(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】ハブユニット軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 33/78 20060101AFI20240925BHJP
B60B 35/14 20060101ALI20240925BHJP
F16C 19/38 20060101ALI20240925BHJP
F16C 33/58 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
F16C33/78 Z
B60B35/14 V
F16C19/38
F16C33/58
(21)【出願番号】P 2021061532
(22)【出願日】2021-03-31
【審査請求日】2023-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】弁理士法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】神谷 良雄
(72)【発明者】
【氏名】若林 達男
【審査官】畔津 圭介
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-129197(JP,A)
【文献】特開2017-133533(JP,A)
【文献】特開2020-106081(JP,A)
【文献】特開2017-172718(JP,A)
【文献】特開2008-223973(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/78
B60B 35/14
F16C 19/38
F16C 33/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に複列の外輪軌道を有する外輪と、
前記外輪よりも軸方向外側に位置する部分に備えられ、かつ、径方向外側に突出する回転フランジと、外周面に備えられた複列の内輪軌道と、軸方向に関して前記複列の内輪軌道のうちの軸方向外側の内輪軌道と前記回転フランジとの間の外周面に備えられた円筒面部とを有するハブと、
前記複列の外輪軌道と前記複列の内輪軌道との間に転動自在に配置された複数個の転動体と、
スリンガとシールリングとを有し、前記外輪の内周面と前記ハブの外周面との間に存在する転動体設置空間の軸方向外側の開口を塞ぐシール装置と、
前記ハブに係止された止め輪と、を備え、
前記スリンガは、前記円筒面部に外嵌固定される筒状部と、該筒状部の軸方向外側の端部から径方向外側に向けて全周にわたり折れ曲がった側板部と、前記筒状部の軸方向内側の端部から径方向内側に向けて全周にわたり折れ曲がった折れ曲がり部とを有しており、
前記シールリングは、先端部が
、前記筒状部の外周面に摺接または近接対向する少なくとも1本のシールリップを有
しており、
前記止め輪により、前記折れ曲がり部の軸方向内側の端部を抑え付けており、
前記止め輪の外径が、前記筒状部の外径よりも小さい、
ハブユニット軸受。
【請求項2】
前記転動体が、円すいころにより構成されており、
前記ハブが、前記複列の内輪軌道のうち、軸方向外側の内輪軌道の軸方向外側に位置する部分に備えられた大径側鍔部と、該大径側鍔部の軸方向内側面に備えられ、かつ、径方向外側に向かうほど軸方向内側に向かう方向に傾斜したころ摺接面と、前記円筒面部と前記ころ摺接面とを接続する傾斜面部とを有しており、
前記ころ摺接面と前記傾斜面部とのなす角度が、鈍角により構成されており、
前記折れ曲がり部が、前記傾斜面部の径方向外側に配置されている、
請求項
1に記載のハブユニット軸受。
【請求項3】
前記折れ曲がり部が、前記筒状部の軸方向内側の端部から径方向内側に向けて全周にわたり折れ曲がり、さらに軸方向外側に向けて折り返されている、
請求項1
または2に記載のハブユニット軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の車輪および制動用回転体を懸架装置に対して回転自在に支持するためのハブユニット軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車輪および制動用回転体は、ハブユニット軸受により懸架装置に対して回転自在に支持される。ハブユニット軸受は、内周面に複列の外輪軌道を有する外輪と、外周面に複列の内輪軌道を有し、かつ、外輪よりも軸方向外側に位置する部分から径方向外側に突出する回転フランジを有するハブと、前記複列の外輪軌道と前記複列の内輪軌道との間に転動自在に配置された複数個の転動体とを備える。
【0003】
なお、軸方向に関して「外」とは、ハブユニット軸受を自動車に組み付けた状態で車体の外側をいい、反対に、ハブユニット軸受を自動車に組み付けた状態で車体の中央側を、軸方向に関して「内」という。
【0004】
