制御量との差分を導出する差分演算部と、
補正後の前記第一制御量、および前記第二制御量が実質的に一致するように、前記第一制御量を補正する補正量を前記差分演算部が導出した差分に基づき導出し、前記補正量に基づき前記第一制御量を補正した第一出力値、および前記第二制御量である第二出力値を導出する補正演算部と、
前記第一制御量の異常に関する異常情報の取得に基づき前記第一出力値の出力から前記第二出力値の出力に切り替える切替部と、
を備える制御装置。
【請求項2】
前記補正演算部は、
前記差分演算部が導出した差分の積分値に基づき前記補正量を導出する
請求項1に記載の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動モータを駆動源として備えるアクチュエータを制御する制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
冗長性を確保するため、複数系統の制御回路に接続されたアクチュエータが存在している。このようなアクチュエータは、1つの制御系統が失陥した場合に他の制御系統に制御が切り替わることで、引き続いて動作することが可能となる。
【0003】
しかし、複数の制御回路からそれぞれ出力される制御量は、検出手段の個体差などが存在するため厳密には一致しない。従って制御系統の切り替え時に制御量の不一致に基づいてアクチュエータに瞬間的な変動が発生する場合がある。
【0004】
例えば特許文献1に記載のアクチュエータは、制御系統を切り替える際の瞬間的な変動を緩和するために、ローパスフィルタを用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-24334号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、特許文献1に記載の様な、現状の制御量から次の制御量に変更する際にローパスフィルタ、遅れフィルタなどを用いてゆっくり変更させる手法では、変更完了後は先の制御量とは異なる制御量でアクチュエータを制御することになるため、アクチュエータの挙動にずれが発生する場合がある。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、制御系統の切り替えの前後においてアクチュエータの挙動の不一致を抑制する制御装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の1つである制御装置は、アクチュエータの動作を制御する制御装置であって、前記アクチュエータの制御に用いられる所定の物理量をそれぞれ独立して検出する第一検出手段、および第二検出手段からそれぞれ第一検出情報、および第二検出情報を取得する第一情報取得部、および第二情報取得部と、前記第一検出手段から取得した第一検出情報に基づき前記アクチュエータの動作を制御するための第一制御量を導出する第一演算部と、前記第二検出手段から取得した第二検出情報に基づき前記アクチュエータの動作を制御するための第二制御量を前記第一演算部の演算と並行して導出する第二演算部と、前記第一制御量と前記第二制御量との差分を導出する差分演算部と、補正後の前記第一制御量、および補正後の前記第二制御量が実質的に一致するように、前記第一制御量を補正する0を含む第一補正量、および前記第二制御量を補正する第二補正量を前記差分演算部が導出した差分に基づき導出し、前記第一補正量に基づき前記第一制御量を補正した第一出力値、および前記第二補正量に基づき前記第二制御量を補正した第二出力値を導出する補正演算部と、第一制御量の異常に関する異常情報の取得に基づき前記第一出力値の出力から前記第二出力値の出力に切り替える切替部と、を備える。
【発明の効果】
【0009】
第一演算部、第二演算部の演算結果の違いを切り替え前から実質的に一致させておくことで、切り替え時におけるアクチュエータの動作の急変を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、制御装置の制御対象である電動パワーステアリング装置の構成を概略的に示す図である。
図2図2は、制御装置の機能構成を示すブロック図である。
図3図3は、一部の処理部が回路により実現された制御装置の機能構成を示すブロック図である。
図4図4は、自動運転の制御が可能な制御装置を備えたステアリング装置の構成を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明に係る制御装置の実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の位置関係、および接続状態、ステップ、ステップの順序などは、一例であり、本発明を限定する主旨ではない。また、以下では複数の発明を一つの実施の形態として説明する場合があるが、請求項に記載されていない構成要素については、その請求項に係る発明に関しては任意の構成要素であるとして説明している。また、図面は、本発明を説明するために適宜強調や省略、比率の調整を行った模式的な図となっており、実際の形状や位置関係、比率とは異なる場合がある。
【0012】
図1は、制御装置の制御対象である電動パワーステアリング装置の構成を概略的に示す図である。電動パワーステアリング装置200は、操舵のためにステアリングホイールなどの操作部材210を回転させる運転者の力を補助するアシストトルクを発生させることのできるステアリング装置である。電動パワーステアリング装置200は、操作部材210の回転に伴って回転するステアリングシャフト230と、ステアリングシャフト230の回転をラック軸241の往復動に変換するラックアンドピニオン装置240と、ステアリングシャフト230に操舵をアシストするアシストトルクを付与するためのアクチュエータ250と、を備えている。
【0013】
