(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】医療用吸引集液器
(51)【国際特許分類】
A61M 1/00 20060101AFI20240925BHJP
【FI】
A61M1/00 109
(21)【出願番号】P 2020160800
(22)【出願日】2020-09-25
【審査請求日】2023-08-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【氏名又は名称】右田 俊介
(72)【発明者】
【氏名】近藤 正芳
【審査官】永冨 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-093227(JP,A)
【文献】特表2016-509213(JP,A)
【文献】特表2014-523300(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0016587(US,A1)
【文献】特開昭60-005162(JP,A)
【文献】特開2018-061731(JP,A)
【文献】特開2014-136104(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体側と接続される生体側接続ポートを有し、前記生体からの排液を集液する集液室と、
水位の変動を外部から目視観察可能な細管と、気泡の発生を外部から目視観察可能な水封室と、出口側ポートと、を有し、前記集液室と連通している水封部と、
前記出口側ポートに接続され、前記水封室からの排気の流量を計測する流量センサ部と、前記流量センサ部による計測値に対する演算処理を行う演算処理部と、を有する流量計測部と、
前記流量センサ部の下流側に位置し、吸引源に接続される吸引側接続ポートと、
前記演算処理部による演算結果を表示出力する表示出力部と、
を備え
、
前記流量センサ部は、互いに直列に配管接続されている第1流量センサと第2流量センサとを有し、
前記第1流量センサは、下流側に向かう前記排気の流量を正の計測値として経時的に計測するとともに上流側に逆流する前記排気の流量を負の計測値として経時的に計測する一方で、前記第2流量センサは、上流側に逆流する前記排気の流量を正の計測値として経時的に計測するとともに下流側に向かう前記排気の流量を負の計測値として経時的に計測するように、上/下流方向において互いに逆向きに配置されており、
前記第1流量センサ及び前記第2流量センサの各々は、正の計測値の信頼性の方が、負の計測値の信頼性よりも高く、
前記演算処理部は、前記第1流量センサによる正負の計測値のうち正の計測値を選択的に採用して正の値として演算に用いる一方で、前記第2流量センサによる正負の計測値のうち正の計測値を選択的に採用して負の値として演算に用い、
前記演算処理部は、前記流量センサ部による計測値の経時的な変化を前記表示出力部に出力させる医療用吸引集液器。
【請求項2】
前記演算処理部は、前記流量センサ部による計測値の時間平均値を演算して前記表示出力部に出力させる請求項
1に記載の医療用吸引集液器。
【請求項3】
前記出口側ポートと前記流量センサ部との間に配置された疎水性フィルタを備える請求項1
又は2に記載の医療用吸引集液器。
【請求項4】
前記流量センサ部の下流側に位置し、前記吸引側接続ポートを有する吸引圧制御室を更に備える請求項1から
3のいずれか一項に記載の医療用吸引集液器。
【請求項5】
前記流量センサ部及び前記吸引圧制御室はそれぞれ入口側ポートを有し、
前記水封室の前記出口側ポートは、前記流量センサ部の前記入口側ポート又は前記吸引圧制御室の前記入口側ポートに対して選択的に接続可能なコネクタを備える請求項
4に記載の医療用吸引集液器。
【請求項6】
前記集液室と、前記水封部と、前記吸引圧制御室と、を有する吸引集液器本体と、
前記吸引集液器本体及び前記流量計測部を支持する移動式支持架台と、
を備え、
前記流量計測部は、前記流量センサ部と前記演算処理部とを内蔵する筐体を有し、
前記移動式支持架台は、当該移動式支持架台を床面上で移動可能に支持する車輪付キャスター部を有する請求項
4又は
5に記載の医療用吸引集液器。
【請求項7】
前記水封部から前記流量計測部までの間に、陽圧を外部に開放する陽圧逃がし弁を備える請求項1から
6のいずれか一項に記載の医療用吸引集液器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用吸引集液器に関する。
【背景技術】
【0002】
生体からチューブを介して排液(体液)及び気体を吸引する医療用吸引集液器としては、生体からの排液を集液する集液室と、水位の変動を外部から目視観察可能な細管と、気泡の発生を外部から目視観察可能な水封室と、を備えているタイプのものがある。
このタイプの医療用吸引集液器では、水位の変動を外部から目視観察することによって生体内の内圧の変動をモニタするとともに、気泡の発生を外部から目視観察することによって生体からの排気の有無を確認できるものがある。
このような医療用吸引集液器としては、例えば特許文献1に記載のものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本願発明者の検討によれば、特許文献1の技術では生体からの吸引量の変動や排気の有無を確認する観点で、改善の余地がある。
【0005】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、生体からの吸引量の変動や排気の有無を、より確実に確認することが可能な医療用吸引集液器を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、生体側と接続される生体側接続ポートを有し、前記生体からの排液を集液する集液室と、
水位の変動を外部から目視観察可能な細管と、気泡の発生を外部から目視観察可能な水封室と、出口側ポートと、を有し、前記集液室と連通している水封部と、
前記出口側ポートに接続され、前記水封室からの排気の流量を計測する流量センサ部と、前記流量センサ部による計測値に対する演算処理を行う演算処理部と、を有する流量計測部と、
前記流量センサ部の下流側に位置し、吸引源に接続される吸引側接続ポートと、
前記演算処理部による演算結果を表示出力する表示出力部と、
を備え、
前記流量センサ部は、互いに直列に配管接続されている第1流量センサと第2流量センサとを有し、
前記第1流量センサは、下流側に向かう前記排気の流量を正の計測値として経時的に計測するとともに上流側に逆流する前記排気の流量を負の計測値として経時的に計測する一方で、前記第2流量センサは、上流側に逆流する前記排気の流量を正の計測値として経時的に計測するとともに下流側に向かう前記排気の流量を負の計測値として経時的に計測するように、上/下流方向において互いに逆向きに配置されており、
前記第1流量センサ及び前記第2流量センサの各々は、正の計測値の信頼性の方が、負の計測値の信頼性よりも高く、
