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特許7559596生体情報処理装置、生体情報処理方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】生体情報処理装置、生体情報処理方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/11 20060101AFI20240925BHJP
   A61B 5/113 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
A61B5/11 110
A61B5/11 100
A61B5/113
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021022265
(22)【出願日】2021-02-16
(65)【公開番号】P2021175492
(43)【公開日】2021-11-04
【審査請求日】2023-12-22
(31)【優先権主張番号】P 2020075772
(32)【優先日】2020-04-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小野 陽一
【審査官】鳥井 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-055604(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102020115759(DE,A1)
【文献】特開2007-175225(JP,A)
【文献】国際公開第2018/234394(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/084473(WO,A1)
【文献】特開2005-028157(JP,A)
【文献】特表2018-527101(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00-5/01
A61B 5/02-5/03
A61B 5/06-5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一の生体情報を測定対象としたN個(Nは2以上の整数)の生体情報信号を取得する取得手段と、
N次元空間上における前記N個の生体情報信号により特定される点の軌跡の自己相関を解析する解析手段と、
前記N次元空間上における前記点の軌跡の自己相関から、前記点の軌跡の周期性を求めることにより、前記測定対象とした生体情報の周期性に関する値を算出する算出手段と、
を備える生体情報処理装置。
【請求項2】
前記取得手段は、1個以上の電波式センサーから前記生体情報信号を取得する請求項1に記載の生体情報処理装置。
【請求項3】
前記取得手段は、前記電波式センサーから前記生体情報信号として、I信号と、当該I信号と所定の位相だけ異なるQ信号のそれぞれを取得する請求項2に記載の生体情報処理装置。
【請求項4】
前記取得手段は、更に1個以上の圧力式センサーから前記生体情報信号を取得する請求項2又は3に記載の生体情報処理装置。
【請求項5】
前記取得手段は、2個以上の圧力式センサーから前記生体情報信号を取得する請求項1に記載の生体情報処理装置。
【請求項6】
前記生体情報は、呼吸及び/又は心拍である請求項1から5のいずれか一項に記載の生体情報処理装置。
【請求項7】
前記解析手段は、前記N次元空間上の前記点の軌跡上において、第1の時刻に対応する第1の点と、前記第1の時刻と所定の時間差だけ異なる第2の時刻に対応する第2の点と、の2点間のベクトルのノルムに応じた値を、前記第1の時刻を変えながら足し合わせて総和を求め、前記所定の時間差を変えながら当該所定の時間差ごとに前記総和を求めることで、前記自己相関を解析する請求項1から6のいずれか一項に記載の生体情報処理装置。
【請求項8】
前記解析手段は、前記第1の時刻をt、tにおける前記N個の生体情報信号をI(t)(j=1~N)、前記所定の時間差をτ、前記第1の時刻の上限をk、τにおける前記総和をZ(τ)として、式(1)により、Z(τ)を求める請求項7に記載の生体情報処理装置。
【数1】
【請求項9】
前記総和は、前記所定の時間差が前記生体情報の周期の整数倍である場合に、極小値を取る請求項7又は8に記載の生体情報処理装置。
【請求項10】
同一の生体情報を測定対象としたN個(Nは2以上の整数)の生体情報信号を取得する取得工程と、
N次元空間上における前記N個の生体情報信号により特定される点の軌跡の自己相関を解析する解析工程と、
前記N次元空間上における前記点の軌跡の自己相関から、前記点の軌跡の周期性を求めることにより、前記測定対象とした生体情報の周期性に関する値を算出する算出工程と、
を含む生体情報処理方法。
【請求項11】
コンピューターを、
同一の生体情報を測定対象としたN個(Nは2以上の整数)の生体情報信号を取得する取得手段、
N次元空間上における前記N個の生体情報信号により特定される点の軌跡の自己相関を解析する解析手段、
前記N次元空間上における前記点の軌跡の自己相関から、前記点の軌跡の周期性を求めることにより、前記測定対象とした生体情報の周期性に関する値を算出する算出手段、
として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体情報処理装置、生体情報処理方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、生体から呼吸数や心拍数を測定するために、呼吸や心拍を検出するセンサーを用いて生体情報信号を取得し、生体情報信号から周期性を検出する生体情報処理装置が知られている。
【0003】
生体情報信号を取得する手段として、電波式センサー、圧力式センサー、それらを複数使用したセンサーが用いられている。通常の生体の状態(拘束等されていない状態)では、静止状態とはなりにくく、常に何らかの動きが生じている。このような対象が被験体となる場合、測定対象外の動きがノイズとなるため、バンドパスフィルター等で体動を除去する方法が知られている。
【0004】
また、照射波に対する反射波の位相変化(位相差)を検出することで、被験者の呼吸や心拍等、測定対象の振動に基づく体表の微動を検出する技術が提案されており、位相変化を効率良く検出するために、マイクロ波が用いられている(特許文献1、特許文献2参照)。
【0005】
特許文献1では、I信号とQ信号の二つの生体情報信号を別々に使用して、それぞれの自己相関関数の周期性から、呼吸数や心拍数等を算出している。
