(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】監視装置、集音装置及び監視方法
(51)【国際特許分類】
G01M 99/00 20110101AFI20240925BHJP
G01H 17/00 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
G01M99/00 Z
G01H17/00 Z
(21)【出願番号】P 2020192520
(22)【出願日】2020-11-19
【審査請求日】2023-10-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ストイメノフ ボイコ
(72)【発明者】
【氏名】野▲崎▼ 幹央
【審査官】鴨志田 健太
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/162426(WO,A1)
【文献】特開2013-015468(JP,A)
【文献】特開2019-203743(JP,A)
【文献】特開2018-179626(JP,A)
【文献】特開2016-057250(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-1126777(KR,B1)
【文献】特開2001-151330(JP,A)
【文献】特開2011-191181(JP,A)
【文献】特開2018-091033(JP,A)
【文献】特開2012-202958(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 99/00
G01H 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機器の運転状態を監視する監視装置であって、
前記機器から発せられる可聴音と超音波を含む音波を一次音圧信号に変換するマイクロホンを複数配置している集音装置と、
前記一次音圧信号のうちの可聴音域の信号に基づいて前記機器の異常の有無を検出する第1処理と、前記一次音圧信号のうちの超音波域の信号をビームフォーミング処理して二次音圧信号を生成し、前記二次音圧信号に基づいて前記機器の異常箇所を検出する第2処理と、を実行可能な情報処理装置と、を備え
、
前記情報処理装置は、
前記第1処理において前記機器に異常があることを検出した場合に、前記第2処理を実行する、監視装置。
【請求項2】
前記情報処理装置は、
前記第1処理において前記機器に異常があることを検出した場合に、前記一次音圧信号のうちの可聴音域の信号に基づいて、前記機器の異常内容を検出する第3処理をさらに実行可能である、請求項
1に記載の監視装置。
【請求項3】
前記情報処理装置は、
前記第2処理において、前記機器の固有振動周波数を含まない周波数帯の前記二次音圧信号に基づいて前記機器の異常箇所を検出する、請求項1
又は請求項
2に記載の監視装置。
【請求項4】
前記情報処理装置は、
運転初期において前記機器から発せられる前記音波の前記一次音圧信号である初期一次音圧信号を取得する第4処理を実行し、
前記第2処理において、前記初期一次音圧信号をビームフォーミング処理して生成した前記二次音圧信号である初期二次音圧信号と、前記機器の運転初期後の当該第2処理において生成した前記二次音圧信号と、の差分に基づいて前記機器の異常箇所を検出する、請求項1から請求項
3の何れか一項に記載の監視装置。
【請求項5】
前記複数のマイクロホンには、
各マイクロホン同士の間隔が、前記超音波の検出に適した距離に設定されている第一マイクロホン群と、
各マイクロホン同士の間隔が、前記可聴音の検出に適し、前記第一マイクロホン群の前記距離に比べて大きい距離に設定されている第二マイクロホン群と、が含まれる、請求項1から請求項
4の何れか一項に記載の監視装置。
【請求項6】
複数のマイクロホンを配置している集音装置により機器の運転状態を監視する監視方法であって、
前記機器から発せられる可聴音及び超音波を含む音波を、複数の前記マイクロホンを通じて一次音圧信号として取得する第1工程と、
前記第1工程で取得した前記一次音圧信号のうちの可聴音域の信号に基づいて、前記機器の異常を検出する第2工程と、
前記第2工程において前記機器に異常があることを検出した場合に、前記第1工程で取得した前記一次音圧信号のうちの超音波域の信号をビームフォーミング処理して生成した二次音圧信号に基づいて、前記機器の異常箇所を検出する第3工程と、を備え
、
前記第2工程において前記機器に異常があることを検出した場合に、前記第3工程を実行する、監視方法。
【請求項7】
前記第2工程において前記機器に異常があることを検出した場合に、前記第1工程で取得した前記一次音圧信号のうちの可聴音域の信号に基づいて、前記機器の異常内容を検出する第4工程をさらに備える、請求項
6に記載の監視方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機器の状態を監視する監視装置、集音装置及び監視方法に関する。
【背景技術】
【0002】
機器から発生する音に基づいて、機器の異常を診断する技術が知られている。例えば、特許文献1には、集音器からの信号に対して高速フーリエ変換等の各種の処理を行い、標本値の学習及び診断を行う技術が開示されている。特許文献2には、ベルトコンベヤ異常診断装置に関し、無指向性マイクロホンと指向性マイクロホンとを用いる技術が開示されている。
【0003】
また、特許文献3には、2次元的に集音要素が配置されるマイクアレイを機器内部に配置し、異常音が発生した音源の2次元位置を特定する技術が開示されている。特許文献3では、異常音の到達時間が最も早い集音要素、又は異常音を最も強く検出した集音要素の位置に基づいて、異常音の音源位置を特定する。そして、機器の平面配置に関する機器マップと、当該音源位置とに基づいて、異常音が発生している音源の機器ユニットを特定する。
【0004】
