(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ、タイヤ用モールド、及びタイヤの製造方法
(51)【国際特許分類】
B60C 15/00 20060101AFI20240925BHJP
B60C 15/024 20060101ALI20240925BHJP
B60C 3/04 20060101ALI20240925BHJP
B29D 30/06 20060101ALI20240925BHJP
B29C 33/02 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
B60C15/00 M
B60C15/024 Z
B60C15/00 L
B60C15/00 K
B60C3/04 B
B29D30/06
B29C33/02
(21)【出願番号】P 2020139140
(22)【出願日】2020-08-20
【審査請求日】2023-06-26
(31)【優先権主張番号】P 2019152025
(32)【優先日】2019-08-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久保 北斗
【審査官】市村 脩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-193194(JP,A)
【文献】特開2005-178333(JP,A)
【文献】特開2017-209958(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C1/00-19/12
B29D30/00-30/72
B29C33/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リムに嵌め合わされる一対のビード部を備え、
それぞれのビード部が、周方向に延びるリング状のコアと、前記コアの径方向外側に位置するエイペックスとを備える、ビードを含み、
前記ビード部の外面が、前記ビードの径方向内側に位置するシート面と、前記ビードの軸方向外側に位置するフランジ面と、前記シート面と前記フランジ面との間に位置するヒール面と、前記ヒール面から突出し周方向に延びる複数本のベントライン凸条とを備え、
タイヤの回転軸を含む平面に沿った前記タイヤの断面において、前記ヒール面の輪郭が円弧で表され、
前記円弧の半径が8mm以上15mm以下であ
り、
前記タイヤの断面において、前記コアの中心が前記円弧の中心と前記ヒール面との間に位置する、空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記ビード部の外面が、前記ヒール面から突出するソーカット凸条を備え、
前記ソーカット凸条が、隣り合う2本の前記ベントライン凸条間を架け渡す、請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記ヒール面に設けられる前記ベントライン凸条の本数が2本である、請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記円弧の中心が、軸方向において、前記コアと前記エイペックスとの境界中心よりも内側に位置する、
請求項1から3のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
断面幅の呼びと偏平比の呼びとの積が115mm以下である、請求項1から
4のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
リムに嵌め合わされる一対のビード部を備え、それぞれのビード部が、周方向に延びるリング状のコアと、前記コアの径方向外側に位置するエイペックスとを備える、ビードを含み、前記ビード部の外面が、前記ビードの径方向内側に位置するシート面と、前記ビードの軸方向外側に位置するフランジ面と、前記シート面と前記フランジ面との間に位置するヒール面と、前記ヒール面から突出し周方向に延びる複数本のベントライン凸条と、前記ヒール面から突出するソーカット凸条とを備え、前記ソーカット凸条が、隣り合う2本の前記ベントライン凸条間を架け渡す、空気入りタイヤを製造するためのモールドであって、
前記ビード部を形成する、一対のビードリングを備え、
それぞれのビードリングが、前記ビード部の外面を形成するビード形成面を備え、
前記ビード形成面に、前記複数本のベントライン凸条を形成するための、複数本のベントライン溝
と、前記ソーカット凸条を形成するためのソーカット溝とが刻まれ、
前記ソーカット溝が隣り合う2本の前記ベントライン溝間を架け渡し、
前記タイヤの回転軸に対応する中心軸を含む平面に沿った前記ビードリングの断面において、前記ビード形成面の、前記ヒール面に対応する部分の輪郭が円弧で表され、
前記円弧の半径が8mm以上15mm以下であ
り、
前記ソーカット溝と前記ベントライン溝との交差位置に、前記モールドの内部と外部とを連通する、ベントホールが設けられる、タイヤ用モールド。
【請求項7】
リムに嵌め合わされる一対のビード部を備え、それぞれのビード部が、周方向に延びるリング状のコアと、前記コアの径方向外側に位置するエイペックスとを備える、ビードを含み、前記ビード部の外面が、前記ビードの径方向内側に位置するシート面と、前記ビードの軸方向外側に位置するフランジ面と、前記シート面と前記フランジ面との間に位置するヒール面と、前記ヒール面から突出し周方向に延びる複数本のベントライン凸条とを備える、空気入りタイヤを製造するためのモールドであって、
前記ビード部を形成する、一対のビードリングを備え、
それぞれのビードリングが、前記ビード部の外面を形成するビード形成面を備え、
前記ビード形成面に、前記複数本のベントライン凸条を形成するための、複数本のベントライン溝が刻まれ、
前記タイヤの回転軸に対応する中心軸を含む平面に沿った前記ビードリングの断面において、前記ビード形成面の、前記ヒール面に対応する部分の輪郭が円弧で表され、
前記円弧の半径が8mm以上15mm以下であり、
前記ベントライン溝から離れた位置に、
前記モールドの内部と外部とを連通する、ベントホールが設けられる、タイヤ用モールド。
【請求項8】
リムに嵌め合わされる一対のビード部を備え、それぞれのビード部が、周方向に延びるリング状のコアと、前記コアの径方向外側に位置するエイペックスとを備える、ビードを含
み、前記ビード部の外面が、前記ビードの径方向内側に位置するシート面と、前記ビードの軸方向外側に位置するフランジ面と、前記シート面と前記フランジ面との間に位置するヒール面と、前記ヒール面から突出し周方向に延びる複数本のベントライン凸条と、前記ヒール面から突出するソーカット凸条を備え、前記ソーカット凸条が、隣り合う2本の前記ベントライン凸条間を架け渡す、タイヤを製造するための方法であって、
