(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】エンジン
(51)【国際特許分類】
F02B 77/00 20060101AFI20240925BHJP
F02B 75/32 20060101ALI20240925BHJP
F02B 61/02 20060101ALI20240925BHJP
F16C 3/06 20060101ALI20240925BHJP
F16C 7/00 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
F02B77/00 M
F02B75/32 A
F02B61/02 B
F02B61/02 A
F02B61/02 C
F16C3/06
F16C7/00
(21)【出願番号】P 2021010344
(22)【出願日】2021-01-26
【審査請求日】2023-11-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【氏名又は名称】北村 周彦
(74)【代理人】
【識別番号】100139365
【氏名又は名称】中嶋 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100150304
【氏名又は名称】溝口 勉
(72)【発明者】
【氏名】尾関 久志
【審査官】津田 真吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-125258(JP,A)
【文献】特開2011-132821(JP,A)
【文献】米国特許第4339964(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 75/32
F02B 61/02
F02B 77/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストンにコネクティングロッドを介してクランク軸が連結され、前記ピストンの往復運動が前記クランク軸の回転運動に変換されて後輪に伝達されるエンジンであって、
前記クランク軸の後方に配置されたカウンタ軸と、
前記クランク軸の下方に配置されたプライマリ軸と、
前記カウンタ軸の下方に配置されたドライブ軸と、を備え、
前記クランク軸のプライマリドライブギアが前記プライマリ軸のプライマリアイドルギアを介して前記カウンタ軸のプライマリドリブンギアに連結し、前記クランク軸が前記後輪の回転方向とは逆回転して、前記プライマリ軸が前記クランク軸の逆回転を正回転に戻して前記カウンタ軸に伝達しており、
前記カウンタ軸の変速ギアが前記ドライブ軸の変速ギアに連結し、前記ドライブ軸が前記カウンタ軸の回転を前記後輪に伝達しており、
エンジン側面視にて前記プライマリアイドルギアが前記コネクティングロッドの移動軌跡に重なり、エンジン幅方向にて前記プライマリアイドルギアが前記コネクティングロッドの移動軌跡から外れ
、
エンジン側面視にて前記ドライブ軸の変速ギアが前記プライマリアイドルギアに重なり、エンジン幅方向にて前記ドライブ軸の変速ギアが前記プライマリアイドルギアから外れていることを特徴とするエンジン。
【請求項2】
前記プライマリ軸の下方に配置されたオイルポンプのポンプ軸を備え、
前記プライマリ軸のポンプドライブギアが前記ポンプ軸のポンプドリブンギアに連結し、前記プライマリ軸が前記クランク軸の逆回転を正回転に戻して前記ポンプ軸に伝達して前記オイルポンプを駆動しており、
エンジン側面視にて前記ポンプドリブンギアが前記プライマリアイドルギアに重なり、エンジン幅方向にて前記ポンプドリブンギアが前記プライマリアイドルギアから外れていることを特徴とする
請求項1に記載のエンジン。
【請求項3】
前記オイルポンプが前記クランク軸の一端から他端までの範囲内に配置されており、
エンジン幅方向にて前記プライマリ軸が前記プライマリドライブギアに隣接した前記コネクティングロッドと前記オイルポンプの間に配置されていることを特徴とする
請求項2に記載のエンジン。
【請求項4】
前記ドライブ軸の下方に配置されたシフトカムを備え、