【0006】
特許文献2では、I信号の成分とQ信号の成分をI-Q座標系にプロットした点の軌跡から周期性を検出して、呼吸数や心拍数等を算出している。
【0007】
図13に、I-Q平面上において、I信号とQ信号により特定される点が時間の経過に沿って移動する様子を示す。I信号及びQ信号が呼吸を表す信号である場合、理論上、I信号とQ信号により特定される点の軌跡は、呼吸動作に応じて、原点を中心に回転し、円弧上を往復する。この円弧上での点の動きが呼気・吸気に対応している。I信号の成分とQ信号の成分からなるベクトルがI信号の軸となす角度をθとして、軌跡上の各点に対応する角度θの値から呼吸に対応する変位量を求めることで、呼吸の周期性を検出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第6290501号公報
【文献】特開2018-064642号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1では、二つの生体情報信号を別々に処理しているため、周期的な波形から呼吸数や心拍数を算出する場合に、一つの信号しか使用しておらず、正確な値を得られないおそれがあった。例えば、I信号やQ信号の周期が、見かけ上、倍になって現れる場合、正確な周期を判断することは難しい。また、I信号とQ信号の二つの生体情報信号それぞれの処理において、単一の信号しか使用していないので、信号自体がノイズに埋もれてしまいやすい。また、I信号とQ信号の二つの生体情報信号のうち、生体情報信号の周期的な特徴がI信号かQ信号の一方にしか顕著に現れず、他方の生体情報信号では、ノイズしか検出できない場合がある。
【0010】
また、特許文献2に記載の技術においても、体動等のノイズが入った場合、実際の測定では、I-Q平面上でI信号とQ信号により特定される点が原点を中心に回転しないことがあるため、周期性の検出が困難であった。例えば、図14に示すように、I-Q平面上でのI信号とQ信号の軌跡が円弧にならず、ループを描く場合もある。特に、電動式のエアマットを使用している際に、ベッド上の患者からエアマットを挟んだ状態で呼吸を検出する場合には、ノイズが大きい。
【0011】
本発明は、上記の従来技術における問題に鑑みてなされたものであって、生体情報の周期性に関する値を精度良く算出することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、同一の生体情報を測定対象としたN個(Nは2以上の整数)の生体情報信号を取得する取得手段と、N次元空間上における前記N個の生体情報信号により特定される点の軌跡の自己相関を解析する解析手段と、前記N次元空間上における前記点の軌跡の自己相関から、前記点の軌跡の周期性を求めることにより、前記測定対象とした生体情報の周期性に関する値を算出する算出手段と、を備える生体情報処理装置である。
【0013】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の生体情報処理装置において、前記取得手段は、1個以上の電波式センサーから前記生体情報信号を取得する。
【0014】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の生体情報処理装置において、前記取得手段は、前記電波式センサーから前記生体情報信号として、I信号と、当該I信号と所定の位相だけ異なるQ信号のそれぞれを取得する。
【0015】
請求項4に記載の発明は、請求項2又は3に記載の生体情報処理装置において、前記取得手段は、更に1個以上の圧力式センサーから前記生体情報信号を取得する。
【0016】
請求項5に記載の発明は、請求項1に記載の生体情報処理装置において、前記取得手段は、2個以上の圧力式センサーから前記生体情報信号を取得する。
【0017】
請求項6に記載の発明は、請求項1から5のいずれか一項に記載の生体情報処理装置において、前記生体情報は、呼吸及び/又は心拍である。
【0018】
請求項7に記載の発明は、請求項1から6のいずれか一項に記載の生体情報処理装置において、前記解析手段は、前記N次元空間上の前記点の軌跡上において、第1の時刻に対応する第1の点と、前記第1の時刻と所定の時間差だけ異なる第2の時刻に対応する第2の点と、の2点間のベクトルのノルムに応じた値を、前記第1の時刻を変えながら足し合わせて総和を求め、前記所定の時間差を変えながら当該所定の時間差ごとに前記総和を求めることで、前記自己相関を解析する。
【0019】
請求項8に記載の発明は、請求項7に記載の生体情報処理装置において、前記解析手段は、前記第1の時刻をt、tにおける前記N個の生体情報信号をI(t)(j=1~N)、前記所定の時間差をτ、前記第1の時刻の上限をk、τにおける前記総和をZ(τ)として、式(1)により、Z(τ)を求める。
【数1】
【0020】
請求項9に記載の発明は、請求項7又は8に記載の生体情報処理装置において、前記総和は、前記所定の時間差が前記生体情報の周期の整数倍である場合に、極小値を取る。
【0021】
請求項10に記載の発明は、同一の生体情報を測定対象としたN個(Nは2以上の整数)の生体情報信号を取得する取得工程と、N次元空間上における前記N個の生体情報信号により特定される点の軌跡の自己相関を解析する解析工程と、前記N次元空間上における前記点の軌跡の自己相関から、前記点の軌跡の周期性を求めることにより、前記測定対象とした生体情報の周期性に関する値を算出する算出工程と、を含む生体情報処理方法である。
【0022】
請求項11に記載の発明は、コンピューターを、同一の生体情報を測定対象としたN個(Nは2以上の整数)の生体情報信号を取得する取得手段、N次元空間上における前記N個の生体情報信号により特定される点の軌跡の自己相関を解析する解析手段、前記N次元空間上における前記点の軌跡の自己相関から、前記点の軌跡の周期性を求めることにより、前記測定対象とした生体情報の周期性に関する値を算出する算出手段、として機能させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、生体情報の周期性に関する値を精度良く算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】生体情報監視システムのシステム構成図である。
図2】ステーションサーバーの機能的構成を示すブロック図である。
図3】ベッドサイド端末の機能的構成を示すブロック図である。
図4】ベッドサイド端末により実行される処理を示すフローチャートである。