前記演算処理部は、前記第1流量センサによる正負の計測値のうち正の計測値を選択的に採用して正の値として演算に用いる一方で、前記第2流量センサによる正負の計測値のうち正の計測値を選択的に採用して負の値として演算に用い、
前記演算処理部は、前記流量センサ部による計測値の経時的な変化を前記表示出力部に出力させる医療用吸引集液器が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、生体からの吸引量の変動や排気の有無を、より確実に確認することが可能な構造の医療用吸引集液器を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態に係る医療用吸引集液器の模式図である。
【
図2】実施形態における吸引集液器本体の正面図である。
【
図3】実施形態における流量計測部の周辺構造を示す模式図である。
【
図4】
図4(a)及び
図4(b)は実施形態に係る医療用吸引集液器を示す図であり、このうち
図4(a)は正面図、
図4(b)は背面側の斜視図である。
【
図5】
図5(a)及び
図5(b)は流量センサ部による計測値の時間変化を示すグラフであり、このうち
図5(a)は生体からの排気がない状態における計測値を示し、
図5(b)は生体からの排気がある状態における計測値を示す。
【
図6】実施形態における流量センサ部による計測値の時間変化を示すグラフであり、1分毎の計測値を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について、
図1から
図6を用いて説明する。なお、すべての図面において、同様の構成要素には同一の符号を付し、適宜に説明を省略する。
なお、
図1において、医療用吸引集液器100による吸引の方向を矢印で示している。
なお、以下において、「上下方向」は、
図4(a)に示す向きで医療用吸引集液器100を配置した状態における上下方向をいう。より詳細には、医療用吸引集液器100は、
図4(a)に示す姿勢で水平な床面に設置されることにより自立可能となっている。また、「左右方向」は、
図4(a)に示す向きで医療用吸引集液器100を配置した状態における左右方向をいう。また、医療用吸引集液器100の左右方向を横幅方向という場合がある。また、上下方向と左右方向との双方に対して直交する方向を前後方向とする。
【0010】
なお、以下に説明する実施形態は、本発明の理解を容易にするための一例に過ぎず、本発明を限定するものではない。すなわち、以下に説明する部材の形状、寸法、配置等については、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、変更又は改良され得るとともに、本発明にはその等価物が含まれる。
なお、本発明の医療用吸引集液器100の各種の構成要素は、個々に独立した存在である必要はない。複数の構成要素が一個の部材として形成されていること、一つの構成要素が複数の部材で形成されていること、ある構成要素が他の構成要素の一部であること、ある構成要素の一部と他の構成要素の一部とが重複していること、等を許容する。
【0011】
図1から
図4(b)のいずれかに示すように、本実施形態に係る医療用吸引集液器100は、生体側と接続される生体側接続ポート26を有し、生体からの排液21を集液する集液室20と、水位の変動を外部から目視観察可能な細管32と、気泡の発生を外部から目視観察可能な水封室35と、出口側ポート(例えば、第1出口側ポート36)と、を有し、集液室20と連通している水封部30と、出口側ポート(第1出口側ポート36)に接続され、水封室35からの排気の流量を計測する流量センサ部52と、流量センサ部52による計測値に対する演算処理を行う演算処理部55と、を有する流量計測部50と、流量センサ部52の下流側に位置し、吸引源65に接続される吸引側接続ポート47と、演算処理部55による演算結果を表示出力する表示出力部60と、を備える。
なお、以下の説明において、生体と接続される側を、上流側とし、吸引源65と接続される側を、下流側とする。
【0012】
医療用吸引集液器100は、例えば、吸引チューブ(不図示)を介して、生体から気体及び排液(体液)を吸引する。
より詳細には、医療用吸引集液器100を使用する際には、水封部30(細管32及び水封室35)には液体31(例えば、滅菌蒸留水や生理食塩水)が注入される。これにより、生体の内部と集液室20及び水封部30とが気密に封止されることとなる。医療用吸引集液器100による吸引が開始されると、細管32における液体31の水位は、生体内の内圧の変動に連動して上下に変動する。また、水封室35からの排気は、細管32の水位の変動に連動して、上流側から流量センサ部52の内部へ流動、又は下流側から流量センサ部52の内部へ逆流する。
ここで、生体からの排気は、集液室20から水封部30に流入し液体31を通過する際に、水封室35において気泡として確認される。また、当該排気と同等の体積の気体が流量センサ部52に流入する。
【0013】
本実施形態によれば、医療用吸引集液器100は、水位の変動を外部から目視観察可能な細管32と、気泡の発生を外部から目視観察可能な水封室35と、を備えている。このため、細管32の水位の変動を外部から目視観察することによって、生体内の内圧の変動の監視を行うことができる。また、水封室35における気泡の発生を目視観察することによって、生体からの排気の有無を監視することができる。
更に、医療用吸引集液器100が、水封室35からの排気の流量を計測する流量センサ部52と、流量センサ部52による計測値に対する演算処理を行う演算処理部55と、を有する。そして、当該計測値に基づいて、吸引量と排気の有無を監視することができる。
このように、本実施形態によれば、細管32の水位変動及び水封室35における気泡の発生の目視観察というアナログ的な観察によって、生体からの排気の有無、及び、呼吸性変動(呼吸性移動)などの生体内の圧力の変動の各々のモニタを可能とさせる機能と、流量計測部50によるデジタル的な測定に基づいて、生体からの吸引量のモニタを可能とさせる機能と、を兼ね備える医療用吸引集液器100を実現することができる。これにより、生体からの吸引量の変動や排気の有無を、より確実に確認することができる。
なお、ここでいう吸引量とは、医療用吸引集液器100が吸引した排液の量と、生体からの排気の量と、を含む。
【0014】
以下、より詳細に説明する。
図1及び
図2に示すように、本実施形態の場合、医療用吸引集液器100は、流量センサ部52の下流側に位置し、吸引側接続ポート47を有する吸引圧制御室40を更に備える。吸引圧制御室40は、吸引側接続ポート47を介して、吸引源65と接続されている。
吸引圧制御室40は、例えば、入口側ポート(以下、第1入口側ポート46)を有する。第1入口側ポート46は流量センサ部52の下流側と接続しており、吸引圧制御室40は、第1入口側ポート46を介して流量計測部50と接続されている。
医療用吸引集液器100を使用する際には、吸引圧制御室40に、液体41(例えば、滅菌蒸溜水又は生理食塩水)を注入し、当該液体41の水量を調整することによって(水位を調整することによって)、吸引源65による吸引圧を調整することができる。
