IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ セイコーエプソン株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-印刷装置、及び、印刷制御方法 図1
  • 特許-印刷装置、及び、印刷制御方法 図2
  • 特許-印刷装置、及び、印刷制御方法 図3
  • 特許-印刷装置、及び、印刷制御方法 図4
  • 特許-印刷装置、及び、印刷制御方法 図5
  • 特許-印刷装置、及び、印刷制御方法 図6
  • 特許-印刷装置、及び、印刷制御方法 図7
  • 特許-印刷装置、及び、印刷制御方法 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】印刷装置、及び、印刷制御方法
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/165 20060101AFI20240925BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20240925BHJP
   B41J 2/17 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
B41J2/165 207
B41J2/01 451
B41J2/17 207
B41J2/01 107
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020215378
(22)【出願日】2020-12-24
(65)【公開番号】P2022101035
(43)【公開日】2022-07-06
【審査請求日】2023-11-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001081
【氏名又は名称】弁理士法人クシブチ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ホアン ドゥック
【審査官】高松 大治
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-131873(JP,A)
【文献】特開2013-121691(JP,A)
【文献】特開2009-262404(JP,A)
【文献】特開2000-158673(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0066660(US,A1)
【文献】特開2001-205823(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷媒体にノズルから液滴を吐出するインクジェット式記録ヘッドと、
前記記録ヘッドを支持して第1方向に往復移動をするキャリッジと、
前記ノズル近傍の環境温度を測定する温度計と、
前記キャリッジの前記往復移動及び前記ノズルからの前記液滴の吐出を制御する制御部と、
前記キャリッジの前記往復移動の復路において、フラッシングを実施するかどうか判定するフラッシング判定部と、
あらかじめ求められた、前記ノズルからの前記液滴が吐出されない時間である非吐出時間と温度との対応関係であって、前記ノズルから吐出される前記液滴の着弾誤差が所定の許容値以下になる条件を記憶する記憶部
とを備え、
前記フラッシング判定部は、
前記キャリッジの1回の前記往復移動において、前記キャリッジの1回の前記往復移動で印刷する印刷データに基づいて、前記キャリッジの前記往復移動における仮の折り返し位置と、
前記仮の折り返し位置で前記キャリッジを折り返した場合に必要な前記キャリッジの回の往復移動時間である仮往復時間と、
前記温度計で測定された前記環境温度において前記条件が満たされる最長の非吐出時間である閾値
とを算出し、
前記仮往復時間が、前記閾値を超えるかどうかを判定し、
前記仮往復時間が、前記閾値を超えている場合は、前記キャリッジの1回の往復移動時間が前記仮往復時間よりも長くなる位置を、前記キャリッジの前記往復移動における折り返し位置に設定すると共に、前記キャリッジの前記往復移動の復路においてフラッシングを実施することを決定する、印刷装置。
【請求項2】
前記印刷媒体を支持する支持部と、
前記第1方向において前記支持部の両側に配置されてフラッシング実施時にインクを受ける複数のフラッシング部
とを有し、
前記フラッシング判定部は、前記キャリッジの前記往復移動の復路においてフラッシングを実施すると判定した場合、前記印刷媒体の幅に応じて、前記キャリッジの前記往復移動の復路におけるフラッシングを、前記フラッシング部でおこなうか、または、前記支持部の前記印刷媒体と重ならない領域にするか、を判定し、
該判定に基づいて、前記折り返し位置を設定する、請求項1に記載の印刷装置。
【請求項3】
印刷モードとして、前記キャリッジの移動速度が第1速度である第1モードと、前記キャリッジの前記移動速度が前記第1速度とは異なる第2速度である第2モードとを備え、前記対応関係は、前記キャリッジの移動速度が第1速度の時の第1対応関係と、前記キャリッジの移動速度が第2速度の時の第2対応関係と、を有し、
前記フラッシング判定部は、前記印刷モードが前記第1モードの時は、前記対応関係として前記第1対応関係を用いて前記閾値を算出し、前記印刷モードが前記第2モードの時は、前記対応関係として前記第2対応関係を用いて前記閾値を算出する、請求項1または請求項2に記載の印刷装置。
【請求項4】
前記キャリッジが一定の速度で印刷を行っている場合の移動速度をCR速度、一回の往路において前記キャリッジが移動する距離をパス幅、一回の往路において前記キャリッジの移動速度が加速または減速している距離を合計したものを加減速印刷幅、一回の往路において前記キャリッジが加速または減速している時間を合計したものを加減速時間、と定義するとき、
前記仮往復時間を示すTimeelapseは下記数式(1)であり、
【数11】

あらかじめ定められた異なる2つの温度である第1参照温度を示すTempref0と、第2参照温度を示すTempref1に対応する前記閾値を、それぞれ第1閾値を示すTimeref0と、第2閾値を示すTimeref1と定義すると、前記環境温度であるTにおける前記閾値を示すTimethreshは下記数式(2)である、請求項1から請求項3のうちのいずれか一項に記載の印刷装置。
【数12】
【請求項5】
前記キャリッジの往復移動に伴う前記記録ヘッドからの前記印刷媒体への前記液滴の吐出後に実施される、前記第1方向と直交する第2方向への前記記録ヘッドと前記印刷媒体の相対移動に伴う時間である相対移動時間が、前記加減速時間よりも長い場合、前記Timeelapseは下記数式(3)である請求項4に記載の印刷装置。
【数13】
【請求項6】
パス間にwait時間を設ける場合であって、現パス往路とパス復路との間に設けられる前記wait時間を第1wait時間、前記現パス復路とパス往路との間に設けられる前記wait時間を第2wait時間とすると、
前記相対移動時間が前記第2wait時間より長い場合には、
前記Timeelapseは下記数式(4)であり、
【数14】

且つ、
前記相対移動時間が前記第2wait時間以下の場合には、
前記Timeelapseは下記数式(5)である請求項5に記載の印刷装置。
【数15】
【請求項7】
印刷媒体にノズルから液滴を吐出するインクジェット式記録ヘッドと、
前記記録ヘッドを支持して第1方向に往復移動をするキャリッジと、
前記ノズル近傍の環境温度を測定する温度計と、
前記キャリッジの前記往復移動及び前記ノズルからの前記液滴の吐出を制御する制御部と、
前記キャリッジの前記往復移動の復路において、フラッシングを実施するかどうか判定するフラッシング判定部と、
あらかじめ求められた、前記ノズルからの前記液滴が吐出されない距離である非吐出距離と温度との対応関係であって、前記ノズルから吐出される前記液滴の着弾誤差が所定の許容値以下になる条件を記憶する記憶部
とを備え、
前記フラッシング判定部は
前記キャリッジの1回の前記往復移動において、前記キャリッジの1回の前記往復移動で印刷する印刷データに基づいて、前記キャリッジの前記往復移動における仮の折り返し位置と、
前記仮の折り返し位置で前記キャリッジを折り返した場合に必要な前記キャリッジの回の往復移動距離である仮往復距離と、
