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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】接合装置、接合方法、及び接合構造
(51)【国際特許分類】
   B21J 15/30 20060101AFI20240925BHJP
   B21J 15/02 20060101ALI20240925BHJP
   B21J 15/00 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
B21J15/30 L
B21J15/02 F
B21J15/00 U
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021014870
(22)【出願日】2021-02-02
(65)【公開番号】P2022118385
(43)【公開日】2022-08-15
【審査請求日】2023-08-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】内田 圭亮
(72)【発明者】
【氏名】瀬川 憂也
(72)【発明者】
【氏名】山田 智
(72)【発明者】
【氏名】原田 知治
(72)【発明者】
【氏名】西川 直樹
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 英活
【審査官】石田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特許第5660560(JP,B2)
【文献】特許第6235582(JP,B2)
【文献】特許第6692915(JP,B2)
【文献】特許第6428834(JP,B2)
【文献】特表2018-509567(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0094924(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21J 15/30
B21J 15/02
B21J 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金型と、該金型上に重ね合わせて配置された複数の被接合部材に対して略円筒状のセルフピアスリベットを打ち込むことで、該セルフピアスリベットによって前記複数の被接合部材を相互に接合する打込手段と、を備える接合装置であって、
前記金型には、前記セルフピアスリベットの打ち込み方向に略円筒形状に窪む第1凹状部が形成されており、
前記第1凹状部の底面の中心部には、前記セルフピアスリベットの打ち込み方向に窪む第2凹状部が形成され、
前記第1凹状部の底面における該第2凹状部の外側の部分は、前記第2凹状部よりも浅い棚部を形成し、
前記棚部の径に対応して、前記セルフピアスリベットの脚部の径が設定されており、
前記打込手段が、前記セルフピアスリベットの脚部を、前記第1凹状部の棚部に向けて前記打ち込むと、前記セルフピアスリベットの脚部は前記棚部によって外側に広がり、前記被接合部材の一部は前記第2凹状部内に流入し、
前記第1凹状部の容積をDAとし、前記第2凹状部の容積をDBとした場合に、
0.1≦DB/(DA+DB)≦0.25という関係が成立するように、前記第1及び第2凹状部の容積が設定されている、
接合装置。
【請求項2】
請求項記載の接合装置であって、
前記セルフピアスリベットは、打ち込み方向の中央領域から先端に向かうに従って第1曲率半径で徐々に細くなる前記脚部と、前記セルフピアスリベットの打面から前記脚部へ第2曲率半径で繋がるフランジ部と、を有し、
前記第1曲率半径は、前記第2曲率半径よりも大きい、
接合装置。
【請求項3】
請求項記載の接合装置であって、
前記第2凹状部の容積をDBとし、前記セルフピアスリベットの脚部の内側の空間の容積をRBとした場合に、
RB≧DBという関係が成立するように、前記第2凹状部の容積、および、前記セルフピアスリベットの脚部の内側の空間の容積が設定されている、
接合装置。
【請求項4】
