IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱マテリアル株式会社の特許一覧

特許7559449ワイパーインサートおよび刃先交換式フライスカッタ
<>
  • 特許-ワイパーインサートおよび刃先交換式フライスカッタ 図1
  • 特許-ワイパーインサートおよび刃先交換式フライスカッタ 図2
  • 特許-ワイパーインサートおよび刃先交換式フライスカッタ 図3
  • 特許-ワイパーインサートおよび刃先交換式フライスカッタ 図4
  • 特許-ワイパーインサートおよび刃先交換式フライスカッタ 図5
  • 特許-ワイパーインサートおよび刃先交換式フライスカッタ 図6
  • 特許-ワイパーインサートおよび刃先交換式フライスカッタ 図7
  • 特許-ワイパーインサートおよび刃先交換式フライスカッタ 図8
  • 特許-ワイパーインサートおよび刃先交換式フライスカッタ 図9
  • 特許-ワイパーインサートおよび刃先交換式フライスカッタ 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】ワイパーインサートおよび刃先交換式フライスカッタ
(51)【国際特許分類】
   B23C 5/20 20060101AFI20240925BHJP
   B23C 5/06 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
B23C5/20
B23C5/06 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020152217
(22)【出願日】2020-09-10
(65)【公開番号】P2022046272
(43)【公開日】2022-03-23
【審査請求日】2023-05-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】三浦 亮
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 翔太
【審査官】小川 真
(56)【参考文献】
【文献】特表2020-501927(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第03315235(EP,A1)
【文献】特開2013-075346(JP,A)
【文献】国際公開第2015/163326(WO,A1)
【文献】特開昭53-043290(JP,A)
【文献】特開2015-150661(JP,A)
【文献】特開2017-124464(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23C 5/20
B23C 5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インサート中心軸が延びるインサート軸方向において互いに反対側を向く一対の多角形面と、
一対の前記多角形面と接続され、インサート径方向の外側を向く外周面と、
前記多角形面と前記外周面とが接続される稜線部に配置される切刃と、を備え、
前記多角形面は、
前記多角形面の外周縁に沿って配置される複数の辺部と、
インサート周方向に並ぶ一対の前記辺部間に位置する第1コーナ部と、
インサート周方向において前記第1コーナ部とは異なる位置に配置され、インサート周方向に並ぶ一対の前記辺部間に位置する第2コーナ部と、を有し、
前記第1コーナ部と前記第2コーナ部とは、前記多角形面に、インサート周方向に交互に並んで3つずつ設けられ、
インサート軸方向から見て、前記第1コーナ部のインサート周方向の両側に位置する一対の前記辺部間の第1挟角は、前記第2コーナ部のインサート周方向の両側に位置する一対の前記辺部間の第2挟角よりも小さく、
前記切刃は、
3つの前記第1コーナ部のうち、所定の第1コーナ部のインサート周方向の一方側の前記辺部に配置され、被削材を仕上げ加工する第1切刃と、
前記所定の第1コーナ部のインサート周方向の他方側の前記辺部に配置される第2切刃と、を有し、
インサート軸方向から見て、前記第1切刃は、インサート径方向の外側に膨らむ凸曲線状であり、
前記外周面は、
前記第1切刃と接続される第1逃げ面と、
前記第2切刃と接続される第2逃げ面と、
インサート軸方向において前記第2逃げ面の前記第2切刃とは反対側に位置し、前記第2切刃よりもインサート径方向の外側に配置される第1拘束面と、を有し、
前記第1逃げ面は、前記外周面のインサート軸方向の全長にわたって配置され、
インサート軸方向から見て、前記所定の第1コーナ部のインサート周方向の一方側に隣り合う前記第2コーナ部と、前記インサート中心軸とを通る回転中心軸を中心として、インサート形状が180°回転対称である、
ワイパーインサート。
【請求項2】
前記第2逃げ面は、前記インサート中心軸に対して傾斜する傾斜面状であり、インサート軸方向において前記第2切刃から離れるに従いインサート径方向の外側に位置し、
前記第1拘束面は、前記第2逃げ面と繋がり、前記インサート中心軸と平行な平面状である、
請求項1に記載のワイパーインサート。
【請求項3】
前記多角形面は、
前記第1切刃と接続される第1すくい面と、
前記第1すくい面よりもインサート径方向の内側に配置される着座面と、を有し、
前記第1すくい面は、前記第1切刃からインサート径方向の内側へ向かうに従い、インサート軸方向においてこの多角形面から別の多角形面側へ向かう傾斜面状であり、
前記着座面は、前記第1切刃および前記第1すくい面よりもインサート軸方向に出っ張る、
請求項1または2に記載のワイパーインサート。
【請求項4】
前記多角形面は、前記第2切刃と接続される第2すくい面を有し、
前記着座面は、前記第2すくい面よりもインサート径方向の内側に配置され、前記第2切刃および前記第2すくい面よりもインサート軸方向に出っ張る、
請求項3に記載のワイパーインサート。
【請求項5】
前記切刃は、前記第1切刃のインサート周方向の他方側の端部と、前記第2切刃のインサート周方向の一方側の端部とに接続されるコーナ切刃を有し、
インサート軸方向から見て、前記第1切刃と前記コーナ切刃との間の挟角、および、前記第2切刃と前記コーナ切刃との間の挟角が、それぞれ鈍角である、
請求項1から4のいずれか1項に記載のワイパーインサート。
【請求項6】
前記外周面は、前記第1拘束面のインサート周方向の他方側に隣り合う第2拘束面を有する、
請求項1からのいずれか1項に記載のワイパーインサート。
【請求項7】
工具中心軸が延びる工具軸方向の先端部に、工具周方向に互いに間隔をあけて配置される複数のインサート取付座を有する工具本体と、
複数の前記インサート取付座の少なくとも1つに配置される請求項1からのいずれか1項に記載のワイパーインサートと、
前記ワイパーインサートが配置される前記インサート取付座とは異なる前記インサート取付座に配置される荒加工用インサートと、を備え、
前記荒加工用インサートは、
前記工具本体から工具径方向の外側に出っ張る主切刃と、
前記工具本体から工具軸方向の先端側に出っ張る副切刃と、を有し、
複数の前記インサート取付座は、互いに同一形状であり、
前記第1切刃は、前記副切刃よりも工具軸方向の先端側に配置され、
前記第2切刃は、前記主切刃よりも工具径方向の内側に配置される、
刃先交換式フライスカッタ。
【請求項8】
前記ワイパーインサートの前記外周面は、インサート周方向において前記第1拘束面とは異なる位置に配置される第2拘束面を有し、
前記インサート取付座は、
前記多角形面の着座面と接触する底面と、
前記第1拘束面と接触する第1支持面と、
前記第2拘束面と接触する第2支持面と、を有する、
請求項に記載の刃先交換式フライスカッタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイパーインサートおよび刃先交換式フライスカッタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の刃先交換式フライスカッタとして、例えば特許文献1~3に記載のものが周知である。刃先交換式フライスカッタは、複数のインサート取付座を有する工具本体と、各インサート取付座に装着される複数の切削インサートと、を備える。切削インサートは、工具本体から工具径方向の外側に出っ張る主切刃と、工具本体から工具先端側に出っ張る副切刃と、を有する。
【0003】
