(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】ヤゲン形成データ設定装置、眼鏡レンズ加工装置並びにヤゲン形成データ設定プログラム
(51)【国際特許分類】
B24B 9/14 20060101AFI20240925BHJP
G02C 13/00 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
B24B9/14 A
G02C13/00
(21)【出願番号】P 2020153363
(22)【出願日】2020-09-11
【審査請求日】2023-07-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000135184
【氏名又は名称】株式会社ニデック
(72)【発明者】
【氏名】内門 裕紀
(72)【発明者】
【氏名】武市 教児
(72)【発明者】
【氏名】山本 忠正
(72)【発明者】
【氏名】大石 光一
【審査官】須中 栄治
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-064865(JP,A)
【文献】特開平11-048113(JP,A)
【文献】特開2009-241240(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0125013(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B1/00-1/04
B24B9/00-19/28
G02C1/00-13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼鏡フレームのリムに眼鏡レンズを保持させるためのヤゲンを設定するためのヤゲン形成データ設定装置であって、
眼鏡レンズの周縁に形成するヤゲンの
前ヤゲンの高さ、後ヤゲンの高さ及びヤゲン頂点幅を含むヤゲン情報
を複数個設定可能なヤゲン情報設定手段であって、前記前ヤゲンの高さ
の値と、
前記後ヤゲンの高さ
の値と、
前記ヤゲン頂点幅
の値と、の少なくとも1つ
について、その値が前記ヤゲン情報の前記複数個の間で異なる値に設定可能に構成されたヤゲン情報設定手段と、
前記ヤゲン情報設定手段によって設定された複数個の前記ヤゲン情報の中から1つを選択するためのヤゲン情報選択手段と、
前記ヤゲン情報選択手段で選択された前記ヤゲン情報を出力する出力手段と、
を備えることを特徴とするヤゲン形成データ設定装置。
【請求項2】
請求項1のヤゲン形成データ設定装置において、
前記ヤゲン情報選択手段は、前記ヤゲン情報を選択するための表示手段を備え、
前記表示手段は、前記ヤゲン情報設定手段によって設定された前記ヤゲン情報毎にヤゲン形状を模したヤゲン形状図形を表示すると共に、各ヤゲン形状図形には前ヤゲンの高さと、後ヤゲンの高さと、ヤゲン頂点幅と、の各値の少なくとも何れかを付して表示することを特徴とするヤゲン形成データ設定装置。
【請求項3】
請求項2のヤゲン形成データ設定装置において、
前記表示手段が表示する前記ヤゲン形状図形は、前記ヤゲン情報毎に前ヤゲンの高さと、後ヤゲンの高さと、ヤゲン頂点幅と、に対応した形状の図形を含むことを特徴とするヤゲン形成データ設定装置。
【請求項4】
請求項1のヤゲン形成データ設定装置において、
眼鏡レンズに形成するヤゲンの種類を選択するヤゲン種類選択手段であって、高カーブレンズに対する高カーブヤゲン及び低カーブレンズに対する低カーブヤゲンを少なくとも含むヤゲンの種類を選択するヤゲン種類選択手段を備え、
前記ヤゲン情報設定手段は、高カーブヤゲン及び低カーブヤゲンに関する前記ヤゲン情報をそれぞれ複数個設定可能な手段であり、
前記ヤゲン情報選択手段は、前記ヤゲン種類選択手段によって選択可能なヤゲンの種類毎に前記ヤゲン情報の中から1つを選択可能な手段であることを特徴とするヤゲン形成データ設定装置。
【請求項5】
請求項1~4の何れかのヤゲン加工データ設定装置を具備し、眼鏡フレームのリムに眼鏡レンズを保持させるためのヤゲンを眼鏡レンズの周縁に形成する眼鏡レンズ加工装置であって、
眼鏡レンズを保持するレンズ保持軸と、
眼鏡レンズの前面側に前ヤゲンを形成する前ヤゲン加工具と、眼鏡レンズの後面側に後ヤゲンを形成する後ヤゲン加工具と、を持つヤゲン加工具と、
前記前ヤゲン加工具及び後ヤゲン加工具と前記レンズ保持軸に保持された眼鏡レンズとの相対的に位置関係を変更する移動手段と、
前記出力手段から出力された前記ヤゲン情報に基づき、前記レンズ保持軸に保持されたレンズの周縁にヤゲンを形成するための加工制御データを取得する加工制御データ取得手段と、
取得された前記加工制御データに基づいて前記移動手段を制御し、前記ヤゲン加工具によって眼鏡レンズの周縁にヤゲンを形成する制御手段と、
を備えることを特徴とする眼鏡レンズ加工装置。
【請求項6】
眼鏡レンズに前ヤゲンを形成する前ヤゲン加工具と及び後ヤゲンを形成する後ヤゲン加工具を持つ眼鏡レンズ加工装置によって眼鏡レンズの周縁にヤゲンを形成させるためのヤゲン形成データを設定するヤゲン形成データ設定装置によって実行されるヤゲン形成データ設定プログラムであって、
眼鏡レンズの周縁に形成するヤゲンの
前ヤゲンの高さ、後ヤゲンの高さ及びヤゲン頂点幅を含むヤゲン情報
を複数個設定可能なヤゲン情報設定ステップであって、前記前ヤゲンの高さ
の値と、
前記後ヤゲンの高さ
の値と、
前記ヤゲン頂点幅
の値と、の少なくとも1つ
について、その値が前記ヤゲン情報の前記複数個の間で異なる値に設定可能なヤゲン情報設定ステップと、
前記ヤゲン情報設定ステップによって設定された複数個の前記ヤゲン情報の中から1つを選択可能にするためのヤゲン情報選択ステップと、
前記ヤゲン情報選択ステップで選択された前記ヤゲン情報を出力する出力ステップと、
をヤゲン形成データ設定装置の制御ユニットに実行させることを特徴とするヤゲン形成データ設定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、眼鏡フレームのリムに眼鏡レンズを保持させるためのヤゲンを設定するためのヤゲン形成データ設定装置、ヤゲンを眼鏡レンズの周縁に形成する眼鏡レンズ加工装置、及びヤゲン形成データ設定装置によって実行されるヤゲン形成データ設定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