請求項記載の接合装置であって、
前記第1凹状部の容積をDAとし、前記第2凹状部の容積をDBとし、前記セルフピアスリベットの脚部の内側の空間の容積をRBとし、前記セルフピアスリベットの体積をRAとした場合に、
(RA+RB)>(DA+DB)という関係が成立するように、前記第1及び第2凹状部の容積、ならびに、前記セルフピアスリベットの脚部の内側の空間の容積及び前記セルフピアスリベットの体積が設定されている、
接合装置。
【請求項5】
請求項記載の接合装置であって、
前記第1凹状部の内周面は、前記底面から外側へ行く従って徐々に拡径する第1傾斜面を構成し、前記第2凹状部の内周面は、外側へ行く従って徐々に拡径する第2傾斜面を構成する、接合装置。
【請求項6】
重ね合わせた複数の被接合部材を金型上に配置し、該金型上の被接合部材に対して略円筒状のセルフピアスリベットを打ち込むことで、該セルフピアスリベットによって前記複数の被接合部材を相互に接合する接合方法であって、
前記金型には、前記セルフピアスリベットの打ち込み方向に略円筒形状に窪む第1凹状部が形成されており、
前記第1凹状部の底面の中心部には、前記セルフピアスリベットの打ち込み方向に窪む第2凹状部が形成され、
前記第1凹状部の底面における該第2凹状部より外側の部分は、前記第2凹状部よりも浅い棚部を形成し、
前記棚部の径に対応して、前記セルフピアスリベットの脚部の径が設定されており、
前記セルフピアスリベットの脚部が、前記第1凹状部に向けて前記打ち込まれると、該セルフピアスリベットの脚部は前記棚部によって外側に広がり、前記被接合部材の一部は前記第2凹状部内に流入
前記第1凹状部の容積をDAとし、前記第2凹状部の容積をDBとした場合に、
0.1≦DB/(DA+DB)≦0.25という関係が成立するように、前記第1及び第2凹状部の容積が設定されている、
接合方法。
【請求項7】
重ね合わせた複数の被接合部材を金型上に配置し、該金型上の被接合部材に対して略円筒状のセルフピアスリベットを打ち込むことで、該セルフピアスリベットによって前記複数の被接合部材が相互に接合された接合構造であって、
前記金型には、前記セルフピアスリベットの打ち込み方向に略円筒形状に窪む第1凹状部が形成されており、
前記第1凹状部の底面の中央部には、前記セルフピアスリベットの打ち込み方向に窪む第2凹状部が形成され、
前記第1凹状部の底面における該第2凹状部の外側の部分は、前記第2凹状部よりも浅い棚部を形成し、
前記棚部の径に対応して、前記セルフピアスリベットの脚部の径が設定されており、
前記セルフピアスリベットの脚部が、前記第1凹状部に向けて前記打ち込まれることで、該セルフピアスリベットの脚部は前記棚部によって外側に広がり、前記被接合部材の一部は前記第2凹状部内に流入
前記第1凹状部の容積をDAとし、前記第2凹状部の容積をDBとした場合に、
0.1≦DB/(DA+DB)≦0.25という関係が成立するように、前記第1及び第2凹状部の容積が設定されている、
接合構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重ね合わせた複数の被接合部材をセルフピアスリベットによって接合する接合装置、接合方法、及び接合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
重ね合わせた複数の被接合部材を金型上に配置し、該金型上の被接合部材に対してセルフピアスリベットを打ち込むことで、セルフピアスリベットによって複数の被接合部材を相互に接合する接合方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-069451号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、熱処理を簡素化したダイカスト材などが、上記被接合部材として用いられることがある。このような被接合部材は伸展性が低下していることから、上記接合方法により接合を行った場合に、被接合部材に割れが生じる虞がある。
【0005】