図5】(a)は、生体情報信号の例を示す図である。(b)は、PACFの例を示す図である。
図6】2個の生体情報信号(I信号/Q信号)の時間変化の例を示す図である。
図7】リカーシブフィルター処理を説明するための図である。
図8】実施例1の呼吸を測定対象として得られたI信号、Q信号のI-Q平面における軌跡を示す図である。
図9】(a)は、呼吸波形の時系列データである。(b)は、I信号の時系列データである。(c)は、Q信号の時系列データである。(d)は、I信号、Q信号から作成したPACFである。
図10】(a)は、実施例2の呼吸を測定対象として第1マイクロ波センサーにより得られたI信号、Q信号のI-Q平面における軌跡を示す図である。(b)は、実施例2の呼吸を測定対象として第2マイクロ波センサーにより得られたI信号、Q信号のI-Q平面における軌跡を示す図である。
図11】(a)は、呼吸波形の時系列データである。(b)は、I信号の時系列データである。(c)は、Q信号の時系列データである。(d)は、I信号の時系列データである。(e)は、Q信号の時系列データである。(f)は、I信号、Q信号、I信号、Q信号から作成したPACFである。
図12】(a)は、実施例3の呼吸波形の時系列データである。(b)は、I信号の時系列データである。(c)は、Q信号の時系列データである。(d)は、I信号の時系列データである。(e)は、Q信号の時系列データである。(f)は、圧電センサーから出力された信号の時系列データである。(g)は、I信号、Q信号、I信号、Q信号、圧電センサー信号から作成したPACFである。
図13】I-Q平面上でのI信号とQ信号により特定される点の理論上の軌跡を示す図である。
図14】I-Q平面上でのI信号とQ信号により特定される点の実際の軌跡の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。ただし、発明の範囲は、図示例に限定されない。
【0026】
〔生体情報監視システムの構成〕
図1に、生体情報監視システム100のシステム構成を示す。
図1に示すように、生体情報監視システム100は、ナースステーションに設けられたステーションサーバー10と、病室内の各ベッドに設けられたベッドサイド端末30(生体情報処理装置)と、看護師等の医療従事者が携帯する携帯端末60と、を備えて構成されている。生体情報監視システム100は、病院等の医療施設内で利用される。ステーションサーバー10とベッドサイド端末30とは、無線通信により相互にデータ通信可能となっている。また、ステーションサーバー10と携帯端末60とは、無線通信により相互にデータ通信可能となっている。医療施設内の無線通信は、通信に用いる周波数が医療機器と干渉しないサブギガ帯であることが望ましい。なお、ベッドサイド端末30、携帯端末60の台数は、特に限定されない。
【0027】
ステーションサーバー10は、ベッドサイド端末30により収集された各患者の測定データ(生体情報)を一元管理する。ステーションサーバー10の表示部13は、複数の患者の生体情報を監視するためのモニタリング画面を表示する。生体情報としては、呼吸数、心拍数、体温、SpO等が挙げられる。ナースステーションでは、ステーションサーバー10で各患者の容体の変化を把握することができる。また、ステーションサーバー10は、携帯端末60に各患者の測定データを送信する。また、ステーションサーバー10は、通信ネットワークを介して接続されたクラウドサーバー等に各患者の測定データを送信することとしてもよい。
【0028】
また、ステーションサーバー10には、外付HDD(Hard Disk Drive)20、UPS(Uninterruptible Power Supply:無停電電源装置)21、プリンター22が接続されている。
外付HDD20は、ステーションサーバー10において管理される各患者の生体情報等のデータを記憶する。
UPS21は、二次電池等の電力を蓄積する装置を内蔵し、停電等により外部からの電力供給が途絶えても、一定時間決められた出力で電力を供給することができる装置である。
プリンター22は、用紙上に測定データを印刷するものであり、ステーションサーバー10の表示部13に表示される各種測定データ等を印刷する。
【0029】
ベッドサイド端末30は、各患者のベッドサイドに設置され、呼吸センサーやパルスオキシメーター等のセンサーユニット40A,40Bから患者の生体情報を取得し、測定結果を表示する。また、ベッドサイド端末30は、ICカード51を読み取って医療従事者の識別情報を取得したり、体温計等のHR(Health Record)ジョイント(登録商標)対応の測定器52から患者の生体情報を取得したりする。ベッドサイド端末30は、生体情報の測定データをステーションサーバー10に送信する。
【0030】
携帯端末60は、ステーションサーバー10から送信された各患者の測定データ(生体情報)を表示する。これにより、医療従事者は、ナースステーション以外からも、各患者の容体の変化を確認することができる。なお、ベッドサイド端末30から携帯端末60に、直接各患者の測定データを送信可能としてもよい。
【0031】
〔ステーションサーバーの構成〕
図2に、ステーションサーバー10の機能的構成を示す。
図2に示すように、ステーションサーバー10は、制御部11、操作部12、表示部13、無線通信部14、記憶部15、通信部16、I/F(インターフェース)部17~19等を備えて構成されており、各部はバスにより接続されている。
【0032】
制御部11は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)等から構成され、ステーションサーバー10の各部の処理動作を統括的に制御する。具体的には、CPUは、記憶部15に記憶されている各種処理プログラムを読み出してRAMに展開し、当該プログラムとの協働により各種処理を行う。
【0033】
操作部12は、カーソルキー、文字・数字入力キー及び各種機能キー等を備えたキーボードと、マウス等のポインティングデバイスを備えて構成され、キーボードに対するキー操作やマウス操作により入力された操作信号を制御部11に出力する。
【0034】
表示部13は、LCD(Liquid Crystal Display)等のモニターを備えて構成されており、制御部11から入力される表示信号の指示に従って、各種画面を表示する。
【0035】
無線通信部14は、無線通信により、ベッドサイド端末30や携帯端末60とデータの送受信を行うための無線インターフェースである。
【0036】