前記温度計で測定された前記環境温度において前記条件が満たされる最長の非吐出距離である第3閾値
とを算出し、
前記仮往復距離が、前記第3閾値を超えるかどうかを判定し、
前記仮往復距離が、前記第3閾値を超えている場合は、前記キャリッジの1回の往復移動距離が前記仮往復距離よりも長くなる位置を、前記キャリッジの前記往復移動における折り返し位置に設定すると共に、前記キャリッジの前記往復移動の復路においてフラッシングを実施することを決定する、印刷装置。
【請求項8】
印刷媒体にノズルから液滴を吐出するインクジェット式記録ヘッドと、
前記記録ヘッドを支持して第1方向に往復移動をするキャリッジと、
前記ノズル近傍の環境温度を測定する温度計と、
前記キャリッジの前記往復移動及び前記ノズルからの前記液滴の吐出を制御する制御部
とを備える印刷装置において、
前記キャリッジの前記往復移動の復路において、フラッシングを実施するかどうか判定し、
あらかじめ求められた、前記ノズルからの前記液滴が吐出されない時間である非吐出時間と温度との対応関係であって、前記ノズルから吐出される前記液滴の着弾誤差が所定の許容値以下になる条件を記憶し、
前記判定では、
前記キャリッジの1回の前記往復移動において、前記キャリッジの1回の前記往復移動で印刷する印刷データに基づいて、前記キャリッジの前記往復移動における仮の折り返し位置と、
前記仮の折り返し位置で前記キャリッジを折り返した場合に必要な前記キャリッジの回の往復移動時間である仮往復時間と、
前記温度計で測定された前記環境温度において前記条件が満たされる最長の非吐出時間である閾値
とを算出し、
さらに前記仮往復時間が、前記閾値を超えるかどうかを判定し、
前記仮往復時間が、前記閾値を超えている場合は、前記キャリッジの1回の往復移動時間が前記仮往復時間よりも長くなる位置を、前記キャリッジの前記往復移動における折り返し位置に設定すると共に、前記キャリッジの前記往復移動の復路においてフラッシングを実施することを決定する、印刷制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷装置及び印刷制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ノズルを有する吐出ヘッドから紙や布帛などの媒体の表面23aに向かってインクなどの液体を吐出し媒体に画像などを印刷するインクジェット方式の印刷装置が使用されている。このような印刷装置では、ノズルからのインクの吐出不良を防止するために吐出ヘッドのメンテナンスを行うメンテナンス部を備えている。
【0003】
印刷物を印刷する場合、印刷媒体のどの位置でも、画質が安定していなければならない。ノズルからインクを吐出して印刷を行う印刷装置では、一定時間以上インクが吐出されないノズルは、ノズル先端から水分が蒸発してインクの粘度が高くなり、目詰まり状態になる。このため、吐出頻度が低いノズルから正常にインクを吐出できなくなり、印刷品質が低下するおそれがある。
【0004】
正常にインクが吐出できなくなるという状態には、インクは吐出できるが着弾誤差が許容値よりも悪くなる現象を含む。ノズルからインクが吐出されない放置時間が長くなるほど着弾誤差は大きくなる傾向にある。そこで、印刷装置内のメンテナンス部では印刷とは別にインク受け部に向けてインクを吐出するフラッシング操作を行うことで、ノズルの目詰まりを予防あるいは解消する。特許文献1に記載の印刷装置は、ホーム側及びフル桁側の両方にフラッシング操作の際にインクを受けるインク受け部を有している。スループット向上のために、用紙幅、印刷を開始する際のキャリッジの移動方向、パス間のwait時間などに応じて、フラッシング操作実施の有無について決定する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2000-158673号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし特に大判印刷装置においてキャリッジの移動時間が長くなる場合、インクが吐出されないノズルの放置時間が長くなり、往路パスの後半や次の復路パスに安定性が低下する課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する一態様は、印刷媒体にノズルから液滴を吐出するインクジェット式記録ヘッドと、記録ヘッドを支持して第1方向に往復運動をするキャリッジと、ノズル近傍の環境温度を測定する温度計と、キャリッジの往復運動及びノズルからの液滴の吐出を制御する制御部と、キャリッジの往復移動の復路において、フラッシングを実施するかどうか判定するフラッシング判定部と、あらかじめ求められた、ノズルから液滴が吐出されない時間である非吐出時間と温度との対応関係であって、ノズルから吐出される液滴の着弾誤差が所定の許容値以下になる条件を記憶する記憶部とを備え、フラッシング判定部はキャリッジの1回の往復移動において、該1回の往復移動で印刷する印刷データに基づいて、キャリッジの往復移動における仮の折り返し位置と、仮の折り返し位置でキャリッジを折り返した場合に必要なキャリッジの1回の往復移動時間である仮往復時間と、温度計で測定された環境温度において条件が満たされる最長の非吐出時間である閾値とを算出し、仮往復時間が、閾値を超えるかどうかを判定し、仮往復時間が、閾値を超えている場合は、1回の往復移動時間が仮往復時間よりも長くなる位置を、キャリッジの往復移動における折り返し位置に設定すると共に、キャリッジ移動の復路においてフラッシングを実施することを決定する印刷装置である。
【0008】
上記課題を解決する一態様は、印刷媒体にノズルから液滴を吐出するインクジェット式記録ヘッドと、記録ヘッドを支持して第1方向に往復運動をするキャリッジと、ノズル近傍の環境温度を測定する温度計と、キャリッジの往復運動及びノズルからの液滴の吐出を制御する制御部とを備える印刷装置において、キャリッジの往復移動の復路において、フラッシングを実施するかどうか判定し、あらかじめ求められた、ノズルから液滴が吐出されない時間である非吐出時間と温度との対応関係であって、ノズルから吐出される液滴の着弾誤差が所定の許容値以下になる条件を記憶し、判定では、キャリッジの1回の往復移動において、該1回の往復移動で印刷する印刷データに基づいて、キャリッジの往復移動における仮の折り返し位置と、仮の折り返し位置でキャリッジを折り返した場合に必要なキャリッジの1回の往復移動時間である仮往復時間と、温度計で測定された環境温度において条件が満たされる最長の非吐出時間である閾値とを算出し、さらに仮往復時間が、閾値を超えるかどうかを判定し、仮往復時間が、閾値を超えている場合は、1回の往復移動時間が仮往復時間よりも長くなる位置を、キャリッジの往復移動における折り返し位置に設定すると共に、キャリッジ移動の復路においてフラッシングを実施することを決定する印刷制御方法である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態に係る印刷装置の概略全体構成を示す模式図。
図2】印刷部及びメンテナンス部の構成を示す平面図。
図3】印刷部及びメンテナンス部の構成を示す側面図。
図4】印刷装置の電気的な構成を示す電気ブロック図。
図5】キャリッジ移動速度が速い時の各温度での空走時間と着弾誤差の関係図。
図6】キャリッジ移動速度が遅い時の各温度での空走時間と着弾誤差の関係図。
図7】実施形態に係る印刷装置の動作を説明するフローチャート。
図8】変形例の動作を説明する説明図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して説明する。
【0011】
図1図8は発明を実施する形態の一例であって、図中、同一の符号を付した部分は同一物を表わす。なお、各図において一部の構成を適宜省略して、図面を簡略化する。そして、部材の大きさ、形状、厚みなどを適宜誇張して表現する。
【0012】
また、図では説明の便宜上、互いに直交する三軸として、X軸、Y軸及びZ軸を図示しており、軸方向を図示した矢印の先端側を+側、基端側を-側としている。また、以下では、X軸に平行な方向をX軸方向、Y軸に平行な方向をY軸方向、Z軸に平行な方向をZ軸方向という。
【0013】
