(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】車両衝突回避支援装置
(51)【国際特許分類】
B60W 30/09 20120101AFI20240925BHJP
B60W 40/04 20060101ALI20240925BHJP
B60W 40/107 20120101ALI20240925BHJP
B60W 40/076 20120101ALI20240925BHJP
B60W 30/02 20120101ALI20240925BHJP
B60T 7/12 20060101ALI20240925BHJP
G08G 1/16 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
B60W30/09
B60W40/04
B60W40/107
B60W40/076
B60W30/02
B60T7/12 C
G08G1/16 E
(21)【出願番号】P 2021064011
(22)【出願日】2021-04-05
【審査請求日】2023-09-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】弁理士法人プロスペック特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋本 翔
(72)【発明者】
【氏名】嶋中 由美
【審査官】鶴江 陽介
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-232825(JP,A)
【文献】特開2017-043262(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2014-0076743(KR,A)
【文献】特開2019-151185(JP,A)
【文献】特開2017-191383(JP,A)
【文献】国際公開第2021/020311(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 30/00-60/00
G08G 1/00- 1/16
B62D 6/00- 6/10
B60T 7/12- 8/1769
B60T 8/32- 8/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両がその前方の物体に衝突する可能性がある場合、前記自車両に制動力を付加して前記自車両が前記物体に衝突する前に前記自車両を停止させることにより前記自車両と前記物体との衝突を回避する強制制動と、前記自車両が前記物体の横を通過するように前記自車両を操舵することにより前記自車両と前記物体との衝突を回避する強制操舵と、の何れか一方を実施する車両衝突回避支援装置
であって、
前記自車両の状況に係る情報及び前記自車両周辺の状況に係る情報の少なくとも一方を取得し、
該取得した情報に基づいて前記強制操舵の実施を要求する要求条件が成立したか否か及び前記強制操舵の実施を禁止する禁止条件が成立したか否かを判定し、
前記要求条件が成立していない場合、前記禁止条件が成立しているか否かとはかかわりなく、前記強制制動を実施し、
前記禁止条件が成立していないときに前記要求条件が成立した場合、前記強制操舵を実施し、
前記禁止条件が成立している場合、前記要求条件が成立しても、前記強制制動を実施する、
ように構成された車両衝突回避支援装置
において、
前記自車両のブレーキペダルに対する操作量に応じた制動力が前記自車両に付加されるように前記自車両に制動力を付加する制動装置の作動を制御し、
前記自車両の運転者により前記ブレーキペダルが操作されたときの前記自車両の減速度を前記自車両の状況に係る情報として取得し、
前記減速度が前記ブレーキペダルに対する前記運転者の操作量に応じて設定した基準減速度以下である場合、前記要求条件が成立していると判定し、
前記減速度が前記基準減速度よりも大きい場合、前記要求条件が成立していないと判定する、
ように構成されており、
前記自車両の車速及び前記自車両が走行している路面の勾配を取得し、
前記車速が基準車速よりも遅い場合、又は、前記勾配が基準勾配よりも大きい場合、前記自車両の減速度の取得を行わない、
ように構成されている、
車両衝突回避支援装置。
【請求項2】
自車両がその前方の物体に衝突する可能性がある場合、前記自車両に制動力を付加して前記自車両が前記物体に衝突する前に前記自車両を停止させることにより前記自車両と前記物体との衝突を回避する強制制動と、前記自車両が前記物体の横を通過するように前記自車両を操舵することにより前記自車両と前記物体との衝突を回避する強制操舵と、の何れか一方を実施する車両衝突回避支援装置であって、
前記自車両の状況に係る情報及び前記自車両周辺の状況に係る情報の少なくとも一方を取得し、
該取得した情報に基づいて前記強制操舵の実施を要求する要求条件が成立したか否か及び前記強制操舵の実施を禁止する禁止条件が成立したか否かを判定し、
前記要求条件が成立していない場合、前記禁止条件が成立しているか否かとはかかわりなく、前記強制制動を実施し、
前記禁止条件が成立していないときに前記要求条件が成立した場合、前記強制操舵を実施し、
前記禁止条件が成立している場合、前記要求条件が成立しても、前記強制制動を実施する、
ように構成された車両衝突回避支援装置において、
前記自車両が走行している路面の勾配を前記自車両周辺の状況に係る情報として取得し、
前記勾配がゼロよりも小さく且つその絶対値が第1勾配以上である場合、前記要求条件が成立していると判定し、
前記勾配がゼロ以上である場合、又は、前記勾配がゼロよりも小さいがその絶対値が前記第1勾配よりも小さい場合、前記要求条件が成立していないと判定する、
ように構成されている車両衝突回避支援装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の車両衝突回避支援装置において、
前記自車両が走行している路面のカントを前記自車両周辺の状況に係る情報として取得し、
前記カントが所定カント以上である場合、前記禁止条件が成立していると判定し、
前記カントが前記所定カントよりも小さい場合、前記禁止条件が成立していないと判定する、
するように構成されている車両衝突回避支援装置。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載の車両衝突回避支援装置において、
前記自車両の走行挙動を安定させるために前記自車両に付加する駆動力又は制動力を調整する車両安定制御の実施の有無を前記自車両の状況に係る情報として取得し、
前記車両安定制御を実施している場合、前記禁止条件が成立していると判定し、
前記車両安定制御を実施していない場合、前記禁止条件が成立していないと判定する、
ように構成されている車両衝突回避支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両衝突回避支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自車両とその前方の物体との衝突を回避するための衝突回避制動及び衝突回避操舵を実施可能に構成された車両衝突回避支援装置が知られている。衝突回避制動は、自車両の運転者によるブレーキペダル操作がなくても、自車両に制動力を強制的に付加することにより自車両と物体との衝突を回避するための衝突回避処理であり、衝突回避操舵は、自車両によるハンドル操作がなくても、自車両を強制的に操舵することにより自車両と物体との衝突を回避するための衝突回避処理である。
【0003】
こうした車両衝突回避支援装置として、自車両がその前方の物体に衝突する可能性があると判断したときに衝突回避制動を開始し、それでもなお、自車両とその前方の物体との衝突を回避することができないと判断したときに衝突回避操舵を開始するように構成された車両衝突回避支援装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【0005】
上述した従来の車両衝突回避支援装置は、自車両を取り巻く状況とはかかわりなく、自車両がその前方の物体に衝突する可能性があると判断した場合、衝突回避操舵ではなく、衝突回避制動を開始する。しかしながら、自車両を取り巻く状況によっては、衝突回避制動ではなく、衝突回避操舵を開始したほうが、より適切に自車両と物体との衝突を回避することができることもあり得る。
【0006】
本発明の目的は、自車両を取り巻く状況に応じて適切な衝突回避処理を実施することができる車両衝突回避支援装置を提供することにある。
【0007】
本発明に係る車両衝突回避支援装置は、自車両がその前方の物体に衝突する可能性がある場合、前記自車両に制動力を付加して前記自車両が前記物体に衝突する前に前記自車両を停止させることにより前記自車両と前記物体との衝突を回避する強制制動と、前記自車両が前記物体の横を通過するように前記自車両を操舵することにより前記自車両と前記物体との衝突を回避する強制操舵と、の何れか一方を実施するように構成されている。
【0008】
そして、本発明に係る車両衝突回避支援装置は、前記自車両の状況に係る情報及び前記自車両周辺の状況に係る情報の少なくとも一方を取得し、該取得した情報に基づいて前記強制操舵の実施を要求する要求条件が成立したか否か及び前記強制操舵の実施を禁止する禁止条件が成立したか否かを判定する。本発明に係る車両衝突回避支援装置は、前記要求条件が成立していない場合、前記禁止条件が成立しているか否かとはかかわりなく、前記強制制動を実施し、前記禁止条件が成立していないときに前記要求条件が成立した場合、前記強制操舵を実施し、前記禁止条件が成立している場合、前記要求条件が成立しても、前記強制制動を実施するように構成されている。
