(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】有機化合物封入フェリチンの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07K 14/00 20060101AFI20240925BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20240925BHJP
A61K 9/16 20060101ALI20240925BHJP
A61K 9/50 20060101ALI20240925BHJP
A61K 47/42 20170101ALI20240925BHJP
A61K 47/69 20170101ALI20240925BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20240925BHJP
A61K 31/704 20060101ALN20240925BHJP
A61K 31/426 20060101ALN20240925BHJP
A61K 31/155 20060101ALN20240925BHJP
A61K 31/506 20060101ALN20240925BHJP
A61K 31/137 20060101ALN20240925BHJP
A61K 31/4168 20060101ALN20240925BHJP
A61K 31/525 20060101ALN20240925BHJP
A61K 31/51 20060101ALN20240925BHJP
A61K 31/455 20060101ALN20240925BHJP
A61K 49/00 20060101ALN20240925BHJP
【FI】
C07K14/00 ZNA
C07K19/00
A61K9/16
A61K9/50
A61K47/42
A61K47/69
C12N15/12
A61K31/704
A61K31/426
A61K31/155
A61K31/506
A61K31/137
A61K31/4168
A61K31/525
A61K31/51
A61K31/455
A61K49/00
(21)【出願番号】P 2020553874
(86)(22)【出願日】2019-10-28
(86)【国際出願番号】 JP2019042116
(87)【国際公開番号】W WO2020090708
(87)【国際公開日】2020-05-07
【審査請求日】2022-10-25
(31)【優先権主張番号】P 2018203246
(32)【優先日】2018-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井之上 一平
(72)【発明者】
【氏名】中原 祐一
【審査官】植原 克典
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第106110333(CN,A)
【文献】特表2017-532958(JP,A)
【文献】YANG, Rui,Channel directed rutin nano-encapsulation in phytoferritin induced by guanidine hydrochloride,Food Chemistry,2017年,Vol. 240(2018),pp. 935-939
【文献】SERUGA, Marijan and TOMAC, Ivana,Influence of Chemical Structure of Some Flavonols on Their Electrochemical Behaviour,International Journal of ELECTROCHEMICAL SCIENCE,2017年,Vol. 12,pp. 7616-7637
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 14/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機化合物封入フェリチンの製造方法であって、
(1)緩衝液中で有機化合物をフェリチンと混合して、有機化合物およびフェリチンの混合物を得ること;ならびに
(2)緩衝液中で前記混合物をインキュベートすることを含み、
緩衝液は、pH3以上13未満であり、かつ
緩衝液は、有機化合物のpKaが7未満の場合には3以上7未満のpHを有し、有機化合物のpKaが7以上の場合には6以上13未満のpHを有し、
緩衝液のpHと有機化合物のpKaが、式:pH=2.6+0.6pKa±0.4pKaの関係を満たし、
有機化合物の分子量が800以下であり、
インキュベートの温度が10℃以上60℃以下である、
方法。
【請求項2】
有機化合物が、アントラサイクリン系物質、ヒスタミンH2受容体拮抗薬、ピグアナイド系物質、ATP感受性カリウムチャネル開口薬、β2アドレナリン受容体作動薬、イミダゾリン系物質、ビタミン、および標識物質からなる群より選ばれる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
インキュベートの温度が15℃以上55℃以下である、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
有機化合物の分子量が100以上800未満である、請求項1~3のいずれか一項記載の方法。
【請求項5】
有機化合物のpKaが2以上13以下である、請求項1~4のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
10分子以上200分子以下の有機化合物がフェリチン1分子に封入されている、請求項1~5のいずれか一項記載の方法。
【請求項7】
混合およびインキュベートの合計時間が30分以上である、請求項1~6のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
前記混合におけるフェリチンに対する有機化合物の重量比(有機化合物/フェリチン)が0.20以上0.36以下である、請求項1~7のいずれか一項記載の方法。
【請求項9】
有機化合物が、正の架電部分、または正に架電し得る部分を有する、請求項1~8のいずれか一項記載の方法。
【請求項10】
正の架電部分が、(a)アンモニウム基、グアニジウム基、イミダゾリウム基、オキサゾリウム基、チアゾリウム基、オキサジアゾリウム基、トリアゾリウム基、ピロリジニウム基、ピリジニウム基、ピペリジニウム基、ピラゾリウム基、ピリミジニウム基、ピラジニウム基、およびトリアジニウム基からなる群より選ばれるカチオン性窒素含有基、または(b)ホスホニウム基である、請求項9記載の方法。
【請求項11】
正に架電し得る部分が、(a’)アミノ基、グアニジノ基、ニトロ基、アミド基、ヒドラジド基、イミド基、アジド基、およびジアゾ基からなる群より選ばれる窒素含有基、または(b’)ホスフィノ基である、請求項9または10記載の方法。
【請求項12】
フェリチンが(1)天然フェリチン、または(2)下記(a)~(c)のいずれかの改変を有する遺伝子組換えフェリチン単量体から構成されるフェリチンである、請求項1~11のいずれか一項記載の方法:
(a)フェリチン単量体を構成する6つのα-ヘリックスのうちのN末端から数えて2番目と3番目の間のフレキシブルリンカー領域に機能性ペプチドが挿入されているフェリチン単量体;
(b)N末端に機能性ペプチドが付加されているフェリチン単量体;または
(c)C末端に機能性ペプチドが付加されているフェリチン単量体。
【請求項13】
請求項1~12のいずれかの方法で
得られる有機化合物封入フェリチンを含む緩衝液であって、
有機化合物封入フェリチンを含む緩衝液は、有機化合物のpKaが7未満の場合には3以上7未満のpHを有し、有機化合物のpKaが7以上の場合には6以上12未満のpHを有し、
有機化合物封入フェリチンを含む緩衝液のpHと有機化合物のpKaが、式:pH=2.6+0.6pKa±0.4pKaの関係を満たし、
有機化合物の分子量が800以下である、
有機化合物封入フェリチンを含む緩衝液。
【請求項14】
緩衝液が、6以上9以下のpHを有する、請求項13記載の緩衝液。
【請求項15】
有機化合物が、6以上9以下のpKaを有する、請求項13または14記載の緩衝液。
【請求項16】
有機化合物封入フェリチンであって、
有機化合物が、アントラサイクリン系物質、ヒスタミンH2受容体拮抗薬、ピグアナイド系物質、ATP感受性カリウムチャネル開口薬、β2アドレナリン受容体作動薬、イミダゾリン系物質、ビタミン、および標識物質からなる群より選ばれ、
フェリチン1分子への有機化合物の封入分子数が以下である、有機化合物封入フェリチン:
(1)有機化合物がアントラサイクリン系物質であり、かつフェリチンが天然フェリチンである場合、40分子以上200分子以下;
(2)有機化合物がアントラサイクリン系物質であり、かつフェリチンが遺伝子組換えフェリチン(但し、少なくとも3つのドメインを含む融合タンパク質であって、
(a)第1のドメインは、天然ヒトフェリチンの重鎖のアミノ酸配列、または天然ヒトフェリチンの重鎖のアミノ酸配列との少なくとも9 0 % の同一性を有するその変異体を含み、
(b)第2のドメインは、マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)切断部位のアミノ酸配列を含み、そして
(c)第3のN末端ドメインは、本質的にプロリン、セリンおよびアラニン(PAS)からなる少なくとも20アミノ酸残基のポリペプチドのアミノ酸配列からなる、
融合タンパク質を除く)である場合、100分子以上200分子以下;または
(3)有機化合物がヒスタミンH2受容体拮抗薬、ピグアナイド系物質、ATP感受性カリウムチャネル開口薬、β2アドレナリン受容体作動薬、イミダゾリン系物質、ビタミン、または標識物質であり、かつフェリチンが天然フェリチンまたは遺伝子組換えフェリチンである場合、10分子以上200分子以下。
【請求項17】
アントラサイクリン系物質がドキソルビシンであり、
ヒスタミンH2受容体拮抗薬がファモチジンであり、
ピグアナイド系物質がメトホルミンであり、
ATP感受性カリウムチャネル開口薬がミノキシジルであり、
β2アドレナリン受容体作動薬がテルブタリンであり、
イミダゾリン系物質がクレアチニンであり、
ビタミンがチアミン、リボフラビン、またはニコチンアミドであり、
標識物質がローダミンB、ウラニン、またはコンゴレッドである、請求項16記載の有機化合物封入フェリチン。
【請求項18】
有機化合物が、アントラサイクリン系物質、ヒスタミンH2受容体拮抗薬、ピグアナイド系物質、ATP感受性カリウムチャネル開口薬、およびβ2アドレナリン受容体作動薬からなる群より選択される、請求項16または17記載の有機化合物封入フェリチン。
【請求項19】
フェリチンが(1)天然フェリチン、または(2)下記(a)~(c)のいずれかの改変を有する遺伝子組換えフェリチン単量体から構成されるフェリチンである、請求項16~18のいずれか一項記載の有機化合物封入フェリチン:
(a)フェリチン単量体を構成する6つのα-ヘリックスのうちのN末端から数えて2番目と3番目の間のフレキシブルリンカー領域に機能性ペプチドが挿入されているフェリチン単量体;
(b)N末端に機能性ペプチドが付加されているフェリチン単量体;または
(c)C末端に機能性ペプチドが付加されているフェリチン単量体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機化合物封入フェリチンの製造方法などに関する。
【背景技術】
【0002】
フェリチンは、動植物から微生物まで普遍的に存在する、複数の単量体から構成される内腔を有する球状タンパク質である。ヒト等の動物では、フェリチンとしてH鎖およびL鎖の2種の単量体が存在すること、ならびにフェリチンは24個の単量体から構成される多量体(多くの場合、H鎖およびL鎖の混合物)であって、外径12nmのカゴ状の形態および内径7nmの内腔を有することが知られている。フェリチンは、生体あるいは細胞中の鉄元素のホメオスタシスに深く関わっており、その内腔中に鉄を保持できるため、鉄の輸送・貯蔵等の生理学的機能の役割を担うことが知られている。
【0003】
フェリチンはまた、その内腔中に薬剤を封入するDDS担体としての応用が検討されており、また、電子デバイスの作製にも利用されている。フェリチンのこのような用途に関連して、フェリチンに有機化合物を封入する方法が幾つか報告されている。具体的には、このような方法として、(1)溶液のpHを変更することによりフェリチンの脱会合および再会合を調節する方法、(2)変性剤によるフェリチンの変性、および再フォールディングを行う方法、ならびに(3)圧力による方法が報告されている。
例えば、非特許文献1では、フェリチンをpH2の酸性条件下で脱会合させ、次いで溶液のpHを7~9に変更することでフェリチンを再会合させることにより、約28個のドキソルビシンをフェリチンに封入できたことが報告されている。
非特許文献2では、フェリチンを改変することによりフェリチンの安定性を向上させつつ、溶液のpHをHCl添加でpH2に変更してフェリチンの脱会合および再会合を調節することにより、約30~90個のドキソルビシンをフェリチンに封入できたことが報告されている。
非特許文献3では、先ず、尿素等の変性剤によりフェリチンを変性させ、次いで、変性フェリチンを薬剤と混合した後、溶液中の変性剤を抜くことにより、フェリチンが天然のフォールディング構造に回復する際に約33個のドキソルビシンをフェリチンに封入できたことが報告されている。
特許文献1では、フェリチンおよびドキソルビシンの混合液を高圧(200~800MPa)下で6~20時間放置することにより、約10~20個のドキソルビシンをフェリチンに封入できたことが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】中国特許出願公開第106110333号明細書
【非特許文献】
【0005】
【文献】Journal of Controlled Release 196(2014) 184-196
【文献】Biomacromolecules 2016,17,514-522
【文献】Proc Natl Acad Sci USA. 2014 111(41):14900-5
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の従来方法は、フェリチンの回収率やフェリチンへの有機化合物への封入効率が低く、また、操作が煩雑である点や、所定の装置を必要とする点、封入率を上げるためにフェリチン表面を特別に改変する必要がある点で負担になるという課題がある。
より具体的には、上記(1)および(2)の方法では、酸性緩衝液または変性剤によるフェリチン構造の破壊(脱会合/変性)が必要であるところ、一旦フェリチン構造を破壊してしまうと、その後に構造の回復プロセス(再会合/再フォールディング)を設けても、フェリチンの一部が破壊されたままの状態となり元に戻らないため、フェリチンの回収率が低下するという課題がある。加えて、フェリチン構造を破壊し、その後に構造を回復させるという上記(1)および(2)の方法は、溶液(反応場)中に分布する有機化合物を取込みフェリチンに封入するに過ぎないものであることから、溶液の濃度以上の有機化合物をフェリチンに封入することができず、フェリチンに封入できる有機化合物の量が少ないという封入効率上の課題がある。
また、上記(1)の方法については、pH条件の変更を要するために緩衝液の置換が必要である。上記(2)の方法については、再フォールディングのために変性剤の除去が必要であるのみならず、封入率を上げるためにフェリチン表面を特別に改変する必要がある。したがって、上記(1)(2)の方法は、煩雑である。
さらに、上記(3)の方法については、非常に高い圧力条件を達成できる特殊な装置を必要とする点で負担になる。
【0007】
したがって、本発明の目的は、上記のような1以上の課題を解決することができる、有機化合物封入フェリチンの代替的な製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
従来、金属原子および金属化合物(例、金属酸化物)については、サイズが小さいため、フェリチン構造の破壊(脱会合/変性)を引き起こさない条件下で、金属原子および金属化合物をフェリチンに封入できることが知られていた。
しかし、有機化合物については、サイズが相対的に大きく、フェリチン構造におけるフェリチン透過能を有しないと考えられていたため、フェリチン構造の破壊を引き起こさない条件下では、有機化合物をフェリチンに封入できないと考えられていた。実際、非特許文献1は、ドキソルビシンのフェリチンへの封入に際して、フェリチンの脱会合を引き起こすことができる強酸性条件下(pH約2.5以下)をあえて採用して、フェリチンを脱会合させている。
今回、本発明者らは、鋭意検討した結果、フェリチン構造を破壊しないpH範囲内にある、有機化合物の酸解離定数(pKa)に応じた適切なpHを有する緩衝液を使用するという簡便な方法により、有機化合物をフェリチンに封入できることなどを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
〔1〕有機化合物封入フェリチンの製造方法であって、
(1)緩衝液中で有機化合物をフェリチンと混合して、有機化合物およびフェリチンの混合物を得ること;ならびに
(2)緩衝液中で前記混合物をインキュベートすることを含み、
緩衝液は、pH3以上13未満であり、かつ
緩衝液は、有機化合物のpKaが7未満の場合には3以上7未満のpHを有し、有機化合物のpKaが7以上の場合には6以上13未満のpHを有する、方法。
〔2〕緩衝液のpHと有機化合物のpKaが、式:pH=2.6+0.6pKa±0.4pKaの関係を満たす、〔1〕の方法。
〔3〕インキュベートの温度が10℃以上60℃以下である、〔1〕または〔2〕の方法。
〔4〕有機化合物の分子量が100以上1000未満である、〔1〕~〔3〕のいずれかの方法。
〔5〕有機化合物のpKaが2以上13以下である、〔1〕~〔4〕のいずれかの方法。
〔6〕10分子以上200分子以下の有機化合物がフェリチン1分子に封入されている、〔1〕~〔5〕のいずれかの方法。
〔7〕混合およびインキュベートの合計時間が30分以上である、〔1〕~〔6〕のいずれかの方法。
〔8〕前記混合におけるフェリチンに対する有機化合物の重量比(有機化合物/フェリチン)が0.20以上0.36以下である、〔1〕~〔7〕のいずれかの方法。
〔9〕有機化合物が、正の架電部分、または正に架電し得る部分を有する、〔1〕~〔8〕のいずれかの方法。
