(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】型締力調整方法および型締装置
(51)【国際特許分類】
B29C 45/66 20060101AFI20240925BHJP
B29C 45/84 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
B29C45/66
B29C45/84
(21)【出願番号】P 2021048177
(22)【出願日】2021-03-23
【審査請求日】2023-09-28
(73)【特許権者】
【識別番号】300041192
【氏名又は名称】UBEマシナリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004347
【氏名又は名称】弁理士法人大場国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100100077
【氏名又は名称】大場 充
(74)【代理人】
【識別番号】100136010
【氏名又は名称】堀川 美夕紀
(74)【代理人】
【識別番号】100130030
【氏名又は名称】大竹 夕香子
(74)【代理人】
【識別番号】100203046
【氏名又は名称】山下 聖子
(72)【発明者】
【氏名】岡本 昭男
(72)【発明者】
【氏名】有馬 祐一朗
(72)【発明者】
【氏名】福田 裕一郎
【審査官】岩▲崎▼ 則昌
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-176525(JP,A)
【文献】特開2008-055617(JP,A)
【文献】特開2006-334820(JP,A)
【文献】特開平10-305468(JP,A)
【文献】特開平07-075864(JP,A)
【文献】特開平04-086208(JP,A)
【文献】特開平01-005653(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/66
B29C 45/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロスヘッドを備えるトグルリンク機構を用いて一対の金型の型締力を調整する方法であって、
第1制限値で前記クロスヘッドを所定位置まで前進させる第1トグル前進と、
前記第1トグル前進の後に行われる、第2制限値で前記クロスヘッドを前進させる第2トグル前進と、を実行し、
前記第2制限値よりも前記第1制限値が小さ
く、
前記第1トグル前進の前に、一対の前記金型が金型タッチしており、
前記金型タッチ位置と予め設定される目標位置とを比較することにより、一対の前記金型の間に異物が存在するか否かを判定する、
ことを特徴とする型締力調整方法。
【請求項2】
前記第2トグル前進の完了において、
検知される実型締力と予め定められる設定型締力との比較を行う、
請求項
1に記載の型締力調整方法。
【請求項3】
前記第1制限値による前記第1トグル前進と、
前記第2制限値による前記第2トグル前進とは、
一対の前記金型が交換された直後の、最初の型締力調整のみで行われる、
請求項1
または請求項2に記載の型締力調整方法。
【請求項4】
固定金型を支持する固定盤と、
前記固定盤に対して進退移動可能に設けられ、可動金型を支持する可動盤と、
その弾性力により前記固定盤および前記可動盤を介して前記固定金型と前記可動金型に型締力を生じさせる複数のタイバーと、
複数の前記タイバーに前記弾性力を生じさせる、クロスヘッドを備えるトグルリンク機構と、
前記トグルリンク機構の動作を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記トグルリンク機構を用いて前記固定金型と前記可動金型の型締力を調整する際に、
第1制限値で前記クロスヘッドを所定位置まで前進させる第1トグル前進と、
前記第1トグル前進の後に行われる、第2制限値で前記クロスヘッドを前進させる第2トグル前進と、を実行させ、
前記第2制限値よりも前記第1制限値が
小さく、
前記制御部は、
前記第1トグル前進の前に、前記可動金型と前記固定金型とを金型タッチをさせており、
前記金型タッチ位置と予め設定される目標位置とを比較することにより、異物の存在有無を判定する、
ことを特徴とする型締装置。
【請求項5】
前記制御部は、
予め設定される異物判定領域を前進する前記第1トグル前進において、
前記クロスヘッドが前記異物判定領域を前進する実経過時間と予め定められる許容経過時間とを比較することにより、異物の存在有無を判定する、
請求項
4に記載の型締装置。
【請求項6】
前記制御部は、
前記第2トグル前進において、
検知される実型締力と予め定められる設定型締力との比較を行う、
請求項
4または請求項5に記載の型締装置。
【請求項7】
前記制御部は、
前記第1制限値による前記第1トグル前進と、
前記第2制限値による前記第2トグル前進とを、
前記固定金型と前記可動金型が交換された直後の、最初の型締力調整のみで実行させる、
請求項
4~請求項
6のいずれか一項に記載の型締装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トグルリンク機構を備える型締装置に関する。
【背景技術】
【0002】
トグルリンク機構を備える型締装置は、射出成形機、ダイカストマシンなどの一対の金型に型締力を生じさせる。例えば射出成形機であれば、型締力が加えられた一対の金型のキャビティに溶融樹脂を高圧で射出することより所定形状の成形品を得ることができる。型締力は、高圧の溶融樹脂が金型から漏れ出さないことを前提に設定される。