更に、本発明に係る車両衝突回避支援装置は、前記自車両のブレーキペダルに対する操作量に応じた制動力が前記自車両に付加されるように前記自車両に制動力を付加する制動装置の作動を制御し、前記自車両の運転者により前記ブレーキペダルが操作されたときの前記自車両の減速度を前記自車両の状況に係る情報として取得し、前記減速度が前記ブレーキペダルに対する前記運転者の操作量に応じて設定した基準減速度以下である場合、前記要求条件が成立していると判定し、前記減速度が前記基準減速度よりも大きい場合、前記要求条件が成立していないと判定するように構成されている。
又、本発明に係る車両衝突回避支援装置は、前記自車両の車速及び前記自車両が走行している路面の勾配を取得し、前記車速が基準車速よりも遅い場合、又は、前記勾配が基準勾配よりも大きい場合、前記自車両の減速度の取得を行わないように構成されてもよい。
【0009】
本発明によれば、自車両の状況又は自車両の周辺の状況を考慮して要求条件が成立しているか否か及び禁止条件が成立しているか否かが判定される。そして、要求条件が成立していない場合、禁止条件が成立しているか否かとはかかわりなく、強制制動が実施され、禁止条件が成立していないときに要求条件が成立した場合、強制操舵が実施され、禁止条件が成立している場合、要求条件が成立しても、強制制動が実施される。従って、要求条件が成立するような強制操舵を実施することが好ましい場面においては、禁止条件が成立するような強制操舵を実施しないほうが好ましい状況を除き、強制操舵が実施される。このため、自車両を取り巻く状況に応じて適切な衝突回避処理を実施することができる。
又、ブレーキペダルに対する運転者の操作量とそのときの自車両の減速度との関係は、強制制動を実施せずに強制操舵を実施したほうが好ましいか否かを判定するのに有効な指標である。本発明によれば、ブレーキペダルに対する運転者の操作量とそのときの自車両の減速度との関係を考慮して要求条件が成立しているか否かが判定される。従って、自車両を取り巻く状況に応じて、より適切な衝突回避処理を実施することができる。
又、自車両の車速が遅かったり、自車両が走行している路面の勾配が大きかったりすると、自車両の減速度を正確に取得することができない可能性がある。本発明によれば、自車両の車速が基準車速よりも遅い場合、又は、自車両が走行している路面の勾配が基準勾配よりも大きい場合、自車両の減速度の取得が行われない。従って、自車両の正確な減速度のみを取得することができる。
【0032】
更に、本発明に係る別の車両衝突回避支援装置は、自車両がその前方の物体に衝突する可能性がある場合、前記自車両に制動力を付加して前記自車両が前記物体に衝突する前に前記自車両を停止させることにより前記自車両と前記物体との衝突を回避する強制制動と、前記自車両が前記物体の横を通過するように前記自車両を操舵することにより前記自車両と前記物体との衝突を回避する強制操舵と、の何れか一方を実施するように構成されている。
そして、本発明に係る当該別の車両衝突回避支援装置は、前記自車両の状況に係る情報及び前記自車両周辺の状況に係る情報の少なくとも一方を取得し、該取得した情報に基づいて前記強制操舵の実施を要求する要求条件が成立したか否か及び前記強制操舵の実施を禁止する禁止条件が成立したか否かを判定する。本発明に係る車両衝突回避支援装置は、前記要求条件が成立していない場合、前記禁止条件が成立しているか否かとはかかわりなく、前記強制制動を実施し、前記禁止条件が成立していないときに前記要求条件が成立した場合、前記強制操舵を実施し、前記禁止条件が成立している場合、前記要求条件が成立しても、前記強制制動を実施するように構成されている。
そして、本発明に係る当該車両衝突回避支援装置は、前記自車両が走行している路面の勾配を前記自車両周辺の状況に係る情報として取得し、前記勾配がゼロよりも小さく且つその絶対値が第1勾配以上である場合、前記要求条件が成立していると判定し、前記勾配がゼロ以上である場合、又は、前記勾配がゼロよりも小さいがその絶対値が前記第1勾配よりも小さい場合、前記要求条件が成立していないと判定するように構成されている。
【0033】
本発明によれば、自車両の状況又は自車両の周辺の状況を考慮して要求条件が成立しているか否か及び禁止条件が成立しているか否かが判定される。そして、要求条件が成立していない場合、禁止条件が成立しているか否かとはかかわりなく、強制制動が実施され、禁止条件が成立していないときに要求条件が成立した場合、強制操舵が実施され、禁止条件が成立している場合、要求条件が成立しても、強制制動が実施される。従って、要求条件が成立するような強制操舵を実施することが好ましい場面においては、禁止条件が成立するような強制操舵を実施しないほうが好ましい状況を除き、強制操舵が実施される。このため、自車両を取り巻く状況に応じて適切な衝突回避処理を実施することができる。
更に、自車両が走行している路面の勾配は、強制制動を実施せずに強制操舵を実施したほうが好ましいか否かを判定するのに有効な指標である。本発明によれば、自車両が走行している路面の勾配を考慮して要求条件が成立しているか否かが判定される。従って、自車両を取り巻く状況に応じて、より適切な衝突回避処理を実施することができる。
【0036】
又、本発明に係る車両衝突回避支援装置は、前記自車両が走行している路面のカントを前記自車両周辺の状況に係る情報として取得し、前記カントが所定カント以上である場合、前記禁止条件が成立していると判定し、前記カントが前記所定カントよりも小さい場合、前記禁止条件が成立していないと判定するように構成されてもよい。
【0037】
自車両が走行している路面のカントは、強制操舵を実施しないほうが好ましいか否かを判定するのに有効な指標である。本発明によれば、自車両が走行している路面のカントを考慮して禁止条件が成立しているか否かが判定される。従って、自車両を取り巻く状況に応じて、より適切な衝突回避処理を実施することができる。
【0038】
又、本発明に係る車両衝突回避支援装置は、前記自車両の走行挙動を安定させるために前記自車両に付加する駆動力又は制動力を調整する車両安定制御の実施の有無を前記自車両の状況に係る情報として取得し、前記車両安定制御を実施している場合、前記禁止条件が成立していると判定し、前記車両安定制御を実施していない場合、前記禁止条件が成立していないと判定するように構成されてもよい。
【0039】
車両安定制御が実施されているか否かは、強制操舵を実施しないほうが好ましいか否かを判定するのに有効な指標である。本発明によれば、車両安定制御が実施されているか否かを考慮して禁止条件が成立しているか否かが判定される。従って、自車両を取り巻く状況に応じて、より適切な衝突回避処理を実施することができる。
【0040】
本発明の構成要素は、図面を参照しつつ後述する本発明の実施形態に限定されるものではない。本発明の他の目的、他の特徴及び付随する利点は、本発明の実施形態についての説明から容易に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る車両衝突回避支援装置及びその車両衝突回避支援装置が搭載された車両(自車両)を示した図である。
【
図2】
図2は、自車両とその前方の物体(車両)との間の距離及び自車両とその後方の物体(車両)との間の距離等を示した図である。
【
図3】
図3の(A)は、強制制動により自車両が減速されている場面を示した図であり、
図3の(B)は、強制制動により自車両が停止された場面を示した図である。
【
図4】
図4の(A)は、強制操舵が開始された場面を示した図であり、
図4の(B)は、強制操舵により自車両が旋回された場面を示した図であり、
図4の(C)は、強制操舵により自車両が物体の横を通過した場面を示した図である。
【
図5】
図5の(A)は、自車両の予測走行領域を示した図であり、
図5の(B)は、自車両の予測走行領域に物体(車両)が存在している場面を示した図である。
【
図6】
図6の(A)は、自車両の予測走行領域に存在する物体(車両)に自車両が近づいた場面を示した図であり、
図6の(B)は、強制操舵における目標回避経路を示した図である。
【
図7】
図7の(A)は、自車両の後方に車両等の物体が存在していない場面を示した図であり、
図7の(B)は、自車両の後方に物体(車両)が存在する場面を示した図である。
【
図8】
図8の(A)は、後続移動物体の予測移動領域と自車両の予測走行領域とが重なり合っていない場面を示した図であり、
図8の(B)は、後続移動物体の予測移動領域と自車両の予測走行領域とが重なり合っている場面を示した図である。
【
図9】
図9の(A)は、強制操舵により自車両が目標回避経路に沿って旋回し始めた場面を示した図であり、
図9の(B)は、強制操舵により自車両が前方物体(車両)の横を通過する場面を示した図であり、
図9の(C)は、自車両が前方物体(車両)を通過して強制操舵が終了された場面を示した図である。
【
図10】
図10は、本発明の実施形態に係る車両衝突回避支援装置が実行するルーチンを示したフローチャートである。
【
図11】
図11は、本発明の実施形態に係る車両衝突回避支援装置が実行するルーチンを示したフローチャートである。
【
図12】
図12は、本発明の実施形態に係る車両衝突回避支援装置が実行するルーチンを示したフローチャートである。
【
図13】
図13は、本発明の実施形態に係る車両衝突回避支援装置が実行するルーチンを示したフローチャートである。
【
図14】
図14は、本発明の実施形態に係る車両衝突回避支援装置が実行するルーチンを示したフローチャートである。
【
図15】
図15は、本発明の実施形態に係る車両衝突回避支援装置が実行するルーチンを示したフローチャートである。
【
図16】
図16は、本発明の実施形態に係る車両衝突回避支援装置が実行するルーチンを示したフローチャートである。
