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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】熱電変換材料及び熱電変換素子
(51)【国際特許分類】
   H10N 10/856 20230101AFI20240925BHJP
   H10N 10/855 20230101ALI20240925BHJP
【FI】
H10N10/856
H10N10/855
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020141057
(22)【出願日】2020-08-24
(65)【公開番号】P2022036707
(43)【公開日】2022-03-08
【審査請求日】2023-05-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】artience株式会社
(72)【発明者】
【氏名】安藤 類
【審査官】田邊 顕人
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-153367(JP,A)
【文献】特開2017-002292(JP,A)
【文献】国際公開第2019/130671(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/141065(WO,A1)
【文献】特表2014-515433(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 10/856
H10N 10/855
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電材料(A)と、環状脂肪族炭化水素構造を有する粘着付与剤(B)とを含んでなる熱電変換材料であって、導電材料(A)は、カーボンナノチューブ、カーボンブラックまたはグラフェンを含んでなり、環状脂肪族炭化水素構造を有する粘着付与剤(B)は、C5系石油樹脂、C9系石油樹脂及びC5C9系石油樹脂並びにこれらの水添石油樹脂を含んでなることを特徴とする熱電変換材料。
【請求項2】
粘着付与剤(B)の軟化点は、80℃以上200℃以下である請求項1に記載の熱電変換材料。
【請求項3】
環状脂肪族炭化水素構造を有する粘着付与剤(B)の含有量が、導電材料(A)100質量部に対して1質量部以上200質量部以下である、請求項1又は2に記載の熱電変換材料。
【請求項4】
請求項1~3いずれか記載の熱電変換材料を含んでなる熱電変換膜と、電極とを有し、熱電変換膜及び電極が互いに電気的に接続されている熱電変換素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電変換材料及び熱電変換素子に関する。
【背景技術】
【0002】
熱電変換材料を用いて熱を電気に変換する熱電変換技術は、自然界における様々な熱に加え、工場・車・家庭から排出される排熱や体温等の微小熱エネルギーを電気として有効活用できるクリーンエネルギーとして注目されている。熱電変換技術に活用される熱電効果は様々存在するが、半導体や金属の組合せにより構成される材料の両端に2つの異なる温度を与えた際、その温度差に応じて材料内に生じた電子勾配により起電力が発生するゼーベック効果を活用したシステムが主流である。
【0003】
熱エネルギーと電気エネルギーを相互に変換できる熱電変換材料は、熱電発電素子やペルチェ素子のような熱電変換素子に用いられている。熱電変換素子は、熱を電力に変換する素子であり、半導体や金属の組合せによって構成される。代表的な熱電変換素子としては、p型半導体単独、n型半導体単独、又はp型半導体とn型半導体との組合せ、に分類される。より大きな電位差を得るために、熱電変換素子では、一般的に、材料としてp型半導体とn型半導体とを組合せて用いられる。
【0004】
また、熱電変換素子は、ペルチェ素子に代表されるように、多数の素子を板状、又は円筒状に組合せてなる熱電モジュールとして使用される。熱エネルギーを直接電力に変換することができるため、例えば、体温で作動する腕時計、地上用発電及び人工衛星用発電における電源として利用できる。熱電変換素子の性能は、熱電変換材料の性能等に依存する。
【0005】
