(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】アニオン性官能基含有セルロースナノクリスタル含有塗布液
(51)【国際特許分類】
C09D 101/08 20060101AFI20240925BHJP
C08B 5/14 20060101ALI20240925BHJP
C09D 7/20 20180101ALI20240925BHJP
C09D 101/16 20060101ALI20240925BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20240925BHJP
C09D 7/65 20180101ALI20240925BHJP
【FI】
C09D101/08
C08B5/14
C09D7/20
C09D101/16
C09D7/61
C09D7/65
(21)【出願番号】P 2020156229
(22)【出願日】2020-09-17
【審査請求日】2023-08-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000003768
【氏名又は名称】東洋製罐グループホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(72)【発明者】
【氏名】長▲浜▼ 英昭
(72)【発明者】
【氏名】前田 慎一郎
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-111747(JP,A)
【文献】特開2020-033486(JP,A)
【文献】国際公開第2019/241603(WO,A1)
【文献】特開2017-048181(JP,A)
【文献】特開2019-081877(JP,A)
【文献】国際公開第2020/194380(WO,A1)
【文献】特表2020-521015(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D
C08B 5/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アニオン性官能基含有セルロースナノクリスタル及び添加剤を含有する塗布液であって、
前記添加剤として、層状無機化合物、水酸基含有高分子、及び多価カルボン酸を少なくとも含有し、水及びアルコールから成る混合溶媒を分散媒とすることを特徴とする塗布液。
【請求項2】
ネマティック液晶及び/又はキラルネマティック液晶を含有する請求項1記載の塗布液。
【請求項3】
複屈折を示す請求項2記載の塗布液。
【請求項4】
前記アニオン性官能基含有セルロースナノクリスタルを、固形分として0.5質量%以上の量で含有する請求項1~3の何れかに記載の塗布液。
【請求項5】
前記混合溶媒が、水90~50質量部に対してアルコールを10~50質量部の量で含有する請求項1~4の何れかに記載の塗布液。
【請求項6】
前記アルコールが、エタノール、メタノール、イソプロピルアルコールの少なくとも1種である請求項1~5の何れかに記載の塗布液。
【請求項7】
前記層状無機化合物がマイカであり、前記水酸基含有高分子がポリビニルアルコールであり、前記多価カルボン酸がクエン酸である請求項1~6の何れかに記載の塗布液。
【請求項8】
前記アニオン性官能基が、硫酸分解由来のスルホ基及び/又は硫酸基である請求項1~7の何れかに記載の塗布液。
【請求項9】
前記アニオン性官能基含有セルロースナノクリスタルの固形分0.5~3質量%のときの回転粘度計(回転速度60rpm、回転時間60秒)で測定した粘度が1~10000mPa・sである請求項1~8の何れかに記載の塗布液。
【請求項10】
アニオン性官能基含有セルロースナノクリスタルの固形分が0.5~3質量%のときの基材上に塗工した塗工面を150℃で乾燥したときの固形化までの時間が60秒以下である請求項1~9の何れかに記載の塗布液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アニオン性官能基含有セルロースナノクリスタルを含有する塗布液に関するものであり、より詳細には、塗工時の取扱い性、添加剤の分散性、塗工面の状態及び乾燥性に優れていると共に、優れたガスバリア性を発現可能なアニオン性官能基含有セルロースナノクリスタル含有塗布液に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノセルロースは、高度バイオマス原料として、機能性添加剤、フィルム複合材料等として種々の用途に使用することが提案されている。特に、セルロースナノファイバー(CNF)から成る膜やセルロースナノファイバーを含有する積層体等の材料は、セルロース繊維間の水素結合や架橋的な強い相互作用から、ガスの溶解、拡散を抑制できるため酸素バリア性等のガスバリア性に優れていることが知られており、セルロースナノファイバーを利用したバリア材料が提案されている。
セルロース繊維の微細化のため、機械的処理と共に、カルボキシル基やリン酸基等の親水性の官能基を、セルロースの水酸基に導入する化学的処理を行うことが行われており、これにより微細化処理に要するエネルギーを低減可能であると共に、バリア性や水系溶媒への分散性が向上する。
【0003】
このようなセルロースナノファイバーを用いた分散液も知られており、例えば、下記特許文献1には、結晶化度が70%以上、銅エチレンジアミン溶液を用いた粘度法による重合度が160以下、且つ繊維径が50nm以下であるセルロースナノファイバーが分散媒に分散している分散液が提案されている。
また下記特許文献2には、水溶性高分子と、セルロースを酸化して微細化した改質微細セルロースとを含有し、前記改質微細セルロースが、表面にカルボキシル基を有し、前記カルボキシル基の対イオンの合計数のうち70%以上のイオンは、アンモニウムイオンであり、前記水溶性高分子の濃度は、1質量%以上90質量%以下であり、前記水溶性高分子は、ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコール、及びカルボキシメチルセルロースの少なくとも一種であることを特徴とするコーティング剤が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-256546号公報
【文献】特開2020-37696号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載されたセルロースナノファイバー分散液においては、繊維長の長いセルロースナノファイバーにTEMPO触媒を用いた化学処理によりカルボキシル基を付加していることから、繊維長の長さやカルボキシル基量に起因して非常に高い粘性を有している。またナノセルロースの良分散媒は水であることから、一般にナノセルロース含有塗布液には水分散液が使用され、アルコールとの混合も困難であると共に、固形分量の高い分散液の調製が困難であることから、上述した高い粘性と相俟って、添加剤の分散性に劣ると共に、塗工面に塗工不良が発生する。また乾燥に長時間を要するため、取扱い性や、生産性及び経済性の点で満足するものではない。またセルロースナノファイバーは繊維長が長いことからガスバリア性の点でも満足するものではなく、繊維長を短くすれば高いガスバリア性を得ることも可能であるが、そのためには更なる処理が必要であり、経済性に劣る。
