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特許7559579水解性不織布、水解性不織布積層体及び水解性不織布の製造方法
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  • 特許-水解性不織布、水解性不織布積層体及び水解性不織布の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】水解性不織布、水解性不織布積層体及び水解性不織布の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D21H 13/08 20060101AFI20240925BHJP
   D21H 11/00 20060101ALI20240925BHJP
   D21H 15/02 20060101ALI20240925BHJP
   D04H 1/4258 20120101ALI20240925BHJP
   D04H 1/4391 20120101ALI20240925BHJP
   A47L 13/17 20060101ALI20240925BHJP
   A47K 7/00 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
D21H13/08
D21H11/00
D21H15/02
D04H1/4258
D04H1/4391
A47L13/17 A
A47K7/00 F
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021011568
(22)【出願日】2021-01-28
(65)【公開番号】P2022115111
(43)【公開日】2022-08-09
【審査請求日】2023-06-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】萬道 律雄
(72)【発明者】
【氏名】久保 直樹
【審査官】河内 浩志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/150964(WO,A1)
【文献】特開平11-093055(JP,A)
【文献】特開2016-084565(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0171558(US,A1)
【文献】特開2012-211412(JP,A)
【文献】特開2010-180510(JP,A)
【文献】特開2001-146664(JP,A)
【文献】特開2001-234457(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21H11/00-27/42
D04H 1/00-18/04
A47L13/00-13/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
針葉樹パルプ繊維と、再生セルロース繊維とが交絡した水解性不織布であって、
前記再生セルロース繊維は、中空扁平レーヨン繊維と菊型レーヨン繊維とを含み、
前記再生セルロース繊維の平均繊維長は、2mm以上20mm以下であり、
前記水解性不織布の全質量に対して、前記針葉樹パルプ繊維の含有量は、50~90質量%であり、
前記水解性不織布の表面には、高圧水ジェット流処理による噴流痕を有し、
絶乾状態の前記水解性不織布1質量部に対し純水2質量部を含浸させて2日間放置した後の湿潤状態の前記水解性不織布において、
前記高圧水ジェット流処理による噴流痕である筋が延在する方向の引張強度をWTN/mとし、
前記高圧水ジェット流処理による噴流痕である筋が延在する方向と垂直となる方向の引張強度をWTN/mとしたとき、
80≦WT190、および2.0≦WT/WT4.0を満たす水解性不織布。
【請求項2】
前記再生セルロース繊維の全質量に対する前記中空扁平レーヨン繊維の含有量をP(質量部)とし、前記再生セルロース繊維の全質量に対する前記菊型レーヨン繊維の含有量をQ(質量部)とした場合、P:Q=7:3~9:1である、請求項1に記載の水解性不織布。
【請求項3】
前記再生セルロース繊維の含有量は10~50質量%である、請求項1又は2のいずれか一項に記載の水解性不織布。
【請求項4】
前記扁平レーヨン繊維の断面の外縁幅と外縁長さの比率は、1:2~1:30である、請求項1~のいずれか一項に記載の水解性不織布。
【請求項5】
前記パルプ繊維の平均繊維長は1.5mm以上である、請求項1~のいずれか一項に記載の水解性不織布。
【請求項6】
前記パルプ繊維は針葉樹パルプ繊維を含み、前記パルプ繊維の全質量に対する広葉樹パルプ繊維の含有量は50質量%以下である、請求項1~のいずれか一項に記載の水解性不織布。
【請求項7】
請求項1~のいずれか一項に記載の水解性不織布に水分を含浸させてなる湿潤水解性不織布。
【請求項8】
請求項に記載の湿潤水解性不織布が複数枚積層された湿潤水解性不織布積層体。
【請求項9】
請求項に記載の湿潤水解性不織布積層体であって、前記湿潤水解性不織布の各葉が互いに重なりを有して折り畳まれて形成されている湿潤水解性不織布積層体。
【請求項10】
請求項8または9に記載の湿潤水解性不織布積層体を内包した包装体であって、湿潤水解性不織布積層体の上部に前記湿潤水解性不織布を取り出す開口部を有し、
絶乾状態の前記水解性不織布1質量部に対し純水2質量部を含浸させて2日間放置した後の湿潤状態の前記水解性不織布において、高圧水ジェット流処理による噴流痕である筋が延在する方向が、前記湿潤水解性不織布の取り出し方向と一致している包装体。
【請求項11】
湿式抄紙機により針葉樹パルプ繊維と再生セルロース繊維とを含む不織布シートを形成した後、前記不織布シートに高圧水ジェット流処理を施す工程を含む水解性不織布の製造方法であって、
前記再生セルロース繊維は、中空扁平レーヨン繊維と菊型レーヨン繊維とを含み、