【0003】
トグルリンク機構を備える型締装置において、一対の金型の間に異物があると、型閉動作に際して金型に不必要な負担を与えることがある。これに対して特許文献1は、型閉動作に際し型締力の検知を行い、この型締力検知値を予め設定した型締力基準値と比較することにより、金型間に挾まった異物の検知を行うことができる異物検知機能を備える型締装置を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の異物検知機能は、金型間に異物がない状態での実型締力(型締力基準値)と、成形運転時に検知した実型締力とを比較した時の差異により、金型間の異物を検知する。このため、異物を検知した時点では型締力が金型に作用しているので、金型には不必要な負荷が生じている可能性が高い。また、金型を交換した直後に行われる、最初の型締力調整時に、異物がない状態の型締力基準値は存在しないので、異物検知のための比較ができず異物を検知することはできない。また、金型間に異物がある状態でも、型締力を発生させないと異物検知ができない。したがって、金型を交換した直後の最初の型締力調整時に、一対の金型の間に異物がある場合、この異物を検知して、金型を保護することができない。
【0006】
以上より、本発明は、金型を交換した直後の最初の型締力調整の際においても金型への不必要な負荷から保護しつつ異物を検知することができる型締力調整方法および型締装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、クロスヘッドを備えるトグルリンク機構を用いて一対の金型の型締力を調整する方法に関する。
本発明の型締力調整方法は、第1制限値でクロスヘッドを所定位置まで前進させる第1トグル前進と、第1トグル前進の後に行われる、第2制限値でクロスヘッドを前進させる第2トグル前進と、を実行する。本発明において、第2制限値よりも第1制限値が小さい。
【0008】
本発明の型締力調整方法は、予め設定される異物判定領域を前進する第1トグル前進において、好ましくは、異物判定領域を前進する実経過時間を検知し、検知された実経過時間と予め定められる許容経過時間とを比較することにより、一対の金型の間に異物が存在するか否かを判定する。
【0009】
本発明の型締力調整方法において、第1トグル前進の前に、一対の金型が金型タッチしており、好ましくは、金型タッチ位置と予め設定される目標位置とを比較することにより、一対の金型の間に異物が存在するか否かを判定する。
【0010】
本発明の型締力調整方法の第2トグル前進の完了において、好ましくは、検知される実型締力と予め定められる設定型締力との比較を行う。
【0011】
本発明の型締力調整方法において、第1制限値による第1トグル前進と、第2制限値による第2トグル前進とは、好ましくは、一対の金型が交換された直後の、最初の型締力調整のみで行われる。
【0012】
本発明の型締装置は、固定金型を支持する固定盤と、固定盤に対して進退移動可能に設けられ、可動金型を支持する可動盤と、その弾性力により固定盤および可動盤を介して固定金型と可動金型に型締力を生じさせる複数のタイバーと、複数のタイバーに弾性力を生じさせる、クロスヘッドを備えるトグルリンク機構と、トグルリンク機構の動作を制御する制御部と、を備える。
本発明の制御部は、トグルリンク機構を用いて固定金型と可動金型の型締力を調整する際に、第1制限値でクロスヘッドを所定位置まで前進させる第1トグル前進と、第1トグル前進の後に行われる、第2制限値でクロスヘッドを前進させる第2トグル前進と、を実行させる。そして、第1制限値よりも第2制限値が大きい。
【0013】
本発明の型締装置における制御部は、好ましくは、予め設定される異物判定領域を前進する第1トグル前進において、クロスヘッドが異物判定領域を前進する実経過時間と予め定められる許容経過時間とを比較することにより、異物の存在有無を判定する。
【0014】
本発明の型締装置における制御部は、好ましくは、第1トグル前進の前に、可動金型と固定金型とを金型タッチをさせており、金型タッチ位置と予め設定される目標位置とを比較することにより、異物の存在有無を判定する。
【0015】
本発明の型締装置における制御部は、好ましくは、第2トグル前進の完了において、検知される実型締力と予め定められる設定型締力との比較を行う。
【0016】
本発明の型締装置における制御部は、好ましくは、第1制限値による第1トグル前進と、第2制限値による第2トグル前進とを、固定金型と可動金型が交換された直後の、最初の型締力調整のみで実行させる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、型締力調整の際のクロスヘッドの前進を第1トグル前進と、第1トグル前進に続く第2トグル前進と、に区分することにより、第1トグル前進と第2トグル前進のそれぞれにおいて異なる制限値を設定できる。これにより、例えば異物が存在している場合に異物と金型が接触するであろう第1トグル前進における制限値を第2トグル前進よりも小さくしておけば、異物の検知ができるのに加えて、金型への不必要な負荷を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本実施形態のトグルリンク機構を備える型締装置の正面から視た概略構成を示す図である。
【
図2】
図1の型締装置の後面から視た概略構成を示す図である。
【
図3】本実施形態の型締装置の制御部の構成を示す図である。
【
図4】本実施形態の型締装置における型締めの動作を示す図である。
【
図5】
図4に続いて、本実施形態の型締装置における型締めの動作を示す図である。