また、本実施形態の場合、吸引源65は、一例として、吸引ポンプである。
【0015】
また、
図3に示すように、流量センサ部52は、例えば、入口側ポート(以下、第2入口側ポート56)と、出口側ポート(以下、第2出口側ポート57)と、を有する。第2入口側ポート56は、例えば、水封部30の第1出口側ポート36と接続されており、流量センサ部52は、第2入口側ポート56を介して水封部30と接続されている。第2出口側ポート57は、例えば、吸引圧制御室40の第1入口側ポート46と接続されており、流量センサ部52は、第2出口側ポート57を介して吸引圧制御室40と接続されている。
【0016】
ここで、本実施形態の場合、医療用吸引集液器100は、例えば、吸引チューブ(不図示)を介して、胸腔に対して気密に接続されるとともに、当該胸腔から気体及び排液(体液)を吸引する。
医療用吸引集液器100が胸腔に対して気密に接続されると、細管32における液体31の水位は、呼吸に伴う胸腔内圧の変動に連動して上下に変動する。
そして、医療用吸引集液器100による吸引が開始されると、胸腔内の排液は、集液室20に集液される。また、胸腔内の気体は、生体側接続ポート26から集液室20に流入し、水封部30の液体31を通過する。この際に、当該気体は水封室35において気泡として確認される。
続いて、
図1に示すように、吸引された気体と排液との合計の体積と同等の体積の気体が、水封室35からの排気として、第1出口側ポート36、第2入口側ポート56、流量センサ部52、第2出口側ポート57、第1入口側ポート46、吸引圧制御室40、及び、吸引側接続ポート47をこの順に通って、吸引源65に吸引される。
また、吸気により胸腔内圧が陽圧側に振れると、水封室35からの排気は上流側から流量センサ部52(下流側)に流動し、吸気により胸腔内圧が陰圧側に振れると、水封室35からの排気は、下流側から流量センサ部52(上流側)に逆流する。
【0017】
ここで、
図3に示すように、流量センサ部52は、例えば、第1流量センサ53と、第2流量センサ54と、を有する。
第1流量センサ53及び第2流量センサ54の各々は、第1ポート52aと第2ポート52bとを有している。第1流量センサ53又は第2流量センサ54を通過する気体は、第1ポート52aから流入し、第2ポート52bから排気される。もしくは、当該気体は、第2ポート52bから流入し、第1ポート52aから排気される。そして、第1流量センサ53及び第2流量センサ54において、第1ポート52aから流入し、第2ポート52bから排気される気体の流量は、正の計測値として計測される一方で、第2ポート52bから流入し、第1ポート52aから排気される気体の流量は、負の計測値として計測される。なお、第1流量センサ53及び第2流量センサ54の各々において、第1ポート52aから第2ポート52bへ流動する気体の計測値の信頼性の方が、第2ポート52bから第1ポート52aへ流動する気体の計測値の信頼性よりも高い。換言すると、第1流量センサ53及び第2流量センサ54の各々は、正の計測値の信頼性の方が、負の計測値の信頼性よりも高い。
本実施形態の場合、一例として、第1流量センサ53の第1ポート52a、第1流量センサ53の第2ポート52b、第2流量センサ54の第2ポート52b、第2流量センサ54の第1ポート52a、とが上流側からこの順に配置されている状態で、第1流量センサ53と第2流量センサ54とは互いに直列に配管接続されている。
したがって、第1流量センサ53は、下流側に向かう排気の流量を正の計測値として計測するとともに上流側に逆流する排気の流量を負の計測値として計測する。一方、第2流量センサ54は、上流側に逆流する排気の流量を正の計測値として計測するとともに下流側に向かう排気の流量を負の計測値として計測する。すなわち、第1流量センサ53及び第2流量センサ54の各々は、上/下流方向において互いに逆向きに配置されている。
そして、演算処理部55は、第1流量センサ53による正負の計測値のうち正の計測値を選択的に採用して正の値として演算に用いる一方で、第2流量センサ54による正負の計測値のうち正の計測値を選択的に採用して負の値として演算に用いる。
【0018】
このように、本実施形態の場合、流量センサ部52は、互いに直列に配管接続されている第1流量センサ53と第2流量センサ54とを有する。
第1流量センサ53は、下流側に向かう排気の流量を正の計測値として計測するとともに上流側に逆流する排気の流量を負の計測値として計測する一方で、第2流量センサ54は、上流側に逆流する排気の流量を正の計測値として計測するとともに下流側に向かう排気の流量を負の計測値として計測するように、上/下流方向において互いに逆向きに配置されている。
そして、第1流量センサ53及び第2流量センサ54の各々は、正の計測値の信頼性の方が、負の計測値の信頼性よりも高い。また、演算処理部55は、第1流量センサ53による正負の計測値のうち正の計測値を選択的に採用して正の値として演算に用いる一方で、第2流量センサ54による正負の計測値のうち正の計測値を選択的に採用して負の値として演算に用いる。
これにより、下流側に向かう排気の流量と上流側に逆流する排気の流量との両方を好適に計測することができるので、呼気の際の排気の流量と、吸気の際の排気の流量と、をそれぞれ計測することができる。すなわち、排気の流量をより正確に把握することができる。
また、連続的に上記計測を行うことによって、当該排気の流量の変動も把握することができる。更に、水封室35からの排気の流量をより正確に計測することができるので、胸腔からの排気の流量もより正確に計測することができる。
【0019】
第1流量センサ53及び第2流量センサ54のサンプリングの間隔は、特に限定されないが、一例として、それぞれ0.03秒である。
また、第1流量センサ53の計測範囲は、例えば、-250mL/分以上1000mL/分以下であることが好ましく、第2流量センサ54の計測範囲は、例えば、―1000mL/分以上250mL/分以下であることが好ましい。
なお、第1流量センサ53において、例えば、負の値の計測範囲の信頼性は、正の値の計測範囲の信頼性よりも低い。
また、本実施形態の場合、第1流量センサ53及び第2流量センサ54として、それぞれ同一タイプの流量センサを用いることができる。ただし、第1流量センサ53と第2流量センサ54とは互いに異なるタイプの流量センサであってもよい。
【0020】
ここで、
図5(a)及び
図5(b)の各々は、流量センサ部52(第1流量センサ53及び第2流量センサ54)によって計測された計測値の時間変化のグラフである。なお、
図5(a)及び
図5(b)の各々においては、横軸は時間(秒)、縦軸は流量(mL/分)である。
本実施形態の場合、演算処理部55は、第1流量センサ53による正の計測値と第2流量センサ54による正の計測値とを合算し、更に所定の間隔で平均化して得られた値を、現在の計測値として算出する。
図5(a)及び
図5(b)の各々は、一例として、第1流量センサ53及び第2流量センサ54によって0.03秒のサンプリングの間隔で計測された計測値の1分間分を平均することにより得られた値、すなわち1分毎の時間平均値をそれぞれプロットしている。
