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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】インクジェット記録装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/01 20060101AFI20240925BHJP
   B41J 2/165 20060101ALI20240925BHJP
   B65H 29/60 20060101ALI20240925BHJP
   B65H 5/02 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
B41J2/01 305
B41J2/165 207
B41J2/01 451
B41J2/01 401
B65H29/60 C
B65H5/02 G
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021010905
(22)【出願日】2021-01-27
(65)【公開番号】P2022114579
(43)【公開日】2022-08-08
【審査請求日】2023-12-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000006150
【氏名又は名称】京セラドキュメントソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001933
【氏名又は名称】弁理士法人 佐野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 興人
【審査官】小宮山 文男
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-121226(JP,A)
【文献】特開2012-030576(JP,A)
【文献】特開平06-191704(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0276842(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
B65H 29/60
B65H 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出する複数のノズルを有する記録ヘッドと、
記録媒体を搬送するとともに、画像形成に寄与するタイミングとは異なるタイミングで各ノズルから前記インクを吐出するフラッシングを前記記録ヘッドが実行したときに、前記インクを通過させる開口部を、前記記録媒体の搬送方向に複数有する無端状の搬送ベルトと、
前記記録媒体を送出する給紙部と、
前記給紙部から送出された前記記録媒体を搬送する共通搬送路と、
前記共通搬送路から分岐するとともに前記搬送ベルトの上流側で合流するように設けられ、前記共通搬送路を搬送される前記記録媒体を前記搬送ベルトに導く複数の分岐搬送路と、
前記共通搬送路を搬送される前記記録媒体の搬送先を、前記複数の分岐搬送路のいずれかに切り替える切替部と、
前記給紙部から送出される前記記録媒体を検知する記録媒体検知センサーと、
前記切替部を制御する制御部と、を備え、
前記複数の分岐搬送路の中には、前記複数の分岐搬送路における前記記録媒体の搬送距離が異なるものが存在し、
前記制御部は、前記記録媒体検知センサーによる前記記録媒体の検知タイミングに基づいて、前記記録媒体の搬送先を複数の前記分岐搬送路のいずれかに切り替えるように前記切替部を制御することを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記検知タイミングから、所定時間の前記記録媒体の搬送遅れを認識した場合と、前記搬送遅れを認識しない場合とで、前記制御部は、前記記録媒体の搬送先の前記分岐搬送路を変えることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記検知タイミングが、前記給紙部による前記記録媒体の送出の開始時点から所定時間が経過した所定タイミング以前か、前記所定タイミングより遅いかで前記記録媒体の搬送先の前記分岐搬送路を変えることを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記給紙部から送出された前記記録媒体を搬送するとともに、前記記録媒体の搬送速度を調整する搬送速度調整部をさらに備え、
前記制御部は、前記搬送速度調整部を制御して、前記検知タイミングが前記給紙部による前記記録媒体の送出の開始時点から所定時間が経過した所定タイミングより遅い場合における前記記録媒体の搬送速度を、前記検知タイミングが前記所定タイミング以前である場合における前記記録媒体の搬送速度よりも速くすることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
複数の前記分岐搬送路は、
第1分岐搬送路と、
前記第1分岐搬送路よりも前記記録媒体の搬送距離が短い第2分岐搬送路と、を有し、
前記記録媒体検知センサーから複数の前記分岐搬送路の分岐点までの前記記録媒体の搬送距離をLC(mm)とし、前記第1分岐搬送路における前記記録媒体の搬送距離をL1(mm)とし、前記記録媒体の予め設定された搬送速度をSdef(mm/sec)とし、前記搬送速度調整部によって調整可能な前記搬送速度の上限値をSmax(mm/sec)とし、前記給紙部による前記記録媒体の送出の開始時点から前記検知タイミングまでの経過時間をTmeasure(sec)とし、前記給紙部による前記記録媒体の送出の開始時点から前記検知タイミングまでの予め設定された初期設定時間をTdef(sec)とし、前記記録媒体の搬送遅れ時間をTslip(sec)とした場合、
Tslip=Tmeasure-Tdef
であり、
前記制御部は、
条件(1);Tslip≦(LC+L1)/Sdef-(LC+L1)/Smax
を満足するときに、前記記録媒体が前記第1分岐搬送路を通過するように前記切替部を制御することを特徴とする請求項4に記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記制御部は、
(LC+L1)/Sdef-Tslip=(LC+L1)/Scontrol
を満足する搬送速度Scontrol(mm/sec)で前記記録媒体が搬送されるように、前記搬送速度調整部を制御することを特徴とする請求項5に記載のインクジェット記録装置。
【請求項7】
前記第2分岐搬送路における前記記録媒体の搬送距離をL2(mm)とした場合、
前記制御部は、
条件(2);Tslip>(LC+L1)/Sdef-(LC+L1)/Smax、
条件(3);Tslip≦(LC+L1)/Sdef-(LC+L2)/Smax、
を満足するときに、前記記録媒体が前記第2分岐搬送路を通過するように前記切替部を制御することを特徴とする請求項5または6に記載のインクジェット記録装置。
【請求項8】
前記制御部は、
(LC+L1)/Sdef-Tslip=(LC+L2)/Scontrol
を満足する搬送速度Scontrol(mm/sec)で前記記録媒体が搬送されるように、前記搬送速度調整部を制御することを特徴とする請求項7に記載のインクジェット記録装置。
【請求項9】
前記搬送速度調整部は、前記記録媒体を搬送する少なくとも1つの搬送ローラー対を有することを特徴とする請求項4から8のいずれかに記載のインクジェット記録装置。
【請求項10】
前記搬送ベルトの走行によって移動する前記開口部を検知する開口部検知センサーをさらに備え、
前記制御部は、前記開口部検知センサーによって検知される複数の前記開口部のうちの特定の開口部と前記搬送方向にずれた前記搬送ベルト上の特定の位置に前記記録媒体が到達する時点から、前記給紙部から前記共通搬送路および最長の前記分岐搬送路を介して前記搬送ベルトに到達するまでの、前記記録媒体の予め設定された搬送時間だけ遡ったタイミングで、前記給紙部による前記記録媒体の送出を開始させることを特徴とする請求項1から9のいずれかに記載のインクジェット記録装置。
【請求項11】
複数の前記分岐搬送路は、
第1分岐搬送路と、
前記第1分岐搬送路よりも前記記録媒体の搬送距離が短い第2分岐搬送路と、を有し、