本発明は、かかる課題を解決するためになされたものであり、被接合部材に割れが生じることを抑制できる接合装置、接合方法、及び接合構造を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明の一態様は、
金型と、該金型上に重ね合わせて配置された複数の被接合部材に対して略円筒状のセルフピアスリベットを打ち込むことで、該セルフピアスリベットによって前記複数の被接合部材を相互に接合する打込手段と、を備える接合装置であって、
前記金型には、前記セルフピアスリベットの打ち込み方向に略円筒形状に窪む第1凹状部が形成されており、
前記第1凹状部の底面の中心部には、前記セルフピアスリベットの打ち込み方向に窪む第2凹状部が形成され、
前記第1凹状部の底面における該第2凹状部の外側の部分は、前記第2凹状部よりも浅い棚部を形成し、
前記棚部の径に対応して、前記セルフピアスリベットの脚部の径が設定されており、
前記打込手段が、前記セルフピアスリベットの脚部を、前記第1凹状部の棚部に向けて前記打ち込むと、前記セルフピアスリベットの脚部は前記棚部によって外側に広がり、前記被接合部材の一部は前記第2凹状部内に流入する、
接合装置
である。
この一態様において、前記第1凹状部の容積をDAとし、前記第2凹状部の容積をDBとした場合に、DB/(DA+DB)≧0.1という関係が成立するように、前記第1及び第2凹状部の容積が設定されていてもよい。
この一態様において、前記セルフピアスリベットは、打ち込み方向の中央領域から先端に向かうに従って第1曲率半径で徐々に細くなる前記脚部と、前記セルフピアスリベットの打面から前記脚部へ第2曲率半径で繋がるフランジ部と、を有し、前記第1曲率半径は、前記第2曲率半径よりも大きくてもよい。
この一態様において、前記第2凹状部の容積をDBとし、前記セルフピアスリベットの脚部の内側の空間の容積をRBとした場合に、RB≧DBという関係が成立するように、前記第2凹状部の容積、および、前記セルフピアスリベットの脚部の内側の空間の容積が設定されていてもよい。
この一態様において、前記第1凹状部の容積をDAとし、前記第2凹状部の容積をDBとし、前記セルフピアスリベットの脚部の内側の空間の容積をRBとし、前記セルフピアスリベットの体積をRAとした場合に、(RA+RB)>(DA+DB)という関係が成立するように、前記第1及び第2凹状部の容積、ならびに、前記セルフピアスリベットの脚部の内側の空間の容積及び前記セルフピアスリベットの体積が設定されていてもよい。
この一態様において、前記第1凹状部の容積をDAとし、前記第2凹状部の容積をDBとした場合に、DB/(DA+DB)≦0.25という関係が成立するように、前記第1及び第2凹状部の容積が設定されていてもよい。
この一態様において、前記第1凹状部の内周面は、前記底面から外側へ行く従って徐々に拡径する第1傾斜面を構成し、前記第2凹状部の内周面は、外側へ行く従って徐々に拡径する第2傾斜面を構成してもよい。
上記目的を達成するための本発明の一態様は、
重ね合わせた複数の被接合部材を金型上に配置し、該金型上の被接合部材に対して略円筒状のセルフピアスリベットを打ち込むことで、該セルフピアスリベットによって前記複数の被接合部材を相互に接合する接合方法であって、
前記金型には、前記セルフピアスリベットの打ち込み方向に略円筒形状に窪む第1凹状部が形成されており、
前記第1凹状部の底面の中心部には、前記セルフピアスリベットの打ち込み方向に窪む第2凹状部が形成され、
前記第1凹状部の底面における該第2凹状部より外側の部分は、前記第2凹状部よりも浅い棚部を形成し、
前記棚部の径に対応して、前記セルフピアスリベットの脚部の径が設定されており、
前記セルフピアスリベットの脚部が、前記第1凹状部に向けて前記打ち込まれると、該セルフピアスリベットの脚部は前記棚部によって外側に広がり、前記被接合部材の一部は前記第2凹状部内に流入する、
接合方法
であってもよい。
上記目的を達成するための本発明の一態様は、
重ね合わせた複数の被接合部材を金型上に配置し、該金型上の被接合部材に対して略円筒状のセルフピアスリベットを打ち込むことで、該セルフピアスリベットによって前記複数の被接合部材が相互に接合された接合構造であって、