また上記特許文献2に記載されたコーティング剤は、高湿度条件下での良好なガスバリア性を発現可能なものであるが、酸素透過度が2.3~3.4cc/m2・day・Pa(40%RH)の範囲であり、ガスバリア性のレベルとしては十分満足し得るものではない。またTEMPO触媒を用いた化学処理によるセルロースナノファイバーを用いていることから、引用文献1と同様に、塗工性や、生産性及び経済性の点も十分満足するものではない。
【0006】
セルロースナノファイバーに比して繊維長の短いナノセルロースとして、セルロース繊維を強酸で加水分解処理して成るセルロールナノクリスタル(CNC)が知られている。セルロースナノクリスタルは繊維長が短いことから粘性が低く、塗工時の取扱い性に優れていると共に、塗工面の平滑性にも優れている。しかしながら、一般にセルロースナノクリスタルは、上述したようなカルボキシル基等が導入されたセルロースナノファイバーに比してガスバリア性に劣っている。
本発明者等は、ガスバリア性及び取り扱い性に優れたセルロースナノクリスタル分散液を用い、これに水溶性高分子、無機層状化合物及び多価カルボン酸を含有させることにより、セルロースナノクリスタルが均一に分散された架橋構造を効率よく形成可能なセルロースナノクリスタル含有コーティング液を提案した(特願2020-5116)。
しかしながら上記セルロースナノクリスタル含有コーティング液においても、固形分量の高いコーティング液を短時間で効率よく乾燥することは困難であり、生産性及び経済性をさらに向上させることが望まれている。
【0007】
従って本発明の目的は、ガスバリア性及び取扱い性に優れ、添加剤の分散性が良好で、高い固形分濃度を有すると共に、塗工面に優れ、塗料の固形化までの乾燥時間を短縮可能な生産性及び経済性にも優れたセルロースナノクリスタル含有塗布液を提供することである。
本発明の他の目的は、優れたガスバリア性及び層間接着性を有するセルロースナノクリスタル含有層を有する成形体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、アニオン性官能基含有セルロースナノクリスタル及び添加剤を含有する塗布液であって、前記添加剤として、層状無機化合物、水酸基含有高分子、及び多価カルボン酸を少なくとも含有し、水及びアルコールから成る混合溶媒を分散媒とすることを特徴とする塗布液が提供される。
【0009】
本発明の塗布液においては、
1.ネマティック液晶及び/又はキラルネマティック液晶を含有すること、
2.複屈折を示すこと、
3.前記アニオン性官能基含有セルロースナノクリスタルを、固形分として0.5質量%以上の量で含有すること、
4.前記混合溶媒が、水90~50質量部に対してアルコールを10~50質量部の量で含有すること、
5.前記アルコールが、エタノール、メタノール、イソプロピルアルコールの少なくとも1種であること、
6.前記層状無機化合物がマイカであり、前記水酸基含有高分子がポリビニルアルコールであり、前記多価カルボン酸がクエン酸であること、
7.前記アニオン性官能基が、硫酸分解由来のスルホ基及び/又は硫酸基であること、
8.前記アニオン性官能基含有セルロースナノクリスタルの固形分が0.5~3質量%のときの回転粘度計(回転速度60rpm、回転時間60秒)で測定した粘度が1~10000mPa・sであること、
9.アニオン性官能基含有セルロースナノクリスタルの固形分が0.5~3質量%のときの基材上に塗工した塗工面を150℃で乾燥したときの固形化までの時間が60秒以下であること、
が好適である。
【0010】
本発明によればまた、基材上に、多価カチオン樹脂及びセルロースナノクリスタルを含有する層が形成されて成る成形物であって、前記アニオン性官能基含有セルロースナノクリスタル(固形分)を1.0g/cm2の量で含有するときの酸素透過度(23℃50%RH)が1.0cc/m2・day・atm未満であることを特徴とする成形体が提供される。
本発明の成形体においては、前記多価カチオン樹脂が、ポリエチレンイミンであることが好適である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の塗布液では、繊維長の短いアニオン性官能基含有セルロースナノクリスタルを用いることから、固形分濃度が高いにもかかわらず、粘度の低い塗布液とすることができ、取扱い性や添加剤の混合処理と分散性に優れている。しかも揮発性を有するアルコールと水の混合溶媒を分散媒として使用することが可能であることから、固形化までの時間を短縮可能であり、生産性及び経済性に優れている。このことは後述する実施例の結果からも明らかであり、アニオン性官能基含有セルロースナノクリスタルを0.5~3重量%の固形分濃度で含有する塗布液を基材上に塗工した時の塗膜において、表面のスジ、凹凸、塗工抜け、ゲル、ブツ、ゆず肌や、塗膜中のボイド等の塗工不良が発生せず、かつ前記塗工面を150℃で乾燥したときの固形化までの時間が60秒以下と短時間での乾燥が可能である。
またアニオン官能基含有セルロースナノクリスタルは水及びアルコール混合溶媒中で良好な分散性を有し、自己配列によりネマティック液晶及び/又はキラルネマティック液晶を形成し、かかる液晶性自己配列は維持されながら乾燥処理による固形化が行われることから、塗膜中に十分な自己組織化構造を形成することが可能であり、優れたガスバリア性を発現することが可能である。本発明の塗布液においては、上記ネマティック液晶及び/又はキラルネマティック液晶の存在に起因する複屈折が示され、このことは後述する実施例の結果からも明らかである。
【0012】
更に本発明の塗布液においては、添加剤として、層状無機化合物、水酸基含有高分子、多価カルボン酸の少なくとも1種を含有することが好適である。これにより、セルロースナノクリスタルの水酸基と多価カルボン酸が緻密な架橋膜を構成することによる優れたガスバリア性と、水酸基含有高分子及び層状無機化合物が含有されていることに基づくガスバリア性の向上とが相俟って、高湿度条件下においても優れたガスバリア性を発現することが可能になる。
更にまた、本発明の多価カチオン樹脂及びセルロースナノクリスタルを含有する層が形成されて成る成形体においては、セルロースナノクリスタル間の緻密な自己組織化構造を維持しながら、セルロースナノクリスタル間に多価カチオン樹脂が自然拡散して介在した混合状態になっており、セルロースナノクリスタルの自己組織化構造が多価カチオンによって更に強化されていることから、セルロースナノクリスタルだけで発現されるガスバリア性よりも優れたガスバリア性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(塗布液)
本発明においては、アニオン性官能基含有セルロースナノクリスタルを用いることにより、水及びアルコールから成る混合溶媒を分散媒として使用することが可能になり、良好な添加剤の混合処理と分散性を有し、塗工不良のない優れた塗工面を有すると共に、優れたガスバリア性を示しながら、前述した通り、乾燥時間を短縮することが可能になる。
すなわち、本発明で使用するアニオン性官能基含有セルロースナノクリスタルは、ナノセルロース表面に存在する硫酸基及び/又はスルホ基やカルボキシル基等のアニオン性官能基が有する電荷(アニオン)により、隣接する繊維との間に電気二重層を形成し、繊維相互間に反発し合う力(斥力)が生じている。また、セルロースナノクリスタルはその繊維長が短いことから、セルロースナノファイバーに比して繊維同士が分離しやすいという特徴を有している。そのため、このセルロースナノクリスタルは繊維間に水やアルコールなどのプロトン性溶媒を容易に引き込むことができ、繊維間に引き込まれた水及びアルコールから成る混合溶媒による溶媒浸透圧と、セルロースナノクリスタルの上記斥力とが相俟って、セルロースナノクリスタルの孤立分散性が高められ、上記混合溶媒へのセルロースナノクリスタルの良好な分散性を得ることが可能になる。また本発明で使用する混合溶媒は、極性を有することによりファンデルワールス力の影響を低減でき、上述した混合溶媒中でのセルロースナノクリスタルの良好な分散性が損なわれることが有効に防止されている。