前記制御部は、前記第2分岐搬送路を経由して搬送された、少なくとも1枚の前記記録媒体に対してインク吐出により前記画像形成を行う印刷ジョブの終了後、後続の記録媒体の搬送先を、前記第1分岐搬送路に切り替えるように前記切替部を制御することを特徴とする請求項1から10のいずれかに記載のインクジェット記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、記録媒体の搬送経路を切り替える画像形成装置が知られている。例えば特許文献1の画像形成装置では、インク吐出により画像が形成された用紙を搬送する搬送経路を複数設け、1つの搬送経路で用紙の搬送を遅延させている間に、他の用紙を別の搬送経路に送り込む。これにより、簡単な構成で、生産性の低下を最小限に抑えながら、用紙のカール等を防止している。また、例えば特許文献2の画像形成装置では、給紙部と画像形成部との間に複数の分岐搬送路を設け、いずれかの分岐搬送路を選択して使用する。この構成では、1つの分岐搬送路がトラブルの発生によって使用できなくなった場合でも他の分岐搬送路を使用することができる。この場合、画像形成装置本体の作動を一時停止させることなくそのまま続行させることができ、処理能力の低下を回避することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2008-214020号公報
【文献】特開2006-282349号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年では、インクジェットプリンターなどのインクジェット記録装置において、インクの乾燥によるノズルの目詰まりを低減または予防するため、定期的にノズルからインクを吐き出すフラッシング(空吐出)が行われている。例えば、記録媒体を搬送する搬送ベルトに開口部を設け、記録ヘッドの各ノズルからインクを吐出させて、搬送ベルトの開口部を通過させるフラッシング(ラインフラッシング)が知られている。
【0005】
このようなフラッシングを実現する場合、搬送ベルト上では、搬送ベルトの走行方向(記録媒体の搬送方向)においてフラッシングに利用する開口部と搬送方向にずれた(重ならない)特定の位置に記録媒体が到達するように、上記記録媒体を搬送ベルトに供給することが必要となる。したがって、給紙部から搬送ベルトに向かって記録媒体を送出するタイミングとしては、通常、搬送ベルト上の上記特定の位置に記録媒体が到達する時点から、給紙部から搬送ベルトへの記録媒体の搬送時間だけ遡ったタイミングに設定される。
【0006】
しかし、給紙部から予め設定されたタイミングで記録媒体が送出されても、記録媒体が給紙部のローラー(例えばフィードローラー)の表面でスリップすると、記録媒体に搬送遅れが生じる。この場合、搬送ベルトの上記特定の位置への記録媒体の到達が遅れる。その結果、上記記録媒体が、上記特定の位置よりも上流側に位置する別の開口部と重なって搬送ベルト上に載置される場合が起こり得る。この場合、上記開口部に向かってインクを吐出するフラッシングを記録ヘッドに実行させることができなくなる。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑み、記録媒体に搬送遅れが生じた場合でも、搬送ベルト上で開口部に対して所定の位置(例えば開口部と搬送方向にずれた位置)に記録媒体を載置して、上記開口部に対してインクを吐出するフラッシングを記録ヘッドに実行させることができるインクジェット記録装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面に係るインクジェット記録装置は、インクを吐出する複数のノズルを有する記録ヘッドと、記録媒体を搬送するとともに、画像形成に寄与するタイミングとは異なるタイミングで各ノズルから前記インクを吐出するフラッシングを前記記録ヘッドが実行したときに、前記インクを通過させる開口部を、前記記録媒体の搬送方向に複数有する無端状の搬送ベルトと、前記記録媒体を送出する給紙部と、前記給紙部から送出された前記記録媒体を搬送する共通搬送路と、前記共通搬送路から分岐するとともに前記搬送ベルトの上流側で合流するように設けられ、前記共通搬送路を搬送される前記記録媒体を前記搬送ベルトに導く複数の分岐搬送路と、前記共通搬送路を搬送される前記記録媒体の搬送先を、前記複数の分岐搬送路のいずれかに切り替える切替部と、前記給紙部から送出される前記記録媒体を検知する記録媒体検知センサーと、前記切替部を制御する制御部と、を備える。前記複数の分岐搬送路の中には、前記複数の分岐搬送路における前記記録媒体の搬送距離が異なるものが存在する。前記制御部は、前記記録媒体検知センサーによる前記記録媒体の検知タイミングに基づいて、前記記録媒体の搬送先を複数の前記分岐搬送路のいずれかに切り替えるように前記切替部を制御する。
【発明の効果】
【0009】
上記の構成によれば、記録媒体に搬送遅れが生じた場合でも、搬送ベルト上で開口部に対して所定の位置(例えば開口部と搬送方向にずれた位置)に記録媒体を載置して、上記開口部に対してインクを吐出するフラッシングを記録ヘッドに実行させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態に係るインクジェット記録装置としてのプリンターの概略の構成を示す説明図である。
図2】上記プリンターが備える記録部の平面図である。
図3】上記プリンターの給紙カセットから第1搬送ユニットを介して第2搬送ユニットに至る用紙の搬送経路の周辺の構成を模式的に示す説明図である。
図4】上記プリンターの主要部のハードウェア構成を示すブロック図である。
図5】上記第1搬送ユニットが有する第1搬送ベルトの一構成例を示す平面図である。
図6】フラッシングのときに利用する開口部群のパターンを模式的に示す説明図である。
図7】上記第1搬送ベルト上で、フラッシングに利用する特定の開口部と用紙が重なって載置された状態を示す説明図である。
図8】上記プリンターにおける給紙部付近の詳細な構成を模式的に示す説明図である。
図9】用紙の搬送遅れ時間に基づく制御による動作の流れを示すフローチャートである。
図10】用紙の搬送遅れ時間と、第1分岐搬送路および第2分岐搬送路における用紙の搬送速度との関係を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
〔1.インクジェット記録装置の構成〕
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。図1は、本発明の実施形態に係るインクジェット記録装置としてのプリンター100の概略の構成を示す説明図である。プリンター100は、用紙収容部である給紙カセット2を複数備えている。各給紙カセット2は、サイズの異なる記録媒体を少なくとも1枚収容する。本実施形態では、記録媒体として、例えば用紙Pを用いている。各給紙カセット2は、プリンター本体1の内部下方に配置されている。なお、プリンター100が備える給紙カセット2は、1個であってもよい。
【0012】
各給紙カセット2の用紙搬送方向下流側、すなわち図1における各給紙カセット2の右側の上方には、給紙装置としての給紙部3がそれぞれ設けられている。各給紙部3は、ピックアップローラー3aと、フィードローラー3bと、リタードローラー3cと、を有する。ピックアップローラー3aは、給紙カセット2内に収容された用紙Pの最上面と当接して回転する。これにより、給紙カセット2内の最上位の用紙Pを含む少なくとも1枚の用紙Pが給紙カセット2から送出される。
【0013】
フィードローラー3bは、図示しない駆動モーター(駆動源)に連結された回転軸(図示せず)に取り付けられ、駆動モーターからの駆動力により回転する。ピックアップローラー3aとフィードローラー3bとの間には、フィードローラー3bの回転をピックアップローラー3aに伝達する駆動力伝達ギア(図示せず)が配置されている。フィードローラー3bとリタードローラー3cとは、互いに接触してニップを形成する。
【0014】
フィードローラー3bおよびリタードローラー3cは、ピックアップローラー3aによって送出された用紙Pを1枚ずつ捌きながら給送する。より詳しくは、ピックアップローラー3aから送出された少なくとも1枚の用紙Pは、フィードローラー3bとリタードローラー3cとの間のニップ部に進入する。ここで、リタードローラー3cは、トルクリミッターを介して軸支されており、所定のトルクがかかるまでは停止し、所定のトルクを超えるトルクがかかると、フィードローラー3bに対して従動回転するように構成されている。したがって,ピックアップローラー3aによって複数枚の用紙Pが同時に送出された場合は、リタードローラー3cが停止した状態でフィードローラー3bとリタードローラー3cとによって用紙Pが捌かれる。これにより、最上位の1枚の用紙Pのみが給送される。
【0015】
