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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】液体吐出ヘッド
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/14 20060101AFI20240925BHJP
   B41J 2/18 20060101ALI20240925BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
B41J2/14 603
B41J2/14 605
B41J2/18
B41J2/01 401
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020179933
(22)【出願日】2020-10-27
(65)【公開番号】P2022070714
(43)【公開日】2022-05-13
【審査請求日】2023-10-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000005267
【氏名又は名称】ブラザー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉野 隆晃
(72)【発明者】
【氏名】垣内 徹
(72)【発明者】
【氏名】山本 次郎
(72)【発明者】
【氏名】水野 泰介
(72)【発明者】
【氏名】神▲崎▼ 章太郎
【審査官】牧島 元
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-168739(JP,A)
【文献】特開2020-168745(JP,A)
【文献】特開2019-155905(JP,A)
【文献】特開2018-130967(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0281402(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0306875(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01 - 2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体が外部から供給される供給マニホールドと、
前記供給マニホールドの下方に配置され、前記液体が外部に排出される帰還マニホールドと、
前記帰還マニホールドに設けられた帰還用ダンパー部と、
上流端が前記供給マニホールドに接続され、下流端が前記帰還マニホールドに接続され、且つ、列をなしてノズル面に配置された複数のノズルに対して個別に連通した複数の個別流路と、
各前記個別流路と前記帰還マニホールドとを連通させ、前記帰還マニホールドの下方に配置された帰還絞り路と、を備え、
前記帰還マニホールドのコンプライアンスは前記供給マニホールドのコンプライアンスよりも大きく、
前記帰還マニホールドの容積は前記供給マニホールドの容積よりも大きく、
前記帰還マニホールドの厚みは前記供給マニホールドの厚みよりも大きく、
前記帰還用ダンパー部は、流路プレートのうち前記帰還マニホールドの側の部分がハーフエッチングされて形成されている、液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記供給マニホールドのコンプライアンスに対する前記帰還マニホールドのコンプライアンスの比率は2.0未満である、請求項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記供給マニホールドに設けられた供給用ダンパー部をさらに備え、
前記供給用ダンパー部のコンプライアンスと前記帰還用ダンパー部のコンプライアンスとは同じである、請求項1又は2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記帰還用ダンパー部は前記帰還マニホールドの上方に配置されている、請求項1乃至の何れか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
前記供給マニホールドと前記帰還マニホールドとを接続するバイパス流路をさらに備えた、請求項1乃至の何れか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項6】