〔10〕正の架電部分が、(a)アンモニウム基(例、第一級、第二級、第三級または第四級)、グアニジウム基、イミダゾリウム基、オキサゾリウム基、チアゾリウム基、オキサジアゾリウム基、トリアゾリウム基、ピロリジニウム基、ピリジニウム基、ピペリジニウム基、ピラゾリウム基、ピリミジニウム基、ピラジニウム基、およびトリアジニウム基からなる群より選ばれるカチオン性窒素含有基、または(b)ホスホニウム基である、〔9〕の方法。
〔11〕正に架電し得る部分が、(a’)アミノ基、グアニジノ基、ニトロ基、アミド基、ヒドラジド基、イミド基、アジド基、およびジアゾ基からなる群より選ばれる窒素含有基、または(b’)ホスフィノ基である、〔9〕または〔10〕の方法。
〔12〕フェリチンが(1)天然フェリチン、または(2)下記(a)~(c)のいずれかの改変を有する遺伝子組換えフェリチン単量体から構成されるフェリチンである、〔1〕~〔11〕のいずれかの方法:
(a)フェリチン単量体を構成する6つのα-ヘリックスのうちのN末端から数えて2番目と3番目の間のフレキシブルリンカー領域に機能性ペプチドが挿入されているフェリチン単量体;
(b)N末端に機能性ペプチドが付加されているフェリチン単量体;または
(c)C末端に機能性ペプチドが付加されているフェリチン単量体。
〔13〕有機化合物封入フェリチンを含む緩衝液であって、
緩衝液は、有機化合物のpKaが7未満の場合には3以上7未満のpHを有し、有機化合物のpKaが7以上の場合には6以上12未満のpHを有する、緩衝液。
〔14〕緩衝液が、6以上9以下のpHを有する、〔13〕の緩衝液。
〔15〕有機化合物が、6以上9以下のpKaを有する、〔13〕または〔14〕の緩衝液。
〔16〕有機化合物封入フェリチンであって、
有機化合物が、アントラサイクリン系物質、ヒスタミンH2受容体拮抗薬、ピグアナイド系物質、ATP感受性カリウムチャネル開口薬、β2アドレナリン受容体作動薬、イミダゾリン系物質、ビタミン、および標識物質からなる群より選ばれ、
フェリチン1分子への有機化合物の封入分子数が以下である、有機化合物封入フェリチン:
(1)有機化合物がアントラサイクリン系物質であり、かつフェリチンが天然フェリチンである場合、40分子以上200分子以下;
(2)有機化合物がアントラサイクリン系物質であり、かつフェリチンが遺伝子組換えフェリチンである場合、100分子以上200分子以下;または
(3)有機化合物がヒスタミンH2受容体拮抗薬、ピグアナイド系物質、ATP感受性カリウムチャネル開口薬、β2アドレナリン受容体作動薬、イミダゾリン系物質、ビタミン、または標識物質であり、かつフェリチンが天然フェリチンまたは遺伝子組換えフェリチンである場合、10分子以上200分子以下。
〔17〕アントラサイクリン系物質がドキソルビシンであり、
ヒスタミンH2受容体拮抗薬がファモチジンであり、
ピグアナイド系物質がメトホルミンであり、
ATP感受性カリウムチャネル開口薬がミノキシジルであり、
β2アドレナリン受容体作動薬がテルブタリンであり、
イミダゾリン系物質がクレアチニンであり、
ビタミンがチアミン、リボフラビン、またはニコチンアミドであり、
標識物質がローダミンB、ウラニン、またはコンゴレッドである、〔16〕の有機化合物封入フェリチン。
〔18〕有機化合物が、アントラサイクリン系物質、ヒスタミンH2受容体拮抗薬、ピグアナイド系物質、ATP感受性カリウムチャネル開口薬、およびβ2アドレナリン受容体作動薬からなる群より選択される、〔16〕または〔17〕の有機化合物封入フェリチン。
〔19〕フェリチンが(1)天然フェリチン、または(2)下記(a)~(c)のいずれかの改変を有する遺伝子組換えフェリチン単量体から構成されるフェリチンである、〔16〕~〔18〕のいずれかの有機化合物封入フェリチン:
(a)フェリチン単量体を構成する6つのα-ヘリックスのうちのN末端から数えて2番目と3番目の間のフレキシブルリンカー領域に機能性ペプチドが挿入されているフェリチン単量体;
(b)N末端に機能性ペプチドが付加されているフェリチン単量体;または
(c)C末端に機能性ペプチドが付加されているフェリチン単量体。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法によれば、有機化合物のpKaに応じた適切なpHを有する緩衝液を使用するという簡便な方法により、有機化合物をフェリチンに封入することができる。
本発明の方法はまた、有機化合物封入フェリチンの作製効率に優れる。先ず、本発明の方法は、フェリチン構造の破壊(脱会合/変性)を必要としないため、フェリチン構造の破壊(脱会合/変性)および回復プロセスを必要とする従来の方法(回復プロセスを設けても、フェリチンの一部が破壊されたままの状態となり元に戻らない)に比し、フェリチンの回収率に優れる。次に、本発明の方法は、フェリチンの超分子構造が維持可能な環境下でフェリチンの内腔と外殻の電気化学ポテンシャル差を利用することにより、溶液中の濃度以上に有機化合物をフェリチンに封入できることから、溶液中の濃度以上で有機化合物をフェリチンに封入することが困難である従来の方法(フェリチン構造の回復に伴い、溶液をフェリチン内腔中に取り込む方法)に比し、より多くの有機化合物をフェリチンに効率的に封入できる。
本発明の方法はさらに、従来の方法とは異なり、緩衝液の置換、変性剤の除去、または特殊な装置が不要である点で簡便である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、各反応pHにおけるフェリチンへの薬剤導入率(重量%)を示す図である。
【
図2】
図2は、各温度におけるフェリチンへの薬剤導入率(重量%)を示す図である。
【
図3】
図3は、フェリチンへの薬剤導入率(重量%)の経時的変化を示す図である。
【
図4】
図4は、反応溶液中の薬剤・フェリチン(タンパク質)濃度比と薬剤導入率(重量%)の関係を示す図である。
【
図5】
図5は、フェリチンへの薬剤の封入反応後におけるフェリチンおよび薬剤のカラム溶出ピークの一致(すなわち、フェリチンへの薬剤の封入)を示す図である。
【
図6】
図6は、ゼータサイザーナノZS(マルバーン社)による薬剤封入フェリチン複合体(水溶液分散性ナノ粒子)の確認を示す図である。
【
図7】
図7は、ドキソルビシン封入処理されていないフェリチンと薬剤封入フェリチンの表面電荷が同等であること(それ故、フェリチン表面にドキソルビシンが吸着することで複合化しているわけではないこと)を示す図である。
【
図8】
図8は、薬剤封入フェリチンのpH安定性を示す図である。
【
図9】
図9は、従来の脱会合・再会合プロセスにおけるフェリチンの脱会合後の放置時間と薬剤導入率との関係を示す図である。
【
図10】
図10は、本発明のワンステッププロセスと従来の脱会合・再会合プロセスによるフェリチンの回収率の比較を示す図である。
【
図11】
図11は、各低分子薬剤のpKaと最もフェリチン内に導入量の多かった反応で用いた緩衝液pH(最適pH)との相関を示す図である。近似直線は、
図11の中央にある直線(pH=2.6+0.6pKa)である。各低分子薬剤のpKaと最適pHとは、式:pH=2.6+0.6pKa±0.4pKa(切片:2.6;傾き:0.6;変動係数:0.4)の範囲内にある。
【
図12】
図12は、本発明のワンステッププロセスでの薬剤導入量と従来の脱会合・再会合プロセスでの薬剤導入量の比を示す図である。
【
図13】
図13は、ゼータサイザーナノZSを用いた動的光散乱(DLS)法による各pHでのフェリチンのサイズの測定結果を示す図である。
【
図14】
図14は、血漿中でのウラニン内包フェリチンの安定性評価結果を示す図である。
【
図15】
図15は、蛍光活性化セルソーティング(FACS)による、トランスフェリン受容体TfR提示細胞(SKBR-3細胞)内へのウラニン内包フェリチンの取込みの測定結果を示す図である。
【
図16】
図16は、二光子励起蛍光顕微鏡による、トランスフェリン受容体TfR提示細胞(SKBR-3細胞)内へのウラニン内包フェリチンの取込みの測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、以下を含む、有機化合物封入フェリチンの製造方法を提供する:
(1)緩衝液中で有機化合物をフェリチンと混合して、有機化合物およびフェリチンの混合物を得ること;ならびに
(2)緩衝液中で前記混合物をインキュベートすることを含み、
緩衝液は、pH3以上13未満であり、かつ
緩衝液は、有機化合物のpKaが7未満の場合には3以上7未満のpHを有し、有機化合物のpKaが7以上の場合には6以上13未満のpHを有する、方法。
【0013】
フェリチン(24多量体タンパク質)は、哺乳動物等の種々の高等生物に普遍的に存在する。フェリチンを構成するフェリチン単量体は、種々の高等生物間で高度に保存された6つのα-ヘリックスを有すること、および高等生物のフェリチン単量体としてH鎖およびL鎖の2種の単量体が存在することが知られている。
【0014】
本発明では、フェリチンを構成するフェリチン単量体として、哺乳動物のフェリチン単量体を使用することができる。哺乳動物としては、例えば、霊長類(例、ヒト、サル、チンパンジー)、齧歯類(例、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ)、家畜および使役用の哺乳動物(例、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウマ)が挙げられる。フェリチン単量体としては、H鎖もしくはL鎖、またはそれらの混合物のいずれも使用することができる。フェリチン単量体としては、天然フェチリン単量体、または24多量体の形成能を有するその遺伝子組換えフェチリン単量体のいずれも使用することができる。
【0015】
一実施形態では、遺伝子組換えフェチリン単量体は、フェリチン単量体を構成する6つのα-ヘリックス間のフレキシブルリンカー領域において改変されていてもよい。このような遺伝子組換えフェチリン単量体としては、例えば、フェリチン単量体を構成する6つのα-ヘリックスのうちのN末端から数えて1番目と2番目の間、2番目と3番目の間、3番目と4番目の間、4番目と5番目の間、または5番目と6番目の間(好ましくは2番目と3番目の間)のフレキシブルリンカー領域に機能性ペプチドが挿入されたフェリチン単量体が挙げられる(本願実施例、ならびに米国特許出願公開第2016/0060307号;Jae Og Jeon et al.,ACS Nano(2013),7(9),7462-7471;Sooji Kim et al.,Biomacromolecules(2016),17(3),1150-1159;Young Ji Kang et al.,Biomacromolecules(2012),13(12),4057-4064)。例えば、ヒトフェリチンH鎖(配列番号1)、およびヒトフェリチンL鎖(配列番号2)では、6つのα-ヘリックスのうちのN末端から数えて1~6番目のα-ヘリックスは、表Aに示されるとおりである。したがって、ヒトフェリチンH鎖(配列番号1)のフレキシブルリンカー領域は、1番目と2番目の間のフレキシブルリンカー領域(43~49位のアミノ酸残基からなる領域)、2番目と3番目の間のフレキシブルリンカー領域(78~96位のアミノ酸残基からなる領域)、3番目と4番目の間のフレキシブルリンカー領域(125~127位のアミノ酸残基からなる領域)、4番目と5番目の間のフレキシブルリンカー領域(138位のアミノ酸残基の位置)、または5番目と6番目の間のフレキシブルリンカー領域(160~164位のアミノ酸残基の領域)である。また、ヒトフェリチンL鎖(配列番号2)のフレキシブルリンカー領域は、1番目と2番目の間のフレキシブルリンカー領域(38~45位のアミノ酸残基からなる領域)、2番目と3番目の間のフレキシブルリンカー領域(74~92位のアミノ酸残基からなる領域)、3番目と4番目の間のフレキシブルリンカー領域(121~123位のアミノ酸残基からなる領域)、4番目と5番目の間のフレキシブルリンカー領域(134位のアミノ酸残基の位置)、または5番目と6番目の間のフレキシブルリンカー領域(155~159位のアミノ酸残基の領域)である。
【0016】
【0017】
別の実施形態では、遺伝子組換えフェチリン単量体は、そのN末端領域および/またはC末端領域において改変されていてもよい。フェリチン単量体のN末端は多量体の表面上に露出され、そのC末端は表面上に露出し得ない。したがって、フェリチン単量体のN末端に付加されるペプチド部分は多量体の表面に露出して、多量体の外部に存在する標的材料と相互作用することができる(例、国際公開第2006/126595号)。一方、フェリチン単量体のC末端は、そのアミノ酸残基を改変することで、フェリチン内腔中の有機化合物と相互作用することができる(例、Y.J.Kang,Biomacromolecules.2012,vol.13(12),4057)。このような遺伝子組換えフェチリン単量体としては、例えば、N末端またはC末端に機能性ペプチドが付加されたフェリチン単量体が挙げられる。
【0018】
好ましくは、フェリチンは、ヒトへの臨床応用の観点より、ヒトフェリチンである。ヒトフェリチンを構成するフェリチン単量体としては、ヒトフェリチンH鎖、もしくはヒトフェリチンL鎖、またはそれらの混合物のいずれも使用することができる。
【0019】
本発明では、フェリチン1分子(または1単位)とは、24個のフェリチン単量体から構成される複合体(24量体)をいい、フェリチン単量体はフェリチン1分子(または1単位)に該当しないものとする。
【0020】
特定の実施形態では、フェリチンH鎖は、以下であってもよい:
(A1)配列番号1のアミノ酸配列を含むタンパク質;
(B1)配列番号1のアミノ酸配列において、アミノ酸残基の置換、欠失、挿入、および付加からなる群より選ばれる、1もしくは数個のアミノ酸残基の修飾を含むアミノ酸配列を含み、かつ、多量体(例、24量体)形成能を有するタンパク質;または
(C1)配列番号1のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ、多量体(例、24量体)形成能を有するタンパク質。
【0021】
好ましくは、フェリチンL鎖は、以下であってもよい:
(A2)配列番号2のアミノ酸配列を含むタンパク質;
(B2)配列番号2のアミノ酸配列において、アミノ酸残基の置換、欠失、挿入、および付加からなる群より選ばれる、1もしくは数個のアミノ酸残基の修飾を含むアミノ酸配列を含み、かつ、多量体(例、24量体)形成能を有するタンパク質;または
(C2)配列番号2のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ、多量体(例、24量体)形成能を有するタンパク質。
【0022】
タンパク質(B1)および(B2)では、アミノ酸残基の欠失、置換、付加および挿入からなる群より選ばれる1、2、3または4種の修飾により、1個または数個のアミノ酸残基を改変することができる。アミノ酸残基の修飾は、アミノ酸配列中の1つの領域に導入されてもよいが、複数の異なる領域に導入されてもよい。用語「1または数個」は、タンパク質の活性を大きく損なわない個数を示す。用語「1または数個」が示す数は、例えば1~50個、好ましくは1~40個、より好ましくは1~30個、さらにより好ましくは1~20個、特に好ましくは1~10個または1~5個(例、1個、2個、3個、4個、または5個)である。
【0023】
タンパク質(C1)または(C2)では、対象のアミノ酸配列に対する同一性の程度は、好ましくは92%以上であり、より好ましくは95%以上であり、さらにより好ましくは97%以上であり、最も好ましくは98%以上または99%以上である。タンパク質の同一性%の算出は、アルゴリズムblastpにより行うことができる。より具体的には、タンパク質の同一性の算定%は、アルゴリズムblastpにおいて、デフォルト設定のScoring Parameters(Matrix:BLOSUM62;Gap Costs:Existence=11 Extension=1;Compositional Adjustments:Conditional compositional score matrix adjustment)を用いて行うことができる。
【0024】
アミノ酸配列において変異を導入すべきアミノ酸残基の位置は、当業者に明らかであるが、配列アライメントをさらに参考にして特定されてもよい。具体的には、当業者は、1)複数のアミノ酸配列を比較し、2)相対的に保存されている領域、および相対的に保存されていない領域を明らかにし、次いで、3)相対的に保存されている領域および相対的に保存されていない領域から、それぞれ、機能に重要な役割を果たし得る領域および機能に重要な役割を果たし得ない領域を予測できるので、構造・機能の相関性を認識できる。したがって、当業者は、配列アライメントを利用することによりアミノ酸配列において変異を導入すべき位置を特定でき、また、既知の二次および三次構造情報を併用して、アミノ酸配列において変異を導入すべきアミノ酸残基の位置を特定することもできる。
【0025】
アミノ酸残基が置換により変異される場合、アミノ酸残基の置換は、保存的置換であってもよい。本明細書中で用いられる場合、用語「保存的置換」とは、所定のアミノ酸残基を、類似の側鎖を有するアミノ酸残基で置換することをいう。類似の側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーは、当該分野で周知である。例えば、このようなファミリーとしては、塩基性側鎖を有するアミノ酸(例、リジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖を有するアミノ酸(例、アスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電性極性側鎖を有するアミノ酸(例、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖を有するアミノ酸(例、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β位分岐側鎖を有するアミノ酸(例、スレオニン、バリン、イソロイシン)、芳香族側鎖を有するアミノ酸(例、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)、ヒドロキシル基(例、アルコール性、フェノール性)含有側鎖を有するアミノ酸(例、セリン、スレオニン、チロシン)、および硫黄含有側鎖を有するアミノ酸(例、システイン、メチオニン)が挙げられる。好ましくは、アミノ酸の保存的置換は、アスパラギン酸とグルタミン酸との間での置換、アルギニンとリジンとヒスチジンとの間での置換、トリプトファンとフェニルアラニンとの間での置換、フェニルアラニンとバリンとの間での置換、ロイシンとイソロイシンとアラニンとの間での置換、およびグリシンとアラニンとの間での置換であってもよい。
