(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】転落検知装置、転落検知システム、転落検知方法および転落検知プログラム
(51)【国際特許分類】
B61L 23/00 20060101AFI20240925BHJP
G08B 21/00 20060101ALI20240925BHJP
G01V 8/26 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
B61L23/00 A
G08B21/00 A
G01V8/26
(21)【出願番号】P 2020205941
(22)【出願日】2020-12-11
【審査請求日】2023-10-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000002945
【氏名又は名称】オムロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129012
【氏名又は名称】元山 雅史
(72)【発明者】
【氏名】相澤 知禎
(72)【発明者】
【氏名】杉立 好正
(72)【発明者】
【氏名】高田 義教
【審査官】岩田 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-006775(JP,A)
【文献】特開2009-085927(JP,A)
【文献】特開2014-095649(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0126731(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61L 23/00
G08B 21/00
G01V 8/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラットホームの下方に走査範囲を形成し、前記走査範囲内に設定された監視領域に物体が存在するか否かを検出する複数の走査器の各々の状態を、通常状態および縮退状態のいずれかに設定する走査器状態設定部と、
前記プラットホームと隣接した軌道の状態を示す情報を取得する軌道情報取得部と、
前記軌道の状態が当該軌道上に列車が停止している在線状態である場合に、前記通常状態にある前記走査器において、前記監視領域として、前記プラットホームと当該列車の側面との間に隙間監視領域を設定する監視領域設定部と、
前記在線状態において、前記縮退状態にある前記走査器による検出結果を参照せず、前記通常状態にある前記走査器によって出力される前記隙間監視領域内の前記物体の存否についての検出結果に基づいて、前記プラットホームからの転落者を検知する転落検知部と、
を備える転落検知装置。
【請求項2】
前記軌道の状態が前記軌道上に列車が存在しない不在状態である場合に、前記監視領域設定部は、前記通常状態にある前記走査器および前記縮退状態にある前記走査器の両方において、前記監視領域として、前記軌道を覆う軌道監視領域を設定し、
前記不在状態において、前記転落検知部は、前記走査器の前記状態に関わらず、前記複数の走査器によって出力される前記軌道監視領域内の前記物体の存否についての検出結果に基づき、前記プラットホームからの転落者を検知する、
請求項1に記載の転落検知装置。
【請求項3】
前記軌道の状態が前記軌道上に列車が存在しない不在状態である場合に、前記監視領域設定部は、前記通常状態にある前記走査器において、前記監視領域として
、前記軌道を覆う軌道監視領域を設定し、
前記不在状態において、前記転落検知部は、前記縮退状態にある前記走査器による検出結果を参照せず、前記通常状態にある前記走査器によって出力される前記軌道監視領域内の前記物体の存否についての検出結果に基づいて、前記プラットホームからの転落者を検知する、
請求項1に記載の転落検知装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の転落検知装置と、
プラットホームの下方に走査範囲を形成し、前記走査範囲内に設定された監視領域に物体が存在するか否かを検出する複数の走査器と、
列車が前記プラットホームと隣接した軌道上で停止しているか否かを検知する在線検知装置と、
を備え、
前記軌道情報取得部は、前記在線検知装置から出力される検知結果に基づいて前記軌道の状態を示す情報を取得する、
転落検知システム。
【請求項5】
前記軌道の状態が少なくとも前記在線状態であるときに、前記縮退状態にある前記走査器によって出力される前記走査範囲内の前記物体の存否についての検出結果を記録する記録装置を更に備える、
請求項4に記載の転落検知システム。
【請求項6】
プラットホームの下方に平面視で軌道と重なる走査範囲を形成し、前記走査範囲内に設定された監視領域に物体が存在するか否かを検出する複数の走査器の各々の状態を、通常状態および縮退状態のいずれかに設定する走査器状態設定工程と、
前記プラットホームと隣接した軌道の状態を示す情報を取得する軌道情報取得工程と、
前記軌道の状態が当該軌道上に列車が停止している在線状態である場合に、前記通常状態にある前記走査器において、前記監視領域として、前記プラットホームと当該列車の側面との間に隙間監視領域を設定する監視領域設定工程と、
前記在線状態において、前記縮退状態にある前記走査器による検出結果を参照せず、前記通常状態にある前記走査器によって出力される前記隙間監視領域内の前記物体の存否についての検出結果に基づいて、前記プラットホームからの転落者を検知する転落検知工程と、
を備える転落検知方法。
【請求項7】
プラットホームの下方に平面視で軌道と重なる走査範囲を形成し、前記走査範囲内に設定された監視領域に物体が存在するか否かを検出する複数の走査器の各々の状態を、通常状態および縮退状態のいずれかに設定する走査器状態設定工程と、