特許文献1では、切削インサートの多角形面の辺稜部に切刃が設けられ、切刃の一部は多角形面の外周側に向けて突出したワイパー刃とされ、残りの切刃が通常切刃とされている。そして、一種類の切削インサートを、通常の切削加工(荒加工)を行う切削インサートとして使用できるとともに、仕上げ加工を行うワイパー刃インサートとしても使用できる。特許文献1では、複数のインサート取付座が互いに同一形状であり、切削インサートを荒加工に使用する場合でも、仕上げ加工のワイパー刃インサートとして使用する場合でも、任意のインサート取付座に装着できる。なお特許文献1では、ワイパー刃インサートとして使用する切削インサートにおいてワイパー刃と隣り合う主切刃についても、切削加工に用いられる。
【0004】
特許文献2では、工具本体の複数のインサート取付座が互いに同一形状とされ、各インサート取付座に装着される複数の切削インサートには、標準加工(荒加工)に用いられる標準加工用インサートと、標準加工用インサートとはインサート形状が異なり、仕上げ加工に用いられるワイパーインサートと、が含まれる。ワイパーインサートは、さらい刃と、さらい刃に隣り合う主切れ刃と、を有しており、切削加工時にはさらい刃および主切れ刃が被削材に切り込んでいく。またこのワイパーインサートは、表裏反転対称形状であり、インサートの表面および裏面の各外周縁に配置される切れ刃をそれぞれ利用可能であるため、工具寿命が延長する。
【0005】
特許文献3では切削インサートが、略トリゴン型の六角形板状である。この切削インサートは、一対の六角形面を有する。六角形面の6つのコーナ部は、一対の辺稜部の挟角が略90°とされた第1のコーナ部と、一対の辺稜部の挟角が第1のコーナ部の挟角よりも大きな鈍角とされた第2のコーナ部と、を有する。第1のコーナ部と第2のコーナ部とは、六角形面の周方向に交互に並んで3つずつ配置される。また、切削インサートの外周面には、6つの側面が形成される。切削インサートをインサート取付座に取り付ける際、6つの側面のうち2つの側面と、インサート取付座の2つの壁面とが接触する。特許文献3の切削インサートは、上述のように特別な形状を有するため、インサート取付座の形状も複雑である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2008-23660号公報
【文献】特開2015-150661号公報
【文献】特開2020-32499号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献3において、互いに同一形状とされた複数のインサート取付座に、荒加工用インサートとワイパーインサートの2種類の切削インサートを任意に装着する場合には、下記の問題が生じる。
【0008】
特許文献3のようにインサート取付座が複雑な形状であると、このインサート取付座に装着可能なワイパーインサートの形状も、荒加工用インサートのインサート形状に近い略トリゴン型の六角形板状となる。例えば、このワイパーインサートのワイパー刃による加工精度をより高めたり切刃欠損を抑制するなどの目的で、ワイパー刃以外の切刃(特に主切刃)と被削材との接触を抑えることが考えられる。これには、ワイパーインサートの主切刃を、荒加工用インサートの主切刃の工具中心軸回りの回転軌跡よりも、工具径方向の内側に逃がして配置すればよい。
【0009】
しかしながら、ワイパーインサートの主切刃を逃がして配置すると、ワイパーインサートの主切刃の逃げ面を構成している側面についても同様に逃がされて配置される。このため、ワイパーインサートを表裏反転させてインサート取付座に装着したときに、この側面がインサート取付座の壁面から離れて配置され、つまり壁面と接触しなくなり、ワイパーインサートをインサート取付座に拘束することができない。したがって、ワイパーインサートを表裏反転対称形状(つまり両面タイプ)とすることができず、工具寿命の短い片面タイプのワイパーインサートとせざるを得ない。
【0010】
本発明は、互いに同一形状の複数のインサート取付座に任意に装着可能であり、ワイパー刃以外の切刃と被削材との接触を抑えつつワイパー刃で仕上げ加工でき、かつ表裏反転対称形状として、加工精度を高めつつ工具寿命を延長できるワイパーインサート、およびこれを用いた刃先交換式フライスカッタを提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のワイパーインサートの一つの態様は、インサート中心軸が延びるインサート軸方向において互いに反対側を向く一対の多角形面と、一対の前記多角形面と接続され、インサート径方向の外側を向く外周面と、前記多角形面と前記外周面とが接続される稜線部に配置される切刃と、を備え、前記多角形面は、前記多角形面の外周縁に沿って配置される複数の辺部と、インサート周方向に並ぶ一対の前記辺部間に位置する第1コーナ部と、インサート周方向において前記第1コーナ部とは異なる位置に配置され、インサート周方向に並ぶ一対の前記辺部間に位置する第2コーナ部と、を有し、前記第1コーナ部と前記第2コーナ部とは、前記多角形面に、インサート周方向に交互に並んで3つずつ設けられ、インサート軸方向から見て、前記第1コーナ部のインサート周方向の両側に位置する一対の前記辺部間の第1挟角は、前記第2コーナ部のインサート周方向の両側に位置する一対の前記辺部間の第2挟角よりも小さく、前記切刃は、3つの前記第1コーナ部のうち、所定の第1コーナ部のインサート周方向の一方側の前記辺部に配置され、被削材を仕上げ加工する第1切刃と、前記所定の第1コーナ部のインサート周方向の他方側の前記辺部に配置される第2切刃と、を有し、インサート軸方向から見て、前記第1切刃は、インサート径方向の外側に膨らむ凸曲線状であり、前記外周面は、前記第1切刃と接続される第1逃げ面と、前記第2切刃と接続される第2逃げ面と、インサート軸方向において前記第2逃げ面の前記第2切刃とは反対側に位置し、前記第2切刃よりもインサート径方向の外側に配置される第1拘束面と、を有し、前記第1逃げ面は、前記外周面のインサート軸方向の全長にわたって配置され、インサート軸方向から見て、前記所定の第1コーナ部のインサート周方向の一方側に隣り合う前記第2コーナ部と、前記インサート中心軸とを通る回転中心軸を中心として、インサート形状が180°回転対称である。
また、本発明の刃先交換式フライスカッタの一つの態様は、工具中心軸が延びる工具軸方向の先端部に、工具周方向に互いに間隔をあけて配置される複数のインサート取付座を有する工具本体と、複数の前記インサート取付座の少なくとも1つに配置される上述のワイパーインサートと、前記ワイパーインサートが配置される前記インサート取付座とは異なる前記インサート取付座に配置される荒加工用インサートと、を備え、前記荒加工用インサートは、前記工具本体から工具径方向の外側に出っ張る主切刃と、前記工具本体から工具軸方向の先端側に出っ張る副切刃と、を有し、複数の前記インサート取付座は、互いに同一形状であり、前記第1切刃は、前記副切刃よりも工具軸方向の先端側に配置され、前記第2切刃は、前記主切刃よりも工具径方向の内側に配置される。
【0012】
この刃先交換式フライスカッタは、互いに同一形状とされた複数のインサート取付座に、荒加工用(標準加工用)インサートおよびワイパーインサートの2種類の切削インサートが、任意に装着可能である。
【0013】
本発明のワイパーインサートによれば、第2切刃が第1拘束面よりもインサート径方向の内側に配置されるため、第2切刃が被削材に接触することが抑制される。具体的に、本発明の刃先交換式フライスカッタにおいて、ワイパーインサートの第2切刃は、荒加工用インサートの主切刃の工具中心軸回りの回転軌跡よりも、工具径方向の内側に逃がして配置される。このため、ワイパーインサートは第1切刃(ワイパー刃)のみで被削材に切り込むことになり、仕上げ加工の精度が安定して高められる。
【0014】
そして、このワイパーインサートをインサート取付座に回転中心軸を中心に表裏反転(180°回転)させて取り付けたときに、第1拘束面がインサート取付座の第1支持面と接触する。このため、一対の多角形面のうちいずれの多角形面の第1切刃を使用する場合でも、ワイパーインサートをインサート取付座に安定して固定できる。つまりワイパーインサートを両面タイプとすることが可能であり、工具寿命を延長できる。
【0015】
以上より、本発明のワイパーインサートによれば、互いに同一形状の複数のインサート取付座に任意に装着可能であり、ワイパー刃以外の切刃と被削材との接触を抑えつつワイパー刃で仕上げ加工でき、かつ表裏反転対称形状として、加工精度を高めつつ工具寿命を延長できる。
また、本発明の刃先交換式フライスカッタは、上記ワイパーインサートを備えるため、複数のインサート取付座へのインサート配置の自由度が増し、加工精度を高めつつ工具寿命を延長できる。
上記ワイパーインサートにおいて、インサート軸方向から見て、前記第1切刃は、インサート径方向の外側に膨らむ凸曲線状である。
この場合、例えば、ワイパーインサートが装着される工具本体の工具中心軸が、切削加工時の切削抵抗等により被削材に対して僅かに傾いた場合でも、第1切刃による加工面精度が安定して確保される。
