(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】酵素発電デバイス正極用組成物、酵素発電デバイス用正極及び酵素発電デバイス
(51)【国際特許分類】
H01M 4/86 20060101AFI20240925BHJP
H01M 8/16 20060101ALI20240925BHJP
H01M 4/96 20060101ALI20240925BHJP
H01M 4/90 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
H01M4/86 M
H01M8/16
H01M4/96 B
H01M4/90 Y
H01M4/96 M
H01M4/86 B
(21)【出願番号】P 2020196638
(22)【出願日】2020-11-27
【審査請求日】2023-07-05
(31)【優先権主張番号】P 2019214968
(32)【優先日】2019-11-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】artience株式会社
(72)【発明者】
【氏名】渡部 寛人
【審査官】川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-516017(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0269029(US,A1)
【文献】特開2016-192399(JP,A)
【文献】特開2017-010853(JP,A)
【文献】特開2010-075921(JP,A)
【文献】特開2017-188357(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101323478(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86
H01M 8/16
H01M 4/96
H01M 4/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に大環状化合物が担持された導電性炭素材料と、液状媒体とを含
み、更に、塩基性樹脂型分散剤及びノニオン性樹脂型分散剤からなる群から選ばれる一種以上である樹脂型分散剤を含むことを特徴とする酵素発電デバイス正極用組成物。
【請求項2】
大環状化合物が、フタロシアニン及びポルフィリンからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1記載の酵素発電デバイス正極用組成物。
【請求項3】
表面に大環状化合物が担持された導電性炭素材料が、水を吸着質としたBET比表面積(BET
H2O)と窒素を吸着質とした比表面積(BET
N2)の比(BET
H2O/BET
N2)で示される親水度が0.05以上である導電性炭素材料の表面に大環状化合物が担持されたものである、請求項1または2記載の酵素発電デバイス正極用組成物。
【請求項4】
前記ノニオン性樹脂型分散剤が、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリ-N-ビニルアセトアミド及びポリアルキレングリコールからなる群から選ばれる一種以上である、請求項1~3いずれか記載の酵素発電デバイス正極用組成物。
【請求項5】
請求項1~4いずれか記載の酵素発電デバイス正極用組成物より形成された酵素発電デバイス用正極。
【請求項6】
請求項5記載の酵素発電デバイス用正極を使用して形成される酵素発電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大環状化合物が担持された導電性炭素材料を含む酵素発電デバイス正極用組成物、酵素発電デバイス用正極及び酵素発電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、開発が進められている酵素発電デバイスは、糖やアルコール、有機酸等の有機物を燃料にして、酵素反応により発生した電子の有する電気エネルギーを利用する発電型デバイスである。
近年では、酵素発電デバイスから取り出した電気エネルギーを電源として使う以外にも、酵素が持つ基質選択性を利用し、糖やアルコール等の有機物をセンシングするための発電型センサーとして利用する方法も提案されている。
他方、酵素発電デバイスにおいては、アノード及びカソードに酸化還元酵素を含み、多種多様な有機物と空気中の酸素を燃料として発電するエネルギーシステムであり、常温作動、豊富な有機エネルギー源、環境・生体への高い安全性等、複数の利点がある一方、出力安定性、コスト等に関する課題もある。
【0003】
上記課題の解決に向け、これまでに様々な対策が取られてきた。例えば、発電性能向上に向け、多孔性カーボンを用いたポーラス型酵素燃料電池(特許文献1)や、水に不溶な親水性バインダーを用いた電極を作製し、酵素液の染みこみを改善させる方法(特許文献2)、また、酵素の寿命向上に向け、電解質の酸性基との接触による酵素の失活を緩和するために電極と電解質膜との間に保護膜を備える方法(特許文献3)、光硬化性樹脂を用いて酵素の溶出を抑制する方法(特許文献4)などが報告されている。しかし、性能向上が低い、用途が限定される等いずれも十分とは言えない。更に、酵素は一般的に電位に対する耐性が低いため、使用耐久性が低いという課題に対し、耐久性を向上させるため、正極側の酵素を白金等の貴金属触媒や炭素触媒で代替する方法が知られている(特許文献5)。しかし、不純物成分を多く含む生体試料やバイオマスなどを燃料として使用する酵素発電デバイスでは、これら不純物が貴金属触媒を被毒し活性低下や出力不安定化を誘引する場合がある。また、高価な貴金属の使用や、合成時の高温焼成のプロセスコストが触媒コストを引き上げ、デバイスの高コスト化も問題となる。上記のように様々な取り組みがなされているが、現状において出力やコスト等に関する課題が解消されているとは言い難い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-181889号公報
