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7559490微生物燃料電池電極形成用組成物、微生物燃料電池用電極および微生物燃料電池
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  • -微生物燃料電池電極形成用組成物、微生物燃料電池用電極および微生物燃料電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】微生物燃料電池電極形成用組成物、微生物燃料電池用電極および微生物燃料電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/96 20060101AFI20240925BHJP
   H01M 8/16 20060101ALI20240925BHJP
   C02F 3/34 20230101ALI20240925BHJP
【FI】
H01M4/96 B
H01M8/16
H01M4/96 M
C02F3/34 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020172315
(22)【出願日】2020-10-13
(65)【公開番号】P2021103678
(43)【公開日】2021-07-15
【審査請求日】2023-07-05
(31)【優先権主張番号】P 2019232337
(32)【優先日】2019-12-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】artience株式会社
(72)【発明者】
【氏名】宮房 有花
(72)【発明者】
【氏名】諸石 順幸
(72)【発明者】
【氏名】安藤 天志
【審査官】川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-154081(JP,A)
【文献】特開2010-102870(JP,A)
【文献】特開2019-076833(JP,A)
【文献】特開2009-295488(JP,A)
【文献】特開2018-162177(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105161730(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/96
H01M 8/16
C02F 3/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素材料(A)およびバインダー(B)を含む微生物燃料電池電極形成用組成物であって、前記炭素材料(A)が、黒鉛(A-a)と黒鉛以外の炭素材料(A-b)とを含み、
前記バインダー(B)が、水溶性樹脂(B-a)と水性樹脂微粒子(B-b)とを含み、
前記炭素材料(A)の合計100質量%中の黒鉛(A-a)の含有率が20.0質量%以上であり、前記組成物の固形分合計100質量%中の炭素材料(A)の含有率が50質量%以上である、微生物燃料電池電極形成用組成物。
【請求項2】
炭素材料(A)の合計100質量%中の黒鉛(A-a)の含有率が25~99質量%である請求項1記載の微生物燃料電池電極形成用組成物。
【請求項3】
前記組成物の固形分合計100質量%中の炭素材料(A)の含有率が80~99質量%である請求項1または2記載の微生物燃料電池電極形成用組成物。
【請求項4】
黒鉛(A-a)のアスペクト比が1~10である請求項1~3いずれか記載の微生物燃料電池電極形成用組成物。
【請求項5】
基材の上に請求項1~4いずれか記載の微生物燃料電池電極形成用組成物の塗工膜を有する微生物燃料電池用電極。
【請求項6】
請求項5記載の微生物燃料電池用電極を用いた微生物燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物燃料電池電極形成用組成物、微生物燃料電池用電極および微生物燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生体触媒の酵素を用いたバイオ燃料電池、微生物を用いた微生物燃料電池などの生物燃料電池の開発が進められている。微生物燃料電池は、発電菌と呼ばれる微生物により有機物を分解する際に生じる電子を回収し、電気エネルギーとして利用する発電方法である。例えば、生活廃水や産業廃水などの浄化に用いた場合、廃水中の有機物の分解処理と発電が並行して行えるため、消費エネルギーを低減できる水処理方法としても期待されている(非特許文献1)。また、微生物燃料電池は、水や底泥、土壌などに含まれる有機物で発電出来るため、廃水や土壌における電源としての利用も期待出来る(特許文献1、非特許文献2)。
【0003】
微生物燃料電池においては、アノードで有機物を分解して電子を取り出す発電菌による酸化反応から電子が生じ、生じた電子は電極から外部回路を経由してカソードにて還元反応で消費される。カソードでは酸素やフェリシアン化カリウムなどの酸化剤を反応させる。
【0004】
微生物燃料電池に用いられるカソードおよびアノードの材料には電極反応において導電性が必要であり、導電性材料を使用するのが一般的である(特許文献1~3)。電極には、カーボンペーパー、カーボンフェルト、カーボンクロス、または活性炭シートなどのカーボン材料や、アルミニウム、銅、ステンレス、ニッケル、またはチタンなどの金属材料が使われる。アノードでは、発電菌をそれら材料にコンタクトさせて使用する(特許文献2、3)。カソードでは、それら材料に白金などの酸素還元触媒を担持させて使用することも知られている。それらの電極反応の効率はいまだ不十分であり、発電特性の向上が課題となっている。また、金属の酸化による劣化や、高コストという問題もある。
【0005】
これらの課題解決のために、電極反応効率を改善する必要があり、導電性および物質拡散性を向上することが求められる。さらに、アノードでは、微生物の担持量や活性を高めることが望ましい。例えば、特許文献4では、導電性カーボン材料と樹脂とを含む導電部で非導電性基材を被覆する積層体が開示されている。しかしながら、さらなる発電効率の向上は課題として残っており、さらには安定した発電効率を維持出来る耐久性をも両立出来るような技術が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2004-342412号公報
【文献】特開2010-102953号公報
【文献】特開2015-002070号公報