【0026】
特定の実施形態では、本発明で用いられるフェリチンは、(1)天然フェリチン、または(2)下記(a)~(c)のいずれかの改変を有する遺伝子組換えフェリチン単量体から構成されるフェリチンであってもよい:
(a)フェリチン単量体を構成する6つのα-ヘリックスのうちのN末端から数えて2番目と3番目の間のフレキシブルリンカー領域に機能性ペプチドが挿入されているフェリチン単量体;
(b)N末端に機能性ペプチドが付加されているフェリチン単量体;または
(c)C末端に機能性ペプチドが付加されているフェリチン単量体。
【0027】
機能性ペプチドとしては、目的タンパク質と融合された場合に任意の機能を目的タンパク質に付加することができるペプチドを用いることができる。このようなペプチドとしては、標的材料に対する結合能を有するペプチド、プロテアーゼ分解性ペプチド、細胞透過性ペプチド、安定化ペプチドが挙げられる。
【0028】
機能性ペプチドは、所望の機能を有する1個のペプチドのみであってもよいし、または所望の機能を有する同種もしくは異種の複数(例、2個、3個もしくは4個等の数個)のペプチドであってもよい。機能性ペプチドが上記のような複数のペプチドである場合、複数の機能性ペプチドは、任意の順序で挿入されて、フェリチン単量体と融合することができる。フェリチン単量体および機能性ペプチドの融合は、アミド結合を介して達成することができる。このような融合は、アミド結合により、フェリチン単量体および機能性ペプチドを直接的に連結することにより達成されてもよいし、あるいは1個のアミノ酸残基(例、メチオニン)または数個(例えば2~20個、好ましくは2~10個、より好ましくは2、3、4または5個)のアミノ酸残基からなるペプチド(ペプチドリンカー)が介在したアミド結合により間接的に達成されてもよい。種々のペプチドリンカーが知られているので、本発明でも、このようなペプチドリンカーを使用することができる。好ましくは、上記機能性ペプチドは、20個以下(好ましくは18個以下、より好ましくは15個以下、さらにより好ましくは12個以下、特に好ましくは10個以下)のアミノ酸残基からなるペプチドである。
【0029】
機能性ペプチドとして、標的材料に対する結合能を有するペプチドを用いる場合、標的材料としては、例えば、有機物および無機物(例、導体、半導体および磁性体)が挙げられる。より具体的には、このような標的材料としては、生体有機分子、金属材料、シリコン材料、炭素材料、タンパク質精製用タグ(例、ヒスチジンタグ、マルトース結合タンパク質タグ、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ)と相互作用できる材料(例、ニッケル、マルトース、グルタチオン)、標識物質(例、放射性物質、蛍光物質、色素)、ポリマー(例、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリエチレンオキシドまたはポリ(L-乳酸)等の疎水性有機ポリマーまたは伝導性ポリマー)が挙げられる。
【0030】
生体有機分子としては、例えば、タンパク質(例、オリゴペプチドまたはポリペプチド)、核酸(例、DNAまたはRNA、あるいはヌクレオシド、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチド)、糖質(例、モノサッカリド、オリゴサッカリドまたはポリサッカリド)、脂質が挙げられる。生体有機分子はまた、細胞表面抗原(例、癌抗原、心疾患マーカー、糖尿病マーカー、神経疾患マーカー、免疫疾患マーカー、炎症マーカー、ホルモン、感染症マーカー)であってもよい。生体有機分子はまた、疾患抗原(例、癌抗原、心疾患マーカー、糖尿病マーカー、神経疾患マーカー、免疫疾患マーカー、炎症マーカー、ホルモン、感染症マーカー)であってもよい。このような生体有機分子に対する結合能を有するペプチドとしては、種々のペプチドが報告されている。例えば、タンパク質に対する結合能を有するペプチド(例、F.Danhier et al.,Mol. Pharmaceutics,2012,vol.9,No.11,p.2961.、C-H.Wu et al.,Sci.Transl.Med.,2015,vol.7,No.290,290ra91.L.Vannucci et.al.Int.J.Nanomedicine.2012,vol.7,p.1489、J.Cutrera et al.,Mol.Ther.2011,vol.19(8),p.1468、R.Liu et al.,Adv.Drug Deliv.Rev.2017,vol.110-111,p.13を参照)、核酸に対する結合能を有するペプチド(例、R.Tan et.al.Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1995、vol.92,p.5282、R.Tan et.al.Cell、1993、vol.73, p.1031、R.Talanian et.al.Biochemistry.1992,vol.31,p.6871を参照)、糖質に対する結合能を有するペプチド(例、K.Oldenburg et.al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1992,vol.89,No.12,p.5393-5397.,K.Yamamoto et.al.,J.Biochem.,1992,vol.111,p.436,A.Baimiev et.al.,Mol.Biol.(Moscow),2005,vol.39,No.1,p.90.を参照)、脂質に対する結合能を有するペプチド(例、O.Kruse et.al.,B Z. Naturforsch.,1995,vol.50c,p.380,O.Silva et.al., Sci.Rep.,2016,vol.6,27128., A.Filoteo et.al.,J.Biol.Chem.,1992,vol.267,No.17,p.11800を参照)等の種々のペプチドが報告されている。
【0031】
好ましくは、生体有機分子に対する結合能を有するペプチドは、タンパク質に対する結合能を有するペプチドであってもよい。タンパク質に対する結合能を有するペプチドとしては、例えば、Danhier et al.,Mol. Pharmaceutics,2012,vol.9,No.11,p.2961に開示されるRGD含有ペプチドやその改変配列(例、RGD(配列番号19)、ACDCRGDCFCG(配列番号20)、CDCRGDCFC(配列番号21)、GRGDS(配列番号22)、およびASDRGDFSG(配列番号23))、ならびにその他のインテグリン認識配列(例、EILDV(配列番号24)、およびREDV(配列番号25))、L.Vannucci et.al.Int.J.Nanomedicine.2012,vol.7,p.1489に開示されるペプチド(例、SYSMEHFRWGKP(配列番号26))、J.Cutrera et al.,Mol.Ther.2011,vol.19,No.8,p.1468に開示されるペプチド(例、VNTANST(配列番号27))、R.Liu et al.,Adv.Drug Deliv.Rev.2017,vol.110-111,p.13に開示されるペプチド(例、DHLASLWWGTEL(配列番号28)、およびNYSKPTDRQYHF(配列番号29)、IPLPPPSRPFFK(配列番号30)、LMNPNNHPRTPR(配列番号31)、CHHNLTHAC(配列番号32)、CLHHYHGSC(配列番号33)、CHHALTHAC(配列番号34)、SPRPRHTLRLSL(配列番号35)、TMGFTAPRFPHY(配列番号36)、NGYEIEWYSWVTHGMY(配列番号37)、FRSFESCLAKSH(配列番号38)、YHWYGYTPQNVI(配列番号39)、QHYNIVNTQSRV(配列番号40)、QRHKPRE(配列番号41)、HSQAAVP(配列番号42)、AGNWTPI(配列番号43)、PLLQATL(配列番号44)、LSLITRL(配列番号45)、CRGDCL(配列番号46)、CRRETAWAC(配列番号47)、RTDLDSLRTYTL(配列番号48)、CTTHWGFTLC(配列番号49)、APSPMIW(配列番号50)、LQNAPRS(配列番号51)、SWTLYTPSGQSK(配列番号52)、SWELYYPLRANL(配列番号53)、WQPDTAHHWATL(配列番号54)、CSDSWHYWC(配列番号55)、WHWLPNLRHYAS(配列番号56)、WHTEILKSYPHE(配列番号57)、LPAFFVTNQTQD(配列番号58)、YNTNHVPLSPKY(配列番号59)、YSAYPDSVPMMS(配列番号60)、TNYLFSPNGPIA(配列番号61)、CLSYYPSYC(配列番号62)、CVGVLPSQDAIGIC(配列番号63)、CEWKFDPGLGQARC(配列番号64)、CDYMTDGRAASKIC(配列番号65)、KCCYSL(配列番号66)、MARSGL(配列番号14)、MARAKE(配列番号67)、MSRTMS(配列番号68)、WTGWCLNPEESTWGFCTGSF(配列番号69)、MCGVCLSAQRWT(配列番号70)、SGLWWLGVDILG(配列番号71)、NPGTCKDKWIECLLNG(配列番号72)、ANTPCGPYTHDCPVKR(配列番号73)、IVWHRWYAWSPASRI(配列番号74)、CGLIIQKNEC(配列番号75)、MQLPLAT(配列番号76)、CRALLRGAPFHLAEC(配列番号77)、IELLQAR(配列番号78)、TLTYTWS(配列番号79)、CVAYCIEHHCWTC(配列番号80)、THENWPA(配列番号81)、WHPWSYLWTQQA(配列番号82)、VLWLKNR(配列番号83)、CTVRTSADC(配列番号84)、AAAPLAQPHMWA(配列番号85)、SHSLLSS(配列番号86)、ALWPPNLHAWVP(配列番号87)、LTVSPWY(配列番号88)、SSMDIVLRAPLM(配列番号89)、FPMFNHWEQWPP(配列番号90)、SYPIPDT(配列番号91)、HTSDQTN(配列番号92)、CLFMRLAWC(配列番号93)、DMPGTVLP(配列番号94)、DWRGDSMDS(配列番号95)、VPTDTDYS(配列番号96)、VEEGGYIAA(配列番号97)、VTWTPQAWFQWV(配列番号98)、AQYLNPS(配列番号99)、CSSRTMHHC(配列番号100)、CPLDIDFYC(配列番号101)、CPIEDRPMC(配列番号102)、RGDLATLRQLAQEDGVVG(配列番号103)、SPRGDLAVLGHK(配列番号104)、SPRGDLAVLGHKY(配列番号105)、CQQSNRGDRKRC(配列番号106)、CMGNKCRSAKRP(配列番号107)、CGEMGWVRC(配列番号108)、GFRFGALHEYNS(配列番号109)、CTLPHLKMC(配列番号110)、ASGALSPSRLDT(配列番号111)、SWDIAWPPLKVP(配列番号112)、CTVALPGGYVRVC(配列番号113)、ETAPLSTMLSPY(配列番号114)、GIRLRG(配列番号115)、CPGPEGAGC(配列番号116)、CGRRAGGSC(配列番号117)、CRGRRST(配列番号118)、CNGRCVSGCAGRC(配列番号119)、CGNKRTRGC(配列番号120)、HVGGSSV(配列番号121)、RGDGSSV(配列番号122)、SWKLPPS(配列番号123)、CRGDKRGPDC(配列番号124)、GGKRPAR(配列番号125)、RIGRPLR(配列番号126)、CGFYWLRSC(配列番号127)、RPARPAR(配列番号128)、TLTYTWS(配列番号129)、SSQPFWS(配列番号130)、YRCTLNSPFFWEDMTHEC(配列番号131)、KTLLPTP(配列番号132)、KELCELDSLLRI(配列番号133)、IRELYSYDDDFG(配列番号134)、NVVRQ(配列番号135)、VECYLIRDNLCIY(配列番号136)、CGGRRLGGC(配列番号137)、WFCSWYGGDTCVQ(配列番号138)、NQQLIEEIIQILHKIFEIL(配列番号139)、KMVIYWKAG(配列番号140)、LNIVSVNGRH(配列番号141)、QMARIPKRLARH(配列番号142)、およびQDGRMGF(配列番号143))またはそれらの変異ペプチド(例、1、2、3、4または5個のアミノ酸残基の保存的置換等の変異)、あるいはこのようなアミノ酸配列を1個または複数有するペプチドが挙げられる。
【0032】
好ましくは、生体有機分子に対する結合能を有するペプチドは、核酸に対する結合能を有するペプチドであってもよい。核酸に対する結合能を有するペプチドとしては、例えば、R.Tan et.al.Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1995、vol.92,p.5282に開示されるペプチドおよびその部分ペプチド(例、TRQARR(配列番号17)、TRQARRN(配列番号144)、TRQARRNRRRRWRERQR(配列番号145)、TRRQRTRRARRNR(配列番号146)、NAKTRRHERRRKLAIER(配列番号147)、MDAQTRRRERRAEKQAQWKAA(配列番号148)、およびRKKRRQRRR(配列番号149))、R.Tan et.al.Cell、1993、vol.73,p.1031に開示されるペプチド(例、TRQARRNRRRRWRERQR(配列番号150))、Talanian et.al.Biochemistry.1992,vol.31,p.6871に開示されるペプチド(例、KRARNTEAARRSRARK(配列番号151))、またはそれらの変異ペプチド(例、1、2、3、4または5個のアミノ酸残基の保存的置換等の変異)、あるいはこのようなアミノ酸配列を1個または複数有するペプチドが挙げられる。
【0033】
好ましくは、生体有機分子に対する結合能を有するペプチドは、糖質に対する結合能を有するペプチドであってもよい。糖質に対する結合能を有するペプチドとしては、例えば、K.Oldenburg et.al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1992,vol.89,No12,p.5393-5397.に開示されるペプチド(例、DVFYPYPYASGS(配列番号152)、およびRVWYPYGSYLTASGS(配列番号153))、K.Yamamoto et.al.,J.Biochem.,1992,vol.111,p.436に開示されるペプチド(例、DTWPNTEWS(配列番号154)、DSYHNIW(配列番号155)、DTYFGKAYNPW(配列番号156)、およびDTIGSPVNFW(配列番号157))、A.Baimiev et.al.,Mol.Biol.(Moscow),2005,vol.39,No.1,p.90に開示されるペプチド(TYCNPGWDPRDR(配列番号158)、およびTFYNEEWDLVIKDEH(配列番号159))またはそれらの変異ペプチド(例、1、2、3、4または5個のアミノ酸残基の保存的置換等の変異)、あるいはこのようなアミノ酸配列を1個または複数有するペプチドが挙げられる。
【0034】
好ましくは、生体有機分子に対する結合能を有するペプチドは、脂質に対する結合能を有するペプチドであってもよい。脂質に対する結合能を有するペプチドとしては、例えば、O.Kruse et.al.,Z.Naturforsch.,1995,vol.50c,p.380に開示されるペプチド(例、MTLILELVVI(配列番号160)、MTSILEREQR(配列番号161)、およびMTTILQQRES(配列番号162))、O.Silva et.al., Sci.Rep.,2016,vol.6,27128に開示されるペプチド(例、VFQFLGKIIHHVGNFVHGFSHVF(配列番号163))、A.Filoteo et.al.,J.Biol.Chem.,1992,vol.267(17),p.11800に開示されるペプチド(例、KKAVKVPKKEKSVLQGKLTRLAVQI(配列番号164))またはそれらの変異ペプチド(例、1、2、3、4または5個のアミノ酸残基の保存的置換等の変異)、あるいはこのようなアミノ酸配列を1個または複数有するペプチドが挙げられる。
【0035】
金属材料としては、例えば、金属および金属化合物が挙げられる。金属としては、例えば、チタン、金、クロム、亜鉛、鉛、マンガン、カルシウム、銅、カルシウム、ゲルマニウム、アルミニウム、ガリウム、カドミウム、鉄、コバルト、銀、プラチナ、パラジウム、ハフニウム、テルルが挙げられる。金属化合物としては、例えば、このような金属の酸化物、硫化物、炭酸化物、砒化物、塩化物、フッ化物およびヨウ化物、ならびに金属間化合物が挙げられる。このような金属材料に対する結合能を有するペプチドとしては、種々のペプチドが報告されている(例、国際公開第2005/010031号;国際公開第2012/086647号;K.Sano et al.,Langmuir,2004,vol.21,p.3090.;S.Brown,Nat.Biotechnol.,1997,vol.15.p.269.;K.Kjaergaard et al.,Appl.Environ.Microbiol.,2000,vol.66.p.10.;Umetsu et al.,Adv.Mater.,17,2571-2575(2005);M.B.Dickerson et al.,Chem.Commun.,2004,vol.15.p.1776.;C.E.Flynn et al.,J.Mater.Chem.,2003,vol.13.p.2414.)。したがって、本発明では、このような種々のペプチドを用いることができる。
【0036】