【文献】国際公開第2013/065581号
【文献】特開2015-109188号公報
【文献】特許第5181576号
【文献】特開2018-166086号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、酵素発電デバイス用正極を構成する正極組成物を提供することである。本発明の酵素発電デバイス用正極を用いることにより、それを具有する低コストで出力性能に優れた酵素発電デバイスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、前記諸問題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、本発明に至った。すなわち本発明は、表面に大環状化合物が担持された導電性炭素材料と、液状媒体とを含むことを特徴とする酵素発電デバイス正極用組成物に関する。
【0007】
又、大環状化合物が、フタロシアニン及びポルフィリンからなる群より選ばれる少なくとも1種である上記酵素発電デバイス正極用組成物に関する。
【0008】
又、表面に大環状化合物が担持された導電性炭素材料が、水を吸着質としたBBET比表面積(BETH2O)と窒素を吸着質とした比表面積(BETN2)の比(BETH2O/BETN2)で示される親水度が0.05以上である導電性炭素材料の表面に大環状化合物が担持されたものである前記の酵素発電デバイス正極用組成物に関する。
【0009】
又、更に樹脂型分散剤を含む、上記の酵素発電デバイス正極用組成物に関する。
【0010】
又、上記酵素発電デバイス正極用組成物より形成された酵素発電デバイス用正極に関す
る。
【0011】
又、上記酵素発電デバイス用正極を使用して形成される酵素発電デバイスに関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、酵素発電デバイス用正極を構成する正極組成物、酵素発電デバイス用正極及び酵素発電デバイスを提供することができる。本発明の酵素発電デバイス用正極を用いることにより、それを具有する出力安定性に優れ、低コストな酵素発電デバイスを提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、詳細に本発明について説明する。尚、本明細書では、「樹脂」を「重合体」ということがある。
【0014】
<酵素発電デバイス正極用組成物>
酵素発電デバイス正極用組成物は、表面に大環状化合物が担持された導電性炭素材料と
、液状媒体とを少なくとも含み、目的とする酸化還元反応に対して効果的に機能できる。
【0015】
表面に大環状化合物が担持された導電性炭素材料は、酸素、プロトン、電子の存在下に
おいて酸素還元触媒として機能する。大環状化合物が導電性炭素材料に担持されているた
め、酸素還元反応に必要な電子を導電性炭素材料から大環状化合物へ効果的に供給するこ
とが可能となる。
【0016】
<大環状化合物>
本発明において、大環状化合物とは、9個以上の原子からなる環状構造である基本骨格を有し、基本骨格の中に4個の窒素原子が平面上に並んだN4構造を有するものをいい、フタロシアニン系化合物、ナフタロシアニン系化合物、ポルフィリン系化合物、テトラアザアヌレン系化合物などが該当する。また、大環状化合物は、中心金属を有する方が好ましく、中心金属としてはコバルト、鉄、ニッケル、マンガン、銅、チタン、バナジウム、クロム、亜鉛、スズ、アルミニウム、マグネシウム等が上げられる。中でも、コバルトフタロシアニン系化合物、鉄フタロシアニン系化合物、コバルトポルフィリン系化合物、鉄ポルフィリン系化合物が好ましく、バルトフタロシアニン系化合物、鉄フタロシアニン系化合物が特に好ましい。
【0017】
<導電性炭素材料>
本発明における導電性炭素系材料としては、例えば、カーボンブラック(ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ミディアムサーマルカーボンブラック)、活性炭、黒鉛、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン、グラフェンナノプレートレット、ナノポーラスカーボン、炭素繊維等が挙げられる。上記炭素材料は、種類やメーカーによって、炭素六角網面の大きさや積層構造は様々で、結晶性、粒子径、形状、BET比表面積、細孔容積、細孔径、嵩密度、DBP吸油量、表面酸塩基度、表面親水度、導電性などの様々な物性や、コストが異なるため、使用する用途や要求性能に合わせて最適な材料を選択することができる。
物性の中でも、表面親水度が高い材料の方が反応に必要なイオンを大環状化合物の周囲に効果的に供給することができ好ましい。
【0018】
大環状化合物が担持される前の導電性炭素系材料の表面親水度としては、例えば、水を吸着質としたBET比表面積(BETH2O)と窒素を吸着質とした比表面積(BETN2)の比(BETH2O/BETN2)で示される値を使用することができる。表面親水度の範囲は0.05以上であるとイオンの伝達に有利となり好ましい。より好ましくは0.07以上、更に好ましくは0.1以上である.