前記タイヤのための生タイヤを準備する工程と、
前記生タイヤをモールド内で加圧及び加熱する工程と
を含み、
前記モールドが、前記ビード部を形成する、一対のビードリングを備え、
それぞれのビードリングが、前記ビード部の外面を形成するビード形成面を備え、
前記ビード形成面に、前記複数本のベントライン凸条を形成するための、複数本のベントライン溝
と、前記ソーカット凸条を形成するためのソーカット溝とが刻まれ、
前記ソーカット溝が隣り合う2本の前記ベントライン溝間を架け渡し、
前記タイヤの回転軸に対応する中心軸を含む平面に沿った前記ビードリングの断面において、前記ビード形成面の、前記ヒール面に対応する部分の輪郭が円弧で表され、
前記円弧の半径が8mm以上15mm以下であ
り、
前記ソーカット溝と前記ベントライン溝との交差位置に、前記モールドの内部と外部とを連通する、ベントホールが設けられる、タイヤの製造方法。
【請求項9】
リムに嵌め合わされる一対のビード部を備え、それぞれのビード部が、周方向に延びるリング状のコアと、前記コアの径方向外側に位置するエイペックスとを備える、ビードを含み、前記ビード部の外面が、前記ビードの径方向内側に位置するシート面と、前記ビードの軸方向外側に位置するフランジ面と、前記シート面と前記フランジ面との間に位置するヒール面と、前記ヒール面から突出し周方向に延びる複数本のベントライン凸条とを備える、タイヤを製造するための方法であって、
前記タイヤのための生タイヤを準備する工程と、
前記生タイヤをモールド内で加圧及び加熱する工程と
を含み、
前記モールドが、前記ビード部を形成する、一対のビードリングを備え、
それぞれのビードリングが、前記ビード部の外面を形成するビード形成面を備え、
前記ビード形成面に、前記複数本のベントライン凸条を形成するための、複数本のベントライン溝が刻まれ、
前記タイヤの回転軸に対応する中心軸を含む平面に沿った前記ビードリングの断面において、前記ビード形成面の、前記ヒール面に対応する部分の輪郭が円弧で表され、
前記円弧の半径が8mm以上15mm以下であり、
前記ベントライン溝から離れた位置に、前記モールドの内部と外部とを連通する、ベントホールが設けられる、タイヤの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤ、タイヤ用モールド、及びタイヤの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤをリムに組み込むとき、タイヤのビード部がリムのウェルに落とし込まれる。タイヤの内部に空気が充填されると、ビード部はシムに沿って軸方向外向きに移動する。ビード部はリムのハンプを乗り越え、リムのシートに載せられる。ビード部がリムのフランジに当接し、タイヤのリムへの装着が完了する。
【0003】
ビード部がハンプを乗り越える際のタイヤの内圧は嵌合圧とも称され、タイヤのリムへの組みやすさの指標として用いられる。リムに組み込まれたタイヤがリムを締め付ける力はリム外れ抗力とも称され、タイヤのリムからの外れにくさの指標として用いられる。リムに組み込みやすく、リムから外れにくいタイヤを得るために、嵌合圧とリム外れ抗力とをバランスよく整えることが検討されている(例えば、下記の特許文献1)。
【0004】
図7には、従来のタイヤ2のビード部4の断面が示される。ビード部4は周方向に延びるコア6を有する。コア6はスチール製のワイヤーを巻き回して構成される。
【0005】
ビード部4の外面8は、リムのシートと対向するシート面10と、リムのフランジと対向するフランジ面12と、シート面10とフランジ面12との間に位置するヒール面14とを備える。このヒール面14の輪郭は円弧で表される。この
図7において、矢印Rhはヒール面14の輪郭を表す円弧の半径であり、符号Phはこの円弧の中心である。
図7に示されるように、ヒール面14の輪郭を表す円弧の中心Phは、コア6の中心CCとヒール面14との間に位置する。ヒール面14の輪郭を表す円弧の半径Rhは、コア6の中心CCからヒール面14までの距離よりも小さい。
【0006】
ビード部4の外面8の輪郭には、リムの形状が反映される。ヒール面14の輪郭を表す円弧の半径Rhは通常、5~7mmの範囲で設定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
タイヤ2をリムに組み込むとき、ビード部4のヒール面14の部分(ヒールとも称される。)がハンプに引っ掛かることがある。このタイヤ2は、高い嵌合圧を有する傾向にある。
【0009】
コア6の内径を拡げると、嵌合圧は低下する。この場合、リム外れ抗力が低下する。ワイヤーの巻き回し回数を減らすと、嵌合圧は低下する。この場合も、リム外れ抗力が低下する。
【0010】
ヒール面14の輪郭を表す円弧の半径Rhを7mmよりも大きな半径Rhで表せば、ビード部4のハンプへの引っ掛かりが抑えられ、嵌合圧を低減できる見込みはある。この場合、タイヤ2の製造において、モールドとビード部4との間に巻き込まれるエアの排出が滞り、ビード部4の外観を損なうことが懸念される。
【0011】
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであり、外観品質、リム外れ抗力及び嵌合圧がバランスよく整えられた、空気入りタイヤの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様に係る空気入りタイヤは、リムに嵌め合わされる一対のビード部を備える。それぞれのビード部は、周方向に延びるリング状のコアと、前記コアの径方向外側に位置するエイペックスとを備える、ビードを含む。前記ビード部の外面は、前記ビードの径方向内側に位置するシート面と、前記ビードの軸方向外側に位置するフランジ面と、前記シート面と前記フランジ面との間に位置するヒール面と、前記ヒール面から突出し周方向に延びる複数本のベントライン凸条とを備える。タイヤの回転軸を含む平面に沿った前記タイヤの断面において、前記ヒール面の輪郭は円弧で表され、前記円弧の半径は8mm以上15mm以下である。
【0013】
好ましくは、この空気入りタイヤでは、前記ビード部の外面は、前記ヒール面から突出するソーカット凸条を備え、前記ソーカット凸条は隣り合う2本の前記ベントライン凸条間を架け渡す。
【0014】
好ましくは、この空気入りタイヤでは、前記ヒール面に設けられる前記ベントライン凸条の本数は2本である。
【0015】