前記金型には、前記セルフピアスリベットの打ち込み方向に略円筒形状に窪む第1凹状部が形成されており、
前記第1凹状部の底面の中央部には、前記セルフピアスリベットの打ち込み方向に窪む第2凹状部が形成され、
前記第1凹状部の底面における該第2凹状部の外側の部分は、前記第2凹状部よりも浅い棚部を形成し、
前記棚部の径に対応して、前記セルフピアスリベットの脚部の径が設定されており、
前記セルフピアスリベットの脚部が、前記第1凹状部に向けて前記打ち込まれることで、該セルフピアスリベットの脚部は前記棚部によって外側に広がり、前記被接合部材の一部は前記第2凹状部内に流入している、
接合構造
であってもよい。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、被接合部材に割れが生じることを抑制できる接合装置、接合方法、及び接合構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施形態に係る接合装置の概略的な構成を示す図である。
図2】本実施形態に係るセルフピアスリベットの形状と従来のセルフピアスリベットの形状とを比較した図である。
図3】本実施形態に係る接合構造の構成を示す断面図である。
図4】従来の金型、セルフピアスリベット及び接合構造を示す図である。
図5】金型の第1及び第2凹状部およびセルフピアスリベットの形状の関係を示す図である。
図6】本実施形態に係る接合方法を示すフローチャートである。
図7】第1及び第2被接合部材の接合結果を示す図である。
図8】第1及び第2被接合部材の接合結果を示す図である。
図9】別の実施形態に係る金型、及びセルフピアスリベットを示す図である。
図10】別の実施形態に係るセルフピアスリベット及び金型を用いて製造した接合構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、発明の実施形態を通じて本発明を説明するが、特許請求の範囲にかかる発明を以下の実施形態に限定するものではない。また、実施形態で説明する構成の全てが課題を解決するための手段として必須であるとは限らない。説明の明確化のため、以下の記載および図面は、適宜、省略、および簡略化がなされている。なお、各図面において、同一の要素には同一の符号が付されており、必要に応じて重複説明は省略されている。
【0010】
図1は、本実施形態に係る接合装置の概略的な構成を示す図である。本実施形態に係る接合装置1は、重ね合わせた複数の被接合部材をセルフピアスリベット(SPR)によって接合するものである。
【0011】
接合装置1は、被接合部材が配置される金型2と、被接合部材に対してセルフピアスリベット3を打ち込む打込装置4と、を備えている。
【0012】
金型2上には、複数の被接合部材が重ね合わせて配置される。例えば、第1被接合部材11の上に第2被接合部材12が積み重ねられている。第1被接合部材11は低伸展性のダイカスト材であり、第2被接合部材12は鋼板である。なお、本実施形態において、2つの被接合部材を接合しているがこれに限定されず、接合される被接合部材の数は、3つ以上であってもよく、また、接合される被接合部材の種類も任意でよい。
【0013】
セルフピアスリベット3は、略円筒形状で形成されたリベットである。セルフピアスリベット3は、上側の第2被接合部材12を貫通し、下側の第1被接合部材11を貫通することなく、その脚部を広げる(インターロックする)ことで第1及び第2被接合部材11、12を接合する。
【0014】
図2は、本実施形態に係るセルフピアスリベットの形状と従来のセルフピアスリベットの形状とを比較した図である。図2において、右側が本実施形態に係るセルフピアスリベット3であり、左側が従来のセルフピアスリベットである。
【0015】
セルフピアスリベット3は、フランジ部31と、フランジ部31に接続された脚部32と、を有している。フランジ部31及び脚部32は、一体的に成形されている。脚部32は、打ち込み方向の中央領域から先端に向かうに従って第1曲率半径R1で徐々に細くなる。フランジ部31は、打面33から脚部32へ第2曲率半径R2で繋がる。第1曲率半径R1は、第2曲率半径R2よりも大きく設定されている。