【0019】
<液状媒体>
本発明に使用する液状媒体としては、特に限定せず使用することができる。中でも水及び水と相溶する水性液状媒体の使用が好ましい。水と相溶する液状媒体としては、アルコール類、グリコール類、セロソルブ類、アミノアルコール類、アミン類、ケトン類、カルボン酸アミド類、リン酸アミド類、スルホキシド類、カルボン酸エステル類、リン酸エステル類、エーテル類、ニトリル類等が挙げられ、水と相溶する範囲で使用しても良い。アルコール類としては、例えば、沸点80~200℃程度の1価のアルコールないし多価アルコールが利用でき、好ましくは炭素数が4以下のアルコール系溶剤が挙げられる。具体的には、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、t-ブタノール等が挙げられる。これらの1価のアルコールの中でも、2-プロパノール、1-ブタノール及びt-ブタノールが好ましい。多価アルコールとしては具体的には、プロピレングリコール、エチレングリコール等が好ましく、中でもプロピレングリコールが特に好ましい。液状媒体は水を用いることが好ましく、水と相溶する液状媒体を一部含んでいてもよい。
【0020】
<分散剤>
本発明において使用する分散剤は、表面に大環状化合物が担持された導電性炭素材料や導電性炭素材料に対して分散剤として有効に機能し、その凝集を緩和することができる。分散剤は、表面に大環状化合物が担持された導電性炭素材料や導電性炭素材料に対して凝集を緩和する効果を得ることができれば特に限定されるものではない。
【0021】
分散剤としては、従来公知のものを使用することができる。例えば樹脂型分散剤であれば、塩基性官能基を有する樹脂、酸性官能基を有する樹脂、塩基性官能基および酸性官能基を有する樹脂並びにノニオン性樹脂からなる群から選ばれる一種以上の樹脂である分散剤を用いることができる。
分散樹脂の中でも、塩基性樹脂、ノニオン性樹脂からなる群から一種以上の樹脂である分散剤が好ましい。
【0022】
塩基性官能基を有する樹脂としては、環状を含むアミノ基およびアミノ基の一部あるいは全て中和した骨格や4級アンモニウム塩を含有し、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、メチルエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノスチレン、ジエチルアミノスチレン、アリルアミン等の重合性単量体の単独重合物、または他の重合性単量体との共重合物およびそれらの酸中和物が挙げられる。(メタ)アクリレートとは、メタクリレートまたはアクリレートを意味する。
【0023】
酸性官能基を有する樹脂としては、カルボキシル基、スルホ基、リン酸基およびそれらを一部あるいは全てを中和した骨格を含有し、マレイン酸、フマル酸、アクリル酸、メタクリル酸、けい皮酸等のカルボキシル基を有する重合性単量体や、ビニルスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸などのスルホ基を有する重合性単量体、モノ(2-アクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート、モノ(2-メタクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート等のリン酸基を有する重合性単量体の単独重合物、または他の重合性単量体との共重合物およびそれらのアルカリ中和物が挙げられる。
また、負極と正極が同一液内で使用される場合は、強酸性の樹脂により負極中の酵素の活性が阻害される恐れがある。そのため、弱酸性の樹脂が好ましい。弱酸性の樹脂としては、酸性官能基としてカルボキシル基、リン酸基を含む樹脂などが挙げられる。また、強酸性の樹脂としては、酸性官能基としてスルホ基などを含む樹脂が挙げられる。
【0024】
塩基性官能基及び酸性官能基を有する樹脂としては、前記塩基性骨格と前記酸性骨格を共に含有するものを意味し、スチレン-マレイン酸-N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートの共重合物などが挙げられる。
【0025】
ノニオン性樹脂は、前記塩基性官能基を有する樹脂、酸性官能基を有する樹脂、塩基性官能基及び酸性官能基を有する樹脂以外の樹脂であり、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリ-N-ビニルアセトアミド、ポリアルキレングリコールなどが挙げられる。