前記再生セルロース繊維の平均繊維長は、2mm以上20mm以下であり、
前記水解性不織布の全質量に対して、前記針葉樹パルプ繊維の含有量は、50~90質量%であり、
さらに絶乾状態の前記水解性不織布1質量部に対し純水2質量部を含浸させて2日間放置した後の湿潤状態の前記水解性不織布において、
前記高圧水ジェット流処理による噴流痕である筋が延在する方向の引張強度をWTN/mとし、
前記高圧水ジェット流処理による噴流痕である筋が延在する方向と垂直となる方向の引張強度をWTN/mとしたとき、
80≦WT190、および2.0≦WT/WT4.0を満たすように、ジェットワイヤー比を調整する水解性不織布の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水解性不織布、水解性不織布積層体及び水解性不織布の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トイレ用の掃除ワイパーやおしりふき等の清浄用品が使用されている。清浄用品の中には、使用後に水洗トイレに流すことができるものもあり、この場合、使用後の廃棄が容易となり、また衛生的に処理することが可能となる。このような清浄用品としては、水解紙に水分や薬剤を含浸させた清浄用品が上市されている。
【0003】
水解紙には水洗時に容易に崩壊する性質が求められる一方で、清浄等の作業に耐え得る程度の強度が要求される。このため、水解紙の強度を向上させるために、紙力増強剤や樹脂成分を含有させることが検討されている。例えば、特許文献1には、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース及びカルボキシメチル化澱粉からなる群から選ばれるカルボキシル基を有する水溶性バインダーを含有する水解紙が記載されている。ここでは、水溶性バインダーのカルボキシル基が特定の多価金属と分子内混合塩を形成することで強度を高めることが検討されている。また、特許文献2には、水解性不織布基材の少なくとも一方の表面層に部分的に水不溶性樹脂が設けられ、かつ水不溶性樹脂が設けられた表面層に切れ目が設けられた水解性不織布が記載されている。ここでは、水不溶性樹脂として熱可塑性樹脂が用いられており、これにより、不織布の強度を高めている。
【0004】
また、合成繊維を混合した水解性不織布も開発されている。例えば、特許文献3には、天然の繊維及び/又は合成の繊維を含む繊維複合材料が開示されている。ここでは、合成繊維として再生セルロース繊維(ビスコース繊維)を用いることが検討されている。なお、特許文献3では、丸型ビスコース繊維とビスコース扁平繊維を用いたフリース構造体が作製されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平6-184984号公報
【文献】特開昭62-184193号公報
【文献】特表2008-546917号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、水解紙にはより優れた水解性が求められるようになってきており、従来よりも高いレベルで水解性が要求される場合がある。
【0007】
また、水解紙に水分を含浸させて湿潤状態とするウェットティッシュのうちポップアップ形式の商品では、取り出し口から途中まで出掛かっているウェットティッシュを引っ張り出すため、水解紙は十分な湿潤引張強度を有していることが求められている。
【0008】
そこで本発明者らは、このような従来技術の課題を解決するために、優れた湿潤引張強度と水解性を兼ね備えた水解性不織布を提供することを目的として検討を進めた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、本発明者らは、パルプ繊維と再生セルロース繊維を含む水解性不織布において、再生セルロース繊維として扁平レーヨン繊維と丸型レーヨン繊維を併用し、さらに、再生セルロース繊維の平均繊維長を所定範囲内とし、さらにこれらの繊維が高圧水ジェット流処理によって交絡一体化し、さらに、湿潤状態の水解性不織布において、高圧水ジェット流処理によって形成される筋状の噴流痕である筋が延在する方向(抄紙マシンの抄紙方向と一致)の引張強度と、前記筋状噴流痕の方向と垂直となる方向の引張強度の比率を特定の範囲にすることで、優れた湿潤引張強度と水解性を兼ね備え、更にポップアップ形式のウェットティッシュ包装体に適した水解性不織布が得られることを見出した。
具体的に、本発明は以下の構成を有する。
【0010】
[1]パルプ繊維と、再生セルロース繊維とが交絡した水解性不織布であって、
前記再生セルロース繊維は、扁平レーヨン繊維と丸型レーヨン繊維とを含み、
前記再生セルロース繊維の平均繊維長は、2mm以上20mm以下であり、
前記水解性不織布の表面には、高圧水ジェット流処理による噴流痕を有し、
絶乾状態の前記水解性不織布1質量部に対し純水2質量部を含浸させて2日間放置した後の湿潤状態の前記水解性不織布において、
前記高圧水ジェット流処理による噴流痕である筋が延在する方向の引張強度をWTN/mとし、
前記高圧水ジェット流処理による噴流痕である筋が延在する方向と垂直となる方向の引張強度をWTN/mとしたとき、
70≦WT≦500、および2.0≦WT/WT≦6.0を満たす水解性不織布。
[2]前記再生セルロース繊維の全質量に対する前記扁平レーヨン繊維の含有量をP(質量部)とし、前記再生セルロース繊維の全質量に対する前記丸型レーヨン繊維の含有量をQ(質量部)とした場合、P:Q=1:9~9:1である、[1]に記載の水解性不織布。
[3]前記水解性不織布の全質量に対して、前記パルプ繊維の含有量は、30~90質量%であり、前記再生セルロース繊維の含有量は10~50質量%である、[1]又は[2]に記載の水解性不織布。
[4]前記扁平レーヨン繊維は、中空扁平レーヨン繊維である、[1]~[3]のいずれかに記載の水解性不織布。
