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  • 特許-車両の緊急制動支援装置 図1
  • 特許-車両の緊急制動支援装置 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】車両の緊急制動支援装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/09 20120101AFI20240925BHJP
   B60T 7/12 20060101ALI20240925BHJP
   G08G 1/16 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
B60W30/09
B60T7/12 B
G08G1/16 C
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2021003988
(22)【出願日】2021-01-14
(65)【公開番号】P2022108822
(43)【公開日】2022-07-27
【審査請求日】2023-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100071216
【弁理士】
【氏名又は名称】明石 昌毅
(74)【代理人】
【識別番号】100130395
【弁理士】
【氏名又は名称】明石 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】田村 直之
(72)【発明者】
【氏名】小林 真
【審査官】平井 功
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-73208(JP,A)
【文献】特開2015-217852(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 30/00-60/00
B60T 7/12- 8/1769
G08G 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の緊急制動支援装置であって、
前記車両がその進行方向に存在する物体と衝突する可能性が検出された場合に前記物体との衝突を回避するための前記車両の制動を支援するよう構成された制動支援手段と、
前記制動支援手段の制動支援作動の可否を決定するよう構成された支援可否決定手段とを含み、
前記支援可否決定手段が、前記車両のアクセル開度が所定開度を上回っており、前記車両の車速が所定速度を上回っている状態の継続時間が所定時間に満たないときには、前記制動支援作動を禁止する一方、前記車両のアクセル開度が前記所定開度を下回っているとき及び前記車両のアクセル開度が前記所定開度を上回っており、前記車両の車速が所定速度を上回っている状態の継続時間が所定時間を超えているときには、前記制動支援作動を許可するよう構成されている装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両の運転支援技術に係り、より詳細には、車両の進行方向に車両と衝突するおそれのある物体を検出すると、衝突回避のための緊急制動支援を実施する装置に係る。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両の進行方向に車両と衝突するおそれのある物体を検出すると、衝突回避のための制動力を発生させる運転支援を実行する技術(PCS:プリクラッシュセーフティ)に於いて、運転者に車両の加速の意図があると判断される場合には、PCSの作動を禁止する構成が種々提案されている。これは、運転者が加速しようとしている状況で、制動力を自動的に付与したり、制動を促すための支援を実行することは、運転者が支援に対して違和感を覚え、また、運転者に加速の意図があるときには、運転者が物体との衝突を回避するための操舵などの操作を行うと考えられるためである。具体的には、例えば、特許文献1では、運転者がアクセルペダルを相対的に深く踏み込んでいるか又はドライバが相対的に高い頻度でアクセルペダルを操作している場合には、運転者が車両を加速させようとする意図を有していると判定し、自動的な制動力の発生を停止することが開示されている。特許文献2では、車両が相対的に大きなトルクを必要としている状況(例えば、車両が上り坂を走行している状況)では、運転者が車両を加速させようとする意図を有していない場合であっても、ドライバによってアクセルペダルが相対的に深く踏み込まれる可能性があるところ、その場合、運転者に車両の加速の意図はなく、PCSの作動は有効にしておくことが好ましいので、アクセル開度が所定開度より大きくても、加速度が所定値よりも小さいときには、運転者に車両の加速の意図がないと判断してPCSの作動を有効にすることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-224119
