(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】複合電解質膜、触媒層付電解質膜、膜電極複合体、固体高分子形燃料電池および複合電解質膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 8/1062 20160101AFI20240925BHJP
H01M 8/1027 20160101ALI20240925BHJP
H01M 8/1051 20160101ALI20240925BHJP
H01M 8/106 20160101ALI20240925BHJP
H01M 8/1067 20160101ALI20240925BHJP
H01M 8/1081 20160101ALI20240925BHJP
H01M 8/10 20160101ALI20240925BHJP
C08J 5/22 20060101ALI20240925BHJP
C08J 9/00 20060101ALI20240925BHJP
C08G 65/40 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
H01M8/1062
H01M8/1027
H01M8/1051
H01M8/106
H01M8/1067
H01M8/1081
H01M8/10 101
C08J5/22 102
C08J9/00 A
C08G65/40
(21)【出願番号】P 2020549722
(86)(22)【出願日】2020-09-11
(86)【国際出願番号】 JP2020034420
(87)【国際公開番号】W WO2021054253
(87)【国際公開日】2021-03-25
【審査請求日】2023-07-18
(31)【優先権主張番号】P 2019171868
(32)【優先日】2019-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】南林 健太
(72)【発明者】
【氏名】國田 友之
(72)【発明者】
【氏名】尾形 大輔
(72)【発明者】
【氏名】出原 大輔
【審査官】守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/188572(WO,A1)
【文献】特開2005-342718(JP,A)
【文献】国際公開第2016/148017(WO,A1)
【文献】特開2005-068396(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/10
C25B 13/00
C08J 5/22
C08J 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素系高分子電解質と含フッ素高分子多孔質基材とが複合化された複合層を有する複合電解質膜であって、該複合層中の炭化水素系高分子電解質と含フッ素高分子多孔質基材の分布を示すフラクタル次元Dが1.7以上である複合電解質膜。
【請求項2】
含水引張弾性率が20N/cm以上である、請求項1に記載の複合電解質膜。
【請求項3】
前記含フッ素高分子多孔質基材の酸素原子含有量が5質量%以下である、請求項1または2に記載の複合電解質膜。
【請求項4】
前記含フッ素高分子多孔質基材に70質量%以上のフッ素原子が含まれている、請求項1~3のいずれかに記載の複合電解質膜。
【請求項5】
前記炭化水素系高分子電解質がイオン性基を有する芳香族炭化水素系ポリマーである、請求項1~4のいずれかに記載の複合電解質膜。
【請求項6】
前記イオン性基を有する芳香族炭化水素系ポリマーが、イオン性基を含有するセグメント(A1)とイオン性基を含有しないセグメント(A2)をそれぞれ1個以上含有するブロック共重合体である、請求項1~5のいずれかに記載の複合電解質膜。
【請求項7】
少なくとも添加剤としてフッ素系界面活性剤またはポリフッ化ビニリデンを含有する、請求項1~6のいずれかに記載の複合電解質膜。
【請求項8】
前記添加剤が複合層中に偏在している、請求項7に記載の複合電解質膜。
【請求項9】
請求項1~8のいずれかに記載の複合電解質膜に触媒層を積層してなる触媒層付電解質膜。
【請求項10】
請求項1~8のいずれかに記載の複合電解質膜を用いて構成されてなる膜電極複合体。
【請求項11】
請求項1~8のいずれかに記載の複合電解質膜を用いて構成されてなる固体高分子型燃料電池。
【請求項12】
工程1:フッ素系界面活性剤またはポリフッ化ビニリデンを含む溶液を含フッ素高分子多孔質基材に含浸し、溶媒を除去する工程;
工程2:炭化水素系高分子電解質溶液を工程1で得られた含フッ素高分子多孔質基材に含浸、溶媒を除去する工程;
を有する請求項1~7のいずれかに記載の複合電解質膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子電解質と多孔質基材とを複合化した複合層を有する複合電解質膜、触媒層付電解質膜、膜電極複合体、固体高分子形燃料電池および複合電解質膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、固体高分子形燃料電池等の高分子電解質膜としては、パーフルオロスルホン酸系ポリマーである“ナフィオン”(登録商標)(ケマーズ(株)製)製の膜が広く用いられてきた。しかし、“ナフィオン”(登録商標)製の高分子電解質膜はクラスター構造に起因するプロトン伝導チャネルを通じて低加湿で高いプロトン伝導性を示すが、その一方で、多段階合成を経て製造されるため非常に高価であり、加えて、前述のクラスター構造により燃料クロスオーバーが大きいという課題があった。また、使用後の廃棄処理や材料のリサイクルが困難といった課題も指摘されてきた。
【0003】
このような課題を克服するために、“ナフィオン”(登録商標)に替わり得る炭化水素系高分子電解質膜の開発が近年活発化している。しかしながら、炭化水素系高分子電解質膜は乾湿サイクルにおける寸法変化が大きい傾向があり、乾湿サイクル耐久性向上のため寸法変化を低減することが求められていた。
【0004】
そこで、燃料電池の乾湿サイクルに伴う電解質膜の寸法変化の抑制を目的として、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)多孔質基材と炭化水素系高分子電解質の複合化が試みられている。一般的に炭化水素系高分子電解質は非プロトン性極性溶媒のみが可溶となるが、非プロトン性極性溶媒はPTFE多孔質基材との親和性が低く、非プロトン性極性溶媒に溶解した炭化水素系高分子電解質溶液はPTFE多孔質基材に含浸することができず、複合電解質膜の作製が困難である。
【0005】
特許文献1には炭化水素系高分子電解質をN-メチルピロリドン(NMP)・メタノール混合溶媒に溶解した上でポリテトラフルオロエチレン(PTFE)からなる多孔質基材を複合化させた複合電解質膜が提案されている。特許文献2にはPTFEからなる多孔質基材にブタノールを浸透させ炭化水素系高分子電解質を複合化させた複合電解質膜が提案されている。特許文献3には、PTFEからなる多孔質基材にプラズマ処理等の親水化処理を施した上で炭化水素系高分子電解質と複合化させた複合電解質膜が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2010-232158号公報
【文献】特開2017-114122号公報
【文献】国際公開第2016/148017号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来作製されてきた炭化水素系高分子電解質とPTFE多孔質基材からなる複合電解質膜の複合層では、2つの材料の親和性の低さから、複合層に空隙が生じる、高分子電解質割合が低く留まる、多孔質基材繊維が凝集する等の構造的問題が生じていた。構造的問題にともなって、作製された複合電解質膜を固体高分子系燃料電池用電解質膜として用いた場合に乾湿サイクル耐久性または発電性能が不十分となっていた。
【0008】
特許文献1に記載の複合電解質膜は、炭化水素系高分子電解質とPTFE多孔質基材の親和性が不十分であり、得られた複合電解質膜に空隙が存在するため、燃料透過が多く、また乾湿サイクル耐久性にも課題があった。加えて、炭化水素系高分子電解質溶液をPTFE多孔質基材に含浸した後の乾燥工程では、メタノールがNMPに先行して揮発、乾燥工程中に含浸した炭化水素系高分子電解質溶液とPTFE多孔質基材の親和性が低下することで、多孔質基材と高分子電解質から形成される複合層中の高分子電解質割合の低下および多孔質基材繊維の凝集が生じることで、発電性能にも課題があった。
【0009】
特許文献2については、文献記載の条件にて複合化を検討した結果、複合電解質膜を得ることはできなかった。
【0010】
特許文献3に記載の複合電解質膜では、PTFE多孔質基材の親水化処理により炭化水素系高分子電解質との親和性が向上し複合化出来ているものの、プラズマや金属ナトリウムなどの親水化処理は多孔質基材の表層と深層とで親水化処理の度合いにムラが生じる。また、反応性が非常に高いため、親水化処理の進行を制御することは困難であり、過度に親水化処理を行うと多孔質基材が損傷させ、機械強度を低減させてしまう。そのため、複合化時におけるPTFE多孔質基材繊維の凝集を防ぐに十分な親和性を与えるために親水化処理を実施すると、多孔質基材が損傷し、複合電解質膜の機械強度が不十分となる。一方で多孔質基材が損傷しない範囲で親水化処理を行うと、炭化水素系高分子電解質とPTFE多孔質基材の親和性が低くなり、複合層での空隙発生、高分子電解質充填量の低下、多孔質基材繊維の凝集が生じてしまう。
【0011】
本発明は、炭化水素系高分子電解質と含フッ素高分子多孔質基材からなる複合電解質膜において、高いプロトン伝導能および高い乾湿サイクル耐久性の達成を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため本発明の複合電解質膜は、次の構成を有する。すなわち、
炭化水素系高分子電解質と含フッ素高分子多孔質基材とが複合化された複合層を有する複合電解質膜であって、複合層中の炭化水素系高分子電解質と含フッ素高分子多孔質基材の分布を示すフラクタル次元Dが1.7以上である複合電解質膜、である。
【0013】
本発明の触媒層付電解質膜は、次の構成を有する。すなわち、
上記複合電解質膜に触媒層を積層してなる触媒層付電解質膜、である。
【0014】
本発明の膜電極複合体は、次の構成を有する。すなわち、
上記複合電解質膜を用いて構成されてなる膜電極複合体、である。
【0015】
本発明の固体高分子形燃料電池は、次の構成を有する。すなわち、
上記複合電解質膜を用いて構成されてなる固体高分子型燃料電池、である。
【0016】
本発明の複合電解質膜の製造方法は、次の構成を有する。すなわち、
工程1:フッ素系界面活性剤またはポリフッ化ビニリデンを含む溶液を含フッ素高分子多孔質基材に含浸し、溶媒を除去する工程;
工程2:炭化水素系高分子電解質溶液を工程1で得られた含フッ素高分子多孔質基材に含浸、溶媒を除去する工程;
を有する上記複合電解質膜の製造方法、である。
【0017】
本発明の複合電解質膜は、含水引張弾性率が20N/cm以上であることが好ましい。
【0018】
本発明の複合電解質膜は、前記含フッ素高分子多孔質基材の酸素原子含有量が5質量%以下であることが好ましい。
【0019】
本発明の複合電解質膜は、前記含フッ素高分子多孔質基材に70質量%以上のフッ素原子が含まれていることが好ましい。
【0020】
本発明の複合電解質膜は、前記炭化水素系高分子電解質がイオン性基を有する芳香族炭化水素系ポリマーであることが好ましい。
【0021】
本発明の触媒層付電解質膜は、前記イオン性基を有する芳香族炭化水素系ポリマーが、イオン性基を含有するセグメント(A1)とイオン性基を含有しないセグメント(A2)をそれぞれ1個以上含有するブロック共重合体であることが好ましい。
【0022】
本発明の複合電解質膜は、少なくとも添加剤としてフッ素系界面活性剤またはポリフッ化ビニリデンを含有することが好ましい。
【0023】
本発明の複合電解質膜は、前記添加剤が複合層中に偏在していることが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明により、高プロトン伝導能と高乾湿サイクル耐久性を有する複合電解質膜を提供することができる。また、本発明の複合電解質膜を用いることで、優れた発電特性を有し、長期継続運転可能なを有する固体高分子形燃料電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図2】界面亀裂数有無の判定方法の一例を示す図である。
【
図3】実施例22に使用したロール膜作製装置の模式図である。
【