【0026】
分散剤として水溶性樹脂型分散剤を使用した正極組成物から酵素電池用正極を作製すると、水に不溶な樹脂型分散剤に比べ電極内部がより親水的になり活性点へのプロトン供給が有利となるため、好ましい。
【0027】
水溶性樹脂型分散剤は、ポリビニル系樹脂やポリウレタン系、ポリエステル系、ポリエーテル系、カルボキシメチルセルロース等のセルロース樹脂、ホルマリン縮合物、シリコーン系、及びこれらの複合系ポリマー等が挙げられる。更に、これらの水溶性樹脂型分散剤は2種類以上を併用してもよい。ポリビニルピロリドン、ポリ-N-ビニルアセトアミド、ポリビニルアルコール、ポリスチレンスルホン酸、ポリアクリル酸、ポリアリルアミン、カルボキシメチルセルロースなどが好ましく、親水度の高い炭素材料に好適に使用できる。
【0028】
市販の水溶性樹脂型分散剤としては、例えば、DISPERBYK-180、184、187、190、191、192、193、194、199、2010、2012、2015、2096等(ビックケミー社製)、SOLSPERSE20000、27000、40000、41090、44000、46000、47000、64000、65000、66000等(日本ルーブリゾール社製)、フローレンG-700AMP、G-700DMEA、WK-13E、GW-1500、GW-1640等(共栄社化学社製)、Borchi(登録商標)Gen1350、0851、1253、SN95、WNS等(松尾産業社製)、TEGODispers650、651、652、655、660C、715W、740W、750W、752W、755W、760W等(巴工業社製)、ポリビニルピロリドンPVP-K30、K85、K90等(ISPジャパン社製)、エスレックBL-1、BL-2、BL-5、BL-10、BL-1H、BL-2H、BL-S、BM-S、BM-1、BM-2、BM-5、BX-1、BX-5等(積水化学工業社製)、カルボキシメチルセルロースCMC1110、1130、1140、1170、1190、1210、1240、1250等(ダイセル化学工業社製)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0029】
なお、水溶性樹脂型分散剤の質量平均分子量は、炭素触媒(A)の分散性が良好な点から、1000以上、500000未満であり、好ましくは5000以上、400000未満であり、より好ましくは、10000以上、200000未満である。
【0030】
<バインダー>
本発明では、バインダーを使用してもよい。バインダーとは、導電性炭素材料などの粒子を結着させるために使用されるものであり、それら粒子を溶媒中へ分散させる効果は小さいものである。
バインダーとしては、従来公知のものを使用することができ、例えば、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、ホルムアルデヒド樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂、スチレン-ブタジエンゴムやフッ素ゴム等の合成ゴム、ポリアニリンやポリアセチレン等の導電性樹脂等、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、パーフルオロカーボン及びテトラフルオロエチレン等のフッ素原子を含む高分子化合物が挙げられる。又、これらの樹脂の変性物、混合物、又は共重合体でも良い。これらバインダーは、1種または複数を組み合わせて使用することも出来る。
【0031】
また、水性液状媒体を使用する場合、一般的に水性エマルションとも呼ばれる水性樹脂微粒子も使用できる。水性樹脂微粒子とは、バインダー樹脂が水中で溶解せずに、微粒子の状態で分散されているものである。
【0032】
使用する水性樹脂微粒子は特に限定されないが、(メタ)アクリル系エマルション、ニトリル系エマルション、ウレタン系エマルション、ジエン系エマルション(SBR(スチレンブタジエンゴム)など)、フッ素系エマルション(PVDF(ポリフッ化ビニリデン)やPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)など)等が挙げられる。
【0033】
<分散機・混合機>
本発明の組成物を得る際に用いられる装置としては、顔料分散等に通常用いられている分散機、混合機が使用できる。
【0034】