【文献】特開2019-73208
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年普及しつつある小型モビリティなどの、最高速度が比較的低い車両に於いては、現在の車速を維持するためでも、アクセル開度を所定の開度を超えた状態でアクセルペダルを踏み続けることがあり、そのような場合、運転者には、車両を加速しようという意図はないので、PCSの如き、衝突回避のための制動力を発生させる運転支援(制動支援)の作動が有効となっていることが好ましい。また、運転者に車両の加速の意図の有無をアクセル開度が所定開度を超えているか否か又は加速度が所定値を超えているか否かで判定する場合、加速の意図が有るのに、制動支援の作動が有効とされることがある一方(ギアを変える瞬間や追い越しシーンなどで車速が最高速度に到達した瞬間に加速度が下がると、実際には、加速の意図が有っても、みかけ上、加速の意図が無くなったと判定されて、制動の作動が有効となり得る。)、加速の意図が無いのに、制動支援の作動が禁止とされたりすることがある(例えば、特許文献2の如く、アクセル開度が所定開度を超えた状態が所定時間以上継続するまでは、アクセル開度の変化が加速度に反映されず、加速度の大小により車両の加速の意図の有無が判定できないことを考慮して、制動支援の作動を禁止するよう設定された構成の場合、車速が最高速度付近に到達しているときにアクセルペダルの踏み直しをすると、アクセル開度が所定開度を超えた状態が所定時間以上継続するとの判定がなされず、加速度の大小により車両の加速の意図の有無が判定できない状況であると判断されて、加速の意図が無いのに、制動の作動が禁止とされる場合が起き得る。)
【0005】
上記の事情を考慮して、本発明の一つの課題は、車両の進行方向に車両と衝突するおそれのある物体を検出すると、衝突回避のための制動支援を実施する緊急制動支援装置に於いて、車両の最高速度付近で車速を維持するためにアクセルペダルを踏み込んだままのときには、運転者に車両の加速の意図は無いことを判定して、制動支援の作動が有効となるように構成され、また、加速の意図が有るのに、加速度の低下により、制動の作動が有効となること、及び、加速の意図が無いのに、アクセルペダルの踏み直しにより、制動の作動が禁止となることを回避することのできる構成を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、上記の課題は、車両の緊急制動支援装置であって、
前記車両がその進行方向に存在する物体と衝突する可能性が検出された場合に前記物体との衝突を回避するための前記車両の制動を支援するよう構成された制動支援手段と、
前記制動支援手段の制動支援作動の可否を決定するよう構成された支援可否決定手段とを含み、
前記支援可否決定手段が、前記車両のアクセル開度が所定開度を上回っており、前記車両の車速が所定速度を上回っている状態の継続時間が所定時間に満たないときには、前記制動支援作動を禁止する一方、前記車両のアクセル開度が前記所定開度を下回っているとき及び前記車両のアクセル開度が前記所定開度を上回っており、前記車両の車速が所定速度を上回っている状態の継続時間が所定時間を超えているときには、前記制動支援作動を許可するよう構成されている装置によって達成される。
【0007】
上記の構成に於いて、制動支援手段が提供する車両の制動の支援は、一つの態様として、具体的には、自動的に車輪に制動力を付与する自動制動制御であってよいが、別の態様としては、運転者に制動を促す警告を与えるものであってもよい。車両がその進行方向に存在する物体と衝突する可能性の検出は、車両の進行方向の状況を検出する車載カメラ、レーダー、LIDARなどを用いた任意の態様にて達成されてよい。制動支援手段が制動支援作動を開始する時期や制動力を付与する場合の制動力の大きさは、車両から車両と衝突する可能性の物体まで距離、車速又は物体の相対速度を基づいて任意の態様にて決定されてよい。また、支援可否決定手段に於いて、車両のアクセル開度に対する所定開度は、運転者に加速の意図があるときには、その開度より大きくなるようにアクセルペダルを踏み込むと想定される開度となるように適合により設定されてよい。車速に対する所定速度は、アクセルペダルを踏み続けないと維持できない程度の車速に適合により設定されてよい。そして、車両の車速が所定速度を上回っている状態の継続時間に対する所定時間は、その時間を超えて車両の車速が所定速度を上回っている状態が維持されている場合には、運転者がアクセルペダルを踏み続けないと維持できない程度の車速を維持しようとしていると判定できる時間に適合により設定されてよい。