図4】比較例4に使用したロール膜作製装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明について詳細に説明する。以下本明細書において「~」は、その両端の数値を含む範囲を表すものとする。
【0027】
〔炭化水素系高分子電解質〕
炭化水素系高分子電解質とは、イオン性基を有する炭化水素系ポリマーからなる電解質である。炭化水素系ポリマーとしては、主鎖に芳香環を有する芳香族炭化水素系ポリマーが好適である。ここで、芳香環は、炭化水素系芳香環だけでなく、ヘテロ環を含んでいてもよい。また、芳香環ユニットと共に一部脂肪族系ユニットがポリマーを構成していてもよい。
【0028】
芳香族炭化水素系ポリマーの具体例としては、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンオキシド、ポリアリーレンエーテル系ポリマー、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリパラフェニレン、ポリアリーレン系ポリマー、ポリアリーレンケトン、ポリエーテルケトン、ポリアリーレンホスフィンホキシド、ポリエーテルホスフィンホキシド、ポリベンゾオキサゾール、ポリベンゾチアゾール、ポリベンゾイミダゾール、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリイミドスルホンから選択される構造を芳香環とともに主鎖に有するポリマーが挙げられる。なお、ここでいうポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン等は、その分子鎖にスルホン結合、エーテル結合、ケトン結合を有している構造の総称であり、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトンケトン、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン、ポリエーテルケトンスルホンなどを含む。炭化水素骨格は、これらの構造のうち複数の構造を有していてもよい。これらのなかでも、芳香族炭化水素系ポリマーとして特にポリエーテルケトン骨格を有するポリマー、すなわちポリエーテルケトン系ポリマーが最も好ましい。
【0029】
炭化水素系高分子電解質としては、共連続様またはラメラ様の相分離構造を形成するものが好適である。このような相分離構造は、例えばイオン性基を有する親水性ポリマーとイオン性基を有さない疎水性ポリマーのような非相溶な2種以上のポリマーブレンドからなる成形体や、イオン性基を含有するセグメント(A1)とイオン性基を含有しないセグメント(A2)のような非相溶な2種以上のセグメントからなるブロック共重合体などにおいて発現し得る。共連続様およびラメラ様の相分離構造においては、親水性ドメインおよび疎水性ドメインがいずれも連続相を形成するため、連続したプロトン伝導チャネルが形成されることによりプロトン伝導性に優れる高分子電解質成形体を得ることができる。ここでドメインとは、一つの成形体において、類似する物質やセグメントが凝集してできた塊のことを意味する。
【0030】
イオン性基を有する炭化水素系ポリマーとしては、イオン性基を含有するセグメント(A1)とイオン性基を含有しないセグメント(A2)をそれぞれ1個以上有するブロック共重合体が好ましい。ここで、セグメントとは、特定の性質を示す繰り返し単位からなる共重合体ポリマー鎖中の部分構造であって、分子量が2000以上のものを表すものとする。ブロック共重合体を用いることで、ポリマーブレンドと比較して微細なドメインを有する共連続様の相分離構造を発現させることが可能となり、より優れた発電性能、乾湿サイクル耐久性を達成できる。
【0031】
以下、イオン性基を含有する芳香族炭化水素セグメント(A1)もしくはポリマーを「イオン性ブロック」、イオン性基を含有しない芳香族炭化水素セグメント(A2)もしくはポリマーを「非イオン性ブロック」と表記することがある。もっとも、本明細書における「イオン性基を含有しない」という記載は、当該セグメントもしくはポリマーが相分離構造の形成を阻害しない範囲でイオン性基を少量含んでいる態様を排除するものではない。
【0032】
このようなブロック共重合体としては、非イオン性ブロックに対するイオン性ブロックのモル組成比(A1/A2)が、0.20以上であることが好ましく、0.33以上であることがより好ましく、0.50以上であることがさらに好ましい。また、モル組成比(A1/A2)は5.00以下であることが好ましく、3.00以下であることがより好ましく2.50以下であることがさらに好ましい。モル組成比(A1/A2)が、上記好ましい範囲の場合には、低加湿条件下でのプロトン伝導性が不足せず、耐熱水性や物理的耐久性が不足しない。ここで、モル組成比A1/A2とは、非イオン性ブロック中に存在する繰り返し単位のモル数に対するイオン性ブロック中に存在する繰り返し単位のモル数の比を表す。「繰り返し単位のモル数」とは、イオン性ブロック、非イオン性ブロックの数平均分子量をそれぞれ対応する構成単位の分子量で除した値とする。
【0033】
芳香族炭化水素系ポリマーが有するイオン性基は、プロトン交換能を有するイオン性基であればよい。このような官能基としては、スルホン酸基、スルホンイミド基、硫酸基、ホスホン酸基、リン酸基、カルボン酸基が好ましく用いられる。イオン性基はポリマー中に2種類以上含むことができる。中でも、高プロトン伝導度の点から、ポリマーはスルホン酸基、スルホンイミド基、硫酸基から選ばれる少なくとも1つを有することがより好ましく、原料コストの点からスルホン酸基を有することが最も好ましい。
【0034】
本発明においては、炭化水素系高分子電解質を組成する芳香族炭化水素系ポリマーとして芳香族炭化水素系ブロック共重合体を用いることが好ましく、ポリエーテルケトン系ブロック共重合体であることがより好ましい。特に、下記のようなイオン性基を含有する構成単位(S1)を含むセグメントと、イオン性基を含有しない構成単位(S2)を含むセグメントとを含有するポリエーテルケトン系ブロック共重合体は特に好ましく用いることができる。
【0035】
【0036】
(一般式(S1)中、Ar1~Ar4は任意の2価のアリーレン基を表し、Ar1および/またはAr2はイオン性基を含有し、Ar3およびAr4はイオン性基を含有しても含有しなくても良い。Ar1~Ar4は任意に置換されていても良く、互いに独立して2種類以上のアリーレン基が用いられても良い。*は一般式(S1)または他の構成単位との結合部位を表す。)
【0037】
【0038】
(一般式(S2)中、Ar5~Ar8は任意の2価のアリーレン基を表し、任意に置換されていても良いが、イオン性基を含有しない。Ar5~Ar8は互いに独立して2種類以上のアリーレン基が用いられても良い。*は一般式(S2)または他の構成単位との結合部位を表す。)
ここで、Ar1~Ar8として好ましい2価のアリーレン基は、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニレン基、フルオレンジイル基などの炭化水素系アリーレン基、ピリジンジイル、キノキサリンジイル、チオフェンジイルなどのヘテロアリーレン基などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。Ar1~Ar8は、好ましくはフェニレン基とイオン性基を含有するフェニレン基、最も好ましくはp-フェニレン基とイオン性基を含有するp-フェニレン基である。また、Ar5~Ar8はイオン性基以外の基で置換されていてもよいが、無置換である方がプロトン伝導性、化学的安定性、乾湿サイクル耐久性の点でより好ましい。
【0039】
〔含フッ素高分子多孔質基材〕
含フッ素高分子多孔質基材(以下、単に「多孔質基材」という場合がある。)とは、フッ素原子を有する高分子によって成形されてなる多孔質基材である。フッ素原子を有する高分子は一般的に疎水性の化合物であるため、炭化水素系高分子電解質と複合化することにより、複合電解質膜に耐水性を付与し吸水時の寸法変化を抑制することが出来る。また、一般にフッ素原子を有する高分子化合物は薬品への溶解性が低く化学反応に対し安定であるため、複合電解質膜に耐薬品性、化学的耐久性も付与することが出来る。
【0040】
本発明においては、多孔質基材として、X線光電子分光法(XPS)により測定される酸素原子含有量が10質量%以下のものが好ましく、8%以下のものがより好ましく、5%以下のものがさらに好ましい。酸素原子含有量が上記好ましい範囲の場合、多孔質基材の吸水性が増加せず、複合電解質膜が吸水した際の寸法変化を抑制できる。多孔質基材の酸素原子含有量は、具体的には後述する実施例第(13)項に記載の方法で測定することが出来る。
【0041】
多孔質基材は、耐水性の観点から50質量%以上のフッ素原子を含有していることが好ましく、60質量%以上のフッ素原子を含有していることがより好ましく、70質量%以上のフッ素原子を含有していることが特に好ましい。多孔質基材におけるフッ素原子含有量は、多孔質基材を燃焼させて発生したガスを吸収させた溶液のイオンクロマトグラフィーにより測定した値であるものとし、具体的には後述する実施例第(8)項に記載の方法で測定することができる。
【0042】
なお、高分子電解質と複合化された後の複合電解質膜中に存在する多孔質基材の分析を行う場合、複合電解質膜を高分子電解質のみを溶解する溶媒に浸漬することで多孔質基材のみを取り出すことが可能である。用いる溶媒は、高分子電解質材料の化学種や高次構造により選択すべきものであるが、例えば、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ヘキサメチルホスホントリアミド等の非プロトン性極性溶媒、γ-ブチロラクトン、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶媒、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどのカーボネート系溶媒、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテルなどが好適である。
【0043】
多孔質基材を構成するフッ素原子含有高分子としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリビニリデンジフルオリド(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、パーフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)、エチレンクロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)などが挙げられるがこれらに限定されない。耐水性の観点から、PTFE、ポリヘキサプロピレン、FEP、PFAが好ましく、分子配向により高い機械強度を有することから、PTFEが特に好ましい。
【0044】
多孔質基材の形態としては、空孔の無い多孔質膜を膜面方向に延伸し微細な空孔を形成させた延伸微多孔膜や、フッ素原子含有高分子化合物溶液を調製し製膜した後、溶媒を含んだままの状態でフッ素原子含有高分子化合物の貧溶媒に浸漬し凝固させた湿式凝固微多孔膜、フッ素原子含有高分子化合物溶液を紡糸した溶液紡糸ファイバーからなる不織布、フッ素原子含有高分子化合物を溶融し紡糸した溶融紡糸ファイバーからなる不織布などが挙げられる。溶液紡糸の方法としては、口金より高圧を加え繊維状に吐出したフッ素原子含有高分子溶液を熱風により乾燥させる乾式紡糸法や、繊維状に吐出したフッ素原子含有高分子溶液を当該フッ素原子含有高分子化合物の貧溶媒に浸漬し凝固させる湿式紡糸法、高電圧を引加した空間へフッ素原子含有高分子溶液を吐出し静電気により繊維状に引っ張るエレクトロスピニングなどが挙げられる。溶融紡糸法としては、溶融したフッ素原子含有高分子を口金より繊維状に吐出したメルトブロー紡糸が挙げられる。
【0045】
本発明で使用する多孔質基材の厚みに特に制限はなく、複合電解質膜の用途によって決めるべきものであるが、0.5~50μmの膜厚を有するものが実用的に用いられ、2μm以上40μm以下の膜厚を有するものが好ましく用いられる。
【0046】
炭化水素系高分子電解質と複合化する前の多孔質基材の空隙率は、特に限定されないが、得られる複合電解質膜のプロトン伝導性と機械強度の両立の観点から、50~98%が好ましく、80~98%がより好ましい。なお、多孔質基材の空隙率Y1(体積%)は下記の数式によって求めた値と定義する。
【0047】
Y1=(1-Db/Da)×100
Da:含フッ素高分子多孔質基材を構成する高分子の比重
Db:含フッ素高分子多孔質基材全体の比重
〔フッ素系界面活性剤〕