例えば、ディスパー、ホモミキサー、若しくはプラネタリーミキサー等のミキサー類;エム・テクニック社製「クレアミックス」、若しくはPRIMIX社「フィルミックス」等のホモジナイザー類;ペイントシェーカー(レッドデビル社製)、ボールミル、サンドミル(シンマルエンタープライゼス社製「ダイノミル」等)、アトライター、パールミル(アイリッヒ社製「DCPミル」等)、若しくはコボールミル等のメディア型分散機;湿式ジェットミル(ジーナス社製「ジーナスPY」、スギノマシン社製「スターバースト」、ナノマイザー社製「ナノマイザー」等)、エム・テクニック社製「クレアSS-5」、若しくは奈良機械社製「MICROS」等のメディアレス分散機;または、その他ロールミル等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、分散機としては、分散機からの金属混入防止処理を施したものを用いることが好ましい。
【0035】
例えば、メディア型分散機を使用する場合は、アジテーター及びベッセルがセラミック製又は樹脂製の分散機を使用する方法や、金属製アジテーター及びベッセル表面をタングステンカーバイド溶射や樹脂コーティング等の処理をした分散機を用いることが好ましい。そして、メディアとしては、ガラスビーズ、または、ジルコニアビーズ、若しくはアルミナビーズ等のセラミックビーズを用いることが好ましい。また、ロールミルを使用する場合についても、セラミック製ロールを用いることが好ましい。分散装置は、1種のみを使用しても良いし、複数種の装置を組み合わせて使用しても良い。
【0036】
上記組成物の塗布方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、ナイフコーター、バーコーター、ブレードコーター、スプレー、ディップコーター、スピンコーター、ロールコーター、ダイコーター、カーテンコーター、スクリーン印刷等の一般的な方法を適用できる。
【0037】
<酵素発電デバイス用正極>本発明の酵素発電デバイス用正極では、負極で発生した電子を受け取り、電極中の還元反応によりこれを消費する。酵素発電デバイス用正極の構造としては、酸素還元反応が生じる大環状化合物の活性点まで電子及びプロトンの伝導パスや酸素の供給パスが確保されていることが効率的な発電を行う上では好ましい。酵素発電デバイス用正極は、本発明における酵素発電デバイス正極用組成物を導電性支持体(カーボンペーパーや非導電性基材に塗布された導電層など)やセパレータ等の基材などに直接塗布し乾燥させたり、転写基材などに前記組成物を塗布し乾燥することにより形成された塗膜を前記導電性支持体やセパレータ等に転写したりして作製される。
【0038】
上記組成物の塗布方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、ナイフコーター、バーコーター、ブレードコーター、スプレー、ディップコーター、スピンコーター、ロールコーター、ダイコーター、カーテンコーター、スクリーン印刷等の一般的な方法を適用できる。
【0039】
<酵素発電デバイス用負極>
酵素発電デバイス用負極では、燃料の酸化反応により発生した電子を正極に供給する。酵素発電デバイス用負極は、酸化酵素を導電性支持体(カーボンペーパーや非導電性基材に塗布された導電層など)やセパレータ等の基材などに直接塗布した電極などが使用される。
【0040】
<酵素>
本発明における酵素としては、反応により電子を授受できる酵素(酸化還元酵素)であれば特に制限はなく、供給する燃料やコスト、デバイスの種類等に応じて適宜選択される。酵素としては、物質代謝など生体内での多くの酸化還元反応を触媒する酸化還元酵素が好ましい。本発明の酵素発電デバイスに用いる負極においては電子を放出できる酵素であれば良く、糖や有機酸などのオキシダーゼやデヒドロゲナーゼなどが利用できる。中でも、他の酵素に比べ安価で、安定性が高く、人体の血液や尿などの生体試料に含まれるグルコースを燃料にできるグルコースオキシダーゼが好ましい場合がある。その他の酵素としては、汗や血液中の乳酸を使用できる乳酸オキシダーゼや乳酸デヒドゲナーゼ、フルクトースを燃料にできるフルクトースオキシダーゼやフルクトースデヒドゲナーゼ等が挙げられる。
【0041】
<メディエータ>
酵素の種類によって、電極に直接電子を伝達できる直接電子移動型(DET型)酵素と直接電子を伝達できない酵素が存在する。DET型以外の酵素は、燃料の酸化によって生じた電子を酵素から負極に伝達する役割を担うメディエータと併用することが好ましい。メディエータとしては、電極と電子の授受ができる酸化還元物質であれば特に制限はなく、従来公知のものを使用できる。メディエータの使用方法としては、電極に担持させる方法や電解液に溶解させて使用する方法等がある。メディエータとしては、テトラチアフルバレン、ハイドロキノンや1,4‐ナフトキノン等のキノン類、フェロセン、フェリシアン化物、オスミウム錯体、及びこれら化合物を修飾したポリマー等が例示できる。