【0008】
上記の構成に於いては、端的に述べれば、支援可否決定手段は、運転者に車両の加速の意図があるか否かを判定し、車両の加速の意図があるときには、制動支援手段による制動支援作動を禁止し、車両の加速の意図がないときに、制動支援手段による制動支援作動を許可するよう構成される。この点に関し、従前では、運転者の車両の加速の意図は、アクセルペダルの踏込みに対応するアクセル開度が所定開度を超えているか否かのみにより、或いは、アクセル開度が所定開度を超えているときに車両の加速度が所定値を超えているか否かによって判定されていたところ、既に触れた如く、車両によっては、運転者に加速意図がない場合でも、現在の車速を維持するために、アクセル開度を所定の開度を超えた状態でアクセルペダルを踏み続けることがあり、そのような場合でも、運転者に加速意図がないことが判定され、制動支援作動が許可されることが好ましい。そこで、本発明の装置は、車両のアクセル開度が所定開度を上回っており、車両の車速が所定速度を上回っている状態の継続時間が所定時間を超えているときには、運転者に加速意図がないと判定して、制動支援作動が許可されるよう構成される。これは、車両のアクセル開度が所定開度を上回っていても、車両の車速が所定速度を上回っている状態の継続時間が所定時間を超えている状態は、アクセルペダルが、現在の車速を維持するために踏み続けられていると考えられるためである。
【0009】
一方、車両のアクセル開度が所定開度を上回っており、車両の車速が所定速度に満たないときは、加速の途中であり、加速の意図があると推定される。また、車両の車速が所定速度を上回っていても、その継続時間が所定時間に満たないときは、アクセルペダルを踏み続けないと維持できない程度の車速を維持するためにアクセルペダルを踏み続けているか否かを判定できない段階であり、アクセルペダルを開度が所定開度以上となるように踏んでいることに対して加速の意図がないとは判定できない。そこで、上記の如く、本発明の装置は、車両のアクセル開度が所定開度を上回っており、車両の車速が所定速度を上回っている状態の継続時間が所定時間に満たないときには、運転者がアクセルペダルをアクセル開度が所定開度以上となるように踏んでいることは、加速の意図があると判定して、制動支援作動が禁止されるよう構成される。
【0010】
更に、上記の如く、車両のアクセル開度が所定開度を上回っていても、車両の車速が所定速度を上回っている状態の継続時間が所定時間を超えているときには、加速の意図がないと判定して、制動支援作動を許可する構成であれば、ギアを変える瞬間や追い越しシーンなどで車速が最高速度に到達した瞬間に加速度が下がっただけでは、(加速の意図があるのに)加速の意図がなくなったとは判定されることはなく、従って、制動支援作動が禁止された状態が維持されることとなる。また更に、上記の構成によれば、アクセル開度が所定開度を超えた状態が所定時間以上継続するまで制動支援作動を禁止する構成とは異なり、アクセル開度が一時的に所定開度を下回り、再度、所定開度を上回った場合、車両の車速が所定速度を上回っている状態の継続時間が所定時間を超えていれば、加速の意図がないと判定して、制動支援作動が許可されることとなるので、車速が最高速度付近に到達しているときにアクセルペダルの踏み直ししただけで、制動支援作動が禁止されてしまうことが回避されることとなる。
【発明の効果】
【0011】
かくして、上記の本発明の装置によれば、車両の進行方向に車両と衝突するおそれのある物体を検出すると、衝突回避のための緊急制動支援を実施する緊急制動支援装置に於いて、運転者の加速の意図の有無を、アクセル開度の大小と、加速度の大小(又は更に、アクセル開度が所定開度を超えている継続時間)とにより判定するのではなく、アクセル開度の大小と、車両の車速が所定速度を上回っている状態の継続時間が所定時間を超えているか否かにより、判定するようにすることで、車両の最高速度付近で車速を維持するために運転者がアクセルペダルを踏み込んだままのときには、運転者に車両の加速の意図は無いことを判定して、制動支援の作動が有効となるように構成される。また、上記の構成により、加速の意図が有るのに、加速度の低下により、制動支援の作動が有効となったり、加速の意図が無いのに、アクセルペダルの踏み直しにより、制動支援の作動が禁止されることが回避できることとなる。本発明の装置は、特に、小型モビリティなどの、最高速度が比較的低い車両に於いて、有利に利用される。
