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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】通信装置およびその診断方法
(51)【国際特許分類】
   H04B 17/17 20150101AFI20240925BHJP
   H04B 17/19 20150101ALI20240925BHJP
   H04B 17/29 20150101ALI20240925BHJP
   H04B 7/0413 20170101ALI20240925BHJP
【FI】
H04B17/17
H04B17/19
H04B17/29 200
H04B17/29 400
H04B7/0413
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020150325
(22)【出願日】2020-09-08
(65)【公開番号】P2022044930
(43)【公開日】2022-03-18
【審査請求日】2023-04-28
(73)【特許権者】
【識別番号】308036402
【氏名又は名称】株式会社JVCケンウッド
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】関根 隆文
【審査官】対馬 英明
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-115805(JP,A)
【文献】国際公開第2014/087467(WO,A1)
【文献】特開2010-087786(JP,A)
【文献】特開平10-107744(JP,A)
【文献】特開2004-007162(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0197538(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 1/60
H04B 3/46-3/493
H04B 17/00-17/40
H04B 7/02-7/12
H04L 1/02-1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のアンテナを用いて信号の通信を行う第1の通信部と、第2のアンテナを用いて信号の通信を行う第2の通信部とを備える通信装置であって、
前記第1の通信部は、信号の送信を行う第1の送信部と、信号の受信を行う第1の受信部とを備え、
前記第1の通信部の診断時に、前記第2のアンテナを、前記第1の送信部および前記第1の受信部の少なくともいずれかに接続可能なスイッチと、
前記スイッチを用いて前記通信装置の診断を行う診断部とが設けられ
前記診断部は、
前記スイッチにより前記第2のアンテナを前記第1の送信部または前記第1の受信部に接続し、
前記第1の送信部に、前記第1のアンテナおよび前記第2のアンテナの一方を用いて診断信号を送信させ、
前記第1の受信部に、前記第1のアンテナおよび前記第2のアンテナの他方を用いて前記診断信号を受信させ、
送信および受信された前記診断信号の比較に基づいて前記通信装置の診断を行う
通信装置。
【請求項2】
前記第2の通信部は、信号の送信を行う第2の送信部と、信号の受信を行う第2の受信部を備え、
前記スイッチは、前記第2の通信部の診断時に、前記第1のアンテナを、前記第2の送信部および前記第2の受信部の少なくともいずれかに接続可能である
請求項1に記載の通信装置。
【請求項3】
前記第1の送信部は、信号の変調により前記診断信号を生成する第1の変調部と、当該診断信号に対して周波数変換を行い前記第1のアンテナおよび前記第2のアンテナの一方に送信させる第1の送信回路とを備え、
前記第1の受信部は、前記第1のアンテナおよび前記第2のアンテナの他方で受信された信号に対して周波数変換を行う第1の受信回路と、当該周波数変換後の信号から前記診断信号を復調する第1の復調部とを備え、
前記診断部は、前記診断信号の信号強度に基づき前記第1の送信回路または前記第1の受信回路を診断し、前記診断信号の誤り率に基づき前記第1の変調部または前記第1の復調部を診断する
請求項1または2に記載の通信装置。
【請求項4】
第1のアンテナを用いて信号の通信を行う第1の通信部と、第2のアンテナを用いて信号の通信を行う第2の通信部とを備える通信装置の診断方法であって、
前記第1の通信部は、信号の送信を行う第1の送信部と、信号の受信を行う第1の受信部とを備え、
前記第2の通信部は、信号の送信を行う第2の送信部と、信号の受信を行う第2の受信部とを備え、
前記通信装置は、前記第1のアンテナを前記第2の送信部および前記第2の受信部の少なくともいずれかに接続可能、かつ、前記第2のアンテナを、前記第1の送信部および前記第1の受信部の少なくともいずれかに接続可能なスイッチを備え、