非特許文献1に記載されているとおり、熱電変換材料の性能を表す指標として、無次元熱電性能指数ZTが用いられる。また、熱電変換材料の性能を表す指標として、パワーファクターPF(=S2・σ)を用いる場合もある。
上記、無次元熱電性能指数ZTは、下記式(1)により表される。
ZT=((S2・σ)/к)・T 式(1)
ここで、Sはゼーベック係数(V/K)、σは導電率(S/m)、Tは絶対温度(K)、及びкは熱伝導率(W/(m・K))である。熱伝導率кは下記式(2)で表される。
к=α・ρ・C 式(2)
ここで、αは熱拡散率(m2/s)、ρは密度(kg/m3)、及びCは比熱容量(J/(kg・K))である。
すなわち、熱電変換の性能(以下、熱電特性とも称す)を向上させるには、ゼーベック係数又は導電率を向上させ、その一方で熱伝導率を低下させることが重要である。
【0006】
代表的な熱電変換材料として、例えば、常温から500Kまではビスマス・テルル系(Bi-Te系)、常温から800Kまでは鉛・テルル系(Pb-Te系)、常温から1000Kまではシリコン・ゲルマニウム系(Si-Ge系)などの無機材料が使用されている。
【0007】
しかし、これらの無機材料を含む熱電変換材料は、しばしば希少元素を含み高コストであるか、又は有害物質を含む場合がある。また、無機材料は加工性に乏しいため、製造工程が複雑となる。そのため、無機材料を含む熱電変換材料については、製造エネルギー及び製造コストが高くなり、汎用化が困難である。さらに無機材料を含むは剛直であるため、平面ではない形状に加工したり、フレキシブル性を有する熱電変換素子を製造することは困難である。また、一般的に無機材料を含む熱電変換材料は比重が高いため、重量化しやすい点でも課題を有している。
【0008】
これに対し、従来の無機材料に代えて、有機材料を用いた熱電変換素子に関する検討が進められている。有機材料は、軽量である上に優れた成型性を有し、かつ無機材料よりも優れた可撓性を有するため、それ自身が分解しない温度範囲での汎用性に優れている。また、印刷技術等を活用して素子を製造できるため、製造エネルギーや製造コストの面でも無機材料より有利である。
【0009】
例えば、特許文献1には、有機色素骨格を有する高分子分散剤とカーボンナノチューブ(CNT)とを含有する熱電変換材料及びそれを用いた熱電変換素子が開示されている。しかしながら、特許文献1の発明に開示されている熱電変換素子では、十分な熱電変換性能を有しておらず、高温高湿下での安定性に欠けるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】国際公開第2015/050113号
【非特許文献】
【0011】
【文献】梶川武信著、「熱電変換技術ハンドブック(初版)」、エヌ・ティー・エス出版、19頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明が解決しようとする課題は、熱電変換性能と高温高湿下での安定性を両立できる熱電変換材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、本発明に至った。
すなわち、本発明は、導電材料(A)と、環状脂肪族炭化水素構造を有する粘着付与剤(B)とを含んでなることを特徴とする熱電変換材料に関する。
【0014】
また、本発明は、導電材料(A)が、炭素材料を含んでなる上記熱電変換材料に関する。
【0015】
また、本発明は、環状脂肪族炭化水素構造を有する粘着付与剤(B)の含有量が、導電材料(A)100質量部に対して1質量部以上200質量部以下である上記熱電変換材料に関する。
【0016】
また、本発明は、上記熱電変換材料を含んでなる熱電変換膜と、電極とを有し、熱電変換膜及び電極が互いに電気的に接続されている熱電変換素子に関する。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、熱電変換性能と高温高湿下での安定性を両立できる熱電変換材料を提供することができるようになった。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<導電材料(A)>
導電材料(A)とは、電気を通じる材料を指す。
