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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】燃料電池用セパレータ部材
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/247 20160101AFI20240925BHJP
   H01M 8/0221 20160101ALI20240925BHJP
   H01M 8/0228 20160101ALI20240925BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20240925BHJP
【FI】
H01M8/247
H01M8/0221
H01M8/0228
H01M8/10 101
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020120487
(22)【出願日】2020-07-14
(65)【公開番号】P2022024271
(43)【公開日】2022-02-09
【審査請求日】2023-05-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 成
(74)【代理人】
【識別番号】100132403
【弁理士】
【氏名又は名称】永岡 儀雄
(74)【代理人】
【識別番号】100217102
【弁理士】
【氏名又は名称】冨永 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】山川 創太
(72)【発明者】
【氏名】稲村 民雄
(72)【発明者】
【氏名】東 洋幸
【審査官】川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-003831(JP,A)
【文献】特開2018-137039(JP,A)
【文献】国際公開第2006/137572(WO,A1)
【文献】特開2013-258112(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/247
H01M 8/0221
H01M 8/0228
H01M 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池スタックの単位セルを構成するセパレータと、
前記セパレータの外周部から外方に突出する板状の荷重受け部と、を備え、
前記荷重受け部は、板状の芯金と、当該芯金を被覆する樹脂材と、を有し、
前記荷重受け部の前記芯金は、その端部に、少なくとも1つの傾斜面が形成された傾斜部を有し、
前記傾斜部は、前記芯金の端面に向かうに従って次第に厚さが薄くなるものであり
前記芯金の厚さ方向に直交する平面と前記傾斜面とのなす角度が、0°超で45°以下であり、
前記傾斜部は、前記芯金の端面から0.5mm以内の範囲に形成された部分であり、
前記荷重受け部は、厚さが1.0mm以下であり、前記芯金の厚さが、前記荷重受け部の厚さの20%超であり、前記芯金の厚さの上限が、前記荷重受け部の厚さの50%である、燃料電池用セパレータ部材。
【請求項2】
前記荷重受け部の前記芯金は、その端部に、傾斜角が異なる複数の傾斜面が形成された前記傾斜部を有する、請求項1に記載の燃料電池用セパレータ部材。
【請求項3】
前記傾斜面が、2つ形成されている、請求項2に記載の燃料電池用セパレータ部材。
【請求項4】
前記傾斜部の厚さは、前記芯金の厚さの5~30%である、請求項1~のいずれか一項に記載の燃料電池用セパレータ部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用セパレータ部材に関する。更に詳しくは、燃料電池を構成する燃料電池用セパレータ部材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燃料電池自動車など向けに燃料電池(即ち、燃料電池スタック)が開発されている。この燃料電池スタックは、単位セルが複数積層されてなる積層体と、この積層体を収納する収納体と、を備えている。そして、単位セルは、主な構成部品として、電解質膜、電極、ガス拡散層、燃料電池用セパレータ部材及びガスケット(シール材)などを有し、アノード側より水素などの燃料ガスを、カソード側より空気などの酸化ガスを供給して発電する仕組みとなっている。燃料電池用セパレータ部材は、セパレータと、このセパレータに接合されてセパレータの外周部から外方に突出する荷重受け部と、を備えている(例えば、特許文献1,2参照)。なお、この荷重受け部は、板状の芯金とこの芯金を被覆する樹脂材とにより形成されている。
【0003】