【文献】国際公開第2016/129678号パンフレット
【非特許文献】
【0007】
【文献】微生物燃料電池による廃水処理システム最前線、(株)エヌ・ティー・エス
【文献】Environmental Science&Technology,2004,38,4040-4046
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、発電特性や耐久性に優れる電極形成用組成物、電極および微生物燃料電池を安価に提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記の諸問題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、本発明に至った。
【0010】
すなわち本発明は、炭素材料(A)およびバインダー(B)を含む微生物燃料電池電極形成用組成物であって、前記炭素材料(A)が、黒鉛(A-a)と黒鉛以外の炭素材料(A-b)とを含む微生物燃料電池電極形成用組成物に関する。
【0011】
また本発明は、炭素材料(A)の合計100質量%中の黒鉛(A-a)の含有率が25~99質量%である前記の微生物燃料電池電極形成用組成物に関する。
【0012】
また本発明は、前記組成物の固形分合計100質量%中の炭素材料(A)の含有率が80~99質量%である前記の微生物燃料電池電極形成用組成物に関する。
【0013】
また、本発明は、黒鉛(A-a)のアスペクト比が1~10である前記の微生物燃料電池電極形成用組成物に関する。
【0014】
また、本発明は、基材の上に前記の微生物燃料電池電極形成用組成物の塗工膜を有する微生物燃料電池用電極に関する。
【0015】
また、本発明は、前記の微生物燃料電池用電極を用いた微生物燃料電池に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、発電量や耐久性に優れた電極形成用組成物、電極を安価に提供し、発電特性や耐久性に優れる微生物電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、本発明で用いた微生物燃料電池の構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、詳細にわたって本発明の実施形態を説明する。
【0019】
<微生物燃料電池電極形成用組成物>
本発明の微生物燃料電極形成用組成物(以下、電極用組成物)は、少なくとも黒鉛(A-a)と黒鉛以外の炭素材料(A-b)とバインダー(B)とを含む。本発明では、黒鉛(A-a)と黒鉛以外の炭素材料(A-b)とバインダー(B)の併用により、電極の導電性を改善するとともに、表面形態を最適化して物質拡散性を向上できる。また、炭素材料(A)間や基材との結着が強化され、耐久性が向上する。また、電極中の炭素材料(A)と微生物の親和性が高いため、多くの微生物を担持できる。これらの効果により、本発明によれば、微生物燃料電池の発電特性に加えて耐久性をも向上することができる。
【0020】
<炭素材料(A)>
炭素材料(A)は、電極の表面積を増加させ、酸化還元反応における電子の授受を促進する。また、アノードに使用した場合には、表面の形態や生体親和性により、微生物の吸着性を高めることができる。炭素材料(A)としては、黒鉛(A-a)と黒鉛以外の炭素材料(A-b)とを含有する。黒鉛(A-a)としては、人造黒鉛や天然黒鉛等が挙げられ、黒鉛以外の炭素材料(A-b)としては、カーボンブラック、活性炭、導電性炭素繊維(カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンファイバー)、グラフェン、フラーレン、炭素触媒等が挙げられる。これらを単独で、もしくは2種類以上併せて使用することが出来る。黒鉛(A-a)と黒鉛以外の炭素材料(A-b)とを併用することにより、電極内部の電子パスが密になり、好適な表面形態により物質拡散性も高まるため、高い発電特性が得られる。
【0021】
炭素材料(A)に含まれる黒鉛(A-a)の含有率((A-a)/(A)×100)は、好ましくは25~99質量%であり、より好ましくは50~90質量%であり、さらに好ましくは60~85質量%である。
【0022】
黒鉛(A-a)としては、例えば人造黒鉛や天然黒鉛等を使用することが出来る。人造黒鉛とは、無定形炭素の熱処理により、不規則な配列の微小黒鉛結晶の配向を人工的に行わせたものであり、一般的には石油コークスや石炭系ピッチコークスを主原料として製造される。天然黒鉛は、鱗状黒鉛、半鱗状黒鉛、土状黒鉛に分類され、鱗状黒鉛としては、鱗片状黒鉛、塊状黒鉛が挙げられる。また、鱗片状黒鉛を物理的・化学的処理により球状化した球状黒鉛や、鱗片状黒鉛を化学処理等した膨張黒鉛(膨張性黒鉛ともいう)、膨張黒鉛を熱処理して膨張化させた後、微細化やプレスにより得られた膨張化黒鉛等を使用することも出来る。これらの黒鉛の中でも、導電性の観点から、天然黒鉛が好ましく、球状黒鉛、鱗状黒鉛、および膨張化黒鉛等の薄片状黒鉛が好ましい。
【0023】
黒鉛(A-a)のアスペクト比は1~10が好ましく、1~5はさらに好ましい。アスペクト比とは、粒子の最長径をx、最短径をyとしたときに、x/yで表される値である。アスペクト比が大きい粒子は一般に配向しやすいが、アスペクト比が10より小さい場合は、電極表面の黒鉛粒子が配向しづらく表面の凹凸が大きくなるため、電極の表面積が増大し反応点が増加する。特にアノードに用いた場合は最適な表面形態のため微生物の付着量が増加する。アスペクト比の観点から、黒鉛(A-a)としては人造黒鉛や球状黒鉛が好ましい。
【0024】
アスペクト比の測定は例えば以下のようにして行うことができる。粒子を走査型電子顕微鏡で写真撮影し、任意に選んだ領域内の10個の粒子について、個々の粒子の最長径をx、最短径をyとしてx/yをそれぞれ求める。10個のx/yの平均値をその試料のアスペクト比とする。
【0025】
また、用いる黒鉛(A-a)の平均粒子径は、0.5~500μmが好ましく、特に、2~100μmが好ましい。
【0026】
平均粒子径とは、体積粒度分布において、粒子径の細かいものからその粒子の体積割合を積算していったときに、50%となるところの粒子径(D50)であり、一般的な粒度分布計、例えば、動的光散乱方式の粒度分布計(日機装社製「マイクロトラックUPA」)等で測定される。
【0027】