【0014】
またアニオン性官能基含有セルロースナノクリスタルを含有する分散液は、前述した通り、アニオン性官能基であるカルボキシル基を有するTEMPO触媒を用いて化学処理されたセルロースナノファイバーを含有する分散液に比して低粘性であり、本発明の塗布液は、アニオン性官能基含有セルロースナノクリスタルの固形分が0.5~3重量%のときの回転粘度計(回転速度60rpm、回転時間60秒)で測定した粘度が1~10000mPa・sであるという特徴を有している。その結果、固形分濃度が高くても低粘度の塗布液を調製することが可能であり、添加剤の分散性、塗工性や製膜性等の取り扱い性や、塗膜のガスバリア性に優れていると共に、上述した水及びアルコール混合溶媒を用いることと相俟って、さらに塗膜の乾燥時間を短縮化することが可能である。
【0015】
また本発明で使用するアニオン性官能基含有セルロースナノクリスタルは、分子内又は分子間に多数の水素結合を有することから、凝集エネルギー密度が大きいと共に、自己組織化構造の形成に寄与可能なアニオン性官能基を含有することから、前述した通り、水及びアルコールから成る混合溶媒中でセルロースナノクリスタルが、自己配列によりネマティック液晶及び/又はキラルネマティック液晶を形成する。かかる液晶性自己配列は維持されながら乾燥処理による固形化が行われることから、塗膜中に十分な自己組織化構造を形成することが可能であり、優れたガスバリア性を発現することが可能となる。
【0016】
本発明の塗布液においては、アニオン性官能基含有セルロースナノクリスタルと共に、添加剤として、水酸基含有高分子、層状無機化合物、多価カルボン酸等を含有することにより、添加剤の分散性に優れており、前述した通り、高湿度条件下においても優れたガスバリア性を発現することができる。すなわち、水酸基含有高分子は、セルロースナノクリスタルと共に緻密な架橋構造を形成することができると共に、可撓性を付与することもでき、得られる塗膜のガスバリア性が顕著に向上される。また層状無機化合物は、膨潤性及び劈開性を有することから、セルロースナノクリスタルが層状無機化合物の層間を広げるように入り込んで複合化し、層状無機化合物により得られる透過ガスの迂回効果と、セルロースナノクリスタルによる架橋構造とが相俟って、高湿度条件下でも優れたガスバリア性を発現することが可能になる。また反応性架橋剤として多価カルボン酸を添加することにより、前述した緻密な自己組織化構造の形成がより効率よく形成することが可能となる。
【0017】
[セルロースナノクリスタル分散液]
本発明の塗布液に含有されるセルロースナノクリスタルは、セルロース原料を塩酸や硫酸等により酸加水分解して成るセルロースナノクリスタルを分散質とし、水及びアルコールから成る混合溶媒を分散媒とする分散液として調製される。
このような分散液としては、後述するように、分散液の調製に際して固形化を経ていない(ネバードライ処理)セルロースナノクリスタル分散液、すなわち、噴霧乾燥処理等によりパウダー状等に固形化された後、再分散させて成る分散液でないことが好適である。すなわち、乾燥処理に付され固形化されたセルロースナノクリスタルは分散液中で繊維の配向が整いにくく、緻密な自己組織化構造を形成することが困難であり、固形化を経ていない分散液に比してガスバリア性が劣っている。
【0018】
また本発明の塗布液に含有されるセルロースナノクリスタル分散液においては、セルロースナノクリスタルは、塩酸処理による加水分解処理されたものを含むすべてのセルロースナノクリスタルを使用することができるが、硫酸処理により加水分解されたセルロースナノクリスタルであることが好ましい。すなわち、セルロースナノクリスタルには、セルロース繊維を硫酸処理或いは塩酸処理により酸加水分解するものがあるが、硫酸処理によるセルロースナノクリスタルは、自己組織化構造の形成に寄与可能な硫酸基及び/又はスルホ基を既に有していることから、硫酸処理によるセルロースナノクリスタルが有利に使用される。
セルロースナノクリスタルは、硫酸基及び/又はスルホ基の総量が0.01mmol/gより多く且つ4.0mmol/g以下の範囲で含有していることが特に好適である。硫酸基及び/又はスルホ基の総量が上記範囲にあることにより、セルロースナノクリスタルの結晶構造を維持しながら、十分な自己組織化構造を形成することが可能であり、優れたガスバリア性を発現することが可能になる。尚、本明細書において、硫酸基は、硫酸エステル基を含む概念である。
またセルロースナノクリスタルは、繊維径が50nm以下、特に2~50nmの範囲にあり、繊維長が100~500nmの範囲にあり、アスペクト比が5~50の範囲にあり、結晶化度が60%以上、特に70%以上であるものを好適に用いることができる。
【0019】
本発明に用いるアニオン性官能基含有セルロースナノクリスタル分散液において分散媒となる、アルコールは、水と比較して相対蒸発速度が高く、適度な割合での水/アルコール混合溶媒とすることによって乾燥時間を短縮することができると共に、セルロースナノクリスタルの分散性や発現した複屈折の維持、或いは高いガスバリア性を達成することができる。
本発明において分散媒となる水及びアルコールから成る混合溶媒は、水90~50質量部に対してアルコールを10~50質量部の量で含有する混合溶媒であることが好適である。上記範囲よりもアルコールの量が少ない場合には、アルコールを配合することによる乾燥時間の短縮化という効果を十分に得ることができず、その一方上記範囲よりもアルコールの量が多い場合には、セルロースナノクリスタルの分散性や複屈折の発現を損ない、発現されるガスバリア性が低下するおそれがある。
混合溶媒に含有されるアルコールとしては、水との相溶性や粘性等の観点から、炭素数が3以下の低級アルコールを使用することが好適である。具体的にはメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、N-プロピルアルコール、N-ブタノール、イソブタノール、第3級ブタノール、ブタノール等を例示でき、特にメタノール、エタノール、イソプロピルアルコールを好適に使用することができる。これらのアルコールは、1種、または2種以上を使用することもできる。
【0020】
[セルロースナノクリスタル分散液の調製]
本発明で使用するセルロースナノクリスタル分散液は、セルロース原料を硫酸処理することにより得られた、硫酸基及び/又はスルホ基含有セルロースナノクリスタルを、分散処理することで分散液を調製する。さらに親水化処理することにより硫酸基及び/又はスルホ基を含むアニオン性官能基含有セルロースナノクリスタルを調製した後、分散処理に付することによって分散液を調製することもできる。尚、セルロース原料の硫酸処理の前後やセルロースナノクリスタルの親水化処理の前後に、必要により、解繊処理、溶媒置換処理に付することができる。
【0021】
[セルロースナノクリスタル]
