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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】内燃機関用の点火コイル
(51)【国際特許分類】
   F02P 15/00 20060101AFI20240925BHJP
   H01F 38/12 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
F02P15/00 303B
F02P15/00 303E
H01F38/12 C
H01F38/12 G
H01F38/12 N
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021043322
(22)【出願日】2021-03-17
(65)【公開番号】P2022143012
(43)【公開日】2022-10-03
【審査請求日】2024-01-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】近藤 祐樹
【審査官】家喜 健太
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/181517(WO,A1)
【文献】特開2013-65743(JP,A)
【文献】特開2011-171659(JP,A)
【文献】特開平6-84664(JP,A)
【文献】特開2013-065743(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0212635(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02P 15/00
H01F 38/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次コイル(2)と、
前記一次コイルの外側に同心状に配置された二次スプール(31)と、
前記二次スプールの外周の径方向(R)及び軸方向(L)に巻き付けられ、発生する電圧が前記軸方向の高電圧側(L1)に向けて高くなる二次コイル(3)と、
前記一次コイルの内側に配置された内側コア(41)と、
前記内側コアの側面(411)の外側において前記軸方向に平行に配置された一対の側面コア部(421)と、前記内側コアの端面(412)の外側において前記軸方向に直交する幅方向(W)に平行に配置された一対の端面コア部(422)とによる四角環形状を有する外側コア(42)と、
前記外側コアの、少なくとも一対の前記側面コア部における内側に位置する内側面(423)を含む表面に設けられたコアカバー(6)と、
前記外側コアの開口側(D2)に位置する開口部(53)を有し、前記一次コイル、前記二次スプール、前記二次コイル、前記内側コア、前記外側コア及び前記コアカバーを収容するコイルケース(5)と、
前記コイルケース内の隙間に充填された充填樹脂(7)と、を備え、
前記二次コイルにおける、前記軸方向の高電圧側に位置する部位の前記径方向の平均厚み(u1)は、前記二次コイルにおける、前記軸方向の低電圧側(L2)に位置する部位の前記径方向の平均厚み(u2)に比べて小さく、
前記コアカバーにおける、一対の前記側面コア部の前記軸方向の高電圧側の前記内側面に設けられた部位の、前記軸方向に直交する断面内の平均断面積(a1)は、前記コアカバーにおける、一対の前記側面コア部の前記軸方向の低電圧側の前記内側面に設けられた部位の、前記軸方向に直交する断面内の平均断面積(a2)に比べて大きい、内燃機関用の点火コイル(1)。
【請求項2】
前記コアカバーは、一対の前記側面コア部における前記内側面に配置された一対の内側カバー部(61)と、一対の前記内側カバー部に繋がって、一対の前記側面コア部における、前記開口側に位置する開口面(425)に配置された一対の開口側カバー部(63)とを有しており、
一対の前記内側カバー部における、前記軸方向の高電圧側に位置する部位の前記幅方向の平均厚み(t1)は、一対の前記内側カバー部における、前記軸方向の低電圧側に位置する部位の前記幅方向の平均厚み(t2)に比べて大きい、請求項1に記載の内燃機関用の点火コイル。
【請求項3】
前記内側カバー部と前記開口側カバー部とによる角部(64)は、曲面状に形成されており、
前記軸方向の高電圧側に位置する部位の前記角部の平均曲率半径(r1)は、前記軸方向の低電圧側に位置する部位の前記角部の平均曲率半径(r2)に比べて小さい、請求項2に記載の内燃機関用の点火コイル。
【請求項4】
前記二次スプールは、筒形状を有する筒部(32)と、前記軸方向の複数箇所において前記筒部の全周において外側に突出する複数の鍔部(33)とを有しており、
前記二次コイルは、前記鍔部同士の間に形成された複数の凹部(321)に、分割コイル部(30)として順次巻き付けられており、
前記軸方向の高電圧側に位置する複数の前記凹部に配置された前記分割コイル部の前記径方向の平均厚み(u1)は、前記軸方向の低電圧側に位置する複数の前記凹部に配置された前記分割コイル部の前記径方向の平均厚み(u2)に比べて小さい、請求項2又は3に記載の内燃機関用の点火コイル。
【請求項5】
前記一次コイルが巻き付けられた筒形状を有する筒部(22)、及び前記筒部から突出して、前記コアカバーにおける前記開口側カバー部の、前記軸方向の外側に対向する突出部(26)を有する一次スプール(21)をさらに備え、
前記開口側カバー部の、前記開口面から前記コイルケースの前記開口部の側への突出量(x1)は、前記一次スプールの前記突出部の、前記開口面から前記コイルケースの前記開口部の側への突出量(x2)に比べて小さい、請求項2~4のいずれか1項に記載の内燃機関用の点火コイル。
【請求項6】