ハブユニット軸受は、外輪の内周面とハブの外周面との間に存在する転動体設置空間の軸方向外側の開口を塞ぐシール装置をさらに備える。特開2010-261598号公報(特許文献1)には、外輪の軸方向外側の端部に内嵌固定された芯金と、それぞれの先端部をハブの軸方向中間部外周面または回転フランジの軸方向内側面に摺接させた複数本のシールリップを有し、前記芯金に結合固定されたシール材とを備えるシール装置が記載されている。
【0005】
ここで、特開2017-180599号公報(特許文献2)に記載されているように、ハブの外周面のうち、シールリップの先端部が摺接する部分には、総型の研削(回転砥石)を用いた仕上加工が施されている。総型の研削砥石を用いてハブの外周面に仕上加工を行う際には、ハブの外周面に対する研削砥石の押し付け力を確保するため、ハブをマグネットチャックに対し、互いの中心軸を偏心させた状態で支持する。したがって、ハブの外周面のうち、研削砥石が押し付けられる部分と径方向に関して略反対側部分を支持するシューに摩耗が生じやすく、仕上加工中に、ハブの芯高と研削砥石の芯高とが不一致になりやすい。このため、回転フランジの軸方向内側面に対する研削砥石の研削面の位置が、ハブの径方向に関して変化して、回転フランジの軸方向内側面に対数螺旋状(渦巻状)の研削筋目が形成される可能性がある。
【0006】
回転フランジの軸方向内側面に対数螺旋状の研削筋目が形成されると、シールリングのシールリップの先端部が、研削筋目の凹部の内側に深く入り込み、ハブが回転した際に、径方向に往復移動させられて振動し、シール鳴きと呼ばれる異音を生じる可能性がある。
【0007】
これに対し、特開2017-207124号公報(特許文献3)には、ハブの軸方向中間部外周面に、L字形の断面形状を有するスリンガを外嵌し、かつ、該スリンガにシール本体に備えられたシールリップの先端部を摺接させたシール装置が記載されている。さらに、特開2017-207124号公報に記載のシール装置では、スリンガの筒状部(筒部)の円周方向複数箇所にスリットを形成し、円周方向に隣り合うスリット同士の間部分の先端部を径方向内側に向けて折り曲げてなる爪部を、ハブの外周面に形成された凹部に係止している。これにより、ハブに対するスリンガの軸方向内側への相対移動(ウォークアウト)を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2010-261598号公報
【文献】特開2017-180599号公報
【文献】特開2017-207124号公報
【文献】特開2005-3111号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特開2017-207124号公報に記載の従来構造では、スリンガの筒状部(筒部)の円周方向複数箇所に、軸方向内側の端部に開口するスリットを形成している。このため、前記筒状部の円周方向に関する剛性が低くなり、前記スリンガをハブに対して嵌合により固定しにくくなる。また、前記筒状部の外周面を、シールリップの先端部を摺接させるリップ摺接面としたり、前記シールリップの先端部を近接対向させることで、前記シールリップの先端部と前記筒状部の外周面との間にラビリンスリップを構成したりすることができない。この結果、シール装置によるシール性を、長期間にわたり良好に維持しにくくなる可能性がある。
【0010】
なお、特開2005-3111号公報(特許文献4)には、転動体として円すいころを使用した構造において、軸方向外側の内輪軌道よりも軸方向外側に位置する部分に備えられた大径側鍔部の軸方向内側面と外周面とのなす角度を鈍角としたハブユニット軸受が記載されている。これにより、ハブの高周波熱処理の際に、大径側鍔部の軸方向内側面と外周面との接続部が、局所的に過熱されることによる割れなどの損傷の発生を防止することができる。このような特開2005-3111号公報に記載のハブユニット軸受では、軸方向に関して軸方向外側の内輪軌道と回転フランジとの間部分に、スリンガを外嵌するための円筒面部の軸方向長さを確保しにくくなる。
【0011】
本発明は、上述のような事情を鑑みて、ハブに対するスリンガの嵌合力を十分に確保することができ、かつ、シール装置によるシール性を長期間にわたり良好に維持することができるハブユニット軸受の構造を実現することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様のハブユニット軸受は、外輪と、ハブと、複数個の転動体と、シール装置とを備える。
前記外輪は、内周面に複列の外輪軌道を有する。
前記ハブは、前記外輪よりも軸方向外側に位置する部分に備えられ、かつ、径方向外側に突出する回転フランジと、外周面に備えられた複列の内輪軌道と、軸方向に関して前記複列の内輪軌道のうちの軸方向外側の内輪軌道と前記回転フランジとの間の外周面に備えられた円筒面部とを有する。
前記複数個の転動体は、前記複列の外輪軌道と前記複列の内輪軌道との間に転動自在に配置されている。
前記シール装置は、スリンガとシールリングとを有し、前記外輪の内周面と前記ハブの外周面との間に存在する転動体設置空間の軸方向外側の開口を塞いでいる。