【0012】
本発明のその他の目的及び利点は、以下の本発明の好ましい実施形態の説明により明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1(A)は、本発明による車両の緊急制動支援装置の好ましい実施形態が搭載される車両の模式図である。図1(B)は、本発明による車両の緊急制動支援装置の一つの実施形態に於けるシステムの構成をブロック図の形式にて表した図である。
図2図2は、本実施形態の車両の緊急制動支援装置に於ける処理の例をフローチャートの形式に表した図である。
【符号の説明】
【0014】
10…車両
12FL,FR,RL,RR…車輪
14…アクセルペダル
40…制動装置
42…ホイールシリンダ
44…ブレーキペダル
45…マスタシリンダ
46…油圧回路
50…電子制御装置
70…車載カメラ
72…車載レーダー装置
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
車両の構成
図1(A)を参照して、本発明の緊急制動支援装置の好ましい実施形態が組み込まれる自動車等の車両10に於いては、通常の態様にて、左右前輪12FL、12FRと、左右後輪12RL、12RR、運転者によるアクセルペダル14の踏込みに応じて各輪に制駆動力を発生する駆動系装置(図示せず)と、前輪(又は更に後輪)の舵角を制御するための操舵装置(図示せず)と、各輪に制動力を発生する制動系装置40とが搭載される。駆動系装置は、通常の態様にて、エンジン及び/又は電動機(図示せず。エンジンと電動機との双方を有するハイブリッド式の駆動装置であってもよい。)から、変速機、差動歯車装置(図示せず)を介して、駆動トルク或いは回転力が前輪12FL、12FR又は後輪12RL、12RRへ伝達されるよう構成される。操舵装置には、運転者によって作動されるハンドルの回転を、タイロッドへ伝達し前輪12FL、10FRを転舵する通常の操舵装置が採用されてよい。
【0016】
制動系装置40は、運転者によりブレーキペダル44の踏込みに応答して作動されるマスタシリンダ45に連通した油圧回路46によって、各輪に装備をされたホイールシリンダ42i(i=FL、FR、RL、RR 以下同様。)内のブレーキ圧、即ち、各輪に於ける制動力が調節される形式の電子制御式の油圧式制動装置である。油圧回路46には、通常の態様にて、各輪のホイールシリンダを選択的に、マスタシリンダ、オイルポンプ又はオイルリザーバ(図示せず)へ連通する種々の弁(マスタシリンダカット弁、油圧保持弁、減圧弁)が設けられており、通常の作動に於いては、ブレーキペダル44の踏込みに応答して、マスタシリンダ45の圧力がそれぞれのホイールシリンダ42iへ供給される。特に、本実施形態に於いては、車両の進行方向に車両と衝突する可能性のある物体が検出された場合に、緊急制動支援の一つの態様として、自動制動制御が実行されるようになっていてもよく、その場合には、油圧回路46が電子制御装置60の指令に基づいて各輪のホイールシリンダ42iにブレーキ圧を付与して、制動力が発生できるようになっていてもよい。なお、制動系装置40は、空気圧式又は電磁式に各輪に制動力を与える形式又はその他当業者にとって任意の形式のものであってよい。
【0017】
また、本発明の緊急制動支援装置の好ましい実施形態が適用される車両10に於いては、車両周辺の状況を検出する車載カメラ70、レーダー装置等72が設けられ、車両の進行方向に車両と衝突する可能性のある物体(車両、歩行者等(歩行者、自転車)、落下物、その他の障害物)が存在するときには、その物体を検出できるように構成される。
【0018】