前記一次スプールには、前記筒部から前記幅方向へ突出し、前記コアカバーにおける一対の前記内側カバー部の間に嵌め込まれて、一対の前記内側カバー部の間隔を維持するための間隔維持部(27)が形成されている、請求項5に記載の内燃機関用の点火コイル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関用の点火コイルに関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関用の点火コイルは、内燃機関としてのエンジンの燃焼室において、燃料と燃焼用空気との混合気に点火するために用いられる。点火コイルは、一次コイル、一次コイルの外周側に同軸状に配置されて一次コイルに磁気的に結合される二次コイル、一次コイル及び二次コイルによって生じる磁束を通過させる内側コア及び外側コア等を備えている。また、一次コイル、二次コイル、内側コア、外側コア等の各構成部品はコイルケース内に配置されており、コイルケース内の隙間には、各構成部品を絶縁して固着する充填樹脂が充填されている。
【0003】
二次コイルにおいては、一次コイルへの通電が遮断されたときに、点火プラグに近くなる一方向に向けて、より高い電圧が発生する。点火コイルが大型化することを抑制して、点火コイルの耐電圧性能を確保するために、次の工夫がされている。すなわち、二次コイルが巻き付けられる二次スプールの外周に、軸方向の高電圧側に行くほど軸方向に並ぶ間隔が狭くなる複数の鍔部を設ける。そして、鍔部同士の間の凹部においては、二次スプールの軸方向の高電圧側に位置する凹部ほど、二次コイルを巻き付ける直径を小さくしている。これにより、二次コイルにおける高電圧側に位置する部位において、二次コイルの巻線同士の間に生じる電位差が大きくならないようにし、かつ外側コイルに設けられたコアカバーからの距離を大きくしている。このような構造を有する点火コイルとしては、例えば、特許文献1に記載されたものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-45760号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1等に記載された点火コイルにおいては、二次コイルとコアカバーとの間の隙間に充填される充填樹脂の厚みが、二次スプールの軸方向の高電圧側に位置する部位ほど大きくなる。そのため、点火コイルの使用時の冷熱サイクルにおいて、充填樹脂における、軸方向の低電圧側に位置する部位の熱変形量(熱膨張量及び熱収縮量)に比べて、充填樹脂における、軸方向の高電圧側に位置する部位の熱変形量が大きくなる。その結果、充填樹脂の軸方向の低電圧側及び高電圧側における熱変形量の差によって、充填樹脂に熱応力が集中するおそれがある。
【0006】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたもので、充填樹脂において熱応力の集中が生じにくくすることができる内燃機関用の点火コイルを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、
一次コイル(2)と、
前記一次コイルの外側に同心状に配置された二次スプール(31)と、
前記二次スプールの外周の径方向(R)及び軸方向(L)に巻き付けられ、発生する電圧が前記軸方向の高電圧側(L1)に向けて高くなる二次コイル(3)と、
前記一次コイルの内側に配置された内側コア(41)と、
前記内側コアの側面(411)の外側において前記軸方向に平行に配置された一対の側面コア部(421)と、前記内側コアの端面(412)の外側において前記軸方向に直交する幅方向(W)に平行に配置された一対の端面コア部(422)とによる四角環形状を有する外側コア(42)と、
前記外側コアの、少なくとも一対の前記側面コア部における内側に位置する内側面(423)を含む表面に設けられたコアカバー(6)と、
前記外側コアの開口側(D2)に位置する開口部(53)を有し、前記一次コイル、前記二次スプール、前記二次コイル、前記内側コア、前記外側コア及び前記コアカバーを収容するコイルケース(5)と、
前記コイルケース内の隙間に充填された充填樹脂(7)と、を備え、
前記二次コイルにおける、前記軸方向の高電圧側に位置する部位の前記径方向の平均厚み(u1)は、前記二次コイルにおける、前記軸方向の低電圧側(L2)に位置する部位の前記径方向の平均厚み(u2)に比べて小さく、
前記コアカバーにおける、一対の前記側面コア部の前記軸方向の高電圧側の前記内側面に設けられた部位の、前記軸方向に直交する断面内の平均断面積(a1)は、前記コアカバーにおける、一対の前記側面コア部の前記軸方向の低電圧側の前記内側面に設けられた部位の、前記軸方向に直交する断面内の平均断面積(a2)に比べて大きい、内燃機関用の点火コイル(1)にある。
【発明の効果】
【0008】
前記一態様の内燃機関用の点火コイルにおいては、外側コアの表面に設けられたコアカバーの形状に工夫をしている。具体的には、コアカバーにおける、一対の側面コア部の軸方向の高電圧側の内側面に設けられた部位の、軸方向に直交する断面内の平均断面積を、コアカバーにおける、一対の側面コア部の軸方向の低電圧側の内側面に設けられた部位の、軸方向に直交する断面内の平均断面積に比べて大きくしている。一方、二次コイルにおける、軸方向の高電圧側に位置する部位の径方向の平均厚みは、二次コイルにおける、軸方向の低電圧側に位置する部位の径方向の平均厚みに比べて小さい。
【0009】
これらの構成により、二次コイルとコアカバーとの間における、軸方向の高電圧側に位置する部位の隙間の大きさを、軸方向の低電圧側に位置する部位の隙間の大きさに近づけることができる。これにより、二次コイルとコアカバーとの間に充填される充填樹脂の部位の平均厚みを、軸方向の高電圧側に位置する部位と、軸方向の低電圧側に位置する部位とにおいて、近くすることができる。その結果、点火コイルの使用時の冷熱サイクルにおいて、充填樹脂に生じる熱膨張量及び熱収縮量を、軸方向の高電圧側に位置する部位と、軸方向の低電圧側に位置する部位とにおいて、近くすることができる。
【0010】
それ故、前記一態様の内燃機関用の点火コイルによれば、充填樹脂において熱応力の集中が生じにくくすることができる。
【0011】
「前記二次コイルにおける、前記軸方向の高電圧側に位置する部位の前記径方向の平均厚み」は、二次コイルの軸方向の全長における中心位置よりも高電圧側の部位の厚みの平均値とすればよい。また、「前記二次コイルにおける、前記軸方向の低電圧側に位置する部位の前記径方向の平均厚み」は、二次コイルの軸方向の全長における中心位置よりも低電圧側の部位の厚みの平均値とすればよい。