【0016】
上記ワイパーインサートにおいて、前記第2逃げ面は、前記インサート中心軸に対して傾斜する傾斜面状であり、インサート軸方向において前記第2切刃から離れるに従いインサート径方向の外側に位置し、前記第1拘束面は、前記第2逃げ面と繋がり、前記インサート中心軸と平行な平面状であることが好ましい。
【0017】
この場合、上述のように第2切刃を逃がしつつも、第2逃げ面および第1拘束面の構成を簡素化できる。シンプルな第1拘束面によってインサート取付座へのワイパーインサートの着座安定性が高められ、かつインサート製造も容易となる。
【0018】
上記ワイパーインサートにおいて、前記多角形面は、前記第1切刃と接続される第1すくい面と、前記第1すくい面よりもインサート径方向の内側に配置される着座面と、を有し、前記第1すくい面は、前記第1切刃からインサート径方向の内側へ向かうに従い、インサート軸方向においてこの多角形面から別の多角形面側へ向かう傾斜面状であり、前記着座面は、前記第1切刃および前記第1すくい面よりもインサート軸方向に出っ張ることが好ましい。
【0019】
この場合、第1すくい面がポジティブ角(正角)側に傾斜するので、第1切刃の切れ味が安定して高められる。また、第1すくい面と着座面との間の段差(段部)に、第1切刃から生成される切屑が当たって分断されやすくなるため、切屑処理性が向上する。また、第1切刃および第1すくい面がインサート軸方向において着座面よりも出っ張らないので、このワイパーインサートを表裏反転させてインサート取付座に取り付ける際に、第1切刃や第1すくい面がインサート取付座に干渉することを抑制できる。
【0020】
上記ワイパーインサートにおいて、前記多角形面は、前記第2切刃と接続される第2すくい面を有し、前記着座面は、前記第2すくい面よりもインサート径方向の内側に配置され、前記第2切刃および前記第2すくい面よりもインサート軸方向に出っ張ることが好ましい。
【0021】
この場合、第2切刃および第2すくい面がインサート軸方向において着座面よりも出っ張らないので、このワイパーインサートを表裏反転させてインサート取付座に取り付ける際に、第2切刃や第2すくい面がインサート取付座に干渉することを抑制できる。
【0022】
上記ワイパーインサートにおいて、前記切刃は、前記第1切刃のインサート周方向の他方側の端部と、前記第2切刃のインサート周方向の一方側の端部とに接続されるコーナ切刃を有し、インサート軸方向から見て、前記第1切刃と前記コーナ切刃との間の挟角、および、前記第2切刃と前記コーナ切刃との間の挟角が、それぞれ鈍角であることが好ましい。
【0023】
例えば第1切刃と第2切刃とが直接接続される構成と比べて、本発明の上記構成によれば、切刃の強度が高められ、刃先欠損等が抑制される。
【0026】
上記ワイパーインサートにおいて、前記外周面は、前記第1拘束面のインサート周方向の他方側に隣り合う第2拘束面を有することが好ましい。
上記刃先交換式フライスカッタにおいて、前記ワイパーインサートの前記外周面は、インサート周方向において前記第1拘束面とは異なる位置に配置される第2拘束面を有し、前記インサート取付座は、前記多角形面の着座面と接触する底面と、前記第1拘束面と接触する第1支持面と、前記第2拘束面と接触する第2支持面と、を有することが好ましい。
【0027】
この場合、インサート取付座に対して、ワイパーインサートは第1拘束面および第2拘束面によって、インサート径方向およびインサート周方向において拘束される。インサート取付座へのワイパーインサートの着座安定性がより向上する。
【発明の効果】
【0028】
本発明の一つの態様のワイパーインサートによれば、互いに同一形状の複数のインサート取付座に任意に装着可能であり、ワイパー刃以外の切刃と被削材との接触を抑えつつワイパー刃で仕上げ加工でき、かつ表裏反転対称形状として、加工精度を高めつつ工具寿命を延長できる。
また、本発明の一つの態様の刃先交換式フライスカッタは、上記ワイパーインサートを備えるため、複数のインサート取付座へのインサート配置の自由度が増し、加工精度を高めつつ工具寿命を延長できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1図1は、本実施形態のワイパーインサートを示す斜視図である。
図2図2は、ワイパーインサートをインサート軸方向から見た平面図である。
図3図3は、ワイパーインサートの側面図である。
図4図4は、図2のワイパーインサートを矢視IV方向から見た側面図である。
図5図5は、本実施形態の刃先交換式フライスカッタを示す斜視図であり、荒加工用インサートの図示は省略している。
図6図6は、刃先交換式フライスカッタを示す側面図であり、荒加工用インサートの図示は省略している。
図7図7は、刃先交換式フライスカッタを示す側面図であり、荒加工用インサートの図示は省略している。
図8図8は、工具本体のインサート取付座近傍を拡大して示す斜視図である。
図9図9は、刃先交換式フライスカッタの一部を示す側面図であり、工具回転方向から荒加工用インサートの多角形面を正面に見た図である。
図10図10は、インサート取付座に装着された荒加工用インサートを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の一実施形態のワイパーインサート1および刃先交換式フライスカッタ10について、図面を参照して説明する。
【0031】
〔刃先交換式フライスカッタの概略構成〕
本実施形態の刃先交換式フライスカッタ10は、金属製等の被削材に対して正面フライス削り等のフライス加工を施す切削工具(転削工具)である。刃先交換式フライスカッタ10は、例えば、刃先交換式正面フライス、刃先交換式フライス、刃先交換式フェースミル等と言い換えてもよい。
【0032】
図5から図7図9および図10に示すように、刃先交換式フライスカッタ10は、工具本体2と、仕上げ加工用のワイパーインサート1と、荒加工用(標準加工用)の荒加工用インサート3と、クランプネジ等のネジ部材4と、を備える。なお図5から図7は、荒加工用インサート3の図示を省略している。
【0033】
工具本体2は、工具中心軸Oを中心とする柱状等である。工具本体2は、図示しない工作機械の主軸に着脱可能に装着される。工具本体2は、工作機械の主軸により工具中心軸O回りに回転させられる。工具本体2は、工具中心軸Oが延びる方向である工具軸方向の両端部のうち、第1の端部に工作機械の主軸が接続され、第2の端部にワイパーインサート1および荒加工用インサート3が配置される。工具本体2の第1の端部は、主軸装着部と言い換えてもよく、第2の端部は、刃部と言い換えてもよい。
本実施形態ではワイパーインサート1が、刃先交換式フライスカッタ10に少なくとも1つ設けられる。荒加工用インサート3は、刃先交換式フライスカッタ10に複数設けられる。
【0034】
図1から図4に示すように、ワイパーインサート1は、インサート中心軸Aを中心とする略トリゴン型の六角形板状である。ワイパーインサート1は、インサート中心軸Aが延びる方向であるインサート軸方向において互いに反対側を向く一対の多角形面11,12と、一対の多角形面11,12と接続される外周面13と、多角形面11,12と外周面13とが接続される稜線部に配置される切刃14と、一対の多角形面11,12に開口する貫通孔15と、を備える。
【0035】
〔方向の定義〕
本実施形態では、ワイパーインサート1のインサート中心軸Aが延びる方向、つまりインサート中心軸Aに沿う方向を、インサート軸方向と呼ぶ。インサート軸方向は、ワイパーインサート1の厚さ方向と言い換えてもよい。インサート軸方向のうち、ワイパーインサート1の一方の多角形面(第1の多角形面)11から他方の多角形面(第2の多角形面)12へ向かう方向を、インサート軸方向の裏面側と呼び、他方の多角形面12から一方の多角形面11へ向かう方向を、インサート軸方向の表面側と呼ぶ。
インサート中心軸Aと直交する方向をインサート径方向と呼ぶ。インサート径方向のうち、インサート中心軸Aに近づく方向をインサート径方向の内側と呼び、インサート中心軸Aから離れる方向をインサート径方向の外側と呼ぶ。
インサート中心軸A回りに周回する方向をインサート周方向と呼ぶ。インサート周方向のうち、所定方向をインサート周方向の一方側C1と呼び、所定方向とは反対方向をインサート周方向の他方側C2と呼ぶ。本実施形態では、図2に示すようにインサート軸方向から一方の多角形面11を正面に見て、インサート中心軸Aを中心とする時計回りがインサート周方向の一方側C1に相当し、反時計回りがインサート周方向の他方側C2に相当する。
【0036】