市販の黒鉛としては、例えば、鱗状黒鉛として、日本黒鉛工業社製のCMX、UP-5、UP-10、UP-20、UP-35N、CSSP、CSPE、CSP、CP、CB-150、CB-100、ACP、ACP-1000、ACB-50、ACB-100、ACB-150、SP-10、SP-20、J-SP、SP-270、HOP、GR-60、LEP、F#1、F#2、F#3、FB-150、中越黒鉛社製のCX-3000、FBF、BF、CBR、SSC-3000、SSC-600、SSC-3、SSC、CX-600、CPF-8、CPF-3、CPB-6S、CPB、96E、96L、96L-3、90L-3、CPC、S-87、K-3、CF-80、CF-48、CF-32、CP-150、CP-100、CP、HF-80、HF-48、HF-32、SC-120、SC-80、SC-60、SC-32、伊藤黒鉛工業社製のEC1500、EC1000、EC500、EC300、EC100、EC50、西村黒鉛社製の10099M、PB-99等が挙げられる。球状黒鉛としては、日本黒鉛工業社製のCGC-20、CGC-50、CGB-20、CGB-50が挙げられる。土状黒鉛としては、日本黒鉛工業社製の青P、AP、AOP、P#1、中越黒鉛社製のAPR、S-3、AP-6、300Fが挙げられる。人造黒鉛としては、日本黒鉛工業社製のPAG-60、PAG-80、PAG-120、PAG-5、HAG-10W、HAG-150、中越黒鉛社製のRA-3000、RA-15、RA-44、GX-600、G-6S、G-3、G-150、G-100、G-48、G-30、G-50、SECカーボン社製のSGP-100、SGP-50、SGP-25、SGP-15、SGP-5、SGP-1、SGO-100、SGO-50、SGO-25、SGO-15、SGO-5、SGO-1、SGX-100、SGX-50、SGX-25、SGX-15、SGX-5、SGX-1が挙げられる。
【0028】
黒鉛以外の炭素材料(A-b)は特に限定されないが、導電性の炭素材料が好ましく、コストや導電性などの観点から、カーボンブラックや導電性炭素繊維を用いることが好ましい。また、電極をカソードとして使用する場合は、酸素還元触媒活性を高めるために、炭素触媒を用いることが好ましい。
【0029】
カーボンブラックとしては、気体もしくは液体の原料を反応炉中で連続的に熱分解し製造するファーネスブラック、特にエチレン重油を原料としたケッチェンブラック、原料ガスを燃焼させて、その炎をチャンネル鋼底面にあて急冷し析出させたチャンネルブラック、ガスを原料とし燃焼と熱分解を周期的に繰り返すことにより得られるサーマルブラック、特にアセチレンガスを原料とするアセチレンブラックなどの各種のものを単独で、もしくは2種類以上併せて使用することができる。また、通常行われている酸化処理されたカーボンブラックや、中空カーボン等も使用できる。カーボンブラックの酸化処理は、カーボンブラックを空気中で高温処理したり、硝酸や二酸化窒素、オゾン等で二次的に処理したりすることより、例えばフェノール基、キノン基、カルボキシル基、カルボニル基の様な酸素含有極性官能基をカーボンブラック表面に直接導入(共有結合)する処理であり、カーボンブラックの分散性を向上させるために一般的に行われている。しかしながら、官能基の導入量が多くなる程カーボンブラックの導電性が低下することが一般的であるため、酸化処理をしていないカーボンブラックの使用が好ましい。
【0030】
用いるカーボンブラックの比表面積は、値が大きいほど、炭素材料粒子どうしの接触点が増えるため、電極の内部抵抗を下げるのに有利となるが、カーボンブラックの分散性が低くなる。そのため、比表面積の好ましい範囲としては、具体的には、窒素の吸着量から求められる比表面積(BET)で、10~3000m/g、より好ましくは20~1500m/gである。なお、比表面積は、窒素ガスを吸着質としたBET法(JIS Z 8803:2013)により測定できる。
【0031】
また、用いるカーボンブラックの粒径は、一次粒子径で0.005~1μmが好ましく、特に、0.01~0.2μmが好ましい。ただし、ここでいう一次粒子径とは、電子顕微鏡などで測定された粒子径を平均したものである。
【0032】
市販のカーボンブラックとしては、例えば、東海カーボン社製のトーカブラック#4300、#4400、#4500、#5500、デグサ社製のプリンテックスL、コロンビヤン社製のRaven7000、5750、5250、5000ULTRAIII、500
0ULTRA、Conductex SC ULTRA、Conductex 975 ULTRA、PUER BLACK100、115、205、三菱化学社製の#2350、#2400B、#2600B、#3050B、#3030B、#3230B、#3350B、#3400B、#5400B、キャボット社製のMONARCH1400、1300、900、VulcanXC-72R、BlackPearls2000、TIMCAL社製のEnsaco250G、Ensaco260G、Ensaco350G、SuperP-Li等のファーネスブラック)、ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社製のEC-200L、EC-300J、EC-600JD等のケッチェンブラック、デンカ社製のデンカブラック、デンカブラックHS-100、FX-35等のアセチレンブラックが挙げられるが、これらに限定されるものではなく、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0033】
活性炭としては、具体的にはフェノール系、ヤシガラ系、レーヨン系、アクリル系、石炭-石油系ピッチコークス、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)等を賦活した活性炭を挙げることができる。同じ質量でもより広い面積の界面を形成することが可能な、比表面積の大きいものが好ましい。具体的には、比表面積が30m2/g以上が好ましく、
より好ましくは500~5000m2/g、さらに好ましくは1000~3000m2/gである。
【0034】
導電性炭素繊維としては石油由来の原料から焼成して得られるものが良いが、植物由来の原料からも焼成して得られるものも用いることが出来る。また、カーボンナノチューブには、グラフェンシートが一層でナノメートル領域の直径を有するチューブを形成する単層カーボンナノチューブと、グラフェンシートが多層である多層カーボンナノチューブがある。そのため、多層カーボンナノチューブの直径は、典型的な単層カーボンナノチューブの0.7~2.0nmに対して、30nmと大きい値を示す。
【0035】