【0016】
図2に示す如く、本実施形態に係るセルフピアスリベット3は、従来のセルフピアスリベットと比較して、脚部32の第1曲率半径R1を大きくすることで、Rの始まりの位置を脚部32根元付近に近付け、脚部32をより開き易くしている。
【0017】
上記のようにセルフピアスリベット3の脚部32の第1曲率半径R1を大きく設定し、脚部32を徐々に細くすることで、打ち込み時に脚部32を広がり易くすることができる。これにより、硬さ、伸展性、板厚などが異なる様々な被接合部材に対して接合強度(インターロック)を確保すると共に、脚部32の座屈を抑制できる。
【0018】
一方で、セルフピアスリベット3のフランジ部31の第2曲率半径R2を小さくすることで、打込み荷重を下げることができ、例えば、F材やT5材などの硬い被接合部材に対しても脚部32を深く打ち込むことができる。
【0019】
打込装置4は、金型2上に重ね合わせて配置された第1及び第2被接合部材11、12に対してセルフピアスリベット3を打ち込む。これにより、セルフピアスリベット3によって第1及び第2被接合部材11、12を相互に接合することができる。打込装置4は、セルフピアスリベット3の打面33を打つことで、セルフピアスリベット3を金型2上の第1及び第2被接合部材11、12に対し打ち込む。
【0020】
ところで、近年、CO排出削減を目的として、ダイカスト材の熱処理を簡素化する検討が進められている。例えば、熱処理を簡素化したダイカスト材を上記被接合部材とした場合、その簡素化した被接合部材は、熱処理された被接合部材よりも伸展性が低下している。したがって、このセルフピアスリベットによって接合を行った場合に、被接合部材に貫通割れや板間割れなどの割れが生じる虞がある。
【0021】
これに対し、本実施形態に係る接合装置1において、金型2には、セルフピアスリベット3の打ち込み方向に略円筒形状に窪む第1凹状部21が形成されている。第1凹状部21の底面の中心部には、セルフピアスリベット3の打ち込み方向に窪む第2凹状部22が形成されている。第1凹状部21の底面における第2凹状部22の外側の部分は、第2凹状部22よりも浅い棚部23を形成している。棚部23の径に対応して、セルフピアスリベット3の脚部32の径が設定されている。例えばセルフピアスリベットの脚部32の径は、第2凹状部22の径よりも大きく、かつ第1凹状部21の径よりも小さく、棚部23の径と略同一となるように設定されている。
【0022】
上述の如く、第1凹状部21の棚部23を形成することで、打込装置4が、セルフピアスリベット3の脚部32を棚部23に向けて打ち込むと、第1被接合部材11は、セルフピアスリベット3の脚部32の先端に押され、早いタイミングで浅い位置の棚部23に接触し、その棚部23による反力で脚部32は外側に広がる。したがって、セルフピアスリベット3の脚部32が広がり始めるタイミングを早めて、第1被接合部材11にかかる応力を低減し分散することで、第1被接合部材11に割れが生じることを抑制できる。
【0023】
一方で、上述の如く、第1凹状部21の底面の中心部には、セルフピアスリベット3の打ち込み方向に窪む第2凹状部22が形成されている。打込装置4が、セルフピアスリベット3の脚部32を棚部23に向けて打ち込むと、第1被接合部材11は、セルフピアスリベット3の脚部32の先端によって下方に押圧されるが、その一部が第2凹状部22内に流入する。これにより、打込み荷重の増大を抑制し、セルフピアスリベット3の脚部32の座屈を防止できる。
【0024】
第1凹状部21の内周面は、底面から外側へ行く従って徐々に拡径する第1傾斜面211を構成している。第2凹状部22の内周面は、外側へ行く従って徐々に拡径する第2傾斜面221を構成している。このような緩やかな第1及び第2傾斜面211、221を構成することで、セルフピアスリベット3が打ち込まれ第1被接合部材11がセルフピアスリベット3の脚部32の先端によって下方に押圧された際の第1被接合部材11にかかる応力集中を効果的に低減することができる。
【0025】