【0012】
「前記コアカバーにおける、一対の前記側面コア部の前記軸方向の高電圧側の表面に設けられた部位の、前記軸方向に直交する断面内の平均断面積」は、コアカバーの、一対の側面コア部の表面に設けられた部位の全長における中心位置よりも高電圧側の部位の断面積の平均値とすればよい。また、「前記コアカバーにおける、一対の前記側面コア部の前記軸方向の低電圧側の表面に設けられた部位の、前記軸方向に直交する断面内の平均断面積」は、コアカバーの、一対の側面コア部の表面に設けられた部位の全長における中心位置よりも低電圧側の部位の断面積の平均値とすればよい。
【0013】
なお、本発明において示す各構成要素のカッコ書きの符号は、実施形態における図中の符号との対応関係を示すが、各構成要素を実施形態の内容のみに限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、実施形態1にかかる、点火コイルの断面を示す説明図である。
図2図2は、実施形態1にかかる、点火コイルのコイル組付体の断面を示す説明図である。
図3図3は、実施形態1にかかる、二次コイル、外側コア、コアカバー、充填樹脂等の周辺の断面を拡大して示す説明図である。
図4図4は、実施形態1にかかる、図3のIV-IV線に相当する、点火コイルの軸方向の高電圧側の位置の断面を示す説明図である。
図5図5は、実施形態1にかかる、図3のV-V線に相当する、点火コイルの軸方向の低電圧側の位置の断面を示す説明図である。
図6図6は、実施形態1にかかる、一次コイル、一次スプール、二次コイル、二次スプール、内側コア等が一体化されたコイル中間体を示す斜視図である。
図7図7は、実施形態1にかかる、コアカバーを示す斜視図である。
図8図8は、実施形態1にかかる、二次コイルの各分割コイル部の位置と、各分割コイル部の位置の径方向に対向する充填樹脂の部位に生じる電界の強さとの関係を示すグラフである。
図9図9は、実施形態2にかかる、外側コア及びコアカバーを示す斜視図である。
図10図10は、実施形態2にかかる、図3のIV-IV線に相当する、点火コイルの軸方向の高電圧側の位置の断面を示す説明図である。
図11図11は、実施形態2にかかる、図3のV-V線に相当する、点火コイルの軸方向の高電圧側の位置の断面を示す説明図である。
図12図12は、実施形態3にかかる、コイル組付体をコイルケース内に配置した状態を示す説明図である。
図13図13は、実施形態3にかかる、コアカバーの軸方向の低電圧側の端部の周辺を示す説明図。
図14図14は、実施形態4にかかる、一次コイル、一次スプール、二次コイル、二次スプール、内側コア等が一体化されたコイル中間体を、外側コアに装着されたコアカバーに組み付ける状態を示す説明図である。
図15図15は、実施形態4にかかる、一次コイル、一次スプール、二次コイル、二次スプール、内側コア等が一体化された他のコイル中間体を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
前述した内燃機関用の点火コイルにかかる好ましい実施形態について、図面を参照して説明する。
<実施形態1>
本形態の内燃機関用の点火コイル1は、図1に示すように、一次コイル2、二次スプール31、二次コイル3、内側コア41、外側コア42、コアカバー6、コイルケース5及び充填樹脂7を備える。一次コイル2は、通電及び通電の遮断が行われるものである。二次スプール31は、一次コイル2の外側に同心状に配置されている。二次コイル3は、二次スプール31の外周の径方向R及び軸方向Lに巻き付けられ、発生する電圧が軸方向Lの高電圧側L1に向けて高くなるものである。
【0016】
図2図5に示すように、内側コア41は、一次コイル2の内側に配置されている。外側コア42は、内側コア41の側面411の外側において軸方向Lに平行に配置された一対の側面コア部421と、内側コア41の端面412の外側において軸方向Lに直交する幅方向Wに平行に配置された一対の端面コア部422とによる四角環形状を有する。コアカバー6は、外側コア42の、少なくとも一対の側面コア部421における内側に位置する内側面423を含む表面に設けられている。コイルケース5は、外側コア42の開口側D2に位置する開口部53を有し、一次コイル2、二次スプール31、二次コイル3、内側コア41、外側コア42及びコアカバー6を収容するものである。充填樹脂7は、コイルケース5内の隙間に充填されている。
【0017】
図3図5に示すように、二次コイル3における、軸方向Lの高電圧側L1に位置する部位の径方向Rの平均厚みu1は、軸方向Lの低電圧側L2に位置する部位の径方向Rの平均厚みu2に比べて小さい。コアカバー6における、一対の側面コア部421の軸方向Lの高電圧側L1に位置する内側面423に設けられた部位の、軸方向Lに直交する断面内の平均断面積a1は、コアカバー6における、一対の側面コア部421の軸方向Lの低電圧側L2に位置する内側面423に設けられた部位の、軸方向Lに直交する断面内の平均断面積a2に比べて大きい。
【0018】
以下に、本形態の点火コイル1について詳説する。
(点火コイル1)
図1に示すように、点火コイル1は、車両の内燃機関としてのエンジンにおいて、シリンダヘッドカバー8に配置され、シリンダヘッドに配置されたスパークプラグから、シリンダヘッドの燃焼室内に火花放電を発生させるために用いられる。本形態の点火コイル1は、車載用のものである。点火コイル1は、一次コイル2、二次コイル3、コイルケース5等によって構成されたコイル本体部11と、コイル本体部11から突出して、二次コイル3とスパークプラグとを高圧端子45及びバネ46を介して電気的に接続するためのジョイント部12とを有する。コイル本体部11は、シリンダヘッドカバー8に配置され、ジョイント部12は、シリンダヘッドカバー8のプラグホール81に配置される。
【0019】
(軸方向L,装着方向D,幅方向W)