本発明の塗布液に含有されるセルロースナノクリスタルは、パルプなどのセルロース繊維を硫酸や塩酸で酸加水分解処理することにより得られる、ロッド状のセルロース結晶繊維であるが、本発明においては、自己組織化構造の形成に寄与可能な硫酸基及び/又はスルホ基を有する、硫酸処理によるセルロースナノクリスタルを使用することが好適である。
セルロースナノクリスタルは、硫酸基及び/又はスルホ基を0.01~2.0mmol/g、特に0.01~0.2mmol/gの量で含有することが好適である。またセルロースナノクリスタルは、平均繊維径が50nm以下、特に2~50nm、の範囲にあり、平均繊維長が100~500nmの範囲にあり、アスペクト比が5~50の範囲にあり、結晶化度が60%以上、特に70%以上であるものを好適に用いることができる。
アニオン性官能基含有セルロースナノクリスタルは、硫酸基及び/又はスルホ基を有するセルロースナノクリスタル、又は更に前記セルロースナノクリスタルに後述する親水化処理を施すことにより得られるが、上述したとおり、従来の酸化方法によって製造された、繊維幅が50nm以下でアスペクト比が10以上であるセルロースナノファイバーを、アニオン性官能基(硫酸基及び/又はスルホ基を含む)を含有するナノセルロースが有する優れたバリア性や取扱い性を損なわない範囲で含有させてもよく、具体的には、セルロースナノクリスタルの50%未満の量で使用することができる。
【0022】
[親水化処理]
本発明においては、上述した硫酸基及び/又はスルホ基を有するセルロースナノクリスタル、又は更に前記セルロースナノクリスタルに親水化処理を行うことにより、硫酸基及び/又はスルホ基の量を調整、或いは、カルボキシル基、リン酸基等のアニオン性官能基をセルロースの6位の水酸基に導入し、硫酸基及び/又はスルホ基、カルボキシル基、リン酸基等のアニオン性官能基の総量が0.01mmol/gより多く且つ4.0mmol/g以下、特に0.2~1.5mmol/gの範囲にあるセルロースナノクリスタルを調製する。尚、硫酸基又はリン酸基は、それぞれ硫酸エステル基又はリン酸エステル基をも含む概念である。
親水化処理としては、ネバードライ処理、又はネバードライ処理と、水溶性カルボジイミド、硫酸、三酸化硫黄-ピリジン錯体、リン酸-尿素、TEMPO触媒、酸化剤の何れかを組み合わせて行う。カルボジイミド、硫酸、三酸化硫黄-ピリジン錯体、の何れかを用いた処理により、セルロースナノクリスタルの硫酸基及び/又はスルホ基の量が調整されると共に、セルロースナノクリスタルが更に短繊維化される。またリン酸-尿素又はTEMPO触媒、酸化剤の何れかを用いた処理により、リン酸基又はカルボキシル基のアニオン性官能基が導入されて、セルロールナノクリスタルの総アニオン性官能基量が上記範囲に調整される。
尚、親水化処理は、アニオン性官能基の総量が上記範囲となる限り、いずれか一つの処理を行えばよいが、同一の処理を複数回、或いは他の処理と組み合わせて複数回行ってもよい。
【0023】
<ネバードライ処理による親水化処理>
セルロースナノクリスタルは、スプレードライ、加熱、減圧などによる乾燥処理を行ってパウダー等の固形化を経るが、乾燥処理による固形化の際にセルロースナノクリスタルに含有するアニオン性官能基の一部が脱離して親水性が低下する。すなわち、アニオン性官能基を含有するセルロースナノクリスタルについてパウダー等の固形化を経ないネバードライ処理は親水化処理として挙げられる。アニオン性官能基は、硫酸基及び/又はスルホ基、リン酸基、カルボキシル基などが挙げられる。
【0024】
<カルボジイミド用いた親水化処理>
カルボジイミドを用いた処理においては、ジメチルホルムアミド等の溶媒中でセルロースナノクリスタルとカルボジイミドを撹拌し、これに硫酸を添加した後、0~80℃の温度で5~300分反応させて硫酸エステルとする。カルボジイミド及び硫酸は、セルロースナノクリスタル1g(固形分)に対して5~30mmol及び5~30mmolの量で使用することが好ましい。
次いで水酸化ナトリウム等のアルカリ性化合物を添加して、セルロースナノクリスタルに導入された硫酸基及び/又はスルホ基をH型からNa型に変換することが、収率を向上する上で好ましい。その後、透析膜等を用いた濾過処理に付して不純物等を除去することにより、硫酸基及び/又はスルホ基変性セルロースナノクリスタルが調製される。
カルボジイミドとしては、分子内にカルボジイミド基(-N=C=N-)を有する水溶性化合物である1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド等を例示できる。また有機溶媒に溶解するジシクロヘキシルカルボジイミド等を使用することもできる。
【0025】
<硫酸を用いた親水化処理>
本発明で使用するセルロースナノクリスタルは、セルロース繊維を硫酸で加水分解処理して成るものであるが、このセルロースナノクリスタルを更に硫酸を用いて親水化処理することもできる。硫酸は、セルロースナノクリスタル1g(固形分)に対して40~60質量%で使用することが好ましい。40~60℃の温度で5~300分反応させ、その後、透析膜等を用いた濾過処理に付して不純物等を除去することにより、硫酸基及び/又はスルホ基変性セルロースナノクリスタルが調製される。
【0026】
<三酸化硫黄-ピリジン錯体を用いた親水化処理>
三酸化硫黄-ピリジン錯体を用いた処理においては、ジメチルスルホキシド中でセルロースナノクリスタルと三酸化硫黄-ピリジン錯体を、0~60℃の温度で5~240分反応させることにより、セルロースグルコールユニットの6位の水酸基に硫酸基及び/又はスルホ基を導入する。
三酸化硫黄-ピリジン錯体は、セルロースナノクリスタル1g(固形分)に対して0.5~4gの質量で配合することが好ましい。
反応後、水酸化ナトリウム等のアルカリ性化合物を添加して、セルロースナノクリスタルに導入された硫酸基及び/又はスルホ基をH型からNa型に変換することが、収率を向上する上で好ましい。その後、ジメチルホルムアミド又はイソプロピルアルコールを添加して、遠心分離等によって洗浄した後、透析膜等を用いた濾過処理によって不純物等を除去し、得られた濃縮液を水に分散させることにより、硫酸基及び/又はスルホ基変性セルロースナノクリスタルが調製される。
【0027】
<リン酸-尿素を用いた親水化処理>
リン酸-尿素を用いた親水化処理は、リン酸-尿素を用いてリン酸基を導入する従来公知の処理と同様に行うことができる。具体的には、尿素含有化合物の存在下で、セルロースナノクリスタルとリン酸基含有化合物を、135~180℃の温度で5~120分反応させることによって、セルロースグルコースユニットの水酸基にリン酸基を導入する。
リン酸基含有化合物としては、リン酸、リン酸のリチウム塩、リン酸のナトリウム塩、リン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩等を例示できる。中でもリン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸等を好適に単独または混合して使用できる。リン酸基含有化合物は、セルロースナノクリスタル10g(固形分)に対して10~100mmolの量で添加することが好ましい。
また尿素含有化合物としては、尿素、チオ尿素、ビュウレット、フェニル尿素、ベンジル尿素、ジメチル尿素などを例示できる。中でも尿素を好適に使用できる。尿素含有化合物は、セルロースナノクリスタル10g(固形分)に対して150~200mmolの量で使用することが好ましい。
【0028】
<TEMPO触媒を用いた親水化処理>