前記スリンガは、前記円筒面部に外嵌固定される筒状部と、該筒状部の軸方向外側の端部から径方向外側に向けて全周にわたり折れ曲がった側板部と、前記筒状部の軸方向内側の端部から径方向内側に向けて全周にわたり折れ曲がった折れ曲がり部とを有する。
前記シールリングは、先端部が、前記筒状部の外周面に摺接または近接対向する少なくとも1本のシールリップを有する。
【0013】
本発明の一態様のハブユニット軸受は、前記ハブに係止された止め輪をさらに備える。そして、前記止め輪により、前記折れ曲がり部の軸方向内側の端部を抑え付けている。また、前記止め輪の外径は、前記筒状部の外径よりも小さくなっている。
【0014】
本発明の一態様のハブユニット軸受では、前記転動体を、円すいころにより構成することができる。
この場合、前記ハブは、前記複列の内輪軌道のうち、軸方向外側の内輪軌道の軸方向外側に位置する部分に備えられた大径側鍔部と、該大径側鍔部の軸方向内側面に備えられ、かつ、径方向外側に向かうほど軸方向内側に向かう方向に傾斜したころ摺接面と、前記円筒面部と前記ころ摺接面とを接続する傾斜面部とを有することができる。そして、前記ころ摺接面と前記傾斜面部とのなす角度を、鈍角により構成し、かつ、前記折れ曲がり部を、前記傾斜面部の径方向外側に配置することができる。
【0015】
本発明の一態様のハブユニット軸受では、前記折れ曲がり部を、前記筒状部の軸方向内側の端部から全周にわたり径方向内側に向けて折れ曲がり、さらに軸方向外側に向けて折り返すことができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一態様のハブユニット軸受によれば、ハブに対するスリンガの嵌合力を十分に確保することができ、かつ、シール装置によるシール性を長期間にわたり良好に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、
参考例の第1例のハブユニット軸受を示す、半部断面図である。
【
図3】
図3は、
参考例の第1例に関する変形例を示す、
図2に相当する図である。
【
図4】
図4は、実施の形態の第
1例を示す、
図2に相当する図である。
【
図5】
図5は、実施の形態の第
1例に関する変形例を示す、
図2に相当する図である。
【
図6】
図6は、
参考例の第
2例を示す、要部拡大断面図である。
【
図7】
図7(A)~
図7(D)は、
参考例の第
2例に関する変形例の4例を示す、要部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[
参考例の第1例]
図1および
図2は、本発明の
参考例の第1例を示している。本
参考例のハブユニット軸受1は、外輪2と、ハブ3と、複数個の転動体4a、4bと、1対のシール装置5a、5bとを備える。本
参考例のハブユニット軸受1は、駆動輪用の構造を備え、かつ、転動体4a、4bとして円すいころを使用している。
【0019】
外輪2は、中炭素鋼などの硬質金属により構成されている。外輪2は、内周面に、複列の外輪軌道6a、6bを有し、かつ、軸方向中間部に、径方向外側に向けて突出した静止フランジ7を有する。それぞれの外輪軌道6a、6bは、軸方向に関して互いに離れる方向に向かうほど内径が大きくなる方向に傾斜した円すい台面により構成されている。静止フランジ7は、径方向中間部の円周方向複数箇所に、軸方向に貫通する支持孔8を有する。
【0020】
本参考例では、支持孔8は、ねじ孔により構成されている。外輪2は、懸架装置のナックルに備えられた通孔を挿通した支持ボルトを、静止フランジ7の支持孔8に軸方向内側から螺合することで、懸架装置に対し支持固定され、車輪が回転する際にも回転しない。
【0021】
ハブ3は、外輪2の径方向内側に外輪2と同軸に配置される。ハブ3は、複列の内輪軌道9a、9bと、1対の大径側鍔部10a、10bと、回転フランジ11とを備える。
【0022】
本参考例では、ハブ3は、内輪21とハブ輪22とを組み合わせてなる。
【0023】
内輪21は、軸受鋼などの硬質金属により構成されている。内輪21は、軸方向内側の内輪軌道9bと、軸方向内側の大径側鍔部10bとを備える。
【0024】
ハブ輪22は、中炭素鋼などの硬質金属により構成されている。ハブ輪22は、軸方向外側の内輪軌道9aと、軸方向外側の大径側鍔部10aと、回転フランジ11と、パイロット部17とを備える。
【0025】
また、ハブ輪22は、軸方向外側の内輪軌道9aよりも軸方向内側に位置する部分に、軸方向外側に隣接する部分よりも外径が小さく、内輪21が外嵌される小径段部23を有する。本参考例のハブ3は、ハブ輪22の小径段部23に内輪21を締り嵌めで外嵌して、内輪21とハブ輪22とを結合固定することにより構成される。
【0026】
それぞれの内輪軌道9a、9bは、ハブ3の外周面のうち、複列の外輪軌道6a、6bに対向する部分に備えられ、かつ、軸方向に関して互いに離れる方向に向かうほど外径が大きくなる方向に傾斜した円すい台面により構成されている。