エンジン側面視にて前記シフトカムが前記プライマリアイドルギアに重なり、エンジン幅方向にて前記シフトカムが前記プライマリアイドルギアから外れていることを特徴とする
請求項3に記載のエンジン。
【請求項5】
エンジン側面視にて前記プライマリ軸が、前記クランク軸の中心、前記カウンタ軸の中心、前記ポンプ軸の中心、前記シフトカムの中心を頂点とした矩形領域内に配置されていることを特徴とする
請求項4に記載のエンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンとして、後輪の正回転による回転イナーシャを打ち消す逆回転クランクを採用したものが知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載のエンジンにはクランク軸とカウンタ軸の上方にバランサ軸が配置され、クランク軸のプライマリドライブギアがバランサ軸のプライマリアイドルギアを介してカウンタ軸のプライマリドリブンギアに連結している。クランク軸の逆回転がバランサ軸で正回転に戻されてカウンタ軸に伝えられる。そして、カウンタ軸の回転が変速ギアを介してドライブ軸に伝えられ、ドライブ軸の回転がドライブチェーンを介して後輪に伝えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のエンジンでは、クランク軸とカウンタ軸の上方にバランサ軸が配置されている。クランク軸に連結したコネクティングロッドにバランサ軸が干渉しないように、クランク軸からバランサ軸を十分に離して配置しなければならない。このため、エンジンサイズが大型化して重量及び放射音が増加すると共に剛性が低下し、さらにエンジンの周辺部品のレイアウトの自由度が悪化するという不具合が生じていた。
【0005】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、クランク軸を逆回転させる構造であっても、エンジンサイズの大型化を抑えることができるエンジンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様のエンジンは、ピストンにコネクティングロッドを介してクランク軸が連結され、前記ピストンの往復運動が前記クランク軸の回転運動に変換されて後輪に伝達されるエンジンであって、前記クランク軸の後方に配置されたカウンタ軸と、前記クランク軸の下方に配置されたプライマリ軸と、前記カウンタ軸の下方に配置されたドライブ軸と、を備え、前記クランク軸のプライマリドライブギアが前記プライマリ軸のプライマリアイドルギアを介して前記カウンタ軸のプライマリドリブンギアに連結し、前記クランク軸が前記後輪の回転方向とは逆回転して、前記プライマリ軸が前記クランク軸の逆回転を正回転に戻して前記カウンタ軸に伝達しており、前記カウンタ軸の変速ギアが前記ドライブ軸の変速ギアに連結し、前記ドライブ軸が前記カウンタ軸の回転を前記後輪に伝達しており、エンジン側面視にて前記プライマリアイドルギアが前記コネクティングロッドの移動軌跡に重なり、エンジン幅方向にて前記プライマリアイドルギアが前記コネクティングロッドの移動軌跡から外れ、エンジン側面視にて前記ドライブ軸の変速ギアが前記プライマリアイドルギアに重なり、エンジン幅方向にて前記ドライブ軸の変速ギアが前記プライマリアイドルギアから外れていることで上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様のエンジンによれば、エンジン幅方向であるクランク軸の軸方向で、クランク軸に連結したコネクティングロッドの移動軌跡からプライマリ軸のプライマリアイドルギアが外れている。エンジン側面視でプライマリアイドルギアがコネクティングロッドの移動軌跡に重なるように、クランク軸に対してプライマリ軸が近づけてられても、コネクティングロッドにプライマリアイドルギアが干渉することがない。このため、エンジンサイズの大型化が抑えられて、軽量化、放射音の低下、高剛性化、周辺部品のレイアウトの自由度の向上が図られている。また、クランク軸の逆回転によって後輪の回転による回転イナーシャを打ち消して操縦安定性が向上される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図3】本実施例のエンジンの内部機構の前面図である。