前記診断方法は、
前記スイッチにより前記第2のアンテナを前記第1の送信部または前記第1の受信部に接続し、前記第1の送信部に、前記第1のアンテナおよび前記第2のアンテナの一方を用いて診断信号を送信させ、前記第1の受信部に、前記第1のアンテナおよび前記第2のアンテナの他方を用いて前記診断信号を受信させるステップと、
前記スイッチにより前記第1のアンテナを前記第2の送信部または前記第2の受信部に接続し、前記第2の送信部に、前記第1のアンテナおよび前記第2のアンテナの一方を用いて診断信号を送信させ、前記第2の受信部に、前記第1のアンテナおよび前記第2のアンテナの他方を用いて前記診断信号を受信させるステップと
を含む通信装置の診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信装置およびその診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無線LAN(Local Area Network)や移動体通信等の無線通信において、送信機と受信機の双方で複数のアンテナを用いるMIMO(multiple-input and multiple-output)の技術が広く採用されている。MIMOに対応した通信機は、複数のアンテナに対応して複数の通信部を備えており、送信動作時には各通信部から各アンテナを介して信号の送信を行い、受信動作時には各アンテナから各通信部が信号の受信を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国特許出願公開第2010/0093282号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、以上のような構成のMIMO通信機において、各通信部の診断を行う技術が開示されている。この特許文献1の図3に示されているように、第1の通信部(TRXM1)が第1のアンテナ(Ant1)から送信した信号を、第2のアンテナ(Ant2)および第2の通信部(TRXM2)で受信し、その送信信号と受信信号を比較することにより、第1の通信部および第2の通信部の診断が行われる。
【0005】
以上のような診断において、第1の通信部での送信信号と、第2の通信部での受信信号が整合しなかった場合、第1の通信部と第2の通信部の少なくとも一方に異常があることが疑われるが、いずれの異常であるかを特定することはできない。また、上記の例で診断できるのは、第1の通信部に関しては送信機能、第2の通信部に関しては受信機能のみなので、第1の通信部の受信機能と第2の通信部の送信機能を診断するためには、第2の通信部に信号を送信させ、第1の通信部にそれを受信させる必要がある。この場合も、最初の例と同様に、第1の通信部(受信機能)と第2の通信部(送信機能)のいずれに異常があるかを特定することはできない。
【0006】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、通信部の送信機能と受信機能を効果的に診断することのできる通信装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の通信装置は、第1のアンテナを用いて信号の通信を行う第1の通信部と、第2のアンテナを用いて信号の通信を行う第2の通信部とを備える通信装置であって、第1の通信部は、信号の送信を行う第1の送信部と、信号の受信を行う第1の受信部とを備える。そして、第1の通信部の診断時に、第2のアンテナを、第1の送信部および第1の受信部の少なくともいずれかに接続可能なスイッチが設けられる。
【0008】
この態様によると、特許文献1に開示されているような第1の通信部と第2の通信部の間の通信経路を利用した診断に加え、スイッチにより第1の通信部内の第1の送信部と第1の受信部の間の通信経路を利用した診断を行うことができる。このような複数の通信経路を組み合わせた診断を行うことにより、通信部の送信機能と受信機能を効果的に診断することができる。
【0009】
本発明の別の態様は、診断方法である。この方法は、第1のアンテナを用いて信号の通信を行う第1の通信部と、第2のアンテナを用いて信号の通信を行う第2の通信部とを備える通信装置の診断方法であって、第1の通信部は、信号の送信を行う第1の送信部と、信号の受信を行う第1の受信部とを備え、第2の通信部は、信号の送信を行う第2の送信部と、信号の受信を行う第2の受信部とを備える。通信装置は、第1のアンテナを第2の送信部および第2の受信部の少なくともいずれかに接続可能、かつ、第2のアンテナを、第1の送信部および第1の受信部の少なくともいずれかに接続可能なスイッチを備える。診断方法は、スイッチにより第2のアンテナを第1の送信部または第1の受信部に接続し、第1の送信部に、第1のアンテナおよび第2のアンテナの一方を用いて診断信号を送信させ、第1の受信部に、第1のアンテナおよび第2のアンテナの他方を用いて診断信号を受信させるステップと、スイッチにより第1のアンテナを第2の送信部または第2の受信部に接続し、第2の送信部に、第1のアンテナおよび第2のアンテナの一方を用いて診断信号を送信させ、第2の受信部に、第1のアンテナおよび第2のアンテナの他方を用いて診断信号を受信させるステップとを含む。