【0027】
1対の大径側鍔部10a、10bのうち、軸方向外側の大径側鍔部10aは、軸方向外側の内輪軌道9aの軸方向外側に隣接する部分に備えられている。軸方向外側の大径側鍔部10aは、軸方向内側面にころ摺接面12aを有し、外周面の軸方向内側部分に傾斜面部13を有し、かつ、外周面の軸方向外側部分に円筒面部14aを有する。
【0028】
ころ摺接面12aは、径方向外側に向かうほど軸方向内側に向かう方向に傾斜した円すい台面により構成されている。ころ摺接面12aには、使用状態で、軸方向外側列の転動体4aの大径側端面が摺接する。
【0029】
傾斜面部13は、大径側鍔部10aの高周波熱処理の際に、大径側鍔部10aのころ摺接面12aと円筒面部14aの接続部が、局所的に過熱されることによる割れなどの損傷や結晶の粗大化などの不具合の発生を防止するため、径方向外側に向かうほど軸方向外側に向かう方向に傾斜した円すい台面により構成されている。傾斜面部13の軸方向内側の端部は、ころ摺接面12aの径方向外側の端部に接続されている。すなわち、傾斜面部13は、ころ摺接面12aの径方向外側の端部から軸方向外側かつ径方向外側に向けて折れ曲がっている。本参考例では、ころ摺接面12aと傾斜面部13とのなす角度θ1が、鈍角または直角により構成されている。すなわち、前記角度θ1を、90度以上としている。具体的には、例えば、前記角度θ1を、90度以上120度以下、好ましくは100度よりも大きく、110度以下とすることができる。なお、図示の例では、前記角度θ1を、約90度としている。これにより、ハブ3を構成するハブ輪22に熱処理を施す際に、ころ摺接面12aと傾斜面部13との接続部の局所的な過熱を防止して、割れなどの損傷の発生を防止している。なお、傾斜面部13を、前記角度θ1の傾斜面と、該傾斜面ところ摺接面12aとを接続する断面円弧形状の面取り部とからなる複合面により構成することもできる。
【0030】
円筒面部14aの軸方向内側の端部は、傾斜面部13の軸方向外側の端部に接続されている。傾斜面部13と円筒面部14aとのなす角度θ2は、鈍角により構成されている。すなわち、前記角度θ2を、90度よりも大きくしている。具体的には、例えば、前記角度θ2を、90度よりも大きく160度以下、好ましくは140度よりも大きく、150度以下とすることができる。なお、図示の例では、前記角度θ2を、約150度としている。
【0031】
1対の大径側鍔部10a、10bのうち、軸方向内側の大径側鍔部10bは、軸方向内側の内輪軌道9bの軸方向内側に隣接する部分に備えられている。軸方向内側の大径側鍔部10bは、軸方向外側面にころ摺接面12bを有し、かつ、外周面の軸方向内側部分に円筒面部14bを有する。
【0032】
ころ摺接面12bは、径方向外側に向かうほど軸方向外側に向かう方向に傾斜した円すい台面により構成されている。ころ摺接面12bには、使用状態で、軸方向内側列の転動体4bの大径側端面が摺接する。
【0033】
回転フランジ11は、ハブ3のうち、外輪2の軸方向外側の端部よりも軸方向外側に位置する部分に、径方向外側に向けて突出するように備えられている。回転フランジ11は、径方向中間部の円周方向複数箇所に、軸方向に貫通する取付孔15を有する。取付孔15のそれぞれには、ディスクやドラムなどの制動用回転体、および、車輪を構成するホイールを、回転フランジ11に対し結合固定するためのスタッド16が圧入(セレーション嵌合)されている。すなわち、本参考例では、取付孔15は、圧入孔により構成されている。
【0034】
制動用回転体およびホイールは、それぞれの中心部に備えられた中心孔に、ハブ3の軸方向外側の端部に備えられたパイロット部17を挿通し、かつ、それぞれの径方向中間部の円周方向複数箇所に備えられた通孔に、スタッド16を挿通した状態で、スタッド16の先端部にハブナットを螺合することにより、回転フランジ11に結合固定される。
【0035】
なお、回転フランジの取付孔を、ねじ孔により構成することもできる。この場合には、制動用回転体に備えられた通孔と、ホイールに備えられた通孔とを挿通したハブボルトを、取付孔に螺合することにより、制動用回転体および車輪を回転フランジに結合固定する。
【0036】
さらに、ハブ3は、回転フランジ11の軸方向内側面の径方向内側部分に、ハブ3の中心軸Oに直交する平坦面部18を有し、かつ、軸方向中間部外周面に、軸方向外側の(軸方向外側の大径側鍔部10aの外周面に備えられた)円筒面部14aと、平坦面部18とを接続する断面円弧形の隅R部19を有する。
【0037】
なお、本参考例のハブユニット軸受1は、駆動輪用のハブユニット軸受であるため、ハブ3は、中心部に、軸方向に貫通するスプライン孔20を有する。スプライン孔20には、エンジンや電動モータを駆動源として回転駆動する駆動軸の先端部がスプライン係合される。自動車の走行時には、駆動軸によりハブ3を回転駆動することで、ハブ3の回転フランジ11に結合固定された車輪および制動用回転体を回転駆動する。
【0038】