高カーブフレーム等のリムに眼鏡レンズを保持させるヤゲンの前ヤゲン(ヤゲンの前側の斜面)と後ヤゲン(ヤゲンの後側の斜面)とを別々の加工具によって眼鏡レンズに周縁に形成する眼鏡レンズ加工装置置が知られている(例えば、特許文献1参照)。また、前ヤゲンの高さと後ヤゲンの高さとを個別に設定できるヤゲン形成データ設定装置が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平11-48113号公報
【文献】特開2016-49592号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来装置においては、前ヤゲンの高さ及び後ヤゲンの高さ等のヤゲン形成状態の設定は、それぞれ操作者が数値を入力して設定する方法であった。その設定のためには、操作者は眼鏡レンズが保持される眼鏡フレームのリム溝の詳細な情報を得ておく必要があった。また、ヤゲン形成データの設定のための専門知識も必要であった。そのため、レンズ加工に不慣れな操作者の場合には、ヤゲン形成データの設定が容易でなかった。また、さらに近年では様々な眼鏡フレームが眼鏡フレームメーカから提供されるようになってきており、操作者が眼鏡フレームのタイプに対応するヤゲンの形成データを設定することは容易でなかった。また、前ヤゲンの高さ及び後ヤゲンの高さ等の値をそれぞれ個別に入力すること自体にも手間が掛かっていた。
【0005】
本開示は、ヤゲン形成データの設定をより容易に行えるヤゲン形成データ設定装置、眼鏡レンズ加工装置並びにヤゲン形成データ設定プログラムを提供することを技術課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示は以下のような構成を備えることを特徴とする。
【0007】
(1) 本開示に係るヤゲン形成データ設定装置は、眼鏡フレームのリムに眼鏡レンズを保持させるためのヤゲンを設定するためのヤゲン形成データ設定装置であって、眼鏡レンズの周縁に形成するヤゲンの前ヤゲンの高さ、後ヤゲンの高さ及びヤゲン頂点幅を含むヤゲン情報を複数個設定可能なヤゲン情報設定手段であって、前記前ヤゲンの高さの値と、前記後ヤゲンの高さの値と、前記ヤゲン頂点幅の値と、の少なくとも1つについて、その値が前記ヤゲン情報の前記複数個の間で異なる値に設定可能に構成されたヤゲン情報設定手段と、前記ヤゲン情報設定手段によって設定された複数個の前記ヤゲン情報の中から1つを選択するためのヤゲン情報選択手段と、前記ヤゲン情報選択手段で選択された前記ヤゲン情報を出力する出力手段と、を備えることを特徴とする。
(2) 本開示に係る眼鏡レンズ加工装置は、(1)のヤゲン加工データ設定装置を具備し、眼鏡フレームのリムに眼鏡レンズを保持させるためのヤゲンを眼鏡レンズの周縁に形成する眼鏡レンズ加工装置であって、眼鏡レンズを保持するレンズ保持軸と、眼鏡レンズの前面側に前ヤゲンを形成する前ヤゲン加工具と、眼鏡レンズの後面側に後ヤゲンを形成する後ヤゲン加工具と、を持つヤゲン加工具と、前記前ヤゲン加工具及び後ヤゲン加工具と前記レンズ保持軸に保持された眼鏡レンズとの相対的に位置関係を変更する移動手段と、前記出力手段から出力された前記ヤゲン情報に基づき、前記レンズ保持軸に保持されたレンズの周縁にヤゲンを形成するための加工制御データを取得する加工制御データ取得手段と、取得された前記加工制御データに基づいて前記移動手段を制御し、前記ヤゲン加工具によって眼鏡レンズの周縁にヤゲンを形成する制御手段と、を備えることを特徴とする。
(3) 本開示に係るヤゲン形成データ設定プログラムは、眼鏡レンズに前ヤゲンを形成する前ヤゲン加工具と及び後ヤゲンを形成する後ヤゲン加工具を持つ眼鏡レンズ加工装置によって眼鏡レンズの周縁にヤゲンを形成させるためのヤゲン形成データを設定するヤゲン形成データ設定装置によって実行されるヤゲン形成データ設定プログラムであって、眼鏡レンズの周縁に形成するヤゲンの前ヤゲンの高さ、後ヤゲンの高さ及びヤゲン頂点幅を含むヤゲン情報を複数個設定可能なヤゲン情報設定ステップであって、前記前ヤゲンの高さの値と、前記後ヤゲンの高さの値と、前記ヤゲン頂点幅の値と、の少なくとも1つについて、その値が前記ヤゲン情報の前記複数個の間で異なる値に設定可能なヤゲン情報設定ステップと、前記ヤゲン情報設定ステップによって設定された複数個の前記ヤゲン情報の中から1つを選択可能にするためのヤゲン情報選択ステップと、前記ヤゲン情報選択ステップで選択された前記ヤゲン情報を出力する出力ステップと、をヤゲン形成データ設定装置の制御ユニットに実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、ヤゲン形成データの設定をより容易に行える。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】眼鏡レンズ加工装置が備える加工機構部の構成を説明する図である。
【
図2】加工具回転軸に取り付けられた加工具の例である。
【
図4】レンズ形状測定ユニットの概略構成図である。
【
図5】眼鏡レンズ加工装置に関する制御系ブロック図である。
【
図7】事前に設定されたヤゲン情報を説明する図である。
【
図8】事前に設定された高カーブヤゲン及びカスタムヤゲンのヤゲン情報の例を示す図である。
【
図9】加工条件を設定するときのディスプレイの画面例である。
【
図10】ヤゲンの種類の選択と、高カーブヤゲンにおけるヤゲン情報の選択を説明する図である。
【
図11】ヤゲン情報に対応する異なるタイプの眼鏡フレームの例を説明する図である。
【
図12】カスタムヤゲンにおけるヤゲン情報の選択を説明する図である。
【
図13】強制ヤゲン加工モードにおけるヤゲンのシミュレーション画面の例である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本実施形態を図面に基づいて説明する。
図1~13は本実施形態に係るヤゲン形成データ設定装置、眼鏡レンズ加工装置及びヤゲン形成データ設定プログラムについて説明する図である。