【
図17】
図17は、本発明の実施形態に係る車両衝突回避支援装置が実行するルーチンを示したフローチャートである。
【
図18】
図18は、本発明の実施形態に係る車両衝突回避支援装置が実行するルーチンを示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態に係る車両衝突回避支援装置について説明する。
図1に示したように、本発明の実施形態に係る車両衝突回避支援装置10は、自車両100に搭載されている。
【0043】
<ECU>
車両衝突回避支援装置10は、ECU90を備えている。ECUは、エレクトロニックコントロールユニットの略称である。ECU90は、マイクロコンピュータを主要部として備える。マイクロコンピュータは、CPU、ROM、RAM、不揮発性メモリ及びインターフェース等を含む。CPUは、ROMに格納されたインストラクション又はプログラム又はルーチンを実行することにより、各種機能を実現するようになっている。
【0044】
<駆動装置等>
又、自車両100には、駆動装置21、制動装置22及び操舵装置23が搭載されている。
【0045】
<駆動装置>
駆動装置21は、自車両100を走行させるために自車両100に与えられる駆動トルクTQ_D(駆動力)を出力する装置であり、例えば、内燃機関及びモータ等である。駆動装置21は、ECU90に電気的に接続されている。ECU90は、駆動装置21の作動を制御することにより駆動装置21から出力される駆動トルクTQ_Dを制御することができる。
【0046】
<制動装置>
制動装置22は、自車両100を制動するために自車両100に与えられる制動トルクTQ_B(制動力)を出力する装置であり、例えば、ブレーキ装置である。制動装置22は、ECU90に電気的に接続されている。ECU90は、制動装置22の作動を制御することにより制動装置22から出力される制動トルクTQ_Bを制御することができる。
【0047】
<操舵装置>
操舵装置23は、自車両100を操舵するために自車両100に与えられる操舵トルクTQs(操舵力)を出力する装置であり、例えば、パワーステアリング装置である。操舵装置23は、ECU90に電気的に接続されている。ECU90は、操舵装置23の作動を制御することにより操舵装置23から出力される操舵トルクTQsを制御することができる。
【0048】
<センサ等>
更に、自車両100には、アクセルペダル31、アクセルペダル操作量センサ32、ブレーキペダル33、ブレーキペダル操作量センサ34、ハンドル35、ステアリングシャフト36、操舵角センサ37、操舵トルクセンサ38、制動装置状態検出装置40、車両運動量検出装置50、周辺情報検出装置60及び着座センサ71が搭載されている。
【0049】
<アクセルペダル操作量センサ>
アクセルペダル操作量センサ32は、アクセルペダル31の操作量を検出するセンサである。アクセルペダル操作量センサ32は、ECU90に電気的に接続されている。アクセルペダル操作量センサ32は、検出したアクセルペダル31の操作量の情報をECU90に送信する。ECU90は、その情報に基づいてアクセルペダル31の操作量をアクセルペダル操作量APとして取得する。
【0050】
ECU90は、アクセルペダル操作量AP及び自車両100の車速V100に基づいて要求駆動トルクTQ_D_req(要求駆動力)を演算により取得する。要求駆動トルクTQ_D_reqは、駆動装置21に出力が要求されている駆動トルクTQ_Dである。ECU90は、要求駆動トルクTQ_D_reqが出力されるように駆動装置21の作動を制御する。
【0051】
<ブレーキペダル操作量センサ>
ブレーキペダル操作量センサ34は、ブレーキペダル33の操作量を検出するセンサである。ブレーキペダル操作量センサ34は、ECU90に電気的に接続されている。ブレーキペダル操作量センサ34は、検出したブレーキペダル33の操作量の情報をECU90に送信する。ECU90は、その情報に基づいてブレーキペダル33の操作量をブレーキペダル操作量BPとして取得する。
【0052】
ECU90は、ブレーキペダル操作量BPに基づいて要求制動トルクTQ_B_req(要求制動力)を演算により取得する。要求制動トルクTQ_B_reqは、制動装置22に出力が要求されている制動トルクTQ_Bである。ECU90は、要求制動トルクTQ_B_reqが出力されるように制動装置22の作動を制御する。
【0053】
<操舵角センサ>
操舵角センサ37は、中立位置に対するステアリングシャフト36の回転角度を検出するセンサである。操舵角センサ37は、ECU90に電気的に接続されている。操舵角センサ37は、検出したステアリングシャフト36の回転角度の情報をECU90に送信する。ECU90は、その情報に基づいてステアリングシャフト36の回転角度を操舵角θsteerとして取得する。
【0054】
<操舵トルクセンサ>
操舵トルクセンサ38は、運転者がハンドル35を介してステアリングシャフト36に入力したトルクを検出するセンサである。操舵トルクセンサ38は、ECU90に電気的に接続されている。操舵トルクセンサ38は、検出したトルクの情報をECU90に送信する。ECU90は、その情報に基づいて運転者がハンドル35を介してステアリングシャフト36に入力したトルク(ドライバー入力トルクTQs_driver)を取得する。
【0055】
<制動装置状態検出装置>
制動装置状態検出装置40は、制動装置22の状態を検出する装置であり、本例においては、マスタシリンダ圧センサ41を備えている。
【0056】
<マスタシリンダ圧センサ>
マスタシリンダ圧センサ41は、制動装置22のマスタシリンダ内の圧力を検出するセンサである。マスタシリンダ圧センサ41は、ECU90に電気的に接続されている。マスタシリンダ圧センサ41は、検出したマスタシリンダ内の圧力の情報をECU90に送信する。ECU90は、その情報に基づいてマスタシリンダ内の圧力(マスタシリンダ圧Pm)を取得する。
【0057】
<車両運動量検出装置>
車両運動量検出装置50は、自車両100の運動量を検出する装置であり、本例においては、車速検出装置51、縦加速度センサ52、横加速度センサ53及びヨーレートセンサ54を備えている。
【0058】
<車速検出装置>
車速検出装置51は、自車両100の車速を検出する装置であり、例えば、車輪速センサである。車速検出装置51は、ECU90に電気的に接続されている。車速検出装置51は、検出した自車両100の車速の情報をECU90に送信する。ECU90は、その情報に基づいて自車両100の車速V100を取得する。
【0059】
ECU90は、取得した操舵角θsteer、ドライバー入力トルクTQs_driver及び車速V100に基づいて要求操舵トルクTQs_reqを演算により取得する。要求操舵トルクTQs_reqは、操舵装置23に出力が要求されている操舵トルクTQsである。ECU90は、要求操舵トルクTQs_reqが操舵装置23から出力されるように操舵装置23の作動を制御する。尚、ECU90は、後述する強制操舵を行う場合、操舵角θsteer等にかかわりなく、自車両100を目標回避経路Rtgtに沿って走行させるのに必要な操舵トルクTQsを要求操舵トルクTQs_reqとして適宜決定し、その要求操舵トルクTQs_reqが出力されるように操舵装置23の作動を制御する。
【0060】
<縦加速度センサ>
縦加速度センサ52は、自車両100の前後方向の加速度を検出するセンサである。縦加速度センサ52は、ECU90に電気的に接続されている。縦加速度センサ52は、検出した加速度の情報をECU90に送信する。ECU90は、その情報に基づいて自車両100の前後方向の加速度を縦加速度Gxとして取得する。
【0061】
<横加速度センサ>
横加速度センサ53は、自車両100の横方向(幅方向)の加速度を検出するセンサである。横加速度センサ53は、ECU90に電気的に接続されている。横加速度センサ53は、検出した加速度の情報をECU90に送信する。ECU90は、その情報に基づいて自車両100の横方向の加速度を横加速度Gyとして取得する。
【0062】
<ヨーレートセンサ>
ヨーレートセンサ54は、自車両100のヨーレートYRを検出するセンサである。ヨーレートセンサ54は、ECU90に電気的に接続されている。ヨーレートセンサ54は、検出したヨーレートYRの情報をECU90に送信する。ECU90は、その情報に基づいて自車両100のヨーレートYRを取得する。
<周辺情報検出装置>
周辺情報検出装置60は、自車両100の周辺の情報を検出する装置であり、本例においては、電波センサ61及び画像センサ62を備えている。電波センサ61は、例えば、レーダセンサ(ミリ波レーダ等)である。画像センサ62は、例えば、カメラである。尚、周辺情報検出装置60は、超音波センサ(クリアランスソナー)等の音波センサやレーザーレーダ(LiDAR)等の光センサを備えていてもよい。
【0063】
<電波センサ>
電波センサ61は、ECU90に電気的に接続されている。電波センサ61は、電波を発信するとともに、物体で反射した電波(反射波)を受信する。電波センサ61は、発信した電波及び受信した電波(反射波)に係る情報(検知結果)をECU90に送信する。別の言い方をすると、電波センサ61は、自車両100の周辺に存在する物体を検知し、その検知した物体に係る情報(検知結果)をECU90に送信する。ECU90は、その情報(電波情報I_RO)に基づいて自車両100の周辺に存在する物体に係る情報(物体情報I_O)を取得することができる。
【0064】
尚、本例において、物体は、車両、自動二輪車、自転車及び人等である。
【0065】
<画像センサ>