導電材料(A)は、導電性を有する材料(炭素材料、金属材料、導電性高分子等)であれば、特に制限されず、例えば、炭素材料としては、黒鉛、カーボンナノチューブ、カーボンブラック、グラフェン(グラフェンナノプレートを含む)等が挙げられる。また、金属材料としては、金、銀、銅、ニッケル、クロム、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、インジウム、ケイ素、アルミニウム、タングステン、モリブデン、ゲルマニウム、ガリウム、白金等の金属が挙げられる。また、これら金属の合金や、核体物質を核体物質とは異なる物質で被覆した金属を含有する微粒子、例えば、銅を核体とし、その表面を銀で被覆した銀コート銅粉等の微粒子が挙げられる。また、酸化銀、酸化インジウム、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化ルテニウム、ITO(スズドープ酸化インジウム)、AZO(アルミドープ酸化亜鉛)、及びGZO(ガリウムドープ酸化亜鉛)等の金属酸化物や、ZnSe、CdS、InP、GaN、SiC、SiGe等の金属酸化物以外の金属化合物が挙げられる。導電性高分子としては、PEDOT/PSS(ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸から成る複合物)、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリパラフェニレン等が挙げられる。
【0019】
黒鉛としては、薄片状黒鉛として、日本黒鉛工業社製のCMX、UP-5、UP-10、UP-20、UP-35N、CSSP、CSPE、CSP、CP、CB-150、CB-100、ACP、ACP-1000、ACB-50、ACB-100、ACB-150、SP-10、SP-20、J-SP、SP-270、HOP、GR-60、LEP、F#1、F#2、F#3、中越黒鉛工業所社製のBF-3AK、FBF、BF-15AK、CBR、CPB-6S、CPB-3、96L、96L-3、K-3、SC-120、SC-60、HLP、CP-150、SB-1、伊藤黒鉛工業社製のEC1500、EC1000、EC500、EC300、EC100、EC50、西村黒鉛社製の10099M、PB-99等が挙げられる。球状天然黒鉛としては、日本黒鉛工業社製のCGC-20、CGC-50、CGB-20、CGB-50等が挙げられる。土状黒鉛としては、日本黒鉛工業社製の青P、AP、AOP、P#1、中越黒鉛社製のAPR、K-5、AP-2000、AP-6、300F、150F等が挙げられる。人造黒鉛としては、日本黒鉛工業社製のPAG-60、PAG-80、PAG-120、PAG-5、HAG-10W、HAG-150、中越黒鉛社製のG-4AK、G-6S、G-3G-150、G-30、G-80、G-50、SMF、EMF、SFF、SFF-80B、SS-100、BSP-15AK、BSP-100AK、WF-15C、SECカーボン社製のSGP-100、SGP-50、SGP-25、SGP-15、SGP-5、SGP-1、SGO-100、SGO-50、SGO-25、SGO-15、SGO-5、SGO-1、SGX-100、SGX-50、SGX-25、SGX-15、SGX-5、SGX-1等が挙げられる。
【0020】
導電性炭素繊維やカーボンナノチューブとしては、昭和電工社製のVGCF等の気相法炭素繊維、名城ナノカーボン社製のEC1.5,EC1.5-P、OCSiAl社製のTUBALL、ゼオンナノテクノロジー社製のZEONANO等の単層カーボンナノチューブ、CNano社製のFloTube9000、FloTube7000、FloTube2000、Nanocyl社製のNC7000、Knano社製の100T、200P等が挙げられる。
【0021】
カーボンブラックとしては、東海カーボン社製のトーカブラック#4300、#4400、#4500、#5500、デグサ社製のプリンテックスL、コロンビヤン社製のRaven7000、5750、5250、5000ULTRAIII、5000ULTRA、Conductex SC ULTRA、Conductex 975 ULTRA、PUERBLACK100、115、205、三菱化学社製の#2350、#2400B、#2600B、#3050B、#3030B、#3230B、#3350B、#3400B、#5400B、キャボット社製のMONARCH1400、1300、900、VulcanXC-72R、BlackPearls2000、TIMCAL社製のEnsaco250G、Ensaco260G、Ensaco350G、SuperP-Li等のファーネスブラック)、ライオン社製のEC-300J、EC-600JD等のケッチェンブラック、電気化学工業社製のデンカブラック、デンカブラックHS-100、FX-35等のアセチレンブラックが挙げられる。