【
図6】一対の金型の間に異物が存在するときの型締めの動作を示す図である。
【
図7】本実施形態の型締装置における型締力の自動設定における全体の手順のフローチャートである。
【
図8】本実施形態の型締装置における型厚調整の手順を示すフローチャートである。
【
図9】本実施形態の型締装置における型締力調整の手順を示すフローチャートである。
【
図10】本実施形態の型締力調整におけるクロスヘッドの移動経過を示す図である。
【
図11】本実施形態の型締力調整におけるクロスヘッドの移動経過を示す他の図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る型締力設定方法の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
本実施形態に係る型締力設定方法が適用されるトグルリンク機構を備える型締装置1の一例について説明した後に、本実施形態に係る型締力設定方法について言及する。本実施形態に係る型締力設定方法は、射出成形機、ダイカスト鋳造装置など、一対の金型を型締する装置類に広く適用される。
【0020】
[型締装置1の構成:
図1]
本実施形態に係る型締装置1は、
図1に示すように、主に、互いに平行となるように型開閉方向xに間隔を空けて並列に設けられた固定盤10および可動盤20を備える。また、型締装置1は、固定盤10および可動盤20への型締力を発生するトグルリンク機構50と、可動盤20とともにトグルリンク機構50を支持するリンクハウジング30と、を備える。固定盤10、可動盤20およびリンクハウジング30は、それぞれの四隅にタイバー3を貫通させた状態で、床面に据付けられたマシンベース2の上に載せられている。以下、それぞれの構成要素を順に説明する。なお、型締装置1において、
図1に示すように型開閉方向xおよび高さ方向yが特定される。
【0021】
[固定盤10および可動盤20:
図1]
固定盤10および可動盤20は、
図1に示すように、それぞれ対向する面が金型取付面11,21を構成する。固定盤10の金型取付面11には固定金型13が支持され、可動盤20の金型取付面21には可動金型23が支持されている。
固定盤10はマシンベース2に対して位置が固定されているのに対して、可動盤20はマシンベース2の上を固定盤10に対して型開閉方向xに進退移動可能にマシンベース2に設置されている。例えば、マシンベース2の上に設けられたガイドシューやスライドレールまたはリニアガイドなどの支持手段に可動盤20は摺動可能に載せられる。リンクハウジング30はマシンベース2に対して摺動可能に載せられる。リンクハウジング30は、型厚駆動部35が駆動されることにより、タイバー3に案内されて、可動盤20および後述するトグルリンク機構50と一体で、マシンベース2の上を型開閉方向xに移動が可能である。
【0022】
固定盤10の、固定金型13が支持される面の反対側の中央部には、図示を省略する射出装置の射出ノズルや射出スリーブが挿入され得る可能な射出用孔が形成される。
可動盤20およびリンクハウジング30は、トグルリンク機構50により連結される。トグルリンク機構50が伸張・屈曲することにより、固定盤10に対して可動盤20が接近または離間する(型開閉方向x)。
【0023】
[トグルリンク機構50:
図1,
図2]
トグルリンク機構50は、
図1に示すように、可動盤20とリンクハウジング30との間に架け渡された上下一対のリンク部材51と、型開閉方向xに移動することにより上下一対のリンク部材51をそれぞれ伸縮させるクロスヘッド62と、を備える。また、トグルリンク機構50は、クロスヘッド62を型開閉方向xに移動させるクロスヘッド駆動装置70を備えている。
【0024】
それぞれのリンク部材51は、可動盤20の型盤側リンク支持部材52に、リンクピン55によって一端側が揺動可能に連結されるトグルリンク54を備える。また、それぞれのリンク部材51は、リンクハウジング30のハウジング側リンク支持部材56に、リンクピン59によって一端側が揺動可能に連結されるミッドリンク58を備える。トグルリンク54の他端側とミッドリンク58の他端側はリンクピン61により互いに揺動可能に連結される。
【0025】
クロスヘッド62は、上下一対のミッドリンク58,58の間に設けられる。クロスヘッド62は、その両端にはクロスヘッドリンク63の一端がリンクピン64によって揺動可能に連結され、クロスヘッドリンク63の他端はリンクピン65によってミッドリンク58,58に揺動可能に連結される。
なお、本実施形態において、上述したようなクロスヘッドリンク63はリンクピン65によりミッドリンク58と接続したが、これに限定することなく、例えば、クロスヘッドリンク63はミッドリンク58とトグルリンク54のリンクピン61に接続してもよい。このように、クロスヘッドリンク63の接続位置は、トグル倍率や型開閉ストローク等のトグルリンク機構50の設計段階で適宜選択される。
リンク部材51は、トグルリンク54およびミッドリンク58がそれぞれ各リンクピン55、59を中心として揺動運動し、クロスヘッド62が型開閉方向xに移動することにより伸張または屈曲するように構成されている。
【0026】
クロスヘッド駆動装置70は、
図1および