また、特許文献4には、複数のマイクロホンが等間隔に取り付けられた集音装置を用いて異常領域を抽出する技術が開示されている。特許文献4では、仮想スクリーンを仮想的に複数個設定し、各仮想スクリーンを格子上に分割して、集音装置から得られた音圧信号に対しビームフォーミング処理を施すことにより格子点ごとの音圧レベルを計算する。そして、当該音圧レベルと、基準音圧レベルとを比較することで、複数の格子点から音圧異常領域を抽出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-200144号公報
【文献】特開2001-151330号公報
【文献】特開2017-32488号公報
【文献】特開2013-15468号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献3に係る監視装置では、複数のマイクロホンを有する集音装置(マイクアレイ)を対象機器の筐体内に配置して、機器の異常(異常の有無と異常箇所)を検出している。このように、集音装置で検出した音に基づいて当該機器の異常を監視する場合、集音装置は、機器の筐体内や当該機器の監視対象部位の直近に配置可能な大きさであることが必要とされ、かつ、機器の異常を検出するために必要な音を検出可能な精度が要求される。
【0007】
複数のマイクロホンを有する集音装置を備えた監視装置では、音源(異常箇所)から発せられる音波を複数のマイクロホンで検出することによって、各マイクロホンにおける音波の到達時間の差(位相差)と音圧レベルの差に基づいて、音源の位置(異常箇所)を検出することができる。ここで、各マイクロホンの間隔を拡げれば、集音装置で検出する音波の位相差を大きくすることができるとともに、集音装置における音波の検出範囲を広げることができる。このため、複数のマイクロホンを有する集音装置では、各マイクロホンの間隔を拡げることができれば、機器の異常(異常の有無及び異常箇所)の検出精度を高めることができる。
【0008】
しかしながら、複数のマイクロホンを有する集音装置は、各マイクロホンの間隔を拡げるとサイズが大きくなるため、機器の筐体内や当該機器の監視対象部位の直近に配置しにくくなる。このため、複数のマイクロホンを有する集音装置を機器の筐体内や当該機器の監視対象部位の直近に配置する監視装置においては、各マイクロホンの間隔を拡げて、機器の異常(異常の有無及び異常箇所)の検出精度を高めることが困難である。
【0009】
本発明は、複数のマイクロホンで検出した音波に基づいて対象機器の異常と異常箇所を検出することが可能な監視装置及び監視方法とこれらに用いる集音装置に関し、集音装置を大型化せずに、機器の異常を精度よく検出することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明に係る監視装置は、機器の運転状態を監視する監視装置であって、前記機器から発せられる可聴音と超音波を含む音波を一次音圧信号に変換するマイクロホンを複数配置している集音装置と、前記一次音圧信号のうちの可聴音域の信号に基づいて前記機器の異常の有無を検出する第1処理と、前記一次音圧信号のうちの超音波域の信号をビームフォーミング処理して二次音圧信号を生成し、前記二次音圧信号に基づいて前記機器の異常箇所を検出する第2処理と、を実行可能な情報処理装置と、を備える。
【0011】
本発明によれば、機器の異常箇所の検出を行う音波を超音波とすることで、マイクロホンの間隔を拡げなくても、異常箇所を精度よく検出することができる。また、機器の異常の検出を行う音波を可聴音とすることで、異常がある機器から発せられる典型的な可聴音に基づいて、機器の異常を精度よく検出することができる。この結果、集音装置を大型化せずに、機器の異常を精度よく検出することが可能となる。
【0012】
(2)好ましくは、前記情報処理装置は、前記第1処理において前記機器に異常があることを検出した場合に、前記第2処理を実行する。このように構成することで、情報処理装置の演算量を減らすことができる。
【0013】
(3)好ましくは、前記情報処理装置は、前記第1処理において前記機器に異常があることを検出した場合に、前記一次音圧信号のうちの可聴音域の信号に基づいて、前記機器の異常内容を検出する第3処理をさらに実行可能である。このように、機器の異常内容の検出を行う音波を可聴音とすることで、異常がある機器から発せられる典型的な可聴音に基づいて、機器の異常内容を精度よく検出することが可能となる。
【0014】
(4)好ましくは、前記情報処理装置は、前記第2処理において、前記機器の固有振動周波数を含まない周波数帯の前記二次音圧信号に基づいて前記機器の異常箇所を検出する。このように構成することで、機器の異常箇所をより精度よく検出することが可能となる。
【0015】
(5)好ましくは、前記情報処理装置は、運転初期において前記機器から発せられる前記音波の前記一次音圧信号である初期一次音圧信号を取得する第4処理を実行し、前記第2処理において、前記初期一次音圧信号をビームフォーミング処理して生成した前記二次音圧信号である初期二次音圧信号と、前記機器の運転初期後の当該第2処理において生成した前記二次音圧信号と、の差分に基づいて前記機器の異常箇所を検出する。このように構成することで、機器の異常箇所をより精度よく検出することが可能となる。
【0016】
(6)好ましくは、前記複数のマイクロホンには、各マイクロホン同士の間隔が、前記超音波の検出に適した距離に設定されている第一マイクロホン群と、各マイクロホン同士の間隔が、前記可聴音の検出に適し、前記第一マイクロホン群の前記距離に比べて大きい距離に設定されている第二マイクロホン群と、が含まれる。このように構成することで、集音装置を大型化せずに、一つの集音装置で可聴音と超音波の音波を精度よく検出することが可能となる。これにより、集音装置を、機器の筐体内や当該機器の監視対象部位の直近に配置しやすくすることができる。
【0017】
(7)本発明に係る集音装置は、機器の運転状態を監視する監視装置に用いられる集音装置であって、前記機器から発せられる可聴音及び超音波を含む音波を音圧信号に変換する複数のマイクロホンを備え、前記複数のマイクロホンには、各マイクロホン同士の間隔が、前記超音波の検出に適した距離に設定されている第一マイクロホン群と、各マイクロホン同士の間隔が、前記可聴音の検出に適し、前記第一マイクロホン群の前記距離に比べて大きい距離に設定されている第二マイクロホン群と、が含まれる。このように構成することで、集音装置を大型化せずに、一つの集音装置で可聴音と超音波の音波を精度よく検出することが可能となる。これにより、集音装置を、機器の筐体内や当該機器の監視対象部位の直近に配置しやすくすることができる。