前記プラットホームと隣接した軌道の状態を示す情報を取得する軌道情報取得工程と、
前記軌道の状態が当該軌道上に列車が停止している在線状態である場合に、前記通常状態にある前記走査器において、前記監視領域として、前記プラットホームと当該列車の側面との間に隙間監視領域を設定する監視領域設定工程と、
前記在線状態において、前記縮退状態にある前記走査器による検出結果を参照せず、前記通常状態にある前記走査器によって出力される前記隙間監視領域内の前記物体の存否についての検出結果に基づいて、前記プラットホームからの転落者を検知する転落検知工程と、
を備える転落検知方法をコンピュータに実行させる、
転落検知プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道駅のプラットホームからの転落者を検知する転落検知装置、転落検知システム、転落検知方法および転落検知プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道利用者が、誤ってプラットホームから軌道上へ転落することがある。また、列車が駅で停止しているときには、鉄道利用者が、プラットホームと列車との間の隙間へ転落することがある。
従来、これら軌道転落および隙間転落を検知して、関係者(指令員、駅係員、車掌あるいは運転士など)に発報するシステムが提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1および2は、レーザを偏向しながら射出して2次元的な走査範囲を形成するレーザスキャナを備えたシステムを開示している。レーザスキャナは、レーザを水平に射出する姿勢で、プラットホームよりも下方かつ軌道よりも上方の高さに設置される。それにより、水平な走査範囲が当該高さに形成される。走査範囲内の任意領域が、監視領域として設定される。レーザスキャナは、物体が監視領域内に存在するか否かを検出する。
【0004】
列車が駅にいない不在状態では、監視領域が、軌道の上方を覆うように設定される。これにより、不在状態において、軌道転落を検知することができる。列車が駅で停止している在線状態では、監視領域が、不在状態での監視領域に対して軌間方向に狭められ、プラットホームと車両側面との間に設定される。これにより、在線状態において、隙間転落を検知することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-168272号公報
【文献】特開2014-95649号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
在線状態で設定される監視領域は、車両側面よりも軌間方向においてプラットホーム寄りに設定される。これにより、車両が監視領域内に不所望に入って車両を転落者として誤検知することを防ぐことができる。
同じ駅でも、互いに異なる外形を有した様々な車両が入線する。そのため、システムを新規に導入する際には、システムを実稼働させる前に、現場に設置されたレーザスキャナを列車運行中に試験的に動作させる。この試験動作で取得されたデータに基づいて、走査範囲内で車両が存在し得る領域を確定し、監視領域がこの領域を含まないよう設定される。曜日や時間帯や天候に関わらず、いずれの車両がいつ入線しても誤検知しないよう、データは数日間にわたって取得される。
【0007】
システム稼働中に、複数のレーザスキャナのうち1つが故障などを原因として交換されると、地面に対する走査範囲の位置または姿勢が、レーザスキャナの個体差に起因して、交換前後で変わり得る。監視領域の設定が交換後のレーザスキャナに流用されると、監視領域が走査範囲と共に交換前から変位し、車両を転落者として誤検知する可能性がある。そのため、レーザスキャナの交換後には、監視領域の妥当性の再確認(流用可否の確認)を要する。誤検知の可能性があり流用が困難な場合には、妥当な監視領域を再設定するため、データの取り直しを要する。
【0008】
従来、この再確認または再設定中における転落検知システムの運用について、提案がなされていない。従来から示唆されている誤検知の防止の観点から、システム全体を一旦停止させることも考えられる。しかし、この場合、交換後数日間にわたって転落者を検知することができない。
そこで本発明は、誤検知の防止とシステムの継続稼働とを両立させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一形態に係る転落検知装置は、走査器状態設定部、軌道情報取得部、監視領域設定部および転落検知部を備えている。走査器状態設定部は、プラットホームの下方に走査範囲を形成し、走査範囲内に設定された監視領域に物体が存在するか否かを検出する複数の走査器の各々の状態を、通常状態および縮退状態のいずれかに設定する。軌道情報取得部は、プラットホームと隣接した軌道の状態を示す情報を取得する。軌道の状態が当該軌道上に列車が停止している在線状態である場合に、監視領域設定部は、通常状態にある走査器において、監視領域として、プラットホームと当該列車の側面との間に隙間監視領域を設定する。在線状態において、転落検知部は、縮退状態にある走査器による検出結果を参照せず、通常状態にある走査器によって出力される隙間監視領域内の物体の存否についての検出結果に基づいて、プラットホームからの転落者を検知する。
【0010】
上記構成によれば、複数の走査器の各々の状態が、走査器状態設定部により、「通常状態」および「縮退状態」のいずれかに設定される。「通常状態」は、当該走査器に設定される監視領域の妥当性が確認済の状態である。「縮退状態」は、当該走査器に設定されるべき監視領域の妥当性が未確認の状態(妥当性の確認中の状態、および、妥当な監視領域の確定のための作業中の状態を含む)である。
【0011】