図2に示すように、クロスヘッド62に埋設されたボールねじナット71と、リンクハウジング30を貫通して回転可能に設けられ、ボールねじナット71が螺合されたボールねじ軸72と、を備える。また、クロスヘッド駆動装置70は、ボールねじ軸72の基端部に取り付けられるチェーン用スプロケット73と、リンクハウジング30のトグルリンク機構50の取付面と反対の面側に取り付けられた型締モータ74と、を備える。また、クロスヘッド駆動装置70は、型締モータ74の回転軸に取り付けられたモータスプロケット75と、チェーン用スプロケット73とモータスプロケット75との間に張り渡されたチェーン76と、を備えている。型締モータ74の回転力はチェーン76を介してボールねじ軸72に伝達される。型締モータ74には、エンコーダが内蔵されており、このエンコーダによって、クロスヘッド62の移動方向、型開閉方向xの移動量および移動速度などが検知されるように構成されている。
なお、本実施形態において、上述したようなチェーン76を用いて型締モータ74の回転力をボールねじ軸72に伝達することとしたが、これに限定されない。例えば、タイミングベルトや伝達歯車等の回転伝達機構を回転力の伝達機構として用いてもよいし、回転伝達機構を省略して型締モータ74とボールねじ軸72とをカップリングを用いて直結してもよい。また、型締モータ74を油圧で駆動する油圧モータに置き替えてもよく、または、油圧で駆動する油圧シリンダをクロスヘッド駆動装置70として用いてもよい。
【0027】
[タイバー3:
図1,
図2]
複数、典型的には4本のタイバー3は、
図1および
図2に示すように、固定盤10、可動盤20およびリンクハウジング30の四隅を貫通して架け渡され、その弾性力により固定盤10と可動盤20を介して、固定金型13および可動金型23に型締力を生じさせる。
固定盤10の金型取付面11と反対側の面の四隅には、各タイバー3の一端部と嵌合される固定ナット15が設けられる。この固定ナット15により、各タイバー3に対する型開閉方向xの相対移動と、各タイバー3の長手方向中心軸回りの回転運動と、が規制されている。リンクハウジング30の背面の四隅には、各タイバー3の他端部に形成されたねじ部(図示せず)と噛み合う駆動ナット31が設けられている。この駆動ナット31は、リンクハウジング30に回転可能に支持されると共に、型厚駆動部35により回転し、各タイバー3のねじ部を螺進するように構成されている。これにより、リンクハウジング30ならびにこれに連結されたトグルリンク機構50および可動盤20が型開閉方向xに往復移動するように構成されている。
【0028】
[型厚駆動部35:
図1,
図2]
型厚駆動部35は、
図1および
図2に示すように、例えば、リンクハウジング30の上面に取り付けられたダイハイトモータ36と、ダイハイトモータ36の回転軸に取り付けられたモータスプロケット38と、を備える。また、型厚駆動部35は、4つの駆動ナット31の周囲部にそれぞれ取り付けられたチェーン用スプロケット40と、リンクハウジング30のトグルリンク機構50の取付面と反対側の面上に回転可能に取り付けられた伝達歯車42と、を備える。さらに、型厚駆動部35は、モータスプロケット38と伝達歯車42との間に張り渡されたチェーン44と、4つのチェーン用スプロケット40と伝達歯車42に張り渡されたチェーン46とを備える。型厚駆動部35は、チェーン44、46を介してダイハイトモータ36の回転力を各駆動ナット31に伝達させる。なお本実施形態において、上述したようなチェーン式の型厚駆動部以外に、ダイハイトモータの回転力を各駆動ナットに伝達させるギア式の型厚駆動部を採用できる。
【0029】
[制御部80:
図3]
制御部80は、型厚駆動部35の駆動の制御を通じて、可動金型23を支持する可動盤20、トグルリンク機構50およびリンクハウジング30の型開閉方向xへの移動を制御する。また、制御部80は、クロスヘッド駆動装置70の駆動の制御を通じて、固定盤10に支持される固定金型13に対する、可動盤20に支持される可動金型23の型閉じ、型締めおよび型開きの動作を制御する。型締装置1は、型締めの動作を制御するために、型締力を検知する手段、例えばロードセルを備えており、固定盤10と可動盤20の間、つまり固定金型13と可動金型23の間に付与される実型締力を検知できる。ロードセルはタイバー3に取り付けられ、タイバー3のひずみ(型締時のタイバー3の伸張量)を検知し、この検知値に基づき制御部80において実型締力を算出する。
【0030】
[制御部80の構成]
制御部80は、
図3に示すように、必要な情報を表示するための表示部81と、オペレータにより操作され、例えば金型厚さ情報や型締力情報等の入力を受け付ける入力部83とを備える。また、制御部80は、各種の情報を記憶する記憶部85と、型締装置1の各動作の指示をする指示部87と、異物の存在有無などの判定を行う判定部89と、を備えている。なお、ここでは判定部89の存在を明確にするため指示部87と独立させているが、判定部89の機能を併せ持った指示部87とすることもできる。この制御部80は、コンピュータ装置で構成され、入力部83はソフトキー又はハードキーからなり、表示部81は例えばLCD(Liquid Crystal Display)からなる。さらに、図示を省略するが音声を発するスピーカを備えることもできる。後述する警告は、表示部81およびスピーカの一方または双方から発信できる。
【0031】
[記憶部85]
記憶部85は、以下に例示される情報およびその他の情報を記憶している。
第1前進における第1制限値Q1,第2前進における第2制限値Q2,
クロスヘッド62が異物判定領域MAを通過する実経過時間Tと比較される許容経過時間ET1
実型締力Pと比較される設定型締力P0
【0032】
[指示部87]