【0021】
生体が呼気を行う際には胸腔内圧が陽圧側に振れるため、
図5(a)及び
図5(b)に示すように水封室35からの排気は、上流側から流量センサ部52(下流側)に向かい、第1流量センサ53によって正の計測値として計測される。一方、生体が吸気を行う際には胸腔内圧が陰圧側に振れるため、水封室35からの排気は、下流側から流量センサ部52(上流側)に逆流するので、第2流量センサ54によって正の計測値として計測される。
ここで、胸腔からの排気の流量は、演算処理部55によって正の値として演算に用いられる。このため、胸腔からの排気がある場合(
図5(b))、胸腔からの排気がない場合(
図5(a))と比較して、演算処理部55によって算出される正の値がより大きくなる。よって、気泡の発生の目視観察に加えて、正の値と負の値との差を確認することによっても、生体からの排気の有無を容易に認識することができる。
【0022】
ここで、表示出力部60に、流量センサ部52による計測値の経時的な変化(推移)、を表示させることが好ましい。
この表示を確認することにより、流量センサ部52による計測値の推移の履歴を遡って確認することができるので、医療用吸引集液器100の吸引量の変動の経時的な変化を容易に把握することができる。よって、生体からの吸引量の変動や排気の有無を、より確実に確認することができる。
更に、演算処理部55は、流量センサ部52による計測値の時間平均値を演算して表示出力部60に出力させることが好ましい。より詳細には、
図6に示すように、表示出力部60に、流量センサ部52による計測値の時間平均値の経時的な変化(推移)のグラフを表示させることが好ましい。
なお、
図6は、流量センサ部52(第1流量センサ53及び第2流量センサ54)によって計測された計測値の時間変化のグラフであり、演算処理部55によって算出された時間平均値をプロットしている。また、
図6においては、横軸は時間(分)、縦軸は流量(mL/分)である。
図6に示すように、上記計測値の時間平均値の経時的な変化(推移)を表示出力部60に出力させることによって、より長い期間における吸引量の変動の経時的な変化を容易に確認することができる。なお、本実施形態の場合、一例として、演算処理部55が表示出力部60を制御している。
【0023】
本実施形態の場合、一例として、演算処理部55は、1秒毎の時間平均値と、1分毎の時間平均値と、1時間毎の時間平均値と、をそれぞれ算出することができる。
また、表示出力部60は、例えば、1分間と、1時間と、1日と、4日間と、7日間と、の表示スパンでそれぞれ使用者による選択操作に応じて選択的に表示可能に構成されている。
より詳細には、表示スパンが1時間の表示は、例えば、
図6に示すように、1分毎の時間平均値の1時間分のデータを一括して(一画面に)表示する。同様に、表示スパンが1分間の表示は、例えば、1秒毎の時間平均値の1分間分のデータを一括して表示し、表示スパンが1日の表示は、例えば、1時間毎の時間平均値の1日分のデータを一括して表示し、表示スパンが4日間の表示は、例えば、1時間毎の時間平均値の4日分のデータを一括して表示し、表示スパンが7日間の表示は、例えば、1時間毎の時間平均値の7日分のデータを一括して表示する。なお、一括して表示する期間は、時間の経過に伴ってシフトする。すなわち、経過した時間分だけ上記の表示スパンがずれる。
このように、長期間に亘る吸引量の経時的変化を遡って確認することができるので、胸腔からの吸引量の変動や排気の有無を、より確実に確認することができる。
また、表示出力部60は、例えば、1分毎の時間平均値の数値を現在の計測値として表示可能に構成されていることが好ましい。
【0024】
図2に示すように、本実施形態の場合、医療用吸引集液器100は、集液室20と、水封部30と、吸引圧制御室40と、を有する吸引集液器本体10を備えている。
吸引集液器本体10は、例えば、集液室20及び水封部30の各々を構成している第1容器本体11と、吸引圧制御室40を構成している第2容器本体12と、第1容器本体11と第2容器本体12とを一体的に支持している支持板16と、支持板16を回転可能に支持している回転式支持台17と、を備えている。
吸引集液器本体10は、例えば、回転式支持台17が水平な載置面上に載置された状態で自立可能である。また、吸引集液器本体10が自立している状態において、第1容器本体11及び第2容器本体12の各々の底面部は、当該載置面に対して水平となっていることが好ましい。このようにすることにより、細管32の水位、及び、吸引圧制御室40の水位を正確に計測することができる。
【0025】
第1容器本体11の形状は特に限定されないが、第1容器本体11は、例えば、上下寸法及び左右寸法の各々よりも前後寸法が小さい扁平な略直方体形状に形成されている。
第1容器本体11は、例えば、第1容器本体11の内部空間を左右に区画する第1仕切壁部11a(
図2参照)を有している。第1容器本体11の内部空間において、第1仕切壁部11aを基準として、左半部の領域が集液室20を構成しており、右半部の領域が水封部30を構成している。したがって、第1容器本体11の内部空間において、左半部の領域(集液室20)に胸腔からの排液21が集液され、右半部の領域(水封部30)に液体31が注入される。
第1仕切壁部11aは、第1容器本体11の底面部の横方向における中央部から上方に向けて延出している板状の部分であり、当該第1仕切壁部11aの板面が左右方向を向いている。第1仕切壁部11aの上端と第1容器本体11の天面部との間には間隙が形成されており、当該間隙を介して集液室20と水封部30とは互いに連通している。
【0026】
更に、第1容器本体11は、水封部30を左右に区画する第2仕切壁部11bを有している。第2仕切壁部11bを基準として、第1容器本体11の内部空間における左半部の領域が細管32を構成しており、右半部の領域が水封室35を構成している。
第2仕切壁部11bは、第1容器本体11の天面部から右方に向けて延出しており、更に、第1仕切壁部11aよりも右側の位置において下方に向けて延出している板状の部分であり、当該下方に向けて延出している板状の部分の板面が左右方向を向いている。第2仕切壁部11bの下端と第1容器本体11の底面部との間には間隙が形成されており、当該間隙を介して細管32と水封室35とは互いに連通している。
そして、水封室35に液体31を注入すると、上記間隙を介して水封室35から細管32に液体31は流入する。水封部30(第1容器本体11)の前面には、液体31の注水規定量を示す注水指示ライン34(
図2参照)が付されている。規定量の液体31を注水した際に、水封部30の内圧と集液室20の内圧とが互いに等しい場合、水封室35の水位と細管32の水位との各々は注水指示ライン34の高さ位置と一致する。
【0027】
また、
図2に示すように、第1容器本体11の天面部における、集液室20を構成している部分には、生体側接続ポート26と、接続チューブ26aが設けられており、水封部30を構成している部分には、第1出口側ポート36と、連結チューブ36aが設けられている。なお、