上記の車両の各部の作動制御及び本実施形態による緊急制動支援装置の作動制御は、電子制御装置50により実行される。電子制御装置50は、通常の形式の、双方向コモン・バスにより相互に連結されたCPU、ROM、RAM及び入出力ポート装置を有するマイクロコンピュータ及び駆動回路を含んでいてよい。後に説明される本実施形態の緊急制動支援装置の各部の構成及び作動は、それぞれ、プログラムに従った電子制御装置(コンピュータ)50の作動により実現されてよい。電子制御装置50には、車載カメラ70、レーダー装置等72等からの情報s1~s2、アクセルペダルの踏込量θa、車輪速Vwi(i=FL、FR、RL、RR)など、後述の態様にて実行される本実施形態の緊急制動支援制御のためのパラメータとして参照される種々のセンサからの検出値が入力され、制動支援として、自動制動制御に於ける制御量を表す制御指令、運転者への操作アドバイスを提供するHMI装置への制御指令等が対応する装置へ出力される。なお、本実施形態の車両に於いて実行されるべき各種制御に必要な種々のパラメータ、例えば、ホイールシリンダ圧Pbi、ジャイロセンサからのヨーレート及び/又は横加速度、操舵角、ブレーキペダルの踏込量θb、前後Gセンサの検出値などの等の各種検出信号が入力され、各種の制御指令が対応する装置へ出力されてよい。
【0019】
装置の構成
図1(B)を参照して、本実施形態による緊急制動支援装置は、概して述べれば、車両と衝突の可能性のある物体の検出部(物体検出部)と緊急制動支援制御部を含む。物体検出部は、車載カメラ70、レーダー装置72などの車両の周辺の状況を表わす画像等の情報から環境認識装置により任意の態様にて認識された車両の周辺の物体のうち、車両の進行方向に於いて、車両と接触する可能性のある物体が存在しているときには、その物体の相対距離、相対速度などを検出し、物体との衝突の回避のために車両の制動が有効であると判断される状況となると、その情報を緊急制動支援制御部へ与えるよう構成される。緊急制動支援制御部は、基本的には、物体検出部からの情報に応答して、制動支援を提供するか否かを判定して、制動支援を提供する場合には、制動制御装置或いはHMI装置へ制御指令を与えるよう構成される。この点に関し、後にも説明される如く、運転者に加速の意図があると判定される場合には、運転者が制動支援に対する違和感を覚えないように、物体との衝突の回避のための制動支援は提供しないことが好ましい。そこで、本実施形態の装置に於いては、運転者の加速の意図の有無を検出するために、アクセルペダルセンサの踏込量を参照して得られるアクセル開度と、車速とが緊急制動支援制御部へ与えられる。
【0020】
緊急制動支援としては、一つの態様に於いては、ブレーキペダルの踏込によらず、各輪に制動力を付与する自動制動制御が提供されてよく、或いは、運転者に緊急制動の実行を促す警告がHMI装置を通じて音声又は視覚的表示により提供されてよい。
【0021】
装置の作動
(1)概要
既に触れた如く、車両の進行方向に於ける車両と衝突するおそれのある物体の検出に応答して、衝突回避のための制動力を発生させる制動支援に於いて、運転者が加速しようとしている状況での自動的な制動力の付与や制動を促す警告などの支援の実行は、その支援に対して運転者が違和感を覚えることがあり、また、運転者に加速の意図があるときには、運転者が物体との衝突を回避するための操舵などの操作を行うと考えられるので、一つの制御態様として、運転者に車両の加速の意図があると判断される場合には、制動支援を実行しないという構成が考えられる。従って、かかる構成を採用する場合には、運転者の加速意図がより的確に判定できることが好ましい。この点に関し、運転者に加速意図があるときには、運転者がアクセルペダルを強く踏込み、アクセル開度が大きくなるので、通常は、アクセル開度が所定の開度の閾値を上回ったときに、運転者に加速意図がありと判定することができそうである。
【0022】
しかしながら、「発明の概要」の欄にも述べられている如く、近年普及しつつある小型モビリティなどの、最高速度が比較的低い車両に於いては、比較的高い車速を維持するためにも、アクセルペダルを踏み続けてアクセル開度を所定の開度を超えた状態が継続することがあり、そのような場合、運転者に加速意図はないので、制動支援の作動が許可されるようになっていることが好ましい。そこで、本実施形態に於いては、アクセル開度を所定の開度を超えた状態であるが、それが、比較的高い車速を維持するためであると判断されるときには、運転者に加速意図はないと判定し、制動支援の作動が許可されるように、制御が構成される。かくして、具体的には、以下に示すように、本実施形態の制御は、アクセル開度が所定開度を下回っているときと、アクセル開度が所定開度を上回っていても、車速が所定速度を上回っている状態の継続時間が所定時間を超えているときには、制動支援の作動が許可され、それ以外、即ち、アクセル開度が所定開度を上回っており、車速が所定速度を上回っている状態の継続時間が所定時間に満たないときには、制動支援の作動が禁止されるよう構成される。