本発明で用いるフッ素系界面活性剤(以下、単に「界面活性剤」という場合がある)は、アルキル基、アルケニル基またはアリール基中の水素原子をフッ素原子で置換した、フッ化アルキル基、フッ化アルケニル基またはフッ化アリール基からなるフッ素含有基と、親媒基(親水性基または親油性基)とを有する化合物であることが好ましい。
【0048】
親媒基としては非イオン性の親媒基が好ましい。親媒基が非イオン性の場合、水への親和性が低くなるため、電解質膜の添加剤としてフッ素系界面活性剤を使用した場合に、電解質膜からフッ素系界面活性剤が溶出し難く、含フッ素高分子多孔質基材と炭化水素系高分子電解質の界面で剥離が生じ難く、機械耐久が低下し難い。
【0049】
フッ素含有基は、アルキル基、アルケニル基またはアリール基中の全ての水素原子をフッ素原子で置換した、パーフルオロアルキル基、パーフルオロアルケニル基またはパーフルオロアリール基が好ましい。
【0050】
フッ素含有基としては、界面活性効果が優れることから、フッ化アルケニル基またはフッ化アリール基がより好ましく、柔軟な構造を有し高い界面活性作用を示すことから、フッ化アルケニル基がさらに好ましい。
【0051】
フッ素含有基は、炭素数が2個以上であることが好ましく、4個以上であることがより好ましく、6個以上であることが特に好ましい。また、炭素数が20個以下であることが好ましく、15個以下であることがより好ましく、10個以下であることが特に好ましい。炭素数が上記好ましい範囲の場合、揮発性、水溶性が低く電解質膜中に残存し易く乾湿サイクル耐久性が低下し難い。
【0052】
具体的には、フッ化アルキル基としては、フッ化エチル基、フッ化プロピル基、フッ化ブチル基、フッ化ペンチル基、フッ化ヘキシル基、フッ化ヘプチル基、フッ化オクチル基、フッ化ノニル基、フッ化デシル基を挙げることができる。また、フッ化アルケニル基としては、フッ化エテニル基、フッ化プロペニル基、フッ化ブテニル基、フッ化ペンテニル基、フッ化ヘキセニル基、フッ化ヘプテニル基、フッ化オクテニル基、フッ化ノネニル基、フッ化デセニル基を挙げることができる。その中でも、揮発性、水溶性が低く電解質膜中に残存し易いことからフッ化ヘキシル基、フッ化ヘプチル基、フッ化オクチル基、フッ化ノニル基、フッ化デシル基、フッ化ヘキセニル基、フッ化ヘプテニル基、フッ化オクテニル基、フッ化ノネニル基、フッ化デセニル基がより好ましい。ここで、「フッ化エチル基」としては、1官能基中に含まれるフッ素原子の数によりモノフルオロエチル基、ジフルオロエチル基、トリフルオロエチル基、テトラフルオロエチル基、ペンタフルオロエチル基の5種類の官能基が有り得るが、本明細書において「フッ化エチル基」はこれらの総称として用いる。「フッ化プロピル基」や「フッ化ブチル基」などのその他の官能基についても同様である。また、前記ジフルオロエチル基の場合、2個のフッ素原子を有する官能基であり1,1-ジフルオロエチル基、1,2-ジフルオロエチル基、2,2-ジフルオロエチル基という3種類の構造異性体が存在するが、本明細書において「ジフルオロエチル基」はこれらの総称として用いる。「トリフルオロエチル基」や「テトラフルオロエチル基」などのその他の官能基についても同様である。
【0053】
フッ素含有基の構造は、直鎖状、分岐鎖状、環状等であることができるが、中でも分岐鎖状の構造を有する場合、フッ素化合物同士の相互作用が弱くなり、表面張力が低下し易いため好ましい。本発明においては、特に下記式(F1)に示す構造からなるフッ素含有基を有する界面活性剤が特に好ましい。
【0054】
【0055】
(式(F1)において*は他の原子団との結合箇所を意味する。)
フッ素系界面活性剤としては、フッ素原子を1分子内に10質量%以上有する化合物が好適に用いられる。フッ素原子を20質量%以上有する化合物はより好ましく、フッ素原子を40質量%以上有する化合物は更に好ましい。1分子内のフッ素原子含有量が上記好ましい範囲の場合、炭化水素系高分子電解質と含フッ素高分子多孔質基材との親和性向上効果が十分であり、複合層中に十分に炭化水素系高分子電解質を充填でき、含フッ素高分子多孔質基材繊維が凝集する等の問題が生じ難い。
【0056】
親媒性基は、親水性基あるいは親油性基であることができる。
親水性基は、酸素、窒素、リン、硫黄およびホウ素からなる群より選択される親水性元素を有する官能基であり、ポリエーテル基、カルボン酸エステル基、スルホン酸エステル基、亜リン酸エステル基またはリン酸エステル基を含む基が好ましく、イオン性基との水素結合を形成することにより高分子電解質との親和性に優れ且つ化学的安定性にも優れることからポリエーテル基を含む基がより好ましい。その中でも、下記一般式(C1)に示すポリアルキルエーテル構造または一般式(C2)に示すポリアクリレート構造を有する基が好ましく、特に高分子電解質との親和性に優れることから一般式(C1)に示すポリアルキルエーテルがより好ましい。
【0057】
【0058】
(一般式(C1)においてq、rはr=2qを満たす自然数であり、sはアルキルエーテル構造の繰り返し数を意味する1以上1,000以下の整数である。一般式(C2)において、Rは水素原子、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルケニル基、炭素数6~20のアリール基から選ばれる少なくとも一種の基であり、tはアクリレート構造の繰り返し数を意味する1以上1,000以下の整数である。(C1)または(C2)においてsまたはtが2以上である場合、複数のアルキルエーテル構造またはアクリレート構造は、それぞれ同じでも異なっていてもよい。)
親油性基としては、フッ素原子を含まない、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、フェニル基が挙げられる。
【0059】
フッ素系界面活性剤としては、150℃における蒸気圧が2kPa未満の化合物が好ましく、150℃における蒸気圧が1kPa以下の化合物が特に好ましく、沸点を有さない、すなわち沸騰することなく熱分解を開始する化合物が最も好ましい。本発明においては特に、フッ素系界面活性剤が、熱重量示差熱分析における5%重量減少温度が150℃以上の化合物であることが好ましい。かかるフッ素系界面活性剤であれば製膜時に揮発・分解しないため複合電解質膜中に残存させることができ、優れた物理的耐久性を得ることができる。
【0060】
フッ素系界面活性剤の重量平均分子量は1,000以上であることが好ましく、1,500以上であることがより好ましく、2,000以上であることが更に好ましい。フッ素系界面活性剤の重量平均分子量が1,000未満の場合、製膜における乾燥工程中の揮発や電解質膜溶液への溶解により、炭化水素系高分子電解質と含フッ素高分子多孔質基材との親和性が低下し、複合層中の炭化水素家高分子電解質割合の低下、含フッ素高分子多孔質基材繊維の凝集が生じることがある。
【0061】
フッ素系界面活性剤としては、フッ素含有基の分子量が200以上であることが好ましく、400以上であることがより好ましく、1,000以上であることが更に好ましい。フッ素含有基の分子量が上記好ましい範囲の場合、フッ素含有基における分子鎖の柔軟性や自由度が不足することなく、炭化水素系高分子電解質と含フッ素高分子多孔質基材との親和性が十分で、複合層中の炭化水素家高分子電解質割合の低下を防ぎ、含フッ素高分子多孔質基材繊維の凝集が生じることがない。
【0062】
本発明で好ましく用いられる非イオン性フッ素系界面活性剤としては、例えば、DIC(株)製の“メガファック”(登録商標)F-251、同F-253、同F-281、同F-430、同F-477、同F-551、同F-552、同F-553、同F-554、同F-555、同F-556、同F-557、同F-558、同F-559、同F-560、同F-561、同F-562、同F-563、同F-565、同F-568、同F-570、同F-572、同F-574、同F-575、同F-576、同R-40、同R-40-LM、同R-41、同R-94、同RS-56、同RS-72-K、同RS-75、同RS-76-E、同RS-76-NS、同DS-21、同F444、同TF-2066、AGC(株)製の“サーフロン”(登録商標)S-141、同S-145、同S-241、同S-242、同S-243、同S-386、同S-420、同S-611、同S-651、(株)ネオス製の“フタージェント”(登録商標)251、同208M、同212M、同215M、同250、同209F、同222F、同245F、同208G、同218GL、同240G、同212P、同220P、同228P、同FTX-218、同DFX-18、同710FL、同710FM、同710FS、同730FL、同730FM、同610FM、同683、同601AD、同601ADH2、同602A、同650AC、同681、三菱マテリアル電子化成(株)製のEF-PP31N04、EF-PP31N09、EF-PP31N15、EF-PP31N22、3M社製のFC-4430、FC-4432、OMNOVA SOLUTIONS社製のPF-151N、PF-636、PF-6320、PF-656、PF-6520、PF-652-NF、PF-3320、ダイキン工業(株)製のTG-9131、“ゼッフル”(登録商標)GH-701、ソルベイジャパン(株)製の“フルオロリンク”(登録商標)A10-P等を挙げることができる。
【0063】
また、ポリフッ化ビニリデンもフッ素系界面活性剤として用いることができ、炭化水素系高分子電解質と含フッ素高分子多孔質基材の親和性向上の機能を果たす。
【0064】
〔ポリフッ化ビニリデン〕
ポリフッ化ビニリデンとは、フッ化ビニリデンの単独重合体(すなわち、純粋なポリフッ化ビニリデン)のほか、フッ化ビニリデンと他の共重合可能なモノマーとの共重合体も含むものとする。フッ化ビニリデンと共重合可能なモノマーとしては、例えば、テトラフルオロエチレン、ヘキサフロロプロピレン、トリフロロエチレン、トリクロロエチレンあるいはフッ化ビニル等の一種類又は二種類以上を用いることができる。このようなポリフッ化ビニリデン系樹脂は、乳化重合または懸濁重合により得ることが可能である。
【0065】
本発明で使用するポリフッ化ビニリデンとしては、分子量が大きいと炭化水素系高分子電解質と含フッ素高分子多孔質基材との接着性が向上する。そのためポリフッ化ビニリデンの重量平均分子量は30万以上が好ましく、50万以上がより好ましい。
【0066】
ここでは、ポリフッ化ビニリデンをフッ素系界面活性剤の1種とする。
【0067】
〔複合電解質膜〕
本発明の複合電解質膜は、前述の炭化水素系高分子電解質と、前述の含フッ素高分子多孔質基材とが複合化した複合層を有するものであり、かつ当該複合層の断面原子力間顕微鏡(AFM)観察において、複合層中の炭化水素系高分子電解質と含フッ素高分子多孔質基材の分布を示すフラクタル次元Dが1.7以上である。フラクタル次元Dが1.7に満たないと、補強層のポリマー割合が低い、または含フッ素多孔質基材繊維が凝集していることを表し、乾湿サイクル耐久性やプロトン電導度および発電性能が低下する問題点がある。フラクタル次元Dは1.75以上がより好ましく、1.8以上が特に好ましい。フラクタル次元Dは複合層中の炭化水素系高分子電解質割合が増加、または含フッ素高分子多孔質基材繊維の分散性が高くなると2.0に近づく値であり、逆に炭化水素系高分子電解質割合が減少、含フッ素高分子多孔質基材が凝集すれば、0に近づく値である。断面AFM観察およびフラクタル次元の詳細な算出方法については、実施例(14)、(15)に記載の方法で行うものとする。
【0068】
複合層における炭化水素系高分子電解質の充填率は50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましい。複合層の充填率が上記好ましい範囲であると、プロトンの伝導パスが失われ難く、発電性能が低下し難い。なお、本発明における複合層の充填率は、複合層の総体積に対し高分子電解質が占める割合を示す値であり、具体的には実施例の欄(3)項に記載の方法で測定するものとする。
【0069】
本発明の複合電解質膜は、このような複合層1層からなるものでもよく、複合層を2層以上積層したものであってもよい。積層する場合、異なる充填率を有する複数の複合層を積層したものであってもよい。また、複合層の両側または片側に接して、炭化水素系高分子電解質のみからなる多孔質基材等の補強材と複合化されていない高分子電解質層を有していてもよい。このような層を有することにより、複合電解質膜と電極の接着性を向上させ、界面剥離を抑制することができる。
【0070】
本発明の複合電解質膜は、複合層を有することにより、面方向の寸法変化率を低減することができる。面方向の寸法変化率の低下により、燃料電池の電解質膜として用いた際に、乾湿サイクル時に電解質膜のエッジ部分等に発生する膨潤収縮によるストレスを低減し、耐久性を向上させることができる。複合電解質膜の面方向の寸法変化率λxyは、10%以下であることが好ましく、8%以下であることがより好ましく、5%以下であることがさらに好ましい。