図2において、接続チューブ26aの上流端部と、連結チューブ36aの下流端部と、の図示をそれぞれ省略している。
生体側接続ポート26は、例えば、略円筒状に形成されており、生体側接続ポート26の内腔は、生体側接続ポート26の下流端側の開口を介して第1容器本体11の内部空間(集液室20)と連通している。
接続チューブ26aは、可撓性のチューブであり、生体側接続ポート26の上端側には、接続チューブ26aの下流端部が接続されており、接続チューブ26aの上流端部は、例えば、一端側が胸腔内に挿入されている図示しない吸引チューブの他端部と接続される。すなわち、生体側接続ポート26は、接続チューブ26aを介して生体側と接続される。
第1出口側ポート36は、例えば、略円筒状に形成されており、第1出口側ポート36の内腔は、第1出口側ポート36の下流端側の開口を介して第1容器本体11の内部空間(水封部30)と連通している。
連結チューブ36aは、可撓性のチューブであり、第1出口側ポート36の上端側には、連結チューブ36aの上流端部が接続されており、連結チューブ36aの下流端部は、流量センサ部52の第2入口側ポート56と接続されている。すなわち、第1出口側ポート36は、連結チューブ36aを介して流量センサ部52と互いに連通している。
【0028】
また、第1容器本体11の前面部における水封部30の形成領域の下端部には、例えば、水位調節ポート38が設けられている。水位調節ポート38を介して、例えば、針付きシリンジの中空針を第1容器本体11の内部(水封室35)に挿入することによって、シリンジの内部から水封室35に液体31を注入する、もしくは、水封室35からシリンジの内部に液体31を吸引することができる。これにより、水封室35の水位を調整することができる。
【0029】
また、第1容器本体11の底面部における水封部30の形成領域には、例えば、着色剤(不図示)が固着されている。着色剤が液体31と接触すると、着色剤に含まれている顔料によって液体31は着色される。顔料の色は特に限定されないが、細管32の水位の視認性から彩度が高い色が好ましく、また血液と区別するために赤色以外の色が好ましい。本実施形態の場合、一例として、青色である。
【0030】
図2の示すように、細管32の上端部には、例えば、逆流防止弁33が設けられており、細管32の上端部は逆流防止弁33によって塞がれている。逆流防止弁33は、水封部30(細管32)から集液室20への液体の流入を規制する。これにより、水封部30の液体31が集液室20に逆流してしまうことを抑制できる。
【0031】
更に、医療用吸引集液器100は、例えば、水封部30から流量計測部50までの間に、陽圧を外部に開放する陽圧逃がし弁39(
図1及び
図2参照)を備えている。
第1容器本体11の内圧が一定値未満の状態において、陽圧逃がし弁39は、水封部30の内部から外部(第1容器本体11の外部)への排気を規制している。一方、第1容器本体11の内部が上記一定値以上の陽圧となると、陽圧逃がし弁39は、水封部30の内部から外部(第1容器本体11の外部)への排気を許容する。
陽圧逃がし弁39が設けられていることにより、咳やくしゃみ等により胸腔内において一定値以上の陽圧が発生したとしても、陽圧逃がし弁39を介して水封部30(第1容器本体11)から外部への排気を行うことができるので、当該陽圧を速やかに解除することができる。また、第1容器本体11の内圧が上記一定値未満の状態においては、第1容器本体11の気密性を良好に維持することができるので、水封室35からの排気をより正確に計測することができる。
本実施形態の場合、一例として、陽圧逃がし弁39は、水封室35の上端部に形成されている。
【0032】
また、第1容器本体11には、例えば、吸引によって集液室20に集められた排液の量(集液量)を確認するための目盛と、細管32の水位を胸腔内圧に換算して表示する目盛と、がそれぞれ付されていることが好ましい。
【0033】
第2容器本体12の形状は特に限定されないが、第2容器本体12は、例えば、上下に長尺な略角柱状に形成されている。ただし、第2容器本体12の上端部には、例えば、局所的に幅寸法が小さくなっている括れ部が形成されており、第2容器本体12における当該括れ部よりも上側の部分の幅寸法は、その他の部分の幅寸法よりも大きい。
本実施形態の場合、第2容器本体12の内部空間が吸引圧制御室40を構成している。よって、第2容器本体12の内部空間(吸引圧制御室40)に液体41が注入される。
また、第2容器本体12は、例えば、第2容器本体12の外部と第2容器本体12の内部空間とを相互に連通させている圧力調整管42(
図1及び
図2参照)を有する。
圧力調整管42は、上下方向に長尺な管状に形成されており、その上端部は第2容器本体12の天面部から上方に突出している一方で、残りの部分は第2容器本体12の内部空間に配置されている。そして、第2容器本体12の内部空間(吸引圧制御室40)は、圧力調整管42の上端側の開口を介して第2容器本体12の外部と連通している。圧力調整管42を介して外部から吸引圧制御室40内に吸気することによって、吸引圧制御室40の圧力を良好に調節することができる。
吸引圧制御室40(第2容器本体12)には、例えば、吸引圧制御室40の水位を吸引圧に換算して表示する目盛が付されていることが好ましい。
【0034】
また、
図2に示すように、第2容器本体12の天面部には、第1入口側ポート46と、吸引チューブ46bと、吸引側接続ポート47と、吸引チューブ47aと、がそれぞれ設けられている。
第1入口側ポート46は、上下方向を軸方向とした円筒状に形成されており、第2容器本体12の天面部から上方に突出している。第1入口側ポート46の内部空間は、第1入口側ポート46の下端側の開口を介して第2容器本体12の内部空間(吸引圧制御室40)と連通している。第1入口側ポート46の上端側には、吸引チューブ46b(
図2参照)の下流端部が接続されており、当該吸引チューブ46bの上流端部は流量計測部50の第2出口側ポート57と接続されている。すなわち、第1入口側ポート46は、吸引チューブ46bを介して流量センサ部52と連通している。流量センサ部52からの排気は、吸引チューブ46b及び第1入口側ポート46の各々を介して吸引圧制御室40に流入する。
吸引チューブ46bは、例えば、一方向に長尺な管状に形成されている可撓性のチューブである。
吸引側接続ポート47は、上下方向を軸方向とした円筒状に形成されており、第2容器本体12の天面部から上方に突出している。吸引側接続ポート47の内部空間は、吸引側接続ポート47の下端側の開口を介して第2容器本体12の内部空間(吸引圧制御室40)と連通している。吸引側接続ポート47の上端側には、吸引チューブ47a(
図2参照)の上流端部が接続されており、当該吸引チューブ47aの下流端部は吸引源65と連通している。吸引圧制御室40からの排気は、吸引チューブ47a及び吸引側接続ポート47の各々を介して吸引源65によって吸引される。
【0035】