好ましくは、金属材料に対する結合能を有するペプチドは、チタンまたはチタン化合物(例、酸化チタン)等のチタン材料に対する結合能を有するペプチド、および金または金化合物等の金材料に対する結合能を有するペプチドであってもよい。チタン材料に対する結合能を有するペプチドとしては、例えば、後述する実施例および国際公開第2006/126595号に開示されるペプチド(例、RKLPDA(配列番号165))、M.J.Pender et al.,Nano Lett.,2006,vol.6,No.1,p.40-44に開示されるペプチド(例、SSKKSGSYSGSKGSKRRIL(配列番号166))、I.Inoue et al.,J.Biosci.Bioeng.,2006,vol.122,No.5,p.528に開示されるペプチド(例、AYPQKFNNNFMS(配列番号167))、ならびに国際公開第2006/126595号に開示されるペプチド(例、RKLPDAPGMHTW(配列番号168)、およびRALPDA(配列番号169))、またはそれらの変異ペプチド(例、1、2、3、4または5個のアミノ酸残基の保存的置換等の変異)、あるいはこのようなアミノ酸配列を1個または複数有するペプチドが挙げられる。金材料に対する結合能を有するペプチドとしては、例えば、後述する実施例およびS.Brown,Nat. Biotechnol. 1997,vol.15, p.269に開示されるペプチド(例、MHGKTQATSGTIQS(配列番号170))、J.Kim et.al.,Acta Biomater.,2010,Vol.6,No.7,p.2681に開示されるペプチド(例、TGTSVLIATPYV(配列番号171)、およびTGTSVLIATPGV(配列番号172))、ならびにK.Nam et.al.,Science,2006,vol.312,No.5775,p.885.に開示されるペプチド(例、LKAHLPPSRLPS(配列番号173))、またはそれらの変異ペプチド(例、1、2、3、4または5個のアミノ酸残基の保存的置換等の変異)、あるいはこのようなアミノ酸配列を1個または複数有するペプチドが挙げられる。
【0037】
シリコン材料としては、例えば、シリコンまたはシリコン化合物が挙げられる。シリコン化合物としては、例えば、シリコンの酸化物(例、一酸化ケイ素(SiO)、二酸化ケイ素(SiO2))、炭化ケイ素(SiC)、シラン(SiH4)、シリコーンゴムが挙げられる。このようなシリコン材料に対する結合能を有するペプチドとしては、種々のペプチドが報告されている(例、国際公開第2006/126595号;国際公開第2006/126595号;M.J.Pender et al.,Nano Lett.,2006,vol.6,No.1,p.40-44)。したがって、本発明では、このような種々のペプチドを用いることができる。
【0038】
好ましくは、シリコン材料に対する結合能を有するペプチドは、シリコンまたはシリコン化合物(例、シリコンの酸化物)に対する結合能を有するペプチドであってもよい。このようなペプチドとしては、例えば、国際公開第2006/126595号に開示されるペプチド(例、RKLPDA(配列番号165))、M.J.Pender et al.,Nano Lett.,2006,vol.6,No.1,p.40-44に開示されるペプチド(例、SSKKSGSYSGSKGSKRRIL(配列番号174))、ならびに国際公開第2006/126595号に開示されるペプチド(MSPHPHPRHHHT(配列番号175)、TGRRRRLSCRLL(配列番号176)、およびKPSHHHHHTGAN(配列番号177))、またはそれらの変異ペプチド(例、1、2、3、4または5個のアミノ酸残基の保存的置換等の変異)、あるいはこのようなアミノ酸配列を1個または複数有するペプチドが挙げられる。
【0039】
炭素材料としては、例えば、カーボンナノ材料(例、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノホン(CNH))、フラーレン(C60)、グラフェンシート、グラファイトが挙げられる。このような炭素材料に対する結合能を有するペプチドとしては、種々のペプチドが報告されている(例、特開2004-121154号公報;特開2004-121154号公報;M.J.Pender et al.,Nano Lett.,2006,vol.6,No.1,p.40-44)。したがって、本発明では、このような種々のペプチドを用いることができる。
【0040】
好ましくは、炭素材料に対する結合能を有するペプチドは、カーボンナノチューブ(CNT)またはカーボンナノホン(CNH)等のカーボンナノ材料に対する結合能を有するペプチドであってもよい。このようなペプチドとしては、例えば、後述する実施例および特開2004-121154号公報に開示されるペプチド(例、DYFSSPYYEQLF(配列番号178))、M.J.Pender et al.,Nano Lett.,2006,vol.6,No.1,p.40-44に開示されるペプチド(HSSYWYAFNNKT(配列番号179))、ならびに特開2004-121154号公報に開示されるペプチド(例、YDPFHII(配列番号180))、またはそれらの変異ペプチド(例、1、2、3、4または5個のアミノ酸残基の保存的置換等の変異)、あるいはこのようなアミノ酸配列を1個または複数有するペプチドが挙げられる。
【0041】
機能性ペプチドとしてプロテアーゼ分解性ペプチドが用いられる場合、プロテアーゼとしては、例えば、カスパーゼやカテプシンなどのシステインプロテアーゼ(D. McIlwain1 et al.,Cold Spring Harb Perspect Biol.,2013,vol.5,a008656、V.Stoka et al.,IUBMB Life.2005,vol.57,No.4-5p.347)、コラゲナーゼ(G.Lee et al.,Eur J Pharm Biopharm.,2007,vol.67,No.3,p.646)、トロンビンやXa因子(R.Jenny et al.,Protein Expr.Purif.,2003,vol.31,p.1、H.Xu et al.,J.Virol., 2010,vol.84,No.2,p.1076)、ウイルス由来プロテアーゼ(C.Byrd et al., Drug Dev. Res.,2006,vol.67,p.501)が挙げられる。
【0042】
プロテアーゼ分解性ペプチドとしては、例えば、E.Lee et al.,Adv.Funct.Mater.,2015,vol.25,p.1279に開示されるペプチド(例、GRRGKGG(配列番号181))、G.Lee et al.,Eur J Pharm Biopharm.,2007,vol.67,No.3,p.646に開示されるペプチド(例、GPLGV(配列番号182)、およびGPLGVRG(配列番号183))、Y.Kang et al.,Biomacromolecules,2012,vol.13,No.12,p.4057に開示されるペプチド(例、GGLVPRGSGAS(配列番号184))、R.Talanian et al.,J.Biol.Chem.,1997,vol.272,p.9677に開示されるペプチド(例、YEVDGW(配列番号185)、LEVDGW(配列番号186)、VDQMDGW(配列番号187)、VDVADGW(配列番号188)、VQVDGW(配列番号189)、およびVDQVDGW(配列番号190))、Jenny et al.,Protein Expr.Purif.,2003,vol.31,p.1に開示されるペプチド(例、ELSLSRLRDSA(配列番号191)、ELSLSRLR(配列番号192)、DNYTRLRK(配列番号193)、YTRLRKQM(配列番号194)、APSGRVSM(配列番号195)、VSMIKNLQ(配列番号196)、RIRPKLKW(配列番号197)、NFFWKTFT(配列番号198)、KMYPRGNH(配列番号199)、QTYPRTNT(配列番号200)、GVYARVTA(配列番号201)、SGLSRIVN(配列番号202)、NSRVA(配列番号203)、QVRLG(配列番号204)、MKSRNL(配列番号205)、RCKPVN(配列番号206)、およびSSKYPN(配列番号207))、H.Xu et al.,J.Virol.,2010,vol.84,No.2,p.1076に開示されるペプチド(例、LVPRGS(配列番号208))またはそれらの変異ペプチド(例、1、2、3、4または5個のアミノ酸残基の保存的置換等の変異)、あるいはこのようなアミノ酸配列を1個または複数有するペプチドが挙げられる。
【0043】
機能性ペプチドとして安定化ペプチドが用いられる場合、安定化ペプチドとしては、例えば、X.Meng et al.,Nanoscale,2011,vol.3,No.3,p.977に開示されるペプチド(例、CCALNN(配列番号209))、ならびにE.Falvo et al.,Biomacromolecules,2016,vol.17,No.2,p.514に開示されるペプチド(例、PAS(配列番号210))またはそれらの変異ペプチド(例、1、2、3、4または5個のアミノ酸残基の保存的置換等の変異)、あるいはこのようなアミノ酸配列を1個または複数有するペプチドが挙げられる。
【0044】
機能性ペプチドとして細胞透過性ペプチドが用いられる場合、細胞透過性ペプチドとしては、例えば、Z.Guo et al.Biomed.Rep.,2016,vol.4,No.5,p.528に開示されるペプチド(例、GRKKRRQRRRPPQ(配列番号211)、RQIKIWFQNRRMKWKK(配列番号212)、CGYGPKKKRKVGG(配列番号213)、RRRRRRRR(配列番号214)、KKKKKKKK(配列番号215)、GLAFLGFLGAAGSTM(配列番号216)、GAWSQPKKKRKV(配列番号217)、LLIILRRRIRKQAHAHSK(配列番号218)、MVRRFLVTL(配列番号219)、RIRRACGPPRVRV(配列番号220)、MVKSKIGSWILVLFV(配列番号221)、SDVGLCKKRP(配列番号222)、NAATATRGRSAASRPTQR(配列番号223)、PRAPARSASRPRRPVQ(配列番号224)、DPKGDPKGVTVT(配列番号225)、VTVTVTGKGDPKPD(配列番号226)、KLALKLALK(配列番号227)、ALKAALKLA(配列番号228)、GWTLNSAGYLLG(配列番号229)、KINLKALAALAKKIL(配列番号230)、RLSGMNEVLSFRW(配列番号231)、SDLWEMMMVSLACQY(配列番号232)、およびPIEVCMYREP(配列番号233))またはそれらの変異ペプチド(例、1、2、3、4または5個のアミノ酸残基の保存的置換等の変異)、あるいはこのようなアミノ酸配列を1個または複数有するペプチドが挙げられる。
【0045】
機能性ペプチドとしては、標的材料に対する結合能を有するペプチドが好ましい。標的材料に対する結合能を有するペプチドの好ましい例は、有機物に対する結合能を有するペプチドである。有機物に対する結合能を有するペプチドとしては、生体有機分子に対する結合能を有するペプチドが好ましく、タンパク質に対する結合能を有するペプチドがより好ましい。
【0046】
フェリチンは、フェリチンをコードするポリヌクレオチドを含む宿主細胞を用いて、フェリチンを宿主細胞に産生させることで入手することができる。このような宿主細胞としては、例えば、動物、昆虫、魚類、または植物に由来する細胞、および微生物が挙げられる。動物としては、哺乳動物または鳥類(例、ニワトリ)が好ましく、哺乳動物がより好ましい。哺乳動物としては、例えば、霊長類(例、ヒト、サル、チンパンジー)、齧歯類(例、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ)、家畜および使役用の哺乳動物(例、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウマ)が挙げられる。
【0047】
好ましい実施形態では、宿主細胞は、臨床応用の観点から、ヒト細胞、またはヒトタンパク質の産生に汎用されている細胞(例、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、ヒト胎児腎由来HEK293細胞)であってもよい。
【0048】
別の好ましい実施形態では、宿主細胞は、フェリチンの大量生産等の観点より、微生物であってもよい。微生物としては、例えば、細菌および真菌が挙げられる。細菌としては、宿主細胞として用いられている任意の細菌を使用することができ、例えば、バシラス(Bacillus)属細菌〔例、枯草菌(Bacillus subtilis)〕、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属細菌〔(例、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)〕、エシェリヒア(Escherichia)属細菌〔例、シェリヒア・コリ(Escherichia coli)〕、パントエア(Pantoea)属細菌(例、パントエア・アナナティス(Pantoea ananatis))が挙げられる。真菌としては、宿主細胞として用いられている任意の真菌を使用することができ、例えば、サッカロミセス(Saccharomyces)属真菌〔例、サッカロミセス・セレビシエー(Saccharomyces cerevisiae)〕、およびシゾサッカロミセス(Schizosaccharomyces)属真菌〔例、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)〕が挙げられる。あるいは、微生物として、糸状菌を用いてもよい。糸状菌としては、例えば、アクレモニウム属(Acremonium)/タラロマイセス属(Talaromyces)、トリコデルマ属(Trichoderma)、アルペルギルス属(Aspergillus)、ニューロスポラ属(Neurospora)、フサリウム属(Fusarium)、クリソスポリウム属(Chrysosporium)、フミコーラ属(Humicola)、エメリセラ属(Emericella)、およびハイポクレア属(Hypocrea)に属する細菌が挙げられる。
【0049】
有機化合物としては、任意の有機化合物を用いることができる。このような有機化合物としては、例えば、低分子化合物、糖化合物、ペプチド化合物、核酸化合物(例、DNA、RNA、人工核酸)が挙げられるが、低分子化合物が好ましい。
【0050】
本発明では、用語「低分子化合物」とは、分子量100~1000の有機化合物をいう。低分子化合物である有機化合物の分子量は、150以上、200以上、250以上、または300以上であってもよい。分子量はまた、950以下、900以下、850以下、または800以下であってもよい。より具体的には、分子量は、150~950、200~900、250~850、または300~800であってもよい。
【0051】
低分子化合物としては、例えば、医薬、ビタミン、標識物質、アミノ酸、オリゴペプチド、ヌクレオシド、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、単糖、脂質、脂肪酸、およびそれらの代謝物が挙げられる。
【0052】
特定の実施形態では、本発明で用いられる医薬は、アントラサイクリン系物質、ヒスタミンH2受容体拮抗薬、ピグアナイド系物質、ATP感受性カリウムチャネル開口薬、β2アドレナリン受容体作動薬、イミダゾリン系物質、ビタミン、または標識物質であってもよい。
アントラサイクリン系物質としては、例えば、ドキソルビシン、ダウノルビシン、エピルビシン、イダルビシン、バルルビシン、ミトキサントロンが挙げられる。なかでも、ドキソルビシンが好ましい。
ヒスタミンH2受容体拮抗薬としては、例えば、ファモチジン、シメチジン、ラニチジン、ニザチジン、ロキサチジンアセテート、ラフチジンが挙げられる。なかでも、ファモチジンが好ましい。
ピグアナイド系物質としては、例えば、メトホルミン、ブホルミン、フェンホルミン、プログアニル、クロロプログアニル、クロルヘキシジン、アレキシジンが挙げられる。なかでも、メトホルミンが好ましい。
ATP感受性カリウムチャネル開口薬としては、例えば、ミノキシジル、ニコランジル、ピナシジル、ジアゾキシド、クロマカリム、レブクロマカリム、レマカリムが挙げられる。なかでも、ミノキシジルが好ましい。
β2アドレナリン受容体作動薬としては、例えば、テルブタリン、サルブタモール、レボサルブタモール、ピルブテロール、プロカテロール、メタプロテレノール、フェノテロール、ビトルテロール、サルメテロール、フォルモテロール、ビランテロール、バンブテロール、クレンブテロール、インダカテロールが挙げられる。なかでも、テルブタリンが好ましい。
イミダゾリン系物質としては、例えば、クレアチニン、オキシメタゾリン、クロニジン、シベンゾリン、チザニジン、テトラヒドロゾリン、ナファゾリン、フェントラミン、ブリモニジン、モクソニジンが挙げられる。なかでも、クレアチニンが好ましい。
【0053】
ビタミンとしては、例えば、ビタミンB1(例、チアミン)、ビタミンB2(例、リボフラビン)、ビタミンB3(例、ナイアシン、ニコチンアミド)、ビタミンB5(例、パントテン酸)、ビタミンB6(例、ピリドキサール、ピリドキサミン、ピリドキシン)、ビタミンB7(例、ビオチン)、ビタミンB9(例、葉酸)、ビタミンB12(例、シアノコバラミン、ヒドロキソコバラミン)、ビタミンC(例、アスコルビン酸)、ビタミンA(例、レチノール、β-カロテン、α-カロテン、β-クリプトキサンチン)、ビタミンD(例、エルゴカルシフェロール、コレカルシフェロール)、ビタミンE(例、トコフェロール、トコトリエノール)、ビタミンK(例、フィロキノン、メナキノン)が挙げられる。なかでも、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB3が好ましい。
【0054】
標識物質としては、例えば、ローダミン(例、ローダミンB、6G、6GP、3GO、123)、ウラニン等の蛍光物質、コンゴレッド等の色素および染料、ならびに発光物質が挙げられる。なかでも、ローダミンB、ウラニン、またはコンゴレッドが好ましい。
【0055】
アミノ酸としては、例えば、α-アミノ酸(例、アラニン、アスパラギン、システイン、グルタミン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、スレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アルギニン、ヒスチジン、リジン、グリシン)、β-アミノ酸(例、β-アラニン、パントテン酸)、γ-アミノ酸(例、γ-アミノ酪酸)が挙げられる。アミノ酸は、L体であってもD体であってもよい。
【0056】