【0010】
この態様によると、スイッチにより、第1の通信部内の第1の送信部と第1の受信部の間の通信経路を利用した診断と、第2の通信部内の第2の送信部と第2の受信部の間の通信経路を利用した診断を行うことができるので、各通信部の送信機能と受信機能を効果的に診断することができる。
【0011】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法、装置、システム、記録媒体、コンピュータプログラムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、通信部の送信機能と受信機能を効果的に診断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態に係る通信装置の構成図である。
図2】通信装置が診断モードにあるときのディスプレイの表示例を示す図である。
図3】複数の診断経路について診断を実行した結果の一例を示す図である。
図4】診断モードの処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
初めに本実施形態の概要を説明する。本実施形態に係る通信装置は、複数のアンテナと、それに対応する複数の通信部を備えるMIMO対応の通信機である。通常の通信時には、第1の通信部は第1のアンテナを使って信号の送受信を行い、第2の通信部は第2のアンテナを使って信号の送受信を行う。一方、通信装置の診断時には、第1の通信部が第2のアンテナも利用できるようにスイッチを設ける。これにより、第1の通信部の送信信号を第1のアンテナで送信し、第2のアンテナで受信したその信号を第1の通信部に戻すことができる。このような診断経路を形成することにより、第1の通信部の送信機能と受信機能を同時に診断することができる。
【0015】
図1は実施形態に係る通信装置10の構成図である。通信装置10はMIMOに対応した通信機であり、複数のアンテナ21、22を備えるアンテナ群20と、各アンテナ21、22に対応した通信部31、32からなるMIMO通信部30と、MIMO通信部30とアンテナ群20の間の接続を切り替えるスイッチ40と、通信装置10全体を制御する制御部としてのCPU(Central Processing Unit)50と、各種情報を表示するディスプレイ60を備える。なお、以下の説明を簡素化するため、アンテナ群20としては二つのアンテナ21、22を備え、MIMO通信部30としては二つの通信部31、32を備えるものを例に取るが、以下の説明は三つ以上のM個のアンテナと通信部を持つ通信装置にも同様に当てはまる。
【0016】
第1のアンテナ21を主として用いて信号の通信を行う第1の通信部31は、信号の送信を行う第1の送信部311と、信号の受信を行う第1の受信部312から構成される。第1の送信部311は、変調によりベースバンドの送信信号を生成する第1の変調部311Aと、当該送信信号に対して周波数変換を行い高周波またはRF(Radio Frequency)の送信信号を生成して第1のアンテナ21または第2のアンテナ22から送信する第1の送信回路311Bとを備える。第1の受信部312は、第1のアンテナ21または第2のアンテナ22で受信した高周波またはRFの受信信号をベースバンドに周波数変換する第1の受信回路312Bと、そのベースバンドの受信信号を復調する第1の復調部312Aとを備える。
【0017】
ここで、第1の通信部31は、後述するスイッチ40を介して第1のアンテナ21および第2のアンテナ22の両方を使用することが可能であるが、通常の通信時には主として第1のアンテナ21を使用する。第1の通信部31が第2のアンテナ22を使用するのは、後述するように第1のアンテナ21と併用して第1の通信部31の診断を行う際である。
【0018】
第2のアンテナ22を主として用いて信号の通信を行う第2の通信部32は、第1の通信部31と同様の構成を備える。すなわち、第2の通信部32は、信号の送信を行う第2の送信部321と、信号の受信を行う第2の受信部322から構成される。第2の送信部321は、変調によりベースバンドの送信信号を生成する第2の変調部321Aと、当該送信信号に対して周波数変換を行い高周波またはRFの送信信号を生成して第2のアンテナ22または第1のアンテナ21から送信する第2の送信回路321Bとを備える。第2の受信部322は、第2のアンテナ22または第1のアンテナ21で受信した高周波またはRFの受信信号をベースバンドに周波数変換する第2の受信回路322Bと、そのベースバンドの受信信号を復調する第2の復調部322Aとを備える。