【0011】
〔概要〕
例えば、眼鏡フレームのリムに眼鏡レンズを保持させるためのヤゲンを設定するためのヤゲン形成データ設定装置(例えば、ヤゲン形成データ設定装置55)は、ヤゲン情報設定手段(例えば、データ取得ユニット60、ディスプレイ62)を備える。例えば、ヤゲン情報設定手段は、眼鏡レンズの周縁に形成するヤゲンのヤゲン情報であって、前ヤゲンの高さ、後ヤゲンの高さ及びヤゲン頂点幅の少なくとも1つが異なるヤゲン情報を複数個(2個以上)設定可能に構成されている。例えば、ヤゲン形成データ設定装置は、ヤゲン情報設定手段によって設定された複数個のヤゲン情報の中から1つを選択するためのヤゲン情報選択手段(例えば、ディスプレイ62、選択欄660、選択欄670)を備える。例えば、ヤゲン形成データ設定装置は、ヤゲン情報選択手段で選択されたヤゲン情報を出力する出力手段(例えば、データ取得ユニット60、制御ユニット50)を備える。
【0012】
これにより、レンズ加工に不慣れな操作者であってもヤゲン形成データの設定をより容易に行える。また、操作者は、眼鏡フレームのリム溝の詳細な情報を得ていなくても、より適切なヤゲン形成データを設定できる。また、例えば、ヤゲン情報設定手段によって設定され、ヤゲン情報が眼鏡フレームのタイプに応じて設定されているものであれば、操作者は詳細な眼鏡フレームのリム溝の詳細な情報を得ていなくても、眼鏡フレームのタイプを知ることで、各種の眼鏡フレームに対応するヤゲン形成データを容易に設定できる。例えば、ヤゲン情報選択手段によって選択可能なヤゲン情報の数は3個~5個である。
【0013】
なお、眼鏡レンズ加工装置の制御ユニット(例えば、制御ユニット50)は、出力手段によって出力されたヤゲン情報を受信し、受信したヤゲン情報に基づき眼鏡レンズの周縁にヤゲンを形成するための加工制御データを取得し、取得した加工制御データに基づいて装置の移動手段(例えば、移動ユニット300)の駆動を制御して加工具によって眼鏡レンズの周縁にヤゲンを形成する。
【0014】
例えば、ヤゲン情報設定手段は、設定されたヤゲン情報を記憶する記憶手段(例えば、メモリ70)を備える。例えば、ヤゲン情報選択手段は、記憶手段に記憶された複数個のヤゲン情報の中から1つを選択可能に構成されている。
【0015】
例えば、ヤゲン情報選択手段は、ヤゲン情報を選択するための表示手段(例えば、ディスプレイ62)を備える。例えば、表示手段は、ヤゲン情報設定手段によって設定されたヤゲン情報毎にヤゲン形状を模したヤゲン形状図形(例えば、ヤゲン形状図形671、672及び673)を表示する。また、例えば、表示手段は、各ヤゲン形状図形に前ヤゲンの高さ、後ヤゲンの高さ及びヤゲン頂点幅の各値の少なくとも何れかを付して表示する。これにより、操作者は何れのヤゲン情報を選択してよいかを、視覚的に理解しやすくなる。例えば、表示手段が表示するヤゲン形状図形は、ヤゲン情報毎に前ヤゲンの高さ、後ヤゲンの高さ及びヤゲン頂点幅に対応した形状の図形を含んでいてもよい。
【0016】
また、例えば、表示手段は、ヤゲン情報設定手段によって設定されたヤゲン情報毎にフレームのタイプを表示してもよいし、ヤゲン情報を選択するときの指標を表示してもよい。これらによって、ヤゲン設定に不慣れな操作者であっても、手間なく容易に適切なヤゲン形成データの設定を行える。
【0017】
例えば、表示手段が表示するヤゲン形状図形は、前ヤゲンの高さ、後ヤゲンの高さ及びヤゲン頂点幅の各値の違いに応じて変えられていてもよい。これにより、操作者はヤゲン情報の選択をさらに視覚的にイメージしやすくなり、ヤゲン形成データの設定をより適切に行える。
【0018】
例えば、複数個のヤゲン情報は、代表的な使用頻度の高い異なるタイプの眼鏡フレームのリムに応じて設定されたヤゲン情報であって、眼鏡フレームのリムのタイプに応じて前ヤゲンの高さ、後ヤゲンの高さ及びヤゲン頂点幅の少なくとも1つが異なる値で設定されている。眼鏡フレームのリムに応じたヤゲン情報は、記憶手段に記憶されている。例えば、眼鏡フレームのタイプは高カーブフレームである。例えば、異なるタイプの眼鏡フレームのリムは、リムの材質及びリムのヤゲン溝(ヤゲン溝の形状)の少なくとも1つが異なるタイプである。例えば、代表的な使用頻度の高い眼鏡フレームのタイプの一つは、ヤゲン溝がV字状(山形)のメタル(金属)フレーム(例えば、メタルフレームMVF)である。例えば、代表的な使用頻度の高い眼鏡フレームのタイプの一つは、ヤゲン溝がV字状(山形)のセルフレーム(例えば、セルフレームCVF)である。例えば、代表的な使用頻度の高い眼鏡フレームのタイプの一つは、ヤゲン溝がU字状のセルフレーム(例えば、セルフレームCUF)である。
【0019】
ヤゲン情報設定手段によって選択可能なヤゲン情報が、このような異なるタイプの眼鏡フレームに応じて設定されていることにより、少ない個数(例えば、3個)のヤゲン情報の中から選択する場合であっても、通常使用される眼鏡フレームの多くをカバーした眼鏡レンズのヤゲン加工に対応できる。
【0020】
例えば、ヤゲン形成データ設定装置は、眼鏡レンズに形成するヤゲンの種類を選択するヤゲン種類選択手段(例えば、選択欄651)を備える。例えば、ヤゲン種類選択手段は、高カーブレンズに対する高カーブヤゲン及び低カーブレンズに対する低カーブヤゲンを少なくとも含むヤゲンの種類を選択可能に構成されている。この場合、例えば、ヤゲン情報設定手段は、高カーブヤゲン及び低カーブヤゲンに関するヤゲン情報をそれぞれ複数個設定可能に構成されている。また、例えば、ヤゲン情報選択手段は、ヤゲン種類選択手段によって選択可能なヤゲンの種類毎に、ヤゲン情報の中から1つを選択可能に構成されている。例えば、ヤゲン情報選択手段は、高カーブヤゲンに関するヤゲン情報の中から一つを選択する高カーブヤゲン情報選択手段(例えば、選択欄652c)と、低カーブヤゲン(カスタムヤゲン)に関するヤゲン情報の中から一つを選択する低カーブヤゲン情報選択手段(例えば、選択欄652d)と、を備える。
【0021】
例えば、ヤゲン形成データ設定装置は、ヤゲン情報選択手段によって選択されたヤゲン情報に関し、前ヤゲンの高さ、後ヤゲンの高さ及びヤゲン頂点幅の少なくとも1つを変更するヤゲン情報変更手段(例えば、表示欄683)を備える。例えば、ヤゲン情報変更手段は、強制ヤゲン加工モードで適用される。