画像センサ62も、ECU90に電気的に接続されている。画像センサ62は、自車両100の周辺を撮像し、撮像した画像に係る情報をECU90に送信する。ECU90は、その情報(画像情報I_C)に基づいて自車両100の周辺に関する情報(周辺検出情報Idct)を取得することができる。
【0066】
ECU90は、
図2に示したように、自車両100の前方に物体(前方物体200F)が存在する場合、その前方物体200Fを周辺検出情報Idctに基づいて検知する。尚、前方物体200Fは、車両、自動二輪車、自転車及び人等であり、
図2に示した例においては、車両である。
【0067】
ECU90は、前方物体200Fを検知した場合、例えば、周辺検出情報Idctに基づいて「その前方物体200Fと自車両100との間の距離(物体距離D200)」及び「前方物体200Fに対する自車両100の速度(相対速度ΔV200)」等を取得することができる。
【0068】
更に、ECU90は、
図2に示したように、自車両100の走行方向と同じ方向に自車両100に追従するように自車両100の後方で移動する物体(後続移動物体300)が存在する場合、その後続移動物体300を周辺検出情報Idctに基づいて検知する。後続移動物体300は、車両、自動二輪車、自転車及び人等であり、
図2に示した例においては、車両である。
【0069】
ECU90は、後続移動物体300を検知した場合、例えば、周辺検出情報Idctに基づいて「その後続移動物体300と自車両100との間の距離(物体距離D300)」及び「自車両100に対するその後続移動物体300の速度(相対速度ΔV300)」等を取得することができる。
【0070】
更に、ECU90は、周辺検出情報Idctに基づいて「自車両100の走行車線(自車線LN)を規定する左側の区画線LM_L及び右側の区画線LM_R」を認識する。ECU90は、認識した左右区画線LM(即ち、左側の区画線LM_L及び右側の区画線LM_R)に基づいて自車線LNの範囲を特定することができる。
【0071】
<着座センサ>
着座センサ71は、自車両100の座席に着席した乗員を検出するセンサであり、各座席にそれぞれ対応して自車両100に搭載されている。着座センサ71は、ECU90に電気的に接続されている。着座センサ71は、座席に着席した乗員を検出すると、乗員が座席に着座したことを示す信号をECU90に送信する。ECU90は、その信号に基づいて自車両100の乗員の人数を取得する。
【0072】
<車両衝突回避支援装置の作動の概要>
次に、車両衝突回避支援装置10の作動の概要について説明する。車両衝突回避支援装置10は、自車両100がその前方の物体(前方物体)に衝突する可能性がある場合、強制制動と強制操舵との何れか一方を実行するように構成されている。
【0073】
<強制制動>
強制制動は、
図3の(A)に示したように、前方物体200F(
図3に示した例においては、自車両100の前方で停止している車両)が存在する場合に、自車両100に制動力を付加し、
図3の(B)に示したように、自車両100がその前方物体200Fに衝突する前に自車両100を停止させることにより、自車両100とその前方物体200Fとの衝突を回避するためのものである。強制制動は、自車両100が前方物体200Fの手前で停止すると終了される。
【0074】
<強制操舵>
強制操舵は、
図4の(A)に示したように、自車両100の前方物体200F(
図4に示した例においては、自車両100の前方で停止している車両)が存在する場合に、
図4の(B)に示したように、自車両100を操舵し、
図4の(C)に示したように、自車両100を前方物体200Fの横を通過させることにより自車両100とその前方物体200Fとの衝突を回避するためのものである。強制操舵は、自車両100が前方物体200Fの横を通過すると終了される。
【0075】
<要求条件/禁止条件>
車両衝突回避支援装置10は、自車両100の状況に係る情報(自車両情報I_100)及び自車両100の周辺の状況に係る情報(自車両周辺情報I_S)を取得し、これら自車両情報I_100及び自車両周辺情報I_Sに基づいて強制操舵の実施を要求する条件(要求条件Creq)が成立したか否か及び強制操舵の実施を禁止する条件(禁止条件Cfbd)が成立したか否かを判定する。
【0076】
尚、車両衝突回避支援装置10は、自車両情報I_100及び自車両周辺情報I_Sの何れか一方を取得し、取得した自車両情報I_100又は自車両周辺情報I_Sに基づいて要求条件Creqが成立したか否か及び禁止条件Cfbdが成立したか否かを判定するように構成されてもよい。
【0077】
<制動装置の劣化状態>
車両衝突回避支援装置10は、自車両100の走行中、制動装置22の劣化状態を自車両情報I_100として取得し、その制動装置22の劣化状態に基づいて要求条件Creqの成立の有無を判定するようになっている。
【0078】
制動装置22の劣化状態は、制動装置22の制動性能が分かれば分かる。制動装置22の制動性能は、ブレーキペダル操作量BPとそのときに制動装置22から自車両100に付加される制動力との関係が分かれば分かる。又、制動装置22から自車両100に付加される制動力は、自車両100の減速度(即ち、負の縦加速度Gxであり、以下「減速度GD」)として現れる。
【0079】
そこで、車両衝突回避支援装置10は、制動装置22の劣化状態を正確に取得するために、まず、自車両100の車速V100が所定の車速(基準車速又は下限車速Vlimit)以上であり且つ路面勾配GRの絶対値が所定の勾配(基準勾配又は上限勾配GRlimit)以下である状態が生じたか否か(即ち、制動性能判定条件が成立したか否か)を判定する。
【0080】
車両衝突回避支援装置10は、制動性能判定条件が成立すると、ブレーキペダル操作量BPが所定ブレーキペダル操作量BPth以上となったか否かを判定する。
【0081】
車両衝突回避支援装置10は、ブレーキペダル操作量BPが所定ブレーキペダル操作量BPth以上となったと判定すると、そのときの自車両100の減速度GDを自車両情報I_100として取得し、その減速度GDの絶対値がブレーキペダル操作量BPに応じて設定される所定の減速度(基準減速度GDbase)以下であるか否かを判定する。基準減速度GDbaseは、制動装置22が十分な制動性能を有しているときにそのときのブレーキペダル操作量BPに応じて自車両100に発生するはずの減速度に設定される。
【0082】
車両衝突回避支援装置10は、自車両100の減速度GDの絶対値が基準減速度GDbase以下であると判定した場合、制動性能に起因する要求条件Creq(第1要求条件Creq_1)が成立していると判定するようになっていてもよいが、本例においては、第1要求条件Creq_1が成立している可能性を表す指標値(制動性能指標値)を所定値だけ増加させる。一方、車両衝突回避支援装置10は、自車両100の減速度GDの絶対値が基準減速度GDbaseよりも大きいと判定した場合、第1要求条件Creq_1が成立していないと判定するようになっていてもよいが、本例においては、制動性能指標値を所定値だけ減少させる。
【0083】
車両衝突回避支援装置10は、制動性能指標値として、制動性能カウンタCbrakeを採用している。従って、車両衝突回避支援装置10は、自車両100の減速度GDの絶対値が基準減速度GDbase以下であると判定した場合、制動性能カウンタCbrakeをインクリメントする。一方、車両衝突回避支援装置10は、自車両100の減速度GDの絶対値が基準減速度GDbaseよりも大きいと判定した場合、制動性能カウンタCbrakeをデクリメントする。
【0084】
車両衝突回避支援装置10は、制動性能カウンタCbrakeが所定値Cbrake_thよりも小さいときには、第1要求条件Creq_1が成立していないと判定し、制動性能カウンタCbrakeが所定値Cbrake_thに達すると、第1要求条件Creq_1が成立したと判定する。
【0085】
尚、制動装置22に用いられているブレーキパッドが劣化すれば、制動装置22の制動性能が低下し、その結果、自車両100の減速度GDが小さくなる。従って、上述したように自車両100の減速度GDに基づいて第1要求条件Creq_1の成立の有無を判定することは、ブレーキパッドの劣化状態を自車両情報I_100として取得し、そのブレーキパッドの劣化状態に基づいて第1要求条件Creq_1の成立の有無を判定していることでもある。
【0086】
又、制動装置22に用いられるブレーキオイルが劣化しても、制動装置22の制動性能が低下し、その結果、自車両100の減速度GDが小さくなる。従って、上述したように自車両100の減速度GDに基づいて第1要求条件Creq_1の成立の有無を判定することは、ブレーキオイルの劣化状態を自車両情報I_100として取得し、そのブレーキオイルの劣化状態に基づいて第1要求条件Creq_1の成立の有無を判定していることでもある。
【0087】
又、乗員を含めた自車両100の重量が重くなると、制動装置22の制動性能が低下していなくても、自車両100の減速度GDが小さくなる。従って、上述したように自車両100の減速度GDに基づいて第1要求条件Creq_1の成立の有無を判定することは、乗員を含めた自車両100の重量を自車両情報I_100として取得し、その重量が所定重量以上であるか否かに基づいて第1要求条件Creq_1の成立の有無を判定していることでもある。
【0088】
尚、上述したように、乗員を含めた自車両100の重量が重くなると、制動装置22の制動性能が低下していなくても、自車両100の減速度GDが小さくなる。即ち、自車両100に搭乗している人の人数が多くなると、制動装置22の制動性能が低下していなくても、自車両100の減速度GDが小さくなる。そこで、車両衝突回避支援装置10は、自車両100の乗員の人数を自車両情報I_100として取得し、取得した人数が所定人数以上である場合、要求条件Creqが成立していると判定し、取得した人数が所定人数よりも少ない場合、要求条件Creqが成立していないと判定するように構成されてもよい。