ただし、本発明のハブユニット軸受は、従動輪用のハブユニット軸受に適用することもできる。この場合には、スプライン孔を省略して、ハブを中実に構成することができる。
【0039】
転動体4a、4bのそれぞれは、複列の外輪軌道6a、6bと複列の内輪軌道9a、9bとの間に、それぞれ複数個ずつ、保持器24により保持された状態で転動自在に配置されている。これにより、ハブ3は、外輪2の径方向内側に回転自在に支持される。
【0040】
1対のシール装置5a、5bは、外輪2の内周面とハブ3の外周面との間に存在する転動体設置空間25の軸方向両側の開口を塞ぐ。これにより、外部空間から転動体設置空間25への泥水などの異物の侵入、および、転動体設置空間25内に封入したグリースの外部空間への漏洩を防止している。
【0041】
1対のシール装置5a、5bのうち、転動体設置空間25の軸方向外側の開口を塞ぐシール装置5aは、スリンガ26と、シールリング27とを備える。
【0042】
スリンガ26は、ステンレス鋼板などの防錆性を有する金属板を、断面略L字形に曲げ成形することにより、全体を円環状に構成されている。スリンガ26は、筒状部28と、側板部29と、折れ曲がり部30とを備える。
【0043】
筒状部28は、円筒形状を有し、ハブ3の軸方向外側の円筒面部14aに締り嵌めで外嵌固定されている。
【0044】
側板部29は、筒状部28の軸方向外側の端部から全周にわたり径方向外側に向けて折れ曲がっている。側板部29は、径方向外側に配置された、中空円形板状の平板部31と、径方向内側に配置された、断面円弧形の湾曲部32とを有する。
【0045】
平板部31は、軸方向外側面を、回転フランジ11の平坦面部18に隙間なく当接させている。
【0046】
湾曲部32は、筒状部28の軸方向外側の端部と、平板部31の径方向内側の端部とを接続している。すなわち、湾曲部32は、軸方向内側かつ径方向内側の端部を、筒状部28の軸方向外側の端部に接続し、かつ、軸方向外側かつ径方向外側の端部を、平板部31の径方向内側の端部に接続している。
【0047】
折れ曲がり部30は、筒状部28の軸方向内側の端部から全周にわたり径方向内側に向けて略直角に折れ曲がっている。すなわち、折れ曲がり部30は、内向フランジ状に構成されている。折れ曲がり部30は、筒状部28を円筒面部14aに外嵌固定した状態で、軸方向外側の傾斜面部13の径方向外側に配置されている。なお、折れ曲がり部30の先端部(径方向内側の端部)は、傾斜面部13に近接対向するか、または、筒状部28の軸方向内側の端部が径方向外側に向けて変形しない程度に軽く接触している。
【0048】
シールリング27は、それぞれの先端部が、スリンガ26の筒状部28の外周面または側板部29の軸方向内側面に摺接または近接対向する複数本(図示の例では3本)のシールリップ33a、33b、33cを有する。本参考例では、シールリング27は、外輪2の軸方向外側の端部に内嵌固定された芯金34と、複数本のシールリップ33a、33b、33cを有し、かつ、芯金34に結合固定されたシール本体35とを備える。
【0049】
芯金34は、軟鋼板などの金属板を曲げ成形することにより、全体を円環状に構成されている。芯金34は、嵌合筒部36と、外向鍔部37と、折れ曲がり板部38とを備える。
【0050】
嵌合筒部36は、円筒状に構成され、かつ、外周面を、外輪2の軸方向外側の端部内周面に圧入により内嵌固定されている。
【0051】
外向鍔部37は、嵌合筒部36の軸方向外側の端部から径方向外側に向けて直角に折れ曲がり、かつ、軸方向内側面を、後述するシール本体35の基部39の一部を介して、外輪2の軸方向外側の端面に突き当てている。
【0052】
折れ曲がり板部38は、嵌合筒部36の軸方向内側の端部から径方向内側かつ軸方向外側に向けて略V字形に折り返され、さらに、先端部が径方向内側に向けて折れ曲がっている。
【0053】
シール本体35は、ゴムの如きエラストマーなどの弾性材により構成され、芯金34に加硫成形により結合固定(接着)されている。シール本体35は、基部39と、複数本のシールリップ33a、33b、33cと、堰部40と、ラビリンスリップ41とを備える。
【0054】
基部39は、芯金34のうち、外向鍔部37の軸方向内側面の径方向外側の端部、外周面および軸方向外側面と、嵌合筒部36の内周面と、折れ曲がり板部38の軸方向外側面、内周面および軸方向内側面の径方向内側の端部とを覆うように、芯金34に結合固定されている。
【0055】
シールリップ33a、33b、33cのそれぞれは、基部39からスリンガ26の筒状部28の外周面または側板部29の軸方向内側面に向けて延出し、かつ、先端部を、筒状部28の外周面または側板部29の軸方向内側面に全周にわたり摺接または近接対向させている。本参考例では、最も径方向外側のシールリップ33aは、先端部を、側板部29の平板部31の軸方向内側面に全周にわたり摺接させており、残りの2本のシールリップ33b、33cは、先端部を、筒状部28の外周面に全周にわたり摺接させている。
【0056】