図1は、本発明の実施形態に係る印刷装置100の概略全体構成を示す模式図である。本実施形態では、印刷媒体95に画像などを形成することで印刷媒体95に捺染を行うインクジェット式の印刷装置100を例に挙げて説明する。
【0014】
印刷装置100は、媒体供給部10、媒体搬送部20、媒体回収部30、印刷部40、洗浄ユニット50、及び媒体密着部60などを備える。また印刷装置100の全体を制御する制御部1を有する。
【0015】
制御部1はCPU、RAMおよびROMなどから構成され、各種制御を実行する。CPUはいわゆる中央演算処理装置であり、各種プログラムが実行されて様々な機能を実現する。RAMはCPUの作業領域、記憶領域として使用され、ROMはCPUで実行されるオペレーティングシステムやプログラムを記憶する。
【0016】
印刷装置100の各部は、フレーム部92に取り付けられている。
【0017】
媒体供給部10は、画像を形成させる印刷媒体95を印刷部40側に供給する。印刷媒体95としては、例えば、綿、ウール、化学繊維、混紡などの布帛が用いられる。媒体供給部10は、供給軸部11及び軸受部12を有する。供給軸部11は、円筒状又は円柱状に形成されており、円周方向に回転可能に設けられる。供給軸部11には、帯状の印刷媒体95がロール状に巻かれている。供給軸部11は、軸受部12に対して着脱自在に取り付けられている。これにより予め供給軸部11に巻かれた状態の印刷媒体95は、供給軸部11と共に軸受部12に取り付けられる。
【0018】
軸受部12は、供給軸部11の軸方向の両端を回転可能に支持する。媒体供給部10は、供給軸部11を回転駆動させる回転駆動部を有する。回転駆動部は、印刷媒体95が送り出される方向に供給軸部11を回転させる。回転駆動部の動作は、制御部1によって制御される。
【0019】
媒体搬送部20は、印刷媒体95を媒体供給部10から媒体回収部30まで搬送する。媒体搬送部20は、搬送ローラー21、搬送ローラー22、ベルト23、ベルト回転ローラー24、ベルト駆動ローラー25、搬送ローラー26、乾燥ユニット27及び搬送ローラー28を備えている。搬送ローラー21,22は、印刷媒体95を媒体供給部10からベルト23まで中継する。
【0020】
ベルト23は、帯状のベルトの両端部が接続されて環状に形成されており、ベルト回転ローラー24及びベルト駆動ローラー25に掛けられている。ベルト23は、ベルト回転ローラー24とベルト駆動ローラー25との間の部分が床面99に対して平行になるように、所定の張力が作用した状態で保持される。ベルト23の表面23aには、印刷媒体95を粘着させる粘着層29が設けられる。ベルト23は、搬送ローラー22から供給され、後述する媒体密着部60で粘着層29に密着された印刷媒体95を支持する。これにより、伸縮性のある布帛などを印刷媒体95として扱うことができる。
【0021】
ベルト回転ローラー24及びベルト駆動ローラー25は、ベルト23の内周面23bを支持する。なお、ベルト回転ローラー24とベルト駆動ローラー25との間に、ベルト23を支持する支持部が設けられた構成であってもよい。
【0022】
ベルト駆動ローラー25は、ベルト駆動ローラー25を回転駆動させるモーターを有している。ベルト駆動ローラー25が回転駆動されるとベルト駆動ローラー25の回転に伴ってベルト23が回転し、ベルト23の回転によりベルト回転ローラー24が回転する。ベルト23の回転により、ベルト23に支持された印刷媒体95が所定の+X軸方向に搬送され、後述する印刷部40で印刷媒体95に画像が形成される。
【0023】
本実施形態では、ベルト23の表面23aが印刷部40と対向+Z軸側において印刷媒体95が支持され、印刷媒体95がベルト23と共にベルト回転ローラー24側からベルト駆動ローラー25側に搬送される。また、ベルト23の表面23aが洗浄ユニット50と対向する-Z軸側においては、ベルト23のみがベルト駆動ローラー25側からベルト回転ローラー24側に移動する。
【0024】
搬送ローラー26は、画像の形成された印刷媒体95をベルト23の粘着層29から剥離させる。搬送ローラー26,28は、印刷媒体95をベルト23から媒体回収部30まで中継する。
【0025】
媒体回収部30は、媒体搬送部20によって搬送された印刷媒体95を回収する。媒体回収部30は、巻取り軸部31及び軸受部32を有する。巻取り軸部31は、円筒状又は円柱状に形成されており、円周方向に回転可能に設けられる。巻取り軸部31には、帯状の印刷媒体95がロール状に巻き取られている。巻取り軸部31は、軸受部32に対して着脱可能に取り付けられている。これにより、巻取り軸部31に巻き取られた状態の印刷媒体95は、巻取り軸部31と共に取り外せるようになっている。
【0026】
軸受部32は、巻取り軸部31の軸線方向の両端を回転可能に支持している。媒体回収部30は、巻取り軸部31を回転駆動させる回転駆動部を有する。回転駆動部は、印刷媒体95が巻き取られる方向に巻取り軸部31を回転させる。回転駆動部の動作は、制御部1によって制御される。
【0027】
本実施形態では、搬送ローラー26と搬送ローラー28との間に乾燥ユニット27が配置されている。乾燥ユニット27は、印刷媒体95上に形成された画像を乾燥するものである。乾燥ユニット27には、例えば、IRヒーターを含み、IRヒーターを駆動させることにより印刷媒体95上に形成された画像を短時間で乾燥させることができる。これにより、画像の形成された帯状の印刷媒体95を巻取り軸部31に巻き取ることができる。
【0028】
媒体密着部60は、印刷媒体95をベルト23に密着させるものである。媒体密着部60は、印刷媒体95の搬送方向に対して印刷部40よりも上流側-X軸側に配置される。媒体密着部60は、押圧ローラー61、押圧ローラー駆動部62及びローラー支持部63を有する。押圧ローラー61は、円筒状又は円柱状に形成されており、円周方向に回転可能に設けられる。押圧ローラー61は、搬送方向に沿った方向に回転するように、軸線方向が搬送方向と交差するように配置される。ローラー支持部63は、ベルト23を挟んで押圧ローラー61と対向するベルト23の内周面23b側に設けられる。
【0029】
押圧ローラー駆動部62は、押圧ローラー61を鉛直方向の-Z軸側に押圧しながら搬送方向+X軸方向、及び搬送方向と逆向きの-X軸方向に押圧ローラー61を移動させる。搬送ローラー22から搬送され、ベルト23に重ね合された印刷媒体95は、押圧ローラー61とローラー支持部63との間でベルト23に押し当てられる。これにより、ベルト23の表面23aに設けられている粘着層29に印刷媒体95を確実に粘着させることができ、ベルト23上での印刷媒体95の浮きの発生を防止することができる。
【0030】
印刷装置100は、ベルト23を洗浄するための洗浄ユニット50を備えている。詳しくは、洗浄ユニット50は、洗浄部51、押圧部52及び移動部53で構成される。移動部53は、床面99に沿って洗浄ユニット50を一体的に移動させて所定の位置に固定することが可能である。洗浄ユニット50は、X軸方向においてベルト回転ローラー24とベルト駆動ローラー25の間に配置される。
【0031】
押圧部52は、例えば、エアーシリンダー56とボールブッシュ57とで構成された昇降装置であり、その上部に備えられている洗浄部51を洗浄位置と退避位置とに移動可能にさせる。洗浄位置とは、洗浄ローラー58及びブレード55がベルト23と当接する位置である。退避位置とは、洗浄ローラー58及びブレード55がベルト23と離間する位置である。洗浄部51は、洗浄位置において、ベルト回転ローラー24とベルト駆動ローラー25との間で所定の張力が作用した状態で掛けられているベルト23の表面23aを-Z軸方向から洗浄する。なお、図1は、洗浄部51を上昇させて洗浄位置に配置させた場合を示す。
【0032】
洗浄部51は、洗浄槽54、洗浄ローラー58及びブレード55を有する。洗浄槽54は、ベルト23の表面23a23aに付着したインクや異物の洗浄に用いる洗浄液を貯留する槽であり、洗浄ローラー58及びブレード55は洗浄槽54の内側に設けられている。洗浄液としては、例えば、水やアルコール等の水溶性溶剤を用いることができ、必要に応じて界面活性剤や消泡剤を添加してもよい。
【0033】
