(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】転がり軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 33/44 20060101AFI20240925BHJP
F16C 33/56 20060101ALI20240925BHJP
F16C 33/41 20060101ALI20240925BHJP
F16C 33/66 20060101ALI20240925BHJP
C10M 107/02 20060101ALI20240925BHJP
C10N 50/10 20060101ALN20240925BHJP
C10N 40/02 20060101ALN20240925BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20240925BHJP
【FI】
F16C33/44
F16C33/56
F16C33/41
F16C33/66 Z
C10M107/02
C10N50:10
C10N40:02
C10N30:00 Z
(21)【出願番号】P 2020162818
(22)【出願日】2020-09-29
【審査請求日】2023-09-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】矢部 俊一
(72)【発明者】
【氏名】松本 兼明
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 雷
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-167295(JP,A)
【文献】特開2014-218574(JP,A)
【文献】特開2016-183247(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/44
F16C 33/56
F16C 33/41
F16C 33/66
C10M 107/02
C10N 50/10
C10N 40/02
C10N 30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも内輪、外輪、合成樹脂製保持器及び転動体からなる転がり軸受において、
前記合成樹脂製保持器を、ポリアミド6Tとポリアミド11の共重合ポリアミド樹脂と、含有量10~40重量%とした強化材と、からなるポリアミド樹脂組成物で形成
され、
前記ポリアミド6Tと前記ポリアミド11の比率は、モル比で60:40~75:25であることを特徴とする転がり軸受。
【請求項2】
少なくとも内輪、外輪、合成樹脂製保持器及び転動体からなる転がり軸受において、
前記合成樹脂製保持器を、ポリアミド6Tとポリアミド11の共重合ポリアミド樹脂と、含有量10~40重量%とした強化材と、からなるポリアミド樹脂組成物で形成
され、
前記ポリアミド6Tと前記ポリアミド11の総量に対する前記ポリアミド11のモル比であるバイオ度が、25~40%であることを特徴とする転がり軸受。
【請求項3】
前記転がり軸受が外輪案内であることを特徴とする請求項1
又は2に記載の転がり軸受。
【請求項4】
前記保持器が爪部を有する冠型保持器であることを特徴とする請求項1
又は2に記載の転がり軸受。
【請求項5】
前記転がり軸受の内部空間にはグリースが充填され、
前記グリースの基油の主成分をポリα-オレフィン油としたことを特徴とする請求項1乃至
4のいずれかに記載の転がり軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受、特に転がり軸受に組み込まれる合成樹脂製保持器の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、転がり軸受を構成する合成樹脂製保持器には、ガラス繊維で強化された66ナイロン樹脂で作製されたもの等が最も多く提供されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
転がり軸受には、様々な種類があると共に、様々な環境で使用されており、求められる性能も異なっている。それに伴って、構成部品である合成樹脂製保持器も、各種樹脂材料・強化材を組み合わせて適用されている。
例えば、樹脂材料としては、66ナイロン樹脂の他、46ナイロン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂等が用いられ、強化材としては、ガラス繊維や炭素繊維等が用いられている。
【0004】