[5]前記扁平レーヨン繊維の断面の外縁幅と外縁長さの比率は、1:2~1:30である、[1]~[4]のいずれかに記載の水解性不織布。
[6]前記パルプ繊維の平均繊維長は1.5mm以上である、[1]~[5]のいずれかに記載の水解性不織布。
[7]前記パルプ繊維は針葉樹パルプ繊維を含み、前記パルプ繊維の全質量に対する広葉樹パルプ繊維の含有量は50質量%以下である、[1]~[6]のいずれか1項に記載の水解性不織布。
[8][1]~[7]のいずれかに記載の水解性不織布に水分を含浸させてなる湿潤水解性不織布。
[9][8]に記載の湿潤水解性不織布が複数枚積層された湿潤水解性不織布積層体。
[10][9]に記載の湿潤水解性不織布積層体であって、前記湿潤水解性不織布の各葉が互いに重なりを有して折り畳まれて形成されている湿潤水解性不織布積層体。
[11][8]または[9]に記載の湿潤水解性不織布積層体を内包した包装体であって、潤水解性不織布積層体の上部に前記湿潤水解性不織布を取り出す開口部を有し、
絶乾状態の前記水解性不織布1質量部に対し純水2質量部を含浸させて2日間放置した後の湿潤状態の前記水解性不織布において、高圧水ジェット流処理による噴流痕である筋が延在する方向が、前記湿潤水解性不織布の取り出し方向と一致している包装体。
[12]湿式抄紙機によりパルプ繊維と再生セルロース繊維とを含む不織布シートを形成した後、前記不織布シートに高圧水ジェット流処理を施す工程を含む水解性不織布の製造方法であって、
前記再生セルロース繊維は、扁平レーヨン繊維と丸型レーヨン繊維とを含み、
前記再生セルロース繊維の平均繊維長は、2mm以上20mm以下であり、
絶乾状態の前記水解性不織布1質量部に対し純水2質量部を含浸させて2日間放置した後の湿潤状態の前記水解性不織布において、
前記高圧水ジェット流処理による噴流痕である筋が延在する方向の引張強度をWTN/mとし、
前記高圧水ジェット流処理による噴流痕である筋が延在する方向と垂直となる方向の引張強度をWTN/mとしたとき、
70≦WT≦500、および2.0≦WT/WT≦6.0を満たすように、ジェットワイヤー比を調整する水解性不織布の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、優れた湿潤引張強度と水解性を兼ね備えた水解性不織布を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態の一例である水解性不織布を平面視したときの模式図である。図中の縦方向の点線は高圧水ジェット流処理による噴流痕である筋を模式的に表す。
図2】本発明の実施形態の一例である湿潤水解性不織布積層体において、湿潤水解性不織布の各葉が互いに重なりを有して折り畳まれている状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。なお、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は「~」前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0014】
(水解性不織布)
本発明は、パルプ繊維と、再生セルロース繊維とが交絡した水解性不織布に関する。ここで、再生セルロース繊維は、扁平レーヨン繊維と丸型レーヨン繊維とを含む。また、再生セルロース繊維の平均繊維長は、2mm以上20mm以下である。
【0015】
本発明の水解性不織布は、上記構成を有するものであるため、優れた湿潤引張強度と水解性を兼ね備えている。従来、水解性不織布において、湿潤引張強度と水解性は相反する性質であり、これらを高いレベルで両立することは困難であった。しかしながら、本発明者らは、再生セルロース繊維として扁平レーヨン繊維と丸型レーヨン繊維を用い、かつ再生セルロース繊維の平均繊維長を所定範囲内とすることにより、湿潤引張強度と水解性を両立することに成功した。
【0016】
水解性不織布の湿潤引張強度は、絶乾状態の前記水解性不織布1質量部に対し純水2質量部を含浸させて2日間放置した後、湿潤状態の水解性不織布を引張試験機にて引張強度を測定したものである。
前記湿潤状態の水解性不織布は、サンプル幅50mm、スパン長114mmのサンプルを幅方向に2つ折り(従って幅は25mmとなる)にして測定片とする。
前記湿潤状態の水解性不織布において、高圧水ジェット流処理による噴流痕である筋が延在する方向の引張強度および高圧水ジェット流処理による噴流痕である筋が延在する方向と垂直となる方向の引張強度を引張速度300mm/分の条件で、それぞれ測定する。
湿潤引張強度の測定に用いられる引張試験機としては、例えば、エイ・アンド・デイ社製のTENSILON万能材料試験機を用いることができる。
【0017】
本発明の水解性不織布の湿潤引張強度は、高圧水ジェット流処理による噴流痕である筋が延在する方向の引張強度をWTN/mとし、高圧水ジェット流処理による噴流痕である筋が延在する方向と垂直となる方向の引張強度をWTN/mとしたとき、
70≦WT≦500、および2.0≦WT/WT≦6.0を満たすものである。
WTについては、より好ましくは80≦WT≦500、さらに好ましくは90≦WT≦500である。WT/WTについては、より好ましくは、2.0≦WT/WT≦4.0である。
【0018】
本発明の水解性不織布は、優れた湿潤引張強度を有している。このため、水解性不織布に水や薬液を含浸させて湿潤水解性不織布とした際に、清浄作業等に耐え得る十分な強度を発揮することができる。このため、清浄作業中に湿潤水解性不織布が意図せずに破断したり、使用中に湿潤水解性不織布の繊維が離脱したりすることがない。
【0019】