前記帰還マニホールドの長手方向の長さは前記供給マニホールドの長手方向の長さよりも長い、請求項1乃至の何れか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項7】
前記供給マニホールドの一端に設けられ、前記液体が外部から供給される供給ポートをさらに備え、
前記帰還マニホールドの一端は、前記供給ポートが設けられた前記供給マニホールドの一端よりも当該帰還マニホールドの長手方向の外側に位置している、請求項1乃至の何れか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項8】
前記供給用ダンパー部は、流路プレートのうち前記帰還マニホールドの側の部分がハーフエッチングされて形成されている、請求項3に記載の液体吐出ヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク等の液体を吐出する液体吐出ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ノズル内のインクが高粘度化するのを抑制することを一つの目的として、供給マニホールドおよび帰還マニホールドを備え、インクタンクと液体吐出ヘッドとの間でインクを循環させるようにした構成が知られている。
【0003】
例えば特許文献1には、供給マニホールドと帰還マニホールドとが2階建ての構成になった液体吐出ヘッドが開示されている。平面視において供給マニホールドと帰還マニホールドとを重ねて配置することで、ヘッドの平面方向の小型化を図ることができる。また、各マニホールドにはそれぞれダンパー部が設けられているため、クロストークの影響を緩和することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-104294号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1の構成の場合、ノズルから帰還マニホールドまでの流路長は、供給マニホールドからノズルまでの流路長よりも短いため、帰還マニホールドを通じて他のノズルに及ぶクロストークの影響は比較的大きい。このため、帰還マニホールドの下に帰還絞りを設けて当該帰還絞りの長さを一定程度確保したり、上記のダンパー部の存在によってクロストークの影響をある程度抑えることはできる。しかしながら、帰還マニホールドを通じたクロストークの影響を大きくは抑えることができず、それ故吐出が不安定になる恐れがあった。
【0006】
そこで、本発明は、クロストークに起因した吐出の不安定化を抑制することができる液体吐出ヘッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の液体吐出ヘッドは、液体が外部から供給される供給マニホールドと、前記供給マニホールドの下方に配置され、前記液体が外部に排出される帰還マニホールドと、前記帰還マニホールドに設けられた帰還用ダンパー部と、上流端が前記供給マニホールドに接続され、下流端が前記帰還マニホールドに接続され、且つ、列をなしてノズル面に配置された複数のノズルに対して個別に連通した複数の個別流路と、各前記個別流路と前記帰還マニホールドとを連通させ、前記帰還マニホールドの下方に配置された帰還絞り路と、を備え、前記帰還マニホールドのコンプライアンスは前記供給マニホールドのコンプライアンスよりも大きいものである。
【0008】
本発明に従えば、帰還マニホールドのコンプライアンスが供給マニホールドのコンプライアンスよりも大きいことによって、帰還マニホールドを通じたクロストークの影響を大きく抑えることができる。このため、帰還マニホールドを通じたクロストークの影響に起因して吐出が不安定になることを従来よりも抑制することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、クロストークに起因した吐出の不安定化を抑制することができる液体吐出ヘッドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1実施形態に係る液体吐出ヘッドを備える液体吐出装置の概略構成を示す平面図である。
図2図1の液体吐出ヘッドを延在方向に直交する線分で切断した断面図である。
図3】供給マニホールドおよび帰還マニホールドの概略形状を示す側面図である。
図4】供給マニホールド、帰還マニホールドおよび個別流路を示す平面図である。