【0019】
ここで、第2の通信部32は、後述するスイッチ40を介して第2のアンテナ22および第1のアンテナ21の両方を使用することが可能であるが、通常の通信時には主として第2のアンテナ22を使用する。第2の通信部32が第1のアンテナ21を使用するのは、後述するように第2のアンテナ22と併用して第2の通信部32の診断を行う際である。
【0020】
スイッチ40は、MIMO通信部30側のポートないし接点と、アンテナ群20側のポートないし接点の間の接続を切り替える。MIMO通信部30側のポートは、第1の送信部311と繋がる第1送信ポート411と、第1の受信部312と繋がる第1受信ポート412と、第2の送信部321と繋がる第2送信ポート421と、第2の受信部322と繋がる第2受信ポート422によって構成される。アンテナ群20側のポートは、第1のアンテナ21と繋がる第1アンテナポート41と、第2のアンテナ22と繋がる第2アンテナポート42によって構成される。
【0021】
スイッチ40は、これらのMIMO通信部30側の四つのポート411、412、421、422と、アンテナ群20側の二つのポート41、42を、任意の組み合わせで一対一に接続することができる。例えば、図示されているように、第1送信ポート411と第1アンテナポート41を接続し、第1受信ポート412と第2アンテナポート42を接続する。通信装置10の診断時の詳細については後述するが、スイッチ40では、通常の通信時と診断時で以下のように異なる切替え動作が行われる。
【0022】
通信装置10の通常の通信時では、第1アンテナポート41は第1送信ポート411と第1受信ポート412のいずれかと接続され、第2アンテナポート42は第2送信ポート421と第2受信ポート422のいずれかと接続される。したがって、第1のアンテナ21は専ら第1の通信部31によって使用され、第2のアンテナ22は専ら第2の通信部32によって使用される。ここで、スイッチ40は、各通信部31、32が送信動作をする際にはその送信ポート411、421を各アンテナポート41、42に接続し、各通信部31、32が受信動作をする際にはその受信ポート412、422を各アンテナポート41、42に接続する。すなわち、スイッチ40は、各通信部31、32の送信動作時と受信動作時で、各アンテナポート41、42の接続先を送信ポート411、421と受信ポート412、422の間で切り替える動作を行う。これを各アンテナに着目してみれば、例えば第1のアンテナ21は、対応する第1の通信部31の第1の送信部311と第1の受信部312の間で時分割で共有されていることになる。
【0023】
通信装置10の診断時には、スイッチ40は、上記のように第1の通信部31を第1のアンテナ21に固定的に接続し、第2の通信部32を第2のアンテナ22に固定的に接続するのではなく、第1の通信部31を第2のアンテナ22にも接続し、第2の通信部32を第1のアンテナ21にも接続することで、きめ細かい診断を可能とする。図示の例は、通常の通信時と異なり第2のアンテナ22に第1の通信部31を接続した例であり、第2のアンテナ22に対応する第2アンテナポート42が、第1の通信部31における第1の受信部312に繋がる第1受信ポート412に接続されている。
【0024】
CPU50は、通信装置10全体の制御部であり、MIMO通信部30、スイッチ40、ディスプレイ60等の各部を制御する。通常の通信時において信号を送信する際には、CPU50は、送信データを生成してMIMO通信部30、スイッチ40、アンテナ群20を介して送信する。また、通常の通信時において信号を受信する際には、CPU50は、アンテナ群20、スイッチ40、MIMO通信部30を介して復調された受信データを取得する。通信装置10の診断時には、CPU50は、スイッチ40を用いて通信装置10の診断を行う診断部として機能する。後述するように、CPU50は、スイッチ40を制御して、MIMO通信部30中の送信部311、321と受信部312、322を通る様々な診断用の通信経路を形成し、所定の診断信号の送受信を行わせる。そして、CPU50は、それぞれの通信経路で送信および受信された診断信号の比較に基づいて通信装置10の診断を行う。
【0025】
ディスプレイ60は、通信装置10に関する各種の情報を表示する。後述するように、通信装置10の診断時には、診断を実行するユーザが、ディスプレイ60上のタッチパネルのボタン操作等によってスイッチ40を介した診断用の通信経路の設定を行えるようになっており、また各通信経路における診断結果をディスプレイ60上で確認することができる。