堰部40は、基部39のうち、外向鍔部37の外周面を覆う部分から径方向外側に向けて突出している。堰部40は、径方向外側の端部を、外輪2の軸方向外側の端面より径方向外側に突出させている。これにより、外輪2の外周面に付着し、該外輪2の外周面を伝って、外輪2の軸方向外側の端面と回転フランジ11の軸方向内側面との間から転動体設置空間25内に侵入しようとする水分を堰き止めることができる。
【0057】
ラビリンスリップ41は、基部39のうち、外向鍔部37の外周面を覆う部分から軸方向外側かつ径方向外側に向けて、円すい筒状に延出している。ラビリンスリップ41は、先端面(軸方向外側の端面)を、回転フランジ11の軸方向内側面の径方向中間部に近接対向させ、かつ、内周面の軸方向外側部分を、スリンガ26の側板部29の径方向外側の端面に近接対向させている。これにより、ラビリンスリップ41と、ハブ3およびスリンガ26との間に、ラビリンスシール42を構成している。
【0058】
1対のシール装置5a、5bのうち、転動体設置空間25の軸方向内側の開口を塞ぐシール装置5bは、例えば、組み合わせシールリングにより構成される。具体的には、軸方向内側のシール装置5bは、略L字形の断面形状を有し、ハブ3の軸方向内側の端部(軸方向内側の円筒面部14b)に外嵌固定されたスリンガと、先端部をスリンガの表面に全周にわたり摺接または近接対向させた少なくとも1本のシールリップを有し、外輪2の軸方向内側の端部に内嵌固定されたシールリングとを備えることができる。
【0059】
なお、従動輪用のハブユニット軸受の場合には、軸方向内側のシール装置として、組み合わせシールリングに代えて、あるいは、組み合わせシールリングに加えて、外輪の軸方向内側の端部に固定された有底円筒状のカバーを採用することもできる。
【0060】
本参考例のハブユニット軸受1によれば、軸方向外側のシール装置5aを構成するスリンガ26のハブ3に対する嵌合力を十分に確保することができ、かつ、シール装置5aによるシール性を長期間にわたり良好に維持することができる。
【0061】
すなわち、本参考例のハブユニット軸受1では、スリンガ26の筒状部28に、特開2017-207124号公報に記載の従来構造のように、軸方向内側の端部に開口するスリットを形成していない。したがって、本参考例では、筒状部28の外周面に、シールリップ33b、33cの先端部を摺接させることができる。このため、軸方向外側のシール装置5aによるシール性を、長期間にわたり良好に維持することができる。また、筒状部28の円周方向に関する剛性の低下を防止できて、ハブ3の円筒面部14aに対するスリンガ26の嵌合力を確保することができる。
【0062】
さらに、本参考例では、スリンガ26は、筒状部28の軸方向内側の端部から全周にわたり径方向内側に向けて略直角に折れ曲がった折れ曲がり部30を有する。このため、筒状部28の円周方向に関する剛性を向上させることができて、ハブ3の円筒面部14aに対するスリンガ26の嵌合力を向上させることができる。
【0063】
特に本参考例のハブユニット軸受1は、軸方向外側の大径側鍔部10aの軸方向内側面(ころ摺接面12a)と外周面との接続部の局所的な過熱を防止すべく、大径側鍔部10aの外周面の軸方向内側部分に傾斜面部13を形成しており、スリンガ26の筒状部28を外嵌固定する円筒面部14aの長さを確保しにくい構造を備える。このため、本参考例のハブユニット軸受1によれば、ハブ3に対するスリンガ26の嵌合力を十分に確保することができるといった効果を顕著に得ることができる。
【0064】
なお、前記従来構造では、スリンガの筒状部に、軸方向内側の端部に開口するスリットを形成している。したがって、前記従来構造では、ハブに対してスリンガを圧入する際に、筒状部の軸方向内側の端部を治具により押圧すると、筒状部のうち、円周方向に隣り合うスリット同士の間部分が座屈変形してしまう可能性がある。このため、前記従来構造では、ハブに対してスリンガを圧入する際には、筒状部の軸方向外側の端部から径方向外側に向けて折れ曲がった側板部(円環部)の軸方向内側面を治具により押圧する必要がある。側板部の軸方向内側面を治具により押圧した場合、側板部が倒れるように変形して、作業性が低下する可能性がある。
【0065】
これに対して、本参考例では、スリンガ26の筒状部28に、軸方向内側の端部に開口するスリットは形成されておらず、かつ、筒状部28の軸方向内側の端部から全周にわたり径方向内側に向けて略直角に折れ曲がった折れ曲がり部30が形成されており、筒状部28の軸方向に関する剛性は十分に高い。このため、筒状部28の軸方向内側の端部および折れ曲がり部30の軸方向内側面を治具により押圧することで、スリンガ26を軸方向外側の円筒面部14aに圧入することができ、作業性の低下を防止することができる。
【0066】
また、前記従来構造では、スリンガをハブに装着する際に、筒状部の軸方向内側の端部に形成された爪部を、径方向外側に向けて弾性変形させつつ、筒状部をハブに圧入する必要がある。そして、ハブの外周面に形成された凹部と、爪部との軸方向位置が一致した状態で、爪部を弾性的に復元させ、爪部と凹部とを係合させている。