また、第1凹状部21の外径を大きくすることで、セルフピアスリベット3が打ち込まれ第1被接合部材11がセルフピアスリベット3の脚部32の先端によって下方に押圧された際の第1被接合部材11の変形の曲率を大きくでき、応力集中を低減できる。さらに、第1凹状部21の棚部23の深さに対応して、セルフピアスリベット3の脚部32を短くすることで、脚部32が座屈したり、脚部32が第1被接合部材11を貫通するのを防止できる。
【0026】
図3は、本実施形態に係る接合構造の構成を示す断面図である。接合装置1は、金型2上に重ね合わせて配置された第1及び第2被接合部材11、12に対してセルフピアスリベット3を打ち込むことで、図3に示す接合構造10を製造する。
【0027】
本実施形態に係る接合構造10において、特に、第1接合部材11には、貫通割れや板間割れが全く発生していない。一方で、図4に示す如く、従来の接合装置の金型及びセルフピアスリベットにより製造された接合構造の接合部材には、貫通割れ及び板間割れが発生している。
【0028】
続いて、本実施形態に係る金型の第1及び第2凹状部21、22およびセルフピアスリベットの形状の設定方法について、詳細に説明する。本実施形態において、金型2の第1及び第2凹状部21、22の容積を変えて、セルフピアスリベット3を金型2上の第1及び第2被接合部材11、12に対し打ち込んでいる。
【0029】
第1被接合部材11は、板厚t=3.0mmのダイカスト材(ADT10-T5F)で構成されている。第2被接合部材は、板厚t=1.6mmの鋼板(SCGA590DU)で構成されている。
【0030】
図5は、金型の第1及び第2凹状部およびセルフピアスリベットの形状の関係を示す図である。なお、図5において、第1凹状部21の容積をDAmmとし、第2凹状部22の容積をDBmmとし、第1凹状部21と第2凹状部22と合せた全容積(DA+DB)をDABmmとする。セルフピアスリベット3の体積をRAmmとし、セルフピアスリベット3の脚部32の内側の空間の容積(空間容積)をRBmmとし、空間容積を含むセルフピアスリベットの全体積(RA+RB)をRABmmとする。
【0031】
図5において、縦軸は第2凹状部22の容積DBを示し、横軸は、第1及び第2凹状部21、22の容積DABを示している。図5の座標系における各座標点は(DAB、DA)を示している。
【0032】
図5において、“×”で示す(1)及び(3)の座標点では、セルフピアスリベット3の脚部32が座屈している。“×”で示す(2)及び(4)の座標点では、第1被接合部材11に割れが発生している。一方で、直線(a)を超えた“〇”で示す座標点(5)及び(6)では、セルフピアスリベット3の脚部32の座屈、及び、第1被接合部材11の割れは発生しておらず、適正な座標点である。
【0033】
したがって、セルフピアスリベット3の脚部32の座屈、及び、第1被接合部材11の割れを抑制するためには、座標点(DAB、DA)が直線(a)より上の範囲となるように第1及び第2凹状部21、22の容積を夫々設定するのが好ましい。直線(a)の傾きを求めると0.1となるため、DB/DAB≧0.1という関係が成立するように、第1及び第2凹状部21、22の容積を設定するのが好ましい。
【0034】
このような設定を行うことで、第1被接合部材11の割れを抑制するためにDAを小さく(その深さを浅く)した場合でも第1被接合部材11が流入する空間を第2凹状部22に十分確保でき、セルフピアスリベット3の脚部32の座屈を抑制できる。
【0035】
また、△で示す(7)及び(8)の座標点では、上記セルフピアスリベット3の脚部32の座屈、及び、第1被接合部材11の割れは発生していないが、セルフピアスリベット3の脚部32の広がりが少なくインターロック不足が発生している。一方で、直線(b)よりも下側の〇で示す座標点(5)及び(6)では、セルフピアスリベット3の脚部32の広がりは十分でインターロック不足は発生しておらず、適正な座標点と言える。
【0036】
したがって、セルフピアスリベット3のインターロック不足を抑制するためには、座標点(DAB、DA)が直線(b)より下の範囲にあるのが好ましい。直線(b)の傾きを求めると0.25となるため、DB/DAB≦0.25という関係が成立するように、第1及び第2凹状部21、22の容積を設定するのが好ましい。