有機化合物のpKaは、2以上13以下であってもよい。有機化合物のpKaが2以上13以下である場合、当該pKaに応じた適切なpHを有する緩衝液を使用することで、フェリチンに有機化合物をより効率的に封入することができる。より具体的には、有機化合物のpKaが2以上7未満(好ましくは3以上6未満)の場合、緩衝液は、3以上7未満(好ましくは3以上6未満)のpHを有することが好ましい。また、有機化合物のpKaが7以上13以下の場合、緩衝液は、6以上13未満(好ましくは6以上12未満、より好ましくは6以上11未満、さらにより好ましくは6以上10未満)のpHを有することが好ましい。
【0057】
有機化合物のpKaは、中和滴定法により求めることができる(化学便覧 基礎編 I、II(改訂4版)、日本化学会編、丸善、1993)。中和滴定法では、各分子の0.1モル/L溶液を調製し、25℃でその溶液に0.1モル/Lの水酸化ナトリウム水溶液または塩酸水溶液を滴定し、pHを測定することで計算することができる。有機化合物が単一のpKa値を有する場合、その値を有機化合物のpKaとして採用される。一方、有機化合物が複数(例えば2~6、好ましくは2~5、より好ましくは2~4、さらにより好ましくは2または3)のpKa値を有する場合、それらの平均値が有機化合物のpKaとして採用される。
【0058】
好ましくは、有機化合物は、正の荷電部分および/または正に荷電し得る部分を有していてもよい。
【0059】
一実施形態では、有機化合物は、正の荷電部分を有する。正の荷電部分とは、固体の状態で正に荷電している基を意味する。正の荷電部分としては、例えば、カチオン性窒素含有基、およびカチオン性リン含有基が挙げられる。
【0060】
カチオン性窒素含有基とは、正に荷電した窒素原子を有する基を意味する。カチオン性窒素含有基としては、例えば、アンモニウム基(例、第一級、第二級、第三級または第四級)、グアニジウム基、イミダゾリウム基、オキサゾリウム基、チアゾリウム基、オキサジアゾリウム基、トリアゾリウム基、ピロリジニウム基、ピリジニウム基、ピペリジニウム基、ピラゾリウム基、ピリミジニウム基、ピラジニウム基、およびトリアジニウム基が挙げられる。
【0061】
カチオン性リン含有基とは、正に荷電したリン原子を有する基を意味する。カチオン性リン含有基としては、例えばホスホニウム基(例、第一級、第二級、第三級または第四級)が挙げられる。
【0062】
別の実施形態では、有機化合物は、正に荷電し得る部分を有する。正に荷電し得る部分とは、固体の状態では正に荷電していないものの、水溶液中に溶解した状態では水素原子アクセプターとして作用して、水溶液のpHに依存して正に荷電することができる基を意味する。正に荷電し得る部分としては、例えば、正に荷電し得る窒素含有基、および正に荷電し得るリン含有基が挙げられる。正に荷電し得る窒素含有基としては、例えば、アミノ基(例、第一級、第二級、または第三級)、グアニジノ基、ニトロ基、アミド基、ヒドラジド基、イミド基、アジド基、ジアゾ基が挙げられる。正に荷電し得るリン含有基としては、例えば、ホスフィノ基(例、第一級、第二級、または第三級)が挙げられる。
【0063】
有機化合物は、正の荷電部分または正に荷電し得る部分に加えて、負の荷電部分(例、アミンオキシドにおけるオキシド基)または負に荷電し得る部分(例、硫酸基)を有していてもよい。有機化合物が、正の荷電部分または正に荷電し得る部分に加えて、負の荷電部分または負に荷電し得る部分を有する場合、正の荷電部分および/または正に荷電し得る部分の総数が、負の荷電部分および/または負に荷電し得る部分の総数に比し多いこと(すなわち、全体として正の電荷を帯びているか、または溶液の所望のpH条件によって全体として正の電荷を帯び易くなっていること)が好ましい。
【0064】
特定の実施形態では、有機化合物のpKaとpHは、相関式:pH=2.6+0.6pKa±0.4pKaの範囲内であってもよい(
図11)。変動係数は、好ましくは0.3である。
【0065】
別の特定の実施形態では、有機化合物は、6以上9以下のpKaを有していてもよい。この場合、有機化合物封入フェリチンの製造方法に用いた緩衝液(例、pH6以上9以下)をそのまま保存に用いることで、有機化合物封入フェリチンの製造後に有機化合物封入フェリチンを安定的に保存することができる。したがって、本発明では、6以上9以下のpKaを有する有機化合物を好適に使用することができる。
【0066】
本発明の方法では、先ず、緩衝液中で有機化合物をフェリチンと混合することにより、有機化合物およびフェリチンの混合物が得られる。混合は、任意の様式により行うことができる。例えば、フェリチン含有緩衝液中に有機化合物を溶解してもよく、または有機化合物含有緩衝液中に有機化合物を溶解してもよく、あるいは、有機化合物含有緩衝液をフェリチン含有緩衝液と合わせることにより行われてもよい。混合におけるフェリチンに対する有機化合物の重量比(有機化合物/フェリチン)は、フェリチンに有機化合物を封入できる限り特に限定されないが、例えば、0.05~0.45であってもよい。フェリチンに有機化合物を効率的に封入する観点から、このような重量比は、例えば、0.20以上0.36以下であってもよい。
【0067】
本発明で用いられる緩衝液は、3以上13未満のpHを有する。このような範囲のpHであれば、フェリチン構造の破壊(脱会合および変性)を防ぐことができる。緩衝液のpHは、有機化合物のpKa等の因子に応じて、4以上、5以上、6以上、または7以上であってもよい。緩衝液のpHはまた、有機化合物のpKa等の因子に応じて、13未満、12未満、11未満、10未満、9未満、8未満、または7未満であってもよい。緩衝液のpHは、ガラス電極法により25℃で測定される値を用いることができる。
【0068】
緩衝液としては、目的のpHに応じて適切なものを選択することができる。目的のpHが3以上7未満である場合に好適に使用できる緩衝液としては、例えば、リン酸緩衝液、酢酸緩衝液、クエン酸緩衝液、クエン酸リン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、酒石酸緩衝液、フタル酸緩衝液、グリシン塩酸塩緩衝液、MES-NaOH緩衝液、MOPS緩衝液、HEPES-NaOH緩衝液、PIPES-NaOH緩衝液、ビストリス塩酸塩緩衝液が挙げられる。目的のpHが6以上13未満である場合に好適に使用できる緩衝液としては、例えば、トリス塩酸塩緩衝液、炭酸ナトリウム緩衝液、MOPS緩衝液、HEPES-NaOH緩衝液、PIPES-NaOH緩衝液、グリシン-NaOH緩衝液、CAPS-NaOH緩衝液、塩化カリウム-水酸化ナトリウム緩衝液が挙げられる。
【0069】
特定の実施形態では、緩衝液のpHは、6以上9以下であってもよい。この場合、有機化合物封入フェリチンの製造方法に用いた緩衝液をそのまま保存に用いることで、有機化合物封入フェリチンの製造後に有機化合物封入フェリチンを安定的に保存することができる。したがって、本発明では、6以上9以下のpHを有する緩衝液を好適に使用することができる。
【0070】
本発明の方法では、次いで、緩衝液中で上記混合物がインキュベートされる。インキュベートは、任意の様式により行うことができる。例えば、インキュベートは、緩衝液中で上記混合物を静置または撹拌することにより、行われる。インキュベートの温度は、有機化合物をフェリチンに封入できる限り特に限定されず、例えば10℃以上60℃以下である。インキュベートの温度は、15℃以上、または20℃以上であってもよい。インキュベートの温度はまた、55℃以下、または50℃以下であってもよい。
【0071】
混合およびインキュベートの合計時間は、有機化合物をフェリチンに封入できる限り特に限定されず、例えば、5分以上、10分以上、15分以上、または20以上であってもよい。好ましくは、有機化合物をフェリチンに十分に封入する観点からは、混合およびインキュベートの合計時間は、30分以上であってもよい。
【0072】
本発明において、フェリチン1分子に封入される有機化合物の数は特に限定されないが、例えば、10分子以上200分子以下の有機化合物をフェリチン1分子に封入することができる。フェリチン1分子に封入される有機化合物の数は、好ましくは20分子以上、より好ましくは30分子以上、さらにより好ましくは40分子以上、なおさらにより好ましくは50分子以上、特に好ましくは60分子以上、70分子以上、80分子以上、90分子以上、100分子以上、110分子以上、120分子以上、130分子以上、140分子以上、または150分子以上であってもよい。フェリチン1分子に封入される有機化合物の数はまた、好ましくは190分子以下、より好ましくは180分子以下、さらにより好ましくは170分子以下、なおさらにより好ましくは160分子以下、特に好ましくは150分子以下、140分子以下、130分子以下、120分子以下、110分子以下、100分子以下、90分子以下、80分子以下、70分子以下、60分子以下、50分子以下、40分子以下、30分子以下、20分子以下または15分子以下であってもよい。
【0073】
特定の実施形態では、有機化合物がアントラサイクリン系物質である場合、フェリチン1分子に封入されるアントラサイクリン系物質の数は、フェリチンが(a)天然フェリチン単量体から構成される天然フェリチン、または(b)遺伝子組換えフェリチン単量体から構成される遺伝子組換えフェリチンである場合に応じて変動してもよい。
【0074】
例えば、有機化合物がアントラサイクリン系物質であり、かつフェリチンが天然フェリチンである場合、天然フェリチン1分子に封入されるアントラサイクリン系物質の数は、40分子以上200分子以下であってもよい。天然フェリチン1分子に封入されるアントラサイクリン系物質の数は、好ましくは50分子以上、より好ましくは60分子以上、さらにより好ましくは70分子以上、なおさらにより好ましくは80分子以上、特に好ましくは90分子以上であってもよい。天然フェリチン1分子に封入されるアントラサイクリン系物質の数はまた、好ましくは170分子以下、より好ましくは140分子以下であってもよい。
【0075】
一方、有機化合物がアントラサイクリン系物質であり、かつフェリチンが遺伝子組換えフェリチンである場合、遺伝子組換えフェリチン1分子に封入されるアントラサイクリン系物質の数は、100分子以上200分子以下であってもよい。遺伝子組換えフェリチン1分子に封入されるアントラサイクリン系物質の数は、好ましくは110分子以上、より好ましくは120分子以上、さらにより好ましくは130分子以上、なおさらにより好ましくは140分子以上、特に好ましくは150分子以上であってもよい。遺伝子組換えフェリチン1分子に封入されるアントラサイクリン系物質の数はまた、好ましくは190分子以下、より好ましくは180分子以下であってもよい。
【0076】
あるいは、有機化合物がアントラサイクリン系物質である場合、フェリチン1分子に封入されるアントラサイクリン系物質の数は、(a)天然フェリチン、または(b)遺伝子組換えフェリチンの別によらず、規定することもできる。このような場合、フェリチン1分子に封入されるアントラサイクリン系物質の数は、100分子以上200分子以下であってもよい。フェリチン1分子に封入されるアントラサイクリン系物質の数は、好ましくは110分子以上、より好ましくは120分子以上、さらにより好ましくは130分子以上、なおさらにより好ましくは140分子以上、特に好ましくは150分子以上であってもよい。フェリチン1分子に封入されるアントラサイクリン系物質の数はまた、好ましくは190分子以下、より好ましくは180分子以下であってもよい。
【0077】
特定の実施形態では、有機化合物がヒスタミンH2受容体拮抗薬である場合、フェリチン1分子に封入されるヒスタミンH2受容体拮抗薬の数は、10分子以上200分子以下であってもよい。フェリチン1分子に封入されるヒスタミンH2受容体拮抗薬の数は、好ましくは20分子以上、より好ましくは30分子以上であってもよい。フェリチン1分子に封入されるヒスタミンH2受容体拮抗薬の数はまた、好ましくは150分子以下、より好ましくは100分子以下、さらにより好ましくは50分子以下であってもよい。
【0078】
特定の実施形態では、有機化合物がピグアナイド系物質である場合、フェリチン1分子に封入されるピグアナイド系物質の数は、10分子以上200分子以下であってもよい。フェリチン1分子に封入されるピグアナイド系物質の数は、好ましくは20分子以上、より好ましくは30分子以上、さらにより好ましくは40分子以上、なおさらにより好ましくは50分子以上、特に好ましくは60分子以上、または70分子以上であってもよい。フェリチン1分子に封入されるピグアナイド系物質の数はまた、好ましくは150分子以下、より好ましくは100分子以下であってもよい。
【0079】
特定の実施形態では、有機化合物がATP感受性カリウムチャネル開口薬である場合、フェリチン1分子に封入されるATP感受性カリウムチャネル開口薬の数は、10分子以上200分子以下であってもよい。フェリチン1分子に封入されるATP感受性カリウムチャネル開口薬の数は、好ましくは20分子以上、より好ましくは30分子以上、さらにより好ましくは40分子以上、なおさらにより好ましくは50分子以上、特に好ましくは60分子以上であってもよい。フェリチン1分子に封入されるATP感受性カリウムチャネル開口薬の数はまた、好ましくは150分子以下、より好ましくは100分子以下であってもよい。
【0080】
特定の実施形態では、有機化合物がβ2アドレナリン受容体作動薬である場合、フェリチン1分子に封入されるβ2アドレナリン受容体作動薬の数は、10分子以上200分子以下であってもよい。フェリチン1分子に封入されるβ2アドレナリン受容体作動薬の数は、好ましくは20分子以上、より好ましくは30分子以上、さらにより好ましくは40分子以上、なおさらにより好ましくは50分子以上、特に好ましくは60分子以上、70分子以上、80分子以上、90分子以上、100分子以上、110分子以上、または120分子以上であってもよい。フェリチン1分子に封入されるβ2アドレナリン受容体作動薬の数はまた、好ましくは150分子以下であってもよい。
【0081】
特定の実施形態では、有機化合物がイミダゾリン系物質である場合、フェリチン1分子に封入されるイミダゾリン系物質の数は、10分子以上200分子以下であってもよい。フェリチン1分子に封入されるイミダゾリン系物質の数は、好ましくは15分子以上、より好ましくは20分子以上であってもよい。フェリチン1分子に封入されるイミダゾリン系物質の数はまた、好ましくは150分子以下、より好ましくは100分子以下、さらにより好ましくは50分子以下であってもよい。
【0082】
特定の実施形態では、有機化合物がビタミンである場合、フェリチン1分子に封入されるビタミンの数は、10分子以上200分子以下であってもよい。フェリチン1分子に封入されるビタミンの数は、好ましくは150分子以下、より好ましくは100分子以下、さらにより好ましくは50分子以下、なおさらにより好ましくは30分子以下、特に好ましくは20分子以下であってもよい。
【0083】
特定の実施形態では、有機化合物が標識物質である場合、フェリチン1分子に封入される標識物質の数は、10分子以上200分子以下であってもよい。フェリチン1分子に封入される標識物質の数は、好ましくは150分子以下、より好ましくは100分子以下、さらにより好ましくは50分子以下、なおさらにより好ましくは30分子以下、特に好ましくは20分子以下であってもよい。
【0084】
フェリチンへの有機化合物の封入の確認は、フェリチンおよび有機化合物の吸収ピークの測定により行うことができる。
【0085】
フェリチンおよび有機化合物の吸収ピークの測定について説明する。先ず、インキュベート後の緩衝液中のフェリチンをゲル濾過カラムにより精製する。次いで、精製後の溶出液についてフェリチンの吸収ピーク(280nmの吸光度)および有機化合物の吸収ピーク(例えば、ドキソルビシンであれば480nmの吸光度)を同時計測する。このとき、双方の吸収ピークの溶出位置が一致するのであれば、有機化合物がフェリチンに封入されていると判別することができる。本発明の方法によれば、有機化合物がフェリチンの表面に吸着されるのではなく、フェリチンの内腔に再現良く封入されることが確認されているので、吸収ピークの溶出位置の一致により有機化合物がフェリチンに封入されていると考えることができる。
【0086】
フェリチンへの有機化合物の封入の確認では、他の方法が併用されてもよい。このような他の方法としては、例えば、フェリチンの表面電荷および/またはサイズの測定が挙げられる。
【0087】
フェリチンの表面電荷の測定について説明する。インキュベート後の緩衝液中のフェリチンの表面電荷(ゼータ電位)が、有機化合物の封入処理がされていないフェリチンの表面電荷と同等であれば、有機化合物がフェリチンの表面に吸着することで複合化しているわけではない(すなわち、有機化合物がフェリチンに封入されている)と判別することができる。表面電荷の測定は、電気泳動光散乱法により行うことができる。好ましくは、電気泳動光散乱法による測定は、ゼータサイザーナノZS(マルバーン社)を用いて行うことができる。フェリチンの表面電荷の測定が好適に利用される有機化合物のpKaは、例えば、1~4(好ましくは1~3)、および6~14(好ましくは7~14)である。本発明では、このようなpKa値を有する有機化合物を使用することもまた好ましい。
【0088】
フェリチンのサイズの測定について説明する。この場合、インキュベート後の緩衝液中のフェリチンのサイズが、有機化合物の封入処理がされていないフェリチンのサイズ(外径 約12nm)と同等であることがさらに確認されてもよい。サイズの同等性は、動的光散乱法により行うことができる。好ましくは、動的光散乱法による測定は、ゼータサイザーナノZS(マルバーン社)を用いて行うことができる。
【0089】
フェリチンへの有機化合物への封入分子数は、以下のように決定することができる。(1)インキュベート後の緩衝液中のフェリチンおよび有機化合物を分離する(例、脱塩カラムの使用)。(2)フェリチンを脱会合させ(例、pH2.3に調整)、フェリチン中の有機化合物を溶液中に放出させる。(3)溶液中の有機化合物の濃度(重量/体積)を、吸光度に基づき検量線により決定する。(4)溶液中のフェリチンの濃度(重量/体積)を、標準的なタンパク質定量法(例、ウシアルブミンを標準とするプロテインアッセイCBB溶液の使用)により決定する。(5)フェリチンへの有機化合物の導入率(有機化合物とフェリチンの総重量に占める有機化合物の重量)を求める。(6)有機化合物の分子量を用いて、溶液中の有機化合物の濃度(重量/体積)から溶液中の有機化合物の濃度(モル/体積)を決定する。(7)フェリチンの分子量を用いて、溶液中のフェリチンの濃度(重量/体積)から溶液中のフェリチンの濃度(モル/体積)を決定する。(8)フェリチンへの有機化合物の導入数(フェリチンの1モルに占める有機化合物のモル数)を求める。