【0071】
また、複合電解質膜における面方向の寸法変化率は、MD、TD方向の異方性が小さいことが好ましい。異方性が小さい場合、燃料電池のセルデザインの制約が少なく、寸法変化の大きい方向と直交するエッジに膨潤収縮によるストレスが集中し難く、電解質膜の破断の起点になり難い。具体的には、複合電解質膜の面方向における、TD方向の寸法変化率λTDに対するMD方向の寸法変化率λMDの比λMD/λTDが、0.5<λMD/λTD<2.0を満たすことが好ましい。ここで、寸法変化率とは、乾燥状態における複合電解質膜の寸法と湿潤状態における複合電解質膜の寸法の変化を表す指標であり、具体的な測定は実施例の欄(4)項に記載の方法で行う。
【0072】
本発明の複合電解質膜は、幅当たりの含水引張弾性率20N/cm以上であることが好ましく、30N/cm以上であることがより好ましく、40N/cm以上であることが更に好ましい。幅当たりの含水引張弾性率が20N/cm以上であれば含水状態における電解質膜の軟化を抑制することができ、燃料電池としての物理的耐久性をより向上させることができる。含水引張弾性率の具体的な測定は実施例の欄(17)項に記載の方法で行う。
【0073】
本発明の複合電解質膜における複合層の厚みは、とくに限定されるものでないが、0.5μm以上50μm以下が好ましく、2μm以上40μm以下がより好ましい。複合層が上記好ましい範囲の場合、電解質膜の機械耐久性を維持しつつ、膜抵抗が増大するのを防止できる一方、発電性能を向上しつつ、機械耐久性にも優れ、電気短絡や燃料透過などの問題が生じ難い。
【0074】
複合電解質膜におけるフッ素系界面活性剤の含有量は、複合電解質膜に含まれる炭化水素系高分子電解質の総量に対する質量比で、0.005以上が好ましく、0.01以上がより好ましい。また、0.20以下が好ましく、0.10以下がより好ましい。当該比が上記好ましい範囲の場合、炭化水素系高分子電解質と含フッ素高分子多孔質基材との親和性が十分であり、複合層中の炭化水素家高分子電解質割合が低下し難く、含フッ素高分子多孔質基材繊維の凝集が生じ難い一方、界面活性剤が過剰とならず電解質膜のプロトン伝導度が低下し難い。なお、ここでの界面活性剤の含有量は、完成した電解質膜中に残存している界面活性剤の量であり、製造過程で脱落した界面活性剤は除外した量を意味するものとする。
【0075】
複合電解質膜におけるフッ素系界面活性剤は、複合層の電解質中に偏在しているのが好ましい。偏在しているとは、具体的には「(複合層中に含まれるフッ素系界面活性剤質量/電解質割合)/複合層膜厚」の値が、「単層中に含まれるフッ素系界面活性剤質量/単層膜厚」に対して、1.2以上であることをいい、2.0以上がより好ましい。フッ素系界面活性剤の好ましい使用形態は含フッ素高分子多孔質基材にコーティング、その後に炭化水素系高分子電解質溶液を含浸することで、炭化水素系高分子電解質と含フッ素高分子多孔質基材を複合化する。コーティングされたフッ素系界面活性剤は含浸・乾燥工程で炭化水素系高分子電解質溶液中に一部溶解、単層中に移動する場合がある。溶解量が多過ぎず適度であると、炭化水素系高分子電解質と含フッ素高分子多孔質基材の親和性が十分となり、複合層中の炭化水素系高分子電解質割合が低下せず、含フッ素高分子多孔質基材繊維の凝集が生じ難い。つまり、複合層中の炭化水素系高分子電解質割合が高く、含フッ素高分子多孔質基材繊維の分散性が高い補強膜でも、フッ素系界面活性剤が複合層中に偏在し難い。電解質溶液にフッ素系界面活性剤を添加する場合においても、複合層中にフッ素系界面活性剤が偏在するように乾燥方法等を工夫することが好ましい。
【0076】
〔複合電解質膜の製造方法〕
本発明において、複合電解質膜は第一の態様として、炭化水素系高分子電解質溶液を含フッ素高分子多孔質基材に含浸した後に、乾燥させて炭化水素系高分子電解質溶液に含まれる溶媒を除去することにより製造することができる。このとき、炭化水素系高分子電解質溶液に前記フッ素系界面活性剤を予め混合した上で多孔質基材に含浸する方法である第一の態様、および後述の第二の態様の製造方法で使用する、炭化水素系高分子電解質、含フッ素高分子多孔質基材およびフッ素系界面活性剤の詳細は前述の通りであるため、ここでは省略する。
【0077】
炭化水素系高分子電解質溶液におけるフッ素系界面活性剤の含有量は炭化水素系高分子電解質の総量に対する質量比として、0.005以上が好ましく0.01以上がより好ましい。また、0.20以下が好ましく、0.10以下がより好ましい。当該比が上記好ましい範囲の場合、炭化水素系高分子電解質溶液と含フッ素高分子多孔質基材の親和性が十分となり、複合層中の炭化水素系高分子電解質割合が低下せず、含フッ素高分子多孔質基材繊維の凝集が生じ難い一方、界面活性剤が過剰とならず電解質膜のプロトン伝導度が低下し難い。
【0078】
また、本発明において、複合電解質膜はより好ましく適用される第二の態様として、予めフッ素系界面活性剤を付与した含フッ素高分子多孔質基材に炭化水素系高分子電解質溶液を含浸、乾燥させて、前記含浸溶液に含まれる溶媒を除去することによっても製造することができる。
【0079】
この場合、フッ素系界面活性剤を含フッ素高分子多孔質基材に付与する方法としては、次の方法が挙げられる。
(1)フッ素系界面活性剤溶液に浸漬した含フッ素高分子多孔質基材を引き上げながら余剰の溶液を除去して付与量を制御する方法、
(2)含フッ素高分子多孔質基材上にフッ素系界面活性剤溶液を流延塗布する方法、
(3)フッ素系界面活性剤溶液を流延塗布した支持基材上に含フッ素高分子多孔質基材を貼り合わせて含浸させる方法。
【0080】
第二の態様で用いる炭化水素系高分子電解質溶液にも前記フッ素系界面活性剤を予め混合しても良い。
【0081】
フッ素系界面活性剤が液状やオイル状の場合は、前記フッ素系界面活性剤溶液の代わりに、フッ素系界面活性剤そのものを含浸させても構わないが、含フッ素高分子多孔質基材へ界面活性剤が浸透しやすくなるように粘度を調整したり、過剰量の界面活性剤が付与されないように希釈したりするために、所定の溶媒を用いて溶解させたフッ素系界面活性剤溶液を用いることが好ましい。
【0082】
フッ素系界面活性剤溶液を流延塗布する方法としては、ナイフコート、ダイレクトロールコート、マイヤーバーコート、グラビアコート、リバースコート、エアナイフコート、スプレーコート、刷毛塗り、ディップコート、ダイコート、バキュームダイコート、カーテンコート、フローコート、スピンコート、スクリーン印刷、インクジェットコートなどの手法が適用できる。
【0083】
第二の態様においては、フッ素系界面活性剤は、含フッ素高分子多孔質基材の質量を100質量%として、1質量%以上付与することが好ましく3質量%以上付与することがより好ましい。また、同様に30質量%以下付与することが好ましく、20質量%以下付与することがより好ましい。フッ素系界面活性剤の付与量が上記好ましい範囲の場合、高分子電解質と多孔質基材の親和性が低下せず複合化が容易である一方、界面活性剤が過剰とならず含フッ素高分子多孔質基材の空孔を閉塞するのを防ぎ、複合電解質膜のプロトン伝導度が低下し難い。
【0084】
第二の態様においては、フッ素系界面活性剤の付与により含フッ素高分子多孔質基材に炭化水素系高分子電解質溶液が含浸可能となることが好ましい。含フッ素高分子多孔質基材の表面上へ炭化水素系高分子電解質溶液の液滴を配置して120秒以内に透明になるならば、含浸が良好な指標となる。また、含フッ素高分子多孔質基材と炭化水素系高分子電解質の親和性の指標として、炭化水素系高分子電解質溶液の溶媒として使用する非プロトン性極性溶媒が含浸可能となることが好ましい。特に代表的な非プロトン性極性溶媒であるN-メチル-2-ピロリドンの液滴を含フッ素高分子多孔質基材の表面上へ配置して30秒以内に透明になることが好ましく、10秒以内に透明になることがより好ましい。
【0085】
さらに、第二の態様においては、フッ素系界面活性剤として、含浸する炭化水素系高分子電解質溶液の溶媒へ不溶性の化合物を用いることが好ましい。このようなフッ素系界面活性剤を使用した場合、炭化水素系高分子電解質溶液の含浸時に含フッ素高分子多孔質基材から高分子電解質へ界面活性剤が拡散することを防止し、界面活性剤としての機能を十分に発揮しつつ、界面活性剤が存在することによるプロトン伝導度の低下を防止することができる。
【0086】
第一および第二の態様において、炭化水素系高分子電解質溶液の濃度は、3~40質量%が好ましく、5~25質量%がより好ましい。この範囲の濃度であれば、多孔質基材の空隙に炭化水素系高分子電解質を充分に充填でき、かつ表面平滑性に優れた複合層が得られやすくなる。炭化水素系高分子電解質の濃度が上記好ましい範囲であると、多孔質基材の空隙への炭化水素系高分子電解質の充填効率が低下せず、複数回の含浸処理は不要である一方、溶液粘度が高すぎないので、多孔質基材の空隙に対し高分子電解質を充分に充填できる。
【0087】
炭化水素系高分子電解質溶液の粘度は100~50,000mPa・sが好ましく、300~10,000mPa・sがより好ましい。粘度が100mPa・s未満の場合、複合電解質膜の膜厚が不均一となることがある。粘度が上記好ましい範囲の場合、含フッ素高分子多孔質基材の空隙に対し炭化水素系高分子電解質を十分に充填でき、複合電解質膜の表面平滑性が良好である。
【0088】
炭化水素系高分子電解質溶液に使用する溶媒は、ポリマー種によって適宜選択することができる。溶媒としては、例えば、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ヘキサメチルホスホントリアミド等の非プロトン性極性溶媒が好適に用いられる。これらに混合する溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどのカーボネート系溶媒、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテル、メタノール、エタノール、1-プロパノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒、γ-ブチロラクトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル等のエステル系溶媒、ヘキサン、シクロヘキサンなどの炭化水素系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、クロロホルム、ジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、パークロロエチレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素系溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサンなどのエーテル系溶媒、アセトニトリルなどのニトリル系溶媒、ニトロメタン、ニトロエタン等のニトロ化炭化水素系溶媒、水などが用いられる。溶媒としては、単独溶媒でも良く、二種以上を混合した混合溶媒を用いてもよい。
【0089】
炭化水素系高分子電解質溶液を含フッ素高分子多孔質基材に含浸する方法としては、次の方法が挙げられる。
(1)炭化水素系高分子電解質溶液に浸漬した含フッ素高分子多孔質基材を引き上げながら余剰の溶液を除去して膜厚を制御する方法、
(2)含フッ素高分子多孔質基材上に炭化水素系高分子電解質溶液を流延塗布する方法、
(3)炭化水素系高分子電解質溶液を流延塗布した支持基材上に含フッ素高分子多孔質基材を貼り合わせて含浸させる方法。
【0090】
溶媒の乾燥は、(3)の方法で含浸を行った場合はそのままの状態で行うことができる。また、(1)または(2)の方法で含浸を行った場合、別途用意した支持基材に多孔質基材を貼り付けた状態で高分子電解質溶液の溶媒を乾燥する方法が、電解質膜の皺や厚みムラなどが低減でき、膜品位を向上させる点からは好ましい。
【0091】
炭化水素系高分子電解質溶液を流延塗布する方法としては、ナイフコート、ダイレクトロールコート、マイヤーバーコート、グラビアコート、リバースコート、エアナイフコート、スプレーコート、刷毛塗り、ディップコート、ダイコート、バキュームダイコート、カーテンコート、フローコート、スピンコート、スクリーン印刷、インクジェットコートなどの手法が適用できる。ここで炭化水素系高分子電解質溶液を流延塗布するために使用する装置をコーターと呼ぶ。
【0092】