図1図7に示すように、軸方向Lとは、一次コイル2及び二次コイル3の中心軸線が延びる方向のことをいう。軸方向Lにおいて、二次コイル3に高電圧が生じる側を高電圧側L1といい、高電圧側L1の反対側を低電圧側L2という。装着方向Dとは、軸方向Lに直交する方向であって、コイルケース5の底部52と開口部53とが並ぶ方向のことをいう。コイルケース5の装着方向Dにおいて、底部52が位置し、スパークプラグが配置される側を底側D1といい、底側D1の反対側であって開口部53が位置する側を開口側D2という。また、軸方向L及び装着方向Dの双方に直交する方向を幅方向Wという。
【0020】
(径方向R,周方向C)
一次コイル2及び二次コイル3の中心軸線から放射状に広がる方向のことを径方向Rという。一次コイル2及び二次コイル3の中心軸線の周りの方向のことを周方向Cという。本形態の一次コイル2、二次コイル3等は四角筒状に形成されており、本形態の周方向Cは、四角環状の周方向Cとなる。また、装着方向D及び幅方向Wは、径方向Rに含まれる。
【0021】
(一次コイル2)
図1図5に示すように、一次コイル2は、巻線としてのマグネットワイヤを、一次スプール21の筒部22の外周面に巻き付けることによって形成されている。一次コイル2は、導電性の導体と、導体の周りに設けられた絶縁性の被覆層とによって形成されている。一次コイル2は、エンジン制御装置からの指令を受けたイグナイタ43のスイッチング素子によって、通電及び通電の遮断が繰り返されるものである。
【0022】
(二次コイル3)
図1図5に示すように、二次コイル3は、一次コイル2の外側において、一次コイル2と同軸状に配置されている。二次コイル3は、巻線としてのマグネットワイヤを、二次スプール31の筒部32の外周面に巻き付けることによって形成されている。二次コイル3は、導電性の導体と、導体の周りに設けられた絶縁性の被覆層とによって形成されている。
【0023】
二次コイル3の巻線は一次コイル2の巻線よりも細く、二次コイル3の巻線数は一次コイル2の巻線数よりも多い。二次コイル3は、一次コイル2への通電が遮断されたときに、相互誘導作用による誘導起電力を発生させるものである。一次コイル2及び二次コイル3の中心軸線は、コイルケース5の開口部53に対して直交する方向に向けられている。二次コイル3の巻線の低電圧側L2の端部は、イグナイタ43における、グラウンド又は電源の端子に接続されている。二次コイル3の巻線の高電圧側L1の端部は、スパークプラグの中心側電極に繋がる高圧端子45に接続されている。
【0024】
(内側コア41)
図2及び図3に示すように、一次コイル2の内側(内周側)には、一次コイル2及び二次コイル3によって生じる磁束を通過させるための内側コア41が配置されている。本形態の内側コア41は、軟磁性材料からなる板状の電磁鋼板が複数積層されて形成されている。内側コア41は、直方体形状に形成されており、軸方向Lに対して平行な4つの側面411と、軸方向Lに対して垂直な2つの端面412とを有する。なお、内側コア41は、軟磁性材料からなる粉末が圧縮成形されて形成されたものであってもよい。
【0025】
(外側コア42)
図2図5に示すように、二次コイル3の外側(外周側)には、一次コイル2及び二次コイル3によって生じる磁束を通過させるための外側コア42が配置されている。本形態の外側コア42は、軟磁性材料からなる板状の電磁鋼板が複数積層されて形成されている。外側コア42は、装着方向Dから見た断面において、内側コア41を内側に配置する四角環形状に形成されている。なお、外側コア42は、軟磁性材料からなる粉末が圧縮成形されて形成されたものであってもよい。
【0026】
外側コア42の一対の側面コア部421は、二次コイル3及び二次スプール31の外側であって幅方向Wの両側に位置している。外側コア42の一対の端面コア部422は、二次コイル3及び二次スプール31の軸方向Lの両側L1,L2に位置して一対の側面コア部421に連結されている。イグナイタ43は、外側コア42における、二次コイル3の軸方向Lの低電圧側L2に位置する端面コア部422に対面して配置される。イグナイタ43と端面コア部422との間には、隙間がほとんど形成されておらず、充填樹脂7がほとんど配置されていない。
【0027】
内側コア41と外側コア42とによって、磁束が通過する閉磁路が形成されている。内側コア41と外側コア42との間には、磁気飽和を防止するための永久磁石44が配置されている。
【0028】
(イグナイタ43)
図1及び図2に示すように、点火コイル1は、エンジン制御装置からの指令を受けて、一次コイル2に通電及び通電の遮断を繰り返し行うイグナイタ43を備える。イグナイタ43は、一次コイル2及び二次コイル3の軸方向Lにおいて、外側コア42の端面コア部422の低電圧側L2に対面して配置されている。イグナイタ43は、コイルケース5に装着されるコネクタ部24と外側コア42の端面コア部422との間に配置されている。イグナイタ43は、スイッチング回路を形成するスイッチング素子等の電子部品が設けられた回路形成部と、回路形成部に一体化された放熱板と、回路形成部及び放熱板を覆うモールド樹脂と、回路形成部からモールド樹脂の外部に引き出されたイグナイタ導体431とを有する。
【0029】
(一次スプール21)
図1図5に示すように、一次スプール21の外周には、一次コイル2が巻き付けられている。一次スプール21は、熱可塑性樹脂の成形品によって形成されている。一次スプール21は、一次コイル2が巻き付けられた筒形状を有する筒部22を有する。本形態においては、一次スプール21とコネクタ部24とがスプール成形体210として一体成形されている。スプール成形体210は、四角形状の筒部22と、筒部22の軸方向Lの両端に形成された鍔部221と、コネクタ部24と、筒部22とコネクタ部24とを中継する中継部23とを有する。なお、コネクタ部24は、コネクタとして、一次スプール21の筒部22と別体に形成してもよい。
【0030】
一次コイル2の巻線は、一次スプール21の筒部22における、鍔部221同士の間の外周面に巻き付けられている。コネクタ部24には、イグナイタ43におけるイグナイタ導体431に接続されるコネクタ導体25が、インサート成形によって設けられている。コネクタ部24は、コイルケース5の外部に突出する状態に形成されている。複数のイグナイタ導体431と複数のコネクタ導体25とは、半田付け、溶接等によって互いに接合されている。また、複数のイグナイタ導体431は、一次コイル2の巻線の両端部に接続された導体、及び二次コイル3の巻線の低電圧側L2の端部に接続された導体と、半田付け、溶接等によって互いに接合されている。