【0042】
<導電性支持体>
導電性支持体は、導電性を有する材料であれば特に限定はない。導電性の炭素材料からなる導電層やカーボンペーパーや、カーボンフェルト、カーボンクロス、金属箔、金属メッシュ等が使われる。上記導電層は導電性の炭素材料を含むペーストなどを導電性または紙やペットフィルムなどの非導電性基材に塗工するなどして作製される。
【0043】
<セパレータ>
セパレータとしては、負極と正極を電気的に分離できる(短絡の防止)ものであれば、特に限定されず従来公知の材料を用いる事ができる。具体的には、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ガラス繊維、樹脂不織布、ガラス不織布、フェルト、濾紙、和紙等を用いることができる。また、液体成分の保持やイオン伝導度を改善させるため、吸水性ポリマーを単独もしくは上記セパレータと複合的に使用しても良い。吸水性ポリマーとしては、ポリアクリル酸塩やカルボキシメチルセルロースなどの多糖類からなる親水性のポリマー材料が挙げられる。
【0044】
<酵素発電デバイス>
酵素発電デバイスは、負極、正極の少なくとも一方に酵素を含む発電デバイスであり、酵素反応を利用し、糖やアルコール、有機酸等の多様な有機物を燃料として、負極で発生した電子及びイオンと、正極側の酸素還元反応を利用することにより発電可能な発電デバイスである。又、発電の有無や発電量を検知したり、負極または正極の一方の酸化還元反応で発生した電気信号を検知したりして、燃料となる有機物等を対象としたセンサーとして利用することも可能となる。
更に、酵素反応により発電した電力を用いて、同センサーを駆動させることにより、外部から電力供給不要な電源フリーのセンサー(自己発電型センサー)として利用することが出来る。この自己発電型センサーは酵素発電デバイスの一種に含まれ、酵素発電デバイスの電源用途と共に特に生体向けのウェアラブル、インプラントセンサーとしての活用が期待されている。これら生体向けデバイスとして使用する場合は、血液中の血糖、尿中の尿糖、汗中の糖や乳酸、涙や唾液中の糖等を燃料及び/又はセンシング対象物として利用される。また、生体試料中に燃料として利用できる有機物を含まなくても、予め燃料となる有機物を電池に内蔵することで、水分などの液体成分を利用して発電することもでき、上記液体成分をセンシング対象物としたセンサー(例えば水分センサー)として利用することもできる。
【0045】
<燃料>
本発明の酵素発電デバイスで使用できる燃料としては、酵素で分解できる有機物であれば特に限定はされず、D-グルコース等の単糖類、デンプン等の多糖類、エタノール等のアルコール、有機酸などの有機物であれば幅広く利用できる。
【0046】
<イオン伝導体>
本発明におけるイオン伝導体はアノードとカソードの間でイオンの伝導を行うものである。イオン伝導体の形態はイオン伝導性を有するものであれば特に限定されるものではない。イオン伝導体としては、リン酸塩やナトリウム塩など電解質が溶けている電解液や、固体のポリマー電解質などを使用しても良い。
【実施例】
【0047】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、以下の実施例は本発明の権利範囲を何ら制限するものではない。尚、実施例および比較例における「部」は「質量部」、「%」は「質量%」を表す。
【0048】
導電性炭素材料の分析は、以下の測定機器を使用した。親水度の測定;窒素を吸着質としたBET比表面積測定(日本ベル社製BELSORP-mini)、水蒸気を吸着質としたBET比表面積測定(日本ベル社製BELSORP-max)
【0049】
<大環状化合物が担持された導電性炭素材料の製造>
[製造例1]
グラフェンナノプレートレットxGnP-C-750(XGscience社製)と鉄フタロシアニンP-26(山陽色素社製)を、質量比1/0.5(グラフェンナノプレートレット/鉄フタロシアニン)となるようにそれぞれ秤量し、ボールミル混合を行い、大環状化合物が担持された導電性炭素材料(1)を得た。
【0050】
[製造例2]