【0018】
(8)本発明に係る監視方法は、複数のマイクロホンを配置している集音装置により機器の運転状態を監視する監視方法であって、前記機器から発せられる可聴音及び超音波を含む音波を、複数の前記マイクロホンを通じて一次音圧信号として取得する第1工程と、前記第1工程で取得した前記一次音圧信号のうちの可聴音域の信号に基づいて、前記機器の異常を検出する第2工程と、前記第2工程において前記機器に異常があることを検出した場合に、前記第1工程で取得した前記一次音圧信号のうちの超音波域の信号をビームフォーミング処理して生成した二次音圧信号に基づいて、前記機器の異常箇所を検出する第3工程と、を備える。
【0019】
本発明によれば、機器の異常箇所の検出を行う音波を超音波とすることで、マイクロホンの間隔を拡げなくても、異常箇所を精度よく検出することができる。また、機器の異常の検出を行う音波を可聴音とすることで、異常がある機器から発せられる典型的な可聴音に基づいて、機器の異常を精度よく検出することができる。この結果、集音装置を大型化せずに、機器の異常を精度よく検出することが可能となる。
【0020】
(9)好ましくは、前記第2工程において前記機器に異常があることを検出した場合に、前記第1工程で取得した前記一次音圧信号のうちの可聴音域の信号に基づいて、前記機器の異常内容を検出する第4工程をさらに備える。このように、機器の異常内容の検出を行う音波を可聴音とすることで、異常がある機器から発せられる典型的な可聴音に基づいて、機器の異常内容を精度よく検出することが可能となる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、複数のマイクロホンで検出した音波に基づいて対象機器の異常と異常箇所を検出することが可能な監視装置及び監視方法とこれらに用いる集音装置に関し、集音装置を大型化せずに、機器の異常を精度よく検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】実施形態に係る監視装置を示す模式図である。
【
図2】監視対象の機器に対する集音装置の配置を示す説明図である。
【
図3A】実施形態に係るマップ情報の一例を示す説明図である。
【
図3B】実施形態に係るマップ情報の一例を示す説明図である。
【
図4A】集音装置におけるマイクロホンの配置を示す模式図である。
【
図4B】集音装置におけるマイクロホンの配置を示す模式図である。
【
図5】実施形態に係る監視処理の手順を示すフローチャートである。
【
図6】異常検出工程における音波の検出状況を示す説明図である。
【
図7A】異常箇所検出工程におけるビームフォーミング処理の状況を示す説明図である。
【
図7B】ビームフォーミング処理におけるビーム走査範囲の説明図である。
【
図8】機器の固有振動周波数のパワースペクトルを示す図である。
【
図9】超音波域の所定周波数における二次音圧信号のパワースペクトル密度とビーム走査角度との関係を示す図である。
【
図11A】実施形態の監視装置による異常箇所の検出結果を示す図である。
【
図11B】実施形態の監視装置による異常箇所の検出結果を示す図である。
【
図11C】実施形態の監視装置による異常箇所の検出結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。
【0024】
本開示において「音波」とは、媒質(例えば、気体、液体又は固体)中を伝搬する弾性波を意味する。音波には、人間の可聴周波数(20Hz以上20kHz未満)である「音」(以下、可聴音と称する)のほか、超音波(20kHz以上)、超低周波音(20Hz未満)も含む。
【0025】
[監視装置の構成]
図1に示す監視装置1は、監視対象の機器2(
図2参照)の運転状態を音波に基づいて監視する装置である。監視装置1は、例えば機器2が設置された部屋の中に設置される。
【0026】
図1に示すように、監視装置1は、集音装置11と、情報処理装置12と、表示装置15と、入力装置16と、通信装置17とを備える。集音装置11は、平面上に配置された複数のマイクロホン110を有する。すなわち、集音装置11は、マイクロホンアレイ(平面アレイ)である。
【0027】
マイクロホン110は、複数の対象領域Rから発せられる音波SW1が合成された合成音波SW2を一次音圧信号SP1に変換する音圧センサである(
図2参照)。マイクロホン110は、可聴音(20Hz以上20kHz未満)と超音波(20kHz以上)の合成音波SW2を一次音圧信号SP1に変換する。マイクロホン110は、例えば、無指向性のマイクロホンである。マイクロホン110の配置については、後述する。
【0028】
情報処理装置12は、演算装置13と、記憶装置14とを有する。情報処理装置12は、例えば、コンピュータ装置である。記憶装置14は、各種の情報を記憶する装置であり、例えばHDD(Hard disk drive)と、RAM(Random access memory)と、ROM(Read only memory)とを有する。
【0029】
記憶装置14は、機能的には、マップ情報データベース141と、音圧信号記憶部142と、を有する。マップ情報データベース141及び音圧信号記憶部142は、それぞれ記憶装置14内の所定の記憶領域により構成される。なお、マップ情報データベース141及び音圧信号記憶部142は、同じ記憶領域により構成されてもよいし、互いに異なる記憶領域により構成されてもよい。記憶装置14は、さらにコンピュータプログラム143を記憶している。
【0030】
図2に示す機器2は、軸受、回転軸、及びモータを備えた汎用機器(例えば、送風機、ポンプ、コンプレッサ、工作機械等)を簡略化した機器の例示である。
図2に示すように、機器2は、一対の軸受21、22と、その軸受21、22によって回転可能に支持されている回転軸23と、回転軸23を駆動するモータ24とを備えている。各軸受21、22は、ブロック25、26によってそれぞれ保持されている。
【0031】
本実施形態では、機器2における異常の発生箇所を異常箇所Pと称する。