【0031】
(二次スプール31)
図1図5に示すように、二次スプール31の外周には、二次コイル3が巻き付けられている。二次スプール31は、熱可塑性樹脂の成形品によって形成されている。二次スプール31は、四角筒形状を有する筒部32と、軸方向Lの複数箇所において筒部32の全周において外側に突出する複数の鍔部33とを有する。鍔部33は、筒部32の外周を、軸方向Lに並ぶ複数の凹部(スロット)321に仕切っている。二次スプール31の筒部32における、軸方向Lの高電圧側L1に位置する凹部321を形成する部分の径方向Rの厚みの一部は、軸方向Lの低電圧側L2に位置する凹部321を形成する部分の径方向Rの厚みよりも大きい。
【0032】
図3に示すように、軸方向Lの高電圧側L1に位置する複数の凹部321の軸方向Lの幅は、軸方向Lの低電圧側L2に位置する複数の凹部321の軸方向Lの幅よりも小さい。本形態においては、複数の凹部321の軸方向Lの幅は、軸方向Lの高電圧側L1に位置するものほど小さい。鍔部33には、二次コイル3の巻線が隣接する凹部321の間を渡るための渡り溝が適宜形成されている。
【0033】
二次コイル3の巻線は、鍔部33同士の間に形成された複数の凹部321に、分割コイル部30として順次巻き付けられている。図4に示すように、軸方向Lの高電圧側L1に位置する複数の凹部321に配置された分割コイル部30の径方向Rの平均厚みu1は、図5に示すように、軸方向Lの低電圧側L2に位置する複数の凹部321に配置された分割コイル部30の径方向Rの平均厚みu2に比べて小さい。換言すれば、軸方向Lの高電圧側L1に位置する複数の凹部321に巻き付けられた二次コイル3の巻線は、軸方向Lの低電圧側L2に位置する複数の凹部321に巻き付けられた二次コイル3の巻線に比べて、径方向Rに薄く巻き付けられている。
【0034】
ここで、軸方向Lの高電圧側L1に位置する複数の凹部321に配置された分割コイル部30の径方向Rの平均厚みu1は、二次コイル3の軸方向Lの全長における中心位置よりも高電圧側L1に位置する複数の凹部321に配置された分割コイル部30の平均厚みu1とすればよい。軸方向Lの低電圧側L2に位置する複数の凹部321に配置された分割コイル部30の径方向Rの平均厚みu2は、二次コイル3の軸方向Lの全長における中心位置よりも低電圧側L2に位置する複数の凹部321に配置された分割コイル部30の平均厚みu2とすればよい。
【0035】
二次コイル3の軸方向Lの全長における中心位置が含まれる凹部321に配置された分割コイル部30は、高電圧側L1の平均厚みu1及び低電圧側L2の平均厚みu2から除いて考えればよい。平均厚みu1,u2は、複数の分割コイル部30の厚みの平均値とすればよい。
【0036】
本形態においては、分割コイル部30の径方向Rの厚みは、軸方向Lの高電圧側L1に位置するものほど小さい。また、複数の凹部321に巻き付けられた二次コイル3の巻線の巻き数は、軸方向Lの高電圧側L1に位置する凹部321ほど少ない。そして、二次コイル3の外周と外側コア42の側面コア部421との間の距離は、軸方向Lの高電圧側L1に行くほど大きい。
【0037】
(コアカバー6)
図4図5及び図7に示すように、コアカバー6は、二次コイル3と外側コア42との間の隙間Sを小さくして充填樹脂7の充填量を少なくし、二次コイル3と外側コア42との絶縁性をより適切に確保するために用いられる。コアカバー6は、外側コア42の内側及び装着方向Dの底側D1及び開口側D2の各表面に設けられている。より具体的には、コアカバー6は、一対の側面コア部421における内側に位置する内側面423に配置された一対の内側カバー部61と、一対の内側カバー部61に繋がって、一対の側面コア部421における、装着方向Dの開口側D2に位置する開口面425に配置された一対の開口側カバー部63とを有する。また、本形態のコアカバー6は、一対の内側カバー部61に繋がって、一対の側面コア部421における、装着方向Dの底側D1に位置する底面424に配置された一対の底側カバー部62も有する。
【0038】
また、内側カバー部61は、一対の側面コア部421における内側面423に配置された部分と繋がって、軸方向Lの高電圧側L1の端面コア部422における内側面423にも配置されている。開口側カバー部63は、一対の側面コア部421における開口面425に配置された部分と繋がって、軸方向Lの高電圧側L1の端面コア部422における開口面425にも配置されている。底側カバー部62は、一対の側面コア部421における底面424に配置された部分と繋がって、軸方向Lの高電圧側L1の端面コア部422における底面424にも配置されている。換言すれば、コアカバー6は、一対の側面コア部421及び高電圧側L1の端面コア部422における、内側面423、開口面425及び底面424に対面して配置されている。
【0039】
図4に示すように、一対の内側カバー部61における、軸方向Lの高電圧側L1に位置する部位の幅方向Wの平均厚みt1は、図5に示すように、一対の内側カバー部61における、軸方向Lの低電圧側L2に位置する部位の幅方向Wの平均厚みt2に比べて大きい。この構成により、二次コイル3の径方向Rの厚みが小さくなる高電圧側L1の部位においては、内側カバー部61の幅方向Wの厚みが大きくなり、二次コイル3と内側カバー部61との間の軸方向Lの各部位における、充填樹脂7が充填される隙間Sの大きさのばらつきを抑制することができる。
【0040】
ここで、一対の内側カバー部61における、軸方向Lの高電圧側L1に位置する部位の幅方向Wの平均厚みt1は、内側カバー部61の軸方向Lの全長における中心位置よりも高電圧側L1に位置する部位の厚みの平均値とすればよい。一対の内側カバー部61における、軸方向Lの低電圧側L2に位置する部位の幅方向Wの平均厚みt2は、内側カバー部61の軸方向Lの全長における中心位置よりも低電圧側L2に位置する部位の厚みの平均値とすればよい。
【0041】