プリンター100は、その内部に第1用紙搬送路4aを備えている。第1用紙搬送路4aは、各給紙カセット2に対してその給紙方向である右上方に位置する。各給紙カセット2から送出された用紙Pは、第1用紙搬送路4aに合流し、プリンター本体1の側面に沿って垂直上方に搬送される。また、手差しトレイ2aに載置された用紙も、第1用紙搬送路4aに給送されて合流し、プリンター本体1内を垂直上方に搬送される。
【0016】
第1用紙搬送路4aは、共通搬送路XAと、複数の分岐搬送路XBと、を有する。共通搬送路XAは、給紙部3から送出された用紙Pを一方向に(多方向に分岐させることなく)搬送する搬送路である。複数の分岐搬送路XBは、共通搬送路XAに対して搬送方向の下流側に位置し、共通搬送路XAを搬送される用紙Pを第1搬送ユニット5の第1搬送ベルト8に導く搬送路である。複数の分岐搬送路XBは、共通搬送路XAから分岐するとともに第1搬送ベルト8の上流側で合流するように並列に設けられる。
【0017】
複数の分岐搬送路XBは、第1分岐搬送路XB1と、第2分岐搬送路XB2と、を有する。複数の分岐搬送路XBの長さ、つまり、複数の分岐搬送路XBにおける用紙Pの搬送距離は、互いに異なる。本実施形態では、第2分岐搬送路XB2における用紙Pの搬送距離は、第1分岐搬送路XB1における用紙Pの搬送距離よりも短い。共通搬送路XAを搬送される用紙Pの搬送先は、切替部35によって複数の分岐搬送路XBのいずれかに(ここでは第1分岐搬送路XB1またはXB2に)切り替えられる。
【0018】
切替部35は、例えば一方の搬送路を封止して他方の搬送路に用紙Pを案内する切替弁と、その切替弁を回動させるソレノイドなどを有して構成される。切替部35による搬送先の切替動作は、プリンター100の制御部110によって制御される。通常は(後述する用紙Pの搬送遅れがないときは)、共通搬送路XAを搬送される用紙Pが第1分岐搬送路XB1に向かうように、切替部35が制御される。なお、複数の分岐搬送路XBは、用紙Pの搬送距離が互いに異なる分岐搬送路を3本以上有していてもよい。そして、切替部35により、用紙Pの搬送先を3本以上の分岐搬送路のいずれかに切り替える制御を行ってもよい。3本以上の分岐搬送路が存在する場合は、搬送距離が同じ分岐搬送路が存在しても構わない。そのような場合は、搬送距離が異なる分岐搬送路を用いて、後述のように制御を行う。
【0019】
用紙搬送方向において第1用紙搬送路4aの下流端には、レジストローラー対13が設けられている。さらに、レジストローラー対13の用紙搬送方向下流側直近には、第1搬送ユニット5および記録部9が配置されている。給紙カセット2から給紙部3によって送り出された用紙Pは、第1用紙搬送路4aを通ってレジストローラー対13に到達する。レジストローラー対13は、用紙Pの斜め送りを矯正しつつ、記録部9が実行するインク吐出動作とのタイミングを計り、第1搬送ユニット5に向かって用紙Pを送り出す。
【0020】
レジストローラー対13によって第1搬送ユニット5に送り出された用紙Pは、第1搬送ベルト8(詳細については後述する)によって記録部9との対向位置に搬送される。記録部9から第1搬送ベルト8上の用紙Pにインクが吐出されることにより、用紙P上に画像が記録される。このとき、記録部9におけるインクの吐出は、プリンター100の内部の制御部110によって制御される。
【0021】
用紙搬送方向において、第1搬送ユニット5の下流側(図1の左側)には、第2搬送ユニット12が配置されている。記録部9によって画像が記録された用紙Pは、第2搬送ユニット12へ送られる。用紙Pの表面に吐出されたインクは、第2搬送ユニット12を通過する間に乾燥される。
【0022】
用紙搬送方向において、第2搬送ユニット12の下流側には、第2用紙搬送路4bが設けられている。第2搬送ユニット12を通過した用紙Pは、両面記録を行わない場合、第2用紙搬送路4bを通り、プリンター100の左側面外部に設けられた用紙排出トレイ15aに排出される。
【0023】
プリンター本体1の上部であって記録部9および第2搬送ユニット12の上方には、両面記録を行うための反転搬送路16が設けられている。両面記録を行う場合、用紙Pの一方の面(第1面)への記録が終了して第2搬送ユニット12を通過した用紙Pが、反転搬送路16へ送られる。
【0024】
反転搬送路16へ送られた用紙Pは、続いて用紙Pの他方の面(第2面)への記録のために搬送方向が切り替えられる。そして、用紙Pは、レジストローラー対13を経て第2面を上向きにした状態で再び第1搬送ユニット5へ送られる。第1搬送ユニット5では、記録部9との対向位置に用紙Pが搬送され、記録部9からのインク吐出によって第2面に画像が記録される。両面記録後の用紙Pは、第2搬送ユニット12、第2用紙搬送路4bを順に介して用紙排出トレイ15aに排出される。
【0025】
また、プリンター100は、自動原稿搬送装置14と、図示しない画像読取部と、を備える。自動原稿搬送装置14は、図示しないコンタクトガラス上に、原稿束から1枚ずつの原稿を自動で順次送る装置である。上記画像読取部は、上記コンタクトガラス上に送られた原稿を読み取ることにより、記録部9でのインク吐出によって用紙Pに形成すべき画像の画像データを取得する。また、プリンター100は、両面記録後の用紙Pを、第1面を上向きにして排出するための他の用紙排出トレイ15bも備えている。
【0026】
図2は、記録部9の平面図である。記録部9は、ヘッドハウジング10と、ラインヘッド11Y、11M、11C、11Kとを備えている。ラインヘッド11Y~11Kは、駆動ローラー6a、従動ローラー6b、テンションローラー7a、7bおよび7c(図3参照)を含む複数のローラーに張架された無端状の第1搬送ベルト8の搬送面に対して、所定の間隔(例えば1mm)が形成される高さでヘッドハウジング10に保持される。駆動ローラー6aは、第1搬送ベルト8を用紙Pの搬送方向(矢印A方向)に走行させる。この駆動ローラー6aの駆動は、制御部110(図1図4参照)によって制御される。なお、上記複数のローラーは、第1搬送ベルト8の走行方向に沿って、テンションローラー7a、テンションローラー7b、テンションローラー7c、従動ローラー6b、および駆動ローラー6aの順に配置されている(図3参照)。
【0027】
ラインヘッド11Y~11Kは、複数(ここでは3個)の記録ヘッド17a~17cをそれぞれ有している。記録ヘッド17a~17cは、用紙搬送方向(矢印A方向)と直交する用紙幅方向(矢印BB’方向)に沿って千鳥状に配列されている。記録ヘッド17a~17cは、複数のインク吐出口18(ノズル)を有している。各インク吐出口18は、記録ヘッドの幅方向、つまり、用紙幅方向(矢印BB’方向)に等間隔で並んで配置されている。ラインヘッド11Y~11Kからは、記録ヘッド17a~17cのインク吐出口18を介して、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の各色のインクが、第1搬送ベルト8で搬送される用紙Pに向かってそれぞれ吐出される。
【0028】
図3は、給紙カセット2から第1搬送ユニット5を介して第2搬送ユニット12に至る用紙Pの搬送経路の周辺の構成を模式的に示している。また、図4は、プリンター100の主要部のハードウェア構成を示すブロック図である。プリンター100は、上記の構成に加えて、レジストセンサー21と、第1用紙センサー22と、第2用紙センサー23と、開口部検知センサー24と、を備えている。
【0029】
レジストセンサー21は、給紙カセット2から給紙部3によって搬送され、レジストローラー対13に送られる用紙Pを検知する。このレジストセンサー21は、レジストローラー対13よりも用紙Pの供給方向の上流側に位置している。制御部110は、レジストセンサー21での検知結果に基づき、レジストローラー対13の回転開始タイミングを制御することができる。例えば、制御部110は、レジストセンサー21での検知結果に基づき、レジストローラー対13によるスキュー(斜行)補正後の用紙Pの第1搬送ベルト8への供給タイミングを制御することができる。
【0030】
第1用紙センサー22は、レジストローラー対13から第1搬送ベルト8に供給される用紙Pの通過(タイミング)を検知する。第1用紙センサー22は、第1搬送ベルト8と用紙Pとが合流する位置よりも、用紙搬送方向の上流側(レジストローラー対13側)に位置している。
【0031】
第2用紙センサー23は、第1搬送ベルト8で搬送される用紙Pの搬送方向の位置を検知するセンサーである。第2用紙センサー23は、用紙搬送方向において記録部9の上流側で第1用紙センサー22の下流側に位置している。制御部110は、第2用紙センサー23での検知結果に基づき、第1搬送ベルト8によってラインヘッド11Y~11K(記録ヘッド17a~17c)と対向する位置に到達する用紙Pに対するインクの吐出タイミングを制御することができる。