【0022】
上記導電材料(A)の内、ゼーベック係数と導電率との両立の観点で、導電材料(A)は炭素材料を含んでなることが好ましい。また、炭素材料は、カーボンナノチューブ、カーボンブラック、グラフェンを含んでなることが好ましく、カーボンナノチューブを含んでなることがより好ましい。また、カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブを含んでなることが好ましい。
【0023】
導電材料(A)の形状は、特に限定されず、不定形、凝集状、鱗片状、微結晶状、球状、フレーク状、ワイヤー状等を適宜用いることができる。また、導電材料(A)は1種のみでもよいし、2種以上を含んでいても良い。
【0024】
<環状脂肪族炭化水素構造を有する粘着付与剤(B)>
環状脂肪族炭化水素構造を有する粘着付与剤(B)(以下、粘着付与剤(B)と略記することがある)としては、環状脂肪族炭化水素構造を含む粘着付与剤であれば、特に限定されないが、例えば、芳香族変性ロジン系樹脂、芳香族変性テルペン樹脂、C5系石油樹脂、C9系石油樹脂、C5C9系石油樹脂等の石油樹脂が挙げられる。更にこれら石油樹脂の不飽和結合や芳香環が水素添加された水添石油樹脂が挙げられる。水添石油樹脂としては、不飽和結合や芳香環の一部が水素添加された部分水添石油樹脂、石油樹脂の不飽和結合や芳香環が全て水素添加された不飽和結合を有さない完全水添石油樹脂等が挙げられる。上記粘着付与剤(B)の内、C5系石油樹脂、C9系石油樹脂及びC5C9系石油樹脂並びにこれらの水添石油樹脂が好ましい。
【0025】
また、粘着付与剤は、しばしば「タッキファイヤー」と称呼されることがあり、従ってタッキファイヤーの内、環状脂肪族炭化水素構造を有するものも粘着付与剤(B)に含まれる。
【0026】
C5系石油樹脂とは石油(ナフサ)のC5留分を原料とした石油樹脂、C9系石油樹脂とは石油のC9留分を原料とした石油樹脂、C5C9系石油樹脂とは石油のC5留分とC9留分とを原料とした石油樹脂を指す。C5留分としては、イソプレン、シクロペンタジエン、ペンタン等が挙げられる。C9留分としては、スチレン、ビニルトルエン、インデン等が挙げられる。C5C9留分としては、C5留分の一種であるシクロペンタジエンが二量化したジシクロペンタジエン(DCPD)等が挙げられる。例えば、C5系石油樹脂としては、C5留分のオレフィンとジオレフィンとの共重合体であっても良い。C9系石油樹脂及びC5C9系石油樹脂についても同様である。
【0027】
粘着付与剤(B)として市販されているものとしては、例えば、ヤスハラケミカル社製のクリアロンK110、YSポリスターUH115、エクソン社製のEscorez5300、Escorez5600、日本ゼオン社製のQuintone1325、Quintone1345、荒川化学工業社製のアルコンP-90、アルコンP-100、アルコンP-125、アルコンP-140、アルコンM-90、アルコンM-100、アルコンM-115、アルコンM135、KOLON社製のSUKOREZ SU-100、SUKOREZ SU-120、SUKOREZ SU-130、SUKOREZ SU-210、SUKOREZ SU-420、SUKOREZ SU-500、SUKOREZ SU-640、出光興産社製のアイマーブS-100、アイマーブS-110、アイマーブP-100、アイマーブP125等が挙げられる。
【0028】
粘着付与剤(B)の水素化率は、耐候性の観点から20%以上が好ましく、35%以上がより好ましく、50%以上がさらに好ましい。
【0029】
粘着付与剤(B)の軟化点は、熱安定性がより一層優れる点で、80℃以上が好ましく、90℃以上がより好ましく、100℃以上が特に好ましい。また、熱電変換膜の柔軟性を維持することができる点で、200℃以下が好ましい。なお、本明細書において、粘着付与樹脂の軟化点は、JIS K2207に準拠して環球法で測定された値である。
【0030】
環状脂肪族炭化水素構造を有する粘着付与剤(B)の重量平均分子量(Mw)は100~200000が好ましく、200~20000がより好ましく、300~5000がさらに好ましい。
【0031】
環状脂肪族炭化水素構造を有する粘着付与剤(B)の含有量は、導電材料(A)100質量部に対して、1質量部以上200質量部以下が好ましく、10質量部以上200質量部以下が好ましく、20質量部以上200質量部以下が特に好ましい。