【0089】
<マスタシリンダ圧>
更に、マスタシリンダに異常が生じると、マスタシリンダ圧Pmが低下し、その結果、制動装置22の制動性能が低下する。そこで、車両衝突回避支援装置10は、マスタシリンダ圧Pmを自車両情報I_100として取得し、そのマスタシリンダ圧Pmが所定圧Pm_th以下であるか否かを判定する。
【0090】
車両衝突回避支援装置10は、マスタシリンダ圧Pmが所定圧Pm_th以下であると判定した場合、制動性能に起因する要求条件Creq(第2要求条件Creq_2)が成立していると判定し、一方、マスタシリンダ圧Pmが所定圧Pm_thよりも大きいと判定した場合、第2要求条件Creq_2が成立していないと判定する。
【0091】
<路面の状態>
更に、車両衝突回避支援装置10は、自車両100の走行中、自車両100が走行している路面に関する情報(路面情報Iroad)を自車両周辺情報I_Sとして取得し、その路面情報Iroadに基づいて禁止条件Cfbdの成立の有無を判定するようになっている。
【0092】
自車両100が勾配の大きい下り坂を走行しているときに強制制動を実施しても、自車両100が思うように減速しない可能性がある。従って、こうした場合、強制制動ではなく、強制操舵により自車両100と物体との衝突を回避することが好ましい。
【0093】
又、自車両100がカントの大きい路面を走行しているときに強制操舵を実施すると、自車両100の走行挙動が不安定になる可能性がある。
【0094】
そこで、車両衝突回避支援装置10は、路面勾配GR及び路面カントCTを正確に取得するために、まず、自車両100の加速度(即ち、負の値を含む縦加速度Gx)の絶対値が所定の加速度(上限加速度Glimit)以下である状態が生じたか否か(即ち、路面判定条件が成立したか否か)を判定する。
【0095】
車両衝突回避支援装置10は、路面判定条件が成立したと判定すると、路面勾配GR及び路面カントCTを自車両周辺情報I_Sとして取得する。路面勾配GR及び路面カントCTは、周辺検出情報Idctに基づいて公知の手法により取得可能である。
【0096】
車両衝突回避支援装置10は、路面勾配GRがゼロよりも小さく且つその絶対値が所定勾配(第1勾配GR_1)以上であるか否か、及び、路面カントCTの絶対値が所定の値(所定カントCTth)以上であるか否かを判定する。
【0097】
車両衝突回避支援装置10は、路面勾配GRがゼロよりも小さく且つその絶対値が第1勾配GR_1以上であると判定した場合、路面勾配に起因する要求条件Creq(第3要求条件Creq_3)が成立していると判定する。一方、車両衝突回避支援装置10は、路面勾配GRがゼロ以上であるか或いは路面勾配GRがゼロよりも小さいがその絶対値が第1勾配GR_1よりも小さい場合、第3要求条件Creq_3が成立していないと判定する。
【0098】
又、車両衝突回避支援装置10は、路面カントCTの絶対値が所定カントCTth以上である場合、路面カントに起因する禁止条件Cfbd(第1禁止条件Cfbd_1)が成立していると判定する。一方、車両衝突回避支援装置10は、路面カントCTの絶対値が所定カントCTthよりも小さい場合、第1禁止条件Cfbd_1が成立していないと判定する。
【0099】
尚、自車両100が摩擦係数の小さい路面を走行しているときに強制操舵を実施すると、自車両100の走行挙動が不安定になる可能性がある。従って、こうした場合、強制操舵ではなく、強制制動により自車両100と物体との衝突を回避することが好ましい。
【0100】
そこで、車両衝突回避支援装置10は、路面勾配GRのみに基づいて第3要求条件Creq_3が成立しているか否かを判定するのではなく、路面勾配GRに加えて路面摩擦係数μを自車両周辺情報I_Sとして取得し、それら路面勾配GR及び路面摩擦係数μに基づいて第3要求条件Creq_3が成立しているか否かを判定するように構成されてもよい。路面摩擦係数μは、周辺検出情報Idctに基づいて公知の手法により取得可能である。
【0101】
この場合、車両衝突回避支援装置10は、路面摩擦係数μが所定摩擦係数μ_th以下であるときには、路面勾配GRがゼロよりも小さく且つその絶対値が第1勾配GR_1以上であると判定した場合、路面勾配に起因する要求条件Creq(第3要求条件Creq_3)が成立していると判定する。又、車両衝突回避支援装置10は、路面摩擦係数μが所定摩擦係数μ_th以下であるときに、路面勾配GRがゼロ以上であるか或いは路面勾配GRがゼロよりも小さいがその絶対値が第1勾配GR_1よりも小さい場合、第3要求条件Creq_3が成立していないと判定する。
【0102】
一方、車両衝突回避支援装置10は、路面摩擦係数μが所定摩擦係数μ_thよりも大きいときには、路面勾配GRがゼロよりも小さく且つその絶対値が第1勾配GR_1以上であって且つ第1勾配GR_1よりも大きい所定勾配(第2勾配GR_2)以下である場合、第3要求条件Creq_3が成立していると判定する。又、車両衝突回避支援装置10は、路面摩擦係数μが所定摩擦係数μ_thよりも大きいときに、路面勾配GRがゼロ以上である場合、又は、路面勾配GRがゼロよりも小さいがその絶対値が第1勾配GR_1よりも小さいか或いは第2勾配GR_2よりも大きい場合、第3要求条件Creq_3が成立していないと判定する。
【0103】
<車両安定制御の実施の有無>
又、車両衝突回避支援装置10は、自車両100の走行中、自車両100の走行挙動が不安定になった場合、自車両100の走行挙動が安定するように自車両100の各車輪に付加する駆動力又は制動力を調整して自車両100の走行挙動を安定させるためのいわゆる車両安定制御を実施するように構成されている。
【0104】
車両衝突回避支援装置10は、車両安定制御を実施している場合、車両安定制御に起因する禁止条件Cfbd(第2禁止条件Cfbd_2)が成立していると判定する。一方、車両衝突回避支援装置10は、車両安定制御を実施していない場合、第2禁止条件Cfbd_2が成立していないと判定する。このように、車両衝突回避支援装置10は、車両安定制御の実施の有無を自車両情報I_100として取得し、その車両安定制御の実施の有無に基づいて禁止条件Cfbdの成立の有無を判定している。
【0105】
<衝突回避実施条件>
車両衝突回避支援装置10は、自車両100の走行中、周辺検出情報Idctに基づいて自車両100の進行方向前方の車両等の物体を検知するための処理を行っている。車両衝突回避支援装置10は、自車両100の進行方向前方の物体を検知していない間は、通常走行制御を実行している。
【0106】
通常走行制御は、要求駆動トルクTQ_D_req(要求駆動力)がゼロよりも大きい場合、その要求駆動トルクTQ_D_reqが駆動装置21から出力されるように駆動装置21の作動を制御し、要求制動トルクTQ_B_req(要求制動力)がゼロよりも大きい場合、その要求制動トルクTQ_B_reqが制動装置22から出力されるように制動装置22の作動を制御し、要求操舵トルクTQs_req(要求操舵力)がゼロよりも大きい場合、その要求操舵トルクTQs_reqが操舵装置23から出力されるように操舵装置23の作動を制御する制御である。
【0107】
車両衝突回避支援装置10は、自車両100の進行方向前方の物体を検知すると、その物体が予測走行領域A100内に存在するか否かを周辺検出情報Idctに基づいて判定する。
【0108】
予測走行領域A100は、
図5の(A)に示したように、自車両100の予測走行ルートR100を中心として自車両100の幅に等しい幅を有する領域である。予測走行ルートR100は、自車両100がその時点の操舵角θsteerを維持したまま走行したときに自車両100が今後、走行するものと予測される走行ルートである。従って、
図5の(A)に示した予測走行ルートR100は、直線であるが、状況によっては、曲線であることもある。
【0109】
車両衝突回避支援装置10は、検知した物体が予測走行領域A100内に存在しない場合、通常走行制御を継続する。
【0110】
一方、車両衝突回避支援装置10は、
図5の(B)に示したように、予測走行領域A100内に物体200(
図5の(B)に示した例においては、車両)が存在する場合、その物体200を前方物体200Fとして認識し、周辺検出情報Idctに基づいて「前方物体200Fと自車両100との間の距離(物体距離D200)」及び「前方物体200Fに対する自車両100の速度(相対速度ΔV200)を取得する。
【0111】
更に、車両衝突回避支援装置10は、取得した物体距離D200及び相対速度ΔV200に基づいて予測到達時間TTCを演算により取得する。
【0112】
予測到達時間TTCは、自車両100が前方物体200Fに到達するまでに要すると予測される時間である。車両衝突回避支援装置10は、物体距離D200を相対速度ΔV200で除算することにより予測到達時間TTCを取得する(TTC=D200/dV200)。車両衝突回避支援装置10は、予測走行領域A100内に前方物体200Fが存在すると判定している間、物体距離D200、相対速度ΔV200及び予測到達時間TTCの取得を所定演算周期で行う。
【0113】
予測到達時間TTCは、相対速度ΔV200が一定である場合、自車両100が前方物体200Fに近づくほど短くなる。
【0114】
車両衝突回避支援装置10は、予測到達時間TTCが所定予測到達時間TTCthよりも長い間は、通常走行制御を継続する。
【0115】
一方、その後、
図6の(A)に示したように、自車両100が前方物体200Fに近づき、予測到達時間TTCが所定の時間(所定予測到達時間TTCth)まで短くなると、車両衝突回避支援装置10は、衝突回避実施条件Cstartが成立したと判定する。
【0116】