転がり軸受の中で、工作機械主軸で適用されるものは、高速回転時に、保持器外周面と外輪内周面とが接触する外輪案内方式であり、保持器自体の吸水寸法変化が小さいことが求められる。それに伴って、保持器で適用するベース樹脂は、吸水性が少ないポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂が一般的に用いられている。その他、工作機械用軸受の保持器として、同じように吸水寸法変化が小さい綿布補強のフェノール樹脂製リングを切削加工したものも用いられている。また、これらの工作機械主軸用軸受の潤滑法としては、グリース潤滑、オイルエア潤滑、ジェット潤滑等が、使用条件やコストによって適宜、選択され採用されているが、一般的には、低コストでメンテナンスも容易なことから、グリース潤滑が利用されることが多い。
【0005】
また、玉軸受で最も多く用いられる冠型保持器は、玉を圧入する際、樹脂材料に延性がないと割れが発生するため、66ナイロン、46ナイロンが通常用いられている(例えば特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2002-122148
【文献】特開2007-56930
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記の66ナイロン樹脂、46ナイロン樹脂をベース樹脂とした保持器は、水分の出入りによって寸法変化を引き起こし、最悪の場合、転がり軸受の内外輪・転動体に干渉して悪影響を及ぼす虞があった。特に、上記説明した外輪案内方式の保持器では、寸法変化が重要視されることから、材料コストが高いポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂を用いるのが、一般的であった。
【0008】
玉軸受で最も多く用いられている冠型保持器は、延性が低いポリフェニレンサルファイド樹脂や半芳香族ポリアミド樹脂(変性ポリアミド6T等)をベース樹脂(+強化繊維材)として用いると、玉を抱え込んでいる爪部分に玉を圧入する際、樹脂材料に延性がないと割れ・欠けが発生することから、上述の通り、実際は66ナイロン、46ナイロンにガラス繊維を含有させた樹脂組成物が用いられているのが実状であった。
【0009】
また、転がり軸受の内部空間に充填されるグリースとしては、主成分が脂肪族炭化水素である、極性が低い鉱油、ポリα-オレフィン油が最も多く使用されているが、アミド結合が分子構造中に多数存在する66ナイロン樹脂、46ナイロン樹脂や、芳香族環が分子構造中に多数存在するポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂に対しては、分子構造が大きく異なるため、濡れ性が悪く、グリースの保持器への付着力は十分なものではなかった。変性ポリアミド6T等の半芳香族ポリアミド樹脂も、アミド結合と芳香族環が分子構造中に多数存在することから同様であった。
また、脂肪族ポリアミド系材料で、低吸水性で、分子構造中にアミド結合が少ないものとしては、ポリアミド11(融点187℃)、ポリアミド12(融点176℃))、ポリアミド612(融点216℃)、ポリアミド610(融点222℃)があるが、融点が低いために、高速回転で軸受温度が上昇すると、軟化し、保持器が変形する虞があった。
【0010】
本発明は従来技術の有するこのような問題点を解決するためになされたものであり、その課題とするところは、保持器、特に外輪案内保持器に求められる寸法安定性、冠型保持器に求められる延性、ポリα-オレフィン油等を基油とするグリースの付着力を改善、更に高速での変形防止とを達成した、高信頼性を有する保持器が用いられた転がり軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的を達成するために、第1の本発明は、少なくとも内輪、外輪、合成樹脂製保持器及び転動体からなる転がり軸受において、前記合成樹脂製保持器を、ポリアミド6Tとポリアミド11の共重合ポリアミド樹脂と、含有量10~40重量%とした強化材と、からなるポリアミド樹脂組成物で形成したことを特徴とする転がり軸受としたことである。
【0012】
第2の本発明は、第1の本発明において、前記転がり軸受が外輪案内であることを特徴とする転がり軸受としたことである。
【0013】
第3の本発明は、第1の本発明において、前記保持器が爪部を有する冠型保持器であることを特徴とする転がり軸受としたことである。
【0014】
第4の本発明は、第1の本発明乃至第3の本発明のいずれかにおいて、前記転がり軸受の内部空間にはグリースが充填され、前記グリースの基油の主成分をポリα-オレフィン油としたことを特徴とする転がり軸受としたことである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、耐熱性に優れ低吸水性な半芳香族ポリアミドであるポリアミド6Tと延性に優れ低吸水性なポリアミド11からなる共重合ポリアミド樹脂を、転がり軸受の保持器の樹脂材料に適用することで、様々な環境での使用が可能となった高信頼性と低コストを両立させた転がり軸受を提供することができる。