洗浄ローラー58の-Z軸側は、洗浄槽54に貯留されている洗浄液に浸漬している。洗浄位置において洗浄ローラー58が回転すると、洗浄液がベルト23の表面23aに供給されると共に、洗浄ローラー58とベルト23とが摺動する。これにより、ベルト23に付着したインクや印刷媒体95としての布帛の繊維などが洗浄ローラー58で取り除かれる。
【0034】
ブレード55は、例えば、シリコンゴムなどの可撓性の材料で形成することができる。ブレード55は、ベルト23の搬送方向において洗浄ローラー58よりも下流側に設けられている。ベルト23とブレード55とが摺動することにより、ベルト23の表面23aに残っている洗浄液が除去される。
【0035】
印刷部40は、ベルト23に保持されている印刷媒体95に向けて液体としてのインクを液滴に吐出する。
【0036】
図2は、印刷部40、及び、メンテナンス部70の構成を示す平面図である。図3は、印刷部及びメンテナンス部の構成を示す側面図である。
【0037】
図2及び図3に示すように、印刷部40は、プリントヘッド42が搭載されるキャリッジ43などを有している。プリントヘッド42には、インクを吐出するノズル41が備えられる。また印刷部40は、ノズル41近傍の環境温度を測定する温度計45を備える。プリントヘッド42は、後述するキャリッジ搬送部93によってY軸方向に沿って往復移動する。具体的にはキャリッジ43は、プリントヘッド42を支持してY軸方向に往復運動をする。
【0038】
プリントヘッド42は記録ヘッドの一例に対応する。
【0039】
Y軸方向は、第1方向の一例に対応する。
【0040】
キャリッジ搬送部93は、キャリッジ43と共にプリントヘッド42をY軸方向に沿って往復移動させるものである。キャリッジ搬送部93は、ベルト23の+Z軸方向側に設けられている。キャリッジ搬送部93は、Y軸方向に沿って延在する一対のキャリッジ搬送部93a,93b、キャリッジ搬送部93a,93bに沿って設けられるキャリッジ位置検出装置などを有している。
【0041】
キャリッジ搬送部93a,93bは、X軸方向においてベルト23の外側に立設しているフレーム部92a,92bの間に架設されている。キャリッジ搬送部93a,93bは、キャリッジ43を支持している。キャリッジ43は、キャリッジ搬送部93a,93bによってY方向に沿って案内され、Y軸方向に往復移動可能な状態でキャリッジ搬送部93a,93bに支持されている。キャリジ位置検出装置は、キャリッジ搬送部93a,93bに沿って延在し、キャリッジ43のY軸方向における位置を検出できるようになっている。
【0042】
キャリッジ搬送部93は、図示しない移動機構及び動力源を備えている。移動機構としては、例えば、ボールねじとボールナットとを組み合わせた機構や、リニアガイド機構などを採用することができる。さらに、キャリッジ搬送部93には、キャリッジ43をY方向に沿って移動させるための動力源として、モーターが設けられている。モーターとしては、ステッピングモーター、サーボモーター、リニアモーターなどの種々のモーターを採用することができる。制御部1の制御によりモーターが駆動されると、プリントヘッド42は、キャリッジ43と共にY軸方向に沿って往復移動する。
【0043】
メンテナンス部70及びキャップ部81について説明する。メンテナンス部70及びキャップ部81は、プリントヘッド42が往復移動するY軸方向において、ベルト23の一端側に設けられている。メンテナンス部70及びキャップ部81は、+Z軸方向からの平面視にてY軸方向に往復移動するプリントヘッド42と重なる位置に設けられる。
【0044】
印刷装置100は、印刷媒体95を支持する支持部と、Y軸方向において支持部の両側に配置されてフラッシング実施時にインクを受ける複数のフラッシング部77とを有する。具体的には、メンテナンス部70に少なくとも一つのフラッシング部77aを有し、ベルト23のY軸方向他端側に少なくとも一つのフラッシング部77bを有する。
【0045】
本実施形態では、複数のメンテナンス部70として、プリントヘッド42を吸引する吸引部71、液体を除去するワイピング部74、プリントヘッド42のノズル41から液体を吐出させるフラッシング部77aを含んでいる。各メンテナンス部70及びキャップ部81は、-Y軸方向の端部から+Y軸方向に向かって、キャップ部81、吸引部71、ワイピング部74、フラッシング部77aの順に配置されている。メンテナンス部70及びキャップ部81は、エアーシリンダーなどで構成された昇降装置94を備え、メンテナンス動作を行う際は、プリントヘッド42に当接する当接位置又は近接する近接位置に上昇する。
【0046】
キャップ部81は、プリントヘッド42に蓋をする装置である。プリントヘッド42に備えられたノズル41から吐出されるインクは、揮発性を有する場合があり、プリントヘッド42に内在するインクの溶媒がノズル41から揮発すると、インクの粘度が変わり、ノズル41が目詰まりすることがある。キャップ部81は、蓋体82を備え、蓋体82でプリントヘッド42に蓋をすることで、ノズル41が目詰まりすることを防止するようになっている。
【0047】
吸引部71は、プリントヘッド42に蓋をすると共にプリントヘッド42内のインクを吸引する装置である。吸引部71は蓋体72と図示しない負圧ポンプとを備え、蓋体72でプリントヘッド42に蓋をした状態で、蓋体72内に負圧をかけてプリントヘッド42内のインクを吸引する吸引動作により、プリントヘッド42内の気泡や異物等を取り除くことができる。これにより気泡や異物による吐出不良の回復や防止を図る。
【0048】
ワイピング部74は、プリントヘッド42を拭く装置である。プリントヘッド42に固化したインクや異物が付着していると、液滴が印刷媒体95の予定外の場所に着弾してしまう吐出不良が生じることがある。ワイピング部74は、ブレード75、ブレード75をX軸方向に沿って移動させるワイピングモーターを備えている。ワイピング部74が、ブレード75でプリントヘッド42に付着したインクや異物を払拭するワイピング動作により、吐出不良の回復や防止を図る。
【0049】
フラッシング部77は、ノズル41から吐出される液滴を捕捉する装置である。フラッシング部77は、フェルトなどの多孔質の繊維を有するフラッシングボックスを備え、プリントヘッド42内のインク流路を洗浄するとき、プリントヘッド42に備えられたノズル41から吐出される液滴を捕捉する。プリントヘッド42内のインクが増粘した場合や固形物が混入した場合に、ノズル41から液滴を吐出するフラッシング操作により、増粘したインクや固形物を除去してインクの状態を調整する。これにより、増粘したインクや固形物による吐出不良の回復や防止を図ることができる。
【0050】
吸引部71とキャップ部81は一体のものであってよい。
【0051】
図4は、印刷装置の電気的な構成を示す電気ブロック図である。
【0052】
印刷装置100は、制御部1を備えている。制御部1は、印刷装置100の制御を行うための制御ユニットである。制御部1は、制御回路4と、インターフェイス部2と、CPU3と、記憶部5とを含んで構成されている。インターフェイス部2は、コンピューターなどの画像を取り扱う外部装置6と印刷装置100との間でデータの送受信を行うためのものである。CPU3は、各種の検出器群7からの入力信号処理や印刷装置100全体の制御を行うための演算処理装置である。
【0053】
記憶部5は、CPU3のプログラムを格納する領域や作業領域などを確保するためのものであり、例えば、RAMやEEPROM(ElectricallyErasableProgrammableRead-OnlyMemory)、フラッシュメモリー、あるいは、HDD(Hard DIsk Drive)やSSD(Solid State Drive)といった記憶用のデバイスを有している。
【0054】
CPU3は、ベルト駆動ローラー25に備えられている各種モーターを制御回路4によって制御して、印刷媒体95をX軸方向に移動する。CPU3は、制御回路4によりキャリッジ搬送部93に備えられている各種モーターを制御して、プリントヘッド42が搭載されているキャリッジ43をY軸方向に移動する。CPU3は、制御回路4によりプリントヘッド42に備えられている圧電素子の電圧を制御してノズル41から印刷媒体95に液滴を吐出する。本実施形態において、印刷装置100は、キャリッジ43の一回のY軸方向への移動距離をあらかじめ決められた一定の距離ではなく、1回の往復移動で印刷する印刷データに基づいて、移動距離すなわち往復移動の折り返し位置を決定することで印刷のスループットを向上させる。