監視領域内に転落者以外の物が入る可能性が低く、転落者以外の物を転落者として誤検知する可能性が低い場合、監視領域は妥当性を有する。縮退状態にある走査器は、この妥当性が未確認であるから、本来想定されているとおりに動作したときに車両のような転落者以外の物を転落者として誤検知する可能性がある。例えば、故障等によって走査器が交換された場合、交換後の走査器の状態は、縮退状態に設定される。
【0012】
軌道情報取得部は、軌道の状態を示す情報を取得する。この「取得」は、転落検知装置の外部の装置から軌道の状態を示す情報を取得することも、外部の装置から出力された情報に基づき自ら軌道の状態を判定することも含む。「軌道の状態」には、軌道上に列車が停止している「在線状態」が含まれる。その他、軌道上に列車が存在しない「不在状態」、不在状態から在線状態への過渡状態としての「入線状態」、および、在線状態から不在状態への過渡状態としての「出線状態」も含まれ得る。
【0013】
在線状態では、通常状態にある走査器の監視領域として、隙間監視領域が、プラットホームと列車の側面との間に設定される。通常状態にある走査器は、隙間監視領域内の物体の存否についての検出結果を出力する。プラットホームからの転落者は、転落検知部により、この通常状態にある走査器からの検出結果に基づいて検知される。隙間監視領域が妥当性を有するため、検知結果も妥当である。他方、この検知処理において、縮退状態にある走査器による検出結果は、参照されない。
【0014】
これにより、例えば、交換に伴って監視領域の妥当性の再確認中あるいは監視領域の再設定中の走査器の検出結果は、在線状態での転落者の検知処理に用いられずに済む。縮退状態にある走査器は、無いものとして取り扱われる。通常状態にある走査器を本来想定されているとおりに動作させることでシステムの継続稼働を実現しつつ、縮退状態にある走査器を縮退させることで誤検知を防止することができる。
【0015】
軌道の状態が軌道上に列車が存在しない不在状態である場合に、監視領域設定部は、通常状態にある走査器および縮退状態にある走査器の両方において、監視領域として、軌道を覆う軌道監視領域を設定してもよい。不在状態において、転落検知部は、走査器の状態に関わらず、複数の走査器によって出力される軌道監視領域内の物体の存否についての検出結果に基づき、プラットホームからの転落者を検知してもよい。
【0016】
上記構成によれば、不在状態では、通常状態にある走査器と縮退状態にある走査器との両方において、軌道監視領域が、監視領域として、軌道を覆うように設定される。そして、プラットホームからの転落者は、走査器の状態に関わらず、複数の走査器からの検出結果に基づいて検知される。走査器の交換に伴う誤検知は、主として在線状態において生じ得る。不在状態では、軌道が広く開放されており、少なくとも車両を転落者として誤検知する可能性はない。誤検知の可能性がない不在状態では、全ての走査器が本来想定されているとおりに動作し、縮退状態にある走査器も転落者の検知処理に活用される。縮退状態にある走査器がその機能を発揮しない機会を、極力減らすことができる。
【0017】
軌道の状態が軌道上に列車が存在しない不在状態である場合に、監視領域設定部は、通常状態にある前記走査器において、監視領域として、軌道を覆う軌道監視領域を設定してもよい。不在状態において、転落検知部は、縮退状態にある前記走査器による検出結果を参照せず、通常状態にある走査器によって出力される軌道監視領域内の前記物体の存否についての検出結果に基づいて、プラットホームからの転落者を検知してもよい。
【0018】
上記構成によれば、不在状態においても、縮退状態にある走査器による検出結果は参照されない。縮退状態にある走査器を縮退させることで、不在状態において、誤検知のおそれを一層低減することができる。
本発明の一形態に係る転落検知システムは、上記転落検知装置、複数の走査器および在線検知装置を備えている。複数の走査器は、プラットホームの下方に走査範囲を形成し、走査範囲内に設定された監視領域に物体が存在するか否かを検出する。在線検知装置は、列車がプラットホームと隣接した軌道上で停止しているか否かを検知する。転落検知装置の軌道情報取得部は、在線検知装置から出力される検知結果に基づいて軌道を示す情報を取得する。
【0019】
上記システムは、上記転落検知装置の技術的特徴と同一のまたは対応する技術的特徴を具備している。上記転落検知装置と同様にして、例えば、交換に伴って監視領域の妥当性の再確認中あるいは監視領域の再設定中の走査器の検出結果は、在線状態での転落者の検知処理に用いられない。通常状態にある走査器を本来想定されているとおりに動作させることでシステムの継続稼働を実現しつつ、縮退状態にある走査器を縮退させることで誤検知を防止することができる。
【0020】
転落検知システムが、軌道の状態が少なくとも在線状態であるときに、縮退状態にある走査器によって出力される走査範囲内の物体の存否についての検出結果を記録する記録部を更に備えていてもよい。
上記構成によれば、縮退状態にある走査器が、在線状態での転落者の検知処理に利用されないものの、記録部が、この走査器による走査範囲内の物体の存否についての検出結果を記録する。縮退状態にある走査器は、少なくとも在線状態における検出結果を出力する。よって、走査範囲内に入る物体には、在線状態での列車が含まれる。つまり、記録部は、妥当な隙間監視領域の確定に必要なデータを記録する。縮退運転によってシステムの稼働を継続しつつ、縮退状態にある走査器に対して妥当な隙間監視領域を極力早く再設定すること、ひいては、縮退状態から通常状態へ極力早く戻すことを支援することができる。
【0021】