市販の導電性炭素繊維やカーボンナノチューブとしては、昭和電工社製のVGCF等の気相法炭素繊維、名城ナノカーボン社製のEC1.0、EC1.5、EC2.0、EC1.5-P等の単層カーボンナノチューブ、CNano社製のFloTube9000、FloTube9100、FloTube9110、FloTube9200、Nanocyl社製のNC7000、Knano社製の100T等が挙げられる。
【0036】
炭素触媒は、1種または2種以上の、炭素材料と、窒素元素および卑金属元素を含有する化合物とを混合し、熱処理を行い作製された炭素触媒であって、従来公知のものを使用できる。炭素触媒に用いられる炭素材料は、無機材料由来の炭素粒子および/または有機材料を熱処理して得られる炭素粒子であれば特に限定されない。一般的に、炭素触媒の活性点としては、炭素粒子表面に卑金属-N4構造(卑金属元素を中心に4個の窒素元素が平面上に並んだ構造)に含まれる卑金属元素や、炭素粒子表面のエッジ部に導入された窒素元素近傍の炭素元素などが挙げられる。そのため、炭素触媒が、上記活性点を構成する窒素元素や卑金属元素を含有することは、酸素還元活性を有する上で重要である。更に、炭素触媒は、BET比表面積が20~2000m/gが好ましく、40~1000m/gがより好ましく、60~600m/gがさらに好ましい。
【0037】
炭素材料(A)の平均比表面積は、5~300m/gが好ましく、5~100m/gはさらに好ましい。ここで、炭素材料(A)の平均比表面積とは、電極用組成物中に含まれる2種以上の炭素材料(A)の比表面積の相加平均をいう。例として、炭素材料(A)としてC1及びC2を使用する場合を示す。C1の比表面積がA1 m/g、C1の組成物中の添加量がB1 g、C2の比表面積がA2 m/g、添加量がB2 gであった場合、炭素材料(A)の平均比表面積は、以下の式1で表される。
(A1×B1+A2×B2)/(B1+B2) …式1
【0038】
炭素材料(A)の平均比表面積が5m/g以上である場合、電極の表面積が大きくなり、酸化還元反応が促進される。また、炭素材料(A)の平均比表面積が300m/g以下であると、電極の強度が向上する。100m/g以下であると、電極の表面形態が粗くなり、微生物の吸着性が向上する。
【0039】
<バインダー(B)>
バインダー(B)の種類は、炭素材料(A)の分散性、電極用組成物の安定性、基材への密着性、および電極の可とう性を付与できるものであれば特に制限されず、バインダー樹脂等が挙げられる。
【0040】
バインダー樹脂としては、ポリウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂、アクリロニトリル系樹脂、アクリル系樹脂、ブタジエン系樹脂、ポリビニル系樹脂、ポリビニルブチラール系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、EVA系樹脂、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリエーテル系樹脂、カルボキシメチルセルロース等のセルロース系樹脂等からなる群から選ばれる1種類以上を含むことができる。ただし、これらの樹脂に限定されるわけではない。バインダー樹脂は1種単独で用いても良く、2種以上併用しても良い。バインダー樹脂としては、価格や密着性の観点から、フッ化物でない樹脂が好ましい。
【0041】
バインダー樹脂は、バインダー樹脂が基材に適用された後に、硬化(架橋)反応を受ける、硬化性樹脂を用いることもできる。バインダー樹脂は、水系または非水系溶剤に溶解する溶解性樹脂や分散型樹脂微粒子を用いることもできる。分散型樹脂微粒子は、樹脂微粒子が水系または非水系の分散媒中で溶解せずに、微粒子の状態で存在するもので、その分散体は、一般的にエマルションとも呼ばれる。これらは1種単独で用いても良く、2種以上併用しても良い。
【0042】
分散型樹脂微粒子の粒子構造は、多層構造、いわゆるコアシェル粒子にすることもできる。例えば、コア部、またはシェル部に官能基を有する単量体を主に重合させた樹脂を局在化させたり、コアとシェルによってTgや組成に差を設けたりすることにより、硬化性、乾燥性、成膜性、バインダーの機械強度を向上させることができる。樹脂微粒子の平均粒子径は、結着性や粒子の安定性の観点から、10~1000nmであることが好ましく、10~300nmであることが好ましい。また、1μmを超えるような粗大粒子が多く含有されるようになると粒子の安定性が損なわれるので、1μmを超える粗大粒子は多くとも5%以下であることが好ましい。平均粒子径の測定は、以下のようにして行うことができる。樹脂微粒子の固形分に応じて、分散媒と同じ分散液で200~1000倍に希釈しておく。該希釈分散液約5mlを測定装置(日機装社製ナノトラック)のセルに注入し、サンプルに応じた分散媒および樹脂の屈折率条件を入力後、測定を行う。この時得られた体積粒子径分布データ(ヒストグラム)のピークによって測定することができる。
【0043】
分散型樹脂微粒子としては、架橋型樹脂微粒子を含むことが好ましい。架橋型樹脂微粒子とは、内部架橋構造(三次元架橋構造)を有する樹脂微粒子を示し、粒子内部で架橋していることが重要である。また、架橋型樹脂微粒子が特定の官能基を含有することにより、他の電極構成材料や基材との密着性に寄与することができる。さらには架橋構造や官能基の量を調整することで、電池の優れた耐久性を得ることができる。
【0044】
電解液への濡れ性や浸透性などの観点から、バインダー(B)としては、水系溶剤に溶解可能な水溶性樹脂(B-a)や、水系の分散媒中で溶解せずに微粒子の状態で存在する水性樹脂微粒子(B-b)を使用することが好ましい。また、電極用組成物のスラリー安定性や塗工性、電極の耐水性や可とう性等の観点から、水溶性樹脂(B-a)と水性樹脂微粒子(B-b)を併用することがさらに好ましい。
【0045】
(水溶性樹脂(B-a))
水溶性樹脂(B-a)とは、25℃の水99g中に樹脂1gを入れて撹拌し、25℃で24時間放置した後、分離・析出せずに水中で完全に溶解可能な樹脂である。
【0046】
水溶性樹脂(B-a)には、炭素材料(A)の分散性を高める効果があるため、少ない樹脂量で安定な組成物が得られ、電極の導電性が向上する。また、水溶性樹脂(B-a)を含む電極は、水中に浸漬した場合に、水溶性樹脂の水との高い親和性により電極の電解液に対する濡れ性が向上するとともに、水溶性樹脂の膨潤や溶出による流路が形成されるため、微生物燃料電池の発電に必要なプロトンの拡散に優れた電極を提供できる。また、水溶性樹脂(B-a)の微生物との高い親和性により、アノードへの微生物の付着や育成が促進されるため、多くの微生物を担持でき、微生物と炭素材料(A)や基材との結着も強化される。