即ち、車両衝突回避支援装置10は、前方物体200Fに自車両100が衝突する可能性を表す指標値として予測到達時間TTCを取得し、その指標値が所定指標値以上になったとき、衝突回避実施条件Cstartが成立したと判定する。従って、この場合、前方物体200Fに自車両100が衝突する可能性を表す指標値は、予測到達時間TTCが短くなるほどその値が大きくなる。
【0117】
<目標回避経路の取得>
車両衝突回避支援装置10は、衝突回避実施条件Cstartが成立したと判定すると、
図6の(B)に示したように、目標回避経路Rtgtを設定する。目標回避経路Rtgtは、自車両100が自車線LN内を走行しつつ前方物体200Fの横を通過することができる自車両100の走行経路である。
【0118】
尚、
図6の(B)に示した例においては、目標回避経路Rtgtは、前方物体200Fの右横を通る経路であるが、前方物体200Fの左横に自車両100が自車線LN内を走行しつつ前方物体200Fの横を通過することができるスペースが存在する場合、前方物体200Fの左横を通る経路が目標回避経路Rtgtとして取得されることもある。
【0119】
車両衝突回避支援装置10は、前方物体200Fの横に自車両100を通過させるスペースが存在しない等の理由により目標回避経路Rtgtを設定することができなかった場合、衝突回避経路に起因する禁止条件Cfbd(第3禁止条件Cfbd_3)が成立していると判定する。一方、車両衝突回避支援装置10は、目標回避経路Rtgtを設定することができた場合、第3禁止条件Cfbd_3が成立していないと判定する。このように、車両衝突回避支援装置10は、目標回避経路Rtgtを設定することができたか否かの判定結果を自車両情報I_100として取得し、その判定結果に基づいて第3禁止条件Cfbd_3の成立の有無を判定している。
【0120】
<目標減速度の設定>
更に、車両衝突回避支援装置10は、衝突回避実施条件Cstartが成立したと判定すると、強制制動により自車両100を前方物体200Fに衝突する前に停止させるために要求される自車両100の減速度(目標減速度GDtgt)を演算により取得する。
【0121】
<後続移動物体情報の取得>
更に、車両衝突回避支援装置10は、衝突回避実施条件Cstartが成立したと判定すると、周辺検出情報Idctに基づいて後続移動物体300が存在するか否かを判定する。
【0122】
車両衝突回避支援装置10は、
図7の(A)に示したように、自車両100の後方に物体が存在しない場合、後続移動物体300が存在しないと判定する。後続移動物体300が存在しない場合、強制制動を実施しても、当然、後続移動物体300が自車両100に追突することはなく、強制操舵により自車両100と前方物体200Fとの衝突を回避する必要はないので、車両衝突回避支援装置10は、後続移動物体に起因する要求条件Creq(第4要求条件Creq_4)が成立していないと判定する。
【0123】
一方、車両衝突回避支援装置10は、
図7の(B)に示したように、自車両100の後方に物体(
図7の(B)に示した例においては、車両)が存在する場合、後続移動物体300が存在すると判定し、周辺検出情報Idctに基づいて後続移動物体300の予測移動領域A300を取得する。
【0124】
予測移動領域A300は、
図7の(C)に示したように、後続移動物体300の予測移動ルートR300を中心として後続移動物体300の幅に等しい幅を有する領域である。予測移動ルートR300は、後続移動物体300が今後、走行するものと予測される走行ルートである。従って、
図7の(C)に示した予測移動ルートR300は、直線であるが、状況によっては、曲線であることもある。
【0125】
車両衝突回避支援装置10は、予測移動領域A300と予測走行領域A100とが重なり合っているか否かを判定する。
【0126】
車両衝突回避支援装置10は、予測移動領域A300と予測走行領域A100とが
図8の(A)に示したような関係にある場合、予測移動領域A300と予測走行領域A100とが重なり合っていないと判定する。予測移動領域A300と予測走行領域A100とが重なり合っていない場合、強制制動を実施しても、後続移動物体300が自車両100に追突することはなく、強制操舵により自車両100と前方物体200Fとの衝突を回避する必要はないので、車両衝突回避支援装置10は、第4要求条件Creq_4が成立していないと判定する。
【0127】
一方、車両衝突回避支援装置10は、予測移動領域A300と予測走行領域A100とが
図8の(B)に示したような関係になっている場合、予測移動領域A300と予測走行領域A100とが重なり合っていると判定し、強制制動を実施したと仮定した場合に後続移動物体300が自車両100に追突するか否かを周辺検出情報Idctに基づいて判定する。
【0128】
より具体的には、車両衝突回避支援装置10は、強制制動を開始して目標減速度GDtgtで自車両100を減速させ始めてから所定時間Tth後にその自車両100の減速開始に応答して後続移動物体300が最大減速度GDmaxで減速し始めたと仮定した場合に後続移動物体300が停止するまでに後続移動物体300が移動する距離(停止必要距離Dreq_stop)を演算により取得する。所定時間Tthは、自車両100の減速開始に応答して後続移動物体300が減速し始めるまでに要するものと一般的に考えられている時間である。又、最大減速度GDmaxは、後続移動物体300が達成可能な減速度の最大値である。
【0129】
更に、車両衝突回避支援装置10は、後続移動物体300が停止必要距離Dreq_stopだけ移動するのに要する時間(停止必要時間Treq_stop)を演算により取得し、強制制動の実施中にその停止必要時間Treq_stopのうちに自車両100が走行する距離(自車走行距離Dtravel)を演算により取得する。
【0130】
車両衝突回避支援装置10は、停止必要距離Dreq_stopが自車走行距離Dtravelよりも長い場合、強制制動を実施すると後続移動物体300が自車両100に追突すると判定するようになっていてもよいが、本例においては、停止必要距離Dreq_stopが自車走行距離Dtravelよりも長い場合のみならず、停止必要距離Dreq_stopが自車走行距離Dtravel以下であっても、それらの差ΔDが所定距離ΔDth以下である場合も、強制制動を実施すると後続移動物体300が自車両100に追突すると判定するようになっている。
【0131】
車両衝突回避支援装置10は、強制制動を実施すると後続移動物体300が自車両100に追突すると判定した場合、強制操舵により自車両100と前方物体200Fとの衝突を回避することが好ましいので、第4要求条件Creq_4が成立していると判定する。一方、車両衝突回避支援装置10は、強制制動を実施しても後続移動物体300は自車両100に追突しないと判定した場合、第4要求条件Creq_4が成立していないと判定する。
【0132】
尚、以上説明した第4要求条件Creq_4の成立の有無の判定によれば、車両衝突回避支援装置10は、予測移動領域A300と予測走行領域A100とが重なり合っており且つ後続移動物体300の位置(自車両100に対する後続移動物体300の相対位置P300)に基づいて後続移動物体300が自車両100から所定距離Dth以内の範囲に存在すると判定した場合、第4要求条件Creq_4が成立していると判定していることになる。
【0133】
又、上述した第4要求条件Creq_4の成立の有無の判定によれば、車両衝突回避支援装置10は、予測移動領域A300と予測走行領域A100とが重なり合っているが後続移動物体300の位置に基づいて後続移動物体300が自車両100から所定距離Dth以内の範囲に存在しないと判定した場合、第4要求条件Creq_4が成立していないと判定していることになる。
【0134】
更に、上述した第4要求条件Creq_4の成立の有無の判定によれば、車両衝突回避支援装置10は、予測移動領域A300と予測走行領域A100とが重なり合っていないと判定した場合、後続移動物体300が自車両100から所定距離Dth以内の範囲に存在するか否かとはかかわりなく、第4要求条件Creq_4が成立していないと判定していることになる。
【0135】
このように、本例において、車両衝突回避支援装置10は、強制制動を実施したと仮定した場合に後続移動物体300が自車両100に追突する追突可能性があるか否かに基づいて第4要求条件Creq_4の成立の有無を判定している。
【0136】
<強制制動の実施>
車両衝突回避支援装置10は、第1要求条件Creq_1乃至第4要求条件Creq_4の何れも成立していない場合、第1禁止条件Cfbd_1乃至第3禁止条件Cfbd_3が成立しているか否かとはかかわりなく、強制制動を実施する。
【0137】
又、車両衝突回避支援装置10は、第1禁止条件Cfbd_1乃至第3禁止条件Cfbd_3の何れか1つでも成立している場合、第1要求条件Creq_1乃至第4要求条件Creq_4の何れかが成立していても、強制制動を実施する。
【0138】
車両衝突回避支援装置10は、強制制動を開始すると、自車両100が目標減速度GDtgtで減速するように自車両100に付加される制動力を制御する。車両衝突回避支援装置10は、自車両100が停止すると、強制制動を終了する。
【0139】
<強制操舵の実施>
一方、車両衝突回避支援装置10は、第1禁止条件Cfbd_1乃至第3禁止条件Cfbd_3の何れも成立していないときに第1要求条件Creq_1乃至第4要求条件Creq_4の何れかが成立している場合、強制操舵を実施する。
【0140】
車両衝突回避支援装置10は、強制操舵を開始すると、目標回避経路Rtgtに沿って自車両100が走行するように操舵装置23から出力させる操舵トルクTQs(操舵力)を制御する処理を開始する。