TEMPO触媒(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル)を用いた親水化処理は、TEMPO触媒を用いた従来公知の酸化方法と同様に行うことができる。具体的には、硫酸基を有するセルロースナノクリスタルを、TEMPO触媒(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン 1-オキシル)を介した水系、常温、常圧の条件下で、セルロースグルコースユニットの6位の水酸基をカルボキシル基に酸化する親水化反応を生じさせる。
TEMPO触媒としては、上記2,2,6,6-テトラメチルピペリジン 1-オキシルの他、4-アセトアミドーTEMPO、4-カルボキシーTEMPO、4-フォスフォノキシーTEMPO等のTEMPOの誘導体を用いることもできる。
TEMPO触媒の使用量は、セルロースナノクリスタル(固形分)1gに対して0.01~100mmol、好ましくは0.01~5mmolの量である。
【0029】
また親水化酸化処理時には、単独又はTEMPO触媒と共に、酸化剤、臭化物又はヨウ化物等の共酸化剤を併用することが好適である。
酸化剤としては、ハロゲン、次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸、過ハロゲン酸又はそれらの塩、ハロゲン酸化物、過酸化物等公知の酸化剤を例示することができ、特に次亜塩素酸ナトリウムや次亜臭素酸ナトリウムを好適に使用できる。酸化剤は、セルロースナノクリスタル(固形分)1gに対して0.5~500mmol、好ましくは5~50mmolの量である。酸化剤を添加して一定時間が経過した後、更に酸化剤を加えることで追酸化処理することもできる。
また共酸化剤としては、臭化ナトリウム等の臭化アルカリ金属、ヨウ化ナトリウム等のヨウ化物アルカリ金属を好適に使用できる。共酸化剤は、セルロースナノクリスタル(固形分)1gに対して0.1~100mmol、好ましくは0.5~5mmolの量である。
また反応液は、水やアルコール溶媒を反応媒体とすることが好ましい。
【0030】
親水化処理の反応温度は1~50℃、特に10~50℃の範囲であり、室温であってもよい。また反応時間は1~360分、特に60~240分であることが好ましい。
反応の進行に伴い、セルロース中にカルボキシル基が生成するため、スラリーのpHの低下が認められるが、酸化反応を効率よく進行させるため、水酸化ナトリウム等のpH調整剤を用いてpH9~12の範囲に維持することが望ましい。
酸化処理後に、水洗、或いは水を加えながら遠心分離やろ過洗浄等をすることによって、親水化処理に用いた酸や触媒を除去する。
【0031】
[解繊処理]
本発明では、原料として繊維長の短いセルロースナノクリスタルを使用するので、必ずしも必要ではないが、親水化処理後に解繊処理を行うこともできる。
解繊処理は、従来公知の方法によって行うことができ、具体的には、超高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、グラインダー、高速ブレンダ―、ビーズミル、ボールミル、ジェットミル、離解機、叩解機、二軸押出機等を使用して微細化することができる。
解繊処理は、親水化処理後のセルロースナノクリスタルの状態に応じて、乾式又は湿式の何れで行うこともできる。セルロースナノクリスタルは分散液の状態で使用されることが好適であることから、水及びアルコール混合溶媒を分散媒として超高圧ホモジナイザー等により解繊することが好適である。
【0032】
[分散処理]
次いでアニオン官能基含有セルロールナノクリスタルは、分散処理に付されることにより、分散液として調製される。分散媒として水及びアルコール混合溶媒を用い、分散処理を行うことが好適であるが、後述する溶媒置換工程によって予め調製された水分散液の水分の一部をアルコールに置換することもできる。
分散処理は超音波分散機、ホモジナイザー、ミキサー等の分散機を好適に使用することができ、また、攪拌棒、攪拌石等による攪拌方法を用いても良い。
【0033】
[溶媒置換処理]
上述したように、予めセルロースナノクリスタル含有水分散液を調製した場合には、セルロースナノクリスタル水分散液の水分の一部を、前述したアルコールで溶媒置換することもできる。
溶媒置換の方法としては、セルロールナノクリスタル水分散液を、遠心分離機や、フィルタを用いた濾過等の脱水方法により水分散液の水分を除去しながら又はした後、アルコールと混合することによって行うことができる。溶媒置換処理後、上記分散処理と同様の方法によりセルロースナノクリスタルを水及びアルコール混合溶媒中に分散させることによって沈殿を生じていないセルロースナノクリスタル分散液が調製される。
【0034】
(塗布液の調製)
本発明の塗布液は、上述したアニオン性官能基含有セルロースナノクリスタル分散液に、さらに添加剤を含有させてなるものであり、このような添加剤としては、前述した通り、層状無機化合物、水酸基含有高分子、反応性架橋剤、酸触媒、pH調整剤などを例示できる。
本発明の塗布液は、アニオン性官能基含有セルロースナノクリスタルが固形分基準で0.01~10質量%、特に0.5~3.0質量%の量で含有されていることが好ましく、上記範囲よりも少ない場合には、上記範囲にある場合に比してガスバリア性が劣るようになり、その一方上記範囲より多いと上記範囲にある場合に比して塗工性や製膜性に劣るようになる。
また、層状無機化合物、水酸基含有高分子、反応性架橋剤は、セルロースナノクリスタル(固形分)の含有量を基準に塗布液に配合することができ、セルロースナノクリスタル100質量部に対して、層状無機化合物を1~50質量部、特に20~40質量部、水酸基含有高分子を1~50質量部、特に20~40質量部、反応性架橋剤を1~50質量部、特に5~20質量部の量で含有することが好適であり、これにより、セルロースナノクリスタルと反応性架橋剤による緻密な架橋構造と共に水酸基含有高分子による可撓性のある架橋構造が形成され、更に均一分散された層状無機化合物による透過ガスの迂回効果が得られることから、高湿度条件下においても優れたガスバリア性を発現することが可能になる。
【0035】
また塗布液は、pHが6~10、特に6.5~9.0に調整されていることが好適であり、これにより層状無機化合物が凝集することなく、均一に分散され、前述した迂回効果によるガスバリア性の向上に寄与できる。本発明においては、反応性架橋剤として架橋効率に優れた多価カルボン酸を使用することが好ましいことから、分散液は酸性域になる。その一方、層状無機化合物は酸性域で凝集しやすいことから、pH調整剤により分散液のpHを上記範囲に調整することが望ましい。
【0036】
[層状無機化合物]
層状無機化合物としては、天然又は合成したもの、親水性又は疎水性を示し、溶媒により膨潤して劈開性を示す従来公知のものを使用でき、これに限定されないが、カオリナイト、ディッカイト、ナクライト、ハロイサイト、アンチゴライト、クリソタイル、パイロフィライト、モンモリロナイト、ヘクトライト、マイカ、テトラシリックマイカ、ナトリウムテニオライト、白雲母、マーガライト、タルク、バーミキュライト、金雲母、ザンソフィライト、緑泥石等を例示することができ、合成マイカ(親水性膨潤性)を好適に使用することができる。
【0037】
[水酸基含有高分子]