更に、アミド基間に長鎖炭化水素部分を有するポリアミド11部分があることで、分子構造が近いポリα-オレフィン油を主成分とする基油からなるグリースの適用することで、樹脂材料への濡れ性が良好に保たれ、樹脂部の摩耗を効果的に防止し、転がり軸受の長寿命化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の第一実施形態を一部省略して示す概略断面図である。
【
図2】第一実施形態に組み込まれる合成樹脂製保持器の概略斜視図である。
【
図3】本発明の第二実施形態を一部省略して示す概略断面図である。
【
図4】第二実施形態に組み込まれる合成樹脂製保持器の概略斜視図である。
【
図5】本発明の第三実施形態を一部省略して示す概略断面図である。
【
図6】第三実施形態に組み込まれる合成樹脂製保持器の概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態について説明する。なお、本実施形態は本発明の一実施形態に過ぎず何等限定解釈されるものではなく本発明の範囲内で適宜設計変更可能である。
【0018】
本発明の転がり軸受は、内輪1と、外輪3と、内輪1と外輪3との間に形成される環状隙間5に組み込まれる複数個の転動体7と、複数個の転動体7を等間隔に保持する合成樹脂製保持器9と、を含んで構成されている。また、本実施形態では、転がり軸受の内部空間に、軸受の潤滑状態を良好に保つためグリースが充填され、転がり軸受の端面には、軸受内部空間を密封するため密封シール11が組み込まれている。
本実施形態において合成樹脂製保持器9は、ポリアミド6Tとポリアミド11の共重合ポリアミド樹脂と、含有量10~40重量%とした強化材と、からなるポリアミド樹脂組成物で作製されている。
【0019】
<第一実施形態>
例えば、
図1に示す円筒ころ軸受を一実施形態として例示できる。円筒ころ軸受は、外周面に内輪軌道面1aを有する内輪1と、内周面に外輪軌道面3aを有する外輪3と、内輪軌道面1aと外輪軌道面3aとの間に転動可能に組み込まれる複数個の円筒ころ(転動体)7と、複数個の円筒ころ7を円周方向に略等間隔に保持する合成樹脂製保持器9と、を含んで構成されている。
【0020】
合成樹脂製保持器9は、
図2に示すように、軸方向に互いに同軸に離間して配置される一対の円環部9a,9aと、一対の円環部9a,9aを連結すべく、円周方向に略等間隔で配置される複数の柱部9bと、円周方向に互いに隣り合う各柱部9bの間に形成され、円筒ころ7を転動可能に保持するポケット部9cを有する。
【0021】
<第二実施形態>
また、
図3に示すアンギュラ玉軸受(例えば、日本精工製「70BER20XDB」;内径70mm、外径110mm、幅24mm、接触角25°、2列組合せ)を一実施形態として例示できる。
アンギュラ玉軸受は、外周面に内輪軌道面1aを有する内輪1と、内周面に外輪軌道面3aを有する外輪3と、内輪軌道面1aと外輪軌道面3aとの間に転動可能に組み込まれる複数個の玉(転動体)7と、複数個の玉7を円周方向に略等間隔に保持する合成樹脂製保持器9と、を含んで構成されている。
【0022】
合成樹脂製保持器9は、
図4に示すように、板状の円環部材9dと、円環部材9dの円周方向に略等間隔で形成され、玉7を転動可能に保持する複数個のポケット部9eと、で構成され、射出成形にて作製されている。
【0023】
<第三実施形態>
また、
図5に示す深溝玉軸受用保持器を一実施形態として例示できる。
深溝玉軸受は、外周面に内輪軌道面1aを有する内輪1と、内周面に外輪軌道面3aを有する外輪3と、内輪軌道面1aと外輪軌道面3aとの間に転動可能に組み込まれる複数個の玉(転動体)7と、複数個の玉7を円周方向に略等間隔に保持する合成樹脂製保持器9と、を含んで構成されている。図中符号11は密封シールである。
【0024】
合成樹脂製保持器9は、
図6に示す冠型保持器(外径47mm、内径17mm)で、軸方向一端部に形成される円環部9fと、円環部9fの円周方向に間隔をあけて複数箇所から軸方向一方側へ突出する複数の柱部9gと、各柱部9gの先端部に設けられる一対の爪部9h,9hと、を備え、射出成形にて作製されている。円周方向に隣り合う爪部9h,9hの対向面と、これら対向面間の円環部9fの軸方向側面は、協働してポケット9iを形成し、玉7を回動自在に保持する。円環部9fに所定の等間隔で設けられた各ポケット9iには、玉7が一対の爪部9h,9hの開口側から押し込まれ、爪部9h,9hを弾性変形させて嵌め込まれる。
【0025】
合成樹脂製保持器9を形成するベース樹脂としては、1,6-ジアミノヘキサン(1,6-ヘキサンジアミン)とテレフタル酸との重縮合物であるポリアミド6Tと、植物由来のひまし油から誘導される11-アミノウンデカン酸の重縮合物であるポリアミド11の共重合ポリアミド樹脂を使用することができる。
【0026】