また図5等に示すように、本実施形態では、工具本体2の工具中心軸Oが延びる方向、つまり工具中心軸Oに沿う方向を、工具軸方向と呼ぶ。工具軸方向のうち、工具本体2の前記第1の端部(主軸装着部)から前記第2の端部(刃部)へ向かう方向を先端側と呼び、前記第2の端部から前記第1の端部へ向かう方向を後端側と呼ぶ。
工具中心軸Oと直交する方向を工具径方向と呼ぶ。工具径方向のうち、工具中心軸Oに近づく方向を工具径方向の内側と呼び、工具中心軸Oから離れる方向を工具径方向の外側と呼ぶ。
工具中心軸O回りに周回する方向を工具周方向と呼ぶ。工具周方向のうち、フライス加工時に工具本体2が主軸により回転させられる向きを工具回転方向Tと呼び、これとは反対の回転方向を、工具回転方向Tとは反対方向、または単に反工具回転方向と呼ぶ。
【0037】
〔ワイパーインサート〕
まず図1から図4を参照し、ワイパーインサート1について説明する。ワイパーインサート1は、例えば超硬合金製である。ワイパーインサート1は、表裏反転対称形状である。つまりワイパーインサート1は、両面タイプの切削インサートである。
【0038】
〔多角形面の説明1〕
ワイパーインサート1が表裏反転対称形状であるため、一対の多角形面11,12は、互いに同一の構成を有する。このため以下の説明では、一方の多角形面11について説明し、他方の多角形面12の説明は省略する。なお特に図示しないが、一対の多角形面11,12の少なくともいずれかに、各多角形面11,12を識別するための識別用マークを設けてもよい。
【0039】
多角形面11は、インサート軸方向を向く。多角形面11は、六角形状である。多角形面11は、多角形面11の外周縁に沿って配置される複数の辺部11a,11b,11c,11d,11e,11fと、インサート周方向に並ぶ一対の辺部間に位置する第1コーナ部16と、インサート周方向において第1コーナ部16とは異なる位置に配置され、インサート周方向に並ぶ一対の辺部間に位置する第2コーナ部17と、を有する。
【0040】
図2に示すように、辺部11a,11b,11c,11d,11e,11fは、多角形面11が六角形状であることに対応して、多角形面11の外周縁に6つ配置される。第1コーナ部16と第2コーナ部17とは、多角形面11に、インサート周方向に交互に並んで3つずつ設けられる。
具体的に、3つの第1コーナ部16は、インサート周方向に並ぶ一対の辺部11a,11b間、一対の辺部11c,11d間、および一対の辺部11e,11f間に配置される。3つの第2コーナ部17は、インサート周方向に並ぶ一対の辺部11b,11c間、一対の辺部11d,11e間、および一対の辺部11f,11a間に配置される。
【0041】
なお本実施形態の例では、多角形面11が、多角形面11の外周縁に配置され、辺部11a,11b,11c,11d,11e,11fよりも辺の長さが短い複数の接続辺部11m,11n,11p,11qを有する。なお「接続辺部」は、面取り部と言い換えてもよい。このためワイパーインサート1は、略トリゴン型の十角形板状であるともいえる。
【0042】
接続辺部11mは、3つの第1コーナ部16のうち、所定の第1コーナ部16Aに配置され、一対の辺部11a,11b同士を繋ぐ。接続辺部11mの両端部は、辺部11aのインサート周方向の他方側C2の端部と、辺部11bのインサート周方向の一方側C1の端部と、に接続される。
【0043】
接続辺部11nは、3つの第1コーナ部16のうち、所定の第1コーナ部16Aのインサート周方向の他方側C2に隣り合う別の第1コーナ部16Bに配置され、一対の辺部11c,11d同士を繋ぐ。接続辺部11nの両端部は、辺部11cのインサート周方向の他方側C2の端部と、辺部11dのインサート周方向の一方側C1の端部と、に接続される。
【0044】
接続辺部11pは、3つの第1コーナ部16のうち、第1コーナ部16A,16B以外の別の第1コーナ部16Cに配置され、一対の辺部11e,11f同士を繋ぐ。接続辺部11pの両端部は、辺部11eのインサート周方向の他方側C2の端部と、辺部11fのインサート周方向の一方側C1の端部と、に接続される。
【0045】
接続辺部11qは、3つの第2コーナ部17のうち、所定の第1コーナ部16Aのインサート周方向の一方側C1に隣り合う第2コーナ部17Aに配置され、一対の辺部11f,11a同士を繋ぐ。接続辺部11qの両端部は、辺部11fのインサート周方向の他方側C2の端部と、辺部11aのインサート周方向の一方側C1の端部と、に接続される。
【0046】
図2に示すようにインサート軸方向から見て、第1コーナ部16のインサート周方向の両側に位置する一対の辺部間の第1挟角θ1は、第2コーナ部17のインサート周方向の両側に位置する一対の辺部間の第2挟角θ2よりも小さい。第1挟角θ1は、例えば略90°である。第2挟角θ2は、90°よりも大きい鈍角であり、例えば略150°である。
多角形面11の上記以外の構成については、別途後述する。
【0047】
〔切刃〕
切刃14は、一方の多角形面11と外周面13とが接続される稜線部と、他方の多角形面12と外周面13とが接続される稜線部とに、一対設けられる。ワイパーインサート1が表裏反転対称形状であるため、一対の切刃14は、互いに同一の構成を有する。このため以下の説明では、一対の切刃14のうち、一方の多角形面11の外周縁に配置される一方の切刃14Aについて説明し、他方の多角形面12の外周縁に配置される他方の切刃14Bの説明は省略する。
【0048】
一方の切刃14Aは、多角形面11の3つの第1コーナ部16のうち、所定の第1コーナ部16Aのインサート周方向の一方側C1の辺部11aに配置され、被削材を仕上げ加工する第1切刃14aと、所定の第1コーナ部16Aのインサート周方向の他方側C2の辺部11bに配置される第2切刃14bと、第1切刃14aのインサート周方向の他方側C2の端部と、第2切刃14bのインサート周方向の一方側C1の端部とに接続されるコーナ切刃14cと、を有する。図2に示すようにインサート軸方向から見て、切刃14Aは、全体として略L字状である。
【0049】
第1切刃14aは、ワイパー刃、さらい刃または副切刃と言い換えてもよい。第1切刃14aは、所定の第1コーナ部16Aのインサート周方向の一方側C1に隣接する辺部11aに沿って延びる。図2に示すようにインサート軸方向から見て、第1切刃14aは、辺部11a上を略直線状に延びる。具体的に本実施形態では、インサート軸方向から見て、第1切刃14aが、インサート径方向の外側に膨らむ凸曲線状である。第1切刃14aは、インサート軸方向から見て大きな曲率半径(例えばR500mm等)でカーブしており、僅かにインサート径方向の外側に膨出する。また図4に示すようにインサート径方向から見て、第1切刃14aは、直線状に延びる。
【0050】
第2切刃14bは、その切刃レイアウトに基づいて、主切刃と言い換えてもよい。ただし後述するように、第2切刃14bは、切削加工に用いられることのない見せかけの切刃であることから、実際には主切刃として機能しない。第2切刃14bは、所定の第1コーナ部16Aのインサート周方向の他方側C2に隣接する辺部11bに沿って延びる。図2に示すようにインサート軸方向から見て、第2切刃14bは、辺部11b上を直線状に延びる。
【0051】
コーナ切刃14cは、所定の第1コーナ部16Aの接続辺部11mに配置される。インサート軸方向から見て、コーナ切刃14cは、接続辺部11m上を直線状に延びる。インサート軸方向から見て、第1切刃14aとコーナ切刃14cとの間の挟角、および、第2切刃14bとコーナ切刃14cとの間の挟角は、それぞれ鈍角である。図3および図4に示すように、インサート径方向から見て、コーナ切刃14cは、インサート軸方向(の裏面側)に窪む凹曲線状である。コーナ切刃14cの刃長は、第1切刃14aおよび第2切刃14bの各刃長よりも短い。
【0052】
〔多角形面の説明2〕
図1および図2に示すように、多角形面11は、第1すくい面11gと、第2すくい面11hと、コーナすくい面11iと、着座面11jと、段部11kと、を有する。
【0053】
第1すくい面11gは、第1切刃14aと接続される。第1すくい面11gは、第1切刃14aのインサート径方向の内側に配置される。第1すくい面11gは、第1切刃14aからインサート径方向の内側へ向かうに従い、インサート軸方向においてこの多角形面11から別の多角形面12側(つまりインサート軸方向の裏面側)へ向かう傾斜面状である。すなわち、第1すくい面11gは、インサート中心軸Aと垂直な仮想平面に対して、ポジティブ角(正角)側に傾斜する。本実施形態では第1すくい面11gが、平面状である。
【0054】
第2すくい面11hは、第2切刃14bと接続される。第2すくい面11hは、第2切刃14bのインサート径方向の内側に配置される。第2すくい面11hは、第2切刃14bからインサート径方向の内側へ向かうに従い、インサート軸方向の裏面側へ向かう傾斜面状である。すなわち、第2すくい面11hは、インサート中心軸Aと垂直な仮想平面に対して、ポジティブ角側に傾斜する。本実施形態では第2すくい面11hが、平面状である。