【0032】
開口部検知センサー24は、第1搬送ベルト8に設けられた後述する開口部80(図5参照)の位置を検知する。第1搬送ベルト8の走行により、開口部80の位置は移動(変化)する。このため、開口部検知センサー24は、第1搬送ベルト8の走行によって移動する開口部80を検知すると言うこともできる。本実施形態では、開口部検知センサー24は、第1搬送ベルト8の走行方向において、記録部9と駆動ローラー6aとの間、およびテンションローラー7aとテンションローラー7bとの間に位置して開口部80を検知するが、どちらか一方の位置のみに設けられて開口部80を検知してもよいし、さらに他の位置に設けられて開口部80を検知してもよい。制御部110は、開口部検知センサー24での開口部80の検知結果に基づいて、給紙部3(ピックアップローラー3a、フィードローラー3b)を駆動して、用紙Pを所定の送出タイミングで1枚ずつ給紙部3から送出させることができる。
【0033】
上述したレジストセンサー21、第1用紙センサー22、第2用紙センサー23および開口部検知センサー24は、透過型または反射型の光学センサー、CISセンサー(Contact Image Sensor、密着型イメージセンサー)などで構成することができる。
【0034】
その他、プリンター100は、第1搬送ベルト8の蛇行を検知する蛇行検知センサーを備え、その検知結果に基づいて第1搬送ベルト8の蛇行を修正する構成であってもよい。
【0035】
また、プリンター100は、操作パネル27と、記憶部28と、通信部29と、制御部110と、をさらに備えている。制御部110は、プリンター110内の各部の動作を制御する。このような制御部110は、例えばCPU(Central Processing Unit)と呼ばれる中央演算処理装置を有して構成される。また、制御部110は、時間を計時する計時部(タイマー)の機能も有する。
【0036】
操作パネル27は、各種の設定入力を受け付けるための操作部である。例えば、ユーザーは、操作パネル27を操作して、給紙カセット2にセットする用紙Pのサイズの情報を入力することができる。また、ユーザーは、操作パネル27を操作して、印刷する用紙Pの枚数を入力したり、印刷ジョブの開始を指示することもできる。
【0037】
記憶部28は、制御部110の動作プログラムを記憶するとともに、各種の情報を記憶するメモリであり、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、不揮発性メモリなどを含んで構成されている。例えば、操作パネル27によって設定された情報は、記憶部28に記憶される。
【0038】
通信部29は、外部(例えばパーソナルコンピュータ(PC))との間で情報を送受信するための通信インターフェースである。例えば、ユーザーがPCを操作し、プリンター100に対して画像データとともに印刷コマンドを送信すると、上記の画像データおよび印刷コマンドが通信部29を介してプリンター100に入力される。プリンター100では、制御部110が上記画像データに基づいて記録ヘッド17a~17cを制御してインクを吐出させることにより、用紙Pに画像を記録することができる。
【0039】
また、図3に示すように、プリンター100は、第1搬送ベルト8の内周面側に、インク受け部31Y、31M、31C、31Kを有している。インク受け部31Y~31Kは、ラインヘッド11Y~11Kの記録ヘッド17a~17cと、第1搬送ベルト8を介して対向する位置に設けられている。インク受け部31Y~31Kは、記録ヘッド17a~17cにフラッシングを実行させたときに、記録ヘッド17a~17cから吐出されて第1搬送ベルト8の開口部80を通過したインクを受けて回収する。ここで、フラッシングとは、インクの乾燥によるインク吐出口18の目詰まりを低減または予防する目的で、用紙Pへの画像形成(画像記録)に寄与するタイミングとは異なるタイミングでインク吐出口18からインクを吐出することを言う。インク受け部31Y~31Kで回収されたインクは、例えば廃インクタンクに送られて廃棄されるが、廃棄せずに再利用されてもよい。
【0040】
なお、プリンター100は、図4に示すように、アシストセンサー32と、搬送速度調整部33と、ゼロセンサー34と、をさらに有しているが、その詳細については後述する。
【0041】
図3に示す第2搬送ユニット12は、第2搬送ベルト12aと、乾燥器12bとを有して構成されている。第2搬送ベルト12aは、2つの駆動ローラー12cおよび従動ローラー12dによって張架されている。第1搬送ユニット5によって搬送され、記録部9によるインク吐出によって画像が記録された用紙Pは、第2搬送ベルト12aによって搬送されるとともに、搬送中に乾燥器12bによって乾燥される。
【0042】
〔2.第1搬送ベルトの詳細〕
次に、第1搬送ユニット5の第1搬送ベルト8の詳細について説明する。図5は、第1搬送ベルト8の一構成例を示す平面図である。本実施形態では、負圧吸引方式で用紙Pを搬送するようにしている。このため、同図に示すように、第1搬送ベルト8には、吸引風を通過させる吸引孔8aが無数に設けられている。
【0043】
また、第1搬送ベルト8には、開口部群82も設けられている。開口部群82は、フラッシングのときに記録ヘッド17a~17cの各ノズル(インク吐出口18)から吐出されるインクを通過させる開口部80の集合である。開口部80の開口面積は、上記の吸引孔8aの開口面積よりも大きい。第1搬送ベルト8は、開口部群82を用紙Pの搬送方向(A方向)に1周期で複数有しており、本実施形態は6個有している。なお、各開口部群82を互いに区別するときは、6個の開口部群82を、A方向の下流側から、開口部群82A~82Fと称する。上記の吸引孔8aは、A方向において隣り合う開口部群82と開口部群82との間に位置している。すなわち、第1搬送ベルト8において、開口部群82と重複する領域には、吸引孔8aは形成されていない。
【0044】
開口部群82は、第1搬送ベルト8の1周期において、A方向に不定期に位置する。つまり、A方向において、隣り合う開口部群82と開口部群82との間隔は一定ではなく、変化している(上記間隔は少なくとも2種類存在する)。このとき、A方向に隣り合う2つの開口部群82の最大間隔(例えば図5の開口部群82Aと開口部群82Bとの間隔)は、印字可能な最小サイズ(例えばA4サイズ(横置き))の用紙Pが第1搬送ベルト8上に載置されたときの上記用紙PのA方向の長さよりも長い。
【0045】
上記の開口部群82は、開口部列81を有している。開口部列81は、A方向と直交するベルト幅方向(用紙幅方向、BB’方向)に複数の開口部80を並べて構成されている。1つの開口部群82は、開口部列81をA方向に複数有しており、本実施形態では、開口部列81を2列有している。なお、2列の開口部列81を互いに区別するときは、一方を開口部列81aとし、他方を開口部列81bとする。
【0046】
1つの開口部群82において、いずれかの開口部列81(例えば開口部列81a)の開口部80は、他の開口部列81(例えば開口部列81b)の開口部80とBB’方向にずれて位置し、かつ、A方向に見て他の開口部列81(例えば開口部列81b)の開口部80の一部と重畳するように位置する。また、各開口部列81において、複数の開口部80は、BB’方向に等間隔で位置する。
【0047】
上記のように複数の開口部列81をA方向に並べて1つの開口部群82を形成していることにより、開口部群82のBB’方向の幅は、記録ヘッド17a~17cのBB’方向の幅よりも大きくなっている。したがって、開口部群82は、記録ヘッド17a~17cのBB’方向のインク吐出領域を全てカバーしており、フラッシング時に記録ヘッド17a~17cの全てのインク吐出口18から吐出されるインクは、開口部群82のいずれかの開口部80を通過する。
【0048】
また、上記のように開口部群82は、第1搬送ベルト8の1周期において、A方向に不定期に位置するため、第1搬送ベルト8の走行速度が一定である場合、開口部検知センサー24による開口部80のA方向の検知間隔が変化する。したがって、制御部110は、開口部検知センサー24で検知される開口部80の上記検知間隔から、開口部検知センサー24が検知した開口部80がどの開口部群82に属する開口部80であるかを認識することができる。
【0049】
〔3.フラッシングに利用する開口部群のパターンについて〕