このような燃料電池スタックには、その使用中に際して外部から衝撃荷重が加わる場合がある。そして、外部から衝撃荷重が加わった場合、単位セルは、積層方向に直交する方向(即ち、締め付け荷重が付与されていない方向)に移動してしまう傾向がある。
【0004】
そこで、このような移動を防止するために、燃料電池用セパレータ部材には、セパレータの外周縁部に荷重受け部を設け、この荷重受け部で衝撃荷重を吸収させることが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-3831号公報
【文献】特開2018-137039号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、これらの特許文献1、2に記載されたセパレータ部材は、低温と高温を繰り返す温度サイクル(例えば-40~120℃)が生じると、この温度サイクルの発生に起因して荷重受け部の樹脂材にクラックが生じる傾向がある。例えば、車載用燃料電池では、使用環境から要求される温度変化が大きく、熱衝撃が加わることで、荷重受け部120における金属製の芯金121と樹脂材123との熱膨張率の差に起因して、樹脂材123の、芯金121との境界部分にクラック900が発生する傾向がある(図10図11参照)。このようなことから、温度サイクルに起因して生じるクラックの発生を抑制することについては、未だ改良の余地があった。
【0007】
本発明は、このような従来技術に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、その荷重受け部において、温度サイクル(例えば-40~120℃)に起因して生じるクラックの発生を更に抑制できる燃料電池用セパレータ部材の開発を行うことにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、以下に示す、燃料電池用セパレータ部材が提供される。
【0009】
[1] 燃料電池スタックの単位セルを構成するセパレータと、
前記セパレータの外周部から外方に突出する板状の荷重受け部と、を備え、
前記荷重受け部は、板状の芯金と、当該芯金を被覆する樹脂材と、を有し、
前記荷重受け部の前記芯金は、その端部に、少なくとも1つの傾斜面が形成された傾斜部を有し、
前記傾斜部は、前記芯金の端面に向かうに従って次第に厚さが薄くなるものであり
前記芯金の厚さ方向に直交する平面と前記傾斜面とのなす角度が、0°超で45°以下であり、
前記傾斜部は、前記芯金の端面から0.5mm以内の範囲に形成された部分であり、
前記荷重受け部は、厚さが1.0mm以下であり、前記芯金の厚さが、前記荷重受け部の厚さの20%超であり、前記芯金の厚さの上限が、前記荷重受け部の厚さの50%である、燃料電池用セパレータ部材。
【0010】
[2] 前記荷重受け部の前記芯金は、その端部に、傾斜角が異なる複数の傾斜面が形成された前記傾斜部を有する、前記[1]に記載の燃料電池用セパレータ部材。
【0011】
[3] 前記傾斜面が、2つ形成されている、前記[2]に記載の燃料電池用セパレータ部材。
【0014】
] 前記傾斜部の厚さは、前記芯金の厚さの5~30%である、前記[1]~[]のいずれかに記載の燃料電池用セパレータ部材。
【0016】
本発明の燃料電池用セパレータ部材は、その荷重受け部において、温度サイクル(例えば-40~120℃)に起因して生じるクラックの発生を更に抑制できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の燃料電池用セパレータ部材の一の実施形態を有する単位セルを収納した燃料電池スタックの断面を模式的に示す断面図である。
図2】本発明の燃料電池用セパレータ部材の一の実施形態を模式的に示す平面図である。
図3】本発明の燃料電池用セパレータ部材の一の実施形態における荷重受け部を拡大して模式的に示す拡大平面図である。
図4図3に示すA-A断面を模式的に示す断面図である。
図5図4に示す領域Pのうち芯金を模式的に示す一部断面図である。
図6】本発明の燃料電池用セパレータ部材の他の実施形態における荷重受け部について図5に対応する一部断面図である。
図7】実施例1、比較例2の燃料電池用セパレータ部材における荷重受け部のクラック発生寿命を示すグラフである。
図8】比較例1における芯金の端部の角部の断面を模式的に示す一部断面図である。
図9】比較例2における芯金の端部の角部の断面を模式的に示す一部断面図である。
図10】従来の燃料電池用セパレータ部材における荷重受け部を拡大して模式的に示す拡大平面図である。
図11図10に示すB-B断面を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照しながら説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0019】
(1)燃料電池用セパレータ部材:
本発明燃料電池用セパレータ部材の一の実施形態は、図1図2に示す燃料電池用セパレータ部材100である。この燃料電池用セパレータ部材100は、燃料電池スタック200の単位セル10を構成する略長方形状のセパレータ11と、このセパレータ11の外周部から外方に突出する板状の荷重受け部20と、を備えるものである。そして、荷重受け部20は、図4に示すように、板状の芯金21と、当該芯金21を被覆する樹脂材23と、を有している。更に、荷重受け部20の芯金21は、図5に示すように、その端部に、少なくとも1つの傾斜面27(即ち、テーパ面)が形成された傾斜部25を有し、この傾斜部25が形成された端部は、芯金21の端面29に向かうに従って次第に厚さが薄くなっている。なお、図4は、図3に示すA-A断面を模式的に示す断面図であり、荷重受け部20のみを示している。
【0020】
このような燃料電池用セパレータ部材100は、その荷重受け部20において、温度サイクル(例えば-40~120℃)によって生じるクラックの発生を更に抑制することができる。即ち、荷重受け部20が温度サイクルによって高温と低温の状況に晒されると、温度変化に伴い、荷重受け部20に熱応力が生じる。芯金21と樹脂材23とは、熱膨張率が異なり、特に樹脂厚みの急激な変化によって芯金21の角部に大きな熱応力が発生することになり、この力によって樹脂材23にクラック900(図10図11参照)が発生することが想定される。具体的には、車載用燃料電池では、使用環境から要求される温度変化が大きく、熱応力による熱衝撃が加わることがある。そのため、図10図11に示すように、荷重受け部120では、金属製の芯金121と樹脂材123との熱膨張率の差に起因して、樹脂材123の、芯金121との境界部分付近にクラック900が発生する傾向がある。そこで、上記構成を採用することによって、この樹脂厚みの急激な変化の程度を小さくして熱応力を緩和させ、クラックの発生を抑制することができる。このようにクラックが減少することで品質が向上する。なお、図10は、従来の燃料電池用セパレータ部材における荷重受け部120の部分を拡大して模式的に示す拡大平面図であり、この荷重受け部120は、金属製のセパレータ11の端部に溶接部40によって溶接されて取り付けられている。荷重受け部120は、図11に示すように、金属製の芯金121が樹脂材123で包まれている。
【0021】
図1は、燃料電池用セパレータ部材100を有する単位セル10を積層させて構成された積層体150を筐体である収納体170に収納した燃料電池スタック200の断面を模式的に示す断面図である。つまり、燃料電池スタック200は、単位セル10が複数積層されてなる積層体150と、この積層体150を収納する筐体である収納体170と、を備えている。
【0022】
そして、収納体170の内表面側には、積層体150に積層方向の締め付け荷重を付与する第一連結部31を備えている。第一連結部31は、荷重受け部20と係合し、これにより、単位セル10を積層してなる積層体150は、収納体170に固定されている。
【0023】
(1-1)セパレータ:
セパレータ11は、燃料電池スタック200の単位セル10を構成するものである。このセパレータ11は、導電性の板状の部材であり、1つの単位セル10には一対のセパレータ11が設けられている。
【0024】
セパレータ11の材質としては、従来公知のセパレータと同様のものを採用することができ、例えば、鋼板、ステンレス鋼板、アルミニウム板、めっき処理鋼板、その金属表面に防食用の表面処理を施した金属板等の金属や、カーボンなどを挙げることができる。
【0025】
ここで、単位セル10は、例えば、固体高分子形燃料電池などを構成する金属製のものである。単位セル10は、電解質膜、電極などの電解質膜・電極構造体(MEA)、2枚の燃料電池用セパレータ部材100、及びシール材を有している。
【0026】
電解質膜・電極構造体は、例えば、パーフルオロスルホン酸の薄膜に水が含浸された固体高分子電解質膜(陽イオン交換膜)と、固体高分子電解質膜を挟持するカソード電極及びアノード電極と、を備えている。
【0027】
カソード電極及びアノード電極は、カーボンペーパ等からなるガス拡散層と、白金合金などが表面に担持された多孔質カーボン粒子がガス拡散層の表面に一様に塗布されて形成される電極触媒層と、を有している。なお、電極触媒層は、固体高分子電解質膜の両面に形成される。
【0028】
単位セル10を構成するシール材35は、ガスケットを用いることができ、セパレータ11とMEAとの間に配置される。図2には、セパレータ11上にシール材35を配置した例を示している。
【0029】
シール材の材質としては、例えば、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、アクリロニトリル・ブタジエンゴム(NBR)、フッ素ゴム、シリコーンゴム、フロロシリコーンゴム、ブチルゴム、天然ゴム、スチレンゴム、クロロプレーン、アクリルゴム等を挙げることができる。