【0032】
(溶剤)
溶剤は、導電材料(A)と粘着付与剤(B)を混合する際の媒体として使用することができる。使用できる溶剤としては、導電材料(A)と粘着付与剤(B)を溶解又は分散できれば特に限定されず、有機溶剤や水を挙げることができ、2種以上を組み合わせて用いてもよい。有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエーテル、ターピネオール、ジヒドロターピネオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、1、3-ブチレングリコール、イソボルニルシクロヘキサノール、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、トリフルオロエタノール、m-クレゾール、及びチオジグリコール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン、クメン等の芳香族類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、N-メチルピロリドン等から、必要に応じて適宜選択することができる。
溶剤としては、N-メチルピロリドンが好ましい。
【0033】
本発明の熱電変換材料は、無機塩基、無機金属塩、又は有機塩基を含有することが好ましい。これにより、導電材料(A)と粘着付与剤(B)を混合する際、分散性がより向上する。無機塩基及び無機金属塩としては、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を含有することが好ましい。例えば、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の、塩化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩、タングステン酸塩、バナジウム酸塩、モリブデン酸塩、ニオブ酸塩、ホウ酸塩等が挙げられる。これらの中でも、容易にカチオンを供給できる面で、アルカリ金属、アルカリ土類金属の塩化物、水酸化物、炭酸塩が好ましい。
【0034】
アルカリ金属の水酸化物は、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。アルカリ土類金属の水酸化物は、例えば、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等が挙げられる。アルカリ金属の炭酸塩は、例えば、炭酸リチウム、炭酸水素リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム等が挙げられる。アルカリ土類金属の炭酸塩は、例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等が挙げられる。これらの中でも、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウムが好ましい。尚、無機塩基又は無機金属塩中の金属は、遷移金属であってもよい。
【0035】
有機塩基としては、例えば、以下に示すような、一級、二級又は三級のアルキルアミンや塩基性窒素原子を含有する化合物等が挙げられる。
一級アルキルアミンとしては、プロピルアミン、ブチルアミン、イソブチルアミン、オクチルアミン、2-エチルヘキシルアミン、ラウリルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン、2-アミノエタノール、3-アミノプロパノール、3-エトキシプロピルアミン、3-ラウリルオキシプロピルアミン等が挙げられる。
二級アルキルアミンとしては、ジブチルアミン、ジイソブチルアミン、N-メチルヘキシルアミン、ジオクチルアミン、ジステアリルアミン、2-メチルアミノエタノール等が挙げられる。
【0036】
三級アルキルアミンとしては、トリエチルアミン、トリブチルアミン、N,N-ジメチルブチルアミン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、ジメチルオクチルアミン、トリオクチルアミン、ジメチルデシルアミン、ジメチルラウリルアミン、ジメチルミリスチルアミン、ジメチルパルミチルアミン、ジメチルステアリルアミン、ジラウリルモノメチルアミン、トリエタノールアミン、2-(ジメチルアミノ)エタノール等が挙げられる。上記アルキルアミンの炭素数は、1~30が好ましく、1~20がより好ましい。