ポリアミド6Tとポリアミド11の比率は、モル比で60:40~75:25であり、融点範囲は300~325℃である。この比率よりポリアミド11が少ない場合は、ポリアミド6Tのホモポリマーの融点380℃に対して、十分に低くならず、成形によって分解が発生する事態となり、安定した成形体が確保できなくなると共に、グリース基油であるポリα-オレフィン油への濡れ性改善、延性の改善が十分でなくなる。また、この比率よりポリアミド11が多い場合は、融点が下がると共に、耐熱性・耐油性が低下し、好ましくない。
尚、植物由来のひまし油を原料としているポリアミド11のモル比がそのままバイオ度となる。バイオ度が高い方が、より環境にやさしい材料となる。
【0027】
以上説明したポリアミド樹脂は、飽和吸水率が0.2~0.3%であり、転がり軸受の保持器に最も多く用いられているポリアミド66(飽和吸水率5.6%)に対して、格段に低いので、吸水による寸法変化が非常に小さく、寸法安定性に優れることで信頼性が非常に高い。
ポリアミド樹脂の分子量は、ガラス繊維等の強化材含有状態で射出成形できる範囲、具体的には数平均分子量で13000~28000、より好ましくは、耐疲労性、成形性を考慮すると、数平均分子量で18000~26000の範囲である。数平均分子量が13000未満の場合は分子量が低すぎて耐疲労性が悪く、実用性が低い。それに対して数平均分子量が28000を越える場合は、ガラス繊維等の強化材の実用的な含有量15~35重量%を含ませると、溶融粘度が高くなりすぎ、保持器を精度良く射出成形で製造することが難しくなり、好ましくない。
【0028】
上記のベース樹脂は、樹脂単独でも一定以上の耐久性を示し、保持器が接触する可能性がある相手部材(転動体及び外輪)の摩耗に対して有利に働き、保持器として十分に機能する。しかしながら、より過酷な使用条件で使用されると、保持器が破損、変形、摩耗することも想定されるため、信頼性をより高めるために、強化材を配合することが好ましい。
【0029】
強化材としては、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、チタン酸カリウムウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー等が好ましく、上記に挙げたポリアミド樹脂との接着性を考慮してシランカップリング剤等で表面処理したものが更に好ましい。また、これらの強化材は複数種を組み合わせて使用することができる。
【0030】
衝撃強度を考慮すると、ガラス繊維や炭素繊維等の繊維状物を配合することが好ましく、更に相手材の損傷を考慮するとウィスカー状物を繊維状物と組み合わせて配合することが好ましい。混合使用する場合の混合比は、繊維状物及びウィスカー状物の種類により異なり、衝撃強度や相手材の損傷等を考慮して適宜選択される。
【0031】
ガラス繊維としては、例えば、一般的な平均繊維径である10~13μmのものの他、ない含有量で高強度化と耐摩耗性の改善が可能な平均繊維径が5~7μmのもの、あるいは異形断面のものがより好適である。
【0032】
炭素繊維としては、例えば、強度を優先するのであれば、PAN系のものが好適であるが、コスト面で有利なピッチ系のものが使用可能である。平均繊維径としては、5~15μmのものが好適である。炭素繊維は、繊維自体の強度、弾性率が高いため、ガラス繊維に比べて、保持器の高強度化、高弾性率化が可能である。
【0033】
アラミド繊維としては、例えば、強化性に優れるパラ系アラミド繊維を好適に使用することが可能である。平均繊維径としては、5~15μmのものが好適である。アラミド繊維は、ガラス繊維及び炭素繊維のように、鉄鋼材料を傷つけることはないので、保持器が接触する相手部材の表面状態を悪くすることがないので、軸受の音響特性等を重視する場合は、更に好適である。
【0034】
これらの強化材は、全体の10~40重量%、特に15~30重量%の割合で配合することが好ましい。強化材の配合量が10重量%未満の場合には、機械的強度の改善が少なく好ましくない。強化材の配合量が40重量%を超える場合には、成形性が低下すると共に、強化材の種類によっては、相手材への傷つけ性が高くなるので好ましくない。
【0035】
更に、成形時及び使用時の熱による劣化を防止するために、添加剤として、樹脂に、ヨウ化物系熱安定剤やアミン系酸化防止剤を、それぞれ単独あるいは併用して添加することが好ましい。
【0036】
グリースは、増ちょう剤と基油とを主成分とし、基油は、ポリアミド6Tとポリアミド11の共重合ポリアミド樹脂への濡れ性を考慮して、ポリα-オレフィン油を主成分としたものであり、増ちょう剤は、アミンとイソシアネートからなるウレア化合物、Li石けん、Liコンプレックス石けん、Ba石けん、Baコンプレックス石けん等である。
これらの増ちょう剤の中で、ポリアミドに構造が類似のウレア結合を有するウレア化合物が、ポリアミド樹脂への吸着性に優れ、特に好ましい。基油は、上記のポリα-オレフィン油の潤滑性を改善するために、ジエステル油や芳香族エステル油を混合したものであってよい。混入量は、基油全体に対して、30重量%以下である。