【0030】
シール材の大きさは、特に制限はないが、例えば、横(セパレータ11の長辺方向の長さ)300~500mmで縦(セパレータ11の短辺方向の長さ)150~300mm程度とすることができる。
【0031】
(1-2)荷重受け部:
荷重受け部20は、セパレータ11の外周部から外方に突出する板状の部材である。そして、荷重受け部20は、図4に示すように、板状の芯金21と、当該芯金21を被覆する樹脂材23と、を有している。この荷重受け部20は、燃料電池スタック200の使用中に際して燃料電池スタック200が外部から衝撃荷重が加わった場合に、単位セル10への衝撃荷重を吸収するものである。
【0032】
この荷重受け部20によれば、単位セル10同士を互いに連結して固定し、更に、荷重受け部20は、上述した第一連結部31と係合しており、積層体150(即ち、単位セル10)を筐体である収納体170に固定し、その移動を制限している。
【0033】
荷重受け部20は、セパレータ11とは別体のものをセパレータ11に接合したものであってもよいし、セパレータ11と一体に形成されたもの(具体的には、セパレータ11と一体の金属板など)であってもよい。荷重受け部20をセパレータ11に接合する方法としては、例えば、溶接などが挙げられる。図3には、荷重受け部20とセパレータ11が溶接により接合されている状態を示しており、荷重受け部20とセパレータ11の間に溶接部40が設けられている。荷重受け部20とセパレータ11とが別体のものである場合、図3に示すように、荷重受け部20には、セパレータ11との接合代を設けることができる。接合代は、芯金21の一部であり、樹脂材23によって被覆されない芯金21の部分とすることができる。この接合代の突出長さは、適宜設定することができる。
【0034】
荷重受け部20を設置する位置は、特に制限はないが、例えば、図2に示すように、セパレータ11の一対の長辺上とすることができ、更に一対の長辺上に加えて、一対の短辺上に配置してもよい。なお、一対の辺上では各辺において対称となる位置に配置してもよいし、非対称となる位置に配置してもよい。更に、荷重受け部20は、各辺の中央部に配置されてもよいし、中央部からずれた位置に配置されていてもよい。図2では、セパレータ11の一対の長辺上のそれぞれに荷重受け部20が設けられ、一方の荷重受け部20は、セパレータ11の長辺の中央部に位置し、他方の荷重受け部20はセパレータ11の長辺の端部側(中央部からずれた位置)に位置する例を示している。
【0035】
(1-2a)芯金:
芯金21は、荷重受け部20の内部に位置する板状の金属製の部材である。この芯金21は、その端部に、少なくとも1つの傾斜面27が形成された傾斜部25を有している(図5図6参照)。即ち、芯金21の角部には、上記傾斜面27を有する傾斜部25が形成されており、単にR面が形成された状態や、エッジ(面取りされていない状態)ではない。このような構成を採用することによって、温度サイクル(例えば-40~120℃)によって生じるクラックの発生を抑制することができる。図6は、1つの傾斜面27が形成された傾斜部25を有する芯金21の角部の例を示している。
【0036】
傾斜部25は、芯金21の端面29から0.5mm以内の範囲(領域R)に形成された部分である図5図6参照)。別言すれば、傾斜部25は、芯金21の端面29を一端とし、この端面29から0.5mm離れた位置を他端とする範囲の部分とすることができる。更に、領域Rは、芯金21の端面29から0.3mm以内の範囲とすることがよく、最も幅狭の範囲としては、芯金21の端面29から0.2mm以内の範囲とすることができる。このような範囲の領域とすることによって、傾斜面27を設けることで、温度サイクルで生じる熱応力を緩和することができ、クラックの発生を抑制することができる。
【0037】
傾斜部25には、傾斜角が異なる複数の傾斜面27が形成されることがよい。このようにすると、温度サイクルで生じる熱応力を更に緩和することができ、クラックの発生をより良好に抑制することができる。なお、図5では、荷重受け部20の芯金21が、その端部に、傾斜角が異なる複数(具体的には、2つ)の傾斜面27が形成された傾斜部25を有する例を示している。
【0038】
図5に示すように複数の傾斜面27が形成される場合、傾斜部25に形成された複数の傾斜面27は、それぞれ傾斜角(即ち、後述する角度θ)が異なっており、芯金21の端面29に近い傾斜面27ほど傾斜角が大きくなることがよい。即ち、芯金21の端面29に近い傾斜面27ほど上記角度θが大きくなることがよい。
【0039】
傾斜部25に形成される傾斜面27の数は、特に制限はないが、例えば、2~4つ程度とすることができ、特に図5に示すように2つとすることができる。このような数の傾斜面27を形成する場合、クラックの発生をより良好に抑制することに加えて、この傾斜面の作製が比較的容易であり、荷重受け部20の製造時間を短くすることができる。