【0055】
ここでX軸方向は、第1方向と直交する第2方向の一例に対応する。
【0056】
CPU3は、制御回路4により吸引部71に備えられている昇降装置94及び負圧ポンプを制御してプリントヘッド42のメンテナンスを行う。CPU3は、制御回路4によりワイピング部74に備えられている昇降装置94及びブレード75を移動させるモーターを制御してプリントヘッド42のメンテナンスを行う。CPU3は、制御回路4によりフラッシング部77に備えられている昇降装置94を制御してプリントヘッド42のメンテナンスを行う。また、CPU3は、制御回路4により図示しない各装置も制御する。
【0057】
図5は、キャリッジ43の移動速度が速い場合の、空走時間と着弾誤差の関係を示す図である。各マーカーの折れ線グラフは、それぞれ温度TA、温度TB、温度TCにおける空走時間と着弾誤差の関係を示す。具体的には、例えばTAは摂氏35度、TBは摂氏30度、TCは摂氏25度である。図5に示すように環境温度が高いほど、インクに含まれる溶媒の蒸発が早まるため、着弾誤差が大きくなる傾向がある。
【0058】
ここで空走時間とは、ノズル41から液滴が吐出されずにキャリッジ43が移動する時間であり、非吐出時間のことである。具体的にインクの着弾誤差の許容値である許容誤差が80μm程度である場合、温度TBで許される最長の非吐出時間は、5sec程度であり、温度TAで許される最長の非吐出時間は3sec弱である。なおキャリッジ43が最大幅移動するときの時間を最大キャリッジ往復時間と呼ぶ。最大キャリッジ往復時間以内の空走時間で、着弾誤差が許容誤差を超えない場合には復路でのフラッシングを行わなくてよい。参照する温度TAと温度TCとの間の温度については、空走時間と着弾誤差の関係は線形補間で許容誤差以内になる空走許容時間を算出し、空走許容時間に基づいて復路でフラッシングをするかどうかを判断する。
【0059】
図5に相当するキャリッジ43の移動速度を第1速度とし、この場合の非吐出時間と温度との対応関係を第1対応関係、印刷モードを第1モードと定義する。
【0060】
キャリッジ43が一定の速度で印刷を行っている場合の移動速度をCR速度と表す。一回の往路においてキャリッジ43が移動する距離をパス幅と表す。一回の往路においてキャリッジ43の移動速度が加速または減速している距離を合計したものを加減速印刷幅と表す。また一回の往路において前記キャリッジが加速または減速している時間を合計したものを加減速時間、と定義する。
【0061】
キャリッジ43の1回の往復移動において、該1回の往復移動で印刷する印刷データに基づいて、キャリッジ43が印刷データに応じたパス幅だけ移動して折り返すときの折り返し位置を、キャリッジ43の往復移動における仮の折り返し位置と定義する。このとき仮の折り返し位置でキャリッジ43を折り返した場合に必要なキャリッジ43の往復移動時間である仮往復時間Timeelapseは、下記数式(1)のように表される。
【0062】
【数1】
【0063】
温度TBで許される最長の非吐出時間をTimeref0と表し、温度TCで許される最長の非吐出時間をTimeref1と表す。また温度TBをTempref0と表し、温度TCをTempref1と表す。このとき環境温度Tにおいてノズル41から吐出される液滴の着弾誤差が許容値以下になる条件が満たされる最長の非吐出時間である閾値Timethreshは、線形補間の考えに基づくと下記の数式(2)のように表される。
【0064】
【数2】
【0065】
印刷装置100は、キャリッジ43の往復移動の復路において、フラッシングを実施するかどうか判定するフラッシング判定部8を有する。印刷装置100は、予め求められた、ノズル41から液滴が吐出されない時間である非吐出時間と温度との対応関係であって、ノズルから吐出される液滴の着弾誤差が所定の許容値以下になる条件を記憶する記憶部5を有する。
【0066】
フラッシング判定部8は、キャリッジ43の1回の往復移動において、該1回の往復移動で印刷する印刷データに基づいて、仮の折り返し位置と、仮往復時間と、環境温度Tにおいて条件が満たされる最長の非吐出時間である閾値Timethreshとを算出する。
【0067】
そしてフラッシング判定部8は、仮往復時間Timeelapseが閾値Timethreshを超えるかどうかを判定する。本実施形態では、キャリッジ43の往復移動における往路の加速時に、プリントヘッド42からフラッシング部77aへフラッシングを実施している。したがって、キャリッジ43の往復移動における復路においてフラッシングを行わない場合、キャリッジ43の往復移動中に印刷データに基づくインクの吐出が行われないノズル41がインクを吐出しない非吐出時間は、キャリッジ43の往路で実施されるフラッシングから次のキャリッジ43の往路で実施されるフラッシングまでの時間となり、これはキャリッジ43の往復移動時間とほぼ等しくなる。したがって、仮往復時間Timeelapseと閾値Timethreshとを比較することで、キャリッジ43の復路移動時に、フラッシングが必要かどうかを判定することが出来る。そして、仮往復時間Timeelapseが、閾値Timethreshを超えている場合は、1回の往復移動時間が仮往復時間よりも長くなる位置であって、1回の往復移動時間が閾値Timethreshよりも長くなる位置を、キャリッジ43の往復移動における折り返し位置に設定すると共に、キャリッジ43の移動の復路においてフラッシングを実施する。なお、本実施形態において、キャリッジ43の往復移動の復路においてフラッシングを実施する場合、復路におけるキャリッジ43の加速時にフラッシングを実施する。本実施形態においては、仮往復時間Timeelapseを、キャリッジ43の往復移動中に印刷データに基づくインクの吐出が行われないノズル41がインクを吐出しない非吐出時間と同義で取り扱う。
【0068】
フラッシング判定部8は、制御部1においてCPU3が記憶部5に記憶された制御プログラムを実行することによって、ソフトウェアとハードウェアとの協働により実現される。フラッシング操作は制御部1が制御回路4を介してキャリッジ搬送部93、プリントヘッド42、フラッシング部77等を制御することで実現される。
【0069】
図6は、キャリッジ43の移動速度が遅い場合の、空走時間と着弾誤差の関係を示す図である。
図6に相当するキャリッジ43の移動速度を第2速度とし、この場合の非吐出時間と温度との対応関係を第2対応関係、印刷モードを第2モードと定義する。
各マーカーの折れ線グラフは、それぞれ温度TA、温度TB、温度TCにおける空走時間と着弾誤差の関係を示す。具体的には、例えばTAは摂氏35度、TBは摂氏30度、TCは摂氏25度である。
【0070】
図6の場合、ノズル41から吐出される液滴の着弾誤差が所定の許容値である許容誤差になる最短の非吐出時間は、環境温度TがTAで非吐出時間が8sec程度の時であり、これよりも短い非吐出時間であれば、温度TA、温度TB、温度TCがいずれの場合であっても着弾誤差は許容誤差未満となる。図6に示した空走時間と着弾誤差の関係においては、最大空走時間は、最短の非吐出時間の8sec程度よりも若干短い。すなわち、キャリッジ43の移動速度が第2移動速度の場合においては、着弾誤差は常に許容誤差未満となる。したがって、動作保証温度がTA~TCであり、キャリッジ43の移動速度が第2移動速度の場合は、復路でフラッシング操作をする必要がない。
【0071】
印刷装置100のフラッシング判定部8は、印刷時にキャリッジ43の移動速度を確認し、第1モードに相当する場合には復路でフラッシング操作が必要かどうかの判定をおこない、第2モードに相当する場合には復路でフラッシング操作をおこなわない。
【0072】
図7は本実施形態に係る印刷装置100の動作、具体的には印刷制御方法を説明するフローチャートである。印刷装置100が有するフラッシング判定部8が、予め設定されたキャリッジ43の移動速度であるCR速度を確認して印刷モードを決定する(ステップSA1)。具体的には例えばCR速度が600cpsの場合、CR速度は速度の速い第1速度の一例に相当し、印刷モードは第1モードとなる。また例えばCR速度が300cpsの場合、CR速度は速度の遅い第2速度の一例に相当し、印刷モードは第2モードとなる。