【0037】
ポリアミド6Tとポリアミド11の共重合ポリアミド樹脂は、転がり軸受の保持器で一般的に用いられるポリアミド66に比べて、アミド基間に、長い炭化水素鎖を有するポリアミド11部分が存在することで、ポリα-オレフィン油との濡れ性に優れている。
また、このグリースには、他の添加剤を加えることもできる。例えば、アミン系やフェノール系等の酸化防止剤、Caスルホネート等の防錆剤、MoDTC等の極圧添加剤、モンタン酸エステルワックス、モンタン酸エステル部分けん化ワックス、ポリエチレンワックス、オレイン酸等油性向上剤、などである。
【0038】
ところで、転がり軸受では、潤滑剤が保持器と転動体との隙間に入り込み、遠心力により外輪側へと移動する。その際、潤滑剤は保持器の内輪側の端面から入り込むため、保持器と内輪との間隔が広いほど潤滑剤が入り込みやすくなる。外輪案内型の保持器では、内輪との間隔が広いため潤滑剤が入り込みやすく、より良好な潤滑が可能となるため、各実施形態の合成樹脂製保持器9を外輪案内型とした場合に摩耗防止効果がより顕著となる。
【0039】
具体的には、表1に示すように、ポリアミド樹脂、及び強化材(ガラス繊維)を配合してポリアミド樹脂組成物(樹脂ペレット)を調製することができる。
【0040】
【0041】
より具体的には、ベース樹脂は、東洋紡績製バイロアミドMJ-300NZ(熱安定剤含有グレード、平均分子量不明、PA6T:PA11=7:3)を用いることが好ましい。
【0042】
表1に示す樹脂ペレットを用いて、第一実施形態の円筒ころ軸受用の合成樹脂製保持器9、第二実施形態のアンギュラ玉軸受用の合成樹脂製保持器9、及び第三実施形態の深溝玉軸受用の保持器9を射出成形により作製する。
【0043】
寸法安定性、耐久性及び組立性について、次の通りの評価試験で評価できる。
【0044】
<寸法安定性の評価条件> 例えば、寸法安定性は以下により評価できる。
第一実施形態乃至第三実施形態の転がり軸受を構成している各保持器9を、下記条件Iまたは条件IIの下に放置し、所定時間経過後に保持器外径寸法の変化量を測定する。
何れの条件においても、変化量が50μm以下を合格、50μmを越えるものを不合格とする。
条件I:60℃、90%RH、70hr
条件II:80℃、90%RH、100hr
<評価>
各保持器9を、条件I・条件IIの下に放置し、所定時間経過後、それぞれの保持器9の外形寸法を測定したが、それぞれの保持器9は、外径寸法の変化量を50μm以下に抑えることができる。
【0045】
<耐久性評価条件>
例えば、耐久性は以下により評価できる。
各試験体(上記保持器を用いた第一実施形態の円筒ころ軸受、第二実施形態のアンギュラ玉軸受、及び第三実施形態の深溝玉軸受)を実際のスピンドルユニットに組み込み、下記条件I~IIIにて回転試験を行う。何れの条件においても、1000hrの軸受の連続運転ができた場合を合格、1000hrの連続運転ができなかったものを不合格とする。尚、内部空間に、充填する潤滑グリースは、上記1000hrの運転中に劣化してしまわないよう、以下の組成のものが好ましい。
ポリα-オレフィン油(100℃で5.7mm2/s)を基油とし、脂肪族ジウレア化合物を増ちょう剤(増ちょう剤量:13重量%)に、各種添加剤を配合されたちょう度No.2のものとし、添加剤としては、極圧添加剤、酸化防止剤、防錆剤が通常量含有しているものが好ましい。尚、試験軸受の組み込み時予圧荷重は、1500N、試験回転数は10000min-1とし、グリース充填量は、樹脂材料による差異を見るために、通常より少ない軸受空間容積の7%とすることが好ましい。
・条件I:30℃、50%RH
・条件II:50℃、90%RH
・条件III:80℃、50%RH
<評価>
各軸受について、条件I・条件II・条件IIIの何れの条件においても、1000hrの軸受の連続運転ができると推定される。
【0046】
<組み込み性評価条件> 例えば、組立性(組み込み性)は以下により評価できる。
図6に示す第三実施形態の深溝玉軸受を構成する冠型保持器9について、自動組み込み試験機を用いて、組み込み試験を実施し、試験後、保持器9の爪部9hの白化・割れ・変形などにより、組み込み性を評価することができる。
<評価>
試験に用いた冠型保持器9にあっては、爪部9hの白化・割れ・変形などのいずれの症状も確認されないと思われる。
【0047】
上記評価試験により、本実施例により作製した各保持器9は、寸法安定性、耐久性、及び、組立性(組み込み性)に優れる、ということが確認できる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、他の転がり軸受及び他の合成樹脂製保持器にも利用可能である。
【符号の説明】
【0049】
1 内輪
3 外輪
5 環状隙間
7 転動体
9 保持器
11 密封装置