好ましくは、この空気入りタイヤでは、前記タイヤの断面において、前記コアの中心は前記円弧の中心と前記ヒール面との間に位置する。
【0016】
好ましくは、この空気入りタイヤでは、前記円弧の中心は、軸方向において、前記コアと前記エイペックスとの境界中心よりも内側に位置する。
【0017】
好ましくは、この空気入りタイヤでは、断面幅の呼びと偏平比の呼びとの積は115mm以下である。
【0018】
本発明の一態様に係るタイヤ用モールドは、前記空気入りタイヤを製造するためのモールドであって、前記ビード部を形成する一対のビードリングを備える。それぞれのビードリングは、前記ビード部の外面を形成するビード形成面を備える。前記ビード形成面に、前記複数本のベントライン凸条を形成するための、複数本のベントライン溝が刻まれる。前記タイヤの回転軸に対応する中心軸を含む平面に沿った前記ビードリングの断面において、前記ビード形成面の、前記ヒール面に対応する部分の輪郭は円弧で表され、前記円弧の半径は8mm以上15mm以下である。
【0019】
好ましくは、このタイヤ用モールドでは、前記ビード形成面に、前記ソーカット凸条を形成するためのソーカット溝が刻まれ、前記ソーカット溝は隣り合う2本の前記ベントライン溝間を架け渡す。
【0020】
好ましくは、このタイヤ用モールドでは、前記ソーカット溝と前記ベントライン溝との交差位置に、モールドの内部と外部とを連通するベントホールが設けられる。
【0021】
好ましくは、このタイヤ用モールドでは、前記ベントライン溝から離れた位置に、モールドの内部と外部とを連通するベントホールが設けられる。
【0022】
本発明の一態様に係るタイヤの製造方法は、リムに嵌め合わされる一対のビード部を備え、それぞれのビード部が、周方向に延びるリング状のコアと、前記コアの径方向外側に位置するエイペックスとを備える、ビードを含む、タイヤを製造するための方法である。このタイヤの製造方法は、前記タイヤのための生タイヤを準備する工程と、前記生タイヤをモールド内で加圧及び加熱する工程とを含む。前記モールドは、前記ビード部を形成する、一対のビードリングを備える。それぞれのビードリングは、前記ビード部の外面を形成するビード形成面を備える。前記ビード形成面に、前記複数本のベントライン凸条を形成するための、複数本のベントライン溝が刻まれる。前記タイヤの回転軸に対応する中心軸を含む平面に沿った前記ビードリングの断面において、前記ビード形成面の、前記ヒール面に対応する部分の輪郭が円弧で表され、前記円弧の半径は8mm以上15mm以下である。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、外観品質、リム外れ抗力及び嵌合圧がバランスよく整えられた、空気入りタイヤが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る空気入りタイヤの一部が示された断面図である。
【
図2】
図2は、ビード部の外面が示された概略図である。
【
図3】
図3(a)は
図2のa-a線に沿った断面図であり、
図3(b)は
図2のb-b線に沿った断面図である。
【
図4】
図4は、本発明の一実施形態に係るタイヤ用モールドの一部が示された断面図である。
【
図5】
図5は、ビードリングの一部が示された平面図である。
【
図6】
図6(a)は
図5のa-a線に沿った断面図であり、
図6(b)は
図5のb-b線に沿った断面図であり、
図6(c)は
図5のc-c線に沿った断面図である。
【
図7】
図7は、従来の空気入りタイヤの一部が示された拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて、本発明が詳細に説明される。
【0026】
本発明においては、タイヤを正規リムに組み込み、タイヤの内圧が正規内圧に調整され、このタイヤに荷重がかけられていない状態は、正規状態と称される。本発明では、特に言及がない限り、タイヤの各部の寸法及び角度は、正規状態で測定される。
【0027】
正規リムとは、タイヤが依拠する規格において定められたリムを意味する。JATMA規格における「標準リム」、TRA規格における「Design Rim」、及びETRTO規格における「Measuring Rim」は、正規リムである。
【0028】
正規内圧とは、タイヤが依拠する規格において定められた内圧を意味する。JATMA規格における「最高空気圧」、TRA規格における「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に掲載された「最大値」、及びETRTO規格における「INFLATION PRESSURE」は、正規内圧である。乗車車用タイヤの正規内圧は、特に言及がない限り、180kPaである。
【0029】
正規荷重とは、タイヤが依拠する規格において定められた荷重を意味する。JATMA規格における「最大負荷能力」、TRA規格における「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に掲載された「最大値」、及びETRTO規格における「LOAD CAPACITY」は、正規荷重である。
【0030】
図1は、本発明の一実施形態に係る空気入りタイヤ22(以下、単に「タイヤ22」と称することがある。)の一部を示す。このタイヤ22は、乗用車に装着される。
図1には、このタイヤ22が組み込まれるリム(正規リム)が二点鎖線Rで示される。このリムRは、径方向内側からタイヤ22と接触するシートSと、軸方向外側からこのタイヤ22と接触するフランジFとを備える。
【0031】
図1は、タイヤ22の回転軸を含む平面に沿った、このタイヤ22の断面の一部を示す。この
図1において、左右方向はタイヤ22の軸方向であり、上下方向はタイヤ22の径方向である。この
図1の紙面に対して垂直な方向は、タイヤ22の周方向である。この
図1において、一点鎖線CLはタイヤ22の赤道面を表す。
【0032】
このタイヤ22は、トレッド24、一対のサイドウォール26、一対のクリンチ28、一対のビード30、カーカス32、ベルト34、バンド36、一対のチェーファー38及びインナーライナー40を備える。
【0033】
トレッド24は、その外面42において路面と接触する。この外面42はトレッド面である。トレッド面42には通常、溝44が刻まれる。このタイヤ22のトレッド24は、ベース部46と、このベース部46の径方向外側に位置するキャップ部48とを備える。ベース部46は、発熱性が考慮された架橋ゴムからなる。キャップ部48は、耐摩耗性及びグリップ性能が考慮された架橋ゴムからなる。
【0034】