水酸基含有高分子としては、ポリビニルアルコール、酢酸ビニルアルコール共重合体、エチレンビニルアルコール共重合体、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、カルボキシルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、澱粉、加工澱粉等を例示できるが、ポリビニルアルコールを好適に使用することができる。ポリビニルアルコールは、部分ケン化型または完全ケン化型で100~10000の重合度を有することが好適である。
【0038】
[反応性架橋剤]
反応性架橋剤としては、反応効率の良い多価カルボン酸を使用する。多価カルボン酸としては、クエン酸、シュウ酸、マロン酸等のアルキルジカルボン酸、テレフタル酸、マレイン酸等の芳香族ジカルボン酸、或いはこれらの無水物等を例示することができ、特に無水クエン酸を好適に使用することができる。
本発明の塗布液においては、セルロースナノクリスタルがアニオン性官能基を含有することにより、酸性条件下でも凝集することなく安定して分散可能なものであることから、上記多価カルボン酸を好適に使用することができる。
反応性架橋剤は酸触媒と共に使用することが好ましい。このような酸触媒としては、硫酸、酢酸、塩酸等を例示できるが、特に硫酸を好適に用いることができる。酸触媒は、セルロースナノクリスタル100質量部(固形分)に対して0.5~10質量部の範囲で配合することが好ましい。
【0039】
[pH調整剤]
pH調整剤としては、例えば硝酸ナトリウム、水酸化アンモニウム、水酸化ナトリウム、アンモニア等の従来公知の塩基を挙げることができるが、特に乾燥処理によって揮発するアンモニアを好適に使用できる。
【0040】
[その他]
本発明の塗布液には、必要に応じて、充填剤、着色剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、耐水化剤、金属塩、コロイダルシリカ、アルミナゾル、酸化チタン等、公知の添加剤を配合することができる。
【0041】
[添加剤の混合と分散処理]
前述した通り、セルロースナノファイバーは繊維長が長く粘性が高いが、アニオン性官能基含有セルロースナノファイバーについては水やアルコール等の分散媒に対する親和性がさらに高くなり、前記セルロースナノファイバーを用いた塗布液は固形濃度が低く粘度が高くなる。粘度の高さから分散処理による分散力と塗布液の流動性は偏在し、添加剤の混合と分散処理について方法、量、時間、添加剤の分布や均一性の観点で困難である。
これに対して、本発明の塗布液では、繊維長の短いアニオン性官能基含有セルロースナノクリスタルを用いることから、固形分濃度が高く粘度が低い塗布液を調製することができ、分散処理による分散力と塗布液の流動性が均質になり、分散方法、量、時間、添加剤の分布や均一性に優れている。更に前記アニオン性官能基含有セルロースナノクリスタルを用いた塗布液は塗工性や製膜性に優れており、塗膜は高いガスバリア性を示す。
【0042】
(成形体)
本発明の成形体は、本発明の塗布液に含有されていたセルロースナノクリスタルと多価カチオン樹脂とを含有する層が基材上に形成されて成る成形体であり、セルロースナノクリスタルを固形分として1m2当たり1.0g含有する場合の23℃50%RHにおける酸素透過度が1.0(cc/m2・day・atm)未満と、優れた酸素バリア性を発現可能であると共に、基材上にセルロースナノクリスタルと多価カチオン樹脂とを含有する層を形成した場合に、該層と基材層との密着性を顕著に向上可能な成形体である。
また本発明の成形体においては、多価カチオン樹脂の存在により疎水性の樹脂から成る層との界面剥離強度が向上されていることから、基材、特に熱可塑性樹脂から成る基材とセルロースナノクリスタル及び多価カチオン樹脂含有層の界面剥離強度が2.3(N/15mm)以上であり、層間剥離の発生が有効に防止されている。
【0043】
本発明の成形体においては、多価カチオン樹脂から成る層上に前述したセルロースナノクリスタル含有塗布液から成る層を形成することによって、優れたガスバリア性及び基材への密着性を発現可能な混合状態を有する層を形成できる。これに対して、多価カチオン樹脂とセルロースナノクリスタルを混合した塗布液は、凝集による自己組織化構造の消滅が起こり、塗布層のガスバリア性は発現されない。そのため、上記のように多価カチオン樹脂から成る層上に、セルロースナノクリスタル含有塗布液から成る層を形成することによって混合状態を有する層を形成することが重要である。すなわち、本発明の塗布液及び多価カチオン樹脂により形成される層の混合状態を定量的に表現することは困難であるが、前述したセルロースナノクリスタルが有する自己組織化構造が維持された状態で多価カチオン樹脂及びセルロースナノクリスタルが混合されることによって初めて形成される。本発明の塗布液及び多価カチオン樹脂により形成される層の内部は最外部の表面付近から基材方向までセルロースナノクリスタルと多価カチオン樹脂が存在している特徴を有している。
【0044】
[多価カチオン樹脂]
本発明の成形体に使用する多価カチオン樹脂としては、水溶性あるいは水性分散性の多価カチオン性官能基を含有する樹脂である。このような多価カチオン樹脂としては、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン、ポリアミンポリアミドエピクロロヒドリン、ポリアミンエピクロロヒドリン等の水溶性アミンポリマー、ポリアクリルアミド、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウム塩)、ジシアンジアミドホルマリン、ポリ(メタ)アクリレート、カチオン化澱粉、カチオン化ガム、ゼラチン、キチン、キトサン等を挙げることができるが、中でも水溶性アミンポリマー、特にポリエチレンイミンを好適に使用することができる。
【0045】
[基材]
基材としては、熱可塑性樹脂を用い、押出成形、射出成形、ブロー成形、延伸ブロー成形、積層成形或いはプレス成形等の手段で製造された、フィルム、シート、或いはボトル状、カップ状、トレイ状、パウチ状、包装容器状等の成形体を例示できる。
基材の厚みは、積層体の形状や用途等によって一概に規定できないが、フィルムの場合で5~50μmの範囲にあることが好適である。
【0046】
熱可塑性樹脂としては、低-、中-或いは高-密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-ブテン-共重合体、アイオノマー、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-ビニルアルコール共重合体等のオレフィン系共重合体;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート、ポリエチレンナフタレート等の芳香族ポリエステル;ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート等の脂肪族ポリエステル;ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン6,10、メタキシリレンアジパミド等のポリアミド;ポリスチレン、スチレン-ブタジエンブロック共重合体、スチレン-アクリロニトリル共重合体、スチレン-ブタジエン-アクリロニトリル共重合体(ABS樹脂)等のスチレン系共重合体;ポリ塩化ビニル、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体等の塩化ビニル系共重合体;ポリメチルメタクリレート、メチルメタクリレート・エチルアクリレート共重合体等のアクリル系共重合体;ポリカーボネート、セルロース系樹脂;アセチルセルロース、セルロースアセチルプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セロファン等の再生セルロース等を例示できるが、ポリエチレンテレフタレートを好適に用いることができる。