【0141】
車両衝突回避支援装置10は、強制操舵の実施中、縦加速度Gx、横加速度Gy、ヨーレートYR及び左右区画線LM等に基づいて自車両100の現在位置を取得し、取得した自車両100の現在位置に基づいて自車両100を目標回避経路Rtgtに沿って走行させるように操舵装置23から出力させる操舵トルクTQsを制御する。
【0142】
これにより、自車両100は、
図9の(A)に示したように、旋回し始め、
図9の(B)に示したように、前方物体200Fの横を通過する。これにより、自車両100と前方物体200Fとの衝突が回避される。
【0143】
車両衝突回避支援装置10は、
図9の(C)に示したように、自車両100が前方物体200Fの横を通過すると、強制操舵を終了する。
【0144】
尚、車両衝突回避支援装置10は、強制操舵を実施するとともに、自車両100に付加する駆動力を低下させ或いは一定値以下に制限して又は自車両100に制動力を付加して減速させてもよい。この場合、車両衝突回避支援装置10は、自車両100が停止したときに強制操舵を終了するように構成される。
【0145】
又、車両衝突回避支援装置10は、強制操舵の実施中に、例えば、前方物体200Fの影から飛び出してきた人等の他の物体に自車両100が衝突する可能性が生じた場合、自車両100に制動力を付加して強制的に停止させることにより自車両100が他の物体に衝突することを回避するために強制制動を実施するように構成されてもよい。
【0146】
又、車両衝突回避支援装置10は、強制操舵の実施中にドライバー入力トルクTQs_driverが比較的大きい所定トルクTQth以上となった場合、強制操舵を中止するように構成されていてもよい。
【0147】
以上が車両衝突回避支援装置10の作動の概要である。これによれば、要求条件Creqが成立するような強制操舵を実施することが好ましい場面においては、禁止条件Cfbdが成立するような強制操舵を実施しないほうが好ましい状況を除き、強制操舵が実施される。このため、自車両100を取り巻く状況に応じた適切な衝突回避処理が実施される。
【0148】
<車両衝突回避支援装置の具体的な作動>
次に、車両衝突回避支援装置10の具体的な作動について説明する。車両衝突回避支援装置10のECU90のCPUは、
図10に示したルーチンを所定演算周期で実行するようになっている。従って、所定のタイミングになると、CPUは、
図10のステップ1000から処理を開始し、その処理をステップ1005に進め、自車両100の車速V100が下限車速Vlimit以上であり且つ路面勾配GRが上限勾配GRlimitであるか否かを判定する。
【0149】
CPUは、ステップ1005にて「Yes」と判定した場合、処理をステップ1010に進め、ブレーキペダル操作量BPが所定ブレーキペダル操作量BPth以上であるか否かを判定する。
【0150】
CPUは、ステップ1010にて「Yes」と判定した場合、処理をステップ1015に進め、自車両100の減速度GDが基準減速度GDbase以下であるか否かを判定する。
【0151】
CPUは、ステップ1015にて「Yes」と判定した場合、処理をステップ1020に進め、制動性能カウンタCbrakeをインクリメントする。次いで、CPUは、処理をステップ1030に進める。
【0152】
一方、CPUは、ステップ1015にて「No」と判定した場合、処理をステップ1025に進め、制動性能カウンタCbrakeをデクリメントする。次いで、CPUは、処理をステップ1030に進める。
【0153】
CPUは、処理をステップ1030に進めると、制動性能カウンタCbrakeが所定値Cbrake_th以上であるか否かを判定する。
【0154】
CPUは、ステップ1030にて「Yes」と判定した場合、第1要求条件フラグXreq_1の値を「1」に設定する。第1要求条件フラグXreq_1は、第1要求条件Creq_1が成立しているか否かを表すフラグであり、その値が「1」である場合、第1要求条件Creq_1が成立していることを表し、その値が「0」である場合、第1要求条件Creq_1が成立していないことを表している。
【0155】
次いで、CPUは、処理をステップ1095に進め、本ルーチンを一旦終了する。
【0156】
一方、CPUは、ステップ1030にて「No」と判定した場合、処理をステップ1040に進め、第1要求条件フラグXreq_1の値を「0」に設定する。次いで、CPUは、処理をステップ1095に進め、本ルーチンを一旦終了する。
【0157】
又、CPUは、ステップ1005又はステップ1010にて「No」と判定した場合、処理をステップ1095に直接進め、本ルーチンを一旦終了する。
【0158】
更に、CPUは、
図11に示したルーチンを所定演算周期で実行するようになっている。従って、所定のタイミングになると、CPUは、
図11のステップ1100から処理を開始し、その処理をステップ1105に進め、マスタシリンダ圧Pmが所定圧Pm_th以下であるか否かを判定する。
【0159】
CPUは、ステップ1105にて「Yes」と判定した場合、処理をステップ1110に進め、第2要求条件フラグXreq_2の値を「1」に設定する。第2要求条件フラグXreq_2は、第2要求条件Creq_2が成立しているか否かを表すフラグであり、その値が「1」である場合、第2要求条件Creq_2が成立していることを表し、その値が「0」である場合、第2要求条件Creq_2が成立していないことを表している。
【0160】
次いで、CPUは、処理をステップ1195に進め、本ルーチンを一旦終了する。
【0161】
一方、CPUは、ステップ1105にて「No」と判定した場合、処理をステップ1115に進め、第2要求条件フラグXreq_2の値を「0」に設定する。次いで、CPUは、処理をステップ1195に進め、本ルーチンを一旦終了する。
【0162】
更に、CPUは、
図12に示したルーチンを所定演算周期で実行するようになっている。従って、所定のタイミングになると、CPUは、
図12のステップ1200から処理を開始し、その処理をステップ1205に進め、自車両100の加速度(縦加速度Gx)の絶対値が上限加速度Glimit以下であるか否かを判定する。
【0163】
CPUは、ステップ1205にて「Yes」と判定した場合、処理をステップ1210に進め、路面勾配GRを取得する。次いで、CPUは、処理をステップ1215に進め、路面カントCTを取得する。次いで、CPUは、処理をステップ1220に進め、路面勾配GRがゼロよりも小さく且つその絶対値が第1勾配GR_1以上であるか否かを判定する。
【0164】
CPUは、ステップ1220にて「Yes」と判定した場合、処理をステップ1225に進め、第3要求条件フラグXreq_3の値を「1」に設定する。第3要求条件フラグXreq_3は、第3要求条件Creq_3が成立しているか否かを表すフラグであり、その値が「1」である場合、第3要求条件Creq_3が成立していることを表し、その値が「0」である場合、第3要求条件Creq_3が成立していないことを表している。
【0165】
次いで、CPUは、処理をステップ1235に進める。
【0166】
一方、CPUは、ステップ1220にて「No」と判定した場合、処理をステップ1230に進め、第3要求条件フラグXreq_3の値を「0」に設定する。次いで、CPUは、処理をステップ1235に進める。
【0167】
CPUは、処理をステップ1235に進めると、路面カントCTが所定カントCTth以上であるか否かを判定する。
【0168】
CPUは、ステップ1235にて「Yes」と判定した場合、処理をステップ1240に進め、第1禁止条件フラグXfbd_1の値を「1」に設定する。第1禁止条件フラグXfbd_1は、第1禁止条件Cfbd_1が成立しているか否かを表すフラグであり、その値が「1」である場合、第1禁止条件Cfbd_1が成立していることを表し、その値が「0」である場合、第1禁止条件Cfbd_1が成立していないことを表している。
【0169】
次いで、CPUは、処理をステップ1295に進め、本ルーチンを一旦終了する。
【0170】
一方、CPUは、ステップ1235にて「No」と判定した場合、処理をステップ1245に進め、第1禁止条件フラグXfbd_1の値を「0」に設定する。次いで、CPUは、処理をステップ1295に進め、本ルーチンを一旦終了する。
【0171】
又、CPUは、ステップ1205にて「No」と判定した場合、処理をステップ1295に直接進め、本ルーチンを一旦終了する。
【0172】
尚、CPUは、
図12に示したルーチンに代えて、
図13に示したルーチンを所定演算周期で実行するように構成されていてもよい。この場合、所定のタイミングになると、CPUは、
図13のステップ1300から処理を開始し、その処理をステップ1305に進め、自車両100の加速度Gxの絶対値が上限加速度Glimit以下であるか否かを判定する。
【0173】
CPUは、ステップ1305にて「Yes」と判定した場合、処理をステップ1310に進め、路面勾配GRを取得する。次いで、CPUは、処理をステップ1315に進め、路面カントCTを取得する。次いで、CPUは、処理をステップ1320に進め、路面摩擦係数μを取得する。次いで、CPUは、処理をステップ1325に進め、路面摩擦係数μが所定摩擦係数μ_th以上であるか否かを判定する。
【0174】
CPUは、ステップ1325にて「Yes」と判定した場合、処理をステップ1330に進め、路面勾配GRがゼロよりも小さく且つその絶対値が第1勾配GR_1以上であるか否かを判定する。
【0175】
CPUは、ステップ1330にて「Yes」と判定した場合、処理をステップ1335に進め、第3要求条件フラグXreq_3の値を「1」に設定する。次いで、CPUは、処理をステップ1350に進める。