それぞれのサイドウォール26は、トレッド24の端よりも径方向内側に位置する。サイドウォール26は、架橋ゴムからなる。サイドウォール26は、カーカス32を保護する。
図1に示されるように、このタイヤ22では、ウィング50を介して、トレッド24とサイドウォール26とが繋げられる。
【0035】
それぞれのクリンチ28は、径方向においてサイドウォール26の内側に位置する。
図1に示されるように、クリンチ28はリムRのフランジFと接触する。クリンチ28は、耐摩耗性が考慮された架橋ゴムからなる。
【0036】
それぞれのビード30は、クリンチ28の軸方向内側に位置する。ビード30は、コア52と、エイペックス54とを備える。コア52は周方向に延びる。コア52はリング状である。コア52はスチール製のワイヤーを含む。ワイヤーは単線であり、このワイヤーの外径は0.8mm以上1.6mm以下である。エイペックス54は、コア52の径方向外側に位置する。エイペックス54は径方向外向きに先細りである。エイペックス54は高い剛性を有する架橋ゴムからなる。
【0037】
図示されないが、このタイヤ22では、コア52はワイヤーを周方向に複数回巻き回すことで構成される。コア52の断面は多数のワイヤー断面を含む。コア52の断面においては、複数のワイヤー断面が略軸方向に並列したユニットが複数構成され、これらユニットが略径方向に積層している。コア52の断面の輪郭(すなわち、断面形状)は、コア52に外接する線によって表される。
【0038】
このタイヤ22では、コア52は周方向に延びる複数の面を有する。
図1に示されるように、このタイヤ22のコア52は、4つの面を有する。このコア52の断面形状は、矩形である。この断面形状に特に制限はなく、この断面形状が、例えば、六角形であってもよい。
【0039】
このタイヤ22では、コア52の外面を構成する複数の面のうち、一の面が径方向内側に配置される。タイヤ22がリムRに組みこまれた状態において、この一の面は、リムRのシートSと対向する。このタイヤ22では、コア52に構成される複数の面のうち、径方向内側に位置し、リムRのシートSと対向する面は、コア52の基準面とも称される。
図1において、実線BCは、コア52の基準面を含む、このコア52の基準線である。
【0040】
図1において、符号CCはコア52の中心である。このコア52の中心CCは、コア52の径方向外端から内端までの径方向距離で表されるコア52の厚さが半分となる位置における、コア52の軸方向幅の中心位置により表される。
【0041】
カーカス32は、トレッド24、一対のサイドウォール26及び一対のクリンチ28の内側に位置する。カーカス32は、一方のビード30から他方のビード30に向かって延びる。カーカス32は、少なくとも1枚のカーカスプライ56を含む。
【0042】
このタイヤ22のカーカス32は、1枚のカーカスプライ56で構成される。このカーカスプライ56は、一方のコア52と他方のコア52とを架け渡す本体部58と、この本体部58に連なりそれぞれのコア52の周りにて軸方向内側から外側に向かって折り返される一対の折り返し部60とを有する。
【0043】
図示されないが、カーカスプライ56は並列された多数のカーカスコードを含む。これらカーカスコードは赤道面と交差する。このタイヤ22では、有機繊維からなるコードがカーカスコードとして用いられる。
【0044】
ベルト34は、トレッド24の径方向内側において、カーカス32と積層される。ベルト34は径方向に積層された少なくとも2層のベルトプライ62で構成される。
【0045】
このタイヤ22のベルト34は、2層のベルトプライ62からなる。図示されないが、この2層のベルトプライ62はそれぞれ、並列された多数のベルトコードを含む。これらベルトコードは赤道面に対して傾斜する。ベルトコードの材質はスチールである。
【0046】
バンド36は、径方向においてトレッド24の内側に位置する。このバンド36は、径方向においてトレッド24とベルト34との間に位置する。このタイヤ22のバンド36は、ベルト34全体を覆うフルバンド36fと、このフルバンド36fの端部を覆う一対のエッジバンド36eとで構成される。
【0047】
図示されないが、バンド36はバンドコードを含む。フルバンド36f及びエッジバンド36eのそれぞれにおいて、バンドコードは周方向に螺旋状に巻かれる。有機繊維からなるコードがバンドコードとして用いられる。
【0048】
それぞれのチェーファー38は、コア52の基準面を含む、コア52の三方を囲う。チェーファー38は、布とこの布に含浸したゴムとからなる。
図1に示されるように、チェーファー38のうち、コア52の径方向内側に位置する部分がリムRのシートSと接触する。チェーファー38の軸方向外側部分は、折り返し部60とクリンチ28との間に位置する。チェーファー38の軸方向内側部分は、タイヤ22の内面64の一部を構成する。
【0049】
インナーライナー40は、カーカス32の内側に位置する。インナーライナー40は、タイヤ22の内面64の一部を構成する。このインナーライナー40は、空気遮蔽性に優れた架橋ゴムからなる。インナーライナー40は、タイヤ22の内圧を保持する。
【0050】
このタイヤ22では、ビード30を含む部分(以下、ビード部66)がリムRに嵌め合わされる。このタイヤ22は、リムRに嵌め合わされる、一対のビード部66を備え、それぞれのビード部66はビード30を含む。このビード部66の外面68は、シート面70と、フランジ面72と、ヒール面74とを備える。シート面70は、ビード30の径方向内側に位置する。フランジ面72は、ビード30の軸方向外側に位置する。ヒール面74は、シート面70とフランジ面72との間に位置する。タイヤ22がリムRに組み込まれた状態において、シート面70はシートSと対向し、フランジ面72はフランジFと対向し、ヒール面74はシートSとフランジFとの境界部分と対向する。
【0051】
図2は、径方向内側から概観した、ビード部66の外面68を示す。この
図2において、上下方向はタイヤ22の周方向であり、左右方向はタイヤ22の軸方向である。紙面の右側がタイヤ22の軸方向外側に相当する。この
図2において、符号Ptはタイヤ22のトゥである。このトゥPtは、タイヤ22の径方向内側に位置し、タイヤ22の内面64と外面76との境界である。
【0052】
図3は、ビード部66の断面を示す。この
図3において、上下方向はタイヤ22の径方向であり、左右方向はこのタイヤ22の軸方向である。紙面に対して垂直な方向は、このタイヤ22の周方向である。
図3(a)には
図2のa-a線に沿った断面が示され、
図3(b)には
図2のb-b線に沿った断面が示される。この
図3に示されたビード部66の断面は、タイヤ22の回転軸を含む平面に沿った、ビード部66の断面である。