熱可塑性樹脂には、所望に応じて顔料、酸化防止剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、滑剤等の添加剤の1種或いは2種類以上を配合することができる。
【0047】
本発明の成形体を含む積層体においては、上記基材及び成形体から成る層以外に、必要により他の層を形成することもできる。
セルロースナノクリスタル及び多価カチオン樹脂の混合物から成る層は、高湿度条件下でのガスバリア性の低下が抑制されているが、オレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂とポリアミン樹脂の硬化反応物等の従来公知の耐湿性樹脂から成る層を更に形成することが望ましい。
【0048】
(成形体の製造方法)
本発明の成形体は、基材上に、多価カチオン樹脂含有溶液を塗工・乾燥し、多価カチオン樹脂から成る層を形成する工程、該多価カチオン樹脂から成る層上に、本発明の塗布液を塗工・乾燥することにより、多価カチオン樹脂及びセルロースナノクリスタルが特有の混合状態で混合された混合物から成る層を有する成形体として製造することができる。
【0049】
[多価カチオン樹脂含有溶液の塗工・乾燥]
多価カチオン樹脂含有溶液は、多価カチオン樹脂を固形分基準で0.01~30質量%、特に0.1~10質量%の量で含有する溶液であることが好ましい。上記範囲よりも多価カチオン樹脂の量が少ない場合には、上記範囲にある場合に比して、ガスバリア性及び界面剥離強度の向上を図ることができず、一方上記範囲よりも多価カチオン樹脂の量が多くてもガスバリア性及び界面剥離強度の更なる向上は得られず経済性に劣ると共に、塗工性や製膜性にも劣るおそれがある。
また多価カチオン樹脂含有溶液に用いる溶媒としては、水、メタノール,エタノール,イソプロパノール等のアルコール、2-ブタノン,アセトン等のケトン、トルエン等の芳香族系溶剤、及びこれらと水との混合溶媒であってもよい。
また多価カチオン樹脂含有溶液には、必要に応じて、充填剤、着色剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、耐水化剤、粘土鉱物、架橋剤、金属塩、コロイダルシリカ、アルミナゾル、酸化チタン等、公知の添加剤を配合することができる。
【0050】
多価カチオン樹脂含有溶液は、本発明の塗布液から形成される層中のセルロースナノクリスタル量(固形分)を基準に、多価カチオン樹脂含有溶液の濃度によって塗工量が決定される。すなわち、前述したとおり、セルロースナノクリスタル(固形分)を1m2当たり1.0gの量で含有する場合に、多価カチオン樹脂が1m2当たり0.01~2.0gの量で含有されるように、塗工することが好ましい。上記範囲よりも多価カチオン樹脂の量が少ない場合には、上記範囲にある場合に比して、ポリエステル樹脂などの疎水性の基材に対する界面剥離強度の向上を図ることができず、その一方、上記範囲よりも多価カチオン樹脂の量が多い場合には、上記範囲にある場合に比して、成形体のガスバリア性の向上が得られないおそれがある。
塗布方法としては、これに限定されないが、例えばスプレー塗装、浸漬、或いはバーコーター、ロールコーター、グラビアコーター等により塗布することが可能である。また塗膜の乾燥方法としては、温度5~200℃で0.1秒~24時間の条件で乾燥することが好ましい。また乾燥処理は、温風乾燥、オーブン乾燥、赤外線加熱、高周波加熱等により行うことができるが、自然乾燥であってもよい。
【0051】
[セルロースナノクリスタル含有塗布液の塗工・乾燥]
前述した本発明の塗布液は、セルロースナノクリスタル(固形分)が1m2当たり0.1~3.0gとなるように塗工することが好ましい。
塗布液の塗布方法及び乾燥方法は、多価カチオン含有溶液の塗布方法及び乾燥方法と同様に行うことができることから、温度5℃~200℃で1秒~24時間の条件で乾燥すればよい。特に、高温による基材や塗布層の劣化防止や、乾燥時間の短縮のために、本発明の塗布液は、固形分濃度が0.5~3質量%の時に150℃で乾燥したときの固形化までの時間が60秒以下の条件で乾燥した場合でも、塗工不良を生じることなく塗膜を形成することができる。尚、塗工不良としては、塗工表面のスジ、凹凸、塗工抜け、ゲル、ブツ、ゆず肌や塗工膜中のボイド等が挙げられる。
【0052】
アニオン性官能基含有セルロースナノファイバーを用いた塗布液は、前述した通り粘性が高く、塗工処理において塗工不良を生じる。前記アニオン性官能基含有セルロースナノファイバーにアルコールを加えた場合ゲル化し、さらに粘度が高まる可能性がある。また粘性が高く固形化濃度を上げることができないことから揮発溶媒量が多く、ゲル状であることから、アニオン性官能基含有セルロースナノファイバーを用いた塗布液は固形化するまでの乾燥処理時間が長くなる。
これに対して、本発明のアニオン性官能基含有セルロースナノクリスタルを含む塗布液は、前述した通り、粘性が低く、塗工処理において塗工不良を生じない。また粘性が低く固形分濃度を上げることができるので揮発溶媒量が少なくすることが可能であり、また液状であることから、アニオン性官能基含有セルロースナノクリスタルを用いた塗布液は固形化するまでの乾燥処理時間が短くなる。
本発明の塗布液は、PETフィルム上にバーコーター(30番手)で塗工した時の塗工面において塗工不良が発生せず、かつセルロースナノクリスタルの固形分濃度が0.5~3質量%である塗布液の塗工面を温風付オーブン乾燥機において150℃で乾燥したときの固形化までの時間が60秒以下であることが好適である。
【実施例】
【0053】
以下に本発明の実施例を説明する。なお、以下の実施例は本発明の一例であり、本発明はこれらの実施例には限定されない。各項目の測定方法は、次の通りである。
【0054】
<アニオン性官能基量>
アニオン性官能基含有CNCの分散液を秤量し、イオン交換水を加えて100mlに調製した。このアニオン性官能基含有CNC分散液に陽イオン交換樹脂を0.1g加えて攪拌処理した。その後ろ過を行い陽イオン交換樹脂とアニオン性官能基含有CNC分散液を分離した。陽イオン交換後の分散液に対して電位差自動滴定装置(京都電子社製)を用いて0.05M水酸化ナトリウム溶液を滴下し、アニオン性官能基含有CNCの分散液が示す電気伝導度の変化を計測した。得られた伝導度曲線からアニオン性官能基の中和の為に消費された水酸化ナトリウム滴定量を求め、下記式(1)を用いてアニオン性官能基量(mmol/g)を算出した。
アニオン性官能基量(mmol/g)=アニオン性官能基の中和の為に消費した水酸化ナトリウム滴定量(ml)×前記水酸化ナトリウム濃度(mmol/ml)÷アニオン性官能基含有CNCの固形質量(g)・・・(1)
【0055】
<複屈折>
塗布液について偏光検査装置において偏光板を用いた鋭敏色法による偏光観察を行い、ネマティック液晶及び/又はキラルネマティック液晶屈折像に由来する複屈折の有無を確認した。表中、複屈折が確認された場合を「〇」と表記した。
【0056】
<粘度測定>
塗布液について回転式粘度計(VISCO、アタゴ)を用いてスピンドルの回転数を60rpmで60秒間回転させた時の粘度(mPa・S)を測定した。
【0057】
<塗工面と乾燥時間の評価>