また、第2容器本体12の底面部における吸引圧制御室40の形成領域にも、例えば、着色剤(不図示)が固着されていることが好ましい。着色剤が液体41と接触すると、着色剤に含まれている顔料によって液体41は着色される。顔料の色は特に限定されないが、液体41の水位の視認性から彩度が高い色が好ましく、また血液と区別するために赤色以外の色が好ましく、更に液体31と区別するために水封部30に固着されている着色剤とは異なる色であることが好ましい。本実施形態の場合、一例として、着色剤に含まれている顔料の色は、黄色である。
【0036】
第1容器本体11及び第2容器本体12の各々は、例えば、透明な(可視光に対して透明な)樹脂材料によって構成されている。透明な樹脂材料としては、特に限定されないが、例えば、硬質塩化ビニル樹脂、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂、アクリルニトリル-スチレン共重合体樹脂などのスチレン系樹脂、ポリプロピレン(PP)やPEなどのポリオレフィン系樹脂等を挙げることができる。
なお、第1容器本体11と第2容器本体12とは、互いに同一の樹脂材料によって構成されていてもよいし、互いに異なる樹脂材料によって構成されていてもよい。
【0037】
支持板16は、例えば、扁平な平板状に形成されており、その平面形状は略矩形状となっている。支持板16の板面は、前後方向を向いている。また、支持板16の前面は、第1容器本体11の後面(背面)及び第2容器本体12の後面(背面)の各々に対して連接しており、第1容器本体11及び第2容器本体12の各々は、支持板16によって一体的に支持されている。
回転式支持台17は、例えば、支持板16の下端部と連接されており、支持板16を水平に支持している。また、支持板16は、回転式支持台17に対して水平方向に回転可能に固定されている。
【0038】
支持板16は、例えば、不透明な(可視光に対して不透明な)樹脂材料によって構成されている。本実施形態の場合、一例として、支持板16は、白色の樹脂材料によって構成されている。これにより、細管32における水位の変動及び水封室35における気泡の発生の視認性、及び、吸引圧制御室40における液体41の水位の視認性がそれぞれ良好となる。
不透明な樹脂材料としては、特に限定されないが、例えば、高密度ポリエチレン、アクリル樹脂、AS樹脂、ABS樹脂を挙げることができる。
また、回転式支持台17は、例えば、支持板16を構成している樹脂材料と同様の樹脂材料によって構成されている。ただし、支持板16と回転式支持台17とは、互いに異なる樹脂材料によって構成されていてもよい。
【0039】
また、
図4(a)及び
図4(b)に示すように、流量計測部50は、例えば、流量センサ部52と演算処理部55とを内蔵する筐体51を有する。
筐体51は、例えば、略直方体形状に形成されている。なお、ここでいう直方体とは、3対の対向面があり、各隣接面が互いに略直交していることを意味している。
図4(b)に示すように、筐体51の背面には、例えば、第2入口側ポート56と、第2出口側ポート57と、がそれぞれ設けられている。よって、筐体51の背面には、例えば、連結チューブ36aと、吸引チューブ46bと、が接続されている。
表示出力部60は、例えば、筐体51の天面に設けられている。表示出力部60としては、例えば、液晶ディスプレイを用いることができる。ただし、表示出力部60として、CRT(CathodeRayTube)、プリンタ又はプロッタ等を用いてもよい。
【0040】
更に、
図3に示すように、流量計測部50は、第1流量センサ53と第2流量センサ54とを相互に連通している送気チューブ53aを備えている。
送気チューブ53aは、例えば、可撓性のチューブである。送気チューブ53aの上流端側は第1流量センサ53の第2ポート52bと接続されており、送気チューブ53aの下流端側は第2流量センサ54の第2ポート52bと接続されている。
また、第1流量センサ53の第1ポート52aが第2入口側ポート56と接続されており、第2流量センサ54の第1ポート52aが第2出口側ポート57と接続されている。
【0041】
ここで、
図4(a)及び
図4(b)に示すように、水封室35の第1出口側ポート36は、例えば、流量センサ部52の入口側ポート(第2入口側ポート56)又は吸引圧制御室40の入口側ポート(第1入口側ポート46)に対して選択的に接続可能なコネクタ36bを備えていることが好ましい。
このようにすることにより、例えば、吸引集液器本体10が流量計測部50に接続されていない状態と、吸引集液器本体10が流量計測部50に接続されている状態と、に選択的に切り替えることができる。すなわち、流量計測部50による計測が行われる状態と、流量計測部50による計測が行われない状態と、に選択的に切り替えることができる。
より詳細には、コネクタ36bを第2入口側ポート56に対して選択的に接続することによって、水封部30と流量センサ部52(流量計測部50)とが互いに接続されている状態とすることができる。これにより、水封室35からの排気は、流量センサ部52と吸引圧制御室40とをこの順に通って吸引源65に吸引されることとなる。
一方、コネクタ36bを第1入口側ポート46に対して選択的に接続することによって、水封部30と吸引圧制御室40とが、流量センサ部52(流量計測部50)を介さずに互いに接続されている状態とすることができる。これにより、水封室35からの排気は、第1入口側ポート46を介して吸引圧制御室40に流入し、吸引圧制御室40から吸引源65に吸引されることとなる。
本実施形態の場合、コネクタ36bは、連結チューブ36aの下流端部に設けられている。したがって、第1出口側ポート36は、連結チューブ36aを介してコネクタ36bを備えている。
【0042】
また、
図1、
図3及び
図4(b)に示すように、医療用吸引集液器100は、例えば、出口側ポート(本実施形態の場合、第1出口側ポート36)と流量センサ部52との間に配置された疎水性フィルタ37を備えている。
疎水性フィルタ37は、液体の通過を規制する一方で、気体の通過は許容するように構成されている。このため、水封室35からの排気を良好に計測できる一方で、吸引集液器本体10を不測に倒すこと等により、通常の使用状態と異なる状態になったとしても、水封部30に注入された液体31が流量センサ部52に移動することを規制できる。
なお、ここでいう通常の使用状態とは、吸引集液器本体10が、回転式支持台17によって自立しており、第1容器本体11及び第2容器本体12の各々の底面が載置面に対して水平となっている状態を意味している。
【0043】
図4(b)に示すように、疎水性フィルタ37は、例えば、第1出口側ポート36と接続されている接続チューブ37aと、接続チューブ37aの下流端部に設けられているフィルタ部37bと、を有する。
接続チューブ37aは、可撓性のチューブであり、接続チューブ26aの内部空間は、連結チューブ36aを介して第1容器本体11の内部空間(水封部30)と連通している。また、接続チューブ37aの下流端部は、略四角錐形状となっており、その頭頂点は上流端側に位置している。