ステアリングシャフト230は、操作部材210側からコラムシャフト231、インターミディエイトシャフト232、およびピニオンシャフト233の3本のシャフトで構成されている。パワーステアリング装置において、補助力を付与するアクチュエータ250が取り付けられる位置は、特に限定されるものではないが、本実施の形態の場合、ピニオンシャフト233に連結されている。
【0014】
アクチュエータ250は、電動モータ252と、減速機253と、電動モータ252に電力を供給するインバータ(不図示)と、を備え、電動モータ252を駆動源として操舵を補助するためのアシストトルクをステアリングシャフト230に付与する装置である。なお、電動モータ252は、ECU(Electronic Control Unit)の1つである制御装置100により制御され、ステアリングシャフト230に付与するアシストトルクが適切に調整される。
【0015】
図2は、制御装置の機能構成を示すブロック図である。同図に示すように制御装置100は、アクチュエータ250が備える電動モータ252を制御することによりアクチュエータ250の動作を制御する装置であり、冗長性を確保するために第一制御系統101と、第二制御系統102とを備えている。制御装置100は、コンピュータの1つであるECUにプログラムを実行させることにより実現される処理部として第一情報取得部111と、第二情報取得部112と、第一演算部121と、第二演算部122と、差分演算部130と、補正演算部140と、切替部150と、を備えている。本実施の形態の場合、冗長性を確保するため、第一情報取得部111と第一演算部121とを備える第一制御系統101を実現するECUと、第二情報取得部112と第二演算部122とを備える第二制御系統102を実現するECUとは別体となっている。
【0016】
第一情報取得部111は、アクチュエータ250の制御に用いられる所定の物理量を検出する第一検出手段221から第一検出情報を取得する。第一検出手段221は、アクチュエータ250の制御に必要な物理量を示す第一検出情報を検出する装置である。第一検出手段221は、単数、または複数のセンサを備えており、センサの出力値が第一検出情報となる。本実施の形態の場合、第一検出手段221は、第一トルクセンサ223と、第一車速センサ225と、第一回転角センサ227と、を備えている。第一トルクセンサ223は、ステアリングシャフト230に介在配置されるトーションバー260(図1参照)の捩れ量を取得するセンサである。第一車速センサ225は、電動パワーステアリング装置200が搭載される車両の車速を取得するセンサである。第一回転角センサ227は、電動モータ252の回転角を取得するセンサである。第一検出情報は、第一トルクセンサ223からの第一トルク、および第一車速センサ225からの第一車速を含んでいる。
【0017】
第二情報取得部112は、第一検出手段221が検出する物理量を第一検出手段221と同種の第二検出手段222から第二検出情報として取得する。第二検出手段222は、第一検出手段221とは別体の装置であり、第一検出手段221と同じ物理量を示す第二検出情報を検出する。第二検出手段222は、第一検出手段221と同種のセンサを備えており、センサの出力値が第二検出情報となる。本実施の形態の場合、第二検出手段222は、第二トルクセンサ224と、第二車速センサ226と、第二回転角センサ228と、を備えている。第二トルクセンサ224は、ステアリングシャフト230に介在配置されるトーションバー260の捩れ量を取得するセンサである。第二車速センサ226は、電動パワーステアリング装置200が搭載される車両の車速を取得するセンサである。第二回転角センサ228は、電動モータ252の回転角を取得するセンサである。第二検出情報は、第二トルクセンサ224からの第二トルク、および第二車速センサ226からの第二車速を含んでいる。
【0018】
なお、第一検出手段221と第二検出手段222とは同種のセンサを備えているため、第一検出情報と第二検出情報とは実質的に同一であるが、厳密には、センサの取付位置の相違、センサの個体差などの要因により第一検出情報と第二検出情報とには相違(誤差)が存在している。
【0019】
第一演算部121は、第一検出手段221から取得した第一検出情報に基づきアクチュエータ250の動作を制御するための第一制御量を導出する。第一演算部121が第一制御量を導出する方法は特に限定されるものではないが、例えば、第一演算部121は、第一検出情報に含まれる第一トルク、および第一車速をパラメータとする関数に基づき第一制御量を演算により導出する。第一制御量は、例えば電動モータ252に電流を供給するインバータへの電流指令値である。
【0020】
第二演算部122は、第二検出手段222から取得した第二検出情報に基づきアクチュエータ250の動作を制御するための第二制御量を第一演算部121の演算と並行して導出する。平行して導出するとは、演算結果を導出するタイミングが実質的に一致している場合を示す。本実施の形態の場合、第二演算部122は、第一演算部121と同一のプログラム、および同一の関数を用い、第二トルク、および第二車速をパラメータとして第二制御量を導出する。
【0021】
差分演算部130は、第一演算部121が導出した第一制御量と、第二演算部122が導出した第二制御量との差分を演算により導出する。
【0022】
補正演算部140は、補正後の第一制御量、および補正後の第二制御量が実質的に一致するように、第一制御量を補正する第一補正量、および第二制御量を補正する第二補正量を差分演算部130が導出した差分に基づき導出する。本実施の形態の場合、補正演算部140は、第一補正量を0としている。つまり、補正演算部140は、第一制御量に対する補正は実行していない。補正演算部140は、差分演算部130が導出した差分の積分値に基づき第二補正量を導出している。差分の積分値により第一補正量、および第二補正量の少なくとも一方を導出することにより、ロバスト性を高めることが可能となる。