【0090】
本発明はまた、特定の有機化合物封入フェリチンを提供する。本発明の有機化合物封入フェリチンでは、有機化合物は、アントラサイクリン系物質、ヒスタミンH2受容体拮抗薬、ピグアナイド系物質、ATP感受性カリウムチャネル開口薬、β2アドレナリン受容体作動薬、イミダゾリン系物質、ビタミン、および標識物質からなる群より選ばれ、
フェリチン1分子への有機化合物の封入分子数が以下である:
(1)有機化合物がアントラサイクリン系物質であり、かつフェリチンが天然フェリチンである場合、40分子以上200分子以下;
(2)有機化合物がアントラサイクリン系物質であり、かつフェリチンが遺伝子組換えフェリチンである場合、100分子以上200分子以下;または
(3)有機化合物がヒスタミンH2受容体拮抗薬、ピグアナイド系物質、ATP感受性カリウムチャネル開口薬、β2アドレナリン受容体作動薬、イミダゾリン系物質、ビタミン、または標識物質であり、かつフェリチンが天然フェリチンまたは遺伝子組換えフェリチンである場合、10分子以上200分子以下。
【0091】
好ましくは、本発明の有機化合物封入フェリチンでは、有機化合物は、アントラサイクリン系物質、ヒスタミンH2受容体拮抗薬、ピグアナイド系物質、ATP感受性カリウムチャネル開口薬、およびβ2アドレナリン受容体作動薬からなる群より選択されてもよい。
【0092】
本発明の有機化合物封入フェリチンにおける特定の有機化合物、フェリチン、および封入分子数等の構成要素の詳細は、上記のとおりである。
【0093】
本発明はさらに、有機化合物封入フェリチンを含む緩衝液を提供する。本発明の緩衝液における有機化合物、フェリチン、緩衝液、および封入分子数等の構成要素の詳細は、上記のとおりである。
【実施例】
【0094】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下で用いた薬剤(低分子)は全て有機化合物である。また、緩衝液のpHは、ガラス電極法により25℃で測定される値を用いた。
【0095】
<実施例1:フェリチンの調製>
ヒト由来フェリチンH鎖(FTH(配列番号1))単量体をコードするDNAを全合成した。全合成されたDNAを鋳型として、5’-GAAGGAGATATACATATGACGACCGCGTCCACCTCG-3’(配列番号3)および5’-CTCGAATTCGGATCCTTAGCTTTCATTATCACTGTC-3’(配列番号4)をプライマーとしてPCRを行った。また、pET20(メルク社)を鋳型として、5’-TTTCATATGTATATCTCCTTCTTAAAGTTAAAC-3’(配列番号5)および5’-TTTGGATCCGAATTCGAGCTCCGTCG-3’(配列番号6)をプライマーとしてPCRを行った。各々得られたPCR産物をWizard DNA Clean-Up System(プロメガ社)で精製した後、In-Fusion HD Cloning Kit(タカラバイオ社)で、50℃、15分間のIn-Fusion酵素処理することで、FTH単量体をコードする遺伝子が搭載された発現プラスミド(pET20-FTH)を構築した。
【0096】
続いて、構築したpET20-FTHを導入したEscherichia coli BL21(DE3)をLB培地(10g/lのBacto-typtone、5g/l Bacto-yeast extract、5g/lのNaCl、100mg/lのアンピシリンを含む)100ml、37℃で24時間フラスコ培養した。得られた菌体を超音波破砕した後、上清を60℃で20分間加熱した。加熱後得られた上清を、50mMのTrisHCl緩衝液(pH8.0)で平衡化されたHiPerp Q HPカラム(GE healthcare社)に注入し、0mMから500mM NaClを含む50mM TrisHCl緩衝液(pH8.0)で塩濃度勾配をかけることで、FTH単量体から構成されるフェリチン(以下、FTHフェリチンと略記する)を分離精製した。そのタンパク質を含む溶液の溶媒をVivaspin 20-100K(GE healthcare社)を用いた遠心限外濾過にて10mMのTrisHCl緩衝液(pH8.0)に置換した。その溶液を、10mMのTrisHCl緩衝液(pH8.0)で平衡化されたHiPrep 26/60 Sephacryl S-300 HRカラム(GE healthcare社)に注入し、サイズによってFTHフェリチンを分離精製した。そのFTHフェリチンを含む溶液をVivaspin 20-100K(GE healthcare社)を用いた遠心限外濾過にて濃縮し、含有タンパク質濃度をプロテインアッセイCBB溶液(ナカライテスク社)にて、ウシアルブミンを標準として決定した。結果、5mg/mlのFTHフェリチンを含む溶液1mlを得ることができた。
【0097】
<実施例2:pH条件の検討>
脱会合・再会合プロセス経ずにFTHフェリチン内に低分子を導入する方法(ワンステッププロセス)を確立すべく、pH条件の検討を行った。
【0098】
50mM緩衝液(pH3から9) 0.1ml中に、FTHフェリチンおよびDoxorubicin hydrochloride(DOX、CAS No.25316-40-9、分子量579.98)の終濃度が各々1mg/mlと0.1mg/mlとなるように混合し、各々25℃で60分間放置した。この反応において、pH3、4、5および6では酢酸緩衝液、pH7、8および9ではトリス塩酸塩緩衝液を用いた。放置後、水0.5mlを加え、遠心分離(15,000rpm、1分間)した後、上清を10mM トリス塩酸塩緩衝液(pH8)で平衡化された脱塩カラムPD-10(Sephadex G-25充填品、GEヘルスケア社)に供し、封入されなかった薬剤とタンパク質とを分離した。その溶液全量(3.5ml)をVivaspin 20-100K(GE healthcare社)を用いた遠心限外濾過にて0.1mlに濃縮し、分光光度計(DU-800、ベックマンコールター社)にて280nmおよび480nmの吸光を測定した。得られた吸光度から、各種濃度のDOXやFTHフェリチンの280nmおよび480nmの吸光度から作成された検量線にてDOXとFTHフェリチンの濃度を決定した。その濃度を元に、薬剤導入率(DOXとFTHフェリチンの総重量に占めるDOXの重量)を求めた。
【0099】
その結果、pH6以下では、薬剤導入率0.5%(wt)以下であり、DOXが若干取り込まれていることが示唆された(
図1)。一方、pH7以上では、pHの上昇と共に、薬剤導入率が上昇し、pH9では薬剤導入率1%(wt)以上であった。以上のことから、pH7以上でFTHフェリチン内にDOXが導入されている可能性が示唆された。
【0100】
<実施例3:温度条件の検討>
脱会合・再会合プロセス経ずにFTHフェリチン内に低分子を導入する方法(ワンステッププロセス)を確立すべく、温度条件の検討を行った。
【0101】
50mM トリス塩酸塩緩衝液(pH9) 0.1ml中に、FTHフェリチンおよびDoxorubicin hydrochloride(DOX、cas番号25316-40-9、分子量579.98)の終濃度が各々1mg/mlと0.1mg/mlとなるように混合し、10℃から60℃で各々60分間放置した。放置後、水0.5mlを加え、遠心分離(15,000rpm、1分間)した後、上清を10mM トリス塩酸塩緩衝液(pH8)で平衡化された脱塩カラムPD-10(Sephadex G-25充填品、GEヘルスケア社)に供し、封入されなかった薬剤とタンパク質とを分離した。その溶液全量(3.5ml)をVivaspin 20-100K(GE healthcare社)を用いた遠心限外濾過にて0.1mlに濃縮し、分光光度計(DU-800、ベックマンコールター社)にて280nmおよび480nmの吸光を測定した。得られた吸光度から、各種濃度のDOXやFTHフェリチンの280nmおよび480nmの吸光度から作成された検量線にてDOXとFTHフェリチンの濃度を決定した。その濃度を元に、薬剤導入率(DOXとFTHフェリチンの総重量に占めるDOXの重量)を求めた。
【0102】
その結果、20℃以上では、反応温度の上昇と共に薬剤導入率が上昇し、60℃では薬剤導入率5%(wt)以上であった(
図2)。このことから、室温以上で効率的にFTHフェリチン内にDOXが導入されていることが示唆された。
【0103】
<実施例4:反応時間の検討>
脱会合・再会合プロセス経ずにFTHフェリチン内に低分子を導入する方法(ワンステッププロセス)を確立すべく、反応時間条件の検討を行った。
【0104】
50mM トリス塩酸塩緩衝液(pH9) 0.5ml中に、FTHフェリチンおよびDoxorubicin hydrochloride(DOX、cas番号25316-40-9、分子量579.98)の終濃度が各々1mg/mlと0.1mg/mlとなるように混合し、60℃で5分間から60分間放置した。放置後、水0.5mlを加え、遠心分離(15,000rpm、1分間)した後、上清を10mM トリス塩酸塩緩衝液(pH8)で平衡化された脱塩カラムPD-10(Sephadex G-25充填品、GEヘルスケア社)に供し、封入されなかった薬剤とタンパク質とを分離した。その溶液全量(3.5ml)をVivaspin 20-100K(GE healthcare社)を用いた遠心限外濾過にて濃縮した。その溶液に終濃度100mMとなるようにグリシン塩酸塩緩衝液(pH2.3)を添加し、容量0.2mlに調整した。ここで、pH2.3にすることで、FTHフェリチンは脱会合し、FTHフェリチン内に取り込まれたDOXは、溶液中に放出される。その溶液を、分光光度計(DU-800、ベックマンコールター社)にて480nmの吸光を測定し、DOXの濃度を決定した。また、溶液中のタンパク質濃度は、プロテインアッセイCBB溶液(ナカライテスク社)にて、ウシアルブミンを標準として決定した。その濃度を元に、薬剤導入率(DOXとFTHフェリチンの総重量に占めるDOXの重量)を求めた。
【0105】
その結果、放置時間30分までは、放置時間と共にDOX取り込み量の上昇が確認され、フェリチン1gあたり1.7mg-DOX/分の速度でDOXが取り込まれていた(
図3)。また、30分以降は薬剤導入率に大きな変化は確認されなかった。この時の最大薬剤導入率は5%(wt)で、FTHフェリチン1個当たりに取り込まれたDOXの分子数は平均50個と推定された。
【0106】
<実施例5:反応液中のFTHフェリチンとDOX量比の検討>
脱会合・再会合プロセス経ずにFTHフェリチン内に低分子を導入する方法(ワンステッププロセス)を確立すべく、量比条件の検討を行った。
【0107】
終濃度1mg/mlのFTHフェリチンを含む50mM トリス塩酸塩緩衝液(pH9) 0.5ml中に、終濃度が0.05mg/lから0.5mg/lとなるようにDoxorubicin hydrochloride(DOX、cas番号25316-40-9、分子量579.98)を混合し、60℃で60分間放置した。放置後、水0.5mlを加え、遠心分離(15,000rpm、1分間)した後、上清を10mM トリス塩酸塩緩衝液(pH8)で平衡化された脱塩カラムPD-10(Sephadex G-25充填品、GEヘルスケア社)に供し、封入されなかった薬剤とタンパク質とを分離した。その溶液全量(3.5ml)をVivaspin 20-100K(GE healthcare社)を用いた遠心限外濾過にて濃縮した。その溶液に終濃度100mMとなるようにグリシン塩酸塩緩衝液(pH2.3)を添加し、容量0.5mlに調整した。その溶液を、分光光度計(DU-800、ベックマンコールター社)にて480nmの吸光を測定し、DOXの濃度を決定した。また、溶液中のタンパク質濃度は、プロテインアッセイCBB溶液(ナカライテスク社)にて、ウシアルブミンを標準として決定した。その濃度を元に、薬剤導入率(DOXとFTHフェリチンの総重量に占めるDOXの重量)を求めた。
【0108】
その結果、FTHフェリチンとDOXの濃度比が10:3までは、濃度比と共にDOX取り込み量の上昇が確認され、最大で薬剤導入率16%(wt)となっていた(
図4)。この時のFTHフェリチン1個当たりに取り込まれたDOXの平均分子数は165個と推定された。一方、FTHフェリチンとDOXの濃度比が10:4では取り込み量が低下し、10:5ではタンパク質を回収できなかった。これは、高濃度域でDOXが析出し、そのDOX沈殿と共にFTHフェリチンも沈殿したためと考えられた。
【0109】
このとき、先行知見(Journal of Controlled Release 196 (2014) 184-196、Proc Natl Acad Sci U S A. 2014 111(41):14900-5)で報告されたデータから計算されていた従来法でのフェリチン内への薬剤導入率は3%(wt)から4%(wt)であり、今回の手法は従来法より4倍から5倍以上の多くの薬剤が導入できていた。また、既に販売されているドキソルビジン封入リポソームであるドキシル(承認番号:21900AMX00001000)の薬剤導入率は11%(wt)であり、今回の手法はドキシルよりも1.4倍以上多くの薬剤が導入できていた。
【0110】
<実施例6:DOX封入FTHフェリチンの分散性>
ワンステッププロセスで得られた低分子封入FTHフェリチンが実際に低分子を封入していることを確認した。
【0111】
終濃度1mg/mlのFTHフェリチンを含む50mM トリス塩酸塩緩衝液(pH9)1ml中に、終濃度が0.1mg/lとなるようにDOXを混合し、60℃で60分間放置した。放置後、遠心分離(15,000rpm、1分間)した後、上清を10mM トリス塩酸塩緩衝液(pH8)で平衡化された脱塩カラムPD-10(Sephadex G-25充填品、GEヘルスケア社)に供し、封入されなかった薬剤とタンパク質とを分離した。その溶液全量(3.5ml)をVivaspin 20-100K(GE healthcare社)を用いた遠心限外濾過にて濃縮した。同様に調製された5ml分のDOX封入FTHフェリチンを含む10mMトリス塩酸塩緩衝液(pH8)を混合し、さらに限外ろ過により容量1mlとし、その溶液を、10mMのTrisHCl緩衝液(pH8.0)で平衡化されたHiPrep 26/60 Sephacryl S-300 HRカラム(GE healthcare社)に注入し、サイズによって分離精製しながら、280nmの吸光と480nmの吸光を同時計測した。
【0112】
その結果、DOXを含有しないFTHフェリチンと同じ溶出位置にDOX由来と推定される480nmの吸光ピークが観察され、DOXとFTHフェリチンは、限外ろ過による希釈洗浄やゲルろ過カラムでは分離できないほど、強固に複合化していることが分かった(
図5)。
このDOX-FTHフェリチン複合体の溶液分散性はゼータサイザーナノZS(マルバーン社)でも測定されたことから、このDOX-FTHフェリチン複合体は、野生型FTHフェリチンと同等の直径12nmの水溶液分散性ナノ粒子であることが確認できた(
図6)。この測定は、DOX-FTHフェリチン複合体をFTHフェリチン量として1mg/mlを含む10mMのTrisHCl緩衝液(pH8.0)50μlをZEN0040セルに入れ、Material設定(RI:1.450、Absorption:0.001)、Dispersant設定(Temperature:25℃、Viscosity:0.8872cP、RI:1.330、Dielectric constant:78.5)、Mark-Houwink Parameters(A Parameter:0.428、K Parameter:7.67×10
-5cm
2/s)、Measurement angleは173°Backscatterにて25℃で行われた。
【0113】
<実施例7:DOX封入FTHフェリチンの表面電荷>
ワンステッププロセスで得られた低分子薬剤封入FTHフェリチンによる低分子薬剤の封入を、表面電荷の評価により確認した。
【0114】
終濃度1mg/mlのFTHフェリチンを含む50mM トリス塩酸塩緩衝液(pH8)1ml中に、終濃度が0.3mg/lとなるようにDOXを混合し、40℃で60分間放置した。放置および遠心分離(15,000rpm、1分間)した後、上清を10mM トリス塩酸塩緩衝液(pH8)で平衡化された脱塩カラムPD-10(Sephadex G-25充填品、GEヘルスケア社)に供し、封入されなかった薬剤とタンパク質とを分離した。その溶液全量(3.5ml)をVivaspin 20-100K(GE healthcare社)を用いた遠心限外濾過にて濃縮し、1mlの水に懸濁したDOXとFTHフェリチンの複合体を得た。
【0115】
続いて、そのDOX-FTHフェリチン複合体を終濃度50mMのリン酸緩衝液(pH3、6あるいは7)、酢酸緩衝液((pH4あるいは5)、トリス塩酸塩緩衝液(pH8あるいは9)、あるいは炭酸ナトリウム緩衝液(pH10))に各々FTHフェリチン量として終濃度0.1g/lとなるように懸濁し、その緩衝液中、25℃での表面電荷をゼータサイザーナノZS(マルバーン社)にて測定した。測定は、サンプル750μlをDTS1070セルに入れ、Material設定(RI:1.450、Absorption:0.001)、Dispersant設定(Temperature:25℃、Viscosity:0.8872cP、RI:1.330、Dielectric constant:78.5)、Smoluchowski model(Fκa value:1.50)にて行われた。その結果、DOX封入処理されていないFTHフェリチンとDOX-FTHフェリチン複合体の表面電荷は同等であり、FTHフェリチン表面にDOXが吸着することで複合化しているわけではないことが分かった(
図7)。
【0116】
すなわち、DOXとFTHフェリチンを水溶液中で放置してワンステップで得られたこのDOX-FTHフェリチン複合体の表面電荷はFTHフェリチンと同等であり、FTHフェリチン表面に塩基性のDOXが吸着しているのではなく、FTHフェリチンの内部にDOXが封入されている構造をとっていると考えられた。
【0117】
<実施例8:DOX封入FTHフェリチンの安定性評価>
ワンステッププロセスで得られた低分子薬剤封入FTHフェリチンの安定性を評価した。
【0118】
終濃度1mg/mlのFTHフェリチンを含む50mM トリス塩酸塩緩衝液(pH8)1ml中に、終濃度が0.3mg/lとなるようにDOXを混合し、40℃で60分間放置した。放置後、遠心分離(15,000rpm、1分間)した後、上清を10mM トリス塩酸塩緩衝液(pH8)で平衡化された脱塩カラムPD-10(Sephadex G-25充填品、GEヘルスケア社)に供し、封入されなかった薬剤とタンパク質とを分離した。その溶液全量(3.5ml)をVivaspin 20-100K(GE healthcare社)を用いた遠心限外濾過にて濃縮し、1mlの水に懸濁したDOXとFTHフェリチンの複合体を得た。そして、その含有タンパク質濃度をプロテインアッセイCBB溶液(ナカライテスク社)にて、ウシアルブミンを標準として決定した。