【0022】
例えば、本形態に係る眼鏡レンズ加工装置(例えば、眼鏡レンズ加工装置1)は、ヤゲン加工データ設定装置を具備し、眼鏡フレームのリムに眼鏡レンズを保持させるためのヤゲンを眼鏡レンズの周縁に形成するために構成されている。例えば、眼鏡レンズ加工装置は、眼鏡レンズを保持するレンズ保持軸(例えば、レンズチャック軸102)を備える。眼鏡レンズ加工装置は、眼鏡レンズの前面側に前ヤゲンを形成する前ヤゲン加工具(例えば、前ヤゲン加工具162)と、眼鏡レンズの後面側に後ヤゲンを形成する後ヤゲン加工具(例えば、後ヤゲン加工具163)と、を持つヤゲン加工具を備える。例えば、眼鏡レンズ加工装置は、前ヤゲン加工具及び後ヤゲン加工具とレンズ保持軸に保持された眼鏡レンズとの相対的に位置関係を変更する移動手段(例えば、移動ユニット300)を備える。例えば、眼鏡レンズ加工装置は、出力手段から出力されたヤゲン情報に基づき、レンズ保持軸に保持されたレンズの周縁にヤゲンを形成するための加工制御データを取得する加工制御データ取得手段(例えば、制御ユニット50)を備える。例えば、眼鏡レンズ加工装置は、加工制御データに基づいて移動手段を制御し、ヤゲン加工具によって眼鏡レンズの周縁にヤゲンを形成する制御手段(例えば、制御ユニット50)を備える。
【0023】
なお、本開示においては、本実施形態に記載する装置に限定されない。例えば、上記実施形態の機能を行う制御プログラム(ソフトウェア)をネットワーク又は各種記憶媒体等を介して、システムあるいは装置に供給する。そして、システムあるいは装置の制御部(例えば、CPU等)がプログラムを読み出し、実行することも可能である。
【0024】
例えば、ヤゲン形成データ設定プログラムは、眼鏡レンズの周縁に形成するヤゲンのヤゲン情報であって、前ヤゲンの高さ、後ヤゲンの高さ及びヤゲン頂点幅の少なくとも1つが異なるヤゲン情報を複数個設定可能にするためのヤゲン情報設定ステップと、ヤゲン情報設定ステップによって設定された複数個のヤゲン情報の中から1つを選択可能にするためのヤゲン情報選択ステップと、ヤゲン情報選択ステップで選択されたヤゲン情報を出力する出力ステップと、をヤゲン形成データ設定装置に実行させる。
【0025】
〔実施例〕
本開示の典型的な実施例の一つについて、図面を参照して説明する。
図1は、実施例に係る眼鏡レンズ加工装置1が備える加工機構部の構成を説明する図である。
【0026】
例えば、眼鏡レンズ加工装置1はレンズ保持手段の例であるレンズ保持ユニット100を備える。例えば、眼鏡レンズ加工装置1はレンズ形状測定ユニット200を備える。例えば、眼鏡レンズ加工装置1は第1加工具ユニット150を備える。第1加工具ユニット150は、レンズLEの周縁を加工する加工具を回転させるために構成されている。例えば、眼鏡レンズ加工装置1は第2加工具ユニット500を備える。第2加工具ユニット500は、レンズLEの仕上げ加工後の周縁に面取り及び溝堀の少なくとも一つの加工を行うための加工具を回転させるために構成されている。例えば、眼鏡レンズ加工装置1は移動手段の例である移動ユニット300を備える。移動ユニット300はレンズLEと第1加工具ユニット150が持つ加工具との相対的な位置関係を変える(調整)するために構成されている。また、移動ユニット300はレンズLEと第2加工具ユニット500が持つ加工具との相対的な位置関係を変える(調整)するために構成されている。
【0027】
レンズ保持ユニット100は、レンズLEを狭持(保持)して回転させるためのレンズチャック軸102と、キャリッジ101と、を備える。レンズチャック軸102は、一対のレンズチャック軸102L及び102Rを備える。キャリッジ101の左腕101Lにレンズチャック軸102Lが回転可能に保持され、キャリッジ101の右腕101Rにレンズチャック軸102Rが回転可能に保持されている。レンズチャック軸102(レンズLE)は、モータ120によって回転される。
【0028】
第1加工具ユニット150は、加工具回転軸161を回転するためのモータ160を備える。加工具回転軸161は、レンズチャック軸102と平行な位置関係で、本体ベース170に回転可能に保持されている。加工具回転軸161にレンズLEの周縁を加工するための複数の加工具168が取り付けられている。
【0029】
図2は、加工具回転軸161に取り付けられた加工具168の例である。加工具168には、例えば、前ヤゲン加工具162と、後ヤゲン加工具163と、通常仕上げ加工具164と、鏡面仕上げ加工具165と、粗加工具166と、を含む。実施例では加工具162~166として砥石が使用されているが、カッターが使用されても良い。
【0030】
粗加工具166は、レンズLEの周縁を粗加工するために使用される。通常仕上げ加工具164は、低カーブのレンズLEに通常の小ヤゲンを形成するためV溝164Vと平仕上げ加工面164aと、を有する。V溝164Vによって低カーブレンズの周縁に前ヤゲン及び後ヤゲンが同時に形成される。V溝164Vによって形成される前ヤゲン及び後ヤゲンの高さ(レンズLEのチャック中心に対する径方向の距離)は、例えば、1mmである。鏡面仕上げ加工具165は、通常仕上げ加工具164によって仕上げ加工されたレンズ周縁をさらに鏡面仕上げするために使用される。
【0031】
後ヤゲン加工具163は、高カーブのレンズLEの周縁に後ヤゲンLVr(レンズLEの後側のヤゲン斜面)を形成するための加工斜面163Vrと、レンズLEの周縁において後ヤゲンLVrからレンズ後側に延びる後裾野LCrを形成するための加工面163Crと、を有する。前ヤゲン加工具162は、高カーブのレンズLEの周縁に前ヤゲンLVf(レンズLEの前側のヤゲン斜面)を形成するための加工斜面162Vfと、レンズLEの周縁において前ヤゲンLVfからレンズ前側に延びる前裾野LCfを形成するための加工面162Cfと、を有する。なお、高カーブレンズのヤゲン加工においては、レンズ前側には前裾野LCfを形成しない方式もあるので、前ヤゲン加工具162の加工面162Cfが設けられていない場合もある。
【0032】