本実施形態では、上記の第1搬送ベルト8を用いて用紙Pを搬送しながら、外部(例えばPC)から送信される画像データに基づいて、制御部110が記録ヘッド17a~17cを駆動することにより、用紙P上に画像を記録する。その際に、搬送される用紙Pと用紙Pとの間で記録ヘッド17a~17cにフラッシング(紙間フラッシング)を実行させることにより、インク吐出口18の目詰まりを低減または予防するようにしている。
【0050】
このとき、制御部110は、第1搬送ベルト8の1周期において、フラッシングのときに利用する複数の開口部群82のA方向のパターン(組み合わせ)を、用いる用紙Pのサイズに応じて決定する。なお、用いる用紙Pのサイズは、例えば制御部110が、記憶部28に記憶された情報(操作パネル27によって入力された用紙Pのサイズ情報)に基づいて認識することができる。
【0051】
図6は、用いる用紙PがA4サイズ(横置き)またはレターサイズ(横置き)である場合において、フラッシングのときに利用する開口部群82のA方向のパターンを模式的に示している。なお、図6では、上記パターンに属する開口部群82の開口部80を、便宜的に黒塗りで示す。同図に示すように、用いる用紙PがA4サイズ(横置き)である場合、制御部110は、図5で示した6つの開口部群82の中から、フラッシングに利用する開口部群82として、開口部群82A、82C、82Fを選択し、決定する。
【0052】
なお、フラッシングに利用する開口部群82A、82C、82Fのことを、ここでは「特定の開口部群82」とも称する。そして、フラッシングに利用する特定の開口部群82に含まれる開口部80のことを、ここでは「特定の開口部80」とも称する。
【0053】
制御部110は、第1搬送ベルト8の走行により、決定したパターンで位置する特定の開口部群82が記録ヘッド17a~17cと対向するタイミングで、記録ヘッド17a~17cにフラッシングを実行させる。ここで、第1搬送ベルト8の走行速度(用紙搬送速度)、開口部群82A~82Eの間隔、第1搬送ベルト8に対する記録ヘッド17a~17cの位置は、全て既知である。このため、第1搬送ベルト8の走行によって基準となる開口部群82(例えば開口部群82A)が通過したことを開口部検知センサー24が検知すると、その検知時点から何秒後に開口部群82A~82Eが記録ヘッド17a~17cとの対向位置を通過するかがわかる。したがって、制御部110は、開口部検知センサー24での検知結果である検知タイミングに基づき、上記で決定したパターンで位置する特定の開口部群82が記録ヘッド17a~17cと対向するタイミングで、記録ヘッド17a~17cにフラッシングを実行させることができる。
【0054】
〔4.第1搬送ベルト上での用紙の載置パターンについて〕
制御部110は、決定したパターンで位置する特定の開口部群82とはA方向にずれて用紙Pが第1搬送ベルト8上に載置されるように、給紙部3およびレジストローラー対13を制御して、用紙Pを第1搬送ベルト8に供給させる。
【0055】
例えば、用いる用紙PがA4サイズ(横置き)またはレターサイズ(横置き)である場合、制御部110は、図6で示したように、第1搬送ベルト8上で、特定の開口部群82Aと特定の開口部群82Cとの間に2枚の用紙Pが配置され、特定の開口部群82Cと特定の開口部群82Fとの間に2枚の用紙Pが配置され、特定の開口部群82Fと特定の開口部群82Aとの間に1枚の用紙Pが配置されるように、所定のタイミングで給紙部3から用紙Pを送出させ、レジストローラー対13を介して第1搬送ベルト8に供給させる。
【0056】
ここで、本実施形態では、生産性(単位時間あたりに印刷できる枚数)を向上させる目的で、給紙部3から送出される用紙Pを、レジストローラー対13でほとんど止めずに第1搬送ベルト8に供給する制御を行う。この場合、給紙部3からの用紙Pの送出タイミングを早くすればするほど、生産性が向上する。つまり、給紙部3からの用紙Pの送出タイミングによって生産性が決まる。
【0057】
給紙部3からの用紙Pの送出タイミングは、開口部検知センサー24での検知結果に基づいて制御部110によって決定される。例えば、第1搬送ベルト8の搬送速度が既知であり、開口部検知センサー24の検知位置から、第1搬送ベルト8と用紙Pとの合流地点までの第1搬送ベルト8の走行距離も既知であるとする。この場合、制御部110は、第1搬送ベルト8の走行によって基準となる開口部群82(例えば開口部群82A)の通過を開口部検知センサー24が検知した時点から何秒後に、フラッシングに利用する特定の開口部80、または特定の開口部80と第1搬送ベルト8上で搬送方向にずれた特定の位置が、上記合流地点に到達するかを判断することができる。なお、上記特定の位置とは、例えば、図6で示したように、フラッシングに利用する特定の開口部80と重ならないように用紙Pが第1搬送ベルト8上に載置されるときに、用紙Pの先端(走行方向の下流側端部)が接触する位置を指す。
【0058】
そこで、制御部110は、開口部検知センサー24によって検知される複数の開口部80のうちの特定の開口部80と第1搬送ベルト8上で搬送方向にずれた特定の位置に用紙Pが到達(合流)する時点から所定時間だけ遡ったタイミングで、給紙部3による用紙Pの送出を開始させる。つまり、上記タイミングが、給紙部3からの用紙Pの送出タイミングである。なお、上記所定時間とは、給紙部3から、共通搬送路XAと、複数の分岐搬送路XBのうちで用紙Pの搬送距離が最大である最長の分岐搬送路XB(例えば第1分岐搬送路XB1)とを介して、用紙Pが第1搬送ベルト8に到達するまでの、予め設定された用紙Pの搬送時間を指す。
【0059】
上記送出タイミングで給紙部3から用紙Pを送出することにより、用紙Pに後述する搬送遅れがない場合には、第1搬送ベルト8上で、図6で示したように、特定の開口部80と特定の開口部80との間に、つまり、特定の開口部80と搬送方向にずれた位置に、およそ等間隔で用紙Pを配置することができる。図6の例では、第1搬送ベルト8の1周期で用紙Pを5枚搬送することができ、用紙Pの1分あたりの印字枚数(生産性)として、150ipm(images per minute)を実現することができる。
【0060】
〔5.用紙の搬送遅れについて〕
給紙カセット2(図1参照)からピックアップローラー3aによって送り出され、フィードローラー3bおよびリタードローラー3cによって1枚ずつ捌かれて給送される用紙Pは、回転駆動されるフィードローラー3bの表面でスリップする場合がある。この場合、用紙Pの搬送が遅れるため、第1搬送ベルト8上の上記した特定の位置への用紙Pの到達が遅れる。その結果、例えば図7に示すように、第1搬送ベルト8上で、フラッシングに利用する特定の開口部80(例えば特定の開口部群82Cの開口部80)と用紙Pが重なって載置される。このような状態では、上記特定の開口部80に向かってインクを吐出するフラッシングを記録ヘッド17a~17cに実行させることができなくなる。
【0061】
また、例えば複数枚の用紙Pを順に第1搬送ベルト8に供給する際に、2枚目以降の用紙Pに搬送遅れが生じたとき、第1搬送ベルト8には既に1枚目の用紙Pが載置されて印刷が行われていることが想定される。したがって、第1搬送ベルト8の特定の位置に、搬送遅れが生じた2枚目の用紙Pを到達させるために、1枚目の用紙Pに対する印刷途中で第1搬送ベルト8の走行速度を低下させることは妥当ではない。
【0062】
また、用紙Pに搬送遅れが生じたために、第1搬送ベルト8の次の開口部80を利用してフラッシングを行うようにする場合、上記次の開口部80と搬送方向にずれて第1搬送ベルト8上に載置されるように、用紙Pの搬送速度を低下させることが必要となる。用紙Pの搬送速度を低下させると、用紙Pの少しのスリップでも大きく紙間が開いてしまい、生産性(印刷枚数)が顕著に低下することが懸念される。なお、用紙Pの搬送遅れが生じた場合、用紙Pの搬送速度を上げることのみで、用紙Pの搬送遅れを取り戻すことは可能である。しかし、高速印刷機である場合や用紙Pの搬送路が元々短い場合には、速度アップにも限界がある。
【0063】
そこで、本実施形態では、制御部110が以下のようにして用紙Pの搬送遅れ時間を認識し、認識した搬送遅れ時間に基づいて、用紙Pの搬送先を複数の分岐搬送路XBのいずれかに切り替えるように切替部35を制御する。これにより、用紙Pに搬送遅れが生じても、生産性を低下させることなく、特定の開口部80を利用したフラッシングを記録ヘッド17a~17cに実行させることが可能となっている。
【0064】
以下、制御部110の詳しい制御について説明する前に、本実施形態のプリンター100が有する前述のアシストセンサー32、搬送速度調整部33、およびゼロセンサー34についてまず説明する。