【
図4】本実施例のエンジンの内部機構の側面図である。
【
図5】本実施例のエンジンの内部機構の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の一態様のエンジンでは、ピストンにコネクティングロッドを介してクランク軸が連結され、ピストンの往復運動が前記クランク軸の回転運動に変換されて後輪に伝達される。クランク軸の後方にはカウンタ軸が配置され、クランク軸の下方にはプライマリ軸が配置され、クランク軸のプライマリドライブギアがプライマリ軸のプライマリアイドルギアを介してカウンタ軸のプライマリドリブンギアに連結している。クランク軸が後輪の回転方向とは逆回転して、プライマリ軸がクランク軸の逆回転を正回転に戻してカウンタ軸に伝達している。クランク軸の逆回転によって後輪の回転による回転イナーシャを打ち消して操縦安定性が向上されている。また、エンジン幅方向であるクランク軸の軸方向で、クランク軸に連結したコネクティングロッドの移動軌跡からプライマリ軸のプライマリアイドルギアが外れている。エンジン側面視でプライマリアイドルギアがコネクティングロッドの移動軌跡に重なるように、クランク軸に対してプライマリ軸が近づけてられても、コネクティングロッドにプライマリアイドルギアが干渉することがない。このため、エンジンサイズの大型化が抑えられて、軽量化、放射音の低下、高剛性化、周辺部品のレイアウトの自由度の向上が図られている。
【実施例】
【0010】
以下、添付図面を参照して、本実施例の動力伝達機構の潤滑構造が適用されたエンジンについて説明する。
図1は、本実施例のエンジンの右側面図である。
図2は、本実施例のエンジンの左側面図である。また、以下の図では、矢印FRは車両前方、矢印REは車両後方、矢印Lは車両左方、矢印Rは車両右方をそれぞれ示している。
【0011】
図1に示すように、エンジン10は、アッパケース12及びロアケース13から成る上下割構造のクランクケース11を有している。アッパケース12はシリンダと一体化しており、アッパケース12の上部にはシリンダヘッド14及びシリンダヘッドカバー15が取り付けられている。シリンダヘッド14及びシリンダヘッドカバー15の内側には吸排気バルブを作動させる動弁装置(不図示)が収容されている。ロアケース13の下部には潤滑及び冷却用のオイルを貯留するオイルパン16が取り付けられている。クランクケース11の右側面にはクラッチ(不図示)を側方から覆うクラッチカバー17が取り付けられている。
【0012】
図2に示すように、クランクケース11の左側面にはマグネト(不図示)を側方から覆うマグネトカバー18が取り付けられている。マグネトカバー18の後方には、後輪駆動用のドライブチェーン74(
図4参照)の一部及びドライブスプロケット73(
図5参照)を側方から覆うスプロケットカバー19が取り付けられている。マグネトカバー18の上方にはエンジン10を始動させるスタータモータ21が取り付けられ、スプロケットカバー19の上方にはエンジン10の油圧を制御するオイルコントロールバルブ22が取り付けられている。エンジン10の内側には各種動力伝達機構が収容されている。
【0013】
このようなエンジン10に逆回転クランクを採用するためには、クランク軸31(
図1参照)の逆回転を正回転に戻してカウンタ軸61(
図1参照)に回転を伝えるプライマリ軸51(
図4参照)が必要になる。クランクケース11内には各種部材が収容されており、プライマリ軸51の配置箇所によってはクランクケース11のエンジン側面視のシルエットが大きくなってエンジンサイズが大型化する。そこで、本実施例のエンジン10では、クランク軸31の下方にプライマリ軸51が配置され、クランクケース11内の各種部材の収容スペースの一部を利用して、プライマリ軸51のプライマリアイドルギア52(
図4参照)が収容されている。
【0014】