前ヤゲン加工具162の加工斜面162Vfは、通常仕上げ加工具164のV溝164Vによって形成される前ヤゲンより大きな高さ(レンズLEの径方向の距離が長い)の前ヤゲンLVfを高カーブレンズに形成するためのサイズを持つ。後ヤゲン加工具163の加工斜面163Vrも通常仕上げ加工具164のV溝164Vによって形成される後ヤゲンより大きな高さ(レンズLEの径方向の距離が長い)の後ヤゲンLVrを高カーブレンズに形成するためのサイズを持つ。加工斜面162Vf及び加工斜面163Vrは、例えば、10mm以上のヤゲンの高さを形成可能なサイズを持つ。前ヤゲン加工具162の加工斜面162Vfの傾斜角度αf(X軸に対する角度)、後ヤゲン加工具163の加工斜面163Vrの傾斜角度αrは、後述するメモリ70に記憶されている。
【0033】
なお、前ヤゲン加工具162は、後ヤゲン加工具163と離れて加工具回転軸161に配置されていても良い。また、前ヤゲン加工具162は加工具回転軸161とは別に設けられた加工具回転軸(例えば、第2加工具ユニット500の加工具回転軸501)に配置されていても良い。
【0034】
図1おいて、第2加工具ユニット500はキャリッジ101の前方に配置されている。
図3は、第2加工具ユニット500の概略構成図である。加工具回転軸501に、レンズLEの周縁コバ(角部)を面取り加工するための面取り加工具502が取り付けられている。面取り加工具502は、レンズLEの前面コバを面取り加工するための前面取り加工具502aと、レンズLEの後面コバを面取り加工するための後面取り加工具502bと、を備える。例えば、面取り加工具502は砥石で構成されているが、カッターであってもよい。加工具回転軸501は、アーム510に回転可能に保持されている。アーム510を支持する支持部材512には、加工具回転軸501を回転するための駆動源であるモータ514が取り付けられている。モータ514の回転は、アーム510内等に配置されたギヤ又はベルト等の回転伝達機構(図示を略す)を介して加工具回転軸501に伝達され、加工具回転軸501が回転される。また、アーム510は、退避位置と加工位置との間で移動可能に支持部材512に取り付けられている。支持部材512にはアーム510を移動するためのモータ516が取り付けられている。モータ516の駆動によってアーム510が移動されることにより、加工具回転軸501(面取り加工具502)が退避位置から所定の加工位置に移動される。なお、支持部材512は、取り付け部材518を介してベース170に取り付けられている。
【0035】
移動ユニット300は、レンズチャック軸102に保持されたレンズLEと、加工具(加工具168及び面取り加工具502)と、の相対的な位置を調整するために構成されている。例えば、移動ユニット300は、レンズチャック軸102と加工具回転軸161及び回転軸501との軸間距離を変動させる第1移動ユニット310と、レンズチャック軸102の軸方向にレンズLEを移動させる第2移動ユニット330と、を備える。実施例ではレンズチャック軸102の軸方向をX方向とする。レンズチャック軸102と加工具回転軸161及び回転軸501との軸間距離を変動させる方向をY方向とする。
【0036】
第1移動ユニット310は、モータ315を備える。モータ315の回転により移動支基301がX方向に移動される。これにより、移動支基301に搭載されたキャリッジ101及びレンズチャック軸102(レンズLE)がX方向に移動される。なお、第1移動ユニット310の構成は、加工具回転軸161及び回転軸501をX方向に移動させることでもよい。
【0037】
第2移動ユニット330は、キャリッジ101(レンズチャック軸102)をY方向に移動するためモータ335を備える。キャリッジ101はシャフト333,334に沿ってY方向に移動可能に移動支基301に保持されている。モータ335の回転はY方向に延びるボールネジ337に伝達され、ボールネジ337の回転によりキャリッジ101(レンズチャック軸102とレンズLE)はY方向に移動される。なお、実施例では第2移動ユニット330はレンズチャック軸102をY方向に移動する構成であるが、加工具回転軸161及び回転軸501をY方向に移動させる構成でもよい。すなわち、第2移動ユニット330はレンズチャック軸102と加工具回転軸161及び回転軸501との軸間の距離を相対的に変化させる構成であれば良い。
【0038】
図1において、キャリッジ101の上方にレンズ形状測定ユニット200が配置されている。レンズ形状測定ユニット200は、レンズLEのレンズ前面(前屈折面)の形状と、レンズ後面(後屈折面)の形状と、を測定するために使用される。レンズ形状測定ユニット200は、例えば、レンズ前面形状を測定するための測定ユニット200Fと、レンズ後面形状を測定するための測定ユニット200Rと、を備える。
【0039】
図4は、測定ユニット200Fの概略構成図である。測定ユニット200Fは、レンズ前面に接触する測定子206Fを有する。測定子206Fはアーム204Fの先端に取り付けられている。アーム204Fは、X方向に移動可能に、取付支基201Fに保持されている。アーム204Fは、ラック211F、ピニオン212F、ギヤ214F等を介してモータ216Fに接続されている。モータ216Fの駆動によってアーム204FがX方向に移動され、測定子206FがレンズLEの前面に押し当てられる。ピニオン212Fは、検知器213F(例えば、エンコーダ)の回転軸に取り付けられている。検知器213FによってX方向に移動される測定子206Fの位置が検知される。
【0040】
レンズ後面形状を測定するための測定ユニット200Rの構成は、測定ユニット200Fと左右対称であるので、その説明は省略する。測定ユニット200Rは、レンズ後面に接触される測定子206Rと、測定子206RをX方向に移動させるモータ216Rと、測定子206RのX方向における移動位置を検知する検知器213Rと、を備える。
【0041】
レンズ形状の測定時には、測定子206Fがレンズ前面に接触され、測定子206Rがレンズ後面に接触される。この状態でレンズ保持ユニット100によってレンズLEが回転されるとともに、玉型データに基づいて移動ユニット300によってレンズチャック軸102L及び102RがY方向に移動されることにより、玉型に対応したレンズ前面及びレンズ後面のレンズ形状が同時に測定される。すなわち、測定ユニット200Fによって玉型に対応したレンズ前面のコバ位置が測定され、測定ユニット200Rによって玉型に対応したレンズ後面のコバ位置が測定される。