【0047】
水溶性樹脂(B-a)は、アニオン性樹脂、カチオン性樹脂、アニオン性とカチオン性の性質を併せ持つ両性樹脂、またそれ以外のノニオン性樹脂に大別され、更にその樹脂が複数の単量体から構成されてもよい。また、水溶性樹脂(B-a)は1種単独で用いても良いし、2種以上併用しても良い。
【0048】
アニオン性樹脂としては、カルボキシル基、スルホ基、リン酸基およびそれらを一部あるいは全てを中和した骨格を含有する樹脂が挙げられる。例示すると、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、2-スルホエチルメタクリレート、2-メタクリロイルオキシエチルアシッドホスフェートなどの重合性単量体の単独重合物、または他の重合性単量体との共重合物、カルボキシメチルセルロース、およびそれらのアルカリ中和物等が挙げられる。
【0049】
カチオン性樹脂としては、環状を含むアミノ基およびアミノ基の一部あるいは全て中和した骨格や4級アンモニウム塩を含有する樹脂等が挙げられる。例示すると、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチル(メタ)アクリレート、ビニルピリジンなどの重合性単量体の単独重合物、または他の重合性単量体との共重合物およびそれらの酸中和物が挙げられる。
【0050】
両性樹脂としては、前記アニオン性骨格と前記カチオン性骨格を共に含有する樹脂が挙げられる。例示すると、スチレン-マレイン酸-N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートの共重合物などが挙げられる。
【0051】
ノニオン性樹脂は、前記アニオン性、カチオン性および両性樹脂以外の樹脂である。例示すると、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリアクリルアミド、ポリ-N-ビニルアセトアミド、ポリアルキレングリコールなどが挙げられる。
【0052】
水溶性樹脂(B-a)の分子量は特に限定されないが、好ましくは質量平均分子量が5,000~2,500,000である。質量平均分子量(Mw)とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)におけるポリエチレンオキサイド換算分子量を示す。
【0053】
(水性樹脂微粒子(B-b))
水性樹脂微粒子は、樹脂が水中で溶解せずに微粒子の状態で存在する分散型樹脂微粒子で、水分散樹脂微粒子とも呼ばれる。その水分散体は一般的に水性エマルションとも呼ばれる。
【0054】
水性樹脂微粒子(B-b)としては、(メタ)アクリル系エマルション、ニトリル系エマルション、ウレタン系エマルション、ポリオレフィン系エマルション、フッ素系エマルション(ポリフッ化ビニリデン(PVDF)やポリテトラフルオロエチレン(PTFE)など)、ジエン系エマルション(スチレン・ブタジエンゴム(SBR)等)等が挙げられる。なお、(メタ)アクリルは、メタクリルまたはアクリルを意味する。
【0055】
水性樹脂微粒子(B-b)を含む電極用組成物は、塗膜形成された場合、粒子間及び基材との密着性に優れ、強度の高い電極を提供できる。また、水性樹脂微粒子(B-b)と炭素材料(A)の結着は点接触によるため、界面を反応場とする反応を阻害しにくい。また、微生物が付着しやすい表面形態を形成することができる。更に、密着性に優れることから必要な水性樹脂微粒子(B-b)は少量で済むため、結果、電極の導電性が向上する。更に、水性樹脂微粒子は構成する単量体によっては安価に製造することが可能なため、電極の製造費を低減できる。上述のような効果を得るため、水性樹脂微粒子(B-b)としては、粒子間の結着性と柔軟性(膜の可とう性)に優れる(メタ)アクリル系エマルションやウレタン系エマルションが好ましい。
【0056】
(メタ)アクリル系エマルションとは、(メタ)アクリロイル基を有する単量体を10質量部以上含有する乳化重合物であり、好ましくは20質量部以上、更に好ましくは30質量部以上含有されているとよい。アクリロイル基を有する単量体は反応性に優れるため、樹脂微粒子を比較的容易に作製することができる。したがって、水性樹脂微粒子(B-b)として、(メタ)アクリル系エマルションは特に好ましい。
【0057】
<溶剤(分散媒)>
導電性の炭素材料(A)と、バインダー(B)とを均一に混合する場合、溶剤を適宜用いることが出来る。そのような溶剤としては、樹脂を溶解できるものや、樹脂微粒子エマルションを安定に分散できるものであれば特に限定されず、水や有機溶剤を挙げることが出来る。
【0058】
有機溶剤は、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエーテル等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン、クメン等の芳香族類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類などの内から導電性組成物の組成に応じ適当なものが使用できる。
また、溶剤は水と有機溶剤、または有機溶剤を2種以上用いてもよい。
【0059】
水溶性樹脂(B-a)や水性樹脂微粒子(B-b)を用いる場合、溶解性や分散性の観点から、溶剤として水を使用することが好ましく、必要に応じて、水と相溶する液状媒体を添加しても良い。水と相溶する液状媒体としては、炭素数が4以下のアルコール系溶剤が好ましい。
【0060】
また、本発明の電極用組成物には、必要に応じて、本発明による効果を妨げない範囲で、紫外線吸収剤、紫外線安定剤、ラジカル補足剤、充填剤、チクソトロピー付与剤、老化防止剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、熱伝導性改良剤、可塑剤、ダレ防止剤、防汚剤、防腐剤、殺菌剤、消泡剤、レベリング剤、ブロッキング防止剤、硬化剤、増粘剤、分散剤、シランカップリング剤等の各種の添加剤を添加してもよい。
【0061】
<電極用組成物の組成>