【0037】
このように設定を行うことで、第2凹状部22への第1被接合部材11の流入量を制限して、セルフピアスリベット3の脚部32にかかる圧力の減少を抑制でき、インターロック不足を抑制できる。
【0038】
以上から、セルフピアスリベット3の脚部32の座屈、及び、第1被接合部材11の割れの発生を抑制しつつ、セルフピアスリベット3の脚部32のインターロック不足を抑制するためには、0.1≦DB/DAB≦0.25という関係が成立するように、金型2の第1及び第2凹状部21、22の容積を夫々設定するのがより好ましい。
【0039】
さらに、上述の如く、△で示す(7)及び(8)の座標点では、セルフピアスリベット3の脚部32のインターロック不足が発生している。一方で、直線(c)よりも小さい〇で示す座標点(5)及び(6)では、セルフピアスリベット3の脚部32のインターロック不足は発生しておらず、適正な座標点と言える。
【0040】
したがって、セルフピアスリベット3のインターロック不足を抑制するためには、座標点(DAB、DA)が直線(c)より小さい範囲にあるのが好ましい。直線(c)は、RABであるため、DAB≦RABという関係が成立するように、第1及び第2凹状部21、22の容積とセルフピアスリベット3の体積及び空間容積を設定するのが好ましい。
【0041】
このように設定を行うことで、セルフピアスリベット3の脚部32に適正な圧力をかけてインターロック不足を抑制しつつ、その脚部32を広げることができる。
【0042】
同様に、上述の如く、△で示す(7)及び(8)の座標点では、セルフピアスリベット3の脚部32のインターロック不足が発生している。一方で、直線(d)よりも小さい〇で示す座標点(5)及び(6)では、セルフピアスリベット3の脚部32のインターロック不足は発生しておらず、適正な座標点と言える。
【0043】
したがって、セルフピアスリベット3のインターロック不足を抑制するためには、座標点(DAB、DA)が直線(d)より小さい範囲にあるのが好ましい。直線(d)は、RBであるため、DB≦RBという関係が成立するように、第2凹状部22の容積とセルフピアスリベット3の空間容積を設定するのが好ましい。
【0044】
このように設定を行うことで、第2凹状部22への第1被接合部材11の流入量を制限しつつ、セルフピアスリベットの脚部32にかかる圧力の減少を抑制でき、インターロック不足を抑制できる。
【0045】
続いて、本実施形態に係る接合方法について、説明する。図6は、本実施形態に係る接合方法を示すフローチャートである。
【0046】
まず、重ね合わせた第1及び第2被接合部材11、12が金型2上に配置される(ステップS101)。打込装置4は、金型2上の第1及び第2被接合部材11、12に対してセルフピアスリベット3を打ち込む(ステップS102)。これにより、セルフピアスリベット3の脚部32は金型2の第1凹状部21の棚部23によって外側に広がり(ステップS103)、第1被接合部材11の一部は第2凹状部22内に流入する(ステップS104)。第1及び第2被接合部材11、12がセルフピアスリベット3によって接合される(ステップS105)。
【0047】
続いて、本実施形態に係る接合装置1を用いて、硬い第1被接合部材11と第2被接合部材12との接合を行った結果を説明する。図7は、第1及び第2被接合部材の接合結果を示す図である。
【0048】
図7において、(a)は第1被接合部材11のビッカース硬さが70HV程度である場合の接合結果、(b)は第1被接合部材11のビッカース硬さが80HV程度である場合の接合結果、(c)は第1被接合部材11のビッカース硬さが90HV以上である場合の接合結果、を示している。
【0049】
図7に示すように、硬い第1被接合部材11と第2被接合部材12との接合を行った結果、(a)、(b)及び(c)の何れの硬さの第1被接合部材11にも、割れは発生していない。よって、本実施形態に係る接合装置1は、硬い第1被接合部材11を用いた場合でも、第1被接合部材11の割れを抑制できることが分かる。