【0042】
図5は眼鏡レンズ加工装置1に関する制御系ブロック図である。眼鏡レンズ加工装置1は、ヤゲン形成データ設定装置55を備える。ヤゲン形成データ設定装置55は、データ取得ユニット60を備える。データ取得ユニット60はデータ入力ユニットの機能を兼ねていてもよい。例えば、データ取得ユニット60はディスプレイ62を備える。例えば、データ取得ユニット60はデータ入力ユニット63を備える。例えば、ディスプレイ62はタッチパネルの機能を備え、データ入力ユニット63を含むように構成されていてもよい。ヤゲン形成データ設定装置55は、制御ユニット50を備える。制御ユニット50は、ディスプレイ62の表示を制御する機能を持ち、データ取得ユニット60に接続されている。例えば、データ取得ユニット60は記憶手段の例であるメモリ70を備える。メモリ70にはデータ取得ユニット10によって取得された各種データが記憶される。また、メモリ70には、事前に設定されたヤゲン情報が記憶される。また、ヤゲン形成データ設定装置55の動作を制御するための各種プログラムが記憶されている。メモリ70は、データ取得ユニット60と分離されていてもよい。
【0043】
また、本実施例では、制御ユニット50は、眼鏡レンズ加工装置1の制御ユニットを兼ね、眼鏡レンズ加工装置1の全体の制御を司るためにも構成されている。制御ユニット50に、
図1~4に示した各ユニットの電気系構成要素(モータ等)が接続されている。制御ユニット50はレンズ加工のための各種の演算を行うように構成されている。メモリ70には、レンズLEの周縁加工に関するプログラムが記憶されている。
【0044】
また、データ取得ユニット60は玉型形状測定装置30に接続されていてもよい。例えば、玉型形状測定装置30は、眼鏡フレームのリムの形状を測定することで、リムに取り付けるレンズLEの玉型(レンズを周縁加工するための目標形状)を得る。
【0045】
なお、ヤゲン形成データ設定装置55は、眼鏡レンズ加工装置1と分離されていてもよい。この場合、ヤゲン形成データ設定装置55と眼鏡レンズ加工装置1の制御ユニットとがデータ通信可能に構成される。
【0046】
<動作>
以上のような構成を備えるヤゲン形成データ設定装置55及び眼鏡レンズ加工装置1における動作を説明する。初めに、ヤゲン形成データ設定装置55を使用してヤゲン情報を事前に設定(登録)し、その登録情報をメモリ70に記憶させておく動作について説明する。なお、このヤゲン情報の事前の設定は、装置の提供メーカの設定者によって行われてもよいし、装置の使用者側の設定者によって行われてもよい。
【0047】
ヤゲン情報の設定者は、ディスプレイ62に表示されたメニュー画面(図示を略す)にて、初期値設定の項目を選択する。この選択信号に応じて、制御ユニット50の制御により、ディスプレイ62には
図6のような各種の加工の初期値設定画面610が表示される。この画面610の各種項目の中から高カーブヤゲンの初期値を設定するために、「高カーブ」の項目620が選択されると、実施例では、高カーブヤゲンの初期値として3個のパターンのヤゲン情報を事前に設定(プリセット)できる。
【0048】
図6の表示例は、1個目の「プリセット1」欄621が選択されたときの表示である。前ヤゲン高さ欄622aと、後ヤゲン高さ欄622bと、ヤゲン頂点幅欄622cと、ヤゲン位置欄622dと、チルト欄622eと、の5つのヤゲン情報を設定できる。各ヤゲン情報の欄の値は、622a~622eの欄がタッチされることでポップアップ表示されるテンキーによって入力できる。
【0049】
図7は、事前に設定されたヤゲン情報を説明する図である。
図7(a)に示すように、前ヤゲン高さ欄622aで設定される前ヤゲン高さYfhは、レンズ前面Lef側における前ヤゲンLVfの高さである。後ヤゲン高さ欄622bで設定される後ヤゲン高さYrhは、レンズ後面Ler側における後ヤゲンLVrの高さである。ヤゲン頂点幅欄622cで設定されるヤゲン頂点幅Ywは、前ヤゲンLVfと後ヤゲンLVrとの間のヤゲン頂点における距離である。
【0050】
また、
図7(b)に示すように、ヤゲン位置欄622dで設定されるヤゲン位置Ytpは、前ヤゲンLVfの前側基準位置Syfからレンズ後面Ler側にシフトした距離である。なお、例えば、前側基準位置Syfは、ヤゲン頂点が位置するレンズ前面Lef側のコバ位置Lfyから距離LSa分(例えば、0.3mm)だけレンズ後面Ler側にシフトした位置である。また、チルト欄622eで設定されるチルト設定値Tiaは、
図7(c)に示すように、レンズLEの周縁に形成されるヤゲン軌跡(ヤゲン頂点軌跡)Yk1を、基準点Tsを基準にレンズ後面Ler側に傾斜させる量を示す値である。例えば、玉型の鼻側に位置する基準点Tsに対して角度180度ずれた玉型の耳側のコバ位置において、初めに設定されたヤゲン軌跡Yk1を、レンズ後面Ler側にチルト設定値Tiaの距離だけ傾斜させることで、傾斜後のヤゲン軌跡Yk2が求められるものである。
【0051】
図6の説明に戻り、2個目の「プリセット2」欄623が選択されると、「プリセット1」欄621と同様に、前ヤゲン高さ欄622a~チルト欄622eが表示され、「プリセット1」欄621におけるヤゲン情報とは異なる情報を設定できる。3個目の「プリセット3」欄625が選択された場合も同様に、「プリセット1」欄621及び「プリセット2」欄623のヤゲン設定情報とは異なる情報を設定できる。
【0052】
また、「カスタムヤゲン」の項目630が選択された場合も、「高カーブ」の項目620が選択された場合と同様に、3個のパターンのヤゲン情報を事前に設定(プリセット)できる。カスタムヤゲンは、ヤゲン加工モードで選択できるヤゲン種類の一つである。
【0053】
ここで、カスタムヤゲンについて説明する。本実施例でのカスタムヤゲンとは、眼鏡レンズの高カーブレンズに対して低カーブレンズに用いるヤゲン情報を示すものである。低カーブレンズの標準のヤゲン加工は、V溝164Vを持つ通常仕上げ加工具164が使用されることにより、前ヤゲンLVf及び後ヤゲンLVrが同時に加工され、両者のヤゲンの高さは同じとなる。これに対して、カスタムヤゲンは、前ヤゲン加工具162及び後ヤゲン加工具163が使用されることにより、前ヤゲンLVf及び後ヤゲンLVrが別々に加工され、前ヤゲンLVf及び後ヤゲンLVrの高さを異なる状態に加工できるものである。