図3から
図5を参照して、エンジンの内部機構について説明する。
図3は、本実施例のエンジンの内部機構の前面図である。
図4は、本実施例のエンジンの内部機構の側面図である。
図5は、本実施例のエンジンの内部機構の斜視図である。なお、
図3から
図5では、説明の便宜上、コネクティングロッド及びクランクウェブとして、コネクティングロッド及びクランクウェブの移動軌跡を図示している。
【0015】
図3に示すように、エンジン10は左右方向に4本の気筒を並べた並列4気筒エンジンである。エンジン10には後輪75(
図4参照)の回転方向とは逆方向に回転するクランク軸31が配置されている。クランク軸31は、複数のクランクウェブ32を複数のクランクピン(不図示)と複数のクランクジャーナル33で連結して形成されている。クランク軸31の各クランクピンにはコネクティングロッド34a-34dを介してピストン35a-35dが連結されている。ピストン35a-35dの往復運動がクランク軸31の回転運動に変換されて後輪75(
図4参照)に伝達されている。
【0016】
図3及び
図4に示すように、クランク軸31の回転はチェーンアイドルギア42とタイミングチェーン45を介して動弁装置(不図示)の一対のカムスプロケット48a、48bに伝達されている。クランク軸31の上方には、クランク軸31と平行にチェーンアイドル軸41が配置されている。クランク軸31の一端側(右端側)にはチェーンドライブギア36が設けられ、チェーンアイドル軸41にはチェーンアイドルギア42が設けられている。チェーンドライブギア36がチェーンアイドルギア42に連結して、クランク軸31の回転がチェーンアイドルギア42に伝達されている。
【0017】
チェーンアイドルギア42には、エンジン幅方向内側に位置する大径ギア43とエンジン幅方向外側に位置する小径ギア44とが一体的に形成されている。大径ギア43にはチェーンドライブギア36が連結し、クランク軸31の回転がチェーンドライブギア36から大径ギア43に伝達される。小径ギア44にはタイミングチェーン45の下部が掛けられ、一対のカムスプロケット48a、48bにはタイミングチェーン45の上部が掛けられている。大径ギア43と小径ギア44が一体回転してタイミングチェーン45が周回移動され、一対のカムスプロケット48a、48bの回転によって動弁装置が駆動される。
【0018】
タイミングチェーン45は、レバーガイド46とチェーンガイド47にガイドされている。小径ギア44からカムスプロケット48aに送り出されるタイミングチェーン45がレバーガイド46にガイドされ、カムスプロケット48bから小径ギア44に引き込まれるタイミングチェーン45がチェーンガイド47にガイドされている。小径ギア44からカムスプロケット48aに向かうタイミングチェーン45には弛みが生じるため、チェーンテンショナ(不図示)によってレバーガイド46がタイミングチェーン45に押し付けられて、タイミングチェーン45に対して張力が付与される。
【0019】
また、クランク軸31の回転は変速機構及びドライブチェーン74を介して後輪75に伝達されている。クランク軸31の下方にはクランク軸31と平行にプライマリ軸51が配置されており、クランク軸31の後方にはクランク軸31と平行にカウンタ軸61が配置されている。クランク軸31の一端側のコネクティングロッド34dよりもエンジン幅方向の内側(左側)にプライマリドライブギア37が設けられている。プライマリドライブギア37はクランクウェブとしても機能する。プライマリ軸51の一端側(右端側)にはプライマリアイドルギア52が設けられ、カウンタ軸61の一端側(右端側)にはプライマリドリブンギア62が設けられている。
【0020】
クランク軸31のプライマリドライブギア37がプライマリ軸51のプライマリアイドルギア52を介してカウンタ軸61のプライマリドリブンギア62に連結している。クランク軸31が後輪75の回転方向とは逆回転しても、プライマリ軸51によってクランク軸31の逆回転が正回転に戻されてカウンタ軸61に伝達されている。この場合、プライマリドリブンギア62がカウンタ軸61に相対回転可能に支持されている。カウンタ軸61にはプライマリドリブンギア62よりもエンジン幅方向の外側(右側)にクラッチ63が設けられており、クラッチ63によってプライマリドリブンギア62とカウンタ軸61の間で回転が伝達及び遮断されている。