基材上に炭化水素系高分子電解質溶液を塗布した後は、乾燥工程を経ることで、複合電解質膜を形成することができる。乾燥工程では、含フッ素高分子多孔質基材に含侵した炭化水素系高分子電解質溶液の塗膜を加熱し、溶媒を蒸発させる。加熱手段は、溶媒が蒸発できれば特に限定されることはないが、例えば、オーブンやヒーター等の加熱装置、赤外線、温風等を用いて複合電解質膜の近傍の温度を制御する装置等を用いることができる。また、基材を介して塗膜に熱を伝導してもよい。加熱の温度範囲は、溶媒の沸点に近く、電解質膜のガラス転移温度以下であることが好ましい。また、加熱せず、減圧や気流の導入のみで溶媒を除去することも可能である。
【0093】
乾燥手順としては、
(1)基材上に炭化水素系高分子電解質溶液を塗布、含フッ素高分子多孔質基材を貼り合わせて乾燥、乾燥後の膜上面に炭化水素系電解質溶液を塗布して乾燥することで複合電解質膜を得る方法。
(2)基材上に炭化水素系高分子電解質溶液を塗布、含フッ素高分子多孔質基材を貼り合わせて、未乾燥の膜上面に炭化水素系電解質溶液を豆腐して乾燥することで複合電解質膜を得る方法。
が挙げられる。特にロールツーロール(Roll to Roll)プロセスにおいては、補強層中へのポリマー充填量を増やせる、プロセスを1つ減らせるという点で(2)の方法が好ましい。
【0094】
乾燥工程における乾燥時間や乾燥温度は適宜実験的に決めることができるが、少なくとも基材から剥離しても自立膜になる程度に乾燥することが好ましい。乾燥の方法は基材の加熱、熱風、赤外線ヒーター等の公知の方法が選択できる。乾燥温度は、高分子電解質や界面活性剤の分解を考慮して200℃以下が好ましく、150℃以下がより好ましい。
【0095】
溶液中の炭化水素系高分子電解質は、イオン性基がアルカリ金属またはアルカリ土類金属の陽イオンと塩を形成している状態のものを用いてもよい。この場合、基材上に膜を形成し乾燥工程を経た後に、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の陽イオンをプロトンと交換する工程を有することも好ましい。この工程は、形成された膜を酸性水溶液と接触させる工程であることがより好ましい。また、当該接触は、形成された膜を酸性水溶液に浸漬する工程であることが更に好ましい。この工程においては、酸性水溶液中のプロトンがイオン性基とイオン結合している陽イオンと置換されるとともに、残留している水溶性の不純物や、残存モノマー、溶媒、残存塩などが同時に除去される。酸性水溶液は特に限定されないが、硫酸、塩酸、硝酸、酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸、メタンスルホン酸、リン酸、クエン酸などを用いることが好ましい。酸性水溶液の温度や濃度等も適宜決定すべきであるが、生産性の観点から0℃以上80℃以下の温度で、3質量%以上、30質量%以下の硫酸水溶液を使用することが好ましい。
【0096】
〔触媒層付き電解質膜の製造方法〕
触媒層付電解質膜(Catalyst Coated Membrane;以下、CCM)は、このようにして得られた電解質膜の両面に触媒層を形成することで製造される。触媒層を形成する方法は特に限定されるものではないが、工程が簡便であることやプロセスコストを抑制できることから、触媒層インクを塗布して乾燥する方法や、予めデカール基材上に触媒層が形成されてなる触媒層デカールを用いて触媒層を転写した後に乾燥する方法が好ましい。
【0097】
触媒層インクを塗布する方法の場合、塗布方法は、目的の形状に塗工できる方法であれば特に限定されることはなく、前述の混合溶液の塗布工程で述べた方法を用いることができる。
【0098】
触媒層インクに含まれる溶媒は、イオン性基含有高分子電解質および触媒担持炭素粒子を分散する溶媒であれば特に限定されることはないが、加熱により蒸発させて除去しやすい溶媒が好ましい。例えば、沸点が140℃以下の溶媒であることが好ましい。触媒層インクの溶媒としては、具体的には、水、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、イソブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、ペンタノールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、ペンタノン、ヘキサノン、へプタノン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、アセトニルアセトン、ジイソブチルケトンなどのケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、アニソール、メトキシトルエン、ジブチルエーテルなどのエーテル類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ノルマルプロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチルなどのエステル類、その他ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ジアセトンアルコール、1-メトキシ-2-プロパノールなどを一種または二種以上混合したものを用いることができる。
【0099】
触媒層デカールを用いて転写する方法の場合、まず、基材上に触媒層インクを塗布し、必要に応じて乾燥工程を経ることで触媒層デカールを作製する。そして、電解質膜をカソード電極側の触媒層デカールと、アノード電極側の触媒層デカールで挟み、両デカールの触媒層が設けられた面と固体高分子電解質膜電解質膜とが接するようにしてホットプレスすることで、触媒層付き電解質膜を得ることができる。ホットプレスの温度や圧力は、電解質膜の厚さ、水分率、触媒層やデカール基材により適宜選択すればよいが、工業的生産性やイオン性基を有する高分子材料の熱分解抑制などの観点から0℃~250℃の範囲で行うことが好ましく、触媒層に含有される高分子電解質のガラス転移温度より大きく、なおかつ200℃以下で行うことがより好ましい。ホットプレスにおける加圧は、高分子電解質膜電解質膜や電極保護の観点からできる限り弱い方が好ましく、平板プレスの場合、10MPa以下の圧力が好ましい。
【0100】
触媒層インク塗布時に使用するデカール基材としては、高分子電解質膜電解質膜製膜時に使用する基材と同様の樹脂フィルムや基板が使用できるほか、ポリテトラフルオロエチレン、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン-パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素樹脂を用いることができる。耐熱性、耐溶剤性に加えて、化学的安定性や離型性の点から、フッ素樹脂フィルムを用いることが好ましい。
【0101】
触媒層の乾燥は、前述の混合溶液の乾燥で述べた方法と同様の方法を用いることができる。
【実施例】
【0102】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、各種測定条件は次の通りである。
【0103】
(1)ポリマーの分子量
ポリマー溶液の数平均分子量及び重量平均分子量をGPCにより測定した。紫外検出器と示差屈折計の一体型装置として東ソー(株)製HLC-8022GPCを、またGPCカラムとして東ソー(株)製TSK gel SuperHM-H(内径6.0mm、長さ15cm)2本を用い、N-メチル-2-ピロリドン溶媒(臭化リチウムを10mmol/L含有するN-メチル-2-ピロリドン溶媒)にて、流量0.2mL/minで測定し、標準ポリスチレン換算により数平均分子量及び重量平均分子量を求めた。
【0104】
(2)イオン交換容量(IEC)
中和滴定法により次の[1]~[4]の手順で測定した。測定は3回実施し、その平均値を取った。
[1]プロトン置換し、純水で十分に洗浄した電解質膜の膜表面の水分を拭き取った後、100℃にて12時間以上真空乾燥し、乾燥重量を求めた。
[2]電解質膜に5wt%硫酸ナトリウム水溶液を50mL加え、12時間静置してイオン交換した。
[3]0.01mol/L水酸化ナトリウム水溶液を用いて、生じた硫酸を滴定した。指示薬として市販の滴定用フェノールフタレイン溶液0.1w/v%を加え、薄い赤紫色になった点を終点とした。
[4]IECは下記式により求めた。
【0105】
IEC(meq/g)=〔水酸化ナトリウム水溶液の濃度(mmol/mL)×滴下量(mL)〕/試料の乾燥重量(g)。
【0106】
(3)複合層における炭化水素系高分子電解質の充填率(複合層の充填率)
光学顕微鏡または走査形電子顕微鏡(SEM)で複合電解質膜の断面を観察し高分子電解質と含フッ素高分子多孔質基材からなる複合層の厚みをT1、複合層の外側に別の層がある場合はそれらの厚みをT2、T3とした。複合層を形成する高分子電解質の比重をD1、複合層の外側の別の層を形成する高分子電解質の比重をそれぞれのD2、D3、複合電解質膜の比重をDとした。それぞれの層を形成するポリマーのIECをI1、I2、I3、複合電解質膜のIECをIとすると、複合層中の芳香族炭化水素系高分子電解質の充填率Y2(体積%)は下式により求めた。
【0107】
Y2=[(T1+T2+T3)×D×I-(T2×D2×I2+T3×D3×I3)]/(T1×D1×I1)×100。
【0108】
(4)熱水試験による寸法変化率(λxy)測定
複合電解質膜を約5cm×約5cmの正方形に切り取り、温度23℃±5℃、湿度50%±5%の調温調湿雰囲気下に24時間静置後、ノギスでMD方向の長さとTD方向の長さ(MD1とTD1)を測定した。該複合電解質膜を80℃の熱水中に8時間浸漬後、再度ノギスでMD方向の長さとTD方向の長さ(MD2とTD2)を測定し、面方向におけるMD方向とTD方向の寸法変化率(λMDとλTD)および面方向の寸法変化率(λxy)(%)を下式により算出した。
【0109】
λMD=(MD2-MD1)/MD1×100
λTD=(TD2-TD1)/TD1×100
λxy=(λMD+λTD)/2。
【0110】
(5)プロトン伝導度
電解質膜を25℃の純水に24時間浸漬した後、80℃、相対湿度25%RHの恒温恒湿槽中に30分保持し、定電位交流インピーダンス法でプロトン伝導度を測定した。測定装置としては、Solartron社製電気化学測定システム(Solartron 1287 Electrochemical InterfaceおよびSolartron 1255B Frequency Response Analyzer)を使用し、2端子法で定電位インピーダンス測定を行い、プロトン伝導度を求めた。交流振幅は、50mVとした。サンプルは幅10mm、長さ50mmの膜を用いた。測定治具はフェノール樹脂で作製し、測定部分は開放させた。電極として、白金板(厚さ100μm、2枚)を使用した。電極は電極間距離10mm、サンプル膜の表側と裏側に、互いに平行にかつサンプル膜の長手方向に対して直交するように配置した。
【0111】
(6)複合電解質膜を使用した膜電極複合体(MEA)の作製
市販の電極、BASF社製燃料電池用ガス拡散電極ELAT LT120ENSI5g/m2Ptを5cm角にカットしたものを1対準備し、燃料極、空気極として複合電解質膜を挟むように対向して重ね合わせ、150℃、5MPaで3分間加熱プレスを行い、乾湿サイクル耐久性評価用MEAを得た。
【0112】
(7)乾湿サイクル耐久性
上記(6)で作製したMEAを英和(株)製JARI標準セルEx-1(電極面積25cm2)にセットし、セル温度80℃の状態で、両極に160%RHの窒素を2分間供給し、その後両電極に0%RHの窒素(露点-20℃以下)を2分間供給するサイクルを繰り返した。1,000サイクルごとに水素透過量の測定を実施し、水素透過電流が初期電流の10倍を越えた時点を乾湿サイクル耐久性とした。
【0113】
水素透過量の測定は、一方の電極に燃料ガスとして水素、もう一方の電極に窒素を供給し、加湿条件:水素ガス90%RH、窒素ガス:90%RHで試験を行った。開回路電圧が0.2V以下になるまで保持し、0.2~0.7Vまで1mV/secで電圧を掃引し0.7Vにおける電流値を水素透過電流とした。
【0114】
(8)含フッ素高分子多孔質基材に含まれるフッ素原子含有量測定
以下の条件に従い、含フッ素高分子多孔質基材試料を秤量し分析装置の燃焼管内で燃焼させ、発生したガスを溶液に吸収後、吸収液の一部をイオンクロマトグラフィーにより分析した。
<燃焼・吸収条件>
システム:AQF-2100H、GA-210(三菱化学(株)製)
電気炉温度:Inlet 900℃、Outlet 1000℃
ガス:Ar/O2 200mL/min、O2 400mL/min
吸収液:H2O2 0.1%、内標Br 8μg/mL
吸収液量:20mL
<イオンクロマトグラフィー・アニオン分析条件>
システム:ICS1600(DIONEX製)