【0023】
補正演算部140は、導出した第一補正量に基づき第一制御量を補正した第一出力値、および導出した第二補正量に基づき第二制御量を補正した第二出力値を導出する。導出された第一出力値と第二出力値とは実質的に同一となっている。
【0024】
切替部150は、第一制御量の異常に関する異常情報を取得する前においては、第一出力値を、電動モータ252を備えたアクチュエータ250に出力する。第一制御量の異常に関する異常情報を取得すると、切替部150は、第一出力値の出力から第二出力値の出力に切り替える。
【0025】
第一制御量の異常に関する異常情報の出所は、特に限定されるものではない。例えば、第一トルクセンサ223、および第一車速センサ225の少なくとも一方に異常が発生した場合、第一検出手段221が異常情報を出力してもよい。また、第一制御系統101に異常が発生した場合、第一制御系統101を実現するECUが異常情報を出力しても構わない。
【0026】
上記の制御装置100によれば、第一出力値と第二出力値とは補正により実質的に一致した状態を維持しているため、第一出力値から第二出力値に出力が切り替わってもアクチュエータ250の動作が急変することがない。これにより、制御量の切替時に、運転者などが違和感を感ずることを抑制できる。
【0027】
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではない。例えば、本明細書において記載した構成要素を任意に組み合わせて、また、構成要素のいくつかを除外して実現される別の実施の形態を本発明の実施の形態としてもよい。また、上記実施の形態に対して本発明の主旨、すなわち、請求の範囲に記載される文言が示す意味を逸脱しない範囲で当業者が思いつく各種変形を施して得られる変形例も本発明に含まれる。
【0028】
例えば、制御装置100は、プログラムをECUなどに実行させることにより実現するのではなく、制御装置100の機能の一部、または全部を回路によって実現しても構わない。図3は、差分演算部130が減算器により実現され、補正演算部140が、積分器141と加算器142により実現され、切替部150が切替器により実現された制御装置100の一例を示している。図3の構成では、差分演算器130で演算された第一演算部121と加算器142の出力との差分が、積分器141で積分されて出力される。この積分器141の出力が第二演算部の出力と加算器142で加算される。この加算器142の出力が差分演算部130の-入力へ入力されることで、フィードバックループを形成し、第二演算部122及び加算器142の出力の値が第一演算部121の出力の値に等しくなるように制御される。第一演算部の出力の値が正常時には切り替え機150は、第一演算部121の出力の値を、電動モータ252を備えたアクチュエータ250に出力する。この状態では、先に述べた構成により、第一演算部121と、第二演算部及び加算器142の出力の値は等しい。第一演算部の出力の値が異常時には、切替器150は、加算器142の出力の値に切り替える。切り替えても、第一演算部121と、第二演算部及び加算器142の出力の値は等しいので、アクチュエータ250の動作が急変することがない。この構成でも制御量の切替時に、運転者などが違和感を感ずることを抑制できる。
【0029】
また、制御装置100は、図4に示すように、操作部材210とラックアンドピニオン装置240とがクラッチなどにより機械的に分離された状態において、第一回転角センサ227、第二回転角センサ228からの情報に基づき、転舵輪220を舵角制御して車両の自動走行を実現する装置であっても構わない。自動走行を実現する2つの系統を従来技術に基づき切り替えた場合、補正後の第一制御量と補正後の第二制御量が一致するように補正しなければ、転舵輪220の舵角制御において、舵角中心(0度)がオフセットした挙動が維持されるという問題がある。しかし、制御装置100によれば、自動運転に関する電動モータ252の制御を第一系統から第二系統に切り替えても舵角中心がオフセットすることがなく、系統の切替時においても安定した自動運転を実現できる。
【0030】
また、第一制御量を補正しない場合を説明したが、補正演算部140は、第一制御量を第一補正量に基づき補正をし、第二補正量を0としても構わない。また、第一制御量を第一補正量に基づき補正をし、第二制御量を第二補正量に基づき補正をしても構わない。
【0031】
また、第一検出手段221が、第一トルクセンサ223と、第一車速センサ225と、第一回転角センサ227とを備える場合を説明したが、第一トルクセンサ223、第一車速センサ225、第一回転角センサ227の出力が制御装置へ直接入力されても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、電動モータを駆動源とするアクチュエータの制御装置であって、冗長性確保のために複数の系統を備えた制御装置に適用可能である。
【符号の説明】
【0033】
100…制御装置、101…第一制御系統、102…第二制御系統、111…第一情報取得部、112…第二情報取得部、121…第一演算部、122…第二演算部、130…差分演算部、140…補正演算部、141…積分器、142…加算器、150…切替部、200…電動パワーステアリング装置、210…操作部材、220…転舵輪、221…第一検出手段、222…第二検出手段、223…第一トルクセンサ、224…第二トルクセンサ、225…第一車速センサ、226…第二車速センサ、227…第一回転角センサ、228…第二回転角センサ、230…ステアリングシャフト、231…コラムシャフト、232…インターミディエイトシャフト、233…ピニオンシャフト、240…ラックアンドピニオン装置、241…転舵シャフト、250…アクチュエータ、252…電動モータ、253…減速機、260…トーションバー
図1
図2
図3
図4