【0065】
図8は、プリンター100における給紙部3付近の詳細な構成を模式的に示す説明図である。フィードローラー3bおよびリタードローラー3cに対して用紙搬送方向の下流側には、アシストセンサー32が設けられている。アシストセンサー32は、給紙部3(例えばフィードローラー3bおよびリタードローラー3cのニップ部)から送出された用紙Pを検知する記録媒体検知センサーである。
【0066】
制御部110は、アシストセンサー32での用紙Pの検知に基づいて、用紙Pの搬送遅れの有無を認識することができる。例えば、フィードローラー3bの回転開始時点、つまり、給紙部3による用紙Pの送出の開始時点から、アシストセンサー32による、用紙Pを検知した検知タイミングまでの実際の経過時間を、Tmeasure(sec)とする。また、給紙部3による用紙Pの送出の開始時点から、アシストセンサー32による用紙Pの検知タイミングまでの予め設定された初期設定時間(用紙Pに搬送遅れがないときの理論上の搬送時間)を、Tdef(sec)とする。用紙Pの搬送遅れ時間をTslip(sec)とすると、Tslip=Tmeasure-Tdefである。制御部110は、Tslip=0であれば、用紙Pに搬送遅れが生じていないと認識することができ、Tslip=0でなければ、用紙Pに搬送遅れが生じていると認識することができる。
【0067】
別の表現をすれば、制御部110は、給紙部3による用紙Pの送出の開始時点から初期設定時間経過した所定タイミングよりも、検知タイミングが遅かった場合に、用紙Pに搬送遅れが生じていると認識することができる。また、上述の搬送遅れ時間Tslipは、実際に用紙Pを検知した検知タイミングの時刻から、用紙Pに搬送遅れがないときの理論上の検知タイミングの時刻を引いたものと同じである。
【0068】
搬送速度調整部33は、給紙部3から送出された用紙Pを第1搬送ベルト8に向かって搬送するとともに、用紙Pの搬送速度を調整する。このような搬送速度調整部33は、少なくとも1対の搬送ローラー対であるアシストローラー対33aで構成される。上記したアシストセンサー32は、最も上流側に位置するアシストローラー対33aよりも下流側に位置する。
【0069】
アシストローラー対33aは、対向配置される2つのローラーを有する。上記2つのローラーのうち、一方のローラーは、制御部110の制御のもとで駆動される駆動ローラーであり、他方のローラーは、上記一方のローラーに圧接されて回転する従動ローラーである。制御部110は、上記駆動ローラーの回転速度(周速)を制御することにより、アシストローラー対33aによって搬送される用紙Pの搬送速度を調整(増減)することができる。
【0070】
ゼロセンサー34は、フィードローラー3bおよびリタードローラー3cに対して用紙搬送方向の下流側で、かつ、最も上流側に位置するアシストローラー対33aよりも上流側に位置する。ゼロセンサー34は、フィードローラー3bおよびリタードローラー3cから送出される用紙Pの後端を検知する。これにより、制御部110は、ゼロセンサー34による検知結果に基づいて、連続して送出される用紙Pの間隔(紙間)が一定となるように、フィードローラー3bおよびピックアップローラー3aの駆動を制御することができる。
【0071】
上記したアシストセンサー32およびゼロセンサー34は、例えば透過型または反射型の光学センサーで構成される。
【0072】
<用紙の搬送遅れ時間に基づく搬送制御>
図9は、本実施形態のプリンター100において、給紙部3から送出される用紙Pの搬送遅れ時間に基づく制御による動作の流れを示すフローチャートである。まず、制御部110は、上記のように、経過時間Tmeasureと初期設定時間Tdefとに基づいて、用紙Pの搬送遅れ時間Tslipを算出し、認識する(S1)。
【0073】
次に、制御部110は、Tslipが所定時間T1(sec)以下であるか否かを判断する(S2)。ここで、アシストセンサー32から複数の分岐搬送路XBの分岐点F(図1参照)までの用紙Pの搬送距離をLC(mm)とし、第1分岐搬送路XB1における用紙Pの搬送距離をL1(mm)とし、用紙Pの予め設定された搬送速度をSdef(mm/sec)とし、アシストローラー対33aによって調整可能な用紙Pの搬送速度の上限値をSmax(mm/sec)とすると、上記の所定時間T1は、以下の式で表される。
T1=(LC+L1)/Sdef-(LC+L1)/Smax ・・・(A)
【0074】
S2にて、Tslip≦T1である場合、制御部110は、共通搬送路XAからの用紙Pの搬送先が第1分岐搬送路XB1のままであっても(搬送先を第1分岐搬送路XB1から第2分岐搬送路XB2に切り替えなくても)、アシストローラー対33aの回転速度の調整(例えば増速)によって、用紙Pの搬送遅れを取り戻すことが可能であると判断する。したがって、制御部110は、用紙Pの搬送先として第1分岐搬送路XB1を選択し、第1分岐搬送路XB1を用紙Pが通過するように切替部35を制御する(S3)。なお、用紙Pの搬送先が既に(例えばデフォルトで)切替部35によって第1分岐搬送路XB1に切り替えられている場合、S3はスキップされればよい。
【0075】
次に、制御部110は、用紙Pの搬送遅れを取り戻すことができる搬送速度Scontrol(mm/sec)を算出する(S4)。搬送速度Scontrolの具体的な算出方法は、以下の通りである。
【0076】
用紙Pに搬送遅れがないときに、アシストセンサー32から複数の分岐搬送路XBの合流地点G(図1参照)まで、第1分岐搬送路XB1を介して用紙Pを搬送するときの搬送時間をTM(sec)とすると、
TM=(LC+L1)/Sdef ・・・(B)
で表される。用紙Pの搬送遅れを取り戻すためには、(TM-Tslip)の時間で、用紙Pをアシストセンサー32から第1分岐搬送路XB1を介して合流地点Gまで用紙Pを搬送することが必要である。つまり、用紙Pの搬送遅れを取り戻すために必要な時間をTcontrol(sec)としたとき、
TM-Tslip=Tcontrol ・・・(C)
である。このとき、
Tcontrol=(LC+L1)/Scontrol ・・・(D)
で表される。したがって、式(B)~(D)より、以下の式(E)が成り立つ。
(LC+L1)/Sdef-Tslip=(LC+L1)/Scontrol
・・・(E)
よって、制御部110は、式(E)より、用紙Pの搬送速度Scontrolを算出することができる。
【0077】
S4にて、搬送速度Scontrolが算出されると、制御部110は、用紙PがScontrolの速度で搬送されるように、アシストローラー対33aを駆動制御する(S5)。これにより、用紙Pに搬送遅れが生じたとしても、用紙Pが第1分岐搬送路XB1を介して合流地点Gに到達した時点では、その搬送遅れがキャンセルされる。そして、用紙Pは、通常のタイミングで(搬送遅れがないときのタイミングで)第1搬送ベルト8に合流する。
【0078】
上記のS1以降の処理は、少なくとも1枚の用紙Pに対する画像形成(印刷ジョブ)が終了するまで行われる(S6)。印刷ジョブが終了すると、制御部110は用紙Pの搬送先として第1分岐搬送路XB1を選択し、次の印刷ジョブに備えて、第1分岐搬送路XB1を用紙Pが通過するように切替部35を制御する(S7)。なお、S6にて、用紙Pの搬送先が既に切替部35によって第1分岐搬送路XB1に切り替えられている場合、S7はスキップされればよい。
【0079】
一方、S2にNoであり、T1<Tslip≦T2である場合(S8でYes)、制御部110は、共通搬送路XAからの用紙Pの搬送先が第1分岐搬送路XB1のままでは、アシストローラー対33aの回転速度を上限値(Smax)まで増加させても、用紙Pの搬送遅れを取り戻すことができないと判断する。この場合、制御部110は、用紙Pの搬送先として第2分岐搬送路XB2を選択し、用紙Pの搬送先を第1分岐搬送路XB1から第2分岐搬送路XB2に切り替えるように切替部35を制御する(S9)。
【0080】
なお、上記のT2(sec)は、アシストセンサー32から第2分岐搬送路XB2を介して合流時点Gまで搬送される用紙Pの最短の搬送時間を指す。この最短の搬送時間T2は、アシストローラー対33aの回転速度が上限値Smaxとなるようにアシストセンサー32を駆動することによって実現することができる。搬送時間T2は、第2分岐搬送路XB2における用紙Pの搬送距離をL2(mm)として、具体的に以下の式(F)で算出される。
T2=(LC+L1)/Sdef-(LC+L2)/Smax ・・・(F)
【0081】