指示部87はオペレータからの指示、選択にしたがって、記憶部85に記憶されている種々の情報を読み出して、動作指令情報を生成するとともに、生成した動作指令情報を型厚駆動部35のダイハイトモータ36、クロスヘッド駆動装置70の型締モータ74などの各駆動部に向けて送信する。本実施形態における動作指令情報としては、例えば、第1前進が行われているクロスヘッド62の移動を、第2前進に切り替える情報が掲げられる。指示部87は、その他に、以下で説明される型締装置1の動作における種々の指示情報を発出する。
【0033】
[判定部89]
判定部89は、例えば、第1前進において、クロスヘッド62が異物判定領域MAを前進している最中に、予め設定される許容経過時間ET1と実経過時間Tを比較することにより、異物の存在の有無を判定する。判定部89は、その他に、以下で説明される型締装置1の動作における種々の判定を行う。
【0034】
[型締装置1の動作:
図4,
図5]
次に、
図4および
図5を参照して型締装置1における型締力調整方法の一例を説明する。
図4(a)は型開きの状態を示し、
図4(b)は金型タッチより前の状態を示す。また、
図5(a)は金型タッチの状態を示し、
図5(b)は型締めの状態を示している。
【0035】
型締装置1への金型(固定金型13および可動金型23)の取付け後は、最初に型厚調整を行う。
先ず、クロスヘッド駆動装置70の型締モータ74を駆動してクロスヘッド62を後退させ、
図4(b)に示すように、可動金型23を固定金型13から所定距離に離す。このとき、トグルリンク機構50のリンク部材51は、直線状態から屈曲状態となる。この屈折状態は、後述する設定型締力に対応するタイバー3の延伸量を発生させることができるクロスヘッド62の位置として設定される。また、所定距離は、型厚調整の動作を行うにおいて固定金型13と可動金型23とが干渉しないように隙間を設けるもので、型厚調整位置として設定される。なお、金型の取付け後は型締力が発生していない状態であるため、クロスヘッド62を後退させた型厚調整位置において、型締装置や金型構造等によるが、固定金型13と可動金型23とに適度な隙間が設けられる。この時の隙間は、5~20mm程度となるように設定されることが多い。
また、公差と言われる機械構造物のギャップを補正するために、
図4(b)に示す型厚調整位置からさらに後方の
図4(a)に示す位置にクロスヘッド62を後退させて、再び型厚調整位置に戻すような反復動作を行っても良い。
なお、本実施形態のクロスヘッド62において、前進とは可動金型23が固定金型13に近づく向きの移動をいい、後退とは可動金型23が固定金型13から離れる向きの移動をいう。
【0036】
次に、ダイハイトモータ36を駆動させて、可動金型23を支持する可動盤20、トグルリンク機構50およびリンクハウジング30を一体として固定盤10に対して前後進させ、固定盤10とリンクハウジング30の間におけるタイバー3の長さを調整する。この長さの調整は、後述する設定型締力に対応するタイバー3の伸び量の調整を意味する。
【0037】
次に、型締力調整に進む。ダイハイトモータ36を駆動させて、可動金型23を支持する可動盤20、トグルリンク機構50およびリンクハウジング30を一体として固定金型13の側に前進させると、
図5(a)に示すように、可動金型23が固定金型13に接触する。これが金型タッチの状態である。例えば、ダイハイトモータ36に流れる電流が所定値に到達すると、可動金型23が固定金型13に密着したものとみなし、ダイハイトモータ36による可動金型23の前進を停止させる。この可動金型23を固定金型13に対して密着させた状態を、金型タッチ(金型タッチ状態)と称する。このとき、トグルリンク機構50のリンク部材51は、屈曲状態が維持され、この時のクロスヘッド62の位置は金型タッチ位置、あるいは、昇圧切換位置と称される。
【0038】
金型タッチに至ると、型締モータ74の駆動により、クロスヘッド62を前進させて、
図5(b)に示すように、可動盤20とリンクハウジング30の間でリンク部材51を直線状態に突っ張らせる。これにより、リンクハウジング30と固定盤10の間に係止されているタイバー3は伸び量λだけ伸ばされる。伸ばされたタイバーは元に戻ろうとし、このタイバー3の伸び量λに対応する弾性回復力がトグルリンク機構50を介して可動盤20と固定盤10の間に型締力として作用し、固定金型13および可動金型23に実型締力Pを生じさせる。
この実型締力Pと予め設定されている設定型締力P0とを比較して、実型締力Pが設定型締力P0に一致するまで、リンクハウジング30の位置の調整とリンク部材51の屈曲状態の調整を繰り返す。
【0039】
ここで、
図6は、固定金型13と可動金型23の間に異物100がある場合の型締力調整を示している。
図6(a)は
図5(a)に対応する状態を示す。異物100がなければ、
図6(a)の状態において、固定金型13と可動金型23は
図5(a)に示すように接触するが、異物100があるために、異物100によって、固定金型13と可動金型23の間に隙間が生じているにもかかわらず、金型タッチしたものと誤って検知されるおそれがある。また、この金型タッチの検知の時点で、既に異物100によって金型は傷がついてしまう。例えば、固定金型13と可動金型23の合わせ面である金型PL面は、0.1mm程度の極薄い傷がついたとしても、射出充填時の溶融樹脂や溶湯が漏れ出るという成形不良が発生する。さらに、異物100を挟んだまま、
図6(b)に示すように、リンク部材51を直線状に突っ張らせて実型締力を発生させると、金型は大きな損傷を受け成形ができなくなるおそれがある。その結果、大幅な金型修理を必要とし、成形の長期停止は避けられない。また、異物100の大きさにもよるが、異物100の抵抗により、リンク部材51を直線状態に突っ張らせることが困難となり、型締力調整ができなくなって成形を開始することができなくなる。さらには、異物100を挟んだまま無理矢理に型締力調整を行った結果、型締装置1の各部材の素材剛性以上にタイバー3の伸び量が過度に伸ばされ(λ+α)、発生する型締力が過度に大きくなって、金型や型締装置1が破損するという最悪の事態を招くことも十分に考えられる。