【0040】
複数の傾斜面27が形成される場合、各傾斜面27の幅W(図5参照)は、特に制限はなく、いずれも同じとすることでもよいし、それぞれ異なっていてもよい。傾斜面27の幅Wは、具体的には、0.05~0.2mm程度とすることができる。
【0041】
傾斜部25の厚さT1(図5参照)は、芯金21の厚さT2(図4参照)の5~30%であることがよく、10~25%であることが更によい。このような厚さとすることによって、温度サイクル(例えば-40~120℃)によって生じるクラックの発生を更に抑制することができる。なお、芯金21は、傾斜部25以外は均一の厚さの板状の部材であり、「芯金の厚さT2」とは、芯金21の端部に位置する傾斜部25以外の部分の厚さということができ、具体的には、傾斜部25とこの傾斜部25以外の部分との境界Kにおける厚さとすることができる。「傾斜部の厚さT1」とは、傾斜部25の両端の高さの差(即ち、傾斜部25の一方の端部と他方の端部との高低差)をいうものとする。
【0042】
芯金21の厚さ方向に直交する平面Mと各傾斜面27とのなす角度θは、0°超で45°以下であり、10~30°とすることが更によい。このような範囲とすることによって、温度サイクル(例えば-40~120℃)によって生じるクラックの発生を更に抑制することができる。上記角度θが上記範囲外であると、温度サイクルで発生する熱応力を十分に抑制することができない傾向がある。
【0043】
芯金21を構成する金属の種類としては、従来公知の荷重受け部の芯金を構成する金属と同じものを採用することができ、例えば、SUS304L、SUS316などを挙げることができる。
【0044】
芯金21は、板状であり、2つの角部を有する。これらの角部の両方に傾斜部25が形成されていてもよいし、一方の角部に傾斜部25が形成されていてもよい。ここで、金属製の芯金21は、プレス加工により作製することができる。この場合、一方の表面側の角部は、いわゆるダレによる曲面(ダレ曲面)が形成される。そこで、他方の表面側の角部(カエリの発生する側の角部)に傾斜部25を形成することができる。図4には、2つの角部のうち、一方の角部に傾斜部25が形成され、他方の角部に、ダレ曲面が形成されている例を示している。ダレ曲面が形成された角部においては、クラックを防止できる傾向がある。
【0045】
芯金21の大きさは、特に制限はなく、例えば、横(セパレータ11の長辺方向の長さ)20~40mmで縦(セパレータ11の短辺方向の長さ)10~30mm程度、厚さ0.2~0.5mm程度とすることができる。
【0046】
荷重受け部20と芯金21は、荷重受け部20の厚さT3(図4参照)が1.0mm以下(好ましくは、0.9mm程度(具体的には、0.5~1.0mm)であって、芯金21の厚さT2(芯金21の最大厚さ)が、荷重受け部20の厚さT3(最大厚さ)の20%超である。このような条件においては、温度サイクル(例えば-40~120℃)によってクラックが発生し易い傾向にあるが、本発明の構成によれば、良好に、温度サイクル(例えば-40~120℃)によって生じるクラックの発生を抑制することができる。なお、芯金21の厚さT2の上限としては、荷重受け部20の厚さT3(最大厚さ)の50%である。50%を超えると、樹脂材の厚みの急激な変化によって発生する熱応力が大きく、クラックの発生を抑制することが困難になる。
【0047】
(1-2b)樹脂材:
樹脂材23は、芯金21の表面を被覆するものである。この樹脂材23が第一連結部31と直接に接することになる。
【0048】
樹脂材23の材質は、特に制限はなく従来公知の荷重受け部に用いられる樹脂材と同じ材質を採用することができ、例えば、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)などを挙げることができる。
【0049】
樹脂材23の大きさは、特に制限はなく、例えば、横(セパレータ11の長辺方向の長さ)30~50mmで縦(セパレータ11の短辺方向の長さ)10~30mm程度、厚さ(即ち、荷重受け部20の厚さ)0.5~1.0mm程度とすることができる。
【0050】
(2)燃料電池用セパレータ部材の製造方法:
本発明の燃料電池用セパレータ部材の製造方法は、特に制限はなく、従来公知の方法によって製造することができる。なお、芯金については、例えば、順送プレスで作製することができ、順送型の中の空きステージに面押しのステージを設けることで、即ち、平押し工程を追加等することで、その端部に傾斜部を形成することができる。
【実施例
【0051】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0052】
(実施例1)