次に、制御部110は、第2分岐搬送路XB2を通過させることによって用紙Pの搬送遅れを取り戻すことができる用紙Pの搬送速度Scontrol(mm/sec)を算出する(S10)。S10での搬送速度Scontrolの具体的な算出方法は、以下の通りである。
【0082】
用紙Pの搬送遅れを取り戻すためには、(TM-Tslip)の時間で、用紙Pをアシストセンサー32から第2分岐搬送路XB2を介して合流地点Gまで用紙Pを搬送することが必要である。用紙Pの搬送遅れを取り戻すために必要な時間をTcontrol(sec)としたとき、
Tcontrol=(LC+L2)/Scontrol ・・・(D’)
で表される。したがって、上述の式(B)および(C)と、式(D’)とより、以下の式(E’)が成り立つ。
(LC+L1)/Sdef-Tslip=(LC+L2)/Scontrol
・・・(E’)
よって、制御部110は、式(E’)より、用紙Pの搬送速度Scontrolを算出することができる。
【0083】
S10にて、搬送速度Scontrolが算出されると、制御部110は、用紙PがScontrolの速度で搬送されるように、アシストローラー対33aを駆動制御する(S5)。これにより、用紙Pに搬送遅れが生じたとしても、用紙Pが第2分岐搬送路XB2を介して合流地点Gに到達した時点では、その搬送遅れがキャンセルされる。そして、用紙Pは、通常のタイミングで(搬送遅れがないときのタイミングで)第1搬送ベルト8に合流する。
【0084】
また、S8にてNoの場合、つまり、Tslip>T2である場合、制御部110は、用紙Pの搬送遅れ時間Tslipが長すぎて、複数の分岐搬送路XBの切替およびアシストローラー対33aの回転速度の調整を行っても、上記搬送遅れを取り戻すことができないと判断する。この場合、制御部110は、他の処理を行うようにプリンター100の各部を制御して(S11)、一連の処理を終了する。
【0085】
例えば、S11では、両面印刷を行う場合、第1用紙搬送路4aおよび反転搬送路16のどちらかの搬送路における用紙Pの搬送を停止させる。これにより、反転搬送路16を搬送される片面印刷済みの用紙Pと、搬送遅れが生じて第1用紙搬送路4aを搬送される後続の用紙Pとが衝突する事態を防止することができる。また、例えば、連続して複数枚(例えば5枚)の用紙Pを搬送しようとするときに、搬送遅れが生じた用紙P(例えば4枚目の用紙P)およびそれ以降の用紙P(例えば5枚目の用紙P)の搬送を順次遅らせるようにしてもよい。この場合、生産性は低下するが、第1搬送ベルト8上で開口部80と搬送方向にずれた特定の位置に4枚目以降の用紙Pを載置することが可能となる。
【0086】
図10は、用紙Pの搬送遅れ時間Tslipと、第1分岐搬送路XB1および第2分岐搬送路XB2における用紙Pの搬送速度Scontrolとの関係を模式的に示している。制御部110の上記制御により、用紙Pの搬送先は、搬送遅れ時間Tslipに基づいて、第1分岐搬送路XB1または第2分岐搬送路XB2に切り替えられる。具体的には、0<Tslip≦T1のとき、用紙Pの搬送先が第1分岐搬送路XB1に切り替えられる(S3)。一方、T1<Tslip≦T2のとき、用紙Pの搬送先が第2分岐搬送路XB2に切り替えられる(S9)。
【0087】
第1分岐搬送路XB1を通過する用紙Pに対しては、Tslip=0の場合、用紙Pの搬送速度Scontrolは、アシストローラー対33aの駆動制御により、S0(mm/sec)に調整される。なお、S0=Sdefであってもよいし、Sdefよりも小さい速度であってもよい。一方、Tslip=T1の場合、用紙Pの搬送速度Scontrolは、アシストローラー対33aの駆動制御により、Smax(mm/sec)に調整される。0<Tslip<T1においては、Tslipが長くなるにつれて、搬送速度Scontrolは、アシストローラー対33aの駆動制御により、S0からSmaxに向かって単調に増加するように調整される。
【0088】
第2分岐搬送路XB2を通過する用紙Pに対しては、Tslipが長くなるにつれて、用紙Pの搬送速度Scontrolは、S0からSmaxまで単調に増加するように調整される。なお、本実施形態では、Tslip=T1のとき、用紙Pが第1分岐搬送路XB1を搬送速度Smaxで通過しても、用紙Pが第2分岐搬送路XB2を搬送速度S0で通過しても、アシストセンサー32から合流地点Gに用紙Pが到達するまでの搬送時間が同じになるように、第1分岐搬送路XB1および第2分岐搬送路XB2の長さ(搬送距離)が設定されている。したがって、Tslip=T1では、搬送先を第1分岐搬送路XB11に切り替えて、搬送速度をSmaxに設定してもよいし、搬送先を第2分岐搬送路XB2に切り替えて、搬送速度をS0に設定してもよい。このように、搬送距離の異なる複数の分岐搬送路XBの切替および用紙Pの搬送速度を制御することにより、用紙Pの搬送遅れ時間Tslipが0~T2の間では、用紙Pの搬送遅れを取り戻すことができる。
【0089】
〔6.効果〕
以上のように、本実施形態のプリンター100において、複数の分岐搬送路XBの中には、用紙Pの搬送距離が異なるもの(例えば第1分岐搬送路XB1、第2分岐搬送路XB2)が存在する。制御部110は、アシストセンサー32による用紙Pの検知タイミングに基づいて、用紙Pの搬送先を複数の分岐搬送路XBのいずれかに切り替えるように切替部35を制御する。具体的には、制御部110は、給紙部3による用紙Pの送出の開始時点からアシストセンサー32による用紙Pの検知タイミングまでの経過時間Tmeasureに基づいて、用紙Pの搬送遅れ時間Tslipを認識し、搬送遅れ時間Tslipに基づいて、用紙Pの搬送先を、複数の分岐搬送路XBのいずれかに切り替えるように切替部35を制御する。
【0090】
複数の分岐搬送路XBは、用紙Pの搬送距離が互いに異なるため、複数の分岐搬送路XBを切り替えることにより、用紙Pの搬送距離および搬送時間を、搬送遅れ時間Tslipに応じて調整することができる。例えば第1分岐搬送路XB1から第2分岐搬送路XB2に搬送先を切り替えることにより、用紙Pの搬送時間を短縮して、用紙Pの搬送遅れを取り戻すことができる。
【0091】
したがって、用紙Pに搬送遅れが生じた場合でも、第1搬送ベルト8上で開口部80に対して所定の位置(例えば開口部80と搬送方向にずれた位置)に用紙Pを載置して、上記開口部80に対してインクを吐出するフラッシングを記録ヘッド17a~17cに実行させることが可能となる。
【0092】
特に、制御部110は、アシストセンサー32による用紙Pの検知タイミングから、所定時間の用紙Pの搬送遅れを認識した場合と、上記所定時間の用紙Pの搬送遅れを認識しない場合とで、用紙Pの搬送先の分岐搬送路XBを変える。言い換えれば、制御部110は、アシストセンサー32による用紙Pの検知タイミングが、給紙部3による用紙Pの送出の開始時点から所定時間(例えば初期設定時間Tdef)が経過した所定タイミング以前か、上記所定タイミングより遅いかで、用紙Pの搬送先の分岐搬送路XBを変える。これにより、上記の効果を確実に得ることができる。
【0093】
また、制御部110は、経過時間Tmeasureと、給紙部3による用紙Pの送出の開始時点からアシストセンサー32による用紙Pの検知タイミングまでの予め設定された初期設定時間Tdefとに基づいて、用紙Pの搬送遅れ時間Tslipを認識する。例えば、制御部110は、経過時間Tmeasureと初期設定時間Tdefとの差を演算することにより、搬送遅れ時間Tslipを認識することができる。したがって、搬送遅れ時間Tslipの認識が確実に可能となる。
【0094】
また、制御部110は、搬送遅れ時間Tslipに基づいて、切替部35に加えて搬送速度調整部33としてのアシストローラー対33aをさらに制御する。具体的には、制御部110は、搬送速度調整部33としてのアシストローラー対33aを制御して、アシストセンサー32による用紙Pの検知タイミングが、給紙部3による用紙Pの送出の開始時点から所定時間が経過した所定タイミングより遅い場合における用紙Pの搬送速度を、上記検知タイミングが上記所定タイミング以前である場合における用紙Pの搬送速度よりも速くする。
【0095】
切替部35による搬送先(分岐搬送路XB)の切替だけでは、用紙Pの搬送遅れを、設けた分岐搬送路XBの数だけしか調整することができない。例えば、本実施形態のように、複数の分岐搬送路XBが第1分岐搬送路XB1と第2分岐搬送路XB2との2つで構成される場合、第1分岐搬送路XB1と第2分岐搬送路XB2との切替だけでは、用紙Pの搬送遅れを2段階でしか調整することができない。これに対して、アシストローラー対33aによって用紙Pの搬送速度の調整をさらに行うことにより、第1分岐搬送路XB1および第2分岐搬送路XB2のそれぞれにおいて、通過する用紙Pの搬送速度を調整して、用紙Pの搬送時間を無段階で(連続的に)調整することができる(図10参照)。これにより、用紙Pの搬送遅れの調整可能範囲を、切替部35の制御のみで行う場合に比べて確実に広げることが可能となる。その結果、用紙Pに搬送遅れが生じた場合でも、搬送遅れを取り戻す調整を精度よく行って、用紙Pを第1搬送ベルト8の所定の位置に精度よく導いて載置することが可能となる。