【0119】
そのDOX-FTHフェリチン複合体を含有タンパク質濃度として終濃度1.5g/lとなるように、終濃度50mM酢酸緩衝液(pH4)、50mMリン酸緩衝液(pH6)、50mMトリス塩酸塩緩衝液(pH9)、あるいはD-PBS(-)(pH7.4、富士フイルム和光純薬株式会社製)に各々懸濁し、各0.1mlを冷暗所(4℃)で保管した。その後、数日おきに各条件のサンプルを3本ずつ回収し、Vivaspin 500-100K(GE healthcare社)でDOX-FTHフェリチン複合体と緩衝液を分離した。各々480nmの吸光度を分光光度計(DU-800、ベックマンコールター社)にて測定し、緩衝液中に流出せずに、DOX-FTHフェリチン複合体に維持されているDOXの量を定量した。
【0120】
その結果、2週間以上放置した後も、pH6からpH9の緩衝液中で保管されたDOX-FTHフェリチン複合体からはほとんどDOXが流出していないことが分かった(
図8、平均値±標準偏差)。一方、pH4では放置直後、30%(wt)程度のDOXが流出するものの、その後の流出は緩やかであった。すなわち、DOX-FTHフェリチン複合体は、適切なpH条件下では、安定的に維持されることが分かった。
【0121】
<実施例9:FTHフェリチン中のDOX状態の推定>
フェリチンは直径12nmのかご状をしており、その内部空腔の直径は7nmである。理想的には、内腔の容積は0.18zl(zl:Zepto little、10の-21乗リットル)である。もしも1分子のDOX(分子量579.98)がフェリチンの内腔に存在した場合、DOXのフェリチン内腔での濃度は5.4g/lとなる。DOXの室温での水への溶解性は60g/l以上であることが確認できている。今回、最大でFTHフェリチン1個当たり165個のDOX分子が導入されており、その時のDOXのフェリチン内腔での濃度は890g/lとなる。この濃度は室温でのDOXの水溶解度を大きく上回り、フェリチン内腔で析出、ナノ粒子を形成している可能性が高い。そのため、フェリチンに取り込まれたDOXの定量には一度フェリチンを脱会合し、DOXを放出させた後に、分光評価する必要がある。
【0122】
<実施例10:ワンステッププロセスと脱会合・再会合プロセスの比較(1)>
ワンステッププロセスと脱会合・再会合プロセスで各々得られるDOX封入FTHフェリチンのDOX封入量を比較した。
【0123】
脱会合・再会合プロセスでは、終濃度1mg/mlのFTHフェリチンと終濃度0.2mg/lのDOXを含む50mM グリシン塩酸塩緩衝液(pH2.3) 0.5mlを、室温で5分間から120分間放置した。その後、1Mのトリス塩酸塩緩衝液(pH9.0)10μlを加え中和し、5分間から120分間室温で放置した。放置後、水0.5mlを加え、遠心分離(15,000rpm、1分間)した後、上清を10mM トリス塩酸塩緩衝液(pH8)で平衡化された脱塩カラムPD-10(Sephadex G-25充填品、GEヘルスケア社)に供し、封入されなかった薬剤とタンパク質とを分離した。その溶液全量(3.5ml)をVivaspin 20-100K(GE healthcare社)を用いた遠心限外濾過にて0.1mlに濃縮し、分光光度計(DU-800、ベックマンコールター社)にて280nmおよび480nmの吸光を測定した。得られた吸光度から、各種濃度のDOXやFTHフェリチンの280nmおよび480nmの吸光度から作成された検量線にてDOXとFTHフェリチンの濃度を決定した。その濃度を元に、薬剤導入率(DOXとFTHフェリチンの総重量に占めるDOXの重量)を求めた。
【0124】
その結果、15分放置されたFTHフェリチンで最も高い薬剤導入率が確認されたが、2%(wt)程度であった(
図9)。一方、終濃度1mg/mlのFTHフェリチンと終濃度0.2mg/lのDOXを用いたワンステッププロセスで得られるDOX封入FTHフェリチンの薬剤導入率はその5倍高かった(
図4)。したがって、ワンステッププロセスにより、より高い薬剤封入率を持つFTHフェリチンを得られることが分かった。
【0125】
<実施例11:ワンステッププロセスと脱会合・再会合プロセスの比較(2)>
ワンステッププロセスと脱会合・再会合プロセスで各々得られるFTHフェリチンの回収率を比較した。
【0126】
ワンステッププロセスでは、10mg/mlのFTHフェリチンを含む50mM トリス塩酸塩緩衝液(pH9) 0.1mlを、60℃で60分間放置した。その後、10mMのTrisHCl緩衝液(pH8.0)2.9mlを加え、10mMのTrisHCl緩衝液(pH8.0)で平衡化されたHiPrep 16/60 Sephacryl S-300 HRカラム(GE healthcare社)に注入し、サイズによって分離精製しながら、280nmの吸光を計測した。
【0127】
脱会合・再会合プロセスでは、10mg/mlのFTHフェリチンを含む50mM グリシン塩酸塩緩衝液(pH2.3) 0.1mlを、室温で15分間放置することでFTHフェリチンを単量体に脱会合させた。その後、1Mのトリス塩酸塩緩衝液(pH9.0)10μlを加え中和し、15分間室温放置することでFTHフェリチンを再会合させた。その後、10mMのトリス塩酸塩緩衝液(pH8.0)2.9mlを加え、10mMのトリス塩酸塩緩衝液(pH8.0)で平衡化されたHiPrep 16/60 Sephacryl S-300 HRカラム(GE healthcare社)に注入し、サイズによって分離精製しながら、280nmの吸光を計測した。
【0128】
また、対照として、60℃放置や脱会合・再会合処理を行っていない等量のFTHフェリチンも10mMのトリス塩酸塩緩衝液(pH8.0)で平衡化されたHiPrep 16/60 Sephacryl S-300 HRカラム(GE healthcare社)に注入し、サイズによって分離精製しながら、280nmの吸光を計測した。
【0129】
その結果、60℃で60分間放置されるワンステッププロセスで得られたFTHフェリチンの回収率は未処理FTHフェリチンの97%であった。一方、脱会合・再会合プロセスで得られたFTHフェリチンの回収率は未処理FTHフェリチンの72%であり、再会合できなかったFTHフェリチン単量体も溶出後半に確認できた。
【0130】
以上のことから、FTHフェリチンの超分子構造を積極的に壊さないワンステッププロセスは、FTHフェリチンの超分子構造を一度壊してしまう脱会合・再会合プロセスと比較して、格段に処理後回収されるFTHフェリチン量が多く、効率的な手法であることが分かった(
図10)。
【0131】
<実施例12:ワンステッププロセスによる低分子薬剤導入(1)>
ワンステッププロセスで各種の低分子をFTHフェリチン内に導入した。
【0132】
今回導入された低分子薬剤を表1に示す。終濃度1mg/mlのFTHフェリチンを含む終濃度50mMのリン酸緩衝液(pH3、6あるいは7)、酢酸緩衝液(pH4あるいは5)、トリス塩酸塩緩衝液(pH8あるいは9)、あるいは炭酸ナトリウム緩衝液(pH10)に、終濃度が0.2mMから5mMとなるように各種低分子薬剤を混合し、20℃から60℃で60分間各々放置した。全ての反応は容量0.1mlで反応させた。放置後、遠心分離(15,000rpm、1分間)し、上清を10mMトリス塩酸塩緩衝液(pH8)で平衡化された脱塩カラムPD-10(Sephadex G-25充填品、GEヘルスケア社)に供することで、封入されなかった薬剤とタンパク質とを分離した。その溶液全量(3.5ml)をVivaspin 20-100K(GE healthcare社)を用いた遠心限外濾過にて0.1mlに濃縮した。
【0133】
また、対照として、表1に示す一部の低分子薬剤の脱会合・再会合プロセスでのフェリチン内への導入も行った。すなわち、終濃度1mg/mlのFTHフェリチンと終濃度0.2mg/lの各種低分子薬剤を各々含む50mM グリシン塩酸塩緩衝液(pH2.3) 0.5mlを、室温で15分間放置した。その後、1Mのトリス塩酸塩緩衝液(pH9.0)10μlを加え中和し、15分間室温で放置した。放置後、水0.5mlを加え、遠心分離(15,000rpm、1分間)した後、上清を10mM トリス塩酸塩緩衝液(pH8)で平衡化された脱塩カラムPD-10(Sephadex G-25充填品、GEヘルスケア社)に供し、封入されなかった薬剤とタンパク質とを分離した。その溶液全量(3.5ml)をVivaspin 20-100K(GE healthcare社)を用いた遠心限外濾過にて0.1mlに濃縮した。
【0134】
【0135】
それら溶液の吸光度を分光光度計(DU-800、ベックマンコールター社)にて測定すると共に、含有タンパク質濃度をプロテインアッセイCBB溶液(ナカライテスク社)にて、ウシアルブミンを標準として決定した。Rhodamine BとCongo Redは280nmと480nmの吸光度、Famotidine、Metformin、Minoxidil、Terbutaline、Creatinine、Nicotinamide、RiboflavinおよびThiamineは250nmと280nmの吸光度を測定した。その後、プロテインアッセイCBB溶液にて定量されたタンパク質含有量から推定されるタンパク質由来の吸光度で補正した後、各分子の吸光度から作成された検量線にて低分子薬剤の濃度を決定した。
【0136】
ワンステッププロセスでの各低分子薬剤の導入条件(反応pH、反応温度および反応時間)と封入数(フェリチン24量体の1カゴあたりに封入された低分子の数)、導入率(低分子とフェリチンの総重量に占める低分子の重量、重量%)を表2、3に示す。その結果、分子量やpKaなどの物性の異なる各種低分子薬剤もワンステッププロセスで簡便にフェリチン内に導入することができた。
【0137】
【0138】
【0139】
また、各低分子薬剤のpKaと最もフェリチン内に導入量の多かった反応で用いた緩衝液pHとの関係を表4、5に示す。それらの相関を
図11に示す。この相関係数は0.84で優位に正の相関があった(t-検定、p<1%)。そして、pKaが中性(pH7)よりも低い分子は酸性条件(pH6以下)、pKaが中性よりも高い分子は、弱酸性条件からアルカリ性条件(pH6以上)で、効率的にフェリチン内に導入されることが示唆された。
【0140】
【0141】
【0142】
さらに、ワンステッププロセスでフェリチン内に導入された低分子薬剤の量と脱会合・再会合プロセスでフェリチン内に導入された低分子薬剤の量を比較した。
図12はワンステッププロセスでの薬剤導入量と脱会合・再会合プロセスでの薬剤導入量の比を示す。DOXの導入量比較は、実施例5と実施例10を用いて計算した。いずれの低分子薬剤の場合でも、ワンステッププロセスの方が多くの薬剤をフェリチン内に導入することができ、導入量の差が最も小さかったMetforminでも2.5倍、導入量の差が最も大きかったDOXでは30倍の差を確認できた。脱会合・再会合プロセスでは、フェリチンが再会合する際に、反応液中の低分子を巻き込み封入させるため、反応液中の低分子以上の濃度での封入は難しい。また、酸性条件下でフェリチン単量体に脱会合させる際に、フェリチン単量体構造が一部変性し、再会合後も内部の薬剤が漏れ出てしまう危険性がある。
一方で、ワンステッププロセスではフェリチンの超分子構造が維持可能な環境下で、薬剤をフェリチン内部に導入できている。そのため、反応終了後もフェリチン自体へのダメージは少なく、リークもほとんどないと考えられる。フェリチンの超分子構造が維持されたまま様々な薬剤が導入されたことから、フェリチンへの薬剤導入は、金属イオンと同様に、3回対称チャネルを通過して行われていると推定される(T Douglas and DR Ripoll Protein Sci,7,1083-1091.(1998)、MA Carrondo EMBO J.22,1959-1968.(2003))。理由として、チャネル以外のフェリチンの構造はタイトで金属イオンですら通過できないと考えており、それよりも排除体積の大きな有機分子は通過できないと考えらえる。そして、中性の緩衝液下で、3回対称チャネルは負に帯電しており、その静電勾配による金属イオンの流入と同様に、有機分子もフェリチン内部に能動的に取り込まれ、負に帯電したフェリチン内部に蓄積されるため、反応液中の低分子以上の濃度での封入が可能となったと考えられる。また、負に帯電したフェリチン表面の穴から、その静電勾配により内部に導入されるのであれば、アミノ基を多く持ち正に帯電しやすい有機分子の方がより取り込まれやすいと推定される。
【0143】
このことから、ワンステッププロセスは、従来の脱会合・再会合プロセスよりも多くの薬剤を導入できることが分かった。
【0144】
<実施例13:DOX封入変異型FTHフェリチンの構築(1)>
ワンステッププロセスを用いて、ペプチドアプタマーを提示したフェリチンへの薬剤導入を行った。
【0145】
はじめに、フェリチン単量体を構成する6つのα-ヘリックスのうちのN末端から数えて2番目と3番目の間のフレキシブルリンカー領域にチタン認識ペプチド(minTBP1:RKLPDA(配列番号7))が挿入融合されたヒト由来フェリチンH鎖(FTH-BC-TBP)単量体をコードするDNAを全合成した。全合成されたDNAを鋳型、5’-GAAGGAGATATACATATGACGACCGCGTCCACCTCG-3’(配列番号8)および5’-CTCGAATTCGGATCCTTAGCTTTCATTATCACTGTC-3’(配列番号9)をプライマーとしてPCRを行った。また、pET20(メルク社)を鋳型、5’-TTTCATATGTATATCTCCTTCTTAAAGTTAAAC-3’(配列番号10)および5’-TTTGGATCCGAATTCGAGCTCCGTCG-3’(配列番号11)をプライマーとしてPCRを行った。それらPCR産物をWizard DNA Clean-Up System(プロメガ社)で精製した後、In-Fusion HD Cloning Kit(タカラバイオ社)で、50℃、15分間のIn-Fusion酵素処理することで、FTH-BC-TBP単量体をコードする遺伝子が搭載された発現プラスミド(pET20-FTH-BC-TBP)を構築した。FTH-BC-TBP単量体から構成されるフェリチンを、必要に応じて、FTH-BC-TBPフェリチンと略記する。
【0146】
また、ヒト由来フェリチンH鎖単量体をコードするDNAが搭載されたpET20-FTHを鋳型として、5’-TTTGGATCCGAATTCGAGCTCCGTCG-3’(配列番号12)および5’-TTTGGATCCTTAACAGCTTTCATTATCACTG-3’(配列番号13)をプライマーとしてPCRを行った。得られたPCR産物をWizard DNA Clean-Up System(プロメガ社)で精製した後、制限酵素DpnIとBamHI(タカラバイオ社)で処理し、セルフライゲーションすることで、C末端にシステインが付与されたFTHc単量体をコードする遺伝子が搭載された発現プラスミド(pET20-FTHc)を構築した。FTHc単量体から構成されるフェリチンを、必要に応じて、FTHcフェリチンと略記する。
【0147】
続いて、構築した変異フェリチン単量体(FTH-BC-TBP単量体、またはFTHc単量体)が搭載されたベクターpET20-FTH-BC-TBPあるいはpET20-FTHcを各々導入したEscherichia coli BL21(DE3)をそれぞれLB培地(10g/lのBacto-typtone、5g/l Bacto-yeast extract、5g/lのNaCl、100mg/lのアンピシリンを含む)100ml、37℃で24時間フラスコ培養した。得られた各菌体を超音波破砕した後、上清を60℃で20分間加熱した。加熱後得られた上清を、50mMのTrisHCl緩衝液(pH8.0)で平衡化されたHiPerp Q HPカラム(GE healthcare社)に注入し、0mMから500mM NaClを含む50mM TrisHCl緩衝液(pH8.0)で塩濃度勾配をかけることで、目的タンパク質を分離精製した。そのタンパク質を含む溶液の溶媒をVivaspin 20-100K(GE healthcare社)を用いた遠心限外濾過にて10mMのTrisHCl緩衝液(pH8.0)に置換した。その溶液を、10mMのTrisHCl緩衝液(pH8.0)で平衡化されたHiPrep 26/60 Sephacryl S-300 HRカラム(GE healthcare社)に注入し、サイズによって各変異フェリチンを分離精製した。その各変異フェリチンを含む溶液をVivaspin 20-100K(GE healthcare社)を用いた遠心限外濾過にて各々濃縮し、含有タンパク質濃度をプロテインアッセイCBB溶液(ナカライテスク社)にて、ウシアルブミンを標準として決定した。結果、0.2mg/mlのFTH-BC-TBPフェリチンを含む溶液1mlと5mg/mlのFTHcフェリチンを含む溶液1mlを各々得ることができた。
【0148】
終濃度1mg/mlの各変異フェリチンを含む50mM トリス塩酸塩緩衝液(pH8)1ml中に、終濃度が0.3mg/lとなるようにDOXを混合し、50℃で60分間放置した。放置後、遠心分離(15,000rpm、1分間)した後、上清を10mM トリス塩酸塩緩衝液(pH8)で平衡化された脱塩カラムPD-10(Sephadex G-25充填品、GEヘルスケア社)に供し、封入されなかった薬剤とタンパク質とを分離した。その溶液全量(3.5ml)をVivaspin 20-100K(GE healthcare社)を用いた遠心限外濾過にて濃縮し、1mlの水に懸濁したDOXと各変異フェリチンの複合体を得た。そして、その含有タンパク質濃度をプロテインアッセイCBB溶液(ナカライテスク社)にて、ウシアルブミンを標準として決定した。また、DOX濃度を480nmの吸光分析によって決定した。
【0149】
その結果、どちらの変異フェリチンにもDOXを導入することができた。この時の薬剤導入率は、FTH-DE-TBPフェリチンは6.5%(wt)、FTHcフェリチンは8.6%(wt)であった。すなわち、ペプチドが挿入され機能化したフェリチンにおいてもワンステッププロセスを用いて薬剤が導入できることが分かった。
【0150】
<実施例14:DOX封入変異型FTHの構築(2)>
ワンステッププロセスを用いて、ペプチドアプタマーを提示したフェリチンへの薬剤導入を行った。
【0151】