また、フィルタ部37bは、例えば、略四角錐形状に形成されており、その頭頂点は下流端側に位置している。
フィルタ部37bは、疎水性及び通気性を有しており、液体の通過を規制する一方で、気体の通過は許容する。
接続チューブ37aの上流端部は、例えば、第1出口側ポート36のコネクタ36bと接続されており、フィルタ部37bの下流端部は、例えば、第2入口側ポート56の上流端部と接続されている。
【0044】
更に、
図4(a)及び
図4(b)に示すように、医療用吸引集液器100は、例えば、吸引集液器本体10及び流量計測部50を支持する移動式支持架台70と、を備えている。なお、
図4(a)及び
図4(b)において、後述する支柱74の上端部の図示を省略している。また、
図4(a)において、回転式支持台17の図示を省略している。
移動式支持架台70は、例えば、当該移動式支持架台70を床面上で移動可能に支持する車輪付キャスター部73を有する。
これにより、吸引集液器本体10及び流量計測部50の各々が、車輪付キャスター部73を有する移動式支持架台70によって一体的に支持されている構造となるので、医療用吸引集液器100の移動をスムーズに行うことができる。
また、上述のように、第1容器本体11及び第2容器本体12の各々の底面部は、載置面に対して水平となっていることが好ましい。本実施形態の場合、吸引集液器本体10が移動式支持架台70によって支持されている状態において、第1容器本体11及び第2容器本体12の各々の底面部は、例えば、載置面(床面)に対して水平となっている。
そして、上述の構成によれば、第1容器本体11及び第2容器本体12の各々の底面部が載置面(床面)に対して水平となっている状態を良好に維持しつつ、医療用吸引集液器100の移動を行うことができる。
更に、吸引集液器本体10が移動式支持架台70によって支持されているので、医療用吸引集液器100に対して外部から衝撃が加わったとしても、第1容器本体11及び第2容器本体12の各々の底面部が載置面に対して水平となっている状態を、良好に維持することができる。
【0045】
また、移動式支持架台70は、例えば、吸引集液器本体10の細管32を目視観察する側とは反対側の面を保持することによって吸引集液器本体10を支持する鉛直な支持プレート72と、上下方向を軸方向とする円柱状に形成されている支柱74と、支持プレート72の上方において、筐体51を支柱74に対して固定している第1固定部76aと、支持プレート72を支柱74に対して固定している第2固定部76bと、支柱74を支持しているとともに、車輪付きキャスター部73が設けられている複数(例えば、3つ)の脚部75と、を備えている。
支持プレート72は、例えば、平板状に形成されており、その板面が前後方向を向いている背面部72aと、平板状に形成されており、その板面が上下方向を向いている底面部72bと、を有する。
背面部72aは、例えば、床面に対して鉛直となっている。底面部72bは、例えば、背面部72aから前方に向けて水平に延在している。
吸引集液器本体10は、例えば、支持板16が背面部72aに対して当接している状態で、支持プレート72によって支持されている。なお、吸引集液器本体10は、回転式支持台17を有している状態で、支持プレート72によって支持されていてもよいし、回転式支持台17を有していない状態で、支持プレート72によって支持されていてもよい。吸引集液器本体10が回転式支持台17を有している場合は、回転式支持台17の底面が、底面部72b上に配置される。
第1固定部76aは、例えば、筐体51の背面51aを支柱74に対して固定している。第1固定部76aは、一例として、一方向に長尺な帯状に形成されている金属部材と、一対のネジ部と、を有している。長さ方向における金属部材の中央部は、例えば、後方に向けて凸の円弧状に湾曲しており、支柱74に対して嵌合している。長さ方向における金属部材の両端部の各々は、一対のネジ部によって筐体51の背面51aに対して固定されている。
第2固定部76bは、例えば、支持プレート72の背面部72aを支柱74に対して固定している。第2固定部76bは、一例として、一方向に長尺な帯状に形成されている金属部材と、ネジ部と、を有している。金属部材の平面形状は、例えば、左方向に向けて開放している略矩形状(略U字形状)に形成されており、支柱74に対して外挿されている。また、長さ方向における金属部材の一端部は支持プレート72の背面部72aに対して固定されており、金属部材がネジ部によって支柱74に固定されることにより、支持プレート72は支柱74に対して固定されている。
各脚部75は、例えば、水平方向を軸方向とする円柱状に形成されており、各脚部75の集合体の平面視形状は、水平方向に放射状に延在した形状となっている。また、その中心部は、支柱74の下端と接続されている。支柱74は、各脚部75によって床面に対して鉛直に支持されている。
【0046】
次に、医療用吸引集液器100の使用方法の一例を説明する。なお、予め吸引チューブ(不図示)が経皮的に胸腔内に穿刺されており、吸引チューブが胸腔内と外部とを連通させている状態から説明する。
医療用吸引集液器100は、例えば、気胸などによる胸腔内からの排気の有無をモニタするとともに、胸腔内から気体及び排液を吸引することによって、胸腔内圧を生理的な状態に復元し肺の十分な拡張を得ることを目的とした手技に用いられる。なお、ここでいう胸腔内圧の生理的な状態とは、気胸等による胸腔内への気体の流入がない通常状態における胸腔内圧を意味している。
先ず、シリンジ(不図示)を用いて、圧力調整管42の上端側の開口から、液体41を設定圧の高さまで吸引圧制御室40に注入する。次に、針付きシリンジ(不図示)を用いて、液体31を、第1出口側ポート36から水封部30に注入する。この際に、水位調節ポート38を介して液体31の吸引又は注入を行うことによって、液体31の水位の調整を行うことができる。
また、吸引側接続ポート47を吸引源65に接続する。そして、クランプ部材(不図示)によって吸引チューブが閉塞された状態で、医療用吸引集液器100の吸引源65を稼働させると、集液室20の内部の気体が吸引され、気泡となって液体31を通過する。続いて、吸引圧制御室40の液体41に気泡が発生する。そして、吸引圧制御室40において気泡が確認されたら、吸引側接続ポート47を吸引源65から取り外す。また、細管32における液体31の水位が、水封室35における液体31の水位よりも上昇している状態で、20秒から30秒間静止していることを確認する。これにより、第1容器本体11(集液室20及び水封部30)の気密性を確認することができる。第1容器本体11の気密性が確認されたら、生体側接続ポート26を吸引チューブに接続するとともに、吸引側接続ポート47を吸引源65に再度接続する。
次に、クランプ部材による閉塞を解除し、吸引チューブを開放状態にすることによって、胸腔内から気体及び排液21を吸引することができる。すなわち、排液21及び気体は、図示しない吸引チューブと、接続チューブ26aと、生体側接続ポート26と、をこの順に通って、第1容器本体11に吸引される。吸引された排液21は、集液室20に貯留される。こうして、例えば、胸腔から血液、滲出液等の排液21の吸引を行うとともに、気胸などによって胸腔内に流入した気体を排出することができるので、胸腔内圧を生理的な状態に復元することができる。