【0096】
また、複数の分岐搬送路XBが、第1分岐搬送路XB1と、第1分岐搬送路XB1よりも用紙Pの搬送距離が短い第2分岐搬送路XB2と、を有する構成において、制御部110は、TslipがT1以下であるときに、用紙Pが第1分岐搬送路XB1を通過するように切替部35を制御する。この場合、上述のように、
T1=(LC+L1)/Sdef-(LC+L1)/Smax ・・・(A)
であるため、制御部110は、以下の条件(1)を満足するときに、用紙Pが第1分岐搬送路XB1を通過するように切替部35を制御するとも言える。
条件(1);Tslip≦(LC+L1)/Sdef-(LC+L1)/Smax
【0097】
条件(1)を満足するときに、用紙Pが第1分岐搬送路XB1を通過するように切替部35を制御することにより、共通搬送路XAおよび第1分岐搬送路XB1を通過する用紙Pの搬送速度を上限値(Smax)以下で調整しながら、用紙Pの搬送遅れを取り戻すことができる。
【0098】
特に、制御部110は、上述した式(E)を満足する搬送速度Scontrolで用紙Pが共通搬送路XAおよび第1分岐搬送路XB1を搬送されるように、搬送速度調整部33としてのアシストローラー対33aを制御する。これにより、用紙Pの搬送先として第1分岐搬送路XB1を選択した場合でも、用紙Pの搬送遅れを確実に取り戻して、搬送遅れがない場合と同じタイミングで用紙Pを第1搬送ベルト8に合流させることができる。
【0099】
また、第2分岐搬送路XB2における用紙Pの搬送距離をL2(mm)とした場合、制御部110は、T1<Tslip≦T2を満足するときに、用紙Pが第2分岐搬送路XB2を通過するように切替部35を制御する。この場合、上述のように、
T2=(LC+L1)/Sdef-(LC+L2)/Smax ・・・(F)
であるため、制御部110は、以下の条件(2)および(3)を満足するときに、用紙Pが第2分岐搬送路XB2を通過するように切替部35を制御するとも言える。
条件(2);Tslip>(LC+L1)/Sdef-(LC+L1)/Smax、
条件(3);Tslip≦(LC+L1)/Sdef-(LC+L2)/Smax、
【0100】
条件(2)および(3)を満足するとき、用紙Pが第2分岐搬送路XB2を通過するように切替部35を制御することにより、共通搬送路XAおよび第2分岐搬送路XB2を通過する用紙Pの搬送速度を上限値(Smax)以下で調整しながら、用紙Pの搬送遅れを取り戻すことができる。つまり、第1分岐搬送路XB1への搬送先の切替および第1分岐搬送路XB1を通過する用紙Pの搬送速度の調整では、用紙Pの搬送遅れを取り戻すことができない場合でも、第2分岐搬送路XB2への搬送先の切替および第2分岐搬送路XB2を通過する用紙Pの搬送速度の調整により、用紙Pの搬送遅れを取り戻すことができる。
【0101】
特に、制御部110は、上述した式(E’)を満足する搬送速度Scontrolで用紙Pが共通搬送路XAおよび第2分岐搬送路XB2を搬送されるように、搬送速度調整部33としてのアシストローラー対33aを制御する。これにより、用紙Pの搬送先として第2分岐搬送路XB2を選択した場合でも、用紙Pの搬送遅れを確実に取り戻して、搬送遅れがない場合と同じタイミングで用紙Pを第1搬送ベルト8に合流させることができる。
【0102】
また、搬送速度調整部33は、用紙Pを搬送する少なくとも1つの搬送ローラー対としてのアシストローラー対33aを有する。制御部110が、少なくとも1つのアシストローラー対33aの回転速度を調整することにより、用紙Pの搬送速度を確実に調整する(例えば増加させる)ことができる。
【0103】
また、制御部110は、第2分岐搬送路XB2を経由して搬送された、少なくとも1枚の用紙Pに対してインク吐出により画像形成を行う印刷ジョブの終了後、後続の用紙Pの搬送先を、複数の分岐搬送路XBのうちで用紙Pの搬送距離が最大である分岐搬送路XB(例えば第1分岐搬送路XB1)に切り替えるように切替部35を制御する(S7)。
【0104】
前の印刷ジョブの終了後、次の印刷ジョブにおいて用紙Pに搬送遅れが生じた場合でも、その用紙Pの搬送先を切替部35によって搬送距離が最大の分岐搬送路XB(例えば第1分岐搬送路XB1)から、搬送距離がより短い分岐搬送路XB(例えば第2分岐搬送路XB2)に切り替えて、用紙Pの第1搬送ベルト8までの搬送時間を短縮することができる。つまり、次の印刷ジョブにおける用紙Pの搬送遅れに容易に対応することが可能となる。
【0105】
〔7.その他〕
LC+L1の距離を用紙Pが搬送されるときの搬送時間と、LC+L2の距離を用紙Pが搬送されるときの搬送時間との最大の差が、第1搬送ベルト8の搬送方向に並ぶ2つの開口部群82の開口部80のベルト走行による最大の通過時間差(各開口部群82の開口部80の搬送方向の最大離間距離/ベルト走行速度)以上となるように、第1分岐搬送路XB1および第2分岐搬送路XB2の各長さが設定されることが望ましい。この場合、用紙Pの搬送遅れが、開口部80の上記最大通過時間差だけ生じたとしても、第1分岐搬送路XB1から第2分岐搬送路XB2への搬送先の切替、およびアシストローラー対33aによる用紙Pの搬送速度の調整(増速)により、上記搬送遅れを取り戻すことができる。
【0106】
本実施形態で説明した制御部110の制御は、用紙Pに搬送遅れが生じた場合だけでなく、間欠印刷を行う場合にも適用可能である。ここで、間欠印刷とは、例えば複数枚の用紙Pのいずれかに対する画像形成時において、画像処理に時間がかかったために、後続の用紙Pの搬送を遅らせる必要が生じ、結果的に紙間が広がって生産性が低下するような印刷を言う。間欠印刷では、上記のように用紙Pの搬送が遅れるため、本実施形態と同様に、制御部110が切替部35を制御することにより、また、必要に応じて搬送速度調整部33のアシストローラー対33aの回転速度を制御することにより、第1搬送ベルト8の特定の位置に用紙Pを到達させて、特定の開口部80を利用したフラッシングを記録ヘッド17a~17cに実行させることができる。
【0107】
本実施形態では、給紙部3により、給紙カセット2から送出される用紙Pに搬送遅れが生じた場合の制御について説明したが、本実施形態で説明した切替部35および搬送速度調整部33(アシストローラー対33a)に対する制御は、手差しトレイ2aに載置された用紙Pに搬送遅れが生じる場合でも勿論適用することができる。また、反転搬送路16においても、用紙Pのスリップによる搬送遅れが生じる要素があれば、分岐経路を複数設けて本実施形態と同様の制御(分岐経路の切替制御、搬送速度制御)を行うことにより、用紙Pの搬送遅れを取り戻すことができる。
【0108】
本実施形態では、用紙Pを負圧吸引によって第1搬送ベルト8に吸着させて搬送する場合について説明したが、第1搬送ベルト8を帯電させ、用紙Pを第1搬送ベルト8に静電吸着させて搬送するようにしてもよい(静電吸着方式)。
【0109】
本実施形態では、インクジェット記録装置として、4色のインクを用いてカラーの画像を記録するカラープリンターを用いた例について説明したが、ブラックのインクを用いてモノクロの画像を記録するモノクロプリンターを用いた場合でも、本実施形態のフラッシングデータの生成およびフラッシング制御を適用することは可能である。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明は、インクジェットプリンターなどのインクジェット記録装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0111】
3 給紙部
8 第1搬送ベルト
17a~17c 記録ヘッド
18 インク吐出口(ノズル)
24 開口部検知センサー
32 アシストセンサー(記録媒体検知センサー)
33 搬送速度調整部
33a アシストローラー対(搬送ローラー対)
35 切替部
80 開口部
100 プリンター(インクジェット記録装置)
110 制御部
P 用紙(記録媒体)
XA 共通搬送路
XB 分岐搬送路
XB1 第1分岐搬送路
XB2 第2分岐搬送路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10