また、本発明の水解性不織布は、水解性に優れているため、水流や多量の水によって容易に崩壊し、その崩壊状態が維持される。このため、本発明の水解性不織布を水洗トイレなどに流した場合、水洗トイレの排水口などに詰まることがない。近年は節水型水洗トイレなどの需要も高まってきているが、本発明の水解性不織布は節水型水洗トイレにおいても容易に水解するため、あらゆる水洗トイレに流すことが可能である。ここで、水解性不織布の水解性は、絶乾状態の水解性不織布と純水の質量比が1:2(不織布:純水)となるように水解性不織布に純水を含浸させて湿潤状態の水解性不織布としたものを密封状態で常温環境で2日間放置した後、JIS P 4501:1993の「4.5 ほぐれやすさ」に準拠して測定する。
【0020】
本明細書において、絶乾状態の水解性不織布は、水分含有量が水解性不織布の全質量に対して1質量%以下の不織布である。水解性不織布の水解性は100秒以下であることが好ましく、80秒以下であることがより好ましく、70秒以下であることがさらに好ましく、67秒以下であることが一層好ましく、65秒以下であることが特に好ましい。なお、水解性不織布の水解性の下限値は特に限定されるものではないが、15秒以上であることが好ましい。
【0021】
また、水解性不織布の水解性は上記と同様に絶乾状態の水解性不織布と水の質量比が1:2(不織布:水)となるように水解性不織布に純水を含浸させて湿潤状態の水解性不織布としたものを密封状態で常温環境で2日間放置した後、世界下水道トイレに流せる製品問題検討会議(International Water Services Flushability Group 略称IWSFG)における水解性試験に準じて水解性を測定した場合、該水解性は95%以上であることが好ましく、99%以上であることがさらに好ましい。
【0022】
なお、水解性不織布に含浸させる薬液は、主成分を水として、全体の10質量%以下程度の割合で、各種の化粧品材料(水溶性溶剤、抗菌剤、防黴剤、香料、界面活性剤、保存料、湿潤剤、所望の薬効を有する薬剤等)が含まれているものであればよい。例えば、薬液としては、ジプロピレングリコール:ポリアミノプロピルビグアニド:リン酸2Na:安息香酸:セチルピリジニウムクロリド:水が質量比で1.00:0.20:0.15:0.15:0.05:98.45である薬液を用いることができる。
【0023】
水解性不織布は、パルプ繊維と再生セルロース繊維を含む。水解性不織布において、パルプ繊維と再生セルロース繊維は交絡しており、それによってパルプ繊維と再生セルロース繊維が一体化している。このような構造は、湿式抄紙法により形成した、パルプ繊維と再生セルロース繊維とを含む不織布シートに高圧水ジェット流処理を施すことで形成される。高圧水ジェット流処理を施すことによって、パルプ繊維と再生セルロース繊維はねじられ、曲げられ、回された状態となるため、繊維同士が交絡一体化する。すなわち、水解性不織布は、高圧水ジェット流処理によってパルプ繊維と再生セルロース繊維が交絡、一体化した不織布であると言える。
【0024】
水解性不織布において、パルプ繊維と再生セルロース繊維が交絡、一体化した様子は、不織布表面を拡大観察し、各繊維がランダムに配向し絡みあっている様子から見てとれる。また、本発明の水解性不織布は、高圧水ジェット流処理によってパルプ繊維と再生セルロース繊維が交絡、一体化した不織布であるため、水解性不織布には不織布の流れ方向(MD方向)に筋状の噴流跡が連続して形成されている。すなわち、本発明においては、このような噴流跡があることをもって、パルプ繊維と再生セルロース繊維が交絡していると判定することもできる。なお、噴流跡は、高圧水ジェット流がかかった微細な跡であり、噴流跡においては、水解性不織布を構成する繊維の密度が高圧水ジェット流のかかっていない箇所よりも高くなっている。
【0025】
本発明の水解性不織布の坪量は、15g/m以上であることが好ましく、20g/m以上であることがより好ましく、30g/m以上であることがさらに好ましい。また、水解性不織布の坪量は、100g/m以下であることが好ましく、80g/m以下であることがより好ましく、60g/m以下であることがさらに好ましい。水解性不織布の坪量を上記範囲内とすることにより、含浸引張強度と水解性をより効果的に高めることができる。なお、本明細書において、水解性不織布の坪量は、JIS P 8124に準拠して測定されるものである。
【0026】
本発明の水解性不織布の厚みは、100μm以上であることが好ましく、150μm以上であることがより好ましい。また、水解性不織布の厚みは、400μm以下であることが好ましく、350μm以下であることがより好ましい。
【0027】
本明細書において、水解性不織布は、乾燥状態(絶乾状態)の不織布であり、水分や薬剤を含浸し得る不織布である。なお、本発明は、水解性不織布に水分や薬剤を含浸させてなる湿潤水解性不織布に関するものでもある。湿潤水解性不織布は、水分に加えて、さらにプロピレングリコール等の湿潤剤、アルコールやパラ安息香酸エステル類といって抗菌剤、防黴剤、香料、所望の薬効を有する薬剤等を含んでいてもよい。湿潤水解性不織布は、ウェットティシュ、おしりふき、ワイパー等のウェット製品として好ましく用いられる。
【0028】
本発明の水解性不織布の湿潤時の厚み(湿潤水解性不織布の厚み)は、100μm以上であることが好ましく、150μm以上であることがより好ましく、200μm以上であることがさらに好ましく、250μm以上であることが一層好ましく、270μm以上であることが特に好ましい。また、水解性不織布の湿潤時の厚み(湿潤水解性不織布の厚み)は、1000μm以下であることが好ましく、800μm以下であることがより好ましく、600μm以下であることがさらに好ましい。水解性不織布の湿潤時の厚みを上記範囲内とすることにより、湿潤水解性不織布を使用する際の使用感をより高めることができる。具体的には、肌触りを高めたり、柔らかさを高めたりすることができる。また、湿潤水解性不織布の清浄効果を高めることもできる。
【0029】
<パルプ繊維>