図3に示すように、本形態のコアカバー6においては、一対の内側カバー部61の幅方向Wの厚みは、軸方向Lの高電圧側L1に位置する部位ほど大きい。換言すれば、二次コイル3の径方向Rの厚みが、軸方向Lの高電圧側L1に位置する部位ほど小さくなる分だけ、一対の内側カバー部61の幅方向Wの厚みは、軸方向Lの高電圧側L1に位置する部位ほど大きい。また、内側カバー部61の内側に位置する面は、軸方向Lの高電圧側L1に行くほど、幅方向Wの内側に近づくテーパ状に形成されている。この構成により、二次コイル3と内側カバー部61との間の軸方向Lの各部位における、充填樹脂7が充填される隙間Sの大きさのばらつきをより効果的に抑制することができる。
【0042】
図4及び図5に示すように、開口側カバー部63の装着方向Dの全体の寸法は、底側カバー部62の装着方向Dの寸法及び内側カバー部61の幅方向Wの寸法よりも大きい。本形態の開口側カバー部63は、装着方向Dに並ぶ複数のリブ631によって形成されている。より具体的には、内側カバー部61に繋がって、装着方向Dの底側D1と開口側D2とに2つのリブ631が並んで形成されており、2つのリブ631の間には、充填樹脂7が充填される溝部632が形成されている。
【0043】
開口側カバー部63における、外側コア42の開口面425と対向する面には、外側コア42へのコアカバー6の装着を容易にするための突起633が形成されている。底側カバー部62における、外側コア42の底面424と対向する面にも、外側コア42へのコアカバー6の装着を容易にするための突起621が形成されている。突起621,633は、コアカバー6の軸方向Lの複数箇所に形成されている。また、高電圧側L1の端面コア部422の内側(低電圧側L2)に配置された内側カバー部61の部分には、内側コア41が挿通される開口穴611が形成されている。
【0044】
図7に示すように、外側コア42は、一対の端面コア部422において分断された2部品を組み合わせて形成されている。コアカバー6は、高電圧側L1の端面コア部422に対向する部分において分断された2部品を組み合わせて形成されている。
【0045】
(コイルケース5)
図1及び図4図6に示すように、コイルケース5は、熱可塑性樹脂の成形品として形成されている。コイルケース5は、一次コイル2、二次コイル3、内側コア41、外側コア42、イグナイタ43等を収容する収容部51を有する。コイルケース5には、コイル組付体10を収容部51に配置するための開口部53が形成されており、開口部53は、収容部51の装着方向Dの開口側D2の端部に形成されている。コイル組付体10は、一次コイル2、一次スプール21、二次コイル3、二次スプール31、内側コア41、外側コア42、コアカバー6、イグナイタ43等が組み付けられて形成される。また、液状の充填樹脂7は、開口部53からコイルケース5内の隙間に注入される。
【0046】
図1及び図6に示すように、コイルケース5の一部には、イグナイタ43を外部のエンジン制御装置と電気接続するための、スプール成形体210のコネクタ部24が配置されている。スプール成形体210は、一次スプール21の筒部22に内側コア41を配置するとともに、コネクタ部24にコネクタ導体25を配置した、樹脂のインサート成形を行って形成されている。
【0047】
コイルケース5には、スプール成形体210のコネクタ部24が装着される装着用切欠き56が形成されている。コイルケース5の一部の壁部は、コネクタ部24のコネクタ壁部241によって形成される。コネクタ壁部241の、装着方向Dの底側D1の端部及び幅方向Wの両側の端部には、装着用切欠き56の縁部を両側から挟持する挟持部242が形成されている。
【0048】
また、図1に示すように、コイルケース5の装着方向Dの底側D1に位置する底部52には、ジョイント部12を構成するタワー部57が形成されている。タワー部57には、点火コイル1とプラグホール81との間を封止するためのシールラバー58が装着されている。
【0049】
(充填樹脂7)
図1及び図3図5に示すように、充填樹脂7は、一次コイル2、一次スプール21、二次コイル3、二次スプール31、内側コア41、外側コア42、イグナイタ43等の点火コイル1の構成部品を、コイルケース5内に絶縁して固着するための絶縁固着樹脂として用いられる。充填樹脂7は、熱硬化性樹脂によって構成されている。コイルケース5内に、一次コイル2、一次スプール21、二次コイル3、二次スプール31、内側コア41、外側コア42、コアカバー6、イグナイタ43等が組み付けられたコイル組付体10が配置された後に、このコイルケース5内の隙間に液状の熱硬化性樹脂が注入され、この液状の熱硬化性樹脂が硬化される。熱硬化性樹脂からなる充填樹脂7によって、コイルケース5内の一次コイル2、一次スプール21、二次コイル3、二次スプール31、内側コア41、外側コア42、コアカバー6、イグナイタ43等が絶縁された状態で互いに固着される。
【0050】
(作用効果)
本形態の内燃機関用の点火コイル1においては、外側コア42の表面に設けられたコアカバー6の形状に工夫をしている。具体的には、コアカバー6の軸方向Lに直交する断面内の断面積を、軸方向Lの高電圧側L1に位置する部位ほど大きくしている。特に、本形態においては、内側カバー部61の断面積を、軸方向Lの高電圧側L1に位置する部位ほど大きくしている。一方、二次コイル3の径方向Rの厚みは、軸方向Lの高電圧側L1に位置する部位ほど小さい。また、二次コイル3と内側カバー部61との間の幅方向Wの隙間Sの断面積、及びこの隙間Sに充填された充填樹脂7の断面積は、軸方向Lの全体においてほぼ均一である。
【0051】
これらの構成により、二次コイル3と内側カバー部61との間の隙間Sの大きさを、軸方向Lの低電圧側L2の部位から高電圧側L1の部位まで、できるだけ均一にすることができる。これにより、二次コイル3と内側カバー部61との間に充填される充填樹脂7の部位の厚みを、軸方向Lの低電圧側L2の部位から高電圧側L1の部位まで、できるだけ均一にすることができる。その結果、点火コイル1の使用時の冷熱サイクルにおいて、充填樹脂7に生じる熱膨張量及び熱収縮量を、軸方向Lの低電圧側L2の部位から高電圧側L1の部位まで、できるだけ均一にすることができる。
【0052】