図2には、機器2における軸受22に異常箇所Pがある(即ち、軸受22に異常が発生している)場合を例示している。そして、本実施形態では、軸受21、22が存在する領域をそれぞれ対象領域R1、R2と称する。「対象領域」は、機器2において異常の発生が想定される部品(コンポーネント)が位置する領域である。以降、これらの対象領域R1、R2について、特に区別しない場合、単に「対象領域R」と称する。なお、以下の説明において「異常箇所を検出する」と言う場合は、「異常箇所Pが含まれる対象領域Rを検出する」ことを意味する。
【0032】
図2に示すように、集音装置11は、複数の対象領域Rからある程度離れた位置に設置される。例えば、集音装置11は、複数の対象領域Rをそれぞれ正面に臨んだ状態で、複数の対象領域Rからそれぞれ数十cm~数m程度離れた位置に設置される。なお、対象領域R1、R2が
図2に示すような筐体2aで覆われている場合には、筐体2a内の対象領域R1、R2を臨む位置に集音装置11を配置する。
【0033】
このように、集音装置11が複数の対象領域Rからそれぞれ所定距離だけ離れた位置に設置されることで、特定の対象領域Rから発せられる音波SW1のみを取得するのではなく、複数の対象領域Rから発せられる音波SW1が合成された合成音波SW2を取得することができる。
【0034】
図1に示す情報処理装置12のマップ情報データベース141には、マップ情報M1が記憶される。マップ情報M1とは、集音装置11に対する複数の対象領域Rのそれぞれの位置に関する情報である。
【0035】
図3A,Bは、マップ情報M1の一例を示す説明図である。例えば、マップ情報M1は、
図3Aに示すように対象領域RのIDと、当該対象領域Rが存在する方向を表す角度と、を含むテーブル形式の情報として記憶される。なお、マップ情報M1は、集音装置11と機器2の相対位置が決まれば、集音装置11と対象領域Rとの相対位置は、一意に決まる。このため、ユーザーが入力装置16へ集音装置11に対する対象領域Rの位置情報を入力して、マップ情報データベース141に記憶する。このほか、管理装置から通信装置17を介してマップ情報M1を受信することで、マップ情報M1を取得してもよい。
【0036】
図3Bは、マップ情報M1の一例を所定のXY平面上に示した模式図である。当該XY平面は、集音装置11の複数のマイクロホン110が配置されている平面(アレイ面)と垂直な面である。換言すれば、
図3Bは、集音装置11からアレイ面の平行方向に複数の対象領域Rを見たときに、所定のXY平面上に投影される複数の対象領域Rの位置を示している。
図3Bでは、集音装置11のアレイ面の中心を原点OとしたXY平面上で、Y軸の正方向を角度(0°)とし、原点Oから見て対象領域Rの輪郭が存在する範囲の最小角度と最大角度をマップ情報M1に記憶する情報としている。
【0037】
マップ情報M1では、
図3Bに示す角度θ1を対象領域R1の最大角度θ1とし、角度θ2を対象領域R1の最小角度θ2としている。つまり、原点Oから見て角度がθ2以上θ1以下の範囲を対象領域R1が存在する範囲としている。また、マップ情報M1では、
図3Bに示す角度θ3を対象領域R2の最大角度θ3とし、角度θ4を対象領域R2の最小角度θ4としている。つまり、原点Oから見て角度がθ4以上θ3以下の範囲を対象領域R2が存在する範囲としている。なお、マップ情報M1では、原点Oと対象領域Rの中心を通る直線の角度のみをマップ情報M1に記憶する情報としてもよい。
【0038】
なお、マップ情報M1は、XY平面に直交する方向の角度についての情報をさらに加えてもよい。すなわち、XY平面に直交するZ方向を規定し、XYZ座標系において、集音装置11からアレイ面の平行方向に複数の対象領域Rを見たときに、所定のYZ平面上に投影される複数の対象領域Rについて、対象領域Rの輪郭が存在する範囲の原点Oからの見た最小角度と最大角度をマップ情報M1に記憶する情報に加えてもよい。
【0039】
図1に示す音圧信号記憶部142には、集音装置11により取得された一次音圧信号SP1と、演算装置13により算出された二次音圧信号SP2とが記憶される。
【0040】
演算装置13は、記憶装置14からコンピュータプログラム143を読み出して各種の演算を行う装置であり、例えばCPU(Central Processing Unit)である。演算装置13は、記憶装置14に記憶されたコンピュータプログラム143を実行することにより、生成部131としての機能と、検出部132としての機能を実現する。
【0041】
生成部131は、一次音圧信号SP1をビームフォーミング処理することにより、一次音圧信号SP1から二次音圧信号SP2を生成する。検出部132は、一次音圧信号SP1あるいは二次音圧信号SP2に基づいて対象領域Rの異常を検出する。生成部131及び検出部132の具体的な機能については、後述する。
【0042】
表示装置15は、情報処理装置12と電気的に接続されており、対象領域Rの監視情報をユーザーに表示する。表示装置15は、例えば、ディスプレイ及びスピーカーである。監視情報は、例えば、検出部132による異常検出結果及び異常原因に関する情報を含む。入力装置16は、情報処理装置12と電気的に接続されており、ユーザーから入力された情報を情報処理装置12へ送信する。入力装置16は、例えば、マウス及びキーボードである。
【0043】
通信装置17は、情報処理装置12と電気的に接続されており、図示省略する外部の装置(例えば、複数の監視装置1を管理する管理装置)と各種の情報を送受信する。通信装置17は、例えば、対象領域Rの監視情報を管理装置へ送信し、マップ情報M1等の各種の設定情報を管理装置から受信する。
【0044】
[集音装置におけるマイクロホンの配置]
図4Aは、集音装置11における複数のマイクロホン110の配置を示す説明図である。