炭素材料(A)の含有量は、導電性や基材への密着性等から、電極用組成物の全固形分の合計100質量%に対して、好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは80~99質量%が好ましく、特に好ましくは85~99質量%である。炭素材料(A)の含有量が50質量%以上であると、電極内部での電子パスが発達し、十分な導電性が得られる。炭素材料(A)の含有量が80質量%以上であると、表面に炭素材料(A)が露出することによって炭素材料(A)と微生物の間の電子パスが増加し、アノード反応が促進されるため、電池の発電特性が向上する。
黒鉛(A-a)の含有量は、導電性の観点から、炭素材料(A)の合計100質量%に対して、好ましくは25~99質量%、さらに好ましくは50~90質量%、特に好ましくは60~85質量%である。黒鉛(A-a)と黒鉛以外の炭素材料(A-b)とを好適な範囲内で併用することにより、電極内部でのパッキングが向上して導電性が向上する。さらに、好適な表面形態が形成されるため、物質拡散性や微生物吸着性が高まって反応性が向上し、高い発電特性が得られる。
バインダー(B)の含有量は、導電性や基材への密着性等から、電極用組成物の全固形分の合計100質量%に対して、好ましくは0.1~50質量%、さらに好ましくは0.5~20質量%、特に好ましくは1~15質量%である。
【0062】
水溶性樹脂(B-a)を含む場合、その含有量は、電極用組成物の全固形分の合計100質量%に対して、好ましくは0.1~30質量%、さらに好ましくは0.5~20質量%、特に好ましくは1~15質量%である。水溶性樹脂の含有量が0.1質量%以上であると、前述の通り、微生物をより多く担持でき、プロトン拡散性が良好なアノードが得られる。また、水溶性樹脂の含有量が30質量%以下であると、電解液中での耐久性が良好なアノードが得られる。
水性樹脂微粒子(B-b)を含む場合、その含有量は、電極用組成物の全固形分の合計100質量%に対して、好ましくは0.5~40質量%、さらに好ましくは1~30質量%、特に好ましくは2~25質量%である。水性樹脂微粒子の含有量が0.5質量%以上であると、アノードの強度が改善する。また、水性樹脂微粒子の含有量が40質量%以下の場合、良好な導電性が得られる。さらに、水性樹脂微粒子の含有量が30質量%以下である場合、水性樹脂微粒子と炭素材料(A)との点結着により、微生物の吸着に適した表面形態が形成される。さらに、水性樹脂微粒子の含有量が25質量%以下である場合、塗膜表面において炭素材料(A)がより多く露出するため、酸化還元反応が促進される。
また、水溶性樹脂(B-a)と水性樹脂微粒子(B-b)とをともに含む場合、水性樹脂微粒子(B-b)を水溶性樹脂(B-a)より多く含むことで、物質拡散性が向上し、好ましい。
【0063】
電極用組成物には炭素材料(A)とバインダー(B)以外の任意の成分を含んでもよいが、導電性や密着性などの観点から、電極用組成物の全固形分に対する炭素材料(A)とバインダー(B)の合計の割合は、好ましくは50質量%以上であり、さらに好ましくは80質量%以上である。
【0064】
電極組成物の適正粘度は、組成物の塗工方法によるが、一般には、10mPa・s以上、30,000mPa・s以下とするのが好ましい。
【0065】
<電極用組成物の調製方法>
電極用組成物の調製方法に特に制限はない。調製方法は、
(1)各成分を同時に分散してもよく、
(2)炭素材料(A)を溶媒中に分散後、他の材料を添加してもよく、
(3)炭素材料(A)とバインダー(B)を溶媒中に分散後、他の材料を添加してもよく、
使用する炭素材料(A)やバインダー(B)により最適化することができる。
水溶性樹脂(B-a)や水性樹脂微粒子(B-b)を使用する場合、炭素材料(A)と水溶性樹脂(B-a)とを水性液状媒体中に分散した後に、水性樹脂微粒子(B-b)を添加すると、分散時間の短縮などコストダウンに大きく貢献することができる。
【0066】
<分散機・混合機>
電極用組成物を得る際に用いられる装置としては、顔料分散等に通常用いられている分散機、混合機が使用できる。
【0067】
例えば、ディスパー、ホモミキサー、若しくはプラネタリーミキサー等のミキサー類;エム・テクニック社製「クレアミックス」、若しくはPRIMIX社「フィルミックス」等のホモジナイザー類;ペイントコンディショナー(レッドデビル社製)、ボールミル、サンドミル(シンマルエンタープライゼス社製「ダイノミル」等)、アトライター、パールミル(アイリッヒ社製「DCPミル」等)、若しくはコボールミル等のメディア型分散機;湿式ジェットミル(ジーナス社製「ジーナスPY」、スギノマシン社製「スターバースト」、ナノマイザー社製「ナノマイザー」等)、エム・テクニック社製「クレアSS-5」、若しくは奈良機械社製「MICROS」等のメディアレス分散機;または、その他ロールミル等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0068】
例えば、メディア型分散機を使用する場合は、アジテーター及びベッセルがセラミック製又は樹脂製の分散機を使用する方法や、金属製アジテーター及びベッセル表面をタングステンカーバイド溶射や樹脂コーティング等の処理をした分散機を用いることが好ましい。そして、メディアとしては、ガラスビーズ、または、ジルコニアビーズ、若しくはアルミナビーズ等のセラミックビーズを用いることが好ましい。また、ロールミルを使用する場合についても、セラミック製ロールを用いることが好ましい。分散装置は、1種のみを使用しても良いし、複数種の装置を組み合わせて使用しても良い。また、強い衝撃で粒子が割れやすいあるいは潰れやすい場合は、メディア型分散機よりは、ロールミルやホモジナイザー等のメディアレス分散機が好ましい。
【0069】
<電極の製造方法>
次に、電極用組成物から電極を作製する方法について、説明する。従来公知の方法を使用して作製することが出来、特に限定されないが、例えば、
(1)電極用組成物を基材へ塗工することにより作製した電極や、
(2)電極用組成物をペレット状に成形した電極や、
(3)電極用組成物をペレット状に成形したものを導電性基材で包んで作製した電極や、(4)枠や籠のような形状の導電性基材中へ電極用組成物をペレット状に成形したものを封入した電極、
等が挙げられる。
特に、微生物が関与するアノードについては、例えば、微生物を電極用組成物へ混合してからアノードを作製しても良いし、あらかじめ上述のように電極を作製しておき、その後に微生物の添加や植種を行っても良い。また、電極を土壌中へ設置した後に土壌中の微生物の吸着によりアノードとして機能させることも出来る。
【0070】
<基材>
電極で使用する基材としては、導電性基材や非導電性基材を用いることができる。