本発明の水解性不織布はパルプ繊維を含む。パルプ繊維としては、木材パルプ、非木材パルプ、脱墨パルプからなる繊維を挙げることができる。木材パルプとしては例えば、広葉樹パルプ(広葉樹クラフトパルプ(LBKP))、針葉樹パルプ(針葉樹クラフトパルプ(NBKP))、サルファイトパルプ(SP)、溶解パルプ(DP)、ソーダパルプ(AP)、未晒しクラフトパルプ(UKP)、酸素漂白クラフトパルプ(OKP)等の化学パルプ等が挙げられる。また、セミケミカルパルプ(SCP)、ケミグラウンドウッドパルプ(CGP)等の半化学パルプ、砕木パルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP、BCTMP)等の機械パルプ等を用いることもできる。非木材パルプとしてはコットンリンターやコットンリント等の綿系パルプ、麻、麦わら、バガス等の非木材系パルプ、ホヤや海草等から単離されるセルロース、キチン、キトサン等が挙げられる。脱墨パルプとしては古紙を原料とする脱墨パルプが挙げられる。パルプは上記の1種を単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。
【0030】
中でも、パルプ繊維としては、広葉樹パルプ(広葉樹クラフトパルプ(LBKP))及び針葉樹パルプ(針葉樹クラフトパルプ(NBKP))から選択される少なくとも1種を用いることが好ましく、針葉樹パルプ(針葉樹クラフトパルプ(NBKP))を用いることが特に好ましい。針葉樹パルプ(針葉樹クラフトパルプ(NBKP))を用いることにより、水解性不織布を製造する際、パルプ繊維の脱落を抑制しやすくなり、生産効率を高めることができる。また、パルプ繊維として針葉樹パルプ(針葉樹クラフトパルプ(NBKP))を用いることにより、湿潤時の水解性不織布の厚みを大きくすることができ、湿潤水解性不織布を使用する際の使用感や清浄効果を高めることができる。
【0031】
本発明においては、パルプ繊維として、針葉樹パルプと広葉樹パルプを併用してもよいがこの場合、パルプ繊維の全質量に対する広葉樹パルプ繊維の含有量は50質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることがさらに好ましく、20質量%以下であることが一層好ましく、10質量%以下であることが特に好ましい。なお、パルプ繊維は広葉樹パルプを含まなくてもよく、パルプ繊維の全質量に対する広葉樹パルプ繊維の含有量が0質量%であってもよい。
【0032】
パルプ繊維の平均繊維長は、1.5mm以上であることが好ましく、1.8mm以上であることがより好ましく、2.0mm以上であることがさらに好ましい。また、パルプ繊維の平均繊維長は、20.0mm以下であることが好ましく、10.0mm以下であることがより好ましく、7.0mm以下であることがさらに好ましい。ここで、本明細書において、パルプ繊維の平均繊維長とは長さ加重平均繊維長を意味する。パルプ繊維の長さ加重平均繊維長は、以下の測定方法で算出された繊維長である。まず水解性不織布を水に離解させて得られた繊維分散スラリーを作製する。これをナイロンメッシュスクリーンで濾過し、残渣(レーヨン)、濾液(パルプ分散液)に分ける。パルプ分散液を4500rpmで離解機で処理し、十分に離解させ、繊維分散スラリーを得る。得られた繊維分散スラリーを0.01質量%以上0.02質量%以下になるように希釈し、希釈液を作製する。この希釈液10mlに含まれる繊維成分の投影長さを、繊維長測定装置(メッツォオートメーション社製、カヤーニファイバーラボVer4.0)を用いて測定し、離解繊維の長さ加重平均値を算出する。
【0033】
パルプ繊維のフリーネスの上限、下限は特に限定されるものではないが、350ml以上であることが好ましく、400ml以上であることがより好ましく、450ml以上であることがさらに好ましい。また、フリーネスは700ml程度であることも好ましい。
【0034】
フリーネスは、JIS P 8121に規定するカナダ標準ろ水度(C.S.F.)で示される値であり、繊維の叩解の度合いを示す値である。繊維の叩解は、繊維を分散させた紙料(スラリー)に対して、ビーダー、ディスクリファイナー等の公知の叩解機を用いて実施することができる。通常、繊維のフリーネスの値が小さいほど、叩解の度合いが強く、叩解による繊維の損傷が大きくてフィブリル化が進行している。繊維のフィブリル化が進行すると繊維間の結合点数が増加するため、強度が向上するが、水解性は低下する。 本発明においては湿潤強度と水解性を好ましい範囲とするために、フリーネスを適宜調節することも好ましい。
【0035】
水解性不織布の全質量に対するパルプ繊維の含有量は、30質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることがさらに好ましい。また、水解性不織布の全質量に対するパルプ繊維の含有量は、90質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることがより好ましい。パルプ繊維の含有量を上記範囲内とすることにより、水解性不織布の含浸引張強度と水解性をより効果的に高めることができる。
【0036】
<再生セルロース繊維>
本発明の水解性不織布は再生セルロース繊維を含む。再生セルロース繊維の平均繊維長は、2mm以上であればよく、3mm以上であることが好ましく、5mm以上であることがより好ましい。また、再生セルロース繊維の平均繊維長は、20mm以下であればよく、15mm以下であることが好ましく、10mm以下であることがより好ましい。なお、上記平均繊維長は、扁平レーヨン繊維と丸型レーヨン繊維を合わせた平均繊維長である。再生セルロース繊維の平均繊維長はJIS L-1015 8.4.1平均繊維長の測定方法に基づく。再生セルロース繊維の繊維長を上記の範囲内とすることにより、湿潤強度と水解性を両立することができる。特に再生セルロース繊維の繊維長を上記上限値以下とすることにより、湿潤状態でも嵩高な状態を保つことができる水解性不織布が得られ易くなり、上記下限値以上とすることにより、湿潤強度の高い水解性不織布が得られ易くなる。
【0037】