【0053】
このタイヤ22では、ビード部66の外面68は、ヒール面74の部分に、周方向に延びる、複数本の凸条78を備える。これら凸条78は、ヒール面74から突出する。このタイヤ22では、このヒール面74から突出し周方向に延びる凸条78は、ベントライン凸条と称される。このビード部66の外面68は、シート面70、フランジ面72及びヒール面74に加えて、ヒール面74から突出し周方向に延びる複数本のベントライン凸条78を備える。このタイヤ22では、2本のベントライン凸条78がヒール面74の部分に設けられる。これらベントライン凸条78の材質はクリンチ28の材質と同じである。
【0054】
このタイヤ22では、一のベントライン凸条78と他のベントライン凸条78とは間隔をあけて配置される。このタイヤ22は、例えば、
図2に示されるように、隣り合う2本のベントライン凸条78間を架け渡す凸条80をヒール面74に設けることができる。
図3(b)に示されるように、この凸条80はヒール面74から突出する。このタイヤ22では、隣り合う2本のベントライン凸条78間を架け渡し、ヒール面74から突出する凸条80はソーカット凸条と称される。このタイヤ22では、複数本のソーカット凸条80が設けられる。これらソーカット凸条80は周方向に間隔をあけて配置される。これらソーカット凸条80の材質はクリンチ28の材質と同じである。
【0055】
以上説明したタイヤ22は、次のようにして製造される。詳述しないが、このタイヤ22の製造では、成形機(図示されず)において、トレッド24、サイドウォール26、ビード30等のタイヤ22を構成する要素を組み合わせて、未加硫状態のタイヤ22(以下、生タイヤ22rとも称される。)が準備される。加硫機(図示されず)において、生タイヤ22rをモールド内で加圧及び加熱することにより、タイヤ22が得られる。このタイヤ22の製造方法は、このタイヤ22のための生タイヤ22rを準備する工程と、この生タイヤ22rをモールド内で加圧及び加熱する工程とを含む。なお、このタイヤ22の製造では、温度、圧力、時間等の加硫条件に特に制限はなく、従来のタイヤ2で設定される加硫条件が採用される。
【0056】
図4には、タイヤ22の製造で用いられるモールド82の一例が示される。この
図4において、上下方向はタイヤ22の軸方向に相当する。左右方向はタイヤ22の径方向に相当する。紙面に対して垂直な方向は、タイヤ22の周方向である。説明の便宜を図るために、このモールド82の次元はタイヤ22の次元により表される。
【0057】
このモールド82は割モールドである。このモールド82はタイヤ22の外面76を形づける。このモールド82は、トレッドリング84と、一対のサイドプレート86と、一対のビードリング88とを備える。トレッドリング84は、タイヤ22のトレッド24の部分(以下、トレッド部90)を形成する。サイドプレート86は、トレッド部90の端部からビード部66の端部までの部分(以下、サイド部92とも称される。)を形成する。ビードリング88は、タイヤ22のビード部66を形成する。
図4に示されたモールド82は、トレッドリング84、一対のサイドプレート86及び一対のビードリング88が組み合わされた状態、すなわち閉じられた状態にある。
【0058】
トレッドリング84は、その内面に、トレッド形成面94を備える。トレッド形成面94はトレッド部90の外面を形づける。このモールド82のトレッドリング84は多数のセグメント96により構成される。これらセグメント96はリング状に配置される。
【0059】
それぞれのサイドプレート86は、トレッドリング84の径方向内側に位置する。サイドプレート86は、リング状である。サイドプレート86は、その内面に、サイドウォール形成面98を備える。サイドウォール形成面98は、サイド部92の外面を形づける。
【0060】
それぞれのビードリング88は、サイドプレート86の径方向内側に位置する。ビードリング88は、リング状である。ビードリング88は、その内面に、ビード形成面100を備える。ビード形成面100は、ビード部66の外面68を形づける。
【0061】
このモールド82では、多数のセグメント96、一対のサイドプレート86及び一対のビードリング88が組み合わされることにより、タイヤ22の外面76を形づけるキャビティ面102が構成される。キャビティ面102は、トレッド形成面94、一対のサイドウォール形成面98及び一対のビード形成面100から構成される。
【0062】
図5には、ビードリング88の一部が示される。この
図5において、紙面に対して垂直な方向はタイヤ22の軸方向に相当する。この
図5に示されるように、ビード形成面100は周方向に延びる。この
図5において、符号MCはビードリング88の中心軸である。この中心軸MCは、モールド82の中心軸と一致する。このモールド82の中心軸は、タイヤ22の回転軸に対応する。この
図5において、a-a線、b-b線及びc-c線は、この中心軸MCを通り径方向に延びる直線である。
【0063】
図6には、ビードリング88の中心軸を含む平面に沿った、このビードリング88の断面が示される。この
図6において、上下方向はタイヤ22の径方向に相当し、左右方向はこのタイヤ22の軸方向に相当する。紙面に対して垂直な方向は、このタイヤ22の周方向に相当する。
図6(a)には
図5のa-a線に沿った断面が示され、
図6(b)には
図5のb-b線に沿った断面が示され、
図6(c)には
図5のc-c線に沿った断面が示される。
【0064】
図6(b)において、符号Msはビード形成面100の外端である。この外端Msは、サイドプレート86のサイドウォール形成面98との境界をなす。符号Mtは、ビード形成面100の内端である。この内端Mtは、タイヤ22のトゥPtに対応する。
【0065】
このモールド82では、ビード形成面100は、ビード部66のヒール面74に対応する部分に、周方向に延びる、複数本の溝104を備える。これらの溝104は、前述のベントライン凸条78を形成する。このモールド82では、ビード形成面100に刻まれる、ベントライン凸条78を形成するための溝104は、ベントライン溝と称される。このモールド82では、ビード形成面100に、複数本のベントライン凸条78を形成するための、複数本のベントライン溝104が刻まれる。
図5及び6に示されたビード形成面100には、2本のベントライン溝104が刻まれる。
【0066】
このモールド82では、ベントライン溝104の幅は0.3mm以上1mm以下の範囲で設定される。このベントライン溝104の深さは、0.3mm以上1mm以下の範囲で設定される。このベントライン溝104の断面形状は半円である。