【0055】
コーナすくい面11iは、コーナ切刃14cと接続される。コーナすくい面11iは、コーナ切刃14cのインサート径方向の内側に配置される。コーナすくい面11iは、コーナ切刃14cからインサート径方向の内側へ向かうに従い、インサート軸方向の裏面側へ向かう傾斜面状である。すなわち、コーナすくい面11iは、インサート中心軸Aと垂直な仮想平面に対して、ポジティブ角側に傾斜する。本実施形態ではコーナすくい面11iが、凹曲面状である。コーナすくい面11iのインサート周方向の一方側C1の端部は、第1すくい面11gのインサート周方向の他方側C2の端部と接続される。コーナすくい面11iのインサート周方向の他方側C2の端部は、第2すくい面11hのインサート周方向の一方側C1の端部と接続される。
【0056】
着座面11jは、第1すくい面11g、第2すくい面11hおよびコーナすくい面11iよりもインサート径方向の内側に配置される。着座面11jは、インサート中心軸Aと垂直な方向に拡がる平面状である。
図1図3および図4に示すように、着座面11jは、第1切刃14aおよび第1すくい面11gよりもインサート軸方向に出っ張る。すなわち、多角形面11の着座面11jは、第1切刃14aおよび第1すくい面11gよりも、インサート軸方向の表面側に位置する。
【0057】
着座面11jは、第2切刃14bおよび第2すくい面11hよりもインサート軸方向に出っ張る。すなわち、多角形面11の着座面11jは、第2切刃14bおよび第2すくい面11hよりも、インサート軸方向の表面側に位置する。
着座面11jは、コーナ切刃14cおよびコーナすくい面11iよりもインサート軸方向に出っ張る。すなわち、多角形面11の着座面11jは、コーナ切刃14cおよびコーナすくい面11iよりも、インサート軸方向の表面側に位置する。
【0058】
段部11kは、インサート径方向において、第1すくい面11g、第2すくい面11hおよびコーナすくい面11iと、着座面11jと、の間に配置される。段部11kは、インサート中心軸Aに対して傾斜する傾斜面状であり、インサート径方向の内側へ向かうに従いインサート軸方向の表面側に位置する。段部11kは、インサート径方向の外側を向く傾斜面である。図2に示すようにインサート軸方向から見て、段部11kは、切刃14に沿って略L字状に延びる。
【0059】
〔外周面〕
図1図3および図4に示すように、外周面13は、インサート径方向の外側を向き、インサート周方向に延びる。外周面13は、インサート中心軸Aを中心とする環状である。
外周面13は、第1逃げ面13aと、第2逃げ面13bと、コーナ逃げ面13cと、第1拘束面13dと、第2拘束面13eと、を有する。ワイパーインサート1が表裏反転対称形状であるため、第1逃げ面13a、第2逃げ面13b、コーナ逃げ面13c、第1拘束面13dおよび第2拘束面13eは、外周面13に一対ずつ(つまり各2つ)設けられる。
【0060】
第1逃げ面13aは、第1切刃14aと接続される。第1逃げ面13aは、第1切刃14aのインサート軸方向の裏面側に配置される。第1逃げ面13aは、インサート中心軸Aと平行な略平面状である。具体的に本実施形態では、第1逃げ面13aが、インサート中心軸Aと平行で、インサート径方向の外側に向けて僅かに凸となる円筒面状である。第1逃げ面13aは、インサート軸方向において、第1切刃14aと、他方の多角形面12の1つの辺部(一方の多角形面11の辺部11fに相当する辺部)との間にわたって配置され、つまり外周面13のインサート軸方向の全長にわたって配置される。
【0061】
第2逃げ面13bは、第2切刃14bと接続される。第2逃げ面13bは、第2切刃14bのインサート軸方向の裏面側に配置される。第2逃げ面13bは、インサート中心軸Aに対して傾斜する傾斜面状であり、インサート軸方向において第2切刃14bから離れるに従いインサート径方向の外側に位置する。第2逃げ面13bは、外周面13のうちインサート軸方向の表面側部分に配置される。具体的に、第2逃げ面13bは、第2切刃14bからインサート軸方向の裏面側へ向けて、例えば外周面13のインサート軸方向の全長の1/3~1/2の範囲にわたって配置される。
【0062】
コーナ逃げ面13cは、コーナ切刃14cと接続される。コーナ逃げ面13cは、コーナ切刃14cのインサート軸方向の裏面側に配置される。コーナ逃げ面13cは、インサート中心軸Aと平行な平面状である。コーナ逃げ面13cは、インサート軸方向において、コーナ切刃14cと、他方の多角形面12の1つの接続辺部(一方の多角形面11の接続辺部11pに相当する接続辺部)との間にわたって配置され、つまり外周面13のインサート軸方向の全長にわたって配置される。コーナ逃げ面13cは、インサート周方向において、第1逃げ面13aと、第2逃げ面13bおよび第1拘束面13dと、の間に位置する。
【0063】
第1拘束面13dは、インサート軸方向において第2逃げ面13bの第2切刃14bとは反対側、つまり第2逃げ面13bのインサート軸方向の裏面側に位置する。第1拘束面13dは、第2逃げ面13bと繋がり、インサート中心軸Aと平行な平面状である。第1拘束面13dは、インサート軸方向において、第2逃げ面13bと、他方の多角形面12の1つの辺部(一方の多角形面11の辺部11eに相当する辺部)との間に配置される。第1拘束面13dは、外周面13のうちインサート軸方向の裏面側部分に配置される。具体的に、第1拘束面13dは、他方の多角形面12の前記1つの辺部からインサート軸方向の表面側へ向けて、例えば外周面13のインサート軸方向の全長の1/2~2/3の範囲にわたって配置される。
【0064】
図2および図4に示すように、第1拘束面13dは、第2切刃14bよりもインサート径方向の外側に配置される。言い換えると、第2切刃14bは、第1拘束面13dよりもインサート径方向の内側に逃げて配置される。
図2に示すように、第1拘束面13dは、インサート周方向において、所定の第1コーナ部16Aと、所定の第1コーナ部16Aのインサート周方向の他方側C2に隣り合う第2コーナ部17と、の間に位置する。
【0065】
図1および図3に示すように、第2拘束面13eは、インサート周方向において第1拘束面13dとは異なる位置に配置される。第2拘束面13eは、第2逃げ面13bおよび第1拘束面13dのインサート周方向の他方側C2に隣り合って配置される。第2拘束面13eは、インサート中心軸Aと平行な平面状である。第2拘束面13eは、インサート軸方向において、一方の多角形面11の1つの辺部11cと、他方の多角形面12の1つの辺部(一方の多角形面11の辺部11dに相当する辺部)との間にわたって配置され、つまり外周面13のインサート軸方向の全長にわたって配置される。
図2に示すように、第2拘束面13eは、インサート周方向において、第1コーナ部16Bと、この第1コーナ部16Bのインサート周方向の一方側C1に隣り合う第2コーナ部17と、の間に位置する。
【0066】
図2および図3に示すように、外周面13のうち、第1コーナ部16Bの接続辺部11nと接続される部分13f、つまり外周面13のうち接続辺部11nのインサート軸方向の裏面側に位置する部分13fは、インサート中心軸Aと平行な平面状である。このため部分13fは、平面部13fと言い換えてもよい。外周面13の部分13fは、インサート軸方向において、接続辺部11nと、他方の多角形面12の1つの接続辺部(多角形面11の接続辺部11nに相当する接続辺部)との間に配置され、つまり外周面13のインサート軸方向の全長にわたって配置される。外周面13の部分13fは、インサート周方向において、一対の第2拘束面13e,13e間に位置する。
【0067】
図1から図4に示すように、外周面13のうち、第2コーナ部17Aの接続辺部11qと接続される部分13g、つまり外周面13のうち接続辺部11qのインサート軸方向の裏面側に位置する部分13gは、インサート中心軸Aと平行な平面状である。このため部分13gは、平面部13gと言い換えてもよい。外周面13の部分13gは、インサート軸方向において、接続辺部11qと、他方の多角形面12の1つの接続辺部(多角形面11の接続辺部11qに相当する接続辺部)との間に配置され、つまり外周面13のインサート軸方向の全長にわたって配置される。外周面13の部分13gは、インサート周方向において、一対の第1逃げ面13a,13a間に位置する。
【0068】
〔貫通孔〕