図1に示すような燃料電池用セパレータ部材を作製した。この燃料電池用セパレータ部材は、燃料電池スタックの単位セルを構成するセパレータと、このセパレータの外周部から外方に突出する板状の荷重受け部と、を備えたものであった。荷重受け部は、板状の芯金(SUS304L製)と、この芯金を被覆する樹脂材(PPS製)と、を有していた。そして、荷重受け部の芯金は、その端部に、傾斜角が異なる2つの傾斜面が形成された傾斜部を有し、傾斜部は、芯金の端面に向かうに従って次第に厚さが薄くなっていた。
【0053】
なお、傾斜部は、芯金の端面から0.3mmの範囲に形成された部分であり、2つの傾斜面は、いずれも、芯金の厚さ方向に直交する平面と傾斜面とのなす角度θが、0°超で45°以下であった。2つの傾斜面のうち、より端面側の傾斜面Aの上記角度θは、傾斜面Aとは別の傾斜面Bの上記角度θよりも小さいものであった。芯金の厚さは、荷重受け部の厚さの20%超であった。
【0054】
作製した燃料電池用セパレータ部材を用いて単位セルを複数形成し、これらを積層させて燃料電池スタックを作製した。この燃料電池スタックについて、温度サイクルを繰り返して評価を行った。温度サイクルは、具体的には、-60℃から200℃まで昇温し、その後、200℃から-60℃まで冷却する環境下として試験を行った。
【0055】
上記温度サイクルの試験の結果、荷重受け部におけるクラックは確認されなかった。即ち、燃料電池用セパレータ部材の生存率(試験サンプル数に対する温度サイクルにクラックが発生しなかった燃料電池用セパレータ部材の数の割合)は、100%であった。即ち、クラックが発生した試験サンプルは、試験サンプルの全数のうち0%の割合であった。
【0056】
図7に示すグラフは、実施例1及び比較例2の燃料電池用セパレータ部材を用いた燃料電池スタックにおける荷重受け部のクラック発生寿命を示す。実施例1では、比較例2に比べて、クラック発生寿命が約2倍に延びている。
【0057】
(比較例1)
芯金において、端部の角部をバレル研磨して、当該角部を曲面(R面)処理したものを用いたこと以外は、実施例1と同様にして燃料電池用セパレータ部材を作製し、更に、燃料電池スタックを作製した。その後、この燃料電池スタックについて実施例1と同様の温度サイクルの試験を行った。そして、この温度サイクルの試験の結果を確認した。荷重受け部においてクラックが発生する傾向にあった。具体的には、燃料電池用セパレータ部材の生存率は、20%であった。即ち、クラックが発生した試験サンプルは、試験サンプルの全数のうち80%の割合で認められた。
【0058】
なお、「バレル研磨」は、バレル槽(研磨容器)にワークとメディア(研磨石、研磨剤)、コンパウンド(研磨助剤)を充填し、バレル槽の回転、振動による相対摩擦により芯金の角部を処理する研磨である。
【0059】
本比較例のバレル研磨では、打ち抜きプレスにより発生したバリをとることは可能であったが、芯金における端部の角部は、図8に示すように曲面が形成され、芯金の表面には、図8に示すように、小さな凸状が形成されていた。図8は、芯金の厚さ方向における端面の一部(端部の角部)を示している。
【0060】
(比較例2)
芯金において角部を曲面(R面)処理しなかったこと以外は、比較例1と同様にして燃料電池スタックを作製した。その後、この燃料電池スタックについて実施例1と同様の温度サイクルの試験を行った。そして、この温度サイクルの試験の結果を確認した。荷重受け部においてクラックが発生する傾向にあった。具体的には、燃料電池用セパレータ部材の生存率は、0%であった。即ち、クラックが発生した試験サンプルは、試験サンプルの全数のうち100%の割合で認められた。
【0061】
本比較例では、芯金における端部の角部は、図9に示すように曲面はなくカエリも発生していた。図9は、芯金の厚さ方向における端面の一部(端部の角部)を示している。
【0062】
実施例1、比較例1、2から分かるように、実施例1の燃料電池用セパレータ部材は、比較例1、2の燃料電池用セパレータ部材に比べて、温度サイクル(例えば-40~120℃)によって生じるクラックの発生を抑制できることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の燃料電池用セパレータ部材は、車両などに用いられる車載用燃料電池スタックに用いられる燃料電池用セパレータ部材として利用することができる。
【符号の説明】
【0064】
10:単位セル
11:セパレータ
20:荷重受け部
21:芯金
23:樹脂材
25:傾斜部
27:傾斜面
29:芯金の端面
31:第一連結部
35:シール材(ガスケット)
40:溶接部
100:燃料電池用セパレータ部材
150:積層体
170:収納体
200:燃料電池スタック
900:クラック
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11