【0037】
また、有機塩基として、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7(DBU)、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]ノネン-5(DBN)、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)、トリ-n-ブチルアミン、ジメチルベンジルアミン、モノエタノールアミン、イミダゾール、1-メチルイミダゾール、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム等の塩基性窒素原子を含有する化合物も挙げられる。
【0038】
無機塩基、無機金属塩、有機塩基の配合量は、導電材料(A)100質量部に対して、1~50質量部が好ましい。このような配合量とすることで分散性がより向上する。
【0039】
熱電変換材料を含む分散液を製造する場合には、例えば、熱電変換材料と溶剤と必要に応じてその他成分とを混合した後、分散機や超音波を用いて分散することで得ることができる。分散機としては、特に制限はなく、例えば、ニーダー、アトライター、ボールミル、ガラスビーズやジルコニアビーズ等を使用したサンドミル、スキャンデックス、アイガーミル、ペイントコンディショナー、ペイントシェイカー等のメディア分散機、コロイドミル等を使用することができる。
【0040】
<熱電変換素子>
本発明の熱電変換素子は、上記熱電変換材料を含んでなる熱電変換膜と、電極とを有し、上記熱電変換膜及び上記電極が互いに電気的に接続されているものを指す。熱電変換膜は、導電性及び熱電特性に加えて、耐熱性及び可撓性の点でも優れる。そのため、高品質な熱電変換素子を容易に作製することができる。
【0041】
熱電変換膜は、基材上に熱電変換材料を塗布して得られる膜であってもよい。熱電変換材料は優れた成形性を有するため、塗布法によって良好な膜を得ることが容易である。熱電変換膜の形成には、主に湿式製膜法が用いられる。具体的には、スピンコート法、スプレー法、ローラーコート法、グラビアコート法、ダイコート法、コンマコート法、ロールコート法、カーテンコート法、バーコート法、インクジェット法、ディスペンサー法、シルクスクリーン印刷、フレキソ印刷等の各種手段を用いた方法が挙げられる。塗布する厚み、及び材料の粘度等に応じて、上記方法から適宜選択することができる。
【0042】
熱電変換膜の膜厚は、特に限定されるものではないが、後述するように、熱電変換膜の厚さ方向又は面方向に温度差を生じ、かつ伝達できるように、一定以上の厚みを有することが好ましい。熱電特性の点から、熱電変換膜の膜厚は、0.1~500μmの範囲が好ましく、1~300μmの範囲が好ましく、1~200μmの範囲がさらに好ましい。
【0043】
基材の材料としては、特に制限はないが、不織布、紙、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルサルフォン、ポリプロピレン、ポリイミド、ボリカーボネート、セルローストリアセテート等のプラスチックフィルム、又はガラス等を用いることができる。これら基材は、熱電変換材料の水や酸素の影響による劣化を防ぐために、基材表面にアルミ蒸着層やバリア層を有するものであっても良い。
【0044】
基材と熱電変換膜との密着性を向上させる目的で、基材表面に様々な処理を行うことができる。具体的には、熱電変換材料の塗布に先立ち、UVオゾン処理、コロナ処理、プラズマ処理、又は易接着処理を行ってもよい。
【0045】
熱電変換膜は、基材と積層されていてもよく、基材を有さない自立膜であってもよい。自立膜を作製する場合には、特に制限はないが、例えば、剥離性シート上に熱電変換膜を形成した後に、剥離コートを除去することで得ることができる。
【0046】
剥離性シートとしては、例えば、ポリエステルフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、及びポリイミドフィルム等のプラスチックフィルムに離型処理したもの等が挙げられる。
【0047】
熱電変換素子は、上記熱電変換材料を用いて構成されることを除き、当技術分野で周知の技術を適用して構成することができる。熱電変換素子のより具体的な構成、及びその製造方法について説明する。