移動相:2.7mmol/L Na2CO3/0.3mmol/L NaHCO3
流速:1.50mL/min
検出器:電気伝導度検出器
注入量:20μL
(9)界面活性剤の化学構造分析
赤外線分光(IR)分析、1H核磁気共鳴(NMR)分析、19F-NMR分析、MALDI-MS分析、熱分解GC/MS分析を行い、各種界面活性剤の化学構造を分析し、フッ素原子及び親水性元素の含有量(酸素、窒素、リン、硫黄およびホウ素の合計)を算出した。
【0115】
(10)界面活性剤の重量平均分子量測定
下記条件に従い、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)分析により界面活性剤の重量平均分子量を測定した。
装置:ゲル浸透クロマトグラフGPC(機器No.GPC-27)
検出器:紫外可視吸収分光検出器UV((株)島津製作所製SPD-20AV)
カラム:TSKgel Super HZM-N 2本
SuperHZ4000、2500、1000各1本
溶媒:テトラヒドロフラン(THF)
流速:0.45mL/min
カラム温度:40℃
注入量:0.02mL
標準試料:東ソー(株)製およびAgilent単分散ポリエチレングリコール(PEG)
データ処理:(株)東レリサーチセンター製GPCデータ処理システム
(11)複合電解質膜の断面SEM測定
下記条件に従い、断面SEM測定を行った。得られた画像から中央の白色領域を複合層、両隣の黒色領域を外部の別層としその厚みを測定した。
装置:電界放射型走査電子顕微鏡(FE-SEM)S-4800((株)日立ハイテクノロジーズ製)
加速電圧:2.0kV
前処理:BIB法にて作製した断面試料にPtコートして測定した。
BIB法:アルゴンイオンビームを使用した断面試料作製装置。試料直上に遮蔽板を置き、その上からアルゴンのブロードイオンビームを照射してエッチングを行うことで観察面・分析面(断面)を作製する。
【0116】
(12)電解質膜に含まれる界面活性剤量
以下の条件に従い、電解質膜を秤量し分析装置の燃焼管内で燃焼させ、発生したガスを溶液に吸収後、吸収液の一部をイオンクロマトグラフィーにより分析した。本分析値から予め測定しておいた界面活性剤を含まない高分子電解質の寄与および前記(8)により予め測定しておいた含フッ素高分子多孔質基材の寄与を除外することにより、界面活性剤の寄与を算出し、界面活性剤に含まれるフッ素原子量から複合電解質膜に含まれる界面活性剤量を算出して、複合膜中に含まれる高分子電解質に対する界面活性剤の比(界面活性剤/高分子電解質)を求めた。
<燃焼・吸収条件>
システム:AQF-2100H、GA-210(三菱化学(株)製)
電気炉温度:Inlet 900℃、Outlet 1000℃
ガス:Ar/O2 200mL/min、O2 400mL/min
吸収液:H2O2 0.1%、内標Br 8μg/mL
吸収液量:20mL
<イオンクロマトグラフィー・アニオン分析条件>
システム:ICS1600(DIONEX製)
移動相:2.7mmol/L Na2CO3/0.3mmol/L NaHCO3
流速:1.50mL/min
検出器:電気伝導度検出器
注入量:20μL
(13)XPSによる多孔質基材の酸素含有量測定
予め5mm角の大きさに切断した多孔質基材を超純水でリンスし、室温、67Paにて10時間乾燥させた後、液体窒素で30分冷却し、凍結粉砕機にて5分間の処理を2回実施することにより、サンプルを準備した。準備したサンプルの組成を測定し、酸素原子含有量を算出した。測定装置、条件としては、以下の通りである。
測定装置:Quantera SXM
励起X線:monochromatic Al Kα1,Kα2線(1486.6eV)
X線径:200μm
光電子脱出角度:45°
(14)断面AFMによる弾性率像の観察
下記条件に従い、断面AFM測定を行った。得られた画像を解析してフラクタル次元Dを算出した。フラクタル次元Dは次記(15)に記載の方法で行うものとする。
装置:走査型プローブ顕微鏡(SPM)NanoScopeV Dimension Icon(Bruker社製)
探針:シリコンカンチレバー
操作モード:ピークフォースタッピング
捜査範囲:補強層全厚みから両端0.1μmを除いた長さを1辺とする正方形を視野として、補強層を観察(補強層が3μmの場合、補強層両端部を除いて2.8μm角となるように補強層を観察)
走査速度:0.4Hz
測定環境:室温、大気中
観察像:弾性率像
観察視野:端部3cmを取り除き、TD方向に等間隔に両端を含めた(端部から3cm)5視野を観察。
前処理:BIB法にて作製した断面試料にPtコートして測定した。
BIB法:アルゴンイオンビームを使用した断面試料作製装置。試料直上に遮蔽板を置き、その上からアルゴンのブロードイオンビームを照射してエッチングを行うことで観察面・分析面(断面)を作製する。
【0117】
(15)フラクタル次元Dの算出
下記の[1]~[6]の手順に従い、フラクタル次元Dを算出した。フラクタル次元Dは上記(14)で観察した断面AFM弾性率像5視野から算出される平均値である。
使用ソフトウェア:Avizo(Thermo Fisher Scientific製)、ImageJ(NIH製)
[1]上記(14)で観察した断面AFM弾性率像をスムージング(Smoothing)処理する。
[2]8-bitのグレースケールに変換する・
[3]“大津の2値化”によって電解質と補強材繊維を2値化する。
【0118】
図1に2値化後の断面AFM像の一例を示す。
図1中、白色部分は電解質、黒色部分は補強材を表す。
[4]2値化像をr=2,3,4,6,8,12,16,32,64(pixel)で順次分割して、電解質を含む小領域N(r)をカウントする。
[5]rとN(r)の関係を両対数グラフにプロットする。
[6]累乗近似によってN(r)=kr-Dを満たす直線を求めて、フラクタル次元Dを算出する。
【0119】
(16)乾燥状態における電解質膜の機械特性測定
検体となる電解質膜を装置にセットし、以下の条件にて引張試験を行った。引張強度および引張伸度の値は試験中に最大点応力を示した瞬間の値とする。弾性率は測定データにおいてひずみの差が0.3%となる任意の二点を用いて、算出される値が最大となるようにした値とする。降伏応力は応力が0.5%低下する瞬間の値とするか、明確に降伏点を示さない場合には0.2%耐力点の値とする。引張強度、引張伸度、引張弾性率、降伏応力は試験回数5回の平均値で算出した。
【0120】
測定装置: オートグラフAG-IS((株)島津製作所製)
荷重レンジ:100N
引張り速度:100mm/min
試験片:幅10mm×長さ100mm
サンプル間距離:30mm
試験温湿度:23±1℃、50±10RH%
試験数:n=5
(17)含水状態における電解質膜の機械特性測定
検体となる電解質膜を予め試験片サイズに切り出した状態で、23℃の超純水に24時間浸漬した後、電解質膜を超純水から取り出す。取り出した後、10分以内に上記(16)と同じ条件・方法にて引張試験を行い、含水引張強度、含水引張伸度、含水引張弾性率を算出した。
(18)界面亀裂数Cの算出
下記[1]~[3]の手順に従い、界面亀裂数Cを算出した。界面亀裂数Cは上記(11)で観察した断面SEM像5視野に対して下記を実施した合計値である。
[1]上記(11)においてTD断面を15,000倍、膜面方向に8μm以上を観察する。
[2]
図2に示すように、画像の中央および中央から膜面方向に左右それぞれ1μm、2μm、3μmの位置である計7カ所ついて、補強層と単層との界面亀裂を数える。ここで界面亀裂とは補強層と単層との界面に存在する50nm以上の隙間と定義する。
[3]5枚の画像に対して、上記の通り界面亀裂を数え、その合計を界面亀裂数Cとする。
【0121】
図2に界面亀裂数有無の判定方法の一例を示す。
図2中、1は補強層、2は界面亀裂を表す。
[合成例1]
(下記一般式(G1)で表される2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1,3-ジオキソラン(K-DHBP)の合成)
攪拌器、温度計及び留出管を備えた 500mLフラスコに、4,4’-ジヒドロキシベンゾフェノン49.5g、エチレングリコール134g、オルトギ酸トリメチル96.9g及びp-トルエンスルホン酸一水和物0.50gを仕込み溶解する。その後78~82℃で2時間保温攪拌した。更に、内温を120℃まで徐々に昇温、ギ酸メチル、メタノール、オルトギ酸トリメチルの留出が完全に止まるまで加熱した。この反応液を室温まで冷却後、反応液を酢酸エチルで希釈し、有機層を5%炭酸カリウム水溶液100mLで洗浄し分液後、溶媒を留去した。残留物にジクロロメタン80mLを加え結晶を析出させ、濾過し、乾燥して2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1,3-ジオキソラン52.0gを得た。この結晶をGC分析したところ99.9%の2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1,3-ジオキソランと0.1%の4,4’-ジヒドロキシベンゾフェノンであった。
【0122】
【0123】
[合成例2]
(下記一般式(G2)で表されるジソジウム-3,3’-ジスルホネート-4,4’-ジフルオロベンゾフェノンの合成)
4,4’-ジフルオロベンゾフェノン(アルドリッチ試薬)109.1gを発煙硫酸(50%SO3)(和光純薬(株)試薬)150mL中、100℃で10時間反応させた。その後、多量の水中に少しずつ投入し、NaOHで中和した後、食塩(NaCl)200gを加え合成物を沈殿させた。得られた沈殿を濾別し、エタノール水溶液で再結晶し、上記一般式(G2)で示されるジソジウム-3,3’-ジスルホネート-4,4’-ジフルオロベンゾフェノンを得た。純度は99.3%であった。
【0124】
【0125】
[合成例3]
(下記一般式(G3)で表されるイオン性基を含有しないオリゴマーa1の合成)
かき混ぜ機、窒素導入管、Dean-Starkトラップを備えた1,000mL三口フラスコに、炭酸カリウム(アルドリッチ試薬)16.59g(120mmol)、前記合成例1で得たK-DHBP25.8g(100mmol)および4,4’-ジフルオロベンゾフェノン(アルドリッチ試薬)20.3g(93mmol)を入れ、窒素置換後、N-メチルピロリドン(NMP)300mL、トルエン100mL中、160℃で脱水後、昇温してトルエンを除去し、180℃で1時間重合を行った。多量のメタノールに再沈殿精製を行い、イオン性基を含有しないオリゴマー(末端:ヒドロキシル基)を得た。数平均分子量は10,000であった。
【0126】
かき混ぜ機、窒素導入管、Dean-Starkトラップを備えた500mL三口フラスコに、炭酸カリウム(アルドリッチ試薬)1.1g(8mmol)、イオン性基を含有しない前記オリゴマーa1(末端:ヒドロキシル基)を20.0g(2mmol)を入れ、窒素置換後、N-メチルピロリドン(NMP)100mL、トルエン30mL中、100℃で脱水後、昇温してトルエンを除去し、デカフルオロビフェニル(アルドリッチ試薬)4.0g(12mmol)を入れ、105℃で1時間反応を行った。多量のイソプロピルアルコールで再沈殿することで精製を行い、下記式(G3)で示されるイオン性基を含有しないオリゴマーa1(末端:フルオロ基)を得た。数平均分子量は11,000であった。
【0127】
【0128】
[合成例4]
(下記一般式(G4)で表されるイオン性基を含有するオリゴマーa2の合成)
かき混ぜ機、窒素導入管、Dean-Starkトラップを備えた1,000mL三口フラスコに、炭酸カリウム(アルドリッチ試薬)27.6g(200mmol)、前記合成例1で得たK-DHBP12.9g(50mmol)および4,4’-ビフェノール(アルドリッチ試薬)9.3g(50mmol)、前記合成例2で得たジソジウム-3,3’-ジスルホネート-4,4’-ジフルオロベンゾフェノン39.3g(93mmol)、および18-クラウン-6(和光純薬)17.9g(82mmol)を入れ、窒素置換後、N-メチルピロリドン(NMP)300mL、トルエン100mL中、170℃で脱水後、昇温してトルエンを除去し、180℃で1時間重合を行った。多量のイソプロピルアルコールで再沈殿することで精製を行い、下記式(G4)で示されるイオン性基を含有するオリゴマーa2(末端:ヒドロキシル基)を得た。数平均分子量は16,000であった。
【0129】
【0130】
(式(G4)において、Mは、H、NaまたはKを表す。)
[合成例5]
(下記式(G5)で表される3-(2,5-ジクロロベンゾイル)ベンゼンスルホン酸ネオペンチルの合成)