再生セルロース繊維は、扁平レーヨン繊維と丸型レーヨン繊維を含むものである。再生セルロース繊維の全質量に対する扁平レーヨン繊維の含有量をP(質量部)とし、再生セルロース繊維の全質量に対する丸型レーヨン繊維の含有量をQ(質量部)とした場合、P:Q=1:9~9:1であることが好ましく、3:7~9:1であることがより好ましく、3:7~8:2であることがさらに好ましい。
【0038】
扁平レーヨン繊維は、繊維の断面形状が扁平形状である。なお、繊維の断面形状とは、レーヨン繊維の長さ方向に対し、垂直方向のカット面の形状のことをいう。本明細書において、扁平形状とは、繊維の断面形状が、中心点を通過する最大長で定義される長径と、中心点を通過する最小長で定義される短径を有する形状をいい、扁平レーヨン繊維の断面の外縁幅に対する外縁長さの比率(外縁長さ/外縁幅)が2以上のものを言う。なお、扁平レーヨン繊維の断面の外縁幅と外縁長さの比率は、1:2~1:30であることが好ましく、1:2~1:20であることがより好ましい。ここで、扁平レーヨン繊維の断面の外縁幅と外縁長さの比率は、10個の異なる扁平レーヨン繊維の扁平断面を垂直方向より顕微鏡観察し、マイクロスケールを基準として測定することができる。なお、扁平形状としては、例えば、まゆ型、長円型、楕円型等を例示することができる。
【0039】
扁平レーヨン繊維としては、密実扁平レーヨン繊維や中空扁平レーヨン繊維を用いることができる。中でも、扁平レーヨン繊維は、中空扁平レーヨン繊維であることが好ましい。中空扁平レーヨン繊維としては、市販品を用いることができ、例えば、ダイワボウレーヨン社製のSBHを用いることができる。
【0040】
扁平レーヨン繊維の繊度は、1.2dtex以上7.0dtex以下であることが好ましく、1.2dtex以上5.0dtex以下であることがより好ましく、1.2dtex以上2.0dtex以下であることがさらに好ましい。扁平レーヨン繊維の繊度を上記範囲内とすることにより、水解後に繊維成分が再凝集することを抑制することができ、これにより、水解性をより効果的に高めることができる。
【0041】
丸型レーヨン繊維は、繊維の断面形状が丸型形状である。ここで、丸型とは、繊維の断面形状が長径と短径を実質的に有さない形状であり、レーヨン繊維の断面の外縁幅に対する外縁長さの比率(外縁長さ/外縁幅)が2未満であるものを言う。すなわち、丸型レーヨン繊維には、レーヨン繊維の断面の外縁幅に対する外縁長さの比率が小さい楕円形状の断面を有する繊維が包含される。また、菊型形状や多角形状の断面を有する繊維も丸型レーヨン繊維に包含される。なお、本発明においては丸型レーヨン繊維として菊型レーヨン繊維を用いることが好ましい。菊型レーヨン繊維としては、市販品を用いることができ、例えば、ダイワボウレーヨン社製のコロナSBを用いることができる。
【0042】
水解性不織布の全質量に対する再生セルロース繊維の含有量は、10質量%以上であることが好ましく、15質量%以上であることがより好ましく、20質量%以上であることがさらに好ましい。また、水解性不織布の全質量に対する再生セルロース繊維の含有量は、50質量%以下であることが好ましく、45質量%以下であることがより好ましい。再生セルロース繊維の含有量を上記範囲内とすることにより、水解性不織布の湿潤強度と水解性をより効果的に高めることができる。
【0043】
再生セルロース繊維としては、上述した扁平レーヨン繊維や丸型レーヨン繊維に加えて、例えば、キュプラ繊維やリヨセル繊維等を含んでいてもよい。
【0044】
<任意成分>
本発明の水解性不織布は、他の任意成分を含むものであってもよい。任意成分としては、例えば、乾燥紙力剤、湿潤紙力剤、柔軟剤等を挙げることができる。乾燥紙力剤としては、例えば、カチオン化澱粉、ポリアクリルアミド(PAM)、カルボキシメチルセルロース(CMC)等を挙げることができる。湿潤紙力剤としては、ポリアミドエピクロロヒドリン、尿素、メラミン、熱架橋性ポリアクリルアミド等を挙げることができる。柔軟剤としては、例えば、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤等を挙げることができる。上記の任意成分は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0045】
但し、本発明の水解性不織布における熱溶融性樹脂の含有量は、水解性不織布の全質量に対して、5質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましい。なお、本発明の水解性不織布は熱溶融性樹脂を実質的に含まないことが好ましく、樹脂成分の含有量は0質量%であることが特に好ましい。なお、本明細書において、熱溶融性樹脂とは、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、熱可塑性ポリエステル及びエチレン-酢酸ビニル共重合体から選択される少なくとも1種である。
【0046】
本発明の水解性不織布は、湿潤水解性不織布が複数枚積層された湿潤水解性不織布積層体を内包した包装体(所謂、ウェットティッシュ包装体)において、特に性能を発揮する。ウェットティッシュ包装体は、ウェットティッシュの水分蒸発を防ぐため、その取り出し口の開口面積は、できるだけ小さいことが好ましい。
【0047】
小さな開口部から水解性不織布を取り出そうとすると、水解性不織布がちぎれ易くなるため、湿潤引張強度を高くする必要がある。しかしながら、単純に湿潤引張強度を高くしただけでは、水解性との両立が困難となる。
本発明の包装体は、湿潤状態の前記水解性不織布において、前記水解性不織布の表面が高圧水ジェット流処理による噴流痕を有し、高圧水ジェット流処理による噴流痕の筋が延在する方向、即ち引張強度が最大となる方向が、前記湿潤水解性不織布の取り出し方向と一致していることによって、水解性不織布取り出し時の破れトラブルを防ぐことができる。
【0048】