【0048】
熱電変換素子は、熱電変換膜と電極とが電気的に接続している。ここで、「電気的に接続する」とは、互いに接合しているか、又はワイヤー等の他の構成部分を介して通電できる状態であることを意味する。
【0049】
電極の材料は、電極として働くものであれば特に制限はないが、金属、合金、半導体等から選択することができる。一実施形態において、導電率が高く、熱電変換膜の接触抵抗が低いほうが好ましいことから、金属又は合金が好ましい。例えば、金、銀、銅、白金、ニッケル、及びアルミニウムからなる群から選択される少なくとも一種を含むことが好ましく、銀を含むものがさらに好ましい。
【0050】
電極の形成方法は、特に限定されず、真空蒸着法、電極材料箔や電極材料膜を有するフィルムの熱圧着、電極材料の微粒子を分散したペーストの塗布等の方法によって形成することができる。プロセスの簡便さの観点から、電極材料箔や電極材料膜を有するフィルムの熱圧着、電極材料を分散したペーストの塗布による方法が好ましい。
【0051】
熱電変換素子の構造の典型例としては、熱電変換膜と一対の電極との位置関係から、(1)本発明による熱電変換膜の両端に電極が形成されている構造と、(2)本発明の熱電変換膜が2つの電極で挟持されている構造とに大別される。
上記(1)の構造を有する熱電変換素子は、例えば、基材上に熱電変換膜を形成した後に、その両端にそれぞれ銀ペーストを塗布して第1及び第2の電極を形成することによって得ることができる。このように熱電変換膜の両端に電極が形成された熱電変換素子は、2つの電極間の距離を広くすることが容易である。そのため、2つの電極間で大きな温度差を発生させて、効率よく熱電変換を行うことが容易にできる。
【0052】
上記(2)の構造を有する熱電変換素子は、例えば、基材上に銀ペーストを塗布して第1の電極を形成し、その上に本発明の熱電変換膜を形成し、さらにその上に銀ペーストを塗工して第2の電極を形成することによって得ることができる。このように2つの電極で本発明の熱電変換膜を挟持する熱電変換素子では、熱電変換膜の膜厚方向、つまり基材に対して垂直な方向の温度差を利用できることから、発熱原に貼り付ける形態での利用が可能である。そのため、熱源から広範囲で熱を取り出すことができる等の利点があるため好ましい。上記(2)の構造を有する熱電変換素子では、膜厚を厚くすることで2つの電極間の距離を広くし、温度差を確保することも可能である。
【0053】
熱電変換素子は、直列に接続することで高い電圧を発生させることが可能であり、並列に接続することで大きな電流を発生させることが可能である。また、熱電変換素子は、2つ以上の熱電変換素子を接続したものであってもよい。本発明によれば、熱電変換素子が優れた可撓性を有するため、平面ではない形状を有する熱源に対しても追随して良好に設置することが可能である。
【0054】
熱電変換素子は、熱源から効率良く熱を伝えるための吸熱層や蓄熱層を有していても良く、また、温度差を確保するために断熱層や放熱層を有していても良い。更に、用途や必要な電力量に応じ、取り出した電気を昇圧回路を用いて昇圧したり、取り出した電気エネルギーをコンデンサーやキャパシタ、あるいは二次電池等に一時的に溜めて使用することもできる。
【実施例
【0055】
以下、実験例により、本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下に限定されない。尚、例中、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」をそれぞれ意味するものとする。また、「NMP」とは、N-メチルピロリドンを示す。
【0056】
<熱電変換材料を含む分散液の製造>
[実施例1]
(分散液1)
粘着付与剤(B)としてSU-100(KOLON社製粘着付与樹脂「SUKOREZ SU-100」)0.3部、導電材料(A)としてSWCNT(OCSiAl社製単層カーボンナノチューブ「TUBALL」)0.4部、無機塩基として水酸化ナトリウム0.03部、溶剤としてNMP79.3部をそれぞれ秤量して混合した。さらにビーズを加え、スキャンデックスで4時間振とう後、ろ過してビーズを取り除き、熱電変換材料の分散液1を得た。
【0057】
[実施例2~17、比較例1]
(分散液2~17、101)