図5】複数の液体吐出ヘッドが搭載されたフレームの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態に係る液体吐出ヘッドについて図面を参照して説明する。以下に説明する液体吐出ヘッドは本発明の一実施形態に過ぎない。従って、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で追加、削除および変更が可能である。
【0012】
<液体吐出装置の構成>
本実施形態に係る液体吐出ヘッド20を備える液体吐出装置10は、例えばインク等の液体を吐出するものである。以下では、液体吐出装置10をインクジェットプリンタに適用した例について説明するが、液体吐出装置10の適用対象はこれに限定されるものではない。
【0013】
図1に示すように、液体吐出装置10は、例えばラインヘッド方式が採用され、プラテン11、搬送部、ヘッドユニット16、およびタンク12を備えている。但し、液体吐出装置10はラインヘッド方式に限定されず、例えばシリアルヘッド方式等の他の方式も採用し得る。
【0014】
プラテン11は、平板部材であり、上面に用紙14が配置され、その用紙14とヘッドユニット16との距離を決定する役割を担う。なお、プラテン11よりもヘッドユニット16側を上側と称し、その反対側を下側と称するが、液体吐出装置10の配置はこれに限定されない。
【0015】
搬送部は、例えば2つの搬送ローラ15および図略の搬送モータを有する。2つの搬送ローラ15は、上記搬送モータに連結され、プラテン11を互いに挟んだ状態で用紙14の搬送方向に直交する方向(直交方向)に沿って互いに平行に配置されている。搬送モータが駆動されると、搬送ローラ15が回転し、プラテン11上の用紙14が搬送方向に搬送される。
【0016】
ヘッドユニット16は、上記直交方向における用紙14の長さ以上の長さを有している。ヘッドユニット16には、複数の液体吐出ヘッド20が設けられている。
【0017】
液体吐出ヘッド20は、流路形成体および容積変更部の積層体を有する。流路形成体は、内部に液体流路が形成され、吐出面(ノズル面)40aに複数のノズル孔21aが開口している。容積変更部は、駆動されて液体流路の容積を変更する。この場合、ノズル孔21aでは、メニスカスが振動し、液体が吐出される。なお、液体吐出ヘッド20の詳細については後述する。
【0018】
液体が例えばインクの場合、タンク12は当該インクの種類ごとに設けられている。タンク12は例えば4つ設けられ、4つのタンク12内には、ブラック、イエロー、シアン、およびマゼンタのインクがそれぞれ貯留されている。タンク12のインクは、対応するノズル孔21aに供給される。
【0019】
<液体吐出ヘッドの構成>
液体吐出ヘッド20は、上述の通り、流路形成体および容積変更部を備えている。図2に示すように、流路形成体は複数のプレート(例えば金属プレート)の積層体であり、容積変更部は振動板55および圧電素子60を有している。
【0020】
複数のプレートは、ノズルプレート40、第1流路プレート41、第2流路プレート42、第3流路プレート43、第4流路プレート44、第5流路プレート45、第6流路プレート46、第7流路プレート47、第8流路プレート48、第9流路プレート49、第10流路プレート50、第11流路プレート51、第12流路プレート52、第13流路プレート53、および第14流路プレート54を含む。これらのプレートはこの順で積層されている。
【0021】
各プレートには、大小様々な孔および溝が形成されている。各プレートが積層された流路形成体の内部では孔および溝が組み合わされて、複数のノズル21、複数の個別流路64、供給マニホールド22および帰還マニホールド23が液体流路として形成されている。
【0022】
ノズル21はノズルプレート40を積層方向(上下方向)に貫通し形成されている。ノズルプレート40の吐出面40aには、ノズル21の先端である複数のノズル孔21aが所定の列(ノズル列)に沿った方向(以下、延在方向と呼ぶ)に並設されている。なお、延在方向は上記の積層方向および後記の幅方向にそれぞれ直交する方向である。
【0023】
供給マニホールド22は、延在方向に延在しており、複数の個別流路64に接続されている。帰還マニホールド23は、延在方向に延在しており、複数の個別流路64に接続されている。供給マニホールド22は帰還マニホールド23の上に配置されている。
【0024】