攪拌機、冷却管を備えた3Lの三口フラスコに、クロロスルホン酸245g(2.1mol)を加え、続いて2,5-ジクロロベンゾフェノン105g(420mmol)を加え、100℃のオイルバスで8時間反応させた。所定時間後、反応液を砕氷1,000gにゆっくりと注ぎ、酢酸エチルで抽出した。有機層を食塩水で洗浄、硫酸マグネシウムで乾燥後、酢酸エチルを留去し、淡黄色の粗結晶3-(2,5-ジクロロベンゾイル)ベンゼンスルホン酸クロリドを得た。粗結晶は精製せず、そのまま次工程に用いた。
【0131】
2,2-ジメチル-1-プロパノール(ネオペンチルアルコール)41.1g(462mmol)をピリジン300mLに加え、約10℃に冷却した。ここに上記で得られた粗結晶を約30分かけて徐々に加えた。全量添加後、さらに30分撹拌し反応させた。反応後、反応液を塩酸水1,000mL中に注ぎ、析出した固体を回収した。得られた固体を酢酸エチルに溶解させ、炭酸水素ナトリウム水溶液、食塩水で洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥後、酢酸エチルを留去し、粗結晶を得た。これをメタノールで再結晶し、前記構造式で表される3-(2,5-ジクロロベンゾイル)ベンゼンスルホン酸ネオペンチルの白色結晶を得た。
【0132】
【0133】
[合成例6]
(下記一般式(G6)で表されるイオン性基を含有しないオリゴマーの合成)
撹拌機、温度計、冷却管、Dean-Stark管、窒素導入の三方コックを取り付けた1Lの三つ口のフラスコに、2,6-ジクロロベンゾニトリル49.4g(0.29mol)、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン88.4g(0.26mol)、炭酸カリウム47.3g(0.34mol)を秤取した。窒素置換後、スルホラン346mL及びトルエン173mLを加えて攪拌した。フラスコをオイルバスにつけ、150℃に加熱還流させた。反応により生成する水をトルエンと共沸させ、Dean-Stark管で系外に除去しながら反応させると、約3時間で水の生成がほとんど認められなくなった。反応温度を徐々に上げながら大部分のトルエンを除去した後、200℃で3時間反応を続けた。次に、2,6-ジクロロベンゾニトリル12.3g(0.072mol)を加え、さらに5時間反応した。
【0134】
得られた反応液を放冷後、トルエン100mLを加えて希釈した。副生した無機化合物の沈殿物を濾過除去し、濾液を2Lのメタノール中に投入した。沈殿した生成物を濾別、回収し乾燥後、テトラヒドロフラン250mLに溶解した。これをメタノール2Lに再沈殿し、下記一般式(G6)で表される目的の化合物オリゴマー107gを得た。数平均分子量は11,000であった。
【0135】
【0136】
[合成例7]
(下記式(G8)で表されるセグメントと下記式(G9)で表されるセグメントからなるポリエーテルスルホン(PES)系ブロックコポリマー前駆体b2’の合成)
無水塩化ニッケル1.62gとジメチルスルホキシド15mLとを混合し、70℃に調整した。これに、2,2’-ビピリジル2.15gを加え、同温度で10分撹拌し、ニッケル含有溶液を調製した。
【0137】
ここに、2,5-ジクロロベンゼンスルホン酸(2,2-ジメチルプロピル)1.49gと下記式(G7)で示される、スミカエクセルPES5200P(住友化学(株)製、Mn=40,000、Mw=94,000)0.50gとを、ジメチルスルホキシド5mLに溶解させて得られた溶液に、亜鉛粉末1.23gを加え、70℃に調整した。これに前記ニッケル含有溶液を注ぎ込み、70℃で4時間重合反応を行った。反応混合物をメタノール60mL中に加え、次いで、6mol/L塩酸60mLを加え1時間攪拌した。析出した固体を濾過により分離し、乾燥し、灰白色の下記式(G8)と下記式(G9)で表されるセグメントを含むブロックコポリマー前駆体b2’を1.62g、収率99%で得た。重量平均分子量は230,000であった。
【0138】
【0139】
[高分子電解質溶液A]
イオン性基を含有するセグメントとして前記(G4)で表されるオリゴマー、イオン性基を含有しないセグメントとして前記(G3)で表されるオリゴマーを含有するブロックコポリマーからなる高分子電解質溶液
かき混ぜ機、窒素導入管、Dean-Starkトラップを備えた500mL三口フラスコに、炭酸カリウム(アルドリッチ試薬)0.56g(4mmol)、合成例4で得られたイオン性基を含有するオリゴマーa2(末端:ヒドロキシル基)を16g(1mmol)入れ、窒素置換後、N-メチルピロリドン(NMP)100mL、シクロヘキサン30mL中、100℃で脱水後、昇温してシクロヘキサンを除去し、合成例3で得られたイオン性基を含有しないオリゴマーa1(末端:フルオロ基)11g(1mmol)を入れ、105℃で24時間反応を行った。多量のイソプロピルアルコールへの再沈殿精製により、ブロックコポリマーb1を得た。重量平均分子量は340,000であった。
【0140】
得られたブロックコポリマーを溶解させた5質量%N-メチルピロリドン(NMP)溶液を、(株)久保田製作所製インバーター・コンパクト高速冷却遠心機(型番6930にアングルローターRA-800をセット、25℃、30分間、遠心力20,000G)で重合原液の直接遠心分離を行った。沈降固形物(ケーキ)と上澄み液(塗液)がきれいに分離できたので上澄み液を回収した。次に、撹拌しながら80℃で減圧蒸留し、1μmのポリプロピレン製フィルターを用いて加圧ろ過し、高分子電解質溶液A(高分子電解質濃度13質量%)を得た。高分子電解質溶液Aの粘度は1,300mPa・sであった。
[高分子電解質溶液B]
下記一般式(G10)で表されるポリアリーレン系ブロックコポリマーからなる高分子電解質溶液
乾燥したN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)540mLを、3-(2,5-ジクロロベンゾイル)ベンゼンスルホン酸ネオペンチル135.0g(0.336mol)と、合成例6で合成した式(G6)で表されるイオン性基を含有しないオリゴマーを40.7g(5.6mmol)、2,5-ジクロロ-4’-(1-イミダゾリル)ベンゾフェノン6.71g(16.8mmol)、ビス(トリフェニルホスフィン)ニッケルジクロリド6.71g(10.3mmol)、トリフェニルホスフィン35.9g(0.137mol)、ヨウ化ナトリウム1.54g(10.3mmol)、亜鉛53.7g(0.821mol)の混合物中に窒素下で加えた。
【0141】
反応系を撹拌下に加熱し(最終的には79℃まで加温)、3時間反応させた。反応途中で系中の粘度上昇が観察された。重合反応溶液をDMAc730mLで希釈し、30分撹拌し、セライトを濾過助剤に用い、濾過した。
【0142】
前記濾液をエバポレーターで濃縮し、濾液に臭化リチウム43.8g(0.505mol)を加え、内温110℃で7時間、窒素雰囲気下で反応させた。反応後、室温まで冷却し、アセトン4Lに注ぎ、凝固した。凝固物を濾集、風乾後、ミキサーで粉砕し、1N塩酸1,500mLで攪拌しながら洗浄を行った。濾過後、生成物は洗浄液のpHが5以上となるまで、イオン交換水で洗浄後、80℃で一晩乾燥し、目的のポリアリーレン系ブロックコポリマー23.0gを得た。この脱保護後のポリアリーレン系ブロックコポリマーの重量平均分子量は、190,000であった。得られたポリアリーレン系ブロックコポリマーを、0.1g/gとなるように、N-メチル-2-ピロリドン/メタノール=30/70(質量%)有機溶媒に溶解して高分子電解質溶液Bを得た。高分子電解質溶液Bの粘度は1,200mPa・sであった。
【0143】
【0144】
[高分子電解質溶液C]
ランダムコポリマーからなる高分子電解質溶液C
撹拌機、窒素導入管、Dean-Starkトラップを備えた5Lの反応容器に、合成例1で合成した2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1,3-ジオキソラン129g、4,4’-ビフェノール(アルドリッチ試薬)93g、および合成例2で合成したジソジウム-3,3’-ジスルホネート-4,4’-ジフルオロベンゾフェノン422g(1.0mol)を入れ、窒素置換後、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)3,000g、トルエン450g、18-クラウン-6(和光純薬(株)試薬)232gを加え、モノマーが全て溶解したことを確認後、炭酸カリウム(アルドリッチ試薬)304gを加え、環流しながら160℃で脱水後、昇温してトルエンを除去し、200℃で1時間脱塩重縮合を行った。重量平均分子量は320,000であった。
【0145】
次に重合原液の粘度が500mPa・sになるようにNMPを添加して希釈し、(株)久保田製作所製インバーター・コンパクト高速冷却遠心機(型番6930にアングルローターRA-800をセット、25℃、30分間、遠心力20,000G)で重合原液の直接遠心分離を行った。沈降固形物(ケーキ)と上澄み液(塗液)がきれいに分離できたので上澄み液を回収した。次に、撹拌しながら80℃で減圧蒸留し、ポリマー濃度が14質量%になるまでNMPを除去し、さらに5μmのポリエチレン製フィルターで加圧濾過してランダムコポリマーからなる高分子電解質溶液Cを得た。高分子電解質溶液Cの粘度は1,000mPa・sであった。
[高分子電解質溶液D]
ポリエーテルスルホン系ブロックコポリマーからなる高分子電解質溶液D
合成例7で得られたブロックコポリマー前駆体b2’:0.23gを、臭化リチウム一水和物0.16gとNMP8mLとの混合溶液に加え、120℃で24時間反応させた。反応混合物を、6mol/L塩酸80mL中に注ぎ込み、1時間撹拌した。析出した固体を濾過により分離した。分離した固体を乾燥し、灰白色の前記式(G8)で示されるセグメントと下記式(G11)で表されるセグメントからなるブロックコポリマーb2を得た。得られたポリエーテルスルホン系ブロックコポリマーの重量平均分子量は190,000であった。得られたポリエーテルスルホン系ブロックコポリマーを、0.1g/gとなるように、N-メチル-2-ピロリドン/メタノール=30/70(質量%)有機溶媒に溶解してポリエーテルスルホン系ブロックコポリマーからなる高分子電解質溶液Dを得た。高分子電解質溶液Dの粘度は1,300mPa・sであった。
【0146】
【0147】
[ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)多孔質基材A]
“ポアフロン”(登録商標)HP-045-30(住友電工ファインポリマー(株)製)を縦横方向に3倍同時2軸延伸することにより、膜厚8μm、空隙率89%のePTFE多孔質基材Aを作製した。SEM観察の結果、平均直径0.3μmのフィブリルが無規則な蜘蛛の巣状を形成する構造であった。
[親水化ePTFE多孔質基材A’]
露点-80℃のグローブボックス内において、ePTFE多孔質基材Bを金属ナトリウム-ナフタレン錯体/テトラヒドロフラン(THF)1%溶液30g、THF70gからなる溶液に浸漬し、3秒経過後に引き上げ、すぐにTHFで十分洗浄し、膜厚8μm、空隙率88%の親水化ePTFE多孔質基材A’を作製した。
[ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)多孔質基材B]
“ポアフロン”(登録商標)WP-010-80(住友電工ファインポリマー(株)製)を縦方向に10倍延伸後、365℃において熱処理を実施した。次いで横方向に2倍延伸することにより、膜厚9μm、空隙率80%のePTFE多孔質基材Bを作製した。SEM観察の結果、縦方向に略平行な平均直径0.9μmのノードと横方向に略平行な平均直径0.2μmのフィブリルを有する構造であった。
[テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン(FEP)共重合体多孔質基材C]
FEP樹脂(フロン工業(株)製)75質量部と、無機充填剤としてシリカ微粒子QSG-30(信越化学工業(株)製(1次粒子平均粒子径30nm)15質量部を粉体混合機により充分混合した。
【0148】
この混合物を、二軸押出機TEM-35(東芝機械(株)製)を用い、300℃で混練したのち、直径2.5mmのストランドを押出し、これを長さ2.5mmで切断してペレットを得た。
【0149】
このペレットを口径40mmの単軸押出機((株)池貝製、VS40)に供給し、700mmの口金幅を有するフラットダイを用い、ダイス温度333℃、押出速度4.3kg/時間で押し出した。当該吐出物を、表面温度が130℃になるように調整したロールに沿わせて4.8m/分の速度で引き取ることによりETFEフィルムを得た。
【0150】
得られたフィルムを縦横方向に4倍延伸することにより、膜厚8μm、空隙率90%のFEP共重合体多孔質基材Cを作製した。
【0151】
[エチレン-テトラフルオロエチレン(ETFE)共重合体多孔質基材D]