【0021】
カウンタ軸61の下方にはカウンタ軸61と平行にドライブ軸71が配置されている。カウンタ軸61にはプライマリドリブンギア62よりもエンジン幅方向の内側(左側)に複数の変速ギア64が設けられ、ドライブ軸71にはカウンタ軸61の変速ギア64に対応して複数の変速ギア72が設けられている。ドライブ軸71の他端側(左端側)にはドライブスプロケット73(
図5参照)が設けられている。カウンタ軸61及びドライブ軸71の変速ギア64、72が連結して、カウンタ軸61の回転がドライブ軸71に伝達され、ドライブ軸71の回転がドライブスプロケット73からドライブチェーン74を介して後輪75に伝達されている。
【0022】
図3及び
図5に示すように、ドライブ軸71の下方にはドライブ軸71と平行にシフトカム81及びシフト軸82が配置されている。シフトカム81とドライブ軸71の間には、カウンタ軸61とドライブ軸71の間の伝達状態を変更するシフトフォーク(不図示)が配置されている。シフトフォークにはピンが設けられており、シフトカム81のカム溝に沿ってピンが動かされることでシフトフォークが軸方向にスライドされる。また、シフトカム81の一端側(右端側)とシフト軸82の一端側(右端側)はプレート部材83、84を介して連結され、シフト軸82にはシフトレバー(不図示)が連結されている。
【0023】
運転者によってシフトレバーが操作されると、シフト軸82が所定角度だけ回転されて、シフト軸82の回転がプレート部材83、84を介してシフトカム81に伝達される。そして、シフトカム81が所定角度だけ回転されることで、シフトフォークが軸方向(左右方向)にスライドされて、カウンタ軸61とドライブ軸71の変速ギア64、72の組み合わせが変化される。カウンタ軸61とドライブ軸71の変速ギア64、72の組み合わせによって変速段が切り替えられて、エンジン10の駆動力が回転数及びトルクが変えられた状態で後輪75に向けて伝達されている。
【0024】
また、クランク軸31の回転はオイルポンプ93及びウォータポンプ94に伝達されている。プライマリ軸51の下方にはプライマリ軸51と平行にポンプ軸91が配置されている。プライマリ軸51の他端側(左端側)にはポンプドライブギア53が設けられ、ポンプ軸91の一端側(右端側)にはポンプドリブンギア92が設けられている。ポンプ軸91のポンプドリブンギア92よりもエンジン幅方向の内側(左側)にはオイルポンプ93が設けられ、ポンプ軸91の他端側(左端側)にはウォータポンプ94が設けられている。このように、オイルポンプ93とウォータポンプ94は同軸上に配置されている。
【0025】
クランク軸31のプライマリドライブギア37がプライマリ軸51のプライマリアイドルギア52に連結し、プライマリ軸51のポンプドライブギア53がポンプ軸91のポンプドリブンギア92に連結している。クランク軸31が後輪75の回転方向とは逆回転しても、プライマリ軸51によってクランク軸31の逆回転が正回転に戻されてポンプ軸91に伝達されている。ポンプ軸91の回転によってオイルポンプ93及びウォータポンプ94が駆動されている。このように、クランク軸31の回転は、動弁装置、後輪75、オイルポンプ93、ウォータポンプ94に伝達されている。
【0026】
続いて、
図3及び
図4を参照して、エンジン内の各軸の配置構成について詳細に説明する。
【0027】
図4に示すように、クランクケース11(
図1参照)の前側にクランク軸31が配置されている。クランク軸31の後方にカウンタ軸61が配置され、クランク軸31の下方にプライマリ軸51が配置されている。より詳細には、クランク軸31の後斜め上方にカウンタ軸61が配置され、クランク軸31とカウンタ軸61の下方でこの2軸31、61の間にプライマリ軸51が配置されている。上記したように、クランク軸31にはコネクティングロッド34が連結されており、コネクティングロッド34dの移動軌跡がクランク軸31のプライマリドライブギア37よりも大きくなっている。