【0054】
図8は、
図6の初期値設定画面610によって事前に設定された高カーブヤゲン及びカスタムヤゲンのヤゲン情報の例を示す図である。
図8(a)は、高カーブヤゲンの設定値の例であり、プリセット1,2及び3における前ヤゲン高さ、後ヤゲン高さ、ヤゲン頂点幅、ヤゲン位置及びチルト量の各値が示されている。
図8(b)は、カスタムヤゲンの設定値の例であり、プリセット1,2及び3における前ヤゲン高さ、後ヤゲン高さ及びヤゲン頂点幅の各値が示されている。
【0055】
以上のようにして設定(登録)された高カーブヤゲン及びカスタムヤゲンのヤゲン情報は、メモリ70に記憶される。
【0056】
次に、ヤゲン形成データ設定装置55及び眼鏡レンズ加工装置1を使用してレンズLEの周縁をヤゲン加工(ヤゲンを形成)する場合の動作を説明する。レンズLEの周縁の加工に際し、データ取得ユニット60によってレンズLEの玉型データが取得される。例えば、玉型形状測定装置30によって測定された眼鏡フレームのリムの輪郭形状がデータ取得ユニット60に取得される。玉型データはメモリ20に記憶されていたデータが呼び出されることで、データ取得ユニット60によって取得されてもよい。
【0057】
玉型データが取得されたら、操作者はレンズLEの周縁を加工するための加工条件をディスプレイ62によって設定(入力)する。
図9は、加工条件を設定するときのディスプレイ62の画面例である。
図9において、ディスプレイ62の画面には右眼用玉型TGRと左眼用玉型TGLが表示されている。レンズLEの周縁加工のために、玉型に対するレンズLEの光学中心位置を配置するためのレイアウトデータが入力される。例えば、レイアウトデータは、左右の玉型中心間距離FPD(右眼用玉型TGRの幾何中心TCRと左眼用玉型TGLの幾何中心TCLとの中心間距離)と、瞳孔間距離PD(右眼用光学中心OCRと左眼用光学中心OCLとの距離)と、左右の玉型の幾何中心に対する光学中心の高さ距離と、を含む。これらの値を画面上の表示欄をタッチすることで表示されるテンキーによって入力できる。また、加工条件として、レンズの材質(プラスチック、ポリカーボネイト等)、フレームのタイプ(メタル、セル、リムレス、等)、レンズ周縁加工モード(オートヤゲン加工、強制ヤゲン加工、平加工、穴加工、等)、鏡面加工の有無、面取り加工の有無、レンズのチャッキングモード(枠心モード、光心モード)を入力欄641a、641b、641c、641d、641e及び641fによって入力(選択)できる。
【0058】
レンズ周縁加工モードとしてオートヤゲン加工のモード(レンズ形状情報に基づいてヤゲンカーブ、ヤゲン位置等が自動的に設定されるモード)が選択された場合を説明する。また、レンズのチャッキングモードとして、枠心モード(玉型の幾何中心にレンズチャック軸102の中心を位置させてレンズLEを保持するモード)が選択された場合を説明する。また、眼鏡フレームが高カーブフレームで、そのリムに嵌められるレンズLEが高カーブレンズである場合を説明する。
【0059】
ヤゲン加工の場合、操作者はヤゲン種類を選択するための表示ボタン650にタッチする。表示ボタン650がタッチされると、
図10に示すように、ヤゲンの種類の選択欄651がポップアップ表示される。
図10は、ヤゲンの種類の選択とヤゲン情報の選択を説明する図である。本実施例では、ヤゲンの種類として、標準のヤゲン(低カーブレンズにおいて通常仕上げ加工具164のV溝164Vによって形成されるヤゲン)、ミニヤゲン(標準のヤゲンに対し、ヤゲン高さが小さくされたヤゲン)、高カーブヤゲン及びカスタムヤゲンを選択できる。高カーブヤゲンの選択欄652cが選択されると、さらに初期値設定画面610で事前に設定にされた3個のヤゲン情報の選択欄660がポップアップ表示される。
【0060】
選択欄660には、事前に設定(登録)された3個のプリセット情報毎(ヤゲン情報毎)に高カーブのヤゲン形状を模したヤゲン形状図形661、662及び663が表示される。これにより、操作者はヤゲンの種類として高カーブヤゲンが選択されたことを視覚的に容易に把握できる。また、ヤゲン形状図形661、662及び663には、
図8のプリセット1、プリセット2及びプリセット3でそれぞれ設定された前ヤゲンの高さ、後ヤゲンの高さ及びヤゲン頂点幅の各値が付されて表示されている。これらの表示により、操作者は、異なるタイプの眼鏡フレームに合わせたヤゲン形成状態を容易に選択できる。なお、ヤゲン形状図形661、662及び663の表示においては、前ヤゲンの高さ、後ヤゲンの高さ及びヤゲン頂点幅の各値に応じて対応する部分の図形表示が変えられていると、操作者は選択できるヤゲン情報の違いを視覚的及び直観的に容易に把握でき、所望のものを適切に選択できる。なお、このような3個のヤゲン図形の表示でなく、例えば、3個ともヤゲン形状図形661を代表的な図形として、前ヤゲンの高さ、後ヤゲンの高さ及びヤゲン頂点幅の各値のみが設定情報に基づいて表示されているものでもよい。このように予め設定(メモリ70に記憶)されたヤゲン情報から所望のものを選択することで、前ヤゲンの高さ、後ヤゲンの高さ及びヤゲン頂点幅の各値を個々に設定をしなくて済み、ヤゲン情報を容易に設定できる。また、操作者の負担が減り、作業効率を上げることができる。
【0061】
ここで、ヤゲン情報に対応する異なるタイプの眼鏡フレームの例を
図11に基づいて説明する。事前に設定される高カーブレンズのヤゲン情報(前ヤゲンの高さ、後ヤゲンの高さ及びヤゲン頂点幅の各値)は、高カーブフレームの代表的なタイプで、使用頻度の高いフレームに合わせて設定されている。例えば、プリセット1(ヤゲン形状図形661)の眼鏡フレームのタイプは、
図11(a)に示されるように、ヤゲン溝がV字状(山形)のメタルフレーム(金属フレーム)MVFである。例えば、プリセット2(ヤゲン形状図形662)の眼鏡フレームのタイプは、
図11(b)に示されるように、ヤゲン溝がV字状(山形)のセルフレームCVFである。例えば、プリセット3(ヤゲン形状図形663)の眼鏡フレームのタイプは、