本発明の一形態に係る転落検知方法は、走査器状態設定工程、軌道情報取得工程、監視領域設定工程および転落検知工程を備えている。走査器状態設定工程では、プラットホームの下方に平面視で軌道と重なる走査範囲を形成し、走査範囲内に設定された監視領域に物体が存在するか否かを検出する複数の走査器の各々の状態を、通常状態および縮退状態のいずれかに設定する。軌道情報取得工程では、プラットホームと隣接した軌道の状態を示す情報を取得する。監視領域設定工程では、軌道の状態が当該軌道上に列車が停止している在線状態である場合に、通常状態にある走査器において、監視領域として、プラットホームと当該列車の側面との間に隙間監視領域を設定する。転落検知工程では、在線状態において、縮退状態にある走査器による検出結果を参照せず、通常状態にある走査器によって出力される隙間監視領域内の物体の存否についての検出結果に基づいて、プラットホームからの転落者を検知する。本発明の一形態に係る転落検知プログラムは、上記転落検知方法をコンピュータに実行させる。
【0022】
上記方法およびプログラムは、上記転落検知装置の技術的特徴と同一のまたは対応する技術的特徴を具備している。上記転落検知装置と同様にして、例えば、交換に伴って監視領域の妥当性の再確認中あるいは監視領域の再設定中の走査器の検出結果は、在線状態での転落者の検知処理に用いられない。通常状態にある走査器を本来想定されているとおりに動作させることでシステムの継続稼働を実現しつつ、縮退状態にある走査器を縮退させることで誤検知を防止することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、誤検知の防止とシステムの継続稼働とを両立させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る転落検知装置およびこれを備える転落検知システムを示すブロック図である。
【
図2】(A)が、第1実施形態における不在状態でのプラットホームおよび軌道の平面図である。(B)が、第1実施形態における在線状態でのプラットホームおよび軌道の平面図である。
【
図3】
図2(A)のIII―III矢視図、すなわち、長手方向に見たプラットホームおよび軌道の断面図である。
【
図4】本発明の第1実施形態に係る転落検知方法を示すフローチャートである。
【
図5】縮退状態にある走査器による走査範囲内の物体存否についての検知結果を示す図である。
【
図6】本発明の第2実施形態に係る転落検知方法を示すフローチャートである。
【
図7】(A)が、第2実施形態における不在状態でのプラットホームおよび軌道の平面図である。(B)が、第2実施形態における在線状態でのプラットホームおよび軌道の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照しながら実施形態について説明する。全図を通じて同一のまたは対応する要素には同一の符号を付し、詳細説明の重複を省略する。以下の説明において、「長手方向」は、鉄道駅のプラットホームPの長手方向である。長手方向は、プラットホームPに隣接した軌道Rの延在方向、軌道R上の車両Cの車長方向、および、軌道R上の列車Tの進行方向と略平行である。「幅方向」は、プラットホームPの幅方向である。幅方向は、プラットホームPに隣接した軌道Rの軌間方向、および、軌道R上の車両Cの車幅方向と略平行である。特に断らなければ、幅方向の「内側」または「内方」は、基準となる位置から見てプラットホームPの幅中心に近づく側または方向であり、幅方向の「外側」または「外方」は、基準となる位置から見てプラットホームPの幅中心から遠ざかる側または方向である。
【0026】
―第1実施形態―
(転落検知システム)
図1は、第1実施形態に係る転落検知装置4およびこれを備える転落検知システム1を示す。
図2は、鉄道駅の平面図である。
図3は、
図2(A)のIII-III矢視図である。まず、
図2および
図3を参照して、軌道Rは、道床と、その上に設けられた一対のレールとを含む。列車Tは、レールに沿って軌道R上を走行する。列車Tは、1両の車両Cで構成され、または、連結器を介して2両以上の車両Cを順次に連結することによって構成される。プラットホームPは、軌道Rと幅方向に隣接して設置され、その上面は軌道Rよりも上方に位置する。鉄道利用者は、プラットホームPの上面で列車Tに対して乗降する。
【0027】
図1を参照して、本実施形態に係る転落検知システム1は、在線検知装置2、複数の走査器3(3a,3b,3c)、転落検知装置4としての制御装置、警報装置5および記録装置6を備えている。転落検知システム1は、プラットホームPを備えた鉄道駅に適用され、プラットホームPから誤って転落した鉄道利用者を検知する。
在線検知装置2は、列車TがプラットホームPと隣接した軌道R上で停止しているか否かを検知する。在線検知装置2は、どのように構成されていてもよい。在線検知装置2は、一例として、プラットホームPと隣接する軌道Rを検知範囲とする軌道回路であってもよい。在線検知装置2は、プラットホームPの長手方向両端部の屋根に設置され、車両Cの上面または側面の存否を検知する車両検知センサによって構成されてもよい。複数の走査器3が、在線検知装置2の一部を構成していてもよい。軌道R上に列車Tが存在すると、その車両Cは各走査器3の走査範囲SR内に入る。このため、各走査器3の検知結果は、軌道R上で列車Tが停止しているか否かの判断に好適に利用可能である。
【0028】
図1および
図2を参照して、複数の走査器3(3a,3b,3c)は、プラットホームPと隣接した軌道Rと対応して設けられている。複数の走査器3は、対応する軌道Rの長手方向に互いに離れて配置されている。
走査器3は、例えば、2Dレーザスキャナである。各走査器3は、発光部31、偏向部32、受光部33および検知部34を有している。発光部31は、レーザ光のような走査光SLを発光する。偏向部32は、ガルバノミラーのような偏向器、および、偏向器を回転駆動するアクチュエータを有する。発光部31で発光された走査光SLは、偏向部32によって偏向されながら射出される。これにより、2次元的な走査範囲SRが形成される。走査範囲SR内に物体が存在すると、走査光SLがその物体で反射する。受光部33は、走査光SLの反射光を受光する。検知部34は、受光部33で受光された反射光に基づいて、走査範囲SR(更に言えば、走査範囲SR内に設定された監視領域AD,AR)内に物体が存在するか否かを検知する。