記憶部15は、HDDや不揮発性の半導体メモリー等により構成され、各種データを記憶している。例えば、記憶部15には、ベッドサイド端末30から受信した生体情報の測定データが、患者と対応付けられて記憶されている。また、記憶部15には、各ベッドサイド端末30に対応する各患者の患者情報が記憶されている。患者情報には、患者識別情報(患者名、患者ID)、患者の病歴、注意事項、申し送り事項等が含まれる。患者情報は、事前に入力するか、電子カルテの情報を外部機器から取得することによって、記憶部15に予め記憶させておく。なお、ステーションサーバー10において管理される情報は、記憶部15に記憶されていてもよいし、外付HDD20に記憶されていてもよい。
【0037】
通信部16は、ネットワークインターフェース等により構成され、LAN(Local Area Network)やWAN(Wide Area Network)、インターネット等の通信ネットワークを介して接続された外部装置との間でデータの送受信を行う。
【0038】
I/F部17~19は、各種機器と接続するためのインターフェースである。ここでは、I/F部17~19は、それぞれ、外付HDD20、UPS21、プリンター22と接続されている。
【0039】
〔ベッドサイド端末の構成〕
図3に、ベッドサイド端末30の機能的構成を示す。
図3に示すように、ベッドサイド端末30は、制御部31、操作部32、表示部33、計時部34、無線通信部35、記憶部36、I/F部37、データ入力部38等を備えて構成されており、各部はバスにより接続されている。
【0040】
制御部31は、CPU、RAM等から構成され、ベッドサイド端末30の各部の処理動作を統括的に制御する。具体的には、CPUは、記憶部36に記憶されている各種処理プログラムを読み出してRAMに展開し、当該プログラムとの協働により各種処理を行う。
【0041】
操作部32は、各種スイッチ、各種機能ボタン等を備えており、これらの操作信号を制御部31に出力する。各種機能ボタンには、各種処置内容(痰吸引、体温測定等)、離床(トイレ、入浴等)等を行ったことを入力するためのボタンが含まれている。
【0042】
表示部33は、LCD等を備えて構成されており、制御部31から入力される表示信号の指示に従って、各種画面を表示する。例えば、表示部33は、センサーユニット40A,40Bから取得された生体情報(測定値、測定波形等)を表示する画面を表示する。
【0043】
計時部34は、計時回路(RTC:Real Time Clock)を有し、この計時回路により現在日時を計時して制御部31に出力する。
【0044】
無線通信部35は、無線通信により、ステーションサーバー10とデータの送受信を行うための無線インターフェースである。
【0045】
記憶部36は、不揮発性の半導体メモリー等で構成されており、各種処理プログラム、当該プログラムの実行に必要なパラメーターやファイル等を記憶している。記憶部36には、ベッドサイド端末30に対応する患者の生体情報が記憶されている。
【0046】
また、記憶部36には、ベッドサイド端末30に対応する患者の患者識別情報(患者名、患者ID)が記憶されている。
【0047】
I/F部37は、センサーユニット40A,40Bと接続するためのインターフェースであり、センサーユニット40A,40Bから患者の生体情報信号を受信する。
なお、図3では、ベッドサイド端末30に2個のセンサーユニット40A,40Bが接続されている場合を図示しているが、この例に限定されない。例えば、ベッドサイド端末30に1個又は3個以上のセンサーユニットが接続されていてもよいし、ベッドサイド端末30に接続された1個のセンサーユニットが複数のセンサーを備えていてもよい。
【0048】
センサーユニット40A,40Bは、それぞれ、制御部41、センサー42、記憶部43、I/F部44等を備えて構成されており、各部はバスにより接続されている。
【0049】
制御部41は、CPU、RAM等から構成され、センサーユニット40A,40Bの各部の処理動作を統括的に制御する。具体的には、CPUは、記憶部43に記憶されている各種処理プログラムを読み出してRAMに展開し、当該プログラムとの協働により各種処理を行う。
【0050】
センサー42は、患者の生体情報を測定するためのセンサーであり、センサーの種類に応じた生体情報信号を生成する。センサー42として、測定対象とする生体情報に対応するセンサーが用いられ、例えば、電波式センサー、圧力式センサー等が挙げられる。
【0051】
電波式センサーは、電波を発信し、測定対象物で反射された電波を受信し、送信波と反射波の間で周波数の変化が生じることで、測定対象物の移動速度(動き)を検出する非接触式のセンサーである。電波式センサーとしては、マイクロ波センサー、ミリ波センサー等が挙げられる。また、電波式センサーには、ドップラーセンサー、FMCW(Frequency Modulated Continuous Wave)センサー等の種類がある。電波式センサーは、I信号と、I信号と所定の位相だけ異なるQ信号と、を出力する。例えば、Q信号は、I信号と90°だけ位相が異なる。
【0052】
圧力式センサーは、測定対象物からの圧力を電気信号に変換することで、測定対象物の動きを検出する接触式のセンサーである。
【0053】
記憶部43は、不揮発性の半導体メモリー等で構成されており、各種処理プログラム、当該プログラムの実行に必要なパラメーターやファイル等を記憶している。
I/F部44は、ベッドサイド端末30との間でデータ通信を行う。
【0054】
ベッドサイド端末30のデータ入力部38は、NFC(Near Field Communication)リーダーにより構成される。データ入力部38は、医療従事者が所持するICカード51から医療従事者の識別情報を取得する。また、データ入力部38は、HRジョイント対応の測定器52から患者の生体情報を取得する。例えば、データ入力部38により取得された情報は、計時部34から取得された現在日時と対応付けられて、ステーションサーバー10に送信される。
【0055】
本実施の形態では、電波式センサー(I信号、Q信号)、圧力式センサー等から取得したN個の生体情報信号により特定されるN次元空間上の測定点の座標位置について、軌跡の周期性を求める。
【0056】
図14に示すように、I-Q平面上の呼吸を表すI信号とQ信号により特定される点の軌跡が、原点を中心とした円弧を描かず、ループを描く場合でも、呼吸に合わせて、比較的一定の軌跡上を往復することが分かっている。また、I-Q平面上で、呼気と吸気が切り替わる位置の近くでI信号とQ信号により特定される点の移動速度が遅くなるという特徴がある。