【0067】
このモールド82では、ベントライン溝104は、モールド82の内部と外部とを連通する、ベントホール106と繋げられる。
図6に示されるように、このベントホール106は、ビードリング88の本体に設けられた穴108に、周知のベントピース110を挿入することにより構成される。このモールド82では、複数のベントホール106が設けられる。このタイヤ22では、
図5に示されるように、これらベントホール106は、周方向において、外側のベントライン溝104と内側のベントライン溝104とに交互に設けられる。
【0068】
このモールド82では、一のベントライン溝104と他のベントライン溝104とは間隔をあけて配置される。このモールド82は、例えば、
図5に示されるように、隣り合う2本のベントライン溝104間を架け渡す溝112をビード形成面100に設けることができる。この溝112は、前述のソーカット凸条80を形成する。このモールド82では、隣り合う2本のベントライン溝104間を架け渡す溝112は、ソーカット溝と称される。このモールド82では、複数本のソーカット溝112が設けられる。これらソーカット溝112は周方向に間隔をあけて配置される。
【0069】
このモールド82では、ソーカット溝112の幅は0.3mm以上1mm以下の範囲で設定される。このソーカット溝112の深さは、0.3mm以上1mm以下の範囲で設定される。このソーカット溝112の断面形状は半円である。
【0070】
タイヤ22はリムRに組み込まれて使用される。リムRへの組み込みやすさの観点から、ビード部66のヒール面74の輪郭は円弧で表される。
【0071】
本発明においては、タイヤ22の外面76の輪郭はモールド82のキャビティ面102に基づいて特定される。
図3に示されたビード部66の外面68の輪郭について、
図6に示されたビードリング88のビード形成面100の輪郭を参照しつつ説明する。
【0072】
図3において、矢印Rhはタイヤ22のヒール面74の輪郭を表す円弧の半径である。符号Phは、この円弧の中心である。このタイヤ22では、ビード部66の外面68のうち、半径Rhの円弧で表される部分がヒール面74である。この
図3において、符号Hsはヒール面74の外端である。ヒール面74の外端Hsは、このヒール面74とフランジ面72との境界である。
図6における、ビード形成面100の外端Msが、このヒール面74の外端Hsに対応する。前述したように、このビード形成面100の外端Msはビード形成面100とサイドウォール形成面98との境界をなす。したがって、このヒール面74の外端Hsは、このビード形成面100とサイドウォール形成面98との境界に相当する部分により特定される。
【0073】
図3において、符号Hnはヒール面74の内端である。ヒール面74の内端Hnは、このヒール面74とシート面70との境界である。
図6には、このヒール面74の内端Hnに対応する位置が、ヒール面74の内端相当位置として符号Mnで表される。
【0074】
図3において、符号H1は、フランジ面72側に位置するベントライン凸条78とヒール面74との境界である。
図6における、外端Ms側に位置するベントライン溝104とビード形成面100との境界M1が、この境界H1に対応する。符号H2は、シート面70側に位置するベントライン凸条78とヒール面74との境界である。
図6における、内端Mt側に位置するベントライン溝104とビード形成面100との境界M2が、この境界H2に対応する。
【0075】
前述したように、タイヤ22のヒール面74の輪郭は円弧で表される。したがって、
図6に示されたビードリング88の断面において、ビード形成面100の外端Ms、境界M1及び境界M2を通る円弧を求めることにより、このヒール面74の輪郭を表す円弧の半径Rh及び中心Phの位置が特定される。このヒール面74の輪郭を表す円弧がビード30成形面から離れる位置、すなわちヒール面74の内端相当位置Mnを求めることにより、このヒール面74の内端Hnが特定される。ビード形成面100において、その外端Msからヒール面74の内端相当位置Mnまでのゾーンが、ビード形成面100の、ヒール面74に対応する部分である。
【0076】
このタイヤ22では、その回転軸を含む平面に沿った断面において、ビード部66におけるヒール面74の輪郭は、従来のタイヤ2に比べて相対的に大きな半径を有する円弧で表される。このヒール面14の輪郭を表す円弧の半径Rhは通常5~7mmの範囲で設定されるが、このタイヤ22では、このヒール面74の輪郭を表す円弧の半径Rhは8mm以上15mm以下である。言い換えれば、モールド82では、タイヤ22の回転軸に対応する中心軸を含む平面に沿ったビードリング88の断面において、ビード形成面100の、ヒール面74に対応する部分の輪郭は円弧で表され、この円弧の半径Rhは8mm以上15mm以下である。
【0077】
このタイヤ22では、ヒール面74が従来のヒール面14に比べて緩やかな丸みを帯びた形状を有する。このため、ビード部66がリムRのハンプを乗り越えるとき、このビード部66がハンプに引っ掛かることが抑えられる。ビード部66がハンプに引っ掛かりにくいので、このタイヤ22は嵌合圧の低減を図ることができる。
【0078】
このタイヤ22では、嵌合圧の低減のために、従来のタイヤ2のようにコア6の構成を変更する必要もない。このタイヤ22は、リム外れ抗力を損なうことなく、嵌合圧の低減を図ることができる。
【0079】
このタイヤ22では、ヒール面74が従来のヒール面14に比べて緩やかな丸みを帯びた形状を有するので、タイヤ22の製造において、モールド82とビード部66との間に巻き込まれるエアの排出が滞り、ビード部66の外観を損なうことが懸念される。
【0080】
しかし前述したように、このタイヤ22のためのモールド82において、ビード形成面100の、ヒール面74に対応する部分に、1本ではなく、複数本のベントライン溝104が設けられる。これらベントライン溝104を通じて、モールド82とビード部66との間に巻き込まれるエアが十分に排出されるので、製品として必要な外観を有するビード部66が得られる。
【0081】
ヒール面74に複数本のベントライン凸条78を設けると、このタイヤ22をリムRに組み込むとき、ヒール面74のベントライン凸条78がハンプに引っ掛かり、嵌合圧の増加を招くことが懸念される。
【0082】
しかしこのタイヤ22では、ヒール面74が従来のヒール面14に比べて緩やかな丸みを帯びた形状を有するので、ヒール面74に複数本のベントライン凸条78を設けているにもかかわらず、従来のタイヤ2に比べて低い嵌合圧が達成される。
【0083】
このタイヤ22では、外観品質、リム外れ抗力及び嵌合圧がバランスよく整えられる。