図1および図2に示すように、貫通孔15は、ワイパーインサート1をインサート軸方向に貫通する。貫通孔15は、ワイパーインサート1の内部をインサート軸方向に延び、多角形面11,12の各中央部に開口する。貫通孔15は、インサート中心軸Aを中心とする多段円孔状である。貫通孔15の内径は、インサート軸方向の各位置において互いに異なる。具体的に、貫通孔15のインサート軸方向の両端部つまり一対の開口部の内径は、貫通孔15のインサート軸方向の中央部の内径よりも大きい。
【0069】
そして、本実施形態のワイパーインサート1は、図2に示すようにインサート軸方向から見て、所定の第1コーナ部16Aのインサート周方向の一方側C1に隣り合う第2コーナ部17Aと、インサート中心軸Aと、所定の第1コーナ部16Aとは別の第1コーナ部16Bと、を通る回転中心軸Bを中心として、インサート形状が180°回転対称である。つまりワイパーインサート1は、回転中心軸Bを中心とする表裏反転対称形状である。なお回転中心軸Bは、回転対称軸と言い換えてもよい。インサート軸方向から見て、回転中心軸Bは、切刃14が位置する所定の第1コーナ部16Aを通らない。
【0070】
回転中心軸Bは、インサート中心軸Aと直交する。つまり回転中心軸Bは、インサート径方向に延びる。図1に示すように、回転中心軸Bは、外周面13のうちインサート軸方向の中央部を通る。具体的に、回転中心軸Bは、外周面13の平面部13f,13gのインサート軸方向の各中央部を通る。
【0071】
〔荒加工用インサート〕
次に、図9および図10を参照し、荒加工用インサート3について説明する。荒加工用インサート3は、例えば超硬合金製である。荒加工用インサート3は、表裏反転対称形状である。つまり荒加工用インサート3は、両面タイプの切削インサートである。
本実施形態の荒加工用インサート3としては、例えば、先行技術文献に挙げた特許文献3(特開2020-32499号公報)に記載の切削インサートを用いることができる。このため以下の説明では、荒加工用インサート3の基本構成についてのみ説明し、詳細な説明については省略する。
【0072】
図9および図10に示すように、荒加工用インサート3は、略トリゴン型の六角形板状である。荒加工用インサート3は、インサート軸方向において互いに反対側を向く一対の多角形面31,32と、一対の多角形面31,32と接続される外周面33と、多角形面31,32と外周面33とが接続される稜線部に配置される切刃34と、一対の多角形面31,32に開口する貫通孔35と、を備える。
【0073】
荒加工用インサート3が表裏反転対称形状であるため、一対の多角形面31,32は、互いに同一の構成を有する。このためここでは、一方の多角形面31について説明し、他方の多角形面32の説明は省略する。
多角形面31は、着座面31aを有する。着座面31aは、インサート中心軸(図示省略)と垂直な方向に拡がる平面状である。切刃34は、多角形面31の外周縁に配置される。切刃34は、主切刃34aと、副切刃34bと、コーナ刃34cと、を有する。
【0074】
外周面33は、複数の拘束面33aを有する。拘束面33aは、外周面33にインサート周方向に並んで6つ設けられる。各拘束面33aはそれぞれ、インサート中心軸と平行な平面状である。
【0075】
〔工具本体〕
次に、図5から図8を参照し、工具本体2について説明する。工具本体2は、例えば鋼製等の金属製である。工具本体2は、柱状または筒状である。図5に示すように、本実施形態では工具本体2が、円柱状または円筒状である。なお工具本体2は、円盤状等であってもよい。工具本体2の工具軸方向の先端部の外径は、後端部の外径よりも大きい。すなわち、工具本体2は、第1の端部(主軸装着部)の外径よりも、第2の端部(刃部)の外径が大きい。
工具本体2は、インサート取付座21と、チップポケット22と、クーラント孔23と、を有する。
【0076】
〔インサート取付座〕
インサート取付座21は、工具本体2の工具軸方向の先端部に配置される。インサート取付座21は、工具本体2の先端面および外周面から窪む凹状である。インサート取付座21は、工具本体2に複数設けられる。複数のインサート取付座21は、工具周方向に互いに間隔をあけて配置される。本実施形態ではインサート取付座21が、工具周方向に不等ピッチで5つ設けられる。各インサート取付座21には、ワイパーインサート1および荒加工用インサート3のいずれかが取り付けられる。
複数のインサート取付座21は、互いに同一形状である。このため、ワイパーインサート1および荒加工用インサート3は、任意のインサート取付座21に取り付け可能である。
【0077】
図8に示すように、インサート取付座21は、底面21aと、雌ネジ穴21bと、第1支持面21cと、第2支持面21dと、を有する。
底面21aは、工具回転方向Tを向く平面状である。本実施形態では底面21aが、円形リング状の平面である。図7に示すように、底面21aは、工具中心軸Oに対して傾斜する。具体的に、底面21aは、工具軸方向の後端側へ向かうに従い工具回転方向Tに位置する傾斜面である。つまり底面21aは、軸方向すくい角(アキシャルレーキ)がネガティブ角(負角)とされたネガティブ傾斜面である。
【0078】
図8に示すように、雌ネジ穴21bは、底面21aの内部(中央部)に開口する。雌ネジ穴21bは、底面21aが拡がる方向と略垂直な方向に延びる穴である。本実施形態では雌ネジ穴21bが、有底の止め穴である。なお雌ネジ穴21bは、貫通孔であってもよい。雌ネジ穴21bは、その内周面に雌ネジ部を有する。
【0079】
第1支持面21cは、底面21aよりも工具回転方向Tに配置される。第1支持面21cは、工具径方向の外側を向く平面状である。本実施形態では第1支持面21cが、四角形状の平面である。第1支持面21cは、工具中心軸Oに対して傾斜する。具体的に、第1支持面21cは、工具軸方向の後端側へ向かうに従い工具径方向の外側に位置する傾斜面である。
【0080】
第2支持面21dは、底面21aよりも工具回転方向Tに配置される。第2支持面21dは、第1支持面21cよりも工具軸方向の後端側に配置される。第2支持面21dは、インサート取付座21に一対設けられる。一対の第2支持面21dは、工具径方向に並んで配置される。各第2支持面21dは、平面状である。本実施形態では各第2支持面21dが、四角形状の平面である。
【0081】
一対の第2支持面21dのうち、工具径方向の外側に位置する一方の第2支持面21dは、工具径方向の内側を向く。一方の第2支持面21dは、工具中心軸Oに対して傾斜する。具体的に、一方の第2支持面21dは、工具軸方向の後端側へ向かうに従い工具径方向の内側に位置する傾斜面である。
【0082】
一対の第2支持面21dのうち、工具径方向の内側に位置する他方の第2支持面21dは、工具径方向の外側を向く。他方の第2支持面21dは、工具中心軸Oに対して傾斜する。具体的に、他方の第2支持面21dは、工具軸方向の後端側へ向かうに従い工具径方向の外側に位置する傾斜面である。他方の第2支持面21dが工具軸方向の単位長さあたりに工具径方向に変位する変位量、つまり他方の第2支持面21dの工具中心軸Oに対する傾斜角は、第1支持面21cの工具中心軸Oに対する傾斜角よりも大きい。
【0083】
〔インサート取付座への各切削インサートの装着〕
図5から図7に示すように、ワイパーインサート1は、複数のインサート取付座21の少なくとも1つに配置される。本実施形態ではワイパーインサート1が、刃先交換式フライスカッタ10に1つ設けられる。ワイパーインサート1の貫通孔15に挿入されたネジ部材4が、雌ネジ穴21bに螺着されることにより、ワイパーインサート1はインサート取付座21に固定される。つまりワイパーインサート1は、インサート取付座21に着脱可能に装着される。
【0084】
インサート取付座21に配置されたワイパーインサート1の一対の多角形面11,12のうちいずれか一方(図示の例では多角形面11)は、工具回転方向Tを向き、他方(図示の例では多角形面12)は、反工具回転方向を向く。反工具回転方向を向く多角形面12の着座面(多角形面11の着座面11jに相当)は、底面21aと接触する。
【0085】
特に図示しないが、インサート取付座21に配置されたワイパーインサート1のインサート中心軸Aは、工具回転方向Tへ向かうに従い工具軸方向の先端側に位置する。また、インサート取付座21に配置されたワイパーインサート1の回転中心軸Bは、工具軸方向の先端側へ向かうに従い反工具回転方向に位置する。つまり回転中心軸Bは、工具中心軸Oに対して、ネガティブ角(負角)側に傾斜する(図7参照)。
【0086】
図5に示すように、インサート取付座21に配置されたワイパーインサート1の一対の第1拘束面13dのうち、工具径方向の内側を向く一方の第1拘束面13dは、第1支持面21cと接触する。
【0087】
インサート取付座21に配置されたワイパーインサート1の一対の第2拘束面13eのうち、工具径方向の外側に位置して工具径方向の外側を向く一方の第2拘束面13eは、一対の第2支持面21dのうち工具径方向の内側を向く一方の第2支持面21dと接触する。