はじめに、フェリチン単量体のN末端に癌認識ペプチド(HER2a:MARSGL(配列番号14);M Houimel et.al.,Int.J.Cancer 92,748-755.(2001))が挿入融合されたヒト由来フェリチンH鎖(HER2a-FTH)単量体をコードするDNAを得るために、ヒト由来フェリチンH鎖単量体をコードするDNAが搭載されたpET20-FTHを鋳型として、5’-TTTCATATGGCACGTAGTGGTTTAACGACCGCGTCCACCTCG-3’(配列番号15)および5’-TTTCATATGTATATCTCCTTCTTAAAGTTAAAC-3’(配列番号16)をプライマーとしてPCRを行った。得られたPCR産物をWizard DNA Clean-Up System(プロメガ社)で精製した後、制限酵素DpnIとNdeI(タカラバイオ社)で処理し、セルフライゲーションすることで、HER2a-FTHをコードする遺伝子が搭載された発現プラスミド(pET20-HER2a-FTH)を構築した。HER2a-FTH単量体から構成されるフェリチンを、必要に応じて、HER2a-FTHフェリチンと略記する。
【0152】
フェリチン単量体のC末端にRNA認識ペプチド(U2AF:TRQARR(配列番号17)R Tan and AD Frankel, Proc Natl Acad Sci U S A 92, 5282-5286.(1995)))が挿入融合されたヒト由来フェリチンH鎖(FTH-U2AF)をコードするDNAを得るために、ヒト由来フェリチンH鎖単量体がコードするDNAが搭載されたpET20-FTHを鋳型として、5’-TTTGGATCCTTATCTGCGTGCTTGACGTGTGCTTTCATTATCACTG-3’(配列番号18)および5’-TTTGGATCCTTAACAGCTTTCATTATCACTG-3’(配列番号13)をプライマーとしてPCRを行った。得られたPCR産物をWizard DNA Clean-Up System(プロメガ社)で精製した後、制限酵素DpnIとNdeI(タカラバイオ社)で処理し、セルフライゲーションすることで、FTH-U2AF単量体をコードする遺伝子が搭載された発現プラスミド(pET20-FTH-U2AF)を構築した。FTH-U2AF単量体から構成されるフェリチンを、必要に応じて、FTH-U2AFフェリチンと略記する。
【0153】
続いて、構築した変異フェリチン単量体(HER2a-FTH単量体、またはFTH-U2AF単量体)が搭載されたpET20を導入したEscherichia coli BL21(DE3)をLB培地(10g/lのBacto-typtone、5g/l Bacto-yeast extract、5g/lのNaCl、100mg/lのアンピシリンを含む)100ml、37℃で24時間フラスコ培養した。得られた菌体を超音波破砕した後、上清を60℃で20分間加熱した。加熱後得られた上清を、50mMのTrisHCl緩衝液(pH8.0)で平衡化されたHiPerp Q HPカラム(GE healthcare社)に注入し、0mMから500mM NaClを含む50mM TrisHCl緩衝液(pH8.0)で塩濃度勾配をかけることで、目的タンパク質を分離精製した。そのタンパク質を含む溶液の溶媒をVivaspin 20-100K(GE healthcare社)を用いた遠心限外濾過にて10mMのTrisHCl緩衝液(pH8.0)に置換した。その溶液を、10mMのTrisHCl緩衝液(pH8.0)で平衡化されたHiPrep 26/60 Sephacryl S-300 HRカラム(GE healthcare社)に注入し、サイズによって各変異フェリチンを分離精製した。その各変異フェリチンを含む溶液をVivaspin 20-100K(GE healthcare社)を用いた遠心限外濾過にて濃縮し、含有タンパク質濃度をプロテインアッセイCBB溶液(ナカライテスク社)にて、ウシアルブミンを標準として決定した。結果、0.8mg/mlのHER2a-FTHフェリチンを含む溶液1mlと1.1mg/mlのFTH-U2AFフェリチンを含む溶液1mlを各々得ることができた。
【0154】
終濃度1mg/mlの各変異フェリチンを含む50mM トリス塩酸塩緩衝液(pH9)1ml中に、終濃度が0.3mg/lとなるようにDOXを混合し、50℃で60分間放置した。放置後、遠心分離(15,000rpm、1分間)した後、上清を10mM トリス塩酸塩緩衝液(pH8)で平衡化された脱塩カラムPD-10(Sephadex G-25充填品、GEヘルスケア社)に供し、封入されなかった薬剤とタンパク質とを分離した。その溶液全量(3.5ml)をVivaspin 20-100K(GE healthcare社)を用いた遠心限外濾過にて濃縮し、1mlの水に懸濁したDOXと変異フェリチンの複合体を得た。そして、その含有タンパク質濃度をプロテインアッセイCBB溶液(ナカライテスク社)にて、ウシアルブミンを標準として決定した。また、DOX濃度を480nmの吸光分析によって決定した。
【0155】
その結果、いずれの変異フェリチンにもDOXを導入することができた。この時の薬剤導入率は、HER2a-FTHフェリチンは14.6%(wt)、FTH-U2AFフェリチンは17.9%(wt)であった。すなわち、ペプチドが挿入され機能化したフェリチンにおいてもワンステッププロセスを用いて薬剤が導入できることが分かった。
【0156】
<実施例15:FTHフェリチン構造のpH依存性>
フェリチンのカゴ状構造のpH依存的な変化を調べるために、FTHフェリチンを終濃度1mg/mlとなるように各pHの溶液に懸濁し25℃で30分放置した後、ゼータサイザーナノZSを用いた動的光散乱(DLS)法で各pHでのフェリチンのサイズを測定した。測定は25℃で実施された。使用された溶液は、0.1N HCl(pH1.7),20mMリン酸(pH2.6、pH3.2,pH5.6,pH6.7,pH7.7)、20mM 酢酸(pH4.2,pH4.9,pH5.3)、1mM NaOH(pH11.1)、10mM NaOH(pH12.3)および100mM NaOH(pH12.8)を用いた。また、pH2.0からpH2.4の溶液は10mM TrisHClにHClを滴下してpHを調製した。
【0157】
その結果、pH1.7からpH2.4の範囲では、DLSでの平均粒径は8nm以下で、フェリチンが脱会合し、カゴ状構造が壊れていることが示唆された(
図13)。一方、pH2.6からpH12.8での平均粒径は11nm以上であり、カゴ状構造が維持されていることが分かった。すなわち、今回のワンポット法では、カゴ状構造が維持された条件で薬剤をフェリチン内部に導入できていることが分かった。
【0158】
<実施例16:DOX封入FTLフェリチンの構築>
ワンステッププロセスを用いて、L鎖フェリチンへの薬剤導入を行った。
ヒト由来フェリチンL鎖(FTL(配列番号2))単量体をコードするDNAを全合成した。全合成されたDNAを鋳型として、5’-GAAGGAGATATACATATGAGCTCCCAGATTCGTCAG-3’(配列番号234)および5’-CTCGAATTCGGATCCTTAGTCGTGCTTGAGAGTGAG-3’(配列番号235)をプライマーとしてPCRを行った。また、pET20(メルク社)を鋳型として、5’-TTTCATATGTATATCTCCTTCTTAAAGTTAAAC-3’(配列番号5)および5’-TTTGGATCCGAATTCGAGCTCCGTCG-3’(配列番号6)をプライマーとしてPCRを行った。各々得られたPCR産物をWizard DNA Clean-Up System(プロメガ社)で精製した後、In-Fusion HD Cloning Kit(タカラバイオ社)で、50℃、15分間のIn-Fusion酵素処理することで、FTL単量体をコードする遺伝子が搭載された発現プラスミド(pET20-FTL)を構築した。
【0159】
続いて、構築したpET20-FTLを導入したEscherichia coli BL21(DE3)をLB培地(10g/lのBacto-typtone、5g/l Bacto-yeast extract、5g/lのNaCl、100mg/lのアンピシリンを含む)100ml、37℃で24時間フラスコ培養した。得られた菌体を超音波破砕した後、上清を60℃で20分間加熱した。加熱後得られた上清を、50mMのTrisHCl緩衝液(pH8.0)で平衡化されたHiPerp Q HPカラム(GE healthcare社)に注入し、0mMから500mM NaClを含む50mM TrisHCl緩衝液(pH8.0)で塩濃度勾配をかけることで、FTL単量体から構成されるフェリチン(以下、FTLフェリチンと略記する)を分離精製した。そのFTLフェリチンを含む溶液の溶媒をVivaspin 20-100K(GE healthcare社)を用いた遠心限外濾過にて10mMのTrisHCl緩衝液(pH8.0)に置換した。その溶液を、10mMのTrisHCl緩衝液(pH8.0)で平衡化されたHiPrep 26/60 Sephacryl S-300 HRカラム(GE healthcare社)に注入し、サイズによってFTLフェリチンを分離精製した。そのFTLフェリチンを含む溶液をVivaspin 20-100K(GE healthcare社)を用いた遠心限外濾過にて濃縮し、含有タンパク質濃度をプロテインアッセイCBB溶液(ナカライテスク社)にて、ウシアルブミンを標準として決定した。結果、3mg/mlのFTLフェリチンを含む溶液1mlを各々得ることができた。
【0160】
終濃度1mg/mlの各変異FTLフェリチンを含む50mM トリス塩酸塩緩衝液(pH8)1ml中に、終濃度が0.3mg/lとなるようにDOXを混合し、50℃で60分間放置した。放置後、遠心分離(15,000rpm、1分間)した後、上清を10mM トリス塩酸塩緩衝液(pH8)で平衡化された脱塩カラムPD-10(Sephadex G-25充填品、GEヘルスケア社)に供し、封入されなかった薬剤とタンパク質とを分離した。その溶液全量(3.5ml)をVivaspin 20-100K(GE healthcare社)を用いた遠心限外濾過にて濃縮し、1mlの水に懸濁したDOXとFTLフェリチンの複合体を得た。そして、その含有タンパク質濃度をプロテインアッセイCBB溶液(ナカライテスク社)にて、ウシアルブミンを標準として決定した。また、DOX濃度を480nmの吸光分析によって決定した。
【0161】
その結果、FTLフェリチンにDOXを導入することができた。この時の薬剤導入率は、7.0%(wt)であった。すなわち、FTLフェリチンにおいてもワンステッププロセスにより薬剤が導入できることが分かった。
【0162】
<実施例17:ワンステッププロセスによる低分子薬剤導入(2)>
ワンステッププロセスにより、負に帯電する官能基を持つウラニン(Cas no. 518-47-8、分子量376、pKa=2.2,4.4,6.7)をFTH内に導入した。
【0163】
終濃度3mg/mlのFTHフェリチンを含む終濃度50mMのリン酸緩衝液(pH3あるいは7)、あるいは酢酸緩衝液(pH5)に、終濃度が300mMとなるようにウラニンを混合し、30℃あるいは60℃で60分間各々放置した。全ての反応は容量1mlで反応させた。放置後、遠心分離(15,000rpm、1分間)し、上清を10mMトリス塩酸塩緩衝液(pH8)で平衡化された脱塩カラムPD-10(Sephadex G-25充填品、GEヘルスケア社)に供することで、封入されなかった薬剤とタンパク質とを分離し、サンプル溶液3.5mlを得た。それら溶液の430nmの吸光度を分光光度計(DU-800、ベックマンコールター社)にて測定しウラニンの濃度を決定すると共に、含有タンパク質濃度をプロテインアッセイCBB溶液(ナカライテスク社)にて、ウシアルブミンを標準として決定した。
【0164】
その結果を表6に示す。今回ウラニンのpKaの平均値4.4から予測される反応pHの最適値はpH5前後であり、実際、60℃、pH3とpH5で効率よくフェリチン内に導入することができていた。
【0165】
【0166】
また、対照として、ウラニンを脱会合・再会合プロセスでフェリチン内へ導入した。すなわち、終濃度5mg/mlのFTHフェリチンと終濃度1mMから300mMで各々含む50mM グリシン塩酸塩緩衝液(pH2.3) 0.5mlを、室温で15分間放置した。その後、1Mのトリス塩酸塩緩衝液(pH9.0) 10μlを加え中和し、15分間室温で放置した。放置後、水0.5mlを加え、遠心分離(15,000rpm、1分間)した後、上清を10mM トリス塩酸塩緩衝液(pH8)で平衡化された脱塩カラムPD-10(Sephadex G-25充填品、GEヘルスケア社)に供し、封入されなかった薬剤とタンパク質とを分離した。その溶液全量(3.5ml)をVivaspin 20-100K(GE healthcare社)を用いた遠心限外濾過にて0.1mlに濃縮した。
【0167】
その結果、反応液中のウラニンが100mMの場合に最も効率的な内包が確認された(表7)。ワンステップと脱会合・再会合プロセスで各々得られたウラニン内包FTHフェリチンのウラニン内包量を比較したところ、ワンステップで構築されたサンプルの方が2.7倍多くのウラニンを内包しており、ワンステップでより効率的な薬剤内包が実現されていることが示唆された。
【0168】
【0169】
<実施例18:ワンステッププロセスで構築された色素内包フェリチンの安定性>
ワンステッププロセスで構築されたウラニン内包FTHフェリチンの血漿中での安定性を評価した。はじめに、ヒト血漿(血液凝固試験用標準ヒト血漿、GCH-100A、SIEMENS、シスメックス販売。Lot503264B)40ul中、終濃度1mg/mlのウラニン内包FTHフェリチンで、37℃で遮光静置した。反応開始直後、24時間あるいは48時間放置後に各々3本ずつ回収し、すぐさま冷蔵保存した。得られた各サンプルを水で5倍希釈し、ゲルろ過カラム分析にてFTHフェリチンと血漿蛋白質を分離しながら、430nmの分光を測定し、FTHフェリチン内のウラニンを定量した。ゲルろ過カラム分析の条件として、Superdex200 increase(GEヘルスケア社)とPBS(pH7.4)を用いて、流速0.8ml/分を用いた。
【0170】
その結果、内包されたウラニンの内94%が48時間後でもFTHフェリチン内に内包されており、ウラニン内包FTHフェリチンが血漿中で安定であることが分かった(
図14)。
【0171】
<実施例19:ワンステッププロセスで構築された色素内包フェリチンの細胞導入>
フェリチンはトランスフェリン受容体(TfR)依存的に細胞内に輸送されることが知られている。ワンステッププロセスで構築された薬物内包フェリチンの細胞内移行性を評価するため、ウラニンをモデル化合物として、ウラニン内包FTHフェリチンの細胞内取り込み活性を評価した。
【0172】
終濃度3mg/mlのFTHフェリチンを含む終濃度50mMの酢酸緩衝(pH5)2mlに、終濃度が100mMとなるようにウラニンを混合し、40℃で60分間放置した。放置後、遠心分離(15,000rpm、1分間)し、上清を10mMトリス塩酸塩緩衝液(pH8)で平衡化された脱塩カラムPD-10(Sephadex G-25充填品、GEヘルスケア社)に供することで、封入されなかった薬剤とタンパク質とを分離した。得られたサンプル溶液3.5mlを、PBSで平衡化されたHiPrep 16/60 Sephacryl S-300 HRに供し、PBSで、流速0.5ml/分でウラニン内包FTHフェリチンを溶出し精製した。精製後、Vivaspin20-100k(GEヘルスケア社)を用いた限外ろ過により濃縮されたウラニン内包FTHフェリチンの430nmの吸光度を分光光度計(DU-800、ベックマンコールター社)にて測定しウラニンの濃度を決定すると共に、含有タンパク質濃度をプロテインアッセイCBB溶液(ナカライテスク社)にて、ウシアルブミンを標準として決定した。その結果、溶液ウラニンを569μM、およびFTHフェリチンを6.7μMで含有するウラニン内包FTHフェリチン水溶液1mlを得られた。
【0173】
評価用培地(Opti-MEMTM(Thermo Fisher Scientific社)+1%非必須アミノ酸溶液(Thermo Fisher Scientific社)+1%ペニシリン-ストレプトマイシン(ナカライテスク社))にウラニン内包FTHフェリチンの終濃度が0nM(ウラニン濃度0μM)から800nM(ウラニン濃度濃度67.9μM)となるように各々添加された培地100μl中で、ヒト乳癌由来であるSKBR-3細胞(20,000 cell/well、96-well plate)に添加し、37℃で培養した。このSKBR-3細胞はトランスフェリン受容体TfRが発現している。各々24時間培養後、リン酸緩衝生理食塩水100μlにて2回洗浄し、Trypsin-EDTA(Sigma-Aldrich社)50μl中で37℃、10分間放置した。その後、Opti-MEMTM培地100μlを加え、蛍光活性化セルソーティング(FACS)用プレートに細胞を移し、400xg、5分間遠心分離した。各細胞をFACS用緩衝液(AttuneTM Focusing Fluid、Thermo Fisher Scientific社)に懸濁し、FACS(Attune NxT、Thermo Fisher Scientific社)で分析した。
【0174】
その結果、ウラニン内包FTHフェリチンの濃度依存的な蛍光強度の変化が確認され、濃度依存的に細胞への取り込み量が増加していることが示唆された(
図15)。
【0175】
同じ条件で調整された細胞を二光子励起蛍光顕微鏡(CQ-1、横川電機株式会社)で観察したところ、濃度依存的なウラニン内包FTHフェリチンの細胞への取り込みを確認することができた(
図16)。
【0176】
以上の結果から、薬物を内包したフェリチンは、天然型フェリチンと同様に、細胞内への輸送能力を持つことが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0177】
本発明の方法は、例えば、新規薬物送達系(DDS)として期待される、または電子デバイスの作製に利用される有機化合物封入フェリチンの製造に有望である。例えば、本発明の多量体を構成する融合タンパク質におけるフェリチン単量体がヒトフェリチン単量体である場合、本発明の多量体は、DDSとして有用である。また、ヒトフェリチン単量体がヒトに対する抗原性および免疫原性を有しないことに照らすと、本発明の多量体は、臨床応用において安全性に優れるという利点も有する。
本発明の緩衝液は、例えば、有機化合物封入フェリチンの製造に有用である。
有機化合物封入フェリチンは、例えば、新規薬物送達系(DDS)として有用である。
【配列表】