ここで、供給マニホールド22および帰還マニホールド23の概略形状について説明する。図3は本実施形態における供給マニホールド22および帰還マニホールド23の概略形状を示す斜視図である。なお、供給マニホールド22および帰還マニホールド23は液体流路であって空洞であるが、図3はその空洞を外線により図示したものである。
【0025】
図3に示すように、本実施形態において、供給マニホールド22および帰還マニホールド23は共にL字型に形成されている。供給マニホールド22は、延在方向に沿って延在する主部分122aと、この主部分122aの一端において積層方向に立設された立設部分122bとを含む。また、帰還マニホールド23は、延在方向に沿って延在する主部分123aと、この主部分123aの一端において積層方向に立設された立設部分123bとを含む。さらに、供給マニホールド22と帰還マニホールド23とがバイパス流路75により接続されている。詳細には、供給マニホールド22の主部分122aの一端(立設部分122bの反対側の端部)と帰還マニホールド23の主部分123aの一端(立設部分123bの反対側の端部)とがバイパス流路75により接続されている。
【0026】
供給マニホールド22の主部分122aは帰還マニホールド23の主部分123aの上方に配置されている。詳しくは、帰還マニホールド23の主部分123aは、供給マニホールド22の主部分122aの下方に配置されると共に平面視において供給マニホールド22の主部分122aと重なるように配置されている。帰還マニホールド23の立設部分123bは、主部分123aにおける延在方向の一方の端部において、平面視で供給マニホールド22の立設部分122bの外側に配置されている。また、供給マニホールド22の立設部分122bは、延在方向の他方側から見て、帰還マニホールド23の立設部分123bの内側に配置されている。このような構成において、帰還マニホールド23の一端(立設部分123b)は、後述の供給ポート22aが設けられた供給マニホールド22の一端(立設部分122b)よりも当該帰還マニホールド23の延在方向の外側に位置している。
【0027】
本実施形態において、供給マニホールド22の主部分122aの幅(幅方向における長さ)は立設部分122bの幅(幅方向における長さ)と同じであり、例えば1~2mmである。供給マニホールド22の主部分122aの厚みH1は例えば0.25~0.3mmである。供給マニホールド22の立設部分122bの高さH3は例えば0.1~0.2mmである。また、供給マニホールド22の主部分122aの長さ(延在方向における長さ)L11は例えば42~43mmである。ここで、本実施形態の液体吐出ヘッド20には例えば70チャンネル(ch)、つまり70個のノズルが設けられる。ノズル間の距離は例えば0.5mm~0.6mmである。そして、1chから70chまでの長さであるチャンネル部長さL1は例えば30mm~40mmである。また、供給マニホールド22の立設部分122bの外側の面から1chまでの距離L2は例えば6~8mmである。また、立設部分122bの最大径(又は口径)は例えば1~2mmである。
【0028】
一方、帰還マニホールド23の主部分123aの幅は立設部分123bの幅と同じであり、例えば1~2mmである。帰還マニホールド23の主部分123aの厚みH2は例えば0.35~0.45mmである。このように、帰還マニホールド23の主部分123aの厚みH2は供給マニホールド22の主部分122aの厚みH1よりも大きくなっている。また、帰還マニホールド23の立設部分123bの高さH4は例えば0.5~0.6mmである。また、帰還マニホールド23の主部分123aの長さ(延在方向における長さ)L21は例えば45~46mmである。このように、帰還マニホールド23の長手方向の長さすなわち主部分123aの長さL21は、供給マニホールド22の長手方向の長さすなわち主部分122aの長さL11よりも長くなっている。また、帰還マニホールド23の立設部分123bの外側の面から1chまでの距離L3は例えば9~11mmである。また、立設部分123bの最大径(又は口径)は例えば1~2mmである。
【0029】
ここで、本実施形態において、帰還マニホールド23のコンプライアンスは供給マニホールド22のコンプライアンスよりも大きい。以下、帰還マニホールド23のコンプライアンスとは帰還マニホールド23の主部分123aのコンプライアンスを意味し、供給マニホールド22のコンプライアンスとは供給マニホールド22の主部分122aのコンプライアンスを意味する。各マニホールドのコンプライアンスは以下の式により求めることができる。なお、下記算出式において、Vは各マニホールドの容積であり、cはマニホールド内のインク音速であり、ρはインク密度である。