材料の種類及び配合量を、表1に示す内容にそれぞれ変更した以外は、分散液1の製造方法と同様にして、熱電変換材料の分散液2~17をそれぞれ得た。分散液101は、導電材料(A)としてSWCNT(OCSiAl社製単層カーボンナノチューブ「TUBALL」)0.4部、無機塩基として水酸化ナトリウム0.03部、溶剤としてNMP79.3部をそれぞれ秤量して混合、さらにビーズを加え、スキャンデックスで4時間振とう後、ろ過してビーズを取り除き、熱電変換材料の分散液101を得た。
【0058】
表1に記載した略号の材料を以下に示す。
(導電材料(A))
A1:OCSiAl社製単層カーボンナノチューブ「TUBALL」
A2:KUMHO PETROCHEMICAL社製多層カーボンナノチューブ「Knanos100P」
A3:XG Sciences社製 グラフェンナノプレートレット「xGNP M5」
【0059】
(環状脂肪族炭化水素構造を有する粘着付与剤(B))
B1:KOLON社製粘着付与樹脂「SUKOREZ SU-100」(軟化点105℃、C5系石油樹脂を含む水添石油樹脂、Mw400)
B2:KOLON社製粘着付与樹脂「SUKOREZ SU-210」(軟化点110℃、C5系石油樹脂を含む水添石油樹脂、Mw620)
B3:KOLON社製粘着付与樹脂「SUKOREZ SU-420」(軟化点120℃、C5系石油樹脂とC9系石油樹脂とを含む水添石油樹脂、Mw680)
B4:KOLON社製粘着付与樹脂「SUKOREZ SU-640」(軟化点136℃、C5系石油樹脂を含む水添石油樹脂、Mw550)
B5:荒川化学工業社製粘着付与樹脂「アルコンP-125」(軟化点125℃、C9系石油樹脂を含む水添石油樹脂、Mw700~900)
B6:荒川化学工業社製粘着付与樹脂「アルコンP-140」(軟化点140℃、C9系石油樹脂を含む水添石油樹脂、Mw900)
B7:荒川化学工業社製粘着付与樹脂「アルコンM-135」(軟化点135℃、C9系石油樹脂を含む部分水添石油樹脂、Mw700~900)
【0060】
<熱電変換材料の評価>
得られた分散液1~17、101を、それぞれ基材としてシート状基材である厚さ75μmのPETフィルムにアプリケータを用いて塗布した後、120℃で30分間乾燥して、膜厚2μmの熱電変換膜を有する積層体それぞれを得た。得られた熱電変換膜(以下、塗膜ともいう)を有する積層体について、以下の方法に従って、熱電変換性能を表す特性の一つであるゼーベック係数と、高温高湿下での安定性を評価した。結果を表1に示す。
【0061】
(ゼーベック係数)
得られた積層体を25mm×50mmの大きさに切り取り、アドバンス理工社製のZEM-3LWを用いて、80℃におけるゼーベック係数(μV/K)を測定した。比較例1のゼーベック係数の絶対値を1.0としたときの、比較例1に対する各積層体の絶対値の相対値を表1に示す。
【0062】
(安定性)
作製直後の積層体を、85℃85%の条件下で1日間静置した後にゼーベック係数を測定した。作製直後の積層体のゼーベック係数(表1に挙げたゼーベック係数の絶対値)に対するゼーベック係数の変化率を求め、下記基準に基づいて評価した。
A:ゼーベック係数の変化率が10%以内。(非常に良好)
B:ゼーベック係数の変化率が10%より大きく20%以内。(良好)
C:ゼーベック係数の変化率が20%より大きく50%以内。(使用可能)
D:ゼーベック係数の変化率が50%より大きい。(不良)
【0063】
表1が示すように、本発明の熱電変換材料は、高いゼーベック係数を示した。更に、高温高湿(85℃、85%)下での安定性が高いことが確認された。これは、粘着付与剤(B)を含有することによって、空気中の水分等による劣化が防がれるものと推察される。
【0064】
<熱電変換素子の製造>
厚さ50μmのPETフィルム上に、上記分散液をそれぞれ塗布し、厚さ20μm、5mm×30mmの形状を有する熱電変換層を、それぞれ10mm間隔に5つ作製した。次いで、各熱電変換層がそれぞれ直列に接続されるように、銀ペーストを用いて、厚さ10μm、5mm×33mmの形状を有する銀回路(電極)を4つ作製して熱電変換素子をそれぞれ製造した。上記銀ペーストとしては、東洋インキ株式会社製のREXALPHA RA-FS 074を使用した。各熱電変換素子について起電力を測定したところ、実施例1~17で製造した分散液を用いて製造した熱電変換素子は、いずれも比較例101で製造した分散液を用いて製造した熱電変換素子よりも起電力が優れていることを確認した。
【0065】
【表1】