インサート取付座21に配置されたワイパーインサート1の一対の第2拘束面13eのうち、工具径方向の内側に位置して工具径方向の内側を向く他方の第2拘束面13eは、一対の第2支持面21dのうち工具径方向の外側を向く他方の第2支持面21dと接触する。なお、他方の第2拘束面13eと他方の第2支持面21dとは、互いに接触しない構成としてもよい。
【0088】
図6および図7に示すように、インサート取付座21に配置されたワイパーインサート1の第1切刃(ワイパー刃)14aは、工具本体2から工具軸方向の先端側に出っ張る。つまり第1切刃14aは、工具本体2の先端面よりも工具軸方向の先端側に突出して配置される。第1切刃14aは、工具径方向に延びる。
また、インサート取付座21に装着されたワイパーインサート1は、第1切刃14aの軸方向すくい角(アキシャルレーキ)がポジティブ角(正角)である。すなわち、工具中心軸Oを含み第1切刃14a上の一部を通る図示しない仮想平面である「基準面」に対して、第1切刃14aの第1すくい面11gは、ポジティブ角側に傾斜する。具体的に、第1すくい面11gは、第1切刃14aから工具軸方向の後端側へ向かうに従い反工具回転方向に位置するポジティブ傾斜面である。
【0089】
インサート取付座21に配置されたワイパーインサート1の第2切刃14bは、工具本体2から工具径方向の外側に出っ張る。つまり第2切刃14bは、工具本体2の外周面よりも工具径方向の外側に突出して配置される。第2切刃14bは、工具軸方向に延びる。
【0090】
インサート取付座21に配置されたワイパーインサート1のコーナ切刃14cは、工具本体2から工具軸方向の先端側かつ工具径方向の外側に出っ張る。コーナ切刃14cは、工具径方向の外側へ向かうに従い工具軸方向の後端側へ向けて延びる。
【0091】
荒加工用インサート3は、ワイパーインサート1が配置されるインサート取付座21とは異なるインサート取付座21に配置される。荒加工用インサート3は、複数のインサート取付座21の少なくとも2つ以上に配置される。つまり荒加工用インサート3は、刃先交換式フライスカッタ10に複数設けられる。
図9および図10に示すように、荒加工用インサート3の貫通孔35に挿入されたネジ部材4が、雌ネジ穴21bに螺着されることにより、荒加工用インサート3はインサート取付座21に固定される。つまり荒加工用インサート3は、インサート取付座21に着脱可能に装着される。
【0092】
インサート取付座21に配置された荒加工用インサート3の一対の多角形面31,32のうちいずれか一方(図示の例では多角形面31)は、工具回転方向Tを向き、他方(図示の例では多角形面32)は、反工具回転方向を向く。反工具回転方向を向く多角形面32の着座面(多角形面31の着座面31aに相当)は、底面21aと接触する。
【0093】
特に図示しないが、インサート取付座21に配置された荒加工用インサート3のインサート中心軸は、工具回転方向Tへ向かうに従い工具軸方向の先端側に位置する。すなわちワイパーインサート1と同様に、荒加工用インサート3のインサート中心軸は、工具中心軸Oと垂直な仮想平面に対して、ネガティブ角(負角)側に傾斜する。
【0094】
インサート取付座21に配置された荒加工用インサート3の6つの拘束面33aのうち、工具径方向の内側を向く1つの拘束面33aは、第1支持面21cと接触する。
【0095】
インサート取付座21に配置された荒加工用インサート3の6つの拘束面33aのうち、工具径方向の外側を向く別の1つの拘束面33aは、一対の第2支持面21dのうち工具径方向の内側を向く一方の第2支持面21dと接触する。
インサート取付座21に配置された荒加工用インサート3の6つの拘束面33aのうち、工具径方向の内側を向く他の別の1つの拘束面33aは、一対の第2支持面21dのうち工具径方向の外側を向く他方の第2支持面21dと接触する。なお、この拘束面33aと他方の第2支持面21dとは、互いに接触しない構成としてもよい。
【0096】
インサート取付座21に配置された荒加工用インサート3の主切刃34aは、工具本体2から工具径方向の外側に出っ張る。つまり主切刃34aは、工具本体2の外周面よりも工具径方向の外側に突出して配置される。主切刃34aは、工具軸方向に延びる。
【0097】
特に図示しないが、主切刃34aの工具中心軸O回りの回転軌跡は、ワイパーインサート1の第2切刃14bの工具中心軸O回りの回転軌跡よりも、工具径方向の外側に位置する。つまり、主切刃34aは、第2切刃14bよりも工具径方向の外側に配置される。言い換えると、第2切刃14bは、主切刃34aよりも工具径方向の内側に配置される。主切刃34aの工具中心軸O回りの回転軌跡と、第2切刃14bの工具中心軸O回りの回転軌跡との工具径方向の距離、つまり各回転軌跡の半径差は、例えば0.4mm以下である。
またワイパーインサート1の第2逃げ面13bおよび第1拘束面13dの工具中心軸O回りの各回転軌跡は、荒加工用インサート3の主切刃34aの工具中心軸O回りの回転軌跡よりも、工具径方向の内側に位置する。
【0098】
インサート取付座21に配置された荒加工用インサート3の副切刃34bは、工具本体2から工具軸方向の先端側に出っ張る。つまり副切刃34bは、工具本体2の先端面よりも工具軸方向の先端側に突出して配置される。副切刃34bは、工具径方向に延びる。
【0099】
特に図示しないが、副切刃34bの工具中心軸O回りの回転軌跡は、ワイパーインサート1の第1切刃14aの工具中心軸O回りの回転軌跡よりも、工具軸方向の後端側に位置する。つまり、副切刃34bは、第1切刃14aよりも工具軸方向の後端側に配置される。言い換えると、第1切刃14aは、副切刃34bよりも工具軸方向の先端側に配置される。
【0100】
インサート取付座21に配置された荒加工用インサート3のコーナ刃34cは、工具本体2から工具軸方向の先端側かつ工具径方向の外側に出っ張る。コーナ刃34cは、工具径方向の外側へ向かうに従い工具軸方向の後端側へ向けて延びる。
【0101】
〔チップポケット〕
図5から図10に示すように、チップポケット22は、工具本体2の工具軸方向の先端部に配置される。チップポケット22は、工具本体2の先端面および外周面から窪む凹状である。チップポケット22は、工具本体2に複数設けられる。複数のチップポケット22は、工具周方向に互いに間隔をあけて配置される。本実施形態ではチップポケット22が、工具周方向に不等ピッチで5つ設けられる。各チップポケット22は、各インサート取付座21の工具回転方向Tに隣り合って配置され、各インサート取付座21と接続される。
【0102】
チップポケット22が工具本体2の先端面から工具軸方向の後端側に向けて窪む長さ、つまり工具軸方向の深さは、インサート取付座21が工具本体2の先端面から工具軸方向の後端側に向けて窪む長さよりも大きい。チップポケット22が工具本体2の外周面から工具径方向の内側に向けて窪む長さ、つまり工具径方向の深さは、インサート取付座21が工具本体2の外周面から工具径方向の内側に向けて窪む長さよりも大きい。
【0103】
〔クーラント孔〕
クーラント孔23は、工具本体2の内部を延びる。クーラント孔23は、工具本体2に複数設けられる。複数のクーラント孔23は、工具周方向に互いに間隔をあけて配置される。クーラント孔23の数は、インサート取付座21の数と同じかまたはその倍数である。各クーラント孔23は、工具本体2を貫通する。特に図示しないが、クーラント孔23は、工作機械の主軸内流路および配管等を通して、ポンプ等のクーラント供給手段と接続される。クーラント孔23には、クーラント供給手段から切削液や圧縮エア等のクーラントが供給される。
【0104】
クーラント孔23の少なくとも噴出口を含む部分は、工具径方向の外側へ向かうに従い反工具回転方向に位置する。クーラント孔23の少なくとも噴出口を含む部分は、工具径方向の外側へ向かうに従い工具軸方向の先端側に位置する。クーラント孔23の工具径方向の外側の端部つまり噴出口は、チップポケット22に開口する。クーラント孔23は、インサート取付座21に装着された各切削インサート1,3の切刃14,34および被削材の加工部位等に向けて、クーラントを噴出する。
【0105】
〔本実施形態による作用効果〕
本実施形態の刃先交換式フライスカッタ10は、互いに同一形状とされた複数のインサート取付座21に、荒加工用(標準加工用)インサート3およびワイパーインサート1の2種類の切削インサートが、任意に装着可能である。
【0106】