【0067】
これに対して、本参考例では、スリンガ26の折れ曲がり部30を、筒状部28を円筒面部14aに外嵌固定した状態で、軸方向外側の傾斜面部13の径方向外側に配置している。すなわち、スリンガ26をハブ3に装着する際に、折れ曲がり部30が、ハブ3の外周面に干渉することはなく、前記従来構造の爪部のように、折れ曲がり部30を径方向外側に向けて弾性変形させる必要がない。この面からも、スリンガ26をハブ3に装着する作業の作業性の低下を防止することができる。
【0068】
本参考例のハブユニット軸受1では、転動体4として円すいころを使用しているが、円すいころに代えて玉を使用することもできる。また、軸方向内側列の転動体のピッチ円直径と、軸方向外側列の転動体のピッチ円直径とが等しい、等径PCD型のハブユニット軸受に適用することもできるし、軸方向内側列の転動体のピッチ円直径が、軸方向外側列の転動体のピッチ円直径よりも大きいか、または、小さい、異径PCD型のハブユニット軸受に適用することもできる。
【0069】
また、本発明のハブユニット軸受は、本参考例のような、ハブ3が、中心部に、軸方向に貫通するスプライン孔20を有する駆動輪用のハブユニット軸受1に限らず、ハブが、中実体である従動輪用のハブユニット軸受に適用することもできる。
【0070】
[
参考例の第1例の変形例]
図3は、本発明の
参考例の第1例に関する変形例を示している。本変形例では、スリンガ26aは、筒状部28の軸方向内側の端部から、径方向内側に向けて全周にわたり折れ曲がり、さらに軸方向外側に向けて折り返された折れ曲がり部30aを有する。すなわち、折れ曲がり部30aは、筒状部28の軸方向内側の端部から径方向内側かつ軸方向外側に向けて、断面略U字形に折り返された折り返し部により構成されている。折れ曲がり部30aは、筒状部28を円筒面部14aに外嵌固定した状態で、軸方向外側の傾斜面部13の径方向外側に配置されている。
【0071】
[第
1例]
図4は、本発明の実施の形態の第
1例を示している。本例では、ハブ3の軸方向外側の傾斜面部13の軸方向中間部に、円形の断面形状を有する止め輪43を係止し、かつ、止め輪43により、スリンガ26の折れ曲がり部30の軸方向内側の端部を押え付けている。具体的には、止め輪43の軸方向外側の端部を、内向フランジ状の折れ曲がり部30の軸方向内側面に突き当てている。
【0072】
なお、本例では、止め輪43の外径を、筒状部28の外径よりも小さくしている。これにより、ハブユニット軸受の組立時、スリンガ26の筒状部28をハブ3の円筒面部14aに外嵌固定し、かつ、止め輪43を係止した後で、軸方向外側の端部にシールリング27を内嵌固定した外輪2に、ハブ3を軸方向外側から挿入する際に、シールリング27のシールリップ33b、33cが、止め輪43に引っかかることを防止している。
【0073】
本例のハブユニット軸受によれば、ハブ3に対するスリンガ26の軸方向内側への相対移動をより確実に阻止することができる。その他の部分の構成および作用効果は、参考例の第1例と同様である。
【0074】
[第
1例の変形例]
図5は、本発明の実施の形態の第
1例に関する変形例を示している。本変形例では、ハブ3の軸方向外側の傾斜面部13の軸方向中間部に、矩形の断面形状を有する止め輪43aを係止し、かつ、止め輪43aにより、スリンガ26aの折れ曲がり部30aの軸方向内側の端部を抑え付けている。具体的には、止め輪43aの軸方向外側面を、断面略U字形の折れ曲がり部30aの軸方向内側の端部に突き当てている。
【0075】
止め輪43aの外径は、筒状部28の外径よりも小さくしている。これにより、ハブユニット軸受の組立時に、シールリング27のシールリップ33b、33cが、止め輪43aに引っかかることを防止している。
【0076】
本変形例のハブユニット軸受によれば、実施の形態の第1例と同様に、ハブ3に対するスリンガ26aの軸方向内側への相対移動をより確実に阻止することができる。
【0077】
なお、本変形例のような、矩形の断面形状を有する止め輪43aと、実施の形態の第1例のような、内向フランジ状の折れ曲がり部30を有するスリンガ26とを組み合わせることもできる。
【0078】
また、実施の形態の第1例のような、円形の断面形状を有する止め輪43と、本変形例のような、断面略U字形の折れ曲がり部30aを有するスリンガ26aとを組み合わせることもできる。ただし、この場合には、止め輪43の外径を、筒状部28の外径よりも小さくするとともに、スリンガ26aの中心軸を中心とし、かつ、折れ曲がり部30aの折り返し点(頂点)を通る円の直径以上とする。止め輪43の外径が前記直径よりも小さいと、止め輪43からスリンガ26aの折れ曲がり部30aに径方向外側に向かう方向の力が加わり、ハブ3に対するスリンガ26aの嵌合力が低下してしまう可能性があるためである。
【0079】
[
参考例の第
2例]
図6は、本発明の
参考例の第