【0026】
続いて、以上のような構成の通信装置10の診断方法について説明する。図2は、通信装置10が、自己の診断や故障解析を行うための診断モードにあるときの、ディスプレイ60の表示例を示す。本図の左から順に、診断実行ボタン群61、送信信号強度表示領域62、受信信号強度表示領域63、BER表示領域64、信号強度判定領域65、BER判定領域66が表示されている。
【0027】
診断実行ボタン群61は、通信装置10の各診断経路について診断を実行するためのボタン群である。図1に示される二つの通信部31、32と二つのアンテナ21、22を有する通信装置10においては、二つの送信部311、321と二つの受信部312、322の組み合わせによる合計四通り(2×2)の診断経路を形成することができるので、その四つの診断経路1、2、3、4のそれぞれに対応する診断実行ボタン611、612、613、614が設けられている。ディスプレイ60上の操作によって、診断を実行するユーザが診断実行ボタン611~614を押下すると、CPU50の制御の下でスイッチ40が切替え動作を行い、指定された診断経路が形成される。本例において、診断経路1、2、3、4は、それぞれ以下の送信部、アンテナ、受信部を通るものとする。
【0028】
診断経路1:第1の送信部311→第1のアンテナ21→第2のアンテナ22→第1の受信部312
診断経路2:第1の送信部311→第1のアンテナ21→第2のアンテナ22→第2の受信部322
診断経路3:第2の送信部321→第2のアンテナ22→第1のアンテナ21→第1の受信部312
診断経路4:第2の送信部321→第2のアンテナ22→第1のアンテナ21→第2の受信部322
【0029】
以上の四つの診断経路のうち、同一の通信部内の送信部と受信部の両方を通る診断経路1および診断経路4は、通常は他の通信部が使用している他のアンテナをスイッチ40を介して診断のために借用することにより実現できたものである。以下、ユーザが診断経路1の診断実行ボタン611の押下操作を行った場合を例に取って説明する。
【0030】
診断実行ボタン611の押下操作によってスイッチ40が切替え動作を行い診断経路1が形成された後、CPU50は、診断経路1での送受信を行わせる診断信号を生成する。ここで診断信号としては任意のパターンのデータを使用することができ、例えば公知のPN9信号を使用することができる。なお、一貫性のある診断を行うために診断信号は全ての診断経路1~4で共通のものとするのが好ましいが、診断経路毎に診断信号を変更することも可能である。
【0031】
CPU50は、診断経路1の送信部である第1の送信部311に診断信号を送信させる。このとき、スイッチ40において第1の送信部311に対応する第1送信ポート411は第1アンテナポート41に接続されており、診断信号は第1のアンテナ21から送信される。
【0032】
第1のアンテナ21から送信された診断信号は、第2のアンテナ22を介して診断経路1の受信部である第1の受信部312によって受信される。このとき、図1にも示されるように、スイッチ40において第2アンテナポート42は第1の受信部312に対応する第1受信ポート412に接続されている。
【0033】
CPU50は、第1の受信部312によって受信された診断信号と、第1の送信部311によって送信された診断信号を比較分析し、その結果をディスプレイ60に表示させる。
【0034】
送信信号強度表示領域62には、診断経路の送信部によって送信される診断信号の信号強度がdBm単位で表示される。例えば診断経路1については、第1の送信部311によって送信される診断信号の信号強度が表示される。
【0035】
受信信号強度表示領域63には、診断経路の受信部によって受信された診断信号の信号強度がdBm単位で表示される。例えば診断経路1については、第1の受信部312によって受信された診断信号の信号強度が表示される。
【0036】
BER表示領域64には、診断経路の受信部によって受信された診断信号の符号誤り率BER(Bit Error Rate)が表示される。例えば診断経路1については、第1の送信部311によって送信された診断信号に対する、第1の受信部312によって受信された診断信号のBERが表示される。なお、符号誤り率は一例であり、他の誤り率を使用してもよい。
【0037】
信号強度判定領域65には、受信信号強度表示領域63に表示される受信信号強度を、送信信号強度表示領域62に表示される送信信号強度と所定の基準で比較した結果がOKまたはNGで表示される。所定の基準としては、例えば、受信信号強度が送信信号強度の90%以上であればOKとし、90%未満であればNGとすることができる。ここで、受信信号強度が送信信号強度に比べて通常想定される範囲を超えて小さい場合は、送信部における送信回路または受信部における受信回路に異常がある可能性が高い。