【0071】
導電性基材は、集電体として機能する。導電性基材としては、耐腐食性、電気伝導性に優れ、表面積が大きく、反応物及び生成物の拡散に優れるものが良く、材質や形状は特に限定されない。例えばグラファイトペーパー(カーボンペーパー)、グラファイトクロス(カーボンクロス)及びグラファイトフェルト(カーボンフェルト)等のカーボン材料の他、ステンレスメッシュ、銅メッシュや白金メッシュ等の金属材料を用いることができるが、この限りではない。電極に用いる導電性基材には、予め撥水処理しても良い。例えば、PTFEの分散液をカソードに含浸させ、乾燥後400℃前後で加熱することで撥水性が発現する。また、PTFE分散液には導電材を分散させても良い。なお、撥水処理はこれらに限定されるものではない。
【0072】
また、紙類、布類、樹脂製フィルム等の非導電性支持体に、導電性被膜を形成できる組成物やポリアニリン、ポリアセチレン、ポリピロール、ポリチオフェン等の導電性高分子を塗布、乾燥したものやそれらを併用したものを用いてもよい。
【0073】
非導電性基材としては、上述の非導電性支持体と同様の物が使用できる。
【0074】
基材としては、コストや耐腐食性の観点から、非導電性支持体を有する導電性基材および非導電性基材が好ましい。
【0075】
<塗工方法>
本発明の電極用組成物を基材に塗工(塗布)する方法は、特に制限はなく公知の方法を用いることができる。例示すると、グラビアコーティング法、スプレーコーティング法、スクリーン印刷法、ディップコーティング法、ダイコーティング法、ロールコーティング法、ドクターコーティング法、ナイフコーティング法、スクリーン印刷法または静電塗装法等を挙げることができ、乾燥方法としては放置乾燥、送風乾燥機、温風乾燥機、赤外線加熱機、遠赤外線加熱機等が使用できるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0076】
本発明の微生物燃料電池用電極の体積抵抗率は、5×10Ω・cm未満であることが好ましく、さらに好ましくは5×10Ω・cm未満、さらに好ましくは1×10-1Ω・cm未満である。導電性が良好な電極ほど電力を有効に取り出すことが可能となる。
【0077】
<微生物燃料電池>
本発明の微生物燃料電池には、図1に示すように、アノード、カソード、電解液、外部抵抗などが用いられる。アノードは微生物を含んでおり、カソードは還元触媒を含んでいる。アノードとカソードとは、電解液を介して接しており、カソードは酸化剤と触れることができる位置に配置されている。酸化剤としては、大気中に存在する酸素を用いることが好ましい。また、アノードとカソードとは、外部抵抗を経由して電気的に接続されている。ここで、外部抵抗とは、電気回路における電気抵抗を示す。
【0078】
アノードでは、微生物の代謝によって有機物が酸化分解されると同時に、電子とプロトンが発生する。発生した電子はアノードに取り込まれ外部抵抗を経由してカソードへと移動する。発生したプロトンは、電解液中を通過して、カソード側へと移動する。
また、カソードでは、還元触媒の作用によって、アノード側から移動してきた電子とプロトン、及びカソード付近の酸化剤が反応する。
そして、上記の反応が繰り返されることで、カソードとアノードとの間に起電力が発生する。
【0079】
微生物燃料電池に用いる電解液は、プロトン伝導性を有し、微生物によって酸化分解される基質を含有する。基質は、電子を供与する微生物が代謝可能な物質であれば、特に限定されるものではない。例えば、糖類やタンパク質、脂質などの有機物の他、アンモニアなどの無機物などが挙げられ、それらを1種類以上含有してもよい。したがって、電解液は前記条件を満たす生活廃水、産業廃水、環境廃水(池、湖沼、河川、海)、土壌、汚泥等を用いることができる。また、微生物とアノードとの間で電子伝達を担うメディエーターを導入してもよく、メチレンブルーやニュートラルレッドなどが例示できる。
【0080】
アノードにおいて電子を供与する微生物は、前記基質を酸化分解し電子を生成するアノード反応を生起するものであれば、単一種でも複数種であってもよい。また、微生物は電解槽内を浮遊あるいはアノード上へ固定化することで電解槽内に保持する。微生物種は特に限定されないが、Shewanella属やGeobacter属に属するものが例示できる。
【0081】
カソードで使用出来る触媒は、微生物燃料電池として機能する触媒であれば特に限定されるものではないが、酸素還元触媒を例に説明する。酸素還元触媒は貴金属触媒、卑金属酸化物触媒、炭素触媒、活性炭、還元酵素等が挙げられる。これらは単独で用いても、二種類以上組み合わせて用いても良い。
【0082】
微生物燃料電池の構成としては、電子供与微生物が保持されたアノードと、触媒材料を含むカソードを、電解液として有機廃水等を含む電解槽に隔壁を設けず差し込んだ一槽型構成や、固体高分子形燃料電池のように、固体高分子膜を利用して、アノード槽とカソード槽を隔てた二槽型構成でもよい。更に、面で囲われた電解槽だけでなく、水田や湖沼、河川、海のように囲われていない環境でもよい。例えば、電解液を保持する電解槽内部と酸素を含む大気等の電解槽外部を隔てる液面、側面、底面にカソードが設置される形態や、外気を取り入れることができるカセット型の電極を液中に浸漬する等の形態が考えられる。このとき、カソードの触媒層が電解液と接し、その裏面が酸素を含む大気等と接するように設置される。これにより、電解槽外部から酸素を含む大気等が直接カソードへ流入し、電解液に接したカソード中の触媒上で反応が生起する。
【実施例
【0083】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、以下の実施例は本発明の権利範囲を何ら制限するものではない。
【0084】
<電極用炭素材料>
[製造例A1]
(炭素材料(1)の調整)
グラフェンナノプレートレットxGnP-C-750(XGscience社製)と鉄フタロシアニン P-26(山陽色素社製)を、質量比1/0.5(グラフェンナノプレー
トレット/鉄フタロシアニン)となるようにそれぞれ秤量し、乾式混合を行い、混合物を得た。上記混合物を、アルミナ製るつぼに充填し、電気炉にて窒素雰囲気下、800℃で2時間熱処理を行い、炭素材料(1)を得た。炭素材料(1)の比表面積は、220m/gであった。
【0085】
<電極用組成物の調製>
[実施例1]