ライオナイトEC-200L(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社製)と鉄フタロシアニンP-26(山陽色素社製)を、質量比1/0.5(ライオナイト/鉄フタロシアニン)となるようにそれぞれ秤量し、ボールミル混合を行い、大環状化合物が担持された導電性炭素材料(2)を得た。
【0051】
[製造例3]
カーボンナノチューブVGCF-H(昭和電工社製)と鉄フタロシアニン(山陽色素社製)を、質量比1/0.5(カーボンナノチューブ/鉄フタロシアニン)となるようにそれぞれ秤量し、ボールミル混合を行い、大環状化合物が担持された導電性炭素材料(3)を得た。
【0052】
[製造例4]
グラフェンナノプレートレットxGnP-C-750(XGscience社製)とコバルトフタロシアニン(東京化成工業社製)を、質量比1/0.5(グラフェンナノプレートレット/コバルトフタロシアニン)となるようにそれぞれ秤量し、ボールミル混合を行い、大環状化合物が担持された導電性炭素材料(4)を得た。
【0053】
[製造例5]
ライオナイトEC-200L(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社製)とコバルトフタロシアニン(東京化成工業社製)を、質量比1/0.5(ライオナイト/コバルトフタロシアニン)となるようにそれぞれ秤量し、ボールミル混合を行い、大環状化合物が担持された導電性炭素材料(5)を得た。
【0054】
[製造例6]
グラフェンナノプレートレットxGnP-C-750(XGscience社製)と無金属フタロシアニン(東京化成工業社製)を、質量比1/0.5(グラフェンナノプレートレット/無金属フタロシアニン)となるようにそれぞれ秤量し、ボールミル混合を行い、大環状化合物が担持された導電性炭素材料(6)を得た。
【0055】
[製造例7]
ライオナイトEC-200L(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社製)と無金属フタロシアニン(東京化成工業社製)を、質量比1/0.5(ライオナイト/無金属フタロシアニン)となるようにそれぞれ秤量し、ボールミル混合を行い、大環状化合物が担持された導電性炭素材料(7)を得た。
【0056】
[製造例8]
グラフェンナノプレートレットxGnP-C-750(XGscience社製)とテトラフェニルポルフィリン(東京化成工業社製)を、質量比1/0.5(グラフェンナノプレートレット/テトラフェニルポルフィリン)となるようにそれぞれ秤量し、ボールミル混合を行い、大環状化合物が担持された導電性炭素材料(8)を得た。
【0057】
[製造例9]
グラフェンナノプレートレットxGnP-C-750(XGscience社製)とピグメントレッド254(東京化成工業社製)を、質量比1/0.5(グラフェンナノプレートレット/ピグメントレッド)となるようにそれぞれ秤量し、ボールミル混合を行い、導電性炭素材料(9)を得た。
【0058】
<酵素発電デバイス正極用組成物の調製>
[実施例1A]
大環状化合物が担持された導電性炭素材料(1)を4部、水性液状媒体として水92.5部、更に分散剤としてポリビニルピロリドン水溶液2.5部(固形分20%)をサンドミルに入れて分散し、その後、バインダーとしてエマルション型アクリル樹脂分散溶液(トーヨーケム社製:W-168)1部(固形分50%)を加えミキサーで混合し、酵素発電デバイス正極用組成物(1)を得た。
【0059】
[実施例1B~1H ]
大環状化合物が担持された導電性炭素材料(2)~(8)を用い、上記酵素発電デバイス正極用組成物(1)と同様の方法で、酵素発電デバイス正極用組成物(2)~(8)を得た。
【0060】
[実施例1I~1N ]
大環状化合物が担持された導電性炭素材料(1)を用い、親水樹脂を表1に示す樹脂に変更した以外は、上記酵素発電デバイス正極用組成物(1)と同様の方法で、酵素発電デバイス正極用組成物(9)~(14)を得た。
【0061】
[実施例1O]
大環状化合物が担持された導電性炭素材料(1)を4部、非水性液状媒体としてN-メチルピロリドン(NMP)86部、更にバインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)NMP溶液10部(固形分10%)をサンドミルに入れて分散し、酵素発電デバイス正極用組成物(15)を得た。
【0062】
[実施例1P]
大環状化合物が担持された導電性炭素材料(1)を4部、水性液状媒体として水を45.5部、1-プロパノール45.5部、更に分散剤兼バインダーとしてパーフルオロカーボン材料Nafion(富士フィルム和光社製)水-1-プロパノール溶液5部(固形分20%)をサンドミルに入れて分散し、酵素発電デバイス正極用組成物(16)を得た。