【0038】
BER判定領域66には、BER表示領域64に表示される符号誤り率を所定の基準と比較した結果がOKまたはNGで表示される。所定の基準としては、例えば、符号誤り率が5%以下であればOKとし、5%超であればNGとすることができる。ここで、符号誤り率が通常想定される範囲を超えて大きい場合は、送信部における変調部または受信部における復調部に異常がある可能性が高い。但し、BER判定領域66におけるBER判定がNGであっても、信号強度判定領域65における信号強度判定もNGであった場合は、その信号強度の不足が原因で診断信号を適切に復調できずに符号誤り率が悪化した可能性もあるため、異常の所在については総合的に判断する必要がある。
【0039】
図3は、上記のような四つの診断経路1~4について診断を実行した結果の一例を示す。各診断経路の信号強度判定結果65とBER判定結果66が右側の2列に示されている。その左側の「変調部」「送信回路」「受信回路」「復調部」の4列は、各診断経路が通る経路を、第1の通信部31に対応する「1」と、第2の通信部32に対応する「2」の数字で簡易的に示したものである(例えば「変調部」における「1」は、図1における「変調部1」すなわち第1の変調部311Aを表す)。
【0040】
この例において、まず診断経路3および4では信号強度判定およびBER判定がOKとなっている。従って、これらの診断経路には異常が存在しないことが分かる。具体的には、送信側では「変調部2」「送信回路2」に異常が存在せず、受信側では「受信回路1」「復調部1」「受信回路2」「復調部2」に異常が存在しないことが分かる。従って、この時点で受信側には異常が存在しないことが分かる。そして、送信側で異常が存在する可能性があるのは第1の送信部311の「変調部1」と「送信回路1」に限られることが分かる。
【0041】
続いて、診断経路1および2を見ると、両診断経路において信号強度判定およびBER判定がNGとなっている。上述したように、BER判定がNGの場合は変復調における異常と信号強度の不足の両方の可能性が考えられるため、これだけから結論を導出することはできない。しかしながら、本例では信号強度判定がNGとなっているため、少なくとも送信回路または受信回路に異常があることは分かる。上述のように、本例で異常が存在する可能性があるのは「変調部1」と「送信回路1」に限られるため、このうち少なくとも「送信回路1」には異常があると特定することができる。
【0042】
そして、「送信回路1」の改修を行った後に、再度同様の診断を行えば、「変調部1」における異常の有無を確定することができる。すなわち、再度の診断を行っても診断経路1および2のBER判定結果がNGのままであれば「送信回路1」に加え「変調部1」にも異常があったことが分かり、必要な改修を行うことができる、一方、再度の診断を行った結果、診断経路1および2のBER判定結果がOKに変わった場合は、「変調部1」に異常はなく、最初の診断でBER判定結果がNGだった原因は「送信回路1」の異常による信号強度の不足であったことが分かる。
【0043】
以上のように、MIMO通信部30における送信部311、321と受信部312、322を網羅的に組み合わせた診断経路によって、異常が存在する送信部/受信部を具体的に特定することができる。また、診断における判定基準として信号強度と誤り率の二つを併用することにより、RF回路である送信回路/受信回路における異常と、ベースバンド回路である変調部/復調部における異常を個別に特定することができる。
【0044】
なお、以上の診断モードはCPU50の制御の下に実行されるが、CPU50の主なタスクは、ユーザの診断実行ボタン群61の押下操作に基づく診断経路の切替えをスイッチ40に行わせることと、既知のパターンの診断信号の送受信をMIMO通信部30に行わせることだけなので、高度な演算性能は要求されない。従って、CPU50は安価なものでよく、例えば、最低限の演算性能を持つシングルコア品でも十分に対応可能である。
【0045】
また、以上の診断モードは通信装置10の故障時等に利用することができるだけでなく、通信装置10の生産時における各送信部および各受信部の動作確認にも利用することができる。
【0046】
さらに、本実施形態の通信装置10は、スイッチ40の切替えによりMIMO通信部30内の各送信部と各受信部を直接接続する通信経路(診断経路)を形成することができるため、通信経路確立のためのアクセスポイントを設ける必要がない。診断時にアクセスポイントからの不要電波による妨害がなくなるため、高精度に診断を行うことができる。
【0047】