【0030】
コンプライアンスCp=V/c×ρ
【0031】
本実施形態において、帰還マニホールド23の主部分123aの容積は供給マニホールド22の主部分122aの容積よりも大きい。帰還マニホールド23の主部分123aの容積は例えば25~29mmであり、供給マニホールド22の主部分122aの容積は例えば19~24mmである。供給マニホールド22の主部分122aの容積に対する帰還マニホールド23の主部分123aの容積の比率は例えば1.1~1.5である。インク密度は例えば1054kg/mである。また、各マニホールド内のインク音速は例えば91m/sである。なお、このインク音速は、各ダンパー部の機能を考慮したインク音速である。すなわち、上記インク音速は、各ダンパー部のマニホールドに対する影響を含めた各マニホールドのコンプライアンスを算出する際に用いる速度である。本実施形態において、供給マニホールド22のコンプライアンスは例えば1.8~2.4×10-15/Paであり、帰還マニホールド23のコンプライアンスは例えば2.5~2.9×10-15/Paである。また、供給マニホールド22のコンプライアンスに対する帰還マニホールド23のコンプライアンスの比率は2.0未満である。具体的には、供給マニホールド22のコンプライアンスに対する帰還マニホールド23のコンプライアンスの比率は例えば1.1~1.5である。
【0032】
供給マニホールド22の主部分122aは、第9流路プレート49~第11流路プレート51を積層方向に貫通した貫通孔、および、第12流路プレート52の下面から窪んだ窪みが積層方向に重なって形成されている。このため、供給マニホールド22の主部分122aの下端は第8流路プレート48に覆われ、その上端は第12流路プレート52における上側部分に覆われている。また、供給マニホールド22の立設部分122bは、第9流路プレート49~第14流路プレート54を積層方向に貫通した貫通孔で形成されている。
【0033】
帰還マニホールド23の主部分123aは、第2流路プレート42~第6流路プレート46を積層方向に貫通した貫通孔、および、第7流路プレート47の下面から窪んだ窪みが積層方向に重なって形成されている。このため、帰還マニホールド23の主部分123aの下端は第1流路プレート41に覆われ、その上端は第7流路プレート47における上側部分に覆われている。また、帰還マニホールド23の立設部分123bは、第2流路プレート42~第14流路プレート54を積層方向に貫通した貫通孔で形成されている。
【0034】
このような供給マニホールド22の主部分122aと帰還マニホールド23の主部分123aとの間には、バッファー空間である空気層24が配置されている。空気層24は、第8流路プレート48の下面から窪んだ窪みにより形成されている。このように供給マニホールド22の主部分122aと帰還マニホールド23の主部分123aとの間に空気層24を挟むことにより、供給マニホールド22の主部分122aにおける液体の圧力および帰還マニホールド23の主部分123aにおける液体の圧力が互いに作用することを低減することができる。また、空気層24を形成することで、第8流路プレート48の上側部分が供給用ダンパー部70として機能し、第7流路プレート47の上側部分が帰還用ダンパー部71として機能する。この場合、帰還用ダンパー部71は帰還マニホールド23の主部分123aの上方に配置される。
【0035】
供給用ダンパー部70のコンプライアンスと帰還用ダンパー部71のコンプライアンスとは同じである。これは、供給用ダンパー部70を設けることで供給マニホールド22のコンプライアンスに影響する度合い(圧力変動減衰機能の度合い)と、帰還用ダンパー部71を設けることで帰還マニホールド23のコンプライアンスに影響する度合いとが等しいことを意味している。
【0036】
図4に示すように、供給マニホールド22の立設部分122bの上部には例えば筒状の供給ポート22aが設けられている。この供給ポート22aの内部空間には供給路である立設部分122bの上端が接続されている。立設部分122bは供給ポート22aから下方に延びている。例えば、立設部分122bは、図2の第12流路プレート52の上側部分、第13流路プレート53、第14流路プレート54、振動板55および絶縁膜56を貫通して形成される。立設部分122bの下端は供給マニホールド22の主部分122aに設けられた供給口22cに接続されている。