【0057】
制御部31は、同一の生体情報を測定対象としたN個(Nは2以上の整数)の生体情報信号(時系列データ)を取得する。すなわち、制御部31は、取得手段として機能する。
生体情報として、例えば、呼吸及び/又は心拍を用いる。以下、生体情報として呼吸を扱う場合について説明する。制御部31は、I/F部37を介して、呼吸を測定対象としてセンサーユニット40A,40Bのセンサー42からそれぞれ出力されたN個の生体情報信号を取得する。
【0058】
呼吸センサーとしては、以下の種類のセンサー[1]~[7]を利用することができる。
[1]電波式センサー(例えば、特許第6290501号公報参照)
電波式センサーとしては、ドップラーセンサー(使用電波:マイクロ波)、FMCWセンサー(使用電波:マイクロ波、ミリ波)、パルスドップラーセンサー(使用電波:マイクロ波、ミリ波)、UWB(パルスレーダー)(使用電波:マイクロ波)等がある。
【0059】
[2]圧力式センサー
圧力式センサーとしては、圧電センサー(例えば、特許第4139828号公報参照)、空圧センサー(例えば、特開2017-219341号公報参照)、荷重センサー(例えば、特許第6268219号公報参照)等がある。
【0060】
[3]サーミスター(半導体温度センサー)
サーミスターを利用したセンサーは、患者の鼻穴に直接取り付けられ、気流による温度変化から呼気と吸気とを判別して、呼吸を計測する。
【0061】
[4]胸郭インピーダンス
胸郭インピーダンスを利用したセンサーは、心電図用に胸に貼った電極間に微弱な電流を流し、インピーダンス変化を電圧変化として検出する。
【0062】
[5]アコースティック
音響トランスデューサー内蔵の粘着式センサーを患者の頸部に貼り、気道を通過する空気音を測定する。この空気音をSpOと同時に測定することで、呼吸パターン(呼気・吸気)を識別する。
【0063】
[6]カプノグラフィー
カプノグラフィーは、呼気・吸気に含まれる二酸化炭素分圧を測定することで、呼吸動作を検出する。
【0064】
[7]オキシメトリー
通常のパルスオキシメーターでSpOと脈拍数を測定するために得たデータを用い、呼吸による静脈還流の変動で脈波のベースラインが変動することを利用して、呼吸数を算出する。
【0065】
制御部31は、同一の生体情報を測定対象としたN個の生体情報信号を取得するに当たり、例えば、1個以上の電波式センサーから生体情報信号(I信号、Q信号)を取得する。制御部31は、更に1個以上の圧力式センサーから、電波式センサーと同一の生体情報についての生体情報信号を取得する。
【0066】
あるいは、制御部31は、同一の生体情報を測定対象としたN個の生体情報信号を取得するに当たり、2個以上の圧力式センサーから生体情報信号を取得する。
【0067】
制御部31は、N次元空間上におけるN個の生体情報信号により特定される点の軌跡の自己相関を解析する。すなわち、制御部31は、解析手段である。自己相関は、処理対象の時系列データが、当該データを所定時間シフトしたデータと一致する程度を示す尺度であり、シフト時間の関数となる。
【0068】
具体的には、制御部31は、N次元空間上のN個の生体情報信号により特定される点の軌跡上において、第1の時刻に対応する第1の点と、第1の時刻と所定の時間差だけ異なる第2の時刻に対応する第2の点と、の2点間のベクトルのノルムに応じた値を、第1の時刻を変えながら足し合わせて総和を求める。制御部31は、所定の時間差を変えながら当該所定の時間差ごとに総和を求めることで、自己相関を解析する。
【0069】
ノルムとは、N次元データにおいて、2点が示すベクトルの長さの概念を有する値である。ノルムに応じた値は、N次元空間上の2点間の距離の大小関係と一致している値であればよく、一般的なノルムでなくてもよい。ノルムに応じた値として、例えば、2点間の各成分の差の絶対値の和、2点間の各成分の差の累乗の和等を用いることができ、これらの値に対して累乗根を取ったり、何らかの値を掛けたりすることは必須ではない。
また、所定の時間差は、0も取り得る。
すなわち、第1の時刻をt、tにおける生体情報信号をI(t)、第1の時刻tから時間差τずれた時刻(t+τ)の生体情報信号をI(t+τ)としたとき、ノルムとしては、|I(t)-I(t+τ)|であってもよいし、(I(t)-I(t+τ))などの高次のものであってもよい。
【0070】
本実施の形態においては、制御部31は、第1の時刻をt、tにおけるN個の生体情報信号をI(t)(j=1~N)、所定の時間差をτ、第1の時刻の上限をk、τにおける総和をZ(τ)として、式(1)により、Z(τ)を求める。
【0071】
【数2】
【0072】
式(1)の中括弧{}内は、N次元データの各成分における時間差τだけ異なる信号値の差の2乗の和であるから、Z(τ)は0以上の値を取り、τ=0で0となる。
【0073】
Z(τ)は、時間差τが生体情報の周期の整数倍と一致した場合に、極小値を取る(一般的な自己相関関数と逆である)ため、下記式(2)に示すように、0以上1以下の範囲となるように正規化したZ(τ)の符号を反転させ、1を加算したものをPACF(Position AutoCorrelation Function)と定義する。これにより、PACF(τ)は0以上1以下の値を取り、τ=0で1となる。PACFは、N次元空間上におけるN個の生体情報信号により特定される点の軌跡の自己相関を示す値である。
【0074】
【数3】
【0075】
PACFの値は、計測期間全体の傾向を反映するので、全体的に含まれるノイズ及び一部に重畳されるノイズ(バーストノイズなど)のいずれの影響も軽減される。一方で、呼吸など計測対象の周期性が均一ではない場合には、周期に比して長すぎる計測期間のデータを入力すると関数PACF(τ)の値が大きくならず、結果が不正確になる場合がある。したがって、呼吸の周期と同程度~数周期程度でデータを区切って、入力する計測期間を各々定めればよい。計測期間は、直近の計測状況に従って可変とされてもよい。また、計測期間は、一部ずつ重複させながらスライドさせていってもよい。呼吸数を求める単位時間が計測期間より長い場合には、直近の単位時間内で得られた複数の計測期間における呼吸数を加算(重複がある場合には、重複の度合に応じた重み付けをしてもよい)してもよい。
【0076】
制御部31は、N次元空間上における点の軌跡の自己相関から、点の軌跡の周期性を求めることにより、測定対象とした生体情報の周期性に関する値を算出する。すなわち、制御部31は、算出手段である。周期性に関する値は、生体情報の周期性を表す情報であれば、特に限定されない。周期性に関する値として、例えば、周期、周波数(振動数)、呼吸数(単位時間当たりの呼吸の数)、心拍数(単位時間当たりの心拍の数)等が挙げられる。