【0084】
前述したように、このタイヤ22では、ヒール面74には、隣り合う2本のベントライン凸条78を架け渡すソーカット凸条80が設けられる。そしてモールド82においては、このソーカット凸条80の形成のために、隣り合う2本のベントライン溝104を架け渡すソーカット溝112がビード形成面100に設けられる。このソーカット溝112は、エアの排出を促す。このソーカット溝112は、ビード形成面100に設けられるベントホール106の本数低減に寄与する。製品として必要な外観品質が得られる観点から、タイヤ22においては、ビード部66の外面68がヒール面74から突出するソーカット凸条80を備え、ソーカット凸条80が隣り合う2本のベントライン凸条78間を架け渡すのが好ましい。モールド82においては、ビード形成面100に、ソーカット凸条80を形成するためのソーカット溝112を備え、ソーカット溝112が隣り合う2本のベントライン溝104間を架け渡すのが好ましい。この場合、
図5及び
図6に示されるように、ソーカット溝112とベントライン溝104との交差位置に、モールド82の内部と外部とを連通する、ベントホール106が設けられるのがより好ましい。この場合、一のベントライン溝104に設けられるベントホール106の間隔は、100mm以上160mm以下の範囲で設定される。
【0085】
前述したように、このタイヤ22では、ヒール面74には複数本のベントライン凸条78が設けられる。このタイヤ22では、3本以上のベントライン凸条78が設けられてもよい。多数のベントライン凸条78がヒール面74に設けられると、嵌合圧が上昇することが懸念される。この観点から、タイヤ22のヒール面74に設けられるベントライン凸条78の本数は、4本以下が好ましく、3本以下がより好ましい。特に、ベントライン溝104に加えてソーカット溝112が設けられる場合には、このソーカット溝112がエアの排出に効果的に貢献するので、ビード形成面100に設けられるベントライン溝104は2本で十分である。この観点から、タイヤ22のヒール面74に設けられるベントライン凸条78の本数はさらに好ましくは2本である。
【0086】
図3に示されるように、このタイヤ22では、コア52の中心CCは、ヒール面74の輪郭を表す円弧の中心Phとヒール面74との間に位置する。このタイヤ22のビード部66においては、コア52からヒール面74までの部分におけるボリュームが効果的に低減される。このタイヤ22では、タイヤ22をリムRに組み込むとき、このヒール面74の部分における変形が効果的に抑えられる。このため、ビード部66がリムRのハンプを乗り越えるとき、このビード部66がハンプに引っ掛かることが効果的に抑えられる。このタイヤ22は、嵌合圧の低減をさらに図ることができる。この観点から、このタイヤ22では、コア52の中心CCは、ヒール面74の輪郭を表す円弧の中心Phとヒール面74との間に位置するのが好ましい。
【0087】
図3において、符号CMは、コア52とエイペックス54との境界の軸方向中心である。この
図3に示されるように、このタイヤ22では、ヒール面74の輪郭を表す円弧の中心Phは、軸方向において、コア52とエイペックス54との境界中心CMよりも内側に位置する。このタイヤ22では、円弧の中心Phの配置は、コア52からヒール面74までの部分におけるボリュームの低減により効果的に貢献する。この観点から、このタイヤ22では、コア52の中心CCがヒール面74の輪郭を表す円弧の中心Phとヒール面74との間に位置する場合、このヒール面74の輪郭を表す円弧の中心Phは、軸方向において、コア52とエイペックス54との境界中心よりも内側に位置するのが好ましい。
【0088】
図3において、符号TPはベントライン凸条78の頂である。両矢印DTは、一方のベントライン凸条78と他方のベントライン凸条78との間隔である。この間隔DTは、一方のベントライン凸条78の頂TPから他方のベントライン凸条78の頂TPまでの距離で表される。
【0089】
このタイヤ22では、ヒール面74に2本のベントライン凸条78が設けられる場合には、製品として必要な外観品質と低い嵌合圧とが得られる観点から、この間隔DTは2.0mm以上が好ましく、4.0mm以下が好ましい。
【0090】
図示されないが、このタイヤ22のためのモールド82は、ソーカット溝112とベントライン溝104との交差位置ではなく、ベントライン溝104から離れた位置にベントホール106を設けることができる。この場合、ベントホール106は、ベントライン溝104から1mm以上離して配置されるのが好ましい。このモールド82では、ソーカット溝112とベントライン溝104との交差位置と、ベントライン溝104から離れた位置とに、ベントホール106が設けられてもよい。
【0091】
このモールド82では、ベントライン溝104から離れた位置にベントホール106を設ける場合、このベントホール106は径方向においてベントライン溝104の外側に配置されるのが好ましい。これにより、ベントホール106によって形成されるスピューがシート面70とシートSとの間に噛み込まれることが防止される。このモールド82で製造されたタイヤ22では、ベントホール106によって形成されたスピューによる、内圧保持性能への影響が抑えられる。この観点から、径方向において外側に位置するベントライン溝104の外側に、ベントホール106が設けられるのがより好ましい。
【0092】
このモールド82では、ベントホール106によって形成されるスピューがシート面70とシートSとの間に噛み込まれることが効果的に防止される観点から、リムRのリム径(JATMA等参照)を規定するビードベースライン(図示されず)に対応する基準線(図示されず)からベントホール106までの径方向距離は、2.5mm以上が好ましく、4.0mm以上がより好ましく、5.0mm以上がさらに好ましい。ベントホール106がエアの排出に効果的に貢献できる観点から、この径方向距離は、9.0mm以下が好ましく、8.0mm以下がより好ましく、7.0mm以下がさらに好ましい。
【0093】
このモールド82では、内圧保持性能への影響を抑えながら、タイヤ22の外観品質の向上を図ることができる観点から、ベントホール106によってタイヤ22に形成されるスピューが、径方向において、コア52とエイペックス54との境界から内側に3mm離れた位置から、この境界から外側に3mm離れた位置までのゾーンに形成されるように、ベントホール106が配置されるのがより好ましい。
【0094】