【0028】
エンジン側面視にてプライマリ軸51のプライマリアイドルギア52はコネクティングロッド34dの移動軌跡に重なり、エンジン幅方向にてプライマリ軸51のプライマリアイドルギア52がコネクティングロッド34dの移動軌跡から外れている(
図3参照)。このように、コネクティングロッド34dよりもエンジン幅方向の内側の空きスペースがプライマリ軸51のプライマリアイドルギア52の配置に利用されている。これにより、プライマリ軸51がクランク軸31に近づけられて、クランクケース11(
図1参照)にクランク軸31とプライマリ軸51がコンパクトに配置される。
【0029】
カウンタ軸61の下方のドライブ軸71は、プライマリ軸51の後方でカウンタ軸61とプライマリ軸51の間に配置されている。エンジン側面視にてドライブ軸71の変速ギア72がプライマリ軸51のプライマリアイドルギア52に重なり、エンジン幅方向にてドライブ軸71の変速ギア72がプライマリ軸51のプライマリアイドルギア52から外れている(
図3参照)。このように、ドライブ軸71の右側方の空きスペースがプライマリ軸51のプライマリアイドルギア52の配置に利用されている。これにより、プライマリ軸51がドライブ軸71に近づけられて、クランクケース11にドライブ軸71とプライマリ軸51がコンパクトに配置される。
【0030】
ドライブ軸71の下方で、オイルポンプ93の後方にはシフトカム81が配置されている。エンジン側面視にてシフトカム81がプライマリ軸51のプライマリアイドルギア52に重なり、エンジン幅方向にてシフトカム81がプライマリ軸51のプライマリアイドルギア52から外れている(
図3参照)。このように、シフトカム81の右側方の空きスペースがプライマリ軸51のプライマリアイドルギア52の配置に利用されている。これにより、プライマリ軸51がシフトカム81に近づけられて、クランクケース11にシフトカム81とプライマリ軸51がコンパクトに配置される。
【0031】
プライマリ軸51の下方にはオイルポンプ93のポンプ軸91が配置されている。エンジン側面視にてポンプ軸91のポンプドリブンギア92がプライマリ軸51のプライマリアイドルギア52に重なり、エンジン幅方向にてポンプ軸91のポンプドリブンギア92がプライマリ軸51のプライマリアイドルギア52から外れている(
図3参照)。このように、ポンプ軸91の右側方の空きスペースがプライマリ軸51のプライマリアイドルギア52の配置に利用されている。これにより、プライマリ軸51がポンプ軸91に近づけられて、クランクケース11にポンプ軸91とプライマリ軸51がコンパクトに配置される。
【0032】
図3に示すように、エンジン幅方向にてオイルポンプ93はクランク軸31の一端から他端までの範囲R内に配置されており、プライマリ軸51がプライマリドライブギア37に隣接したコネクティングロッド34dとオイルポンプ93の間に配置されている。このように、オイルポンプ93の右側方の空きスペースがプライマリ軸51の配置に利用され、エンジン幅を変更することなくプライマリ軸51を配置することができる。これにより、プライマリ軸51がオイルポンプ93に近づけられて、クランクケース11にオイルポンプ93とプライマリ軸51がコンパクトに配置される。
【0033】
図4に示すように、エンジン側面視にて、クランク軸31の中心O1、カウンタ軸61の中心O2、シフトカム81の中心O3、ポンプ軸91の中心O4を頂点とした矩形領域A内にプライマリ軸51が配置されている。上記したように、コネクティングロッド34dの移動軌跡、ドライブ軸71の変速ギア72、シフトカム81、ポンプ軸91のポンプドリブンギア92がプライマリ軸51のプライマリアイドルギア52に重なっている。エンジン幅方向にてコネクティングロッド34dよりも左側で、ドライブ軸71、シフトカム81、ポンプ軸91よりも右側の空きスペースにプライマリアイドルギア52が位置付けられている(
図3参照)。
【0034】