前記湿潤水解性不織布積層体は、各葉が互いに重なりを有して折り畳まれて形成されていることが好ましい。このように形成することによって、1枚を取り出すと次の1枚が包装体の開口部から一部飛び出した状態となり、包装体の内部に指を突っ込んで湿潤水解性不織布を摘み出す手間を省くことができる。
【0049】
(水解性不織布の製造方法)
本発明の水解性不織布の製造方法は、湿式抄紙法により形成した、パルプ繊維と再生セルロース繊維とを含む不織布シートに高圧水ジェット流処理を施す工程を含む。ここで、再生セルロース繊維は、扁平レーヨン繊維と丸型レーヨン繊維とを含む。また、再生セルロース繊維の平均繊維長は、2mm以上20mm以下が好ましい。
【0050】
本発明の水解性不織布の製造において、湿潤引張強度は、高圧水ジェット流処理による噴流痕である筋が延在する方向(抄紙マシンの流れ方向(抄紙方向)と一致)に引っ張った強さをWTN/mとし、高圧水ジェット流処理による噴流痕である筋が延在する方向と垂直方向に引っ張った強さをWTN/mとしたとき、70≦WT≦500、および2.0≦WT/WT≦6.0を満たすように調整される。
WTについては、より好ましくは80≦WT≦500、さらに好ましくは90≦WT≦500である。WT/WTについては、より好ましくは、2.0≦WT/WT≦4.0である。
WT1/WT2の調整方法としては、抄紙の際、原料吐出速度とワイヤー速度の比(ジェットワイヤー比)の調整で行うことができる。
【0051】
水解性不織布の製造工程では、まず、パルプ繊維と再生セルロース繊維とを含むスラリーを得る。そして、該スラリーを円網抄紙機、短網抄紙機、傾斜ワイヤー抄紙機、長網抄紙機等の公知の抄紙機を用いて湿式抄紙し、不織布シート(湿式ウェブ)を形成する。なお、スラリーにポリエチレンオキサイド等の粘剤を添加したり、抄紙マシンのライン速度を調整したり、抄紙工程のワイヤーパートにおいて、原料吐出速度とワイヤー速度の比(ジェットワイヤー比)を調整することで不織布シート(湿式ウェブ)の繊維配向をコントロールすることができる。
【0052】
不織布シートに高圧水ジェット流処理を施す工程では、得られた不織布シート(湿式ウェブ)に高圧水ジェット流処理を施す。高圧水ジェット流処理は公知の方法により処理することができる。具体的には、不織布シート(湿式ウェブ)を多孔性の支持体上に戴置し、不織布シート(湿式ウェブ)の上面から、孔径が0.08~0.30mm程度の細孔が多数配列したノズルを通して水圧15~150kg/cmの水圧で高圧水を噴射し、不織布シート(湿式ウェブ)を構成する繊維の相互を交絡させる。高圧水ジェット流処理により不織布シート(湿式ウェブ)に付与されるエネルギーは、以下の(式3)の高圧水ジェット流エネルギーで表される。高圧水ジェット流エネルギーは、0.005kWh/kg/m以上であることが好ましく0.010kWh/kg/m以上であることがより好ましく、0.015kWh/kg/m以上であることがさらに好ましい。また、高圧水ジェット流エネルギーは、0.50kWh/kg/m以下であることが好ましく0.40kWh/kg/m以下であることがより好ましく、0.30kWh/kg/m以下であることがさらに好ましい。高圧水ジェット流エネルギーを上記範囲内とすることにより水解性不織布の湿潤強度を高めつつ、水解性を高めることができる。
V=(2×g×(P―Ap)×10000/(ρ×1000))1/2×60・・・(式1)
V:ノズルから吐出される水の流速(m/分)
g:重力加速度=9.8m/s
P:ノズル部での水圧(kgf/cm
A:ノズル1孔の面積(mm
p:大気圧(kgf/cm
ρ:水の密度(g/cm
F=(A/100)×V×100・・・(式2)
F:ノズル部の1孔から吐出される水の流量(cm/分)
A:ノズル1孔の面積(mm
V:ノズルから吐出される水の流速(m/分)
E=P×(F/100)×0.163・・・(式3)
E:高圧水ジェット流エネルギー(kWh/kg/m)
【0053】
前記ノズルを通して前記水解性不織布に高圧水を噴射すると前記水解性不織布の表面には、筋状の噴流痕が形成される。
【0054】
なお、高圧水ジェット流処理は、湿式抄紙してウェブを形成した直後にオンラインで行っても良いし、湿式抄紙したウェブを一旦乾燥した後、オンラインあるいはオフラインで高圧水ジェット流処理を行っても良い。
【0055】
高圧水ジェット流処理が施された不織布シートは、その後の工程においてプレス及び乾燥される。
【0056】
(用途)
本発明の水解性不織布は、水やプロピレングリコール等の湿潤剤、アルコールやパラ安息香酸エステル類といって抗菌剤、防黴剤、香料、所望の薬効を有する薬剤等を含浸させてウェットティシュ、おしりふき、ワイパー等のウェット製品として用いられる。また、 本発明の水解性不織布を衛生材料の表面材として使用してもよい。この場合、所望に応じて不織布に親水性や撥水性を高めるような処理を施しても良い。
【実施例
【0057】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0058】
(実施例1)
繊度1.7dtex、平均繊維長7mmの中空扁平レーヨン繊維(商品名:コロナSBH、ダイワボウレーヨン株式会社製、外縁幅と外縁長さの比率(扁平率)、1:15)19質量%、繊度1.1dtex、平均繊維長5mmの菊型レーヨン繊維(商品名:コロナSB、ダイワボウレーヨン株式会社製)6質量%、未叩解の針葉樹クラフトパルプ(NBKP、JIS P 8121-2:2012に準拠して測定されたフリーネスが673ml、平均繊維長:2.33mm)75質量%となるように繊維原料を混合し、繊維原料を水に分散させて固形分濃度1.0質量%のパルプスラリーを得た。傾斜ワイヤー型長網抄紙機にて、ジェットワイヤー比0.80、抄速133m/分でパルプスラリーから不織布シートを作製した。次いで、ワイヤー上の後部に設置されたウォ-タージェット装置(高圧水ジェット流処理装置)を用いて、負荷エネルギーが0.012kWh/kg/mとなるように、不織布シートに高圧水ジェット流を噴射した。高圧水ジェット流処理が施された不織布シートを乾燥し、乾燥後の坪量が43.0g/mの水解性不織布を得た。