塗布液についてコロナ処理されたPETフィルム上にバーコータ-(#30)を用いて塗工した塗工面を評価した。また、前記塗工面についてオーブンを用いて150℃で加熱乾燥したときの固形化するまでの時間を測定した。
【0058】
<酸素透過度>
酸素透過量測定装置(OX-TRAN2/22、モコン)を用いて、23℃、湿度50%RHの条件で成形物の酸素透過度(cc/m2・day・atm)を測定した。
【0059】
<実施例1>
<水に分散したセルロースナノクリスタル分散液の調製>
パルプを64重量%の硫酸で分解処理することによって調製したアニオン性官能基含有セルロースナノクリスタルにイオン交換水を加えてミキサーで分散処理することで水に分散したアニオン性官能基含有セルロースナノクリスタル分散液を得た。
【0060】
<水/アルコールに分散したセルロースナノクリスタル含有塗布液の調製>
前記セルロースナノクリスタル含有分散液についてポリビニルアルコール(完全ケン化型)、合成マイカ(親水性膨潤性雲母)、無水クエン酸、硫酸、を添加して攪拌を行い、さらにpHが7になるまでNH3を加えて攪拌し、添加剤を含むアニオン性官能基含有セルロースナノクリスタル分散液を調製した。
さらに前記添加剤を含むアニオン性官能基含有セルロースナノクリスタル分散液に所定量の2-プロパノールを加えて攪拌し、塗布液の溶媒の質量とアニオン性官能基含有セルロースナノクリスタルの質量の合計100質量部に対してアニオン性官能基含有セルロースナノクリスタルの固形量が0.5質量部であり、アニオン性官能基含有セルロースナノクリスタル100質量部に対してポリビニルアルコール、合成マイカ、無水クエン酸、硫酸がそれぞれ30質量部、30質量部、10質量部、2質量部であり、水/アルコールの混合割合において水90質量部に対して2-プロパノールが10質量部である、水/アルコールに分散したセルロースナノクリスタル含有塗布液を調製した。
【0061】
<多価カチオン樹脂及びセルロースナノクリスタルを含有する層が形成されて成る成形物>
基材としてコロナ処理された2軸延伸PETフィルム(ルミラーP60,12μm,東レ株式会社製)を用い、この基材にバーコーターを用い、多価カチオン樹脂としてポリエチレンイミン(PEI)を塗工量が固形量として0.06g/m2になるように塗布し、熱風乾燥器(MSO-TP,ADVANTEC社製)により50℃で10分乾燥して固形化した。固形化された多価カチオン樹脂(PEI)の上に、バーコーターを用いて前記セルロースナノクリスタル含有塗布液を塗工し、室温で一晩風乾した後150℃で加熱処理を行い、多価カチオン樹脂(PEI)及びセルロースナノクリスタルを含有する層が形成されて成る成形物を調製した。前記成形物のアニオン性官能基含有セルロースナノクリスタルの固形量は1.0g/m2であった。
【0062】
<実施例2>
アニオン性官能基含有セルロースナノクリスタルの固形量を1質量部に変更した以外は実施例1と同様の方法でセルロースナノクリスタル含有塗布液及び成形物を調製した。
【0063】
<実施例3>
アニオン性官能基含有セルロースナノクリスタルの固形量を2質量部に変更した以外は実施例1と同様の方法でセルロースナノクリスタル含有塗布液及び成形物を調製した。
【0064】
<実施例4>
アニオン性官能基含有セルロースナノクリスタルの固形量を3質量部に変更した以外は実施例1と同様の方法でセルロースナノクリスタル含有塗布液及び成形物を調製した。
【0065】
<実施例5>
水/アルコールの混合割合について水80質量部に対して2-プロパノールを20質量部に変更した以外は実施例2と同様の方法でセルロースナノクリスタル含有塗布液及び成形物を調製した。
【0066】
<実施例6>
水/アルコールの混合割合について水70質量部に対して2-プロパノールを30質量部に変更した以外は実施例2と同様の方法でセルロースナノクリスタル含有塗布液及び成形物を調製した。
【0067】
<実施例7>
水/アルコールの混合割合について水60質量部に対して2-プロパノールを40質量部に変更した以外は実施例2と同様の方法でセルロースナノクリスタル含有塗布液及び成形物を調製した。
【0068】
<実施例8>
水/アルコールの混合割合について水50質量部に対して2-プロパノールを50質量部に変更した以外は実施例2と同様の方法でセルロースナノクリスタル含有塗布液及び成形物を調製した。
【0069】
<実施例9>
水/アルコールの混合割合について水80質量部に対して2-プロパノールを20質量部に変更した以外は実施例3と同様の方法でセルロースナノクリスタル含有塗布液及び成形物を調製した。
【0070】
<実施例10>
水/アルコールの混合割合について水70質量部に対して2-プロパノールを30質量部に変更した以外は実施例3と同様の方法でセルロースナノクリスタル含有塗布液及び成形物を調製した。
【0071】
<比較例1>
クラフトパルプ10g(固形量)の水分散液に対してTEMPO触媒(Sigma Aldrich社)0.8mmolと臭化ナトリウム12.1mmolを添加し、イオン交換水を加えて1Lにメスアップし、均一に分散するまで攪拌した。反応系にセルロース1g当たり15mmolの次亜塩素酸ナトリウムを添加し、酸化反応を開始した。反応中は0.5N水酸化ナトリム水溶液でpH10.0から10.5に系内のpHを保持し、30℃で4時間酸化反応を行った。酸化セルロースはイオン交換水を加えながら高速冷却遠心分離機(16500rpm,10分)を用いて中性になるまで十分洗浄を行った。洗浄した酸化セルロースに水を加え、ミキサー(7011JBB,大阪ケミカル株式会社)で解繊処理してカルボキシル基を含有するアニオン性官能基含有セルロースナノファイバー分散液を調製した。さらに所定量の2-プロパノールを加えて攪拌し、アニオン性官能基含有セルロースナノファイバーの固形量が1質量部であり、水/アルコールの混合割合について水90質量部に対して2-プロパノールが10質量部である、水/アルコールに分散したセルロースナノファイバー含有塗布液を調製した。
その後はセルロースナノクリスタル含有塗布液を前記セルロースナノファイバー含有塗布液に変更した以外は実施例2と同様に行い、成形物を調製した。
【0072】
<比較例2>
比較例1で調製したセルロースナノファイバー含有塗布液について、セルロースナノファイバー100質量部に対してポリビニルアルコール、合成マイカ、無水クエン酸、硫酸がそれぞれ30質量部、30質量部、10質量部、2質量部添加した以外は比較例1と同様の方法でセルロースナノファイバー含有塗布液及び成形物を調製した。
【0073】
【0074】
【0075】
【0076】
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の塗布液は、アニオン性官能基含有セルロースナノクリスタルを均一に分散した緻密な架橋構造を形成でき、高湿度条件下においても優れたガスバリア性を有することから、ガスバリア性能を付与可能な塗布液として使用でき、しかも固形分濃度が高いにもかかわらず、粘度の低い塗布液とすることができ、添加剤の分散性が良好であると共に、塗工面に塗工不良がなく、水及びアルコール混合溶媒の使用と相俟って、固形化までの時間を短縮可能であり、生産性及び経済性に優れている。
また本発明のセルロースナノクリスタル含有塗布液と多価カチオン樹脂との混合物から成る層を有する成形体とすることで、より優れたガスバリア性を発現可能であり、熱可塑性樹脂等から成る疎水性の基材との界面剥離強度も向上されていることから、ガスバリア性積層体として好適に使用される。