【0073】
印刷モードが第1モードの場合、フラッシング判定部8は数式(1)に従って仮往復時間Timeelapseを算出する(ステップSA2)。
【0074】
フラッシング判定部8は、数式(2)に従って閾値Timethreshを算出する(ステップSA3)。
【0075】
ここでノズルからの液滴が吐出されない時間である非吐出時間と温度との対応関係であって、ノズルから吐出される液滴の着弾誤差が所定の許容値以下になる条件は、例えば図5に従うとする。
【0076】
次に算出された仮往復時間Timeelapseの値と、閾値Timethreshの値とを比較する(ステップSA4)。
【0077】
仮往復時間Timeelapseの値が、閾値Timethreshの値よりも大きい場合(ステップSA4:YES)、印刷装置100はキャリッジ43が往復移動する際に、復路でフラッシング操作を実施する(ステップSA5)。
【0078】
仮往復時間Timeelapseの値が、閾値Timethreshの値以下の場合(ステップSA4:NO)、印刷装置100はキャリッジ43が往復移動する際に、復路でフラッシング操作を実施しない(ステップSA6)。
【0079】
また印刷モードが第2モードの場合、印刷装置100はキャリッジ43が往復移動する際に、復路でフラッシング操作を実施しない(ステップSA6)。
本実施形態においては、ステップSA1の次にステップSA2を実施しているが、ステップSA1とステップSA2との間に、温度計45を用いて環境温度Tを取得し、環境温度Tが所定の温度以上であるかどうか判定し、所定の温度以上であると判定されたらステップSA2へ、所定の温度未満であると判定されたらステップSA6へ進む判定処理を追加してもよい。選択された印刷モードにおけるキャリッジの移動速度において、キャリッジ43が移動し得る第1方向の最大距離をキャリッジ43が往復移動するのに必要な時間を最大キャリッジ往復時間とした場合、所定の温度とは、非吐出時間と温度との対応関係において、空走時間が最大キャリッジ往復時間となったときの着弾誤差が許容誤差以上となる環境温度である。例えば図5に示す非吐出時間と着弾誤差と温度との関係においては、温度TAは、空走時間が最大キャリッジ往復時間のときの着弾誤差が許容誤差以上であるので所定温度以上と判定され、温度TBと温度TCは、空走時間が最大キャリッジ往復時間のときの着弾誤差が許容誤差未満であるので所定温度未満と判定される。
【0080】
具体的に印刷装置100は、印刷媒体95にノズル41から液滴を吐出するプリントヘッド42と、プリントヘッド42を支持して第1方向に往復運動をするキャリッジ43と、ノズル近傍の環境温度を測定する温度計45を備える。印刷装置100は、キャリッジ43の往復運動及びノズル41からの液滴の吐出を制御する制御部1と、キャリッジの往復移動の復路において、フラッシングを実施するかどうか判定するフラッシング判定部8を備える。また印刷装置100は、予め求められた、ノズル41からの液滴が吐出されない時間である非吐出時間と温度との対応関係であって、ノズル41から吐出される液滴の着弾誤差が所定の許容値以下になる条件を記憶する記憶部とを備える。
【0081】
フラッシング判定部8はキャリッジ43の1回の往復移動において、該1回の往復移動で印刷する印刷データに基づいて、キャリッジ43の往復移動における仮の折り返し位置を算出する。またフラッシング判定部8は、仮の折り返し位置でキャリッジを折り返した場合に必要なキャリッジの1回の往復移動時間である仮往復時間を算出する。さらにフラッシング判定部8は、温度計45で測定された環境温度において条件が満たされる最長の非吐出時間である閾値を算出する。
【0082】
フラッシング判定部8は、仮往復時間が、閾値を超えるかどうかを判定する。フラッシング判定部8は、仮往復時間が閾値を超えている場合は、1回の往復移動時間が仮往復時間よりも長くなる位置であって、1回の往復移動時間が閾値Timethreshよりも長くなる位置を、キャリッジ43の往復移動における折り返し位置に設定すると共に、キャリッジ43の移動の復路においてフラッシングを実施することを決定する。
【0083】
本実施形態において印刷装置100は、復路におけるフラッシング操作をメンテナンス部70bのフラッシング部77bで行うことが望ましい。
【0084】
1.変形例1
図8は、本実施形態の変形例に係る印刷装置100の動作を説明する説明図である。印刷装置100は、印刷媒体95を支持するベルト23を備える。
【0085】
ベルト23は支持部の一例に相当する。
【0086】
印刷装置100は、第1方向において支持部の両側に配置されてフラッシング実施時にインクを受ける複数のフラッシング部77を有する。フラッシング判定部8は、キャリッジ43の往復移動の復路において、フラッシングを実施するかどうか判定する。フラッシング判定部8が、キャリッジ移動の復路においてフラッシングを実施すると判定した場合、印刷媒体95の幅に応じて、キャリッジ移動の復路におけるフラッシング操作を、フラッシング部77bでおこなうか、または、支持部の印刷媒体と重ならない領域にするか、を判定し、該判定に基づいて、折り返し位置を設定する。
【0087】
本変形例1では印刷媒体95の幅が狭く、ベルト23が印刷媒体95で覆われていない場合を示す。このとき印刷装置100は、キャリッジ移動の復路においてフラッシングを実施すると判定した場合に、復路におけるフラッシングをフラッシング部77bで実施するのではなく、ベルト23上の印刷媒体95と重ならない領域Aにフラッシングすることが可能であれば、キャリッジ43をフラッシング部77bまで移動させずに、復路におけるフラッシング操作をベルト23上の印刷媒体95と重ならない領域Aでおこなうことで印刷のスループットを上げる。ベルト23は洗浄部51で定期的に洗浄されるので、ベルト23の表面に付着した余分なインクによって印刷媒体95が汚染される可能性は低い。
【0088】
2.変形例2
ベルト23に支持された印刷媒体95は、印刷中、第1方向と垂直な第2方向へ、具体的には図2であれば+X軸方向に搬送される。印刷媒体95が搬送される時間を相対移動時間と定義する。そして現在の往復移動における往路パスにおけるキャリッジ43の減速時間を現パス往路の減速時間、現在の往復移動における復路パスにおけるキャリッジ43の減速時間を現パス復路の減速時間と呼び、次の往復移動における往路パスにおけるキャリッジ43の加速時間を次パス往路の加速時間と呼ぶことにする。(以降の実施形態において同様)相対移動時間が、現パス復路の減速時間と次パス往路の加速時間との和よりも長くなる場合は、キャリッジ43の往復移動中に印刷データに基づくインクの吐出が行われないノズル41がインクを吐出しない非吐出時間は、仮往復時間Timeelapseに加えて相対移動時間を加味する必要がある。詳細には、相対移動時間の内、現パス復路の減速時間と次パス往路の加速時間との和を超える時間を、仮往復時間Timeelapseに加える必要がある。
【0089】
具体的には、キャリッジ43の往復運動に伴うプリントヘッド42からの印刷媒体95への液滴の吐出後に実施される、第1方向と直交する第2方向へのプリントヘッド42と印刷媒体95の相対移動に伴う時間である相対移動時間が、加減速時間よりも長い場合、仮往復時間Timeelapseは下記数式(3)で算出される。
【0090】
【数3】
【0091】
フラッシング判定部8は、仮往復時間Timeelapseが閾値Timethreshを超えるかどうかを判定する。仮往復時間Timeelapseが、閾値Timethreshを超えている場合は、1回の往復移動時間が仮往復時間よりも長くなる位置であって、1回の往復移動時間が閾値Timethreshよりも長くなる位置を、キャリッジ43の往復移動における折り返し位置に設定すると共に、キャリッジ移動の復路においてフラッシングを実施する。
【0092】
閾値Timethreshは、上記した実施形態と同様に、あらかじめ求められた、ノズルから液滴が吐出されない時間である非吐出時間と温度との対応関係であって、ノズルから吐出される液滴の着弾誤差が所定の許容値以下になる条件から数式(2)を用いて算出する。
【0093】
3.変形例3