2例を示している。本
参考例
のハブユニット軸受では、転動体として玉を使用し
ている。このため、ハブ3aは、外周面に、円弧形の断面形状(母線形状)を有する複列の内輪軌道9cを備え、かつ、内輪軌道9cと軸方向に隣接する部分に肩部44を備える。なお、
図6では、軸方向外側の内輪軌道9c、および、軸方向外側の内輪軌道9cの軸方向外側に隣接する部分に備えられた肩部44のみを図示している。
【0080】
軸方向外側の肩部44は、外周面の軸方向外側部分に円筒面部14cを有し、かつ、外周面の軸方向内側部分に、円筒面部14cよりも外径が小さい段部45を有する。
【0081】
本参考例では、スリンガ26の筒状部28を円筒面部14cに締り嵌めで外嵌固定した状態で、折れ曲がり部30を、段部45の径方向外側に位置させている。すなわち、折れ曲がり部30の先端部を、段部45に近接対向させるか、または、筒状部28の軸方向内側の端部が径方向外側に向けて変形しない程度に軽く接触させている。
【0082】
本参考例のハブユニット軸受も、参考例の第1例のハブユニット軸受1と同様に、ハブ3に対するスリンガ26の嵌合力を十分に確保することができ、かつ、シール装置5aによるシール性を長期間にわたり良好に維持することができる。その他の部分の構成および作用効果は、参考例の第1例と同様である。
【0083】
[
参考例の第
2例の変形例]
図7(A)~
図7(D)は、
参考例の第
2例に関する変形例の第1例~第4例を示している。
【0084】
図7(A)に示す変形例の第1例では、スリンガ26aの筒状部28をハブ3aの円筒面部14cに締り嵌めで外嵌し、かつ、断面略U字形の折れ曲がり部30aを、段部45の径方向外側に位置させている。
【0085】
図7(B)に示す変形例の第2例では、段部45の軸方向中間部に、矩形の断面形状を有する止め輪43aを係止し、かつ、止め輪43aにより、スリンガ26を構成する折れ曲がり部30の軸方向内側の端部を抑え付けている。具体的には、止め輪43aの軸方向外側面を、内向フランジ状の折れ曲がり部30の軸方向内側面に突き当てている。これにより、ハブ3aに対するスリンガ26aの軸方向内側への相対移動をより確実に防止している。
【0086】
図7(C)に示す変形例の第3例では、段部45の軸方向中間部に円形の断面形状を有する止め輪43を係止し、かつ、止め輪43により、スリンガ26を構成する折れ曲がり部30の軸方向内側の端部を抑え付けている。具体的には、止め輪43の軸方向外側の端部を、内向フランジ状の折れ曲がり部30の軸方向内側面に突き当てている。これにより、ハブ3aに対するスリンガ26の軸方向内側への相対移動をより確実に防止している。
【0087】
なお、変形例の第2例および第3例では、実施の形態の第1例と同様に、止め輪43a、43の外径を、筒状部28の外径よりも小さくしている。すなわち、変形例の第2例および第3例は、本発明の技術的範囲に含まれる。これにより、ハブユニット軸受の組立時に、シールリング27のシールリップ33b、33cが、止め輪43a、43に引っかかることを防止している。
【0088】
図7(D)に示す変形例の第4例では、段部45の軸方向中間部に円形の断面形状を有する止め輪43を係止し、かつ、止め輪43により、スリンガ26aを構成する折れ曲がり部30aの軸方向内側の端部を抑え付けている。具体的には、止め輪43の軸方向外側の端部を、断面U字形の折れ曲がり部30aの軸方向内側の端部に突き当てている。これにより、ハブ3aに対するスリンガ26aの軸方向内側への相対移動をより確実に防止している。
【0089】
なお、変形例の第4例では、止め輪43の外径を、筒状部28の外径よりも小さくするとともに、スリンガ26aの中心軸を中心とし、かつ、折れ曲がり部30aの折り返し点(頂点)を通る円の直径以上としている。すなわち、変形例の第4例は、本発明の技術的範囲に含まれる。
【0090】
上述した実施の形態の第1例、参考例の第1例および第2例、並びに、それぞれの変形例は、矛盾を生じない限り、適宜組み合わせて実施することができる。
【符号の説明】
【0091】
1 ハブユニット軸受
2 外輪
3 ハブ
4a、4b 転動体
5a、5b シール装置
6a、6b 外輪軌道
7 静止フランジ
8 支持孔
9a、9b、9c 内輪軌道
10a、10b 大径側鍔部
11 回転フランジ
12a、12b ころ摺接面
13 傾斜面部
14a、14b 円筒面部
15 取付孔
16 スタッド
17 パイロット部
18 平坦面部
19 隅R部
20 スプライン孔
21 内輪
22 ハブ輪
23 小径段部
24 保持器
25 転動体設置空間
26、26a スリンガ
27 シールリング
28 筒状部
29 側板部
30、30a 折れ曲がり部
31 平板部
32 湾曲部
33a、33b、33c シールリップ
34 芯金
35 シール本体
36 嵌合筒部
37 外向鍔部
38 折れ曲がり板部
39 基部
40 堰部
41 ラビリンスリップ
42 ラビリンスシール
43、43a 止め輪
44 肩部
45 段部