【0040】
例えば特許文献1が開示する手法で異物100を検知することができる。しかし、異物を挟んだ状態で型締力を発生させているために、異物による金型破損の防止はできない。さらに、固定金型13および可動金型23に交換された直後の最初の型締力調整においては、特許文献1が開示する手法によって異物を検知できない。
そこで、本実施形態は、固定金型13および可動金型23に交換された直後の、最初の型締力調整においても、金型に損傷を与えずに異物検知機能を発揮できる手法を提案する。以下、この手法を
図7~
図9に示されるフローチャートおよびクロスヘッド62の移動経過を示す
図10,
図11を参照しながら説明する。これらのフローチャートで示される手順は、制御部80の記憶部85、指示部87および判定部89を介して行われる。
【0041】
[型締力自動設定工程の全体的な手順:
図7,
図10]
図7に示される全体的な手順は、それまでに使われていたものと交換して、新たな金型として固定金型13および可動金型23がそれぞれ固定盤10および可動盤20に取り付けられることから始まる(
図7,
図10 S101)。この金型交換を終えた時点で、トグルリンク機構50のリンク部材51は
図5(b)に示すように直線状態である。ただし、この時点で型締力は発生していない。この時のクロスヘッド62の位置(トグル位置S)が
図10に示すように前進限位置(S=0)と定義される。そして、本実施形態においては、トグルリンク機構50のトグル位置Sはこのクロスヘッド62の位置で特定される。
【0042】
金型取り付けを終えると、初期条件の入力が行われる(
図7 S103)。ここでいう初期条件には、設定型締力P0と型厚M0が含まれる。初期条件はオペレータが入力してもよいし、記憶部85に記憶させておき、それを取り出してもよい。
初期条件の入力が終わると、型締力自動設定工程が開始される(S105)。型締力自動設定は、型厚調整工程(S200)と型締力調整工程(S300)の二つの調整手順を含むが、この二つの手順は、
図8~
図11を参照して後述する。
型締力自動設定は、検知される実型締力Pが設定型締力P0に一致するまで、型厚調整工程(S200)と型締力調整工程(S300)が繰り返される(S107)。検知される実型締力Pが設定型締力P0に一致すれば、型締力自動設定工程は完了する(S109)。
【0043】
型締力自動設定工程が完了した後に、成形条件を制御部80に入力し終えると(S111)、成形が開始される(S113)。成形条件とは、例えば、溶融樹脂や溶湯の射出充填条件、可塑化や注湯条件、樹脂・溶湯・金型等の温度条件、保圧・冷却条件、型開閉・押出条件、生産ショット数、製品重量等の条件が掲げられる。
【0044】
[型厚調整工程の手順:
図8,
図10,
図11]
次に、
図8、
図10および
図11を参照して型厚調整工程の手順を説明する。
トグルリンク機構50においては、トグルリンク機構50が直線状態におけるタイバー3の伸び量に基づいて所定の型締力を発生させる。このため、金型を交換した後には、所定の型締力が発生するようにクロスヘッド62およびリンクハウジング30の位置を設定する必要があり、
図8に手順が示される型厚調整工程(S200~)が実行される。
【0045】
型厚調整工程は、直線状態のトグルリンク機構50を後退させる(
図8,
図10 S201)。トグルリンク機構50の後退は、リンクハウジング30の位置を固定したまで、型締モータ74の駆動によりクロスヘッド62を前進限位置(S=0)から後退させることで、リンク部材51を屈曲させる。これで可動盤20は後退する。可動盤20を前進させるときには、これとは逆にクロスヘッド62を前進させることで、リンク部材51の屈曲を緩やかにさせる。
【0046】
トグルリンク機構50の後退は、トグルリンク機構50の位置、つまりクロスヘッド62のトグル位置Sが予め定められる型厚調整位置S0に達するまで行われ、後退動作は停止する(
図8,
図10 S205,
図11 S=S0)。このとき、可動金型23は固定金型13から離れ、金型が開いており、リンク部材51は設定型締力に対応するタイバー3の延伸量を発生させることができる屈曲状態にある。なお、型厚調整位置S0は、設定型締力P0と型厚M0に基づいて設定される。また、型厚調整位置S0において、固定金型13と可動金型23との隙間は、5~20mm程度となることが好ましい。
【0047】
トグルリンク機構50の動作が停止すると、次に、型厚前進・後退による型厚調整が行われる(
図7,
図10 S207)。この動作は、可動金型23を支持する可動盤20、トグルリンク機構50およびリンクハウジング30を一体として、リンク部材51の屈曲状態を維持したままで、固定盤10に対して前進または後退することをいう。前進または後退は、ダイハイトモータ36を正転または逆転させることにより行われる。
この型厚調整は、実型厚位置Dが目標位置D1に一致するまで行われる(S209)。ここで、実型締位置とはリンクハウジング30の位置を示し、例えば、リンクハウジング30に取り付けた位置センサ等の測定機器で計測する。あるいは、ダイハイトモータ36の回転量から算出される数値を実型厚位置としても良よい。また、目標位置D1は、固定盤10とリンクハウジング30の間のタイバー3の長さを示し、リンク部材51の屈曲状態と合わせて、設定型締力に対応するタイバー3の伸び量を調整する目標値として、初期設定(設定型締力P0,型厚M0)とトグルリンク機構50のトグル倍率等の設計指数に基づいて設定される。