現在のパスと次のパスとの間であるパス間にキャリッジ43の待機時間であるwait時間を設ける場合に、非吐出時間としてwait時間を考慮する必要がある。本実施形態においては、wait時間はキャリッジ43の減速の開始とともに開始されるものとするが、この限りではない。wait時間には、現パス往路と現パス復路との間に設けられる第1wait時間と、現パス復路と次パス往路との間に設けられる第2wait時間とがある。考慮すべき実質的なwait時間は非吐出時間として加算しなければならない。具体的には、相対移動時間が第2wait時間より長い場合には、仮往復時間Timeelapseは下記数式(4)で算出される。
【0094】
【数4】
【0095】
また相対移動時間が第2wait時間以下の場合には、仮往復時間Timeelapseは下記数式(5)で算出される。
【0096】
【数5】
【0097】
フラッシング判定部8は、仮往復時間Timeelapseが閾値Timethreshを超えるかどうかを判定する。仮往復時間Timeelapseが、閾値Timethreshを超えている場合は、1回の往復移動時間が仮往復時間よりも長くなる位置であって、1回の往復移動時間が閾値Timethreshよりも長くなる位置を、キャリッジ43の往復移動における折り返し位置に設定すると共に、キャリッジ移動の復路においてフラッシングを実施する。
【0098】
閾値Timethreshは、上記した実施形態と同様に、あらかじめ求められた、ノズルから液滴が吐出されない時間である非吐出時間と温度との対応関係であって、ノズルから吐出される液滴の着弾誤差が所定の許容値以下になる条件から数式(2)を用いて算出する。
【0099】
4.変形例4
上記した実施形態では、温度計で測定された環境温度Tにおいて着弾誤差が許容値以下になる条件を、インクの非吐出時間と、印刷データに基づいたキャリッジ43の1回の移動における往復時間の関係から求めた。本変形例においては、温度Tにおいて着弾誤差が許容値以下になる条件を、キャリッジ43の所定の移動速度における非吐出距離と、印刷データに基づいたキャリッジ43の1回の移動における往復距離の関係から求める。
【0100】
具体的には、印刷装置100は、印刷媒体95にノズル41から液滴を吐出するプリントヘッド42と、プリントヘッド42を支持して第1方向に往復運動をするキャリッジ43と、ノズル41近傍の環境温度を測定する温度計45と、キャリッジ43の往復運動及びノズル41からの液滴の吐出を制御する制御部1と、キャリッジ43の往復移動の復路において、フラッシングを実施するかどうか判定するフラッシング判定部8と、あらかじめ求められた、ノズル41からの液滴が吐出されない距離である非吐出距離と温度との対応関係であって、ノズル41から吐出される液滴の着弾誤差が所定の許容値以下になる条件を記憶する記憶部5とを備え、フラッシング判定部8はキャリッジ43の1回の往復移動において、該1回の往復移動で印刷する印刷データに基づいて、キャリッジ43の往復移動における仮の折り返し位置と、仮の折り返し位置でキャリッジ43を折り返した場合におけるキャリッジ43の1回の往復移動距離である仮往復距離と、温度計45で測定された環境温度において条件が満たされる最長の非吐出距離である第3閾値とを算出し、仮往復距離が、第3閾値を超えるかどうかを判定し、仮往復距離が、第3閾値を超えている場合は、1回の往復移動距離が仮往復距離よりも長くなる位置であって、1回の往復移動距離が閾値よりも長くなる位置を、キャリッジ43の往復移動における折り返し位置に設定すると共に、キャリッジ移動の復路においてフラッシングを実施することを決定する。
【0101】
本発明の実施形態に係る印刷装置100は、印刷媒体95にノズル41から液滴を吐出するプリントヘッド42と、プリントヘッド42を支持して第1方向に往復運動をするキャリッジ43と、ノズル41近傍の環境温度を測定する温度計45と、キャリッジ43の往復運動及びノズル41からの液滴の吐出を制御する制御部1と、キャリッジ43の往復移動の復路において、フラッシングを実施するかどうか判定するフラッシング判定部8と、あらかじめ求められた、ノズル41からの液滴が吐出されない時間である非吐出時間と温度との対応関係であって、ノズル41から吐出される液滴の着弾誤差が所定の許容値以下になる条件を記憶する記憶部5とを備え、フラッシング判定部8はキャリッジ43の1回の往復移動において、該1回の往復移動で印刷する印刷データに基づいて、キャリッジ43の往復移動における仮の折り返し位置と、仮の折り返し位置でキャリッジ43を折り返した場合に必要なキャリッジ43の1回の往復移動時間である仮往復時間と、温度計45で測定された環境温度において条件が満たされる最長の非吐出時間である閾値とを算出し、仮往復時間が、閾値を超えるかどうかを判定し、仮往復時間が、閾値を超えている場合は、1回の往復移動時間が仮往復時間よりも長くなる位置であって、1回の往復移動時間が閾値Timethreshよりも長くなる位置を、キャリッジ43の往復移動における折り返し位置に設定すると共に、キャリッジ移動の復路においてフラッシングを実施することを決定する。
【0102】
上記の印刷装置100によれば、キャリッジ移動の復路でフラッシングを行うことでノズル41からインクが吐出されない放置時間を短縮し、インクの目詰まりを防ぎ、画質を安定させるという優れた効果を奏する。またノズルの置かれた環境温度に応じて最適な最長の非吐出時間である閾値を算出して、その閾値と印刷データから予測されるキャリッジ43の往復時間を比較することで復路におけるフラッシングの必要性を判定するので、最低限のフラッシング回数に抑えられる。
【0103】
本発明の実施形態に係る印刷装置100は、印刷媒体95を支持するベルト23と、第1方向においてベルト23の両側に配置されてフラッシング実施時にインクを受ける複数のフラッシング部77とを有し、フラッシング判定部8は、キャリッジ移動の復路においてフラッシングを実施すると判定した場合、印刷媒体95の幅に応じて、キャリッジ移動の復路におけるフラッシングを、フラッシング部77bでおこなうか、または、ベルト23の印刷媒体95と重ならない領域にするか、を判定し、該判定に基づいて、折り返し位置を設定する。
【0104】
上記の印刷装置100によれば、フラッシングをベルト23の両端に配設されるフラッシング部77ではなく、ベルト23上で印刷媒体95と重ならない位置で行うことができるので、スループットを向上できる優れた効果を奏し得る。
【0105】
本発明の実施形態に係る印刷装置100は、印刷モードとして、キャリッジ43の移動速度が第1速度である第1モードと、キャリッジ43の移動速度が第1速度とは異なる第2速度である第2モードとを備え、対応関係は、キャリッジ43の移動速度が第1速度の時の第1対応関係と、キャリッジ43の移動速度が第2速度の時の第2対応関係と、を有し、フラッシング判定部8は、印刷モードが第1モードの時は、対応関係として第1対応関係を用いて閾値を算出し、印刷モードが第2モードの時は、対応関係として第2対応関係を用いて閾値を算出する。
【0106】
上記の印刷装置100によれば、キャリッジの移動速度に応じて、着弾誤差が許容値になりえる、ノズル41からの液滴が吐出されない時間である非吐出時間と温度との対応関係を適用できるので、適切なフラッシング操作が可能になるという優れた効果を奏する。
【0107】
本発明の実施形態に係る印刷装置100は、キャリッジ43が一定の速度で印刷を行っている場合の移動速度をCR速度、一回の往路においてキャリッジ43が移動する距離をパス幅、一回の往路においてキャリッジ43の移動速度が加速または減速している距離を合計したものを加減速印刷幅、一回の往路においてキャリッジ43が加速または減速している時間を合計したものを加減速時間、と定義するとき、仮往復時間を示すTimeelapseは下記数式(1)であり、
【0108】
【数6】
【0109】
あらかじめ定められた異なる2つの温度である第1参照温度を示すTempref0と、第2参照温度を示すTempref1に対応する非吐出時間の閾値(非吐出時間の最大値)を、それぞれ第1閾値を示すTimeref0と、第2閾値を示すTimeref1と定義すると、環境温度であるTにおける閾値を示すTimethreshは下記数式(2)である。
【0110】
【数7】
【0111】