【0077】
〔ベッドサイド端末の動作〕
次に、ベッドサイド端末30における動作について説明する。
図4は、ベッドサイド端末30により実行される処理を示すフローチャートである。この処理は、制御部31のCPUと記憶部36に記憶されているプログラムとの協働によるソフトウェア処理によって実現される。
【0078】
制御部31は、I/F部37を介して、センサーユニット40A,40Bから、呼吸を測定対象としたN個の生体情報信号(電波式センサーのI信号、Q信号等)を取得する(ステップS1)。なお、N個の生体情報信号は、センサーユニット40A,40Bから継続的に出力されており、制御部31は、処理に用いる時系列データの範囲を、現在から遡って所定時間とする。
【0079】
次に、制御部31は、取得したN個の生体情報信号に対し、それぞれ前処理を行う(ステップS2)。
前処理には、クラッタリキャリブレーション補正、体動検出、離床検出、バンドパスフィルター処理等が含まれる。
【0080】
クラッタリキャリブレーション補正は、信号中から測定対象外の動き(ノイズ)を除去する処理である。例えば、信号値が予め定められた範囲内から離れている場合に、当該範囲内に入るように補正する。
【0081】
体動検出、離床検出は、生体情報信号(I信号、Q信号等)から得られる速度や振幅の大きさ等により、体動や離床を検出する処理である。安静時と異なる部分の信号は、呼吸数の算出に用いないこととする。
【0082】
バンドパスフィルター処理は、信号から特定の周波数帯(例えば、通過域:4~150bpm)のみを抽出する処理である。
【0083】
次に、制御部31は、前処理後のN個の生体情報信号に対し、周期信号算出処理を行う(ステップS3)。
周期信号算出処理には、トレンド除去処理(ステップS31)、PACF算出処理(ステップS32)、信頼性指標算出処理(ステップS33)、リカーシブフィルター処理(ステップS34)が含まれる。
【0084】
トレンド除去処理(ステップS31)は、生体情報信号に含まれるトレンド成分(比較的周波数が低い変動成分)を除去する処理である。
【0085】
(PACF算出処理)
PACF算出処理(ステップS32)は、上記式(1)、式(2)により、N個の生体情報信号からPACFを算出する処理である。ここで、PACFの具体的な算出方法について説明する。
【0086】
<1次元の場合>
Nは2以上の整数であるが、Z(τ)、PACF(τ)を理解しやすくするために、まず、N=1の場合を説明する。1次元の場合、上記式(1)で定義されたZ(τ)を書き直すと、下記式(3)のようになる。ここで、I(t)は、時刻tにおける生体情報信号である。
【0087】
【数4】
【0088】
図5(a)に、生体情報信号として取得された信号I(t)の例を示す。
(A)信号I(t)の波形に対して、時間差τだけ遅れた信号I(t+τ)は、図5(a)に示すように、I(t)を時間差τだけ左にずらした波形となる。
(B)時刻tにおけるI(t)とI(t+τ)の差の2乗について、時刻tに沿って総和Z(τ)を算出する。
(C)時間差τを変えながら、(A)、(B)の処理を順に一定区間(1周期分以上)繰り返し、各時間差τについて総和Z(τ)を算出する。
【0089】
(D)上記式(2)に従って、正規化したZ(τ)の符号を反転させ、1を加算した値をPACF(τ)とする。図5(b)に、PACF(τ)の例を示す。
PACF(τ)として、信号I(t)に含まれる周波数の波形が得られる。PACF(τ)は、信号I(t)と比較して、ノイズが低減されている。
【0090】
<2次元の場合>
2次元の場合、上記式(1)で定義されたZ(τ)を書き直すと、下記式(4)のようになる。ここで、I(t)、Q(t)は、時刻tにおける電波式センサーから得られたI信号、Q信号である。
【0091】
【数5】
【0092】
図6に、2個の生体情報信号(I信号/Q信号)の時間変化の例を示す。図6では、I-Q平面に直交する方向に、時刻tを取っている。
信号I(t)及び信号Q(t)により描かれる波形に対して、時間差τだけ遅れた信号I(t+τ)及び信号Q(t+τ)を考える。
時刻tを変えながら、(I(t)-I(t+τ))+(Q(t)-Q(t+τ))を足し合わせ、時間差τにおける総和Z(τ)を求める。
(I(t)-I(t+τ))+(Q(t)-Q(t+τ))は、I-Q平面において、(I(t),Q(t))で特定される点と、(I(t+τ),Q(t+τ))で特定される点の距離の2乗に相当する値である。
【0093】
上記式(4)に従ってZ(τ)を算出した後、上記式(2)に従ってPACF(τ)を算出する。
【0094】
<4次元の場合>
4次元の場合、上記式(1)で定義されたZ(τ)を書き直すと、下記式(5)のようになる。ここで、I(t)、Q(t)、I(t)、Q(t)は、それぞれ、電波式センサー2台から得られたI信号、Q信号である。
【0095】
【数6】
【0096】
式(5)に示すように、4次元空間上において4個の生体情報信号により特定される点と、所定の時間差τだけ異なる時刻の点との差を用いて、時間差τにおける総和Z(τ)を算出する。
上記式(5)に従ってZ(τ)を算出した後、上記式(2)に従ってPACF(τ)を算出する。
【0097】
(信頼性指標算出処理)
信頼性指標算出処理(ステップS33)は、PACFに対する信頼性指標を算出する処理である。信頼性指標は、データの信頼性を示す値である。
【0098】
信頼性指標を算出する際に、例えば、以下の方法が用いられる。
(A)PACFにおいて、一定期間内の総ピーク数や、個々のピーク間隔が呼吸測定仕様範囲(例えば、4~50bpm)から外れる場合に、信頼性指標を0にする。
(B)ピーク間隔の分散が所定値より大きい場合に、信頼性指標を小さくする。
(C)PACFにおいて、τ=0における極大値(最大値)を第1ピーク、次の極大値を第2ピークとして、第2ピークの高さが第1ピークと比較して低い場合、自己相関が小さいと判断し、信頼性指標を小さくする。
【0099】
(リカーシブフィルター処理)
リカーシブフィルター処理(ステップS34)は、時系列データについて複数の時刻において取得されたデータを用いて加算平均を取る処理であり、動画のノイズ低減等に使われる。具体的には、最新のデータと過去のデータとを所定の比率で加算したものを、処理後のデータとして扱う。
【0100】