【0029】
図3に示すように、走査器3は、プラットホームPよりも下方かつ軌道Rよりも上方に設置されている。また、走査器3は、軌道Rよりも幅方向内方、更には、プラットホームPの端縁よりも幅方向内方に設置されている。プラットホームPの下方には、プラットホームPの端縁から見て幅方向内方に奥まった空間が形成されることがある。走査器3は、例えばこのような空間内に設置され、上下方向および幅方向における位置が調整されている。走査器3は、走査光SLが幅方向外方へ水平に射出されて水平面内で偏向される姿勢で、設置されている。これにより、走査器3は、走査器3から見て幅方向外方かつプラットホームPよりも下方に、水平な走査範囲SRを形成する。
【0030】
図2に示すように、各走査器3において、走査光SLの偏向範囲は概略180度である。走査範囲SRは、平面視において、走査器3から幅方向に延びる基準線RLに対して線対称の半円形状に形成される。複数の走査範囲SRが、長手方向に並べられ、かつ、互いに部分的にオーバラップされるように、複数の走査器3によって形成されている。
走査範囲SR内には、監視領域が設定される。走査器3は、走査範囲SR内の物体の存否を検知することができる。そして、走査器3は、設定された監視領域内で物体を検知したときに、その旨を示す検出信号を出力することができる。
【0031】
本実施形態では、走査器3の設置位置が、長手方向において車両2両分の間隔をおいて設定されている。各設置位置は、停車中の列車Tの車両連結部と幅方向に対向する位置である。長手方向一方側(
図2の紙面左側)の末端に設置された走査器3aは、1両目の車両Cと2両目の車両Cとの連結部と対向する。その隣に設置された走査器3bは、末端の走査器3aから車両2両分だけ離されており、3両目の車両Cと4両目の車両Cとの連結部と対向する。各走査器3に設定される監視領域は、長手方向に車両2両分の長さを有している。監視領域は、設置位置から見て長手方向一方側の車両Cと他方側(
図2の紙面右側)の車両Cとの2両が停止する領域と対応する。複数の走査器3にそれぞれ設定される複数の監視領域は、長手方向に連なる。それにより、列車Tが停止する全領域が監視の対象となる。
【0032】
ただし、走査器3の個数は特に限定されない。走査器3の個数は、監視領域の長手方向における寸法、軌道R上に停車すると想定される列車Tの最大長などに応じて、適宜変更可能である。
図1を参照して、転落検知装置4は、在線検知装置2および複数の走査器3によって出力される検知結果に基づいて、プラットホームPからの転落者を検知する。転落検知装置4は、転落者を検知すると、関係者に知らせるため警報装置5に発報させる。
【0033】
警報装置5は、列車運行を管理する指令所に設けられて指令員に向けて警報を発する警報器を含む。鉄道駅に設けられて駅係員に向けて警報を発する警報器を含む。列車Tの制御車に設けられて運転士あるいは車掌に向けて警報を発する警報器を含む。警報器は、スピーカまたはブザーでもよく、ディスプレイまたはランプでもよい。関係者は、警報に基づいて事故を未然に防止するための措置をとることができる。
【0034】
記録装置6は、フラッシュメモリあるいはハードディスクなどの記憶要素を有し、データを電気的に記録するデータロガーである。記録装置6は、転落検知装置4と通信可能に接続されており、複数の走査器3によって転落検知装置4に出力された検知結果を記録する。記録装置6は、走査範囲SR内での物体の存否についての検知結果を記録することもでき、また、監視領域内での物体の存否についての検知結果を記録することもできる。
【0035】
(転落検知装置・方法)
転落検知装置4は、一例として、CPUと、ROM、RAMおよびEEPROM等のメモリと、入出力インタフェースとを備えるコンピュータによって構成される制御装置である。コンピュータは、単体でもよいし、物理的に分散された複数のコンピュータの複合でもよい。メモリは、このようなコンピュータに転落検知方法(
図4を参照)を実行させるための転落検知プログラムを記憶している。CPUは、転落検知プログラムに従って転落検知方法に係る情報処理を行う。メモリは、転落検知プログラムのほか、転落検知方法の実行に際して必要な情報またはデータを一時的に記憶することもできる。
【0036】
転落検知装置4は、転落検知プログラムを実行することで、記憶部10、走査器状態設定部11、軌道情報取得部12、監視領域設定部13、走査データ取得部14、転落検知部15および出力部16を有している。記憶部10は、前述したメモリによって実現される。
記憶部10は、走査器3に設定される監視領域として、軌道監視領域ARおよび隙間監視領域ADを記憶している。監視領域は、軌道Rの状態(軌道R上の列車Tの有無)に応じて、走査範囲SR内で可変的に設定される。特に、監視領域の幅方向における寸法が軌道Rの状態に応じて変更される。軌道監視領域ARも隙間監視領域ADも長手方向における寸法は互いに略等しい。
【0037】
ここで、軌道Rの状態には、
図2(A)に示す「不在状態」と、
図2(B)に示す「在線状態」とが含まれる。不在状態では、軌道R上に列車が存在しておらず、軌道Rの上方が広く開放される。在線状態では、軌道R上に列車Tが停止しており、プラットホームPと列車Tとの間に隙間Dが形成される。
図2(A)および
図3を参照して、軌道監視領域ARは、不在状態である場合に設定される監視領域である。軌道監視領域ARは、平面視で軌道Rを覆うように設定される。
【0038】
図2(B)および