このモールド82では、径方向において外側に位置するベントライン溝104の外側にベントホール106を設ける場合、このベントライン溝104とベントホール106とを架け渡す溝がさらに設けられるのが好ましい。これにより、ベントホール106を通じたエアの排出が効果的に促される。このモールド82は、内圧保持性能への影響を抑えながら、タイヤ22の外観品質の向上を図ることができる。このモールド82では、外観品質、リム外れ抗力及び嵌合圧がバランスよく整えられた、タイヤ22が得られる。ベントライン溝104とベントホール106とを架け渡す溝を設ける場合、この溝の幅は0.3mm以上1mm以下の範囲で設定されるのが好ましい。この溝深さは、0.3mm以上1mm以下の範囲で設定されるのが好ましい。この溝の断面形状は半円であるのが好ましい。
【0095】
タイヤ22の断面高さが低いほど、そしてタイヤ22の断面幅が狭いほど、タイヤ22の変形代が小さいため、このようなタイヤ22をリムRに組み込むのは容易ではない。以上説明した、外観品質、リム外れ抗力及び嵌合圧をバランスよく整える技術は、特に、断面幅の呼びと偏平比の呼びとの積が115mm以下であるタイヤ22において、顕著な効果を奏する。なお、この「断面幅の呼び」及び「偏平比の呼び」は、JIS D4202「自動車用タイヤ-呼び方及び諸元」に規定された「タイヤの呼び」に含まれる、「断面幅の呼び」及び「偏平比の呼び」である。例えば、タイヤの呼びが205/50R17である場合、断面幅の呼びが205mmであり、偏平比の呼びが50%であるので、断面幅の呼びと偏平比の呼びとの積(205×0.5)は102.5mmである。
【0096】
以上説明したように、本発明によれば、外観品質、リム外れ抗力及び嵌合圧がバランスよく整えられた、空気入りタイヤ22が得られる。
【0097】
今回開示した実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の技術的範囲は前述の実施形態に限定されるものではなく、この技術的範囲には特許請求の範囲に記載された構成と均等の範囲内でのすべての変更が含まれる。
【実施例】
【0098】
以下、実施例などにより、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。
【0099】
[実施例1]
図1-3に示された基本構成を備え、下記の表1に示された仕様を備えた乗用車用の空気入りタイヤ(タイヤサイズ=205/50R17)を得た。
【0100】
この実施例1では、ヒール面の輪郭を表す円弧の半径Rhは10mmであった。ベントライン凸条の本数は2本であった。この実施例1では、2本ベントライン凸条を架け渡すソーカット凸条が12本設けられた。モールドにおいては、ベントライン溝とソーカット溝との交差位置に、ベントホールが設けられた。ベントホールの本数は、ソーカット溝の本数と同数に設定された。
【0101】
[実施例2]
ソーカット凸条を設けなかった他は実施例1と同様にして、実施例2のタイヤを得た。なお、この実施例2においても、ベントライン溝上に、12本のベントホールが設けられた。これらベントホールは、実施例1と同様の位置に配置された。ソーカット凸条が設けられていないことが、表1のソーカット凸条の欄に「N」で表されている。
【0102】
[比較例4]
ベントライン凸条の本数を1本としソーカット凸条を設けなかった他は実施例1と同様にして、比較例4のタイヤを得た。なお、この比較例4では、1本のベントライン溝上に、12本のベントホールが設けられた。これらベントホールは、等間隔に配置された。
【0103】
[比較例1]
図7に示された基本構成を備え、下記の表1に示された仕様を備えた乗用車用の空気入りタイヤ(タイヤサイズ=205/50R17)を得た。このタイヤは、従来のタイヤである。
【0104】
この比較例1では、ヒール面の輪郭を表す円弧の半径Rhは6.4mmであった。ベントライン凸条の本数は1本であった。したがって、この比較例1では、ソーカット凸条は設けられていない。この比較例1では、1本のベントライン溝上に、12本のベントホールが設けられた。これらベントホールは、等間隔に配置された。なお、この比較例1のコアの構成は、実施例1のコアの構成と同等である。
【0105】
[比較例2]
コアの内径を0.23%拡径した他は比較例1と同様にして、比較例2のタイヤを得た。
【0106】
[比較例3]
コアを構成するワイヤーの巻き回し回数を5回(1ユニット分)減らした他は比較例1と同様にして、比較例3のタイヤを得た。
【0107】
[嵌合圧]
タイヤをリム(正規リム)に嵌め合わせ、このタイヤに空気(供給圧力=600kPa)を充填し、このタイヤをリムに組み込んだ。タイヤのビードの部分がリムのハンプを乗り越えた瞬間に、空気の充填を一旦停止し、圧力(嵌合圧)を計測した。その結果が、比較例1を100とした指数で下記の表1に示されている。数値が大きいほど嵌合圧は高い。指数値で86以下であることが目標に設定された。
【0108】
[リム外れ抗力]
タイヤを正規リムに組み込み、このタイヤに内圧が230kPaとなるように空気を充填した。FMVSS139で定める試験条件に準拠して、タイヤのビードの部分に横力を加えて、ビードの部分がリムのシート面から外れたときの横力(リム外れ抗力)を計測した。この結果が、比較例1を100とした指数で下記の表1に示されている。数値が大きいほどリム外れ抗力は高く、タイヤはリムに対してずれにくい。指数値で93以上であることが目標に設定された。
【0109】
[外観]
ビード部の外観を観察した。傷の有無を確認し、傷の発生率を確認した。この結果が、比較例1を100とした指数で下記の表1に示されている。数値が大きいほど発生率は高い。指数値で150以下であることが目標に設定された。
【0110】
【0111】
表1に示されているように、実施例では、外観品質、リム外れ抗力及び嵌合圧がバランスよく整えられている。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0112】
以上説明された、外観品質、リム外れ抗力及び嵌合圧をバランスよく整える技術は種々のタイヤにも適用されうる。
【符号の説明】
【0113】
2、22・・・タイヤ
4、66・・・ビード部
6、52・・・コア
8、68・・・ビード部4の外面
10、70・・・シート面
12、72・・・フランジ面
14、74・・・ヒール面
22r・・・生タイヤ
30・・・ビード
38・・・チェーファー
54・・・エイペックス
76・・・タイヤ22の外面
78・・・ベントライン凸条
80・・・ソーカット凸条
82・・・モールド
88・・・ビードリング
100・・・ビード形成面
104・・・ベントライン溝
106・・・ベントホール
110・・・ベントピース
112・・・ソーカット溝