【0048】
実型厚位置Dが目標位置D1に一致すれば、型厚調整工程は完了し(
図8,
図10 S211)、次に、型締力調整工程が実行される(
図9,
図10 S300)。
【0049】
[型締力調整工程の手順:
図9,
図10,
図11]
次に、
図9、
図10および
図11を参照して型締力調整工程の手順を説明する。
はじめに、型厚前進が行われる(
図9,
図10 S301)。
型厚前進は、リンク部材51の屈曲状態を維持したままで、ダイハイトモータ36により、可動金型23を支持する可動盤20、リンクハウジング30およびトグルリンク機構50が一体となって前進することをいう。この型厚前進においては、ダイハイトモータ36のトルクに第3制限値Q3を設定する。これにより、仮に固定金型13と可動金型23の間に異物100を挟み込んだとしても、固定金型13および可動金型23に生ずる損傷を最小限に抑えることができる。
【0050】
型厚前進において、ダイハイトモータ36のトルクが第3制限値Q3に達するとダイハイトモータ36が停止し、型厚停止(
図9,
図10 S303)となる。この型開停止の実型厚位置Dが、固定金型13と可動金型23とが接触した金型タッチ位置となる。なお、仮に固定金型13と可動金型23の間に異物100を挟んだ場合には、固定金型13と可動金型23とは正確には金型タッチしているとは言えない。そこで、この型開停止の位置を仮の金型タッチ位置D2とする。なお、リンク部材51の屈曲状態を維持したままであり、型締モータ74は停止のままであるので、トグル位置Sは型厚調整位置S0から変化していない(S=S0)。また、正しい金型タッチ位置は、一連の型締力自動設定工程が完了した後に設定される。
【0051】
ここで、仮の金型タッチ位置D2と、初期条件の入力(
図7、S103)で設定した型厚(目標位置D1とする)とを比較することで、固定金型13と可動金型23との間に異物100を挟み込んでいるかの異物検知ができる。比較結果が、D2>D1の場合に異物があると判断し、第1トグル前進動作(
図9、
図10、S305)を取り止める。この異物検知の手段を、金型タッチの異物検知、と称する。
【0052】
金型タッチの異物検知の結果が正常と判定後に、第1トグル前進が行われる(
図9,
図10 S305)。第1トグル前進は、固定金型13と可動金型23の間に異物100が存在するか否かを検知し、型締力を発生させる前に異物100による固定金型13と可動金型23の大きな損傷を防止することを主たる目的とする。
第1トグル前進は、型締モータ74を駆動することによりクロスヘッド62を前進させるが、この過程において、型締モータ74のトルクに制限値(第1制限値Q1)が設定される。第1制限値Q1は、以下に示すトルク切替位置ES1に達するまで維持されるが、トルク切替位置ES1を超えると、第2制限値Q2に切り替えられる。第1制限値Q1と第2制限値Q2は、Q1<Q2の関係を有する。つまり、型締モータ74は、トルク切替位置ES1までは低いトルク(Q1)で駆動されるが、トルク切替位置ES1を超えると高いトルク(Q2)で駆動される。低いトルク(Q1)での駆動が行なわれる仮の金型タッチ位置(D2、トグル位置は型厚調整位置S0のまま)とトルク切替位置ES1の間は、異物100についての異物判定領域MA(
図10,
図11参照)として機能する。この異物判定領域MAにおいて、前進を開始してからの実経過時間Tが検知される。
【0053】
第1トグル前進において、トグル位置の判定が行われる(
図9,
図10 S307)。この判定のために、予めトルク切替位置ES1が設定され、実際のトグル位置Sとトルク切替位置ES1とを比較しその結果に基づいて、トグル位置の判定(S≦ES1)が行われる。なお、型厚調整位置S0、トルク切替位置ES1および前進限位置(S=0)の位置関係を
図11に示すが、トルク切替位置ES1は、型厚調整位置S0と前進限位置(S=0)との間に設定される。
【0054】
実際のトグル位置Sがトルク切替位置ES1に達すると(S307 Yes)、第2トグル前進に移行する(
図9,
図10 S313,
図11)。第2トグル前進における、型締モータ74のトルク制限値は、第2制限値Q2(>Q1)に切り替えられる。切り替えられた後の動作は追って説明する。なお、型締モータ74のトルクを第2制限値Q2に切り替えるのは、トグルリンク機構50のデッドポイントを乗り越えるためである。ここで、デッドポイントとは、屈曲しているリンク部材51が直線状に延伸する直前の位置をいい、デッドポイントを乗り越えるには、それまでにトグルリンク機構50を延伸させるのに必要なトルクよりも高いトルクが必要である。そのため、型締モータ74は相当に大きなトルクを発生することができるものが選定され、これが異物100による金型の破損を誘引する結果となっている。
【0055】
一方、実際のトグル位置Sがトルク切替位置ES1に達するまでは(
図9 S307 No)、実経過時間Tが許容経過時間ET1に一致するか否か(T=ET1)の判定が行われる(S308)。この判定は、異物の検知を目的に行われる。つまり、異物判定領域MAを通過するのに要する実経過時間Tが長くなれば、それは固定金型13と可動金型23の間に存在する異物が前進を妨げているとみなすことで、異物の検知を行う。許容経過時間ET1の時間内にトルク切替位置ES1までトグル位置Sが前進しない場合は、異物検知と処理する。
【0056】
実経過時間Tが許容経過時間ET1に達するまで(S308 No(T<ET1))は、第1トグル前進(S305)およびトグル位置の判定(S307)が継続される。