図3を参照して、隙間監視領域ADは、在線状態である場合に設定される監視領域である。隙間監視領域ADは、隙間Dに設定される。隙間監視領域ADの幅方向外側の限界は、列車Tの側面よりも幅方向内方に設定されている。その分、隙間監視領域ADは、軌道監視領域ARよりも幅方向に狭い。
仮に隙間監視領域ADが、列車Tの側面よりも幅方向外方にまで及んでいると、在線状態において列車Tが隙間監視領域AD内に入る。走査器3は、隙間監視領域AD内に物体が存在する旨の検知結果を転落検知装置4に出力することができるが、転落検知装置4が、この出力に基づいて列車Tを転落者として誤検知する可能性がある。
【0039】
隙間監視領域ADは、軌道監視領域ARに対して入念に設定されている。具体的には、転落検知システム1が新規にプラットホームPに導入されるに際し、複数の走査器3が規定の設置位置に設置された後、転落検知システム1を実稼働させる前に、走査器3を試験動作させる。この試験動作を通じて、走査範囲SR内に存在した物体の検知結果が記録される。このデータ記録は数日間にわたって行われる。
【0040】
転落検知システム1の設計者あるいは施工者は、記録された膨大なデータに基づいて、走査範囲SR内で列車Tが存在し得る領域を確定し、当該領域を含まないように隙間監視領域ADを設定する。走査器3には個体差があるため、地面に対する走査範囲SRの位置および姿勢は走査器3によって異なる。そのため、複数の隙間監視領域ADa,ADb,…が、各走査器3a,3b,…それぞれに個別に設定される。
【0041】
本来的に、記憶部10は、このように入念に設定された走査器3a,3b,…ごとの隙間監視領域ADa,ADb,…を予め記憶している。他方、走査器3bに対応する隙間監視領域ADbは、
図1において想像線で示され、
図2(B)においては存在しない。
この点、本書では、走査器3bが、転落検知システム1の実稼働中における故障等のトラブルへの対処として、交換された直後の新品であるとする。前述した個体差の影響で、交換前の走査器3bに設定されていた隙間監視領域ADbを交換後の走査器3bにも流用すると、誤検知を生じる可能性がある。つまり、隙間監視領域ADbは、交換前には妥当であったとしても、交換直後には妥当であるとは限らない。交換直後の走査器3bにおいて、その隙間監視領域ADbの妥当性は未確認である。よって、隙間監視領域ADbは、記憶部10に現に記憶されていない、あるいは、転落検知装置4において無いものとして見なされる。
【0042】
他方、軌道監視領域ARは、隙間監視領域ADと比べれば、幅方向においてシビアな寸法設定を要求されない。転落検知システム1の設計者あるいは施工者は、走査器3の短期の試験動作の後あるいは試験動作なしに、複数の軌道監視領域ARa,ARb,…を走査器3a,3b,…ごとに設定する。記憶部10は、走査器3a,3b,…ごとの軌道監視領域ARa,ARb,…を予め記憶している。交換直後の走査器3bに関しても、その軌道監視領域ARbは、記憶部10に現に記憶されている。
【0043】
以下、転落検知装置4の構成について、
図4に示すフローチャートも参照しながら転落検知方法の手順に沿って説明する。
図4に示す転落検知方法のフローは、所定の制御周期で繰り返し実行される。
まず、走査器状態設定部11が、複数の走査器3の状態を「通常状態」および「縮退状態」のいずれかに設定する(走査器状態設定工程S1)。
【0044】
「通常状態」とは、走査器3に設定される監視領域の妥当性が確認済であり、走査器3を想定されているとおりに動作させても走査器3が監視領域内で転落者以外の物体を検知する蓋然性が低い状態をいう。転落検知システム1の新規導入に際して入念に設定された隙間監視領域は、妥当性を有する。よって、転落検知システム1の新規稼働直後において、複数の走査器3はいずれも通常状態にある。
【0045】
「縮退状態」は、走査器3に設定される監視領域の妥当性が未確認であり、走査器3を想定されているとおりに動作させると走査器3が監視領域内で転落者以外の物体を転落者として誤検知する可能性がある状態をいう。上記のように、交換直後の走査器3bは、縮退状態にある。以下、通常状態にある走査器3(3a,3c)に符号「3N」を付し、縮退状態にある走査器3(3b)に符号「3F」を付す。
【0046】
走査器状態設定部11は、ソフトウェアで実現されてもハードウェアで実現されてもよい。走査器状態設定部11は、各走査器3から監視領域内の物体の存否を示す検知信号を入力するか否かを物理的に選択できるように構成されていてもよい。設計者あるいは施工者によって縮退状態にあると決められた走査器3F(3b)が、少なくとも在線状態において監視領域内の物体の存否を示す検知信号を転落検知装置4に物理的に出力できないように構成されてもよい。走査器状態設定部11は、転落検知装置4と通信可能に接続されたPC(Personal Computer)にて転落検知システム1の設計者あるいは施工者による入力操作に基づき、複数の走査器3の状態を設定してもよい。本書では、説明の簡単化のため、ソフトウェアで実現されるものとする。この場合、記憶部10が、各走査器3の状態を表す走査器状態情報を記憶していてもよい。
【0047】
次に、軌道情報取得部12が、プラットホームPと隣接した軌道Rの状態を示す情報を取得する(軌道情報取得工程S2)。軌道情報取得部12は、在線検知装置2から検知結果を取得し、それにより軌道Rの状態を示す情報を取得する。軌道情報取得部12は、軌道Rの状態として、少なくとも在線状態または不在状態を示す情報を取得する。
次に、監視領域設定部13が、走査器状態設定部11で設定された走査器3の状態に応じて、かつ、軌道情報取得部12で取得された軌道Rの状態に応じて、走査器3に監視領域を設定する(監視領域設定工程S11,S21)。
【0048】