黒鉛(A-a)として球状黒鉛CGB-50(日本黒鉛社製)12質量%、黒鉛以外の炭素材料(A-b)としてアセチレンブラックHS-100(デンカ社製)3質量%、バインダー(B)としてポリフッ化ビニリデンであるKFポリマー#9200(クレハ社製)5質量%、溶媒としてN-メチルピロリドン80質量%、をミキサーにて混合して固形分が20質量%となる電極用組成物(1)を得た。
【0086】
[実施例2~27、比較例1、2]
表1に示す黒鉛(A-a)、黒鉛以外の炭素材料(A-b)、バインダー(B)、溶媒を用いて、電極用組成物(1)と同様の方法で電極用組成物(2)~(29)を作製した。
【0087】
【表1】
【0088】
<微生物燃料電池用電極の作製>
【0089】
[実施例28~45、48~54、比較例3、4]
非導電性の基材である厚さ100μmのPETフィルム(大きさ10cm×10cm)上に、実施例1~18、21~27及び比較例1、2の電極用組成物(1)~(18)、(21)~(29)を目付け量が2mg/cmとなるように添加した後、110℃で10分間加熱乾燥し微生物燃料電池用電極(1)~(18)、(21)~(29)を作製した。
【0090】
[実施例46、47]
導電性の基材であるカーボンペーパー(大きさ10cm×10cm、東レ社製)上に、実施例19、20の電極用組成物(19)、(20)を目付け量が2mg/cmとなるように添加した後、110℃で10分間加熱乾燥し微生物燃料電池用電極(19)、(20)を作製した。
【0091】
微生物燃料電池用電極(28)は、塗膜が剥落したため、以降の評価を実施しなかった。
【0092】
[製造例B1]
炭素材料(1)12質量%、Nafion(登録商標)(20質量%溶液)40質量%、水24質量%、1-プロピルアルコール24質量%、をミキサーにて混合してカソード用組成物(1)を得た。カーボンフェルトLFP-210(大きさ10cm×10cm、大阪ガスケミカル社製)上に、カソード用組成物(1)を添加した後、110℃で10分間加熱乾燥して、微生物燃料電池用カソード(1)(目付け量10mg/cm)を作製した。
【0093】
<微生物燃料電池>
[実施例55]
図1に示す微生物燃料電池により評価を実施した。500mLの容量を持つ容器内に、土(花と野菜の土:あかぎ農園社)400gと、カソード、アノードを配置し、土中に電解液である水道水250gを加えて微生物燃料電池を作製した。アノードは微生物燃料電池用電極(1)を使用し、カソードは微生物燃料電池用カソード(1)を用いた。次に、カソードとアノードに配線を取り付けて外部抵抗(1kΩ)に接続し、微生物燃料電池を連続運転させた。
【0094】
[実施例56~72、75~81、比較例5]
表2に示す通り、アノードとして微生物燃料電池用電極(1)の代わりに微生物燃料電池用電極(2)~(18)、(21)~(27)、(29)を使用した以外は実施例55と同様にして、微生物燃料電池を連続運転させた。
【0095】
[実施例73、74]
表2に示す通り、カソードとして微生物燃料電池用カソード(1)の代わりに微生物燃料電池用電極(19)、(20)を使用した以外は実施例55と同様にして、微生物燃料電池を連続運転させた。
【0096】
【表2】
【0097】
(発電特性評価)
3週間後の微生物燃料電池の電圧と電流をテスターで測定して出力を算出した。下記に判断基準を示し、結果を表2に示す。
◎:発電特性 30μW以上(極めて良好)
〇:発電特性 20μW以上30μW未満(良好)
〇△:発電特性 10μW以上20μW未満(実用上問題なし)
△:発電特性 5μW以上10μW未満(不良)
×:発電特性 5μW未満(極めて不良)
【0098】
(耐久性評価)
発電特性評価を実施した時点での発電特性を100%とし、さらに3週間後の発電特性を測定して発電特性の維持率を算出して評価した。下記に判断基準を示し、結果を表2に示す。
◎:発電特性維持率 80%以上(極めて良好)
〇:発電特性維持率 70%以上80%未満(良好)
〇△:発電特性維持率 60%以上70%未満(実用上問題なし)
△:発電特性維持率 40%以上60%未満(不良)
×:発電特性維持率 40%未満(極めて不良)
【0099】
表2に示すように、本発明の電極用組成物を用いることで、微生物燃料電池において良好な発電特性および耐久性が得られた。電極の導電性や物質の拡散性が高いため、反応速度が高くなったと考える。また、アノードにおいては、表面形態が最適化されたため、微生物の吸着性が向上したと考える。また、
・実施例8~10の比較より、水溶性樹脂(B-a)と水性樹脂微粒子(B-b)を併用した実施例8は発電特性および耐久性が優れていた。
・組成物の固形分合計100質量%中の水溶性樹脂(B-a)の含有量が20%である実施例27に比較して、1~15%である実施例15、実施例25は発電特性および耐久性が優れていた。
・鱗状黒鉛を使用した実施例12に比較して、アスペクト比が1~10である球状黒鉛または人造黒鉛を使用した実施例3、実施例11は発電特性および耐久性が優れていた。
・組成物の固形分合計100質量%中の炭素材料(A)の含有率が75%である実施例15および実施例18に比較して、炭素材料(A)の含有率が80~99質量%である実施例25および実施例26は発電特性および耐久性が優れていた。また、炭素材料(A)の含有率が80%である実施例24に比較して、炭素材料(A)の含有率が85~99%である実施例4、実施例5、実施例23は発電特性が優れていた。
・比表面積が大きい活性炭を使用する実施例16に比較して、比表面積がより小さいケッチェンブラックを使用する実施例15は耐久性が優れていた。また、ファーネスブラックを使用する実施例14、ケッチェンブラックを使用する実施例25に比較して、比表面積がさらに小さいアセチレンブラックを使用する実施例6、実施例26は発電特性および耐久性が優れていた。
・炭素材料(A)中の黒鉛(A-a)の含有率が60%である実施例17に比較して、黒鉛(A-a)の含有率が80%である実施例26は、発電特性が優れていた。また、黒鉛(A-a)の含有率が40%である実施例22に比較して、黒鉛(A-a)の含有率が80%である実施例23は、発電特性が優れていた。
・炭素材料(A)の平均比表面積が300m/gを超える実施例21に比較して、炭素材料(A)の平均比表面積が約150m/gである実施例15は発電特性および耐久性が優れていた。また、炭素材料(A)の平均比表面積が約150m/gである実施例25に比較して、炭素材料(A)の平均比表面積が約8m/gである実施例26は発電特性が優れていた。
【符号の説明】
【0100】
1 容器
2 カソード
3 アノード
4 電解液
5 外部抵抗
図1