図4Aに示すように、集音装置11のアレイ面には、21個のマイクロホン110を配置している。集音装置11のアレイ面には、番号1のマイクロホン110を中心として、その外側で正五角形に配列された第1周目(番号2~6)の各マイクロホン110が、周方向に等間隔で並んでいる。また、第1周目の各マイクロホン110の外側には、正五角形に配列された第2周目(番号7~11)の各マイクロホン110が、周方向に等間隔で並んでいる。また、第2周目の各マイクロホン110の外側には、正五角形に配列された第3周目(番号12~16)の各マイクロホン110が、周方向に等間隔で並んでいる。また、第3周目の各マイクロホン110の外側には、正五角形に配列された第4周目(番号17~21)の各マイクロホン110が、周方向に等間隔で並んでいる。
【0045】
図4Aに示すように、第1周目の正五角形に対する第2周目の正五角形の番号1のマイクロホン110を中心とする回転方向の位相は、
図4Aにおける反時計回りに角度ω1だけ異なっている。また、第2周目の正五角形に対する第3周目の正五角形の番号1のマイクロホン110を中心とする回転方向の位相は、
図4Aにおける反時計回りに角度ω2だけ異なっている。ここで、角度ω2は、角度ω1より大きい角度となっている(ω2>ω1)。また、第3周目の正五角形に対する第4周目の正五角形の番号1のマイクロホン110を中心とする回転方向の位相は、
図4Aにおける反時計回りに角度ω3だけ異なっている。ここで、角度ω3は、角度ω2より大きい角度となっている(ω3>ω2)。
【0046】
このような構成によって、第1~4周目までの各マイクロホン110を周方向に位相差を設けずに配置した場合に比べて、集音装置11のアレイ面に配置された各マイクロホン110をより分散させて配置することが可能となる。また、上記角度を(ω3>ω2>ω1)の関係とすることによって、集音装置11では、より外側の周に位置する各マイクロホン110ほど、各マイクロホン100同士の周方向及び径方向の間隔が大きくなっている。換言すれば、集音装置11では、より内側の周に位置する各マイクロホン110ほど、各マイクロホン100同士の周方向及び径方向の間隔が小さくなっている。
【0047】
集音装置11では、中心と第1周目および第2周目に配置された(
図4Aに示す円Q1の内側に配置された)各マイクロホン110(番号1~11)は、各マイクロホン110同士の間隔が超音波の検出に適した距離となっている第一マイクロホン群MG1を構成している。また、集音装置11では、第3周目および第4周目に配置された(円Q1の外側に配置された)各マイクロホン110(番号12~21)は、各マイクロホン110同士の間隔が可聴音の検出に適した距離となっている第二マイクロホン群MG2を構成している。
【0048】
具体的には、本実施形態の集音装置11では、第一マイクロホン群MG1における各マイクロホン110同士の間隔は、2.3~8.5mm程度となっている。超音波の波長は、例えば20kHzで約17mm、50kHzで約7mmである。このため、第一マイクロホン群MG1で検出した音波によれば、異常箇所Pを含む対象領域Rの検出に十分な位相差が得られる。また、第二マイクロホン群MG2における各マイクロホン110同士の間隔は、8.5mm以上となっている。このため、第二マイクロホン群MG2の各マイクロホン110は、超音波に比べて長波長である可聴音の検出に適しており、第一マイクロホン群MG1に比べて広範囲の音波を検出することができる。なお、集音装置11は、第一マイクロホン群MG1による超音波の検出結果及び第二マイクロホン群MG2による可聴音の検出結果についても一次音圧信号SP1として出力する。
【0049】
集音装置11は、このような構成によって、機器2における異常の有無と異常内容の検出に適した可聴音と、異常箇所の検出に適した超音波と、を精度よく検出することができる。
【0050】
なお、集音装置11における複数のマイクロホン110の配置は、
図4Aに示す配置には限定されず、例えば、
図4Bに示すような六方配置としてもよい。
図4Bに示す集音装置11では、一辺の長さD1の正六角形の各頂点上に、番号2~7のマイクロホン110の中心が位置し、当該正六角形の重心に、番号1のマイクロホン110の中心が位置している。また、当該正六角形を取り囲んで、一辺の長さがD1の倍となる正六角形の各頂点上及び各辺の中点上に、番号8~19のマイクロホン110の中心が位置している。すなわち、最外周に位置する複数のマイクロホン110は、正六角形の辺又は頂点上に位置している。この場合、
図4Bに示す円Q2の内側に配置された番号1~7の各マイクロホン110で、各マイクロホン110同士の間隔を超音波の検出に適した距離とした第一マイクロホン群MG1を構成すればよく、円Q2の外側に配置された番号8~19の各マイクロホン110で、各マイクロホン110同士の間隔を可聴音の検出に適した距離とした第二マイクロホン群MG2を構成すればよい。
【0051】
以上に説明したように、本実施形態の集音装置11は、機器2の運転状態を監視する監視装置1に用いられる集音装置11であって、機器2から発せられる可聴音及び超音波を含む音波を音圧信号に変換する複数のマイクロホン110を備え、複数のマイクロホン110には、各マイクロホン110同士の間隔が、超音波の検出に適した距離に設定されている第一マイクロホン群MG1と、各マイクロホン110同士の間隔が、可聴音の検出に適し、第一マイクロホン群MG1の距離に比べて大きい距離に設定されている第二マイクロホン群MG2と、が含まれる。このように構成することで、集音装置11を大型化せずに、一つの集音装置11で可聴音と超音波の音波を精度よく検出することが可能となる。これにより、集音装置11を、機器2の筐体内や当該機器2の監視対象部位の直近に配置しやすくなる。
【0052】
[監視処理の手順]
図5は、実施形態に係る監視処理の手順を示すフローチャートである。監視装置1のユーザーが入力装置16を用いて監視装置1へ監視処理の実行指示を行うと、監視装置1は監視処理を開始する。監視装置1は、機器2が停止されるまで、あるいは、ユーザーが入力装置16を用いて監視装置1へ監視処理の停止指示を行うまで、以下に示す監視処理を定期的に実行する。
【0053】
<集音工程>
監視処理が開始されると、集音工程S1が実行される。集音工程S1は、
図2に示す機器2が動作している間に実行される。すなわち、集音工程S1の間、複数の対象領域R1、R2はそれぞれ音波SW1を発生させており、集音装置11にはこれらの音波SW1が合成された合成音波SW2が伝搬している(
図2参照)。
【0054】