【0037】
また、図4に示すように、帰還マニホールド23の立設部分123bの上部には例えば筒状の帰還ポート23aが設けられている。この帰還ポート23aには帰還路である立設部分123bの上端が接続されている。立設部分123bは帰還ポート23aから下方に延びている。例えば、立設部分123bは、第7流路プレート47の上側部分、第8流路プレート48の上側部分、第9流路プレート49、第10流路プレート50、第11流路プレート51、第12流路プレート52の上側部分、第13流路プレート53、第14流路プレート54、振動板55および絶縁膜56を貫通して形成される。立設部分123bの下端は帰還マニホールド23の主部分123aに設けられた帰還口23cに接続されている。帰還ポート23aは供給ポート22aよりも延在方向の外側に配置されている。
【0038】
図2に戻り、複数の個別流路64は、供給マニホールド22および帰還マニホールド23に接続されている。個別流路64は、その上流端が供給マニホールド22に接続され、その下流端が帰還マニホールド23に接続されており、この間においてノズル21の基端に接続されている。個別流路64は、第1連通孔25、供給絞り路26、第2連通孔27、圧力室28、ディセンダ29、帰還絞り路31、および第3連通孔32を有し、これらはこの順に配置されている。
【0039】
第1連通孔25は、その下端が供給マニホールド22の上端に接続し、供給マニホールド22から積層方向の上方に延び、第12流路プレート52における上側部分を積層方向に貫通している。第1連通孔25は、供給マニホールド22の幅方向の中央よりも一方側(図2では右側)に配置されている。
【0040】
供給絞り路26の一端26b(図4)は第1連通孔25の上端に接続されている。供給絞り路26は、例えばハーフエッチング加工により形成され、第13流路プレート53の下面から窪んだ溝により構成されている。また、第2連通孔27は、その下端が供給絞り路26の他端26a(図4)に接続され、供給絞り路26から積層方向の上方に延び、第13流路プレート53における上側部分を積層方向に貫通している。第2連通孔27は、幅方向における供給マニホールド22の中央よりも他方側(図2では左側)に配置されている。
【0041】
圧力室28は、その一端28b(図4)が第2連通孔27の上端に接続されている。圧力室28は、第14流路プレート54を積層方向に貫通して形成されている。
【0042】
ディセンダ29は、第1流路プレート41~第13流路プレート53を積層方向に貫通し、幅方向において供給マニホールド22および帰還マニホールド23よりも他方側(図2では左側)に配置されている。ディセンダ29は、その上端が圧力室28の他端28a(図4)に接続され、その下端がノズル21に接続されている。例えば、ノズル21は、積層方向においてディセンダ29に重なり、積層方向に直交する方向においてディセンダ29の中央に配置されている。なお、ディセンダ29の断面積は、積層方向に一定であってもよいし、変化してもよい。
【0043】
帰還絞り路31は、その一端31b(図4)がディセンダ29の下端に接続されている。帰還絞り路31は、例えばハーフエッチング加工により形成され、第1流路プレート41の下面から窪んだ溝により構成されている。
【0044】
第3連通孔32は、その下端が帰還絞り路31の他端31a(図4)に接続され、帰還絞り路31から積層方向の上方に延び、第1流路プレート41における上側部分を積層方向に貫通している。第3連通孔32は、その上端が帰還マニホールド23の下端に接続されている。第3連通孔32は、幅方向における帰還マニホールド23の中央よりも他方側(図2では左側)に配置されている。
【0045】
振動板55は、第14流路プレート54の上に積層されており、圧力室28の上端開口を覆っている。なお、振動板55は、第14流路プレート54と一体的に形成されていてもよい。この場合、圧力室28は積層方向に第14流路プレート54の下面から窪んで形成される。この第14流路プレート54において圧力室28よりも上側部分が振動板55として機能する。
【0046】
圧電素子60は、共通電極61、圧電層62および個別電極63を含み、これらはこの順で配置されている。共通電極61は、絶縁膜56を介して振動板55の全面を覆っている。圧電層62は、圧力室28毎に設けられ、当該圧力室28に重なるように共通電極61上に配置されている。個別電極63は、圧力室28毎に設けられ、圧電層62上に配置されている。この場合、1つの個別電極63、共通電極61および両電極で挟まれた部分の圧電層62(活性部)により、1つの圧電素子60が構成される。