在線状態であれば、監視領域設定部13が、通常状態の走査器3N(3a,3c)に対し、個々に対応する隙間監視領域ADa,ADcを設定する(S2→S11)。走査データ取得部14が、通常状態の走査器3Nから隙間監視領域ADa,ADc内の物体存否についての検知結果を取得する(S12)。転落検知部15が、走査データ取得部14で取得された通常状態の走査器3Nからの検知結果に基づいて、所定の判定条件に従って転落者の有無を判定する(転落検知工程S13)。
【0049】
所定の判定条件は、隙間監視領域ADa,ADc内で検知された物体を、転落者と転落者以外のものと峻別するための条件である。判定条件には、例えば、その物体のサイズが所定値以上との条件、および、その物体が隙間監視領域ADa,ADc内で所定時間以上留まっているとの条件が含まれる。物体が存在するからといって単純にその物体が転落者であると判定しないようにすることで、転落者とそれ以外のものとを峻別することができる。
【0050】
在線状態では、縮退状態にある走査器3F(3b)に対し、隙間監視領域が設定されない。転落検知部15は、縮退状態にある走査器3F(3b)からの検知結果を参照することなく、転落者の有無を判定する。別の言い方では、縮退状態にある走査器3Fが本来担当する領域(本例では、3両目および4両目の車両CとプラットホームPとの間の隙間D)では、妥当性が未確認である隙間監視領域を用いることで誤検知が生じる可能性を排除するため、転落者を検知しない。縮退状態にある走査器3Fは、本来想定されている動作を行わない。すなわち、転落検知システム1は縮退運転を行う。
【0051】
また、走査データ取得部14は、縮退状態にある走査器3Fから、その走査範囲SR内の物体存否についての検知結果を取得する(S18)。そして、出力部16が、走査データ取得部14で取得された検知結果を記録装置6に出力し、記録装置6が、縮退状態にある走査器3Fから出力された走査範囲SR内における検知結果を取得する(S19)。
転落検知部15によって転落者が存在すると判定されると(S3:Y)、出力部16が、警報装置5に指令を出力し、警報装置5に発報動作を行わせる(S4)。これにより、関係者に隙間転落が発生したことを知らせることができる。転落検知部15によって転落者が存在しないと判定されると(S3:N)、処理は終了する。
【0052】
他方、不在状態であれば、監視領域設定部13が、走査器状態設定部11で設定されている走査器3の状態に関わらず、全ての走査器3a,3b,…に対し、個々に対応する軌道監視領域ARa,ARb,…を設定する(S2→S21)。走査データ取得部14が、各走査器3a,3b,…から軌道監視領域ARa,ARb,…内の物体存否についての検知結果を取得する(S22)。転落検知部15が、走査器3の状態に関わらず、複数の走査器3a,3b,…からの検知結果に基づいて、所定の判定条件に従って転落者の有無を判定する(転落検知工程S23)。この判定条件は、隙間転落を検知する工程(S13)と同じでもよいし、異なっていてもよい。
転落検知部15によって転落者が存在すると判定されると(S3:Y)、出力部16が、警報装置5に指令を出力し、警報装置5に発報動作を行わせる(S4)。これにより、関係者に軌道転落が発生したことを知らせることができる。転落検知部15によって転落者が存在しないと判定されると(S3:N)、処理は終了する。
【0053】
(作用・効果)
本実施形態に係る転落検知装置4によれば、走査器状態設定部11が、プラットホームPの下方に走査範囲SRを形成し、走査範囲SR内に設定された監視領域に物体が存在するか否かを検出する複数の走査器3の各々の状態を、通常状態および縮退状態のいずれかに設定する。軌道情報取得部12は、プラットホームPと隣接した軌道Rの状態を示す情報を取得する。在線状態であれば、監視領域設定部13は、通常状態にある走査器3Nにおいて、監視領域として、プラットホームPと当該列車Tの側面との間に隙間監視領域ADa,ADcを設定する。在線状態において、転落検知部15は、縮退状態にある走査器3Fによる検出結果を参照せず、通常状態にある走査器3Nによって出力される隙間監視領域ADa,ADc内の物体の存否についての検出結果に基づいて、プラットホームPからの転落者を検知する。
【0054】
通常状態にある走査器3Nは、隙間監視領域ADa,ADc内の物体の存否についての検出結果を出力する。隙間監視領域ADa,ADcが妥当性を有するため、これに基づく転落者の有無の判定結果も妥当である。他方、縮退状態にある走査器3Fでは、監視領域の妥当性が未確認であるから、本来想定されているとおりに動作したときに車両のような転落者以外の物を転落者として誤検知する可能性がある。そこで、転落者の有無の判定に際し、縮退状態にある走査器3Fによる検出結果は、参照されない。
【0055】
これにより、例えば、交換に伴って監視領域の妥当性の再確認中あるいは監視領域の再設定中の走査器の検出結果は、在線状態での転落者の検知処理に用いられずに済む。縮退状態にある走査器3Fは、無いものとして取り扱われる。通常状態にある走査器3Nを本来想定されているとおりに動作させることでシステムの継続稼働を実現しつつ、縮退状態にある走査器3Fを縮退させることで誤検知を防止することができる。
【0056】
他方、不在状態では、監視領域設定部13が、通常状態にある走査器3Nおよび縮退状態にある走査器3Fの両方において、監視領域として、軌道を覆う軌道監視領域ARa,ARb,…を設定する。不在状態において、転落検知部15は、走査器3の状態に関わらず、複数の走査器3a,3b,…によって出力される軌道監視領域ARa,ARb,…内の物体の存否についての検出結果に基づき、プラットホームPからの転落者を検知する。
【0057】
走査器3の交換に伴う誤検知は、主として在線状態において生じ得る。不在状態では、軌道Rが広く開放されており、少なくとも車両を転落者として誤検知する可能性はない。誤検知の可能性がない不在状態では、全ての走査器3が本来想定されているとおりに動作し、縮退状態にある走査器3Fも転落者の有無の判定に活用される。縮退状態にある走査器3Fがその機能を発揮しない機会を、極力減らすことができる。