【0059】
(実施例2)
実施例1において、繊度1.7dtex、平均繊維長7mmの中空扁平レーヨン繊維(商品名:コロナSBH、ダイワボウレーヨン株式会社製)16質量%、繊度1.1dtex、平均繊維長5mmの菊型レーヨン繊維(商品名:コロナSB、ダイワボウレーヨン株式会社製)6質量%、未叩解の針葉樹クラフトパルプ(NBKP、JIS P 8121-2:2012に準拠して測定されたフリーネスが673ml)78質量%となるように繊維原料を混合した以外は実施例1と同じ方法で実施例2の水解性不織布を得た。
【0060】
(実施例3)
実施例1において、抄速を100m/分とし、乾燥後の坪量を60.0g/mとした以外は実施例1と同じ方法で実施例3の水解性不織布を得た。
【0061】
(実施例4)
実施例1において、繊度1.7dtex、平均繊維長7mmの中空扁平レーヨン繊維(商品名:コロナSBH、ダイワボウレーヨン株式会社製)16質量%、繊度1.1dtex、平均繊維長10mmの菊型レーヨン繊維(商品名:コロナSB、ダイワボウレーヨン株式会社製)3質量%、未叩解の針葉樹クラフトパルプ(NBKP、JIS P 8121-2:2012に準拠して測定されたフリーネスが673ml)81質量%となるように繊維原料を混合した以外は実施例1と同じ方法で実施例4の水解性不織布を得た。
【0062】
(比較例1)
実施例2において、傾斜ワイヤー型長網抄紙機のジェットワイヤー比を1.04に変更した以外は実施例2と同じ方法で比較例1の水解性不織布を得た。
【0063】
(比較例2)
実施例2において、ウォ-タージェット装置(高圧水ジェット流処理装置)の負荷エネルギーを0.006kWh/kg/mとした以外は実施例2と同じ方法で比較例2の水解性不織布を得た。
【0064】
(評価)
(水解性1)
実施例及び比較例で得た水解性不織布を絶乾状態とし、絶乾状態の水解性不織布と純水の質量比が1:2(不織布:純水)となるように水解性不織布に純水を含浸させて湿潤状態の水解性不織布(湿潤水解性不織布)を密封し、2日間放置した。その後、湿潤状態の水解性不織布の水解性をJIS P 4501:1993の「4.5 ほぐれやすさ」に準拠して測定した。「ほぐれやすさ」が100秒以内であれば、水解性が良好といえる。
【0065】
(水解性2)
実施例及び比較例で得た水解性不織布を110mm×200mmの大きさに断裁したものを複数枚用意して、乾燥後の質量(初期乾燥質量)を測定した。
その後、乾燥後の水解性不織布と純水の質量比が1:2(不織布:純水)となるように水解性不織布に純水を含浸させて密封し、2日間放置し、湿潤状態の水解性不織布(湿潤水解性不織布)を作成した。
前記湿潤水解性不織布の水解性をIWSFGより公開されている公開仕様書「PAS 1:2018 トイレに流せる製品の認定基準」に記載された「IWSFG PAS 3:2018 スロッシュボックスによる水解性試験法」に準じて測定した。
具体的には、前記湿潤水解性不織布を30分間スロッシュボックス内で水解させた後、目開き25mmのふるいに水槽内の試験片と水を注ぎ、ふるいを1分間シャワーですすいだ後において、ふるいに残った試験片を採取した。そして、(初期乾燥質量-ふるいに残った試験片の乾燥質量)/初期乾燥質量×100により、ふるいの通過率を算出した。
通過率が95質量%以上であれば、水解性が良好といえる。
【0066】
(湿潤引張強度)
実施例及び比較例で得た水解性不織布において、絶乾状態の水解性不織布と純水の質量比が1:2(不織布:純水)となるように水解性不織布に純水を含浸させて密封し、2日間放置し、湿潤状態の水解性不織布(湿潤水解性不織布)を作成した。
前記湿潤水解性不織布からサンプル幅50mm、スパン長114mmのサンプルを切り出し、幅方向に2つ折り(従って幅は25mmとなる)の状態でエイ・アンド・デイ社製のTENSILON万能材料試験機を用いて、引張速度300mm/分の条件で引張強度を測定した。
前記湿潤水解性不織布の高圧水ジェット流処理による噴流痕である筋が延在する方向の引張強度(WT)および高圧水ジェット流処理による噴流痕である筋が延在する方向と垂直方向の引張強度、(WT)をそれぞれ測定し、WT/WTを算出した。
【0067】
(ウェットティッシュポップアップ適性評価)
実施例及び比較例で得た水解性不織布において、絶乾状態の水解性不織布と薬液(ジプロピレングリコール:ポリアミノプロピルビグアニド:リン酸2Na:安息香酸:セチルピリジニウムクロリド:水が質量比で1.00:0.20:0.15:0.15:0.05:98.45)の質量比が、1:2(不織布:薬液)となるように水解性不織布に薬液を含浸させた状態で2日間放置した後、図1に示すとおり、高圧水ジェット流処理による噴流痕である筋が延在する方向に平行に200mm、高圧水ジェット流処理による噴流痕である筋が延在する方向と垂直となる方向に180mmの大きさに30枚断裁して、山折り、谷折りを行った。
【0068】
次に、折り加工を行ったサンプルを図2のように各水解性不織布が挟まれるように重ねて、30枚のウェットティッシュの束を作製した。
さらに、ウェットティッシュの束をプラスチックフィルムで包装し、上部に角丸長方形(27mm×59mm)を開けて、その開口部からウェットティッシュ30枚を取り出したときのポップアップ性を以下の評価基準で目視評価した。
また、開口部からウェットティッシュ取り出す際のウェットティッシュの破れの発生を目視評価した。
〇:1枚取り出すと次のシートが取り出し口から途中まで出てくる。
×:1枚取り出したときに次のシートが出てこない。
【0069】
【表1】
【0070】
実施例1~4の水解性不織布は、水解性に優れ、且つ、ウェットティッシュ包装体に用いたときに水解性不織布取り出し時の破れが発生せず、ポップアップ適性に優れた水解性不織布であった。
図1
図2