クランク軸31、カウンタ軸61、シフトカム81、ポンプ軸91のそれぞれにプライマリ軸51が近づけられて、クランク軸31、カウンタ軸61、シフトカム81、ポンプ軸91、プライマリ軸51がクランクケース11にコンパクトに配置される。各種部材が密集したクランク軸31の下側の空きスペースをプライマリ軸51の配置に利用することで、クランク軸31の上側にプライマリ軸51を配置する構成と比較してエンジン10の大型化が大幅に抑えられている。また、プライマリ軸51の回転によってオイルポンプ93に加えてウォータポンプ94が駆動される。エンジン10の中心寄りに重量物が配置されることでマスの集中化が図られている。
【0035】
以上、本実施例によれば、エンジン幅方向であるクランク軸31の軸方向で、クランク軸31に連結したコネクティングロッド34dの移動軌跡からプライマリ軸51のプライマリアイドルギア52が外れている。エンジン側面視でプライマリアイドルギア52がコネクティングロッド34dの移動軌跡に重なるように、クランク軸31に対してプライマリ軸51が近づけてられても、コネクティングロッド34dにプライマリアイドルギア52が干渉することがない。このため、エンジンサイズの大型化が抑えられて、軽量化、放射音の低下、高剛性化、周辺部品のレイアウトの自由度の向上が図られている。また、クランク軸31の逆回転によって後輪75の回転による回転イナーシャを打ち消して操縦安定性が向上される。
【0036】
なお、本実施例では、クランク軸からプライマリ軸を介してポンプ軸に回転が伝達されているが、クランク軸からポンプ軸に回転が伝達されていれば、クランク軸からポンプ軸への回転の伝達経路は特に限定されない。例えば、クランク軸からプライマリ軸を介さずにポンプ軸に回転が伝達されてもよい。
【0037】
また、本実施例では、オイルポンプとウォータポンプが同軸に配置されているが、オイルポンプとウォータポンプが個別の軸に配置されていてもよい。
【0038】
また、クランク軸、プライマリ軸、カウンタ軸、ドライブ軸、カムシャフト、ポンプ軸が実施例の軸配置に限定されない。少なくともクランク軸の下方にプライマリ軸が配置され、クランク軸の後方にカウンタ軸が配置され、エンジン側面視にてクランク軸に連結されたコネクティングロッドの移動軌跡にプライマリ軸のプライマリアイドルギアが重なり、エンジン幅方向にてプライマリアイドルギアがコネクティングロッドの移動軌跡から外れていればよい。
【0039】
また、エンジンは、鞍乗型車両のエンジンに限らず、他の乗り物、例えば、自動四輪車、バギータイプの自動三輪車の他に、水上バイク、芝刈り機、船外機等の特機等のエンジンに適用されてもよい。なお、鞍乗型車両とは、ライダーがシートに跨った姿勢で乗車する車両全般に限定されず、ライダーがシートに跨らずに乗車する小型のスクータタイプの車両も含んでいる。
【0040】
以上の通り、本実施例のエンジン(10)は、ピストン(35)にコネクティングロッド(34)を介してクランク軸(31)が連結され、ピストンの往復運動がクランク軸の回転運動に変換されて後輪(75)に伝達されるエンジンであって、クランク軸の後方に配置されたカウンタ軸(61)と、クランク軸の下方に配置されたプライマリ軸(51)と、を備え、クランク軸のプライマリドライブギア(37)がプライマリ軸のプライマリアイドルギア(52)を介してカウンタ軸のプライマリドリブンギア(62)に連結し、クランク軸が後輪の回転方向とは逆回転して、プライマリ軸がクランク軸の逆回転を正回転に戻してカウンタ軸に伝達しており、エンジン側面視にてプライマリアイドルギアがコネクティングロッドの移動軌跡に重なり、エンジン幅方向にてプライマリアイドルギアがコネクティングロッドの移動軌跡から外れている。この構成によれば、エンジン幅方向であるクランク軸の軸方向で、クランク軸に連結したコネクティングロッドの移動軌跡からプライマリ軸のプライマリアイドルギアが外れている。エンジン側面視でプライマリアイドルギアがコネクティングロッドの移動軌跡に重なるように、クランク軸に対してプライマリ軸が近づけてられても、コネクティングロッドにプライマリアイドルギアが干渉することがない。このため、エンジンサイズの大型化が抑えられて、軽量化、放射音の低下、高剛性化、周辺部品のレイアウトの自由度の向上が図られている。また、クランク軸の逆回転によって後輪の回転による回転イナーシャを打ち消して操縦安定性が向上される。