【0176】
一方、CPUは、ステップ1330にて「No」と判定した場合、処理をステップ1340に進め、第3要求条件フラグXreq_3の値を「0」に設定する。次いで、CPUは、処理をステップ1350に進める。
【0177】
又、CPUは、ステップ1325にて「No」と判定した場合、処理をステップ1345に進め、
図14に示したルーチンを実行する。従って、CPUは、処理をステップ1345に進めると、
図14のステップ1400から処理を開始し、その処理をステップ1405に進め、路面勾配GRがゼロよりも小さく且つその絶対値が第1勾配GR_1以上であって第2勾配GR_2以下であるか否かを判定する。
【0178】
CPUは、ステップ1405にて「Yes」と判定した場合、処理をステップ1410に進め、第3要求条件フラグXreq_3の値を「1」に設定する。次いで、CPUは、ステップ1495を経由して処理を
図13のステップ1350に進める。
【0179】
一方、CPUは、ステップ1405にて「No」と判定した場合、処理をステップ1415に進め、第3要求条件フラグXreq_3の値を「0」に設定する。次いで、CPUは、ステップ1495を経由して処理を
図13のステップ1350に進める。
【0180】
CPUは、処理をステップ1350に進めると、路面カントCTが所定カントCTth以上であるか否かを判定する。
【0181】
CPUは、ステップ1350にて「Yes」と判定した場合、処理をステップ1355に進め、第1禁止条件フラグXfbd_1の値を「1」に設定する。次いで、CPUは、処理をステップ1395に進め、本ルーチンを一旦終了する。
【0182】
一方、CPUは、ステップ1350にて「No」と判定した場合、処理をステップ1360に進め、第1禁止条件フラグXfbd_1の値を「0」に設定する。次いで、CPUは、処理をステップ1395に進め、本ルーチンを一旦終了する。
【0183】
又、CPUは、ステップ1205にて「No」と判定した場合、処理をステップ1295に直接進め、本ルーチンを一旦終了する
【0184】
更に、CPUは、
図15に示したルーチンを所定演算周期で実行するようになっている。従って、所定のタイミングになると、CPUは、
図15のステップ1500から処理を開始し、その処理をステップ1505に進め、車両安定制御を実施する条件が成立したか否かを判定する。
【0185】
CPUは、ステップ1505にて「Yes」と判定した場合、処理をステップ1510に進め、車両安定制御を開始する。次いで、CPUは、処理をステップ1515に進め、第2禁止条件フラグXfbd_2の値を「1」に設定する。第2禁止条件フラグXfbd_2は、第2禁止条件Cfbd_2が成立しているか否かを表すフラグであり、その値が「1」である場合、第2禁止条件Cfbd_2が成立していることを表し、その値が「0」である場合、第2禁止条件Cfbd_2が成立していないことを表している。
【0186】
次いで、CPUは、処理をステップ1595に進め、本ルーチンを一旦終了する。
【0187】
一方、CPUは、ステップ1505にて「No」と判定された場合、処理をステップ1520に進め、車両安定制御を終了する条件が成立したか否かを判定する。
【0188】
CPUは、ステップ1520にて「Yes」と判定した場合、処理をステップ1525に進め、車両安定制御を終了する。次いで、CPUは、処理をステップ1530に進め、第2禁止条件フラグXfbd_2の値を「0」に設定する。次いで、CPUは、処理をステップ1595に進め、本ルーチンを一旦終了する。
【0189】
一方、CPUは、ステップ1520にて「No」と判定した場合、処理をステップ1595に直接進め、本ルーチンを一旦終了する。
【0190】
更に、CPUは、
図16に示したルーチンを所定演算周期で実行するようになっている。従って、所定のタイミングになると、CPUは、
図16のステップ1600から処理を開始し、その処理をステップ1605に進め、前方物体200Fを検知したか否かを判定する。
【0191】
CPUは、ステップ1605にて「Yes」と判定した場合、処理をステップ1610に進め、予測到達時間TTCを取得する。次いで、CPUは、処理をステップ1615に進め、予測到達時間TTCが所定予測到達時間TTCth以下であるか否かを判定する。
【0192】
CPUは、ステップ1615にて「Yes」と判定した場合、処理をステップ1620に進め、
図17に示したルーチンを実行する。従って、CPUは、処理をステップ1620に進めると、
図17のステップ1700から処理を開始し、その処理をステップ1705に進め、目標回避経路Rtgtを設定する。次いで、CPUは、処理をステップ1710に進め、目標回避経路Rtgtを設定することができたか否かを判定する。
【0193】
CPUは、ステップ1710にて「Yes」と判定した場合、処理をステップ1715に進め、第3禁止条件フラグXfbd_3の値を「0」に設定する。第3禁止条件フラグXfbd_3は、第3禁止条件Cfbd_3が成立しているか否かを表すフラグであり、その値が「1」である場合、第3禁止条件Cfbd_3が成立していることを表し、その値が「0」である場合、第3禁止条件Cfbd_3が成立していないことを表している。
【0194】
次いで、CPUは、ステップ1795を経由して処理を
図16のステップ1625に進める。
【0195】
一方、CPUは、ステップ1710にて「No」と判定した場合、処理をステップ1720に進め、第3禁止条件フラグXfbd_3の値を「1」に設定する。次いで、CPUは、ステップ1795を経由して処理を
図16のステップ1625に進める。
【0196】
CPUは、処理を
図16のステップ1625に進めると、目標減速度GDtgtを取得する。次いで、CPUは、処理をステップ1630に進め、後続移動物体300を検知したか否かを判定する。
【0197】
CPUは、ステップ1630にて「Yes」と判定した場合、処理をステップ1635に進め、
図18に示したルーチンを実行する。従って、CPUは、処理をステップ1635に進めると、
図18のステップ1800から処理を開始し、その処理をステップ1805に進め、予測走行領域A100を取得する。次いで、CPUは、処理をステップ1810に進め、予測移動領域A300を取得する。次いで、CPUは、処理をステップ1815に進め、予測移動領域A300と予測走行領域A100とが重なり合っているか否かを判定する。
【0198】
CPUは、ステップ1815にて「Yes」と判定した場合、処理をステップ1820に進め、停止必要距離Dreq_stop及び自車走行距離Dtravelを取得する。次いで、CPUは、処理をステップ1825に進め、停止必要距離Dreq_stopが自車走行距離Dtravelから所定距離ΔDthを減じた距離以上であるか否かを判定する。
【0199】
CPUは、ステップ1825にて「Yes」と判定した場合、処理をステップ1830に進め、第4要求条件フラグXreq_4の値を「1」に設定する。第4要求条件フラグXreq_4は、第4要求条件Creq_4が成立しているか否かを表すフラグであり、その値が「1」である場合、第4要求条件Creq_4が成立していることを表し、その値が「0」である場合、第4要求条件Creq_4が成立していないことを表している。
【0200】
次いで、CPUは、ステップ1895を経由して処理を
図16のステップ1640に進める。
【0201】
一方、CPUは、ステップ1825にて「No」と判定した場合、処理をステップ1835に進め、第4要求条件フラグXreq_4の値を「0」に設定する。次いで、CPUは、ステップ1895を経由して処理を
図16のステップ1640に進める。
【0202】
又、CPUは、ステップ1815にて「No」と判定した場合、処理をステップ1835に進め、第4要求条件フラグXreq_4の値を「0」に設定する。次いで、CPUは、ステップ1895を経由して処理を
図16のステップ1640に進める。
【0203】
CPUは、処理を
図16のステップ1640に進めると、第1要求条件フラグXreq_1乃至第4要求条件フラグXreq_4の値の全てが「0」であるか否かを判定する。
【0204】
CPUは、ステップ1640にて「Yes」と判定した場合、処理をステップ1645に進め、強制制動を実施する。次いで、CPUは、処理をステップ1695に進め、本ルーチンを一旦終了する。
【0205】
一方、CPUは、ステップ1640にて「No」と判定した場合、処理をステップ1650に進め、第1禁止条件フラグXfbd_1乃至第3禁止条件フラグXfbd_3の値の全てが「0」であるか否かを判定する。
【0206】
CPUは、ステップ1650にて「Yes」と判定した場合、処理をステップ1655に進め、強制操舵を実施する。次いで、CPUは、処理をステップ1695に進め、本ルーチンを一旦終了する。
【0207】
一方、CPUは、ステップ1650にて「No」と判定した場合、処理をステップ1645に進め、強制制動を実施する。次いで、CPUは、処理をステップ1695に進め、本ルーチンを一旦終了する。
【0208】
又、CPUは、ステップ1605又はステップ1615にて「No」と判定した場合、処理をステップ1695に直接進め、本ルーチンを一旦終了する。
【0209】
以上が車両衝突回避支援装置10の具体的な作動である。
【0210】
尚、本発明は、上記実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。
【符号の説明】
【0211】
10…車両衝突回避支援装置、21…駆動装置、22…制動装置、23…操舵装置、40…制動装置状態検出装置、50…車両運動量検出装置、60…周辺情報検出装置、90…ECU、100…自車両、200F…前方物体、300…後続移動物体