図7を参照して、PACFに対するリカーシブフィルター処理について説明する。図7に示す最新PACFは、最新の測定データ(時系列データ)から算出されたPACFである。呼吸数算出用PACFは、時間的に一つ前のPACFまでのデータが反映されたPACFである。例えば、最新PACF×0.1+呼吸数算出用PACF×0.9の値を、次の呼吸数算出用PACFとして更新していく。
なお、呼吸数算出用PACFの初期値は、0で一定とする。
【0101】
最新PACFから求められた信頼性指標が低い場合は、リカーシブフィルター処理に用いる最新PACFの比率を小さくすることで、ノイズを除去する。
【0102】
連続して体動や離床が検出されると、最新PACFは信頼性指標が低いと判断され、古いPACFに基づいて算出された呼吸数等が表示部33に表示され続けることになる。これを回避するため、体動、離床検出時には、リカーシブフィルター処理に用いる呼吸数算出用PACFの比率を小さくすることが望ましい。
【0103】
ステップS3の後、制御部31は、リカーシブフィルター処理後のPACFに対して周期性判定処理を行う(ステップS4)。
周期性判定処理には、ピーク検出処理(ステップS41)、個々の呼吸周期算出処理(ステップS42)、呼吸周期のノイズ除去処理(ステップS43)、呼吸数算出処理(ステップS44)が含まれる。
【0104】
ピーク検出処理(ステップS41)は、リカーシブフィルター処理後のPACFの波形から、ピーク(極大値・極小値)を検出する処理である。
【0105】
個々の呼吸周期算出処理(ステップS42)は、隣り合うピーク間(極大値と極大値の間・極小値と極小値の間)の時間を、個々の呼吸周期(ピーク間隔)として求める処理である。具体的には、制御部31は、第1ピーク(τ=0の極大値)から第2ピーク(2番目の極大値)までの時間、第2ピークから第3ピーク(3番目の極大値)までの時間、第3ピークから第4ピーク(4番目の極大値)までの時間等を、それぞれ周期として算出する。
【0106】
呼吸周期のノイズ除去処理(ステップS43)は、算出された個々の呼吸周期からノイズを除去する処理である。例えば、個々の呼吸周期(ピーク間隔)のうち、大きい方から2個、小さい方から2個分のデータを除外する。
【0107】
呼吸数算出処理(ステップS44)は、ノイズ除去した後の呼吸周期の平均値を算出し、この平均値から呼吸数を算出する処理である。呼吸周期の平均値をT(秒)とすると、呼吸数は60/T(bpm)となる。
【0108】
制御部31は、このようにして算出した呼吸数を表示部33に表示させる。表示部33に表示される呼吸数の値は、センサーユニット40A,40Bから生体情報信号を取得するサンプリング間隔で更新される。
【0109】
生体から測定される信号は、どの時点からデータを取得するかによって、値の増減のタイミング(位相)が異なる。
これに対し、PACFは、式(1)、(2)に示すように、τ=0で最大値を取るように定義されているので、PACFをグラフ化すると、必ず左端(τ=0)が最大ピーク位置となる。このため、どの時点からデータ(生体情報信号)を取得しても、τ=0でPACFの位相(値の増減のタイミング)が揃うことになる。PACFがこのような特徴を有していることにより、データの取得開始時が異なるPACFに対して、リカーシブフィルターを適用することができる。
【0110】
〔実施例1〕
実施例1では、マイクロ波センサー1個(I信号、Q信号)から出力される2個の生体情報信号を用いる場合について説明する。
図8に、呼吸を測定対象として得られたI信号、Q信号のI-Q平面における軌跡を示す。図8において、状態Aから状態Bに向かう向きが呼気に相当し、状態Bから状態Aに向かう向きが吸気に相当する。
【0111】
図9(a)は呼吸波形の時系列データ、図9(b)及び(c)はそれぞれ、I信号、Q信号の時系列データ、図9(d)はI信号、Q信号から作成したPACFである。図9(a)~(c)の横軸は時刻t、図9(d)の横軸は時間差τである。図9(a)~(c)では、グラフ内において、状態A、状態Bに相当する位置を示している。
なお、図9(a)の呼吸波形の時系列データは、実際に測定したデータではなく、各生体情報信号が呼吸波形のどこに対応するかを示すためのものである。実施例2、3においても同様である。
【0112】
実際のセンサーから取得される信号は、ノイズに埋もれて、周波数(振動数)の検出が困難な場合が多い。そのような信号が含まれていても、複数の信号の全体の動きが反映されているPACFを用いることで、測定対象の生体情報の周波数(呼吸データでは、単位時間当たりの呼吸数に相当する。)を精度良く検出することができる。
【0113】
また、実施例1で用いたQ信号は、図8及び図9(c)に示すように、状態Aから状態Bに向かう時にも信号値が増加してから減少し、状態Bから状態Aに向かう時にも信号値が増加してから減少する。すなわち、実際にI-Q平面上で軌跡上を1往復する間に、Q信号の値は2回増減を繰り返すことになる。このように、Q信号やI信号が、測定対象である呼吸の2倍の周波数となる動きをする場合にも、PACFは、その影響を受けない。
【0114】
また、PACFは、τ=0で必ず最大値から始まる(=位相が揃う)ため、異なるタイミングで得られたPACFに対してリカーシブフィルターを適用することができ、ノイズの低減を行いやすいという利点がある。
【0115】
〔実施例2〕
実施例2では、マイクロ波センサー2個(I信号/Q信号×2個)から出力される4個の生体情報信号を用いる場合について説明する。
図10(a)に、呼吸を測定対象として第1マイクロ波センサーにより得られたI信号、Q信号のI-Q平面における軌跡を示す。図10(b)に、呼吸を測定対象として第2マイクロ波センサーにより得られたI信号、Q信号のI-Q平面における軌跡を示す。図10(a)及び(b)において、状態Aから状態Bに向かう向きが呼気に相当し、状態Bから状態Aに向かう向きが吸気に相当する。
【0116】
図11(a)は呼吸波形の時系列データ、図11(b)及び(c)はそれぞれ、I信号、Q信号の時系列データ、図11(d)及び(e)はそれぞれ、I信号、Q信号の時系列データ、図11(f)はI信号、Q信号、I信号、Q信号から作成したPACFである。図11(a)~(e)の横軸は時刻t、図11(f)の横軸は時間差τである。図11(a)~(e)では、グラフ内において、状態A、状態Bに相当する位置を示している。
【0117】
或る生体情報を測定対象として生体情報信号を出力するセンサーの個数が増えた場合でも、PACFを用いた生体情報の自己相関の解析方法を容易に適用することができる。
一般的に、被験者とセンサーの位置関係によって、出力される信号のS/N比が変わるため、複数の位置にセンサーを配置することで、患者が移動した場合にも、いずれかのセンサーが正しく患者を捉えている状態にすることが望ましい。