【0041】
本実施例のエンジンにおいて、カウンタ軸の下方に配置されたドライブ軸(71)を備え、カウンタ軸の変速ギア(64)がドライブ軸の変速ギア(72)に連結し、ドライブ軸がカウンタ軸の回転を後輪に伝達しており、エンジン側面視にてドライブ軸の変速ギアがプライマリアイドルギアに重なり、エンジン幅方向にてドライブ軸の変速ギアがプライマリアイドルギアから外れている。この構成によれば、ドライブ軸にプライマリ軸が近づけられて、エンジンにドライブ軸とプライマリ軸がコンパクトに配置される。
【0042】
本実施例のエンジンにおいて、プライマリ軸の下方に配置されたオイルポンプ(93)のポンプ軸(91)を備え、プライマリ軸のポンプドライブギア(53)がポンプ軸のポンプドリブンギア(92)に連結し、プライマリ軸がクランク軸の逆回転を正回転に戻してポンプ軸に伝達してオイルポンプを駆動しており、エンジン側面視にてポンプドリブンギアがプライマリアイドルギアに重なり、エンジン幅方向にてポンプドリブンギアがプライマリアイドルギアから外れている。この構成によれば、オイルポンプにプライマリ軸が近づけられて、エンジンにポンプ軸とプライマリ軸がコンパクトに配置される。
【0043】
本実施例のエンジンにおいて、オイルポンプがクランク軸の一端から他端までの範囲(R)内に配置されており、エンジン幅方向にてプライマリ軸がプライマリドライブギアに隣接したコネクティングロッドとオイルポンプの間に配置されている。この構成によれば、エンジン幅を変更することなくプライマリ軸を配置することができる。また、プライマリ軸とオイルポンプがエンジン幅方向に離れているため、オイルポンプにプライマリ軸が近づけられて、エンジンにオイルポンプとプライマリ軸がコンパクトに配置される。
【0044】
本実施例のエンジンにおいて、ドライブ軸の下方に配置されたシフトカム(81)を備え、エンジン側面視にてシフトカムがプライマリアイドルギアに重なり、エンジン幅方向にてシフトカムがプライマリアイドルギアから外れている。この構成によれば、シフトカムにプライマリ軸が近づけられて、エンジンにシフトカムとプライマリ軸がコンパクトに配置される。
【0045】
本実施例のエンジンにおいて、エンジン側面視にてプライマリ軸が、クランク軸の中心(O1)、カウンタ軸の中心(O2)、ポンプ軸の中心(O4)、シフトカムの中心(O3)を頂点とした矩形領域内に配置されている。この構成によれば、クランク軸、カウンタ軸、ポンプ軸、シフトカムのそれぞれにプライマリ軸が近づけられて、エンジンにクランク軸、カウンタ軸、ポンプ軸、シフトカム、プライマリ軸がコンパクトに配置される。また、エンジンの中心寄りに重量物が配置されることでマスの集中化を図ることができる。
【0046】
なお、本実施例を説明したが、他の実施例として、上記実施例及び変形例を全体的又は部分的に組み合わせたものでもよい。
【0047】
また、本発明の技術は上記の実施例に限定されるものではなく、技術的思想の趣旨を逸脱しない範囲において様々に変更、置換、変形されてもよい。さらには、技術の進歩又は派生する別技術によって、技術的思想を別の仕方で実現することができれば、その方法を用いて実施されてもよい。したがって、特許請求の範囲は、技術的思想の範囲内に含まれ得る全ての実施態様をカバーしている。
【符号の説明】
【0048】
10 :エンジン
31 :クランク軸
34a-34d:コネクティングロッド
35a-35d:ピストン
37 :プライマリドライブギア
51 :プライマリ軸
52 :プライマリアイドルギア
53 :ポンプドライブギア
61 :カウンタ軸
62 :プライマリドリブンギア
64 :変速ギア
71 :ドライブ軸
72 :変速ギア
75 :後輪
81 :シフトカム
91 :ポンプ軸
92 :ポンプドリブンギア
93 :オイルポンプ
A :矩形領域