また、水封室35に発生する気泡を目視観察することによって、胸腔内からの排気の有無を確認することができるので、気胸の回復状況を把握することができる。
【0047】
そして、例えば、胸腔内圧が生理的な状態に復元され、肺の十分な拡張を得られたら、吸引源65を停止するとともに、吸引チューブを胸腔から抜去する。
ここで、本実施形態の場合、上述のように、水封室35からの排気の流量の変動の推移(履歴)を遡って確認することができる。よって、胸腔からの吸引量の変動や排気の有無を、より確実に確認することができる。
より詳細には、胸腔からの気体及び排液の吸引が進むと、胸腔内圧は生理的な状態に近づいていく。このため、肺が徐々に拡張される一方で、水封室35における気泡の発生は徐々に減少することとなる。そして、胸腔内圧が生理的な状態に復元され肺が十分に拡張状態となると、水封室35における気泡の発生は実質的に停止する。しかし、生体側接続ポート26等の閉塞、接続不良又は脱落などを起因として、水封室35における気泡の発生が急に停止する場合もある。
そして、水封室35からの排気の流量の変動の推移(履歴)を遡って確認することによって、肺の十分な拡張が得られた結果、水封室35における気泡の発生が停止したのか、もしくは、生体側接続ポート26等の閉塞や接続不良などによって当該気泡の発生が停止したのかを、容易に判断することができる。
更には、水封室35からの排気の流量の推移(履歴)を遡って確認することができるので、当該排気の流量が、一定時間の間、一定量以下となっていることを判断基準として、胸腔内圧が生理的な状態に復元されたことを把握することができる。このため、例えば、肺の拡張状態を確認するためのX線写真撮影を行うことなく、吸引チューブを胸腔内から抜去するタイミングを判断することができる。
【0048】
以上、図面を参照して各実施形態を説明したが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【0049】
例えば、上記においては、吸引集液器本体10が吸引圧制御室40を備えている例を説明した。ただし、本発明はこの例に限らず、吸引集液器本体10は、例えば、吸引圧制御室40を備えておらず、代わりに、吸引集液器本体10は、不図示の電動式低圧吸引器に接続されていてもよい。この場合、例えば、流量計測部50の下流側が電動式低圧吸引器と接続されており、気体及び排液を吸引する際の吸引圧は電動式低圧吸引器によって調整される。そして、水封室35からの排気は、流量計測部50を通って当該電動式低圧吸引器に吸引されることとなる。
【0050】
本実施形態は以下の技術思想を包含する。
(1)生体側と接続される生体側接続ポートを有し、前記生体からの排液を集液する集液室と、
水位の変動を外部から目視観察可能な細管と、気泡の発生を外部から目視観察可能な水封室と、出口側ポートと、を有し、前記集液室と連通している水封部と、
前記出口側ポートに接続され、前記水封室からの排気の流量を計測する流量センサ部と、前記流量センサ部による計測値に対する演算処理を行う演算処理部と、を有する流量計測部と、
前記流量センサ部の下流側に位置し、吸引源に接続される吸引側接続ポートと、
前記演算処理部による演算結果を表示出力する表示出力部と、
を備える医療用吸引集液器。
(2)前記流量センサ部は、互いに直列に配管接続されている第1流量センサと第2流量センサとを有し、
前記第1流量センサは、下流側に向かう前記排気の流量を正の計測値として計測するとともに上流側に逆流する前記排気の流量を負の計測値として計測する一方で、前記第2流量センサは、上流側に逆流する前記排気の流量を正の計測値として計測するとともに下流側に向かう前記排気の流量を負の計測値として計測するように、上/下流方向において互いに逆向きに配置されており、
前記第1流量センサ及び前記第2流量センサの各々は、正の計測値の信頼性の方が、負の計測値の信頼性よりも高く、
前記演算処理部は、前記第1流量センサによる正負の計測値のうち正の計測値を選択的に採用して正の値として演算に用いる一方で、前記第2流量センサによる正負の計測値のうち正の計測値を選択的に採用して負の値として演算に用いる(1)に記載の医療用吸引集液器。
(3)前記演算処理部は、前記流量センサ部による計測値の時間平均値を演算して前記表示出力部に出力させる(1)又は(2)に記載の医療用吸引集液器。
(4)前記出口側ポートと前記流量センサ部との間に配置された疎水性フィルタを備える(1)から(3)のいずれか一項に記載の医療用吸引集液器。
(5)前記流量センサ部の下流側に位置し、前記吸引側接続ポートを有する吸引圧制御室を更に備える(1)から(4)のいずれか一項に記載の医療用吸引集液器。
(6)前記流量センサ部及び前記吸引圧制御室はそれぞれ入口側ポートを有し、
前記水封室の前記出口側ポートは、前記流量センサ部の前記入口側ポート又は前記吸引圧制御室の前記入口側ポートに対して選択的に接続可能なコネクタを備える(5)に記載の医療用吸引集液器。
(7)前記集液室と、前記水封部と、前記吸引圧制御室と、を有する吸引集液器本体と、
前記吸引集液器本体及び前記流量計測部を支持する移動式支持架台と、
を備え、
前記流量計測部は、前記流量センサ部と前記演算処理部とを内蔵する筐体を有し、
前記移動式支持架台は、当該移動式支持架台を床面上で移動可能に支持する車輪付キャスター部を有する(5)又は(6)に記載の医療用吸引集液器。
(8)前記水封部から前記流量計測部までの間に、陽圧を外部に開放する陽圧逃がし弁を備える(1)から(7)のいずれか一項に記載の医療用吸引集液器。
【符号の説明】
【0051】
10 吸引集液器本体
11 第1容器本体
11a 第1仕切壁部
11b 第2仕切壁部
12 第2容器本体
16 支持板
17 回転式支持台
20 集液室
21 液体
26 生体側接続ポート
26a 接続チューブ
30 水封部
31 液体
32 細管
33 逆流防止弁
34 注水指示ライン
35 水封室
36 出口側ポート
36a 連結チューブ
36b コネクタ
37 疎水性フィルタ
37a 接続チューブ
37b フィルタ部
38 水位調節ポート
39 陽圧逃がし弁
40 吸引圧制御室
41 液体
42 圧力調整管
46 入口側ポート(第1入口側ポート)
46b 吸引チューブ
47 吸引側接続ポート
47a 吸引チューブ
50 流量計測部
51 筐体
52 流量センサ部
52a 第1ポート
52b 第2ポート
53 第1流量センサ部
53a 送気チューブ
54 第2流量センサ部
55 演算処理部
56 入口側ポート(第2入口側ポート)
57 出口側ポート(第2出口側ポート)
60 表示出力部
65 吸引源
70 移動式支持架台
72 支持プレート
72a 背面部
72b 底面部
73 車輪付きキャスター部
74 支柱
75 脚部
76a 第1固定部
76b 第2固定部
100 医療用吸引集液器