上記印刷装置100によれば、ノズル近傍の温度Tにおいて着弾誤差が所定の許容値以下となる最長の非吐出時間である閾値であるTimethreshと、キャリッジ43の一回の往復時間(最大非吐出時間)とを比較することができるので、適切なフラッシング操作が可能になるという優れた効果を奏する。
【0112】
本発明の実施形態に係る印刷装置100は、キャリッジ43の往復運動に伴うプリントヘッド42からの印刷媒体95への液滴の吐出後に実施される、第1方向と直交する第2方向へのプリントヘッド42と印刷媒体95の相対移動に伴う時間である相対移動時間が、加減速時間よりも長い場合、Timeelapseは下記数式(3)である。
【0113】
【数8】
【0114】
上記印刷装置100によれば、印刷媒体95を第1方向と垂直な第2方向に相対移動させる場合で、キャリッジ43の加減速時間よりも長い相対移動を行う場合にも、フラッシング操作の適切な頻度を算出できるという優れた効果を奏する。
【0115】
本発明の実施形態に係る印刷装置100は、パス間にwait時間を設ける場合であって、現パス往路と現パス復路との間に設けられるwait時間を第1wait時間、現パス復路と次パス往路との間に設けられるwait時間を第2wait時間とすると、相対移動時間が第2wait時間より長い場合には、Timeelapseは下記数式(4)である。
【0116】
【数9】
【0117】
また相対移動時間が第2wait時間以下の場合には、Timeelapseは下記数式(5)である。
【0118】
【数10】
【0119】
上記印刷装置100によれば、パス間にwait時間を設ける場合にもフラッシング操作の適切な頻度を算出できるという優れた効果を奏する。
【0120】
本発明の実施形態に係る印刷装置100は、印刷媒体95にノズル41から液滴を吐出するプリントヘッド42と、プリントヘッド42を支持して第1方向に往復運動をするキャリッジ43と、ノズル41近傍の環境温度を測定する温度計45と、キャリッジ43の往復運動及びノズル41からの液滴の吐出を制御する制御部と、キャリッジ43の往復移動の復路において、フラッシングを実施するかどうか判定するフラッシング判定部8と、あらかじめ求められた、ノズル41からの液滴が吐出されない距離である非吐出距離と温度との対応関係であって、ノズル41から吐出される液滴の着弾誤差が所定の許容値以下になる条件を記憶する記憶部とを備え、フラッシング判定部8はキャリッジ43の1回の往復移動において、該1回の往復移動で印刷する印刷データに基づいて、キャリッジ43の往復移動における仮の折り返し位置と、仮の折り返し位置でキャリッジ43を折り返した場合におけるキャリッジ43の1回の往復移動距離である仮往復距離と、温度計45で測定された環境温度において条件が満たされる最長の非吐出距離である第3閾値とを算出し、仮往復距離が、第3閾値を超えるかどうかを判定し、仮往復距離が、第3閾値を超えている場合は、1回の往復移動距離が仮往復距離よりも長くなる位置であって、1回の往復移動距離が仮往復距離よりも長くなる位置を、キャリッジ43の往復移動における折り返し位置に設定すると共に、キャリッジ移動の復路においてフラッシングを実施することを決定する。
【0121】
上記印刷装置100によれば、印刷データに基づく、想定されるキャリッジ43の往復移動距離と、ノズル41近傍の環境温度における最長の非吐出距離である第3閾値から最適のフラッシング頻度を算出できるので画質を安定させる効果を奏する。
【0122】
本発明の実施形態に係る印刷制御方法は、印刷媒体95にノズル41から液滴を吐出するプリントヘッド42と、プリントヘッド42を支持して第1方向に往復運動をするキャリッジ43と、ノズル41近傍の環境温度を測定する温度計45と、キャリッジ43の往復運動及びノズル41からの液滴の吐出を制御する制御部1とを備える印刷装置100において、キャリッジ43の往復移動の復路において、フラッシングを実施するかどうか判定し、あらかじめ求められた、ノズル41からの液滴が吐出されない時間である非吐出時間と温度との対応関係であって、ノズル41から吐出される液滴の着弾誤差が所定の許容値以下になる条件を記憶し、判定では、キャリッジ41の1回の往復移動において、該1回の往復移動で印刷する印刷データに基づいて、キャリッジ43の往復移動における仮の折り返し位置と、仮の折り返し位置でキャリッジ43を折り返した場合に必要なキャリッジ43の1回の往復移動時間である仮往復時間と、温度計45で測定された環境温度において条件が満たされる最長の非吐出時間である閾値とを算出し、さらに仮往復時間が、閾値を超えるかどうかを判定し、仮往復時間が、閾値を超えている場合は、1回の往復移動時間が仮往復時間よりも長くなる位置であって、1回の往復移動時間が閾値Timethreshよりも長くなる位置を、キャリッジ43の往復移動における折り返し位置に設定すると共に、キャリッジ移動の復路においてフラッシングを実施することを決定する。
【0123】
上記の印刷装置100によれば、キャリッジ移動の復路でフラッシングを行うことでノズル41からインクが吐出されない放置時間を短縮し、インクの目詰まりを防ぎ、画質を安定させるという優れた効果を奏する。またノズルの置かれた環境温度に応じて最適な最長の非吐出時間である閾値を算出して、その閾値と印刷データから予測されるキャリッジ43の往復時間を比較することで復路におけるフラッシングの必要性を判定するので、最低限のフラッシング回数に抑えられる。
【0124】
上述した実施形態は、あくまでも本発明の一態様を示すものであり、本発明の範囲内で任意に変形および応用が可能である。
【0125】
例えば、上述した実施形態では印刷装置としてプリンターを例示したが、本発明の印刷装置はプリンターに限定されず、例えばスキャン機能やファクシミリ機能等の機能を有する複合機であってもよい。
【0126】
例えば、制御部1の機能は、複数のプロセッサー、又は、半導体チップにより実現してもよい。
【0127】
例えば、図1に示した各部は一例であって、具体的な実装形態は特に限定されない。つまり、必ずしも各部に個別に対応するハードウェアが実装される必要はなく、一つのプロセッサーがプログラムを実行することで各部の機能を実現する構成とすることも勿論可能である。また、上述した実施形態においてソフトウェアで実現される機能の一部をハードウェアとしてもよく、或いは、ハードウェアで実現される機能の一部をソフトウェアで実現してもよい。その他、印刷装置100及び、制御部1の他の各部の具体的な細部構成についても、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で任意に変更可能である。
【0128】
例えば、図7に示す動作のステップ単位は、印刷装置100の各部の動作の理解を容易にするために、主な処理内容に応じて分割したものであり、処理単位の分割の仕方や名称によって、本発明が限定されることはない。処理内容に応じて、さらに多くのステップ単位に分割してもよい。また、1つのステップ単位がさらに多くの処理を含むように分割してもよい。また、そのステップの順番は、本発明の趣旨に支障のない範囲で適宜に入れ替えてもよい。
【符号の説明】
【0129】
1…制御部、2…インターフェイス部、3…CPU、4…制御回路、5…記憶部、6…外部装置、7…検出器群、8…フラッシング判定部、10…媒体供給部、11…供給軸部、12…軸受部、20…媒体搬送部、21…搬送ローラー、22…搬送ローラー、23…ベルト(支持部)、24…ベルト回転ローラー、25…ベルト駆動ローラー、26…搬送ローラー、27…乾燥ユニット、28…搬送ローラー、29…粘着層、30…媒体回収部、31…巻取り軸部、32…軸受部、40…印刷部、41…ノズル、42…プリントヘッド(記録ヘッド)、43…キャリッジ、45…温度計、50…洗浄ユニット、51…洗浄部、52…押圧部、53…移動部、54…洗浄槽、55…ブレード、56…エアーシリンダー、57…ボールブッシュ、58…洗浄ローラー、60…媒体密着部、61…押圧ローラー、62…押圧ローラー駆動部、63…ローラー支持部、70…メンテナンス部、71…吸引部、72…蓋体、74…ワイピング部、75…ブレード、77…フラッシング部、81…キャップ部、82…蓋体、92…フレーム部、93…キャリッジ搬送部、94…昇降装置、95…印刷媒体、99…床面、100…印刷装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8