それ故、本形態の内燃機関用の点火コイル1によれば、二次コイル3と内側カバー部61との間に充填された充填樹脂7の部位において熱応力の集中が生じにくくすることができる。また、この充填樹脂7の部位に亀裂が生じにくくし、点火コイル1における絶縁性を長く確保することができる。
【0053】
図8には、二次スプール31の複数の凹部321に配置された二次コイル3の各分割コイル部30の位置と、各分割コイル部30の位置の径方向Rに対向する充填樹脂7の部位に生じる電界の強さ[kV/mm]との関係を、従来の点火コイル(比較品)と本形態の点火コイル1(実施品)とについて示す。分割コイル部30の位置は、軸方向Lの低電圧側L2に位置するものから順に、N1~N6として示す。
【0054】
従来の点火コイルは、各凹部321に配置された分割コイル部30の径方向Rの厚みが、軸方向Lの低電圧側L2から高電圧側L1の全体においてほぼ一定である場合について示す。本形態の点火コイル1においては、各凹部321に配置された分割コイル部30の径方向Rの厚みは、軸方向Lの高電圧側L1に位置するものほど小さい。
【0055】
各分割コイル部30の位置は、各分割コイル部30の軸方向Lの中心位置として示す。充填樹脂7の部位に生じる電界の強さは、二次コイル3の各分割コイル部30と外側コア42との間にコアカバー6の内側カバー部61及び充填樹脂7が配置されることによって形成される疑似コンデンサに生じる電界の強さを示す。
【0056】
図8において、従来の点火コイル(比較品)においては、二次コイル3の高電圧側L1の部位ほど、電圧が高くなるために、軸方向Lの高電圧側L1に位置する部位ほど、充填樹脂7に生じる電界の強さが顕著に大きくなる。また、軸方向Lの低電圧側L2の部位と高電圧側L1の部位とにおける、充填樹脂7に生じる電界の強さの差が顕著である。一方、本形態の点火コイル1(実施品)においては、軸方向Lの低電圧側L2の部位と高電圧側L1の部位とにおける、充填樹脂7に生じる電界の強さの差が小さくなっている。
【0057】
さらに、本形態の点火コイル1においては、コアカバー6を構成する材料として、充填樹脂7を構成する材料よりも比誘電率が小さいものを使用することにより、軸方向Lの低電圧側L2の部位と高電圧側L1の部位とにおける、充填樹脂7に生じる電界の強さの差をより小さくすることが可能である。
【0058】
具体的には、本形態のコアカバー6は、ポリプロピレン樹脂によって構成されており、本形態の充填樹脂7は、エポキシ樹脂によって構成されている。ポリプロピレン樹脂の比誘電率は、2.2~2.6程度であり、本形態において用いるエポキシ樹脂の比誘電率は、ポリプロピレン樹脂の比誘電率に比べて大きく、2.5~6.0程度である。
【0059】
本形態の点火コイル1においては、軸方向Lの高電圧側L1に位置する分割コイル部30と内側コア41部との間の隙間Sにおいて、内側カバー部61が占有する体積が大きくなる一方、充填樹脂7が占有する体積が小さくなる。これにより、本形態の点火コイル1においては、軸方向Lの高電圧側L1に位置する充填樹脂7に生じる電界の強さが小さくなり、軸方向Lの低電圧側L2の部位と高電圧側L1の部位とにおける、充填樹脂7に生じる電界の強さの差がより緩和されると考えられる。
【0060】
このことによっても、二次コイル3と内側カバー部61との間に充填された充填樹脂7の部位の劣化を抑制し、点火コイル1における絶縁性を長く維持することができる。
【0061】
<実施形態2>
本形態は、図9図11に示すように、二次コイル3と内側カバー部61との間の隙間Sの大きさの、軸方向Lにおけるばらつきを小さくする構成を、実施形態1のコアカバー6とは異なるコアカバー6によって実現する例を示す。
【0062】
本形態のコアカバー6においては、内側カバー部61と開口側カバー部63とによる角部64は、外側に膨らむ曲面状に形成されている。曲面状の角部64は、曲面状の部位を有する形状であればよく、内側カバー部61と、開口側カバー部63の装着方向Dの開口側D2の面が傾斜した傾斜面との間に形成されていてもよい。また、角部64の曲率半径は、軸方向Lに直交する断面内において変化していてもよく、曲率半径の平均値として表せばよい。
【0063】
本形態の開口側カバー部63は、複数のリブ631として形成されておらず、一つの塊形状として形成されている。そして、図10に示すように、コアカバー6における、軸方向Lの高電圧側L1に位置する部位の角部64の平均曲率半径r1は、図11に示すように、コアカバー6における、軸方向Lの低電圧側L2に位置する部位の角部64の平均曲率半径r2に比べて小さい。この構成により、二次コイル3の径方向Rの厚みが小さくなる高電圧側L1の部位においては、開口側カバー部63の幅方向Wの厚みが大きくなる。その結果、本形態においては、点火コイル1の使用時の冷熱サイクルにおいて、充填樹脂7に生じる熱膨張量及び熱収縮量を、軸方向Lの低電圧側L2の部位から高電圧側L1の部位まで、より均一に近づけることができる。
【0064】
ここで、コアカバー6における、軸方向Lの高電圧側L1に位置する部位の角部64の平均曲率半径r1は、内側カバー部61と開口側カバー部63との角部64の軸方向Lの全長における中心位置よりも高電圧側L1に位置する部位の曲率半径の平均値とすればよい。コアカバー6における、軸方向Lの低電圧側L2に位置する部位の角部64の平均曲率半径r2は、内側カバー部61と開口側カバー部63との角部64の軸方向Lの全長における中心位置よりも低電圧側L2に位置する部位の曲率半径の平均値とすればよい。
【0065】
本形態のコアカバー6においては、内側カバー部61と開口側カバー部63とによる角部64の曲率半径は、軸方向Lの高電圧側L1に位置する部位ほど小さい。この構成により、点火コイル1の使用時の冷熱サイクルにおいて、充填樹脂7に生じる熱膨張量及び熱収縮量を、軸方向Lの低電圧側L2の部位から高電圧側L1の部位まで、さらに均一に近づけることができる。
【0066】
本形態のコアカバー6の構成は、実施形態1に示した一対の内側カバー部61の幅方向Wの厚みが軸方向Lの各部位において異なる構成と併用する。また、本形態の開口側カバー部63は、図9の二点鎖線によって示すように、実施形態1に示した複数のリブ631として形成してもよい。
【0067】