図4は、以上の診断モードの処理を示すフローチャートである。本図の説明において用いられる「S」は「ステップ」を意味する。なお、上述の図2では、ユーザの診断実行ボタン群61の押下操作をトリガーとして診断経路の形成と診断信号の送受信が行われていたが、本図の例では、CPU50がユーザの操作を介さずに自律的にこれらの処理を実行するものとする。
【0048】
S1では、CPU50が、診断経路の番号を指定する自然数nを1に設定する。図2および図3で示したように、本例でも四つの診断経路がある場合を例に取って説明する。すなわち、nは1、2、3、4の四つの値を取り得る。
【0049】
S2では、CPU50が、スイッチ40の切替え制御を通じて診断経路nを形成する。
S3では、CPU50が、診断経路nにおいて診断信号の送受信をMIMO通信部30に行わせる。
S4では、CPU50が、診断経路nの信号強度判定結果とBER判定結果を記録するとともに、ディスプレイ60に表示させる。
【0050】
S5では、CPU50が、nがその最大値Nと等しいかを判定する。上述の通り、本例ではN=4である。nがNよりも小さい場合、S6に進んで、nに1を加算する。以後、S5でn=N(=4)となるまで、信号経路nの形成(S2)、診断信号の送受信(S3)、判定結果の記録(S4)を繰り返す。
【0051】
このようにして全ての診断経路1~4について判定結果の記録がなされ、S5でn=Nとなったら、S7に進み、CPU50が、信号強度判定がNGとされた診断経路の有無を判定する。先に詳述したように、信号強度判定がNGの診断経路では、送信回路または受信回路に異常がある可能性が高い。
【0052】
S7で信号強度判定がNGの診断経路がない場合は、S8に進み、CPU50が、BER判定がNGとされた診断経路の有無を判定する。先に詳述したように、BER判定がNGの診断経路では、変調部または復調部に異常がある可能性が高い。
【0053】
なお、S7およびS8における判定は、図示の都合上、簡易的に示したものであり、より複雑なケースにおいては、信号強度判定およびBER判定のOK/NGの情報だけでは異常の所在を特定できない場合も想定される。その場合は、各診断経路の信号強度の値(dBm)およびBERの値(%)に基づく総合的な判断が求められる。
【0054】
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明した。実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0055】
実施形態では、二つの通信部31、32と、二つのアンテナ21、22を有する通信装置10を例に取って説明したが、本発明は三つ以上の通信部と三つ以上のアンテナを有する通信装置にも適用可能である。一般化すれば、M個の通信部31、32、・・・、3Mと、M個のアンテナ21、22、・・・、2Mを備える通信装置10において、各通信部31、32、・・・、3MにおけるM個の送信部311、321、・・・、3M1およびM個の受信部312、322、・・・、3M2を、それぞれアンテナ21、22、・・・、2Mと選択的に接続可能なスイッチ40を設けることにより、M個の送信部とM個の受信部を網羅的に組み合わせたM×M個の診断経路を形成することができる。なお、このM×Mが図4のフローチャートのS5における診断経路の最大数Nと等しくなる。また、スイッチ40において、MIMO通信部30側には、M個の送信ポートとM個の受信ポートの合計2M個のポートがあり、アンテナ群20側にはM個のポートがある。
【0056】
実施形態では、第2の通信部32が送信部321と受信部322の両方を備えていたが、送信部321および受信部322のいずれか一方のみを備える構成としてもよい。このような場合でも、第1の通信部31における送信部311と受信部312との間の診断信号の送受信時に第2のアンテナ22を借用して第1の通信部31に閉じた診断経路を形成することができる。
【0057】
なお、実施の形態で説明した各装置の機能構成はハードウェア資源またはソフトウェア資源により、あるいはハードウェア資源とソフトウェア資源の協働により実現できる。ハードウェア資源としてプロセッサ、ROM、RAM、その他のLSIを利用できる。ソフトウェア資源としてオペレーティングシステム、アプリケーション等のプログラムを利用できる。
【符号の説明】
【0058】
10 通信装置、20 アンテナ群、21 第1のアンテナ、22 第2のアンテナ、30 MIMO通信部、31 第1の通信部、32 第2の通信部、40 スイッチ、50 CPU、60 ディスプレイ、311 第1の送信部、311A 第1の変調部、311B 第1の送信回路、312 第1の受信部、312A 第1の復調部、312B 第1の受信回路、321 第2の送信部、321A 第2の変調部、321B 第2の送信回路、322 第2の受信部、322A 第2の復調部、322B 第2の受信回路。
図1
図2
図3
図4