集音工程S1が開始されると、集音装置11に含まれる複数のマイクロホン110は、入力された合成音波SW2を一次音圧信号SP1に変換して、情報処理装置12に出力する。ここで、マイクロホン110は、可聴音(20Hz以上20kHz未満)と超音波(20kHz以上)の合成音波SW2を一次音圧信号SP1に変換する。マイクロホン110ごとに取得された複数の一次音圧信号SP1は、音圧信号記憶部142に記憶される。以上により、集音工程S1が終了する。
【0055】
情報処理装置12は、機器2に異常がない運転初期の段階において集音工程S1で検出した一次音圧信号SP1を、初期一次音圧信号SP0として他の一次音圧信号SP1と区別して取得する。そして、情報処理装置12は、初期一次音圧信号SP0を音圧信号記憶部142に記憶する。
【0056】
<異常検出工程>
次に、異常検出工程S2が実行される。異常検出工程S2では、検出部132によって、音圧信号記憶部142に記憶された一次音圧信号SP1のうちの特に可聴音(20Hz以上20kHz未満)の周波数域の信号を用いて、対象領域Rにおける異常の有無を検出する。
【0057】
機器2の対象領域R1、R2において、軸受21、22の故障や潤滑不良、回転軸23の損傷等の典型的な異常が生じた場合には、異常が生じた対象領域Rから数百kHz程度(可聴音域)の特徴的な音波(以下、特徴的音波SW3と称する)が発生する。検出部132は、一次音圧信号SP1のうち、特に可聴音(20Hz以上20kHz未満)の周波数域の信号から、特徴的音波SW3の有無を検出する。
【0058】
図6に示すように、機器2において、異常が生じた対象領域Rから発せられた特徴的音波SW3は、例えば、回転軸23を介して他の対象領域Rにも伝達されるため、異常がない対象領域Rからも特徴的音波SW3が発せられる場合がある。つまり、特徴的音波SW3に基づいて、異常箇所Pを含む対象領域Rを検出することは困難である。集音装置11は、
図6に示すように複数の対象領域Rを含む範囲からの音波SW1が集まった合成音波SW2を検出することができる。このため、いずれかの対象領域Rにおいて異常が発生して特徴的音波SW3が生じた場合、集音装置11は、音波SW1と特徴的音波SW3を含む合成音波SW2を確実に検出することができる。
【0059】
検出部132は、音圧信号記憶部142に記憶された一次音圧信号SP1を用いて、可聴音域における特徴的音波SW3の検出を試みる。そして、検出部132は、特徴的音波SW3を検出した場合には、「異常あり」の結果を記憶装置14に出力する。また、検出部132は、特徴的音波SW3を検出しなかった場合には、「異常なし」の結果を記憶装置14に出力する。なお、異常検出工程S2では、異常が生じている対象領域Rの検出までは行わない。異常が生じている対象領域Rの検出は、この後の異常箇所検出工程S4で行う。
【0060】
検出部132は、異常がある機器2から発せられる典型的な音波を一次音圧信号SP1のうちの可聴音域の信号から検出することで、精度よく機器2の異常の有無を検出することができる。この場合、検出部132は、複数の対象領域Rごとに異常の有無を判定する必要がないため、少ない演算量で、機器2の異常の有無を検出することができる。
【0061】
<判定工程>
次に、情報処理装置12は、検出部132の検出結果に基づく判定を行う(S3)。異常検出工程S2において検出部132が「異常あり」の結果を出力した場合(YESの場合)には、次に、異常箇所検出工程S4に移行する。一方、異常検出工程S2において検出部132が「異常なし」の結果を出力した場合(NOの場合)には、報知工程S6に移行する。
【0062】
このように、情報処理装置12は、異常検出工程S2において機器2に異常があることを検出した場合に、異常箇所検出工程S4を実行する。このように構成することで、情報処理装置12の演算量を減らすことができる。これにより、情報処理装置12の演算時間が短縮され、機器2の異常の有無をよりリアルタイムで判定することが可能となる。
【0063】
<異常箇所検出工程>
異常検出工程S2において「異常あり」と判定された場合、次に、異常箇所検出工程S4が実行される。異常箇所検出工程S4が開始されると、検出部132は、音圧信号記憶部142に記憶された二次音圧信号SP2を用いて、異常箇所Pを含む対象領域Rを検出する処理を実行する。
【0064】
図7Aに示すように、二次音圧信号SP2は、一次音圧信号SP1をビームフォーミング処理して生成される。本実施形態のビームフォーミング処理では、集音装置11の原点Oを基準とした角度についての合成音波SW2の検出範囲内にビーム走査範囲を設定する。そして、このビーム走査範囲を0.5~1°程度のビームスキャン範囲ごとに走査して、一次音圧信号SP1を処理する。具体的には、集音装置11に到達した音波SW1の各周波数におけるパワースペクトル密度(以下、PSD(Power Spectral Density)と記載する)をビームスキャン範囲ごとに算出し、二次音圧信号SP2を生成する。本実施形態では、ビームフォーミング処理の具体的手法として、既知の手法(例えば、ディレイアンドサムやフィルタアンドサム等)を用いている。
【0065】
集音装置11の第一マイクロホン群MG1では、各マイクロホン110同士の間隔が、超音波の波長の2分の1よりも小さい2.3~8.5mm程度となっている。このため、第一マイクロホン群MG1で検出した一次音圧信号SP1のうちの超音波域の信号を用いれば、各マイクロホン110で検出する信号について確実に1波長分以上の位相差が得られる。そして、この一次音圧信号SP1を用いれば、ビームフォーミング処理後の二次音圧信号SP2において良好な定位精度が得られる。これにより、監視装置1では、二次音圧信号SP2に基づいて対象領域Rを精度よく検出することが可能となっている。
【0066】
本実施形態では、
図7Bに示すように、集音装置11の中心を原点Oとし、原点Oから集音装置11の正面の方向を角度(0°)に規定する。そして、角度(0°)に対するビームの走査角度をビーム走査角度と称し、上記「ビーム走査範囲」を、ビーム走査角度が(-35°)~(+35°)の範囲としている。
【0067】