【0063】
[比較例1A]
カーボン担持白金触媒TEC10E50E(田中貴金属社製)を4部、水性液状媒体として水92.5部、更に分散剤としてポリビニルピロリドン水溶液2.5部(固形分20%)をサンドミルに入れて分散し、その後、バインダーとしてエマルション型アクリル樹脂分散溶液(トーヨーケム社製:W-168)1部(固形分50%)を加えミキサーで混合し、酵素発電デバイス正極用組成物(17)を得た。
【0064】
[比較例1B]
活性炭(CABOT社製)4部、水性液状媒体として水92.5部、更に分散剤としてポリビニルピロリドン水溶液2.5部(固形分20%)をサンドミルに入れて分散し、その後、バインダーとしてエマルション型アクリル樹脂分散溶液(トーヨーケム社製:W-168)1部(固形分50%)を加えミキサーで混合し、酵素発電デバイス正極用組成物(18)を得た。
【0065】
[比較例1C]
フタロシアニン(東京化成工業社製)4部、水性液状媒体として水92.5部、更に分散剤としてポリビニルピロリドン水溶液2.5部(固形分20%)をサンドミルに入れて分散し、その後、バインダーとしてエマルション型アクリル樹脂分散溶液(トーヨーケム社製:W-168)1部(固形分50%)を加えミキサーで混合し、酵素発電デバイス正極用組成物(19)を得た。
【0066】
[比較例1D]
導電性炭素材料(9)4部、水性液状媒体として水92.5部、更に分散剤としてポリビニルピロリドン水溶液2.5部(固形分20%)をサンドミルに入れて分散し、その後、バインダーとしてエマルション型アクリル樹脂分散溶液(トーヨーケム社製:W-168)1部(固形分50%)を加えミキサーで混合し、酵素発電デバイス正極用組成物(20)を得た。
【0067】
<酵素発電デバイス用正極の作製>
[実施例2A~2P、比較例2A~2D]
実施例1A~1Pの酵素発電デバイス正極用組成物(1)~(16)と、比較例1A~1Dの酵素発電デバイス正極用組成物(17)~(20)を、ドクターブレードにより、乾燥後の大環状化合物が担持された導電性炭素材料の目付け量が2mg/cm2となるように、導電性支持体として炭素繊維からなる東レ社製カーボンペーパー基材上に塗布し、大気雰囲気中95℃、60分間乾燥し、酵素発電デバイス用正極(1)~(20)を作製した。
【0068】
<酵素発電デバイス用負極の作製>
導電性炭素材料(ファーネスブラック、VULCAN(登録商標)XC72、CABOT社製)ペーストをドクターブレードにより、東レ社製カーボンペーパー基材上に乾燥後の導電性炭素材料の目付け量が2mg/cm2となるように塗布した後、テトラチアフルバレンのメタノール溶液と、グルコースオキシダーゼ水溶液をそれぞれ滴下し、自然乾燥させ酵素発電デバイス用負極(1)を作製した。
【0069】
<酵素発電デバイス出力評価>
以下のようにして、酵素発電デバイス用正極の出力性能を評価した。
上記で作製した酵素発電デバイス用正極(1)~(20)を作用極、酵素発電デバイス用負極(1)を対極として、電解液(イオン伝導体)である0.5Mリン酸緩衝液(pH7.0)中に入れ、30分間の酸素バブリングを行った後、燃料としてD-グルコースを1Mとなるように添加し、ポテンショ・ガルバノスタット(VersaSTAT3、Princeton Applied Research社製)を用いて、pH7、室温下で、Linear Sweep Voltammetry(LSV)測定を行い、LSV測定より得られた還元電流曲線から出力密度を算出した。出力性能の指標には、比較例2Aで作製した酵素発電デバイス用正極(17)の最大出力密度を100とした相対値を使用した。得られた結果を表1に示す。
【0070】
【0071】
比較例に比べ実施例では酵素発電デバイスにおいて高い出力性能を示した。これは比較例では酸素還元活性や電子伝導性が低いために出力性能が低下したものと考えられる。また、高い酸素還元活性を有する白金触媒を使用した場合においては、正極側で燃料であるグルコースの酸化反応が同時に起こり(クロス反応)、電流の打ち消し合いが生じ出力性能が低くなったと考えられる。一方実施例では、正極で選択的に酸素還元反応が生じ、且つ高い電子伝導性により、効果的に正極反応が進行し高い出力性能を示したものと推察される。
このように燃料濃度が高くなるよう酵素発電デバイスの動作環境においても、実施例では高価な貴金属を使用せず高い出力性能を発現することが明らかとなった。