図11(c)に示されるように、ヤゲン溝がU字状(溝幅がV字状タイプより広い)のセルフレームCUFである。このように代表的な使用頻度の高いフレームに合わせてヤゲン情報が設定されていることにより、操作者は、被加工レンズであるレンズLEが嵌められる眼鏡フレームがこれらのタイプの何れであるかを知ることで、専門的なヤゲン情報の知識が無くても、実際にレンズLEに形成するヤゲン情報を容易に設定できる。
【0062】
なお、
図12に示すように、ヤゲンの種類の選択欄651の中からカスタムヤゲンの選択欄652dが選択されると、高カーブヤゲンの場合と同様に、カスタムヤゲンで事前に設定にされた3個のヤゲン情報の選択欄670がポップアップ表示される。選択欄670には、カスタムヤゲンで適用するヤゲン形状を模した3個のヤゲン形状図形671、672及び673が表示される。ヤゲン形状図形671、672及び673には、プリセット1、プリセット2及びプリセット3でそれぞれ設定された前ヤゲンの高さ、後ヤゲンの高さ及びヤゲン頂点幅の各値が付されて表示されている。また、ヤゲン形状図形671、672及び673の図形表示においては、前ヤゲンの高さ、高カーブヤゲンの場合と同様に、後ヤゲンの高さ及びヤゲン頂点幅の各値に応じて対応する部分の図形表示が変えられている。操作者は選択できるヤゲン情報の違いを視覚的及び直観的に容易に把握でき、これにより、所望のものを適切に選択できる。
【0063】
以上のような加工条件の設定(入力)ができたら、操作者はレンズLEをレンズチャック軸102に保持させ、加工を開始させる。加工開始信号が入力されると、ヤゲン形成データ設定装置55によって取得された加工条件データは、制御ユニット50に出力される。また、加工開始信号が入力されると、レンズLEの周縁加工に先立ち、レンズ形状の測定が行われる。制御ユニット50は、取得された玉型データに基づいてレンズ形状測定ユニット200及び移動ユニット300の駆動を制御し、レンズチャック軸102(102L、102R)に保持されたレンズLEの前面及び後面の形状を測定する。この測定により、玉型に対応したレンズLEの前面形状及び後面形状が得られる。
【0064】
次に、制御ユニット50は、レンズLEの前面形状及び後面形状の取得結果、及び選択されたヤゲン情報に基づき、レンズLEの周縁に形成するヤゲンの軌跡を所定の演算式によって求める。例えば、高カーブレンズのオートヤゲンが設定されている場合、制御ユニット50は、ヤゲン軌跡Yk1(
図7(c)参照)のヤゲンカーブをレンズLEの前面カーブと同じにし、ヤゲン軌跡Yk1のヤゲン位置を選択欄660によって選択されたプリセット情報に基づいて設定する。また、選択欄660によって選択されたプリセット情報にヤゲンのチルト情報(傾斜情報)が含まれている場合は、制御ユニット50は、その情報に基づいてヤゲン軌跡Yk1を所定の基準点を基準に傾斜させた状態のヤゲン軌跡Yk2を求める。
【0065】
ヤゲン軌跡が求められると、制御ユニット50は、前ヤゲン加工具162によってレンズLEの前ヤゲンLVfを形成するための加工制御データと、後ヤゲン加工具163によってレンズLEの後ヤゲンLVrを形成するための加工制御データと、仕上げ加工具164の平仕上げ加工面164aによってヤゲン頂点幅を加工するための加工制御データと、を求める(取得する)。加工制御データが求められると、レンズLEの周縁にヤゲンを形成する加工動作が実行される。制御ユニット50は、レンズLEを回転させながら玉型に基づいて移動ユニット300を制御し、レンズLEの周縁を粗加工具166によって粗加工する。続いて、制御ユニット50は、取得したヤゲンの加工制御データに基づき、移動ユニット300を制御することでレンズLEの周縁にヤゲンを形成する。すなわち、制御ユニット50は、移動ユニット300の駆動を制御することで、前ヤゲン加工具162によってレンズLEの前ヤゲンLVfを形成し、後ヤゲン加工具163によってレンズLEの後ヤゲンLVrを形成し、仕上げ加工具164の平仕上げ加工面164aによってヤゲン頂点幅を確保するようにレンズLEの周縁を加工する。
【0066】
強制ヤゲン加工モードが選択されている場合について説明する。この場合、制御ユニット50は、レンズ形状測定ユニット200によるレンズLEの前面形状及び後面形状の取得後、装置の動作を停止し、ディスプレイ62に
図13のようなヤゲンのシミュレーションの画面680を表示させる。
図13は、強制ヤゲン加工モードにおけるヤゲンのシミュレーション画面の例である。
【0067】
図13において、操作者が玉型図形TGRにおけるカーソル681を玉型上で移動させると、カーソル681で指定された動径角におけるヤゲン断面形状の図形682が画面上の左上に表示される。これにより、操作者は任意の動径角におけるヤゲン形状を確認できる。このヤゲン形状の確認により、シミュレーションにより、高カーブヤゲンの場合に
図10の選択欄660又はカスタムヤゲンの場合に選択欄670で選択されたヤゲン情報の各値は、表示欄683によって変更できる。表示欄683には、前ヤゲン高さ、後ヤゲン高さ、ヤゲン頂点幅、ヤゲン位置及びチルト量の各値の表示がなされている。操作者が各値の欄をタッチすることでポップアップ表示されるテンキーを操作することにより、各値を所望の値に変更できる。これにより、事前に登録されたヤゲン情報を適宜変更できる。」
ヤゲン情報の変更後、再び加工開始信号が入力されると、制御ユニット50は、前述と同様にレンズLEの周縁に形成するヤゲンの軌跡を演算した後に加工制御データを求め、加工制御データに基づいて移動ユニット300を制御することで各加工具によってレンズLEの周縁にヤゲンを形成する。
【0068】
以上、本開示の典型的な実施例を説明したが、本開示はここに示した実施例に限られず、本開示の技術思想を同一にする範囲において種々の変容が可能である。
【符号の説明】
【0069】
1 眼鏡レンズ加工装置
50 制御ユニット
55 ヤゲン形成データ設定装置
60 データ取得ユニット
62 ディスプレイ
70 メモリ
102 レンズチャック軸
162 前ヤゲン加工具
163 後ヤゲン加工具
300 移動ユニット
660 選択欄
670 選択欄
671、672、673 ヤゲン形状図形