例えば、図11(d)に示すように、第2マイクロ波センサーから出力されるI信号の振幅が小さくてノイズに埋もれてS/N比が悪かったとしても、PACFを用いることにより、第1マイクロ波センサーと第2マイクロ波センサーから出力される4個の信号から総合的に、被験者の呼吸の周期的な動きを検出することができる。
【0118】
〔実施例3〕
実施例3では、マイクロ波センサー2個(I信号/Q信号×2個)と圧電センサー1個から出力される5個の生体情報信号を用いる場合について説明する。
呼吸を測定対象として第1マイクロ波センサーにより得られたI信号、Q信号のI-Q平面における軌跡、呼吸を測定対象として第2マイクロ波センサーにより得られたI信号、Q信号のI-Q平面における軌跡は、図10(a)及び(b)に示したものと同様である。
【0119】
図12(a)は呼吸波形の時系列データ、図12(b)及び(c)はそれぞれ、I信号、Q信号の時系列データ、図12(d)及び(e)はそれぞれ、I信号、Q信号の時系列データ、図12(f)は呼吸を測定対象として圧電センサーから出力された信号の時系列データ、図12(g)はI信号、Q信号、I信号、Q信号、圧電センサー信号から作成したPACFである。図12(a)~(f)の横軸は時刻t、図12(g)の横軸は時間差τである。図12(a)~(f)では、グラフ内において、状態A、状態Bに相当する位置を示している。
【0120】
マイクロ波センサーと圧電センサー等、位相(値の増減のタイミング)の異なるセンサーを組み合わせた場合でも、各センサーから出力される全ての信号全体の動きから測定対象の生体情報の周波数を検出することができる。
【0121】
以上説明したように、本実施の形態によれば、N次元空間上におけるN個の生体情報信号により特定される点の軌跡の自己相関を利用することで、生体情報の周期性に関する値を精度良く算出することができる。1個の生体情報信号では、ノイズが多い場合や、見かけ上、倍の周期のような増減を示す場合には、正しい周期や周波数を得られないこともあったが、本実施の形態では、複数の生体情報信号から総合的に周期性を検出することができる。
【0122】
また、N次元空間上におけるN個の生体情報信号により特定される点の軌跡上において、所定の時間差だけ異なる2点間のベクトルのノルムに応じた値の総和を用いて、点の軌跡の自己相関を求めることができる。
ノルムに応じた値の総和は、0以上の値となるため、この総和が極小値となる「時間差」を、生体信号の周期の整数倍と判断することができる。
【0123】
具体的には、上記式(1)で定義されるZ(τ)を用いることで、生体情報の周期性に関する値を精度良く算出することができる。
【0124】
また、上記式(2)で定義されるPACF(τ)は、0以上1以下の範囲となるように正規化したZ(τ)の符号を反転させた項を含むため、PACF(τ)は、所定値以下の値を取るτの関数となり、τ=0で最大値となる。更に、PACF(τ)の値が0以上1以下の範囲になるように所定値を1とすることで、τ=0でPACF(τ)=1となる。このように、生体情報の周期が反映された新たな周期信号を用いることで、精度良く生体情報の周期性を検出することが可能となる。
【0125】
なお、上記実施の形態における記述は、本発明に係る生体情報処理装置の例であり、これに限定されるものではない。装置を構成する各部の細部構成及び細部動作に関しても本発明の趣旨を逸脱することのない範囲で適宜変更可能である。
【0126】
例えば、上記実施の形態では、ベッドサイド端末30において、呼吸の周期性に関する値(呼吸数)を算出することとしたが、ベッドサイド端末30に接続されたセンサーユニット40A,40B内で同一の生体情報を測定対象とした複数の生体情報信号を取得可能である場合には、センサーユニット40A,40B内で当該生体情報の周期性に関する値(周期、周波数、呼吸数、心拍数等)を算出することとしてもよい。
また、ステーションサーバー10において、ベッドサイド端末30から収集したデータを用いて、生体情報の周期性に関する値を算出することとしてもよい。
さらには、センサーユニット40A,40Bと通信可能な場所に、PACF算出部を有し、周期性のある値を算出する信号処理装置を独立して設けてもよい。
【0127】
また、上記式(2)では、Z(τ)に対する正規化後の値の範囲を0以上1以下とし、正規化したZ(τ)に1を加算することとしたが、PACF(τ)の算出において、Z(τ)に対する正規化後の値の範囲や、正規化したZ(τ)に加算する値については、上記の例に限定されない。
【0128】
また、各センサーから取得される生体情報信号がPACFの算出に与える影響を均一化するためには、各センサーの信号波形をそれぞれ正規化したものをPACFの算出に使用すればよい。正規化としては、例えば、まず、信号波形から信号値の平均値を引くことで、0中心の振幅にして、その後、信号値の標準偏差で割ることで、信号波形の振幅を揃える。また、信号波形の振幅を1にすることとしてもよい。特に、実施例3のように、種類の異なるセンサー(マイクロ波センサーと圧電センサー等)を用いる場合には、個々の信号値を正規化しておくことが望ましい。
【0129】
更に、患者の動きを正しく捉えている生体情報信号、すなわち、信頼性が高い生体情報信号は、他の生体情報信号よりもPACFの算出に与える影響を大きくすることで、測定精度を向上させることができる。
例えば、生体情報信号ごとに異なる重みを設け、正規化した信号に対して、その重みを掛けた信号を生成し、それらをPACFの算出に用いる。この場合、センサーごとに出力される信号から信頼性の高い生体情報信号を特定し、信頼性の高い生体情報信号の重みを大きくする。
また、信号波形のピーク間隔の分散(ばらつき)が小さい生体情報信号については、信頼性が高いと判断し、PACFの算出に与える影響を大きくすることが望ましい。
【0130】
また、各装置において各処理を実行するためのプログラムは、可搬型記録媒体に格納されていてもよい。また、プログラムのデータを通信回線を介して提供する媒体として、キャリアウェーブ(搬送波)を適用することとしてもよい。
【符号の説明】
【0131】
10 ステーションサーバー
30 ベッドサイド端末
31 制御部
32 操作部
33 表示部
35 無線通信部
36 記憶部
37 I/F部
40A,40B センサーユニット
42 センサー
100 生体情報監視システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14