【0050】
さらに、本実施形態に係る接合装置1を用いて、第1被接合部材11の伸展性、及び第2被接合部材12の種類を変えて、第1及び第2被接合部材11、12の接合を行った結果を説明する。
【0051】
図8は、第1及び第2被接合部材の接合結果を示す図である。図8において、(a)は第2被接合部材12が板厚t=1.6mmの鋼板(590材)である場合の接合結果、(b)第2被接合部材12が板厚t=1.2mmの鋼板(440材)である場合の接合結果、(c)第2被接合部材12が板厚t=0.7mmの鋼板(270材)である場合の接合結果、を示している。
【0052】
また、図8において、下段は、第1被接合部材11が、板厚t=3.0mmでT6/T7の熱処理を行った高伸展性のダイカスト材である場合の接合結果、上段は、第1被接合部材11が、板厚t=3.0mmでF/T5の熱処理を行った低伸展性のダイカスト材である場合の接合結果を示している。
【0053】
図8に示すように、第1被接合部材11の伸展性、及び第2被接合部材の種類を様々のものに変えて、第1及び第2被接合部材11、12の接合を行った結果、(a)、(b)及び(c)の何れの第1被接合部材11にも、割れは発生していない。よって、本実施形態に係る接合装置1は、様々な種類の第1及び第2被接合部材11、12を用いた場合でも、第1被接合部材11の割れを抑制できることが分かる。
【0054】
以上、本実施形態に係る接合装置1において、金型2には、セルフピアスリベット3の打ち込み方向に略円筒形状に窪む第1凹状部21が形成されている。第1凹状部21の底面の中心部には、セルフピアスリベット3の打ち込み方向に窪む第2凹状部22が形成されている。第1凹状部21の底面における第2凹状部22の外側の部分は、第2凹状部22よりも浅い棚部23を形成している。棚部23の径に対応して、セルフピアスリベット3の脚部32の径が設定されている。打込装置4が、セルフピアスリベット3の脚部32を、第1凹状部21の棚部23に向けて打ち込むと、セルフピアスリベット3の脚部32は棚部23によって外側に広がり、被接合部材の一部は第2凹状部22内に流入する。
【0055】
第1凹状部21の棚部23を形成することで、セルフピアスリベットの脚部32を棚部23に向けて打ち込むと、セルフピアスリベット3の脚部32が広がり始めるタイミングを早めて、第1被接合部材11にかかる応力を低減し、第1被接合部材11に割れが生じることを抑制できる。一方で、第1凹状部21の底面の中心部に第2凹状部22を形成することで、セルフピアスリベット3の脚部32を棚部23に向けて打ち込むと、第1被接合部材11の一部が第2凹状部22内に流入し、セルフピアスリベット3の脚部32の座屈を防止できる。
【0056】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他のさまざまな形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0057】
例えば、本実施形態において、図9に示す如く、セルフピアスリベットは、従来のセルフピアスリベットを用いてもよい。図9において、左側がセルフピアスリベットであり、右側が金型2である。金型2の第1凹状部21の内周面の第1傾斜面211及び、第2凹状部22の内周面の第2傾斜面221は、上記実施形態と比較して急であってもよい。
【0058】
図10は、上記セルフピアスリベット及び金型を用いて製造した接合構造を示す図である。図10に示す如く、セルフピアスリベットの脚部の座屈、及び、第1被接合部材11の割れの発生を抑制しつつ、セルフピアスリベットの脚部のインターロック不足を抑制できていることが分かる。
【符号の説明】
【0059】
1 接合装置、2 金型、3 セルフピアスリベット、4 打込装置、10 接合構造、11 第1被接合部材、12 第2被接合部材、21 第1凹状部、22 第2凹状部、23 棚部、31 フランジ部、32 脚部、33 打面、211 第1傾斜面、221 第2傾斜面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10