【0047】
個別電極63は、ドライバICに電気的に接続されている。このドライバICは、図略の制御部から制御信号を受けて、駆動信号(電圧信号)を生成し、個別電極63に印加する。これに対し、共通電極61は、常にグランド電位に保持されている。
【0048】
駆動信号に応じて、圧電層62の活性部が、2つの電極61,63と共に面方向に伸縮する。これに応じて、振動板55が協働して変形し、圧力室28の容積を増減する方向に変化する。これにより、圧力室28に、液体をノズル21から吐出させる吐出圧力が当該圧力室28の容積に応じて付与される。
【0049】
続いて、図5に本実施形態の液体吐出ヘッド20が複数搭載されたフレーム65の平面図を示す。
【0050】
図5に示すように、複数の液体吐出ヘッド20がそれぞれ延在方向に沿って配置されている。図4でも説明したように、延在方向の一方側(図5では左側)に供給ポート22aおよび帰還ポート23aが設けられている。供給ポート22aおよび帰還ポート23aは、供給マニホールド22および帰還マニホールド23ごとに設けられている。各供給ポート22aおよび各帰還ポート23aは、幅方向一端および他端に位置する供給マニホールド22および帰還マニホールド23よりも、幅方向の中央寄りに配置されている。
【0051】
<液体の流れ>
本実施形態の液体吐出ヘッド20におけるインク等の液体の流れについて説明する。供給ポート22aは供給配管によりタンク12に接続され、帰還ポート23aは帰還配管によりタンク12に接続されている。このような構成において、供給配管のポンプおよび帰還配管の負圧ポンプが駆動すると、液体はタンク12から供給配管を通り、供給ポート22aを介して供給マニホールド22に流入する。
【0052】
この間に液体の一部は個別流路64に流入する。液体は、供給マニホールド22から第1連通孔25を介して供給絞り路26に流入し、供給絞り路26から第2連通孔27を介して圧力室28に流入する。そして、液体は、ディセンダ29を上端から下端へ積層方向に流れ、ノズル21に流入する。そして、圧電素子60により圧力室28に吐出圧力が付与されると、液体はノズル孔21aから吐出される。
【0053】
ノズル孔21aから吐出されなかった液体の一部は、帰還絞り路31を流れ、第3連通孔32を介して帰還マニホールド23に流入する。そして、第3連通孔32を介して帰還マニホールド23に流入した液体は、帰還マニホールド23内を流れて、帰還ポート23aから外部へ排出され、帰還配管を通りタンク12へ戻る。これにより、ノズル孔21aから吐出されなかった液体はタンク12と個別流路64との間を循環する。
【0054】
以上説明したように、本実施形態の液体吐出ヘッド20によれば、帰還マニホールド23のコンプライアンスが供給マニホールド22のコンプライアンスよりも大きいことによって、帰還マニホールド23を通じたクロストークの影響を大きく抑えることができる。このため、帰還マニホールド23を通じたクロストークの影響に起因して吐出が不安定になることを従来よりも抑制することができる。
【0055】
また、本実施形態では、帰還マニホールド23の主部分123aの容積は供給マニホールド22の主部分122aの容積よりも大きい。この場合、帰還用ダンパー部71の面積を拡張するよりも帰還マニホールド23の主部分123aの容積を大きくした方がコンプライアンスを大きくし易くなる。これは、帰還ダンパー部71はハーフエッチングで形成するので当該ハーフエッチングの深さの制御が難しい一方で、帰還マニホールド23はフルエッチングで形成するので上記ハーフエッチングよりも設計変更し易いという理由からである。
【0056】
また、本実施形態では、帰還マニホールド23の主部分123aの厚みH2は供給マニホールド22の主部分122aの厚みH1よりも大きくなっている。この場合、液体吐出ヘッド20の平面の面積を拡張せずに容積を大きくすることができる。これにより、液体吐出ヘッド20を平面方向にコンパクト化することができる。
【0057】
また、本実施形態では、供給マニホールド22のコンプライアンスに対する帰還マニホールド23のコンプライアンスの比率は2.0未満(例えば1.1)である。この場合、ヘッドサイズの大型化を避けつつクロストークの影響をより抑制することができる。
【0058】