検出部132は、特に、超音波域(20kHz以上)の二次音圧信号SP2を用いて、異常箇所Pを含む対象領域Rを検出する。機器2の回転部分(軸受等)に傷が生じる原因となる当該回転部分の潤滑状態の悪化は、約30~35kHzの音波として現れやすい。このため、超音波域(20kHz以上)の音波は、回転部分の異常箇所Pを含む対象領域Rの検出に適している。
【0068】
図8には、異常のない機器2について生成した二次音圧信号SP2を示している。この二次音圧信号SP2は、初期一次音圧信号SP0に基づいて生成することができる。以下では、初期一次音圧信号SP0をビームフォーミング処理して生成した二次音圧信号SP2を区別して、初期二次音圧信号SP3と称する。
【0069】
図8には、超音波域の初期二次音圧信号SP3を示しており、30kHz、36kHz、42kHz、48kHzの各付近には、ビーム走査角度に依存しないパワースペクトル(以下、PS(Power Spectrum)と記載する)が現れている。これは、機器2の固有振動周波数のPSである。この固有振動周波数のPSは、異常箇所Pを含む対象領域Rを検出する際のノイズとなる。このため、検出部132によって対象領域Rを検出する際には、機器2の固有振動周波数を避けた周波数帯の二次音圧信号SP2を用いることが好ましい。このため、本実施形態では、43kHzから47kHzまでの周波数帯(
図8の点線で囲んだ範囲)の二次音圧信号SP2を、異常箇所Pを含む対象領域Rの検出に用いている。なお、
図8には示していないが、PSDは、
図8に示したようなPSのグラフ(線や点)に、PSの密度に応じた濃淡や色調の変化をつけることで、グラフ上に示すことができる。
【0070】
以上に説明したように、本実施形態の情報処理装置12は、異常箇所検出工程S4の処理において、機器2の固有振動周波数を含まない周波数帯の二次音圧信号SP2に基づいて機器2の異常箇所Pを検出する。このように構成することで、機器2の異常箇所Pをより精度よく検出することが可能となる。
【0071】
図9には、異常箇所Pを含む対象領域Rの検出に適する周波数帯(
図8参照)から選んだ周波数(例えば、46kHz)の二次音圧信号SP2について、ビーム走査角度とPSDとの関係を示している。
図9には、運転状態が正常な機器2に係るグラフAと、運転状態に異常がある機器2に係るグラフBを示している。グラフAは、初期二次音圧信号SP3に基づくグラフである。
【0072】
監視装置1では、運転状態に異常がない機器2の初期二次音圧信号SP3(グラフA)と異常がある機器2の二次音圧信号SP2(グラフB)の差分に基づいて、異常箇所Pを検出する。本実施形態では、初期二次音圧信号SP3(グラフA)と二次音圧信号SP2(グラフB)の差分(グラフC)を生成し、この差分に基づいて異常箇所Pを検出している。
【0073】
図9に示すように、異常がある場合のデータから異常がない場合のデータを差し引くことで、グラフCには、機器2に異常が生じたことで増加した音が際立って現れている。具体的には、グラフCには(-20°)付近にPSDのピークが現れている。これにより検出部132は、集音装置11の中心(原点O)から見てXY平面で(-20°)の方向に異常箇所Pを含む対象領域Rがあると判定する。なお、検出部132は、初期二次音圧信号SP3(グラフA)と二次音圧信号SP2(グラフB)の差分(グラフC)において、
図10に示すような複数のピーク(ピーク1~3)が存在する場合には、差分のピーク値が最も大きい箇所(ピーク1)の角度を、異常箇所Pを含む対象領域Rがある角度と判定する。
【0074】
検出部132は、二次音圧信号SP2から判定した異常箇所Pを含む対象領域Rがある角度(本実施形態では(-20°))を、マップ情報M1と照合し、異常が生じている対象領域Rを検出する。以上により、異常箇所検出工程S4が終了する。
【0075】
このように監視装置1では、検出部132によって、集音装置11で検出した合成音波SW2から各音波SW1の角度(伝搬方向)を検出し、その角度をマップ情報M1と照合することで、異常箇所Pが含まれる対象領域Rを検出する。
【0076】
以上に説明したように、本実施形態の情報処理装置12は、運転初期において機器2から発せられる音波の初期一次音圧信号SP0を取得する処理を集音工程S1において実行し、異常箇所検出工程S4を実行する処理において、初期一次音圧信号SP0をビームフォーミング処理して生成した初期二次音圧信号SP3と、機器2の運転初期後の二次音圧信号SP2と、の差分に基づいて機器2の異常箇所Pを検出する。このように構成することで、機器2の異常箇所Pをより精度よく検出することが可能となる。
【0077】
<異常内容検出工程>
次に、異常内容検出工程S5が実行される。検出部132は、いずれかの対象領域Rに異常があると判定した場合、当該異常の内容を検出する処理を実行する。異常内容検出工程S5において、検出部132は、音圧信号記憶部142に記憶された一次音圧信号SP1のうち、特に可聴音(20Hz以上20kHz未満)の周波数域の信号を用いて、対象領域Rに生じている異常の内容を検出する。
【0078】
異常内容検出工程S5が開始されると、検出部132は、一次音圧信号SP1のうちの可聴音域の信号に含まれる特徴量を取得する。例えば、当該対象領域Rにおける特徴量と、所定のデータベースに記憶されている複数の異常情報とを比較する。
【0079】
異常内容検出工程S5では、機器2の典型的な異常として異常検出工程S2で用いた数百Hz程度の可聴音域の特徴的音波SW3を、特徴量として利用することができる。複数の異常情報の中に、当該特徴量(特徴的音波SW3)と一致する異常情報があれば、対象領域Rの異常を当該異常情報に基づく異常であると判定する。複数の異常情報の中に、当該特徴量(特徴的音波SW3)と一致する異常情報がない場合、未知の異常であると判定する。以上により、異常内容検出工程S5が終了する。
【0080】
以上に説明したように、本実施形態の情報処理装置12は、異常検出工程S2において機器2に異常があることを検出した場合に、一次音圧信号SP1のうちの可聴音域の信号に基づいて、機器2の異常内容を検出する異常内容検出工程S5の処理をさらに実行可能である。このように、異常内容の検出を行う音波を可聴音(本実施形態では特徴的音波SW3)とすることで、異常がある機器2から発せられる典型的な可聴音に基づいて、機器2の異常内容を精度よく検出することが可能となる。