【0058】
転落検知システム1は、軌道Rの状態が少なくとも在線状態であるときに、縮退状態にある走査器3Fによって出力される走査範囲SR内の物体の存否についての検出結果を記録する記録装置6を備える。
図5は、縮退状態にある走査器3Fによる検知結果を平面視で示す図である。物体の存在が検知された場合、その検知結果は、走査光SLの偏向角を示すデータと、走査器3から物体までの距離を示すデータとを含む。このような検知結果は、
図5に示すように、平面図で可視化される。
【0059】
縮退状態にある走査器3Fは、在線状態での転落者の有無の判定処理に利用されないものの、記録装置6が、この走査器3Fによる走査範囲SR内の物体の存否についての検出結果を記録する。縮退状態にある走査器3Fは、少なくとも在線状態における検出結果を出力する。よって、走査範囲SR内に入る物体には、在線状態での列車Tが含まれる。
図5は、数日間にわたって取得された検知結果を投影して示しており、黒帯で示される領域は、様々な種類の列車Tの側面を表している。
【0060】
つまり、記録装置6は、妥当な隙間監視領域ADbの確定に必要なデータを記録する。縮退運転によって転落検知システム1の稼働を継続しつつ、縮退状態にある走査器3Fに対して妥当な隙間監視領域ADbを極力早く再設定すること、ひいては、縮退状態から通常状態へ極力早く戻すことを支援することができる。
【0061】
―第2実施形態―
次に、第2実施形態について説明する。第2実施形態は、縮退状態にある走査器3Fが不在状態でも縮退する点で、第1実施形態と相違する。以下、この相違について説明する。
図6は、第2実施形態に係る転落検知方法を示すフローチャートである。
図6に示すように、まず、第1実施形態と同様にして、走査器状態設定工程S1および軌道情報取得工程S2が実行される。更に、在線状態での監視領域設定工程S11および転落検知工程S13も、第1実施形態と同様である。このため、第2実施形態においても、第1実施形態と同様にして、在線状態で誤検知の防止とシステムの継続稼働とを両立させることができる。
【0062】
不在状態では、監視領域設定部13が、通常状態の走査器3N(3a,3c)に対し、個々に対応する軌道監視領域ARa,ARcを設定する(S2→S21A)。走査データ取得部14は、通常状態の走査器3Nから軌道監視領域ARa,ARc内の物体存否についての検知結果を取得する(S22A)。転落検知部15は、走査データ取得部14で取得された通常状態の走査器3Nからの検知結果に基づいて、所定の判定条件に従って転落者の有無を判定する(転落検知工程S23A)。転落検知工程S13,S23A後の処理は、第1実施形態と同様である。
【0063】
図7(A)および(B)に示すように、本実施形態では、在線状態だけでなく不在状態においても、縮退状態にある走査器3F(3b)に対し、軌道監視領域が設定されない。転落検知部15は、縮退状態にある走査器3F(3b)からの検知結果を参照することなく、転落者の有無を判定する。別の言い方では、縮退状態にある走査器3Fは、本来想定されている動作を行わない。すなわち、転落検知システム1は、不在状態においても縮退運転を行う。
本実施形態では、
不在状態でも、縮退状態にある走査器3Fが縮退するので、
不在状態における誤検知のおそれを一層低減することができる。そのうえで、通常状態にある走査器3Nを活用して軌道転落の検知を継続することができる。
【0064】
―変形例―
これまで本発明の実施形態について説明したが、上記構成は本発明の範囲内で適宜変更、追加および/または削除可能である。
【0065】
記録装置6は、不在状態において縮退状態にある走査器3Fによって出力された走査範囲SR内の物体存否の検知結果を記録してもよい。第2実施形態では、縮退状態にある走査器3Fが不在状態でも縮退する。不在状態で記録されたデータに基づいて、軌道監視領域ARbが再設定されてもよい。軌道監視領域ARbが隙間監視領域ADbよりも早く再設定された場合には、不在状態および在線状態で縮退する状態(第2実施形態)から在線状態でのみ縮退する状態(第1実施形態)に切り換えられてもよい。縮退状態にある走査器が2以上ある場合、第1実施形態に従って縮退する走査器と、第2実施形態に従って縮退する走査器とは、同じシステム内で同じ時点で、並存し得る。
【0066】
軌道情報取得部12は、軌道Rの状態として不在状態および在線状態の以外の状態を示す情報を取得してもよい。このような状態として、不在状態から在線状態への過渡状態としての「入線状態」、および、在線状態から不在状態への過渡状態としての「出線状態」がある。入線状態および出線状態においては、システム全体が停止してもよい。監視領域設定部は、入線状態および出線状態で専用される監視領域を走査器3に設定してもよい。この場合、転落検知部15は、通常状態にある走査器3Nからの検知結果のみに基づいて転落者の有無を判定してもよい。
【0067】
複数の走査器3が、長手方向に間隔をおいて設定された複数の設置位置それぞれに設置される。上記実施形態では、単一の走査器3が各設置位置において設置されたが、上下一対の走査器ユニットが設けられてもよい。この場合においても、在線状態において、縮退状態にある走査器3Fの検出結果を参照しないことで、誤検知の防止とシステムの継続稼働とを両立させることができる。
【符号の説明】
【0068】
1 転落検知システム
2 在線検知装置
3 走査器
3F 縮退状態にある走査器
3N 通常状態にある走査器
4 転落検知装置
6 記録装置
11 走査器状態設定部
12 軌道情報取得部
13 監視領域設定部
15 転落検知部
AD 隙間監視領域
AR 軌道監視領域
P プラットホーム
R 軌道
SR 走査範囲
T 列車