実経過時間Tが許容経過時間ET1に達すると(S308 Yes(T=ET1))は、異物を検知したものとみなし(S309)、第1トグル前進を停止するとともに、その旨の警告を発信する(S311)。警告は、表示部81に文字情報により行ってもよいし、スピーカで音声を発するようにしてもよい。
【0057】
許容経過時間ET1は、クロスヘッド62の前進力を低く設定したことにより、固定金型13と可動金型23の間に異物が存在すると、クロスヘッド62の前進が妨げられる。前進が妨げられない場合の経過時間を超えることを前提として、許容経過時間ET1が設定される。
【0058】
さて、第2トグル前進(S313)においても、トグル位置Sの判定が行われる(S315)。この判定は、クロスヘッド62の位置で代表されるトグル位置が前進限位置(S=0)まで移動したか否かを検知するために行われる。トグル位置が前進限位置(S=0)に達する前までは、第2トグル前進が継続される(S315 No)。
トグル位置が前進限位置(S=0)に達すると(S315 Yes)、実型締力Pが予め定められる設定型締力P0に一致するか否かの判定が行われ、実型締力Pが設定型締力P0に一致すれば(S317 Yes,P=P0)、型締力調整工程を終え(
図10 S321、
図10)、型締力自動設定工程が完了する(
図7,
図10 S109)。実型締力Pが設定型締力P0に一致しなければ(S317 No)、型厚調整工程(S200)に戻り、
図8に示される手順が再度行われる。型締力自動設定工程の完了後に、前進限位置(S=0)を型締完了位置と称する。
【0059】
[効 果]
次に、型締装置1が奏する効果について説明する。
型締装置1は、型締力調整工程(
図9~
図11)において、仮の金型タッチ位置D2(トグル位置S=S0)から型締力を発生させる前進限位置(トグル位置S=0)までの前進が、トルク切替位置ES1により第1トグル前進と第2トグル前進に区分される。この過程において、第2トグル前進の前進力が第1トグル前進の前進力よりも大きく設定される。したがって、異物が固定金型13と可動金型23の間に残されていたとしても、第1トグル前進の前進力が小さいので、異物により固定金型13と可動金型23に損傷を生じさせないか損傷が生じたとしても最小限に抑えることができる。しかも、第2トグル前進の先進力が大きいので、トグルリンク機構50による型締めに欠かせないトグルデッドポイントを確実に乗り越えることができる。
【0060】
次に、型締装置1は、第1トグル前進において、許容経過時間ET1までにトルク切替位置ES1に到達しないと、固定金型13と可動金型23の間に異物があるものと判定する。したがって、前進力の小さい第1トグル前進と相まって、固定金型13と可動金型23に損傷を生じさせないか損傷が生じたとしても最小限に抑えることができる。
【0061】
次に、型締装置1は、型厚停止(
図9、
図10 S303)した位置D2と目標位置D1が一致しないと、固定金型13と可動金型23の間に異物があるものと判定する。したがって、前進力の小さい第1トグル前進と相まって、固定金型13および可動金型23が交換されたばかりの最初の型締力調整であっても、異物の検知を実現できる。
【0062】
上記以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更したりすることが可能である。
以上で説明して型厚前進(
図9 S301)において、ダイハイトモータ36が電動モータであることを前提として説明したが、本発明においては油圧モータを用いることができる。油圧モータの場合には、金型タッチ位置からトルク切替位置の間のみ、リリーフ弁を含む油圧回路において、リリーフ圧力制限値は第3制限値Q3に対応する。したがって、本発明において、両方の形態を含めて制限値と称される。
【0063】
次に、第1トグル前進(
図9 S305)において、その駆動源として型締モータ74を前提として説明したが、駆動源として油圧シリンダを用いることができる。油圧シリンダの場合には、流量制御弁あるいは圧力制御弁を含む油圧回路において、油圧シリンダに供給される作動油の流量制限値あるいは圧力制限値は第1制限値Q1に対応する。この場合についても、両方の形態を含めて前進力、その制限値と称される。
【符号の説明】
【0064】
1 型締装置
2 マシンベース
3 タイバー
10 固定盤
11 金型取付面
13 固定金型
15 固定ナット
20 可動盤
21 金型取付面
23 可動金型
30 リンクハウジング
31 駆動ナット
35 型厚駆動部
36 ダイハイトモータ
38 モータスプロケット
40 チェーン用スプロケット
42 伝達歯車
44 チェーン
46 チェーン
50 トグルリンク機構
51 リンク部材
52 型盤側リンク支持部材
54 トグルリンク
55,59,61,64,65 リンクピン
56 ハウジング側リンク支持部材
58 ミッドリンク
62 クロスヘッド
63 クロスヘッドリンク
70 クロスヘッド駆動装置
71 ボールねじナット
72 ボールねじ軸
73 チェーン用スプロケット
74 型締モータ
75 モータスプロケット
76 チェーン
80 制御部
81 表示部
83 入力部
85 記憶部
87 指示部
89 判定部
100 異物
D1 目標位置
D2 金型タッチ位置
ES1 トルク切替位置
T 実経過時間
ET1 許容経過時間
M0 型厚
MA 異物判定領域
P 実型締力
P0 設定型締力
S トグル位置
S0 型厚調整位置
ST1 金型タッチ位置
Q1 第1制限値
Q2 第2制限値
Q3 第3制限値