本形態の点火コイル1における、その他の構成、作用効果等については、実施形態1の構成、作用効果等と同様である。また、本形態においても、実施形態1に示した符号と同一の符号が示す構成要素は、実施形態1の構成要素と同様である。
【0068】
<実施形態3>
本形態は、図12及び図13に示すように、二次コイル3とコアカバー6との間の隙間Sに充填された充填樹脂7の部位に亀裂が生じたときであっても、この亀裂が一次コイル2の巻線端部201等の導体まで伸展することを防止する工夫をした例を示す。
【0069】
本形態の一次スプール21は、充填樹脂7に生じた亀裂の伸展を防止する形状を有する。図6図12及び図13に示すように、一次スプール21は、筒部22から装着方向Dの開口側D2に突出して、コアカバー6における開口側カバー部63の、軸方向Lの外側としての低電圧側L2に対向する突出部26を有する。突出部26は、一対の開口側カバー部63の軸方向Lの低電圧側L2の端部に対向して形成されている。一次スプール21における、突出部26よりも軸方向Lの低電圧側L2に位置する部位には、一次コイル2の巻線端部201を保持する保持部261が設けられている。
【0070】
図12に示すように、開口側カバー部63の、側面コア部421における開口面425からコイルケース5の開口部53の側、換言すれば開口面425から装着方向Dの開口側D2への突出量x1は、一次スプール21の突出部26の、開口面425から装着方向Dの開口側D2への突出量x2に比べて小さい。
【0071】
本形態の点火コイル1の使用時の冷熱サイクルにおいては、二次コイル3と内側カバー部61との間の隙間Sに充填された充填樹脂7の部位に亀裂が生じたときには、突出部26によって、この亀裂が軸方向Lの低電圧側L2に伸展することが防止される。これにより、亀裂が、一次コイル2の巻線端部201等の導体まで伸展することが防止される。
【0072】
本形態の点火コイル1における、その他の構成、作用効果等については、実施形態1,2の構成、作用効果等と同様である。また、本形態においても、実施形態1,2に示した符号と同一の符号が示す構成要素は、実施形態1,2の構成要素と同様である。
【0073】
<実施形態4>
本形態は、図12及び図14に示すように、外側コア42に装着されたコアカバー6に、一次コイル2、一次スプール21、二次コイル3、二次スプール31、内側コア41等が一体化されたコイル中間体100を組み付けた状態を適切に維持する工夫をした例を示す。本形態においては、コイル中間体100を構成する一次スプール21の形状に工夫をしている。
【0074】
一次スプール21には、筒部22から幅方向Wへ突出し、コアカバー6における一対の内側カバー部61の間に嵌め込まれて、一対の内側カバー部61の間隔を維持するための間隔維持部27が形成されている。本形態の間隔維持部27は、一次スプール21の、筒部22と中継部23との境界部分において、筒部22から幅方向Wの両側に突出する一対のテーパリブ271によって形成されている。
【0075】
間隔維持部27としての一対のテーパリブ271の幅方向Wの幅は、装着方向Dの開口側D2から底側D1に行くに連れて小さく変化している。換言すれば、テーパリブ271の幅方向Wの端面は、底側D1に行くに連れて、幅方向Wの内側に位置するテーパ面として形成されている。一方、コアカバー6における一対の内側カバー部61の幅方向Wの内側面612は、装着方向Dに平行な直線状の表面として形成されている。
【0076】
一対のテーパリブ271における装着方向Dの底側D1の端部の幅方向Wの幅をw1、一対のテーパリブ271における装着方向Dの開口側D2の端部の幅方向Wの幅をw2、一対の内側カバー部61の内側面612の幅方向Wの幅をw3としたとき、w1<w3<w2の関係にある。そして、図12及び図13に示すように、一次コイル2、一次スプール21、二次コイル3、二次スプール31、内側コア41等が組み付けられたコイル中間体100を、外側コア42に装着されたコアカバー6内に配置するときには、一対のテーパリブ271がコアカバー6の一対の内側カバー部61の間に嵌め込まれる。
【0077】
コアカバー6の軸方向Lの低電圧側L2の部位は、U形状のコアカバー6の端部に位置するため、成形型によるコアカバー6の成形後に、内側へ変形することが想定される。そのため、コイル中間体100を外側コア42に装着されたコアカバー6に組み付けるときに、間隔維持部27によって、一対の内側カバー部61の間隔を適切に維持することができる。これにより、二次コイル3と一対の内側カバー部61との間の隙間Sに充填される充填樹脂7の幅方向Wの厚みを適切に維持することができる。
【0078】
また、図15に示すように、間隔維持部27は、一対のテーパリブ271の代わりに、一次スプール21の幅方向Wの側面に設けられた一対の変形用の突起272によって構成してもよい。この場合には、一対の突起272の先端同士の間における幅方向Wの幅w4を、一対の内側カバー部61の内側面612の幅方向Wの幅w3よりも小さくする。そして、コイル中間体100を、外側コア42におけるコアカバー6の内側に挿入するときに、一対の突起272が塑性変形又は弾性変形することによって、一対の内側カバー部61の間隔を適切に維持することができる。
【0079】
本形態の点火コイル1における、その他の構成、作用効果等については、実施形態1~3の構成、作用効果等と同様である。また、本形態においても、実施形態1~3に示した符号と同一の符号が示す構成要素は、実施形態1~3の構成要素と同様である。
【0080】
本発明は、各実施形態のみに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲においてさらに異なる実施形態を構成することが可能である。また、本発明は、様々な変形例、均等範囲内の変形例等を含む。さらに、本発明から想定される様々な構成要素の組み合わせ、形態等も本発明の技術思想に含まれる。
【符号の説明】
【0081】
1 点火コイル
2 一次コイル
3 二次コイル
31 二次スプール
41 内側コア
42 外側コア
5 コイルケース
6 コアカバー
7 充填樹脂
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15