本実施形態のワイパーインサート1によれば、第2切刃14bが第1拘束面13dよりもインサート径方向の内側に配置されるため、第2切刃14bが被削材に接触することが抑制される。具体的に、本実施形態の刃先交換式フライスカッタ10において、ワイパーインサート1の第2切刃14bは、荒加工用インサート3の主切刃34aの工具中心軸O回りの回転軌跡よりも、工具径方向の内側に逃がして配置される。このため、ワイパーインサート1は主に第1切刃(ワイパー刃)14aのみで被削材に切り込むことになり、仕上げ加工の精度が安定して高められる。
【0107】
そして、このワイパーインサート1をインサート取付座21に回転中心軸Bを中心に表裏反転(180°回転)させて取り付けたときに、第1拘束面13dがインサート取付座21の第1支持面21cと接触する。このため、一対の多角形面11,12のうちいずれの多角形面の第1切刃14aを使用する場合でも、ワイパーインサート1をインサート取付座21に安定して固定できる。つまりワイパーインサート1を両面タイプとすることが可能であり、工具寿命を延長できる。
【0108】
以上より、本実施形態のワイパーインサート1によれば、互いに同一形状の複数のインサート取付座21に任意に装着可能であり、ワイパー刃14a以外の切刃と被削材との接触を抑えつつワイパー刃14aで仕上げ加工でき、かつ表裏反転対称形状として、加工精度を高めつつ工具寿命を延長できる。
また、本実施形態の刃先交換式フライスカッタ10は、上記ワイパーインサート1を備えるため、複数のインサート取付座21へのインサート配置の自由度が増し、加工精度を高めつつ工具寿命を延長できる。
【0109】
また本実施形態では、第2逃げ面13bが、インサート中心軸Aに対して傾斜する傾斜面状であり、第1拘束面13dが、第2逃げ面13bとインサート軸方向に接続され、インサート中心軸Aと平行な平面状である。
この場合、上述のように第2切刃14bを逃がしつつも、第2逃げ面13bおよび第1拘束面13dの構成を簡素化できる。シンプルな第1拘束面13dによってインサート取付座21へのワイパーインサート1の着座安定性が高められ、かつインサート製造も容易となる。
【0110】
また本実施形態では、第1すくい面11gが、第1切刃14aからインサート径方向の内側へ向かうに従い、インサート軸方向の裏面側へ向かう傾斜面状であり、着座面11jが、第1切刃14aおよび第1すくい面11gよりもインサート軸方向の表面側に出っ張って配置される。
この場合、第1すくい面11gがポジティブ角(正角)側に傾斜するので、第1切刃14aの切れ味が安定して高められる。また、第1すくい面11gと着座面11jとの間の段差(段部11k)に、第1切刃14aから生成される切屑が当たって分断されやすくなるため、切屑処理性が向上する。また、第1切刃14aおよび第1すくい面11gがインサート軸方向において着座面11jよりも出っ張らないので、このワイパーインサート1を表裏反転させてインサート取付座21に取り付ける際に、第1切刃14aや第1すくい面11gがインサート取付座21に干渉することを抑制できる。
【0111】
また本実施形態では、着座面11jが、第2切刃14bおよび第2すくい面11hよりもインサート軸方向の表面側に出っ張って配置される。
この場合、第2切刃14bおよび第2すくい面11hがインサート軸方向において着座面11jよりも出っ張らないので、このワイパーインサート1を表裏反転させてインサート取付座21に取り付ける際に、第2切刃14bや第2すくい面11hがインサート取付座21に干渉することを抑制できる。
【0112】
また本実施形態では、着座面11jが、コーナ切刃14cおよびコーナすくい面11iよりもインサート軸方向の表面側に出っ張って配置される。
この場合、コーナ切刃14cおよびコーナすくい面11iがインサート軸方向において着座面11jよりも出っ張らないので、このワイパーインサート1を表裏反転させてインサート取付座21に取り付ける際に、コーナ切刃14cやコーナすくい面11iがインサート取付座21に干渉することを抑制できる。
【0113】
また本実施形態では、切刃14が、第1切刃14aと第2切刃14bとを繋ぐコーナ切刃14cを有し、図2に示すようにインサート軸方向から見て、第1切刃14aとコーナ切刃14cとの間の挟角、および、第2切刃14bとコーナ切刃14cとの間の挟角が、それぞれ鈍角である。
本実施形態とは異なり、例えば第1切刃14aと第2切刃14bとが直接接続される構成と比べて、本実施形態の上記構成によれば、切刃14の強度が高められ、刃先欠損等が抑制される。
【0114】
また本実施形態では、図2に示すようにインサート軸方向から見て、第1切刃14aが、インサート径方向の外側に膨らむ凸曲線状である。
この場合、例えば、ワイパーインサート1が装着される工具本体2の工具中心軸Oが、切削加工時の切削抵抗等により被削材に対して僅かに傾いた場合でも、第1切刃14aによる加工面精度が安定して確保される。
【0115】
また本実施形態では、図1等に示すように、ワイパーインサート1の外周面13が、第1拘束面13dおよび第2拘束面13eを有する。また図5から図8に示すように、インサート取付座21は、多角形面11,12の着座面11jと接触する底面21aと、第1拘束面13dと接触する第1支持面21cと、第2拘束面13eと接触する第2支持面21dと、を有する。
この場合、インサート取付座21に対して、ワイパーインサート1は第1拘束面13dおよび第2拘束面13eによって、インサート径方向およびインサート周方向において拘束される。インサート取付座21へのワイパーインサート1の着座安定性がより向上する。
【0116】
〔本発明に含まれるその他の構成〕
なお、本発明は前述の実施形態に限定されず、例えば下記に説明するように、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において構成の変更等が可能である。
【0117】
前述の実施形態では、図2に示すようにインサート軸方向から一方の多角形面11を正面に見て、インサート中心軸Aを中心とする時計回りがインサート周方向の一方側C1に相当し、反時計回りがインサート周方向の他方側C2に相当する例を挙げたが、これに限らない。すなわち、インサート軸方向から一方の多角形面11を正面に見て、インサート中心軸Aを中心とする反時計回りがインサート周方向の一方側C1に相当し、時計回りがインサート周方向の他方側C2に相当することとしてもよい。すなわち、本発明は、前述の実施形態とは勝手の異なるワイパーインサートおよび刃先交換式フライスカッタにも適用可能である。
【0118】
前述の実施形態では、ワイパーインサート1の一対の多角形面11,12が、各多角形面11,12の外周縁に複数の接続辺部11m,11n,11p,11qを有する例を挙げたが、これに限らない。複数の接続辺部11m,11n,11p,11qのうち少なくとも1つ以上が設けられなくてもよい。
【0119】
本発明は、本発明の趣旨から逸脱しない範囲において、前述の実施形態および変形例等で説明した各構成を組み合わせてもよく、また、構成の付加、省略、置換、その他の変更が可能である。また本発明は、前述した実施形態等によって限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明のワイパーインサートによれば、互いに同一形状の複数のインサート取付座に任意に装着可能であり、ワイパー刃以外の切刃と被削材との接触を抑えつつワイパー刃で仕上げ加工でき、かつ表裏反転対称形状として、加工精度を高めつつ工具寿命を延長できる。また、本発明の刃先交換式フライスカッタは、上記ワイパーインサートを備えるため、複数のインサート取付座へのインサート配置の自由度が増し、加工精度を高めつつ工具寿命を延長できる。したがって、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0121】
1…ワイパーインサート
2…工具本体
3…荒加工用(標準加工用)インサート
10…刃先交換式フライスカッタ
11,12…多角形面
11a,11b,11c,11d,11e,11f…辺部
11g…第1すくい面
11h…第2すくい面
11j…着座面
13…外周面
13a…第1逃げ面
13b…第2逃げ面
13d…第1拘束面
13e…第2拘束面
14(14A,14B)…切刃
14a…第1切刃
14b…第2切刃
14c…コーナ切刃
16(16A,16B,16C)…第1コーナ部
16A…所定の第1コーナ部
17(17A)…第2コーナ部
21…インサート取付座
21a…底面
21c…第1支持面
21d…第2支持面
34a…主切刃
34b…副切刃
A…インサート中心軸
B…回転中心軸
C1…インサート周方向の一方側
C2…インサート周方向の他方側
O…工具中心軸
θ1…第1挟角
θ2…第2挟角
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10