【0023】
(2)処理過程
本実施形態による装置に於ける緊急制動支援の実行の許可・禁止の制御は、図2に示されているフローチャートの如く実行されてよい。同図を参照して、まず、アクセル開度Aが所定開度Athを下回っているときには(ステップ1)、運転者に加速意図はないと判断できるので、制動支援の作動が許可される(ステップ4)。なお、アクセル開度Aは、アクセルペダルの踏込量θaに対応して与えられてよい(踏込量θaが最大のときに、アクセル開度Aが100%として、踏込量θaの増減に対応してアクセル開度Aが増減するようになっていてよい。)。所定開度Athは、運転者に加速の意図があるときには、その開度より大きくなるようにアクセルペダルを踏み込むと想定される開度となるように適合により設定されてよい。
【0024】
一方、アクセル開度Aが所定開度Athを上回っているときには(ステップ1)、既に触れた如く、比較的高い車速を維持するためにアクセルペダルが踏み続けられているか否かが判定され、比較的高い車速の維持のためにアクセルペダルが踏み続けられていると判定される場合には、運転者に加速意図がないと判断して、制動支援の作動が許可され、そうでない場合には、運転者に加速意図があると判断して、制動支援の作動が禁止される。具体的には、まず、車速Vが所定速度Vthを超えているか否かが判定される(ステップ2)。なお、所定速度Vthは、アクセルペダルを踏み続けないと維持できない程度の(最高速度に近い)車速に適合により設定されてよい。ここで、車速Vが所定速度Vthを下回っている場合には、車両の加速の途中と考えられるので、運転者に加速意図があると判断して、制動支援の作動が禁止される(ステップ5)。一方、車速Vが所定速度Vthを上回っている場合には、その状態の継続時間Tが所定時間Tthを超えているか否かが判定される(ステップ3)。所定時間Tthは、その時間を超えて車速が所定速度Vthを上回っている状態が維持されている場合には、運転者がアクセルペダルを踏み続けないと維持できない程度の車速を維持しようとしていると判定できる時間に適合により設定されてよい。そして、継続時間Tが所定時間Tthを下回っている場合には、比較的高い車速の維持のためにアクセルペダルが踏み続けられているかどうか判定できず、運転者に加速意図がある可能性があるので、制動支援の作動が禁止される(ステップ5)。一方、継続時間Tが所定時間Tthを上回っている場合には、アクセルペダルが踏み続けている理由が車速の維持のためと考えられるので、運転者に加速意図がないと判断して、制動支援の作動が許可される(ステップ4)。
【0025】
かくして、上記の処理構成によって、アクセル開度が大きい場合でも、それが、比較的高い車速を維持するためにアクセルペダルが踏み続けられていることによる場合には、運転者に加速意図はないと判断され、制動支援の作動が許可されることとなる。
【0026】
上記の処理構成に於いては、アクセル開度が所定開度より大きい場合に、加速度の大小によらずに、車速が所定速度を上回っている状態の継続時間が所定時間を超えているか否かにより、制動支援の作動の許可・禁止が判定されるので、アクセルペダルが強く踏まれている状態で、ギアを変える瞬間や追い越しシーンなどで車速が最高速度に到達した瞬間に加速度が下がることがあっても、車速が所定速度を上回っている状態の継続時間が所定時間を超えていなければ、即座に加速の意図が無くなったと判定されることなく、制動支援の作動が禁止された状態が維持されることとなる。また、アクセルペダルが連続して踏み続けていたかどうかによらず、車速が所定速度を上回っている状態の継続時間が所定時間を超えていれば、制動支援の作動許可の状態となっているので、運転者に加速の意図が無く、比較的高い車速を維持するためにアクセルペダルが踏み続けられている状態で、アクセルペダルの踏み直しをした場合、その間に車速が所定速度を上回っている状態が継続していれば、制動支援の作動の許可の状態が維持されることとなる。
【0027】
以上の説明は、本発明の実施の形態に関連してなされているが、当業者にとつて多くの修正及び変更が容易に可能であり、本発明は、上記に例示された実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の概念から逸脱することなく種々の装置に適用されることは明らかであろう。
図1
図2