また、本実施形態では、供給用ダンパー部70のコンプライアンスと帰還用ダンパー部71のコンプライアンスとは同じである。すなわち、供給用ダンパー部70を設けることで供給マニホールド22のコンプライアンスに影響する度合い(圧力変動減衰機能の度合い)と、帰還用ダンパー部71を設けることで帰還マニホールド23のコンプライアンスに影響する度合いとを等しくできる。また、各ダンパー部を同様のプロセスで設計することができる。
【0059】
また、本実施形態では、帰還用ダンパー部71は帰還マニホールド23の主部分123aの上方に配置されている。この点につき、帰還マニホールド23の主部分123aの下方には帰還絞り路31があるため、帰還用ダンパー部71を帰還マニホールド23の主部分123a下方に設けようとすると当該帰還用ダンパー部71の大きさが小さくなってしまう。そこで、帰還用ダンパー部71を帰還マニホールド23の主部分123aの上方に配置することで、ノズル21から近い側の絞り(つまり帰還絞り路31)の長さを確保しつつ、ダンパー性能も上げることができる。
【0060】
また、本実施形態では、供給マニホールド22の主部分122aと帰還マニホールド23の主部分123aとがバイパス流路75により接続される。この場合、バイパス流路75を設けることで供給マニホールド22および帰還マニホールド23を流れる液体の流量を多くすることができ、それ故エア排出性を向上させることができる。
【0061】
また、本実施形態では、帰還マニホールド23の主部分123aの長手方向の長さは供給マニホールド22の主部分122aの長手方向の長さよりも長くなっている。この場合、帰還マニホールド23の主部分123aの上方に供給マニホールド22の主部分122aを配置した2階建て構造を実現する際に、供給ポート22aと帰還ポート23aとを各マニホールドの長手方向において干渉せずに配置することができる。
【0062】
さらに、本実施形態では、帰還マニホールド23の一端(立設部分123b)は、後述の供給ポート22aが設けられた供給マニホールド22の一端(立設部分122b)よりも当該帰還マニホールド23の延在方向の外側に位置している。これにより、帰還マニホールド23の主部分123a上方に供給マニホールド22の主部分122aを配置した2階建て構造を実現する上で各マニホールドの容積を大きくすることができる。
【0063】
<変形例>
本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。例えば以下の通りである。
【0064】
上記実施形態では、2階建て構造において、帰還マニホールド23の主部分123a上方に供給マニホールド22の主部分122aを配置した。つまり、2階建て構造の1階部分に帰還マニホールド23の主部分123aを配置し、その2階部分に供給マニホールド22の主部分122aを配置したが、これに限定されるものではない。2階建て構造の1階部分に供給マニホールド22の主部分122aを配置し、その2階部分に帰還マニホールド23の主部分123aを配置してもよい。
【0065】
また、上記実施形態では、供給マニホールド22の主部分122aおよび帰還マニホールド23の主部分123aをそれぞれ延在方向に延在させたが、これに限られるものではない。供給マニホールド22の主部分122aおよび帰還マニホールド23の主部分123aをそれぞれ幅方向に延在させてもよい。
【0066】
また、上記実施形態では、供給用ダンパー部70を供給マニホールド22の主部分122aの下方に配置し、帰還用ダンパー部71を帰還マニホールド23の主部分123aの上方に配置したが、これに限られるものではない。各ダンパー部を各マニホールドの延在方向における側方に配置してもよい。
【0067】
さらに、上記実施形態では、供給マニホールド22の形状をL字型としたが、これに限定されるものではなく、主部分122aのみで供給マニホールド22を構成してもよい。また、帰還マニホールド23の形状をL字型としたが、これに限定されるものではなく、主部分123aのみで帰還マニホールド23を構成してもよい。
【符号の説明】
【0068】
10 液体吐出装置
20 液体吐出ヘッド
21 ノズル
22 供給マニホールド
22a 供給ポート
23 帰還マニホールド
23a 帰還ポート
31 帰還絞り路
40a ノズル面
64 個別流路
70 供給用ダンパー部
71 帰還用ダンパー部
75 バイパス流路
122a 供給マニホールドの主部分
122b 供給マニホールドの立設部分
123a 帰還マニホールドの主部分
123b 帰還マニホールドの立設部分
図1
図2
図3
図4
図5