【0081】
図5に示すように、本実施形態では、異常箇所検出工程S4の後で異常内容検出工程S5が実行される場合を例示したが、異常内容検出工程S5は、異常検出工程S2で機器2に「異常あり」との判定結果が出た後であれば実行可能である。つまり、異常内容検出工程S5は、異常箇所検出工程S4の前に実行してもよいし、異常箇所検出工程S4と平行して同時に実行してもよい。
【0082】
<報知工程>
異常検出工程S2において検出部132が「異常なし」の結果を出力した場合、あるいは、異常内容検出工程S5が終了した場合には、次に、報知工程S6が実行される。報知工程S6が開始されると、情報処理装置12は、音圧信号記憶部142に記憶されている異常判定結果や異常のある対象領域Rの検出結果及び異常内容の検出結果に基づいて、表示装置15に監視情報を出力する。この場合、複数の対象領域Rごとに監視情報を出力すると好ましい。また、情報処理装置12は、通信装置17を介して管理装置へ当該監視情報を出力してもよい。また、対象領域Rに異常があると判定された場合、表示装置15のスピーカーから警報音を発報するようにしてもよい。以上により、報知工程S6が終了する。
【0083】
[監視装置による対象領域の検出結果]
図1に示す監視装置1によって、異常箇所Pを含む対象領域Rを検出する実験を行った。マップ情報M1には、対象領域R1に位置する軸受21について、最大角度θ1=(+31°)と最小角度θ2=(+16°)が記憶されている。また、マップ情報M1には、対象領域R2に位置する軸受22について、最大角度θ3=(-31°)と最小角度θ4=(-16°)が記憶されている(
図3A,B参照)。
【0084】
ここでは、以下の5パターンで実験を行った。
(1)転動体に異常箇所Pがある軸受22を用いた場合。
(2)内輪に異常箇所Pがある軸受22を用いた場合。
(3)転動体に異常箇所Pがある軸受21を用いた場合。
(4)内輪に異常箇所Pがある軸受21を用いた場合。
(5)内輪に異常箇所Pがある軸受21と、転動体に異常箇所Pがある軸受22を用いた場合。
【0085】
図11Aには、上記パターン(1)とパターン(2)の場合のPSDの差分の検出結果を示している。各パターン(1)(2)の実験結果を示す各グラフには、角度が(-22°)の付近にPSDのピークが現れている。この角度(-22°)は、マップ情報M1に記憶されている対象領域R2(軸受22)の存在範囲(-16°)~(-31°)に含まれている。そして、検出部132は、この検出結果に基づいて、軸受22が存在する対象領域R2に異常箇所Pがあると判定した。
【0086】
また、
図11Bには、上記パターン(3)とパターン(4)の場合のPSDの差分の検出結果を示している。各パターン(3)(4)の実験結果を示す各グラフには、角度が(+22°)の付近にPSDのピークが現れている。この角度(+22°)は、マップ情報M1に記憶されている対象領域R1(軸受21)の存在範囲(+16°)~(+31°)に含まれている。そして、検出部132は、この検出結果に基づいて、軸受21が存在する対象領域R1に異常箇所Pがあると判定した。
【0087】
これらの実験結果より、監視装置1によれば、対象領域Rのいずれかに異常が発生している場合、異常箇所Pを含む対象領域Rを精度よく検出できることが確認された。
【0088】
さらに、
図11Cには、上記パターン(5)の場合のPSDの差分の検出結果を示している。パターン(5)の実験結果を示すグラフには、角度が(-22°)の付近と、角度が(+22°)の付近にPSDのピークが現れている。角度(+22°)は、マップ情報M1に記憶されている軸受21の存在範囲(+16°)~(+31°)に含まれており、角度(-22°)は軸受22の存在範囲(-16°)~(-31°)に含まれている。そして、監視装置1は、検出部132が、この実験結果に基づいて、軸受21が存在する対象領域R1と、軸受22が存在する対象領域R2にそれぞれ異常箇所Pがあると判定した。
【0089】
この実験結果より、監視装置1によれば、複数の対象領域Rで同時に異常箇所Pが発生している場合に、異常箇所Pを含む複数の対象領域Rをそれぞれ検出できることが確認された。
【0090】
以上に説明したように、本実施形態の監視装置1は、機器2の運転状態を監視する監視装置1であって、機器2から発せられる可聴音と超音波を含む音波を一次音圧信号SP1に変換するマイクロホン110を複数配置している集音装置11と、一次音圧信号SP1のうちの可聴音域の信号に基づいて機器2の異常の有無を検出する異常検出工程S2を実行する処理と、一次音圧信号SP1のうちの超音波域の信号をビームフォーミング処理して二次音圧信号SP2を生成し、二次音圧信号SP2に基づいて機器2の異常箇所Pを含む対象領域Rを検出する異常箇所検出工程S4を実行する処理と、を実行可能な情報処理装置12と、を備えている。
【0091】
このような監視装置1によれば、機器2の異常箇所Pを含む対象領域Rの検出を行う音波を超音波とすることで、マイクロホン110の間隔を拡げなくても、異常箇所Pを含む対象領域Rを精度よく検出することができる。また、機器2の異常の検出を行う音波を可聴音とすることで、異常がある機器2から発せられる典型的な可聴音に基づいて、機器2の異常を精度よく検出することが可能となる。この結果、集音装置11を大型化せずに、機器の異常を精度よく検出することが可能となる。
【0092】
以上のとおり開示した実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。つまり、本発明の監視装置は、図示する形態に限られず、本発明の範囲内において他の形態であってもよい。
【符号の説明】
【0093】
1:監視装置 2:機器 11:集音装置 12:情報処理装置
110:マイクロホン SW1:音波 SW2:合成音波 SP0:初期一次音圧信号
SP1:一次音圧信号 SP2:二次音圧信号 SP3:初期二次音圧信号
P:異常箇所 R、R1、R2:対象領域 MG1:第一マイクロホン群
MG2:第二マイクロホン群 S1:集音工程 S2:異常検出工程
S4:異常箇所検出工程 S5:異常内容検出工程