FEP樹脂(フロン工業(株)製)の代わりに、ETFE樹脂(アルドリッチ社製)を用いた以外は、FEP多孔質基材Bと同様にして、膜厚8μm、空隙率89%のETFE共重合体多孔質基材Dを作製した。
【0152】
[ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)多孔質基材E]
“ポアフロン”(登録商標)HP-045-30(住友電工ファインポリマー(株)製)を縦横方向に4倍同時2軸延伸することにより、膜厚6μm、空隙率96%のePTFE多孔質基材Eを作製した。
[ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)多孔質基材F]
“Tetratex”(登録商標)TX1356(ドナルドソン社製)を多孔質基材Fとする。膜厚8μm、空隙率85%である。
【0153】
<第一の態様による複合電解質膜の製造>
[実施例1]
高分子電解質溶液A100gに、“フタージェント”(登録商標)208Gを0.26g溶解し、高分子電解質と界面活性剤の質量比(以下、「界面活性剤/電解質」)が0.02の電解質-界面活性剤混合溶液を調製した。ナイフコーターを用い、この電解質-界面活性剤混合溶液をガラス基板上に流延塗布し、ePTFE多孔質基材Aを貼り合わせた。室温にて1時間保持し、ePTFE多孔質基材Aに電解質-界面活性剤混合溶液Aを十分含浸させた後、100℃にて4時間乾燥した。乾燥後の膜の上面に、再度電解質-界面活性剤混合溶液Aを流延塗布し、室温にて1時間保持した後、100℃にて4時間乾燥し、フィルム状の重合体を得た。10質量%硫酸水溶液に80℃で24時間浸漬してプロトン置換、脱保護反応した後に、大過剰量の純水に24時間浸漬して充分洗浄し、複合電解質膜(膜厚10μm)を得た。
[実施例2]
界面活性剤/電解質を0.10とした電解質-界面活性剤混合溶液を使用した以外は、実施例1と同様にして複合電解質膜(膜厚10μm)を得た。
[実施例3]
“フタージェント”(登録商標)208Gの代わりに“フタージェント”(登録商標)710FMを使用した以外は、実施例2と同様にして複合電解質膜(膜厚10μm)を得た。
[実施例4]
“フタージェント”(登録商標)208Gの代わりに“メガファック”(登録商標)F-555を使用した以外は、実施例2と同様にして複合電解質膜(膜厚10μm)を得た。
[実施例5]
ePTFE多孔質基材Aの代わりePTFE多孔質基材Bを使用した以外は、実施例2と同様にして複合電解質膜(膜厚10μm)を得た。
<第二の態様による複合電解質膜の製造>
[実施例6]
“フタージェント”(登録商標)208G:1.5gを酢酸2-メトキシ-1-メチルエチル100gに溶解し、“フタージェント”(登録商標)208G:1.5質量%溶液を調製した。続いて、ガラス基板上に固定したePTFE多孔質基材A上に、ナイフコーターを用いて208G溶液を流延塗布し、100℃にて1時間乾燥し、界面活性剤含有ePTFE多孔質基材Aを作製した。作製した界面活性剤含有ePTFE多孔質基材Aの重量は元のePTFE多孔質基材Aに比較して3wt%増加していた。
【0154】
ナイフコーターを用い、高分子電解質溶液Aを別のガラス基板上に流延塗布し、ガラス基板より引き剥がした界面活性剤含有ePTFE多孔質基材Aを貼り合わせた。室温にて1時間保持し、界面活性剤含有ePTFE多孔質基材Aに高分子電解質溶液Aを十分含浸させた後、100℃にて4時間乾燥した。乾燥後の膜の上面に、再度高分子電解質溶液Aを流延塗布し、室温にて1時間保持した後、100℃にて4時間乾燥し、フィルム状の重合体を得た。10質量%硫酸水溶液に80℃で24時間浸漬してプロトン置換、脱保護反応した後に、大過剰量の純水に24時間浸漬して充分洗浄し、複合電解質膜(膜厚10μm)を得た。
[実施例7]
作製した界面活性剤含有ePTFE多孔質基材Aの重量増加を元のePTFE多孔質基材Aに比較して6wt%となるように界面活性剤溶液を塗工した以外は、実施例6と同様にして複合電解質膜(膜厚10μm)を得た。
[実施例8]
作製した界面活性剤含有ePTFE多孔質基材Aの重量増加を元のePTFE多孔質基材Aに比較して10wt%となるように界面活性剤溶液を塗工した以外は、実施例6と同様にして複合電解質膜(膜厚10μm)を得た。
[実施例9]
“フタージェント”(登録商標)208Gの代わりに“フタージェント”(登録商標)710FMを使用した以外は、実施例7と同様にして複合電解質膜(膜厚10μm)を得た。
[実施例10]
“フタージェント”(登録商標)208Gの代わりに“メガファック”(登録商標)F-555を使用した以外は、実施例7と同様にして複合電解質膜(膜厚10μm)を得た。
[実施例11]
ポリフッ化ビニリデン(PVDF)が溶解した5wt%NMP溶液(クレハ製L#9305)10gと酢酸2-メトキシ-1-メチルエチル90gを混合し、PVDFの0.5wt%溶液を調製した。“フタージェント”(登録商標)208G溶液の代わりに、調製したPVDF溶液を使用した以外は、実施例8と同様にして複合電解質膜(膜厚10μm)を得た。
[実施例12]
高分子電解質溶液Aの代わりに高分子電解質溶液Bを使用した以外は、実施例7と同様にして複合電解質膜(膜厚10μm)を得た。
[実施例13]
高分子電解質溶液Aの代わりに高分子電解質溶液Cを使用した以外は、実施例7と同様にして複合電解質膜(膜厚10μm)を得た。
[実施例14]
高分子電解質溶液Aの代わりに高分子電解質溶液Dを使用した以外は、実施例7と同様にして複合電解質膜(膜厚10μm)を得た。
[実施例15]
ePTFE多孔質基材Aの代わり多孔質基材Cを使用した以外は、実施例7と同様にして複合電解質膜(膜厚10μm)を得た。
[実施例16]
ePTFE多孔質基材Aの代わり多孔質基材Dを使用した以外は、実施例7と同様にして複合電解質膜(膜厚10μm)を得た。
[実施例17]
ePTFE多孔質基材Aの代わり多孔質基材Eを使用した以外は、実施例7と同様にして複合電解質膜(膜厚10μm)を得た。
[実施例18]
実施例1と同様に電解質-界面活性剤混合溶液を調製した。
【0155】
ナイフコーターを用い、この電解質-界面活性剤混合溶液をガラス基板上に流延塗布し、ePTFE多孔質基材Aを貼り合わせた。室温にて1時間保持し、ePTFE多孔質基材Aに電解質-界面活性剤混合溶液Aを十分含浸させた後、再度電解質-界面活性剤混合溶液Aを流延塗布し、室温にて1時間保持した後、100℃にて4時間乾燥し、フィルム状の重合体を得た。10質量%硫酸水溶液に80℃で24時間浸漬してプロトン置換、脱保護反応した後に、大過剰量の純水に24時間浸漬して充分洗浄し、複合電解質膜(膜厚10μm)を得た。
[実施例19]
界面活性剤/電解質を0.04とした電解質-界面活性剤混合溶液を使用した以外は、実施例18と同様にして複合電解質膜(膜厚10μm)を得た。
[実施例20]
界面活性剤/電解質を0.04とした電解質-界面活性剤混合溶液を使用し、ePTFE多孔質基材Aの代わりePTFE多孔質基材F使用した以外は、実施例1と同様にして複合電解質膜(膜厚10μm)を得た。
[実施例21]
ePTFE多孔質基材Aの代わりePTFE多孔質基材Fを使用した以外は、実施例19と同様にして複合電解質膜(膜厚10μm)を得た。
[実施例22]
実施例19と同様に電解質-界面活性剤混合溶液を調製した。
【0156】
電解質-界面活性剤混合溶液をPET基材上に塗布、塗布溶液膜上にePTFE多孔質基材Fを貼り合わせた後、その上面に電解質-界面活性剤混合溶液を塗布、100℃の乾燥炉で10分乾燥し、フィルム状の重合体を得た。
図3に使用したロール膜作製装置の模式図を示す。
図3中、3はPET基材、4は塗布装置、5は補強材、6は乾燥炉をそれぞれ表わす。得られたフィルム状の重合体を10質量%硫酸水溶液に80℃で24時間浸漬してプロトン置換、脱保護反応した後に、大過剰量の純水に24時間浸漬して充分洗浄し、複合電解質膜(膜厚10μm)を得た。
[実施例23]
“フタージェント”(登録商標)208Gの代わりに“フタージェント”(登録商標)FTX-218を使用した以外は、実施例22と同様にして複合電解質膜(膜厚10μm)を得た。
[比較例1]
電解質-界面活性剤混合溶液の代わりに高分子電解質溶液Aを使用した以外は、実施例1と同様にして複合電解質膜の作製を試みたが、高分子電解質溶液AがePTFE多孔質基材Aに浸透せず複合電解質膜を得ることができなかった。
[比較例2]
ePTFE多孔質基材Aの代わりに親水化ePTFE多孔質基材A’を使用した以外は、比較例1と同様にして複合電解質膜(膜厚10μm)を得た。
【0157】
実施例1~16、比較例1~2で製造した複合電解質膜について、イオン交換容量(IEC)、複合層中の高分子電解質の充填率、フラクタル次元、寸法変化率λxy、含水引張弾性率、プロトン電導度、および乾湿サイクル耐久性を評価した。また含フッ素高分子微多孔膜多孔質基材について、フッ素原子含有量、空隙率を評価した。これらの評価結果を表1に示す。(乾湿サイクル耐久性に関して、30,000サイクルを超えても水素透過電流が初期電流の10倍を越えなかった場合は、30,000サイクルで評価を打ち切った。)
[比較例3]
“フタージェント”(登録商標)208Gの代わりに“フタージェント”(登録商標)FTX-218を使用した以外は、実施例1と同様にして複合電解質膜(膜厚10μm)を得た。
[比較例4]
実施例19と同様に電解質-界面活性剤混合溶液を調製した。
【0158】
電解質-界面活性剤混合溶をPET基材上に塗布、塗布溶液膜上にePTFE多孔質基材Fを貼り合わせ、100℃の乾燥炉で10分乾燥した後、乾燥後の膜を巻き取った。巻き取った膜上面に電解質-界面活性剤混合溶液を塗布し、100℃の乾燥炉で10分乾燥し、フィルム状の重合体を得た。
図4に使用したロール膜作製装置の模式図を示す。
図4中、3はPET基材、4は塗布装置、5は補強材、6は乾燥炉をそれぞれ表わす。得られたフィルム状の重合体を10質量%硫酸水溶液に80℃で24時間浸漬してプロトン置換、脱保護反応した後に、大過剰量の純水に24時間浸漬して充分洗浄し、複合電解質膜(膜厚10μm)を得た。
【0159】
【0160】
注1)A:ブロックコポリマーb1、B:ポリアリーレン系ブロックコポリマー、C:ランダムコポリマー、D:ポリエーテルスルホン系ブロックコポリマーb2
注2)A:ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)多孔質基材、B:ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)多孔質基材B
【0161】
【0162】
注1)A:ブロックコポリマーb1
注2)A:ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)多孔質基材、A’:親水化ePTFE多孔質基材A’、C:テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン(FEP)共重合体多孔質基材、D:エチレン-テトラフルオロエチレン(ETFE)共重合体多孔質基材、E:ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)多孔質基材E、F:ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)多孔質基材F
【産業上の利用可能性】
【0163】
本発明の複合電解質膜は、種々の用途に適用可能である。例えば、人工皮膚などの医療用途、ろ過用途、耐塩素性逆浸透膜などのイオン交換樹脂用途、各種構造材用途、電気化学用途、加湿膜、防曇膜、帯電防止膜、脱酸素膜、太陽電池用膜、ガスバリアー膜に適用可能である。中でも種々の電気化学用途により好ましく利用できる。電気化学用途としては、例えば、固体高分子形燃料電池、レドックスフロー電池、水電解装置、クロロアルカリ電解装置、電気化学式水素ポンプ、水電解式水素発生装置が挙げられる。
【0164】
固体高分子形燃料電池、電気化学式水素ポンプ、および水電解式水素発生装置において、高分子電解質膜電解質膜は、両面に触媒層、電極基材及びセパレータが順次積層された構状態で使用される。このうち、電解質膜の両面に触媒層を積層させたもの(即ち触媒層/電解質膜/触媒層の層構成のもの)は触媒層付電解質膜(CCM)と称され、さらに電解質膜の両面に触媒層及びガス拡散基材を順次積層させたもの(即ち、ガス拡散基材/触媒層/電解質膜/触媒層/ガス拡散基材の層構成のもの)は、膜電極複合体(MEA)と称されている。本発明の複合電解質膜は、こうしたCCMおよびMEAを構成する電解質膜として好適に用いられる。
【符号の説明】
【0165】
1:補強層
2:界面亀裂
3:PET基材
4:塗布装置
5:補強材
6:乾燥炉